特許第6871237号(P6871237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6871237熱可塑性樹脂組成物及びこれから製造された成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871237
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びこれから製造された成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20210426BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20210426BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20210426BHJP
   C08K 5/092 20060101ALI20210426BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20210426BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20210426BHJP
   C08J 5/08 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C08L77/00
   C08K5/09
   C08K5/17
   C08K5/092
   C08K7/14
   C08L77/06
   C08J5/08CFG
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-511269(P2018-511269)
(86)(22)【出願日】2016年8月25日
(65)【公表番号】特表2018-529005(P2018-529005A)
(43)【公表日】2018年10月4日
(86)【国際出願番号】KR2016009412
(87)【国際公開番号】WO2017039224
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2019年6月20日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0122087
(32)【優先日】2015年8月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520087103
【氏名又は名称】ロッテ ケミカル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】キム,キュン レ
(72)【発明者】
【氏名】シン,チャン ギュン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ヒョン テク
(72)【発明者】
【氏名】ホン,サン ヒュン
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−524016(JP,A)
【文献】 特開2007−246583(JP,A)
【文献】 特表昭61−502612(JP,A)
【文献】 特表2015−519465(JP,A)
【文献】 国際公開第99/006484(WO,A1)
【文献】 特開平03−047866(JP,A)
【文献】 特公昭47−028088(JP,B1)
【文献】 特開2015−071668(JP,A)
【文献】 特開2013−173959(JP,A)
【文献】 特開2013−040269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリアミド樹脂:30重量%〜70重量%
(B)脂肪族ポリアミド樹脂:1重量%〜20重量%
(C)カルボン酸及びその塩のうち少なくとも一つ、及びアミノ基を含む第1キレート剤:0.1重量%〜1重量%
(D)芳香族ジカルボン酸を含む第2キレート剤:0.1重量%〜5重量%;及び
(E)充填剤:10重量%〜60重量%;を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族ポリアミド樹脂(A)及び前記脂肪族ポリアミド樹脂(B)は、1:0.05〜1:0.5の重量比で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記充填剤(E)はガラス繊維であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記芳香族ポリアミド樹脂(A)は、芳香族ジカルボン酸単位を10モル%〜100モル%含むジカルボン酸単位;及び脂肪族ジアミン単位及び脂環族ジアミン単位のうち少なくとも一つを含むジアミン単位;を含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族ポリアミド樹脂(A)は、ヘキサメチレンテレフタルアミド及びヘキサメチレンアジポアミドからなるポリアミド(PA6T/66)、及びヘキサメチレンテレフタルアミド及び2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドからなるポリアミド(PA6T/DT)のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記脂肪族ポリアミド(B)は、ポリアミド6及びポリアミド66のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記第1キレート剤(C)は、EDTA(ethylenediamine−N,N,N’,N’−tetraacetic