(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871481
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】自動車用のエアバッグシステム
(51)【国際特許分類】
B60R 21/36 20110101AFI20210426BHJP
B60R 21/38 20110101ALI20210426BHJP
【FI】
B60R21/36 351
B60R21/38 321
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-516381(P2020-516381)
(86)(22)【出願日】2018年6月20日
(65)【公表番号】特表2020-534205(P2020-534205A)
(43)【公表日】2020年11月26日
(86)【国際出願番号】EP2018066424
(87)【国際公開番号】WO2019057355
(87)【国際公開日】20190328
【審査請求日】2020年3月24日
(31)【優先権主張番号】102017008818.7
(32)【優先日】2017年9月20日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 清
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 みどり
(72)【発明者】
【氏名】イヴ・クラウス
(72)【発明者】
【氏名】ティル・ハインリヒ
(72)【発明者】
【氏名】インゴ・カリスケ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・ポーストマン
(72)【発明者】
【氏名】ノーマン・シュタインケ
【審査官】
田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−338676(JP,A)
【文献】
特表2017−521315(JP,A)
【文献】
特開2009−234431(JP,A)
【文献】
特開2007−203815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/36
B60R 21/16
B60R 21/213
B60R 21/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを充填することにより展開可能であるエアバッグ(10)と、
エンベロープ(11)であって、その内部に前記エアバッグ(10)が前記充填の前後に配置される前記エンベロープ(11)と、
を備える、自動車(2)用のエアバッグシステムにおいて、
前記エアバッグ(10)は、前記充填の前に前記エンベロープ(11)および前記自動車(2)の車両ピラー(22)の第1の端部(110、220;111、221)の領域にあり、前記充填によって、前記エンベロープ(11)の内部で、かつ前記車両ピラー(22)の少なくとも一区分に沿って、前記エンベロープ(11)および前記車両ピラー(22)の第2の端部(110、220;111、221)に向かって展開可能であるように提供されかつ前記自動車(2)に配置されるものであることを特徴とする、エアバッグシステム。
【請求項2】
前記エンベロープ(11)の前記第1の端部および/または前記第2の端部(110、111)に取り付けられた少なくとも1つの固定装置(12A、12B)を用いて、前記エンベロープ(11)が、前記自動車(2)の可動部分に固定可能である、または固定されるものであることを特徴とする、請求項1に記載のエアバッグシステム。
【請求項3】
前記可動部分は、車両フード(20)または前記車両フード(20)に取り付けられたヒンジ(15)であることを特徴とする、請求項2に記載のエアバッグシステム。
【請求項4】
前記エアバッグ(10)は、前記充填の前に、前記エンベロープ(11)の長手方向延伸部および前記車両ピラー(22)の長手方向延伸部の最大で半分または最大で3分の1にわたってのみ延びていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエアバッグシステム。
【請求項5】
前記エアバッグ(10)は、充填状態において、前記エンベロープ(11)および前記車両ピラー(22)の長手方向延伸部の少なくとも3分の1または少なくとも半分にわたって延びていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のエアバッグシステム。
【請求項6】
前記エアバッグ(10)は、前記充填の前に、車両高さ方向(z)に関して前記車両ピラー(22)の下方端部または上方端部に面して、またはその中に配置されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のエアバッグシステム。
