(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、樹脂部品の一実施形態について説明する。
図1〜
図3に示すように、ラジエータサポート20は、車両のフレーム部材(図示略)の締結固定に利用されるインサートナット30を複数(本実施形態では、10個)有している。なお、
図1〜
図3にはインサートナット30を1つのみ図示している。本実施形態では、ラジエータサポート20が樹脂部品に相当し、フレーム部材が締結固定部材に相当し、インサートナット30が雌ねじ部材に相当する。
【0013】
インサートナット30は、金属材料によって形成されるとともに中心に雌ねじ31を有するナット部32と、合成樹脂材料によって形成されるとともに上記ナット部32の周囲全周を覆うねじ本体部33とを有している。ナット部32は汎用品のナットであり、詳しくは、雌ねじ31の締結方向における一方の端部32A(
図3における上端)にフランジが設けられるとともに同フランジの外面にローレット加工が施された、いわゆるローレットナットである。インサートナット30は、金型の内部に上記ナット部32を挿入した状態で合成樹脂材料を注入して同ナット部32とねじ本体部33とを一体成形する、いわゆるインサート成形によって形成されている。本実施形態では、インサートナット30が汎用品のローレットナットを用いて安価に製造されている。
【0014】
インサートナット30は、ねじ本体部33の外面(
図3における上面)に対してナット部32の端部32Aが若干突出した状態になっており、且つ、同ナット部32の端部32Aが外部に露出した状態になっている。具体的には、ナット部32の端部32Aの外面とねじ本体部33の外面(詳しくは、後述する係合アーム38を除く部分)とが共に平面状に形成されている。そして、そうしたナット部32の端部32Aの外面がねじ本体部33の外面よりも若干(例えば、数百μm)外方側に配置されている。
【0015】
ラジエータサポート20の部品本体50は、合成樹脂材料によって、右壁と上壁と左壁とを有する門型に形成されている。部品本体50は複数(本実施形態では、10個)の貫通孔(取付孔51)を有している。そして、取付孔51にはそれぞれ、インサートナット30が挿入された状態で取り付けられている。詳しくは、
図1および
図3に示すように、インサートナット30の外周面に凹設された係合凹部35と部品本体50の取付孔51の内周面に突設された係合凸部52との係合を通じて、インサートナット30は部品本体50の取付孔51内に係止されている。
【0016】
インサートナット30が部品本体50に係止された状態(
図3に示す状態)では、部品本体50の外面(
図3の上面)に対してインサートナット30のナット部32の端部32Aの外面(
図3の上面)が突出した状態になっている。また、この状態では、ナット部32の端部32Aが外部に露出している。本実施形態では、部品本体50の外面における取付孔51の周辺部分が、同部品本体50における上記フレーム部材が固定される側の第1固定面50Aに相当する。また、ナット部32の端部32Aの外面が、インサートナット30における上記フレーム部材が固定される側の第2固定面30Aに相当する。
【0017】
以下、インサートナット30の構造について詳細に説明する。
図4〜
図6に示すように、インサートナット30の軸部分を構成する中央筒部36は略円筒状をなしている。中央筒部36の内周部分は上記ナット部32によって構成されており、中央筒部36の中心には雌ねじ31が形成されている。なお、雌ねじ31は右ねじである。
【0018】
中央筒部36における外方側(
図5の上方側)の端部には、外周側に突出する2つの羽根部37が設けられている。これら羽根部37は、上記中央筒部36の周囲方向において略一定の厚さで延びるとともに等間隔で並ぶように配置されている。各羽根部37は、上記締結方向における外方側から見た状態(以下、平面視[
図4参照])での突端が120度で交差する2つの平面によって構成される態様で延設されている。各羽根部37の外面における上記突端が120度をなす部分近傍には、略三角状の目印凹部39(
図4)が凹設されている。
【0019】