acid)、EGTA(ethylene glycol bis(2−aminoethylether)−N,N,N’,N’−tetraacetic acid)、CyDTA(trans−1,2−diaminocyclohexane−N,N,N’,N’−tetraacetic acid)、DTPA(diethylenetriamine pentaacetic acid)、TETHA(triethylenetetraamine−N,N,N’,N”,N’’’,N’’’−hexaacetic acid)、HEDTA(N−(2−hydroxyethyl)ethylenediaminetriacetic acid)及びこれらの金属塩のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記第1キレート剤(C)は、ナトリウム(Na)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アンチモン(Sb)、マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、クロム(Cr)及びジルコニウム(Zr)イオンのうち少なくとも一つ以上の金属イオンを含む金属塩であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記第2キレート剤(D)において、前記芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸及びイソフタル酸のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記芳香族ポリアミド樹脂(A)、前記脂肪族ポリアミド樹脂(B)、前記第1キレート剤(C)及び前記第2キレート剤(D)の和100重量%に対して、テレフタル酸成分が30重量%〜70重量%で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に係る熱可塑性樹脂組成物から製造された成形品。
【請求項12】
前記成形品は、ASTM D638の評価方法によって測定された初期引張強度aが1,500kg/cm以上で、前記初期引張強度aに対して、220℃で500時間経過した後の引張強度aが下記の式1で表現される、請求項11に記載の成形品。
【数1】
【請求項13】
前記成形品は、アンダーフード内部部品のうち少なくとも一つであることを特徴とする、請求項11に記載の成形品。
【請求項14】
前記成形品は、バッテリーヒューズ、ターボ共振器又はインタークーラータンクであることを特徴とする、請求項11に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びこれから製造された成形品に関する。より具体的に、本発明は、長期耐熱安定性に優れたポリアミド系熱可塑性樹脂組成物及びこれから製造された成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、耐熱性、耐磨耗性、耐薬品性、難燃性などに優れ、電気部品、電子部品、自動車部品などの幅広い分野に用いられている。
【0003】
特に、自動車分野における軽量化の趨勢に伴い、各金属部品のプラスチック化が進行中にある。特に、自動車のアンダーフード領域であるエンジンルーム周辺部品は高温環境に長期間露出するので、一般に耐熱性に優れるポリアミド樹脂組成物が使用される。
【0004】
近年、自動車業界では、高燃費によるエンジンのダウンサイジング化が進行中にあり、これと共に、ターボチャージャー(turbo charger)が採用された車種が増加している。高出力のターボチャージャーが採用された自動車の場合、アンダーフード内部の温度が既存に比べて大幅に上昇するので、長時間の高温環境に耐えるためにアンダーフード内部の各部品により高い水準の耐熱性を有する素材を適用するための必要性が台頭してきている。
【0005】
一般に、ポリアミド樹脂組成物の長期耐熱安定性を確保するためにフェノール系又はホスファイト系などの有機酸化防止剤を広く使用しているが、高温で長期的に優れた物性を維持する特性を満足する水準に向上させるのには限界がある。
【0006】
また、有機酸化防止剤に比べて高い温度での長期耐熱安定性に優れることで知られているCuI/KI混合物などの銅ハライド系熱安定剤が使用されることもあるが、銅は時間の経過と共に変色又は析出され得るので、電気、電子及び自動車部品への使用時に問題が発生し得る。
【0007】
したがって、自動車のアンダーフード内のエンジンルーム周辺部品などに使用できるように、高温に長期間露出した場合にも高い耐熱安定性を維持できるポリアミド樹脂組成物に対する研究が必要である。
【0008】
本発明の背景技術は、大韓民国登録特許第10−0113797号などに開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高温で長期間にわたって機械的強度を維持できる長期耐熱安定性及び加工性に優れた熱可塑性樹脂組成物及びこれから製造された成形品を提供することにある。
【0010】
本発明の前記目的及びその他の目的は、下記で説明する本発明によって全て達成され得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一つの観点は、熱可塑性樹脂組成物に関する。前記熱可塑性樹脂組成物は、(A)芳香族ポリアミド樹脂;(B)脂肪族ポリアミド樹脂;(C)カルボン酸及びその塩のうち少なくとも一つ、及びアミノ基を含む第1キレート剤;(D)芳香族ジカルボン酸を含む第2キレート剤;及び(E)充填剤;を含む。
