特許第6871155号(P6871155)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871155
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】二重特異性HER2及びCD3結合分子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20210426BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20210426BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20210426BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20210426BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20210426BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20210426BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20210426BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20210426BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20210426BHJP
【FI】
   C12N15/13ZNA
   C07K16/46
   C07K16/30
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   A61K39/395 T
   A61P35/00
   A61K31/337
   A61K31/704
   A61K31/282
   A61K31/675
   A61K35/17 A
   !C12P21/08
【請求項の数】33
【全頁数】91
(21)【出願番号】特願2017-504103(P2017-504103)
(86)(22)【出願日】2015年7月24日
(65)【公表番号】特表2017-527274(P2017-527274A)
(43)【公表日】2017年9月21日
(86)【国際出願番号】US2015041989
(87)【国際公開番号】WO2016014942
(87)【国際公開日】20160128
【審査請求日】2018年7月23日
(31)【優先権主張番号】62/029,342
(32)【優先日】2014年7月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500213834
【氏名又は名称】メモリアル スローン ケタリング キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ナイ‐コング ブイ.チェウング
(72)【発明者】
【氏名】アンドレス ロペズ‐アルバイテロ
(72)【発明者】
【氏名】ホング ク
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 LUM L G,PHASE I/II STUDY OF TREATMENT OF STAGE IV BREAST CANCER WITH OKT3 X TRASHUZUMAB-ARMED ACTIVATED T CELLS,CLINICAL BREAST CANCER,米国,2003年 8月,VOL:4, NR:3,PAGE(S):212 - 217,URL,http://www.sciencedirect.com/sdfe/pdf/download/eid/1-s2.0-S1526820911706292/first-page-pdf
【文献】 ORCUTT KELLY DAVIS,A MODULAR IGG-SCFV BISPECIFIC ANTIBODY TOPOLOGY,PROTEIN ENGINEERING,英国,DESIGN AND SELECTION,2010年 4月,VOL:23, NR:4,PAGE(S):221 - 228,URL,http://dx.doi.org/10.1093/protein/gzp077
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C07K 16/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HER2に結合する免疫グロブリンであるモノクローナル抗体を含む二重特異性結合分子であって、該免疫グロブリンが、グリコシル化部位を破壊するようにそのFc領域において突然変異させられており、該免疫グロブリンが、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一であり、
該重鎖が、配列番号23、27、62又は63のいずれかに存在するVHドメインを含み、
該軽鎖が、配列番号25に存在するVLドメインを含み、
該第1及び第2のscFvが、配列番号15、17及び64からなる群より選択される配列を有するVHドメインと、配列番号16及び65からなる群より選択される配列を有するVLドメインとを含み、かつ
該第1のscFvが該第1の軽鎖のカルボキシル末端に融合され、該第2のscFvが該第2の軽鎖のカルボキシル末端に融合される、前記二重特異性結合分子。
【請求項2】
(a)各重鎖の配列が、配列番号27又は62のいずれかであるか、
(b)前記第1の軽鎖の配列が配列番号25であるか、
(c)前記ペプチドリンカーの配列が、配列番号14及び35〜41のいずれか1つであるか、かつ/又は
(d)前記第1のscFvのVHドメインとVLドメインの間のscFv内ペプチドリンカーの配列が、配列番号14及び35〜41のいずれかである、
請求項1記載の二重特異性結合分子。
【請求項3】
(a)前記第1のscFvの配列が、配列番号19及び48〜59のいずれかであるか、又は、
(b)前記第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列が、配列番号29、34、42〜47、及び60のいずれかである、
請求項1又は2記載の二重特異性結合分子。
【請求項4】
各重鎖の配列が配列番号27であり、前記第1の軽鎖の配列が配列番号25である、請求項1記載の二重特異性結合分子。
【請求項5】
前記ペプチドリンカーが、5〜30、5〜25、5〜15、10〜30、10〜20、10〜15、15〜30、又は15〜25アミノ酸の長さである、請求項1又は4記載の二重特異性結合分子。
【請求項6】
各重鎖の配列が配列番号27であり、前記第1の軽鎖の配列が配列番号25であり、前記第1のscFvの配列が配列番号52である、請求項1記載の二重特異性結合分子。
【請求項7】
(a)各重鎖の配列が配列番号62であり、前記第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号60であるか、又は、(b)各重鎖の配列が配列番号27であり、前記第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号47である、請求項1記載の二重特異性結合分子。
【請求項8】
各重鎖の配列が配列番号27であり、前記第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号29である、請求項1記載の二重特異性結合分子。
【請求項9】
各重鎖の配列が配列番号27であり、前記第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号34である、請求項1記載の二重特異性結合分子。
【請求項10】
前記破壊されるグリコシル化部位がN-結合型グリコシル化部位である、請求項1記載の二重特異性結合分子。
【請求項11】
ペプチドリンカーを介してscFvに融合した免疫グロブリン軽鎖(ここで、該軽鎖はHER2に結合し、かつ、配列番号25に存在するVLドメインを含み、該scFvはCD3に結合し、かつ、配列番号15、17及び64からなる群より選択される配列を有するVHドメインと、配列番号16及び65からなる群より選択される配列を有するVLドメインとを含む)を含む軽鎖融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドであって、該scFvが該軽鎖のC末端に融合される
前記ポリヌクレオチド。
【請求項12】
(a)前記軽鎖の配列が配列番号25であるか、
(b)前記scFvの配列が配列番号52であるか、
(c)前記scFvの配列が配列番号19であるか、
(d)前記軽鎖の配列が配列番号25であり、前記scFvの配列が配列番号52であるか、
(e)前記軽鎖の配列が配列番号25であり、前記scFvの配列が配列番号19であるか、
(f)前記ペプチドリンカーが、5〜30、5〜25、5〜15、10〜30、10〜20、10〜15、15〜30、又は15〜25アミノ酸の長さであるか、又は
(g)前記軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号34又は配列番号29である、
請求項11記載のポリヌクレオチド。
【請求項13】
前記軽鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号24である、請求項11記載のポリヌクレオチド。
【請求項14】
前記scFvをコードするヌクレオチド配列が配列番号18である、請求項11記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
前記軽鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号24であり、前記scFvをコードするヌクレオチド配列が配列番号18である、請求項11記載のポリヌクレオチド。
【請求項16】
前記ペプチドリンカーの配列が配列番号14である、請求項11記載のポリヌクレオチド。
【請求項17】
前記ペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列が配列番号13である、請求項11又は16記載のポリヌクレオチド。
【請求項18】
前記軽鎖融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が配列番号28である、請求項11記載のポリヌクレオチド。
【請求項19】
(i)第1のプロモーターに機能的に連結された、請求項11〜18のいずれか一項記載の第1のポリヌクレオチド及び(ii)第2のプロモーターに機能的に連結された、HER2に結合する免疫グロブリン重鎖をコードする第2のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項20】
(i)第1のプロモーターに機能的に連結された、請求項11〜18のいずれか一項記載の第1のポリヌクレオチド及び(ii)第2のプロモーターに機能的に連結された、HER2に結合する免疫グロブリン重鎖をコードする第2のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドの混合物。
【請求項21】
請求項19記載のベクター、又は、請求項20記載のポリヌクレオチドの混合物を含むエクスビボ細胞。
【請求項22】
二重特異性結合分子を産生する方法であって、(i)前記軽鎖融合ポリペプチド及び前記免疫グロブリン重鎖を含む二重特異性結合分子が産生されるように、請求項21記載の細胞を培養して、前記第1及び第2のポリヌクレオチドを発現させること、並びに(ii)該二重特異性結合分子を回収することを含む、前記方法。
【請求項23】
(a)請求項1〜10のいずれか一項記載の二重特異性結合分子、
(b)請求項19記載のベクター、又は
(c)請求項20記載のポリヌクレオチドの混合物
の治療有効量を含む医薬組成物。
【請求項24】
それを必要とする対象におけるHER2陽性癌の治療のための、請求項23記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記HER2陽性癌が、乳癌、胃癌、骨肉腫、線維形成性小円形細胞癌、頭頸部癌の扁平上皮細胞癌、卵巣癌、前立腺癌、膵癌、多形性膠芽腫、胃接合部腺癌、胃食道接合部腺癌、子宮頸癌、唾液腺癌、軟部組織肉腫、白血病、黒色腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、神経芽腫、又はHER2受容体を発現する任意の他の新生物性組織である、請求項24記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記HER2陽性癌が原発性腫瘍又は転移性腫瘍である、請求項25記載の医薬組成物。
【請求項27】
静脈内投与、腹腔内投与、髄腔内投与、脳室内投与、又は脳実質内投与用に製剤化されている、請求項24〜26のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項28】
(a)ドキソルビシン、シクロホスファミド、パクリタキセル、ドセタキセル、及び/又はカルボプラチン、
(b)放射線療法、
(c)マルチモダリティ型のアントラサイクリンベースの療法、
(d)外部ビーム又は放射免疫療法、及び/又は
(e)前記二重特異性結合分子に結合されられるか又は結合させられないのいずれかのT細胞、
と組み合わせて用いられることを特徴とする、請求項2427のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記HER2陽性癌が、トラスツズマブ、セツキシマブ、ラパチニブ、エルロチニブ、又はHERファミリーの受容体を標的とする任意の他の小分子もしくは抗体による治療に対して抵抗性である、請求項24〜28のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項30】
治療的T細胞を製造するための、請求項1〜10のいずれか一項記載の二重特異性結合分子を含む組成物であって、該組成物がT細胞に結合させられることを特徴とする、前記組成物。
【請求項31】
それを必要とする患者のHER2陽性癌の治療のための医薬の製造のための、請求項1〜10のいずれか一項記載の二重特異性結合分子の使用。
【請求項32】
前記HER2陽性癌が、トラスツズマブ、セツキシマブ、ラパチニブ、エルロチニブ、又はHERファミリーの受容体を標的とする任意の他の小分子もしくは抗体による治療に対して抵抗性である、請求項31記載の使用。
【請求項33】
前記患者がヒトである、請求項31又は32記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、引用により完全に本明細書中に組み込まれる、2014年7月25日に出願された米国仮特許出願第62/029,342号の恩典を主張するものである。
【0002】
本出願は、引用により、2015年7月23日に作成された、184kバイトのサイズを有する、「Sequence_Listing_13542-006-228.txt」という表題のテキストファイルとして本出願とともに提出される配列表を組み込む。
【0003】
(1.分野)
本明細書に提供されるのは、受容体チロシンキナーゼのHER2及びT細胞受容体のCD3に特異的に結合し、かつT細胞の細胞傷害性を媒介する二重特異性結合分子を含む、癌などの障害を管理及び治療するための組成物、方法、及び使用である。
【背景技術】
【0004】
(2.背景)
HER2は、上皮成長因子受容体ファミリーの受容体チロシンキナーゼである。癌の発生及び進行において、HER2の増幅又は過剰発現が示されている。Herceptin(登録商標)(トラスツズマブ)は、HER2陽性転移性乳癌及びHER2陽性胃癌の治療に対して承認された抗HER2モノクローナル抗体である(トラスツズマブ[処方情報の重要点](Trastuzumab[Highlights of Prescribing Information])。South San Francisco, CA: Genentech社; 2014)。エルツマキソマブは、インタクトなFc受容体結合を有する三重特異性HER2-CD3抗体である(例えば、Kieweらの文献、2006, Clin Cancer Res, 12(10): 3085-3091を参照されたい)。エルツマキソマブはラット-マウス抗体であり;それゆえ、ヒトへの投与時に、ヒト抗マウス抗体応答及びヒト抗ラット抗体応答が予想される。エルツマキソマブの親抗体である2502Aは、HER2に対する低い親和性と低い結合力とを有する(Diermeier-Daucherらの文献、MAbs, 2012, 4(5): 614-622)。HER2陽性癌におけるT細胞の細胞傷害性を媒介することができる療法が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
(3.概要)
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、HER2に結合する免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一である、非グリコシル化モノクローナル抗体を含む二重特異性結合分子である。
【0006】
該二重特異性結合分子のある実施態様において、各重鎖の配列は、配列番号23又は27のいずれかである。該二重特異性結合分子のある実施態様において、各軽鎖の配列は配列番号25である。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該ペプチドリンカーの配列は配列番号14である。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該第1のscFvのVHドメインの配列は、配列番号15又は17のいずれかである。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該第1のscFvのVHドメインとVLドメインの間のscFv内ペプチドリンカーの配列は配列番号14のものである。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該第1のscFvのVLドメインの配列は配列番号16のものである。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該scFvの配列は配列番号19である。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列は配列番号29である。
【0007】
該二重特異性結合分子のある実施態様において、各重鎖の配列は、配列番号23、27、62、又は63のいずれかである。該二重特異性結合分子のある実施態様において、各軽鎖の配列は配列番号25である。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該ペプチドリンカーの配列は、配列番号14又は35〜41のいずれかである。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該第1のscFv VHドメインの配列は、配列番号15、17、又は64のいずれかである。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該第1のscFvのVHドメインとVLドメインの間のscFv内ペプチドリンカーの配列は、配列番号14又は35〜41のいずれかである。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該第1のscFvのVLドメインの配列は、配列番号16又は65のいずれかである。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該scFvの配列は、配列番号19又は48〜59のいずれかである。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列は、配列番号29、34、42〜47、又は60のいずれかである。
【0008】
該二重特異性結合分子のある実施態様において、各重鎖の配列は配列番号27であり、各軽鎖の配列は配列番号25である。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該scFvの配列は配列番号19である。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該重鎖の配列は配列番号27であり、各軽鎖の配列は配列番号25であり、該scFvの配列は配列番号19である。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該ペプチドリンカーは、5〜30、5〜25、5〜15、10〜30、10〜20、10〜15、15〜30、又は15〜25アミノ酸の長さである。ある実施態様において、該ペプチドリンカーの配列は配列番号14である。
【0009】
ある実施態様において、該第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列は配列番号60である。ある実施態様において、該重鎖の配列は配列番号62であり、各軽鎖融合ポリペプチドの配列は配列番号60である。
【0010】
ある実施態様において、該第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列は配列番号47である。ある実施態様において、該重鎖の配列は配列番号27であり、各軽鎖融合ポリペプチドの配列は配列番号47である。
【0011】
ある実施態様において、該第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列は配列番号29である。ある実施態様において、該重鎖の配列は配列番号27であり、各軽鎖融合ポリペプチドの配列は配列番号29である。
【0012】
該二重特異性結合分子のある実施態様において、KDは、CD3に対して70nM〜1μMである。
【0013】
該二重特異性結合分子のある実施態様において、該二重特異性結合分子のscFvは、ジスルフィド結合を安定化するための1以上の突然変異を含む。該二重特異性結合分子のある実施態様において、ジスルフィド結合の安定化は、該二重特異性結合分子の凝集を妨げる。該二重特異性結合分子のある実施態様において、ジスルフィド結合の安定化は、ジスルフィド結合の安定化がない場合の該二重特異性結合分子の凝集と比較して、該二重特異性結合分子の凝集を低下させる。該二重特異性結合分子のある実施態様において、ジスルフィド結合を安定化するための1以上の突然変異は、(例えば、配列番号54〜59に存在するような)VH G44C突然変異及びVL Q100C突然変異を含む。該二重特異性結合分子のある実施態様において、ジスルフィド結合を安定化するための1以上の突然変異は、(例えば、配列番号54〜59に存在するような)VH44とVL100の間のジスルフィド結合を導入するための、VH44(Kabat付番体系による)のアミノ酸残基とシステインとの置換及びVL100(Kabat付番体系による)のアミノ酸残基とシステインとの置換である。
【0014】
該二重特異性結合分子のある実施態様において、該二重特異性結合分子は、その可溶形態又は細胞結合形態のFc受容体に結合しない。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該重鎖は、N-結合型グリコシル化部位を破壊するように突然変異させられている。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該重鎖は、N-結合型グリコシル化部位であるアスパラギンをグリコシル化部位として機能しないアミノ酸と置き換えるためのアミノ酸置換を有する。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該重鎖は、C1q結合部位を破壊するように突然変異させられている。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、補体を活性化しない。
【0015】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、HER2に結合する免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一であり、(a)各重鎖の配列が配列番号62であり;かつ(b)各軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号60である、非グリコシル化モノクローナル抗体を含む二重特異性結合分子である。
【0016】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、HER2に結合する免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一であり、(a)各重鎖の配列が配列番号27であり;かつ(b)各軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号47である、非グリコシル化モノクローナル抗体を含む二重特異性結合分子である。
【0017】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、HER2に結合する免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一であり、(a)各重鎖の配列が配列番号27であり;かつ(b)各軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号29である、非グリコシル化モノクローナル抗体を含む二重特異性結合分子である。
【0018】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、ペプチドリンカーを介してscFvに融合した免疫グロブリン軽鎖(ここで、該軽鎖はHER2に結合し、該scFvはCD3に結合する)を含む軽鎖融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである。該ポリヌクレオチドのある実施態様において、該軽鎖の配列は配列番号25である。該ポリヌクレオチドのある実施態様において、該軽鎖をコードするヌクレオチド配列は配列番号24である。該ポリヌクレオチドのある実施態様において、該scFvの配列は配列番号19である。該ポリヌクレオチドのある実施態様において、該scFvをコードするヌクレオチド配列は配列番号18である。該ポリヌクレオチドのある実施態様において、該軽鎖の配列は配列番号25であり、該scFvの配列は配列番号19である。該ポリヌクレオチドのある実施態様において、該軽鎖をコードするヌクレオチド配列は配列番号24であり、該scFvをコードするヌクレオチド配列は配列番号18である。該ポリヌクレオチドのある実施態様において、該ペプチドリンカーは、5〜30、5〜25、5〜15、10〜30、10〜20、10〜15、15〜30、又は15〜25アミノ酸の長さである。該ポリヌクレオチドのある実施態様において、該ペプチドリンカーの配列は配列番号14である。該ポリヌクレオチドのある実施態様において、該ペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は配列番号13である。
【0019】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、プロモーターに機能的に連結された、ペプチドリンカーを介してscFvに融合した免疫グロブリン軽鎖(ここで、該軽鎖はHER2に結合し、該scFvはCD3に結合する)を含む軽鎖融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をコードするポリヌクレオチドを含むベクターである。ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、プロモーターに機能的に連結された本明細書に提供されるポリヌクレオチドを含むエクスビボ細胞である。ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、該ベクターを含むエクスビボ細胞である。
【0020】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、(i)第1のプロモーターに機能的に連結された、ペプチドリンカーを介してscFvに融合した免疫グロブリン軽鎖(ここで、該軽鎖はHER2に結合し、該scFvはCD3に結合する)を含む軽鎖融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む第1のポリヌクレオチド及び(ii)第2のプロモーターに機能的に連結された、HER2に結合する免疫グロブリン重鎖をコードする第2のポリヌクレオチドを含むベクターである。ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、該ベクターを含むエクスビボ細胞である。
【0021】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、二重特異性結合分子を産生する方法であって、(a)該軽鎖融合ポリペプチド及び該免疫グロブリン重鎖を含む二重特異性結合分子が発現されるように、(i)第1のプロモーターに機能的に連結された、ペプチドリンカーを介してscFvに融合した免疫グロブリン軽鎖(ここで、該軽鎖はHER2に結合し、該scFvはCD3に結合する)を含む軽鎖融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む第1のポリヌクレオチド及び(ii)第2のプロモーターに機能的に連結された、HER2に結合する免疫グロブリン重鎖をコードする第2のポリヌクレオチドを含むベクターを含む細胞を培養して、該第1及び第2のポリヌクレオチドを発現させること、並びに(b)該二重特異性結合分子を回収することを含む、方法である。
【0022】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、(i)該第1のプロモーターに機能的に連結された第1のポリヌクレオチド及び(ii)該第2のプロモーターに機能的に連結された、HER2に結合する免疫グロブリン重鎖をコードする第2のポリヌクレオチドの治療有効量を含む医薬組成物である。ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、(i)該第1のプロモーターに機能的に連結された第1のポリヌクレオチド及び(ii)該第2のプロモーターに機能的に連結された、HER2に結合する免疫グロブリン重鎖をコードする第2のポリヌクレオチドを含むベクターの治療有効量を含む医薬組成物である。ある実施態様において、該ベクターはウイルスベクターである。
【0023】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、(i)第1のプロモーターに機能的に連結された、ペプチドリンカーを介してscFvに融合した免疫グロブリン軽鎖(ここで、該軽鎖はHER2に結合し、該scFvはCD3に結合する)を含む軽鎖融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド及び(ii)第2のプロモーターに機能的に連結された、HER2に結合する免疫グロブリン重鎖をコードする第2のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドの混合物である。該ポリヌクレオチドの混合物のある実施態様において、該重鎖の配列は配列番号27である。該ポリペプチドの混合物のある実施態様において、該重鎖をコードするヌクレオチド配列は配列番号26である。ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、本明細書に提供されるポリヌクレオチドの混合物を含むエクスビボ細胞である。
【0024】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、二重特異性結合分子を産生する方法であって、(i)該軽鎖融合ポリペプチド及び該免疫グロブリン重鎖を含む二重特異性結合分子が産生されるように、ポリヌクレオチドの混合物を含む細胞を培養して、該第1及び第2のポリヌクレオチドを発現させること、並びに(ii)該二重特異性結合分子を回収することを含む、方法である。
【0025】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、二重特異性結合分子を産生する方法であって、(i)該第1の軽鎖融合ポリペプチド及び該免疫グロブリン重鎖を含む二重特異性結合分子が産生されるように、ポリヌクレオチドの混合物を発現させること、並びに(ii)該二重特異性結合分子を回収することを含む、方法である。
【0026】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、治療的T細胞を作製する方法であって、本明細書に記載の二重特異性結合分子をT細胞に結合させることを含む、方法である。ある実施態様において、該T細胞はヒトT細胞である。ある実施態様において、該結合は非共有結合的である。
【0027】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、該二重特異性結合分子の治療有効量及び医薬として許容し得る担体を含む医薬組成物である。
【0028】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、該二重特異性結合分子の治療有効量、医薬として許容し得る担体、及びT細胞を含む医薬組成物である。ある実施態様において、該T細胞は、該二重特異性結合分子に結合させられる。ある実施態様において、該T細胞の該二重特異性結合分子への結合は非共有結合的である。ある実施態様において、該T細胞は、対象におけるHER2陽性癌の治療のために、該対象に投与される。ある実施態様において、該T細胞は、それらが投与される対象にとって自己のものである。ある実施態様において、該T細胞は、それらが投与される対象にとって同種異系のものである。ある実施態様において、該T細胞はヒトT細胞である。
【0029】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、それを必要とする対象におけるHER2陽性癌を治療する方法であって、本明細書に提供される医薬組成物を投与することを含む、方法である。ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、それを必要とする対象におけるHER2陽性癌を治療する方法であって、本明細書に提供される二重特異性結合分子の治療有効量を投与することを含む、方法である。ある実施態様において、該HER2陽性癌は、乳癌、胃癌、骨肉腫、線維形成性小円形細胞癌、頭頸部癌の扁平上皮細胞癌、卵巣癌、前立腺癌、膵癌、多形性膠芽腫、胃接合部腺癌、胃食道接合部腺癌、子宮頸癌、唾液腺癌、軟部組織肉腫、白血病、黒色腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、神経芽腫、小細胞肺癌、又はHER2受容体を発現する任意の他の新生物性組織である。ある実施態様において、該HER2陽性癌は、原発性腫瘍又は転移性腫瘍、例えば、脳又は腹膜転移である。
【0030】
該治療方法のある実施態様において、該投与は静脈内へのものである。該治療方法のある実施態様において、該投与は、腹腔内、髄腔内、脳室内、又は実質内へのものである。該治療方法のある実施態様において、該方法は、該対象に、ドキソルビシン、シクロホスファミド、パクリタキセル、ドセタキセル、及び/又はカルボプラチンを投与することをさらに含む。該治療方法のある実施態様において、該方法は、該対象に、放射線療法を施すことをさらに含む。該治療方法のある実施態様において、該投与は、マルチモダリティ型のアントラサイクリンベースの療法と組み合わせて実施される。該治療方法のある実施態様において、該投与は、細胞減少化学療法と組み合わせて実施される。具体的な実施態様において、該投与は、該対象を細胞減少化学療法で治療した後に実施される。該治療方法のある実施態様において、該二重特異性結合分子は、T細胞に結合させられない。該治療方法のある実施態様において、該二重特異性結合分子は、T細胞に結合させられる。該治療方法のある実施態様において、該二重特異性結合分子の該T細胞への結合は非共有結合的である。該治療方法のある実施態様において、該投与は、T細胞注入と組み合わせて実施される。具体的な実施態様において、該投与は、該患者をT細胞注入で治療した後に実施される。ある実施態様において、該T細胞注入は、T細胞が投与される患者にとって自己のものであるT細胞を用いて実施される。ある実施態様において、該T細胞注入は、T細胞が投与される患者にとって同種異系のものであるT細胞を用いて実施される。ある実施態様において、該T細胞は、本明細書に記載の二重特異性結合分子と同一の分子に結合させることができる。ある実施態様において、該T細胞の二重特異性結合分子と同一の分子への結合は非共有結合的である。ある実施態様において、該T細胞はヒトT細胞である。
【0031】
該治療方法のある実施態様において、該方法は、該対象に、細胞のHER2発現を増大させる薬剤を投与することをさらに含む。該治療方法のある実施態様において、該HER2陽性癌は、トラスツズマブ、セツキシマブ、ラパチニブ、エルロチニブ、又はHERファミリーの受容体を標的とする任意の他の小分子もしくは抗体による治療に対して抵抗性である。該治療方法のある実施態様において、該対象はヒトである。該治療方法のある実施態様において、該対象はイヌである。
本発明のある実施態様において例えば以下の項目が提供される:
(項目1)
HER2に結合する免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一である、前記非グリコシル化モノクローナル抗体を含む二重特異性結合分子。
(項目2)
各重鎖の配列が配列番号23又は27である、項目1記載の二重特異性結合分子。
(項目3)
各軽鎖の配列が配列番号25である、項目1又は2記載の二重特異性結合分子。
(項目4)
前記ペプチドリンカーの配列が配列番号14である、項目1〜3のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目5)
前記第1のscFvのVHドメインの配列が配列番号15又は17である、項目1〜4のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目6)
前記第1のscFvのVHドメインとVLドメインの間のscFv内ペプチドリンカーの配列が配列番号14である、項目1〜5のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目7)
前記第1のscFvのVLドメインの配列が配列番号16である、項目1〜6のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目8)
前記scFvの配列が配列番号19である、項目1〜4のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目9)
前記第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号29である、項目1〜3のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目10)
各重鎖の配列が、配列番号23、27、62、又は63のいずれかである、項目1記載の二重特異性結合分子。
(項目11)
各軽鎖の配列が配列番号25である、項目1又は10記載の二重特異性結合分子。
(項目12)
前記ペプチドリンカーの配列が、配列番号14又は35〜41のいずれかである、項目1、10、又は11のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目13)
