(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極、負極及び前記正極と負極との間に配置された電解質層を備える二次電池であって、前記正極及び負極の少なくとも一方の電極が、他方の電極に対向する面に設けられた電極活物質層の上に、絶縁性微粒子を含有する絶縁層が積層された積層構造を有し、
前記絶縁層の厚さtは、2〜35μmであり、
前記絶縁層を有する電極は、前記絶縁層の厚さtと、前記電極活物質層の表面粗さRzとの比(t/Rz)が、2以上30以下であり、
前記絶縁性微粒子は、前記絶縁層の厚み100%に対し、80〜100%の平均粒子径を持つ絶縁性微粒子を、全絶縁性微粒子に対し5体積%以上含有することを特徴とする、二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪電極の製造方法≫
本発明の第一態様の電極の製造方法は、電極活物質層の上に絶縁層が積層された積層体を有する電極の製造方法である。前記絶縁層は、二次電池、キャパシタ等の電気化学デバイスにおける正極と負極を絶縁するセパレータとして機能し得る。
【0011】
本発明に係る電極の製造方法の第一実施形態は、基台上に形成された前記電極活物質層の上に前記絶縁層を積層する工程を少なくとも含む。この工程において、前記絶縁層を、その厚さが前記電極活物質層の表面粗さRz(単位:μm)の2倍以上となるように積層する。
前記電極活物質層の上に前記絶縁層を積層する工程は、例えば、前記電極活物質層の上に絶縁材を含む組成物を塗工して前記絶縁層を積層することによって行うことができる。この際、前記組成物を、形成される前記絶縁層の厚さが前記電極活物質層の表面粗さRzの2倍以上となる厚さで塗工する。
【0012】
ここで、形成された前記絶縁層の厚さは、乾燥により、塗工した前記組成物に含まれる溶媒を揮発させた後における厚さ(単位:μm)である。乾燥後の前記絶縁層の厚さは、当該電極の厚み方向の断面を電子顕微鏡で観察して、複数箇所の厚さを測り(例えば10箇所)、その算術平均として求めることができる。詳細な測定方法は、本発明の第二態様の電極における絶縁層の厚さtの測定方法として後述する。
【0013】
また、この工程において、電極活物質層の表面粗さRz(単位:μm)の2倍よりも厚く前記組成物を塗工することが好ましい。
上記の厚さで組成物を塗工することは、すなわち、電極活物質層の表面粗さRz(単位:μm)と、塗工後であって乾燥工程前の組成物の厚さt(単位:μm)との比(t/Rz)が、2よりも大きいことを意味する。
【0014】
前記電極活物質層の表面粗さRzはJIS B0601 1994に準拠した方法で測定された十点平均粗さである。
【0015】
上記の厚さで組成物を塗工することによって、電極活物質層の表面における特に凸の箇所を反映する表面粗さRzの影響を低減することができるので、絶縁層を形成してなる積層体を加圧処理した場合にも、極度に絶縁層が薄くなる箇所が生じることを防止して、絶縁性やサイクル特性の低下を抑制することができる。これらの効果は、形成する絶縁層が薄い場合、すなわち塗工する前記組成物の厚さが薄い場合、例えば約35μm以下の厚さである場合に顕著となり、例えば約20μm以下の厚さである場合に特に顕著となる。
【0016】
前記組成物を塗工する電極活物質層の表面、すなわち塗工面、の表面粗さRzは35μm以下であることが好ましく、17μm以下がより好ましく、6μm以下がさらに好ましい。
塗工面の表面粗さRzが35μm以下であると、形成する絶縁層を薄くした場合、すなわち塗工する前記組成物の厚さを薄くした場合、における塗工面の表面粗さRzの影響を少なくして、絶縁層の厚さ及び密度を平面方向に亘って充分均一にすることができる。さらに、形成される絶縁層の表面粗さを小さくすることもできる。
【0017】
前記組成物を塗工する際の前記組成物の厚さは、形成される前記絶縁層の厚さを考慮して設定することが好ましい。例えば、形成される前記絶縁層の厚さが、前記組成物を塗工する電極活物質層の表面、即ち塗工面、の表面粗さRzに対して、2.0〜30倍の厚さになることが好ましく、2.5〜25倍の厚さになることがより好ましく、3.0倍〜20倍の厚さになることがさらに好ましく、4.0倍〜15倍の厚さが特に好ましい。
形成された前記絶縁層の厚さが、電極活物質層の表面粗さRzの2.0倍以上の厚さになるように前記組成物を塗工することにより、絶縁層の平面方向において厚さの均一性を向上することが可能となる。電極活物質層の表面粗さRzの30倍以下の厚さになるように前記組成物を塗工することにより、絶縁層に由来する電気抵抗が大きくなり過ぎることを防止できる。
【0018】
前記組成物を塗工する際の前記組成物の厚さは、絶縁性と機械的強度を両立できれば特に限定されない。例えば、形成される絶縁層の厚さが、上記比(t/Rz)を満たした上で、好ましくは2μm〜35μm、より好ましくは4μm〜30μm、さらに好ましくは8μm〜25μm、最も好ましくは10μm〜20μm、となる厚さで塗工することが望ましい。
【0019】
前記組成物を、形成される絶縁層の厚さが2μm以上の厚さとなるように塗工することにより、工業的に成立する生産速度を確保しつつ絶縁性を充分に有する絶縁層を形成することができる。前記絶縁層を、形成される絶縁層の厚さが35μm以下の厚さとなるように塗工することにより、当該絶縁層に由来する電気抵抗、すなわち電池における内部抵抗、を低減することができる。
【0020】
前記組成物の固形成分の割合にもよるが、所望の厚さで塗工し得る粘度を有する組成物であれば、塗工した厚さとほぼ同等の厚さtを有する絶縁層が得られる。塗工した組成物の厚さが乾燥後に減じる場合には、その減じる厚さを上乗せした厚さで前記組成物を塗工することが好ましい。例えば、形成する絶縁層の厚さtの1.0〜2.0倍程度の厚さで前記組成物を塗工する方法が挙げられる。