【0012】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、前記芳香族ポリアミド樹脂(A)約30重量%〜約70重量%;前記脂肪族ポリアミド樹脂(B)約1重量%〜約20重量%;前記第1キレート剤(C)約0.1重量%〜約1重量%;前記第2キレート剤(D)約0.1重量%〜約5重量%;及び前記充填剤(E)約10重量%〜約60重量%;を含んでもよい。
【0013】
具体例において、前記芳香族ポリアミド樹脂(A)及び前記脂肪族ポリアミド樹脂(B)は、約1:約0.05〜約1:約0.5の重量比で含まれてもよい。
【0014】
具体例において、前記充填剤(E)はガラス繊維であってもよい。
【0015】
具体例において、前記芳香族ポリアミド樹脂(A)は、芳香族ジカルボン酸単位を約10モル%〜約100モル%含むジカルボン酸単位;及び脂肪族ジアミン単位及び脂環族ジアミン単位のうち少なくとも一つを含むジアミン単位;を含んでもよい。
【0016】
具体例において、前記芳香族ポリアミド樹脂(A)は、ヘキサメチレンテレフタルアミド及びヘキサメチレンアジポアミドからなるポリアミド(PA6T/66)、及びヘキサメチレンテレフタルアミド及び2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドからなるポリアミド(PA6T/DT)のうち少なくとも一つを含んでもよい。
【0017】
具体例において、前記脂肪族ポリアミド(B)は、ポリアミド6及びポリアミド66のうち少なくとも一つを含んでもよい。
【0018】
具体例において、前記第1キレート剤(C)は、EDTA(ethylenediamine−N,N,N’,N’−tetraacetic acid)、EGTA(ethylene glycol bis(2−aminoethylether)−N,N,N’,N’−tetraacetic acid)、CyDTA(trans−1,2−diaminocyclohexane−N,N,N’,N’−tetraacetic acid)、DTPA(diethylenetriamine pentaacetic acid)、TETHA(triethylenetetraamine−N,N,N’,N”,N’’’,N’’’−hexaacetic acid)、HEDTA(N−(2−hydroxyethyl)ethylenediaminetriacetic acid)及びこれらの金属塩のうち少なくとも一つを含んでもよい。
【0019】
具体例において、前記第1キレート剤(C)は、ナトリウム(Na)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アンチモン(Sb)、マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、クロム(Cr)及びジルコニウム(Zr)イオンのうち少なくとも一つ以上の金属イオンを含む金属塩であってもよい。
【0020】
具体例において、前記第2キレート剤(D)において、前記芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸及びイソフタル酸のうち少なくとも一つを含んでもよい。
【0021】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、前記芳香族ポリアミド樹脂(A)、前記脂肪族ポリアミド樹脂(B)、前記第1キレート剤(C)及び前記第2キレート剤(D)の和100重量%に対して、テレフタル酸成分が約30重量%〜約70重量%で含まれてもよい。
【0022】
本発明の他の観点は、前記熱可塑性樹脂組成物から製造された成形品に関する。
【0023】
具体例において、前記成形品は、ASTM D638の評価方法によって測定された初期引張強度aが約1,500kg/cm以上で、前記初期引張強度aに対して、約220℃で約500時間経過後の引張強度aは下記の式1で表現され得る。
【0024】
【数1】
【0025】
具体例において、前記成形品は、アンダーフード内部部品のうち少なくとも一つであってもよい。
【0026】
具体例において、前記成形品は、バッテリーヒューズ、ターボ共振器(turbo resonator)又はインタークーラータンクであってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、高温条件でも長時間にわたって安定的に初期物性を維持することができる。
【0028】
また、前記熱可塑性樹脂組成物は、加工時にガス発生量が少ないので、加工が容易になり、連続作業が可能である。
【0029】
本発明の効果は、以上で言及した効果に制限されなく、言及していない他の効果は、特許請求の範囲の記載から当業者に明確に理解され得るだろう。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0031】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、(A)芳香族ポリアミド樹脂;及び(B)脂肪族ポリアミド樹脂;を含むポリアミド樹脂、(C)カルボン酸及びその塩のうち少なくとも一つ、及びアミノ基を含む第1キレート剤;及び(D)芳香族ジカルボン酸を含む第2キレート剤;を含むキレート剤、及び(E)充填剤を含む。
【0032】
