特許第6871476号(P6871476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6871476-積層造形方法及び積層造形装置 図000002
  • 特許6871476-積層造形方法及び積層造形装置 図000003
  • 特許6871476-積層造形方法及び積層造形装置 図000004
  • 特許6871476-積層造形方法及び積層造形装置 図000005
  • 特許6871476-積層造形方法及び積層造形装置 図000006
  • 特許6871476-積層造形方法及び積層造形装置 図000007
  • 特許6871476-積層造形方法及び積層造形装置 図000008
  • 特許6871476-積層造形方法及び積層造形装置 図000009
  • 特許6871476-積層造形方法及び積層造形装置 図000010
  • 特許6871476-積層造形方法及び積層造形装置 図000011
  • 特許6871476-積層造形方法及び積層造形装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871476
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】積層造形方法及び積層造形装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20210426BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20210426BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20210426BHJP
【FI】
   B23K20/12 310
   B23K20/12 344
   B23K20/12 340
   B33Y10/00
   B33Y30/00
【請求項の数】19
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-505071(P2020-505071)
(86)(22)【出願日】2019年3月6日
(86)【国際出願番号】JP2019008799
(87)【国際公開番号】WO2019172300
(87)【国際公開日】20190912
【審査請求日】2020年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2018-42689(P2018-42689)
(32)【優先日】2018年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】今泉 陽登
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 泰之
(72)【発明者】
【氏名】石井 建
(72)【発明者】
【氏名】小室 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】井上 明子
(72)【発明者】
【氏名】木村 新太郎
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0293840(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0041921(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第1952931(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0040006(US,A1)
【文献】 国際公開第02/24393(WO,A1)
【文献】 特開2007−144519(JP,A)
【文献】 特開2007−229721(JP,A)
【文献】 特開2015−120974(JP,A)
【文献】 特開2008−290133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
B33Y 10/00 − 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の母材の表面上に金属製の粉末材料を積層造形するための積層造形方法であって、
前記粉末材料を前記母材の前記表面上に供給するステップと、
回転可能な回転工具を回転させながら前記表面に対して平行な方向に沿って移動させることにより、前記粉末材料及び前記表面を摩擦攪拌して非溶融のまま前記粉末材料を前記表面に接合させるステップと、