【0021】
前記組成物の粘度が高い場合や、塗工する厚さが厚い場合は、塗工された組成物の表面と内部とで乾燥の度合いが異なる。このため、表面と内部と多孔状態に違いが生じる場合がある。この問題を解決する手段として、多孔状態を均一にする目的で、前記組成物を複数回に分けて塗工と乾燥を繰返し、所望の厚さの絶縁層を形成することが例示できる。
一方、1回のみの塗工で、上記のような多孔状態の違いを絶縁層内に積極的に生じさせてもよい。その他、固形分濃度、粘度、組成の異なる組成物を複数回に分けて多段的に積層することによって、厚さ方向に見て、多孔状態が多段的に変化する絶縁層を形成することもできる。
【0022】
前記組成物を前記電極活物質層の表面に塗工する方法は特に限定されず、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。前記組成物を塗工面にキャスティングする方法を採用しても構わない。これらの塗工方法のうち、均一に薄く塗布することが容易である観点から、ドクターブレード法等の「ヘラ」を用いて塗り付けるブレードコーティング法が好ましい。ブレードコーティング法には、例えば、ロール上に固定された湾曲面形状の塗工面にヘラを用いて組成物を塗工する方法、平板上に固定された平面形状の塗工面にヘラを用いて組成物を塗工する方法が含まれる。
【0023】
<絶縁材を含む組成物>
前記電極活物質層の上に塗工する前記組成物は、少なくとも絶縁材を含む。前記組成物は、前記絶縁材としての絶縁性微粒子及び樹脂材料(バインダー)を含むことが好ましい。
前記組成物は、必要に応じて、絶縁材を溶解又は分散させるための溶媒を含んでいてもよい。溶媒を適当な量で含むことにより、組成物の密度ρ、動粘性係数ν、表面張力σ等が所望となるように調整することができる。
前記組成物を均一に薄く塗工する観点から、前記組成物は適度な粘性を有するスラリー状(ペースト状)であることが好ましい。
【0024】
前記絶縁層を構成する絶縁材の種類は特に限定されず、従来のセパレータに使用される絶縁材料が適用可能である。前記絶縁材として、例えば、絶縁性微粒子及び樹脂材料を含むことが好ましい。前記樹脂材料は絶縁性微粒子同士を結着して、絶縁層の多孔質構造を構成する基材として機能し得る。
【0025】
前記絶縁性微粒子を構成する材料は絶縁性であれば特に限定されず、有機化合物、無機化合物の何れであってもよい。具体的には、例えば、ポリメタクリル酸メチル、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸リチウム)、ポリアセタール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の有機化合物や、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、チタニア、ジルコニア、窒化ホウ素、酸化亜鉛、二酸化スズ、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、酸化タンタル(Ta
2O
5)、フッ化カリウム、フッ化リチウム、クレイ、ゼオライト、炭酸カルシウム等の無機化合物が例示できる。また、ニオブ−タンタル複合酸化物、マグネシウム−タンタル複合酸化物等の公知の複合酸化物が例示できる。前記絶縁性微粒子は1種単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
前記絶縁性微粒子を構成する材料に、無機化合物を含む場合は、本発明の電極が電池に組み込まれた場合に、リチウムイオンが挿入されにくいような無機化合物を用いることが好ましい。換言すれば、リチウムイオンが絶縁層を透過することを妨げないような無機化合物を使用することが好ましい。
前記絶縁性微粒子を構成する材料に、有機化合物を含む場合は、有機化合物の融点あるいは軟化温度は、150℃以上であることが好ましい。より好ましくは180℃以上、さらに好ましくは200℃以上である。有機化合物が上記のような融点あるいは軟化温度を有することにより、本発明の電極が、電池に組み込まれ、電池に過度な発熱が生じた際に、電極間の短絡を抑止する事が可能となる。
本発明の電極が、電池に組み込まれる場合は、一方の電極上に設けられた当該絶縁層と、絶縁層が形成されていない他の電極との間に、樹脂製多孔質セパレータを設けることが好ましい。
樹脂製多孔質セパレータは、電池に過度な発熱が生じた際に、前記樹脂製多孔質セパレータの孔が溶融して閉孔し、電池反応を停止させる機能を持つ。そのため、前記絶縁性微粒子を構成する材料に、無機化合物を含む場合は、樹脂製多孔質セパレータを備えることが好ましい。
前記絶縁性微粒子を構成する材料に、有機化合物が含まれる場合は、有機化合物の融点あるいは軟化温度は、前記樹脂製多孔質セパレータの融点より高いことが好ましい。これにより、電池に過度な発熱が生じた際に、電極間の短絡を抑止しつつ、前記樹脂製多孔質セパレータの孔が溶融して閉孔し、電池反応を停止させる機能を発現することが可能となる。有機化合物の融点あるいは軟化温度は、前記樹脂製多孔質セパレータの融点より20℃以上がより好ましく、さらに好ましくは40℃以上である。
【0026】
前記絶縁性微粒子の平均粒子径は、形成する絶縁層の厚みよりも小さければ特に限定されず、例えば、1nm〜700nmの範囲が好適である。絶縁性微粒子の平均粒子径は、粒子径を球相当径として、レーザ回折式粒度分布測定装置によって湿式で測定することができる。上記範囲の平均粒子径であると、絶縁層の多孔質構造の均一性及び絶縁性を良好に保つことができるとともに、所望の透気度が得られ易い。