【請求項7】
前記エンベロープ(11)は、織物チューブである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のエアバッグシステム。
【請求項8】
前記エンベロープ(11)は、ネット状材料を含む、またはネット状材料からなることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のエアバッグシステム。
【請求項9】
前記エンベロープ(11)は、長手方向延伸部を備えて細長く形成され、前記エアバッグを充填すると、前記エンベロープ(11)の前記長手方向延伸部が短縮されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載のエアバッグシステム。
【請求項10】
前記エンベロープ(11)は、前記エアバッグシステム(1、1’)が前記自動車(2)での使用に従って組み立てられる場合、前記車両ピラー(22)に沿って延びていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載のエアバッグシステム。
【請求項11】
前記エアバッグ(10)および/または前記エンベロープ(11)は、少なくとも部分的に可撓性のカバー(16)によって、少なくとも部分的に囲まれていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のエアバッグシステム。
【請求項12】
前記カバー(16)は、熱の作用下で収縮するカバーとして形成されていることを特徴とする、請求項11に記載のエアバッグシステム。
【請求項13】
前記エアバッグ(10)は、少なくとも2つのチャンバ(103、104)を有することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載のエアバッグシステム。
【請求項14】
前記チャンバのうちの一方(104)は、他方のチャンバ(103)を囲むことを特徴とする、請求項13に記載のエアバッグシステム。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の少なくとも1つのエアバッグシステム(1;1’)を特徴とする、自動車(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに記載の、特に自動車の外側にいる人を保護するための自動車用のエアバッグシステム、およびそのようなエアバッグシステムを備えた自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
そのようなエアバッグシステムは、ガス発生器によって提供されるガスを充填することにより、未充填の初期状態から展開状態に膨張可能なエアバッグと、エアバッグが充填前の初期状態および充填後の展開状態で内部に配置されるエンベロープと、を含む。
【0003】
そのようなエアバッグシステムは、例えば、自動車の外装面の一部を変位させて車両の外側にいる人を保護するための駆動装置として使用できる。衝突時に外装面の一部、例えば、ボンネットを変位させることにより、外装面に衝突する人の衝撃エネルギーが(変位の方向に対するボンネットの移動または変形によって)制御されて減少し、外装面の下に置かれた剛性の自動車構成要素(例えば、エンジンブロック)との接触を低減するかまたは全く回避することもできる可能性が生じる。
【0004】
特許文献1から、それぞれ自動車の2つのAピラーのうちの1つを覆うために役立ち、同時にボンネットを変位させるためのアクチュエータとして機能する、細長いエアバッグが公知である。このために、エアバッグはそれぞれ、エンベロープとしての織物チューブで囲まれており、織物チューブは、エアバッグが充填されるとAピラーに沿ってその延伸方向で短くなるため、ボンネットに張力を加えてボンネットを変位させる。このような配置では、エアバッグだけではなく周囲の織物チューブもまた、未使用状態(非作動状態)でAピラーに格納する必要がある。ただし、Aピラーの断面積が比較的小さいため、格納のために限定的な格納スペースのみが利用可能であり、このことがエアバッグのサイズを大幅に制限する。エアバッグのサイズは、特にAピラーの延伸方向に対して横方向の寸法において、織物チューブの達成可能な短縮について重要であり、したがってボンネットの変位の程度について最終的に決定的である。したがって、このような配置では、ボンネットのわずかな変位しか許されず、このことが衝突する人に対する保護の可能性を大幅に制限する。
【0005】
