(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、以下の実施形態に記載した内容により発明が限定されるものではない。当業者が容易に想到し得る変形は、当然に開示の範囲に含まれる。説明をより明確にするため、図面において、各部分のサイズ、形状等を実際の実施態様に対して変更して模式的に表す場合もある。複数の図面において、対応する要素には同じ参照数字を付して、詳細な説明を省略する場合もある。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係るエレベータの利用者検知システムの構成を示す図である。なお、ここでは、1台の乗りかごを例にして説明するが、複数台の乗りかごでも同様の構成である。
【0011】
乗りかご11の出入口上部にカメラ12が設置されている。具体的には、カメラ12は、乗りかご11の出入口上部を覆う幕板11aの中にレンズ部分を直下方向に向けて設置される。カメラ12は、例えば魚眼レンズ等の超広角レンズを有し、180度以上の視野角で乗りかご11内を含む撮影対象を広範囲に撮影する。カメラ12は、1秒間に数コマ(例えば30コマ/秒)の画像を連続的に撮影可能である。
【0012】
なお、カメラ12の設置場所は、かごドア13付近であれば、乗りかご11の出入口上部でなくても良い。例えば、乗りかご11の出入口に近い天井面など、乗りかご11内の床面全域を含むかご室内全体と戸開時に出入口付近の乗場15を撮影可能な場所であれば良い。
【0013】
各階の乗場15において、乗りかご11の到着口には乗場ドア14が開閉自在に設置されている。乗場ドア14は、乗りかご11の到着時にかごドア13に係合して開閉動作する。なお、動力源(ドアモータ)は乗りかご11側にあり、乗場ドア14はかごドア13に追従して開閉するだけである。以下の説明においては、かごドア13を戸開している時には乗場ドア14も戸開しており、かごドア13が戸閉している時には乗場ドア14も戸閉しているものとする。
【0014】
カメラ12によって連続的に撮影された各画像(映像)は、画像処理装置20によってリアルタイムに解析処理される。なお、
図1では、便宜的に画像処理装置20を乗りかご11から取り出して示しているが、実際には、画像処理装置20はカメラ12と共に幕板11aの中に収納されている。
【0015】
画像処理装置20には、記憶部21と検知部22とが備えられている。記憶部21は、カメラ12によって撮影された画像を逐次保存すると共に、検知部22の処理に必要なデータを一時的に保存しておくためのバッファエリアを有する。なお、記憶部21には、撮影画像に対する前処理として、歪み補正や拡大縮小、一部切り取り等の処理が施された画像が保存されるとしても良い。
【0016】
検知部22は、カメラ12の撮影画像を用いて乗りかご11内や乗場15にいる利用者を検知する。この検知部22を機能的に分けると、検知エリア設定部22a、検知処理部22b、感度変更部22cで構成される。
【0017】
検知エリア設定部22aは、カメラ12の撮影画像上で、利用者(エレベータを利用する人)または物を検知するための少なくとも2つ以上の検知エリアを設定する。ここで言う「物」とは、例えば利用者の衣服や荷物、さらに車椅子等の移動体を含む。さらに、例えばかご内の操作ボタンやランプ、表示機器等、エレベータ設備に関係する機器類も含まれる。なお、検知エリアの設定方法については、後に
図3および
図4を参照して詳しく説明する。
【0018】
検知処理部22bは、この検知エリア設定部22aによって設定された検知エリア毎に乗りかご11の運転動作に関連した検知処理を実行する。「乗りかご11の運転動作に関連した検知処理」とは、乗りかご11の戸開閉などの運転状態に応じて、利用者や物を検知する処理のことであり、乗りかご11の戸開動作中あるいは戸閉動作中、昇降動作中、運転停止中のいずれか少なくとも1つ以上の運転状態が含まれる。
【0019】
感度変更部22cは、カメラ12のレンズ特性を考慮して、少なくとも画像の中心部分と周辺部とで検知感度を変更する。「検知感度」とは、画像上で利用者または物を検知するときの感度のことであり、具体的には画像の輝度変化(各画像の輝度値を所定単位で比較したときの差)に対する閾値である。詳しくは、後に
図8を参照して説明する。
【0020】
