(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6871340
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】重量物転回治具、リングおよび重量物転回方法
(51)【国際特許分類】
B65G 7/08 20060101AFI20210426BHJP
【FI】
B65G7/08 C
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-208136(P2019-208136)
(22)【出願日】2019年11月18日
【審査請求日】2019年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162593
【氏名又は名称】株式会社協和エクシオ
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】田中 政彦
(72)【発明者】
【氏名】木下 能享
(72)【発明者】
【氏名】片野 俊樹
【審査官】
土田 嘉一
(56)【参考文献】
【文献】
実公昭56−020475(JP,Y2)
【文献】
実開平04−091910(JP,U)
【文献】
特開2000−128323(JP,A)
【文献】
特開2012−127313(JP,A)
【文献】
実開昭53−093859(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3076593(JP,U)
【文献】
実開昭62−074606(JP,U)
【文献】
特開昭62−175308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形部を有する重量物を転回する治具であって、側面視にて環状に形成されたリングを有し、このリングのほぼ半部の内壁面を直交させた内壁直交面とするとともに、前記内壁直交面に対応する外壁面は前記内壁直交面とほぼ平行に形成した外壁直交面とその交差部に形成された湾曲面とからなる転がり面とし、他半部は薄肉環状面とし、自立状態でこの薄肉環状面が上方で前記外壁直交面側のいずれかが下方となるようにして、当該リングを一対用いて重量物の両サイドから嵌入することにより重量物の転回動作を可能としてなることを特徴とする重量物転回治具。
【請求項2】
側面視にて環状に形成されるとともに、この環状のほぼ半部の内壁面を直交させた内壁直交面とするとともに、前記内壁直交面に対応する外壁面には前記内壁直交面とほぼ平行に形成した外壁直交面とその交差部に形成された湾曲面とからなる転がり面とし、他半部を薄肉環状面とし、自立状態でこの薄肉環状面が上方で前記外壁直交面側のいずれかが下方となるように配置したことを特徴とする重量物転回治具用リング。
【請求項3】
前記内壁直交面には滑り止めシートを敷設してなることを特徴とする請求項1に記載の重量物転回治具又は請求項2に記載の重量物転回治具用リング。
【請求項4】
前記内壁直交面の外端部には転回する重量物の端部を抑えるストッパを設けてなることを特徴とする請求項1に記載の重量物転回治具又は請求項2に記載の重量物転回治具用リング。
【請求項5】
前記内壁直交面以外の環状部には減肉用抜き穴を形成していることを特徴としてなる請求項1に記載の重量物転回治具又は請求項2に記載の重量物転回治具用リング。
【請求項6】
矩形部を有する重量物を転回する治具の転回方法であって、前記重量物を嵌入する空間を有するリングを一対設け、このリングの内壁面部に重量物の搭載面を設けるとともに、その外壁面部に転がり面を形成し、この搭載面に対向するリング反対部には薄肉環状面を形成して、自立状態でこの薄肉環状面が上方で前記外壁面部が下方となるように配置し、前記重量物の両サイドから前記リングを嵌め込んでリング転回をなすことにより重量物の転回を可能としたことを特徴とする重量物転回方法。
【請求項7】
矩形部を有する重量物を転回する治具の転回方法であって、前記重量物を嵌入する空間を有し、そのほぼ半部の内壁面を直交させた内壁直交面とするとともに、前記内壁直交面に対応する外壁面には前記内壁直交面とほぼ平行に形成した外壁直交面とその交差部に形成された湾曲面とからなる転がり面とし、他半部を薄肉環状面とし、自立状態でこの薄肉環状面が上方で前記外壁直交面側のいずれかが下方となるように配置されたリングを一対準備し、前記重量物をリフターにより一旦持ち上げ、予め前記重量物の両サイドからリングを嵌入させ、前記リングに設けた直交内壁面に前記重量物の矩形部を適応させて前記リングに置き、前記リングの前記湾曲面を利用して外壁直交面の一方から他方に転回することにより、重量物の転回を行わせることを特徴とする重量物転回方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重量物転回治具に係り、特に通信用蓄電池等の組み立て時に行われる転回作業に用いるのに好適な重量物転回治具、リングおよび重量物転回方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通信用蓄電池は、プラスとマイナスの端子を一端面側に露出したボックス型電池を複数準備し、これを所定のサイズに形成したボックス容器に複数同時に収容固定した状態となっている。