【実施例】
【0082】
実施例1.調節遺伝子の発現に対するスプライス部位強度の効果
【0083】
実験手順
【0084】
プラスミド構築物:Luci−BsaI−アクセプター:CMVプロモーターを含むDNA断片を、制限酵素SpeI及びNotIによってpHAGE−CMV−eGFP−W(Harvard University)ベクターから切り離し、この断片をSpeI及びNotIで消化したpHDM−G(Harvard University)ベクター内にクローニングした。得られたベクター内のSV40 Ori配列を包含する断片を、BsmI及びBstXIで消化することによって欠失させ、3’オーバーハングを取り除き、そして、連結した。その後のベクターを、部位特異的変異誘導(Agilent)に供し、AmpR遺伝子内のBsaI部位を欠失させた。得られたベクターを、次に、NotI及びBamHIで消化し、NotI−BsaI−BamHI部位を包含する断片に連結して、最終的なLuci−BsaI−アクセプターベクターを作り出した。pHDM−Gを、スプライシングに重要でないと思われる中間部分の欠失を包含するヒトβ−グロビンイントロン2(「IVS2Δ」)の鋳型として使用した(表5、配列番号1を参照のこと)。pGL3−プロモーター(Promega)をホタルルシフェラーゼ遺伝子の鋳型として使用した。構築物8:ルシフェラーゼ遺伝子を、プライマーLuc−For−BsaI及びLuci−Rev−BsaIを使用して、PCRによって増幅した。PCR産物を、BsaIで消化し、BsaIで消化したLuci−BsaI−アクセプターベクター内にクローニングした。イントロン配列の各末端に異なった5’ss及び3’ssを有するイントロンIVS2Δを挿入したルシフェラーゼ遺伝子を発現するスプライシング構築物1〜7(Con1〜7、配列番号1〜7)を、3つのBsaIによって消化したPCR産物をBsaI消化したLuci−BsaI−アクセプター内に連結することによって作製した。pGL3−プロモーターベクターを、ルシフェラーゼ鋳型として使用し、そして、pHDM−Gを、IVS2Δの鋳型として使用した。Con1〜7のPCR断片を増幅するのに使用したプライマー対は、以下のとおりである: Con1:Luci−For−BsaI/Luci−スプライス−Rev_1、IVS2−BsaI−For/IVS2−BsaI−Rev_1及びLuci−スプライス−For_1/Luci−Rev−BsaI;Con2:Luci−For−BsaI/Luci−スプライス−Rev_2、IVS2−BsaI−For/IVS2−BsaI−Rev_2、及びLuci−スプライス−For_2/Luci−Rev−BsaI;Con3:Luci−For−BsaI/Luci−スプライス−Rev_3、IVS2−BsaI−For/IVS2−BsaI−Rev_3、及びLuci−スプライス−For_3/Luci−Rev−BsaI;Con4:Luci−For−BsaI/Luci−スプライス−Rev_4、IVS2−BsaI−For/IVS2−BsaI−Rev_1、及びLuci−スプライス−For_4/Luci−Rev−BsaI;Con5:Luci−For−BsaI/Luci−スプライス−Rev_1、IVS2−BsaI−For/IVS2−BsaI−Rev_1及びLuci−スプライス−For_5/Luci−Rev−BsaI;Con6:Luci−For−BsaI/Luci−スプライス−Rev_1、IVS2−BsaI−For/IVS2−BsaI−Rev_1及びLuci−スプライス−For61/Luci−Rev−BsaI;Con7:Luci−For−BsaI/Luci−スプライス−Rev_1、IVS2−BsaI−For/IVS2−BsaI−Rev_1及びLuci−スプライス−For71/Luci−Rev−BsaI。すべての構築物をDNA配列決定によって確認した。
表1.スプライシング構築物(Con1〜7)のスプライス部位。イントロン/エクソン境界を||で記した。
【表1】
【0085】
トランスフェクション:3.5×10^4個のHEK293細胞を、トランスフェクション前日に96ウェル−平底プレート内で平板培養した。プラスミドDNA(500ng)を、チューブ又は96ウェル−底プレートに加えた。別々に、TransIT−293試薬(Mirus;1.4μL)を、50μLのOpti−memI培地(Life Technologies)に加え、そして、室温(RT)にて5分間静置した。次に、50μLのこの希釈したトランスフェクション試薬を、DNAに加え、混合し、そして、室温(「RT」)にて20分間インキュベートした。最終的に、7μLのこの溶液を、96ウェルプレート内の細胞のウェルに加えた。
【0086】
培養細胞のホタルルシフェラーゼアッセイ:培地交換の24時間後、プレートを、インキュベータから取り出し、研究室ベンチ内で数分間、RTと平衡にさせ、次に、吸引した。Glo−溶解バッファー(Promega、100μL、RT)を加え、プレートを少なくとも5分間RTのままにした。次に、ウェル内容物を、50μLの粉砕によって混合し、そして、20μLのそれぞれのサンプルを、glo−溶解バッファーで10%に希釈した20μLの透明なglo試薬(Promega)と混合した。96ウェルを乳白色の384ウェルプレート上に間隔をおいて配置した。RTにて5分間のインキュベーションに続いて、発光を、500mSecの読取り時間を用いてTecan機器を使用して計測した。ルシフェラーゼ活性を、平均相対光単位(RLU)±標準偏差として表した。
【0087】
結果
【0088】
スプライシングベースの遺伝子調節プラットフォームを構築するために、発明者らは最初に、(i)目的の遺伝子、この場合、ホタルルシフェラーゼ遺伝子、のコード配列(CDS)内にイントロンを挿入する効果(
図1a)、及び(ii)遺伝子発現に対する様々な5’ss及び3’ssの効果を試験した。各末端に様々な5’ss及び3’ssを有する切断ヒトβ−グロビンイントロン2(IVS2Δ)を、ホタルルシフェラーゼ遺伝子のコード配列内に挿入して、スプライシング効率を試験した。構築物Con8にはIVS2Δイントロンが無く、そして、Con1(配列番号1)には、その本来のIVS2 5’及び3’ss配列を有するIVS2Δがある。構築物Con2〜Con7(配列番号2〜7)は、表1で列挙した様々な5’及び3’ss配列を伴ったIVS2Δを有する。
図1bに示されるように、ルシフェラーゼ遺伝子内への天然IVS2スプライス部位を伴ったIVS2Δの挿入は、遺伝子発現に影響しなかった(Con1対Con8を比較する)。しかしながら、様々な強度を有するスプライス部位配列でのIVS2ΔのIVS2スプライス部位の置換は、ルシフェラーゼ発現を有意に減少させた。
図1bに示されるように、変更された5’ssを有するCon2及びCon3は、Con1及びCon8と同様の発現レベルを有したが、しかしながら、Con4における5’ssの変化及びCon5からCon7までの3’ss変化は、ルシフェラーゼ発現を有意に低減した(Con4〜Con7をCon8と比較する)。そのため、スプライス部位の相違は、標的遺伝子発現に影響する。Con1をさらなる開発のために使用した。