積層時等の加圧時に、絶縁層が薄くなることを防止するために、絶縁層の厚みを100%としたときに、80%〜100%の範囲の平均粒子径を持つ絶縁性微粒子を、全絶縁性微粒子に対し5体積%以上含有することが好ましい。より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは20体積%以上である。
【0027】
前記組成物に含まれる前記絶縁性微粒子の含有量は、形成される絶縁層に含まれる絶縁性微粒子の含有量が、絶縁層の全質量に対して、好ましくは15〜95質量%、より好ましくは40〜90質量%、さらに好ましくは60〜85質量%となるように調整することが望ましい。上記範囲であると、均一な多孔質構造及び絶縁性を有すると共に、所望の透気度を有する絶縁層を容易に形成することができる。
【0028】
絶縁層に接触する電解質及び電解液との親和性を高める観点から、前記絶縁性微粒子として、有機化合物からなる微粒子を有する事が好ましい。前記絶縁性微粒子全体のうち、有機化合物からなる微粒子が5質量%以上含まれることが好ましい。上記好適な範囲であることにより、電解質を構成するイオンの透過性又は電解液の透過性がより良好となる。
【0029】
前記絶縁性微粒子として有機化合物からなる微粒子と無機化合物からなる微粒子の両方を使用する場合、電解質及び電解液に対する親和性と、絶縁層の強度とのバランスが優れる。前記絶縁層に含有される全ての絶縁性微粒子中、有機化合物からなる微粒子は5〜50質量%で含有されることが好ましく、8〜40質量%で含有されることがより好ましい。
【0030】
前記絶縁性微粒子は、その表面に親油性又は親水性を付与するための公知の表面処理、例えば所望の官能基を有するシランカップリング剤等、が施されていてもよい。表面処理によって、前記樹脂材料からなる基材と前記絶縁性微粒子の間に間隙を形成し易くなる場合がある。
【0031】
前記絶縁層の多孔質構造を構成する前記樹脂材料(即ち前記基材)の種類は特に限定されず、従来のセパレータを構成する合成樹脂が適用可能であり、例えば、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂等の熱可塑性樹脂、及びエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、カルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子等も挙げられる。
前記合成樹脂は1種単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
前記絶縁層の具体的な形成方法の一例を説明する。先ず、前記多孔質構造を構成する樹脂材料と、前記絶縁性微粒子と、前記樹脂材料を実質的に溶解する溶媒(良溶媒)と、前記樹脂材料を実質的に溶解しない溶媒(貧溶媒)とを含む前記組成物を電極活物質層の上に塗工し、乾燥することによって多孔質の絶縁層を得ることができる。
【0033】
前記良溶媒は特に限定されず、例えば、水、有機溶媒が挙げられ、前記樹脂材料を溶解できる溶剤であれば好適に使用することができる。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ターピネオール等のアルコール、1−メチル−2ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、2−ブタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤等が好適な溶剤として例示できる。
【0034】
前記貧溶媒は特に限定されず、使用する樹脂材料の溶解性を予め確認してから用いればよい。貧溶媒の種類、性状、物理特性、添加量を調整することにより、セパレータの細孔径、透気度等を調整することができる。例えば、良溶媒より沸点が高い貧溶媒を使用すると、セパレータの透気度が大きくなり易い。また、貧溶媒の割合を多くすると、透気度が大きくなり易い。具体的には、貧溶媒の沸点は良溶媒より10〜20℃高いことが好ましい。また、前記組成物に含まれる全溶媒の全質量に対する貧溶媒の含有量は、10〜30質量%が好ましい。
【0035】
前述した好適な良溶媒と組み合わせて使用する好適な貧溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類、オクタノール、デカノール等のアルコール類、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素類、フタル酸ジブチル等のエステル類が挙げられる。
【0036】
前記樹脂材料、絶縁性微粒子及び溶媒を混合する順序は特に限定されないが、前記樹脂材料を良溶媒に溶解した後、絶縁性微粒子を添加して混合し、さらに貧溶媒を添加することにより、容易に調製することができる。ここで、各材料の混合方法は特に限定されず、例えば、ビーズミル、ヘンシェルミキサー等の公知の混合機を使用して、各溶媒の沸点よりも充分に低い温度、例えば室温程度で、10分〜24時間程度混合する方法が挙げられる。
【0037】
前記樹脂材料として、ポリビニルアルコールをアセタール化したポリビニルブチラール樹脂を使用する場合には、トルエンで当該樹脂を膨潤させた後、アルコールを加えて溶解又は分散させて用いることが好ましい。ここで、トルエン及びアルコールを単純に良溶媒と貧溶媒とに区別することは難しいが、上記の方法で混合した樹脂溶液と前記絶縁性微粒子とを混合したスラリーを塗工して乾燥することにより、多孔質の絶縁層が得られる。
【0038】
前記電極活物質層の上に塗工した組成物(塗膜)を乾燥する方法は特に限定されず、例えば、室温〜各溶媒の沸点に近い温度の雰囲気下に置いて、減圧又は常圧で、自然に乾燥させる又は風乾させる方法が挙げられる。溶媒を蒸発させることによって、多孔質の絶縁層が得られる。