この場合、プラス端子とマイナス端子は容器の開放部に露出させているため、これを壊さないように、また短絡しないようにして、移動・組み立て作業に従事させている。
【0003】
この移動・組み立て作業時に、通信用蓄電池は重量物(約400kg)であるため、ウィンチで吊り上げ地切りした後、不安定な状態で人力により回転させ、若しくは、床面にて大変な思いをして人力にて回転させるかの、何れかの方法で実施してきた。いずれの場合においても大きな力が必要となり、人身事故のリスクをはらむ作業となっていた。
【0004】
ところで、この種の重量物を転回させるため、大型リング材のようなものを反転させる技術が知られている。これは底板部の一辺側から側板部を直角に起立させ、底板部を側板部との屈曲連接部の外面部を大きな半径で湾曲させた形態とし、底板部の端面に形成した吊り手部を配置して、当該吊り手部より吊り上げることにより反転可能としてなるものである。大型リング材は底板部に立設状態で配置され、側板部内面に配置されたリング材の回転を防止する受板により支持して、上記吊り手部を介して上記底板部の一反を吊り上げ、大型リング材を縦方向から横方向に転回するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62−175308号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の構造では、底板部と側面部の2か所しかなく被重量物の全周を覆っていないため安全性に配慮されておらず、しかも、重量物の荷重を一つの荷重転回治具で行うため吊り具が外れたり、少しでも重心位置がずれたりすれば落下するなどの多くの危険性をはらんでいた。
【0007】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、安全性が高く、しかも安定性に優れた重量物転回治具、リングおよび重量物転回方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、本発明に係る重量物転回治具は、矩形部を有する重量物を転回する治具であって、側面視にて環状に形成されたリングを有し、このリングのほぼ半部の内壁面を直交させた内壁直交面とするとともに、前記内壁直交面に対応する外壁面には前記内壁直交面とほぼ平行に形成した外壁直交面とその交差部に形成された湾曲面
とからなる転がり面とし、他半部は薄肉環状面とし、自立状態でこの薄肉環状面が上方で前記外壁直交面側のいずれかが下方となるようにして、当該リングを一対用いて重量物の両サイドから嵌入することにより重量物の転回動作を可能としたものである。
【0009】
また、本発明に係る回転治具用リングは、側面視にて環状に形成されるとともに、この環状のほぼ半部の内壁面を直交させた内壁直交面とするとともに、前記内壁直交面に対応する外壁面には前記内壁直交面とほぼ平行に形成した外壁直交面とその交差部に形成された湾曲面
とからなる転がり面とし、他半部を薄肉環状面とし、自立状態でこの薄肉環状面が上方で前記外壁直交面側のいずれかが下方となるように配置したことを特徴とする。
【0010】
前記内壁直交面には滑り止めシートを敷設し、前記内壁直交面の外端部には転回する重量物の端部を抑えるストッパを設けた構成とすることができる。前記内壁直交面以外の環状部には減肉用抜き穴を形成すればよい。
【0011】
更に、本発明に係る重量物転回方法は、矩形部を有する重量物を転回する治具の転回方法であって、前記重量物を嵌入する空間を有するリングを一対設け、このリングの内壁面部に重量物の搭載面を設けるとともに、その外壁面部に転がり面を形成し、
この搭載面に対向するリング反対部には薄肉環状面を形成して、自立状態でこの薄肉環状面が上方で前記外壁面部が下方となるように配置し、前記重量物の両サイドから前記リングを嵌め込んでリング転回をなすことにより重量物の転回を可能としたものである。
【0012】
