特許第6871201号(P6871201)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6871201構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871201
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/14 20060101AFI20210426BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20210426BHJP
   G01N 29/48 20060101ALI20210426BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   G01N29/14
   G01N29/04
   G01N29/48
   E01D19/12
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-127885(P2018-127885)
(22)【出願日】2018年7月4日
(62)【分割の表示】特願2017-514720(P2017-514720)の分割
【原出願日】2017年3月6日
(65)【公開番号】特開2018-165725(P2018-165725A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2019年11月29日
(31)【優先権主張番号】特願2016-119306(P2016-119306)
(32)【優先日】2016年6月15日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト/インフラ状態モニタリング用センサシステム開発/道路インフラ状態モニタリング用センサシステムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高峯 英文
(72)【発明者】
【氏名】渡部 一雄
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 智基
【審査官】 小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−242269(JP,A)
【文献】 特開2016−099119(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/182079(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0067284(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 − G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性波を検出する複数のセンサと、
前記複数のセンサが設置されている面と異なる構造物の面の少なくとも一部の領域に対して均等に与えられた衝撃により発生した前記弾性波と、前記複数のセンサそれぞれの設置位置に関する情報とに基づいて前記構造物の劣化状態を評価する評価部と、
を備える構造物評価システム。
【請求項2】
前記設置位置に関する情報を保持し、前記衝撃により発生した前記弾性波の発信源を導出する位置標定部をさらに備え、
前記評価部は、前記複数のセンサそれぞれの設置位置の周辺の領域のうち、前記発信源の数が第一の閾値未満の領域を前記構造物の劣化が生じている領域と評価する、請求項1に記載の構造物評価システム。
【請求項3】
前記位置標定部は、第二の閾値以上の数の弾性波が検出された時刻における弾性波から得られた信号又は前記時刻を含む所定の期間内における弾性波から得られた信号を、前記衝撃により発生した前記弾性波の信号として用いることによって前記発信源を導出する、請求項2に記載の構造物評価システム。
【請求項4】
前記構造物の領域に対して均等に与えられた衝撃は、無数の微小物体の衝突により生じる衝撃である、請求項1から3のいずれか一項に記載の構造物評価システム。
【請求項5】
弾性波を検出する複数のセンサが設置されている面と異なる構造物の面の少なくとも一部の領域に対して均等に与えられた衝撃により発生した弾性波と、前記複数のセンサそれぞれの設置位置に関する情報とに基づいて前記構造物の劣化状態を評価する評価部、
を備える構造物評価装置。
【請求項6】
弾性波を検出する複数のセンサが設置されている面と異なる構造物の面の少なくとも一部の領域に対して均等に与えられた衝撃により発生した弾性波と、前記複数のセンサそれぞれの設置位置に関する情報とに基づいて前記構造物の劣化状態を評価する評価ステップ、