特許文献2には、ボンネットを変位させるための、ボンネットの下側に配置された様々なアクチュエータが記載されており、アクチュエータは、ボンネットを十分に変位させることができる。しかし、同様に衝突領域に存在する可能性がある、ボンネットに隣接して配置された車両構成要素(例えば、Aピラー)を覆うために、場合によっては、追加の措置が必要になる。
さらに、特許文献3は、エアバッグを示しており、それは充填前に車両ピラーの一端で自動車の外側領域に配置されており、充填時に車両ピラーに沿って展開するものであり、この装置は、ロッド形状ガイド機構を有し、エアバッグは、そのガイド機構上をそれに沿って移動する。このために、エアバッグは、ガイドロッド上をそれに沿ってスライドし、したがって、展開時にエアバッグをガイドロッドに保持する接続ストラップを有する。
それに対して、特許文献4は、前方自動車ピラーの外側のエアバッグシステムを示しており、そこでは、エアバッグは、充填前にすでに自動車ピラーに沿って折り畳まれて配置されており、第1および第2の固定装置を介してエアバッグの外縁部で車両に接続されている。固定装置はまた、エアバッグの充填後も、エアバッグの一方の側でエアバッグを自動車ピラーに沿って保持するため、エアバッグは、折り畳まれた状態から自動車ピラーに沿って、自動車ピラーに対して本質的に横方向に展開できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】DE102014010872A1
【特許文献2】WO2004/007247A2
【特許文献3】EP1479574A1
【特許文献4】EP2105358A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、衝突時に改善された保護作用を有するエアバッグシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本課題は、請求項1に記載のエアバッグシステムによって解決される。
これによれば、エアバッグは、非充填状態でエンベロープおよび/または自動車の特に細長い車両ピラーの第1の端部領域にあり、充填によって、エンベロープの内部および/または、エンベロープおよび/または車両ピラーの少なくとも一区分に沿った長手方向で、エンベロープおよび/または車両ピラーの第2の端部の方向に展開可能であるように設けられ、かつ自動車に配置可能であることが提供される。
【0009】
エンベロープおよび/または車両ピラーの端部領域では、特に広い設置スペースを利用可能とすることができる。エンベロープおよび/または車両ピラーの端部領域における配置により、エアバッグシステムでは、特に大きなエアバッグを使用でき、エアバッグは、衝突時に特に良好な保護作用を提供できる。エンベロープ内のエアバッグの配置により、エアバッグがガスで充填されると、エンベロープに沿って、したがって車両ピラーに沿って適切に展開し、車両ピラーを覆うことが実現できる。この場合、既知のエアバッグシステムの場合よりも大きなエアバッグ断面積が可能である。そのようなエアバッグシステムにより、自動車の外装面の一部は、変位経路を増加させて変位可能である。エアバッグは、ガスで充填される前に、好適には、エンベロープの2つの端部のうちの一方のみに配置され、2つの端部のうちの他方から離間している。ガスを充填することにより、エアバッグは、エンベロープの一方の端部から開始してエンベロープの他方の端部に向けて膨張可能である。
【0010】
一実施形態によれば、エンベロープは、自動車の可動部分に、特に、例えば、長手方向側の端部領域で、固定可能であるかまたは固定されている。それによって、エンベロープの張力は、例えば、エンベロープの収縮によって可動部分に誘導できる。そのために、エアバッグシステムは、例えば、エンベロープの第1の端部および/または第2の端部に固定されたそれぞれ少なくとも1つの固定装置を含む。
【0011】
可動部分は、例えば、自動車の外装面の一部、特に車両フード、例えば、ボンネットもしくはトランクリッド、または可動部分に取り付けられた(例えば、可動部分に接続可能なまたは接続された)ヒンジである。エアバッグシステムにより、例えば、車両の外側にいる人に対する改善された保護作用を達成するために、そのような可動部分を設置できる。
【0012】
エアバッグは、ガスを充填する前に、エンベロープの長手方向延伸部および/または車両ピラーの長手方向延伸部の最大で半分または最大で3分の1にわたってのみ延びるように設けることができる。このようなサイズ比率で、エアバッグの特に効率的な展開が可能である。
【0013】
代替的または追加的に、エアバッグは、そのガスで充填された状態で、エンベロープおよび/または車両ピラーの長手方向延伸部の少なくとも3分の1または少なくとも半分にわたって、例えば、実質的にエンベロープおよび/または車両ピラーの長手方向延伸部全体にわたって延びるように設けることができる。このようにして、特に良好な保護作用が実現可能である。