他の定義がない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術及び科学的用語を含む)は、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者に共通的に理解され得る意味で使用可能であろう。また、一般的に使用される辞典に定義されている用語は、特別に明白に定義されていない限り、理想的に又は過度に解釈されてはならない。
【0033】
本明細書において、キレート剤をそれぞれ「第1」及び「第2」と命名して区別した理由は、キレート剤の種類を区分するために過ぎなく、これらの用語が権利範囲の解釈に影響を与えることはない。
【0034】
<ポリアミド樹脂>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド樹脂として(A)芳香族ポリアミド樹脂及び(B)脂肪族ポリアミド樹脂を共に含むことによって、長期耐熱安定性のみならず、加工性も向上させることができる。
【0035】
(A)芳香族ポリアミド樹脂
本発明の一具体例に係る芳香族ポリアミド樹脂(A)は、芳香族基を含む単量体から形成される単一共重合体、共重合体、三元共重合体又はそれ以上の重合体であってもよく、ここで、共重合体という用語は、二つ以上のアミド及び/又はジアミド分子反復単位を有するポリアミドを意味する。
【0036】
前記芳香族ポリアミド樹脂は、主鎖に芳香族化合物を含む構造であって、芳香族ジカルボン酸10モル%〜100モル%を含むジカルボン酸モノマーと、脂肪族ジアミン及び/又は脂環族ジアミンを含むジアミンモノマーとの縮重合によって製造され得る。例えば、前記脂肪族及び/又は脂環族ジアミンは、炭素数が4〜20である脂肪族及び/又は脂環族ジアミンであってもよく、前記芳香族ジカルボン酸は、分子内に芳香族ベンゼン環が含有されているテレフタル酸、イソフタル酸、及びこれらの組み合わせなどであってもよい。
言い換えると、前記芳香族ポリアミド樹脂は、反復単位として、芳香族ジカルボン酸単位を約10モル%〜約100モル%含むジカルボン酸単位;及び脂肪族ジアミン単位及び脂環族ジアミン単位のうち少なくとも一つを含むジアミン単位;を含んでもよい。
【0037】
具体例において、前記芳香族ジカルボン酸単位は、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシ二酢酸、1,3−フェニレンジオキシ二酢酸、ジフェン酸、4,4’−オキシ二安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、及びこれらの組み合わせなどから由来し得る。
【0038】
具体例において、前記ジカルボン酸単位は、前記芳香族ジカルボン酸単位の他に、非芳香族ジカルボン酸から由来した単位をさらに含んでもよい。前記非芳香族ジカルボン酸は、脂肪族及び/又は脂環族ジカルボン酸であってもよい。例えば、前記非芳香族ジカルボン酸単位は、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、2,2−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸;及びこれらの組み合わせなどから誘導される単位などであってもよい。
【0039】
具体例において、前記非芳香族ジカルボン酸単位の含量は、全体のジカルボン酸単位100モル%のうち、約90モル%以下、例えば、約80モル%以下、具体的に約70モル%以下、さらに具体的に約60モル%以下であってもよい。
【0040】
具体例において、前記ジアミン単位は、脂肪族及び/又は脂環族ジアミンから由来し得る。前記脂肪族及び/又は脂環族ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、2−メチルオクタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、及びこれらの組み合わせなどを例示することができる。
【0041】
具体例において、前記芳香族ポリアミド樹脂は、ヘキサメチレンテレフタルアミド及びヘキサメチレンアジポアミドからなるポリアミド(PA6T/66)、ヘキサメチレンテレフタルアミド及び2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドからなるポリアミド(PA6T/DT)、又はこれらの組み合わせなどを含んでもよく、例えば、PA6T/66を含んでもよい。
【0042】
具体例において、前記芳香族ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は、約80℃〜約150℃、例えば、約85℃〜約120℃であってもよい。前記範囲で、芳香族ポリアミド樹脂が高耐熱特性を具現することができる。
【0043】
具体例において、前記芳香族ポリアミド樹脂の分子量は特に制限されなく、25℃の硫酸溶液でウベローデ(Ubbelohde)粘度計で測定した固有粘度(intrinsic viscosity:IV)が約0.75dL/g以上、例えば、約0.75dL/g〜1.15dL/gであってもよい。
【0044】
具体例において、前記芳香族ポリアミド樹脂は、熱可塑性樹脂組成物((A)+(B)+(C)+(D)+(E))全体の100重量%のうち、約30重量%〜約70重量%、例えば、約40重量%〜約60重量%で含まれてもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の長期耐熱安定性、耐熱性、機械的強度などが優秀になり得る。
【0045】
(B)脂肪族ポリアミド樹脂
本発明の一具体例に係る脂肪族ポリアミド樹脂(B)は、分子鎖内に芳香族環を含有しないポリアミドであって、炭素数10〜20の脂肪族基を含有してもよい。
【0046】