を有する構造物評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁のコンクリート床版に交通などによる荷重がかかった際、床版内の亀裂の進展や摩擦などによりAE(Acoustic Emission)が発生する。床版表面にAEセンサを設置することで、AEを検出することができる。AEは、材料の疲労亀裂の進展に伴い発生する弾性波である。また、複数のAEセンサを設置することでセンサ間のAE到達時刻の差から、弾性波の発信源(以下、「AE発信源」という。)の位置を標定することができる。
一般的に、橋梁のコンクリート床版において、水平ひび割れといった床版内部の損傷は、従来の非破壊検査で検出することが非常に困難であるが、AEセンサによって取得されたデータの分析により内部の損傷を推定することができる。しかし、橋梁等にAEセンサを設置し、損傷の推定に十分なデータを得るには長い時間を要してしまう。そのため、コンクリート内部の評価を効率的に行えない場合があった。なお、このような問題は、橋梁のコンクリート床版に限らず亀裂の発生または進展に伴い弾性波が発生する構造物すべてに共通する問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−125721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、効率的に構造物の評価を行うことができる構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の構造物評価システムは、複数のセンサと、評価部とを持つ。センサは、弾性波を検出する。評価部は、前記複数のセンサが設置されている面と異なる構造物の面の少なくとも一部の領域に対して均等に与えられた衝撃により発生した前記弾性波と、前記複数のセンサそれぞれの設置位置に関する情報とに基づいて前記構造物の劣化状態を評価する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の構造物評価システム100のシステム構成を示す図。
図2】降雨による弾性波の伝播の様子を示した図。
図3】ある測定期間中の弾性波発生数の推移を表す図。
図4】所定の期間内のAE信号を用いて導出された発信源分布の一例を示す図。
図5】構造物評価装置20の評価処理の流れを表すフローチャート。
図6】構造物評価システム100の処理の流れを示すシーケンス図。
図7】構造物評価システム100の処理の流れを示すシーケンス図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法を、図面を参照して説明する。
図1は、実施形態の構造物評価システム100のシステム構成を示す図である。構造物評価システム100は、構造物の健全性の評価に用いられる。本実施形態において、評価とはある基準に基づいて、構造物の健全性の度合い、すなわち構造物の劣化状態を決定することを意味する。なお、本実施形態では、構造物の一例として橋梁を例に説明するが、構造物は橋梁に限定される必要はない。例えば、構造物は、亀裂の発生または進展、あるいは外的衝撃(例えば雨、人工雨など)に伴い弾性波が発生する構造物であればどのようなものであってもよい。なお、橋梁は、河川や渓谷などの上に架設される構造物に限らず、地面よりも上方に設けられる種々の構造物(例えば高速道路の高架橋)なども含む。
【0008】
構造物評価システム100は、複数のAEセンサ10−1〜10−n(nは2以上の整数)、信号処理部11および構造物評価装置20を備える。信号処理部11および構造物評価装置20は、有線又は無線により通信可能に接続される。なお、以下の説明では、AEセンサ10−1〜10−nについて区別しない場合にはAEセンサ10と記載する。
【0009】
AEセンサ10は、構造物に設置される。例えば、AEセンサ10は、橋梁のコンクリート床版30に設置される。AEセンサ10は、圧電素子を有し、構造物が発生する弾性波(AE波)を検出し、検出した弾性波を電圧信号(AE源信号)に変換する。AEセンサ10は、AE源信号に対して増幅、周波数制限などの処理を施して信号処理部11に出力する。なお、AEセンサ10に代えて加速度センサが用いられてもよい。この場合、加速度センサは、AEセンサ10と同様の処理を行うことによって、信号処理後の信号を信号処理部11に出力する。コンクリート床版の厚さは、例えば15cm以上である。
【0010】