【0014】
エアバッグは、充填の前に、車両ピラーの(例えば、車両高さ方向に対して下方または上方に関して)端部に面して、またはその中に配置可能である。例えば、エアバッグは、Aピラーの下方領域に、もしくは下方領域に隣接して、または上方領域に、もしくは上方領域に隣接して自動車に配置される。これらの設置位置に、車両仕様に応じて、特に大きなエアバッグを格納できる。
【0015】
エンベロープは、例えば、織物チューブである。織物チューブは、展開中のエアバッグを、エアバッグの展開方向に関して案内できる。
【0016】
エンベロープは、ネット状材料を含んでもよく、またはネット状材料からなってもよい。ネット状材料は、特に十分に広げることができる。
【0017】
エンベロープは、例えば、長手方向延伸部が細長く形成されている。エアバッグを充填すると、エンベロープの長手方向延伸部が短縮するように作用できる。特に、ネット状材料(例えば、チューブ状ネットの形態)を使用することにより、織物チューブは、エアバッグによって引き伸ばされ、それにより長さが収縮し、例えば、ネット状材料のメッシュが広がり、それにより長さが収縮する。
【0018】
エアバッグシステムが自動車での使用に従って取り付けられている場合、エンベロープは、車両ピラーに沿って延びることができる。例えば、エンベロープは、車両ピラーの収容部で使用可能であるように形成されており、例えば、エンベロープは、収容部の形状に本質的に適合するように形成されている。
【0019】
エアバッグシステムの部品は、少なくとも部分的に可撓性カバーで囲まれていてもよい。特に、エアバッグおよび/またはエンベロープは、少なくとも部分的に、特に少なくとも大部分が、可撓性のカバーによって、少なくとも部分的に囲まれていてもよい。そのようなカバーは、環境の影響からエンベロープおよびエアバッグを保護し、自動車へのエアバッグシステムの設置を容易にすることができる。
【0020】
カバーは、例えば、熱の作用下で収縮するカバーとして形成されている。例えば、カバーは、収縮性チューブであり、任意選択的に内側にコーティングを有する。それによって、エンベロープおよび/またはエアバッグは、製造時にまだ収縮していないカバーに簡単に挿入できる。その後、カバーは、熱の作用により収縮し、特に簡単に設置可能なパッケージが生じる。
【0021】
エアバッグは、例えば、少なくとも2つのチャンバを有する。エアバッグは、2チャンバエアバッグとして形成してもよい。チャンバは、例えば、通路開口部によって互いに接続されている。それによって、第1のチャンバと第2のチャンバとを時間的にずらして展開することが達成できる。開口部を除いて、2つのチャンバは、例えば、エアバッグの少なくとも1つの材料層によって互いに分離されている。
【0022】
発展形態によれば、特にエアバッグの膨張していない、平らに広がった状態に関して、2つのチャンバのうちの一方が2つのチャンバのうちの他方を少なくとも部分的に取り囲む。2つのチャンバのうちの一方は、2つのチャンバのうちの他方に向かって突出してもよい。第1のチャンバは、第2のチャンバをほぼ完全に貫通してもよい。例えば、2つのチャンバのうちの一方は、2つのチャンバのうちの他方を少なくとも部分的に収容する。それによって、エアバッグを時間的にずらしての展開が、例えば、最初に内側のチャンバを膨張させ、それに続いて第2のチャンバを膨張させことによって、最初に本質的に長手方向に(特にエンベロープの長手方向に)、その後本質的に幅方向に実現できる。
【0023】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書に記載の任意の実施形態による1つのエアバッグシステムまたは複数の、特に2つのエアバッグシステムを備える自動車が提供される。
【0024】
本発明を以下で図面を参照し、実施例に基づいてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】非膨張状態のエアバッグを備える、自動車での使用に従って配置されたエアバッグシステムの実施例の概略図である。
【
図2】膨張状態のエアバッグを備える、
図1に記載のエアバッグシステムの図である。
【
図3】自動車に設置する前の、
図1に記載の非膨張状態のエアバッグシステムの概略図である。
【
図4】
図1〜
図3に記載のエアバッグシステムのエアバッグの概略図である。
【
図5】織物チューブとして形成されたエアバッグシステムのカバーの端部の概略図である。
【
図6】非膨張状態のエアバッグを備える、自動車での使用に従って配置されたエアバッグシステムのさらなる実施例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下の説明は、自動車2の外側にいる人を保護するために、自動車2の外装面の一部を変位させるための(単一の)エアバッグシステム1の図示に基づいて行われる。なお、複数の、例えば、2つのエアバッグシステム1を、例えば、それぞれフロントガラス23の両側の自動車2のAピラー22の領域に設けることができる。