各羽根部37には係合アーム38が一体に設けられている。各係合アーム38は、中央筒部36の中心線Lを中心とする円弧状に延びる態様で羽根部37の外周側の端部から反時計回り方向に突出して、中央筒部36の外周面と間隔を置いた位置において同外周面に沿って延びている。係合アーム38は、一方の端部(基端部38A)が羽根部37の外周側の端部に支持されるとともに他方の端部(先端部38B)が羽根部37に支持されない自由な状態にされた構造(いわゆる片持ち構造)になっている。そして、係合アーム38は、基端部38Aを支点に先端部38B(自由端)が中心線L方向や雌ねじ31の径方向に揺動する態様で弾性変形可能になっている。
【0020】
インサートナット30の外方側(
図5の上方側)の端部における外周部分は、2つの羽根部37と2つの係合アーム38とによって構成されている。そして、そうしたインサートナット30の外方側の端部における同インサートナット30の外周面にあたる部分は、平面視(
図4参照)で略六角形状になっている。また、各係合アーム38における上記インサートナット30の外周面をなす部分は、同インサートナット30の第2固定面30Aから遠くなるに連れて外周側の位置になるように傾斜した傾斜面38Cになっている。
【0021】
本実施形態では、インサートナット30の外方側の部分が六角ソケットに嵌まる形状をなしている。詳しくは、インサートナット30に外方側から六角ソケットを嵌めると、同六角ソケットの内面によって係合アーム38の傾斜面38Cが押圧されるようになる。これにより、インサートナット30の外方側の端部が六角ソケットの内部に納まるようになるまで、係合アーム38が六角ナットの内方側に弾性変形するようになる。
【0022】
係合アーム38の先端部38Bは前記六角形状における一つの角を構成する形状をなしている。この先端部38Bの内方側(
図5の下方側)の面には嵌合凸部45が突設されている。この嵌合凸部45は、中央筒部36の周囲方向において略円弧状で延びている。また、先端部38Bの外方側(
図5の上方側)の面には押圧凸部46が突設されている。この押圧凸部46は、係合アーム38が弾性変形していない状態において前記第2固定面30Aよりも外方に突出する形状をなしている。
【0023】
中央筒部36の外周面には、溝状をなす2つの前記係合凹部35が上記中央筒部36の周囲方向において等間隔で並ぶように設けられている。これら係合凹部35は、周方向に延びる係合溝41と中心線L方向に延びる案内溝43とによって構成されている。案内溝43は、上記係合溝41の一方の端部(詳しくは、インサートナット30を平面視で時計回り方向[取り付け方向]に回転させた場合における回転方向前側の端部)から中央筒部36の内方側の端部まで延びている。上記係合溝41の他方の端部(詳しくは、上記回転方向後ろ側の端部)は、中央筒部36の外周壁における係合凹部35が形成されていない部分である隔壁部44(
図5)によって塞がれた形状になっている。また、係合溝41の内面のうちの内方側に配置される面(以下、接触面35A)は、取付孔51の深さ方向に延びる直線(具体的には、中央筒部36の中心線L)を螺旋軸とする右回りの仮想螺旋面に沿って延びている。上記案内溝43の平面視における断面形状は、上記中央筒部36の中心線Lを中心とする円弧状になっている。中央筒部36の内方側の端部47は断面の外形が略正方形状をなす態様で延びている。
【0024】
以下、ラジエータサポート20の部品本体50の構造について詳細に説明する。
図7〜
図9に示すように、部品本体50に設けられた前記取付孔51は、断面円形状の貫通孔である。なお、
図7〜
図9には部品本体50に設けられた複数の取付孔51のうちの1つのみを図示している。
【0025】
取付孔51の内周面には2つの前記係合凸部52が突設されている。これら係合凸部52は、平面視(
図7参照)で円弧状であり、取付孔51の周囲方向において等間隔で並ぶように配置されている。本実施形態では、係合凸部52の平面形状(円弧状)は、インサートナット30の案内溝43の平面視における断面形状(円弧状)よりも小さくなっている。
【0026】
図10〜
図12に示すように、インサートナット30は部品本体50の取付孔51に挿入される。その際には、平面視でインサートナット30の係合凹部35の案内溝43と部品本体50の取付孔51の係合凸部52とが重なるように、インサートナット30が部品本体50の外方側に配置される。そして、この状態(
図10に示す状態)でインサートナット30が内方側に押圧される。これにより、部品本体50の取付孔51内面の係合凸部52がインサートナット30外面の案内溝43の内部を通過して、同取付孔51にインサートナット30が挿入された状態(
図11に示す状態)になる。