なお、画像処理装置20の一部あるいは全部の機能をエレベータ制御装置30に持たせることでも良い。
【0021】
エレベータ制御装置30は、乗りかご11に設置される各種機器類(行先階ボタンや照明等)の動作を制御する。また、エレベータ制御装置30は、運転制御部31と戸開閉制御部32と通知部33とを備える。運転制御部31は、乗りかご11の運転制御を行う。戸開閉制御部32は、乗りかご11が乗場15に到着したときのかごドア13の戸開閉を制御する。詳しくは、戸開閉制御部32は、乗りかご11が乗場15に到着したときにかごドア13を戸開し、所定時間経過後に戸閉する。
【0022】
ここで、例えばかごドア13の戸開動作中に検知処理部22bによって利用者または物が検知された場合には、戸開閉制御部32は、ドア事故(戸袋への引き込まれ事故)を回避するための戸開閉制御を行う。具体的には、戸開閉制御部32は、かごドア13の戸開動作を一時停止するか、逆方向(戸閉方向)に動かす、あるいは、かごドア13の戸開速度を遅くする。通知部33は、検知処理部22bによって検知結果に基づいて、乗りかご11内の利用者に注意を喚起する。
【0023】
図2は乗りかご11内の出入口周辺部分の構成を示す図である。
乗りかご11の出入口にかごドア13が開閉自在に設けられている。
図2の例では2枚戸両開きタイプのかごドア13が示されており、かごドア13を構成する2枚のドアパネル13a,13bが間口方向(水平方向)に沿って互いに逆方向に開閉動作する。なお、「間口」とは、乗りかご11の出入口と同じである。
【0024】
乗りかご11の出入口の両側に正面柱41a,41bが設けられており、幕板11aと共に乗りかご11の出入口を囲っている。「正面柱」は、出入口柱あるいは出入口枠とも言い、裏側にはかごドア13を収納するための戸袋が設けられているのが一般的である。
図2の例では、かごドア13が戸開したときに、一方のドアパネル13aが正面柱41aの裏側に設けられた戸袋42aに収納され、他方のドアパネル13bが正面柱41bの裏側に設けられた戸袋42bに収納される。
【0025】
正面柱41a,41bの一方あるいは両方に表示器43や、行先階ボタン44などが配設された操作盤45、スピーカ46が設置されている。
図2の例では、正面柱41aにスピーカ46、正面柱41bに表示器43、操作盤45が設置されている。
【0026】
ここで、乗りかご11の出入口上部の幕板11aの中央部に、魚眼レンズ等の超広角レンズを有するカメラ12が設置されている。
【0027】
図3はカメラ12の撮影画像の一例を示す図である。かごドア13(ドアパネル13a,13b)と乗場ドア14(ドアパネル14a,14b)が全開した状態で、乗りかご11の出入口上部から180度以上の視野角でかご室内全体と出入口付近の乗場15を撮影した場合を示している。上側は乗場15、下側は乗りかご11内である。
【0028】
乗場15において、乗りかご11の到着口の両側に三方枠17a,17bが設けられており、その三方枠17a,17bの間の床面16に所定の幅を有する帯状の乗場シル18が乗場ドア14の開閉方向に沿って配設されている。また、乗りかご11の床面19の出入口側に所定の幅を有する帯状のかごシル47がかごドア13の開閉方向に沿って配設されている。
【0029】
ここで、撮影画像に写されている乗りかご11内と乗場15に対して、利用者または物は物を検知するための検知エリアE1〜E5が設定される。
【0030】
・検知エリアE1は、乗りかご11内における利用者の乗車状態(利用者の乗車位置、乗車人数等)を検知するためのエリア(乗車検知エリア)であり、少なくとも床面19の全域に設定される。なお、この検知エリアE1に、かご室内を囲む正面柱41a,41b、側面48a,48b、背面49を含めることでも良い。
【0031】
具体的には、
図4に示すように、検知エリアE1は、床面19の横幅W1,縦幅W2に合わせて設定される。また、検知エリアE1は、正面柱41a,41b、側面48a,48b、背面49に対して、床面19から高さh1の位置まで設定される。高さh1は、任意である。
【0032】
・検知エリアE2−1,E2−2は、戸開動作中における利用者のドア挟まれを事前に検知するためのエリア(ドア挟まれ検知エリア)であり、正面柱41a,41bの内側側面41a−1,41b−1に設定される。
【0033】
具体的には、