前記粉末材料が前記表面に接合されて構成された接合部上に前記粉末材料を供給するステップと、
前記回転工具を回転させながら前記表面に対して平行な方向に沿って移動させることにより、前記粉末材料及び前記接合部を摩擦攪拌して非溶融のまま前記粉末材料を前記接合部に接合させるステップと
を含む積層造形方法。
【請求項2】
前記表面に前記粉末材料を接合して前記表面に対して突出する立体形状の積層造形体が積層造形される、請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項3】
前記接合部に前記粉末材料を供給しながら前記粉末材料及び前記接合部を摩擦攪拌して前記粉末材料を前記接合部上に接合させる、請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項4】
記回転工具は、
窪み面が形成された先端面と、
前記窪み面によって画定された保持空間と、
前記保持空間と前記回転工具の外部とを連通する連通部と
を備え、
前記連通部を介して前記粉末材料を前記保持空間に流入させながら前記回転工具を回転させることにより摩擦攪拌を行う、請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項5】
前記回転工具を準備するステップの後に、前記回転工具の回転方向に沿って前記回転工具を囲むガイド部材を準備するステップをさらに備える、請求項4に記載の積層造形方法。
【請求項6】
前記粉末材料を前記母材の前記表面上に供給するステップの前に、前記粉末材料を供給するための供給部材を準備する工程をさらに備え、
前記粉末材料は、前記供給部材によって前記ガイド部材の内部に供給される、請求項5に記載の積層造形方法。
【請求項7】
前記金属は、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル基合金、鉄系材、チタン合金、銅合金、ステンレス、又はインコネルである、請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項8】
金属製の積層面上に金属製の粉末材料を積層造形するための積層造形装置であって、
前記積層造形装置は、回転可能な回転工具を備え、
前記回転工具は、
窪み面が形成された先端面と、
前記先端面のうち前記窪み面から最も突出した部分よりも突出するように設けられたピンと
を備え
前記窪み面から最も突出した部分は前記窪み面を囲むように形成されている積層造形装置。
【請求項9】
前記回転工具は、前記窪み面によって画定された保持空間と前記回転工具の外部とを連通する連通部が形成されている、請求項8に記載の積層造形装置。
【請求項10】
前記先端面には、渦巻き状の渦巻き溝が形成されており、該渦巻き溝は、前記回転工具の回転方向に沿って前記先端面の外周縁に向かう方向に延びている、請求項8に記載の積層造形装置。
【請求項11】
前記積層面上に前記粉末材料を供給する供給部材をさらに備える、請求項8に記載の積層造形装置。
【請求項12】
金属製の積層面上に金属製の粉末材料を積層造形するための積層造形装置であって、
前記積層造形装置は、
先端面及び該先端面から突出するピンを有する回転可能な回転工具と、
前記回転工具の回転方向に沿って前記回転工具を囲むガイド部材と
を備え
前記回転工具と前記ガイド部材との間には間隔があいている積層造形装置。
【請求項13】
前記回転工具は円柱形状の外表面を有し、該外表面には螺旋状の螺旋溝が形成され、該螺旋溝は、前記回転工具の回転方向に沿って前記先端面から遠ざかる方向に延びている、請求項12に記載の積層造形装置。
【請求項14】
前記ガイド部材は、前記積層面に面する第1縁部と、該第1縁部に対向する第2縁部とを有し、前記ガイド部材には、前記第1縁部から前記第2縁部に向かって切り欠かれた切欠部が形成されている、請求項12に記載の積層造形装置。
【請求項15】
前記ガイド部材には、冷却流体が流通するための流路が形成されている、請求項12に記載の積層造形装置。
【請求項16】
前記ガイド部材の内部に前記粉末材料を供給するための供給部材をさらに備える、請求項12に記載の積層造形装置。
【請求項17】
前記ピンの外周面にはねじ溝が形成され、該ねじ溝は、前記回転工具の回転方向に沿って前記ピンの基端から先端に向かって延びている、請求項8に記載の積層造形装置。
【請求項18】
前記ピンの外周面にはねじ溝が形成され、該ねじ溝は、前記回転工具の回転方向に沿って前記ピンの基端から先端に向かって延びている、請求項12に記載の積層造形装置。
