(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6871465
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】アイスクリーム様含気乳化組成物
(51)【国際特許分類】
A23G 9/32 20060101AFI20210426BHJP
A23G 9/34 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
A23G9/32
A23G9/34
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-139995(P2020-139995)
(22)【出願日】2020年8月21日
【審査請求日】2020年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2020-17715(P2020-17715)
(32)【優先日】2020年2月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306019030
【氏名又は名称】ハウスウェルネスフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】朝武 宗明
【審査官】
村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2018−033420(JP,A)
【文献】
特開2019−135958(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第106689636(CN,A)
【文献】
特開2003−171290(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/084461(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
52質量%超の量の水、及び5質量%以上かつ23質量%未満の量の油脂、ならびにサイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を含み、タンパク質を実質的に含まない、アイスクリーム様含気乳化組成物。
【請求項2】
油脂がキャノーラ油、菜種白絞油、大豆油、コーン油、綿実油、落花生油、ゴマ油、米油、米糠油、ツバキ油、ベニバナ油、オリーブ油、アマニ油、シソ油、エゴマ油、ヒマワリ油、ヤシ油、パーム油、ココナッツ油、茶油、アボガド油、ククイナッツ油、グレープシード油、ココアバター、小麦胚芽油、アーモンド油、月見草油、ひまし油、ヘーゼルナッツ油、マカダミアナッツ油、ローズヒップ油、ブドウ油からなる群から選択される一又は複数である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
サイクロデキストリンがα−サイクロデキストリンである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
水溶性ゲル化剤がカルボキシメチルセルロース、グルコマンナン、タマリンドガム、キサンタンガム、ιカラギーナン、ローカストビーンガム、λカラギーナン、κカラギーナン、ジェランガム、アルギン酸塩、グアーガムからなる群から選択される一又は複数である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
52質量%超の量の水、及び5質量%以上かつ23質量%未満の量の油脂、ならびにサイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を混和しタンパク質を実質的に含めない工程を含む、アイスクリーム様含気乳化組成物の製造方法。
【請求項6】
油脂、サイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を含む、水、油脂、サイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を含み、タンパク質を実質的に含まない、アイスクリーム様含気乳化組成物を製造するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、油脂、サイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を含み、タンパク質を実質的に含まない、アイスクリーム様含気乳化組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アイスクリームは、牛乳、生クリーム、卵黄等の原料を攪拌・混合して凍結して得られる氷菓であり、老若男女問わず人気を博している。
【0003】
一方、アイスクリームには乳や卵が含まれるために、それらの原料に対しアレルギーを有する人はアイスクリームを食すことができない。そのため、乳や卵に対しアレルギーを有する人でも食すことが可能な、乳や卵を含まないアイスクリーム様組成物が開発・報告されている。例えば、特許文献1には、水20〜45wt.%、油4〜40wt.%、サイクロデキストリン、糖を含有する水中油型エマルジョンを含むアイスクリームが開示されている。