【0089】
実施例2.イントロン−エクソン−イントロンカセット、および、標的遺伝子発現の修飾におけるスプライシングに対するcis−エレメントの効果
【0090】
実験手順
【0091】
推定上のエクソンスプライスエンハンサー(ESE)配列を、ESEfinder3.0を使用して予測した。天然5’ss(DHFR−wt;(表2);配列番号47)、Cに変異させた4つのヌクレオチドを有する天然5’ss(DHFR−wt5ssC;(表2);配列番号48)、Con1(DHFR−Con15ss;表2;配列番号49)又はCon4(配列番号DHFR−Con45ss、配列番号50)からの5’ss配列のいずれかを伴った、イントロンフランキング配列を伴った野性型ヒトジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)エクソン2を合成した(IDT)。DHFRエクソン2内のESE及びエクソンスプライスサプレッサー(ESS)配列の効果を試験するために、様々なDHFRエクソン2変異体を合成した(表2に列挙した)。
【0092】
これらの様々なDHFRエクソン2配列のすべてを、Golden Gateクローニングストラテジー(NEB)を使用してCon1構築物内のIVS2Δイントロンのほぼ中央にクローニングした。
【0093】
構築物を、DNA配列決定(Genewiz)によって確認した。DNAを、実施例1に記載のとおりHEK293細胞内にトランスフェクトし、そして、ルシフェラーゼ活性についてアッセイした。
表2.DHFRエクソン2を包含する改変スプライス調節配列。下線を引いた配列は、DHFRエクソン2内の改変スプライス調節配列を示す。
【表2】
【0094】
結果
【0095】
野性型ヒトDHFRエクソン2及び隣接したイントロン配列(配列番号8)を、Con1構築物内のIVS2Δイントロンのほぼ中央に挿入した。この形状は、そこで、標的遺伝子のイントロン配列内の外来性エクソンが、選択的エクソンスプライシングを改変することによって標的遺伝子の発現が調節されることを可能にする選択的エクソンとしての役割を果たし得るプラットフォームを作り出す。この形態において(
図2a)、スプライシング事象は、おそらく、標的遺伝子の5’部分とDHFRエクソンとの間、並びにDHFRエクソンと標的遺伝子の3’部分との間に起こり、標的遺伝子mRNA内へのDHFRエクソンの包含をもたらす。DHFRエクソンがmRNA内に含まれたときに、選択的DHFRエクソンがインフレームで存在する未成熟終止コドンを含むので、それによって、ルシフェラーゼ遺伝子発現が低減する。しかしながら、選択的DHFRエクソンの5’ss(すなわち、3’イントロンの5末端のスプライスドナー部位)が変異するか又は利用不可能になり、この部位でのスプライシングを妨げるとき、DHFRエクソンがmRNAから除かれるので、mRNAが効率的に翻訳され、そして、標的遺伝子タンパク質が発現される(
図2a)。
【0096】
発明者らは最初に、変更していないその天然シスエレメント、並びに5’ss配列が強化又は弱化された他の様々なバージョンを用いてDHFRエクソン2のスプライシングを試験した。DHFR_wt作製するためのCon1のイントロン配列内への、天然5’ss及び3’ssを伴ったDHFRエクソン(配列番号8)の挿入は、選択的DHFRエクソンを含まないCon1と比較して、ルシフェラーゼ発現を有意に減少させた。DHFR_wt構築物からの発現は、Con1に比べて116分の一である(
図2b)。
【0097】
DHFRエクソンの5’ssが、非機能性配列(DHFR_wt5ssC;配列番号48)に変異するとき、DHFRエクソンの包含が妨げられ、そして、ルシフェラーゼ発現は、Con1のレベルに回復した(
図2aII、2b、2c)。
【0098】
DHFRエクソンの5’ssがより強力な5’ss、この場合、Con1から5’ss(DHFR_Con1 5ss;配列番号49)で置換されたとき、DHFRエクソンの包含が増強され、Con1と比べて、ルシフェラーゼ遺伝子発現の545分の1への減少につながった(
図2b)。しかしながら、Con4から弱い5’ssを使用したとき(DHFR_Con4 5ss;配列番号50)、DHFRエクソンは含まれず、そして、ルシフェラーゼ発現は増強される(
図2b)。
【0099】
エクソンスプライシングエンハンサー(ESE)又はサプレッサー(ESS)エレメントは、スプライシングにおいて決定的役割を担っており、そして、それらの機能は状況に依存することが多い。DHFRエクソン内に配置された推定上のスプライシング調節配列の効果を試験した。推定上のスプライシングエンハンサー、DHFRエクソン内に位置しているSRp40結合部位が変異したとき(表2、DHFR_mtSRp40;配列番号51)、DHFRエクソンの包含は劇的に高められ、Con1と比較して、ルシフェラーゼ発現の2982分の一の減少をもたらした(
図2c、DHFR_wtおよびDHFR_mtSRp40)。
【0100】
別のスプライシングエンハンサー、(ESEファインダーによって予測した)DHFRエクソン内のSC35結合部位が、より強力なSC35結合配列(表2、DHFR_StrSC35、配列番号52)へと変異したとき、DHFRエクソンの包含が高められ、Con1と比較して、139分の一にルシフェラーゼ発現を減少させた(
図2c、DHFR_wtStrSC35)。これは、天然DHFRエクソン(DHFR_wt、
図2b)を包含する構築物を用いて見られたものよりもわずかに大きい減少である。
【0101】
スプライシングエンハンサー、SC35結合部位がスプライシングインヒビター(hnRNP A1結合部位)(表2、DHFR_wtSC35hnRNPA1、配列番号53)に変異したとき、DHFRエクソンの包含は、増強したルシフェラーゼ発現を導く効果が低かった(
図2c、DHFR_wtとDHFR_wtSC35hnRNPA1)。
【0102】
標的遺伝子、この場合はルシフェラーゼの発現を、選択的エクソン、この場合インフレームで存在する終止コドンを包含する選択的DHFRエクソン、の包含又は排除によって、オンかオフに切り換えられるイントロン−エクソン−イントロンカセットを作製した。選択的エクソンの包含をもたらすスプライシングが、遺伝子発現を低減する一方で、スプライシングが選択的エクソンを排除したとき、遺伝子発現は増強された。選択的エクソン5’ss、又はスプライシングを改変するエクソン内の配列の強さ又は弱さが、外来性エクソンの包含又は排除に対するそれらの影響を介して、標的発現のレベルを変化させる。
【0103】
実施例3.標的遺伝子発現の調節に対する選択的エクソン5’スプライス部位におけるヘアピン形成の効果
【0104】
実験手順
【0105】
5’ssがヘアピン構造内に埋め込まれた、天然3’及び5’ss配列を伴ったDHFRエクソン2を包含する配列を合成し(IDT)、そして、Golden Gateクローニングストラテジー(NEB)を使用して、示したベクター内にクローニングニングした。実施例1に記載のとおり、構築物をHEK293細胞内にトランスフェクトし、そして、ルシフェラーゼ活性についてアッセイした。
