(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871141
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】魚釣用スピニングリール
(51)【国際特許分類】
A01K 89/01 20060101AFI20210426BHJP
【FI】
A01K89/01 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-237314(P2017-237314)
(22)【出願日】2017年12月12日
(65)【公開番号】特開2019-103425(P2019-103425A)
(43)【公開日】2019年6月27日
【審査請求日】2020年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】清水 栄仁
【審査官】
坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−295372(JP,A)
【文献】
米国特許第5941470(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に支持され、釣糸を巻回保持するスプールと、前記スプールに釣糸を案内する釣糸案内部を備えたロータと、前記ロータの前部に装着され、釣糸が内部に入り込むことを阻止する環状に形成された糸落ち防止部と、を有し、
前記リール本体に設けたハンドルの回転操作で前記ロータを回転駆動するとともに前記スプールを前後往復動させる魚釣用スピニングリールにおいて、
前記糸落ち防止部の内底部に周方向に沿って凹部を形成し、この凹部内に排水孔を形成して内部に侵入した水分を前記ロータの外部に排水可能としたことを特徴とする魚釣用スピニングリール。
【請求項2】
前記糸落ち防止部の内底部は、径方向外方に向けて高さが低くなるように傾斜しており、高さが低くなっている部分に前記凹部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の魚釣用スピニングリール。
【請求項3】
前記糸落ち防止部は、スプール先端側に向けて拡径する周壁を備えており、
前記凹部は、その底部がスプール先端側に向けて拡径する傾斜状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の魚釣用スピニングリール。
【請求項4】
前記周壁のスプール軸心に対する傾斜角度をα、前記傾斜状の凹部のスプール軸心に対する傾斜角度をβとした場合、α<βとなるように前記糸落ち防止部を形成したことを特徴とする請求項3に記載の魚釣用スピニングリール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣用スピニングリールに関する。
【背景技術】
【0002】
魚釣用スピニングリールは、ハンドルの巻き取り操作で連動回転するロータと前後動するスプールを備えており、ロータとスプールとの間には、構成上隙間を有している。特に、巻き取り操作時にスプールが最も前方に移動した際には、スプールとロータの前部円筒部との間には大きな隙間が生じてしまい、糸ふけが発生すると釣糸は、スプールのスカート部分を乗り越えてスプール軸に絡み付く、所謂、糸落ち現象が生じてしまう。糸落ちが生じると、面倒な釣糸の解し作業が必要になったり、スプール軸のグリスが釣糸に付着したり、糸切れが発生する等のトラブルが発生する。
【0003】
そこで、糸ふけなどが発生しても、内部に釣糸が侵入し難いように、例えば、特許文献1に開示されているように、糸落ち防止部をロータ円筒部の前方に形成したものが知られている。この糸落ち防止部は、ロータ円筒部に、先端側(釣竿に装着した際の竿先側)に向けて漸次拡径するテーパ形状になった環状体をビス止めすることで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−153173号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