【請求項19】
前記回転工具の回転方向に沿って前記回転工具を囲むガイド部材が設けられ、
前記粉末材料を前記表面に接合させるステップ及び前記粉末材料を前記接合部に接合させるステップはそれぞれ、前記ガイド部材を冷却しながら行われる、請求項1に記載の積層造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属製の積層面上に金属製の粉末材料を積層造形するための積層造形方法及び積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の3D造形技術として、複雑な微細構造の造形を得意とするレーザー溶接法(SLM)や、寸法の制約なしに高速・局所の造形が可能なレーザーメタルデポジション(LMD)が挙げられる。しかし、これらの従来技術はいずれも、材料を溶融して造形する技術であるため、変形量が大きく、溶融できない材料や欠陥が生じやすい材料(例えば2000系アルミ等)への適用が困難である。
【0003】
一方、造形技術ではなく接合技術ではあるが、接合部分を溶融せずに部材同士を接合することのできる摩擦攪拌接合(FSW)が公知である。FSWは、先端に突起のある円筒状の工具を回転させながら、接合させる部材の接合部に突起を貫入させて摩擦熱により部材を軟化させるとともに、工具の回転力によって接合部周辺を塑性流動させて練り混ぜることで部材同士を接合させる方法である。このようなFSWに関する発明が、例えば特許文献1及び2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0043429号明細書
【特許文献2】特許第3735296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの鋭意検討の結果、FSWの原理を用いて、材料を溶融せずに積層造形できることが明らかになった。尚、特許文献1及び2のいずれにも、FSWの原理を用いて積層造形できることは記載されていない。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、材料を溶融せずに積層造形できる積層造形方法及び積層造形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の少なくとも1つの実施形態に係る積層造形方法は、金属製の母材の表面上に金属製の粉末材料を積層造形するための積層造形方法であって、前記粉末材料を前記母材の前記表面上に供給するステップと、前記粉末材料及び前記表面を摩擦攪拌して非溶融のまま前記粉末材料を前記表面に接合させるステップと、前記粉末材料が前記表面に接合されて構成された接合部上に前記粉末材料を供給するステップと、前記粉末材料及び前記接合部を摩擦攪拌して非溶融のまま前記粉末材料を前記接合部に接合させるステップとを含む。
【0008】
上記方法によると、金属製の母材の表面に非溶融のまま粉末材料を接合させて接合部を構成した後、接合部に非溶融のまま粉末材料を接合させることができるので、材料を溶融せずに積層造形することができる。
【0009】
いくつかの実施形態では、前記表面に前記粉末材料を接合して前記表面に対して突出する立体形状の積層造形体が積層造形されてもよい。
【0010】
いくつかの実施形態では、前記接合部に前記粉末材料を供給しながら前記粉末材料及び前記接合部を摩擦攪拌して前記粉末材料を前記接合部上に接合させてもよい。
【0011】
いくつかの実施形態では、前記粉末材料を前記表面に接合させるステップの前に、回転可能な回転工具を準備するステップをさらに備えてもよく、前記回転工具は、窪み面が形成された先端面と、前記窪み面によって画定された保持空間と、前記保持空間と前記回転工具の外部とを連通する連通部とを備え、前記連通部を介して前記粉末材料を前記保持空間に流入させながら前記回転工具を回転させることにより摩擦攪拌を行ってもよい。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記回転工具を準備するステップの後に、前記回転工具の回転方向に沿って前記回転工具を囲むガイド部材を準備するステップをさらに備えてもよい。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記粉末材料を前記母材の前記表面上に供給するステップの前に、前記粉末材料を供給するための供給部材を準備する工程をさらに備えてもよく、前記粉末材料は、前記供給部材によって前記ガイド部材の内部に供給されてもよい。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記金属は、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル基合金、鉄系材、チタン合金、銅合金、ステンレス、又はインコネルであってもよい。