【0106】
結果
【0107】
発明者らは、ヘアピンステム構造内へのDHFRエクソンの5’ssの埋め込みが、スプライシング及び選択的DHFRエクソンの包含に対して影響する可能性があるか、そして、これにより標的遺伝子発現が変化するか否かを試験した(
図3aに例示した)。
【0108】
Con1 5’スプライス部位(DHFR_Con15ss;配列番号49)配列を伴った選択的DHFRエクソンの包含は、Con1(
図3c、DHFR_Con15ss)と比較して、ルシフェラーゼ発現を無効にした。5’ssの全配列を埋め込んだ15塩基対(bp)のヘアピン構造を、DHFR_Con 15ss内に設計して、DHFR_Con 15ss_HP15(配列番号54)を作製した(
図3a)。15bpのヘアピン構造の存在が、Con1レベルまでルシフェラーゼ発現を完全に回復し、ヘアピンが5’ssのアクセシビリティを無効にし、それによって、選択的DHFRエクソンの包含を無効にした(
図3c、Con1、DHFR_Con15ssとDHFR_Con15ss_HP15)。
【0109】
対照的に、「壊れたステム(broken stem)」を有する15bpのヘアピン(
図3b、Con15ss_15HPx、配列番号55)は、ルシフェラーゼ発現を回復できず(
図3c、DHFR_Con15ss_HP15x)、完全なステムが、5’スプライス部位のアクセシビリティを調節し、それによって、選択的エクソンの包含又は排除を決定する際のRNAの二次構造に重要な成分であることを示唆している。
【0110】
同じ実験を、増強されたスプライシング効率を有する変異SRp40結合部位を伴ったDHFRエクソンを含む構築物を使用して実施した(DHFR_wtmtSRp40、実施例2を参照のこと)。ヘアピン内へ5’ssを埋め込むことで、ルシフェラーゼ発現は回復したが、その一方で、ヘアピンを壊すことは、ルシフェラーゼ発現をブロックした(
図3c、DHFR_wtmtSRp40、DHFR_wtmtSRp40H_P15、及びDHFR_wtmtSRp40_HP15x)
【0111】
よって、ヘアピン構造内への選択的エクソンの5’ssの埋め込みは、その5’ssのアクセシビリティを妨げ、それによって、mRNA内への選択的エクソンの包含を妨げ、そして、標的遺伝子タンパク質の発現を可能にすることによって標的遺伝子発現を回復させることができる。標的遺伝子タンパク質の発現が、二次RNA構造を介して外来性選択的エクソンの5’ssの利用可能性を変更することによって調節することができる、遺伝子発現プラットフォームを作製した。
【0112】
構築物DHFR_wtmtSRp40(配列番号58)(以降、「mtDHFR」とも呼ぶ)を、更なるリボスイッチ開発のために使用した。
【0113】
実施例4.選択的スプライシングを介して標的遺伝子発現を調節するためのテオフィリンアプタマーの使用
【0114】
実験手順
【0115】
様々な長さを有するヘアピンステムに結合したアプタマー配列のクローニングを容易にするために、DHFR−アクセプターベクターを構築した。使用したテオフィリンアプタマー配列は:ggcgatacCAGCCGAAAGGCCCTTGgcagcgtc(配列番号9)であった。5’末端に4ヌクレオチドのオーバーハングを有するテオフィリンアプタマーオリゴヌクレオチド(「oligos」)を合成し(IDT)、アニーリングし、BsaIで消化したDHFR−アクセプターベクターに連結した。実施例1に記載のとおり、テオフィリンアプタマーを包含する調節カセット伴ったルシフェラーゼレポーター構築物で、HEK293細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの4時間後に、培地を吸引し、そして、3mMのテオフィリンを含む又は含まない新しい培地を加え、そして、テオフィリン処理の20〜24時間後に、ルシフェラーゼをアッセイした。誘導倍率を、アプタマーリガンド存在下で得られたルシフェラーゼ活性をアプタマーリガンド不存在下で得られた値で割った商として表した。ルシフェラーゼ活性のレベルを、ルシフェラーゼ遺伝子のCDS内にIVS2ΔイントロンがないCon1構築物によって産生されたルシフェラーゼ活性のレベル(最大発現と見なされる)のパーセントとして表した。
【0116】
結果
【0117】
終止コドン包含選択的エクソンの5’スプライス部位のアクセシビリティを調節し、それによって、標的遺伝子タンパク質の発現を調節するために、アプタマー配列を、DHFR5’ssのイントロン部分及びその相補配列を埋め込んだヘアピン構造のステムに取り付けた。この形態において、アプタマー配列の挿入は、ヘアピンステムの形成を妨げ、DHFR5’ssをアクセス可能なままにし、これにより、選択的DHFRエクソンの包含をもたらし、そして、標的遺伝子タンパク質の発現を妨げる(
図4a)。
図4bで示したように、アプタマー/リガンド結合が起こるとき、リガンド結合によって引き起こされるアプタマーの構造変化が、安定したステム形成のためにDHFR5’ssとその相補的配列がまとまり、これにより、DHFR5’ssを隠し、DHFRエクソンを排除し、そして、標的遺伝子タンパク質の発現をもたらす。
【0118】
テオフィリンアプタマーの弱いステムをヘアピンステムに直接連結することによって、テオフィリンアプタマーを試験した(
図4c、DHFR_Theo1)。ステムが長過ぎる場合、それは、アプタマー/リガンド結合の不存在下で安定した構造を形成し得るが、それに対して、短すぎる場合、それは、リガンドの存在下であっても、安定したステムを決して形成しない。そのため、安定した二次構造がアプタマー/リガンド結合に対してのみ形成されるように、ステムの長さが最適化される必要がある。リガンドの存在下ではステム形成を可能にするが、リガンドの不存在では形成されない、最適なステム長を決定するために、テオフィリンアプタマーをmtDHFR(実施例2の表2に記載)内にクローニングし、一連のステムの切断(truncation)を実施した、多くの構築物を作製した。
図4cは、この一連の切断の4種類の構築物を示す。
【0119】
図4dは、テオフィリンの存在又は不存在下、この欠失シリーズの構築物からのルシフェラーゼの発現を示す。20bpから下は9bpまでのステム長を有するテオフィリン1からテオフィリン12までの構築物では、ステム長は、アプタマー/リガンド結合の不存在下でさえ安定した二次構造を形成するのに十分であった。これにより、ルシフェラーゼ発現が、テオフィリンの存在下及び不存在下の両方で、Con1と同様のレベルが見られた。
【0120】
