(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一分子の分析、特に単一の核酸分子の配列を決定する方法に関する。
【0002】
約3×10
9個の塩基からなるヒトゲノム、あるいは他の微生物のゲノムの配列決定、および個別の配列の変異体を決定・比較するには、まず素早く、次に日常的で費用効果の高い配列決定法を提供することが必要である。これまで、例えば、Sanger et al. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74 (1977) 5463)の酵素による鎖停止法、特に自動化 (Adams et al., Automated DNA Sequencing and Analysis (1994), New York, Academic Press)などにより、よく知られた配列決定法を高速化するために多大な努力がなされてきた。
【0003】
費用効果の高い配列決定の要求の高まりから、配列決定法を並行処理すると同時に複数の配列を生成する高処理配列決定技術が開発されている。これらの配列決定技術としては、例えば、超並列的遺伝子ビーズクローン解析法(Lynx Therapeutics)、ポロニー(polony)配列決定法(Life Technologies)、454ピロ配列決定法(pyrosequencing)(Roche Diagnostics)、イルミナ配列決定法(Solexa Inc.)、ライゲーションによる配列決定法(Life Technologies)、イオントレント半導体配列決定法(Life Technologies)、あるいはDNAナノボール配列決定法(Complete Genomics)などが挙げられる。これらの技術により、核酸集団内の共通配列を迅速に分析することができる。しかしながら、分析対象の核酸集団内の少数配列(例えば、少数の細胞ゲノム)に存在する変異は検出されないことがある。というのは、その集団内に存在する多数の他の配列によって分かりにくくなっているためである。
【0004】
他の方法として、単一分子配列決定法(Dorre et al., Bioimaging 5 (1997), 139-152)がある。これは、蛍光標識した一本鎖DNA分子の酵素分解を進行させて、順次放出された単量体分子をミクロ構造チャネルで検出することにより核酸の配列を決定するものである。この方法は、配列決定を行うのに標的核酸の単一分子のみが十分にあるという利点がある。
【0005】
PCT/EP01/07462には、担持体に複数の蛍光標識基を担持した核酸分子を固定した形態で用意すること、およびヌクレオチド構成単位が切断される際に生じる前記核酸分子または/および切断されたヌクレオチド構成単位(nucleotide building blocks)の蛍光における経時的変化に基づいて複数の核酸分子の塩基配列を同時に決定することを含む多重配列決定法が開示されている。WO2003/052137によれば、担持体に光を照射して、固定した核酸分子の領域で、担持体表面で内部反射させることによりエバネセント励起場を発生させることで配列が決定される。
【0006】
WO2006/013110には、固定した形態で核酸分解酵素分子および/または核酸合成酵素分子を用意すること、固定した酵素を遊離核酸分子と接触させること、および核酸構成単位が核酸分子に組み込まれる、かつ/または切断される際に生じる蛍光の経時的変化に基づき、複数の核酸分子の塩基配列を同時に決定することを含む、マルチプレックス配列決定法が記載されている。
【0007】
WO2013/131888には、環状の核酸鋳型分子を用いることを含む、核酸分子、特に単一分子の並行高処理配列決定法が開示されている。
【0008】
また、論文"Brownian Motion of Single Molecule in Electric Field Electrophoresis" 2001, 22, 3813-3818に言及がある。
【0009】
近年、一本鎖DNAの配列を決定するための単一分子配列決定技術が開発されており、例えば、heliscope単一分子配列決定法(Helicos Biosciences)または単一分子リアルタイム配列決定法(Pacific Bioscience)などがある。
【0010】
DNAの配列決定を行うための市販の単一分子DNA配列決定技術の手法は、いわゆる
コンセンサス決定で、同一DNA分子のいくつかのリード(reads)を繰り返し分析することでDNA配列を決定する。従って、DNA断片配列の正確な(好ましくは99.9%以上の)決定は、いくつかの類似のDNA断片を分析し、正しいDNA配列を推定するための複雑な統計アルゴリズムを用いることで達成される。他の単一分子DNA配列決定技術で用いられるアルゴリズムは、配列が1つのみ存在すると先験的に仮定する。従って、試料中の他のDNA分子と比較して配列に違いがあるような少数部分が試料中にある場合、そのような配列の違いは考慮されず、アルゴリズムによって「ノイズ」または「誤り」として処理される。その試料がほぼ同じ濃度のDNA配列の混合物を含む場合、この分析では「
コンセンサス」配列と結論づけることができず、結果は無効になる。この複雑なアルゴリズムの目的は、他の単一分子のDNA配列を決定する技術の約85〜90%という低い一次確度を出来るだけ補うことである。
【0011】
これら問題を克服するため、ヨーロッパ特許14 150 807.7号には、単一分子を分析するための方法および装置、特に複数の単一分子を分析する方法および装置、さらには以下の特徴的事項を含む単一核酸分子の配列決定を行う方法および装置が開示されている。
− 分析対象の単一分子(single molecule)を担持体(support)に配置するための少なくとも1つの試料域(sample spot)を有する担持体、
− 担持体表面の少なくとも1つの単一分子の位置で、少なくとも1つの照射された体積要素(例えば、共焦点体積要素(confocal volume element))を提供する光源、特に、多点レーザー(multipoint laser)、および
− 担持体表面の個別の単一分子から単一の光子を検出することができる検出器、特に多画素検出器(multipixel detector)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、以下のステップを含む単一分子(single molecule)を分析するための方法に関する。
(a)担持体(support)であって、少なくとも1つの個別の試料域(sample spot)をその上に含む担持体を、提供するステップ、ここで、前記試料域が、少なくとも部分的には導電性材料でできている、
(b)前記担持体を、分析対象である少なくとも1つの単一分子を含む液体媒体(liquid medium)と接触させるステップ、これによって、前記試料域上の液体媒体の反応空間を形成する、