【0039】
前記絶縁層は多孔質構造を有し、且つ、その多孔質構造を構成する互いに連通した細孔(空隙)の中には前記絶縁性微粒子が配置されている。仮に、絶縁性微粒子が完全に基材と密着しているならば、当該絶縁性微粒子は単に基材中に埋め込まれたフィラーとなり、当該絶縁層は実質的に機能しない緻密構造の部材となり得る。しかし、本発明の電極を構成する前記絶縁層においては、個々の絶縁性微粒子が基材と密着しない箇所を少なくとも部分的に有するため、基材と絶縁性微粒子の間に間隙が存在し、この間隙同士が連通した多孔質構造を有する。このような間隙同士が連結した多孔質構造が製造時に形成されるメカニズムとして、前記組成物を構成する樹脂溶液に分散している絶縁性微粒子と樹脂界面の間に溶媒が偏在し、絶縁性微粒子の周囲に樹脂(基材)が完全には密着し難く、溶媒が蒸発(揮発)する際には、絶縁性微粒子の周囲又は樹脂内に間隙を生じさせる、と考えられる。これらの間隙は絶縁性微粒子間に形成される。
【0040】
上記メカニズムの観点から、所望の多孔質構造を得るためには、前記組成物中の絶縁性微粒子の含有量は、個々の絶縁性微粒子同士がお互いに比較的近接した状態で組成物中に均一に分散される程度が好ましく、具体的には、前記組成物中、溶媒の100体積部に対して、絶縁性微粒子が、好ましくは0.3〜20体積部、より好ましくは0.7〜15体積部、さらに好ましくは1.0〜10体積部、で含まれることが好ましい。この場合、前記組成物中、絶縁性微粒子の100体積部に対して、前記樹脂材料が、好ましくは50〜1500体積部、より好ましくは100〜1000体積部、さらに好ましくは200〜800体積部、で含まれることが望ましい。
【0041】
前記樹脂材料は、前記組成物において、全部が溶媒中に溶解しているか又は一部が粒子として分散していることが好ましい。樹脂材料が粒子として存在する場合の粒子径は、絶縁性微粒子の1/10〜10倍程度が好ましい。この範囲であると、前記組成物を長期保存した場合に、均一な分散状態を容易に維持することができる。
【0042】
また、前記電極活物質層の上に、直接、絶縁材を含む組成物を塗工して前記絶縁層を形成する代わりに、別途形成した絶縁膜を前記電極活物質層上に配置することにより、前記電極活物質層の上に前記絶縁層を積層してもよい。
前記の絶縁膜を別途形成する方法としては、例えば、離型シート等の基台上に、前記の組成物を用いて、前記と同様の方法で絶縁層(絶縁膜)を形成する方法が挙げられる。このようにして形成された絶縁膜を離型シート等の基台から剥離し、前記電極活物質層の上に前記絶縁層を積層することができる。あるいは基台と絶縁膜とを、絶縁膜が電極活物質層側になるように積層し、その後、基台を剥離することができる。積層の際には、表面が平滑な平板ないしロールで加圧してもよい。
【0043】
<電極活物質層の形成>
前記組成物を塗工する前記電極活物質層の形成方法及び材料は特に限定されず、従来の二次電池の正極又は負極を構成する電極活物質層の形成方法及び材料が適用可能である。例えば、集電材としてのアルミニウム箔又は銅箔の上に、後述する正極活物質又は負極活物質を含むスラリーを塗布して乾燥することによって形成することができる。
【0044】
前記電極活物質層が形成される前記基台の種類は特に限定されず、前記集電材であってもよいし、離型シート等の電極材料以外の基台であっても構わない。前記集電材上に形成すれば、電極製造工程が効率的であるし、前記離型シート上に前記電極活物質層及び絶縁層を形成した後で、離型シートを外して所望の集電材上に配置することもできる。
【0045】
上記の乾燥後に得られた電極活物質層の表面に対して、さらに平滑化処理を施すことによって、その表面粗さRzを35μm以下に調整すること、又は前述した好適な表面粗さRzの範囲に調整することが好ましい。
【0046】
前記平滑化処理の方法としては、電極活物質層の表面を均一に平滑化できる方法が好ましく、金属ロール又は平板を使用して前記表面を加圧する方法が挙げられる。また、電極活物質層を構成する粒子状材料の粒子径を均一化したり、前記粒子径を小さくしたりする方法も、表面粗さRzを低減する一助となり得る。
【0047】
本発明において、電極活物質層の表面粗さRzは、JIS B0601:1994に準拠した方法で測定される十点平均粗さである。このJIS規格に準拠した表面粗さRzの測定方法としては、例えば、非接触3次元表面形状測定装置(「WYKO NT1100」、Veeco社製)を使用することができる。あるいは、当該電極の断面を、例えば電子顕微鏡で観察して、当該活物質の凹凸に、触針半径に相当する円が接するように当てはめて算出しもよい。この場合も、前記JIS規格に準拠した方法の場合と同様に、適宜選択した10箇所について観察して測定した表面粗さの値の平均値をRzとする。
【0048】
≪絶縁層≫
本発明の第二態様の電極は、第一態様の方法によって製造された電極であることが好ましい。本発明に係る電極の第一実施形態は、電極活物質層の上に絶縁層が積層された積層体を有する電極である。
前記絶縁層は、二次電池、キャパシタ等の電気化学デバイスにおける正極と負極を絶縁するセパレータとして機能し得る。前記電極活物質層は、集電体の上に形成されていることが好ましい。前記電極活物質は、正極活物質であってもよいし、負極活物質であってもよい。
【0049】
前記絶縁層は多孔質構造を有する。例えば、前記絶縁層に接する電解質に含まれるリチウムイオンが内部を拡散して絶縁層を透過することが可能である。前記絶縁層は絶縁性微粒子を含有する多孔質の基材を備えていることが好ましい。その絶縁性微粒子と基材の間に隙間が形成されることによって、基材が多孔質を形成することができる。
【0050】
前記電極を構成する前記絶縁層の厚さt(単位:μm)と、前記電極活物質層の表面粗さRzとの関係は、(t/Rz)で表される比が、2以上であることが好ましい。