魚釣用スピニングリールは、海水、水分、異物などを多く含んだ釣糸を、ロータ支持アームの先端部に設けた釣糸案内部(ラインローラ)でしごきながらスプールに巻回する。そして、リール本体を釣竿に装着すると、釣糸の放出時や巻き取り時、竿掛けに設置した際など、スプールを斜め上方、あるいは上方に向ける等、様々な姿勢で使用される。また、軽量化して操作性の向上を図るために、スプールの前面の周囲に複数の貫通孔を形成することもあり、実釣時において、外部からスプールやロータを通じて海水や水がロータ前部の糸落ち防止部内に侵入して滞留する現象が生じてしまう。
【0006】
このような海水や水は、糸落ち防止部に滞留させておくと固化してしまい、スプール軸と駆動軸(ピニオン)との間に入り込んで円滑な摺動や回転を悪化させてしまったり、各部品を腐食させて強度低下させてしまう等の問題が生じる。特に、海水や水分を、ロータ内部に侵入させてしまうと、一方向クラッチや軸受け等の回転支持部材に損傷を与えてしまう。
【0007】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、糸落ち現象の防止を図りながら、内部に侵入した水分を滞留させることなくリールの外部に効果的に排水して各部品を損傷させることのない魚釣用スピニングリールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明に係る魚釣用スピニングリールは、リール本体に支持され、釣糸を巻回保持するスプールと、前記スプールに釣糸を案内する釣糸案内部を備えたロータと、前記ロータの前部に装着され、釣糸が内部に入り込むことを阻止する環状に形成された糸落ち防止部と、を有し、前記リール本体に設けたハンドルの回転操作で前記ロータを回転駆動するとともに前記スプールを前後往復動させるよう構成されており、前記糸落ち防止部に排水孔を形成して内部に侵入した水分を前記ロータの外部に排水可能としたことを特徴とする。
【0009】
上記した構成の魚釣用スピニングリールでは、ロータの前部に環状の糸落ち防止部を装着したことで、糸ふけなどが生じても、釣糸がスプール軸に絡み付くなどの糸落ち現象が防止される。この糸落ち防止部は環状に形成されていることから、リールの使用状態によっては、その内部に水分(海水、水)が侵入することとなるが、ロータの外部に排出するように排水孔を形成したことで、内部に水分が滞留することが防止され、駆動機構等を構成する各部品を損傷させる等、浸水によるトラブルを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、糸落ち現象の防止を図りながら、内部に侵入した水分を滞留させることなくリールの外部に効果的に排水して各部品を損傷させることのない魚釣用スピニングリールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る魚釣用スピニングリールのスプール部分を切り欠いた側面図。
【
図2】(a)は、
図1に示す魚釣用スピニングリールの糸落ち防止部を拡大して示す図、(b)は、リール本体が傾いて糸落ち防止部から水分が排出される状態を示す図。
【
図3】(a)は、糸落ち防止部の平面図、(b)は、図(a)のA−A線に沿った断面図、(c)は、図(b)に示した排水孔部分の拡大図。
【
図4】糸落ち防止部をロータの先端部分に固定した状態を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、
図1から
図4を参照して、本発明に係る魚釣用スピニングリールの一実施形態について具体的に説明する。
【0013】
本実施形態に係る魚釣用スピニングリール(以下、リールと称する)1のリール本体1Aには、釣竿に装着される竿装着部(リール脚)2が一体形成されており、その前方には、回転可能に支持されたロータ3と、ロータ3の回転運動と同期して前後動可能に支持され、釣糸Sが巻回保持されるスプール5とが配設されている。
【0014】
前記ロータ3は、スプール5の周囲を回転する一対の腕部3aを備えており、各腕部3aの夫々の前端部には、ベール3bの基端部を取り付けたベール支持部材3cが釣糸巻き取り位置と釣糸放出位置との間で回動自在に支持されている。この場合、ベール3bの一方の基端部は、ベール支持部材3cに一体的に設けられた釣糸案内部(ラインローラ)3dに取り付けられている。
【0015】