【0015】
本開示の少なくとも1つの実施形態に係る積層造形装置は、金属製の積層面上に金属製の粉末材料を積層造形するための積層造形装置であって、前記積層造形装置は、回転可能な回転工具を備え、前記回転工具は、窪み面が形成された先端面と、前記先端面のうち前記窪み面から最も突出した部分よりも突出するように設けられたピンとを備える。
【0016】
上記構成によると、先端面に形成された窪み面によって画定される保持空間内に粉末材料を保持した状態で粉末材料を摩擦攪拌することができるので、摩擦攪拌されずに回転工具の周囲に散逸してしまう粉末材料を低減し、回転工具が粉末材料を確実に摩擦攪拌することができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記回転工具は、前記窪み面によって画定された保持空間と前記回転工具の外部とを連通する連通部が形成されてもよい。
【0018】
上記構成によると、積層面上に供給された粉末材料に沿って積層造形装置を移動させる際に粉末材料が連通部を介して保持空間内に入り込むので、粉末材料を保持空間内に導入しやすくすることができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、前記先端面には、渦巻き状の渦巻き溝が形成されており、該渦巻き溝は、前記回転工具の回転方向に沿って前記先端面の外周縁に向かう方向に延びてもよい。
【0020】
上記構成によると、回転工具が回転すると、粉末材料は渦巻き溝に沿って先端面の中心に向かって移動するので、保持空間内における粉末材料の攪拌が促進され、粉末材料の摩擦攪拌の効果を高めることができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、前記積層面上に前記粉末材料を供給する供給部材をさらに備えてもよい。
【0022】
上記構成によると、積層面上に粉末材料を供給しながら摩擦攪拌することができるので、積層面上に粉末材料を供給した後に摩擦攪拌する場合に比べて効率的に積層造形をすることができる。
【0023】
本開示の少なくとも1つの実施形態に係る積層造形装置は、金属製の積層面上に金属製の粉末材料を積層造形するための積層造形装置であって、前記積層造形装置は、先端面及び該先端面から突出するピンを有する回転可能な回転工具と、前記回転工具の回転方向に沿って前記回転工具を囲むガイド部材とを備える。
【0024】
上記構成によると、摩擦攪拌されずに回転工具の周囲に散逸してしまう粉末材料をガイド部材によって低減することができるので、回転工具が粉末材料を確実に摩擦攪拌することができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、前記回転工具は円柱形状の外表面を有し、該外表面には螺旋状の螺旋溝が形成され、該螺旋溝は、前記回転工具の回転方向に沿って前記先端面から遠ざかる方向に延びてもよい。
【0026】
上記構成によると、ガイド部材の内周面と回転工具の外表面との間にある粉末材料は、回転工具が回転することによって螺旋溝に沿って先端面に向かって移動し、先端面と積層面との間に入り込みやすくなるので、回転工具が粉末材料を確実に摩擦攪拌することができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、前記ガイド部材は、前記積層面に面する第1縁部と、該第1縁部に対向する第2縁部とを有し、前記ガイド部材には、前記第1縁部から前記第2縁部に向かって切り欠かれた切欠部が形成されてもよい。
【0028】
上記構成によると、積層造形装置が移動する際に、粉末材料が積層面に接合されて構成された接合部は切欠部を通過するので、ガイド部材の接合部への引っ掛かりを抑制して積層造形装置をスムーズに移動させることができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、前記ガイド部材には、冷却流体が流通するための流路が形成されてもよい。
【0030】