具体例において、前記脂肪族ポリアミド樹脂は、アミノカルボン酸、ラクタム又はジアミン、及びジカルボン酸から形成される単一重合体、共重合体、三元共重合体又はそれ以上の重合体であってもよく、ここで、共重合体は、二つ以上のアミド及び/又はジアミド分子反復単位を有するポリアミドを意味する。
【0047】
具体例において、前記アミノカルボン酸は、炭素数6〜12のアミノカルボン酸であってもよく、例えば、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、及びこれらの組み合わせなどを含んでもよい。
【0048】
具体例において、前記ラクタムは、炭素数4〜12のラクタムであってもよく、例えば、α−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、ε−エナントラクタム、及びこれらの組み合わせなどを含んでもよい。
【0049】
具体例において、前記ジアミンは、脂肪族又は脂環族ジアミンであってもよく、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、2−メチルオクタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、及びこれらの組み合わせなどを含んでもよい。
【0050】
具体例において、前記ジカルボン酸は、脂肪族及び/又は脂環族ジカルボン酸であってもよく、例えば、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、グルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、2,2−ジエチルコハク酸、及びこれらの組み合わせなどを含んでもよい。
【0051】
具体例において、前記脂肪族ポリアミド樹脂は、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド910、ポリアミド912、ポリアミド913、ポリアミド914、ポリアミド915、ポリアミド616、ポリアミド936、ポリアミド1010、ポリアミド1012、ポリアミド1013、ポリアミド1014、ポリアミド1210、ポリアミド1212、ポリアミド1213、ポリアミド1214、ポリアミド614、ポリアミド613、ポリアミド615、ポリアミド616、ポリアミド613などであってもよく、場合に応じて、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。例えば、前記脂肪族ポリアミド樹脂は、ポリアミド6又はポリアミド66であってもよく、場合に応じて、ポリアミド6及びポリアミド66を混合して使用してもよい。
【0052】
具体例において、前記脂肪族ポリアミド樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が約30℃〜約80℃、例えば、約35℃〜約50℃であってもよく、溶融点が約160℃〜約210℃であってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度及び加工性などが優秀になり得る。
【0053】
具体例において、前記脂肪族ポリアミド樹脂の数平均分子量(Mn)は、特に制限されないが、約10,000g/mol〜約200,000g/mol、例えば、約20,000g/mol〜約150,000g/molであってもよい。
【0054】
具体例において、前記脂肪族ポリアミド樹脂は、熱可塑性樹脂組成物((A)+(B)+(C)+(D)+(E))全体の100重量%のうち、約1重量%〜約20重量%、例えば、約3重量%〜約15重量%で含まれてもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐熱性、機械的強度、加工性などが優秀になり得る。
【0055】
本発明の一具体例に係る熱可塑性樹脂組成物は、前記芳香族ポリアミド樹脂及び前記脂肪族ポリアミド樹脂を約1:約0.05〜約1:約0.5、例えば、約1:約0.08〜約1:約0.2の重量比(芳香族ポリアミド樹脂:脂肪族ポリアミド樹脂)で含んでもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の長期耐熱安定性がさらに優秀になり、加工時にガス発生量が低減し、押出工程などの加工を容易に行うことができる。
【0056】
<キレート剤>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、二つの種類のキレート剤(第1キレート剤及び第2キレート剤)を使用し、高温での老化(aging)時、表面酸化によって表面へのチャー(char)の形成を促進させることによって、熱可塑性樹脂内部への酸化層浸透を防止し、熱可塑性樹脂の分解を防止することができ、これによって、長期的な耐熱安定性向上の効果を得ることができる。
【0057】
(C)第1キレート剤
本発明の一具体例に係る第1キレート剤(C)は、カルボン酸及びその塩のうち少なくとも一つ、及びアミノ基を含んでもよい。前記第1キレート剤は、分子構造中に金属イオンとの結合を形成できる官能基を有する化合物であって、陽イオンと陰イオンとに解離された金属塩の陽イオンと結合し、安定化したキレート錯化合物を形成することができる。
【0058】
具体例において、前記第1キレート剤は、多価カルボキシル基を有する化合物を単独で又は2種以上混合して使用してもよい。例えば、前記第1キレート剤は、ポリカルボン酸又はカルボキシレート基を有する化合物であって、下記の化学式1a、1b又は1cで表現される官能基を含む化合物などであってもよい。
【0059】
【化1】
【0060】
【化2】
【0061】
【化3】