リール本体1A内には、ハンドル軸が回転可能に支持されており、その突出端部には、ハンドル7が取り付けられている。前記ハンドル軸には、公知の巻き取り駆動機構が連結されており、この巻き取り駆動機構は、ハンドル軸に固定された駆動ギアに噛合して回転駆動されるピニオン10を備えている。このピニオン10の先端には、ロータナット12によって前記ロータ3が固定されており、ハンドル7の回転操作によってロータ3を回転駆動する。また、先端にスプール5を装着したスプール軸5Aの後端には、前記ピニオン10を介して駆動されるスプール往復動装置が係合しており、ピニオン10の内部に挿通されるスプール軸5Aは、ハンドル7の回転操作によって前後方向に往復駆動する。
上記した構成により、ハンドル7を回転操作することで、前記ロータ3が回転駆動されるとともに、前記スプール5は前後往復動され、釣糸Sは、回転駆動されるロータ3の釣糸案内部3dを介してスプール5の巻回胴部5aに均等に巻回される。
【0016】
前記ロータ3は、スプール5の巻回胴部5aの内側に入り込む円筒部3Aを具備しており、この円筒部内に逆転防止機構(一方向クラッチ)や軸受等の部品が配設されている。円筒部3Aの前面(竿先側となる面)3eの中央領域には、凹所3fが形成されており、その凹所3fの中心領域に、前記ピニオン10が挿通されている。ピニオン10の先端には、雄螺子部10aが形成されており、この部分に前記ロータナット12を螺合し、凹所3fの底に当て付けることで前記ロータ3は、ピニオン10と一体回転するように固定される。
【0017】
なお、前記ロータナット12とピニオン10に挿通されるスプール軸5Aとの間には、軸受15が配設されており、ロータ3をスムーズに回転駆動するように構成されている。また、前記ロータ3の円筒部3Aの内部には、ピニオン10上に配設される逆転防止装置を構成する一方向クラッチや、ピニオンを回転可能に支持する軸受等の部品(図示せず)が配設されている。
【0018】
前記ロータ3の円筒部3Aの前端面には、ロータ3とスプール5との間の隙間から釣糸が内部に入り込むことを阻止する糸落ち防止部20が装着されている。この糸落ち防止部20は、
図1に示した状態から、スプール5が最も前方に移動してスプール5とロータ3の円筒部3Aとの間に大きな隙間が生じても、スプールの巻回胴部5aの内面に沿って釣糸が内部に侵入できないように、巻回胴部の内周面と対抗する周壁21を具備した環状部材で構成されている。
以下、本実施形態の糸落ち防止部20の構成について説明する。
【0019】
本実施形態の糸落ち防止部20は、ロータ3と別部材で構成されており、ロータ3の円筒部3Aの前端面に装着されるよう構成されている。また、糸落ち防止部20は、前側が開口する周壁21と内底部22とを有する環状(カップ状)に形成されており、その内底部(底部)22の中心部には、スプール軸5Aを挿通させる開口22aが形成されている。
【0020】
また、内底部22には、ロータ3の円筒部3Aの前端面に突出形成されたボス3Cと一致するように固定用の円形開口22bが形成されている。本実施形態では、ボス3Cは、略180°間隔(直径方向の両側)に2か所形成されており、糸落ち防止部20の内底部22には、このボス3Cと対応する位置に円形開口22bが形成され、ロータ3の円筒部3Aのボス3Cに円形開口22bを嵌合させることで、糸落ち防止部20をロータ3に組み付けることが可能となっている。そして、ボス3Cには、雌螺子が形成されており、糸落ち防止部20をロータ3に組み付けて、ビス40を螺入することで、糸落ち防止部20はロータ3と一体化(固定)される(
図2、
図4参照)。
【0021】
前記糸落ち防止部20には、周壁21を伝って内部に侵入した水分をロータ3の外部に排水できるように排水孔20Aが形成されている。糸落ち防止部に形成される排水孔20Aについては、内部に侵入した水分をロータ外に排水できるものであれば良く、周壁21や内底部22の適所に形成することが可能であるが、内部での水分の滞留を防止するために内底部22に形成することが好ましい。具体的には、内底部22の径方向の外方で、周壁21との境界領域に形成することで、周壁21に沿って流れる水分を効果的に排水することが可能であり、本実施形態では、そのような境界領域に、周方向に沿って等間隔で同じ大きさの8つの排水孔20Aが形成されている。
【0022】
前記排水孔20Aについては、内底部22を平坦面としておき、その平坦面に環状の凹部(凹溝)23を形成し、この凹部23内に排水孔20Aを形成しておくことが好ましい。このように内底部22に凹部23を形成することで、侵入した水分を集めやすくなり、更に、その部分に排水孔20Aを形成することで、集まった部分の水分を効果的に排水することが可能となる。