前記第1のscFvのVHドメインの配列が、配列番号15、17、又は64のいずれかである、項目1又は10〜12のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目14)
前記第1のscFvのVHドメインとVLドメインの間のscFv内ペプチドリンカーの配列が、配列番号14又は35〜41のいずれかである、項目1又は10〜13のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目15)
前記第1のscFvのVLドメインの配列が、配列番号16又は65のいずれかである、項目1又は10〜12のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目16)
前記scFvの配列が、配列番号19又は48〜59のいずれかである、項目1又は10〜12のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目17)
前記第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列が、配列番号29、34、42〜47、又は60のいずれかである、項目1、10、又は11のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目18)
各重鎖の配列が配列番号27であり、各軽鎖の配列が配列番号25である、項目1記載の二重特異性結合分子。
(項目19)
前記scFvの配列が配列番号19である、項目1記載の二重特異性結合分子。
(項目20)
前記scFvの配列が配列番号19である、項目18記載の二重特異性結合分子。
(項目21)
前記ペプチドリンカーが、5〜30、5〜25、5〜15、10〜30、10〜20、10〜15、15〜30、又は15〜25アミノ酸の長さである、項目1又は18〜20のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目22)
前記ペプチドリンカーの配列が配列番号14である、項目1又は18〜20のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目23)
前記第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号60である、項目1記載の二重特異性結合分子。
(項目24)
前記重鎖の配列が配列番号62であり、各軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号60である、項目1記載の二重特異性結合分子。
(項目25)
前記第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号47である、項目1記載の二重特異性結合分子。
(項目26)
前記重鎖の配列が配列番号27であり、各軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号47である、項目1記載の二重特異性結合分子。
(項目27)
前記第1の軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号29である、項目1記載の二重特異性結合分子。
(項目28)
前記重鎖の配列が配列番号27であり、各軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号29である、項目1記載の二重特異性結合分子。
(項目29)
KDがCD3に対して70nM〜1μMである、項目1〜28のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目30)
前記二重特異性結合分子が、その可溶形態又は細胞結合形態のFc受容体に結合しない、項目1〜29のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目31)
前記重鎖がN-結合型グリコシル化部位を破壊するように突然変異させられている、項目1〜30のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目32)
前記重鎖が、N-結合型グリコシル化部位であるアスパラギンをグリコシル化部位として機能しないアミノ酸と置き換えるためのアミノ酸置換を有する、項目31記載の二重特異性結合分子。
(項目33)
前記重鎖がC1q結合部位を破壊するように突然変異させられている、項目1〜32のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目34)
前記二重特異性結合分子が補体を活性化しない、項目1〜32のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目35)
前記scFvがジスルフィド安定化されている、項目1〜34のいずれか一項記載の二重特異性結合分子。
(項目36)
HER2に結合する免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一であり、
(a)各重鎖の配列が配列番号62であり;かつ
(b)各軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号60である、
前記非グリコシル化モノクローナル抗体を含む二重特異性結合分子。
(項目37)
HER2に結合する免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一であり、
(a)各重鎖の配列が配列番号27であり;かつ
(b)各軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号47である、
前記非グリコシル化モノクローナル抗体を含む二重特異性結合分子。
(項目38)
HER2に結合する免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一であり、
(a)各重鎖の配列が配列番号27であり;かつ
(b)各軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号29である、
前記非グリコシル化モノクローナル抗体を含む二重特異性結合分子。
(項目39)
ペプチドリンカーを介してscFvに融合した免疫グロブリン軽鎖(ここで、該軽鎖はHER2に結合し、該scFvはCD3に結合する)を含む軽鎖融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
(項目40)
前記軽鎖の配列が配列番号25である、項目39記載のポリヌクレオチド。
(項目41)
前記軽鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号24である、項目39記載のポリヌクレオチド。
(項目42)
前記scFvの配列が配列番号19である、項目39記載のポリヌクレオチド。
(項目43)
前記scFvをコードするヌクレオチド配列が配列番号18である、項目39記載のポリヌクレオチド。
(項目44)
前記軽鎖の配列が配列番号25であり、前記scFvの配列が配列番号19である、項目39記載のポリヌクレオチド。
(項目45)
前記軽鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号24であり、前記scFvをコードするヌクレオチド配列が配列番号18である、項目39記載のポリヌクレオチド。
(項目46)
前記ペプチドリンカーが、5〜30、5〜25、5〜15、10〜30、10〜20、10〜15、15〜30、又は15〜25アミノ酸の長さである、項目39〜44のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
(項目47)
前記ペプチドリンカーの配列が配列番号14である、項目39〜44のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
(項目48)
前記ペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列が配列番号13である、項目39〜44のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
(項目49)
前記軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号29である、項目39記載のポリヌクレオチド。
(項目50)
前記軽鎖融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が配列番号28である、項目39記載のポリヌクレオチド。
(項目51)
プロモーターに機能的に連結された項目39〜50のいずれか一項記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
(項目52)
プロモーターに機能的に連結された項目39〜50のいずれか一項記載のポリヌクレオチドを含むエクスビボ細胞。
(項目53)
項目51記載のベクターを含むエクスビボ細胞。
(項目54)
(i)第1のプロモーターに機能的に連結された、項目39〜50のいずれか一項記載の第1のポリヌクレオチド及び(ii)第2のプロモーターに機能的に連結された、HER2に結合する免疫グロブリン重鎖をコードする第2のポリヌクレオチドを含むベクター。
(項目55)
項目54記載のベクターを含むエクスビボ細胞。
(項目56)
二重特異性結合分子を産生する方法であって、(i)前記軽鎖融合ポリペプチド及び前記免疫グロブリン重鎖を含む二重特異性結合分子が発現されるように、項目55記載の細胞を培養して、前記第1及び第2のポリヌクレオチドを発現させること、並びに(ii)該二重特異性結合分子を回収することを含む、前記方法。
(項目57)
(i)第1のプロモーターに機能的に連結された、項目39〜50のいずれか一項記載の第1のポリヌクレオチド及び(ii)第2のプロモーターに機能的に連結された、HER2に結合する免疫グロブリン重鎖をコードする第2のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドの混合物。
(項目58)
前記重鎖の配列が配列番号27である、項目57記載のポリヌクレオチドの混合物。
(項目59)
前記重鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号26である、項目57記載のポリヌクレオチドの混合物。
(項目60)
項目57〜59のいずれか一項記載のポリヌクレオチドの混合物を含むエクスビボ細胞。
(項目61)
二重特異性結合分子を産生する方法であって、(i)前記軽鎖融合ポリペプチド及び前記免疫グロブリン重鎖を含む二重特異性結合分子が産生されるように、項目60記載の細胞を培養して、前記第1及び第2のポリヌクレオチドを発現させること、並びに(ii)該二重特異性結合分子を回収することを含む、前記方法。
(項目62)
二重特異性結合分子を産生する方法であって、(i)前記第1の軽鎖融合ポリペプチド及び前記免疫グロブリン重鎖を含む二重特異性結合分子が産生されるように、項目57〜59のいずれか一項記載のポリヌクレオチドの混合物を発現させること、並びに(ii)該二重特異性結合分子を回収することを含む、前記方法。
(項目63)
項目1〜38のいずれか一項記載の二重特異性結合分子の治療有効量及び医薬として許容し得る担体を含む医薬組成物。
(項目64)
(i)第1のプロモーターに機能的に連結された、項目39〜50のいずれか一項記載の第1のポリヌクレオチド及び(ii)第2のプロモーターに機能的に連結された、HER2に結合する免疫グロブリン重鎖をコードする第2のポリヌクレオチドの治療有効量を含む医薬組成物。
(項目65)
(i)第1のプロモーターに機能的に連結された、項目39〜50のいずれか一項記載の第1のポリヌクレオチド及び(ii)第2のプロモーターに機能的に連結された、HER2に結合する免疫グロブリン重鎖をコードする第2のポリヌクレオチドを含むベクターの治療有効量を含む医薬組成物。
(項目66)
前記ベクターがウイルスベクターである、項目65記載の医薬組成物。
(項目67)
それを必要とする対象におけるHER2陽性癌を治療する方法であって、項目63〜66のいずれか一項記載の医薬組成物を該対象に投与することを含む、前記方法。
(項目68)
それを必要とする対象におけるHER2陽性癌を治療する方法であって、項目1〜38のいずれか一項記載の二重特異性結合分子の治療有効量を該対象に投与することを含む、前記方法。
(項目69)
前記HER2陽性癌が、乳癌、胃癌、骨肉腫、線維形成性小円形細胞癌、頭頸部癌の扁平上皮細胞癌、卵巣癌、前立腺癌、膵癌、多形性膠芽腫、胃接合部腺癌、胃食道接合部腺癌、子宮頸癌、唾液腺癌、軟部組織肉腫、白血病、黒色腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、神経芽腫、又はHER2受容体を発現する任意の他の新生物性組織である、項目67又は68記載の方法。
(項目70)
前記HER2陽性癌が、原発性腫瘍又は転移性腫瘍である、項目67〜69のいずれか一項記載の方法。
(項目71)
前記投与が静脈内へのものである、項目67〜70のいずれか一項記載の方法。
(項目72)
前記投与が、腹腔内、髄腔内、脳室内、又は脳実質内へのものである、項目67〜70のいずれか一項記載の方法。
(項目73)
前記方法が、前記対象に、ドキソルビシン、シクロホスファミド、パクリタキセル、ドセタキセル、及び/又はカルボプラチンを投与することをさらに含む、項目67〜72のいずれか一項記載の方法。
(項目74)
前記方法が、前記対象に、放射線療法を施すことをさらに含む、項目67〜72のいずれか一項記載の方法。
(項目75)
前記投与が、マルチモダリティ型のアントラサイクリンベースの療法と組み合わせて実施される、項目67〜72のいずれか一項記載の方法。
(項目76)
前記方法が、前記対象に、細胞のHER2発現を増大させる薬剤を投与することをさらに含む、項目67〜72のいずれか一項記載の方法。
(項目77)
前記HER2陽性癌が、トラスツズマブ、セツキシマブ、ラパチニブ、エルロチニブ、又はHERファミリーの受容体を標的とする任意の他の小分子もしくは抗体による治療に対して抵抗性である、項目67〜76のいずれか一項記載の方法。
(項目78)
前記二重特異性結合分子が、前記投与工程の間、T細胞に結合させられない、項目59〜77のいずれか一項記載の方法。
(項目79)
前記方法が、前記対象に、T細胞を投与することをさらに含む、項目67〜78のいずれか一項記載の方法。
(項目80)
前記T細胞が、前記二重特異性結合分子と同一の分子に結合させられる、項目79記載の方法。
(項目81)
前記対象がヒトである、項目67〜80のいずれか一項記載の方法。
(項目82)
前記対象がイヌである、項目67〜80のいずれか一項記載の方法。
(項目83)
項目1〜38のいずれか一項記載の二重特異性結合分子に結合したT細胞及び医薬として許容し得る担体を含む医薬組成物。
(項目84)
治療的T細胞を作製する方法であって、項目1〜38のいずれか一項記載の二重特異性結合分子をT細胞に結合させることを含む、前記方法。
(項目85)
前記T細胞がヒトT細胞である、項目84記載の方法。
(項目86)
前記結合が非共有結合的である、項目84又は85記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0032】
(4.図面の簡単な説明)
図1図1A図1B図1C図1D、及び図1Eは、HER2-BsAbを説明している。図1Aは、HER2-BsAbの略図を示している。矢印は、グリコシル化を除去するために重鎖に導入されたN297A突然変異を示している。図1Bは、還元SDS-PAGE条件下で示されたHER2-BsAbの純度を示している。図1Cは、SEC-HPLCによって示されたHER2-BsAbの純度を示している。図1Dは、ヒトIgG1-Fc中のN297A突然変異がCD16A Fc受容体への結合を阻害することを示している。図1Eは、ヒトIgG1-Fc中のN297A突然変異がCD32A Fc受容体への結合を阻害することを示している。
【0033】
図2図2A及び図2Bは、HER2-BsAbが乳癌細胞株及びT細胞に結合することを示している。図2Aは、トラスツズマブ(左)又はHER2-BsAb(右)によるAU565乳癌細胞の染色を示している。図2Bは、huOKT3(左)又はHER2-BsAb(右)によるCD3+ T細胞の染色を示している。
【0034】
図3図3は、HER2-BsAbが4時間の51Cr放出アッセイで強力な細胞傷害性Tリンパ球活性を示すことを示している。トラスツズマブ-mOKT3の説明については、Thakurらの文献、2010, Curr Opin Mol Ther, 12: 340を参照されたい。
【0035】
図4図4は、癌細胞株のパネルにおいて、HER2発現をHER2-BsAbによるT細胞の細胞傷害性と比較している。
【0036】
図5図5A及び図5Bは、HER2-BsAbによって再誘導されるT細胞の細胞傷害性が抗原特異的であることを示している。図5Aは、HER2-BsAbがHER2陽性細胞株のUM SCC 47に対するT細胞の細胞傷害性を媒介するが、HER2陰性細胞株のHTB-132に対するT細胞の細胞傷害性を媒介しないことを示している。図5Bは、huOKT3及びトラスツズマブがT細胞の細胞傷害性を媒介するHER2-BsAbの能力を阻止することができることを示している。
【0037】
図6図6は、HER2-BsAbによって媒介されるT細胞の細胞傷害性をフローサイトメトリーによるHER2検出閾値と比較することによって、HER2-BsAbが低レベルのHER2を検出することを示している。
【0038】
図7図7A図7B、及び図7Cは、HER2-BsAbの特異性、親和性、及び抗増殖作用を提供している。図7Aは、HER2陽性SKOV3卵巣癌細胞株のプレインキュベーションがHER2-BsAbの結合を阻止することを示している。図7Bは、平均蛍光強度(MFI)を抗体濃度に対してプロットしたとき、トラスツズマブの希釈物又はHER2-BsAbで標識したSKOV3細胞が同様の曲線を示すことを示している。図7Cは、トラスツズマブ感受性乳癌細胞株SKBR3におけるトラスツズマブと比較したHER2-BsAbの抗増殖作用を示している。
【0039】
図8図8は、HER2-BsAbが頭頸部の扁平上皮細胞癌(SCCHN)の細胞株に対して効果的であることを示している。SCCHN細胞のパネルをHER2-BsAb媒介性細胞傷害性及びEC50について解析し、フローサイトメトリー及びqRT-PCRによって決定される各細胞株におけるHER2の発現レベルと比較した。
【0040】
図9図9A図9B、及び図9C。HER2-BsAbは、他のHER標的療法に対して抵抗性のSCCHNに対するT細胞の細胞傷害性を媒介する。図9Aは、SCCHN細胞株PCI-30がEGFR及びHER2を発現することを示している。図9Bは、PCI-30細胞が、HER標的療法のラパチニブ、エルロチニブ、ネラチニブ、トラスツズマブ、及びセツキシマブに対して抵抗性であることを示している。図9Cは、PCI-30細胞がHER2-BsAbの存在下でT細胞に対して感受性であることを示している。データは、3回の異なる細胞傷害性アッセイの平均を表している。
【0041】
図10図10は、HER2-BsAbが骨肉腫細胞株に対して効果的であることを示している。骨肉腫細胞株のパネルをHER2-BsAb媒介性細胞傷害性及びEC50について解析し、フローサイトメトリー及びqRT-PCRによって決定される各細胞株におけるHER2の発現レベルと比較した。
【0042】
図11図11A図11B、及び図11Cは、HER2-BsAbが他の標的療法に抵抗性の骨肉腫細胞株に対して効果的であることを示している。図11Aは、骨肉腫細胞株U2OSがEGFR及びHER2を発現することを示している。図11Bは、USOS細胞がHER標的療法のラパチニブ、エルロチニブ、ネラチニブ、トラスツズマブ、及びセツキシマブに対して抵抗性であることを示している。図11Cは、USOS細胞がHER2-BsAbの存在下でT細胞に対して感受性であることを示している。データは、3回の異なる細胞傷害性アッセイの平均を表している。
【0043】
図12図12A図12B図12C及び図12Dは、HER2-BsAbが他の標的療法に対して抵抗性のHeLa子宮頸癌細胞株に対して効果的であることを示している。図12Aは、HeLa細胞がEGFR及びHER2を発現することを示している。図12Bは、HeLa細胞がHER標的療法のラパチニブ、エルロチニブ、ネラチニブ、トラスツズマブ、及びセツキシマブに対して抵抗性であることを示している。図12Cは、HeLa細胞がHER2-BsAbの存在下でT細胞に対して感受性であることを示している。データは、3回の異なる細胞傷害性アッセイの平均を表している。図12Dは、ラパチニブによる前処理がHER2-BsAbに対するHeLaの感受性を増強することを示している。
【0044】
図13図13は、HER2-BsAbが腫瘍成長をインビボで低下させることを示している。図13は、HER2-BsAbがPBMCと混合した移植MCF7乳癌細胞における腫瘍進行を防御することを示している。
【0045】
図14図14は、HER2-BsAbが末梢血単核細胞(PBMC)と混合した移植HCC1954乳癌における腫瘍進行をインビボで防御することを示している。
【0046】
図15図15は、HER2-BsAbがルシフェラーゼでタグ化したMCF7細胞の静脈内導入によって誘導される腫瘍進行の転移モデルをインビボで防御することを示している。
【0047】
図16図16A図16B図16C、及び図16Dは、HER2-BsAbがルシフェラーゼでタグ化したMCF7細胞の転移性腫瘍成長をインビボで阻止することを示している。図16Aは、処理していないマウスを表している。図16Bは、PBMC及びHER2-C825で処理したマウスを表している。図16Cは、HER2-BsAbで処理したマウスを表している。図16Dは、PBMC及びHER2-BsAbで処理したマウスを表している。
【0048】
図17図17A図17B、及び図17Cは、HER2-BsAbを説明している。図17Aは、HER2-BsAbの略図を示している。矢印は、グリコシル化を除去するために重鎖に導入されたN297A突然変異を示している。図17Bは、還元SDS-PAGE条件下で示されたHER2-BsAbの純度を示している。図17Cは、サイズ排除クロマトグラフィー高速液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC)によって示されたHER2-BsAbの純度を示している。
【0049】
図18図18A図18B、及び図18Cは、HER2-BsAbがトラスツズマブと同じ特異性、同様の親和性、及び抗増殖効果を有することを示している。
【0050】
図19図19A及び図19Bは、HER2-BsAbによって再誘導されるT細胞の細胞傷害性がHER2特異的であり、かつCD3に依存的であることを示している。
【0051】
図20図20は、異なる腫瘍系由来の35の異なる細胞株におけるATC及びHER2-BsAbの存在下でのHER2発現及び半最大有効濃度(EC50)を示している。
【0052】
図21図21A図21B図21C図21D図21E図21F図21G図21H、及び図21Iは、HER2-BsAbが他のHER標的療法に対して抵抗性の癌細胞株に対する細胞傷害性応答を媒介することを示している。
【0053】
図22図22は、HER2-BsAbのEC50がフローサイトメトリーによって決定されるHER2発現レベルと相関することを示している。pM=ピコモル濃度; MFI=平均蛍光強度。
【0054】
図23図23A図23B、及び図23Cは、HER2-BsAbが、エフェクターT細胞上でのPD-1発現があっても、ペンブロリズマブによるPD-1遮断に対して比較的感受性が低い形で、PD-L1陽性HCC1954標的に対するT細胞の細胞傷害性を媒介することを示している。
【0055】
図24図24A及び図24Bは、HER2-BsAbが、エフェクターT細胞上でのPD-1発現に対して比較的感受性が低い形で、PD-L1陽性HEK-293標的に対するT細胞の細胞傷害性を媒介することを示している。細胞傷害性は、6回の実験の平均である。
【0056】
図25図25A図25B図25C、及び図25Dは、HER2-BsAbがHER2陽性異種移植片に対して効果的であることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0057】
(5.詳細な説明)
本明細書に提供されるのは、HER2とCD3の両方に結合する二重特異性結合分子である。また本明細書に提供されるのは、そのような二重特異性結合分子又はその断片をコードする単離された核酸(ポリヌクレオチド)、例えば、相補的DNA(cDNA)である。さらに提供されるのは、ベクター(例えば、発現ベクター)及びそのような二重特異性結合分子又はその断片をコードする核酸(ポリヌクレオチド)又はベクター(例えば、発現ベクター)を含む細胞(例えば、エクスビボ細胞)である。また本明細書に提供されるのは、そのような二重特異性結合分子、細胞、及びベクターを作製する方法である。また本明細書に提供されるのは、本明細書に提供される二重特異性結合分子に結合したT細胞である。また本明細書に提供されるのは、そのような二重特異性結合分子をT細胞に結合させる方法である。他の実施態様において、本明細書に提供されるのは、本明細書に記載の二重特異性結合分子、核酸、ベクター、及び/又はT細胞を用いてHER2陽性癌を治療するための方法及び使用である。さらに、関連組成物(例えば、医薬組成物)、キット、及び診断方法も本明細書に提供される。
【0058】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、HER2及びCD3に特異的に結合し、癌を治療するためのT細胞の細胞傷害性を引き起こす二重特異性結合分子である。任意の理論に束縛されるものではないが、本明細書に記載の二重特異性結合分子は、腫瘍をT細胞に結合させるだけでなく、それらはまた、T細胞上のCD3を架橋し、活性化カスケードを開始させると考えられており、このように、T細胞受容体(TCR)に基づく細胞傷害性を所望の腫瘍標的に再誘導し、主要組織適合性複合体(MHC)拘束を迂回する。
【0059】
(5.1 二重特異性結合分子)
本明細書に提供されるのは、HER2及びCD3に結合する二重特異性結合分子である。本明細書に提供される方法において使用することができる結合分子は、HER2に結合する免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の融合ポリペプチドが同一である、非グリコシル化モノクローナル抗体を含む二重特異性結合分子である。
【0060】
HER2は、上皮成長因子受容体(EGFR)ファミリーの受容体チロシンキナーゼのメンバーである。具体的な実施態様において、HER2はヒトHER2である。GenBank(商標)アクセッション番号NM_004448.3(配列番号1)は、例示的なヒトHER2核酸配列を提供する。GenBank(商標)アクセッション番号NP_004439.2(配列番号2)は、例示的なヒトHER2アミノ酸配列を提供する。別の具体的な実施態様において、HER2はイヌHER2である。GenBank(商標)アクセッション番号NM_001003217.1(配列番号3)は、例示的なイヌHER2核酸配列を提供する。GenBank(商標)アクセッション番号NP_001003217.1(配列番号4)は、例示的なイヌHER2アミノ酸配列を提供する。
【0061】
CD3は、ガンマ鎖、デルタ鎖、及び2つのイプシロン鎖から構成されるT細胞共受容体である。具体的な実施態様において、CD3はヒトCD3である。GenBank(商標)アクセッション番号NM_000073.2(配列番号5)は、例示的なヒトCD3ガンマ核酸配列を提供する。GenBank(商標)アクセッション番号NP_000064.1(配列番号6)は、例示的なヒトCD3ガンマアミノ酸配列を提供する。GenBank(商標)アクセッション番号NM_000732.4(配列番号7)は、例示的なヒトCD3デルタ核酸配列を提供する。GenBank(商標)アクセッション番号NP_000723.1(配列番号8)は、例示的なヒトCD3デルタアミノ酸配列を提供する。GenBank(商標)アクセッション番号NM_000733.3(配列番号9)は、例示的なヒトCD3イプシロン核酸配列を提供する。GenBank(商標)アクセッション番号NP_000724.1(配列番号10)は、例示的なヒトCD3イプシロンアミノ酸配列を提供する。別の具体的な実施態様において、CD3はイヌCD3である。GenBank(商標)アクセッション番号NM_001003379.1(配列番号11)は、例示的なイヌCD3イプシロン核酸配列を提供する。GenBank(商標)アクセッション番号NP_001003379.1(配列番号12)は、例示的なイヌCD3イプシロンアミノ酸配列を提供する。
【0062】
本発明の二重特異性結合分子中の免疫グロブリンは、非限定的な例として、モノクローナル抗体、裸の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体であることができる。本明細書で使用されるように、「免疫グロブリン」という用語は、当技術分野におけるその周知の意味と一致して使用され、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む。抗体を作製する方法は、第5.3節に記載されている。
【0063】
キメラ抗体は、ある種に由来する抗体、好ましくは、齧歯類抗体の相補性決定領域(CDR)を含む可変ドメインを含むが、該抗体分子の定常ドメインがヒト抗体の定常ドメインに由来する組換えタンパク質である。獣医学的用途のために、キメラ抗体の定常ドメインは、例えば、ウマ、サル、ウシ、ブタ、ネコ、又はイヌなどの他の種の定常ドメインに由来してもよい。
【0064】
ヒト化抗体は、組換えDNA技術によって産生される抗体であり、この技術では、抗原結合に必要とされないヒト免疫グロブリン軽鎖又は重鎖のアミノ酸(例えば、可変ドメインの定常領域及びフレームワーク領域)の一部又は全てが同族の非ヒト抗体の軽鎖又は重鎖に由来する対応するアミノ酸の代わりになるように使用される。例として、所与の抗原に対するマウス抗体のヒト化バージョンは、その重鎖と軽鎖の両方に、(1)ヒト抗体の定常領域;(2)ヒト抗体の可変ドメイン由来のフレームワーク領域;及び(3)マウス抗体由来のCDRを有する。必要な場合、抗原に対するヒト化抗体の結合親和性を維持するために、ヒトフレームワーク領域中の1以上の残基をマウス抗体中の対応する位置の残基に変化させることができる。この変化は、「復帰突然変異」と呼ばれることもある。同様に、所望の理由で、例えば、安定性又は抗原に対する親和性が理由で、前進突然変異を行って、マウス配列に戻してもよい。任意の理論に束縛されるものではないが、ヒト化抗体は、通常、キメラヒト抗体と比較して、ヒトで免疫応答を誘発する可能性が低い。なぜなら、前者は、かなり少ない非ヒト成分を含むからである。
【0065】
「エピトープ」という用語は、当技術分野で認識されており、通常、当業者により、抗体と相互作用する抗原の領域を指すものと理解されている。タンパク質抗原のエピトープは、線状もしくは立体構造的であることができ、又は抗原の連続的もしくは非連続的アミノ酸配列によって形成されることができる。
【0066】
scFvは、当技術分野で認識されている用語である。scFvは、免疫グロブリンの重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域の融合タンパク質を含み、ここで、該融合タンパク質は、全免疫グロブリンと同じ抗原特異性を保持している。VHは、ペプチドリンカーを介してVLに融合している(そのようなペプチドリンカーは、本明細書において、「scFv内ペプチドリンカー」と呼ばれることもある)。
【0067】
本発明のある実施態様において、scFvは、長さが5〜30、5〜25、5〜15、10〜30、10〜20、10〜15、15〜30、又は15〜25アミノ酸残基であるペプチドリンカーを有する。ある実施態様において、scFvペプチドリンカーは、当業者に公知のペプチドリンカーに好適な1以上の特徴を示す。ある実施態様において、scFvペプチドリンカーは、該scFvペプチドリンカーの可溶性を可能にする、例えば、セリン及びトレオニンなどのアミノ酸を含む。ある実施態様において、scFvペプチドリンカーは、該scFvペプチドリンカーの柔軟性を可能にする、例えば、グリシンなどのアミノ酸を含む。ある実施態様において、該scFvペプチドリンカーは、VHのN-末端をVLのC-末端に接続する。ある実施態様において、scFvペプチドリンカーは、VHのC-末端をVLのN-末端に接続することができる。ある実施態様において、scFvペプチドリンカーは、下の表1に記載のリンカー(例えば、配列番号14又は35〜41のいずれか1つ)である。好ましい実施態様において、該ペプチドリンカーは配列番号14である。
【0068】
本発明の二重特異性結合分子のある実施態様において、CD3に結合するscFvは、例えば、huOKT3(例えば、Adairらの文献、1994, Hum Antibodies Hybridomas 5 :41-47を参照)、YTH12.5(例えば、Routledgeらの文献、1991, Eur J Immunol, 21: 2717-2725を参照)、HUM291(例えば、Normanらの文献、2000, Clinical Transplantation, 70(12): 1707-1712を参照)、テプリズマブ(例えば、Heroldらの文献、2009, Clin Immunol, 132: 166-173を参照)、huCLB-T3/4(例えば、Labrijnらの文献、2013, Proceedings of the National Academy of Sciences, 110(13): 5145-5150を参照)、オテリキシズマブ(例えば、Keymeulenらの文献、2010, Diabetologia, 53: 614-623を参照)、ブリナツモマブ(例えば、Cheadleの文献、2006, Curr Opin Mol Ther, 8(1): 62-68を参照)、MT110(例えば、Silke及びGiresの文献、2011, MAbs, 3(1): 31-37を参照)、カツマキソマブ(例えば、Heiss及びMurawaの文献、2010, Int J Cancer, 127(9): 2209-2221を参照)、28F11(例えば、カナダ特許出願CA 2569509 A1号を参照)、27H5(例えば、カナダ特許出願CA 2569509 A1号を参照)、23F10(例えば、カナダ特許出願CA 2569509 A1号を参照)、15C3(例えば、カナダ特許出願CA 2569509 A1号を参照)、ビシリズマブ(例えば、Deanらの文献、2012, Swiss Med Wkly, 142: w13711を参照)、及びHum291(例えば、Deanらの文献、2012, Swiss Med Wkly, 142: w13711を参照)などの、当技術分野で公知のCD3特異的抗体のVH及びVLを含む。
【0069】
ある実施態様において、本発明の二重特異性結合分子中のscFvは、当技術分野で公知のCD3特異的抗体と同じエピトープに結合する。具体的な実施態様において、本発明の二重特異性結合分子中のscFvは、CD3特異的抗体huOKT3と同じエピトープに結合する。同じエピトープに対する結合は、例えば、突然変異解析又は結晶学的研究などの、当業者に公知のアッセイによって決定することができる。ある実施態様において、該scFvは、CD3に対する結合について当技術分野で公知の抗体と競合する。具体的な実施態様において、本発明の二重特異性結合分子中のscFvは、CD3に対する結合についてCD3特異的抗体huOKT3と競合する。CD3に対する結合の競合は、例えば、フローサイトメトリーなどの、当業者に公知のアッセイによって決定することができる。例えば、第6.1.2.4節を参照されたい。ある実施態様において、該scFvは、当技術分野で公知のCD3特異的抗体のVHとの少なくとも85%、90%、95%、98%、又は少なくとも99%の類似性を有するVHを含む。ある実施態様において、該scFvは、1〜5個の保存的アミノ酸置換を含む、当技術分野で公知のCD3特異的抗体のVHを含む。ある実施態様において、該scFvは、当技術分野で公知のCD3特異的抗体のVLとの少なくとも85%、90%、95%、98%、又は少なくとも99%の類似性を有するVLを含む。ある実施態様において、該scFvは、1〜5個の保存的アミノ酸置換を含む、当技術分野で公知のCD3特異的抗体のVLを含む。
【0070】
保存的アミノ酸置換は、アミノ酸のファミリー内で起こるアミノ酸置換であり、ここで、該アミノ酸は、その側鎖について関連がある。通常、遺伝子にコードされるアミノ酸は、ファミリーに分けられる:(1)アスパラギン酸及びグルタミン酸を含む、酸性;(2)アルギニン、リジン、及びヒスチジンを含む、塩基性;(3)イソロイシン、アラニン、バリン、プロリン、メチオニン、ロイシン、フェニルアラニン、トリプトファンを含む、非極性;並びに(4)システイン、トレオニン、グルタミン、グリシン、アスパラギン、セリン、及びチロシンを含む、非荷電、極性。さらに、脂肪族ヒドロキシファミリーは、セリン及びトレオニンを含む。さらに、アミド含有ファミリーは、アスパラギン及びグルタミンを含む。さらに、脂肪族ファミリーは、アラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンを含む。さらに、芳香族ファミリーは、フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンを含む。最後に、硫黄含有側鎖ファミリーは、システイン及びメチオニンを含む。例として、当業者であれば、とりわけ、置換がフレームワーク部位内のアミノ酸を含まない場合、ロイシンとイソロイシンもしくはバリンとの、アスパラギン酸とグルタミン酸との、トレオニンとセリンとの単独置換、又はあるアミノ酸と構造的に関連するアミノ酸との同様の置換が、得られる分子の結合又は特性に大きな影響を及ぼさないということを合理的に予想するであろう。好ましい保存的アミノ酸置換群としては:リジン-アルギニン、アラニン-バリン、フェニルアラニン-チロシン、グルタミン酸-アスパラギン酸、バリン-ロイシン-イソロイシン、システイン-メチオニン、及びアスパラギン-グルタミンが挙げられる。
【0071】
好ましい実施態様において、該scFvは、huOKT3抗体に由来し、したがって、huOKT3モノクローナル抗体のVH及びVL(それぞれ、配列番号15及び16)を含む。例えば、Van Wauweらの文献、1991, nature, 349: 293-299を参照されたい。該二重特異性結合分子の具体的な実施態様において、該scFvは、huOKT3モノクローナル抗体に由来し、天然のhuOKT3のVH及びVL配列と比べて、5以下のアミノ酸突然変異を有する。該二重特異性結合分子のある実施態様において、該scFvは、huOKT3モノクローナル抗体に由来し、天然のhuOKT3のVH及びVL配列と比べて、ジスルフィド結合を安定化するための1以上の突然変異を含む。該二重特異性結合分子のある実施態様において、ジスルフィド結合の安定化は、該二重特異性結合分子の凝集を妨げる。該二重特異性結合分子のある実施態様において、ジスルフィド結合の安定化は、ジスルフィド結合の安定化がない場合の該二重特異性結合分子の凝集と比較して、該二重特異性結合分子の凝集を低下させる。該二重特異性結合分子のある実施態様において、ジスルフィド結合を安定化するための1以上の突然変異は、(例えば、配列番号54〜59に存在するような)VH G44C突然変異及びVL Q100C突然変異を含む。該二重特異性結合分子のある実施態様において、ジスルフィド結合を安定化するための1以上の突然変異は、(例えば、配列番号54〜59に存在するような)VH44とVL100の間のジスルフィド結合を導入するための、VH44(Kabat付番体系による)のアミノ酸残基とシステインとの置換及びVL100(Kabat付番体系による)のアミノ酸残基とシステインとの置換である。特に好ましい実施態様において、該scFvは、システインがセリンと置換されている付番位置105のアミノ酸置換を含むhuOKT3のVHを含む(配列番号17)。ある実施態様において、該scFvのVHの配列は、下の表4に記載の通り(例えば、配列番号15、17、又は64のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該scFvのVLの配列は、下の表5に記載の通り(例えば、配列番号16又は65のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該scFvの配列は、下の表6に記載の通り(例えば、配列番号19又は48〜59のいずれか1つ)である。好ましい実施態様において、該scFvの配列は配列番号19である。具体的な実施態様において、該scFvは、huOKT3 VHの天然配列と比べて、5以下のアミノ酸突然変異を有するhuOKT3のVHの変異体を含む。具体的な実施態様において、該scFvは、huOKT3 VLの天然配列と比べて、5以下のアミノ酸突然変異を有するhuOKT3のVLの変異体を含む。