図4に示すように、検知エリアE2−1,E2−2は、正面柱41a,41bの内側側面41a−1,41b−1の幅方向に所定の幅D1,D2を有して帯状に設定される。上記幅D1,D2は、例えば内側側面41a−1,41b−1の横幅(短手方向の幅)と同じか、あるいは、若干小さく設定される。上記幅D1,D2と同じ値でも、異なる値でも良い。また、検知エリアE2−1,E2−2は、床面19から高さh2の位置まで設定される。高さh2は、任意であり、h1と同じ値でも、異なる値でも良い。
【0034】
・検知エリアE3は、乗場15の状況(利用者の待ち位置、待ち人数等)を検知するためのエリア(乗場状況検知エリア)であり、乗りかご11の出入口周辺に設定される。
【0035】
具体的には、
図4に示すように、検知エリアE3は、乗りかご11の出入口から乗場15の方向に所定の距離L1を有して設定される。図中のW0は出入口の横幅である。なお、検知エリアE3の形状はW0と同等あるいはW0以上の横方向(X方向)のサイズを有する矩形であっても良いし、三方枠17a,17bの死角を除いた台形であっても良い。また、検知エリアE3の縦方向(Y方向)および横方向(X方向)のサイズは、固定であっても良いし、かごドア13の開閉動作に合わせて動的に変更されるものであっても良い。
【0036】
・検知エリアE4は、乗場15から乗りかご11に接近中の利用者または物を検知するためのエリア(接近検知エリア)であり、乗場15の乗りかご11の出入口近くに設定される。
【0037】
具体的には、
図4に示すように、検知エリアE4は、乗りかご11の出入口から乗場15の方向に所定の距離L2を有して設定される(L1>L2)。検知エリアE3の形状はW0と同等あるいはW0以上の横方向(X方向)のサイズを有する矩形であっても良いし、三方枠17a,17bの死角を除いた台形であっても良い。検知エリアE4は、検知エリアE3に含まれ、かごドア13の開閉動作に合わせて、検知エリアE3と連動して動的に変更されるものであっても良い。
【0038】
・検知エリアE5は、かごドア13が中央両開きタイプの場合には、戸閉動作中におけるドア間挟まれを事前に検知するためのエリア、かごドア13が片開きタイプの場合には、戸閉動作中における戸当たりを事前に検知するためのエリアであり、乗場シル18とかごシル47に沿って設定される。
【0039】
具体的には、
図4に示すように、検知エリアE5は、かごシル47のかご側端部から乗場シル18の乗場側端部に向けてL3を有して設定される。検知エリアE5の横幅(X方向)のサイズはW0と同等である。
【0040】
なお、
図3では、撮影画像上で5つの検知エリアE1〜E5を設定した例を示したが、さらに細かく検知エリアを設定することでも良い。例えば、
図2に示した乗りかご11内の操作盤45に検知エリアを設定しておき、操作盤45上の各種ボタンの状態を検知する構成としても良い。
【0041】
検知エリア設定部22aは、乗りかご11の各構成部の設計値やカメラ12に固有のパラメータ値に基づいて撮影画像の3次元座標計算を行い、撮影画像上のどこに何が映っているのかを判定して、検知対象とする場所に検知エリアを設定する。
【0042】
3次元座標とは、
図5に示すように、かごドア13と水平の方向をX軸とし、かごドア13の中心から乗場15の方向(かごドア13に対して垂直の方向)をY軸とし、乗りかご11の高さ方向をZ軸とした場合の座標である。
【0043】
次に、本システムの動作について詳しく説明する。
図6は本システムにおける全体の処理の流れを示すフローチャートである。
【0044】
まず、初期設定として、画像処理装置20に備えられた検知部22の検知エリア設定部22aによって検知エリア設定処理が実行される(ステップS11)。この検知エリア設定処理は、例えばカメラ12を設置したとき、あるいは、カメラ12の設置位置を調整したときに、以下のようにして実行される。
【0045】
すなわち、検知エリア設定部22aは、カメラ12によって撮像された画像上で、
図3に示した複数の検知エリアE1〜E5を設定する。なお、カメラ12によって撮像された画像を歪み補正した後に、検知エリアE1〜E5を設定することでも良い。
【0046】
検知エリアE1は、「乗車状況検知エリア」として用いられ、少なくとも床面19の全域に設定され、かご室内を囲む正面柱41a,41b、側面48a,48b、背面49を含めて設定されることでも良い。