また、特許文献2には、バターオイル、パーム油、糖類、デキストリンを含むアイスクリーム類が記載されているが、バターオイルは乳タンパク質を含む可能性があり、アレルギー表示の対象となっており、実際にアレルギー症例も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2018−504131号公報
【特許文献2】特開平11−253104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のアイスクリーム様組成物は、アイスクリーム特有の柔らかで滑らかな食感を有するものではなく、粘り気を帯び、あるいは、包含される氷結晶に起因してザラザラもしくはジャリジャリとした食感を有するものであった。
【0006】
そこで、本発明は、アイスクリーム特有の柔らかで滑らかな食感を有する新たなアイスクリーム様組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、52質量%超の量の水、及び23質量%未満の量の油脂、ならびにサイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を攪拌混合して凍結させて得られた、タンパク質を実質的に含まない、アイスクリーム様含気乳化組成物が、アイスクリーム特有の柔らかで滑らかな食感を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、これらの新規知見に基づくものであり、以下の発明を包含する。
[1] 52質量%超の量の水、及び23質量%未満の量の油脂、ならびにサイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を含み、タンパク質を実質的に含まない、アイスクリーム様含気乳化組成物。
[2] 油脂がキャノーラ油、菜種白絞油、大豆油、コーン油、綿実油、落花生油、ゴマ油、米油、米糠油、ツバキ油、ベニバナ油、オリーブ油、アマニ油、シソ油、エゴマ油、ヒマワリ油、ヤシ油(例えば、パーム油、ココナッツ油)、茶油、アボガド油、ククイナッツ油、グレープシード油、ココアバター、小麦胚芽油、アーモンド油、月見草油、ひまし油、ヘーゼルナッツ油、マカダミアナッツ油、ローズヒップ油、ブドウ油からなる群から選択される一又は複数である、[1]の組成物。
[3] サイクロデキストリンがα−サイクロデキストリンである、[1]又は[2]の組成物。
[4] 水溶性ゲル化剤がカルボキシメチルセルロース、グルコマンナン、タマリンドガム、キサンタンガム、ιカラギーナン、ローカストビーンガム、λカラギーナン、κカラギーナン、ジェランガム、アルギン酸塩、グアーガムからなる群から選択される一又は複数である、[1]〜[3]のいずれか一の組成物。
[5] 52質量%超の量の水、及び23質量%未満の量の油脂、ならびにサイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を混和しタンパク質を実質的に含めない工程を含む、アイスクリーム様含気乳化組成物の製造方法。
[6] 油脂、サイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を含む、アイスクリーム様含気乳化組成物を製造するためのキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アイスクリーム特有の柔らかで滑らかな食感を有するアイスクリーム様含気乳化組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、アイスクリーム様含気乳化組成物の油脂配合量と含気率(オーバーラン(%))との関係を示すグラフ図である。
【
図2】
図2は、アイスクリーム様含気乳化組成物におけるサイクロデキストリンと水溶性ゲル化剤との併用の効果を示す写真図である。(1)サイクロデキストリン及び水溶性ゲル化剤を配合した組成物、(2)サイクロデキストリンを含むが、水溶性ゲル化剤を含まない組成物、(3)水溶性ゲル化剤を含むが、サイクロデキストリンを含まない組成物をそれぞれ示す。スケールバーは10μm。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、水、油脂、サイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を含み、タンパク質を実質的に含まないアイスクリーム様含気乳化組成物に関するものである。
【0012】
本発明において「アイスクリーム様含気乳化組成物」とは、一般的なアイスクリームとは異なり原材料に乳、卵等のタンパク質を実質的に含まず、水、油脂、サイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤の各原料を混和・乳化し凍結したもので、その内部に空気を三次元的に分散して含み、少なくとも一部が凍結状態のまま、0℃以下で食用に供するものである。本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物は、一般的なアイスクリーム(例えば、ソフトクリーム、フローズンシェイク等を含む)と同等、又は類似する柔らかで滑らかな良好な食感を有する。
【0013】