【0051】
上記関係を有する電極は、構造的強度の信頼性が高い絶縁層を有するといえる。例えば、外部若しくは内部からの圧力変化又は温度変化を受けて、絶縁層が圧縮又は膨張した場合にも、電極活物質層の表面粗さRzが反映する表面の凸部が絶縁層を損傷することを防止できる。また、電池製造時における、正極/電解質/負極の電極積層体を形成する際の加圧や、初回充電時における加圧等を行った場合においても、表面粗さRzが絶縁層tの厚さに対して相対的に小さく且つ絶縁層の厚さt及び密度が略均一であるため、絶縁層の局所に薄い部分が生じたり、絶縁層を構成する絶縁性微粒子の配置に欠陥が生じたりする恐れが少なくなる。
【0052】
前記電極を構成する電極活物質の表面粗さRzを測定する場合、積層された絶縁層を除去して表出した電極活物質層の表面を測定することが好ましい。積層された絶縁層を除去する方法としては、電極活物質層の表面の粗さを実質的に変化させない方法を採用する。具体的な除去方法としては、絶縁層を物理的又は化学的に剥離する方法、絶縁層を溶剤によって溶解する方法等が挙げられる。電極活物質と絶縁層との剥離が難しい場合は、電極の厚み方向の任意の断面を電子顕微鏡で撮像した写真を基に表面粗さを算出しても良い。
【0053】
前記絶縁層が形成された前記電極活物質層の表面粗さRzは35μm以下であることが好ましく、17μm以下がより好ましく、6μm以下がさらに好ましい。
上記範囲の表面粗さRzであると、構造的強度の信頼性がより一層高くなる。
【0054】
前記絶縁層の透気度は、前記絶縁層に接する電解質に含まれるリチウムイオンが内部を拡散して絶縁層を透過できる透気度であることが好ましく、例えば、1〜600秒/100ml程度であることが好ましい。50〜550秒/100mlがより好ましく、さらに好ましくは100〜500秒/100mlである。透気度が1秒/100ml以上であることにより、正極と負極間のイオン移動が容易に起こり、円滑な電気化学反応を得ることができる。透気度が600秒/100ml以下であることにより、微小短絡を充分に防止することができる。
前記透気度は、JIS P 8117に基づくガーレー試験機法によって求められる。
【0055】
前記電極を構成する絶縁層の透気度を測定する場合、絶縁層の土台である電極活物質層を除去して、残った絶縁層の透気度を測定することが好ましい。電極活物質層を除去する方法としては、絶縁層の透気度を実質的に変化させない方法を採用する。具体的な除去方法としては、電極活物質層を物理的又は化学的に剥離する方法、電極活物質層を溶剤によって溶解する方法等が挙げられる。
【0056】
前記電極を構成する絶縁層の厚さtは特に限定されないが、上記比(t/Rz)を満たした上で、例えば、2μm〜35μmが好ましく、3μm〜28μmがより好ましく、4μm〜17μmがさらに好ましく、4μm〜14μmが最も好ましい。
【0057】
前記絶縁層が2μm以上の厚さであることにより、絶縁性を充分に確保することができる。また、リチウムデンドライトが発生した場合にも、デンドライトの棘が絶縁層を貫通することを抑制することができる。前記絶縁層が35μm以下の厚さであることにより、当該絶縁層に由来する電気抵抗、すなわち電池における内部抵抗、を低減することができる。また、上記範囲であることにより、当該絶縁層における充分なイオン伝導度、透気度を得ることもできる。
【0058】
前記電極を構成する絶縁層の厚さtを測定する方法としては、当該電極の厚み方向の断面を走査型電子顕微鏡で観察したSEM写真から測ることができる。具体的には、前記断面のSEM写真において、画像処理等により、絶縁層と電極活物質層との境界線を作成し、その境界線と絶縁層の表面との距離を絶縁層の厚さとして測る。まず、測定対象の電極の任意の箇所における単一の断面において、絶縁層の平面方向に沿って、例えば1cm間隔で、10箇所測定し、それらの算術平均を一次平均厚さとして求める。さらに、同一の電極の任意の他の2箇所の断面において、同様に一次平均厚さを求める。得られた3つの一次平均厚さの算術平均の値を、当該測定対象の電極における絶縁層の厚さt(μm)とする。
【0059】
≪電気化学デバイス≫
本発明の第二態様の電極は、種々の電気化学デバイスの電極として使用することができる。例えば、一次電池、充放電することが可能な二次電池、電気二重層キャパシタが好適な電気化学デバイスとして挙げられる。
以下では、本発明の第二態様の電極を、正極及び負極のうち少なくとも一方の電極として備えた電気化学デバイスの一例として、リチウムイオン二次電池の構成を例示する。
【0060】
<負極>
本発明の第二態様の電極をリチウムイオン二次電池の負極として使用する場合、以下の材料を使用して、前述した本発明の第一態様の電極製造方法によって、当該負極を製造することができる。
【0061】
負極集電体上に配置される負極活物質層は、負極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び溶媒を含む負極材を負極集電体上に塗布して乾燥することにより形成することができる。その後、前述した方法で負極活物質層の上に絶縁層を形成することが好ましい。
【0062】
前記負極活物質としては、例えば、リチウムや、グラファイト、グラフェン、ハードカーボン、アセチレンブラック等の炭素材料が挙げられる。
前記導電助剤としては、例えばグラファイト、グラフェン、ハードカーボン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。
前記バインダー樹脂として、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルニトリル、ポリイミド等が挙げられる。
【0063】