【0047】
検知エリアE2−1,E2−2は、「ドア挟まれ検知エリア」として用いられ、正面柱41a,41bの内側側面41a−1,41b−1に設定される。検知エリアE3は、「乗場状況検知エリア」として用いられ、乗りかご11の出入口から乗場15の方向に向けて設定される。検知エリアE4は、「接近検知エリア」として用いられ、乗りかご11の出入口近くに設定される。検知エリアE5は、「挟まれ検知エリア」または「戸当たり検知エリア」として用いられ、シル上に設定される。
【0048】
撮影画像上で床面19や正面柱41a,41b、さらに乗場15などが映る領域は、乗りかご11の各構成部の設計値や、カメラ12の固有値に基づいて算出される。
【0049】
・間口の幅(かごの出入口の横幅)
・ドアの高さ
・柱の幅
・ドアのタイプ(両開き/右側あるいは左側の片開き)
・床や壁の面積
・間口に対するカメラの相対位置(3次元)
・カメラの角度(3軸)
・カメラの画角(焦点距離)
検知エリア設定部22aは、これらの値に基づいて撮影画像上で検知対象が映る領域を算出する。例えば、正面柱41a,41bであれば、検知エリア設定部22aは、間口(出入口)の両端から垂直に正面柱41a,41bが立っていると仮定し、間口に対するカメラ12の相対位置・角度・画角を基に正面柱41a,41bの3次元座標を算出する。
【0050】
なお、例えば
図4に示すように、かごシル47のかご内側の両端にマーカm1,m2をそれぞれに置いておき、そのマーカm1,m2の位置を基準にして正面柱41a,41bの3次元座標を求めても良い。あるいは、かごシル47のかご内側の両端部の位置を画像処理によって求め、その位置を基準にして正面柱41a,41bの3次元座標を求めても良い。
【0051】
検知エリア設定部22aは、正面柱41a,41bの3次元座標を撮影画像上の2次元座標に投影して、撮影画像上における正面柱41a,41bが映る領域を求め、当該領域内で検知エリアE2−1,E2−2を設定する。詳しくは、検知エリア設定部22aは、正面柱41a,41bの内側側面41a−1,41b−1の長手方向に沿って所定の幅D1,D2を有する検知エリアE2−1,E2−2を設定する。
【0052】
検知エリアE2−1,E2−2の設定処理は、かごドア13を戸開した状態で実行しても良いし、かごドア13を戸閉した状態で実行しても良い。かごドア13を戸閉した状態の方がカメラ12の撮影画像に乗場15が映り込まない分、検知エリアE2−1,E2−2を設定しやすい。
【0053】
なお、通常、かごシル47の横幅(短手方向の幅)はかごドア13の厚みよりも広い。このため、かごドア13が全閉状態にあっても、かごシル47の一端側が撮影画像に映り込んでいる。したがって、その一端側の位置を基準に正面柱41a,41bの位置を特定して、検知エリアE2−1,E2−2を設定することができる。
【0054】
その他の検知エリアE1,E3,E4,E5についても同様であり、乗りかご11の各構成部の設計値や、カメラ12の固有値に基づいて撮影画像上で検知対象が映る各領域を求め、これらの領域内で検知エリアE1,E3,E4,E5を設定する。
【0055】
続いて、乗りかご11の運転時の動作について説明する。
図6に示すように、乗りかご11が任意の階の乗場15に到着すると(ステップS12のYes)、エレベータ制御装置30は、かごドア13を戸開する(ステップS13)。
【0056】
このとき(かごドア13の戸開動作中)、超広角レンズを有するカメラ12によって乗りかご11内と乗場15が所定のフレームレート(例えば30コマ/秒)で撮影される。画像処理装置20は、カメラ12で撮影された画像を時系列で取得し、これらの画像を記憶部21に逐次保存しながら(ステップS14)、後述する検知処理をリアルタイムで実行する。
【0057】
ここで、本実施形態では、撮影画像に対する前処理として、撮影画像が歪み補正されて、記憶部21に逐次保存される(ステップS15)。
【0058】
図7は画像の歪み補正と検知感度との関係を説明するための図である。図中の50が歪み補正前の画像、60が歪み補正後の画像を示している。