(c)前記反応空間に電場を印加するステップ、これによって、分析対象である前記少なくとも1つの単一分子の、前記試料域での濃縮を達成する、および
(d)前記少なくとも1つの単一分子を、個別に分析するステップ。
【0015】
本発明は、特に、以下の工程を含む、複数の単一分子を分析するための方法に関する。
(a)担持体であって、複数の個別の試料域をその上に含む担持体を、提供するステップ、ここで前記試料域が、少なくとも部分的には導電性材料でできている、
(b)前記担持体を、分析対象である複数の単一分子を含む液体媒体と接触させるステップ、これによって、前記試料域上の少なくとも1つの反応空間を形成する、
(c)前記反応空間に電場を印加するステップ、これによって、分析対象である前記単一分子の、前記試料域での濃縮を達成する、および
(d)前記単一分子を、個別に分析するステップ。
【0016】
本発明の方法は、単一分子の分析、特に複数の単一分子の並行分析に関する。本発明は、相互作用(例えば、単一分子間の結合および/または反応)、および単一分子の伸長または分解を検出するのに好適である。特に、本発明の方法は、単一の核酸分子の配列決定に関する。
【0017】
本発明では、分析対象の単一分子を配置するための少なくとも1つの試料域、および特に複数の個別の試料域を含む担持体を用意する。試料域は、直径が約1〜20nm、例えば、約1〜15nm、約2〜15nm、または約4〜12nmの範囲の直径であってもよい。個別の試料域と試料域との間のクロストークを回避するため、担持体上の個別の試料域の中心から中心の距離(すなわち試料域間距離)は、試料域の直径の少なくとも約2倍が好ましく、少なくとも約3倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍がより好ましい。上限は、約5000nmまで、例えば、約1000nmまで、約500nmまで、約100nmまで、あるいは試料域の直径の約50倍までであってもよい。担持体上の個別の試料域の中心から中心の距離は、任意の値から下限および上限が選択された距離範囲(例えば、試料域の直径の約2倍から約5000倍、約2倍から約500倍、約2倍から約100倍、あるいは約5倍から500倍など)を有していてもよい。
【0018】
分析対象の単一分子は、試料域の周囲に形成された反応空間内で遊離した形態、すなわち液体媒体中に溶解または懸濁している。本発明によれば、反応空間に電場を印加して、試料域(すなわち、試料域の周辺または領域内)の単一分子の濃縮、特に単一の核酸分子の濃縮を達成する。これにより、試料域での分析対象の単一分子量が実質的に増加する。この目的のため、試料域は少なくとも部分的に導電性材料でできている。例えば、試料域は、導電性の表面を有していてもよい。試料域の表面は、Au、Ag、Cr、Ni、またはAlなどの金属、特にAuなどの貴金属であってもよい。特に好ましい一態様では、試料域は、複数の異なる層、例えば、金属層、例えば、第一のCr層および第二の(上部)Au層を含んでいてもよい。
【0019】
担持体は、任意の平坦な担持体または構造化された担持体(structured support)であってもよい。好ましいのは、平坦な担持体である。好適な担持体材料の例としては、ガラス、石英、プラスチック、金属、半金属(例えば、ケイ素)、例えば、金属酸化物(例えば、二酸化ケイ素)、あるいは前記材料を含む複合体が挙げられる。担持体は、少なくとも試料域の領域では、蛍光励起光による照射または/および担持体を通過した蛍光発光の後方散乱のための、あるいはエバネセンスに基づく蛍光検出のための十分な光学透明性と好適な表面性を有していてもよい。
【0020】
態様によっては、担持体は、導電性材料、例えば、金属、金属酸化物、および/または重合体を含んでいてもよい。例えば、担持体は、個別の試料域と試料域との間の領域に導電性である表面を少なくとも部分的に有していてもよい。例えば、担持体は、厚さが、例えば、10〜1000nm、20〜500nm、または50〜200nm、例えば、約100nmの導電性表面層を含んでいてもよい。表面層は、好適な金属酸化物(例えば、酸化スズインジウムまたは導電性重合体)であってもよい。
【0021】
特に好ましい一態様では、担持体はガラスまたは石英からなり、光学的に透明な導電性の表面を有する。特に好ましい一態様では、担持体は、例えば約0.175nmの厚さを有するガラス(例えば、超高純度石英)と、金属酸化物(例えば、酸化スズインジウム)および/または導電性有機重合体からなる、例えば約100nmの厚さを有する導電性の透明な表面からなる。
【0022】
本発明の方法は
、その上に試料域が設けられた担持体全体またはその一部に形成された
、単一の反応空間
で行われてもよい。あるいは、前記方法はまた、担持体の複数の個別の反応空間内で行われてもよく、ここで、前記個別の反応空間は、前記方法の少なくともあるステップの間は、互いに連通していない。複数の個別の反応空間は、例えば、担持体上のナノウェルおよび/またはマイクロウェル、および/またはナノスポットまたはマイクロスポットによって形成されてもよい。
【0023】
本発明の方法は、反応空間に電場を印加することを含む。導電性担持体表面が個別の試料域と試料域との間に存在する場合、個別の導電性試料域(例えばAu域)は、同じ電位を有していてもよい。電場を導電性試料域とさらなる電極(例えば、光学測定装置の導電性構造、例えば、測定レンズの金属ケース)との間に印加してもよい。あるいは、構造化された担持体を用いる場合は、対電極は導電性ナノウェルまたはマイクロウェルとしてもよい。導電性ナノウェルまたはマイクロウェルは、ナノウェルまたはマイクロウェルの内壁に、例えば上記の導電性材料の層を設けることにより作成してもよい。
【0024】
印加した電場は、約1〜5000V/cm、特に約10〜2000V/cm、さらに約20〜200V/cmの電場強度を有していてもよい。電場は、直流電圧で印加されることが好ましい。これにより、帯電した分子は電場を通って反対の電荷を有する電極の方向へ移動してもよい。好ましい一態様では、電場の強度は約100V/cmである。この強度を、例えば、光学測定の対象の先端と1mmの距離にある担持体面との間に、10Vの電場を印加することで、達成してもよい。電場の強度を、担持体表面、特に単一分子の光学分析が行われる試料域周辺に、帯電した単一分子、例えば、陰性に帯電した核酸分子の濃縮が達成されるように選択する。あるいは、試料域を中に有する複数のマイクロウェルまたはナノウェルおよびマイクロウェル壁中の対電極を有する担持体を用いてもよい。
【0025】
本発明によれば、試料域に存在する少なくとも1つの単一分子を個別に分析する。この光学分析は、以下のステップを含んでいてもよい。
− 個別の試料域にある単一分子に光源を個別に照射するステップ、ここで前記光源は、複数の個別の照射体積要素(individual illuminated volume elements)を前記試料域で提供する、