前記溶媒としては非水系溶媒が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ターピネオール等のアルコール;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等の鎖状又は環状アミド;アセトン等のケトン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物などが挙げられる。
前記集電体を構成する材料としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性を有する金属が挙げられる。
前記負極活物質、導電助剤、バインダー樹脂及び溶媒は、何れも一種が単独で使用されてもよいし、二種以上が併用されてもよい。
【0064】
<正極>
本発明の第二態様の電極をリチウムイオン二次電池の正極として使用する場合、以下の材料を使用して、前述した本発明の第一態様の電極製造方法によって、当該正極を製造することができる。
【0065】
正極集電体上に配置される正極活物質層は、正極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び溶媒を含む正極材を正極集電体上に塗布して乾燥することにより形成することができる。その後、前述した方法で正極活物質層の上に絶縁層を形成することが好ましい。
【0066】
前記正極活物質としては、例えば、一般式「LiM
xO
y(式中、Mは金属であり;x及びyは、金属Mと酸素Oとの組成比である。)」で表される金属酸リチウム化合物が挙げられる。具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、硫黄、硫黄−炭素複合物等が例示できる。
【0067】
前記金属酸リチウム化合物は、前記一般式において、Mが複数種のものであってもよい。このような金属酸リチウム化合物としては、一般式「LiM
1pM
2qM
3rO
y(式中、M
1、M
2及びM
3は互いに異なる種類の金属であり;p、q、r及びyは、金属M
1、M
2及びM
3と酸素Oとの組成比である。)」で表されるものが例示できる。ここで、p+q+r=xである。具体的には、LiNi
0.33Mn
0.33Co
0.33O
2等が例示できる。
【0068】
前記正極を構成するバインダー樹脂、導電助剤、溶媒及び集電体としては、前記負極におけるものと同様のものが例示できる。前記正極活物質、導電助剤、バインダー樹脂及び溶媒は、何れも一種が単独で使用されてもよいし、二種以上が併用されてもよい。
【0069】
<電解質>
前記電解質は特に限定されず、例えば、公知のリチウムイオン二次電池で使用される公知の電解質、電解液等が適用可能である。電解液としては、電解質を固体状で用いたり、有機溶媒に電解質塩を溶解したりした混合溶液が例示できる。有機溶媒としては、高電圧に対する耐性を有するものが好ましく、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトロヒドラフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、メチルアセテートなどの極性溶媒、又はこれら溶媒の2種類以上の混合物が挙げられる。電解質塩としては、例えばリチウムイオン二次電池の場合、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiCF
6、LiCF
3CO
2、LiPF
6SO
3、LiN(SO
3CF
3)
2、Li(SO
2CF
2CF
3)
2、LiN(COCF
3)
2及びLiN(COCF
2CF
3)
2、リチウムビスオキサレートボラート(LiB(C
2O
4)
2等のリチウムを含む塩が挙げられる。また、有機酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体、LiBH
4等の錯体水素化物等の錯体が挙げられる。これらの塩又は錯体は、2種以上の混合物であってもよい。
電解質が溶媒を含む場合は、更に高分子化合物を含むゲル状電解質とされてもよい。前記高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等のポリアクリル系ポリマーが挙げられる。
【0070】
リチウムイオン二次電池の組み立て方法は特に限定されず、例えば、正極及び負極のうち少なくとも何れか一方が前述した絶縁層を備えた本発明の第二態様に係る電極であり、正極及び負極の間に前記絶縁層を配置した電極積層体を得て、この電極積層体をアルミラミネート袋等の外装体(筐体)に封入して、必要に応じて電解液を注入することによって、電極を構成する前記絶縁層に電解質が含浸されたリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【実施例】
【0071】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。以下、必要に応じてドライルーム内で作業を行った。
【0072】
<負極活物質層の形成>
黒鉛80質量部と、ハードカーボン15質量部と、ポリフッ化ビニリデン5質量部とを混合して、得られた混合物をN−メチルピロリドン中に分散させて、負極材スラリーを調製した。
【0073】
調製した負極材スラリーを銅箔(厚さ15μm)の両面に、所定の厚さで塗工し、100℃、−0.1MPa、10時間程度の条件で減圧乾燥させた後、ロールプレスした。以上の工程により、負極活物質層が銅箔の両面に形成された負極基材を得た。
各試験例における負極活物質層の表面粗さRzは、ロールプレスの加圧条件を適宜調整すること、及び、下記の様に材料を選定することによって、0.8μm〜40.7μmの範囲で調整した。