乗りかご11内に設置されたカメラ12には、魚眼レンズ等の超広角レンズが用いられている。このカメラ12で撮影された被写体の画像50は円形状に湾曲し、中心部分51より外側の周辺部分52の画像が歪んでいる。したがって、カメラ12によって得られた画像50を所定の方法によって歪み補正し、その補正後の画像60を利用者の検知処理に用いることが一般的である。なお、歪み補正の方法については一般的に知られている方法を用いるものとし、ここではその詳しい説明は省略する。
【0059】
歪み補正により、補正対象である元の画像50の周辺部分52の各画素が外側に引き延ばされて矩形状に整形される。この場合、引き延ばされた部分では、元の画素の情報と当該画素と隣接する画素の情報を用いて周辺が補間される。このため、例えばノイズや影などの誤検知要因が元の画像50に含まれていたときに、その誤検知要因となる部分の画素の輝度変化が補正後の画像60では広範囲に表れることになる。特に、画像60の周辺部分62の各画素は、元の画像50から引き延ばされている範囲が広いため、誤検知要因となる部分の画素の輝度変化が中心部分61に比べて面積的に大きく表れる。したがって、画像の輝度変化によって利用者の有無を検知する場合に、周辺部分62では誤検知する可能性が高くなる。
【0060】
このような誤検知を防ぐため、本実施形態では、歪み補正後の画像60が得られた際に、その画像の中心部分61と周辺部分62の2つの領域に分け、それぞれに検知感度を変えて検知処理を行うことが特徴である。
【0061】
検知部22に備えられた感度変更部22cは、補正後の画像60を取得すると、その画像の中心部分61とその中心部分61よりも外側の周辺部分62とで検知感度を変更する(ステップS16)。詳しくは、感度変更部22cは、画像60の中心部分61では検知感度を基準値より下げ、画像60の周辺部分62では検知感度を基準値より上げるように変更する。「検知感度を基準値より下げる」とは、画像の輝度変化に対する閾値を基準値よりも高くすることである。「検知感度を基準値より上げる」とは、画像の輝度変化に対する閾値を基準値よりも下げることである。輝度変化と閾値との関係を
図8に示す。
【0062】
図8は画像上の任意の部分における輝度変化の一例を示す図である。
通常は、基準値として閾値TH0が設定されている。つまり、カメラ12から時系列で得られる各画像の輝度値を所定の単位で比較したときの変化量(輝度差)が閾値TH0以上であれば、利用者または物が存在しているものと判定される。
【0063】
ここで、画像60の中心部分61は、歪み補正による影響が少ないため、輝度変化が小さくても、利用者または物を検知できる。したがって、画像60の中心部分61に対しては、検知感度αとして閾値TH0よりも低い閾値TH1が設定される(TH1<TH0)。なお、検知感度αを基準値の閾値TH0と同じ値に設定することでも良い。
【0064】
一方、上述したように、画像60の周辺部分62は、歪み補正によって元の画像50の各画素の情報が外側に引き延ばされて補間されているため、ノイズ等による輝度変化が面積的に大きく表れる。このため、輝度変化が大きく出ている状況(変化量が大きい場合)でないと、誤検知してしまう可能性が高い。したがって、画像60の周辺部分62に対しては、検知感度βとして閾値TH0よりも高い閾値TH2が設定される(TH2>TH0)。つまり、画像60の周辺部分62では、歪み補正による影響を考慮して、閾値TH2を上げて検知しにくくしておく。
【0065】
図6に戻って、検知処理部22bは、カメラ12によって時系列で得られる複数の撮影画像から検知エリアE1〜E5内の画像をそれぞれ抽出することにより、これらの画像を解析処理して各検知エリアE1〜E5に応じた検知処理を行う(ステップS17)。
【0066】
ここで、検知処理部22bは、上記ステップS16で設定された検知感度を用い、その検知感度に従って検知処理を実行する。この場合、検知エリア毎に検知感度を変更して検知処理を行うのではなく、検知エリアの中で画像60の中心部分61に対応した部分と周辺部分62に対応した部分とで検知感度を変更して検知処理を行う。
【0067】
すなわち、例えば検知エリアE1であれば、検知処理部22bは、検知エリアE1内の画像60を解析処理して、乗りかご11内における利用者または物を検知する。その際、検知エリアE1の中で画像60の中心部分61に対応した部分(
図3の例では乗りかご11の床面19)では、検知処理部22bは、検知感度α(閾値TH1)で検知処理を行う。また、検知エリアE1の中で画像60の周辺部分62に対応した部分(