構築物DHFR_Theo13では、ルシフェラーゼ発現は、テオフィリンの不存在下で抑制された。これは、選択的DHFRエクソンの包含及び遺伝子発現の抑制につながる、mtDHFRエクソン5’ssの利用可能性を示す。しかしながら、テオフィリンの存在下、ルシフェラーゼ発現がオンに切り替えられ、テオフィリンを用いない発現レベルの43倍、及びCon1対照ベクターによって発現されるルシフェラーゼレベルの約56%の誘導をもたらした。そのため、アプタマーリガンド、テオフィリンの存在下で標的遺伝子タンパク質の発現を有効にする、哺乳類のオン−リボスイッチが作製された。
【0121】
実施例5.選択的スプライシングを介して標的遺伝子発現を調節するためのxptグアニンアプタマーの使用
【0122】
実験手順
【0123】
以下の配列:
cactcatataatCGCGTGGATATGGCACGCAAGTTTCTACCGGGCACCGTAAATGTCcgactatgggtg(配列番号10)
を有するXpt−グアニンアプタマーを、リボスイッチを構築するのに使用した。グアニンアプタマー及び4ヌクレオチドの5’オーバーハングを有するヘアピンステムの配列を含むOligosを合成し(IDT)、アニーリングし、次に、BsaIで消化したDHFR−アクセプターベクターに連結した。実施例1に記載のとおり、HEK293細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの4時間後に、培地を吸引し、500μΜのグアニンを含む又は含まない新しい培地を加えた。グアニン処理の20〜24時間後に、実施例1及び実施例4に記載のとおり、ルシフェラーゼ発現をアッセイした。HepG2、AML12、RD、及びC2C12(ATCC)を、ATCCによって推薦されたプロトコールを使用して培養した。xpt−G17リボスイッチ(配列番号15)を包含するイントロン−エクソン−イントロンカセットを、Gibsonクローニングストラテジー(NEB)を使用して、抗KDR抗体遺伝子のリーダーペプチド配列及びマウスエリスロポエチン遺伝子内のStuI部位内に挿入した。マウスエリスロポイエチン(Epo)又は抗KDR抗体を含む構築物を、HEK293細胞内にトランスフェクトした。トランスフェクションの4時間後に、培地を吸引し、500μΜのグアニンを含む又は含まない新しい培地を加えた。上清を、抗KDR抗体の産生又はマウスEpoの産生のいずれかに関するELISAアッセイ(R&D Systems)に供した。
【0124】
結果
【0125】
選択的スプライシングのアプタマー媒介性調節によって標的遺伝子発現を制御するための追加のアプタマー/リガンドの使用を、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)由来のxpt−グアニンアプタマーをステムPIからヘアピンステムまで取り付けることによって試験した(
図5a、DHFR_G1)。実施例4と同様に、18種類の構築物を、
接続ステムの一連の切断によって作製し(
図5a及び5b、DHFR−G1〜G18、調節カセットを包含したxpt−G1〜G18とも呼ばれる)、グアニンアプタマーに関して最適な長さのヘアピンステムを得、これにより、アプタマー/リガンド結合の連絡が5’ssアクセシビリティとエクソンスプライシングを可能にした。
図5bに示されるように、24bpから下は12bpまでのステム長を有する、構築物DHFRG1〜G13によると、ルシフェラーゼ発現は、アプタマーリガンドであるグアニンの存在又は不存在下、選択的DHFRエクソン及びxpt−グアニンアプタマーの挿入の影響を受けない。このことは、ステムの長さが、リガンドの不存在下と存在下の両方で安定した構造を形成するのに十分であり、mRNA内への選択的エクソンの包含を妨げること示唆する。しかしながら、構築物DHFR_G14〜DHFR_G18では、ルシフェラーゼ発現は、追加グアニンの不存在下で抑制された。μΜのグアニンを加えたとき、これらの構築物からのルシフェラーゼ発現が誘導された(
図5b)。
【0126】
構築物G11〜G18の更なる厳格な確証は、グアニン処理によるルシフェラーゼ発現の明らかな調節を再び示した(
図5c)。xpt−G17(配列番号15)(
図5a)を包含するDHFR_G17構築物は、発現の2000倍の誘導を示し、Con1(最大発現と見なされる)によって発現されたルシフェラーゼレベルの約65%をもたらした。誘導のこの高いダイナミックレンジは、リガンドの不存在下での非常に低い非誘導ベースラインレベルの発現の活性化からもたらされた。構築物DHFR_G16(
図5a)は、非誘導ベースライン発現に対して約800倍の誘導を生じ、最大発現の83%のレベルであった(
図5cと5d)。加えて、構築物DHFR_G14及びG15は、ルシフェラーゼのより高い非誘導ベースライン発現により低い誘導倍率で、最大発現の約100%を示した。
【0127】
イントロン−エクソン−イントロンカセット内の合成リボスイッチの全般的な機能性及び適用可能性を試験するために、発明者らは、構築物(DHFR_G17)を包含するxpt−G17を複数のヒト及びマウス細胞株にトランスフェクトした。これらの様々な細胞株では、グアニン処理は、HepG2細胞では500倍超の誘導で、他の細胞株では低い誘導倍率で、遺伝子発現の有意な誘導を生じた(
図5e)。様々な細胞株における様々な誘導倍率は、トランスフェクション効率、並びに細胞型に特有のスプライシング調節物質の発現プロファイルの違いを反映している可能性がある。更に、xpt−G17リボスイッチ(DHFR_G17)を包含する調節カセットを伴うルシフェラーゼ遺伝子は、AAV骨格に移入されたとき(
図5f)、同じレベルの誘導を得、遺伝子調節効果がベクター骨格に依存していないことを示した。
【0128】
ルシフェラーゼ遺伝子の調節に加えて、xpt−G17包含調節カセットはまた、分泌タンパク質、抗KDR抗体及びエリスロポイエチン(Epo)調節においても試験した。xpt−G17包含調節カセットを、抗KDR抗体及びエリスロポイエチンのコード配列内に挿入した。
図5g及び5hに示されているように、グアニン処理は、リガンド不存在下の細胞からのそれぞれの分子の産生と比較して、抗のKDR抗体産生における80倍の誘導及びEpo産生における140倍の誘導をもたらした。
【0129】
これらの結果は、AAV介在性遺伝子送達における潜在的治療標的遺伝子のタンパク質発現調節、及びこの遺伝子調節カセットの適用における全般的な機能性及び適用可能性を実証する。これにより、発明者らは、哺乳動物細胞内でのアプタマー特異的リガンドの存在に対応した標的遺伝子タンパク質発現に対してスイッチングが可能である合成哺乳類「オン」−リボスイッチを作り出した。
【0130】
実施例6.様々なプリンアプタマーを、選択的スプライシングを介して標的遺伝子発現を調節するのに使用し得る。
【0131】
実験手順
【0132】
表3で列挙した以下のアプタマー配列を、リボスイッチを構築するのに使用した:
表3
【表3】
【0133】
結果
【0134】
発明者らの遺伝子調節システムにおいて追加アプタマーを試験するために、発明者らは、様々なグアニン及びアデニンアプタマーをイントロン−mtDHFR−イントロンカセットに連結することによって複数のグアニン及びアデニン応答性リボスイッチを作り出すために、先の実施例に記載と同じストラテジー及び方法を使用した(