【0072】
抗CD3 scFvの可変領域の配列は、得られるscFvが、例えば、ELISA、フローサイトメトリー、及びBiaCore(商標)によって決定したとき、CD3に結合する能力を維持する程度まで、挿入、置換、及び欠失によって改変することができる。当業者は、例えば、結合解析及び細胞傷害性解析などの、本明細書において以下に記載されている機能アッセイを実施することによって、この活性の維持を確認することができる。
【0073】
ある実施態様において、免疫グロブリン軽鎖とscFvをコンジュゲートするペプチドリンカーは、5〜30、5〜25、5〜15、10〜30、10〜20、10〜15、15〜30、又は15〜25アミノ酸の長さである。ある実施態様において、該ペプチドリンカーは、当業者に公知のペプチドリンカーに好適な1以上の特徴を示す。ある実施態様において、該ペプチドリンカーは、ペプチドリンカーの可溶性を可能にする、例えば、セリン及びトレオニンなどの、アミノ酸を含む。ある実施態様において、該ペプチドリンカーは、ペプチドリンカーの柔軟性を可能にする、例えば、グリシンなどの、アミノ酸を含む。ある実施態様において、免疫グロブリン軽鎖とscFvをコンジュゲートするペプチドリンカーの配列は、下の表1に記載の通り(例えば、配列番号14又は35〜41のいずれか1つ)である。好ましい実施態様において、該ペプチドリンカーは配列番号14である。
【0074】
本発明の二重特異性結合分子のある実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、例えば、トラスツズマブ(例えば、Baselgaらの文献、1998, Cancer Res 58(13): 2825-2831を参照)、M-111(例えば、Higginsらの文献、2011, J Clin Oncol, 29(Suppl): Abstract TPS119を参照)、ペルツズマブ(例えば、Franklinらの文献、2004, Cancer Cell, 5: 317-328を参照)、エルツマキソマブ(例えば、Kiewe及びThielの文献、2008, Expert Opin Investig Drugs, 17(10): 1553-1558を参照)、MDXH210(例えば、Schwaabらの文献、2001, Journal of Immunotherapy, 24(1): 79-87を参照)、2B1(例えば、Borghaeiらの文献、2007, J Immunother, 30: 455-467を参照)、及びMM-302(例えば、Wickham及びFutchの文献、2012, Cancer Research, 72(24): Supplement 3を参照)などの、当技術分野で公知のHER2特異的抗体の重鎖及び/又は軽鎖を含む。本発明の二重特異性結合分子のある実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、トラスツズマブの重鎖を含む。本発明の二重特異性結合分子のある実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、配列番号23に示される配列を含む。本発明の二重特異性結合分子のある実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、トラスツズマブの重鎖の変異体を含む(例えば、下の表2を参照されたい)。本発明の二重特異性結合分子の具体的な実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、トラスツズマブの天然配列と比べて、5以下のアミノ酸突然変異を有するトラスツズマブ軽鎖の変異体を含む。本発明の二重特異性結合分子のある実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、トラスツズマブの軽鎖(配列番号25)を含む。本発明の二重特異性結合分子のある実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、トラスツズマブの軽鎖の変異体を含む。本発明の二重特異性結合分子の具体的な実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、トラスツズマブの天然配列と比べて、5以下のアミノ酸突然変異を有するトラスツズマブの軽鎖の変異体を含む。
【0075】
本発明の二重特異性結合分子のある実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、当技術分野で公知のHER2特異的抗体と同じエピトープに結合する。具体的な実施態様において、本発明の二重特異性結合分子中の免疫グロブリンは、トラスツズマブと同じエピトープに結合する。同じエピトープに対する結合は、例えば、突然変異解析又は結晶学的研究などの、当業者に公知のアッセイによって決定することができる。ある実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、HER2に対する結合について当技術分野で公知の抗体と競合する。具体的な実施態様において、本発明の二重特異性結合分子中の免疫グロブリンは、HER2に対する結合についてトラスツズマブと競合する。HER2に対する結合の競合は、例えば、フローサイトメトリーなどの、当業者に公知のアッセイによって決定することができる。例えば、第6.1.2.4節を参照されたい。ある実施態様において、該免疫グロブリンは、当技術分野で公知のHER2特異的抗体のVHとの少なくとも85%、90%、95%、98%、又は少なくとも99%の類似性を有するVHを含む。ある実施態様において、該免疫グロブリンは、1〜5個の保存的アミノ酸置換を含む、当技術分野で公知のHER2特異的抗体のVHを含む。ある実施態様において、該免疫グロブリンは、当技術分野で公知のHER2特異的抗体のVLとの少なくとも85%、90%、95%、98%、又は少なくとも99%の類似性を有するVLを含む。ある実施態様において、該免疫グロブリンは、1〜5個の保存的アミノ酸置換を含む、当技術分野で公知のHER2特異的抗体のVLを含む。ある実施態様において、該免疫グロブリンは、下の表2に記載の重鎖のVH(例えば、配列番号23、27、62、又は63のいずれか1つのVH)を含む。ある実施態様において、該免疫グロブリンは、下の表3に記載の軽鎖のVL(例えば、配列番号25のVL)を含む。
【0076】
抗HER2抗体の可変領域の配列は、得られる抗体が、例えば、ELISA、フローサイトメトリー、及びBiaCore(商標)によって決定したとき、HER2に結合する能力を維持する程度まで、挿入、置換、及び欠失によって改変することができる。当業者は、例えば、結合解析及び細胞傷害性解析などの、本明細書において以下に記載されている機能アッセイを実施することによって、この活性の維持を確認することができる。
【0077】
本発明の二重特異性結合分子のある実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、IgG1免疫グロブリンである。
【0078】
ヒト抗体を産生する方法は当業者に公知であり、例えば、ヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体ライブラリーを用いる上記のファージディスプレイ法などがある。米国特許第4,444,887号及び第4,716,111号;並びにPCT刊行物WO 98/46645号、WO 98/60433号、WO 98/24893号、WO 98/16664号、WO 96/34096号、WO 96/33735号、及びWO 91/10741号も参照されたく;これらの各々は引用により完全に本明細書中に組み込まれる。Coleら及びBoerderらの技法も、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用可能である(Coleらの文献、モノクローナル抗体及び癌療法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy)、Alan R. Riss,(1985);及びBoernerらの文献、J. Immunol., 147(1):86-95,(1991))。
【0079】
ある実施態様において、ヒト抗体を、機能的な内在性マウス免疫グロブリンを発現することはできないが、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現することができるトランスジェニックマウスを用いて産生する。例えば、ヒト重鎖及び軽鎖免疫グロブリン遺伝子複合体を、ランダムに又は相同組換えによって、マウス胚性幹細胞に導入することができる。或いは、ヒト重鎖及び軽鎖遺伝子に加えて、ヒト可変領域、定常領域、及び多様性領域をマウス胚性幹細胞に導入することができる。マウス重鎖及び軽鎖免疫グロブリン遺伝子を、相同組換えによるヒト免疫グロブリン座の導入によって個別に又は同時に機能しないようにすることができる。特に、JH領域のホモ接合性欠失は内在性抗体の産生を妨げる。修飾された胚性幹細胞を増殖させ、胚盤胞に顕微注入して、キメラマウスを生じさせる。その後、キメラマウスを交配して、ヒト抗体を発現するホモ接合性子孫を生じさせる。トランスジェニックマウスを、選択された抗原、例えば、本明細書に提供されるポリペプチドの全て又は一部を用いて、通常の方法で免疫する。該抗原に対するモノクローナル抗体は、従来のハイブリドーマ技術を用いて、免疫されたトランスジェニックマウスから得ることができる。このトランスジェニックマウスが有するヒト免疫グロブリン導入遺伝子は、B細胞分化の間に再編成し、その後、クラススイッチング及び体細胞突然変異を経る。したがって、そのような技法を用いて、治療的に有用なIgG、IgA、IgM、及びIgE抗体を産生することが可能である。ヒト抗体を産生するこの技術の概説については、Lonberg及びHuszarの文献、Int. Rev. Immunol. 13:65-93(1995)を参照されたい。ヒト抗体及びヒトモノクローナル抗体を産生するこの技術並びにそのような抗体を産生するためのプロトコルの詳細な議論については、例えば、引用により完全に本明細書中に組み込まれる、PCT刊行物WO 98/24893号; WO 92/01047号; WO 96/34096号; WO 96/33735号;欧州特許第0 598 877号;米国特許第5,413,923号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,569,825号;第5,661,016号;第5,545,806号;第5,814,318号;第5,886,793号;第5,916,771号;及び第5,939,598号を参照されたい。さらに、Abgenix社(Freemont, Calif.)、Genpharm(San Jose, Calif.)、及びMedarex社(Princeton, N.J.)などの会社に、上記の技術と同様の技術を用いて、選択された抗原に対するヒト抗体を提供することを請け負わせることができる。
【0080】
ヒトモノクローナル抗体は、ヒト末梢血白血球、脾細胞、又は骨髄を移植したマウスを免疫することによって作製することもできる(例えば、XTLのトリオーマ法)。選択されたエピトープを認識する完全ヒト抗体は、「ガイド選択」と呼ばれる技法を用いて作製することができる。この手法では、選択された非ヒトモノクローナル抗体、例えば、マウス抗体を用いて、同じエピトープを認識する完全ヒト抗体の選択を導く。例えば、Jespersらの文献、Bio/technology 12:899-903(1988)を参照されたい。ヒト抗体は、インビトロ活性化B細胞によって生成させることもできる。引用により完全に本明細書中に組み込まれる、米国特許第5,567,610第及び第5,229,275号を参照されたい。
【0081】
ヒト化抗体を作製する方法は当業者に公知である。例えば、Winterの文献、EP 0 239 400号; Jonesらの文献、Nature 321:522-525(1986); Riechmannらの文献、Nature 332:323-327(1988); Verhoeyenらの文献、Science 239: 1534-1536(1988); Queenらの文献、Proc. Nat. Acad. ScL USA 86:10029(1989);米国特許第6,180,370号;及びOrlandiらの文献、Proc. Natl. Acad. Sd. USA 86:3833(1989)を参照されたく;これらの全ての開示は、引用により完全に本明細書中に組み込まれる。通常、ヒト抗体へのマウス(又は他の非ヒト)CDRの移植は、次のように達成される。重鎖及び軽鎖可変ドメインをコードするcDNAをハイブリドーマから単離する。CDRを含む可変ドメインのDNA配列をシークエンシングによって決定する。CDRをコードするDNAを、所望のアイソタイプ(例えば、CHについてはガンマ-1及びCLについてはK)のヒト定常領域遺伝子セグメントに連結された、ヒト抗体重鎖又は軽鎖可変ドメインコード配列の対応する領域に挿入し、遺伝子合成する。ヒト化重鎖及び軽鎖遺伝子を哺乳動物宿主細胞(例えば、CHO又はNSO細胞)で共発現させて、可溶性のヒト化抗体を産生する。抗体の大規模産生を促進するためには、多くの場合、プロデューサー株でDHFR遺伝子又はGS遺伝子を用いて、高エクスプレッサーについて選択することが望ましい。これらのプロデューサー細胞株を、バイオリアクター、又は中空糸培養系、又はWAVE技術で培養して、可溶性抗体のバルク培養物を産生するか、又は乳中に抗体を発現するトランスジェニック哺乳動物(例えば、ヤギ、ウシ、もしくはヒツジ)を産生する(例えば、米国特許第5,827,690号を参照されたい)。
【0082】
抗体断片は、当技術分野で公知の及び/又は本明細書に記載の酵素切断法、合成法、又は組換え法によって産生することができる。抗体は、1以上の終止コドンが天然の終止部位の上流に導入されている抗体遺伝子を用いて、種々の切断形態で産生することもできる。例えば、F(ab')2重鎖部分をコードする組合せ遺伝子を、重鎖のCHドメイン及び/又はヒンジ領域をコードするDNA配列を含むように設計することができる。抗体の様々な部分を、従来の技法によって化学的に1つに結合させることができ、又は遺伝子工学の技法を用いて連続したタンパク質として調製することができる。ある実施態様において、ヒト重鎖及び軽鎖座のエレメントを、内在性重鎖及び軽鎖座の標的破壊を含む胚性幹細胞株に由来するマウスの系統に導入する。トランスジェニックマウスは、ヒト抗原に特異的なヒト抗体を合成することができ、このマウスを用いて、ヒト抗体を分泌するハイブリドーマを産生することができる。トランスジェニックマウスからヒト抗体を得る方法は、Greenらの文献、Nature Genet. 7:13(1994)、Lonbergらの文献、Nature 368:856(1994)、及びTaylorらの文献、Int. Immun. 6:579(1994)により記載されている。完全ヒト抗体は、その全てが当技術分野で公知である、遺伝子又は染色体トランスフェクション法、並びにファージディスプレイ技術によって構築することもできる。例えば、非免疫ドナー由来の免疫グロブリン可変ドメイン遺伝子レパートリーからの、インビトロでのヒト抗体及びその断片の産生については、McCaffertyらの文献、Nature 348:552-553(1990)を参照されたい。この技法では、抗体可変ドメイン遺伝子を、糸状バクテリオファージの大外被タンパク質遺伝子又は小外被タンパク質遺伝子のいずれかにインフレームでクローニングし、ファージ粒子の表面に機能的抗体断片として提示させる。糸状粒子はファージゲノムの1本鎖DNAコピーを含むので、抗体の機能的特性に基づく選択は、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択ももたらす。このように、ファージは、B細胞の特性の一部を模倣する。ファージディスプレイは、種々のフォーマットで実施することができ、その総説については、例えば、Johnson及びChiswellの文献、Current Opinion in Structural Biology 3:5564-571(1993)を参照されたい。
【0083】
抗体ヒト化は、例えば、個々のヒトフレームワークのプールにインフレームで融合した非ヒト標的モノクローナル抗体の6つのCDRを含むコンビナトリアルライブラリーを合成することによって実施することもできる。全ての既知の重鎖及び軽鎖ヒト生殖系列遺伝子を表す遺伝子を含むヒトフレームワークライブラリーを利用することができる。その後、得られたコンビナトリアルライブラリーを、対象となる抗原への結合についてスクリーニングすることができる。この手法は、親抗体に対する結合活性の維持に関して、完全ヒトフレームワークの最も好都合な組合せの選択を可能にすることができる。その後、ヒト化抗体を種々の技法によってさらに最適化することができる。
【0084】
抗体ヒト化を用いて、マウス又は他の非ヒト抗体を「完全ヒト」抗体へと進化させることができる。得られる抗体は、ヒト配列のみを含み、マウス配列も非ヒト抗体配列も含まないが、出発抗体と同様の結合親和性及び特異性を維持する。
【0085】
全長抗体分子について、免疫グロブリン遺伝子をハイブリドーマ細胞株のゲノムDNA又はmRNAから得ることができる。抗体重鎖及び軽鎖を哺乳動物ベクター系にクローニングする。アセンブリを2本鎖配列解析で立証する。抗体コンストラクトを他のヒト又は哺乳動物宿主細胞株で発現させることができる。その後、該コンストラクトを一過性トランスフェクションアッセイ及び対象となる発現抗体のウェスタンブロット解析によって検証することができる。最大の生産性を有する安定細胞株を単離し、迅速アッセイ法を用いてスクリーニングすることができる。
【0086】
ある手法では、ハイブリドーマを、好適な不死細胞株(例えば、限定されないが、Sp2/0、Sp2/0-AG14、NSO、NS1、NS2、AE-1、L.5、>243、P3X63Ag8.653、Sp2 SA3、Sp2 MAI、Sp2 SS1、Sp2 SA5、U937、MLA 144、ACT IV、MOLT4、DA-1、JURKAT、WEHI、K-562、COS、RAJI、NIH 3T3、HL-60、MLA 144、NAMAIWA、NEURO 2Aなどの骨髄腫細胞株)、又は同様のもの、又はヘテロ骨髄腫、その融合産物、又はそれらに由来する任意の細胞もしくは融合細胞、又は当技術分野で公知の任意の他の好適な細胞株(例えば、ATCC又はLifeTechのウェブサイトなどを参照)を、例えば、限定されないが、単離又はクローン化された脾臓細胞、末梢血細胞、リンパ細胞、扁桃腺細胞、又は他の免疫細胞もしくはB細胞含有細胞、或いは重鎖又は軽鎖の定常配列又は可変配列又はフレームワーク配列又はCDR配列を、内在性又は異種核酸としてか、組換え又は内在性の、ウイルス、細菌、藻類、原核生物、両生類、鳥類、昆虫、爬虫類、魚類、哺乳類、齧歯類、ウマ、ヒツジ(ovine)、ヤギ、ヒツジ(sheep)、霊長類、真核生物の、ゲノムDNA、cDNA、rDNA、ミトコンドリアDNAもしくはRNA、葉緑体DNA又はRNA、hnRNA、mRNA、tRNA、1本鎖、2本鎖、又は3本鎖、ハイブリダイズしたものなどとしてか、或いはこれらの任意の組合せとしてかのいずれかで発現する任意の他の細胞などの抗体産生細胞と融合することによって産生する。例えば、引用により完全に本明細書中に組み込まれる、Ausubelの文献(上記)及びColliganの文献、Immunology(上記)、第2章を参照されたい。融合細胞(ハイブリドーマ)又は組換え細胞を、選択的培養条件又は他の好適な公知の方法を用いて単離し、限界希釈もしくは細胞選別、又は他の公知の方法によってクローン化することができる。所望の特異性を有する抗体を産生する細胞は、好適なアッセイ(例えば、ELISA)によって選択することができる。
【0087】
好ましい具体的な実施態様において、該二重特異性結合分子は変異体Fc領域を含み、ここで、該変異体Fc領域は、該分子が、可溶形態もしくは細胞結合形態(例えば、NK細胞、単球、及び好中球などの免疫エフェクター細胞上のものを含む)のFc受容体(FcR)に結合しないか、又はそれに対する低下した結合を有するように、野生型Fc領域と比べて少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む。これらのFcRとしては、FcR1(CD64)、FcRII(CD32)、及びFcRIII(CD16)が挙げられるが、これらに限定されない。新生児Fc受容体のFcR(n)に対する親和性は影響を受けず、したがって、該二重特異性結合分子において維持される。例えば、免疫グロブリンがIgGである場合、該IgGは、Fcガンマ受容体に対する低下した親和性を有するか、又はFcガンマ受容体に対する親和性を有しないことが好ましい。ある実施態様において、該二重特異性結合分子がFcガンマ受容体に対する減少した親和性を有するか、又はFcガンマ受容体に対する親和性を有しないように、例えば、アミノ酸234〜239(ヒンジ領域)、アミノ酸265〜269(B/Cループ)、アミノ酸297〜299(C'/Eループ)、及びアミノ酸327〜332(F/G)ループなどの、Fcガンマ受容体と直接接するFc領域内の1以上の位置を突然変異させる。例えば、引用により完全に本明細書中に組み込まれる、Sondermannらの文献、2000, Nature, 406: 267-273を参照されたい。IgGについては、突然変異N297Aを行って、Fc受容体結合を破壊することが好ましい。ある実施態様において、該二重特異性結合分子又はその断片のFcガンマ受容体に対する親和性は、例えば、BiaCore(商標)アッセイによって、例えば、Okazakiらの文献、2004. J Mol Biol, 336(5):1239-49に記載されている通りに決定される。第6節も参照されたい。ある実施態様において、そのような変異体Fc領域を含む二重特異性結合分子は、FcRを有する免疫エフェクター細胞上のFc受容体に、参照Fc領域と比較して25%、20%、15%、10%、又は5%未満の結合で結合する。任意の特定の理論に束縛されるものではないが、そのような変異体Fc領域を含む二重特異性結合分子は、サイトカインストームを誘導する能力が減少している。好ましい実施態様において、そのような変異体Fc領域を含む二重特異性結合分子は、可溶形態又は細胞結合形態のFc受容体に結合しない。
【0088】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、エフェクター機能を改変し、又はFcRに対する抗体の親和性を増強もしくは縮小するために、例えば、1以上のアミノ酸に対する付加、欠失、及び/又は置換を有するFc領域などの変異体Fc領域を、本明細書に提供される抗体のFc領域中に含む。好ましい実施態様において、FcRに対する抗体の親和性を縮小する。例えば、その作用機序が、標的抗原を有する細胞の殺傷ではなく、その阻止又は拮抗を含む抗体の場合などの特定の場合には、エフェクター機能の低下又は消失が望ましい。ある実施態様において、本明細書に提供されるFc変異体を、限定されないが、エフェクター機能を改変する修飾を含む、他のFc修飾と組み合わせることができる。ある実施態様において、そのような修飾は、抗体又はFc融合体に、相加的な、相乗的な、又は新規の特性を提供する。本明細書に提供されるFc変異体が、それらが組み合わされる修飾の表現型を増強することが好ましい。
【0089】
好ましい実施態様において、本発明の二重特異性結合分子を非グリコシル化する。これは、そのFc受容体中の該二重特異性結合分子の抗HER2免疫グロブリン部分を、グリコシル化部位、好ましくは、N-結合型グリコシル化部位を破壊するように突然変異させることによって達成されることが好ましい。別の具体的な実施態様において、免疫グロブリンは、N-結合型グリコシル化部位を破壊するように突然変異させられる。ある好ましい実施態様において、該二重特異性結合分子は、N-結合型グリコシル化部位を破壊するように突然変異させられている。ある実施態様において、該二重特異性結合分子の重鎖は、N-結合型グリコシル化部位であるアスパラギンをグリコシル化部位として機能しないアミノ酸と置き換えるためのアミノ酸置換を有する。好ましい実施態様において、該方法は、位置297をアスパラギンからアラニン(N297A)に修飾することによって、二重特異性結合分子のFc領域のグリコシル化部位を欠失させることを包含する。例えば、ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、配列番号20の配列を有する重鎖を含む。本明細書で使用されるように、「グリコシル化部位」は、オリゴ糖(すなわち、結合した2以上の単糖を含む炭水化物)が特異的かつ共有結合的に結合する抗体中の任意の特定のアミノ酸配列を含む。オリゴ糖側鎖は、通常、N-結合又はO-結合のいずれかを介して抗体の骨格に結合している。N-結合型グリコシル化は、アスパラギン残基の側鎖へのオリゴ糖部分の付着を指す。O-結合型グリコシル化は、ヒドロキシアミノ酸、例えば、セリン、トレオニンへのオリゴ糖部分の付着を指す。抗体のグリコシル化含有量を修飾する方法は当技術分野で周知であり、例えば、米国特許第6,218,149号; EP 0 359 096 B1号;米国公報US 2002/0028486号; WO 03/035835号;米国公報第2003/0115614号;米国特許第6,218,149号;米国特許第6,472,511号を参照されたく;これらは全て、引用により完全に本明細書中に組み込まれる。別の実施態様において、本発明の二重特異性結合分子の非グリコシル化は、該二重特異性結合分子を、例えば、細菌などの、グリコシル化ができない細胞又は発現系で組換え産生することによって達成することができる。別の実施態様において、本発明の二重特異性結合分子の非グリコシル化は、グリコシル化部位の炭水化物部分を酵素的に除去することによって達成することができる。
【0090】
好ましい実施態様において、本発明の二重特異性結合分子は、補体成分C1qに結合しないか、又は補体成分C1qに対する結合親和性が(参照もしくは野生型免疫グロブリンと比べて)低下している。これは、該二重特異性結合分子の抗HER2免疫グロブリン部分を、C1q結合部位を破壊するように突然変異させることによって達成されることが好ましい。ある好ましい実施態様において、該方法は、位置322をリジンからアラニン(K322A)に修飾することによって、抗体のFc領域のC1q結合部位を欠失させることを包含する。例えば、ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、配列番号21の配列を有する重鎖を含む。ある実施態様において、該二重特異性結合分子又はその断片の補体成分C1qに対する親和性は、例えば、BiaCore(商標)アッセイによって、例えば、Okazakiらの文献、2004. J Mol Biol, 336(5):1239-49に記載されている通りに決定される。第6節も参照されたい。ある実施態様において、破壊されたC1q結合部位を含む抗HER2免疫グロブリンを含む二重特異性結合は、補体成分C1qに、参照又は野生型免疫グロブリンと比較して25%、20%、15%、10%、又は5%未満の結合で結合する。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は補体を活性化しない。
【0091】
好ましい実施態様において、本発明の二重特異性結合分子は免疫グロブリンを含み、ここで、該免疫グロブリンは、(i)該分子が、可溶形態のもしくは細胞結合形態としてのFc受容体に結合しないか、又はそれに対する低下した結合を有するように、野生型Fc領域と比べて少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み;(ii)N-結合型グリコシル化部位を破壊するためのFc領域中の1以上の突然変異を含み;かつ(iii)補体成分C1qに結合しないか、又はそれに対する低下した結合を有する。例えば、ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、(i)可溶形態の又は細胞結合形態としてのFc受容体に対する結合を消失又は低下させ;かつ(ii)Fc領域中のN-結合型グリコシル化部位を破壊するためのFc領域中の第1の突然変異N297A;及び(iii)補体成分C1qに対する結合を消失又低下させるためのFc領域中の第2の突然変異K322Aを含むIgGを含む。例えば、配列番号27を参照されたい。
【0092】
好ましい実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、トラスツズマブの可変領域(例えば、表2及び3を参照)、好ましくは、ヒトIgG1定常領域を含む。好ましい実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、重鎖の配列が配列番号27であり、軽鎖の配列が配列番号25である、トラスツズマブの可変領域を含む。好ましい実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、重鎖が可溶形態のもしくは細胞結合形態としてのFc受容体に結合しないか、又はそれに対する低下した結合を有する、トラスツズマブの変異体である。好ましい実施態様において、可溶形態の又は細胞結合形態としてのFc受容体に結合しない重鎖は、N-結合型グリコシル化部位を破壊するためのFc領域中の突然変異を含む。好ましい実施態様において、該重鎖は、N-結合型グリコシル化部位であるアスパラギンをグリコシル化部位として機能しないアミノ酸と置き換えるためのアミノ酸置換を有する。好ましい実施態様において、N-結合型グリコシル化部位を破壊するための突然変異は、Fc領域中のN297Aである(配列番号20)。好ましい実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、重鎖の配列がC1q結合部位を破壊するためのFc領域中の突然変異を含む、トラスツズマブの可変領域を含む。好ましい実施態様において、該免疫グロブリンは補体を活性化しない。好ましい実施態様において、C1q結合部位を破壊するための突然変異は、Fc領域中のK322Aである(配列番号21)。特に好ましい実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、免疫グロブリン重鎖がN-結合型グリコシル化部位を破壊するためのFc領域中の突然変異及びC1q結合部位を破壊するためのFc領域中の突然変異を含む、トラスツズマブの可変領域を含む(例えば、配列番号27を参照されたい)。特に好ましい実施態様において、HER2に結合する免疫グロブリンは、免疫グロブリンの重鎖の配列がFc領域中で突然変異させられ、かつ配列番号27であり、軽鎖の配列が配列番号25である、トラスツズマブの可変領域を含む。特に好ましい実施態様において、該軽鎖融合ポリペプチドの配列は配列番号29である。ある実施態様において、該重鎖は、トラスツズマブの定常領域を含む。ある実施態様において、該重鎖は、下の表2に記載の重鎖の定常領域(例えば、配列番号23、27、62、又は63のいずれか1つの定常領域)を含む。ある実施態様において、該重鎖の配列は、下の表2に記載の通り(例えば、配列番号23、27、62、又は63のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該軽鎖は、下の表3に記載の軽鎖の定常領域(例えば、配列番号25の定常領域)を含む。ある実施態様において、該軽鎖の配列は、下の表3に記載の通り(例えば、配列番号25)である。
【0093】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、下の表8に記載されているように、トラスツズマブ免疫グロブリン中の修飾のうちの1つ又は複数を含むトラスツズマブ由来配列を有し、かつhuOKT3 VH及びVL配列中の修飾のうちの1つ又は複数を含むhuOKT3由来配列を有する。他の免疫グロブリン又はscFv配列を有する二重特異性結合分子は、これらの他の免疫グロブリン又はscFv配列中の対応する位置に類似の突然変異を含むことができる。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、(a)トラスツズマブ及びhuOKT3に由来し;かつ(b)下の表8に記載されているような修飾のうちの1つ又は複数を含む。ある実施態様において、該免疫グロブリン軽鎖と該scFvをコンジュゲートするペプチドリンカーの配列は、下の表1に記載の通り(例えば、配列番号14又は35〜41のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該重鎖の配列は、下の表2に記載の通り(例えば、配列番号23、27、62、又は63のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該軽鎖の配列は、下の表3に記載の通り(例えば、配列番号25)である。ある実施態様において、該scFvのVHの配列は、下の表4に記載の通り(例えば、配列番号15、17、又は64のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該scFvのVLの配列は、下の表5に記載の通り(例えば、配列番号16又は65のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該scFvペプチドリンカーの配列は、下の表1に記載の通り(例えば、配列番号14又は35〜41のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該scFvの配列は、下の表6に記載の通り(例えば、配列番号19、48〜59、又は66のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該軽鎖融合ポリペプチドの配列は、下の表7に記載の通り(例えば、配列番号29、34、42〜47、又は60のいずれか1つ)である。
【0094】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、HER2に結合する免疫グロブリンであるグリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一であり、各重鎖の配列が配列番号62であり、各軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号60である、グリコシル化モノクローナル抗体を含む。
【0095】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、HER2に結合する免疫グロブリンであるグリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一であり、各重鎖の配列が配列番号27であり、各軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号47である、グリコシル化モノクローナル抗体を含む。
【0096】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、HER2に結合する免疫グロブリンであるグリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一であり、各重鎖の配列が配列番号27であり、各軽鎖融合ポリペプチドの配列が配列番号29である、グリコシル化モノクローナル抗体を含む。
【0097】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、低い免疫原性を有する。低いもしくは許容可能な免疫原性及び/又は高い親和性、並びに他の好適な特性は、達成される治療結果に寄与することができる。「低い免疫原性」は、治療を受けた患者の約75%未満、もしくは好ましくは、約50%未満において、顕著なHAHA、HACA、又はHAMA応答を惹起すること及び/又は治療を受けた患者で低力価を惹起することと本明細書で定義される(引用により完全に本明細書中に組み込まれる、Elliottらの文献、Lancet 344:1125-1127(1994))。
【0098】
本明細書に提供される二重特異性結合分子は、広範な親和性でHER2及びCD3に結合することができる。抗原に対する抗体の親和性又は結合力は、任意の好適な方法を用いて実験的に決定することができる。例えば、Berzofskyらの文献、「抗体-抗原相互作用(Antibody-Antigen Interactions)」、基礎免疫学、Paul, W. E.編、Raven Press: New York, N.Y.(1984); Kuby, Janisの文献、免疫学(Immunology)、W.H. Freeman and Company: New York, N.Y.(1992);及び本明細書に記載の方法を参照されたい。特定の抗体-抗原相互作用の測定される親和性は、異なる条件(例えば、塩濃度、pH)の下で測定した場合、異なり得る。したがって、親和性及び他の抗原結合パラメータの測定は、抗体及び抗原の標準溶液、並びに標準緩衝液、例えば、本明細書に記載の緩衝液を用いて行われることが好ましい。親和性KDは、kon/koffの比である。通常、マイクロモル濃度の範囲のKDは、低親和性と考えられる。通常、ピコモル濃度の範囲のKDは、高親和性と考えられる。別の具体的な実施態様において、該二重特異性結合分子は、HER2に対する高い親和性及びCD3に対する低い親和性を有する。別の具体的な実施態様において、該二重特異性結合分子は、HER2に対する高い親和性及びCD3に対する平均的な親和性を有する。具体的な実施態様において、該二重特異性結合分子は、CD3に対する70nM〜1μMのKDを有する。具体的な実施態様において、該二重特異性結合分子は、CD3に対する70nM〜500nMのKDを有する。具体的な実施態様において、該二重特異性結合分子は、CD3に対する500nM〜1μMのKDを有する。