【0062】
前記化学式1a〜1cで表現される官能基を含む化合物の具体的な例としては、EDTA(ethylenediamine−N,N,N’,N’−tetraacetic acid)、EGTA(ethylene glycol bis(2−aminoethylether)− N,N,N’,N’−tetraacetic acid)、CyDTA(trans−1,2−diaminocyclohexane−N,N,N’,N’−tetraacetic acid)、DTPA(diethylene triamine pentaacetic acid)、TETHA(triethylenetetraamine− N,N,N’,N”,N’”,N’”−hexaacetic acid)、HEDTA(N−(2−hydroxyethyl)ethylenediamine triacetic acid)、及びこれらの金属塩などを例示することができ、これらを単独で又は2種以上混合して使用してもよい。
【0063】
具体例において、前記第1キレート剤で結合を形成する金属イオンは、ナトリウム(Na)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アンチモン(Sb)、マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、及びジルコニウム(Zr)イオンのうち少なくとも一つであってもよい。本発明の第1キレート剤で使用する金属イオンは、前記イオンに限定されなく、同一の作用効果を示す金属イオンであれば全て使用可能であることは当然である。例えば、前記第1キレート剤としては、EDTA−2Na(ethylenediamine tetraacetic acid−disodium salt)を使用してもよい。
【0064】
具体例において、前記第1キレート剤は、熱可塑性樹脂組成物((A)+(B)+(C)+(D)+(E))全体の100重量%のうち、約0.1重量%〜約1重量%、例えば、約0.3重量%〜約0.9重量%で含まれてもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の長期耐熱安定性などが優秀になり、加工時にガス発生量が少ないので、加工性などが優秀になり得る。
【0065】
(D)第2キレート剤
本発明の一具体例に係る第2キレート剤は、芳香族ジカルボン酸を含むものであって、芳香族ジカルボン酸が別途の物質として熱可塑性樹脂組成物に添加される場合、熱可塑性樹脂組成物の長期耐熱安定性向上効果を著しく増加させることができる。例えば、前記第2キレート剤は、第1キレート剤と共に使用され、ガラス繊維などの充填剤のサイジング物質と反応することによって、熱可塑性樹脂組成物の長期耐熱安定性向上効果をより高めることができる。
【0066】
具体例において、前記芳香族ジカルボン酸は、フタル酸、無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、及びこれらの組み合わせなどを含んでもよく、テレフタル酸、イソフタル酸又はこれらの組み合わせなどを含むことが好ましい。
【0067】
具体例において、前記第2キレート剤は、熱可塑性樹脂組成物((A)+(B)+(C)+(D)+(E))全体の100重量%のうち、約0.1重量%〜約5重量%、例えば、約0.3重量%〜約1.2重量%で含まれてもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の長期耐熱安定性などが優秀になり得る。
【0068】
(E)充填剤
本発明の一具体例に係る充填剤(E)は、熱可塑性樹脂組成物の機械的強度を向上できるものであって、その添加量を調節することによって所望の水準の機械的強度を確保することができる。前記充填剤としてはガラス繊維などを使用してもよい。
【0069】
前記ガラス繊維としては、当業界で使用される通常のものを使用してもよく、例えば、直径が約8μm〜約20μmで、長さが約1.5mm〜約8mmであるものを使用してもよい。ガラス繊維の直径が前記範囲である場合、優れた強度補強の効果を得ることができ、ガラス繊維の長さが前記範囲である場合、押出機などの加工機器への投入が容易になり、強度補強効果も大きく改善され得る。
【0070】
具体例において、前記ガラス繊維は、炭素繊維、玄武岩繊維、バイオマス(biomass)から製造された繊維、及びこれらの組み合わせなどと共に混合して使用してもよい。前記バイオマスとは、植物や微生物などをエネルギー源として用いる生物体を意味する。
【0071】
具体例において、前記ガラス繊維は、断面が円形、楕円形、矩形又は二つの円形が連結された亜鈴形であってもよい。
【0072】
具体例において、前記ガラス繊維は、断面のアスペクト比が約1.5未満であってもよく、例えば、断面のアスペクト比が1である円形断面ガラス繊維であってもよい。ここで、前記アスペクト比は、ガラス繊維の断面で最も小さい直径に対する最も長い直径の比率と定義される。前記断面のアスペクト比の範囲を有するガラス繊維を用いる場合、価格的な側面で製品の単価を低下させることができ、寸法安定性及び外観を良好にすることができる。
【0073】
具体例において、前記ガラス繊維は、樹脂との反応を防止し、含浸度を向上させるために、所定のサイジングと呼ばれる物質で表面処理したものであってもよい。前記ガラス繊維の表面処理は、ガラス繊維の製造時又は後工程で行われてもよい。
【0074】
また、前記充填剤は、前記第2キレート剤と共に使用され、長期耐熱安定性向上効果をより増加させることができる。
【0075】