− 光検出器で前記単一分子から発した光を個別に検出するステップ、ここで、前記検出器は複数の検出画素を含み、前記検出画素は、好ましくは約0.5μm〜50μmの範囲の直径を有し、前記検出画素間の距離が検出画素の直径の好ましくは少なくとも約2倍、より好ましくは約3〜10倍である、および
− 個別の検出画素から検出された光を、個別の試料域に位置する単一分子と関連づけられる事象と相関させるステップ。
【0026】
検出画素の担持体への光学投影は、約100nm〜5μmの範囲の直径を有することが好ましく、ここで、1つの個別の試料域は、1つの単一の検出画素の担持体への投影に対して、特に1つの単一の検出画素の担持体への投影の中心に対して、配列されている。
【0027】
担持体の複数の個別の試料域で複数の単一分子を照射するため、多点照射に好適な光源(例えば、レーザー光源)を用いてもよい。この光源は、多点光源、例えば、多点レーザー光源であることが好ましい。この光源は、複数の個別の試料域で複数の個別の照射体積要素を提供することができる。体積要素は、10
-10〜10
-24l、例えば、10
-12〜10
-21lの寸法を有する。体積要素は、共焦点体積要素または全反射(Total Internal Reflection:TIR)によって生成されるエバネセント場であってもよい。体積要素は、全反射(TIR)によって生成されるエバネセント場であることが好ましい。さらなる態様では、マトリックス状の試料域を光源(例えば、レーザー光源)からの単一ビームで照射してもよい。
【0028】
本発明の方法は、担持体に配置された単一分子から発せられた光の検出を含む。検出光は、光学的に検出可能な標識基、特に蛍光標識基から発せされることが好ましい。発せられた光は、次いで、光検出器で検出され、担持体上の個別の試料域に配置された単一分子に関連づけられる事象と相関させる。
【0029】
発せられた光の検出は、励起状態の存続時間の検出、および/または回転運動性および/または側方運動性の検出、および/または特定の波長の検出を含んでいてもよい。さらに、ラマン、ラマン/反ストークス、および/または表面増強ラマン(SER)に基づく検出方法を用いて単一分子を同定することが可能である。発せられた光の検出は、任意で存続時間の検出を特定の波長の検出と組み合わせることを含むことが好ましい。例えば、平均存続時間が1ナノ秒前後異なる場合、異なる成分を0.998の確度で区別することができる。
【0030】
検出対象の事象は、例えば、標識基の分析対象の単一分子との会合および/または解離により、あるいは発光の経時的変化(例えば、蛍光の経時的変化)を引き起こす任意の他の事象により生じさせてもよい。
【0031】
体積要素(例えば、共焦点体積要素)を照射すると、その体積に存在する標識基が励起して、光、例えば蛍光を発する。この光を検出器により測定する。照射された体積要素のパターンは、例えば、WO2002/097406に記載された回折光学素子(その全内容を参照により本明細書に組み込む)、または量子井戸レーザーにより生成されたレーザードットがマトリックス状になったものであってもよい。
【0032】
好ましい一態様では、光を担持体に照射すると、分析対象となる分子の領域内の担持体表面での内部反射によりエバネセント励起場が発生する。分析対象となる分子の領域内の担持体表面の1つ以上の位置で内部反射が起こると、エバネセント励起場が発生し、それぞれの試料域に存在する標識基が励起する。特に好ましい一態様では、検出は、全反射(TIR)、特に全反射蛍光(TIRF)の検出を含む。
【0033】
回折光学素子(DOE)を用いて、担持体の多点照射を行ってもよい。また、例えば、TIR(F)設定で回折光学素子を励起光ビームに導入することにより、全反射を含む検出方法にDOEを用いてもよい。
【0034】
本発明によれば、単一分子から発せられた光は、担持体上のマトリックス状の試料域に配置された複数の検出画素を含む光検出器で検出される。この検出器は、多点単一光子アバランシェ検出器(SPAD)であることが好ましい。この検出器は、広いスペクトル範囲(例えば、350〜900nm)に渡る高い感度と高い時間分解能(例えば、1ns以下)を組み合わせたもので、分子の分析に蛍光の励起状態の存続時間を用いる場合に有利である。
【0035】
標識基(例えば、蛍光標識基)を正確に同定するためには、波長に特異的な発光と共に励起状態の存続時間を測定することが好ましい。存続時間は、1〜6nsの範囲が好ましい。存続時間、一分子あたりの特徴的計数率(波長に依存したレーザー強度により測定される)、励起係数(例えば、約10
5/M cm)、量子収率(例えば、0.3〜0.9)、および/または検出器の波長依存性感度から選択されるパラメータの組み合わせから、特定の波長に依存した発光フィルターを用いずに標識基を同定することができる。
【0036】
さらに、三重項状態の形成および光子退色に加えて、レイリーおよびラマン散乱により生じた迷光を除去あるいは低減するため、分析対象の単一分子のパルス励起を行うことが好ましい。好ましいパルス励起時間は、1ns未満、例えば約50〜500psである。
【0037】
検出器の個別の検出画素の直径は、通常、約0.5μm〜50μmである。個別の検出画素は、所定の処理(すなわち、画素ピッチ長)だけ離れている。この長さは、少なくとも画素の直径であり、好ましくは検出画素の直径の少なくとも約2倍、より好ましくは少なくとも約3〜10倍である。検出器の画素間の距離は、好ましくは約2〜200μm、より好ましくは約4〜150μmである。
【0038】
上で概略したように、検出画素の光学投影は担持体表面に形成される。担持体表面の光学投影は、例えば、検出器上の検出画素の寸法の約10〜200倍、または約40〜120倍小さい。担持体表面の光学投影は、それぞれ、担持体の個別の試料域の中心から中心までの距離と一致していなければならない。従って、光学投影は、通常、約20nm〜約1μm、好ましくは約100〜600nmの直径を有する。
【0039】
担持体上の個別の検出画素投影の中心間の距離(すなわち、投影ピッチ長)は、担持体上の個別の検出画素投影の中心寸法の少なくとも約2倍が好ましく、少なくとも約3倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍がより好ましい。その上限は、約5000nm(例えば、約1000nm、約500nm、約100nm、または試料域の直径の約50倍)であってもよい。担持体表面の個別の検出画素投影の中心間の距離は、任意の値から下限および上限を選択した距離範囲(例えば、担持体表面の個別の検出画素の中心間の距離の約2〜約5000倍、あるいは約2〜約500倍、例えば、約2〜約100倍、約5〜500倍)であってもよい。
【0040】
好ましい一態様では、本発明の方法は、単一の核酸分子の配列決定に用いられる。この態様では、上記方法は、以下のステップを含むことが好ましい。