【0099】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、例えば、ELISA、BiaCore(商標)、及びフローサイトメトリーなどの当業者に公知のアッセイによって決定したとき、1以上のHER2陽性癌細胞株に結合する。ある実施態様において、該癌細胞株は、例えば、MDA-MB-361、MDA-MB-468、AU565、SKBR3、HTB27、HTB26、HCC1954、及び/又はMCF7などの乳癌細胞株である。ある実施態様において、該癌細胞株は、例えば、OVCAR3及び/又はSKOV3などの卵巣癌細胞株である。ある実施態様において、該癌細胞株は、例えば、HT144、SKMEL28、M14、及び/又はHTB63などの黒色腫細胞株である。ある実施態様において、該癌細胞株は、例えば、RG160、RG164、CRL1427、及び/又はU2OSなどの骨肉腫細胞株である。ある実施態様において、該癌細胞株は、例えば、SKEAW及び/又はSKES-1などのユーイング肉腫細胞株である。ある実施態様において、該癌細胞株は、例えば、HTB82などの横紋筋肉腫細胞株である。ある実施態様において、該癌細胞株は、例えば、NMB7、SKNBE(2)C、IMR32、SKNBE(2)S、SKNBE(1)N、及び/又はNB5などの神経芽腫細胞株である。ある実施態様において、該癌細胞株は、例えば、15B、93-VU-147T、PCI-30、UD-SCC2、PCI-15B、SCC90、及び/又はUMSCC47などの頭頸部の扁平上皮細胞癌(SCCHN)細胞株である。ある実施態様において、該癌細胞株は、例えば、HeLaなどの子宮頸癌細胞株である。ある実施態様において、該癌細胞株は、例えば、NCI-H524、NCI-H69、及び/又はNCI-H345などの小細胞肺癌細胞株である。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、ピコモル濃度の範囲のEC50でHER2陽性癌細胞株に結合する。例えば、第6.1.3.4節及び第6.1.3.6節を参照されたい。
【0100】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、例えば、ELISA、BiaCore(商標)、及びフローサイトメトリーなどの当業者に公知のアッセイによって決定したとき、CD3+ T細胞に結合する。ある好ましい実施態様において、該二重特異性結合分子は、huOKT3がCD3+ T細胞に結合するよりも15倍を超えて低い結合でCD3+ T細胞に結合する。例えば、第6.1.3.1節を参照されたい。ある実施態様において、CD3+ T細胞はヒトT細胞である。
【0101】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、例えば、細胞傷害性アッセイなどの当業者に公知のアッセイによって決定したとき、HER2陽性細胞に対するT細胞の細胞傷害性を媒介する。好ましい実施態様において、該二重特異性結合分子は、HER2陽性細胞株に対するT細胞の細胞傷害性を、ピコモル濃度の範囲のEC50で媒介する。ある実施態様において、該HER2陽性癌細胞は、例えば、MDA-MB-361、MDA-MB-468、AU565、SKBR3、HTB27、HTB26、HCC1954、及び/又はMCF7などの乳癌細胞株である。ある実施態様において、該HER2陽性細胞は、例えば、OVCAR3及び/又はSKOV3などの卵巣癌細胞株である。ある実施態様において、該HER2陽性細胞は、例えば、HT144、SKMEL28、M14、及び/又はHTB63などの黒色腫細胞株である。ある実施態様において、該HER2陽性細胞は、例えば、RG160、RG164、CRL1427、及び/又はU2OSなどの骨肉腫細胞株である。ある実施態様において、該HER2陽性細胞は、例えば、SKEAW及び/又はSKES-1などのユーイング肉腫細胞株である。ある実施態様において、該HER2陽性細胞は、例えば、HTB82などの横紋筋肉腫細胞株である。ある実施態様において、該HER2陽性細胞は、例えば、NMB7、SKNBE(2)C、IMR32、SKNBE(2)S、SKNBE(1)N、及び/又はNB5などの神経芽腫細胞株である。ある実施態様において、該HER2陽性細胞は、例えば、15B、93-VU-147T、PCI-30、UD-SCC2、PCI-15B、SCC90、及び/又はUMSCC47などの頭頸部の扁平上皮細胞癌(SCCHN)細胞株である。ある実施態様において、該HER2陽性細胞は、例えば、HeLaなどの子宮頸癌細胞株である。ある実施態様において、該HER2陽性細胞は、例えば、NCI-H524、NCI-H69、及び/又はNCI-H345などの小細胞肺癌細胞株である。例えば、第6.1.3.4節及び第6.1.3.6節を参照されたい。
【0102】
ある実施態様において、HER2陽性細胞とhuOKT3とのプレインキュベーションは、T細胞の細胞傷害性を誘導する該二重特異性結合分子の能力を阻止する。ある実施態様において、HER2陽性細胞とトラスツズマブとのプレインキュベーションは、T細胞の細胞傷害性を誘導する該二重特異性結合分子の能力を阻止する。例えば、第6.1.3.3節を参照されたい。
【0103】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、HER2陽性細胞に対するT細胞の細胞傷害性を媒介し、ここで、該細胞におけるHER2発現のレベルは、該二重特異性結合分子を用いて行われるフローサイトメトリーによる検出の閾値未満である。例えば、第6.1.3.4節を参照されたい。
【0104】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、例えば、トラスツズマブ、セツキシマブ、ラパチニブ、エルロチニブ、ネラチニブ、又はHERファミリーの受容体を標的とする任意の他の小分子もしくは抗体などの、他のHER標的療法に抵抗性のHER2陽性細胞に対するT細胞の細胞傷害性を媒介する。具体的な実施態様において、例えば、トラスツズマブ、セツキシマブ、ラパチニブ、エルロチニブ、ネラチニブ、又はHERファミリーの受容体を標的とする任意の他の小分子もしくは抗体などの、HER標的療法に抵抗性である腫瘍は、本発明の二重特異性結合分子による治療に応答性である。例えば、第6.1.3.7節、第6.1.3.8節、第6.1.3.9節、及び第6.1.3.10節を参照されたい。
【0105】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、HER2陽性腫瘍の進行、転移、及び/又は腫瘍サイズを低下させる。例えば、第6.1.3.11節を参照されたい。
【0106】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、T細胞に結合させられる。ある実施態様において、該二重特異性結合分子のT細胞への結合は非共有結合的である。ある実施態様において、T細胞を対象に投与する。ある実施態様において、T細胞は、該T細胞を投与することになっている対象にとって自己のものである。ある実施態様において、T細胞は、該T細胞を投与することになっている対象にとって同種異系のものである。ある実施態様において、T細胞はヒトT細胞である。
【0107】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、T細胞に結合させられない。
【0108】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、第5.2節に記載の有機部分、検出可能なマーカー、及び/又は同位体にコンジュゲートされる。
【0109】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子又はその断片は、第5.3節に記載の通りに産生される。ある実施態様において、該二重特異性結合分子又はその断片は、第5.3.1節に記載のポリヌクレオチドによってコードされる。ある実施態様において、該二重特異性結合分子又はその断片は、第5.3.2節に記載のベクター(例えば、発現ベクター)によってコードされる。ある実施態様において、該二重特異性結合分子又はその断片は、第5.3.2節に記載の細胞から産生される。
【0110】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、組成物(例えば、医薬組成物)の成分及び/又は第5.5節に記載のキットの一部としてのものである。
【0111】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、第5.6節に提供される方法に従って使用される。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、第5.6.2節に提供される方法に従って、診断ツールとして使用される。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、第5.6.1節に提供される方法に従って、治療剤として使用される。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、第5.6節に提供される方法による使用のために、対象、例えば、第5.7節に記載の対象に投与される。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、第5.6節に提供される方法による使用のために、第5.9節に記載の組合せ療法の一部として、対象に投与される。
【0112】
表1.リンカー配列
【表1】
【0113】
表2.重鎖配列。非イタリック体の下線のない配列はVHドメインを表す。イタリック体の配列は定常領域を表す。下線のあるイタリック体の太字の配列は、「説明」の欄に記載されている突然変異を表す。
【表2】
【0114】
表3.軽鎖配列。非イタリック体の配列はVLドメインを表す。イタリック体の配列は定常領域を表す。
【表3】
【0115】
表4. scFv VH配列。下線のあるイタリック体の太字の配列は、「説明」の欄に記載されている突然変異を表す。
【表4】
【0116】
表5. scFv VL配列。下線のあるイタリック体の太字の配列は、「説明」の欄に記載されている突然変異を表す。
【表5】
【0117】
表6. scFv配列。大文字の非イタリック体の非太字の下線のない配列はVHドメインを表す。大文字のイタリック体の配列はVLドメインを表す。大文字の下線のあるイタリック体の太字の配列は、「説明」の欄に記載されている突然変異を表す。小文字の太字の配列はscFv内リンカーを表す。
【表6】
【0118】
表7.軽鎖融合ポリペプチド配列。大文字の非イタリック体の非太字の下線のない配列は、トラスツズマブ軽鎖のVLドメインを表す。大文字のイタリック体の配列は、トラスツズマブ軽鎖の定常領域を表す。小文字の非イタリック体の非太字の下線のない配列は、軽鎖をscFvにコンジュゲートするリンカーを表す。大文字の下線のある配列は、scFvのVHドメインを表す。大文字の太字の配列は、scFvのVLドメインを表す。大文字の下線のあるイタリック体の太字の配列は、「説明」の欄に記載されている突然変異を表す。小文字の太字の配列はscFv内リンカーを表す。
【表7】
【0119】
表8.二重特異性結合分子に対する修飾
【表8】
【0120】
(5.2 二重特異性結合分子コンジュゲート)
好ましい実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子は、有機部分、検出可能な標識、又は同位体などの任意の他の分子にコンジュゲートされない。代わりの実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子は、1以上の有機部分にコンジュゲートされる。代わりの実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子は、1以上の検出可能な標識にコンジュゲートされる。代わりの実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子は、1以上の同位体にコンジュゲートされる。
【0121】
(5.2.1 検出可能な標識及び同位体)
ある実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子は、例えば、イメージング目的で、1以上の検出可能な標識又は同位体にコンジュゲートされる。ある実施態様において、二重特異性結合分子は、発色標識、酵素標識、放射性同位体標識、同位体標識、蛍光標識、毒性標識、化学発光標識、核磁気共鳴造影剤標識、又は他の標識の共有結合的又は非共有結合的付着によって検出可能に標識される。
【0122】
好適な発色標識の非限定的な例としては、ジアミノベンジジン及び4-ヒドロキシアゾ-ベンゼン-2-カルボン酸が挙げられる。
【0123】
好適な酵素標識の非限定的な例としては、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、δ-5-ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、α-グリセロールリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、及びアセチルコリンエステラーゼが挙げられる。
【0124】
好適な放射性同位体標識の非限定的な例としては、3H、111In、125I、131I、32P、35S、14C、51Cr、57To、58Co、59Fe、75Se、152Eu、90Y、67Cu、217Ci、211At、212Pb、47Sc、223Ra、223Ra、89Zr、177Lu、及び109Pdが挙げられる。ある実施態様において、111Inは、それが肝臓での125I又は131I-標識二重特異性結合分子の脱ハロゲン化の問題を回避するので、インビボイメージングのための好ましい同位体である。さらに、111Inは、イメージングのためのより好都合なガンマ放出エネルギーを有する(Perkinsらの文献、Eur. J. Nucl. Med. 70:296-301(1985); Carasquilloらの文献、J. Nucl. Med. 25:281-287(1987))。例えば、1-(P-イソチオシアナトベンジル)-DPTAとともにモノクローナル抗体にカップリングされた111Inは、非腫瘍性組織、特に、肝臓での取込みをほとんど示さず、それゆえ、腫瘍局在化の特異性を増強する(Estebanらの文献、J. Nucl. Med. 28:861-870(1987))。
【0125】
好適な非放射性同位体標識の非限定的な例としては、157Gd、55Mn、162Dy、52Tr、及び56Feが挙げられる。
【0126】
好適な蛍光標識の非限定的な例としては、152Eu標識、フルオレセイン標識、イソチオシアネート標識、ローダミン標識、フィコエリスリン標識、フィコシアニン標識、アロフィコシアニン標識、緑色蛍光タンパク質(GFP)標識、o-フタルアルデヒド標識、及びフルオレスカミン標識が挙げられる。
【0127】
化学発光標識の非限定的な例としては、ルミノール標識、イソルミノール標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジニウム塩標識、シュウ酸エステル標識、ルシフェリン標識、ルシフェラーゼ標識、及びイクオリン標識が挙げられる。
【0128】
核磁気共鳴造影剤の非限定的な例としては、Gd、Mn、及び鉄などの重金属核が挙げられる。
【0129】
上記の標識を本明細書に提供される二重特異性結合分子に結合させるための当業者に公知の技法は、例えば、Kennedyらの文献、Clin. CMm. Acta 70:1-31(1976)、及びSchursらの文献、Clin. CMm. Acta 81:1-40(1977)に記載されている。後者において言及されているカップリング法は、その全てが引用により完全に本明細書中に組み込まれる、グルタルアルデヒド法、過ヨウ素酸塩法、ジマレイミド法、m-マレイミドベンジル-N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステル法である。
【0130】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、診断剤にコンジュゲートされる。診断剤は、抗原を含有する細胞を特定することによって疾患を診断又は検出する際に有用な薬剤である。有用な診断剤としては、放射性同位体、色素(例えば、ビオチン-ストレプトアビジン複合体を有するもの)、造影剤、蛍光化合物又は蛍光分子、及び磁気共鳴イメージング(MRI)用の増強剤(例えば、常磁性イオン)が挙げられるが、これらに限定されない。米国特許第6,331,175号は、MRI法及びMRI増強剤にコンジュゲートされた抗体の調製を記載しており、引用により完全に組み込まれる。診断剤は、放射性同位体、磁気共鳴イメージングで使用するための増強剤、及び蛍光化合物からなる群から選択されることが好ましい。抗体成分に放射性金属又は常磁性イオンを担持させるために、それを、イオンに結合させるための多数のキレート基が付着している長い尾部を有する試薬と反応させる必要がある場合がある。そのような尾部は、ポリリジン、多糖、又は例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ポルフィリン、ポリアミン、クラウンエーテル、ビス-チオセミカルバゾン、ポリオキシム、及びこの目的のために有用であることが知られている同様の基などのキレート基に結合することができるペンダント基を有する、他の誘導体化されたもしくは誘導体化可能な鎖などの、ポリマーであることができる。キレートは、標準的な化学反応を用いて抗体にカップリングされる。キレートは、通常、免疫反応性の最小限の損失並びに最小限の凝集及び/又は内部架橋を伴って、分子への結合の形成を可能にする基によって抗体に連結され、キレートを抗体にコンジュゲートするための他のより珍しい方法及び試薬は、その開示が引用により完全に本明細書中に組み込まれる、1989年4月25日に発行された「抗体コンジュゲート(Antibody Conjugates)」という表題のHawthorneの米国特許第4,824,659号に開示されている。特に有用な金属-キレート組合せとしては、放射性イメージング用の診断的同位体とともに使用される、2-ベンジル-DTPA並びにそのモノメチル及びシクロヘキシル類似体が挙げられる。同じキレートは、マンガン、鉄、及びガドリニウムなどの非放射性金属とともに錯体を形成させると、本明細書に提供される二重特異性結合分子とともに使用される場合、MRIに有用である。NOTA、DOTA、及びTETAなどの大環状キレートは、種々の金属及び放射性金属と合わせて、最も具体的には、それぞれ、ガリウム、イットリウム、及び銅の放射性核種と合わせて有用である。そのような金属-キレート錯体は、環のサイズを対象となる金属に合わせて調整することにより非常に安定にすることができる。RAIT用の223Raなどの、安定に結合する核種のために対象となる、大環状ポリエーテルなどの他の環型キレートは、本明細書に包含される。
【0131】
(5.2.2 有機コンジュゲート)
ある実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子は、該二重特異性結合分子に直接的又は間接的に共有結合している1以上の有機部分を含む。そのような修飾は、薬物動態特性が改善された(例えば、インビボ血清半減期が増大した)抗体又は抗原結合断片を生じさせることできる。該有機部分は、親水性ポリマー基、脂肪酸基、又は脂肪酸エステル基であることができる。本明細書で使用されるように、「脂肪酸」という用語は、モノ-カルボン酸及びジ-カルボン酸を包含する。本明細書で使用されるように、「親水性ポリマー基」は、オクタンによりも水に溶ける有機ポリマー、例えば、ポリリジンを指す。本明細書に提供される二重特異性結合分子を修飾するのに好適な親水性ポリマーは、線状又は分岐状であることができ、これには、例えば、ポリアルカングリコール(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、モノメトキシ-ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコール)、炭水化物(例えば、デキストラン、セルロース、オリゴ糖、及び多糖)、親水性アミノ酸のポリマー(例えば、ポリリジン、ポリアルギニン、及びポリアスパラギン酸)、ポリアルカンオキシド(例えば、ポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシド)、並びにポリビニルピロリドンが含まれる。ある実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子を修飾する親水性ポリマーは、個別の分子実体として、約800〜約150,000ダルトンの分子量を有する。例えば、PEG5000及びPEG20,000(ここで、下付き文字は、ダルトンで示したポリマーの平均分子量である)を使用することができる。該親水性ポリマー基は、1〜約6個のアルキル、脂肪酸、又は脂肪酸エステル基で置換することができる。脂肪酸又は脂肪酸エステル基で置換される親水性ポリマーは、好適な方法を利用することによって調製することができる。例えば、アミン基を含むポリマーは、脂肪酸又は脂肪酸エステルのカルボキシレートにカップリングさせることができ、脂肪酸又は脂肪酸エステル上の活性化カルボキシレート(例えば、N,N-カルボニルジイミダゾールで活性化されたもの)は、ポリマー上のヒドロキシル基にカップリングさせることができる。
【0132】
本明細書に提供される二重特異性結合分子を修飾するのに好適な脂肪酸及び脂肪酸エステルは飽和状態であることができるか、又は1以上の不飽和単位を含むことができる。本明細書に提供される二重特異性結合分子を修飾するのに好適である脂肪酸としては、例えば、n-ドデカン酸、n-テトラデカン酸、n-オクタデカン酸、n-エイコサン酸、n-ドコサン酸、n-トリアコンタン酸、n-テトラコンタン酸、シス-デルタ-9-オクタデカン酸、全シス-デルタ-5,8,11,14-エイコサテトラエン酸、オクタン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、ドコサン二酸などが挙げられる。好適な脂肪酸エステルとしては、線状又は分岐状の低級アルキル基を含むジカルボン酸のモノ-エステルが挙げられる。該低級アルキル基は、1〜約12個の、好ましくは、1〜約6個の炭素原子を含むことができる。
【0133】
本明細書に提供される二重特異性結合分子コンジュゲートは、好適な方法を用いて、例えば、1以上の修飾剤との反応によって調製することができる。本明細書で使用されるように、「活性化基」は、適当な条件下で、第2の化学基と反応し、それにより、修飾剤と第2の化学基の間で共有結合を形成することができる、化学的部分又は官能基である。例えば、アミン反応性の活性化基としては、例えば、トシレート、メシレート、ハロ(クロロ、ブロモ、フルオロ、ヨード)、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS)などのような求電子基が挙げられる。チオールと反応することができる活性化基としては、例えば、マレイミド、ヨードアセチル、アクリロリル(acrylolyl)、ピリジルジスルフィド、5-チオール-2-ニトロ安息香酸チオール(TNB-チオール)などが挙げられる。アルデヒド官能基は、アミン又はヒドラジド含有分子にカップリングさせることができ、アジド基は、三価リン基と反応して、ホスホロアミデート又はホスホルイミド結合を形成することができる。分子に活性化基を導入する好適な方法は、当技術分野で公知である(例えば、Hernanson, G. T.の文献、バイオコンジュゲート法(Bioconjugate Techniques)、Academic Press: San Diego, Calif.(1996)を参照されたい)。活性化基は、有機基(例えば、親水性ポリマー、脂肪酸、脂肪酸エステル)に直接的に、又はリンカー部分、例えば、二価C1-C12基(ここで、1以上の炭素原子は、酸素、窒素、もしくは硫黄などのヘテロ原子に置換することができる)を介して結合させることができる。好適なリンカー部分としては、例えば、テトラエチレングリコール、(CH2)3、及びNHが挙げられる。リンカー部分を含む修飾剤は、例えば、モノ-Boc-アルキルジアミン(例えば、モノ-Boc-エチレンジアミン又はモノ-Boc-ジアミノヘキサン)を1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)の存在下で脂肪酸と反応させて、遊離アミンと脂肪酸カルボキシレートの間でアミド結合を形成させることにより生成させることができる。Boc保護基を、トリフルオロ酢酸(TFA)による処理によって生成物から除去して、記載されているような別のカルボキシレートにカップリングさせることができる1級アミンを露出させることができるか、又は無水マレイン酸と反応させ、得られる生成物を環化して、脂肪酸の活性化マレイミド誘導体を生成させることができる(例えば、その教示の全体が引用により本明細書中に組み込まれる、ThompsonらのWO 92/16221号を参照されたい)。
【0134】
本明細書で使用されるように、「修飾剤」は、活性化基を含む好適な有機基(例えば、親水性ポリマー、脂肪酸、及び脂肪酸エステル)を指す。例えば、有機部分は、アミン反応性の修飾剤、例えば、PEGのN-ヒドロキシスクシンイミドエステルを利用することにより、部位非特異的な形で二重特異性結合分子に結合させることができる。修飾された二重特異性結合分子は、二重特異性結合分子のジスルフィド結合(例えば、鎖内ジスルフィド結合)を還元することによって調製することもできる。その後、還元された二重特異性結合分子をチオール反応性の修飾剤と反応させて、本明細書に提供される修飾された二重特異性結合分子を生成させることができる。本明細書に提供される二重特異性結合分子の特定の部位に結合させられている有機部分を含む修飾された二重特異性結合分子は、好適な方法、例えば、逆タンパク質分解(reverse proteolysis)(Fischらの文献、Bioconjugate Chem., 3:147-153(1992); Werlenらの文献、Bioconjugate Chem., 5:411-417(1994); Kumaranらの文献、Protein Sci. 6(10):2233-2241(1997); Itohらの文献、Bioorg. Chem., 24(1): 59-68(1996); Capellasらの文献、Biotechnol. Bioeng., 56(4):456-463(1997))、及びHermanson, G. T.の文献、バイオコンジュゲート法(Bioconjugate Techniques)、Academic Press: San Diego, Calif.(1996)に記載の方法を用いて調製することができる。
【0135】
(5.3 二重特異性結合分子の産生)
本明細書に提供されるのは、第5.1節及び第5.2節に記載の二重特異性結合分子を産生する方法である。ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、HER2に結合する免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の融合ポリペプチドが同一である、非グリコシル化モノクローナル抗体を含む二重特異性結合分子を産生する方法である。
【0136】
本明細書に記載の二重特異性結合分子を産生する方法は、当業者に公知であり、例えば、化学合成によるもの、生物源からの精製によるもの、又は例えば、哺乳動物細胞もしくはトランスジェニック調製物からのものを含む、組換え発現法によるものがある。本明細書に記載の方法は、別途示されない限り、分子生物学、微生物学、遺伝子解析、組換えDNA、有機化学、生化学、PCR、オリゴヌクレオチド合成及び修飾、核酸ハイブリダイゼーション、並びに当業者の範囲内の関連分野における従来の技法を利用する。これらの技法は、例えば、本明細書に引用される参考文献に記載されており、文献中で十分に説明されている。例えば、Maniatisらの文献(1982)、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)、Cold Spring Harbor Laboratory Press; Sambrookらの文献(1989)、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press; Sambrookらの文献(2001)、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY; Ausubelらの文献、分子生物学の最新プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)、John Wiley & Sons(1987年版及び年次改訂版);免疫学の最新プロトコル(Current Protocols in Immunology)、John Wiley & Sons(1987年版及び年次改訂版)、Gait(編)(1984)、オリゴヌクレオチド合成:実践的アプローチ(Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach)、IRL Press; Eckstein(編)(1991)、オリゴヌクレオチド及び類似体:実践的アプローチ(Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach)、IRL Press; Birrenら(編)(1999)、ゲノム解析:実験マニュアル(Genome Analysis: A Laboratory Manual)、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。
【0137】
二重特異性結合分子の産生のための種々の方法が当技術分野で存在する。例えば、二重特異性結合分子は、組換えDNA法、例えば、米国特許第4,816,567号に記載の組換えDNA法によって作製することができる。本明細書に提供される二重特異性結合分子をコードする1以上のDNAは、従来の手順を用いて(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖、又はヒト、ヒト化、もしくは他の源由来のそのような鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)、容易に単離し、シークエンシングすることができる。ひとたび単離すれば、該DNAを発現ベクター中に入れることができ、その後、これを、形質転換されなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しない、NS0細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、酵母細胞、藻類細胞、卵、又は骨髄腫細胞などの宿主細胞に入れて形質転換し、組換え宿主細胞内での二重特異性結合分子の合成を得る。該DNAは、例えば、所望の種のヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード配列を相同なヒト配列の代わりに使用することによるか(米国特許第4,816,567号; Morrisonらの文献、上記)、又は免疫グロブリンコード配列を非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全てもしくは一部と共有結合させることによって修飾することもできる。そのような非免疫グロブリンポリペプチドは、本明細書に提供される二重特異性結合分子の定常ドメインの代わりに使用することができる。ある実施態様において、該DNAは、第5.3.1節に記載の通りである。
【0138】
本明細書に提供される二重特異性結合分子は、二重特異性結合分子をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを用いて、そのような抗体をその乳中に産生する、トランスジェニック動物又は哺乳動物、例えば、ヤギ、ウシ、ウマ、ヒツジなどを提供することによって調製することもできる。そのような動物は、公知の方法を用いて提供することができる。例えば、限定されないが、その各々が引用により完全に本明細書中に組み込まれる、米国特許第5,827,690号;第5,849,992号;第4,873,316号;第5,849,992号;第5,994,616号、第5,565,362号;第5,304,489号などを参照されたい。
【0139】
ある実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子はさらに、本明細書に提供される二重特異性結合分子をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを用いて、そのような抗体、特定の部分、又は変異体を、植物部分で又はそれから培養した細胞で産生する、トランスジェニック植物及び培養植物細胞(例えば、限定されないが、タバコ及びトウモロコシ)を提供することによって調製することができる。非限定的な例として、組換えタンパク質を発現するトランスジェニックタバコの葉が、例えば、誘導性プロモーターを用いて大量の組換えタンパク質を提供するためにうまく使用されている。例えば、Cramerらの文献、Curr. Top. Microbol. Immunol. 240:95-118(1999)及びその中に引用されている参考文献を参照されたい。また、トランスジェニックトウモロコシも、他の組換え系で産生されたもの又は天然源から精製されたものと同等の生物活性を有する哺乳動物タンパク質を商業的生産レベルで発現させるために使用されている。例えば、Hoodらの文献、Adv. Exp. Med. Biol. 464:127-147(1999)及びその中に引用されている参考文献を参照されたい。抗体は、タバコの種及びジャガイモの塊茎を含め、scFvなどの抗体断片を含むトランスジェニック植物の種からも大量に産生されている。例えば、Conradらの文献、Plant Mol. Biol. 38:101-109(1998)及びその中に引用されている参考文献を参照されたい。このように、二重特異性結合分子は、公知の方法に従って、トランスジェニック植物を用いて調製することもできる。例えば、Fischerらの文献、Biotechnol. Appl. Biochem. 30:99-108(1999年10月)、Maらの文献、Trends Biotechnol. 13:522-7(1995); Maらの文献、Plant Physiol. 109:341-6(1995); Whitelamらの文献、Biochem Soc. Trans. 22:940-944(1994);及びこれらの中に引用されている参考文献も参照されたい。上記の参考文献の各々は、引用により完全に本明細書中に組み込まれる。
【0140】
ある実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子は、本明細書に提供される二重特異性結合分子をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを用いて、そのような二重特異性結合分子を産生する細菌を提供することによって調製することができる。非限定的な例として、組換えタンパク質を発現する大腸菌(E. coli)が、大量の組換えタンパク質を提供するためにうまく使用されている。例えば、Vermaらの文献、1998, 216(1-2): 165-181及びその中に引用されている参考文献を参照されたい。
【0141】
本明細書に記載の二重特異性結合分子の設計及び産生の詳細な例については、第6.1.2.1節も参照されたい。
【0142】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、限定されないが、プロテインA精製、プロテインG精製、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、及びレクチンクロマトグラフィーを含む、周知の方法によって、組換え細胞培養物から回収及び精製することができる。高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)を精製に利用することもできる。例えば、各々引用により完全に本明細書中に組み込まれる、Colliganの文献、免疫学の最新プロトコル(Current Protocols in Immunology)、又はタンパク質科学の最新プロトコル(Current Protocols in Protein Science)、John Wiley & Sons, NY, N.Y.,(1997-2001)、例えば、第1章、第4章、第6章、第8章、第9章、及び第10章を参照されたい。
【0143】
ある実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子には、天然精製産物、化学合成法の産物、並びに組換え法によって、例えば、酵母、高等植物、昆虫、及び哺乳動物細胞を含む、真核生物宿主から産生される産物が含まれる。好ましい実施態様において、該二重特異性結合分子は、該二重特異性結合分子が非グリコシル化されるように宿主内で産生される。別の好ましい実施態様において、二重特異性結合分子は、該二重特異性結合分子が非グリコシル化されるように細菌細胞内で産生される。そのような方法は、多くの標準的な実験マニュアル、例えば、全て引用により完全に本明細書中に組み込まれる、Sambrookの文献、上記、第17.37節〜第17.42節; Ausubelの文献、上記、第10章、第12章、第13章、第16章、第18章、及び第20章、Colliganの文献、タンパク質科学(Protein Science)、上記、第12章〜第14章に記載されている。
【0144】
精製抗体は、例えば、ELISA、ELISPOT、フローサイトメトリー、免疫細胞学、Biacore(商標)解析、Sapidyne KinExA(商標)速度論的排除アッセイ、SDS-PAGE、及びウェスタンブロットによるか、又はHPLC解析によって、並びに本明細書に開示されるいくつかの他の機能アッセイによって特徴付けることができる。
【0145】
(5.3.1 ポリヌクレオチド)
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、第5.1節及び第5.2節に記載のHER2及びCD3に免疫特異的に結合する本明細書に記載の二重特異性結合分子又はその断片(例えば、重鎖及び/又は軽鎖融合ポリペプチド)をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである。また本明細書に提供されるのは、そのようなポリヌクレオチドを含むベクターである。第5.3.2節を参照されたい。また本明細書に提供されるのは、本明細書に提供される二重特異性結合分子の抗原をコードするポリヌクレオチドである。また本明細書に提供されるのは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件又はより低いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件下で、本明細書に提供される二重特異性結合分子又はその断片をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドである。
【0146】
「精製された」という言葉は、約15%、10%、5%、2%、1%、0.5%、又は0.1%未満(特に、約10%未満)の他の材料、例えば、細胞材料、培養培地、他の核酸分子、化学的前駆物質、及び/又は他の化学物質を有するポリヌクレオチド又は核酸分子の調製物を含む。具体的な実施態様において、本明細書に記載の二重特異性結合分子をコードする核酸分子(複数可)は、単離又は精製されている。
【0147】
本明細書に提供される核酸分子は、RNA、例えば、mRNA、hnRNA、tRNA、もしくは任意の他の形態、又は限定されないが、クローニングによって得られるかもしくは合成で産生されるcDNA及びゲノムDNAを含むDNAの形態、又はこれらの任意の組合せであることができる。DNAは、3本鎖、2本鎖、もしくは1本鎖、又はこれらの任意の組合せであることができる。DNAもしくはRNAの少なくとも1つの鎖の任意の部分は、センス鎖としても知られるコード鎖であることができ、又はそれは、アンチセンス鎖とも呼ばれる非コード鎖であることができる。