より具体的には、矩形部を有する重量物を転回する治具の転回方法であって、前記重量物を嵌入する空間を有し、そのほぼ半部の内壁面を直交させた内壁直交面とするとともに、前記内壁直交面に対応する外壁面には前記内壁直交面とほぼ平行に形成した外壁直交面とその交差部に形成された湾曲面
とからなる転がり面とし、他半部を薄肉環状面とし、自立状態でこの薄肉環状面が上方で前記外壁直交面側のいずれかが下方となるように配置されたリングを一対準備し、前記重量物をリフターにより一旦持ち上げ、予め前記重量物の両サイドからリングを嵌入させ、前記リングに設けた直交内壁面に前記重量物の矩形部を適応させて前記リングに置き、前記リングの前記湾曲面を利用して外壁直交面の一方から他方に転回することにより、重量物の転回を行わせるようにしている。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成された重量物転回治具、リングおよび重量物転回方法によれば、矩形重量物の中央部をリフターにより持ち上げ、この両側からリングを嵌入する。このとき重量物の一つのコーナ部分が内壁直交面同士の交差部にあたるようにし、リフターを下げることにより、いわば重量物の両側に回転車輪を付けたように配置される。このとき両側のリングを同じ向きに揃えておく。そして、外面湾曲部を利用してリングを90度転回することにより、内部に保持されている重量物も90度転回し、これにより重量物を直接手に持って、あるいは吊り具を利用して転回させることなく治具の作用で転回できることになる。重量物は地上で転がすように操作されるため、人力により安定して行われる。このとき転回操作のための吊り具等が不要のため、吊り具脱着等の事故は起きることはない。また、仮に転回操作が90度以上となっても全周が覆われているため、重量物が脱落することもなく安全性が高いものとなっている。更に、減肉用抜き穴を形成することにより自然と外壁直交面を下にして置かれるため、安定性が増している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例に係る重量物転回治具の一方のリングを示す左側面図、側面図、右側面図である。
【
図2】実施例の重量物転回治具の操作説明図である。
【
図3】実施例の重量物転回治具の操作状態の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る重量物転回治具、リングおよび重量物転回方法の実施例を、図面を参照して、詳細に説明する。なお、本実施例は実施の一例であり、技術的思想が同じ限り改変しても本件発明に含まれる。
【0016】
この実施例に係る重量物転回治具10は一対のリング12からなるもので、
図1にリング12の3面図を示している。重量物としては矩形の蓄電池が縦列配置され、その外壁面をケースなどで覆った矩形部を有する数百キログラム程度のものとされ、人力で持ち上げて転回や移動なりが困難なものである。この重量物14を90度転回させるためにリング12を用いる。
【0017】
リング12は重量物14を嵌入する空間を有し、
図1に示すように、側面視(
図1(2))にて環状に形成されたリング12とされ、このリング12のほぼ半部を薄肉環状面16としており、残りのほぼ半部の内壁部を重量物搭載面18とするとともに、外壁部を転がり面20としている。重量物搭載面18を形成しているリング内壁面は、互いに直交させた第一内壁面22Aと第二内壁面22Bとからなり、直接交差させている。また、前記第一内壁面22Aに対応する外壁面部には第一内壁面22Aとほぼ平行に形成した第一外壁面24Aと、前記第二内壁面22Bに対応する外壁面部には第二内壁面22Bとほぼ平行に形成した第二外壁面24Bが設けられている。そして、その交差部は湾曲面26とされている。湾曲面26は、重量物14を搭載した時に、安定して図の状態を維持できるように、かつ、安定した状態から人力により簡易な力で転回できるような円弧面とされる。
【0018】
第一、第二内壁面22A、22Bと、第一、第二外壁面24A、24Bおよび湾曲面26とは、側板28により覆われており、この側板28を含めて全体をボックス状に形成されている。特に第一、第二外壁面24A、24Bと第一、第二内壁面22A、22Bとは、等距離隔てるように設定されている。このようなことからリング12の半部を薄肉に形成し、残りの半部をボックス体の厚肉を形成している。
【0019】