【0027】
図7〜
図9に示すように、部品本体50の外面における取付孔51の内縁部分51Aは、全周に渡って一段高くなる態様で外方に向けて突出している。この内縁部分51Aには、取付孔51の周囲方向に延びる2本のガイド凸部53が同周囲方向において等間隔で並ぶように突設されている。各ガイド凸部53は、平面視で時計回り方向に回転させた場合における回転方向後ろ側から順に並ぶように、幅広部53A、幅狭部53B、および案内凸部53Cを有している。幅広部53Aは、内縁部分51Aの略全体にわたる幅の円弧状で延びている。幅狭部53Bは、上記内縁部分51Aの外周側の端部において上記幅広部53Aよりも幅狭の円弧状で延びている。案内凸部53Cは、幅広部53Aよりも幅狭、且つ幅狭部53Bよりも幅広の円弧形状で、内縁部分51Aの外周側の端部において延びている。案内凸部53Cは、詳しくは、平面視で時計回り方向に回転させた場合における回転方向の後ろ側の部分が、同回転方向の前側に向かうに連れて取付孔51の中心線Lに近くなるように傾斜した形状をなしている。また、上記案内凸部53Cにおける平面視で時計回り方向に回転させた場合における回転方向の前側の部分は、一定の幅で延びている。
【0028】
部品本体50の内縁部分51Aには、2つの嵌合凹部54が上記中央筒部36の周囲方向において等間隔で並ぶように凹設されている。各嵌合凹部54は、取付孔51の中心線Lを中心とする円弧状で延びている。嵌合凹部54はそれぞれ、案内凸部53Cに隣接する位置、詳しくは平面視で時計回り方向に回転させた場合における回転方向の前側の位置に設けられている。このように本実施形態では、案内凸部53Cと嵌合凹部54とが、取付孔51の周囲方向において並んでいる。
【0029】
図12に示すように、部品本体50の取付孔51にインサートナット30が挿入された状態では、係合アーム38の嵌合凸部45(
図11参照)の周囲方向の位置が、部品本体50のガイド凸部53における幅狭部53Bの内周側の位置になる。また、インサートナット30が部品本体50に取り付けられた状態(
図2に示す状態)では、係合アーム38の嵌合凸部45の周方向の位置が、雌ねじ31の締結方向(
図2の上下方向)において部品本体50の嵌合凹部54と対向する位置になる。なお、インサートナット30が部品本体50に取り付けられた状態は、インサートナット30を取付孔51に挿入した後に時計回り方向に90度ほど回転させた状態である。
【0030】
部品本体50の外面における上記内縁部分51Aの周縁には、部品本体50の取付孔51にインサートナット30が挿入された状態(
図12に示す状態)で同インサートナット30外面の目印凹部39の外周側にあたる部分に、解錠目印凸部55が突設されている。この解錠目印凸部55は、半球状の凸部と解錠状態の南京錠の形状をなす凸部とによって構成されている。また、部品本体50の外面における上記内縁部分51Aの周縁には、同部品本体50にインサートナット30が取り付けられた状態(
図2に示す状態)で同インサートナット30外面の目印凹部39の外周側にあたる部分に、施錠目印凸部56が突設されている。施錠目印凸部56は、半球状の凸部と施錠状態の南京錠の形状をなす凸部とによって構成されている。
【0031】
以下、インサートナット30を部品本体50に着脱する作業について、本実施形態のラジエータサポート20の作用効果とともに説明する。
ここでは先ず、インサートナット30を部品本体50に取り付ける作業について説明する。
【0032】
インサートナット30の部品本体50への取り付けは、同インサートナット30を門型の部品本体50に対して外方側から内方側に移動させる態様で行われる。具体的には、部品本体50の右壁への取り付けに際してはインサートナット30を左側に移動させる態様で、部品本体50の上壁への取り付けに際してはインサートナット30を下方に移動させる態様で、同インサートナット30の取り付けは行われる。また部品本体50の左壁への取り付けに際してはインサートナット30を右側に移動させる態様で、同インサートナット30の取り付けは行われる。こうしたインサートナット30の取り付け作業は、ロボットアームを用いた自動装置によって行われる。
【0033】
この作業では先ず、ロボットアームに取り付けられた汎用の六角ソケットにインサートナット30の外方側の部分が嵌められる。
そして、
図10および