図6a)。試験したグアニンリボスイッチは、グアニンに対応してルシフェラーゼ遺伝子の発現を効率的に調節した(
図6b)。更に、発明者らは、これらのグアニンリボスイッチが、グアニン(
図6b)だけではなく、グアノシン(
図6c)、及び2デオキシグアノシン(2’dG)(
図6d)にも応答して標的遺伝子の発現を調節したことを発見した。
【0135】
多数のアデニンリボスイッチ(
図6a)を作り出し、そしてまた、遺伝子調節機能性も実証した(
図6e)。
【0136】
試験した構築物を包含する様々なアプタマーの遺伝子発現調節における相違は、5’ssのアクセシビリティ、選択的エクソンの包含、そのため、標的遺伝子発現に影響し得るアプタマー/リガンド結合親和性及びアプタマー二次構造における相違を反映している可能性がある。イントロン−エクソン−イントロン遺伝子調節カセットは、所望のレベルの遺伝子調節を達成するためにアプタマー配列を変更することによって最適化できる。
【0137】
実施例7.哺乳類のグアニンリボスイッチによって調節される標的遺伝子発現のオン/オフの状況
【0138】
実験手順
【0139】
イントロン−mtDHFR−アプタマー−イントロンカセットを、PCR増幅し、Golden Gateクローニングストラテジー(NEB)を使用してpEGFP−C1ベクター内にクローニングした。リボスイッチを用いてEGFPを安定して発現する細胞株を入手するために、HEK−293細胞を、20ngのプラスミドDNAを用いてエレクトポレーション処理した。エレクトロポレーションの48時間後に、細胞培養物を、カセットを安定して発現する細胞について、800μg/mlのG418を用いて2週間選別した。細胞をトリプシン処理し、そして、細胞懸濁液を、Guava EasyCyte 8HT機器を使用してGFP蛍光強度のフローサイトメトリー解析に供した。得られたデータを、GuavaSoft2.2.2を使用して分析した。
【0140】
結果
【0141】
発明者らのイントロン−エクソン−イントロン調節カセットを包含する標的遺伝子の発現が、リボスイッチ内に包含されたアプタマーに特異的なリガンドへの曝露によって調節できることを更に実証するために、xpt−G17リボスイッチ(配列番号15)を含むイントロン−mtDHFR−イントロンカセットを、EGFP遺伝子内に挿入し、HEK293細胞を安定的にトランスフェクトした。グアニンの存在下、EGFP発現はオンに切り替えられた(
図7a)。蛍光は、グアニン処理後6時間にはもう検出され、3日間のグアニン処理を通じて増加し、そして、未処理細胞と比較して、300倍近い誘導に達し(
図7b)、そして、アプタマーリガンドの存在下で標的遺伝子発現の「オン」状態を示した。グアニンが細胞培養から取り除かれたとき、EGFP発現は減少し、そして、アプタマー特異的リガンドの不存在下での標的遺伝子発現の「オフ」状態を示した(
図7b)。これにより、発明者らは、それによって哺乳動物細胞内における標的遺伝子の発現が、特異的アプタマーリガンドの存在又は不存在によって調節される、合成リボスイッチを包含するイントロン−エクソン−イントロンカセットを含んだ遺伝子調節プラットフォームを作製した。
【0142】
実施例8.標的遺伝子発現の調節に対する複数の調節カセットの効果
【0143】
実験手順
【0144】
Golden Gateクローニングストラテジー(NEB)を使用して、構築物を作製した。HEK293細胞を示した構築物でトランスフェクトし、トランスフェクションの4時間後に、500μΜのグアニン又は1mMのグアノシン(Sigma)で処理した。ルシフェラーゼ活性を、実施例5に記載のとおりアッセイした。
【0145】
結果
【0146】
調節カセット(DHFR_G15、実施例5)を包含するxpt−G15(配列番号46)を伴った構築物は、非誘導のベース発現レベルと比較して、グアニン処理に応答してルシフェラーゼ発現の60倍の誘導を示し、そして、Con1によるルシフェラーゼ発現のレベルの約100%に達した(
図8a)。これは、高レベルで必要とされる治療用タンパク質を調節するときに、有用な特徴である。
【0147】
対照的に、調節カセット(DHFR_G17)を包含するxpt−G17を伴った構築物は、低い非誘導ベースライン発現のせいで、2181倍のかなり高い誘導倍率を有したが、Con1と比較して、誘導による最大発現レベルはかなり低かった(
図8a)。
【0148】
2コピーのxpt−G15を包含する調節カセット(xpt−G15ダブル;配列番号64)が、誘導による最大ルシフェラーゼの最大発現レベルを下げることなく、発現の基礎レベルを低減できるか否かを試験するために、2コピーのxpt−G15を包含する調節カセットをルシフェラーゼ遺伝子内に埋め込み、各コピーを該遺伝子配列内の別の場所に埋め込んだ。2コピーのxpt−G15を包含する調節カセットが存在するとき、非誘導ベースライン発現は減少し、最大発現レベルを下げることなく、かなり高い誘導倍率(60倍〜1008倍)をもたらした(
図8a)。
【0149】
xpt−G15ダブルカセット(xpt−G15ダブル;配列番号64)に関するグアニンのEC50は、単一コピーのよりストリンジェントなxpt−G17包含カセットを包含する構築物に関するグアニンのEC50と比べて、5分の一であり(43μΜ対206μΜ)、これにより、リガンド応答の感度は増強された(
図8a)。
【0150】
誘導倍率及び最大誘導遺伝子発現を高めるために、2コピーの低ストリンジェント調節カセットを使用するストラテジーを、EGFP遺伝子にも適用した。
図8b及び8cに示されるように、ルシフェラーゼ調節の結果と一致して(
図8a)、EGFP遺伝子(EGFP−xpt−G15)内の単一コピーのxpt−G15調節カセットは、構築物(EGFP−xpt−G17)を包含するxpt−G17調節カセットと比較したときに、EGFP発現のより高い非誘導ベースラインレベルを作り出した。しかしながら、2コピーのxpt−G15調節カセットを、別の配置にてEGFP遺伝子内に挿入したとき(EGFP−xpt−G15ダブル)、非誘導ベースライン発現レベルは、xpt−G17のレベルまで減少し、同時に、EGFPの誘導レベルは、Con1−EGFP対照より高くさえあった(
図8c)。
【0151】
更に、1コピーのxpt−G17を包含する調節カセットと1コピーのYdhl−A5アデニンリボスイッチを包含する調節カセットを、ルシフェラーゼ遺伝子内に埋め込んだ。ルシフェラーゼ発現は、アデニンの添加(25倍)又はグアニンの添加(120倍)のいずれか単独で誘導されたが、しかしながら、有意に高いレベルの誘導は、それぞれそれらが使用した最高濃度でのアデニンとグアニンの併用を用いて達成された(最高2966倍)(
図8d)。これらの結果は、標的遺伝子発現の調節における選択的スプライシングベースのリボスイッチのモジュール性を実証する。
【0152】