− 担持体の個別の試料域に、(i)単一の核酸分子、(ii)核酸合成酵素分子および/または核酸分解酵素分子、および(iii)遊離形態の蛍光標識ヌクレオチド構成単位(nucleotide building blocks)および/または前記核酸分子に組み込まれた蛍光標識ヌクレオチド構成単位を提供するステップ、
− 酵素反応を行うステップ、ここで、ヌクレオチド構成単位を前記単一の核酸分子に組み込み、かつ/または前記単一の核酸分子から切断する、および
− ヌクレオチド構成単位が前記単一の核酸分子に組み込まれる、かつ/または前記単一の核酸分子から切断される際に生じる蛍光の経時的変化に基づいて、個別に核酸分子の塩基配列を決定するステップ。
【0041】
ヌクレオチド構成単位の核酸分子への組み込みおよびヌクレオチド構成単位の核酸分子からの切断が起きた場合、いずれも標識基の蛍光発光に経時的変化が生じる場合がある。
【0042】
分解による配列決定を含む態様では、核酸分解酵素分子を組み込んだ標識基、特に蛍光標識基を有する配列決定対象の核酸分子と接触させる。
【0043】
伸長による配列決定を含む態様では、核酸合成酵素分子を、アニールされたプライマーを有する配列決定対象である核酸分子と、標識基、特に蛍光標識基を有する遊離ヌクレオチド構成単位と接触させる。
【0044】
伸長による配列決定を含む一態様では、核酸合成酵素分子を、アニールされたプライマーを有する配列決定対象の核酸分子と、標識基、特に蛍光標識基を有する遊離ヌクレオチド構成単位と接触させる。伸長による配列決定はまた、核酸の増幅、すなわち、単一の鋳型から複数の核酸分子を合成することを含んでいてもよい。
【0045】
一態様では、核酸合成酵素分子および/または核酸分解酵素分子は、例えば、担持体上、あるいは担持体上に配置されたナノ粒子上に固定されていてもよい。配列決定対象の核酸分子は、遊離した形態で存在しており、従って、上記の電場を印加することで試料域に濃縮させてもよい。
【0046】
一態様では、本出願は、以下のステップを含む、個別の核酸分子の配列の決定する方法に関する。
(a)固定された形態の少なくとも1つの核酸合成酵素分子、遊離した形態の環状または線状の核酸鋳型、前記鋳型にアニールされた、あるいは前記核酸鋳型にアニーリングすることができるプライマー、および蛍光標識ヌクレオチド構成単位を提供するステップ、
(b)前記固定した核酸合成酵素分子で触媒されたプライマー伸長において、前記ヌクレオチド構成単位が組み込まれた核酸鋳型分子の配列に相補的な核酸分子を生成するステップ、
(c)場合によっては、前記生成された核酸分子を核酸分解酵素分子と接触させ、前記核酸分解酵素分子で触媒されたヌクレアーゼ消化において前記生成された核酸分子から個別のヌクレオチド構成単位を切断するステップ、および
(d)ヌクレオチド構成単位がプライマー伸長時に組み込まれる、かつ/またはヌクレアーゼ消化時に切断される時に生じる蛍光の経時的変化に基づいて、前記核酸鋳型分子の塩基配列を決定するステップ。
【0047】
さらなる態様では、本出願は、以下のステップを含む方法に関する。
(a)固定された形態の少なくとも1つの核酸分解酵素分子、および蛍光標識ヌクレオチド構成単位を含む遊離形態の核酸分子を準備するステップ、
(b)前記核酸分解酵素分子を前記核酸分子と接触させ、前記核酸分解酵素分子で触媒されたヌクレアーゼ消化において前記核酸分子から個別のヌクレオチド構成単位を切断するステップ、および
(c)ヌクレアーゼ消化時にヌクレオチド構成単位を切断する際に生じる蛍光の経時的変化に基づいて、前記核酸分子の塩基配列を決定するステップ。
【0048】
本発明の方法は、担持体に基づく多重配列決定法であり、所定の多重度の個別の核酸分子の配列を、決定することができる。これは、配列決定対象の核酸分子、および複数の核酸合成反応および/または核酸分解反応で蛍光の経時的変化を並行して決定するための核酸分解酵素および/または核酸合成酵素を含む反応空間を用意することで達成される。この方法は、単一分子の高処理量並列分析の形態で行われることが好ましい。
【0049】
好ましい一態様では、核酸合成酵素分子は、固定された形態で提供される。また、核酸分解酵素分子は、固定された形態あるいは遊離した形態で存在してもよい。他の態様では、核酸合成酵素分子および核酸分解酵素分子のハイブリッドおよび/または複合体(例えば、遺伝子融合体および/または2官能リンカー分子により結合された複合体)を用いてもよい。
【0050】
酵素分子を、共有相互作用または非共有相互作用により固定してもよい。例えば、特定の結合対(例えば、ビオチン/ストレプトアビジンまたはアビジン、付着体/抗付着体抗体、糖/レクチンなど)の要素間の高い親和性相互作用により、ポリペプチドまたは核酸の固定を仲介することができる。従って、ビオチン化酵素分子を、ストレプトアビジンで覆った表面に結合させることが可能である。あるいは、酵素分子を吸着により固定してもよい。従って、アルカンチオール基の組み込みにより修飾された酵素分子を、金属担持体(例えば、金でできた担持体)に結合させてもよい。他の方法としては、シリカ表面の反応性シラン基により、酵素または核酸分子の結合を仲介することができる共有結合による固定である。
【0051】
本発明によれば、少なくとも1つの単一分子を分析する。好ましいのは、複数の単一分子を分析することである。これら分子は、担持体表面の試料域に配置されている。これらの分子は、遊離している反応相手を含む試料液体と接触している。これにより、1つ以上の反応空間を形成している。好ましくは少なくとも100個、特に好ましくは少なくとも1000個、特に好ましくは少なくとも10000個、および10
6個以上の分子を単一の担持体(例えば、単一の平坦な担持体)の上で分析してもよい。
【0052】
例えば、ビオチン化分子の希釈溶液を、特定の領域のみストレプトアビジンで覆われた担持体と接触させるなどにより、試料域に固定する分子(例えば、酵素分子)を担持体表面の特定の域に供給してもよい。核酸分解酵素分子を固定した態様では、核酸分解酵素分子を核酸合成酵素分子と共固定してもよい。すなわち、2種類の酵素分子を、担持体表面の同じ域に結合させる。
【0053】
配列を決定する対象となる核酸分子は、例えば、DNA分子(例えば、ゲノムDNA断片、cDNA分子、プラスミドなど)、あるいはRNA分子(mRNA分子)から選択されてもよい。核酸分子は、細胞または微生物(例えば、真核細胞、原核細胞、または微生物)から作製されたゲノムまたは発現ライブラリーに由来していてもよい。本発明の方法は、複数の同一、同等、または異なる核酸鋳型分子(例えば、少なくとも10個、100個、1000個、10000個、100000個、10
6個、または10
7個以上同一、同等、または異なる核酸分子)の並行配列決定を可能にする。
【0054】