【0074】
負極活物質層の表面粗さRzが0.8μm〜11.4μmの範囲の試験例においては、表面粗さRzが3μmの銅箔を用い、平均粒子径が1μmの黒鉛と、平均粒子径が2.4μmのハードカーボンとを用いた。
負極活物質の表面粗さRzが16.2μm〜28.1μmの範囲の試験例においては、表面粗さRzが6μmの銅箔を用い、平均粒子径が1.5μmの黒鉛と、平均粒子径が4μmのハードカーボンを用いた。
負極活物質の表面粗さRzが35.4μm〜40.7μmの範囲の試験例においては、表面粗さRzが10μmの銅箔を用い、平均粒子径が3μmの黒鉛と、平均粒子径が8μmのハードカーボンを用いた。
【0075】
<絶縁層の形成>
エチレングリコール1質量部、エタノール20質量部、2−プロパノール20質量部及びトルエン50質量部を含む混合溶剤を調製した。この混合溶剤に、ポリビニルアルコール(平均重合度1700、ケン化度98モル%)をn−ブチルアルデヒドを用いてアセタール化したポリビニルブチラール樹脂(ブチラール化度は38モル%)20質量部と、スチレンブタジエン共重合体(SBR)5質量部とを加え、さらに直径2mmのセラミックボールを100ml加え、ボールミル(セイワ技研工業社製 BM−10)を用い、回転数100rpmで1時間撹拌した。
その後、さらにアルミナ粒子(TM−5D 大明化学工業社製社製、平均粒子径0.2μm)75質量部を加えて、前記ボールミルを用いて、回転数300rpmで2時間撹拌することにより、無機粒子の分散液(以下、無機分散液)を作製した。
【0076】
得られた無機分散液0.8質量部と、エタノール5質量部と、2−プロパノール5質量部とを混合し、超音波ホモジナイザーを用いてこの混合物を10分間分散処理した後、再度、前記ボールミルを用いて、500rpmで15分間混合することにより、スラリー組成物を作製した。なお、作製したスラリー組成物の使用前に、前記セラミックボール(直径2mm)を当該スラリー組成物から除去した。ここまでの操作は、25℃で行った。
【0077】
[実施例1〜30、比較例1〜14]
<負極の製造>
上記で作製した各負極基材を用いて、下記表に記載の表面粗さRzを有する負極活物質層の上に、上記スラリー組成物を適切な厚さで塗工して、さらに乾燥することにより、厚さtの絶縁層が積層されてなる負極を作製した。
作製した負極をカットして、負極活物質層の積層部分(104×62mm)と、負極活物質層の非積層部分(タブ部分、2×2cm程度)とを有する負極に成形して使用した。
【0078】
各負極における比(t/Rz)と各負極を使用したリチウムイオン二次電池のサイクル特性としての容量維持率(%)を表1及び表2に併記した。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
<正極の製造>
ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(Ni:Co:Mn=1:1:1)93質量部と、ポリフッ化ビニリデン3質量部と、導電助剤であるカーボンブラック4質量部とを混合して、得られた混合物をN−メチルピロリドン中に分散させて、正極材スラリーを調製した。
【0082】
調製した正極材スラリーをアルミニウム箔(厚さ15μm)の両面に、所定の厚さで塗布し、100℃、−0.1MPa、10時間の条件で減圧乾燥させた後、ロールプレスした。以上の工程により、正極活物質層がアルミニウム箔の両面に形成された正極基材を得た。得られた正極基材をカットして、正極活物質層の積層部分(102×60mm)と、正極活物質層の非積層部分(タブ部分、2×2cm程度)とを有する正極とした。
【0083】
<電解質の製造>
シュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体(LOX−BF
3)を、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)及びガンマブチロラクトン(GBL)の混合物(EC:DEC:GBL=30:60:10、質量比)に溶解させ、リチウムイオンの濃度が1.0モル/kgである電解液を得た。
【0084】
<リチウムイオン二次電池の製造>
各試験例で個別に作製した負極と、各試験例で共通の正極とを、負極の絶縁層が間に挟まれるように重ね合せて配置し、各電極の端子用タブを負極及び正極の外方に突出させ、それぞれのタブを超音波溶接により接合して、各試験例に対応する電極積層体を得た。
【0085】
各電極積層体の負極及び正極から突出させた前記端子用タブが外部へ突出するように、アルミニウムラミネートフィルムを配置し、電極積層体に電解液を抽液後、このフィルムの外周をラミネート加工して電極積層体を真空封止することにより、各試験例に対応するリチウムイオン二次電池を製造した。作製した電池の定格容量は200mAhである。
【0086】
[実施例31]
<負極の作製>
一酸化ケイ素(SiO、平均粒子径5.0μm、70質量部)、VGCF(登録商標)(5質量部)、SBR(5質量部)、及びポリアクリル酸(10質量部)を試薬瓶に入れ、さらに蒸留水を添加して濃度調整した後、自公転ミキサーを用いて2000rpmで2分間混合した。この混合物にアセチレンブラック(5質量部)、ケッチェンブラック(5質量部)を加え、自公転ミキサーを用いて2000rpmで2分間混合した。この混合物を超音波ホモジナイザーで10分間分散処理した後、再度、自公転ミキサーを用いてこの分散物を2000rpmで3分間混合することにより、負極材スラリーを得た。
上記のVGCF(登録商標)(正式名称:vapor grown carbon fiber)は、昭和電工社製の気相法炭素繊維である。その平均のアスペクト比(B)は400であり、その平均の直径(外径)は12.5nmであり、その平均の長さは5μmである。