本発明において「油脂」とは、食用に供される動植物性油脂(食用油とも呼ばれる場合がある)を意味し、アイスクリーム、特に、ラクトアイスやアイスミルクにおいて一般的に使用されるものを利用することができる。このような油脂としては、10℃における固体脂含有量(SFC)が0%〜35%、好ましくは0%〜30%、より好ましくは0%〜25%のものである。当該油脂は、好ましくは20℃におけるSFCが0%〜25%、好ましくは0%〜20%、より好ましくは0%〜15%のものである。また、当該油脂は、融点が20℃以上、23℃以上、25℃以上、27℃以上、30℃以上、又は35℃以上の範囲にあるものが好ましい。融点の上限は特に限定されないが、例えば、50℃以下、45℃以下、又は40℃以下とすることができる。あるいは、当該油脂は、凝固点が12℃以下、6℃以下、4℃以下、0℃以下、−3℃以下、−5℃以下、−7℃以下、−10℃以下、又は−15℃以下の範囲にあるものが好ましい。凝固点の下限は特に限定されないが、例えば、−25℃以上、又は−20℃以上とすることができる。
【0014】
本発明において利用可能な油脂としては、食用植物油脂が好ましく、より具体的には例えば、キャノーラ油、菜種白絞油、大豆油、コーン油、綿実油、落花生油、ゴマ油、米油、米糠油、ツバキ油、ベニバナ油、オリーブ油、アマニ油、シソ油、エゴマ油、ヒマワリ油、ヤシ油(例えば、パーム油、ココナッツ油)、茶油、アボガド油、ククイナッツ油、グレープシード油、ココアバター、小麦胚芽油、アーモンド油、月見草油、ひまし油、ヘーゼルナッツ油、マカダミアナッツ油、ローズヒップ油、ブドウ油等を挙げることができる(これらに限定はされない)。また、食用動物油脂としては、アレルギー物質(例えば、特定原材料7品目及び特定原材料に準ずるもの21品目より選択される一又は複数の物質)が含まれていないものや、除去されたものが好ましい。油脂はいずれか単独で用いてもよいし、異なる油脂を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物には油脂を、23質量%未満、好ましくは22質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは18質量%以下、特に好ましくは16質量%以下、例えば、14質量%以下、12質量%以下、又は10質量%以下の量にて含めることができる。含める油脂の量の下限は、5質量%以上、好ましくは8質量%以上、より好ましくは10質量%以上の量にて含めることができる。例えば本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物には油脂を、23質量%未満、5質量%以上、好ましくは22質量%以下、8質量%以上、より好ましくは20質量%以下、8質量%以上、さらに好ましくは18質量%以下、8質量%以上、特に好ましくは16質量%以下、10質量%以上、例えば、14質量%以下、8質量%以上、12質量%以下、8質量%以上、又は10質量%以下、8質量%以上の範囲より適宜選択される量にて含めることができる。
【0016】
本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物において、油脂の量を23質量%未満に調整することによって、凍結した際に一般的なアイスクリームと同等、又は類似する柔らかで滑らかな良好な食感を達成することができる。一方、油脂の量が5質量%よりも少ないと乳化が不十分となり、凍結してアイスクリーム様の食感が得られない場合があり、一方、油脂の量が23質量%以上となる場合には粘り気を帯び、風味を損なう場合がある。
【0017】
本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物において、水は凍結前に油脂を乳化して他の成分と共に水中油型エマルジョン形成することが可能な任意の量で含むことができ、例えば、52質量%超、好ましくは54質量%以上、より好ましくは58質量%以上、さらに好ましくは62質量%以上、例えば、66質量%以上の量にて含めることができる。含める水の量の上限は、特に限定されないが、90質量%以下とすることができる。例えば、本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物における水の含量は、52質量%超、90質量%以下、好ましくは54質量%以上、90質量%以下、より好ましくは58質量%以上、90質量%以下、さらに好ましくは62質量%以上、90質量%以下、例えば、66質量%以上、90質量%以下の範囲より適宜選択することができる。水の量が52質量%以下となる場合には、油脂の乳化が不十分となり、凍結した際にアイスクリーム様の食感が得られず、口の中でべたつきが感じられる場合がある。
【0018】
本発明において「サイクロデキストリン」は、ブドウ糖を構成単位とする環状無還元マルトオリゴ糖を意味し、ブドウ糖の数が6つのα−サイクロデキストリン、7つのβ−サイクロデキストリン、8つのγ−サイクロデキストリンが挙げられる。本発明においては、α−、β−、及びγ−サイクロデキストリン、ならびにそれらの任意の組み合わせを用いることができる。好ましくはα−サイクロデキストリンを使用する。α−サイクロデキストリンは水への溶解性が高く、凍結した際にざらつきの少ないアイスクリーム様含気乳化組成物を得ることができる。
【0019】