遺伝子組み換えを減らし、且つ、2以上の調節カセットを包含するウイルスベクターの製造の容易さを高めるために、様々なイントロン及びエクソン配列を伴った調節カセットを、単一の標的遺伝子に使用され得るので、これらは、同一又は異なるガンド応答性アプタマーを含み得る。
【0153】
実施例9.アプタマー媒介性選択的スプライシングを介した標的遺伝子発現調節に対するイントロンサイズ及び配列の効果
【0154】
実験手順
【0155】
Con1構築物を、上流又は下流イントロン欠失のいずれかを有するイントロン断片のPCR増幅のための鋳型として使用した。単一のイントロン欠失を有する構築物を作り出すために、PCR産物を、Golden Gateクローニングストラテジー(NEB)を使用してxpt−G17リボスイッチを包含する構築物内にクローニングした。上流及び下流イントロン欠失の両方を有する構築物を作り出すために、下流イントロン配列内に単一の欠失を有する構築物からEcoRIとBamHIによって切り離した断片を、上流イントロン配列内に単一の欠失を有するEcoRIとBamHIで消化した構築物内にクローニングした。
【0156】
結果
【0157】
イントロンは、エクソンスプライシングを促進し得る(イントロンスプライシングエンハンサー、ISE)又は抑制し得る(イントロンスプライシングサプレッサー、ISS)エレメントを包含する。発明者らが作り出したすべてのリボスイッチの中で、xpt−G17が、誘導倍率及び誘導された遺伝子発現レベルの両方に関して最高の調節能力を実証した。イントロン−エクソン−イントロンカセットでxpt−G17リボスイッチを使用して、発明者らは、システムを更に最適化するために、イントロン配列及びイントロンの長さ、並びにスプライス部位において一連の修飾をおこなった。
【0158】
最初に、イントロン修飾の効果を、mtDHFRエクソンの上流又は下流のいずれかのイントロン配列内に単一の欠失を導入することによって試験した(
図9a、9b)。リボスイッチを包含するxpt−G17を伴った16種類の構築物、xpt−G17−IR−1〜xpt−G17−IR−16(これらの構築物のうちの13個の配列を表5、配列番号16〜28に示す)を作製した。次に、
図9cで示したように、上流及び下流イントロン欠失を組み合わせて、より大きいイントロン欠失を作り出した。
図9d及び9eに示されるように、2つのイントロン欠失(2IR)で作製した16種類の構築物、構築物2IR−1〜2IR−10(配列番号29〜38)は、ルシフェラーゼの誘導発現レベルを下げることなく、有意に高い誘導倍率を示し、2IR−3に誘導倍率の最大の改善があった(4744倍)。加えて、発明者らはまた、mtDHFRエクソンの上流に変異3’ssを有する構築物も作製し、そしてまた、下流イントロンのサイズも減少させた。
図9d及び9e(構築物DHFR_3ssC_1〜5)に示されるように、これらの改変は、相対誘導倍率を更に改良したが、それにもかかわらず、この場合、誘導された発現のレベルの低減が観察された(3ssC_3に関して64%から32%へ)。
【0159】
これらの結果は、イントロン−エクソンアプタマー−イントロンカセットの遺伝子調節能力が、所望のレベルの遺伝子調節を達成するために選択的エクソンに隣接したイントロン配列を改変することによって最適化され得ることを示す。
【0160】
実施例10.遺伝子調節カセットにおける複数の天然エクソン並びに合成エクソンの使用
【0161】
実験手順
【0162】
変異ヒトWilms腫瘍1エクソン5(mutWT1−e5、配列番号61)、SIRT1エクソン6(SIRT1−e6、配列番号62)、マウスカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼIIデルタエクソン16、又は17(Camk2d−e16又はe17、配列番号59、60)、及び合成エクソンENEEE(配列番号63)の配列を合成し(IDT)、Gibsonクローニングキット(NEB)を使用して、DHFRエクソンの代わりにDHFR−G17ベクター内にクローニングした。プラスミドDNAをHEK293細胞内にトランスフェクトし、500μΜのグアニンによって処理し、そして、ルシフェラーゼアッセイを、実施例1に記載の通り行った。5’及び3’スプライス部位を有するそれぞれのエクソンの配列は、大文字のエクソン配列と共に示されている(表5、配列番号59〜63)。
【0163】
結果
【0164】
発明者らのイントロン−エクソン−アプタマー−イントロンカセットの調節機能が特定のエクソン配列に制限されないことを確認するために、発明者らは、グアニンxpt−G17リボスイッチ(DHFR−xpt−G17)を包含する構築物内のmtDHFRエクソンを、複数の様々な天然及び変異エクソン、並びに既知のエクソンスプライスエンハンサー配列(ESE)を包含する合成エクソンで置換した。
図10に示されているとおり、CamkIId−e16エクソンを伴った調節カセットは、DHFR−xpt−G17と比較して、ほとんど同等な誘導倍率を生じたが、ベース及び誘導ルシフェラーゼ発現の両方で低レベルであった。他のエクソンを包含するカセットもまた、ベース及び誘導ルシフェラーゼ発現の両方で変わりやすいレベルを示した。これにより、アプタマー媒介性選択的スプライシング遺伝子調節カセットは、エクソン特異的でなく、またmDHFR−e2エクソンに限定されない。
【0165】
効果的な選択的スプライシング事象を作り出すことができるエクソンは、アプタマー介在性遺伝子調節カセットに好適である。これらの結果は、このイントロン−エクソンアプタマー−イントロンカセットの遺伝子調節能力が、選択的エクソン内の配列、並びに周囲のイントロン配列、例えば、選択的エクソンの5’ss及び3’ss配列のスプライシング強度、並びに本明細書中に記載の選択的エクソン内のESE及びESS配列、を改変することによって最適化できることを更に示す。
【0166】
実施例11.マウスのin vivoにおけるアプタマー媒介性選択的スプライシングによる標的遺伝子発現の調節
【0167】
実験手順
【0168】
水圧DNA送達(Hydrodynamic DNA delivery)と薬物療法:生理的食塩水(Qiagen Endofreeキット)中に希釈した、2コピーのxpt−G15を包含する調節カセット(xpt−G15ダブル、配列番号64、実施例8、
図8a)を伴ったルシフェラーゼ遺伝子を包含するエンドトキシン不含プラスミドDNA5μg又は10μgを、6〜7週齢のCD−1雌マウスに5〜10秒かけて10%体重の体積で尾静脈を通して注射した。グアノシン(Sigma)を、水中の0.5%のメチルセルロース/0.25%のTween80(Sigma)中に新たに懸濁し、そして、DNA注射後2時間又は12時間に経口投与されるか、又はDNA送達後、5時間、12時間、16時間、及び24時間に腹腔内注射(IP)によって送達された。
【0169】