図12に示すように、部品本体50の係合凸部52とインサートナット30の係合凹部35の案内溝43とが平面視で重なる位置まで、同インサートナット30が移動される。その後、
図11および
図12に示すように、インサートナット30が部品本体50の取付孔51内に押し込まれる。これにより、部品本体50の係合凸部52がインサートナット30の係合凹部35(詳しくは、案内溝43)の内部を通過して同インサートナット30が内方側に移動するようになって、部品本体50の取付孔51にインサートナット30が挿入されるようになる。
【0034】
その後、インサートナット30が平面視で時計回り方向に回転される。このとき、インサートナット30は、外周面の係合凹部35(詳しくは、係合溝41)と部品本体50の取付孔51内面の係合凸部52との係合を通じて案内される。本実施形態では、
図11に示すように、係合凹部35の内面における内方側の面(接触面35A)が、中心線Lを螺旋軸とする仮想螺旋面に沿って延びている。そのため、このときには
図13(a)および
図13(b)に一例を示すように、係合凸部52の外面における内方側(
図13(a)の下方側)の面(接触面52A)と係合凹部35の接触面35Aが接触するようになる。そして、インサートナット30をさらに回転させると、それら接触面52A,35Aの接触圧力が高くなる。本実施形態では、この接触圧力が所定値以上になると、インサートナット30(具体的には、ロボットアーム)の回転が停止されるようになっている。
【0035】
本実施形態では、このようにして係合凸部52および係合凹部35の接触面52A,35Aの接触圧力を高くすることにより、部品本体50の取付孔51の内部にインサートナット30が係止されるようになる。これにより、部品本体50に対するインサートナット30の上記締結方向への相対移動が規制された状態になるとともに、インサートナット30のガタつきが抑えられるようになる。
【0036】
なお本実施形態では、製造公差の範囲内であるとはいえ、部品本体50の係合凸部52が薄くなったりインサートナット30の係合凹部35の幅が広くなったりする。そして、この場合には係合凸部52の接触面52Aと係合凹部35の接触面35Aとの接触面圧が高くなり難くなる。そのため、係合凸部52と係合凹部35とが係合した状態でインサートナット30を平面視で時計回り方向に回転させたときにおいて接触面52A,35Aの面圧が所定値以上にならない場合がある。
【0037】
この点、本実施形態では、インサートナット30が一定量だけ回転すると、インサートナット30の隔壁部44に部品本体50の係合凸部52が突き当たるようになる。そのため、インサートナット30が回転し過ぎることが抑えられるようになる。しかも、このときには係合凸部52の接触面52Aと係合凹部35の接触面35Aとの接触圧力(ただし、接触圧力<所定値)が高くなることに加えて、係合凸部52の回転方向前側の端部とインサートナット30の隔壁部44とが接触(当接)した状態になる。そのため、インサートナット30のガタつきが抑えられるようになる。
【0038】
このように本実施形態では、部品本体50の取付孔51にインサートナット30を挿入して周方向に回転させることによって、取付孔51の内周面の係合凸部52とインサートナット30の外周面の係合凹部35とを係合させることができる。これにより、部品本体50にインサートナット30を取り付けることができる。本実施形態では、
図3に示すように、インサートナット30の挿入方向(
図3の上下方向)において対向する係合凸部52の接触面52Aと係合凹部35の接触面35Aとが接触する状態で、同インサートナット30が部品本体50に取り付けられる。そのため、部品本体50の取付孔51からインサートナット30を外方側に引き抜くように作用する力(引き抜き荷重)に対して高い強度が得られる態様で、インサートナット30を部品本体50に取り付けることができる。
【0039】
本実施形態では、
図12に示すように、インサートナット30の取り付けに際して同ナット30を平面視で時計回り方向に回転させる前において、係合アーム38の嵌合凸部45が部品本体50のガイド凸部53における幅狭部53Bの内周側の位置になっている。
【0040】
そして、
図14および
図15に示すように、インサートナット30を平面視で時計回り方向に回転させると、係合アーム38の嵌合凸部45がガイド凸部53の案内凸部53Cに接触するようになる。このとき係合アーム38の嵌合凸部45がガイド凸部53の案内凸部53Cの内周側の面によって中心線Lに近づく方向に案内されて、同係合アーム38が中心線L側に弾性変形した状態(