本発明において「水溶性ゲル化剤」とは、一般的に、水に溶解し、粘性を付与する物質(増粘剤、増粘安定剤、糊料等とも呼ばれる場合がある)を意味する。このような水溶性ゲル化剤としては増粘多糖類を用いることができ、例えば、カルボキシメチルセルロース、グルコマンナン、タマリンドガム、キサンタンガム、ιカラギーナン、ローカストビーンガム、λカラギーナン、κカラギーナン、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、グアーガム等を挙げることができる。水溶性ゲル化剤はいずれか単独で用いてもよいし、異なる水溶性ゲル化剤を組み合わせて用いてもよい。より好ましくは、水溶性ゲル化剤はカルボキシメチルセルロース、グルコマンナン、タマリンドガム、キサンタンガム、ιカラギーナン、ローカストビーンガム、λカラギーナン、κカラギーナン、ジェランガム、アルギン酸ナトリウムであり、さらに好ましくは、水溶性ゲル化剤はカルボキシメチルセルロース、グルコマンナン、キサンタンガム、ιカラギーナン、ローカストビーンガムであり、特に好ましくは、水溶性ゲル化剤はカルボキシメチルセルロース、グルコマンナン、キサンタンガムである。
【0020】
サイクロデキストリンと水溶性ゲル化剤とは併用することによって、組成物中の油脂の分散性を高め、乳化安定性を付与することができ、これにより当該組成物を凍結した際に一般的なアイスクリームと同等、又は類似する柔らかで滑らかな良好な食感を付与することができる。
【0021】
例えば、本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物中にはサイクロデキストリンを、0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上の量にて含めることができる。含めるサイクロデキストリンの量の上限は、特に限定されないが、5質量%以下、好ましくは3質量%以下とすることができる。例えば、本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物におけるサイクロデキストリンの含量は、0.1質量%〜5質量%、好ましくは0.5質量%〜3質量%、より好ましくは1質量%〜3質量%の範囲より適宜選択される量で含めることができる。併せて、本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物中には水溶性ゲル化剤を、0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上の量にて含めることができる。含める水溶性ゲル化剤の量の上限は、特に限定されないが、5質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下とすることができる。例えば、本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物におけるサイクロデキストリンの含量は、0.01質量%〜5質量%、好ましくは0.01質量%〜2質量%、より好ましくは0.05質量%〜1質量%、さらに好ましくは0.1質量%〜0.5質量%の範囲より適宜選択される量で含めることができる。サイクロデキストリン及び水溶性ゲル化剤の量がそれぞれ上記範囲よりも少ないと当該組成物の乳化安定性が不十分となる場合があり、一方、サイクロデキストリン及び水溶性ゲル化剤の量がそれぞれ上記範囲よりも多い場合には当該組成物の粘性が高くなりすぎる場合があり、いずれにおいても凍結した際に、一般的なアイスクリームと同等、又は類似する柔らかで滑らかな良好な食感が得られない場合がある。
【0022】
本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物は、タンパク質を実質的に含まないものとすることができる。タンパク質は一般的に、疎水性アミノ酸残基と親水性アミノ酸残基とから構成され、その両親媒性の特性から乳化作用を有する。そのため、多くの乳化食品において、タンパク質は乳化剤としての機能を果たしている。一般的なアイスクリームでは、原料として含まれる乳や卵に含まれるタンパク質がこの機能を果たしている。一方、本発明においては、水、油脂、サイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を含む水中油型エマルジョンを含んでなり、乳化剤として機能するタンパク質を用いなくてもよい。したがって、本発明において「タンパク質を実質的に含まず」や「タンパク質を実質的に含まない」とは、本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物においてタンパク質が乳化作用を発揮する態様で含まれないことを意味し、あらゆるタンパク質が一切含まれないことを必ずしも意味するものではない。好ましくは、本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物1g当たりにおいて、特定原材料(アレルギー物質)等由来のタンパク質含量が10μg未満であることを意味し、さらに好ましくは本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物において、卵や乳をはじめとするアレルギー物質(例えば、特定原材料7品目及び特定原材料に準ずるもの21品目より選択される一又は複数の物質)となるタンパク質が一切含まれないことを意味する。