【0027】
図1および
図3は、非作動状態のエアバッグシステム1を示す。
図1は、自動車2に設置された状態のエアバッグシステム1を示し、一方で
図3は、設置前の状態のエアバッグシステム1を拡大図で示す。
【0028】
エアバッグシステム1は、エンベロープ11に格納されたエアバッグ10を含む。エアバッグシステム1は、エアバッグ10を膨張させるためにガスダクト14を介してエアバッグ10に接続されているガス発生器アセンブリ13をさらに含む。エンベロープ11は、2つの固定装置12A、12Bを用いて自動車2に固定可能である。本明細書において、エンベロープは、織物チューブ11として形成されている。エアバッグ10、エンベロープ11およびガスダクト14は、カバー16内に配置されている。
【0029】
本明細書において、エアバッグシステム1は、エアバッグシステム1のガス発生器側の端部が車両に固定されて(例えば、サイドメンバーに)配置されている。エアバッグシステム1は、自動車2の車両ピラー22の下方端部221の付近で自動車に固定されている。本明細書において、エアバッグシステム1は、Aピラー22として形成された自動車2の車両ピラーの下方端部221付近のフェンダ21の領域で自動車2に固定されている。エアバッグシステム1は、そのガス発生器側の端部から始まり、Aピラー22の下方端部221を超えて、Aピラー22に沿って、その上方端部220まで延びている。
図1によれば、エアバッグシステム1は、Aピラー22の上方端部220に隣接する車両ルーフ24の領域まで延びている。上方端部220および下方端部221の名称は、それぞれ、車両高さ軸zに対するそれらの配置/位置に関係する。車両高さ軸zは、車両横方向軸yおよび車両長手方向軸xと共に直角座標系の座標軸を形成する。Aピラー22は、フロントガラス23と車両ドア26との間に延びている。
【0030】
特に
図3に示すように、ガス発生器アセンブリ13は、ガス発生器130を含む。ガス発生器130は、ハウジング131内に配置されている。ハウジング131には、ガス発生器130の点火電子装置を通すため、および/またはガス発生器130の起動後の(例えば、蓋とハウジング本体との間、または蓋またはハウジング本体自体にある)ガス出口のために、開口部(図示せず)が設けられている。ハウジング131には、車両2にハウジング131を固定するための固定手段(同様に図示せず)が設けられている。
【0031】
カバー16は、分岐を形成している。分岐のうちの一方の枝部は、ガスダクト14に沿って延びている。例えば、図示したクランプ141の形態の適切な固定手段を介して、エアバッグシステム1のカバー16は、ガスダクト14を形成するその領域がガス発生器アセンブリ13のガス出口132に確実に接続されている。ガス発生器130によって放出されたガスを誘導するために、ガス出口132および/またはガスダクト14に、一体化チャネルまたは別個のガス誘導要素を設けてもよい。本明細書において、ガスダクト14は、ガスライン140を含む。ガスライン140は、カバー16内に配置されている。
【0032】
ガスダクト14には、(ガスダクト14と比較して)その断面積が拡大されたカバー16の領域が隣接している。カバー16の拡大された領域は、Aピラー22に沿った延伸方向に(カバー16の全長と比較して)わずかな長さしかない。より大きな断面積のこの領域は、エアバッグ10を収容するのに役立つ。エアバッグ10は、その非作動状態では折り畳まれている。
【0033】
エアバッグシステム1が車両2に設置された状態では、エアバッグ10が、Aピラー22の下方端部221に配置されているのは、Aピラー22は、下方端部221では通常より大きな断面積を有しているから、すなわち、エアバッグ10を格納するためのより広い設置スペースが利用可能だからである。
【0034】
車両周囲に関して、エアバッグシステム1は、衝突時にエアバッグ10の展開を妨げることのない外装要素(装飾要素)で覆われている。展開中のエアバッグ10は、外装要素を押出し、自動車2の外側に向かって展開できる。
【0035】
さらなる経路において(特に、Aピラー22の上方端部220まで)、カバー16は、再びより小さい断面積を有するため、問題なくAピラー22に格納できる。より小さな断面積は、この領域において、エアバッグ10を囲む織物チューブ11のみがカバー16によって収容され、エアバッグ10が収容されていないことによって可能になる。織物チューブ11は、折り畳まれたエアバッグ10からAピラー22の上方端部220まで延びている。エアバッグシステム1のより小さい断面積の区分は、Aピラー22の内側、例えば、このために設けられた、特に長手方向に延伸する格納スペースに配置されている。