図15に示す状態)になる。このようにして、係合アーム38の嵌合凸部45が部品本体50の案内凸部53Cを避けるように通過するようになる。
【0041】
図16に示すように、さらにインサートナット30を回転させると、係合アーム38の嵌合凸部45が部品本体50の案内凸部53Cの配設部分を通過する。このとき係合アーム38が弾性変形前の形状に復元して、同係合アーム38の嵌合凸部45と部品本体50の案内凸部53Cとが周囲方向において並んだ状態になる。
【0042】
そのため、一旦インサートナット30が部品本体50取り付けられた後においては、仮にインサートナット30が平面視で反時計回り方向(取り外し方向)に回転した場合であっても、係合アーム38の嵌合凸部45と部品本体50の案内凸部53Cとが突き当たる。これにより、それ以上のインサートナット30の回転が規制されるため、インサートナット30が緩むことが抑えられるようになる。
【0043】
本実施形態では、案内凸部53Cの内周側の面の一部が、平面視で時計回り方向に回転させた場合における回転方向の前側に向かうに連れて中心線Lに近くなるように傾斜した形状をなしている。そのため、案内凸部53Cを避けるように嵌合凸部45を通過させて同案内凸部53Cと嵌合凸部45とを周囲方向において並んだ状態にする作業を、インサートナット30を相対回転させるといった簡単な手順でスムーズに行うことができる。
【0044】
次に、インサートナット30を部品本体50から取り外す作業について説明する。
インサートナット30を取り外す際には、先ず、インサートナット30の外方側(第2固定面30A側)の部分に六角ソケットが嵌められる。
【0045】
図4に示すように、係合アーム38が弾性変形していない状態では、インサートナット30の外方側の部分の外形は、六角ナットに納まらない形状になっている。この状態では、
図2および
図16に示すように、係合アーム38の嵌合凸部45と部品本体50の案内凸部53Cとが周囲方向において並んでいる。そのため、それら嵌合凸部45および案内凸部53Cが突き当たることによって、インサートナット30の取り外し方向への回転が規制される状態になっている。
【0046】
ただし、
図2および
図4に示すように、係合アーム38が弾性変形していない状態においても、インサートナット30の外方側の端部の外形は略六角形状をなしており、六角ソケットに納まる形状になっている。また、係合アーム38におけるインサートナット30の外周面をなす部分は傾斜面38Cになっており、同係合アーム38は中心線L側に揺動するように弾性変形可能になっている。そのため、インサートナット30に対して外方側から六角ソケットを押し込むようにして嵌めることにより、係合アーム38の傾斜面38Cが六角ソケットの内面によって押圧されて、同係合アーム38が中心線L側に倒れるように弾性変形するようになる。その結果、
図17に示すように、インサートナット30の外方側の部分が六角ソケットの内部に嵌まるようになる。
【0047】
この状態(取り外し状態)では、係合アーム38が中心線L側に弾性変形する分だけ、同係合アーム38の先端部38Bと一体の嵌合凸部45(
図2参照)も中心線L側の位置になる。これにより、係合アーム38の嵌合凸部45と部品本体50の案内凸部53Cとが周囲方向において並んでいない状態、すなわち嵌合凸部45および案内凸部53Cの雌ねじ31の径方向における位置がずれた状態になる。したがって、この状態では、インサートナット30を取り外し方向(平面視で反時計回り方向)に回転させる場合であっても係合アーム38の嵌合凸部45と部品本体50の案内凸部53Cとは突き当たらず、同インサートナット30を回転させることが可能になる。このように本実施形態では、嵌合凸部45と案内凸部53Cとの周囲方向における位置をずらすように同係合アーム38を弾性変形させるといった容易な作業で、インサートナット30を取り外し方向に回転させることの可能な取り外し状態にすることができる。
【0048】
そして、この取り外し状態で、六角ソケットともどもインサートナット30を取り外し方向に回転させることにより、同インサートナット30を部品本体50の取付孔51から取り外すことができる。
【0049】
このように、係合アーム38を中心線L側に倒すように弾性変形させつつインサートナット30の外方側の部分を六角ソケットに嵌めることにより、インサートナット30を取り外し方向に回転させることの可能な状態(