一例として、前記充填剤としてガラス繊維が使用される場合、ガラス繊維の製造時に、髪の毛のような各フィラメントは、サイジング物質によって表面がコーティングされる表面処理工程を経るようになり、これは、ガラス繊維が経る全ての工程の接触面で発生する摩擦からフィラメントを保護したり、ガラス繊維と樹脂との結合が容易になるように補助する機能を付与するためである。
【0076】
前記第1キレート剤及び前記第2キレート剤は、このようなガラス繊維のサイジング物質と反応することによって、長期耐熱安定性を向上させることができる。
【0077】
より具体的に、前記ガラス繊維は、シリケートネットワーク構造によってその強度が決定され得るが、ガラス繊維のアルカリオキサイドは、シリケートネットワーク構造に容易に統合されないので、強度を低下させる原因となる。しかし、本発明のように、前記第1キレート剤と第2キレート剤を同時に使用すると、ガラス繊維のサイジング物質と結合してアルカリオキサイドの作用を抑制することによって、長時間高温に露出した場合にも強度を維持することができる。
【0078】
具体例において、前記充填剤は、熱可塑性樹脂組成物((A)+(B)+(C)+(D)+(E))全体の100重量%のうち、約10重量%〜約60重量%、例えば、約20重量%〜約50重量%で含まれてもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の機械的強度、長期耐熱安定性などが優秀になり得る。
【0079】
本発明の一具体例に係る熱可塑性樹脂組成物は、それぞれの用途に応じて添加剤をさらに含んでもよい。
【0080】
具体例において、前記添加剤としては、難燃剤、滑剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、着色剤、抗菌剤、離型剤、帯電防止剤などを例示することができる。前記添加剤は、最終成形品の特性に応じて、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0081】
前記難燃剤は、燃焼性を減少させる物質であって、ホスフェート化合物、ホスファイト化合物、ホスホネート化合物、ポリシロキサン、ホスファゼン化合物、ホスフィネート化合物及びメラミン化合物のうち少なくとも一つを含んでもよいが、これに限定されることはない。
【0082】
前記滑剤は、加工・成形・押出中に熱可塑性樹脂組成物と接触する金属表面を潤滑させ、樹脂組成物の流れ又は移動を促進する物質であって、通常的に用いられる物質であってもよい。
【0083】
前記可塑剤は、熱可塑性樹脂組成物の柔軟性、加工作業性又は膨張性を増加させる物質であって、通常的に用いられる物質であってもよい。
【0084】
前記熱安定剤は、高温で混練又は成形する場合、熱可塑性樹脂組成物の熱的分解を抑制する物質であって、通常的に用いられる物質であってもよい。
【0085】
前記酸化防止剤は、熱可塑性樹脂組成物と酸素との化学的反応を抑制又は遮断させることによって、樹脂組成物が分解され、その固有物性が喪失することを防止する物質であって、フェノール型、ホスファイト型、チオエーテル型及びアミン型酸化防止剤のうち少なくとも一つを含んでもよいが、これに限定されることはない。
【0086】
前記光安定剤は、紫外線から熱可塑性樹脂組成物が分解され、色が変わったり機械的性質が喪失することを抑制又は遮断させる物質であって、酸化チタンであることが好ましい。
【0087】
前記着色剤は、通常の顔料又は染料であってもよい。
【0088】
具体例において、前記添加剤は、前記熱可塑性樹脂組成物((A)+(B)+(C)+(D)+(E))約100重量部に対して、約1重量部〜約15重量部で含まれてもよい。
【0089】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、二つの種類のキレート剤及び二つの種類のポリアミドを混合して使用することによって、長期耐熱安定性、加工性などに優れ、使用されたポリアミド樹脂の耐磨耗性、耐薬品性、難燃性、機械的強度などのその他の物性を低下させない。
【0090】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、前記芳香族ポリアミド樹脂(A)、前記脂肪族ポリアミド樹脂(B)、前記第1キレート剤(C)及び前記第2キレート剤(D)の和(((A)+(B)+(C)+(D))100重量%に対して、テレフタル酸成分が約30重量%〜約70重量%、例えば、約40重量%〜約65重量%、具体的に約50重量%〜約60重量%であってもよい。ここで、テレフタル酸成分は、前記芳香族ポリアミド樹脂(A)及び前記第2キレート剤(D)に含まれるテレフタル酸を意味する。前記テレフタル酸の含量が前記範囲を逸脱する場合、熱可塑性樹脂組成物の耐熱強度維持率が低下し、長時間高温に露出した場合、物性が著しく低下するおそれがある。
【0091】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、公知の方法によって製造され得る。例えば、前記熱可塑性樹脂組成物は、本発明の構成成分と、必要に応じてその他の添加剤とを混合した後、これらを押出機内で溶融・押出する方法によってペレットの形態で製造され得る。
【0092】
本発明に係る成形品は、上述した熱可塑性樹脂組成物から公知の成形方法によって製造されるものであって、長期耐熱安定性、加工性などに優れる。
【0093】
具体例において、前記成形品は、ASTM D638の評価方法によって測定された初期引張強度aが約1,500kg/cm以上で、前記初期引張強度aに対して、約220℃で約500時間経過した後の引張強度aが下記の式1で表現され得る。
【0094】
【数2】
【0095】