信号処理部11は、AEセンサ10による処理が施されたAE源信号を入力とする。信号処理部11は、入力したAE源信号に対して、必要とされるノイズ除去、パラメータ抽出などの信号処理を行うことによって弾性波に関する情報を含むAE特徴量を抽出する。弾性波に関する情報とは、例えば、AE源信号の振幅、エネルギー、立ち上がり時間、持続時間、周波数、ゼロクロスカウント数などの情報である。信号処理部11は、抽出したAE特徴量に基づく情報をAE信号として構造物評価装置20に出力する。信号処理部11が出力するAE信号には、センサID、AE検知時刻、AE源信号振幅、エネルギー、立ち上り時間および周波数などの情報が含まれる。
【0011】
ここで、AE源信号の振幅は、例えば弾性波の中で最大振幅の値である。エネルギーは、例えば各時点において振幅を二乗したものを時間積分した値である。なお、エネルギーの定義は、上記例に限定されず、例えば波形の包絡線を用いて近似されたものでもよい。立ち上がり時間は、例えば弾性波がゼロ値から予め設定される所定値を超えて立ち上がるまでの時間T1である。持続時間は、例えば弾性波の立ち上がり開始から振幅が予め設定される値よりも小さくなるまでの時間である。周波数は、弾性波の周波数である。ゼロクロスカウント数は、例えばゼロ値を通る基準線を弾性波が横切る回数である。
【0012】
構造物評価装置20は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、評価プログラムを実行する。評価プログラムの実行によって、構造物評価装置20は、位置標定部201、評価部202、表示部203を備える装置として機能する。なお、構造物評価装置20の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。また、評価プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。また、評価プログラムは、電気通信回線を介して送受信されてもよい。
【0013】
位置標定部201は、信号処理部11から出力されたAE信号を入力とする。また、位置標定部201は、構造物におけるAEセンサ10の設置位置に関する情報(以下、「センサ位置情報」という。)をセンサIDに対応付けて予め保持する。設置位置に関する情報は、例えば緯度および経度、あるいは構造物の特定位置からの水平方向および垂直方向の距離などである。位置標定部201は、入力されたAE信号に含まれるセンサID、AE検知時刻等の情報と、予め保持しているセンサ位置情報とに基づいてAE発信源の位置標定を行う。例えば、位置標定部201は、構造物への衝撃による複数のAE信号を用いて、それぞれAE発信源の位置標定を行う。ここで、構造物への衝撃とは、無数の微小物体の衝突により生じる衝撃である。また、構造物への衝撃による複数のAE信号とは、無数の微小物体の衝突により生じる衝撃によって構造物で発生した弾性波より得られる信号である。無数の微小物体は、構造物の外部から構造物に影響を与える物体である。例えば、無数の微小物体は、雨滴、ひょう、あられなどの気象現象により発生する物体である。また、位置標定部201は、位置標定結果を用いて、発信源分布を導出する。発信源分布は、構造物で発生したAE発信源が示された分布を表す。位置標定部201は、導出した発信源分布を評価部202に出力する。
【0014】
評価部202は、位置標定部201から出力された発信源分布を入力とする。評価部202は、入力された発信源分布に基づいて構造物の健全性を評価する。例えば、評価部202は、発信源分布における弾性波の特徴量から構造物の劣化状態を評価する。発信源分布における弾性波の特徴量とは、AE発信源の密度に相当する。具体的な処理としては、評価部202は、発信源分布に基づいて、AE発信源の密度が第一の閾値未満の領域を構造物の劣化が生じている領域と評価する。評価部202は、評価結果を表示部203に表示させる。第一の閾値は、予め設定されていてもよいし、適宜設定されてもよい。
【0015】
表示部203は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置である。表示部203は、評価部202の制御に従って評価結果を表示する。表示部203は、画像表示装置を構造物評価装置20に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部203は、評価結果を表示するための映像信号を生成し、自身に接続されている画像表示装置に映像信号を出力する。
【0016】
図2は、降雨による弾性波の伝播の様子を示した図である。図2に示すように、雨滴31が路面32に衝突すると、衝突した位置から弾性波33が生じる。弾性波33は、床版内部を伝わって下面にも伝播する。下面に設置されたAEセンサ10に到達するまで十分な振幅を保った弾性波33は、AEセンサ10により検出される。位置標定部201は、損傷による弾性波33の場合と同様に、雨によって発生した弾性波33に対して位置標定を行うことにより雨滴31のおおよその衝突位置を特定することができる。このように、微小物体の衝突により生じる衝撃は、AEセンサ10を設置した面に相対する面(図2では、路面32)へ加わる衝撃である。