【0023】
前記内底部22は、平坦面によって構成されていても良いが、径方向外方に向けて高さが低くなる(径方向の外側が次第に深くなる)ように傾斜させることが好ましい。すなわち、
図3(a)〜(c)に示すように、内底部22の外周領域に、前記環状の凹部23を形成するに際して、例えば、内底部22のスプール軸を挿通させる開口22aの周辺を平坦面22cとし、平坦面22cの周縁から周壁21に向けて次第に下降する傾斜面22dを形成し、この傾斜面22dと周壁21との間に前記排水溝20Aが配設された環状の凹部23を形成することが好ましい。
このような構成によれば、実釣時等、糸落ち防止部20内に水分が侵入し易い状況で滞留させることなく効率的に排水を行なうことが可能となる。
【0024】
また、糸落ち防止部20の周壁21は、円筒形状であっても良いが、
図1に示すように、スプール先端側に向けて拡径するようにテーパ状に形成することが好ましい。このように、周壁21を次第に拡径する形状にすることで、糸落ちした釣糸を効果的に停止させることが可能となる。特に、周壁21の先端開口部分に、径方向外方に突出するフランジ21aを形成することで、スプールの巻回胴部内面との距離を狭くすることができ、糸落ちをより効果的に防止することが可能となる。
【0025】
前記凹部23については、その底部23´の内側面23´A及び外側面23´Bがスプール先端側に向けて拡径する傾斜状に形成しておくことが好ましい(
図3(c)参照)。このように底部23´が傾斜していると、
図2(b)に示すように、リール(糸落ち防止部20)が斜め上方や上方に傾いた際に、周壁21や傾斜面22dを伝わる水分を効率的に排水することが可能となる。特に、周壁21のスプール軸心Xに対する傾斜角度をα、傾斜状に形成された凹部23(底部23´)のスプール軸心Xに対する傾斜角度をβとした場合、α<βとなるように糸落ち防止部20を形成することで、周壁21を伝わる水分、及び、傾斜面22dを伝わる水分をより効率的に凹部23に案内して排水することができ、かつ、凹部部分に水分が滞留することを防止できるようになる。なお、周壁21の内周面も外周面と同様に、スプール先端側に向けて拡径するテーパ状(逆テーパ)に形成されている。
また、外部から周壁21やロータ3の円筒部3Aから伝わる水分も傾斜角度βの底部23´の外側面23´Bにより、排水孔20Aから内部に浸水し難くなり、水分は入り難く出やすくなる。
【0026】
上記したような魚釣用スピニングリール1は、実釣時において、例えば、
図5に示すように、釣竿50に装着された状態で竿掛け60に掛けたり、或いは、釣竿を保持した状態では、釣竿を煽る等の操作が行われることから、リール本体内に組み込まれた糸落ち防止部20については、
図2(b)に示すように、開口側が上方を向く状態になる。このような状態で、ハンドルを巻き取って釣糸をスプールに巻回すると、釣糸に付着した水分が糸落ち防止部20内に入り込むことがあるが、上記したような位置に排水孔20Aを形成することで、効果的に水分をロータ外に排水することができ、糸落ち防止部内に滞留することが防止される。したがって、水分が滞留して固化したり、滞留している水分がスプール軸5Aと駆動軸(ピニオン10)との間に入り込んで円滑な摺動や回転を悪化させてしまったり、各部品を腐食させて強度低下させてしまう等の問題が生じることが防止される。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。上述した実施形態では、糸落ち防止部は、ロータとは別体で構成したが、ロータと共に一体形成しても良いし、又、その形状は特に限定されない。また、糸落ち防止部20に形成される排水孔20Aの形状、大きさ、形成個数等、適宜変形することが可能である。また、排水孔を凹部に形成する場合、その凹部は、連続した環状に形成しても良いし、排水孔に対応して形成しても良い。さらに、ロータやスプールについては、糸落ち防止部から排水された水分が入り込まない構成であれば良く、その構成については適宜変形することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 魚釣用スピニングリール
1A リール本体
3 ロータ
5 スプール
20 糸落ち防止部
21 周壁
22 内底部
20A 排水孔
23 凹部
S 釣糸