【0148】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、第5.1節及び第5.2節に記載の二重特異性結合分子又はその断片をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドであり、ここで、該二重特異性結合分子は、HER2に結合する免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1のscFvに融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)CD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一である、非グリコシル化モノクローナル抗体を含む。
【0149】
本明細書に記載の二重特異性結合分子の作製の詳細な例については、本明細書に記載の二重特異性結合分子の設計及び産生の詳細な例に関する第6.1.2.1節を参照されたい。
【0150】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、ペプチドリンカーを介してscFvに融合した軽鎖(ここで、該軽鎖はHER2に結合し、該scFvはCD3に結合する)を含む軽鎖融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである。ある実施態様において、該軽鎖は、例えば、トラスツズマブ、M-111、ペルツズマブ、エルツマキソマブ、MDXH210、2B1、及びMM-302などの、当技術分野で公知のHER2特異的抗体の軽鎖である。ある実施態様において、該scFvは、例えば、huOKT3、YTH12.5、HUM291、テプリズマブ、huCLB-T3/4、オテリキシズマブ、ブリナツモマブ、MT110、カツマキソマブ、28F11、27H5、23F10、15C3、ビシリズマブ、及びHum291などの、当技術分野で公知の抗CD3抗体のVH及びVLを含む。好ましい実施態様において、該抗CD3抗体はhuOKT3である。特に好ましい実施態様において、該scFvは、システインがセリンと置換されている付番位置105のアミノ酸置換をさらに含むhuOKT3のVHを含む。例えば、Kipriyanovらの文献、1997、Protein Eng. 445-453を参照されたい。ある実施態様において、該scFvはhuOKT3モノクローナル抗体に由来し、天然huOKT3 VH及びVLと比べて、ジスルフィド結合を安定化するための1以上の突然変異を含む。ある実施態様において、ジスルフィド結合の安定化は、該二重特異性結合分子の凝集を妨げる。ある実施態様において、ジスルフィド結合の安定化は、ジスルフィド結合の安定化がない場合の該二重特異性結合分子の凝集と比較して、該二重特異性結合分子の凝集を低下させる。該二重特異性結合分子のある実施態様において、ジスルフィド結合を安定化するための1以上の突然変異は、(例えば、配列番号54〜59に存在するような)VH G44C突然変異及びVL Q100C突然変異を含む。該二重特異性結合分子のある実施態様において、ジスルフィド結合を安定化するための1以上の突然変異は、(例えば、配列番号54〜59に存在するような)VH44とVL100の間のジスルフィド結合を導入するための、VH44(Kabat付番体系による)のアミノ酸残基とシステインとの置換及びVL100(Kabat付番体系による)のアミノ酸残基とシステインとの置換である。ある実施態様において、該ペプチドリンカーは、5〜30、5〜25、5〜15、10〜30、10〜20、10〜15、15〜30、又は15〜25アミノ酸残基の長さである。ある実施態様において、該ペプチドリンカーの配列は、上の表1に記載の通り(例えば、配列番号14又は35〜41のいずれか1つ)である。特に好ましい実施態様において、該ペプチドリンカーの配列は配列番号14である。ある実施態様において、該scFvに対する配列は、上の表8に記載の1以上の修飾を含む。
【0151】
特定の態様において、本明細書に提供されるのは、HER2及びCD3に特異的に結合し、かつ本明細書に記載のアミノ酸配列を含む二重特異性結合分子又はその断片をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、並びにそのような二重特異性結合分子とHER2及び/もしくはCD3に対する結合を競合するか、又はそのような抗体のエピトープと同じエピトープに結合する抗体である。
【0152】
好ましい実施態様において、該軽鎖の配列は配列番号25である。好ましい実施態様において、該軽鎖をコードするヌクレオチド配列は配列番号24である。好ましい実施態様において、該scFvの配列は配列番号19である。好ましい実施態様において、該scFvをコードするヌクレオチド配列は配列番号18である。好ましい実施態様において、該軽鎖の配列は配列番号25であり、該scFvの配列は配列番号19である。好ましい実施態様において、該軽鎖をコードするヌクレオチド配列は配列番号24であり、該scFvをコードするヌクレオチド配列は配列番号18である。好ましい実施態様において、該軽鎖融合ポリペプチドの配列は配列番号29である。好ましい実施態様において、該軽鎖融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は配列番号28である。
【0153】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、下の表8に記載されているように、トラスツズマブ免疫グロブリン中の修飾のうちの1つ又は複数を含むトラスツズマブ由来配列を有し、huOKT3 VH及びVL配列中の修飾のうちの1つ又は複数を含むhuOKT3由来配列を有する。他の免疫グロブリン又はscFv配列を有する二重特異性結合分子は、これらの他の免疫グロブリン又はscFv配列中の対応する位置に類似の突然変異を含むことができる。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、(a)トラスツズマブ及びhuOKT3に由来し;かつ(b)上の表8に記載の修飾のうちの1つ又は複数を含む。ある実施態様において、該免疫グロブリン軽鎖と該scFvをコンジュゲートするペプチドリンカーの配列は、上の表1に記載の通り(例えば、配列番号14又は35〜41のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該重鎖の配列は、上の表2に記載の通り(例えば、配列番号23、27、62、又は63のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該軽鎖の配列は、上の表3に記載の通り(例えば、配列番号25)である。ある実施態様において、該scFvのVHの配列は、上の表4に記載の通り(例えば、配列番号15、17、又は64のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該scFvのVLの配列は、上の表5に記載の通り(例えば、配列番号16又は65のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該scFvペプチドリンカーの配列は、上の表1に記載の通り(例えば、配列番号14又は35〜41のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該scFvの配列は、上の表6に記載の通り(例えば、配列番号19又は48〜59のいずれか1つ)である。ある実施態様において、該軽鎖融合ポリペプチドの配列は、上の表7に記載の通り(例えば、配列番号29、34、42〜47、又は60のいずれか1つ)である。
【0154】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、第5.2節に記載のHER2特異的抗体の重鎖をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである。ある実施態様において、該重鎖は、例えば、トラスツズマブ、M-111、ペルツズマブ、エルツマキソマブ、MDXH210、2B1、及びMM-302などの、当技術分野で公知のHER2特異的抗体の重鎖である。好ましい実施態様において、該抗体は、トラスツズマブのVHを含み、ここで、該重鎖の配列は配列番号27である。好ましい実施態様において、該抗体は、トラスツズマブのVHを含み、ここで、該重鎖をコードするヌクレオチド配列は配列番号26である。好ましい実施態様において、該重鎖の配列は、トラスツズマブのVHを含み、かつFc領域中にアミノ酸置換N297Aを含む(配列番号26)。好ましい実施態様において、該重鎖をコードするヌクレオチド配列は、トラスツズマブVHをコードするヌクレオチド配列を含み、かつFc領域中にアミノ酸置換N297Aを含む(配列番号26)。好ましい実施態様において、該重鎖の配列は、トラスツズマブVHの配列を含み、かつFc領域中にアミノ酸置換K322Aを含む(配列番号27)。好ましい実施態様において、該重鎖をコードするヌクレオチド配列は、トラスツズマブVHをコードするヌクレオチド配列を含み、かつFc領域中にアミノ酸置換K322Aを含む(配列番号26)。特に好ましい実施態様において、該重鎖の配列は、トラスツズマブVHの配列を含み、かつFc領域中にアミノ酸置換N297A及びK322Aを含む(配列番号27)。特に好ましい実施態様において、該重鎖をコードするヌクレオチド配列は、トラスツズマブVHをコードするヌクレオチド配列を含み、かつFc領域中にアミノ酸置換N297A及びK322Aを含む(配列番号26)。
【0155】
本明細書に提供されるポリヌクレオチドは、当技術分野で公知の任意の方法によって得ることができる。例えば、本明細書に記載の二重特異性結合分子又はその断片をコードするヌクレオチド配列が公知である場合、該二重特異性結合分子又はその断片をコードするポリヌクレオチドは、化学合成されたオリゴヌクレオチド(例えば、Kutmeierらの文献、BioTechniques 17:242(1994)に記載されているもの)から構築することができ、これは、簡潔に述べると、抗体をコードする配列の部分を含む重複するオリゴヌクレオチドの合成、これらのオリゴヌクレオチドのアニーリング及び連結、並びにその後、連結されたオリゴヌクレオチドのPCRによる増幅を伴う。
【0156】
或いは、二重特異性結合分子又はその断片をコードするポリヌクレオチドは、好適な源由来の核酸から作製することができる。特定の二重特異性結合分子又はその断片をコードする核酸を含むクローンは利用不可能であるが、該二重特異性結合分子又はその断片の配列が公知である場合、該二重特異性結合分子又はその断片をコードする核酸は、化学合成するか、或いは好適な源(例えば、抗体cDNAライブラリー、又は抗体を発現する任意の組織もしくは細胞、例えば、本明細書に提供される抗体を発現させるべく選択されたハイブリドーマ細胞から作製されたcDNAライブラリー、又は該組織もしくは細胞から単離された核酸、好ましくは、ポリA+ RNA)から、該配列の3'及び5'末端にハイブリダイズする合成プライマーを用いるPCR増幅によるか、又は例えば、該抗体をコードするcDNAライブラリーからcDNAクローンを同定するための、特定の遺伝子配列に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを用いるクローニングによって得ることができる。その後、PCRによって生成された増幅核酸を、当技術分野で周知の任意の方法を用いて、複製可能なクローニングベクターにクローニングすることができる。例えば、第5.3.2節を参照されたい。
【0157】
ある実施態様において、該二重特異性結合分子の抗体のアミノ酸配列は当技術分野で公知である。そのような実施態様において、そのような抗体をコードするポリペプチドを、ヌクレオチド配列の操作のための当技術分野で周知の方法、例えば、組換えDNA法、部位特異的突然変異生成、PCRなど(例えば、どちらも引用により完全に本明細書中に組み込まれる、Sambrookらの文献(1990)、分子クローニング、実験マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual)、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y.及びAusubelら編(1998)、分子生物学の最新プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)、John Wiley & Sons, N.Y.に記載されている技法を参照)を用いて操作して、異なるアミノ酸配列を有する二重特異性結合分子を生成させ、例えば、アミノ酸の置換、欠失、及び/又は挿入を作り出すことができる。例えば、そのような操作を行って、コードされたアミノ酸を非グリコシル化するか、又はC1q、Fc受容体に結合し、もしくは補体系を活性化させる抗体の能力を破壊することができる。
【0158】
本明細書に提供される単離された核酸分子は、任意に1以上のイントロンを有する、オープンリーディングフレーム(ORF)、例えば、限定されないが、少なくとも1つの重鎖又は軽鎖のCDR1、CDR2、及び/又はCDR3のような少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)の少なくとも1つの特定の部分を含む核酸分子;抗HER2抗体もしくは可変領域、抗CD3 scFv、又は単鎖融合ポリペプチドのコード配列を含む核酸分子;並びに上記のヌクレオチド配列とは実質的に異なるが、遺伝暗号の縮重のために、本明細書に記載の及び/又は当技術分野で公知の少なくとも1つの二重特異性結合分子を依然としてコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含むことができる。
【0159】
また本明細書に提供されるのは、選択的なハイブリダイゼーション条件の下で、本明細書に開示されるポリヌクレオチドにハイブリダイズする単離された核酸である。したがって、この実施態様のポリヌクレオチドは、そのようなポリヌクレオチドを含む核酸を単離し、検出し、及び/又は定量するために使用することができる。例えば、本明細書に提供されるポリヌクレオチドを用いて、寄託されたライブラリー中の部分的又は全長クローンを同定し、単離し、又は増幅することができる。いくつかの実施態様において、該ポリヌクレオチドは、ヒトもしくは哺乳動物核酸ライブラリーから単離されたゲノムもしくはcDNA配列、又はさもなければ、該ライブラリー由来のcDNAに相補的なゲノムもしくはcDNA配列である。
【0160】
該核酸は、本明細書に提供されるポリヌクレオチドに加えて、他の配列を好都合に含むことができる。例えば、1以上のエンドヌクレアーゼ制限部位を含むマルチクローニング部位を該核酸に挿入して、該ポリヌクレオチドの単離を助けることができる。さらに、翻訳可能な配列を挿入して、本明細書に提供される翻訳されたポリヌクレオチドの単離を助けることができる。例えば、ヘキサ-ヒスチジンマーカー配列は、本明細書に提供されるポリペプチドを精製するための好都合な手段を提供する。本明細書に提供される核酸−コード配列を除く−は、任意に、本明細書に提供されるポリヌクレオチドのクローニング及び/又は発現用のベクター、アダプター、又はリンカーである。
【0161】
さらなる配列を、そのようなクローニング及び/又は発現配列に付加して、クローニング及び/又は発現におけるその機能を最適化し、該ポリヌクレオチドの単離を助け、又は該ポリヌクレオチドの細胞への導入を改善することもできる。クローニングベクター、発現ベクター、アダプター、及びリンカーの使用は、当技術分野で周知である(例えば、Ausubelの文献、上記;又はSambrookの文献、上記を参照されたい)。
【0162】
具体的な実施態様において、ルーチンの組換えDNA法を用いて、本明細書に記載の抗体のCDRのうちの1つ又は複数をフレームワーク領域内に挿入することができる。フレームワーク領域は、天然のフレームワーク領域又はコンセンサスフレームワーク領域、好ましくは、ヒトフレームワーク領域であることができる(例えば、ヒトフレームワーク領域のリストについては、Chothiaらの文献、J. Mol. Biol. 278: 457-479(1998)を参照されたい)。フレームワーク領域とCDRの組合せによって作製されるポリヌクレオチドは、HER2に特異的に結合する抗体をコードすることが好ましい。1以上のアミノ酸置換は、フレームワーク領域内で行うことができ、該アミノ酸置換は、該抗体のその抗原に対する結合を改善することが好ましい。さらに、そのような方法を用いて、鎖内ジスルフィド結合に関与する1以上の可変領域システイン残基のアミノ酸置換又は欠失を行い、1以上の鎖内ジスルフィド結合を欠く抗体分子を作製することができる。該ポリヌクレオチドに対する他の改変は本明細書に提供されており、かつ当業者の能力の範囲内である。
【0163】
ある実施態様において、単離又は精製された核酸分子又はその断片は、別の核酸分子との連結させたとき、融合タンパク質をコードすることができる。融合タンパク質の作製は、当業者の能力の範囲内であり、制限酵素又は組換えクローニング法の使用を伴うことができる(例えば、Gateway(商標)(Invitrogen)を参照されたい)。米国特許第5,314,995号も参照されたい。
【0164】
ある実施態様において、本明細書に提供されるポリヌクレオチドは、第5.3.2節に記載のベクター(例えば、発現ベクター)の形態である。
【0165】
(5.3.2 細胞及びベクター)
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、本明細書に記載の二重特異性結合分子を(例えば、組換え)発現する細胞(例えば、エクスビボ細胞)である。また本明細書に提供されるのは、宿主細胞における、好ましくは、哺乳動物細胞における組換え発現のための本明細書に記載の二重特異性結合分子又はその断片をコードするヌクレオチド配列(例えば、第5.3.1節を参照)を含むベクター(例えば、発現ベクター)である。また本明細書に提供されるのは、本明細書に記載の二重特異性結合分子を組換え発現させるためのそのようなベクター又はヌクレオチド配列を含む細胞(例えば、エクスビボ細胞)である。また本明細書に提供されるのは、本明細書に記載の二重特異性結合分子を産生する方法であって、そのような二重特異性結合分子を細胞(例えば、エクスビボ細胞)から発現させることを含む、方法である。好ましい実施態様において、該細胞はエクスビボ細胞である。
【0166】
ベクター(例えば、発現ベクター)は、細胞(例えば、エクスビボ細胞)で発現される遺伝子を含むDNA分子である。通常、遺伝子発現は、構成的又は誘導性プロモーター、組織特異的調節エレメント、及びエンハンサーを含む、特定の調節エレメントの制御下に置かれる。そのような遺伝子は、調節エレメント、例えば、プロモーター「に機能的に連結されている」と言われる。組換え宿主は、クローニングベクター又は発現ベクターのいずれかを含む任意の原核生物又は真核生物細胞であることができる。この用語には、宿主細胞の染色体もしくはゲノム又は宿主細胞の細胞(例えば、エクスビボ細胞)にクローン化された遺伝子(複数可)を含むように遺伝子操作されている、原核生物又は真核生物細胞、及びトランスジェニック動物も含まれる。
【0167】
好ましい実施態様において、該プロモーターはCMVプロモーターである。
【0168】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、第5.3.1節に記載の1以上のポリヌクレオチドを含むベクターである。
【0169】
ある実施態様において、第5.3.1節に記載のポリヌクレオチドを好適なベクターにクローニングすることができ、任意の好適な宿主を形質転換又はトランスフェクトするために使用することができる。そのようなベクターを構築するためのベクター及び方法は当業者に公知であり、一般の技術的参考文献に記載されている(一般には、「組換えDNAパートD(Recombinant DNA Part D)」、Methods in Enzymology、第153号、Wu及びGrossman編、Academic Press(1987)を参照されたい)。ある実施態様において、ベクターは、適切な場合、及び該ベクターがDNAであるか、それともRNAであるかということを考慮に入れて、該ベクターを導入することになる宿主のタイプ(例えば、細菌、真菌、植物、昆虫、又は哺乳動物)に特異的である調節配列、例えば、転写及び翻訳の開始及び終止コドンを含む。ある実施態様において、ベクターは、宿主の属に特異的である調節配列を含む。ある実施態様において、ベクターは、宿主の種に特異的である調節配列を含む。
【0170】
ある実施態様において、ベクターは、形質転換又はトランスフェクトされた宿主の選択を可能にする1以上のマーカー遺伝子を含む。マーカー遺伝子の非限定的な例としては、殺生物剤抵抗性、例えば、抗生物質、重金属などに対する抵抗性、原栄養性を提供するための栄養要求性宿主における相補性などが挙げられる。好ましい実施態様において、ベクターは、アンピシリン及びハイグロマイシン選択可能マーカーを含む。
【0171】
ある実施態様において、発現ベクターは、第5.3.1節に記載のポリヌクレオチドに機能的に連結された天然又は標準のプロモーターを含むことができる。例えば、強い、弱い、誘導性、組織特異的、及び発生特異的な、プロモーターの選択は、当業者の能力の範囲内である。同様に、上記の核酸分子又はその断片をプロモーターと組み合わせることも、当業者の能力の範囲内である。
【0172】
好適なベクターの非限定的な例としては、増殖及び拡大のために又は発現のために又はその両方のために設計されているものが挙げられる。例えば、クローニングベクターは、pUCシリーズ、pBluescriptシリーズ(Stratagene, LaJolla, Calif.)、pETシリーズ(Novagen, Madison, Wis.)、pGEXシリーズ(Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)、及びpEXシリーズ(Clontech, Palo Alto, Calif.)からなる群から選択することができる。ラムダ-GT10、ラムダ-GT11、ラムダ-ZapII(Stratagene)、ラムダ-EMBL4、及びラムダ-NM1149などのバクテリオファージベクターを使用することもできる。植物発現ベクターの非限定的な例としては、pBI110、pBI101.2、pBI101.3、pBI121、及びpBIN19(Clontech)が挙げられる。動物発現ベクターの非限定的な例としては、pEUK-C1、pMAM、及びpMAMneo(Clontech)が挙げられる。TOPOクローニングシステム(Invitrogen, Carlsbad, Calif.)を製造元の推奨に従って使用することもできる。
【0173】
ある実施態様において、ベクターは哺乳動物ベクターである。ある実施態様において、哺乳動物ベクターは、mRNAの転写の開始を媒介する少なくとも1つのプロモーターエレメント、二重特異性結合分子をコードする配列、並びに転写の終結及び転写物のポリアデニル化に必要とされるシグナルを含む。ある実施態様において、哺乳動物ベクターは、例えば、エンハンサー、Kozak配列、及びRNAスプライシングのためのドナー部位とアクセプター部位に隣接する介在配列などの、さらなるエレメントを含む。ある実施態様において、高効率の転写は、例えば、SV40由来の初期及び後期プロモーター、レトロウイルス、例えば、RSV、HTLVI、HIVI由来の長い末端反復(LTRS)、並びにサイトメガロウイルス(CMV)の初期プロモーターを用いて達成することができる。しかしながら、細胞性エレメントを使用することもできる(例えば、ヒトアクチンプロモーター)。哺乳動物発現ベクターの非限定的な例としては、pIRESlneo、pRetro-Off、pRetro-On、PLXSN、又はpLNCX(Clonetech Labs, Palo Alto, Calif.)、pcDNA3.1(+/-)、pcDNA/Zeo(+/-)、又はpcDNA3.1/Hygro(+/-)(Invitrogen)、PSVL及びPMSG(Pharmacia, Uppsala, Sweden)、pRSVcat(ATCC 37152)、pSV2dhfr(ATCC 37146)、並びにpBC12MI(ATCC 67109)などのベクターが挙げられる。そのような哺乳動物ベクターと組み合わせて使用することとができる哺乳動物宿主細胞の非限定的な例としては、ヒトHela 293、H9、及びJurkat細胞、マウスNIH3T3及びC127細胞、Cos 1、Cos 7、及びCV 1、ウズラQC1-3細胞、マウスL細胞、並びにチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が挙げられる。
【0174】
ある実施態様において、ベクターは、ウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクター、パルボウイルスに基づくベクター、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)に基づくベクター、AAV-アデノウイルスキメラベクター、及びアデノウイルスに基づくベクター、並びにレンチウイルスベクター、例えば、単純ヘルペス(HSV)に基づくベクターである。ある実施態様において、ウイルスベクターを操作して、ウイルスを複製欠損にする。ある実施態様において、ウイルスベクターを操作して、宿主に対する毒性を消失させる。これらのウイルスベクターは、例えば、Sambrookらの文献、分子クローニング、実験マニュアル(Molecular Cloning, a Laboratory Manual)、第2版、Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y.(1989);及びAusubelらの文献、分子生物学の最新プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)、Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons, New York, N.Y.(1994)に記載されている標準的な組換えDNA法を用いて調製することができる。
【0175】
ある実施態様において、本明細書に記載のベクター又はポリヌクレオチドを従来の技法によって細胞(例えば、エクスビボ細胞)に転移させることができ、得られた細胞を従来の技法によって培養して、本明細書に記載の二重特異性結合分子を産生することができる。したがって、本明細書に提供されるのは、宿主細胞におけるそのような配列の発現のためのプロモーターに機能的に連結された、二重特異性結合分子もしくはその断片、その重鎖もしくは軽鎖、又はその軽鎖融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む細胞である。ある実施態様において、プロモーターに機能的に連結された重鎖をコードするベクター、及びプロモーターに機能的に連結された軽鎖融合ポリペプチドをコードするベクターを、下記のように、二重特異性結合分子全体の発現のために細胞で共発現させることができる。ある実施態様において、細胞は、プロモーターに機能的に連結された本明細書に記載の二重特異性結合分子の重鎖と軽鎖融合ポリペプチドの両方をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む。ある実施態様において、細胞は、プロモーターに機能的に連結された重鎖をコードするポリヌクレオチドを含む第1のベクター及びプロモーターに機能的に連結された軽鎖融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む第2のベクターという、2つの異なるベクターを含む。ある実施態様において、第1の細胞は、本明細書に記載の二重特異性結合分子の重鎖をコードするポリヌクレオチドを含む第1のベクターを含み、第2の細胞は、本明細書に記載の二重特異性結合分子の軽鎖融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む第2のベクターを含む。ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、そのような第1の細胞及びそのような第2の細胞を含む細胞の混合物である。好ましい実施態様において、該細胞は、該オリゴヌクレオチドが細胞によって効率的に転写されなおかつ効率的に翻訳されるように、ベクター(単数)又はベクター(複数)を発現する。
【0176】
実施態様において、細胞は、オリゴヌクレオチド又はその断片が細胞によって効率的に転写されなおかつ効率的に翻訳されるように、ベクターを発現する。
【0177】
ある実施態様において、細胞は宿主内に存在し、該宿主は、動物、例えば、哺乳動物であることができる。細胞の例としては、ヒト細胞、ヒト細胞株、大腸菌(例えば、大腸菌TB-1、TG-2、DH5a、XL-Blue MRF'(Stratagene)、SA2821、及びY1090)、枯草菌(B. subtilis)、緑膿菌(P. aerugenosa)、出芽酵母(S. cerevisiae)、アカパンカビ(N. crassa)、昆虫細胞(例えば、Sf9、Ea4)、並びに本明細書で以下に示されるその他のものが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施態様において、細胞はCHO細胞である。特に好ましい実施態様において、細胞はCHO-S細胞である。
【0178】
ある実施態様において、本明細書に記載のポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチドを細胞に導入することによって染色体に組み込まれた該ポリヌクレオチドを含む安定細胞株で発現させることができる。ある実施態様において、該ポリヌクレオチドは、例えば、エレクトロポレーションによって細胞に導入される。ある実施態様において、該ポリヌクレオチドは、例えば、該ポリヌクレオチドを含むベクターの細胞へのトランスフェクションによって細胞に導入される。ある実施態様において、該ベクターは、トランスフェクトされた細胞の同定及び単離を可能にするDHFR、GPT、ネオマイシン、又はハイグロマイシンなどの選択可能マーカーと共トランスフェクトされる。ある実施態様において、トランスフェクトされたポリヌクレオチドを増幅させて、大量のコードされた二重特異性結合分子を発現させることもできる。例えば、DHFR(ジヒドロ葉酸レダクターゼ)マーカーを用いて、対象となるポリヌクレオチドの数百又は数千ものコピーを保有する細胞株を開発することができる。選択マーカーの別の例は、酵素グルタミンシンターゼ(GS)である(Murphyらの文献、Biochem. J. 227:277-279(1991); Bebbingtonらの文献、Bio/Technology 10:169-175(1992))。これらのマーカーを用いて、細胞を選択培地で成長させ、最も大きい耐性を有する細胞を選択する。これらの細胞株は、染色体に組み込まれた増幅遺伝子(複数可)を含む。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞及びNSO細胞は、二重特異性結合分子の産生に使用されることが多い。
【0179】
好ましい実施態様において、ベクターは、(i)第1のプロモーターに機能的に連結された、ペプチドリンカーを介してscFvに融合した免疫グロブリン軽鎖(ここで、該軽鎖はHER2に結合し、該scFvはCD3に結合する)を含む軽鎖融合ポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド配列及び(ii)第2のプロモーターに機能的に連結された、HER2に結合する免疫グロブリン重鎖をコードする第2のポリヌクレオチドを含む。ある実施態様において、ベクターはウイルスベクターである。
【0180】
(5.4 二重特異性結合分子に結合したT細胞)
任意の理論に束縛されるものではないが、本明細書に提供される二重特異性結合分子を、例えば、本明細書に記載の手順などの手順によって、T細胞に結合させたとき、該二重特異性結合分子の抗CD3 scFvがT細胞の表面のCD3に結合すると考えられている。任意の理論に束縛されるものではないが、T細胞に対する該二重特異性結合分子の結合(すなわち、T細胞上に発現されたCD3に対する抗CD3 scFvの結合)は、T細胞を活性化し、その結果、T細胞受容体に基づく細胞傷害性を所望の腫瘍標的に再誘導し、MHC拘束を迂回することを可能にすると考えられている。
【0181】
したがって、本発明は、本発明の二重特異性結合分子(例えば、第5.1節及び第5.2節に記載されているもの)に結合させられているT細胞も提供する。具体的な実施態様において、該T細胞は、該二重特異性結合分子に非共有結合的に結合させられる。具体的な実施態様において、該T細胞は、該T細胞を投与することになる対象にとって自己のものである。具体的な実施態様において、該T細胞は、該T細胞を投与することになる対象にとって同種異系のものである。具体的な実施態様において、該T細胞はヒトT細胞である。
【0182】
具体的な実施態様において、本発明の二重特異性結合分子に結合させられているT細胞は、第5.6節に記載の方法に従って使用される。具体的な実施態様において、本発明の二重特異性結合分子に結合させられているT細胞は、第5.9節に記載の組合せ療法の一部として使用される。
【0183】
(5.5 医薬組成物及びキット)
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、第5.1節又は第5.2節に記載の1以上の二重特異性結合分子の医薬有効量を含む組成物(例えば、医薬組成物)及びキットである。組成物は、個々の単一単位剤形の調製において使用することができる。本明細書に提供される組成物は、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹内、関節包内、軟骨内、洞内、腔内、小脳内、脳室内、オンマヤ内、眼内、硝子体内、結腸内、子宮頸部内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸膜内、前立腺内、肺内、直腸内、腎臓内、網膜内、脊髄内、滑液嚢内、胸腔内、子宮内、膀胱内、ボーラス、膣内、直腸、口腔内、舌下、鼻腔内、髄腔内、脳室内、脳実質内、又は経皮投与用に製剤化することができる。好ましい実施態様において、該組成物は、非経口投与用に製剤化される。特に好ましい実施態様において、該組成物は、静脈内投与用に製剤化される。好ましい実施態様において、該組成物は、腹腔内投与用に製剤化される。具体的な実施態様において、該組成物は、腹膜転移を治療するための腹腔内投与用に製剤化される。好ましい実施態様において、該組成物は、髄腔内投与用に製剤化される。具体的な実施態様において、該組成物は、脳転移を治療するための髄腔内投与用に製剤化される。例えば、Kramerらの文献、2010, 97: 409-418を参照されたい。好ましい実施態様において、該組成物は、脳における脳室内投与用に製剤化される。具体的な実施態様において、該組成物は、脳転移を治療するための脳室内投与用に製剤化される。例えば、Kramerらの文献、2010, 97: 409-418を参照されたい。好ましい実施態様において、該組成物は、脳における実質内投与用に製剤化される。具体的な実施態様において、該組成物は、脳腫瘍又は脳腫瘍転移を治療するための実質内投与用に製剤化される。例えば、Lutherらの文献、2014, Neuro Oncol, 16: 800-806、及びClinical Trial ID NO NCT01502917を参照されたい。
【0184】
具体的な実施態様において、該組成物は、腹膜転移を治療するための腹腔内投与用に製剤化される。
【0185】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、本明細書に記載の二重特異性結合分子をコードするヌクレオチド配列を含む1以上のポリヌクレオチドを含む組成物である。ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、細胞を含む組成物であり、ここで、該細胞は、本明細書に記載の二重特異性結合分子をコードするヌクレオチド配列を含む1以上のポリヌクレオチドを含む。ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、ベクターを含む組成物であり、ここで、該ベクターは、本明細書に記載の二重特異性結合分子をコードするヌクレオチド配列を含む1以上のポリヌクレオチドを含む。ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、細胞を含む組成物であり、ここで、該細胞は、ベクターを含み、該ベクターは、本明細書に記載の二重特異性結合分子をコードするヌクレオチド配列を含む1以上のポリヌクレオチドを含む。
【0186】
ある実施態様において、本明細書に記載の組成物は、安定製剤又は保存製剤である。ある実施態様において、安定製剤は、塩分又は選択された塩を含むリン酸緩衝剤を含む。ある実施態様において、記載されいてる組成物は、薬学的又は獣医学的使用に好適な多目的の保存製剤である。ある実施態様において、本明細書に記載の組成物は防腐剤を含む。防腐剤は当業者に公知である。防腐剤の非限定的な例としては、フェノール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-クレゾール、クロロクレゾール、ベンジルアルコール、亜硝酸フェニル水銀、フェノキシエタノール、ホルムアルデヒド、クロロブタノール、塩化マグネシウム(例えば、六水和物)、アルキルパラベン(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、及びデヒドロ酢酸ナトリウム、並びにチメロサール、又は水性希釈剤中のこれらの混合物が挙げられる。任意の好適な濃度又は混合物、例えば、0.001〜5%、又はその中の任意の範囲もしくは値、例えば、限定されないが、0.001、0.003、0.005、0.009、0.01、0.02、0.03、0.05、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.3、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、又はその中の任意の範囲もしくは値を、当技術分野で公知の通りに使用することもできる。非限定的な例としては、防腐剤なし、0.1〜2%のm-クレゾール(例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.9、1.0%)、0.1〜3%のベンジルアルコール(例えば、0.5、0.9、1.1、1.5、1.9、2.0、2.5%)、0.001〜0.5%のチメロサール(例えば、0.005、0.01)、0.001〜2.0%のフェノール(例えば、0.05、0.25、0.28、0.5、0.9、1.0%)、0.0005〜1.0%のアルキルパラベン(例えば、0.00075、0.0009、0.001、0.002、0.005、0.0075、0.009、0.01、0.02、0.05、0.075、0.09、0.1、0.2、0.3、0.5、0.75、0.9、1.0%)などが挙げられる。
【0187】