【0023】
本発明において、凍結して得られたアイスクリーム様含気乳化組成物の内部に三次元的に分散して含まれる空気の量(含気率)は「オーバーラン(%)」によって示すことができる。本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物のオーバーラン(%)は従来公知の手法(食衛誌.Vol.9,No.5,409−413頁,1968;Milk Science.Vol.59,No.1,37−47頁,2010)に基づいて、下記式を用いて算出することができる。
【0025】
本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物のオーバーラン(%)は13%以上であり、好ましくは14%以上であり、より好ましくは16%以上、さらに好ましくは18%以上であり、特に好ましくは20%以上であり、とりわけ好ましくは22%以上である。本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物は、13%以上のオーバーラン(%)を有することにより、一般的なアイスクリームと同等、又は類似する柔らかで滑らかな良好な食感を達成することができる。一方、当該組成物のオーバーラン(%)が13%未満である場合には、一般的なアイスクリームと比較して、粘り気を有し、ふんわりとした食感を達成できない場合がある。
【0026】
本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物には、上記成分に加えて、必要に応じてさらに、飲食品の製造において通常用いられている保存剤、防腐剤、酸化防止剤、着色剤、溶剤、溶解補助剤、等張化剤、矯味矯臭剤、pH調整剤、香料、甘味料、呈味成分、酸味料等のその他の成分を配合することができる。これらその他の成分の配合量は、本発明において所望される、一般的なアイスクリームと同等、又は類似する良好な食感が妨げられない範囲で、適宜選択することができる。
【0027】
本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物は、水、油脂、サイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤、ならびに必要に応じて、その他の成分を混和、攪拌し、得られた乳化組成物を凍結することにより製造することができる。各成分は全て一緒に混和、攪拌してもよいし、各成分を別々にもしくは任意の組み合わせで順次添加して(順序は問わない)混和、攪拌してもよい。混和、攪拌して得られた乳化組成物は、加熱殺菌処理等に付すことができる。得られたアイスクリーム様含気乳化組成物は、適当な容器に充填された後、必要に応じて−3℃〜−10℃のフリージング工程(水分の凍結と空気の混入を行う工程)を経て、−10℃〜−30℃にて凍結させる。フリージング及び/又は凍結の工程は、必要に応じて攪拌しながら行うことができる。凍結した乳化組成物は、−3℃〜−30℃にて保存及び/又は提供することができる。
【0028】
本発明はまた、本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物を製造するためのキットに関する。キットには、油脂、サイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤、必要に応じて、その他の成分や水、が含まれ、それらは個別に別々の容器に、又は任意の組み合わせで別々の容器に収容することができる。
【0029】
キットに含まれる、油脂、サイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤、ならびに、その他の成分は、粉末や顆粒等の固形の形態としてもよいし(必要に応じて賦形剤等を利用してもよい)、水溶液や分散液等の液体の形態としてもよい。各成分はその形態に応じて、容器に収容される前、又は収容された後に加熱殺菌処理等に付され、キットの構成要素とすることができる。
【0030】
キットは上述の本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物の製造方法にしたがって利用することができ、ボール等の容器に、水(キットのいずれかの成分が液体の形態である場合、それに含まれる水を利用することができる)、油脂、サイクロデキストリン、及び、水溶性ゲル化剤、必要に応じてその他の成分を加えて、ミキサーやブレンダー等を用いて混合、攪拌し、次いで、得られた乳化組成物を適当な容器に充填し、必要に応じて−3℃〜−10℃のフリージング工程を経て、−10℃〜−30℃にて凍結させることによって、本発明のアイスクリーム様含気乳化組成物を得ることができる。フリージング及び/又は凍結の工程は、必要に応じて攪拌しながら行うことができる。
以下、本発明を実施例により、更に詳しく説明する。
【実施例】
【0031】
1.実験方法
(1)アイスクリーム様含気乳化組成物の作製
以下の表1の配合にしたがって、実施例1−5、ならびに比較例1−8のアイスクリーム様含気乳化組成物を作製した。表中の各成分の量は質量%にて示される。油脂として各種食用植物油脂(ヤシ油(パーム油)、ヒマワリ油、キャノーラ油、米油)を使用した。比較例3は、油脂に代えてタンパク質(牛乳や卵黄)を含んでなり、一般的なアイスクリームに相当するものである。