配列決定対象の核酸分子は、線状または環状(circular form)(例えば、共有結合した環状)の一本鎖核酸分子であることが好ましい。環状の核酸鋳型を得るためには、線状核酸分子に対して環状化手順、および必要であれば試料調製時に鎖分離手順を行ってもよい。環状化は、例えば、DNAリガーゼまたはRNAリガーゼを用いる周知のプロトコルによりライゲーションにより達成してもよい。態様によっては、アダプターおよび/または識別子分子、すなわち既知の配列の核酸分子を前記核酸分子に結合してもよい。
【0055】
前記核酸分子は、ヌクレオチド長が好ましくは20〜5000000個、特に好ましくは50〜1000000個または100〜100000個である。上記方法は、具体的には、150個超、500個超、1000個超、10000個超、500000個超のヌクレオチド長を有する核酸分子の配列決定に適している。この配列決定は、核酸の伸長および/または核酸の分解を含んでいてもよい。この配列決定法は、1サイクル以上の配列決定サイクルを含む。
【0056】
核酸合成酵素分子は、核酸鋳型分子にアニールしたプライマーを伸長することができる。プライマーの伸長は、増殖させる核酸分子鎖の3’末端に個別のヌクレオチド構成単位を進行方向に組み込むことで行われ、環状の核酸鋳型の配列に相補的な核酸分子が作製される。核酸合成酵素は、鋳型に特異的な核酸重合を行うことができるポリメラーゼ、好ましくはDNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼ(例えば、天然ポリメラーゼまたは修飾ポリメラーゼ、熱安定性DNAポリメラーゼを含む)から選択される。
【0057】
好適なDNAポリメラーゼの具体例としては、Taqポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ欠損型Taqポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼI、Klenow断片、逆転写酵素、野生型Φ29ポリメラーゼおよびその誘導体を含むΦ29関連ポリメラーゼ(例えば、エキソヌクレアーゼ欠損形態、T7DNAポリメラーゼ、T5DNAポリメラーゼ、RB69ポリメラーゼ、およびその他のポリメラーゼ)が挙げられる。
【0058】
核酸分解酵素分子は、核酸分子から個別のヌクレオチド構成単位を進行方向に沿って切断することができる。好ましくはエキソヌクレアーゼ、より好ましくは3’→5’方向または5’→3’方向に分解する一本鎖エキソヌクレアーゼが用いられる。用いるのに特に好ましいエキソヌクレアーゼは、3’→5’エキソヌクレアーゼ(例えば、大腸菌エキソヌクレアーゼIおよび大腸菌エキソヌクレアーゼIII)、および5’→3’エキソヌクレアーゼ(例えば、T7エキソヌクレアーゼ、大腸菌エキソヌクレアーゼII、および大腸菌エキソヌクレアーゼVIII)である。さらに、各種ポリメラーゼ(例えば、Klenow断片、Taqポリメラーゼ、またはT4ポリメラーゼ)のエキソヌクレアーゼ活性を用いてもよい。
【0059】
前記核酸合成酵素分子を、線状または環状の核酸鋳型分子(例えば、一本鎖DNA分子またはRNA分子)、および核酸鋳型分子にアニールした、あるいはアニーリングすることができるプライマー分子と接触させる。プライマー分子は、固定した核酸合成酵素分子で触媒された酵素反応により伸長することができる、自由3’末端を有する一本鎖核酸または核酸類縁体分子であることが好ましい。プライマー分子の長さは、反応条件下で効果的に鋳型にアニーリングすることができるように選択される。通常、プライマー分子の長さは、ヌクレオチドが、少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも12個、または少なくとも15個、および例えば、20個以下、25個以下、50個以下、または100個以下、あるいはそれ以上の個数以下である。態様によっては、プライマーは、例えば、分解に対して安定しているヌクレオチド類縁体構成単位および/またはヌクレオチド構成単位間の結合を組み込むことで、核酸分解酵素分子による消化に耐性を有する。他の態様では、プライマーは、核酸分解酵素分子による消化に対して高感度である。
【0060】
プライマーの配列は、反応条件下で鋳型分子に効率よくアニールするように選択される。例えば、プライマーは、未知の核酸配列に統計的にアニーリングすることができる、普遍的な
縮重プライマーであってもよい。他の態様では、プライマーは、核酸鋳型分子の既知の配列部分に、アニーリングすることができるものであってもよい。この態様では、既知のアダプターおよび/または識別子配列を、核酸鋳型分子に組み込んでもよい。プライマーは、標識されていなくてもよく、あるいは蛍光標識基を含んでいてもよい。
【0061】
さらに、少なくとも1種の蛍光標識基を担持するヌクレオチド構成単位の存在が必要である。異なるヌクレオチド構成単位(A、G、C、T/U)は、それぞれ異なる蛍光標識基を含むことが好ましい。
【0062】
蛍光標識基は、生体高分子、特に核酸を標識するのに用いられる既知の蛍光標識基(例えば、フルオレセイン、ローダミン、オキサジン、例えば、Evoblue、Gnothis Blue、フィコエリスリン、Cy3、Cy5、IR色素またはその誘導体)から選択されてもよい。
【0063】
ヌクレオチド構成単位は、(i)核酸合成酵素分子で触媒されたプライマー伸長時に前記構成単位を核酸分子に組み込む際にその構成単位に残る蛍光標識基、および/または(ii)核酸合成酵素分子で触媒されたプライマー伸長時に前記構成単位を核酸分子に組み込む際にその構成単位から切断される蛍光標識基を、有していてもよい。前記構成単位に残るフルオレセイン標識基は、α−リン酸基、糖および/または核酸塩基に結合していることが好ましい。前記構成単位に残る蛍光標識基は、例えば、リンカーを介して核酸塩基に結合していることが好ましい。このリンカーは、鎖長が15個以下、好ましくは10〜12個の炭素原子を有していてもよく、必要であれば異種原子(例えば、N、O、またはS原子)を含む。前記構成単位が核酸分子に組み込まれる際に切断されるフルオレセイン標識基は、例えば、ヘキサホスファート、ペンタホスファート、テトラホスファート、またはトリホスファート構成単位の末端リン酸基(例えば、トリホスファート構成単位のγ−リン酸基)に結合していてもよい。ある態様では、(i)組み込み後に残る蛍光標識基、および(ii)組み込み時に切断される蛍光標識基の両方を含む構成単位が選択される。この場合、例えば、消光および/またはエネルギーの移動により、互いに相互作用することができる蛍光基を選択してもよい。
【0064】
核酸分解酵素分子を用いて、配列決定対象の核酸分子の配列を直接決定する場合には、その核酸分子は蛍光標識基を含む。一方、配列決定の対象となる核酸分子を、プライマー伸長の鋳型として用いる場合には、この核酸分子は蛍光標識基を含んでいなくてもよい。
【0065】
本発明の方法は、核酸合成酵素分子で触媒されたプライマー伸長において組み込まれたヌクレオチド構成単位を有する核酸分子を生成するステップ、および/または核酸分解酵素分子で触媒されて生成された核酸分子から個別のヌクレオチド構成単位を切断する第二のステップを含んでいてもよい。蛍光標識の種類によっては、核酸配列の決定は、プライマー伸長時および/または分解時に行ってもよい。