【0036】
織物チューブ11として形成されたエンベロープは、細長い。折り畳まれたエアバッグ10は、織物チューブ11の長手方向の第1の端部111(この場合は下方端部)の領域に配置されている。折り畳まれたエアバッグ10は、織物チューブ11の第1の(下方)端部の反対側にある長手方向の第2の(この場合は上方)端部110から離間して配置されている。折り畳まれたエアバッグ10と織物チューブ11の第2の(上方)端部110との間の距離は、Aピラー22の長さにほぼ相当する。
【0037】
織物チューブ11の織物は、ネット状に形成されている。織物チューブ11のネット状織物は、例えば、1mm超または1cm超の比較的大きなメッシュサイズを有する。織物チューブ11は、その上方端部110が、Aピラー22の上方端部220または車両ルーフ24のAピラー22に隣接する領域で車両に固定されている。このために、上方端部110には、例えば、その上に金属タブ120が固定された保持ストラップ121の形態の固定装置12Aが設けられている。本明細書において、固定装置12Aは、カバー16から突出している。そのような固定装置12Aの例は、
図5に示されている。保持ストラップ121の代わりに、金属タブ120は、織物チューブ11の端部110に直接取り付けられてもよい。
【0038】
エアバッグシステムの組立時に織物チューブ11における折り畳まれたエアバッグ10の配置は、織物チューブ11のまだ開いている端部110、111を介して行うことができる。代替的に、織物チューブ11のスリット形状の開口部を介して送り込むこともまた可能である。
【0039】
その反対側にある下方端部111で、織物チューブ11は、この場合は自動車2のボンネット20の形態の車両フードに、好ましくはボンネット20に取り付けられたヒンジ15に固定される。本明細書において、織物チューブ11は、ヒンジ15を介してボンネット20に接続されている。ボンネット20またはヒンジ15に固定するための固定装置12Bは、織物チューブ11の上方端部110の固定に関連して説明した固定装置12Aと同一の仕様であってもよい。ただし構造上の理由から、この場合は、保持ストラップ121は、(上方固定装置12Aよりも)長さがより長く、好適には、カバー16に囲まれている。
【0040】
本明細書において例示的なヒンジ15では、第1のヒンジ要素151は、ボンネット20に取り付けられており、特に一方の端部がボンネット20に旋回可能に固定されている。本明細書において、ボンネット20は、第1のヒンジ要素151が(接続部位152により)旋回可能に固定されている固定部位200を提供する。第2のヒンジ要素152は、一方の端部で車両固定要素に旋回可能にヒンジ結合されている。本明細書において、フェンダ21によって覆われた固定部位210が提供され、その固定部位210では、第2のヒンジ要素152が(接続部位154で)旋回可能に固定されている。
【0041】
2つのヒンジ要素151、152は、それぞれその他方の(接続部位152、154の反対側にある)端部で、本明細書において、ジョイント150を用いて相対的に旋回可能に互いに接続されている。この領域(この場合はジョイント150)では、本明細書において、織物チューブ11もまた、その下方端部111で、下方固定装置12Bを介して(取り付けられた保持ストラップ121および金属タブ120を介して)固定されている。
【0042】
図1に示したエアバッグシステム1の非作動状態では、ボンネット20は、エンジンルームにアクセスするために(例えば、メンテナンス作業のために)車両2の前部領域(図示せず)におけるロック解除の処理後、車両横方向軸yに平行な旋回軸線の周りに旋回可能である。その場合、旋回軸線は、ヒンジ15によって決定される。本明細書において、旋回軸線は、例えば、ボンネット20の固定部位200で(図示した、y方向で反対側にある)ヒンジ15の第1ヒンジ要素151のヒンジ接続点を通って延びていてもよい。ヒンジ15は、ロック可能な仕様であることが好ましい。ロック状態では、ヒンジ15は、ジョイント150では旋回できない。あるいは、ジョイント150は、旋回軸線を形成する。
【0043】
カバー16は、塵、水分および他の環境の影響からエアバッグシステム1を保護するのに役立つ。好ましくは、カバー16は、寸法が適切な熱可塑性プラスチック製の収縮チューブを用いて実現される。カバー16は、より良好な密封のためにその内側にホットメルト接着剤が施されていてもよい。特に、カバー16が熱の作用下で、被覆すべき部品(例えば、織物チューブ11およびエアバッグ10)に配置されることが提供されてもよい。この仕様では、エアバッグシステム1に形状を付与することになるが、同時に、延伸方向に沿った(ある程度の)柔軟性を可能にする。したがって、エアバッグシステム1を車両2に問題なく設置することが可能になる。部分的に、補強要素をカバー上および/またはカバー内に設けてもよい。