図17に示す状態)にすることができる。そのため、インサートナット30に六角ソケットを嵌めて回すといった作業を通じて、係合アーム38の嵌合凸部45と部品本体50の案内凸部53Cとの係合を解除するための別途の作業を行うことなく、インサートナット30を部品本体50から取り外すことができる。
【0050】
ここで、金属材料によって形成されたラジエータサポートにおいては、フレーム部材の固定に用いる金属ナットをラジエータサポートに直接固定(溶接)することができる。また、こうしたラジエータサポートでは、廃棄に際して金属ナットを取り外す必要がないためリサイクルを容易に行うことができる。
【0051】
一方、合成樹脂材料によって形成されたラジエータサポートでは、金属ナットを溶接することはできない。こうしたラジエータサポートでは、かしめ加工によって雌ねじ部材(例えばブラインドナット)を固定することはできる。しかしながら、このラジエータサポートでは、かしめ加工用の高価な工具が必要になるばかりか、リサイクルや補修に際して雌ねじ部材を取り外す作業に非常に手間がかかる構造になってしまう。
【0052】
また、合成樹脂材料によって形成されたラジエータサポートにおいては、その裏面にナットを配置することにより、ナットとボルトとの間にラジエータサポートおよびフレーム部材を挟み込む態様で固定することができる。そのため、ラジエータサポートを高い引き抜き荷重に耐えうる構造にすることができる。ただし、このラジエータサポートでは、ナットの取り付けを自動装置で行う場合に、ラジエータサポート内方の狭いスペースにロボットアームを侵入させる必要があるため、同ナットの取り付け作業が困難な作業になる。
【0053】
本実施形態のラジエータサポート20では、自動装置のロボットアームを用いて、インサートナット30をラジエータサポート20(部品本体50)の外方側から高い引き抜き荷重に耐えうる態様で容易に取り付けることができる。しかも、そうしたインサートナット30に外方側から六角ソケットを嵌めて回転させることによって同インサートナット30を部品本体50から取り外すことができるため、ラジエータサポート20のリサイクルや補修を容易に行うこともできる。このように本実施形態によれば、部品本体50へのインサートナット30の着脱を外方側(第1固定面50A側)から、すなわち締結固定部材を固定するためにスペースが確保されている部分から容易に行うことができる。
【0054】
また、本実施形態のラジエータサポート20では、上述した態様でのインサートナット30の着脱を、容易に入手可能な汎用工具を用いて行うことができる。そうした汎用工具としては、六角ソケットの他に、十二角ソケットや、メガネレンチ、スパナ、モンキーレンチなどを挙げることができる。そのため、専用の組み付け装置が設けられた製造工場に限らず、例えば自動車のメンテナンスを行う整備工場や、自動車の解体を行う解体工場などにおいてもインサートナット30の着脱を行うことができる。
【0055】
以下、ラジエータサポート20にフレーム部材を取り付ける作業について説明する。
ラジエータサポート20へのフレーム部材の固定は、上記インサートナット30の雌ねじ31と締結固定用のボルト(図示略)とを利用して行われる。具体的には、上記ボルトが、フレーム部材の挿通孔に挿通された状態でインサートナット30の雌ねじ31に螺合される。
【0056】
図18に示すように、ラジエータサポート20にフレーム部材が固定されていないときには、雌ねじ31の締結方向(
図18の上下方向)において、係合アーム38の嵌合凸部45と部品本体50の嵌合凹部54とが対向している。ただし、このとき係合アーム38の嵌合凸部45は部品本体50の嵌合凹部54に嵌まっていない。また、このとき係合アーム38の外方側の押圧凸部46がインサートナット30の第2固定面30Aよりも外方側(
図18の上方)に突出している。
【0057】
そして
図19に示すように、ラジエータサポート20にフレーム部材21が固定されると、フレーム部材21の内方側(
図19の下方側)の面によって押圧されて、係合アーム38が内方側に押し込まれる。これにより、係合アーム38の嵌合凸部45が部品本体50の嵌合凹部54に嵌まるようになる。
【0058】
このようにしてフレーム部材21をラジエータサポート20に固定した後においては、係合アーム38の嵌合凸部45と部品本体50の嵌合凹部54との嵌合を通じて、部品本体50に対するインサートナット30の取り外し方向への相対回転が規制される。これにより、インサートナット30が外れ難い構造にすることができる。