本明細書に提供される組成物を、対象に、長時間にわたって、例えば、1週間〜1年間又はそれよりも長い間、単一の投与から送達することが望ましい場合もあり得る。様々な低速放出、デポ、又はインプラント剤形を利用することができる。例えば、剤形は、体液への溶解度が低い化合物の医薬として許容し得る無毒な塩、例えば、(a)多塩基酸、例えば、リン酸、硫酸、クエン酸、酒石酸、タンニン酸、パモン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンモノ-もしくはジ-スルホン酸、ポリガラクツロン酸などとの酸付加塩;(b)亜鉛、カルシウム、ビスマス、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、銅、コバルト、ニッケル、カドミウムなどの多価金属カチオンとの、もしくは例えば、N,N'-ジベンジル-エチレンジアミンもしくはエチレンジアミンから形成される有機カチオンとの塩;又は(c)(a)と(b)の組合せ、例えば、タンニン酸亜鉛塩を含むことができる。さらに、本明細書に提供される組成物、好ましくは、比較的不溶性の塩、例えば、今述べた塩は、例えば、注射に好適なゴマ油とともに、ゲル、例えば、モノステアリン酸アルミニウムゲルの中に製剤化することができる。特に好ましい塩は、亜鉛塩、タンニン酸亜鉛塩、パモ酸塩などである。注射用の低速放出デポ製剤の別のタイプは、例えば、米国特許第3,773,919号に記載されているような、ポリ乳酸/ポリグリコール酸ポリマーなどの、ゆっくりと分解する、無毒で、非抗原性のポリマーに分散又は封入された、化合物又は塩を含む。化合物又は好ましくは、比較的不溶性の塩、例えば、上記の塩は、特に動物で使用するための、コレステロールマトリックスシラスティックペレット中に製剤化することもできる。さらなる低速放出、デポ、又はインプラント組成物、例えば、気体又は液体リポソームは、文献で知られている(米国特許第5,770,222号及び「持続及び制御放出薬物送達系(Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems)」、J. R. Robinson編、Marcel Dekker, Inc., N.Y., 1978)。
【0188】
本明細書に提供される少なくとも1つの二重特異性結合分子組成物の範囲は、再構成時に、湿潤/乾燥系の場合、約1.0マイクログラム/ml〜約1000mg/mlの濃度をもたらす量を含むが、より低い濃度及びより高い濃度が操作可能であり、これらは、意図される送達ビヒクルに依存し、例えば、溶液製剤は、経皮パッチ、経肺的、経粘膜的方法、又は浸透圧もしくはマイクロポンプ法と異なる。
【0189】
ある実施態様において、本明細書に提供される組成物は、任意の好適な補助剤、例えば、限定されないが、希釈剤、結合剤、安定化剤、緩衝剤、塩、親油性溶媒、防腐剤、アジュバントなどのうちの少なくとも1つを含む。ある実施態様において、医薬として許容し得る補助剤が好ましい。そのような滅菌溶液及びそのような滅菌溶液を調製する方法の非限定的な例は当技術分野で周知であり、例えば、Gennaro編、レミントンの医薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)、第18版、Mack Publishing Co.(Easton, Pa.) 1990があるが、これに限定されない。本明細書に記載の二重特異性結合分子の投与の様式、溶解性、及び/又は安定性に好適である医薬として許容し得る担体は、ルーチンで選択することができる。
【0190】
ある実施態様において、本明細書に提供される組成物は、1以上の医薬賦形剤及び/又は添加剤を含む。医薬賦形剤及び添加剤の非限定的な例は、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、脂質、並びに炭水化物(例えば、単糖、二糖、三糖、四糖、及びオリゴ糖を含む糖;誘導体化糖、例えば、アルジトール、アルドン酸、エステル化糖など;並びに多糖又は糖ポリマー)であり、これらは、単独又は組合せで存在し、単独又は組合せで1〜99.99重量又は体積%を含むことができる。タンパク質賦形剤の非限定的な例としては、血清アルブミン、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)、組換えヒトアルブミン(rHA)、ゼラチン、カゼインなどが挙げられる。緩衝能力において機能することもできるアミノ酸/抗体成分の非限定的な例としては、アラニン、グリシン、アルギニン、ベタイン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、リジン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、アスパルテームなどが挙げられる。ある実施態様において、該アミノ酸はグリシンである。炭水化物賦形剤の非限定的な例としては、単糖、例えば、フルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D-マンノース、ソルボースなど;二糖、例えば、ラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオースなど;多糖、例えば、ラフィノース、メレジトース、マルトデキストリン、デキストラン、デンプンなど;及びアルジトール、例えば、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトールソルビトール(グルシトール)、ミオイノシトールなどが挙げられる。ある実施態様において、炭水化物賦形剤は、マンニトール、トレハロース、又はラフィノースである。
【0191】
ある実施態様において、本明細書に提供される組成物は、1以上の緩衝剤又はpH調整剤を含み;通常、緩衝剤は、有機酸又は有機塩基から調製される塩である。緩衝剤の非限定的な例としては、有機酸塩、例えば、クエン酸、アスコルビン酸、グルコン酸、炭酸、酒石酸、コハク酸、酢酸、もしくはフタル酸の塩; Tris、トロメタミン塩酸塩、又はリン酸塩緩衝剤が挙げられる。ある実施態様において、緩衝剤は、有機酸塩、例えば、クエン酸塩である。他の賦形剤、例えば、等張剤、緩衝剤、抗酸化剤、防腐増強剤を任意にかつ好ましく希釈剤に添加することができる。等張剤、例えば、グリセリンは、一般に、既知の濃度で使用される。生理的に許容される緩衝剤を添加して、pH制御の改善をもたらすことが好ましい。該組成物は、約pH 4〜約pH 10などの広範囲のpH、及び約pH 5〜約pH 9の好ましい範囲、及び約6.0〜約8.0の最も好ましい範囲にわたることができる。本明細書に提供される組成物は、約6.8〜約7.8のpHを有することが好ましい。好ましい緩衝剤としては、リン酸塩緩衝剤、最も好ましくは、リン酸ナトリウム、特に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。
【0192】
ある実施態様において、本明細書に提供される組成物は、例えば、ポリビニルピロリドン、フィコール(ポリマー糖)、デキストレート(例えば、シクロデキストリン、例えば、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン)、ポリエチレングリコール、香味剤、抗微生物剤、甘味料、抗酸化剤、帯電防止剤、界面活性剤(例えば、ポリソルベート、例えば、「TWEEN 20」及び「TWEEN 80」)、脂質(例えば、リン脂質、脂肪酸)、ステロイド(例えば、コレステロール)、並びに/又はキレート化剤(例えば、EDTA)などの、1以上のポリマー性賦形剤/添加剤を含む。
【0193】
他の添加剤、例えば、Tween 20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、Tween 40(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート)、Tween 80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)、Pluronic F68(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー)、及びPEG(ポリエチレングリコール)又は非イオン性界面活性剤、例えば、ポリソルベート20もしくは80又はポロキサマー184もしくは188、Pluronic(登録商標) ポリル(polyls)、他のブロックコポリマーのような医薬として許容し得る可溶化剤、並びにキレート剤、例えば、EDTA及びEGTAを組成物に任意に添加して、凝集を低下させることができる。これらの添加剤は、ポンプ又はプラスチック容器を用いて組成物を投与する場合に、特に有用である。医薬として許容し得る界面活性剤の存在は、タンパク質が凝集する傾向を軽減する。
【0194】
本明細書に提供される組成物中で使用するのに好適なさらなる医薬賦形剤及び/又は添加剤は当業者に公知であり、例えば、引用により完全に本明細書中に組み込まれる、「レミントン:医薬の科学及び実践(Remington: The Science & Practice of Pharmacy)」、第19版、Williams & Williams,(1995)及び「医師の卓上参考書(Physician's Desk Reference)」、第52版、Medical Economics, Montvale, N.J.(1998)に言及されている。ある好ましい実施態様において、担体又は賦形剤の材料は、炭水化物(例えば、サッカリド及びアルジトール)並びに緩衝剤(例えば、クエン酸塩)又はポリマー剤である。
【0195】
水性希釈剤は、医薬として許容し得る防腐剤を任意にさらに含むことが好ましい。好ましい防腐剤としては、フェノール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-クレゾール、クロロクレゾール、ベンジルアルコール、アルキルパラベン(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、及びチメロサール、又はこれらの混合物からなる群から選択されるものが挙げられる。組成物中で使用される防腐剤の濃度は、抗微生物効果をもたらすのに十分な濃度である。そのような濃度は、選択される防腐剤に依存し、当業者によって容易に決定される。
【0196】
本明細書に提供される組成物は、本明細書に記載の少なくとも1つの二重特異性結合分子とフェノール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-クレゾール、クロロクレゾール、ベンジルアルコール、アルキルパラベン(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、及びチメロサール、又はこれらの混合物からなる群から選択される防腐剤とを水性希釈剤中で混合することを含むプロセスによって調製することができる。少なくとも1つの二重特異性結合分子と防腐剤とを水性希釈剤中で混合することは、従来の溶解及び混合手順を用いて実施される。好適な組成物を調製するために、例えば、緩衝溶液中の一定量の少なくとも1つの二重特異性結合分子を、所望の濃度の二重特異性結合分子及び防腐剤を提供するのに十分な分量の緩衝溶液中の所望の防腐剤と組み合わせる。本明細書に提供される組成物は、本明細書に記載の少なくとも1つの二重特異性結合分子と選択された緩衝剤、好ましくは、塩分又は選択された塩を含むリン酸緩衝剤を混合することを含むプロセスによって調製することができる。少なくとも1つの二重特異性結合分子と緩衝剤を水性希釈剤中で混合することは、従来の溶解及び混合手順を用いて実施される。好適な組成物を調製するために、例えば、水又は緩衝溶液中の一定量の少なくとも1つの二重特異性結合分子を、所望の濃度のタンパク質及び緩衝剤を提供するのに十分な分量の水中の所望の緩衝剤と組み合わせる。これらのプロセスのバリエーションは、当業者によって認識されているであろう。例えば、成分を添加する順序、さらなる添加剤を使用するかどうかということ、組成物を調製する温度及びpHは全て、使用される濃度及び投与手段について最適化することができる因子である。
【0197】
組合せ療法をT細胞の注入と関連させる具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、(a)本明細書に記載の二重特異性結合分子(例えば、第5.1節もしくは第5.2節を参照);(b)T細胞;及び/又は(c)医薬として有効な担体を含む医薬組成物である。具体的な実施態様において、T細胞は、T細胞が投与される対象にとって自己のものである。ある実施態様において、T細胞は、T細胞が投与される対象にとって同種異系のものである。具体的な実施態様において、T細胞は、該二重特異性結合分子に結合させられる。具体的な実施態様において、該二重特異性結合分子に対するT細胞の結合は非共有結合的である。具体的な実施態様において、T細胞はヒトT細胞である。二重特異性結合分子をT細胞に結合させるために使用することができる方法は当技術分野で公知である。例えば、Lumらの文献、2013, Biol Blood Marrow Transplant, 19:925-33、Janewayらの文献、免疫生物学:健康及び疾患における免疫系(Immunobiology: The Immune System in Health and Disease)、第5版、New York: Garland Science; Vaishampayanらの文献、2015, Prostate Cancer, 2015:285193、及びStromnesらの文献、2014, Immunol Rev. 257(1):145-164を参照されたい。Vaishampayanらの文献、2015, Prostate Cancer, 2015:285193も参照されたく、これは、該二重特異性結合分子をT細胞に結合させるための、以下の例示的な非限定的方法を記載している:
末梢血単核細胞(PBMC)を回収して、1回又は2回の白血球フェレーシスから活性化T細胞増殖のためのリンパ球を得る。PBMCを、例えば、20ng/mLのOKT3で活性化させ、100IU/mLのIL-2中で増殖させて、最大14日の培養期間中に、Uedaらの文献、1993, Transplantation, 56(2):351-356及びUbertiらの文献、1994, Clinical Immunology and Immunopathology, 70(3):234-240に記載されているようなcGMP条件の下で、400〜3200億個の活性化T細胞を発生させる。細胞を、通気性のあるフラスコ(FEP Bag Type 750-Cl, American Fluoroseal Corporation, Gaithersburg, MD)に入れて、2%熱非働化プールヒト血清を補充したRPMI 1640培地(Lonza)中で成長させる。活性化T細胞を、約2〜3日毎に、細胞数に基づいて分ける。14日後、活性化T細胞を、106個の活性化T細胞当たり50ngの本明細書に記載の二重特異性結合分子とともに培養する。その後、混合物を洗浄し、凍結保存する。
【0198】
ある実施態様において、本明細書に記載の医薬組成物は、本明細書に提供される方法に従って使用されるべきである(例えば、第5.6節を参照されたい)。
【0199】
(5.5.1 非経口製剤)
ある実施態様において、本明細書に提供される組成物は、非経口的な注射投与用に製剤化される。本明細書で使用されるように、「非経口」という用語は、静脈内、血管内、筋肉内、皮内、皮下、及び眼内を含む。非経口投与用に、該組成物は、医薬として許容し得る非経口ビヒクルと関連した、又はそれとは別々に提供される、溶液、懸濁液、エマルジョン、又は凍結乾燥粉末として製剤化することができる。そのようなビヒクルの非限定的な例は、水、生理食塩水、リンガー溶液、デキストロース溶液、グリセロール、エタノール、及び1〜10%ヒト血清アルブミンである。リポソーム及び非水性ビヒクル、例えば、固定油を使用することもできる。ビヒクル又は凍結乾燥粉末は、等張性を維持する添加剤(例えば、塩化ナトリウム、マンニトール)並びに化学的安定性を維持する添加剤(例えば、緩衝剤及び防腐剤)を含むことができる。製剤は、公知の又は好適な技法によって滅菌される。
【0200】
好適な医薬担体は、この分野の標準的な参考テキストである、レミントンの医薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)、A. Osolの最新版に記載されている。
【0201】
非経口投与用の製剤は、一般的な賦形剤として、滅菌水又は生理食塩水、ポリアルキレングリコール、例えば、ポリエチレングリコール、植物起源の油、水素化ナフタレンなどを含むことができる。注射用の水性又は油性懸濁液は、公知の方法に従って、適当な乳化剤又は湿度調整剤及び懸濁化剤を使用することにより調製することができる。注射用の薬剤は、無毒で、非経口投与可能な希釈剤、例えば、水溶液又は溶媒中の滅菌注射溶液もしくは懸濁液であることができる。使用可能なビヒクル又は溶媒として、水、リンガー溶液、等張生理食塩水などが許容され;通常の溶媒、又は懸濁溶媒として、滅菌不揮発性油を使用することができる。これらの目的のために、天然又は合成又は半合成の脂肪油又は脂肪酸;天然又は合成又は半合成のモノグリセリド又はジグリセリド又はトリグリセリドを含む、任意の種類の不揮発性油及び脂肪酸を使用することができる。非経口投与は当技術分野で公知であり、これには、従来の注射手段、引用により完全に本明細書中に組み込まれる、米国特許第5,851,198号に記載のガス加圧式無針注射装置及び米国特許第5,839,446号に記載のレーザー穿孔装置が含まれるが、これらに限定されない。
【0202】
(5.5.2 肺製剤)
ある実施態様において、本明細書に記載の二重特異性結合分子を含む組成物は、肺投与用に製剤化される。肺投与用に、該組成物は、肺の下気道又は鼻洞(sinuses)に達するのに有効な粒子サイズで送達される。肺投与用の組成物は、吸入による治療剤の投与のための当技術分野で公知の種々の吸入装置又は鼻腔用装置のいずれかによって送達することができる。エアロゾル化製剤を患者の鼻腔(sinus cavity)又は肺胞に堆積させることができるこれらの装置としては、定量吸入器、ネブライザー、乾燥粉末発生器、スプレーなどが挙げられる。本明細書に記載の二重特異性結合分子の肺又は鼻腔投与を導くのに好適な他の装置も当技術分野で公知である。そのような装置は全て、本明細書に記載の二重特異性結合分子をエアロゾル中に分配するための投与に好適な製剤を使用する。そのようなエアロゾルは、溶液(水性と非水性の両方)又は固形粒子のいずれかから構成されることができる。Ventolin(登録商標)定量吸入器のような定量吸入器は、通常、噴射剤ガスを使用し、吸気中の作動を必要とする(例えば、WO 94/16970号、WO 98/35888号を参照されたい)。いくつか例を挙げると、Turbuhaler(商標)(Astra)、Rotahaler(登録商標)(Glaxo)、Diskus(登録商標)(Glaxo)、Inhale Therapeuticsによって市販されている装置のような乾燥粉末吸入器は、混合粉末の呼吸作動を使用する(引用により完全に本明細書中に組み込まれる、米国特許第4,668,218号(Astra)、EP 237507号(Astra)、WO 97/25086号(Glaxo)、WO 94/08552号(Dura)、米国特許第5,458,135号(Inhale)、WO 94/06498号(Fisons))。Ultravent(登録商標)ネブライザー(Mallinckrodt)及びAcorn II(登録商標)ネブライザー(Marquest Medical Products)(米国特許第5,404,871号(Aradigm)、WO 97/22376号)のようなネブライザー(上記の参考文献は引用により完全に本明細書中に組み込まれる)は、溶液からエアロゾルを生じさせるが、定量吸入器、乾燥粉末吸入器などは、小粒子エアロゾルを発生させる。そのような市販の吸入装置の例は非限定的な例であり、範囲が限定されることを意図するものではない。
【0203】
ある実施態様において、本明細書に記載の二重特異性結合分子を含むスプレーは、本明細書に記載の少なくとも1つの二重特異性結合分子の懸濁液又は溶液を加圧下でノズルから押し出すことによって生成させることができる。ノズルのサイズ及び形状、加えられる圧力、並びに液体供給速度は、所望の産出量及び粒子サイズを達成するように選択することができる。エレクトロスプレーは、例えば、キャピラリー又はノズルフィードと接続した電場によって生成させることができる。好都合なことに、スプレーによって送達される本明細書に記載の少なくとも1つの二重特異性結合分子を含む組成物の粒子は、約10um未満、好ましくは、約1um〜約5um、最も好ましくは、約2um〜約3umの範囲の粒子サイズを有する。
【0204】
スプレーとともに使用するのに好適な本明細書に記載の少なくとも1つの二重特異性結合分子を含む組成物の製剤は、通常、少なくとも1つの二重特異性結合分子を、水溶液中に、約0.1mg〜約100mg/溶液のmlもしくはmg/gmの濃度、又はその中の任意の範囲もしくは値、例えば、限定されないが、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、45、50、60、70、80、90、又は100mg/ml又はmg/gmで含む。該製剤は、賦形剤、緩衝剤、等張剤、防腐剤、界面活性剤、及び好ましくは、亜鉛などの薬剤を含むことができる。該製剤は、賦形剤又は二重特異性結合分子組成物の安定化のための薬剤、例えば、緩衝剤、還元剤、バルクタンパク質、もしくは炭水化物を含むこともできる。そのような組成物を製剤化する際に有用なバルクタンパク質としては、アルブミン、プロタミンなどが挙げられる。抗体組成物タンパク質を製剤化する際に有用な典型的な炭水化物としては、スクロース、マンニトール、ラクトース、トレハロース、グルコースなどが挙げられる。該組成物は、エアロゾルを形成する際の溶液の噴霧化によって引き起こされる該組成物の表面誘導凝集を低下させるか又は防止することができる界面活性剤を含むこともできる。ポリオキシエチレン脂肪酸エステル及びアルコール、並びにポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルなどの、様々な従来の界面活性剤を利用することができる。量は、通常、製剤の0.001〜14重量%の範囲である。好ましい界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリソルベート80、ポリソルベート20などである。
【0205】
ある実施態様において、該組成物は、ネブライザー、例えば、ジェットネブライザー又は超音波ネブライザーを介して投与される。通常、ジェットネブライザーでは、圧搾空気源を用いて、開口部を通して高速空気噴射を生み出す。ガスがノズルの先に広がると、低圧力領域が生じ、これにより、抗体組成物タンパク質の溶液が、液体リザーバに接続されたキャピラリーチューブを通して引かれる。キャピラリーチューブからの液体流は、それが該チューブから出る時に剪断されて、不安定なフィラメント及び液滴になり、エアロゾルを生成する。様々な形状、流速、及びバッフルタイプを利用して、所与のジェットネブライザーから所望の性能特性を達成することができる。超音波ネブライザーでは、高周波数電気エネルギーを用いて、典型的には圧電変換器を利用して、力学的振動エネルギーを生み出す。このエネルギーは、直接的にか又はカップリング流体を通してかのいずれかで、抗体組成物タンパク質の製剤に伝達され、該抗体組成物タンパク質を含むエアロゾルを生成する。ネブライザーによって送達される抗体組成物タンパク質の粒子は、約10um未満、好ましくは、約1um〜約5um、及び最も好ましくは、約2um〜約3umの範囲の粒子サイズを有することが好都合である。
【0206】
ある実施態様において、該組成物は、噴射剤、本明細書に記載の少なくとも1つの二重特異性結合分子、及び任意の賦形剤又は他の添加剤が液化高圧ガスを含む混合物としてキャニスターに含まれる、定量吸入器(MDI)を介して投与される。定量バルブの作動は、ダイ混合物(die mixture)を、好ましくは、約10um未満、好ましくは、約1um〜約5um、及び最も好ましくは、約2um〜約3umのサイズ範囲の粒子を含むエアロゾルとして放出させる。所望のエアロゾル粒子サイズは、ジェットミリング、スプレー乾燥、臨界点凝縮などを含む、当業者に公知の様々な方法によって産生される抗体組成物タンパク質の製剤を利用することによって得ることができる。好ましい定量吸入器としては、3M又はGlaxoによって製造され、かつハイドロフルオロカーボン噴射剤を利用しているものが挙げられる。
【0207】
定量吸入器装置とともに使用するための本明細書に記載の二重特異性結合分子の製剤は、通常、少なくとも1つの抗IL-6抗体を含む微細粉末を、例えば、界面活性剤の助けを借りて噴射剤に懸濁された非水性媒体中の懸濁液として含む。噴射剤は、この目的で利用される任意の従来の材料、例えば、クロロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、又はトリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタノール、及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンを含む炭化水素、HFA-134a(ハイドロフルオロアルカン-134a)、HFA-227(ハイドロフルオロアルカン-227)などであることができる。噴射剤はハイドロフルオロカーボンであることが好ましい。該界面活性剤は、活性剤を化学分解などに対して保護するために、少なくとも1つの二重特異性結合分子を噴射剤中の懸濁液として安定化するように選択することができる。好適な界面活性剤としては、ソルビタントリオレエート、大豆レシチン、オレイン酸などが挙げられる。場合によっては、エタノールなどの溶媒を使用する溶液エアロゾルが好ましい。タンパク質の製剤のための当技術分野で公知のさらなる薬剤を製剤中に含めることもできる。
【0208】
(5.5.3 経口製剤)
ある実施態様において、本明細書に提供される組成物は、経口投与用に製剤化される。ある実施態様において、経口投与用に、組成物及び本明細書に記載の少なくとも1つの二重特異性結合分子を投与する方法は、腸壁の透過性を人為的に増大させるための、例えば、レゾルシノール並びに非イオン性界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル及びn-ヘキサデシルポリエチレンエーテルなどのアジュバントの共投与、並びに酵素的分解を阻害するための、例えば、膵臓トリプシン阻害剤、ジイソプロピルフルオロホスフェート(DFF)、及びトラジロールなどの酵素阻害剤の共投与に頼っている。経口投与用の固体型剤形の活性成分化合物は、スクロース、ラクトース、セルロース、マンニトール、トレハロース、ラフィノース、マルチトール、デキストラン、デンプン、寒天、アルギネート、キチン、キトサン、ペクチン、ガムトラガカント、アラビアゴム、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、合成又は半合成ポリマー、及びグリセリドを含む、少なくとも1つの添加剤と混合することができる。これらの剤形は、例えば、不活性希釈剤、滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、パラベン、防腐剤、例えば、ソルビン酸、アスコルビン酸、α-トコフェロール、酸化防止剤、例えば、システイン、崩壊剤、結合剤、増粘剤、緩衝剤、甘味剤、香味剤、芳香剤などのような、他のタイプの添加剤を含むこともできる。
【0209】
ある実施態様において、経口投与用の錠剤及び丸剤をさらに加工して、腸溶性コーティングされた調製物にすることができる。ある実施態様において、経口投与用の液体調製物としては、例えば、医学的使用に対して許容されるエマルジョン、シロップ、エリキシル、懸濁液、及び溶液調製物が挙げられる。これらの調製物は、該分野で通常使用される不活性希釈剤、例えば、水を含むことができる。リポソーム調製物は、例えば、インスリン及びヘパリンについて記載されている(米国特許第4,239,754号)ような、経口投与調製物に利用することができる。さらに、混合アミノ酸の人工ポリマーのマイクロスフェア(プロテノイド)は、例えば、米国特許第4,925,673号に記載されているような、医薬の経口投与において利用することができる。さらに、担体化合物、例えば、米国特許第5,879,681号及び米国特許第5,871,753号に記載されているものを、生物活性剤の経口投与において使用することができる。
【0210】
(5.5.4 粘膜製剤)
ある実施態様において、本明細書に提供される組成物は、粘膜表面からの吸収用に製剤化される。ある実施態様において、粘膜表面からの吸収用に、組成物及び本明細書に記載の少なくとも1つの二重特異性結合分子を投与する方法は、エマルジョン粒子の粘膜付着を達成することによって粘膜表面からの吸収を促進する、複数のサブミクロン粒子、粘膜付着性巨大分子、生体活性ペプチド、及び水性連続相を含むエマルジョンを含む(米国特許第5,514,670号)。本明細書に提供されるエマルジョンの適用に好適な粘膜表面としては、例えば、角膜、結膜、口腔内、舌下、鼻腔、膣内、肺、胃、腸、及び直腸への投与経路を挙げることができる。膣内又は直腸投与用の製剤、例えば、坐剤は、賦形剤として、例えば、ポリアルキレングリコール、ワセリン、ココアバターなどを含むことができる。鼻腔内投与用の製剤は固体であり、かつ賦形剤として、例えば、ラクトースを含むことができるか、又は点鼻剤の水性もしくは油性溶液であることができる。口腔内投与用に、賦形剤としては、例えば、糖、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、アルファ化デンプンなどが挙げられる(米国特許第5,849,695号)。
【0211】
(5.5.5 経皮製剤)
ある実施態様において、本明細書に提供される組成物は、経皮投与用に製剤化される。ある実施態様において、経皮投与用に、該組成物は、例えば、リポソーム又はポリマー性ナノ粒子、マイクロ粒子、マイクロカプセル、又はマイクロスフェア(別途明記されない限り、マイクロ粒子と総称される)などの送達装置に封入された、本明細書に記載の少なくとも1つの二重特異性結合分子を含む。いくつかの好適な装置が経皮投与用に知られており、これには、合成ポリマー、例えば、ポリヒドロキシ酸、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びこれらのコポリマー、ポリオルトエステル、ポリ無水物、並びにポリホスファゼン、並びに天然ポリマー、例えば、コラーゲン、ポリアミノ酸、アルブミン、及び他のタンパク質、アルギネート及び他の多糖、並びにこれらの組合せから作られたマイクロ粒子が含まれる(米国特許第5,814,599号)。
【0212】
(5.5.6 キット)
本明細書に提供されるのは、本明細書に記載の1以上の二重特異性結合分子又は本明細書に記載の1以上の組成物を含むキットである。ある実施態様において、該キットは、包装材料及び本明細書に記載の二重特異性結合分子又は組成物を含む組成物を含む少なくとも1つのバイアルを含む。ある実施態様において、該バイアルは、本明細書に記載の少なくとも1つの二重特異性結合分子又は組成物の溶液を、任意に水性希釈剤中の、規定の緩衝剤及び/又は防腐剤とともに含む。ある実施態様において、該包装材料は、そのような溶液を1、2、3、4、5、6、9、12、18、20、24、30、36、40、48、54、60、66、72時間、又はそれより長い期間にわたって保持することができることを示すラベルを含む。ある実施態様において、該キットは、2つのバイアルを含む。ある実施態様において、第1のバイアルは、本明細書に記載の少なくとも1つの凍結乾燥された二重特異性結合分子又は組成物を含み、第2のバイアルは、規定の緩衝剤又は防腐剤の水性希釈剤を含む。ある実施態様において、該包装材料は、対象に、少なくとも1つの凍結乾燥された二重特異性結合分子を水性希釈剤中で再構成して、24時間以上の期間にわたって保持することができる溶液を形成させるように指示するラベルを含む。ある実施態様において、該包装材料は、そのような溶液を1、2、3、4、5、6、9、12、18、20、24、30、36、40、48、54、60、66、72時間、又はそれより長い期間にわたって保持することができることを示すラベルを含む。
【0213】
ある実施態様において、本明細書に提供される組成物は、対象に、溶液としてか、或いは水、防腐剤、並びに/又は賦形剤、好ましくは、リン酸緩衝剤及び/もしくは生理食塩水及び選択された塩を水性希釈剤中に含む第2のバイアルで再構成される少なくとも1つの凍結乾燥された二重特異性結合分子又は組成物のバイアルを含む二重バイアルとして提供することができる。単一の溶液バイアル又は再構成を必要とする二重バイアルのいずれかを何度も再利用することができ、該バイアルは、1回又は複数回の対象の治療に十分であり得、したがって、現在利用可能なものよりも好都合な治療レジメンを提供することができる。
【0214】
ある実施態様において、本明細書に記載の二重特異性結合分子又は組成物を含むキットは、即時から24時間以上の期間にわたる投与に有用である。したがって、該キットは、顕著な利点を患者に提供する。ある実施態様において、本明細書に記載の二重特異性結合分子又は組成物を含むキットは、任意に、約2℃〜約40℃の温度で安全に保存され、タンパク質の生物活性を長期間保持することができ、したがって、該溶液を6、12、18、24、36、48、72、もしくは96時間、又はそれより長い期間にわたって保持及び/又は使用することができることを示す包装ラベルが認められる。ある実施態様において、該キットは、を含む。
【0215】
保存希釈剤を使用する場合、そのようなラベルは、最大1〜12カ月、半年、1年半、及び/又は2年の使用を含むことができる。
【0216】
該キットは、薬局、医院、又は他のそのような施設及び機関に、溶液か、又は水性希釈剤を含む第2のバイアルで再構成される少なくとも1つの凍結乾燥された二重特異性結合分子もしくは組成物のバイアルを含む二重バイアルかを提供することによって、対象、例えば、第5.7節に記載の対象に間接的に提供することができる。この場合、溶液を最大1リットル又はさらにより大きいサイズとして、大きいリザーバを提供することができ、該リザーバから、小さいバイアルに移すために、少量の少なくとも1つの抗体溶液を1回又は複数回取り出し、薬局又は医院からその客及び/又は患者に提供することができる。
【0217】
これらの単一バイアルシステムを含む広く認められているバイアルとしては、溶液の送達用のペン-インジェクター装置、例えば、Becton Dickensen(Franklin Lakes, N.J.,)、Disetronic(Burgdorf, Switzerland; Bioject, Portland, Oreg.; National Medical Products、Weston Medical(Peterborough, UK)、Medi-Ject Corp(Minneapolis, Minn.)によって製造又は開発された、例えば、BD Pens、BD Autojector(登録商標)、Humaject(登録商標)が挙げられる。二重バイアルシステムを含む広く認められているデバイスとしては、再構成された溶液の送達用のカートリッジ中で凍結乾燥された薬物を再構成するためのペン-インジェクターシステム、例えば、HumatroPen(登録商標)が挙げられる。
【0218】
ある実施態様において、該キットは、包装材料を含む。ある実施態様において、包装材料は、規制当局によって必要とされる情報の他に、製品を使用し得る条件を提供する。ある実施態様において、包装材料は、対象に、少なくとも1つの二重特異性結合分子を水性希釈剤中で再構成して、溶液を形成させる、及び2バイアル湿/乾製品に関しては、該溶液を2〜24時間又はそれより長い期間にわたって使用するという指示を提供する。単一バイアルの溶液製品に関しては、該ラベルは、そのような溶液を2〜24時間又はそれより長い期間にわたって使用することができることを示す。好ましい実施態様において、該キットは、ヒト医薬製品使用に有用である。ある実施態様において、該キットは、動物への医学的使用に有用である。好ましい実施態様において、該キットは、イヌ医薬製品使用に有用である。好ましい実施態様において、該キットは、静脈内投与に有用である。別の好ましい実施態様において、該キットは、腹腔内、髄腔内、脳室内、又は脳実質内投与に有用である。
【0219】
(5.6 使用及び方法)
(5.6.1 治療的使用)
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、対象におけるHER2陽性癌細胞を治療する方法であって、それを必要とする対象に、第5.1節もしくは第5.2節に記載の二重特異性結合分子の治療有効量、第5.3節に記載のそのような二重特異性結合分子をコードする細胞、ポリヌクレオチド、もしくはベクターの治療有効量、又は第5.5節に記載の医薬組成物の治療有効量、又は第5.4節に記載の二重特異性結合分子に結合したT細胞の治療有効量を投与することを含む、方法である。具体的な実施態様において、該対象は、第5.7節に記載の対象である。具体的な実施態様において、該二重特異性結合分子は、第5.8節に記載の用量で投与される。具体的な実施態様において、該二重特異性結合分子は、第5.5節に記載の方法に従って投与される。好ましい実施態様において、該二重特異性結合分子は、静脈内に投与される。別の好ましい実施態様において、該二重特異性結合分子は、髄腔内、脳室内、脳実質内、又は腹腔内に投与される。具体的な実施態様において、該二重特異性結合分子は、第5.9節に記載の1以上のさらなる医薬活性剤と組み合わせて投与される。
【0220】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、対象におけるHER2陽性癌細胞を治療する方法であって、それを必要とする対象に、第5.1節又は第5.2節に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法である。具体的な実施態様において、該医薬組成物は、第5.5節に記載の組成物である。具体的な実施態様において、該対象は、第5.7節に記載の対象である。具体的な実施態様において、該医薬組成物は、第5.8節に記載の用量で投与される。具体的な実施態様において、該医薬組成物は、第5.5節に記載の方法に従って投与される。好ましい実施態様において、該医薬組成物は、静脈内に投与される。別の好ましい実施態様において、該二重特異性結合分子は、髄腔内、脳室内、脳実質内、又は腹腔内に投与される。具体的な実施態様において、該医薬組成物は、第5.9節に記載の1以上のさらなる医薬活性剤と組み合わせて投与される。
【0221】
特定の種の対象における二重特異性結合分子の使用のために、その特定の種のHER2及びCD3に結合する二重特異性結合分子を使用する。例えば、ヒトを治療するために、該二重特異性結合分子は、ヒトHER2に結合する免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)ヒトCD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一である、非グリコシル化モノクローナル抗体を含む。別の例において、イヌを治療するために、該二重特異性結合分子は、イヌHER2に結合する免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体であって、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含み、該軽鎖が第1の軽鎖及び第2の軽鎖であり、ここで、該第1の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第1の単鎖可変断片(scFv)に融合して、第1の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、該第2の軽鎖が、ペプチドリンカーを介して第2のscFvに融合して、第2の軽鎖融合ポリペプチドを生み出し、ここで、該第1及び第2のscFvが、(i)同一であり、かつ(ii)イヌCD3に結合し、該第1及び第2の軽鎖融合ポリペプチドが同一である、非グリコシル化モノクローナル抗体を含む。様々な種のHER2及び/又はCD3と交差反応性である二重特異性結合分子を用いて、それらの種の対象を治療することができる。例えば、トラスツズマブは、トラスツズマブによって認識されるHER2中のエピトープが比較的保存されているので、ヒトHER2とイヌHER2の両方に結合すると考えられる。例えば、Singerらの文献、2012, Mol Immunol, 50: 200-209も参照されたい。
【0222】