【0017】
しかしながら、床版内部に大きな水平亀裂34が入っていた場合、路面32に衝突した雨滴31によって発生した弾性波33は亀裂によって遮られたり、亀裂を迂回したり、減衰したりする。そのため、亀裂直下に位置するAEセンサ10には十分な振幅を保った弾性波33が到達しにくくなる。したがって、大きな水平亀裂34を有する床版下面において、位置標定部201がAE発信源の位置標定を行った場合、標定されるAE発信源が少なくなる。降雨による雨滴31の路面32への衝突は、領域全体に対して、ランダムで均等な頻度で生じる。そのため、大きな損傷を有しない床版の下面では弾性波33が検出され、AE発信源の位置標定が行われると領域全域にまんべんなくAE発信源が標定される。一方、床版内部に大きな損傷を有する場合は、損傷部直下でのAE発信源の密度が少なくなることが想定される。本実施形態における構造物評価装置20は、このような想定に基づいて構造物の健全性を評価する。
【0018】
図3は、ある測定期間中の弾性波発生数の推移を表す図である。図3において、横軸は測定期間中の時刻(hour)を表し、縦軸はヒット数を表す。ヒット数は、弾性波の検出数である。ヒット数は、例えば30分毎の弾性波の検出数を表す。図3において、測定期間0時間〜120時間までのヒット数は、平常時の弾性波の検出数である。測定期間120時間〜140時間までの間におけるヒット数においては、平常時(測定期間0時間〜120時間)の弾性波の発生数に比べて非常に多くの弾性波35が観測されている期間がある(図3の符号35)。この時間には、強めの風をともなう降雨が観測されている。ゲリラ豪雨等の激しい降雨の際は、このように短時間に大量の弾性波が発生する。AEセンサ10は、非常に高感度な圧電センサであるため、降雨による構造物への衝撃など、床版の損傷に起因しない要因で発生する弾性波も検出する。このため、降雨などはAEセンサ10を用いた損傷の検出にとってノイズ源となってしまうことがある。
【0019】
これに対して、構造物評価装置20における位置標定部201は、図3に示すような大量の弾性波が検出された時刻(以下、「対象時刻」という。)を含む所定の期間内のAE信号を、構造物への衝撃による複数のAE信号として用いて発信源分布を導出する。大量の弾性波が検出されたか否かの判定は、ある時刻において検出された弾性波が第二の閾値以上であるか否かで行われる。ある時刻において検出された弾性波の数が第二の閾値以上である場合には、大量の弾性波が検出されたと判定される。一方、ある時刻において検出された弾性波の数が第二の閾値未満である場合には、大量の弾性波が検出されていないと判定される。なお、第二の閾値は、予め設定されていてもよいし、適宜設定されてもよい。また、所定の期間は、対象時刻を基準として前後所定の時間(例えば、前後5分)であってもよいし、対象時刻が含まれていれば対象時刻の前の期間であってもよいし、対象時刻の後の期間であってもよい。
【0020】
図4は、所定の期間内のAE信号を用いて導出された発信源分布の一例を示す図である。図4において、横軸と縦軸は評価対象となる構造物の特定位置からの水平方向の長さ(mm)と垂直方向の長さ(mm)を表す。図4では、図3における降雨中の約10分間(例えば、測定期間120時間〜130時間の間において非常に多くの弾性波35が観測された時刻(符号35)を含む約10分間)のAE信号を用いてAE発信源を標定した結果が示されている。図中の+印は、AEセンサ10の設置位置を表す。評価対象の構造物の領域全体にAE発信源が分布している中で、中央の領域36にほとんどAE発信源が標定されていない。評価部202は、このようにAE発信源の密度が第一の閾値未満の領域(図4における領域36)を構造物の劣化が生じている領域と評価する。なお、評価部202が、評価対象とする領域はどのような領域であってもよい。例えば、評価部202は、4つのAEセンサ10で囲まれる領域毎に評価を行ってもよいし、4つ以上のAEセンサ10で囲まれる領域毎に評価を行ってもよいし、3つのAEセンサ10で囲まれる領域毎に評価を行ってもよいし、範囲が指定された領域毎に評価を行ってもよい。
【0021】
図5は、構造物評価装置20の評価処理の流れを表すフローチャートである。なお、図5では、弾性波の検出数が第二の閾値以上となった場合に実行される。また、不図示のバッファには、信号処理部11から出力されたAE信号が蓄積されているものとする。
位置標定部201は、所定の期間内のAE信号を不図示のバッファから取得する(ステップS101)。すなわち、位置標定部201は、対象時刻を含む所定の期間内のAE信号を不図示のバッファから取得する。位置標定部201は、取得した複数のAE信号を用いて、それぞれAE発信源の位置標定を行う(ステップS102)。その後、位置標定部201は、位置標定の結果に基づいて発信源分布を導出する(ステップS103)。