【0066】
プライマー伸長時の配列決定は、ヌクレオチド構成単位が核酸分子に組み込まれる際にこのヌクレオチド構成単位から切断される蛍光標識基を有するヌクレオチド構成単位の使用を含む。この場合、ヌクレオチド構成単位から蛍光標識基を切断することで生じる蛍光の経時的変化を測定してもよい。核酸の分解時での配列決定は、ヌクレオチド構成単位が核酸分子に組み込まれる際にヌクレオチド構成単位に残る蛍光標識基を有するヌクレオチド構成単位の使用を含む。個別のヌクレオチド構成単位が、核酸分子から進行方向に沿って切断されると、標識されたヌクレオチド構成単位が核酸分子から放出されて、蛍光の経時的変化が生じる。ある態様では、伸長時および分解時、すなわち、ヌクレオチド構成単位を核酸分子に組み込む際に前記構成単位に残る蛍光標識基と前記構成単位から切断される蛍光標識基との両方を有するヌクレオチド構成単位を用いて、配列決定を行うことも可能である。この態様では、これらの蛍光基は同じであっても異なっていてもよい。
【0067】
いくつかの態様では、本発明の方法は、核酸分子鋳型の塩基配列を決定するために、1サイクル以上の核酸合成および核酸分解を含む。核酸合成は、核酸合成酵素分子で触媒された、核酸鋳型分子にアニールされたプライマーの伸長を含み、核酸鋳型の配列に相補的な核酸分子が生成される。生成された核酸分子を、次のステップで、核酸分解酵素分子により分解する。
【0068】
ヌクレオチド構成単位を伸長した核酸分子に組み込む際に、蛍光の経時的変化が生じることがあり、これを上記のように検出することができる。伸長した核酸分子へのヌクレオチド構成単位の組み込みは、蛍光の検出可能な増加、好ましくは、蛍光の一過性の増加と関連付けられることが好ましい。例えば、ヌクレオチド構成単位をプライマーに組み込む際に切断される分子の部分(例えば、γ−リン酸基)に、蛍光標識基を有する、ヌクレオチド構成単位を用いてもよい。
【0069】
生成された核酸分子からヌクレオチド構成単位を切断する際に、核酸鎖に組み込まれた蛍光標識基と隣接基(例えば、核酸、特に核酸塩基(例えば、G)の化学基または/および隣接する蛍光標識基)との相互作用により、蛍光の経時的変化を求めてもよく、これらの相互作用は、消光過程または/およびエネルギー移動過程により「単離された」形態の蛍光標識基に比べた蛍光の変化、特に蛍光強度の変化に繋がる。個別のヌクレオチド構成単位を切断により除去すると、蛍光全体(例えば、固定した核酸鎖の蛍光強度)が変化し、この変化は、個別のヌクレオチド構成単位の切断による除去の関数、すなわち、時間の関数である。
【0070】
伸長時および/または分解時のこの蛍光の経時的変化を、核酸分子の多重度と並行して記録し、個別の核酸鎖の塩基配列と相関させてもよい。好ましく用いられる蛍光標識基は、核酸鎖に組み込まれると少なくとも部分的に消光され、標識基または消光を起こす隣接の構成単位を含むヌクレオチド構成単位が切断により除去された後に、蛍光強度が増加するような、蛍光標識基である。
【0071】
個別のヌクレオチド構成単位の組み込みの間および/または除去の間に、核酸鎖または/および組み込まれたあるいは切断されたヌクレオチド構成単位の消光過程または/およびエネルギー移動過程による蛍光強度の変化を、計測することが可能である。時間に伴う蛍光強度のこの変化は、検討する核酸鎖の塩基配列に依存し、従って、配列と相関させることができる。
【0072】
4種の異なる塩基のすべて(たとえば、A、G、C、およびT)または2種あるいは3種の異なる塩基の組み合わせを標識したヌクレオチド構成単位の混合物を用いて、核酸分子の完全な配列を決定してもよい。また、適切な場合、例えば、リガーゼまたは/および末端転移酵素(ターミナルトランスフェラーゼ)を用いた酵素反応により「配列識別子」(sequence identifier)、すなわち、既知の配列を標識した核酸を、検討する核酸鎖に結合させることも可能である。これにより、配列決定の開始時にまず既知の蛍光パターン、その後のみに、検討中の未知の配列に対応する蛍光パターンが得られるようになる。
【0073】
前記検出は、蛍光標識基を励起させるために、好ましくはレーザーあるいは他の好適な光源により担持体に光を照射することを含む。これに関連して、1つ以上のレーザービーム、例えば、約1〜20mmの断面を有する拡大レーザービームまたは/および多数のレーザービームを用いることが可能である。前記検出は、回折光学系(WO2002/097406を参照のこと)または量子井戸レーザーによって生じたドットマトリックス状のレーザードットなど、レーザーによる多点蛍光励起を含むことが好ましい。
【0074】
検出器マトリックス(例えば、電子検出器マトリックス、CCDカメラ、CMOS検出器マトリックス、CMOSカメラ、またはアバランシェフォトダイオードマトリックス)を用いて、複数の核酸鎖からのフルオレセイン発光を、並行して検出してもよい。蛍光励起と検出が検討中のすべての核酸鎖について並行して行われるように、前記検出を行ってもよい。これに対する可能な代替え方法は、いくつかのステップで、その都度、核酸鎖の一部分を検討することである。好ましいのは、反応空間または担持体を通って担持体表面から本質的に直行方向に発せられる蛍光の検出を、行うことである。
【0075】
前記検出を例えば、蛍光相関分光法により行ってもよく、この方法は、非常に小さな体積要素(例えば、10
-10〜10
-24l)をレーザーの励起光または他の好適な光源に暴露することを含み、その光は、計測される体積に存在する受容体を励起し、受容体が蛍光を発し、前記計測される体積から発せられた蛍光を光検出器で測定し、測定した発光の時間変化を検体の濃度と相関させ、適切な高い希釈度で前記計測される体積内の個別の分子を同定することが可能である。共焦点体積要素を備える光学系により、あるいは全反射(TIR)によって確立された体積要素により、この小さい体積要素を供給してもよい。検出に用いる手順および装置の詳細は、欧州特許第0679251号の開示に見られる。単一分子の共焦点決定は、さらにRigler and Mets (Soc. Photo-Opt. Instrum. Eng. 1921 (1993), 239 ff.)、およびMets and Rigler (J. Fluoresc. 4 (1994) 259-264)に記載されている。
【0076】
この方法に代えて、あるいはこの方法に加えて、例えば、Rigler et al., "Picosecond Single Photon Fluorescence Spectroscopy of Nucleic Acids", in: "Ultrafast Phenomenes", D.H. Auston, Ed., Springer 1984に記載されている、タイムゲーティング(time gating)と呼ばれる時間分解減衰測定により、検出を行ってもよい。ここで、蛍光分子は、計測される体積内で励起し、その後、好ましくは100ps以上の時間間隔で、光検出器の検出間隔を開ける。このように、本質的に干渉なしで単一分子を検出することができるように、ラマン効果によって生成されたバックグラウンド信号を十分に低く保つことが可能である。