さらに、特定の種の対象における二重特異性結合分子の使用のために、該二重特異性結合分子、好ましくは、免疫グロブリン部分の定常領域は、その特定の種に由来する。例えば、ヒトを治療するために、該二重特異性結合分子は、免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体を含むことができ、ここで、該免疫グロブリンは、ヒト定常領域を含む。別の例において、イヌを治療するために、該二重特異性結合分子は、免疫グロブリンである非グリコシル化モノクローナル抗体を含むことができ、ここで、該免疫グロブリンは、イヌ定常領域を含む。具体的な実施態様において、ヒトを治療する場合、該免疫グロブリンはヒト化されている。具体的な実施態様において、該対象はヒトである。具体的な実施態様において、該対象はイヌである。
【0223】
具体的な実施態様において、該HER2陽性癌は、乳癌、胃癌、骨肉腫、線維形成性小円形細胞癌、頭頸部癌の扁平上皮細胞癌、卵巣癌、前立腺癌、膵癌、多形性膠芽腫、胃接合部腺癌、胃食道接合部腺癌、子宮頸癌、唾液腺癌、軟部組織肉腫、白血病、黒色腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、神経芽腫、又はHER2受容体を発現する任意の他の新生物性組織である。
【0224】
具体的な実施態様において、該HER2陽性癌細胞は、トラスツズマブ、セツキシマブ、ラパチニブ、エルロチニブ、又はHERファミリーの受容体を標的とする任意の他の小分子もしくは抗体による治療に対して抵抗性である。具体的な実施態様において、トラスツズマブ、セツキシマブ、ラパチニブ、エルロチニブ、又はHERファミリーの受容体を標的とする任意の他の小分子もしくは抗体による治療に対して抵抗性である腫瘍は、本発明の二重特異性結合分子による治療に対して応答性である。
【0225】
具体的な実施態様において、治療は、限定されないが、検出可能であるか又は検出不可能であるかを問わず、症状の軽減、疾患の程度の縮小、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化させないこと)、疾患進行の遅延又は減速、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解(部分的又は完全を問わない)を含む、有益な又は所望の臨床的結果を達成するためのものであることができる。具体的な実施態様において、「治療」は、治療を受けない場合の予想される生存と比較して、生存を延長させるためのものでもある。
【0226】
(5.6.2 診断的使用)
ある実施態様において、本明細書に記載の二重特異性結合分子は、本明細書に記載の疾病(例えば、HER2陽性癌細胞が関与する疾病)を検出、診断、又はモニタリングするために、診断目的で使用することができる。ある実施態様において、診断目的で使用するための二重特異性結合分子は、第5.2節に記載の通りに標識される。
【0227】
ある実施態様において、本明細書に提供されるのは、本明細書に記載の疾病の検出のための方法であって、(a)対象の細胞又は組織試料中のHER2の発現を、本明細書に記載の1以上の二重特異性結合分子を用いてアッセイすること;及び(b)HER2発現のレベルを、対照レベル、例えば、正常組織試料(例えば、本明細書に記載の疾病を有しない対象に由来するもの、又は該疾病の発症前の同じ患者に由来するもの)のレベルと比較することを含み、それにより、HER2発現の対照レベルと比較したHER2発現のアッセイレベルの増大又は減少が本明細書に記載の疾病を示すものとなる、方法である。
【0228】
本明細書に記載の抗体を用いて、本明細書に記載の又は当業者に公知の古典的な免疫組織学的方法を用いて、生体試料中のHER2レベルをアッセイすることができる(例えば、Jalkanenらの文献、1985, J. Cell. Biol. 101:976-985;及びJalkanenらの文献、1987, J. Cell . Biol. 105:3087-3096を参照されたい)。タンパク質遺伝子発現を検出するのに有用な他の抗体ベースの方法としては、免疫アッセイ、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)及び放射免疫アッセイ(RIA)が挙げられる。好適な抗体アッセイ標識は当技術分野で公知であり、これには、酵素標識、例えば、グルコースオキシダーゼ;放射性同位体、例えば、ヨウ素(125I、121I)、炭素(14C)、硫黄(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(121In)、及びテクネチウム(99Tc);発光標識、例えば、ルミノール;及び蛍光標識、例えば、フルオレセイン及びローダミン、並びにビオチンが含まれる。
【0229】
ある実施態様において、本明細書に記載の疾病(例えば、HER2陽性癌)のモニタリングは、該診断方法を初回診断後のしばらくの間繰り返すことによって実施される。
【0230】
標識分子の存在は、インビボスキャニングのための当技術分野で公知の方法を用いて、対象で検出することができる。当業者は、特定の標識を検出するための適切な方法を決定することができるであろう。本発明の診断方法において使用し得る方法及び装置としては、コンピュータ断層撮影法(CT)、全身スキャン、例えば、陽電子放出断層撮影法(PET)、磁気共鳴イメージング(MRI)、及び超音波検査法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0231】
(5.7 患者集団)
本明細書に提供される方法に従って治療される対象は、任意の哺乳動物、例えば、齧歯類、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ブタ、サル、霊長類、又はヒトなどであることができる。好ましい実施態様において、該対象はヒトである。別の好ましい実施態様において、該対象はイヌである。
【0232】
ある実施態様において、本明細書に提供される方法に従って治療される対象は、限定されないが、乳癌、胃癌、骨肉腫、線維形成性小円形細胞癌、頭頸部癌の扁平上皮細胞癌、卵巣癌、前立腺癌、膵癌、多形性膠芽腫、胃接合部腺癌、胃食道接合部腺癌、子宮頸癌、唾液腺癌、軟部組織肉腫、白血病、黒色腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、神経芽腫、又はHER2受容体を発現する任意の他の新生物性組織を含む、HER2陽性癌を有すると診断されている。
【0233】
ある実施態様において、該対象は、トラスツズマブ、セツキシマブ、ラパチニブ、エルロチニブ、又はHERファミリーの受容体を標的とする任意の他の小分子もしくは抗体による治療に対して抵抗性である。具体的な実施態様において、トラスツズマブ、セツキシマブ、ラパチニブ、エルロチニブ、又はHERファミリーの受容体を標的とする任意の他の小分子もしくは抗体による治療に対して抵抗性である腫瘍は、本発明の二重特異性結合分子による治療に対して応答性である。
【0234】
ある実施態様において、本明細書に提供される方法に従って治療される対象は、トラスツズマブ、セツキシマブ、ラパチニブ、エルロチニブ、又はHERファミリーの受容体を標的とする任意の他の小分子もしくは抗体による治療に対して抵抗性であるHER2陽性癌を有する。ある実施態様において、本明細書に提供される方法に従って治療される対象は、本発明の二重特異性結合分子による治療に対して応答性であるHER2陽性癌を有する。
【0235】
ある実施態様において、本明細書に提供される方法に従って治療される対象は、転移性疾患、例えば、脳又は腹膜転移に対する1以上の化学療法レジメンを以前に受けたことがある。ある実施態様において、該対象は、転移性疾患に対する治療を以前に受けたことがない。
【0236】
(5.8 用量及びレジメン)
ある実施態様において、本明細書に提供される方法に従って対象に投与される第5.1節に記載の二重特異性結合分子の用量は、該対象のニーズによって決定される用量である。ある実施態様において、該用量は、該対象のニーズに従い、医師によって決定される
【0237】
具体的な実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子の用量は、トラスツズマブの用量よりも少ない。例えば、トラスツズマブ[処方情報の重要点](Trastuzumab[Highlights of Prescribing Information])。South San Francisco, CA: Genentech社; 2014を参照されたい。具体的な実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子の用量は、FDAが承認したトラスツズマブの用量よりも約20〜40倍少ない。
【0238】
ある実施態様において、本明細書に提供される方法に従って対象に投与される第5.1節に記載の二重特異性結合分子の用量は、0.01mg/kg〜0.025mg/kgであり、0.025mg/kg〜0.05mg/kgであり、0.05mg/kg〜0.1mg/kgであり、0.1mg/kg〜0.5mg/kg、0.1mg/kg〜0.6mg/kg、0.2mg/kg〜0.7mg/kg、0.3mg/kg〜0.8mg/kg、0.4mg/kg〜0.8mg/kg、0.5mg/kg〜0.9mg/kg、又は0.6mg/kg〜1である。
【0239】
ある実施態様において、本明細書に提供される方法に従って対象に投与される第5.1節に記載の二重特異性結合分子の用量は、初期用量と、その後の、維持用量である調整用量である。ある実施態様において、初期用量は1回投与される。ある実施態様において、初期は、0.01mg/kg〜0.025mg/kgであり、0.025mg/kg〜0.05mg/kgであり、0.05mg/kg〜0.1mg/kgであり、0.1mg/kg〜0.5mg/kg、0.1mg/kg〜0.6mg/kg、0.2mg/kg〜0.7mg/kg、0.3mg/kg〜0.8mg/kg、0.4mg/kg〜0.8mg/kg、0.5mg/kg〜0.9mg/kg、又は0.6mg/kg〜1である。ある実施態様において、初期用量は、静脈内注入により、90分間にわたって投与される。ある実施態様において、調整用量は、約4週間に1回投与される。ある実施態様において、調整用量は、少なくとも13週間、少なくとも26週間、又は多くても52週間投与される。ある実施態様において、調整用量は、52週間投与される。ある実施態様において、調整用量は、0.01mg/kg〜0.025mg/kgであり、0.025mg/kg〜0.05mg/kgであり、0.05mg/kg〜0.1mg/kgであり、0.1mg/kg〜0.5mg/kg、0.1mg/kg〜0.6mg/kg、0.2mg/kg〜0.7mg/kg、0.3mg/kg〜0.8mg/kg、0.4mg/kg〜0.8mg/kg、0.5mg/kg〜0.9mg/kg、又は0.6mg/kg〜1である。ある実施態様において、調整用量は、静脈内注入により、30分間にわたって投与される。ある実施態様において、調整用量は、静脈内注入により、30〜90分間にわたって投与される。
【0240】
別の具体的な実施態様において、本明細書に提供される方法とともに使用するための第5.1節に記載の二重特異性結合分子は、週に1回、2回、又は3回、1週間毎、2週間毎、3週間毎、又は4週間毎に投与される。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、以下のレジメンに従って投与される:(i)1週目に、1回、2回、又は3回投与;(ii)1週目以降、1週間に1回、2回、3回、又は4回投与;その後、(iii)合計1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12カ月間、毎月、1週間に1回、2回、又は3回投与。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、以下のレジメンに従って投与される:(i)1週目に、3回投与;(ii)1週目以降、1週間に3回投与;その後、(iii)合計1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12カ月間、毎月、1週間に3回投与。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、以下のレジメンに従って投与される:(i)1週目に、3回投与;(ii)1週目以降、1週間に2回投与;その後、(iii)合計1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12カ月間、毎月、1週間に2回投与。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、以下のレジメンに従って投与される:(i)1週目に、3回投与;(ii)1週目以降、1週間に1回投与;その後、(iii)合計1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12カ月間、毎月、1週間に1回投与。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、以下のレジメンに従って投与される:(i)1週目に、2回投与;(ii)1週目以降、1週間に2回投与;その後、(iii)合計1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12カ月間、毎月、1週間に2回投与。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、以下のレジメンに従って投与される:(i)1週目に、2回投与;(ii)1週目以降、1週間に1回投与;その後、(iii)合計1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12カ月間、毎月、1週間に1回投与。ある実施態様において、該二重特異性結合分子は、以下のレジメンに従って投与される:(i)1週目に、1回投与;(ii)1週目以降、1週間に1回投与;その後、(iii)合計1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12カ月間、毎月、1週間に1回投与。
【0241】
ある実施態様において、第5.1節に記載の二重特異性結合分子は、本明細書に提供される方法に従って、第5.9節に記載の第2の医薬活性剤と組み合わせて、対象に投与される。
【0242】
別の好ましい実施態様において、該二重特異性結合分子は、髄腔内、脳室内、脳実質内、又は腹腔内に投与される。
【0243】
(5.9 組合せ療法)
ある実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子、又は該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞は、1以上のさらなる医薬活性剤、例えば、癌化学療法剤と組み合わせて投与することができる。ある実施態様において、そのような組合せ療法は、治療の個々の成分の同時、連続、又は個別投与によって達成することができる。ある実施態様において、該二重特異性結合分子又は該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞、及び1以上のさらなる医薬活性剤は相乗的であり得、その結果、該成分のどちらか又は両方の用量は、単剤療法として与えられるどちらかの成分の用量と比較して低下させることができる。或いは、ある実施態様において、該二重特異性結合分子又は該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞、及び1以上のさらなる医薬活性剤は相加的であり得、その結果、該二重特異性結合分子の用量及び該1以上のさらなる医薬活性剤の用量は、単剤療法として与えられるどちらかの成分の用量と同様又は同一である。
【0244】
ある実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子、又は該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞は、1以上のさらなる医薬活性剤と同じ日に投与される。ある実施態様において、該二重特異性結合分子又は該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞は、1以上のさらなる医薬活性剤の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12時間前に投与される。ある実施態様において、該二重特異性結合分子又は該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞は、1以上のさらなる医薬活性剤の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12時間後に投与される。ある実施態様において、該二重特異性結合分子又は該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞は、1以上のさらなる医薬活性剤の1日、2日、3日、又はそれよりも前に投与される。ある実施態様において、該二重特異性結合分子又は該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞は、1以上のさらなる医薬活性剤の1日、2日、3日、又はそれよりも後に投与される。ある実施態様において、該二重特異性結合分子又は該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞は、1以上のさらなる医薬活性剤の1、2、3、4、5、又は6週間前に投与される。ある実施態様において、該二重特異性結合分子又は該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞は、1以上のさらなる医薬活性剤の1、2、3、4、5、又は6週間後に投与される。
【0245】
ある実施態様において、さらなる医薬活性剤はドキソルビシンである。ある実施態様において、さらなる医薬活性剤はシクロホスファミドである。ある実施態様において、さらなる医薬活性剤はパクリタキセルである。ある実施態様において、さらなる医薬活性剤はドセタキセルである。ある実施態様において、1以上のさらなる医薬活性剤はカルボプラチンである。
【0246】
ある実施態様において、さらなる医薬活性剤は、例えば、IL15、IL15R/IL15複合体、IL2、又はGMCSFなどのサイトカインである。
【0247】
ある実施態様において、さらなる医薬活性剤は、例えば、外部ビーム又は放射免疫療法などの、細胞のHER2発現を増大させる薬剤である。例えば、Wattenbergらの文献、2014, British Journal of Cancer, 110: 1472を参照されたい。
【0248】
ある実施態様において、さらなる医薬活性剤は放射線治療剤である。
【0249】
ある実施態様において、さらなる医薬活性剤は、HER2シグナル伝達経路を直接制御する薬剤、例えば、ラパチニブである。例えば、Scaltiriらの文献、2012, 28(6): 803-814を参照されたい。
【0250】
ある実施態様において、さらなる医薬活性剤は、腫瘍細胞の細胞死、アポトーシス、オートファジー、又は壊死を増大させる薬剤である。
【0251】
ある実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子、又は該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞は、2つのさらなる医薬活性剤、例えば、トラスツズマブとの組合せで使用されるものと組み合わせて投与される(トラスツズマブ[処方情報の重要点](Trastuzumab[Highlights of Prescribing Information])。South San Francisco, CA: Genentech社; 2014を参照されたい)。ある実施態様において、2つのさらなる医薬活性剤は、ドキソルビシンとパクリタキセルである。ある実施態様において、2つのさらなる医薬活性剤は、ドキソルビシンとドセタキセルである。ある実施態様において、2つのさらなる医薬活性剤は、シクロホスファミドとパクリタキセルである。ある実施態様において、2つのさらなる医薬活性剤は、シクロホスファミドとドセタキセルである。ある実施態様において、2つのさらなる医薬活性剤は、ドセタキセルとカルボプラチンである。ある実施態様において、2つのさらなる医薬活性剤は、シスプラチンとカペシタビンである。ある実施態様において、2つのさらなる医薬活性剤は、シスプラチンと5-フルオロウラシルである。
【0252】
ある実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子、又は該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞は、マルチモダリティ型のアントラサイクリンベースの療法の後に単剤として投与される。
【0253】
ある実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子、又は該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞は、転移性疾患、例えば、脳又は腹膜転移に対する1以上の化学療法レジメンの後に投与される。具体的な実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子、又は該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞は、細胞減少化学療法と組み合わせて投与される。具体的な実施態様において、該投与は、対象を細胞減少化学療法で治療した後に実施される。
【0254】
具体的な実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子、該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞、又は該二重特異性結合分子を含む医薬組成物は、T細胞注入と組み合わせて投与される。具体的な実施態様において、該二重特異性結合分子は、T細胞に結合させられない。具体的な実施態様において、該二重特異性結合分子は、T細胞に結合させられる。具体的な実施態様において、T細胞への該二重特異性結合分子の結合は非共有結合的である。具体的な実施態様において、本明細書に提供される二重特異性結合分子、該二重特異性結合分子をコードするポリヌクレオチド、ベクター、もしくは細胞、又は該二重特異性結合分子を含む医薬組成物の投与は、患者をT細胞注入で治療した後に実施される。具体的な実施態様において、該T細胞注入は、T細胞が投与される対象にとって自己のものであるT細胞を用いて実施される。具体的な実施態様において、該T細胞注入は、T細胞が投与される対象にとって同種異系のものであるT細胞を用いて実施される。具体的な実施態様において、T細胞は、本明細書に記載の二重特異性結合分子と同一の分子に結合させることができる。具体的な実施態様において、該二重特異性結合分子と同一の分子に対するT細胞の結合は非共有結合的である。具体的な実施態様において、T細胞はヒトT細胞である。二重特異性結合分子をT細胞に結合させるために使用することができる方法は当技術分野で公知である。例えば、Lumらの文献、2013, Biol Blood Marrow Transplant, 19:925-33、Janewayらの文献、免疫生物学:健康及び疾患における免疫系(Immunobiology: The Immune System in Health and Disease)、第5版、New York: Garland Science; Vaishampayanらの文献、2015, Prostate Cancer, 2015:285193、及びStromnesらの文献、2014, Immunol Rev. 257(1):145-164を参照されたい。Vaishampayanらの文献、2015, Prostate Cancer, 2015:285193も参照されたく、これは、該二重特異性結合分子をT細胞に結合させるための、以下の例示的な非限定的方法を記載している:
末梢血単核細胞(PBMC)を回収して、1回又は2回の白血球フェレーシスから活性化T細胞増殖のためのリンパ球を得ることができる。PBMCを、例えば、20ng/mLのOKT3で活性化させ、100IU/mLのIL-2中で増殖させて、最大14日の培養期間中に、Uedaらの文献、1993, Transplantation, 56(2):351-356及びUbertiらの文献、1994, Clinical Immunology and Immunopathology, 70(3):234-240に記載されているようなcGMP条件の下で、400〜3200億個の活性化T細胞を発生させることができる。細胞を、通気性のあるフラスコ(FEP Bag Type 750-Cl, American Fluoroseal Corporation, Gaithersburg, MD)に入れて、2%熱非働化プールヒト血清を補充したRPMI 1640培地(Lonza)中で成長させる。活性化T細胞を、約2〜3日毎に、細胞数に基づいて分ける。14日後、活性化T細胞を、106個の活性化T細胞当たり50ngの本明細書に記載の二重特異性結合分子とともに培養する。その後、混合物を洗浄し、凍結保存する。
【実施例】
【0255】
(6.実施例)
(6.1 実施例1)
(6.1.1 序論)
この実施例は、IgG1プラットフォームに基づくHER2/CD3二重特異性結合分子(本明細書において、「HER2-BsAb」と呼ばれる)を記載している。このプラットフォームは:(1)腫瘍への取込みを最大化するための最適なサイズ、(2)結合力を維持するための腫瘍標的に対する二価性、(3)CHO細胞で任意のIgG(重鎖及び軽鎖)と同様に自然に会合する、標準的なプロテインA親和性クロマトグラフィーにより精製可能な、スキャフォールド、(4)抗CD3成分を機能的に一価にし、それゆえ、T細胞の自発的活性化を低下させる構造配置、並びに(5)動物モデルでの腫瘍標的化効率が証明済みのプラットフォームを可能にするために利用された。この二重特異性結合分子は、トラスツズマブと同じ特異性を有するが;また、CD3(+) T細胞を動員及び活性化して、それらをHER2発現腫瘍細胞に再誘導し、強力な抗腫瘍応答を発生させる。任意の理論に束縛されるものではないが、このBsAbの有効性は、ポリクローナルT細胞の細胞傷害能、及びHER2経路の活性化状態とは無関係に、低レベルであってもHER2を発現する腫瘍細胞を標的とするその独特な能力の利用に重点を置いたものである。
【0256】
(6.1.2 材料及び方法)
(6.1.2.1 HER2-BsAbの設計、産生、及び精製解析)
HER2-BsAbフォーマットをヒトIgG1の軽鎖のC-末端とのhuOKT3 scFv融合体として設計した。このVHは、非グリコシル化形態(配列番号62)のための標準的なヒトIgG1 Fc領域中のN297A突然変異を除いて、トラスツズマブIgG1のVHと同一であったが、軽鎖は、VL-Cκ-(G4S)3-scFv(配列番号60)として構築される。トラスツズマブ由来のVH及びVLドメイン、並びにhuOKT3 scFvをコードするヌクレオチド配列を、適当な隣接制限酵素部位を有するようにGenScriptにより合成し、標準的な哺乳動物発現ベクターにサブクローニングした。HER2-C825対照BsAb(C825は、ルテチウム及びイットリウムを含むランタニドを含む1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)-金属錯体に対する高い親和性を有するマウスscFv抗体である)を同じ方法で構築した。
【0257】
BsAbの安定産生のために、線状プラスミドDNAを用いて、CHO-S細胞(Invitrogen)をトランスフェクトした。2×106個の細胞を、5μgのプラスミドDNAで、Nucleofection(Lonza)によりトランスフェクトし、その後、6ウェル培養プレートにて、37℃で2日間、8mM L-グルタミン(Invitrogen)を補充したCD OptiCHO培地中で回収した。安定なプールを500μg/mLのハイグロマイシンで約2週間選択し、その後、単一クローンを限界希釈で選び出した。HER2-BsAb力価を、それぞれ、HER2(+) AU565細胞及びCD3(+) Jurket細胞のELISAによって決定し、発現が最大の安定クローンを選択した。
【0258】
BsAbプロデューサー株をOptiCHO培地中で培養し、成熟した上清を回収した。プロテインA親和性カラム(GE Healthcare)を、0.15M NaClを含む25mMクエン酸ナトリウム緩衝液、pH 8.2で予め平衡化させた。結合したBsAbを0.1Mクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液、pH 3.9で溶出させ、25mMクエン酸ナトリウム、pH 8.5(1:10 v/v比)で中和した。保存用に、BsAbを25mMクエン酸ナトリウム、0.15M NaCl、pH 8.2中に透析し、分注して-80℃で凍結させた。2マイクログラムのタンパク質を、4〜15%Tris-Glycine Ready Gel System(Bio-Rad)を用いて、還元条件下、SDS-PAGEにより解析した。Invitrogen製のSeeBlue Plus2 Pre-Stained Standardをタンパク質MWマーカーとして使用した。電気泳動後、Coomassie G-250(GelCode Blue Stain Reagent; Pierce)を用いて、ゲルを染色した。HER2-BsAbの純度もサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)により評価した。約20μgのタンパク質を、0.5mL/分の流量の0.4M NaClO4、0.05M NaH2PO4、pH 6.0の緩衝液を用いて、TSK-GEL G3000SWXL 7.8mm×30cm、5μmカラム(TOSOH Bioscience)に注入し、280nmでUV検出した。10マイクロリットルのゲル濾過標準(Bio-Rad)をMWマーカーについて同時に解析した。
【0259】
(6.1.2.2 FACS解析)
細胞を、5μg/mLの1次抗体(トラスツズマブ、HER2-BsAb、又はセツキシマブ)とともに、PBS中、4℃で30分間インキュベートし、余分な1次抗体を洗浄した後、ヒトFcに特異的なフィコエリスリン標識2次抗体を使用した。細胞を1%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定した後、FACSCaliburサイトメーター(BD biosciences)で解析した。対照は、2次抗体のみを用いた細胞であり、これに対して、平均蛍光強度(MFI)を5に設定した。FACSデータは、各プロットの右上のパネルにおけるMFIを示している。
【0260】
(6.1.2.3 51Cr放出アッセイ)
51Cr放出アッセイを、抗CD3及び抗CD28の存在下、インビトロで約14日間培養したエフェクターT細胞を用いて実施した。全ての標的腫瘍細胞をPBS中の2mM EDTAで回収し、51Cr(Amersham, Arlington Height, IL)で、100μCi/106細胞で、37℃で1時間標識した。5000個の標的細胞/ウェルを、250μl/ウェルの最終容量になるように、96ウェルポリスチレン丸底プレート(BD Biosciences)中で、50,000個のエフェクター細胞(E:T=10:1)及びBsAb抗体と混合した。プレートを37℃で4時間インキュベートした。上清中の放出された51Crをγ-カウンター(Packed Instrument, Downers Grove, IL)で計数した。比放出のパーセンテージを、次式:(実験cpm−バックグラウンドcpm)/(全cpm−バックグラウンドcpm)×100%(式中、cpmは、1分当たりの放出された51Crのカウントを表す)を用いて計算した。全放出を10%SDS(Sigma, St Louis, Mo)による溶解によって評価し、バックグラウンド放出をエフェクター細胞の非存在下で測定した。EC50を、SigmaPlotソフトウェアを用いて計算した。
【0261】
(6.1.2.4 競合アッセイ)
トラスツズマブ及び/又はhuOKT3がHER2-BsAb結合を妨害する能力を評価するために、HER2陽性SKOV3細胞株を、PBS又は10μg/mLのトラスツズマブもしくはhuOKT3とともに4℃で30分間インキュベートした。その後、細胞を10μg/mLのAlexa-Fluor 488コンジュゲートHER2-BsAbで染色し、フローサイトメトリーにより解析した。Alexa-Fluor 488コンジュゲートHER2-BsAbは、製造元の指示に従い、Zenon(登録商標) Alexa Fluor(登録商標) 488ヒトIgG標識キット(Life Technologies)を用いて作製した。
【0262】
(6.1.2.5 結合アッセイ)
結合アッセイを、Okazakiらの文献、2004, J Mol Biol; 336(5): 1239-1249に記載されているのと同様のBiacore T100を用いて、表面プラズモン共鳴により実施した。
【0263】
(6.1.2.6 結合力アッセイ)
HER2-BsAb及びトラスツズマブの結合力を比較するために、HER2陽性SKOV3細胞をトラスツズマブ又はHER2-BsAbの10倍希釈液(10〜1×10-5μg/mL)とともにインキュベートし、FITC標識ヒトFc特異的抗体を2次抗体として用いるフローサイトメトリーにより解析した。MFIを抗体濃度に対してプロットし、曲線を比較した。
【0264】
(6.1.2.7 増殖アッセイ)
抗増殖効果を決定するために、細胞を、アイソタイプ対照モノクローナル抗体、10nMラパチニブ(陽性対照として)、10μg/mL HER2-BsAb、10μg/mLトラスツズマブ、10nMラパチニブ、10nMエルロチニブ、10nMネラチニブ、又は10μg/mLセツキシマブで72時間処理し、細胞増殖をアッセイした。細胞増殖を、製造元の指示に従ってELISAプレートリーダー及びWST-8キット(Dojindo technologies)を用い、次式:%生存率=(試料−バックグラウンド)/(陰性対照−バックグラウンド)を用いて決定した。ラパチニブ(MSKCC pharmacy)を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、以前に記載されているようにDMSOに懸濁させた。統計的有意性を決定するために、結果を、Prism 6.0を用いる一元配置ANOVAを用いて解析した。
【0265】
(6.1.2.8 qRT-PCR)
細胞が70%コンフルエンスとなったとき、RNAを抽出し、cDNAを、Applied Biosciences製のHER2特異的な市販キットHs01001580_m1を用いて、prism 7700配列検出システムで解析した。
【0266】
(6.1.2.9 動物及びインビボアッセイ)
インビボ試験のために、BALB-Rag2-KO-IL-2R-γc-KO(DKO)マウス(Dr. Mamoru Ito, CIEA, Kawasaki, Japanのコロニーから得られたもの)。例えば、Kooらの文献、2009, Expert Rev Vaccines, 8: 113-120及びAndradeらの文献、2011, Arthritis Rheum, 2011, 63: 2764-2773を参照されたい。MCF7細胞又はHCC1954を1:1の比でPMBC(バフィーコート由来の活性化されていないもの)と混合し、DKOマウスに皮下移植した。移植から4日後、マウスを、PBS、10μgのトラスツズマブ、又は10μgのHER2-BsAbで、週に2回、2週間処理した。腫瘍サイズを示された移植後の日数で測定した。腫瘍サイズを、V=0.5(長さ×幅×幅)という式を用いてノギスにより、又はPeira TM900光学システムを用いて決定した。
【0267】
転移モデルについては、ルシフェラーゼを発現するMCF7細胞をDKOマウスに静脈内投与した。投与から4日後、マウスを、5×106個のPBMCの静脈内投与あり又はなしで、100ugのHER2-BsAb、20ugのHER2-BsAb、又はCD3を標的としない20ugのHER2-BsAb(HER2-C825)で、週に2回、3週間処理した。腫瘍サイズを、示された時点でIVIS 200(Xenogen)を用いて定量し、ルシフェリン生体発光を定量した。
【0268】
(6.1.3 結果)
(6.1.3.1 HER2-BsAbは腫瘍細胞とT細胞の両方に結合する)
グリコシル化を除去するためのヒトIgG1 Fc領域中のN297A突然変異を含むトラスツズマブ変異体(配列番号62)を用いて、HER2-BsAbを作製した。抗CD3ヒト化OKT3(huOKT3)単鎖Fv断片(ScFv)を、C-末端(G4S)3リンカーを介して、トラスツズマブIgG1軽鎖のカルボキシル末端に付着させることにより、BsAb軽鎖融合ポリペプチドを作製した(図1A及び配列番号60)。凝集を回避するために、huOKT3の可変重鎖の位置105のシステインをセリンと置換した。N297A突然変異は、Fc受容体に対するHER2-BsAbの結合を消失させるためにも、HER2-BsAb Fc領域に導入された。この突然変異は、ヒトIgG1-FcがCD16A(図1D)及びCD32A Fc受容体(図1E)に結合する能力を消失させることが以前に示されている。
【0269】
HER2-BsAbを産生するために、重鎖と軽鎖融合ポリペプチドの両方をコードする哺乳動物発現ベクターをCHO-S細胞にトランスフェクトし、安定クローンを選択し、上清を回収し、HER2-BsAbをプロテインA親和性クロマトグラフィーにより精製した。BsAbの生化学的純度解析を図1B及び図1Cに示す。huOKT3 scFvとトラスツズマブ軽鎖との融合によってMWが〜50KDaに増大したので、還元SDS-PAGE条件下で、HER2-BsAbは、50KDa付近に2本のバンドを生じた。SEC-HPLCは、約210KDaのMWを有する大きいピーク(UV解析によると97%)、及びゲル濾過によって除去可能な多量体の小さいピークを示した。HER2-BsAbは、複数回の凍結融解サイクル後のSDS-PAGE及びSEC-HPLCによって安定であった。
【0270】
FACS及び免疫染色を行って、標的細胞とエフェクター細胞の両方に対するHER2-BsAbの結合を評価した。トラスツズマブ及びHER2-BsAbは、HER2陽性乳癌細胞株のAU565に対して同程度の結合を示した(図2A)。対照的に、HER2-BsAbは、huOKT3よりも20倍を超えて低いCD3+ T細胞に対する結合を示した(図2B)。これは、軽鎖が固定されたscFvが、標的腫瘍細胞の非存在下でのサイトカイン放出を最小化するように意図的に設計された、通常のhuOKT3 IgG1よりも低いT細胞に対する結合力を有していたという観察と一致している。
【0271】
T細胞に対するHER2-BsAbのより低い結合力は、Cheungらの文献、2012, OncoImmunology, 1:477-486に記載されているようなBiacoreによる結合親和性解析によってさらに確認された。抗原CD3に対して、HER2-BsAbは、4.53×105M-1s-1のkon、8.68×10-2s-1のkoff、及び192nMの全体的KDを有しており; koff(1.09×10-1s-1)については、もとのhuOKT3 IgG1-aGlycoと同程度であったが、kon(1.68×106M-1s-1)及び全体的KD(64.6 nM)については、それよりも低かった。まとめると、HER2-BsAbは、そのもとのhuOKT3-aGlycoよりもずっと低いkonを有しており、BsAbが同じ条件下でT細胞に結合し、かつT細胞を活性化する可能性がより低く、それゆえ、サイトカイン放出がより少ないことを示している。
【0272】
(6.1.3.2 HER2-BsAbはT細胞によるヒト腫瘍細胞株の殺傷を再誘導した)