また、前記第一、第二内壁面22A、22Bからなる内壁直交面には、滑り止めシート30を敷設され、同時に第二外壁面24A、24Bおよび湾曲面26からなる外壁面にも滑り止めシート30が敷設されている。このシート30はゴムシートからなるもので、搭載した重量物14が重量物搭載面18からずれないようにし、また、リング12自体が床面で滑らないようにしている。さらに、前記内壁直交面を形成している第一、第二内壁面22A、22Bの外端部には、転回する重量物14の端部を抑えるストッパ32を設けている。このストッパ32は舌片状の突起であり、第一、第二内壁面22A、22Bからリング12の内面側に突出している。したがって、重量物14が積載された際に、重量物14が滑っても移動を阻止することができる。
【0020】
更に、前記薄肉とされた環状面16には、減肉用抜き穴34が設けられ、薄肉環状面16の重量を軽減している。この結果、薄肉環状面16は常に上方に位置し、厚肉となっている重量物搭載面18と転がり面20からなるボックス部分が確実に下側に位置するようになっている。
【0021】
このように形成されたリング12は一対配置され、
図2に示す状態で用いられる。すなわち、転回させたい重量物14をリフター等で地面が浮かせた状態にして(
図2(1))、当該リング12を一対用いて重量物14の両サイドから嵌入し、重量物搭載面18にしっかりと固定する(
図2(2))。このとき、リング12の向きは同一としておく。これにより一対のリング12、12が重量物転回治具として機能する。重量物14の一面を黒塗り部分とする。
【0022】
その後、重量物転回治具10を、湾曲面26を利用して第一外壁面24Aから第二外壁面24B(あるいはその逆)に回転させる(
図2(3))。この作業は、薄肉環状面16が薄肉であることと、減肉用抜き穴34が設けられていることにより、簡単に人力で行うことができる。これにより最終形態として、重量物14のハッチング部分が横面(
図2(1)、(2))から上面となり(同図(4))、目的の転回作業が終了する。この作業が終了した後、再びリフターにより持ち上げ、リング12を取り外した地面に置くことにより、作業が終了する。この一連の工程は
図3に示す通りである。
【0023】
このように、本実施例によれば、
図3に示すように、矩形重量物14の中央部をリフターにより持ち上げ(
図3(1))、この両側からリング12を嵌入する(
図3(2))。このとき重量物14の一つのコーナ部分が重量物搭載面18の内壁直交面同士の交差部にあたるようにし、リフターを下げることにより、いわば重量物14の両側に回転車輪を付けたように配置される(
図3(3))。このとき両側のリング12を同じ向きに揃えておく(
図3(4))。そして、外面湾曲面26を利用してリング12を90度転回することにより(
図3(5)〜(6))、内部に保持されている重量物も90度転回し、これにより重量物14を直接手に持って、あるいは吊り具を利用して転回させることなく治具の作用で転回できることになる。転回した後は逆の操作を行なえばよい(
図3(7)〜(10))。重量物14は地上で転がすように操作されるため、人力により安定して行われる。このとき転回操作のための吊り具等が不要のため、吊り具脱着等の事故の発生を防止することが出来る。また、仮に転回操作が90度以上となっても全周が覆われているため、重量物が脱落することもなく安全性が高いものとなっている。更に、減肉用抜き穴34を形成することにより自然と第一、第二外壁面24A、24Bのいずれかが下にして置かれるため、安定性が増している。
【0024】
なお、上記実施形態では、重量物搭載面18を第一、第二内壁面22A、22Bにより形成したが、第三の内壁面を設けてボックス状の厚肉部をU字形状としてもよい。もちろん、外面側には第三の外壁面とその交差部に形成される湾曲面を設ける。このようにすることで重量物14を反対側に転回することも可能となる。また、リング12を対象に形成し、薄肉環状面16を設けない形態でも構わない。
【符号の説明】
【0025】
10……重量物転回治具、
12……リング、
14……重量物、
16……薄肉環状面、
18……重量物搭載面、
20……転がり面、
22A……第一内壁面、
22B……第二内壁面、
24A……第一外壁面、
24B……第二外壁面、
26……湾曲面、
28……側板、
30……滑り止めシート、
32……ストッパ、
34……減肉用抜き穴。
【要約】
【課題】安全性が高く、しかも安定性に優れた重量物転回治具、リングおよび重量物転回方法を提供すること。
【解決手段】矩形部を有する重量物を転回する治具である。側面視にて環状に形成されたリングを有し、このリングのほぼ半部の内壁面を直交させた内壁直交面とするとともに、前記内壁直交面に対応する外壁面には前記内壁直交面とほぼ平行に形成した外壁直交面とその交差部に形成された湾曲面とからなっている。当該リングを一対用いて重量物の両サイドから嵌入することにより重量物の転回動作を可能とする。
【選択図】
図2