上記構成によると、冷却流体によって摩擦攪拌中にガイド部材が冷却されるので、回転工具とガイド部材との間での焼き付きを低減することができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、前記ガイド部材の内部に前記粉末材料を供給するための供給部材をさらに備えてもよい。
【0032】
上記構成によると、積層面上に粉末材料を供給しながら摩擦攪拌することができるので、積層面上に粉末材料を供給した後に摩擦攪拌する場合に比べて効率的に積層造形をすることができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、前記ピンの外周面にはねじ溝が形成され、該ねじ溝は、前記回転工具の回転方向に沿って前記ピンの基端から先端に向かって延びてもよい。
【0034】
上記構成によると、粉末材料が摩擦攪拌される際に、粉末材料はねじ溝に沿ってピンの先端から基端に向かって移動するので、粉末材料の攪拌が促進され、粉末材料の摩擦攪拌の効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0035】
本開示の少なくとも1つの実施形態によれば、金属製の母材の表面に非溶融のまま粉末材料を接合させて接合部を構成した後、接合部に非溶融のまま粉末材料を接合させることができるので、材料を溶融せずに積層造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本開示の実施形態1に係る積層造形装置の構成を示す模式図である。
図2】本開示の実施形態1に係る積層造形装置による積層造形方法を説明するための図である。
図3】摩擦攪拌によって粉末材料を積層面に接合させるメカニズムを説明するための図である。
図4】本開示の実施形態2に係る積層造形装置の回転工具の構成を示す断面模式図である。
図5】本開示の実施形態2に係る積層造形装置の回転工具の底面図である。
図6】本開示の実施形態2に係る積層造形装置の回転工具を用いた摩擦攪拌によって粉末材料を積層面に接合させるメカニズムを説明するための図である。
図7】本開示の実施形態2に係る積層造形装置の回転工具の先端面に形成された窪み面の変形例を示す断面図である。
図8】本開示の実施形態2に係る積層造形装置の回転工具の先端面に形成された窪み面の別の変形例を示す断面図である。
図9】本開示の実施形態3に係る積層造形装置の構成を示す模式図である。
図10】本開示の実施形態2に係る積層造形装置の回転工具の構成を示す正面模式図である。
図11】本開示の実施形態2に係る積層造形装置のガイド部材の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して本発明のいくつかの実施形態について説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、本発明の範囲をそれにのみ限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0038】
(実施形態1)
図1に示されるように、実施形態1に係る積層造形装置1は、回転可能に設けられた回転工具2と、金属製の粉末材料9を供給する供給部材である粉末供給ノズル3とを備えている。粉末供給ノズル3は、粉末材料9を貯蔵した貯蔵部4と連通している。貯蔵部4から粉末供給ノズル3への粉末材料9の供給は、粉末材料9の自重を利用してもよいし、図示しないフィーダー等を利用してもよい。
【0039】
回転工具2は、回転工具2を回転させるための図示しない回転装置が把持するための把持部5と、粉末材料9と接触して粉末材料9を摩擦攪拌する平坦な先端面7を含む摩擦攪拌部6とを有している。先端面7には、先端面7から突出するようにピン8が設けられている。
【0040】
次に、実施形態1に係る積層造形装置1を用いた積層造形方法について説明する。
実施形態1では、図2に示されるように、積層造形装置1によって、金属製の積層面10上、すなわち、金属製の母材11の表面11a上に、粉末材料9が積層造形される。ここで、粉末材料9及び母材11を構成する金属は同じ金属でも異なる金属でもよく、使用可能な金属としては、アルミニウム、ニッケル基合金、鉄系材を含む一般的な金属である。また、使用可能な金属として、アルミニウム合金、チタン合金、銅合金、ステンレス、又はインコネル等を挙げることもできる。
【0041】
積層造形装置1による積層造形中、回転工具2は、その回転軸線Lを中心に矢印Aの方向に回転しながら、母材11の表面11aに対して平行に移動する。この移動方向を矢印Bで示している。移動方向Bにおいて回転工具2の直前に粉末供給ノズル3から表面11a上に粉末材料9が供給される。回転工具2が移動方向Bに移動すると、粉末材料9は、表面11aと回転工具2の先端面7(図1参照)に挟まれる。回転工具2は、矢印Aの方向に回転しながら粉末材料9に圧力を加えることで、粉末材料9が摩擦攪拌される。