【0044】
エアバッグシステム1を用いて、自動車2の外装面の一部、特に自動車2の前部領域、本明細書において、自動車2のボンネット20は、自動車2の残りの部分に対して変位してもよい、特に立ち上げられてもよい。加えて、エアバッグシステム1は、以下で説明するように、車両ピラー22にパッドを提供することができるため、特に効果的な保護作用が達成可能である。
【0045】
図2では、
図1に記載のエアバッグシステム1は、エアバッグ10が展開状態で示されている。
【0046】
車両の前部領域に人が衝突する可能性を(このために設けられたセンサ装置によって)検知し、その結果としてガス発生器130が作動した後、ガス発生器130によって放出されたガスは、ガスライン140を介してエアバッグ10に誘導された。それにより充填されるエアバッグ10は、エアバッグシステム1のカバー16および外装要素をAピラー22上でむき出しにしたため、エアバッグ10は、エアバッグ10を囲む織物チューブ11と共に、それらの格納スペースから飛び出すことができた。
【0047】
最初に織物チューブ11内の下方端部111の領域にのみ配置されたエアバッグ10は、その後、織物チューブ11の延伸方向に沿って(Aピラーに沿って)織物チューブ11内で織物チューブ11の上方端部110まで展開される。したがって、エアバッグ10を充填することにより、エアバッグ10は、織物チューブ11内で、織物チューブ11の一方の端部(ここでは下方端部111)から織物チューブ11の他方の端部(ここでは上方端部110)まで展開可能である。
【0048】
図2に示した展開状態では、エアバッグ10は、織物チューブ11を完全にまたは実質的に完全に充填する。
【0049】
織物チューブ11は、ネット状構造112を有する。ネット状構造112は、メッシュを含む。メッシュは、織物チューブ11の長手延伸方向に広げられている、および/または織物チューブ11の長手延伸方向に対して横方向に折り畳まれている。織物チューブ11が充填されると、織物チューブ11は、Aピラー22の延伸方向に対して横方向に拡張される。その場合、ネット状構造112により(例えば、折り畳まれたメッシュをAピラー22の延伸方向に対して横方向に広げることにより)、織物チューブ11は、(Aピラー22の延伸方向に沿った)その長手延伸方向で短縮する。
【0050】
短縮の結果として、織物チューブ11は、自動車2上の織物チューブ11の2つの端部側固定点の間で緊張している。その場合、2つの保持ストラップ121が引き締められ、張力が締結点に誘導される。その場合に発生する力は、(エアバッグシステム1の対応する調整により)ヒンジ15における下方端部111に取り付けられた保持ストラップ121の下方固定点が、その力によってAピラー22の方向に移動するように設計されている。その前に、ヒンジ要素151、153の移動(およびメンテナンス作業について上述したものからの逸脱)が可能になるような手法で、ヒンジ15のロック解除が行われる。ヒンジ15のロック解除は、保持ストラップ121を引くことにより、または別個に制御される装置により行われる。
【0051】
発生する力およびヒンジ15の構造設計は、ボンネット20を車両高さ軸zに沿って上方に持ち上げるように作用する。それにより生じるボンネット20とその下にある車両部品との間の距離により、人が衝突した場合にボンネット20の十分に自由な変形が可能になる。それによって、人の負傷のリスクを大幅に低減できる。
図2では、ボンネット20がエンジンルーム28の開口部280に対して持ち上げられていることが示されているため、ボンネット20は、
図1に比べてエンジンルーム28への距離が増加している。
【0052】
本明細書において、ボンネット20の持ち上げは、フロントガラス23の方向に、車両長手方向軸x上の車両長手方向に対するボンネット20の変位を同時に伴う。したがって、フロントガラス23の下方領域および/またはその下方領域に隣接する車両2の部分(例えば、カウル25)を追加して覆うことができ、これにより、衝突時に衝突する人の保護がさらに改良される。
【0053】
膨張かつ展開されたエアバッグ10は、Aピラー22を覆い、それによって、Aピラー22のパッドを提供する。それによって、衝突時に衝突する人の保護がまたさらに改良される。
【0054】
図4は、マルチチャンババッグとしての好ましい実施形態におけるエアバッグシステム1のエアバッグ10を示す。本明細書において、エアバッグは、第1のチャンバ103と、第1のチャンバ103を部分的に囲む第2のチャンバ104と、からなる。第1のチャンバ103は、ガス入口100として形成された領域から開始して延びており、第2のチャンバ104の外側の第1の区分101を備える。第1の区分101に隣接する第2の区分102は、第2のチャンバ104内に突出している。第1のチャンバ103の長手延伸部に沿って、その第2の区分102は、第2のチャンバ104のほぼ端部まで達している。