HER2-BsAbが腫瘍細胞を殺傷するようにT細胞を再誘導することができるかどうかを評価するために、HER2(+)乳癌AU565細胞に対するT細胞の細胞傷害性を標準的な4時間の51Cr放出アッセイで試験した。腫瘍細胞の実質的な殺傷がHER2-BsAbの存在下で観察され、EC50は300fMであった(図3)。さらに、殺傷は、乳癌、卵巣癌、黒色腫、骨肉腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、及び神経芽腫を含む、一群の広範なヒト腫瘍細胞株に有効であり、その場合、殺傷効力は、FACSによる細胞内のHER2発現レベルと相関していた(図4)。
【0273】
(6.1.3.3 HER2-BsAbは腫瘍抗原特異的T細胞の細胞傷害性を媒介する)
T細胞の細胞傷害性におけるHER2-BsAbの腫瘍抗原特異性を調べるために、細胞傷害性アッセイをHER2陽性UM SCC 47細胞(頭頸部癌のモデル)及びHER2陰性HTB-132細胞(乳癌のモデル)で実施した。HER2-BsAbは、HER2陽性UM-SCC47細胞に対するT細胞の細胞傷害性を媒介したが(14.5pMのEC50)、HER2陰性HTB-132細胞に対してはそれを媒介しなかった(図5A)。
【0274】
T細胞の細胞傷害性におけるHER2-BsAbの特異性を調べるために、HER2陽性細胞をhuOKT3又はトラスツズマブでまずブロッキングした。HER2-BsAbの非存在下では、T細胞は最小限の細胞傷害性を示し、T細胞がそれだけで最小限の非特異的細胞傷害性を有することが再確認された。huOKT3とトラスツズマブはどちらも、T細胞の細胞傷害性を誘導するHER2-BsAbの能力を阻害した。
【0275】
(6.1.3.4 HER2-BsAbはフローサイトメトリーによるHER2検出閾値未満のHER2陽性細胞に対するT細胞の細胞傷害性を媒介する)
HER2+卵巣癌細胞株SKOV3を、T細胞の存在下で、HER2-BsAbの10倍希釈液を用いる51Cr細胞傷害性アッセイで使用した。これらの同じ細胞を、同じ濃度のHER2-BsAbを用いて染色し、フローサイトメトリーにより解析し、MFIを細胞傷害性と同じx-軸上にプロットし、EC50を両方の曲線について計算した。HER2-BsAbは、HER2-BsAb結合がフローサイトメトリーによって検出されない場合でもHER2陽性細胞に対するT細胞の細胞傷害性を媒介した(図6)。細胞傷害性アッセイでのEC50(2pM)とフローサイトメトリー曲線でのEC50(3.5nM)を比較することにより、HER2-BsAbの存在下のT細胞がHER2陽性細胞の検出においてフローサイトメトリーよりも2500倍効果的であったということが示唆される。
【0276】
(6.1.3.5 HER2-BsAbはトラスツズマブと同じ特異性、親和性、及び抗増殖効果を有する)
HER2-BsAbによる処理の前に、HER2-BsAbがトラスツズマブと同じ抗原特異性を共有するかどうかを決定するために、HER2陽性細胞をトラスツズマブとともにプレインキュベートした。トラスツズマブとのプレインキュベーションはHER2-BsAbの細胞への結合を阻止し、特異性の共有を示した(図7A)。HER2-BsAbの親和性をトラスツズマブと比較するために、HER2陽性細胞を、トラスツズマブ又はHER2-BsAbの希釈液とともにインキュベートし、細胞結合についてフローサイトメトリーにより解析した。MFIを抗体濃度に対してプロットすると、トラスツズマブとHER2-BsAbについて同様の曲線が示され、同様の結合親和性が示された(図7B)。さらに、トラスツズマブとHER2-BsAbは、HER2陽性細胞に対する同様の抗増殖効果を示した(図7C)。
【0277】
(6.1.3.6 HER2-BsAbはピコモル濃度の範囲のEC50でSCCHNに対するT細胞の細胞傷害性を媒介した)
以前に特徴付けられた頭頸部癌細胞株の93-VU-147T、PCI-30、UD-SCC2、SCC90、UMSCC47、及びPCI-15BにおけるHER2のレベル及び頻度を、トラスツズマブを用いるフローサイトメトリーによって評価した。これらの細胞を、HER2発現について、qRT-PCRによっても試験した(図8)。HER2は一群の頭頸部癌細胞株で同程度に発現していた。最後に、T細胞及びHER2-BsAbの存在下での細胞傷害性のレベルは、これらの細胞におけるHER2のレベルと相関しており、HER2-BsAbがこれらの頭頸部細胞株に対してピコモル濃度の範囲のEC50を示すことが明らかになった(図8)。
【0278】
(6.1.3.7 HER2-BsAbは他のHER標的療法に抵抗性のSCCHNに対するT細胞の細胞傷害性を媒介する)
SCCHN細胞株PCI-30のEGFR及びHER2の状況を明らかにするために、細胞をトラスツズマブ又はセツキシマブで染色し、先に記載したようにフローサイトメトリーにより解析した(図9A)。増殖アッセイは、これらの細胞が、HER特異的標的療法のトラスツズマブ、セツキシマブ、ラパチニブ、エルロチニブ、及び汎HER阻害剤ネラチニブに対して抵抗性であることを示した(図9B)。しかしながら、PCI-30細胞は、3回の異なる細胞傷害性アッセイを利用したHER2-BsAbによる処理に対して感受性であった(図9C)。HER2-BsAbは、他のHER標的療法がこれらの受容体のうちの2つ以上を標的とする場合でさえも、これらの薬物に対するその感受性とは無関係に、PCI-30に対する強力な細胞傷害性応答を生じさせた。これらのアッセイは、HER2-BsAbが、EGFR又はHER2標的療法に対する標的細胞感受性を問わず、強力な細胞傷害性応答を生じさせることができたことを示唆している。
【0279】
(6.1.3.8 HER2-BsAbはピコモル濃度の範囲のEC50で骨肉腫細胞株に対するT細胞の細胞傷害性を媒介した)
以前に特徴付けられた骨肉腫細胞株のRG-160、CRL 1427、及びU2OSを、トラスツズマブを用いるフローサイトメトリーにより(図10)及びqRT-PCRにより、そのHER2発現について評価し、HER2のレベルは、T細胞及びHER2-BsAbの存在下で細胞傷害性と相関していた(図10)。試験した細胞株は全て、HER2について陽性であったが、発現レベルは様々に異なっていた。さらに、HER2陽性細胞は全て、HER2 BsAbによって媒介されるT細胞の細胞傷害性に対して感受性であり、EC50は11〜25pMの範囲であった。
【0280】
(6.1.3.9 HER2-BsAbはHER療法抵抗性骨肉腫細胞株に対するT細胞の細胞傷害性を媒介する)
U2OS細胞は、HER2陽性EGFR陽性の骨肉腫細胞株(図11A)である。U2OS細胞を、トラスツズマブ、セツキシマブ、ラパチニブ、及び汎HER阻害剤ネラチニブに対するその感受性について、該阻害剤の各々の存在下での増殖アッセイにより解析した。これらの細胞は、セツキシマブ及びトラスツズマブに対して抵抗性であり、ラパチニブ、エルロチニブ、及びネラチニブに対して最小限の感受性を有していた(図11B)。これらの同じ細胞を、HER2-BsAbによって媒介されるT細胞細胞傷害性応答に対する感受性について試験した。HER2-BsAbは、3回の異なる細胞傷害性アッセイを用いて、他のHER標的療法に対するその感受性とは無関係に、U2OS細胞に対する強力な細胞傷害性応答を生じさせた(図11C)。
【0281】
(6.1.3.10 HER2-BsAbはHER療法抵抗性子宮頸癌のHeLa細胞に対するT細胞の細胞傷害性を媒介する)
HeLa細胞は、HER2陽性EGFR陽性の子宮頸癌細胞株である(図12A)。HeLa細胞を、HERファミリーのチロシンキナーゼ阻害剤であるエルロチニブ、ラパチニブ、もしくはネラチニブに対する、又はHER特異的抗体であるセツキシマブもしくはトラスツズマブに対するその感受性について解析した。これらの結果は、HeLa細胞がこれらの療法に対して汎抵抗性であることを示した(図12B)。しかしながら、これらの同じ細胞を、HER2-BsAbによって媒介されるT細胞の細胞傷害性応答に対する感受性について試験した。HER2-BsAbは、3回の異なる細胞傷害性アッセイを用いて、他のHER標的療法に対するその感受性とは無関係に、HeLa細胞に対する強力な細胞傷害性応答を生じさせた(図12C)。興味深いことに、ラパチニブによる前処理は、ラパチニブ単独で細胞増殖に対する効果がなかった場合でも、HER2-BsAbによって媒介される細胞傷害性に対する感受性を増大させた。
【0282】
(6.1.3.11 HER2-BsAbはヒト化マウス中のヒト乳癌に対して有効である)
インビボ療法試験のために、BALB-Rag2-KO-IL-2R-γc-KO(DKO)マウス(Dr. Mamoru Ito, CIEA, Kawasaki, Japanのコロニーから得られたもの)を使用した。例えば、Kooらの文献、2009, Expert Rev Vaccines 8: 113-120及びAndradeらの文献、2011, Arthritis Rhem 63: 2764-2773を参照されたい。MCF7-ルシフェラーゼ乳癌細胞を末梢血単核細胞(PBMC)と混合し、皮下移植した。細胞移植から4日後、マウスを、HER2-BsAb又はトラスツズマブで処理し、腫瘍サイズを経時的に解析した(図13)。HER2-BsAbは、腫瘍進行の有意な抑制を示した。HER2-BsAbは、トラスツズマブ抵抗性HCC1954乳癌細胞(例えば、Huangらの文献、2011, Breast Cancer Research, 13: R84参照)をPBMCとともに皮下移植したときの腫瘍進行に対しても有効であった(図14)。
【0283】
転移性腫瘍モデルを評価するために、MCF7-ルシフェラーゼ細胞を静脈内に接種した。その後、HER2-BsAbをPBMCと組み合わせて投与した。腫瘍ルシフェリン生体発光シグナルは、HER2-BsAb+PBMCが腫瘍進行の完全な抑制を示すことを示した(図15図16A図16B図16C、及び図16D)。
【0284】
(6.1.4 結論)
非グリコシル化HER2-BsAbは、Fc機能の最小化並びにサイトカインストームの回避並びに全ての補体活性、補体媒介性及び補体受容体媒介性免疫付着の消失を可能にした。さらに、huOKT3がIgG-scFvプラットフォームでは二価であるにもかかわらず、CD3への結合は機能的に一価であり;それゆえ、腫瘍標的の非存在下でのT細胞の自発的活性化はなかった。HER2-BsAbは、HER2陽性腫瘍細胞に対するインビトロでの強力な細胞傷害性を示し、抗原発現が低い細胞、又はトラスツズマブ、セツキシマブ、ラパチニブ、エルロチニブ、もしくは汎HER阻害剤のネラチニブに抵抗性である細胞に対してさえも、強力な細胞傷害性を示した。HER2-BsAbは、乳癌、卵巣癌、SCCHN、骨肉腫、及び肉腫に対する強力な細胞傷害性も示した。最後に、HER2-BsAbは、トラスツズマブhIgG1対応物よりも実質的に良好な腫瘍異種移植片に対する強いインビボ効力を示した。
【0285】
(6.2 実施例2)
この実施例は、(a)実施例1(第6.1節)に記載の実験のうちのいくつかのより詳細な説明;及び(b)実施例1(第6.1節)と比較したさらなる実験を提供する。
【0286】
(6.2.1 序論)
トラスツズマブは、乳癌における患者転帰を顕著に改善しており、他の標的療法の設計及び履行において重要でもある(Singhらの文献、2014, Br J Cancer 111:1888-98)。しかしながら、HER2発現は、トラスツズマブ又は他のHER2標的療法に対する臨床応答を保証するものではない(Gajriaらの文献、2011, Expert Review of Anticancer Therapy, 11(2):263-75; Liptonらの文献、2013, Breast Cancer Research and Treatment, 141(1):43-53)。HER2陽性乳癌を有する患者のうちの35%未満が、初めは、トラスツズマブに応答し、初期レスポンダーのうちの70%が、結局は、1年以内に転移性疾患に進行することになる(Vu及びClaret.の文献、2011, Frontiers in Oncology 2:62)。高レベルのHER2発現が生存の減少と関連している骨肉腫及びユーイング肉腫(Gorlickらの文献、1999, Journal of Clinical Oncology: Official Journal of The American Society of Clinical Oncology 17:2781-2788)では、トラスツズマブは、細胞傷害性化学療法と併用した場合でさえ、いかなる有益性も示さなかった(Ebbらの文献、2012, Journal of Clinical Oncology: Official Journal of the American Society of Clinical Oncology 30:2545-2551)。さらに、トラスツズマブは、他のHER標的療法と同様に、HER2陽性頭頸部癌に対してわずかな有益性しか示さなかったか、又はそれに対して全く有益性を示さなかった(Pollockらの文献、2014, Clinical Cancer Research, 21(3):526-33)。
【0287】
これらの失敗の理由は複雑であり、一部しか理解されていない。悪性腫瘍のゲノム多様性及び絶え間ない進化のために、それらは標的療法の成功の要件である癌遺伝子中毒になりにくくなっている。さらに、癌遺伝子中毒が存在するときでさえも、抵抗性は、標的療法の使用によって誘導される選択圧から生じることがある(Liptonらの文献、2013, Breast Cancer Research and Treatment, 141(1):43-53)。実際、当初は熱狂的に受け入れられたにもかかわらず、標的療法の大部分は、それを受けている患者の全治癒における顕著な有益性をもたらしていない(Nathansonらの文献、2014, Science, 343:72-76)。異なる手法、HERファミリー受容体を過剰発現する悪性細胞を選択的に標的とする手法、及び受容体活性化状況とは無関係に、細胞傷害性抗腫瘍応答を生じさせることができる手法は、有益であり得る。
【0288】
ブリナツモマブ−CD19/CD3 BsAbは、急性リンパ芽球性白血病の治療に対して、2014年に承認された(Sanfordの文献、2015, Drugs 75:321-7)。しかしながら、その前途有望な結果にもかかわらず、これらのサイズの小さい分子の望ましくないPKは、長期にわたる注入を必要とし、その投与を複雑化する(Shalabyらの文献、1995, Clin Immunol Immunopathol 74:185-92, 1995; Portellらの文献、2013, Clin Pharmacol 5:5-11)。さらに、結果として生じるサイトカイン放出症候群(CRS)は、犠牲が大きくかつしばしば生命を脅かす合併症を依然として引き起こす。重要なことに、T細胞を活性化する二重特異性抗体の能力にもかかわらず、古典的なT細胞機能を調節する同じ阻害経路が、その有効性を依然として限定し得る。例えば、一価結合HER2/CD3二重特異性抗体のヘテロ2量体設計は、PD-1/PD-L1阻害軸によって阻害された(Junttilaらの文献、2014, Cancer Res 74:5561-71)。
【0289】
本実施例は、既存の技術に優る2つの異なる利点:(1)それが、完全ヒト化HER2特異的IgG1 mAbのトラスツズマブをベースにし、その薬理学的利点(Wittrupらの文献、2012, Methods Enzymol 503:255-68)及びHER2に対する二価結合を保持し;腫瘍結合力を最大化するということ;並びに(2)scFvがヒト化huOKT3 mAb配列に由来するにもかかわらず、CD3に対するその結合が機能的に一価であるということを示す二重特異性結合分子(本明細書において「HER2-BsAb」と呼ばれる)を提供する。したがって、HER2-BsAbは、臨床的安全性の膨大な記録がある2つのmAbの上に構築される。さらに、これは、サイトカイン放出症候群を軽減するために、そのFc機能を欠失させて、全ての抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)及びCMC活性を消失させたプラットフォームである。
【0290】
本実施例で示したデータは、HER2標的療法又はトラスツズマブに抵抗性である腫瘍細胞に対してインビトロとインビボの両方で強力な抗腫瘍応答を生じさせるHER2-BsAbの能力を示している。
【0291】
(6.2.2 材料及び方法)
(6.2.2.1 細胞株)
以下のものを除く全ての細胞株をATCC(Manassas Va)から購入した:ミシガン大学(University of Michigan)のCarey博士から得られたUM-SCC47;ピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)のRobert Ferris博士から得られたSCC-90、PCI-30、及びPCI-15B;メモリアルスローンケタリング癌センター(Memorial Sloan Kettering Cancer Center)のSarat Chandarlapaty博士から得られたHCC1954; Luc Morris博士から得られた93-VU-147T及びHeLa;並びに耳鼻咽喉科病院及び外来(Hals-Nasen-Ohrenklinik und Poliklinik)のHenning Bierから得られたUD-SCC2。細胞は全て、PowerPlex 1.2 System(Promega)を用いた短鎖タンデムリピートプロファイリングによって信頼性を証明し、市販のキット(Lonza)を用いて、マイコプラズマについて定期的に試験した。ルシフェラーゼ標識腫瘍細胞株MCF7-LucをSFG-GFLucベクターによるレトロウイルス感染により作製した。
【0292】
(6.2.2.2 HER2-BsAbの設計及びCHO-S細胞における発現)
HER2-BsAb IgG-scFvフォーマット(図17A、「HER2-BsAb」)では、VHは、グリコシル化を除去するためのFc領域中のN297A突然変異をHER2-BsAbに導入し、それにより、Fc機能を欠失させていることを除き、トラスツズマブIgG1 VHのVHと同一であった(配列番号62)。軽鎖融合ポリペプチドは、トラスツズマブIgG1軽鎖を、C-末端(G4S)3リンカー、次いで、huOKT3 scFvを用いて伸長させることにより構築した(配列番号60)。重鎖と軽鎖の両方をコードするDNAを哺乳動物発現ベクターに挿入し、CHO-S細胞にトランスフェクトし、発現が最大の安定クローンを選択した。上清をシェーカーフラスコから回収し、HER2-BsAbをプロテインA親和性クロマトグラフィーにより精製した。対照BsAbのHER2-C825(配列番号71及び72から構成される)を以前に記載されている通りに作製した(Xuらの文献、2015, Cancer Immunol Res 3:266-77; Chealらの文献、2014, Mol Cancer Ther 13:1803-12)。
【0293】
(6.2.2.3 他の抗体及び小分子)
フルオロフォア標識HER2-BsAbを、製造元の指示に従って、Life Technologies製のZenon(登録商標) Alexa Fluor(登録商標) 488ヒトIgG標識キットを用いて作製した。ペンブロリズマブ、セツキシマブ、トラスツズマブ、エルロチニブ、ラパチニブ、及びネラチニブは、メモリアルスローンケタリング癌センター薬局から購入した。小分子をDMSOに再懸濁させた。CD4、CD8、CD16、及びCD56 抗体は、BD Biosciences(San Jose CA)から購入した。市販のPE標識PD-L1特異的mAbである10F.9G2は、BioLegendから購入した。
【0294】
(6.2.2.4 細胞増殖アッセイ)
細胞増殖アッセイのために、5,000個の腫瘍細胞を、10%FBSを補充したRPMI-1640を用いて、96ウェルプレート中に36時間プレーティングした後、規定の濃度のラパチニブ又は抗体で処理した。細胞増殖は、製造元の指示に従ってELISAプレートリーダー及びWST-8キット(Dojindo technologies)を用いて、次式:%生存率=(試料−バックグラウンド)/(陰性対照−バックグラウンド)を用いて決定した。ラパチニブ(メモリアルスローンケタリング癌センター薬局)を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、以前に記載されている通りにDMSOに懸濁させた(Chenらの文献、2012, Molecular cancer therapeutics 11:660-669)。統計的有意性を決定するために、結果を、Prism 6.0を用いる一元配置ANOVAを用いて解析した。
【0295】
(6.2.2.5 細胞傷害性アッセイ(51クロム放出アッセイ))
細胞の細胞傷害性を、以前に記載されている通りに、51Cr放出によりアッセイし(Xuらの文献、2015, Cancer Immunol Res 3:266-77)、EC50を、SigmaPlotソフトウェアを用いて計算した。エフェクターT細胞を、汎T細胞単離キット(Miltenyi Biotec)を用いてヒトPBMCから精製し、その後、製造元のプロトコルに従って、CD3/CD28 Dynabeads(Invitrogen)で活性化し、増殖させた。
【0296】
(6.2.2.6 PD-1/PD-L1発現)
PD-L1をHEK293細胞で過剰発現させるために、細胞を、10%熱非働化FBS及びペニシリン(100IU/ml)及びストレプトマイシン(100μg/ml)を補充したDMEM(Cellgro)中で培養した。(-1)日目に、HEK293細胞をトリプシン処理し、計数し、6ウェルプレートに0.5M細胞/ウェルでプレーティングし、2mLの新鮮な培地中で維持した。トランスフェクション当日の(0)日目に、培地を2mLの新鮮な培地と交換した。トランスフェクション試薬を、hPD-L1と対照プラスミドの両方について、次のように調製した: 2.5μgのDNAを250μlの無添加DMEM(無血清)中に希釈した。5μlのLipofectamine 2000(Invitrogen)を別の250μlのDMEM(無血清)中に希釈し、室温で5分間インキュベートした。5分後、希釈したDNAを希釈したLipofectamine 2000(Invitrogen)と組み合わせ、室温でもう30分間インキュベートした。30分後、500μlの反応液全体をHEK293細胞の単一のウェルに滴加した。プレートを前後に短時間揺動させて、試薬の混合を助けた。トランスフェクトされていない対照については、DNA又はLipofectamine 2000を含まない500μlの無添加DMEMを1つのウェルに添加した。細胞を37℃で24〜48時間インキュベートした後、回収した。(1)日目又は(2)日目に、細胞を、PBS中の2mM EDTAを用いてプレートから浮かせ、計数した。100,000〜200,000個の細胞をFACS解析に使用し、残りを殺傷アッセイに使用した。
【0297】
活性化T細胞(ATC)のPD-1発現を誘導するために、HER2-high乳癌細胞株HCC1954を10μg/mLの濃度のHER2-BsAbとともに30分間インキュベートし、抗体過剰量を除去した後、エフェクター細胞を、3:1の比で、これらの標的細胞とともに24時間インキュベートした。細胞を回収し、PD-L1をトランスフェクトしたHEK293細胞に対して、先に記載されたような細胞傷害性アッセイで使用した。
【0298】
(6.2.2.7 インビボ実験)
インビボ療法試験のために、BALB-Rag2-/-IL-2R-γc-KO(「DKO」)マウス(Dr. Mamoru Ito、CIEA, Kawasaki, Japanのコロニーに由来するもの;例えば、Kooらの文献、2009, Expert Rev Vaccines 8:113-20及びAndradeらの文献、2011, Arthritis Rheum 63:2764-73を参照)を使用した。3つのヒト化マウス異種移植モデル:(1)静脈内腫瘍+静脈内エフェクター細胞;(2)皮下腫瘍+皮下エフェクター細胞;及び(3)皮下腫瘍+静脈内エフェクター細胞を使用した。皮下異種移植片を、Matrigel(Corning Corp, Tewksbury MA)に懸濁させた5×106個の細胞を用いて作出し、DKOマウスの側腹に移植した。エフェクター末梢血単核細胞(PBMC)細胞を、New York Blood Centerから購入したバフィーコートから純化した。あらゆる実験手順の前に、不変性を保証するために、PBMCを、そのCD3、CD4、CD8、及びCD56細胞のパーセンテージについて解析した。注射1回当たり5〜10×106個のPBMCとして、週1回、2週間投与されるエフェクター細胞の2日前から、HER2-BsAbを、週2回、100μg/注射で、3週間静脈内注射した。腫瘍サイズを(1)携帯型TM900スキャナー(Pieira, Brussels, BE);(2)ノギス;又は(3)生体発光を用いて測定した。生体発光イメージングを、Xenogen In Vivo Imaging System(IVIS) 200(Caliper LifeSciences)を用いて実施した。簡潔に説明すると、マウスに、0.1mLのD-ルシフェリン溶液(Gold Biotechnology; PBS中の30mg/mLストック)を静脈内注射した。画像を、注射から1〜2分後に、以下のパラメータ:10〜60秒間の露光時間、メディアビニング、及び8f/ストップを用いて収集した。生体発光画像解析を、Living Image 2.6(Caliper LifeSciences)を用いて実施した。
【0299】
(6.2.3 結果)
(6.2.3.1 HER2-BsAb)
HER2-BsAbを、IgG-scFvフォーマットを用いて設計した(図17A)。VHは、グリコシル化を除去するためのHER2-BsAbのFc領域中のN297A突然変異を除き、トラスツズマブIgG1のVHと同一であった(配列番号62)。軽鎖融合ポリペプチドは、トラスツズマブIgG1軽鎖を、C-末端(G4S)3リンカー、次いで、huOKT3 scFvで伸長させることにより構築した(Xuらの文献、2015, Cancer Immunol Res 3:266-77)(配列番号60)。重鎖と軽鎖の両方をコードするDNAを哺乳動物発現ベクターに挿入し、CHO-S細胞にトランスフェクトし、発現が最大の安定クローンを選択した。上清をシェーカーフラスコから回収し、プロテインA親和性クロマトグラフィーで精製した。
【0300】
HER2-BsAbのSEC-HPLC及びSDS-PAGEを、それぞれ、図17B及び図17Cに示す。huOKT3 scFvとトラスツズマブ軽鎖との融合によって分子量が約50kDaに増大したので、還元SDS-PAGE条件下で、HER2-BsAbは、50kDa付近に2本のバンドを生じた。SEC-HPLCは、分子量が約200KDaの大きいピーク(UV解析によると97%)、及びゲル濾過によって除去可能な多量体の小さいピークを示した。該BsAbは、複数回の凍結融解サイクル後のSDS-PAGE及びSEC-HPLCにより、安定した状態を保った。
【0301】
(6.2.3.2 HER2-BsAbはトラスツズマブの特異性、親和性、及び抗増殖効果を保持した)
HER2-BsAbがトラスツズマブの特異性及び抗増殖効果を保持するかどうかを明らかにするために、HER2陽性-high SKOV3卵巣癌細胞株を10μg/mLのトラスツズマブとともに30分間プレインキュベートし、その後、Alexa 488で標識したHER2-BsAbを用いて免疫染色した(図18A)。トラスツズマブとのインキュベーションは、SKOV3細胞に対するHER2-BsAb結合を妨げ、これらの抗体が同じ特異性を共有することを示した。HER2-BsAbの結合力をトラスツズマブと比較するために、同じ細胞株を10倍下方希釈(10μg/ml〜1×10-5μg/mL)のトラスツズマブ又はHER2-BsAbとともにインキュベートし、フローサイトメトリーにより解析した。平均蛍光強度(MFI)を抗体濃度(μM)に対してプロットした。結合曲線の類似性から、トラスツズマブとHER2-BsAbがその共通のHER2標的に対して類似の結合力(binding avidities)を有することが確認された(図18B)。
【0302】
最後に、トラスツズマブ感受性乳癌細胞株SKBR3を、アイソタイプ対照mAb、10mMラパチニブ(陽性対照として)、10μg/mL HER2-BsAb、又は10μg/mLトラスツズマブで、72時間処理し、細胞増殖をアッセイした。図18Cに示すように、トラスツズマブ及びHER2-BsAbは、陰性対照と比較して有意である同様の抗増殖効果を有していた。予想された通り、ラパチニブは、最も強い細胞増殖阻害を示した。
【0303】
(6.2.3.3 HER2-BsAbによって再誘導されるT細胞の細胞傷害性はHER2特異的であり、かつCD3に依存的であった)
HER2-BsAbの存在下でのT細胞による細胞傷害性応答の特異性を立証するために; HER2陰性細胞株及びHER2陽性細胞株を、ATC(エフェクター:T細胞(10:1の「E:T」)比)及び減少濃度のHER2-BsAbを用いる細胞傷害性アッセイでアッセイした(図19A及び図20)。HER2陰性細胞株については、細胞傷害性が存在しなかった。細胞傷害性のCD3に対する依存性を示すために、HER2-BsAb細胞傷害性をCD3特異的ブロッキングmAb OKT3の存在下で試験した(図19B)。トラスツズマブ又はOKT3のいずれかとのプレインキュベーションによって、HER2-BsAb T細胞によって媒介される細胞傷害性が妨げられた。
【0304】
(6.2.3.4 HER2-BsAbは他のHER2標的療法に対して抵抗性であるHER2陽性細胞株に対する細胞傷害性を媒介した)
様々な腫瘍系(例えば、頭頸部、乳房、及び肉腫)由来のいくつかの細胞株を、そのHER2発現レベルについて、フローサイトメトリーにより特徴付けた(図20)。このパネルにおいて、試験されたこれらの細胞のうちの75%が、フローサイトメトリーにより、HER2発現について陽性であった。代表的な細胞株を、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、エルロチニブ、ラパチニブ、及びネラチニブ)、又はHER抗体(例えば、トラスツズマブ及びセツキシマブ)に対するその感受性、並びにHER2-BsAb媒介性T細胞の細胞傷害性についてアッセイした。図21は、3つの異なる腫瘍系由来の3つの異なる株からのこれらの実験の代表例を示す。示したように、HER2発現は−量が少なくても−ATC及びHER2-BsAbの存在下で、これらが存在しなければHER標的療法に対してインビトロで抵抗性の細胞株において、T細胞の細胞傷害性を媒介するのに十分であった。これらの細胞株を細胞傷害性についてATC及びHER2-BsAbの存在下で試験したとき、EC50として表されるHER2-BsAbに対する感受性は、表面HER2発現と強く相関した(図22)。
【0305】
(6.2.3.5 HER2-BsAbによって媒介されるT細胞の細胞傷害性は腫瘍標的上でのPD-L1発現又はT細胞上でのPD-1発現に対して比較的感受性が低かった)
腫瘍微小環境における腫瘍特異的CTLの活性化は、PD-1/PD-L1の発現を促進し、「適応免疫抵抗性」と呼ばれる現象であるT細胞の枯渇又は抑制をもたらすことが知られている(Tumehらの文献、2014, Nature 515:568-71)。PD-1/PD-L1経路の存在は、二重特異性抗体を取り込んだT細胞の抗腫瘍効果を制限することも報告されている(Junttilaらの文献、2014, Cancer Res 74:5561-71)。HER2-BsAbが同じ制限を有するかどうかを明らかにするために、PD-1陽性ATCを、HER2陽性PD-L1陽性の乳癌細胞株HCC1954に対して、PD-1特異的mAbのペンブロリズマブとともに又はそれなしで使用した。図23A図23B、及び図23Cに示すように、PD-1陽性T細胞は、ペンブロリズマブの存在とは無関係に、HER2-BsAbの存在下で同様の細胞傷害性応答を生じさせた。HER2陽性ヒト胚性腎臓細胞(HEK-293)にPD-L1の完全配列をトランスフェクトし、これを標的として使用したとき、PD-L1を発現する細胞に対する細胞傷害性は、トランスフェクトされていないHEK-293細胞で観察される細胞傷害性と顕著には異なっていなかった(とはいえ、最大細胞傷害性は、PD-L1陰性HEK-293と比べて、PD-L1陽性HEK-293でわずかに小さかった)(図24A及び図24Bは6回の実験の平均を示し、エラーバーは標準誤差を表している)。
【0306】
(6.2.3.6 HER2-BsAbはHER2陽性異種移植片に対して有効であった)
HER2-BsAbのインビボ効力を明らかにするために、乳癌細胞株HCC1954(HER2-high)及びMCF-7(HER2-low)をDKOマウスにおける異種移植モデルで使用した。腫瘍位置及びエフェクター経路が異なる3つの腫瘍モデル:(1)静脈内腫瘍細胞及び静脈内エフェクターPBMC;(2)皮下腫瘍細胞及びSC PBMC;並びに(3)皮下腫瘍細胞及び静脈内PBMCを使用した。図25は、これらの実験の結果をまとめたものである。HER2-low MCF-7-luc(ルシフェラーゼレポーターを保有する)細胞を尾静脈注射によりDKOに接種した。腫瘍の存在が生体発光により確認されたら、マウスを、静脈内HER2-BsAb又は対照BsAbの6回の投与で、週2回、3週間処理した。静脈内エフェクターPBMCを、最初のHER2-BsAb投与から48時間後、及びもう1度(1週間後)投与した。マウスを、腫瘍量について、ルシフェリン生体発光を用いて毎週評価した。この血液疾患モデルでは、MCF-7細胞が、疾患進行を伴わずに、完全に根絶された(図25B)。この同じ細胞株を皮下に移植し、皮下でエフェクターPBMCと混合し、HER2-BsAbの4回の注射で、週2回、2週間(第1の実験で合計4回の注射)又は週2回、3週間(第2の実験で合計6回の注射)処理した。両方の実験で、HER2-BsAbは、腫瘍進行の顕著な遅延をもたらしたが、PBMC+トラスツズマブ又はPBMCのみは効果がなかった(図25A)。2つの他の別々の実験では、皮下HER2陽性乳癌細胞株HCC1954を皮下PBMCと混合した。この場合も、4回又は6回のHER2-BsAbの注射はどちらも腫瘍成長の完全な抑制をもたらしたが、トラスツズマブ又は対照BsAb HER2-C825は効果がなかった(図25C)。皮下HCC1954異種移植片を静脈内PBMCで(週1回、3週間)処理し、かつ静脈内HER2-BsAbで週2回、3週間処理する第3のモデルでは、腫瘍成長が(2回の別々の実験で)大きく遅延し、トラスツズマブ+huOKT3+PBMC、対照抗体(HER2-C825)+PBMC、huOKT3+PBMC、又はPBMCなしのHER2-BsAbのみでのごくわずかな効果とは対照的であった(図25D)。以下の観察がなされた:エフェクターPBMCを皮下で腫瘍細胞と混合したとき、再発のない完全な腫瘍退縮が腫瘍移植後90日にわたってマウスで見られた。エフェクターPBMCを静脈内に投与したとき、腫瘍のサイズは顕著に低下したが、完全退縮は一部の動物で観察されるにすぎなかった。
【0307】
(6.2.4 結論)
本実施例は、ヒトPBMCの存在下、3つの別々の腫瘍モデルで腫瘍を除去し又は腫瘍成長を遅延させるインビトロ及びインビボでの強力なT細胞媒介性抗腫瘍活性を有することが示されたHER2特異的BsAbを記載している。一価の二重特異性抗体とは異なり、このHER2-BsAbは、トラスツズマブと同一の抗増殖能を有していた。さらに、HER2-BsAbの血清半減期及び曲線下面積はIgGと同様であった。凝集する傾向がある他の二重特異性抗体とは異なり、HER2-BsAbは、長期保存にもかかわらず、-20℃及び37℃で安定であった。最も重要なことに、HER2-BsAbが誘導したT細胞媒介性細胞傷害性は、PD-1/PD-L1経路による阻害に対して比較的感受性が低かった。
【0308】
HER2を標的とする既存のプラットフォームと比較したとき、HER2-BsAbは利点を示す。F(ab)×F(ab)フォーマットは、インビトロでは有効であるものの、ブリナツモマブとサイズが類似しており(Sanfordの文献、2015, Drugs, 75:321-7)、類似の薬物動態及び毒性プロファイル(Shalabyらの文献、1995, Clin Immunol Immunopathol 74:185-92, 1995)、短い半減期を有するため、毎日の注入を必要とすること、中枢神経系(CNS)への潜在的な漏出、潜在的なCNS毒性、並びに潜在的な顕著なサイトカイン放出症候群を共有すると考えられた。さらに、このF(ab)×F(ab)一価システムの抗増殖能は、トラスツズマブよりも10倍低かった。トラスツズマブとOKT3とのIgG×IgG化学コンジュゲートは、エクスビボでT細胞をアーミングするのに有用であったが、おそらくは化学コンジュゲートと関連する不純物が原因で、注射剤としては有用ではなかった(Lum及びThakurの文献、2011, BioDrugs 25:365-79; Lumらの文献、Clin Cancer Res 21:2305, 2015);対照的に、本明細書に提供されるHER2-BsAbは、注射剤として許容される。HER2-BsAbで保持されるトラスツズマブの抗増殖効果を維持しない一価システム(Junttilaらの文献、2014, Cancer Res 74:5561-71)を用いるヘテロ2量体フォーマットが最近記載された。
【0309】
HER2-BsAbとこのクラスの他の既知の候補とを区別する他の設計特性がある。ほとんどの二重特異性抗体とは異なり、HER2標的に対するHER2-BsAbの二価結合は維持され、トラスツズマブIgG1の抗増殖活性と同様の抗増殖活性をもたらした。F(ab)×F(ab)(Shalabyらの文献、1995, Clin Immunol Immunopathol 74:185-92)又はタンデムscFv構築物(Sanfordの文献、2015, Drugs, 75:321-7)とは異なり、HER2-BsAbは、薬物動態解析において野生型IgGのように挙動するのに十分大きい分子量を有していた。他の二価の二重特異性体(Reuschらの文献、MAbs, 7:584, 2015)とは異なり、HER2-BsAbのCD3との反応は機能的に一価であった。HER2-BsAbはまた、その修飾されたFcがヒトのヘテロ2量体二重特異性体とは異なっており、この修飾されたFcでは、非グリコシル化によってADCC機能とCMC機能の両方が取り除かれ、それにより、血清薬物動態に影響を及ぼすこともT細胞活性化を損なうこともなく、サイトカイン放出症候群が軽減された。他の利点は製造可能性であり; HER2-BsAbはCHO細胞で産生され、IgG用の標準的な手順を用いて精製され、37℃での長時間のインキュベーションにもかかわらず、顕著な凝集がなかった。HER2-BsAbは、標準的なHER2ベースの療法で進行する患者にとっての重要なサルベージオプション、すなわち、その二重の抗増殖特性及びT細胞再標的化特性を考慮したトラスツズマブの代替物である。
【0310】
(7.等価物)
本発明は、本明細書に記載の具体的な実施態様によってその範囲が限定されるべきではない。実際、記載されているものに加えた本発明の様々な修飾が前述の説明及び添付の図面から当業者に明らかであろう。そのような修飾は、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。
【0311】
本明細書に引用される参考文献は全て、各々の個々の刊行物又は特許又は特許出願が具体的かつ個別的にあらゆる目的のために引用により完全に組み込まれることが示される場合と同じ程度まで、完全にかつあらゆる目的のために引用により完全に本明細書中に組み込まれる。
図1A-C】
図1D-E】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A-B】
図11C
図12A
図12B-D】
図13
図14
図15
図16A-B】
図16C-D】
図17A
図17B
図17C
図18
図19
図20
図21A-C】
図21D-F】
図21G-I】
図22
図23
図24
図25A-B】
図25C-D】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]