【0022】
位置標定部201は、生成した発信源分布を評価部202に出力する。評価部202は、位置標定部201から出力された発信源分布を用いて、AE発信源の密度が第一の閾値未満の領域があるか否か判定する(ステップS104)。AE発信源の密度が第一の閾値未満の領域がある場合(ステップS104−YES)、評価部202は第一の閾値未満の領域を構造物の劣化が生じている領域と評価する(ステップS105)。
一方、AE発信源の密度が第一の閾値未満の領域がない場合(ステップS104−NO)、評価部202は構造物の劣化が生じている領域がないと評価する(ステップS106)。評価部202は、評価結果を表示部203に表示させる。例えば、評価部202は、発信源分布において劣化が生じている領域を他の領域と異なる態様で評価結果を表示させる。他の領域と異なる態様としては、劣化が生じている領域を色付けすること、円などで囲むこと、劣化が生じている領域を文字で表示させるなどが挙げられる。表示部203は、評価部202の制御に従って、評価結果を表示する。
【0023】
以上のように構成された構造物評価システム100によれば、効率的に構造物の評価を行うことが可能になる。以下、この効果について詳細に説明する。
構造物評価装置20は、構造物への衝撃によるAE信号を用いることで、大量のAE発信源を含む発信源分布を導出する。そして、構造物評価装置20は、発信源分布に基づいて、AE発信源の密度が第一の閾値未満の領域を構造物の劣化が生じている領域と評価する。このように、従来ではノイズ源となってしまうデータを利用することによって効率的に構造物の評価を行うことが可能になる。
【0024】
また、構造物評価装置20は、対象時刻を含む所定の期間内のAE信号を、構造物への衝撃によるAE信号として用いることによって発信源分布を導出する。従来では、評価を行うために数十時間の計測が必要となっていた。これと比較して、構造物評価装置20による手法では、対象時刻を含む所定の期間内のAE信号のみを用いることによって大幅に所要時間を短縮し、効率よく評価を行うことができる。
【0025】
以下、構造物評価装置20の変形例について説明する。
構造物評価装置20が備える各機能部は、一部又は全てが別の筺体に備えられていてもよい。例えば、構造物評価装置20が評価部202のみを備えて、位置標定部201および表示部203が別の筺体に備えられてもよい。このように構成される場合、評価部202は、発信源分布を別の筺体から取得し、取得した発信源分布を用いて構造物の健全性を評価する。そして、評価部202は、評価結果を別の筺体が備える表示部203に出力する。
このように構成されることによって、発信源分布の導出に既存の装置を用いることによって、構造物評価装置20の製造コストを抑えることができる。
【0026】
信号処理部11は、構造物評価装置20に備えられてもよい。このように構成される場合、信号処理部11は、AEセンサ10による処理が施されたAE源信号を、AEセンサ10から直接、又は、不図示の中継装置を介して取得する。
図1では、複数のAEセンサ10−1〜10−nに1台の信号処理部11が接続されているが、構造物評価システム100は複数台の信号処理部11を備え、各AEセンサ10にそれぞれ信号処理部11が接続されて複数台のセンサユニットを備えるように構成されてもよい。
評価部202は、対象時刻のAE信号を、構造物への衝撃によるAE信号として用いて発信源分布を導出するように構成されてもよい。
【0027】
また、評価部202は、出力制御部として動作してもよい。出力制御部は、出力部を制御して、評価結果を出力する。ここで、出力部には、表示部203、通信部および印刷部が含まれる。出力部が通信部である場合、出力制御部は通信部を制御して、評価結果を他の装置に送信する。また、出力部が印刷部である場合、出力制御部は印刷部を制御して、評価結果を印刷する。なお、構造物評価装置20は、出力部として、表示部203、通信部および印刷部の一部又は全てを備えて上記の動作を実行してもよい。
評価部202は、発信源分布をコンター図で表示部203に表示させてもよい。
【0028】