【0077】
本発明はまた、少なくとも1つの個別の単一分子を分析する、例えば少なくとも1つの単一の核酸分子の配列を決定する装置に関する。この装置は、
(i)少なくとも1つの個別の試料域をその上に含む担持体、ここで、前記試料域が、少なくとも部分的には導電性材料でできている、
(ii)前記担持体を、分析対象である少なくとも1つの単一分子を含む液体媒体と、接触させるのに適した手段、
(iii)前記担持体を前記液体媒体に接触させる際に形成される反応空間に、電場を印加するのに適した手段、
(iv)個別の試料域の単一分子を、個別に照射するための光源であって、少なくとも1つの照射された個別の体積要素を、前記担持体表面の1つの試料域に提供する光源、および
(v)個別の試料域で単一分子から発せられる光を、個別に検出する光検出器、を含む。
【0078】
本発明はさらに、複数の個別の単一分子または複数の個別の単一の核酸分子を並行して分析する装置に関する。この装置は、
(i)複数の個別の試料域をその上に含む担持体、ここで、前記試料域が少なくとも部分的には導電性材料でできている、
(ii)前記担持体を、分析対象である複数の単一分子を含む液体媒体と、接触させるのに適した手段、
(iii)前記担持体を前記液体媒体と接触させる際に形成される反応空間に、電場を印加するのに適した手段、
(iv)個別の試料域の単一分子を、個別に照射するための光源であって、少なくとも1つの照射された個別の体積要素を、前記担持体表面の1つの試料域に提供する光源、および
(v)個別の試料域で複数の単一分子から発せられた光を、個別に並行して検出する光検出器、を含む。
【0079】
担持体表面の導電域は、例えば、金属または半金属の領域でできていてもよい。金属域は、金属(例えば、Au、Ag、Al、Cr、Niおよびその他)を蒸着して作製してもよく、このような金属を、格子状マスクで覆った担持体表面で蒸発させて、電子ビームリソグラフィーまたは同等の技術により形成してもよい。格子状マスクの孔の寸法は、担持体表面の導電域の寸法に対応していてもよい。格子状マスクの孔の寸法は5nm以下であることが好ましい。あるいは、担持体表面の導電域は、例えば、寸法が2〜10nmの導電性ナノ粒子の位置特異的蒸着、あるいは担持体、特に平坦な表面を有する担持体に、粒子の10のマイナス21乗リットル精度のピペット操作を行うことで準備してもよい。これらの粒子は、Au、Ag、Al、Cr、Ni、またはその他の金属、あるいは半金属から選択される表面を有していてもよい。担持体表面の導電域の表面積および/または粒子は、上述のようにビオチンおよび/またはストレプトアビジン、あるいはその他の親和性のある試薬により修飾されていてもよい。
【0080】
担持体表面の試料域は、個別の検出画素の投影の中心に対応して配置されていることが好ましい。試料域と検出画素の投影との配置は、検出器によって駆動されるフィードバックループで、ナノメートル精度の圧電調整素子により、調整されてもよい。試料域の中心と検出画素の投影の中心との調整許容誤差は、約5nm以下、約2nm以下、あるいは約1nm以下であることが好ましい。
【0081】
本発明の方法および本発明の装置を、例えば、ゲノムおよびトランスクリプトームの分析または差分分析(例えば、個別の種またはある種の中の微生物のゲノムまたはトランスクリプトームの違いに関する研究)に用いてもよい。特に好ましいのは、ある配列(例えば、少なくとも10個、少なくとも10
2個、少なくとも10
3個、または少なくとも10
4の個別の配列)集団内の、個別の下位配列の頻度および/または分布の決定である。
【0082】
好ましい一態様では、本発明の方法および本発明の装置を準種(quasi-species)配列の分析に用いてもよい(M. Eigen et al., "Molecular Quasi Species", J. Phys. Chem. 92, December 1988, 6881-6891 ; M. Eigen & C. Biebricher, "Role of Genome Variation in Virus Evolution", in RNA Genetics, Vol. 3: Variability of RNA Genomes; CRC Press 1988; M. Eigen & R. Winkler-Oswatitsch, "Statistical Geometry on Sequence Space", in Molecular Evolution: Computer Analysis of Protein and Nucleic Acid Sequences, Academic Press, 1990, M. Eigen et al, "The Hypercycle-Coupling of RNA and Protein Biosynthesis in the Infection Cycle of an RNA Bacteriophage", Biochemistry 30, November 1991 , 1 1005-1 1018, M. Eigen, "Viral Quasispecies", Scientific American, July 1993, 42-49, E. Domingo et al. "Quasispecies and RNA Virus Evolution: Principles and Consequences", Landes Bioscience Madame Curie Database, 2000、およびこれらに引用されている参考文献を参照のこと)。
【0083】
単一分子の配列決定により、ある種内の微生物集団、あるいはある微生物内の細胞集団の個別の配列の分布を決定してもよい。例えば、微生物集団(例えば、バクテリアまたはウイルス)あるいは細胞集団(例えば、精子)は、それらのゲノムの特定の配列に同一の遺伝子情報を含まない。そうではなくて、所定の長さに渡って1個または数個(例えば、2、3、または4個)の異なるヌクレオチドを有する示差的な個別の配列(いわゆる準種または亜種(sub-species)に一致)が存在する。本発明は、単一分子の配列を決定することで、特に、個別の変異体の単一分子の配列決定サイクルを繰り返すことで、個別の変異体の配列を正確に決定することができる。これにより、微生物(例えば、ウイルスまたはバクテリア)集団内、あるいは細胞(例えば、精子)集団内の、個別の部分配列(sub-sequences)の頻度および分布を決定してもよい。この情報により、所与の微生物集団内または細胞集団内の亜種の分布を、正確に決定してもよい。これにより、病原性微生物(例えば、バクテリアまたはウイルス)の場合、例えば、薬物耐性変異の有無を検出することで、診断および治療を向上させることができる。精子などの細胞の場合、例えば、特定の遺伝型の有無を検出することで、改善された遺伝子分析を行ってもよい。