【0042】
尚、回転工具2の回転速度及び回転工具2の移動速度(又は粉末供給ノズル3の移動速度と言い換えてもよい)はそれぞれ、使用する金属の種類やその他の条件に応じて適宜変更可能であるが、例えば、母材11及び粉末材料9がそれぞれアルミニウム合金の場合、回転速度は150〜400rpm、より好ましくは250〜400rpmとすることができ、移動速度は5〜15インチ/分、より好ましくは7〜14インチ/分とすることができる。
【0043】
図3に示されるように、回転工具2が回転するとピン8も回転するので、ピン8は、表面11aのうち粉末材料9で覆われた部分に当接しながら回転する。すなわち、ピン8は、表面11aのうち粉末材料9で覆われた部分を摩擦攪拌する。そうすると、ピン8と表面11aとの当接部分に発生する摩擦熱と圧力とによって、母材11を構成する金属が塑性流動化する。一方、粉末材料9も先端面7による摩擦攪拌によって塑性流動化する。塑性流動化した母材11及び粉末材料9の金属同士は混合する。
【0044】
回転工具2は移動方向Bに移動するので、移動方向Bにおいて回転工具2の後方側で、塑性流動化した金属は摩擦熱を失って急速に冷却硬化するので、母材11及び粉末材料9の塑性流動化した金属同士が混合し合って完全に一体化した状態で接合され、表面11a上に接合部12が形成される。金属が塑性流動化する温度は融点よりもかなり低いので、母材11と粉末材料9との接合は固相接合の範疇に入る。すなわち、母材11と粉末材料9との接合は非溶融のまま行われる。このため、接合過程を通して金属への入熱量は小さく、かつ、凝固収縮に伴う応力の発生もないから、接合部12の近傍の熱歪みによる変形や割れが生じにくくなる。
【0045】
図2に示されるように、表面11a上に接合部12を形成後、接合部12に粉末材料9を供給しながら、先端面7によって粉末材料9を摩擦攪拌しながらピン8(図1参照)によって接合部12を摩擦攪拌することによって、接合部12上に粉末材料9が非溶融のまま接合される。尚、接合部12に粉末材料9が接合される場合、積層面10は接合部12の表面12aとなる。この動作を繰り返すことによって、任意の立体形状の接合部12、すなわち積層造形体が表面11a上に形成される。
【0046】
このように、金属製の粉末材料9及び金属製の積層面10を摩擦攪拌して非溶融のまま粉末材料9を積層面10に接合させることができるので、材料を溶融せずに積層造形することができる。
【0047】
(実施形態2)
次に、実施形態2に係る積層造形装置及び積層造形方法について説明する。実施形態2に係る積層造形装置及び積層造形方法は、実施形態1に対して、回転工具2の構成を変更したものである。尚、実施形態2において、実施形態1の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0048】
図4に示されるように、実施形態2では、回転工具2の摩擦攪拌部6の先端面7は、窪み面20と、窪み面20を囲むように形成された円環形状の平坦面21とを含んでいる。窪み面20によって円錐台形状の保持空間25が画定されている。また、先端面7にはピン8が設けられている。ピン8の基端8bは窪み面20上に位置し、ピン8の先端8aは、先端面7のうち窪み面20から最も突出した部分よりも突出している、すなわち平坦面21よりも突出している。
【0049】
実施形態2では必須の構成ではないが、摩擦攪拌部6に、保持空間25と回転工具2の外部とを連通する連通部24を形成してもよい。連通部24は例えば、平坦面21から回転工具2の長さ方向に沿って切り欠かれたスリット24aとすることができる。スリット24aの幅、長さ、個数等は任意に決定することができる。また、連通部24は、摩擦攪拌部6を貫通する貫通孔であってもよい。連通部24が貫通孔の場合、貫通孔の形状、開口面積、個数等は任意に決定することができる。
【0050】
実施形態2では必須の構成ではないが、ピン8の外周面8cにねじ溝22を形成してもよい。ねじ溝22は、回転工具2の回転方向Aに沿ってピン8の基端8bから先端8aに向かって延びるように形成されることが好ましい。
【0051】