非侵襲性の生きた動物の生物発光造影:造影前に、マウスを、2%のイソフルランで麻酔し、150gm/kg体重のルシフェリンを注射し、そして、ルシフェリン注射後2〜5分以内に、DNA注射後の示された時点にてBruker Xtremeシステムを使用して像を撮影した。ルシフェラーゼ活性を平均光子/秒±s.dとして表した。誘導倍率を、グアノシンで処理したマウスで得られた光子/秒を、グアノシン処理なしのマウスで得られた値で割った商として計算した。
【0170】
結果
【0171】
発明者らは、in vivoにおいてマウスにおけるイントロン−エクソン−イントロン調節カセットの遺伝子調節機能を評価した。ルシフェラーゼ遺伝子内に2コピーのxpt−G15リボスイッチを包含する構築物(xpt−G15ダブル)のエンドトキシン不含プラスミドDNAを、水圧注射によってマウスの肝臓に送達し、そして、グアノシンを腹腔内に投与した。発明者らは、グアノシン送達の2つの経路を試験した。1つの実験(
図11a及び11b)では、マウスに、DNA送達後2時間と12時間で様々な用量のグアノシンを経口的に投与し、次に、撮影した。
図11aに示されるように、グアノシンによって処理したマウスは、DNA後9時間により高いルシフェラーゼ発現を示した。グアノシン処理したマウスにおけるルシフェラーゼ発現は、徐々に増加し、そして、DNA注射後48時間に最高レベルに達し、その後、発現は減少した。
【0172】
別々の実験で(
図11c及び
図11d)、グアノシンを腹腔内に投与した。DNA注射(P.I.)の4時間後、及び、グアノシン処理前に、各群のマウスは同様のレベルのベースのルシフェラーゼ活性を示した(
図11)。次に、マウスを、対照としてのビヒクル又はグアノシンのいずれかによって処理した。P.I.の11時間で、すべてのマウスでルシフェラーゼ活性が増加し、ルシフェラーゼ遺伝子発現は、肝臓におけるDNA水圧注射後12時間でピークに達するという報告と一致した。しかしながら、グアノシンによって処理したマウスでは、未処理のマウスのそれと比較して、有意に高いレベルのルシフェラーゼ発現があり、非誘導ベースライン発現と比較して、4.7倍及び16.2倍の誘導が、それぞれ100mg/kg及び300mg/kgのグアノシンによって見られた。
【0173】
これにより、スプライシングベースの遺伝子調節カセットは、調節カセット内に包含されたアプタマーに特異的なリガンドの投与に対応して、用量依存様式で、動物体内のin vivoにおいて遺伝子発現を調節することが示された。
【0174】
実施例12.アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを介したマウス網膜へのリボスイッチ構築物の送達
【0175】
実験手順
【0176】
AAVプラスミド構築物:(以下の表に記載の)2つのリボスイッチ発現構築物を、AAVゲノムとしてパッケージできる形式に分子クローニングによって適合させた。
表4
【表4】
【0177】
EGFP導入遺伝子を中心にベースとした発現構築物(GTX5〜7)を、制限酵素MfeIとNheIで消化し、リボスイッチ誘導性エレメント及びEGFP導入遺伝子を包含する〜1400bpのDNA断片を切り離した。pD10 AAVゲノムプラスミドもまた、MfeIとNheIで消化し、AAV ITRs、CMVプロモーター、及びSV40ポリアデニル化シグナルを包含する4475bpの断片を切り離した。2つの断片を、T4 DNAリガーゼを使用して連結し、AAV2ゲノムとしてパッケージされることが可能である、以下の構造:
[ITR]−[CMV]−[5’EGFP]−[リボスイッチエレメント]−[3’EGFP]−[SV40]−[ITR]
を有するプラスミド包含配列をもたらす。
【0178】
得られたプラスミド構築物すべてを、DNA配列決定によって確認し、そして、以下の規則に従って命名した:pD10−GTX#
【0179】
AAVベクター製造と力価測定(titration):アデノ随伴ウイルス(AAV)を、3つのプラスミドを用いたHEK−293T細胞の一過性トランスフェクションによってin vitroにおいて製造した。
(i)pD10骨格ベースのウイルスゲノムプラスミド。
(ii)AAV2 Rep78遺伝子及びウイルスカプシド遺伝子を包含するAAVパッケージングプラスミド。多くの様々なAAV血清型が、カプシド遺伝子配列を変更することによって作製され得るが、本ケースの場合、AAV8カプシドを使用した。
(iii)ヘルパープラスミド(pHGTI−Adeno1)。このプラスミドは、AAVがパッケージ及びアッセンブルを必要とするアデノウイルス遺伝子のほぼ最小限のセットを提供する。
【0180】
これらのプラスミドを、1:1:3の比でHEK−293T細胞内にトランスフェクトし、150cm
2プレートの80〜90%コンフルエントあたり、合計50μgのプラスミドDNAをトランスフェクトした。典型的な製造作業は、斯かるプレート20枚から行った。使用したトランスフェクション試薬は、ポリエチレンイミン(PEI)であり、2.25:1(w/w)のPEI対DNA比であった。トランスフェクションの72時間後に、細胞を、プレートから物理的に剥がし、遠心分離によってペレットにし;得られた細胞ペレットを、20mLのTRIS密度バッファー中に再懸濁した。次に、ペレットを、反復凍結/解凍/ボルテックスサイクルによって溶解させ、そして、溶解物中に残っている任意のパッケージされていないDNAをベンゾナーゼ(Benzonase)消化によって破壊した。次に、溶解物を、50mLの全量まで希釈する前に、デッドエンド濾過及び遠心分離によって浄化した。
【0181】
次に、浄化した溶解物を、事前にプログラムされたプロトコールに従って作動するAKTA Pure装置のAVBカラム(両方GE Healthcare)を使用して、親和性ベースのFPLC手順を介して精製した。FPLCカラムからの最終的なAAV包含溶出液を、10,000MW排除Vivaspin4遠心濃縮器(GE Healthcare)中の5000×gでの遠心分離によって〜200μLの体積まで濃縮し、(高塩類溶出緩衝液を希釈するために)2mLのPBS−MKを加え、そして、溶出液を、同じ濃縮器を使用して〜200μLまで再濃縮した。この材料は、精製したAAVウイルスを構成し、そして、適切な場合には、アリコートに分け、そして、−80℃にて保存した。
【0182】
ベクター力価を、精製したベクターのサンプルに直接(SV40ポリアデニル化シグナルに対して標的化した)qPCRを使用して確立した。得られたサイクル閾値を、既知の検量線と比較して、1mLあたりのベクターゲノムの数を計算した。
【0183】
リボスイッチAAVベクターを、以下の規則に従って命名した:
AAV2/[カプシド 血清型#]−GTX#
【0184】
マウスの網膜下注射:網膜下腔内へのベクターの注射を、5μLのハミルトンシリンジに装着した、手引書に指示された10mm、34ゲージ針を使用して、全身麻酔下のマウスに対して実施した。針チップを、手術用顕微鏡を介した網膜観察によって注射位置に誘導した。ベクターを導入するすべての眼において、2×2μLの注射を実施し、一方の注射は眼の上半球に配置し、他方を下半球に配置した。注射後、得られた網膜剥離の特質及び注射した材料の何らかの逆流を記録した。