また、弾性波の発生数増加を引き起こす要因は、上記の例(気象現象)に限定される必要はない。より具体的には、弾性波の発生数増加を引き起こす要因である無数の微小物体は、気象現象により発生する物体に限定される必要はない。例えば、無数の微小物体は、散水車による散水、薬剤の散布や散水により発生する物体であってもよいし、打撃を与えることが可能な装置(例えば、金槌)であってもよい。また、打撃としては、上記の他にチェーンドローイングによる打撃でもよいし、タッピングによる打撃でもよい。構造物評価装置20は、散水車による散水、薬剤の散布や散水により発生する物体や、装置等を用いた多数の打撃といった人工的な行為により発生する衝撃で発生した弾性波の発信源を用いることによって計測のタイミングをコントロールすることができる。そのため、より効率よく診断が可能になる。例えば、散水車による散水の場合、事前に散水車による散水が行われる時刻が分かっている場合、構造物評価システム100のユーザは、散水車による散水が行われる時刻に構造物評価システム100を起動させることによって構造物の評価を行う。このように計測のタイミングをコントロールすることができる。また、このような場合には、弾性波の発生するタイミングが予め分かるため、構造物評価システム100を普段は休止させておき弾性波を発生させるタイミングに合わせて、外部から起動のタイミングを知らせるトリガーを入力することによって消費電力を抑えた運用が可能である。
【0029】
計測にかかる電力低減のために、例えば通常は一部のAEセンサ10のみ起動させておき、急激な弾性波の発生数の増加が検出された場合に、他のAEセンサ10を起動させるように構成されてもよい。このように構成された場合の処理について図6及び図7を用いて説明する。
図6及び図7は、構造物評価システム100の処理の流れを示すシーケンス図である。
なお、図6及び図7において、処理開始時にはAEセンサ10−1が稼働中で、AEセンサ10−2が休止中であるとする。休止中とは、装置の全ての機能が休止しているわけではなく、起動に関わる機能のみ動作している状態を表す。
AEセンサ10−1は、構造物が発生する弾性波(AE波)を検出する(ステップS201)。AEセンサ10−1は、検出した弾性波を電圧信号(AE源信号)に変換し、AE源信号に対して増幅、周波数制限などの処理を施して信号処理部11に出力する(ステップS202)。信号処理部11は、入力したAE源信号に対して、必要とされるノイズ除去、パラメータ抽出などの信号処理を行う(ステップS203)。信号処理部11は、信号処理を行うことによって抽出されるAE特徴量に基づく情報をAE信号として構造物評価装置20に出力する(ステップS204)。ステップS201〜ステップS204の処理が繰り返し実行される。信号処理部11から出力されたAE信号は、不図示のバッファに蓄積される。
【0030】
位置標定部201が、弾性波の発生数の急激な増加を検出したとする(ステップS206)。例えば、現時刻における弾性波の発生数と、直前の時刻における弾性波の発生数との差が、第三の閾値を超えた場合に、位置標定部201は弾性波の発生数の急激な増加が発生したと検出する。第三の閾値は、予め設定されていてもよいし、適宜設定されてもよい。その後、位置標定部201は、弾性波の発生数の急激な増加を検出したことを信号処理部11に通知する(ステップS206)。信号処理部11は、位置標定部201から通知を受信すると、休止中のAEセンサ10−2に対して起動信号を送信する(ステップS207)。起動信号とは、起動処理の実行を指示するための信号である。
【0031】
AEセンサ10−2は、信号処理部11から起動信号を受信すると起動処理を実行する(ステップS208)。これにより、AEセンサ10−2は、休止中から稼働中となる。
AEセンサ10−1は、構造物が発生する弾性波(AE波)を検出する(ステップS209)。AEセンサ10−1は、検出した弾性波を電圧信号(AE源信号)に変換し、AE源信号に対して増幅、周波数制限などの処理を施して信号処理部11に出力する(ステップS210)。信号処理部11は、入力したAE源信号に対して、必要とされるノイズ除去、パラメータ抽出などの信号処理を行う(ステップS211)。信号処理部11は、信号処理を行うことによって抽出されるAE特徴量に基づく情報をAE信号として構造物評価装置20に出力する(ステップS212)。ステップS209〜ステップS212の処理が繰り返し実行される。信号処理部11から出力されたAE信号は、不図示のバッファに蓄積される。
【0032】
AEセンサ10−2は、構造物が発生する弾性波(AE波)を検出する(ステップS213)。AEセンサ10−2は、検出した弾性波を電圧信号(AE源信号)に変換し、AE源信号に対して増幅、周波数制限などの処理を施して信号処理部11に出力する(ステップS214)。信号処理部11は、入力したAE源信号に対して、必要とされるノイズ除去、パラメータ抽出などの信号処理を行う(ステップS215)。信号処理部11は、信号処理を行うことによって抽出されるAE特徴量に基づく情報をAE信号として構造物評価装置20に出力する(ステップS216)。ステップS213〜ステップS216の処理が繰り返し実行される。信号処理部11から出力されたAE信号は、不図示のバッファに蓄積される。