図3の例では乗りかご11の側面48a,48bや背面49)では、検知処理部22bは、検知感度β(閾値TH2)で検知処理を行う。
【0068】
他の検知エリアE2〜E5でも同様であり、検知処理部22bは、上述した検知感度に従って検知処理を実行する。つまり、検知処理部22bは、それぞれの検知エリアE2〜E5の中で画像60の中心部分61に相当する部分では検知感度α(閾値TH1)で検知処理を行い、画像60の周辺部分62に相当する部分では検知感度β(閾値TH2)で検知処理を行う。
【0069】
このようにして、検知エリア毎に検知処理が実行されると、これらの検知処理の結果が画像処理装置20からエレベータ制御装置30に対して出力される(ステップS18)。エレベータ制御装置30は、検知エリア毎の検知結果を受信することにより、それぞれの検知結果に応じた対応処理を実行する(ステップS19)。
【0070】
上記ステップS19で実行される対応処理は、検知エリア毎に異なり、例えば検知エリアE1であれば、乗りかご11内の乗車状況に応じた処理である。具体的には、例えばかごドア13前に利用者が集中しているような場合に、エレベータ制御装置30は、通知部33を通じて乗りかご11内の利用者に対して奥に詰めるようにガイダンスするなどである。また、多数の利用者が乗車して混雑状況にある場合に、エレベータ制御装置30は、運転制御部31を通じて当該乗りかご11に対する乗場呼びの割り当てを抑制するなどの運転制御を行う。
【0071】
なお、
図6のフローチャートでは、乗りかご11の戸開動作中にエリア毎に検知処理を行う場合を想定して説明したが、乗りかご11の戸閉動作中でも同様である。すなわち、戸閉動作中に検知エリアE1〜E5毎に検知処理を行い、その検知結果に応じた対応処理を実行する。これにより、例えばかごドア13が閉まりかけている途中で、検知エリアE3で利用者が検知された場合に、かごドア13をリオープンして利用者を乗車させることができる。
【0072】
また、乗りかご11の昇降動作中(移動中)でも適用可能である。この場合、乗りかご11内に設定された検知エリアE1,E2が検知対象となり、乗りかご11の昇降動作中(移動中)にこれらのエリア毎に検知処理を行い、その検知結果に応じた対応処理を実行すれば良い。
【0073】
さらに、何らかの原因で乗りかご11の運転が停止しているときでも適用可能である。この場合も乗りかご11内に設定された検知エリアE1,E2が検知対象となる。例えば地震により、乗りかご11が戸閉状態で緊急停止していたときに、乗りかご11の床面19に設定された検知エリアE1内の画像から利用者の乗車人数等を検知して、図示せぬ監視センターに発報すれば、かご内閉じ込め事故に対して迅速に対応することができる。
【0074】
このように第1の実施形態によれば、超広角レンズを有するカメラを用いて利用者を検知するシステムにおいて、レンズの特性を考慮し、撮影画像の中心部分とその中心部分より外側の周辺部分とで検知感度を変更することで、特に画質が低下する周辺部分での誤検知を防いで、利用者を正しく検知することができる。
【0075】
(変形例)
上記第1の実施形態では、検知感度を変更する領域を2つに分けたが、例えば
図9に示すように、検知感度を変更する領域を3つ以上に分けることでも良い。
【0076】
図9の例では、画像50を中心部分51、第1の周辺部分52a、第2の周辺部分52bの3つの領域に分けている。第2の周辺部分52bは、画像50の最外周であり、画質が最も悪い。この画像50の歪み補正し、その補正後の画像60を用いて利用者検知を行う場合に、
図10に示すように、当該画像60の中心部分61では検知感度α、第1の周辺部分62aでは検知感度β、最外周の第2の周辺部分62bでは検知感度γに変更して検知処理を行う。
【0077】
検知感度αは、輝度変化に対する閾値がTH1であり、基準値である閾値TH0よりも低く設定される(TH1<TH0)。検知感度βは、輝度変化に対する閾値がTH2であり、閾値TH0よりも高く設定される(TH2>TH0)。検知感度γは、輝度変化に対する閾値がTH3であり、閾値TH2よりもさらに高く設定される(TH3>TH2)。
【0078】