また、前記成形品は、試片約5gをペトリ皿に計量してディッシュキャップで閉めた後、約330℃の温度で約2時間にわたってホットプレート上に載せ、ディッシュキャップに吸着する揮発物質の量を測定したとき、下記の式2を満足することができる。
【0096】
【数3】
【0097】
前記式2において、Cは評価後のディッシュキャップの重さで、Cは評価前のディッシュキャップの重さで、Sは評価に使用された成形品の重さ(約5g)である。
【0098】
前記成形品は、長期耐熱安定性などが要求される分野に有用であり、例えば、自動車のアンダーフード内部部品のうち少なくとも一つとして使用されてもよい。また、前記成形品は、自動車のバッテリーヒューズ、ターボ共振器又はインタークーラータンクなどであってもよい。
【実施例】
【0099】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明するが、これらの実施例は、説明のためのものに過ぎなく、本発明を制限するものと解釈してはならない。
【0100】
下記の実施例及び比較例の熱可塑性樹脂組成物に使用された構成成分は、下記の通りである。
【0101】
(a)芳香族ポリアミド樹脂
ソルベイ株式会社(Solvay Advanced Polymers L.L.C.)のPA6T/66製品であるA6000を使用した。
【0102】
(b)脂肪族ポリアミド樹脂
Zig Sheng Industrial Co.,Ltd.のポリアミド6製品であるTP 4208を使用した。
【0103】
(c)第1キレート剤
ダウケミカル株式会社(Dow chemical Company)のEDTA−2Naを使用した。
【0104】
(d)第2キレート剤
(d−1)サムスン石油化学株式会社のテレフタル酸を使用した。
【0105】
(d−2)KPケミカル株式会社のイソフタル酸を使用した。
【0106】
(e)充填剤
オーウェンスコーニング株式会社(Owens corning Corporation)の直径が4μmで、チョップの長さが10mmで、円形断面ガラス繊維製品である983を使用した。
【0107】
(f)熱安定剤
ブリュッゲマン株式会社(Brueggemann Chemical)のCuI/KI混合物製品であるTP−H9008を使用した。
【0108】
実施例1〜4及び比較例1〜3
下記の表1に記載した成分を混合器に投入して乾式混合した。その次に、これを、L/Dが45で、Φが44mmである二軸押出機に投入し、押出機を通じてペレット形態の熱可塑性樹脂組成物を製造した。製造されたペレットを330℃に設定された10oz射出成形機を用いて射出成形し、物性評価のための試片を製造した。
【0109】
表1に記載した各成分の含量は、重量%を基準にして記載した。
【0110】
【表1】
【0111】
前記実施例1〜4及び比較例1〜3の熱可塑性樹脂組成物に対して耐熱強度維持率及びガス発生量を評価した。評価項目の評価方法は下記の通りであり、各項目の評価結果は表2に記載した。
【0112】
<物性評価方法>
(1)耐熱強度維持率の評価:実施例1〜4及び比較例1〜3の熱可塑性樹脂組成物を用いて製造された各試片のうち一部を温度23℃、相対湿度50%で48時間放置した後、ASTM D638によって初期引張強度a(単位:kg/cm)を測定した。このとき、引張強度測定速度は5mm/minであった。その後、各試片のうち残りを220℃で500時間放置した後の引張強度a(単位:kg/cm)を測定した。下記の式3を用いて計算された耐熱強度維持率(単位:%)を評価した。
【0113】
【数4】
【0114】
(2)ガス発生量の評価:実施例1〜4及び比較例1〜3の熱可塑性樹脂組成物を用いて製造されたペレットをペトリ皿に5g計量してディッシュキャップで閉めた後、330℃の温度で2時間にわたってホットプレート上に載せ、ディッシュキャップに吸着する揮発物質の量を測定した。ガス発生量(単位:ppm)は下記の式4を用いて計算した。
【0115】
【数5】
【0116】
前記式4において、Cは評価後のディッシュキャップの重さで、Cは評価前のディッシュキャップの重さで、Sは評価に使用されたペレット試料の重さである。
【0117】
【表2】
【0118】
前記表1及び表2から、実施例1〜4の熱可塑性樹脂組成物は、220℃で500時間放置した後の引張強度が1,500kg/cm以上であって、商業的に適用するのに問題がなく、長期耐熱性に優れ、ガス発生量が少ないので、加工性に優れることが分かる。
【0119】
その一方、従来に使用されていた熱安定剤である銅ハライド系化合物を使用する比較例1及び比較例2の場合、長期耐熱性が実施例による熱可塑性樹脂組成物の長期耐熱性に比べて著しく低下し、ガス発生量が多いので、加工性も低下することが分かる。また、ポリアミドとして芳香族ポリアミド樹脂のみを使用するとき、引張強度維持率が各実施例に比べて減少し、二つの種類のポリアミドを一定の含量で使用するとき、長時間高温に露出した場合にも引張強度を高く維持できることが分かる。
【0120】
そして、芳香族ジカルボン酸を含むキレート剤を使用しない比較例3の場合、220℃で500時間放置した後の引張強度及び長期耐熱性が実施例の熱可塑性樹脂組成物に比べて著しく低下することが分かる。
【0121】
本発明の権利範囲は、上述した実施例に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲内で多様な形態の実施例に具現可能である。特許請求の範囲で請求する本発明の要旨を逸脱することなく、当該発明の属する技術分野で通常の知識を有する者であれば誰でも変形可能な多様な範囲まで本発明の特許請求の範囲に記載の範囲内にあるものと見なす。