【0033】
位置標定部201は、対象時刻を含む所定の期間内のAE信号を不図示のバッファから取得する。位置標定部201は、取得したAE信号を用いて、それぞれAE発信源の位置標定を行う(ステップS217)。その後、位置標定部201は、位置標定の結果に基づいて発信源分布を導出する(ステップS218)。位置標定部201は、導出した発信源分布を評価部202に出力する。評価部202は、位置標定部201から出力された発信源分布を用いて評価を行う(ステップS219)。評価の方法は、上記の方法と同様であるため省略する。評価部202は、評価結果を表示部203に表示させる。表示部203は、評価部202の制御に従って評価結果を表示する(ステップS220)。
以上のように構成されることによって、常時、全てのAEセンサ10が稼働している必要がない。そのため、消費電力を低減することができる。
【0034】
また、AEセンサ10の一部又は全てが休止中で、雨量計、カメラ、マイクなどの機器により微小物体を検知した場合に、AEセンサ10を起動させるように構成されてもよい。また、例えば、計測地域の近傍の雨量、気温、湿度などの気象情報を元に、構造物への衝撃に起因する事象の発生が予想される時刻にAEセンサ10を起動させるといった運用も可能である。
【0035】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、構造物より発生した弾性波を検出する複数のAEセンサ10と、構造物への衝撃により発生した弾性波から発信源分布を導出する位置標定部201と、発信源分布に基づいて得られるAE発信源の密度から構造物の劣化状態を評価する評価部202とを持つことにより、効率的に構造物の評価を行うことができる。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
本実施形態で示した構造物評価システム及び構造物評価装置に関し、以下の付記を開示する。
(付記1)
構造物より発生した弾性波を検出する複数のセンサと、
前記構造物への衝撃により発生した前記弾性波の発信源分布を導出する位置標定部と、
前記発信源分布における前記弾性波の特徴量から前記構造物の劣化状態を評価する評価部と、
を備える構造物評価システム。
(付記2)
前記評価部は、前記弾性波の特徴量が第一の閾値未満の領域を前記構造物の劣化が生じている領域と評価する、付記1に記載の構造物評価システム。
(付記3)
前記位置標定部は、第二の閾値以上の数の弾性波が検出された時刻における弾性波から得られた信号又は前記時刻を含む所定の期間内における弾性波から得られた信号を、前記構造物への衝撃により発生した前記弾性波の信号として用いることによって前記発信源分布を導出する、付記1又は2に記載の構造物評価システム。
(付記4)
前記構造物への衝撃は、無数の微小物体の衝突により生じる衝撃である、付記1から3のいずれか一つに記載の構造物評価システム。
(付記5)
前記微小物体は、構造物の外部から構造物に影響を与える物体である、付記4に記載の構造物評価システム。
(付記6)
前記微小物体は、気象現象により発生する物体である、付記4又は5に記載の構造物評価システム。
(付記7)
前記微小物体の衝突により生じる衝撃は、人工的な行為により発生する衝撃である、付記4から6のいずれか一つに記載の構造物評価システム。
(付記8)
前記微小物体の衝突により生じる衝撃は、前記センサを設置した面に相対する面へ加わる衝撃である、付記4から7のいずれか一つに記載の構造物評価システム。
(付記9)
前記センサの一部が休止状態であり、
第三の閾値以上の弾性波が検出された場合に前記休止状態のセンサを起動させる信号処理部をさらに備える、付記1から8のいずれか一つに記載の構造物評価システム。
(付記10)
前記センサの一部又は全てが休止状態であり、
前記構造物への衝撃に起因する事象の発生が予想される時刻に前記休止状態のセンサを起動させる信号処理部をさらに備える、付記1から8のいずれか一つに記載の構造物評価システム。
(付記11)
構造物への衝撃により発生した弾性波の発信源分布を導出する位置標定部と、
前記発信源分布における前記弾性波の特徴量から前記構造物の劣化状態を評価する評価部と、
を備える構造物評価装置。
(付記12)
構造物への衝撃により発生した前記弾性波の発信源分布を導出する位置標定ステップと、
前記発信源分布における前記弾性波の特徴量から前記構造物の劣化状態を評価する評価ステップと、
を有する構造物評価方法。
【符号の説明】
【0037】
10(10−1〜10−n)…AEセンサ,11…信号処理部,20…構造物評価装置,201…位置標定部,202…評価部,203…表示部
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