したがって、画像60の中心部分51では、検知エリア内で閾値TH1以上の輝度変化が検出されたときに、利用者または物が存在するものと判定される。また、第1の周辺部分62aであれば、検知エリア内で閾値TH2以上の輝度変化が検出されたときに、利用者または物が存在するものと判定される。第2の周辺部分62bであれば、検知エリア内で閾値TH3以上の輝度変化が検出されたときに、利用者または物が存在するものと判定される。なお、
図9の例では、検知感度を変更する領域を3つ分けたが、さらに細かく分けることでも良い。
【0079】
このように、検知感度を変更する領域を3つ以上に分けておくことでも、上記第1の実施形態と同様に、画質が低下する周辺部分での誤検知を防いで、利用者を正しく検知することができる。
【0080】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
撮影画像の明るさは、常に一定ではなく、例えば各階の乗場の照明環境などによって変化する。ここで、撮影画像が暗いと、輝度変化を検出しづらくなるため、利用者の検知精度に影響が出る。特に、魚眼レンズ等の超広角レンズを通して撮影された画像の場合には、周辺部の画質が低下しているため、撮影画像が暗い状態にあると、誤検知を発生しやすくなる。そこで、第2の実施形態では、撮影画像の明るさを考慮して検出感度を変更するものである。
【0081】
図11は第2の実施形態に係る利用者検知システムにおける全体の処理の流れを示すフローチャートである。なお、ステップS21〜S25までの処理は、上記第1の実施形態における
図6のステップS11〜S15までの処理と同様である。
【0082】
すなわち、まず、初期設定として、カメラ12によって撮像された画像上で、
図3に示した複数の検知エリアE1〜E5が設定される(ステップS21)。乗りかご11が任意の階に到着して戸開したときに(ステップS22のYes)、カメラ12によって乗りかご11内および乗場15が広範囲に撮影され、その撮影画像が時系列順に記憶部21に逐次記憶される(ステップS23〜S24)。その際、
図7で説明したような歪み補正処理によって、撮影画像の歪みが補正される(ステップS25)。
【0083】
ここで、第2の実施形態では、感度変更部22cが検知感度の変更を行うに際し、撮影画像の明るさを検出する(ステップS26)。なお、撮影画像の明るさを検出する方法については一般的に知られている方法を用いるものとし、ここではその詳しい説明を省略する。撮影画像の明るさが検出されると、感度変更部22cは、その検出された明るさを示す情報に基づいて検知感度の変更を行う(ステップS27)。
【0084】
上記ステップS27の検知感度変更処理について、
図7に示した歪み補正後の画像60を例にして詳しく説明する。
【0085】
感度変更部22cは、画像60の中心部分61とその中心部分61よりも外側の周辺部分62に分け、これらの部分61,62に異なる検知感度を設定する。その際、
図12に示すように、画像60の明るさが一定値X以上であれば、感度変更部22cは、当該画像60の中心部分61に検知感度α、周辺部分62に検知感度βを設定する。
【0086】
図8で説明したように、検知感度αは、輝度変化に対する閾値がTH1であり、基準値である閾値TH0よりも低く設定されている(TH1<TH0)。検知感度βは、輝度変化に対する閾値がTH2であり、基準値である閾値TH0よりも高く設定されている(TH2>TH0)。
【0087】
一方、画像60の明るさが一定値X未満であった場合、感度変更部22cは、当該画像60の中心部分61に検知感度αに設定するが、周辺部分62に対しては検知感度を無効とする。「検知感度を無効」とは、検知処理を行わないことを意味する。画像60の明るさが一定値を満たない場合に、特に画質の悪い周辺部分62では誤検知を発生する可能性が高くなる。したがって、このような場合には検知処理を行わないことが好ましい。なお、上記一定値Xは、例えば各階の乗場15で撮影したときの各画像の平均的な明るさを基準にして決められる。
【0088】
図11に戻って、検知処理部22bは、カメラ12によって時系列で得られる複数の撮影画像から検知エリアE1〜E5内の画像をそれぞれ抽出することにより、これらの画像を解析処理して各検知エリアE1〜E5に応じた検知処理を行う(ステップS28)。
【0089】
このとき、検知処理部22bは、上記ステップS27で撮影画像の明るさに応じて設定された検知感度を用い、その検知感度に従って検知処理を実行する。上述したように、画像60の明るさが一定値X以上であれば、当該画像60の中心部分61に検知感度α、周辺部分62に検知感度βが設定されている。したがって、例えば検知エリアE1であれば、検知エリアE1の中の画像60の中心部分61に対応した部分(