【0059】
本実施形態では、インサートナット30のねじ本体部33の外面(
図3の上面)に対してナット部32の端部32Aの外面(第2固定面30A(
図3の上面))が若干突出した状態になっている。また、ナット部32の端部32Aがラジエータサポート20の外部に露出した状態になっている。そのため、インサートナット30の雌ねじ31と前記ボルトとを利用してフレーム部材の締結固定を行うことにより、フレーム部材の内方側の面とナット部32の端部32Aとが当接した状態(メタルタッチ状態)になる。これにより、フレーム部材をラジエータサポート20に固定するための構造として、強固な固定構造を実現することができる。
【0060】
なお本実施形態では、インサートナット30の雌ねじ31(
図3)が右ねじになっており、同インサートナット30の係合凹部35の接触面35Aが右回りの螺旋面に沿った形状になっている。そのため、インサートナット30の雌ねじ31にボルトを螺合する際に同インサートナット30に作用する回転力が、係合凸部52の内方側の面と係合凹部35の接触面35Aとの面圧を高める方向に同インサートナット30を回転させる方向に作用する。そのため、インサートナット30の雌ねじ31にボルトを螺合する際に同インサートナット30が緩まない構造になっている。
【0061】
また本実施形態では、
図5および
図6に示すように、インサートナット30の中央筒部36の内方側(
図5の下方側)の端部47が、断面の外形が略正方形状をなす態様で延びている。そのため、インサートナット30の内方側の端部47に汎用工具(スパナやモンキーレンチ)を嵌めることによって、部品本体50に対するインサートナット30の相対回転を規制した状態にすることができる。本実施形態では、インサートナット30の雌ねじ31に嵌めたボルトが錆びるなどして固着してしまった場合に、インサートナット30の内方側の端部47に汎用工具を嵌めた状態でボルトを取り外すことができる。これにより、インサートナット30が供回りすることを回避しつつボルトを取り外し方向に回転させることができる。したがって、インサートナット30からボルトを容易に取り外すことができ、ひいてはラジエータサポート20からフレーム部材を容易に取り外すことができる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)部品本体50へのインサートナット30の取り付けを外方側から、すなわちフレーム部材を固定するためにスペースが確保されている部分から容易に行うことができる。
【0063】
(2)嵌合凸部45と案内凸部53Cとが周囲方向において並ばない状態になるように係合アーム38を弾性変形させるといった容易な作業で、インサートナット30を取り外し方向に回転させることの可能な状態にすることができる。そして、この状態でインサートナット30を取り外し方向に回転させることによって、部品本体50からのインサートナット30の取り外しを行うことができる。
【0064】
(3)フレーム部材がラジエータサポート20に固定された後において、係合アーム38の嵌合凸部45と部品本体50の嵌合凹部54との嵌合を通じて、部品本体50に対するインサートナット30の取り外し方向への相対回転を規制することができる。これにより、インサートナット30が外れ難い構造にすることができる。
【0065】
(4)インサートナット30に六角ソケットを嵌めて回すといった作業を通じて、係合アーム38の嵌合凸部45と部品本体50の案内凸部53Cとの係合を解除するための別途の作業を行うことなく、インサートナット30を部品本体50から取り外すことができる。
【0066】
(5)インサートナット30の外方側から六角ソケットを押し込むようにして嵌めることにより、係合アーム38の傾斜面38Cが六角ソケットの内面によって押圧されるようになる。これにより、インサートナット30の外方側の部分が六角ソケットの内部に嵌まるようになるまで、係合アーム38を弾性変形させることができる。
【0067】
(6)案内凸部53Cの内周側の側面の一部は、平面視で時計回り方向に回転させた場合における回転方向の前側に向かうに連れて中心線Lに近くなるように傾斜した形状をなしている。そのため、案内凸部53Cを避けるように嵌合凸部45を通過させて同案内凸部53Cと嵌合凸部45とを周囲方向において並んだ状態にする作業を、部品本体50に対してインサートナット30を相対回転させるといった簡単な手順でスムーズに行うことができる。