実施形態2では必須の構成ではないが、図5に示されるように、平坦面21に、渦巻き状の渦巻き溝23を形成してもよい。渦巻き溝23は、回転工具2の回転方向Aに沿って先端面7の外周縁7aに向かう方向、言い換えると、実施形態2では平坦面21の外周縁21aに向かう方向に延びるように形成されることが好ましい。渦巻き溝23は、平坦面21に渦巻き状に延びる窪みすなわち溝を形成することによって構成することもできるし、平坦面21から突出するように渦巻き状に延びる部材を取り付けることによって構成することもできる。尚、渦巻き溝23は、平坦面21にのみ形成されることに限定するものではなく、平坦面21から連続的に窪み面20に形成されてもよい。
その他の構成は実施形態1と同じである。
【0052】
実施形態2において粉末材料9(図1参照)が積層面10(図1参照)に接合される原理と、積層造形装置1による積層造形方法の基本的部分とは実施形態1と同じである。そこで、以下では、実施形態2の積層造形装置1のみが有する構成要件に関する動作及びそれから得られる作用効果について説明する。
【0053】
図6に示されるように、回転工具2が矢印Aの方向に回転しながら矢印Bの方向に移動すると、スリット24aは周期的に矢印Bの方向に向くことになる。スリット24aが矢印Bの方向に向いたときに、スリット24aを介して粉末材料9(図1参照)が保持空間25内に入り込むので、粉末材料9を保持空間25内に導入しやすくすることができる。また、保持空間25内に導入された粉末材料9を保持することにより、摩擦攪拌されずに回転工具2の周囲に散逸してしまう粉末材料9を低減することができるので、回転工具2が粉末材料9を確実に摩擦攪拌することができる。
【0054】
図4に示されるように、ピン8の外周面8cにねじ溝22が形成されている場合、回転工具2が矢印Aの方向に回転すると、保持空間25内の粉末材料9はねじ溝22に沿って移動する。ねじ溝22が、回転工具2の回転方向Aに沿ってピン8の基端8bから先端8aに向かって延びるように形成されていると、粉末材料9は、ねじ溝22に沿ってピン8の先端8aから基端8bに向かって移動する。この結果、保持空間25内における粉末材料9の攪拌が促進され、粉末材料9の摩擦攪拌の効果を高めることができる。
【0055】
図5に示されるように、平坦面21には渦巻き溝23が形成されている場合、回転工具2が矢印Aの方向に回転すると、渦巻き溝23に沿って粉末材料9が移動する。渦巻き溝23が、回転工具2の回転方向Aに沿って平坦面21の外周縁21aに向かう方向に延びていると、粉末材料9は保持空間25に向かって移動して保持空間25内に導入され、保持空間25内で摩擦攪拌される。渦巻き溝23が平坦面21だけではなく平坦面21から連続的に窪み面20にも形成されていると、粉末材料9は、保持空間25内で渦巻き溝23に沿って先端面7の中心に向かって移動する。その結果、保持空間25内における粉末材料9の攪拌が促進され、粉末材料9の摩擦攪拌の効果を高めることができる。
【0056】
このように、実施形態2では、先端面7に形成された保持空間25内に粉末材料9を保持した状態で粉末材料9を摩擦攪拌することができるので、摩擦攪拌されずに回転工具2の周囲に散逸してしまう粉末材料9を低減し、回転工具2が粉末材料9を確実に摩擦攪拌することができる。
【0057】
実施形態2では、保持空間25は円錐台形状を有していたが、この形状に限定するものではない。保持空間25は、粉末材料9を保持できる形状であればどのような形状でもよく、例えば、図7に示されるような円錐形状や、図8に示されるような円柱形状等であってもよい。
【0058】
実施形態2では、ピン8の基端8bは窪み面20上に位置していたが、この形態に限定するものではない。ピン8の基端8bが平坦面21上に位置していてもよい。
【0059】
(実施形態3)
次に、実施形態3に係る積層造形装置及び積層造形方法について説明する。実施形態3に係る積層造形装置及び積層造形方法は、実施形態1に対して、回転工具2をガイド部材で囲むようにしたものである。尚、実施形態3において、実施形態1の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0060】
図9に示されるように、実施形態3に係る積層造形装置1は、回転可能に設けられた回転工具2と、回転工具2の回転方向Aに沿って回転工具2を囲む円筒形状のガイド部材30と、粉末材料9をガイド部材30内に供給する粉末供給ノズル3とを備えている。
【0061】