【0032】
各配合にしたがって原料をとり合計100g(撹拌前重量)についての体積(撹拌前体積)をメスシリンダーで計測した後、20,000rpm(KINEMATICA社製ポリトロン、type3020/2)で10分間撹拌して混和し、−18℃で10時間凍結して、アイスクリーム様含気乳化組成物を調製した。
【0033】
得られた実施例1−5のアイスクリーム様含気乳化組成物は、比較例3の一般的なアイスクリームと同様の柔らかさや滑らかさを有するものであった。一方、比較例1,2,4−8のアイスクリーム様含気乳化組成物は、実施例1−5のアイスクリーム様含気乳化組成物や比較例3の一般的なアイスクリームと比較して、粘り気を有し、ふんわりとした食感を有するものではなかった。
【0034】
【表1】
【0035】
(2)アイスクリーム様含気乳化組成物の含気率(オーバーラン(%))の測定
得られた各アイスクリーム様含気乳化組成物を−4℃環境下で、52.21mL容積(撹拌後体積)の容器に移し、すり切りいっぱいとしたときの組成物重量(撹拌後重量)を計測した。
【0036】
上記計測した撹拌前重量及び撹拌前体積ならびに撹拌後重量及び撹拌後体積の値よりオーバーラン(%)を上述の式を用いて算出した。各配合の撹拌前重量及び撹拌前体積の値、得られた各アイスクリーム様含気乳化組成物の撹拌後重量及び撹拌後体積の値、ならびに算出された各オーバーラン(%)の値を以下の表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
実施例1−5及び比較例1,2,4−8の各アイスクリーム様含気乳化組成物の油脂配合量(質量%)とオーバーラン(%)と関係を示すグラフを
図1に示す。
【0039】
この結果より、いずれの油脂を用いた場合においても、油脂配合量が20〜25質量%の間にオーバーラン(%)が急激に変化することが確認され、特に20〜23質量%の間に存在する変曲点により、油脂配合量を23質量%未満とすることによって、オーバーラン(%)を比較的高い値に維持できることが明らかとなった。
【0040】
(2)サイクロデキストリンと水溶性ゲル化剤との併用効果
以下の表3の配合にしたがって、各成分を20,000rpmで10分間撹拌して混和した後、各組成物中の油滴の状態を顕微鏡で観察した。表中の各成分の量は質量%にて示される。
【0041】
【表3】
【0042】
各組成物中の油滴の観察結果を
図2に示す。
サイクロデキストリン及び水溶性ゲル化剤を併用する実施例Aにおいて、油滴は細かく、かつ組成物全体に分散して存在していることが観察された(
図2(1))。このような組成物を凍結することによって、標準的なアイスクリームと同様の柔らかさや滑らかさを有するアイスクリーム様含気乳化組成物を達成することができる。
【0043】
一方、サイクロデキストリンを含むが、水溶性ゲル化剤を含まない比較例Aにおいては、実施例Aと比べて油滴は大きく、また組成物中に密に存在しているところと疎になっているところがあり、分散が一様ではないことが観察された(
図2(2))。このような組成物を凍結すると、組成物中の氷結晶が大きくなりザリザリとした食感を生じ、標準的なアイスクリームと同様の柔らかさや滑らかさを達成することはできなかった。また、乳化安定性が低いことからソフトクリーム様とした場合に保形性が乏しく、すぐに溶けてしまうことが確認された。
【0044】
そして、水溶性ゲル化剤を含むが、サイクロデキストリンを含まない比較例Cにおいては、非常に大きな油滴が組成物中に分散していることが観察された(
図2(3))。比較例Cは、サイクロデキストリンを含まないため厳密には乳化しておらず、水溶性ゲル化剤により若干粘度が増加しているだけの組成物であった。このような組成物を凍結すると、氷結晶がかなり大きくなり氷菓のようなじゃりじゃりした食感を有することが確認され、標準的なアイスクリームと同様の柔らかさや滑らかさを達成することはできなかった。
【0045】
この結果より、水及び油脂を含む組成物に、水溶性ゲル化剤とサイクロデキストリンとを併用することにより、組成物中に油脂を細かく一様に分散させることができ、これを凍結することによりアイスクリーム特有の柔らかで滑らかな食感を有するアイスクリーム様含気乳化組成物が得られることが確認された。水及び油脂を含む組成物に水溶性ゲル化剤とサイクロデキストリンとを配合した組成物の形態は、水溶性ゲル化剤又はサイクロデキストリンのいずれかを配合した組成物のいずれの形態とも明らかに異なるものであり、水溶性ゲル化剤とサイクロデキストリンとの併用によりもたらされる効果は、いずれかを単独で配合した組成物からは予測し得ないものであった。
【要約】
【課題】 本発明は、アイスクリーム特有の柔らかで滑らかな食感を有するアイスクリーム様含気乳化組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 52質量%超の量の水、及び23質量%未満の量の油脂、ならびにサイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を含み、タンパク質を実質的に含まない、アイスクリーム様含気乳化組成物。
【選択図】なし