【0068】
(7)インサートナット30の雌ねじ31と前記ボルトとを利用してフレーム部材の締結固定を行うことにより、フレーム部材の内方側の面とナット部32の端部32Aとが当接した状態(メタルタッチ状態)になる。そのため、フレーム部材をラジエータサポート20に固定するための構造として、強固な固定構造を実現することができる。
【0069】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・インサートナット30の外方側の端部における同インサートナット30の外周面にあたる部分の形状は、略六角形状にすることに限らず、正方形状や円形状、楕円形状など、任意の形状に変更することができる。なお、インサートナット30の外方側の端部における上記形状を、雌ねじ31の中心線Lを間に挟んで平行に延びる一対の外面を有する形状にすることにより、汎用工具(スパナやモンキーレンチなど)を用いてインサートナットの着脱を行うことができる。
【0070】
・係合アーム38の外面がインサートナット30の外周面の一部をなさない態様で、同係合アーム38を設けるようにしてもよい。
・インサートナット30のねじ本体部33における外方側の面がナット部32における外方側の面よりも若干外方側の位置になるようにしてもよい。また、部品本体50におけるフレーム部材が固定される側の面(第1固定面50A)が、インサートナット30におけるフレーム部材が固定される面(第2固定面30A)よりも若干外方側の位置になるようにすること等も可能である。
【0071】
・部品本体50の係合凸部52の外面のうちの内方側の面(接触面52A)を、部品本体50の取付孔51に挿入された状態の中央筒部36の中心線Lを螺旋軸とする右回りの仮想螺旋面に沿って延びる面にしてもよい。この場合には、部品本体50の接触面52Aとインサートナット30の係合凹部35の接触面35Aとが同一の形状に形成されることが好ましい。こうした構成によれば、係合凸部52と係合凹部35とが係合した状態でインサートナット30を平面視で時計回り方向に回転させることによって、係合凸部52の接触面52Aと係合凹部35の接触面35Aとを面接触させることが可能になる。そして、インサートナット30をさらに回転させることにより、それら接触面52A,35Aの面圧を高くすることができる。このようにして係合凸部52および係合凹部35の接触面52A,35Aの面圧を高くすることにより、部品本体50の取付孔51の内部にインサートナット30が係止されるようになる。そして、この場合には、係合凸部52および係合凹部35の接触面52A,35Aに作用する高い面圧によってインサートナット30のガタつきを好適に抑えることができる。
【0072】
・インサートナット30の係合凹部35の接触面35Aと部品本体50の係合凸部52の接触面52Aとを共に、中心線Lと直交する平面状に形成してもよい。こうした構成においても、係合凸部52の外面と係合凹部35の内面との接触面圧が十分に高くなるようにそれら係合凸部52や係合凹部35の形状を定めることにより、インサートナット30を部品本体50に係止することができる。
【0073】
・部品本体50に対するインサートナット30の締結方向への相対移動を規制するための構造として、部品本体50の取付孔51内面に凹設された係合凹部とインサートナット30の外面に突設された係合凸部とを係合させる構造を採用してもよい。
【0074】
・部品本体50に対するインサートナット30の締結方向への相対移動を規制するための構造として、インサートナット30外面に形成した雄ねじと部品本体50の取付孔51内面に形成した雌ねじとを係合(螺合)させる構造を採用してもよい。
【0075】
・ナット部32として、ローレットナット以外の汎用品のナットを用いたり、独自に設計した専用品を用いたりしてもよい。
・インサート成形によってインサートナット30を製造することに限らず、ねじ本体部33とナット部32とを別々に用意するとともに、同ねじ本体部33にナット部32を接着などによって固定することによってインサートナット30を製造してもよい。
【0076】
・上記実施形態の樹脂部品は、インサートナット30が取り付けられる合成樹脂製のラジエータサポート20に限らず、雌ねじを有する雌ねじ部材が取り付けられる樹脂部品であれば適用することができる。