【0087】
調製した負極材スラリーを銅箔(厚さ15μm、表面粗さRz3μm)に、所定の厚さで塗工し、50℃のホットプレート上でこれを乾燥させた後、ロールプレス機を用いて加圧条件を適宜調整してプレスすることにより、厚さ25μmの負極活物質層を形成し、負極前駆体を得た。
続いて、上記負極活物質層上に後述する電解液50μL/cm
2を滴下し、その滴下面上に厚さ200μmのリチウム箔を重ねて、この状態で48時間静置することにより、負極前駆体にリチウムをプレドープし、負極を得た。プレドープ後にリチウム箔を負極から取り除いた。
【0088】
<正極の製造>
ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(Ni:Co:Mn=1:1:1)93質量部と、ポリフッ化ビニリデン3質量部と、導電助剤であるカーボンブラック4質量部とを混合して、得られた混合物をN−メチルピロリドン中に分散させて、正極材スラリーを調製した。
【0089】
調製した正極材スラリーをアルミニウム箔(厚さ15μm)に、所定の厚さで塗布し、90℃、−0.1MPa、10時間の条件で減圧乾燥させた後、ロールプレス機を用いて加圧条件を適宜調整してプレスすることにより、アルミニウム箔上に活物質層の厚さ15μm、表面粗さRzが1.5μmの正極を得た。
【0090】
<絶縁層の形成>
ジメチルホルムアミド(DMF)100質量部とポリフッ化ビニリデン樹脂15質量部と直径2mmのセラミックボールを100ml加え、ボールミル(セイワ技研工業社製 BM−10)を用い、回転数100rpmで1時間撹拌した。
その後、さらにアルミナ粒子(TM−5D 大明化学工業社製社製、平均粒子径0.2μm)8質量部を加えて、前記ボールミルを用いて、回転数300rpmで2時間撹拌することにより、無機粒子の分散液(以下、無機分散液)を作製し、前記セラミックボール(直径2mm)を除去し、スラリー組成物を得た。ここまでの操作は、25℃で行った。
上記正極の正極活物質層の上に、上記スラリー組成物を適切な厚さで塗工して、さらに95℃、−0.1MPa、10時間の条件で減圧乾燥させた後、厚さ10μmの絶縁層が積層されてなる正極を作製した。
作製した正極をカットして、正極活物質層の積層部分(104×62mm)と、正極活物質層の非積層部分(タブ部分、2×2cm程度)とを有する正極に成形して使用した。
【0091】
<電解質の製造>
シュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体(LOX−BF
3)10重量部と、エチレンカーボネート(EC)10重量部と、ジエチルカーボネート(DEC)10重量部とを混合し溶解させ、組成物を調整した。
エチレンカーボネート(EC)30重量部と、ジエチルカーボネート(DEC)30重量部とポリフッ化ビニリデン樹脂10重量部とを混合し溶解させ、前記組成物に加えて混合し、ゲル状電解質を得た。
【0092】
<リチウムイオン二次電池の製造>
各電極の端子用タブを負極及び正極の外方に突出させ、それぞれのタブを超音波溶接により接合した。
前記負極に、前記ゲル電解質を25μmの厚さで塗工し、前記正極を、前記ゲル電解質と前記正極の絶縁層とが接するように重ね合せて配置し、電極積層体を得た。
【0093】
各電極積層体の負極及び正極から突出させた前記端子用タブが外部へ突出するように、アルミニウムラミネートフィルムを配置し、このフィルムの外周をラミネート加工して電極積層体を真空封止することにより、リチウムイオン二次電池を製造した。作製した電池の定格容量は約350mAhである。
実施例1等と同様に評価を実施した。結果を、表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
各試験例のリチウムイオン二次電池について、25℃において0.01C(印加電流値/電池の定格容量)の電圧印加(定電流定電圧充電)を、上限電圧1.5Vとして電流値が0.001Cに収束するまで行った。その後、セル内に発生したガスを抜き取るため、外装のラミネートフィルムの一部を開放し、再び真空封止して、充放電特性の評価に使用した。
【0096】
<リチウムイオン二次電池の充放電特性の評価>
各試験例に対応するリチウムイオン二次電池について、25℃において0.2C(印加電流値/電池の定格容量)の定電流定電圧充電を、上限電圧4.2Vとして電流値が0.1Cに収束するまで行った後、0.2Cの定電流放電を2.7Vまで行った。この時の放電容量を初期値(100%)とした。その後、1Cでの充放電サイクルを繰り返し行い、50サイクルでの放電容量を求め、容量維持率([50サイクル目の放電容量(mAh)]/[1サイクル目の放電容量(mAh)])×100(%)を算出した。その結果を表1〜表3に併記する。
【0097】
上記表において、容量維持率が85%以上である場合を「☆」、83%以上である場合を「◎」、80%以上である場合を「○」、80%未満である場合を「×」と表記した。
【0098】
以上の結果から、t/Rzの比が2よりも大きい場合に容量維持率「○」の評価が得ら
れ、t/Rzの比が4よりも大きい場合に容量維持率「◎」の評価が得られ、t/Rzの
比が8よりも大きい場合に容量維持率「☆」の評価が得られることが分かる
。
【0099】
また、全ての比較例のt/Rzの比は2以下であり、絶縁層tの厚さが35μm以下である場合には、容量維持率「×」の評価となった。絶縁層tの厚さが35μmを超える場合には、比較例であっても容量維持率の評価が高くなる場合があった。しかし、絶縁層が厚いことは、電池の内部抵抗が高いことを意味するため、この点で不利である。
【0100】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。