図10に示されるように、回転工具2の摩擦攪拌部6は円柱形状の外表面6bを有している。実施形態3では必須の構成ではないが、外表面6bに螺旋状の螺旋溝31を形成してもよい。螺旋溝31は、回転工具2の回転方向Aに沿って先端面7から遠ざかる方向に延びるように形成されることが好ましい。螺旋溝31は、外表面6bに螺旋状に延びる窪みすなわち溝を形成することによって構成することもできるし、外表面6bから突出するように螺旋状に延びる部材を取り付けることによって構成することもできる。
【0062】
図11に示されるように、円筒形状のガイド部材30は、積層面10(図1参照)に面する第1縁部30aと、第1縁部30aに対向する第2縁部30bとを有している。実施形態3では必須の構成ではないが、ガイド部材30に、第1縁部30aから第2縁部30bに向かって切り欠かれた切欠部32を形成してもよい。切欠部32の幅wは、接合部12(図1参照)の幅よりも大きい必要がある。また、実施形態3では必須の構成ではないが、ガイド部材30に、冷却水のような冷却流体が流通するための流路33を形成してもよい。積層造形中、流路33は、冷却流体の図示しない供給源に連通される。
その他の構成は実施形態1と同じである。
【0063】
実施形態3において粉末材料9(図1参照)が積層面10(図1参照)に接合される原理と、積層造形装置1による積層造形方法の基本的部分とは実施形態1と同じである。そこで、以下では、実施形態3の積層造形装置1のみが有する構成要件に関する動作及びそれから得られる作用効果について説明する。
【0064】
図9に示されるように、実施形態3では、粉末供給ノズル3を介してガイド部材30内に供給される粉末材料9を回転工具2が摩擦攪拌する。そうすると、摩擦攪拌されずに回転工具2の周囲に散逸してしまう粉末材料9をガイド部材30によって低減することができるので、回転工具2が粉末材料9を確実に摩擦攪拌することができる。
【0065】
粉末供給ノズル3を介してガイド部材30内に供給される粉末材料9の一部は、回転工具2の摩擦攪拌部6の外表面6b(図10参照)とガイド部材30の内周面との間に位置する。この状態で回転工具2が矢印Aの方向に回転すると、外表面6bに螺旋溝31(図10参照)が形成されている場合、粉末材料9が螺旋溝31に沿って移動する。螺旋溝31が、回転工具2の回転方向Aに沿って先端面7から遠ざかる方向に延びるように形成されていると、粉末材料9は、螺旋溝31に沿って先端面7に向かって移動する。その結果、粉末材料9が先端面7と積層面10(図1参照)との間に入り込みやすくなるので、回転工具2が粉末材料9を確実に摩擦攪拌することができる。
【0066】
また、積層造形装置1による積層造形中に、摩擦熱により粉末材料9及び母材11(図1参照)の温度が上昇する。図11に示されるように、冷却流体が流通するための流路33がガイド部材30に形成されている場合、摩擦攪拌中に冷却流体によってガイド部材30が冷却されるので、回転工具2とガイド部材30との間での焼き付きを低減することができる。
【0067】
さらに、ガイド部材30に切欠部32が形成されていると、積層造形装置1(図9参照)が移動する際に、形成された接合部12(図2参照)が切欠部32を通過するので、ガイド部材30の接合部12への引っ掛かりを抑制して積層造形装置1をスムーズに移動させることができる。
【0068】
このように、実施形態3では、摩擦攪拌されずに回転工具2の周囲に散逸してしまう粉末材料9をガイド部材30によって低減することができるので、回転工具2が粉末材料9を確実に摩擦攪拌することができる。
【0069】
実施形態1及び3のそれぞれにおいて、ピン8の外周面8cに実施形態2のねじ溝22を形成してもよく、また、先端面7に実施形態2の渦巻き溝23を形成してもよい。
【0070】
実施形態1〜3のそれぞれにおいて、積層造形装置1は粉末供給ノズル3を有していなくてもよい。この場合には、積層面10上に予め粉末材料9を供給した後に、回転工具2で摩擦攪拌を行うことができる。
【符号の説明】
【0071】
1 積層造形装置
2 回転工具
3 粉末供給ノズル(供給部材)
4 貯蔵部
5 把持部
6 摩擦攪拌部
6b (摩擦攪拌部の)外表面
7 先端面
7a (先端面の)外周縁
8 ピン
8a (ピンの)先端
8b (ピンの)基端
8c (ピンの)外周面
9 粉末材料
10 積層面
11 母材
11a (母材の)表面
12 接合部
12a (接合部)の表面
20 窪み面
21 平坦面
21a (平坦面の)外周縁
22 ねじ溝
23 渦巻き溝
24 連通部
24a スリット
25 保持空間
30 ガイド部材
30a 第1縁部
30b 第2縁部
31 螺旋溝
32 切欠部
33 流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11