【0185】
蛍光眼底写真:網膜下注射に続いて、EGFP導入遺伝子発現を、取り付けられたライカDC500デジタルカメラを有するスリットランプ(SC16、Keeler)を使用したFundus写真によって定期的に評価した。動物を、全身麻酔下におき、それらの瞳孔を、1%の局所トロピカミドで散大させた。接触媒質溶液(Viscotears)で被覆した角膜上にカバーガラスを置くことによって、角膜の屈折力を中和した。明るい白色光の下、器具を調整し、及び動物を配置した。網膜が鮮明なフォーカス下にあり、及び視神経円板を視界の中心に置き、次に、明視野像を200msの露出時間を使用して撮像した。導入遺伝子(EGFP)蛍光を、光源のフィルタリング(475±25nm)によって評価し、そして、10〜30秒の露出時間で2枚の更なる像を撮像した。
【0186】
結果
【0187】
リボスイッチ構築物(表4)は、連結産物のDNA配列決定によって示されたとおりAAVゲノムとしてパッケージされることができるフォーマットにうまくクローニングされた。得られた構築物から、pd10−GTX7及びpd10−GTX5を、AAV2/8ウイルスベクターとして更に製造した。製造したベクターは、qPCRによって次の力価を有することを示した:
AAV2/8−GTX7:1.17×10
13ベクターゲノム/mL
AAV2/8−GTX5:1.73x10
13ベクターゲノム/mL
【0188】
次に、これらの2つのベクターを、網膜下に注射し、そして、蛍光眼底写真によって発現を評価する前に、EGFP導入遺伝子発現が発症するように8日間放置した。
図12は、AAV2/8−GTX7が注射された網膜でEGFPが発現したことを示す。導入遺伝子発現は低いが、AAV2/8−GTX7からの実質的な発現は、(加えられなかった)リガンドに応答したアプタマー媒介性選択的スプライシングを介した誘導後において、予想されたもののみである。
【0189】
実施例13.AAV送達後の、マウス網膜におけるin vivoでの調節カセット媒介性選択的スプライシングによる標的遺伝子発現の調節
【0190】
手順
【0191】
蛍光眼底写真(EGFPシグナル)の定量化:すべての操作及び像の分析を、GNU Image Manipulation Program(GIMP、オープンソース)を使用しておこなった。先に記載したように、それぞれの網膜の3つの像を、造影の各時点で撮像した:白色光(200ms)、475±25nm(10秒)、及び475±25nm(30秒)。最初に、これらの3つの像を、層として重ね、そして、ガイドとして白色光像を使用して、着目の領域(ROI)を、瞳孔を通して見える網膜全体を網羅するように規定した。2つ475±25nm(EGFP蛍光)像に対して、閾値ツールを使用して、規定した閾値を超える強度値を有するピクセルだけを強調した。閾値は、バックグラウンドからのEGFPシグナルの明確な分離を規定することに基づいて、及び分析のために適当なダイナミックレンジを提供するために選択した。ROI内の閾値を超えたピクセル数を、各像について記録した。眼の間で見える網膜領域のばらつきにつながる瞳孔の変動する散大を補正するために、閾値を超えたピクセル数を、ROI内のピクセルの総数で割った。
【0192】
誘導:標的遺伝子発現のリボスイッチ媒介性誘導を、次に記載した2つの投与経路を介して実施した:
【0193】
腹腔内注射(I.P.):100μLの体積の[水中の75mg/mlのグアノシン+0.5% w/vのメチルセルロース+0.25% v/vのTween80]を、13mm、30ゲージの針を使用して、腹腔内腔に注射した。これは、25gの体重の成体マウスにおいて300mg/kgのグアノシン用量と一致する。
【0194】
硝子体内注射(I−Vit.):2μLの体積の[PBS−MK中のImMのグアノシン+2.5%のDMSO]を、手引書に指示された10mm、34ゲージの針を使用して硝子体内に注射した。注射時の針チップ位置は、視神経円板の真上の水晶体の下であり、手術用顕微鏡を介した網膜観察によってこの位置に誘導した。
【0195】
結果
【0196】
00日目に、合計9つの眼に、次のように実施例12に記載のとおり網膜下注射した:
−6つの眼にAAV2/8−GTX7(G15リボスイッチエレメントによって調節されるCMVプロモーターからのEGFP導入遺伝子発現)
−3つの眼に、AAV2/8−GTX5(陽性対照構築物、CMVプロモーターからの無調節EGFP導入遺伝子発現)
【0197】
実施例12に記載の蛍光眼底写真撮影を、02、08、09、10及び12日目におこなった。
【0198】
08、09及び10日目の蛍光眼底写真後に、すべての眼が腹腔内注射を介した誘導を受けた。すべての眼が、11日目の硝子体内注射を介して誘導を受けた。蛍光シグナルを、先に記載したように定量化し、そして、実例となる像を
図13aに示す。
【0199】
AAV2/8からの遺伝子発現は、最大になるまで7日間かかることが知られているので、ベクター注射後の最初の8日間は、誘導をおこなわなかった。そのため、8日目の発現レベルを、誘導前のベースラインとみなした。2ラウンドのI.P.誘導後のベクター注射後10日目に、導入遺伝子発現は、
図13c及び
図13a(L対N)に示されているように、このベースラインと比較して、〜3.5×(P≦0.05、一元配置ANOVA、Dunnetts)に増加した。
【0200】
ベクター注射後12日目、硝子体内誘導の24時間後、及び最後のI.P.誘導の48時間後、導入遺伝子発現は、
図13c及び
図13a(L対O)に示されているように、ベースラインと比較して、〜9×(P≦0.001、一元配置ANOVA、Dunnetts)に増加した。硝子体内誘導後のこれだけ大きな誘導は、この誘導経路が腹腔内注射より効果的であろうことを意味している(しかし、明確に示されていない)。
【0201】
誘導前後のEGFP導入遺伝子発現における差異を示すより高解像度の像を、
図13bに示す。
【0202】
同じ期間及び同じ誘導処方計画にわたって、無調節対照ベクターAAV2/8−GTX5によって媒介されたEGFP発現レベルは、有意に変化することなく(一元配置ANOVA、Bonferroni)、
図13dに示されているように、ほぼ一定量を維持した。GTX7対GTX5によって媒介された発現レベルの大きな違いのため、それぞれの像のセットは、異なる露出時間(それぞれ30秒と10秒)及び閾値(それぞれ50と190)を必要とした。
【0203】
このデータは、GTX7構築物ベースのG15からの導入遺伝子発現が、マウス網膜においてアプタマー媒介性選択的スプライシングを介して調節されたことを明確に示す。GTX7から誘導された最大の導入遺伝子発現レベルは、誘導不可能な陽性対照構築物GTX5によって媒介されたものより低かった。
表5.説明と関連配列。特に明記しない限り、エクソン配列は大文字で示し、そして、イントロン配列は小文字で示す。
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】