図3の例では乗りかご11の床面19)では、検知処理部22bは、検知感度α(閾値TH1)で検知処理を行う。また、検知エリアE1の中の画像60の周辺部分62に対応した部分(
図3の例では乗りかご11の側面48a,48bや背面49)では、検知処理部22bは、検知感度β(閾値TH2)で検知処理を行う。
【0090】
一方、画像60の明るさが一定値X未満であれば、当該画像60の中心部分61に検知感度αが設定されているが、周辺部分62では検知感度が無効化されている。したがって、例えば検知エリアE1であれば、当該検知エリアE1の中の画像60の中心部分61に対応した部分では、検知処理部22bは、検知感度α(閾値TH1)で検知処理を行うが、画像60の周辺部分62に対応した部分では検知処理を行わない。
【0091】
以後の処理は上記第1の実施形態と同様であり、検知エリア毎に検知処理が実行されると、これらの検知処理の結果が画像処理装置20からエレベータ制御装置30に対して出力される(ステップS29)。エレベータ制御装置30は、検知エリア毎の検知結果を受信することにより、それぞれの検知結果に応じた対応処理を実行する(ステップS30)。
【0092】
このように第2の実施形態によれば、例えば各階の乗場の照明環境などによって撮影画像の明るさが異なる場合に、そのときの明るさに応じて撮影画像の中心部分と周辺部分とで検出感度を変更あるいは無効にして検知処理を行うことができる。これにより、例えば乗場の照明環境などで撮影画像が暗い場合に、特に画質が低下する周辺部分での誤検知を防ぐことができる。
【0093】
(変形例)
上記第2の実施形態では、検知感度を変更する領域を2つに分けた場合を想定して説明したが、検知感度を変更する領域を3つ以上に分け、段階的に検知感度を変更する構成としても良い。この場合、
図13に示すように、画像の明るさと各領域との関係に基づいて、各領域に対する検知感度を段階的に変更または無効とする。
【0094】
図9に示した画像60を例にして説明する。
いま、画像60の中心部分61、第1の周辺部分62a、第2の周辺部分62bの3つの領域に分けて検知感度を設定する場合を想定する。画像の明るさが一定値X以上であれば、当該画像60の中心部分61に検知感度α、第1の周辺部分62aに検知感度β、第2の周辺部分62bに検知感度γを設定する(α<β<γ)。
【0095】
ここで、画像の明るさが一定値X未満であって、かつ、一定値Y以上の場合には(X>Y)、当該画像60の中心部分61に検知感度α、第1の周辺部分62aに検知感度βを設定するが、第2の周辺部分62bに対しては検知感度を無効とする。また、画像の明るさが一定値Y未満であれば、第1の周辺部分62aと第2の周辺部分62bに対しては検知感度を無効とする。
【0096】
なお、上記各実施形態では、
図7または
図9に示したように、歪み補正後の画像60を用いて利用者検知を行う場合を想定して説明したが、歪み補正されていない画像50を用いて利用者検知を行う場合でも適用できる。すなわち、画像50の周辺部分52は画質が悪く、他の領域と同じ検知感度で検知処理を行うと誤検知しやすい。そこで、画像50を中心部分51と周辺部分52とに分けて検知感度を変更して検知処理を行うことで、画質の悪い周辺部分52での誤検知を防いで、利用者を正しく検知することができる。
【0097】
また、撮影画像上に複数の検知エリアE1〜E5を設定し、これらの検知エリア毎に利用者または物を検知する場合を例にして説明したが、少なくとも1つの検知エリアを設定し、その検知エリア内の画像から利用者の有無を検知する構成としても良い。また、検知エリアに関係なく、撮影画像全体を対象にして利用者の有無を検知する場合でも適用可能である。
【0098】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、魚眼レンズ等の超広角レンズを有するカメラで撮影された画像を用いて利用者を正しく検知することのできるエレベータの利用者検知システムを提供することができる。
【0099】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。