【0055】
第1のチャンバ103は、細長く形成されており、そのガス入口100からガス入口の反対側の閉鎖端部まで延びている。第2の区分102において、第1のチャンバ103には開口部105が設けられている。ガス発生器130によって放出され、ガス入口100を介して誘導されたガスは、開口部105を通って、第1のチャンバ103から第2のチャンバ104に流れる。開口部105は、第1のチャンバ103から第2のチャンバ104へのガスの通過開口部を形成する。第1のチャンバ103の長手方向延伸部に沿って、開口部105は、第1のチャンバ103の閉鎖端部に面する領域に配置されている。
【0056】
2つのチャンバ103、104はそれぞれ、それらの縁部に沿って互いに少なくとも部分的に接続(例えば、縫い付け)されている、一致する2つのブランクからなっていてもよい。エアバッグを完成させるには、両方のチャンバを互いに接続する(例えば、縫い付ける)。
【0057】
第1のチャンバ103は、その長手延伸部に対して横方向に、第2のチャンバ104と比較して(特に実質的に)小さな断面積を有する。特にさらに上述した詳細に関連して、これにより、第1のチャンバ103が、充填時にエアバッグ10を囲む織物チューブ11内で(その下方端部111から上方端部110まで)容易に展開できる。第1のチャンバ103が展開されると、織物チューブ11の長手方向延伸部(この場合はAピラー22に沿った延伸方向)に沿って織物チューブ11内に、未充填またはわずかに充填された第2のチャンバ104もまた配置される。第1のチャンバ103および第2のチャンバ104は、時間的にずらして展開可能であり、この場合、例えば、開口部105は、スロットルとして機能する。
【0058】
本質的に、第1のチャンバ103が(充填によって)完全に引き伸ばされた後に初めて、ガスは、事前に配置された第2のチャンバ104に到達し、第2のチャンバ104もまた充填する。第2のチャンバ104の充填を介して、織物チューブ11は、その延伸方向に対して横方向にさらに拡張し、この方向におけるその最大膨張範囲は、第2のチャンバ104の断面積によって決定される。織物チューブ11の拡張により、織物チューブの短縮がもたらされる。織物チューブ11の短縮は、張力をボンネット20の下方固定部位200に誘導する。織物チューブの延伸方向に対して横方向の織物チューブの最大膨張範囲、したがってボンネット20に誘導される力は、第2のチャンバ104の断面積によって調整可能である。
【0059】
図5は、クランプ122を用いる織物チューブ11への保持ストラップ121の可能な固定を示す。
【0060】
織物チューブ11の固定すべき端部(この場合は例示的には、上方端部110)は、結び付けられ(例えば、まとめられ)、保持ストラップ121は、クランプ122により端部で(特に、摩擦結合で)クランプされる。まとめることの代替としてまたはまとめることに追加して、織物チューブ11は、その端部110、111が対応して特に集まるように織られていてもよい。力が誘導された場合に、保持ストラップ121の端部がクランプ122の下方に通り抜けることを防ぐために、保持ストラップ121は、例えば、一度折り返されている。上下に重なり合っている保持ストラップ121の領域は、(例えば、部分的に)互いに縫い合わされる。したがって、縫い合わせ領域は、組み立てられた状態では、好適には、保持ストラップ121を固定するための追加の形状結合接続を形成する。
【0061】
図6による図示は、ガス発生器側端部110を車両に(例えば、ルーフレール27上に)固定してAピラー22の上方端部220付近の車両ルーフ24の縁部領域に配置されている、エアバッグシステム1’の代替的設置配置を示す。上記領域から開始して、エアバッグシステム1’は、Aピラー22の上方端部220を越えて、Aピラー22に沿って、Aピラー22の下方端部221またはフェンダ21に隣接する領域まで延びている。エアバッグ10は、この場合は最初に、織物チューブ11内の織物チューブ11の上方端部110の領域にのみ配置されている。その結果として、エアバッグ10は、本明細書において、織物チューブ11内でAピラー22に沿ってその下方端部221まで展開する。図示していない膨張状態では、エアバッグ10は、織物チューブ11を完全にまたは実質的に完全に充填する(
図2に記載のエアバッグシステム1の状態に匹敵する)。それ以外の場合、
図1〜
図3に記載のエアバッグシステム1の仕様に関連して行われた説明は、
図5に示したエアバッグシステム1’についても適用される。