さらに、本発明は以下の各項目に記載の態様を含むものである。
[項目1]
以下のステップを含む、単一分子を分析するための方法:
(a)少なくとも1つの個別の試料域をその上に含む担持体を、提供するステップ、ここで、前記試料域が、少なくとも部分的には導電性材料でできている、
(b)前記担持体を、分析対象である少なくとも1つの単一分子を含む液体媒体と接触させるステップ、これによって、前記試料域上の液体媒体の反応空間を形成する、
(c)前記反応空間に電場を印加するステップ、これによって、分析対象である前記少なくとも1つの単一分子の、前記試料域での濃縮を達成する、および
(d)前記少なくとも1つの単一分子を、個別に分析するステップ。
[項目2]
以下の工程を含む、複数の単一分子を分析するための方法:
(a)複数の個別の試料域をその上に含む担持体を、提供するステップ、ここで前記試料域が、少なくとも部分的には導電性材料でできている、
(b)前記担持体を、分析対象である複数の単一分子を含む液体媒体と接触させるステップ、これによって、前記試料域上の少なくとも1つの反応空間を形成する、
(c)前記反応空間に電場を印加するステップ、これによって、分析対象である前記単一分子の、前記試料域での濃縮を達成する、および
(d)前記単一分子を、個別に分析するステップ。
[項目3]
単一の核酸分子、特に複数の単一の核酸分子の配列を決定する、項目1または2に記載の方法。
[項目4]
試料域が、約1〜20nmの範囲の直径を有し、個別の試料域と試料域との間の距離が、前記試料域の直径の少なくとも約2倍、好ましくは約3〜500倍である、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
[項目5]
前記担持体は、平坦な表面または構造化された表面を有する、項目1〜4のいずれかに記載の方法。
[項目6]
前記担持体は、個別の試料域と試料域と間の領域に導電性の表面を有する、項目1〜5のいずれかに記載の方法。
[項目7]
前記試料域の表面は、金属、例えば、Au、Ag、Cr、Ni、またはAl、特にAuである、項目1〜6のいずれかに記載の方法。
[項目8]
前記試料域の表面には、核酸合成酵素および/または核酸分解酵素が結合している、項目1〜7のいずれかに記載の方法。
[項目9]
前記電場は、約1〜5000V/cm、特に約10〜2000V/cm、より特に約20〜200V/cmの電場強度を有する、項目1〜8のいずれかに記載の方法。
[項目10]
前記電場は、前記担持体表面とさらなる電極との間に印加され、前記電極は光学測定装置の導電性構造または導電性のマイクロウェル壁であってもよい、項目1〜9のいずれかに記載の方法。
[項目11]
項目1〜10のいずれかに記載の方法の、配列集団の部分配列の頻度および/または分布の決定のための使用。
[項目12]
前記集団は、少なくとも102個、少なくとも103個、または少なくとも104個の個別の構成要素を含む、項目11に記載の使用。
[項目13]
(i)少なくとも1つの個別の試料域をその上に含む担持体、ここで、前記試料域が、少なくとも部分的には導電性材料でできている、
(ii)前記担持体を、分析対象である少なくとも1つの単一分子を含む液体媒体と、接触させるのに適した手段、
(iii)前記担持体を前記液体媒体に接触させる際に形成される反応空間に、電場を印加するのに適した手段、
(iv)個別の試料域の単一分子を、個別に照射するための光源であって、少なくとも1つの照射された個別の体積要素を、前記担持体表面の1つの試料域に提供する光源、および
(v)個別の試料域で単一分子から発せられる光を、個別に検出する光検出器
を含む、少なくとも1つの個別の単一分子を分析する装置であって、例えば、少なくとも1つの単一の核酸分子の配列を決定する、装置。
[項目14]
(i)複数の個別の試料域をその上に含む担持体、ここで、前記試料域が少なくとも部分的には導電性材料でできている、
(ii)前記担持体を、分析対象である複数の単一分子を含む液体媒体と、接触させるのに適した手段、
(iii)前記担持体を前記液体媒体と接触させる際に形成される反応空間に、電場を印加するのに適した手段、
(iv)個別の試料域の単一分子を、個別に照射するための光源であって、少なくとも1つの照射された個別の体積要素を、前記担持体表面の1つの試料域に提供する光源、および
(v)個別の試料域で複数の単一分子から発せられた光を、個別に並行して検出する光検出器
を含む、複数の個別の単一分子を並行分析する装置であって、例えば、複数の単一の核酸分子の配列を並行して決定する、装置。
さらに、以下の図は本発明を例示するものである。
【実施例】
【0084】
<実施例1>
図1は、本発明による装置の第一の態様を示す。光学的に透明な担持体(10)は、非導電性の基材(例えば、ガラスまたは石英)でできた板(12)を含む。この板は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)でできた導電層(14)で覆われている。平坦な担持体表面には、導電性試料域(16)が配置されている。これら試料域は、第一の金属(例えば、Cr)でできた下部層(18)、および第二の金属(例えば、Auなどの貴金属)でできた第二の(上部)層(20)を含む。導電性試料域(16)と第二の電極(22)の間に電場を印加する。第二の電極(22)は、光学測定装置の部分、例えば、金属ケースおよび/または光学対物レンズの先端であってもよい。
【0085】
担持体(10)を、単一分子(例えば、分析対象の核酸分子(28))を含む液体媒体と接触させて、反応空間(24)を形成する。電場を印加して、核酸分子を導電性試料域(16)に、すなわち導電性試料域(16)の領域内または周辺に濃縮させる。導電性試料域(16)表面には、核酸分解酵素分子および/または核酸合成酵素分子(26)が固定されている。核酸分子(28)と固定された酵素分子(26)を接触させる際に、核酸合成および/または核酸分解が起きて、蛍光マーカー基(図示されていない)により発せられた蛍光の経時的変化が生じる。
【0086】
<実施例2>
図2は、本発明による装置のさらなる態様を示す。ここでは、複数のマイクロウェル(32a、32b)を含む担持体(30)が、提供されている。担持体は光学的に透明であることが好ましい。マイクロウェルは、例えば上述のような、金属層(18)および(20)を含む導電性試料域(16)を含む。導電性試料域(16)とマイクロウェルの壁に設けられた電極(34a、34b)との間に、電場を印加する。導電性試料域(16)と電極(34a、34b)との間に電場を印加して、ウェル(32a、32b)内の個別の反応空間に存在する単一分子(28)を、核酸合成酵素分子および/または核酸分解酵素分子(26)が固定されている導電性試料域(16)に濃縮させる。