特許第6871525号(P6871525)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871525
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】モールドパウダー
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20210426BHJP
   C21C 7/076 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   B22D11/108 F
   C21C7/076 P
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-102505(P2020-102505)
(22)【出願日】2020年6月12日
(62)【分割の表示】特願2019-79342(P2019-79342)の分割
【原出願日】2019年4月18日
(65)【公開番号】特開2020-175445(P2020-175445A)
(43)【公開日】2020年10月29日
【審査請求日】2020年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正典
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 純哉
【審査官】 藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−025254(JP,A)
【文献】 特開2016−002591(JP,A)
【文献】 特開2018−144055(JP,A)
【文献】 特開2006−192440(JP,A)
【文献】 特開2014−036996(JP,A)
【文献】 特開平02−165853(JP,A)
【文献】 特開平10−258343(JP,A)
【文献】 特開2000−158106(JP,A)
【文献】 特開2011−147998(JP,A)
【文献】 特開2001−179408(JP,A)
【文献】 特開2002−239693(JP,A)
【文献】 特開2006−175472(JP,A)
【文献】 特開2004−358485(JP,A)
【文献】 特開2001−353561(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/078178(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
C21C 7/076
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOとCaOを主成分として含み、
CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)が0.9以上1.6以下であり、
F及びAlの含有量がそれぞれ8.2〜14.0質量%、6.0〜14.0質量%であり、
FのAlに対する質量比(F/Al)が0.8以上であり、
MgOの含有量が2.0〜14.0質量%であり、
NaOとLiOの含有量の合計が0.0〜2.0質量%であり、
1300℃における粘度及び表面張力がそれぞれ0.20Pa・s以上0.75Pa・s以下及び360mN/m以上であり、
1300℃で溶融状態のスラグ100gを鉄製容器に流し込んで急冷したときに析出する主結晶種がカスピダイン(Cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)であることを特徴とするモールドパウダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造に適するモールドパウダーに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造とは、溶鋼を連続鋳造機のモールドに流し込んで冷却、凝固させながら、凝固したシェル(凝固シェル)をモールドの下方向に引き抜くことを連続的に行うことにより、鋼を連続的に鋳造することをいう。モールド内の溶鋼の表面には、粉末状又は顆粒状のモールドパウダーが添加される。モールドパウダーは溶鋼の熱によって溶融し(以下、溶融している状態のモールドパウダーを「パウダースラグ」又は「スラグ」とよぶ。)、スラグは凝固シェルとモールドの間に流入し、フィルム(スラグフィルム)に変化する。モールドパウダーの主な役割は(1)溶鋼表面の保温及び酸化防止、(2)溶鋼から浮上する非金属介在物の吸収及び溶鋼の清浄化、(3)凝固シェルとモールドの間の潤滑の保持、(4)凝固シェルからモールドへの熱流束の制御等である。
【0003】
スラグが凝固シェルとモールドの間に流入する駆動力は、モールドのオシレーション(振動)、凝固シェルの引き抜きによる引き込み及びスラグの自重であるが、高品質な鋳片の連続鋳造の安定操業に資するには、特に、以下の3つの要件を高度に調和させる必要がある(以下、「3要件」とよぶ。)。
(要件1)凝固シェルとモールドの間の潤滑を保つこと
(要件2)粘度と界面張力を適切に保ち、溶鋼に巻き込まれないこと
(要件3)凝固シェルからモールドへの熱流束を制御し、適切な冷却速度を保つこと
【0004】
要件1を満たすためにはスラグの粘度は低い方が好ましい。しかし、スラグの粘度が低いとスラグが溶鋼中に巻き込まれやすくなり、鋳片品質が低下する。つまり、要件2を満たさなくなる。そこで、スラグ巻き込みによる鋳片欠陥の低減が特に求められる極低炭素鋼、低炭素鋼では要件2を満たすためにスラグの高粘度化が指向される。特許文献1では、粘度だけでなく、表面張力を高めることが提案され、実施例には、1250℃の表面張力が290〜310dyne/cmのスラグが開示されている。特許文献2では、表面張力を高める手段として、MgO含有量を増加させることが開示されている。
【0005】
要件3を満たすためにスラグフィルムへの結晶の析出が指向される。スラグフィルムに結晶が析出せず、ガラス質であると凝固シェルからモールドへの熱流束は大きく、結晶が析出し、結晶質であると熱流束は小さくなる。また、結晶の種類によっても凝固シェルからモールドへの熱流束は異なる。したがって、要件3を満たすには、熱流束を小さくする特定の結晶種を安定的に析出させる必要がある。鋳片からモールドへの熱流束が安定しないとモールド内温度の乱れが大きくなり、ブレークアウト予知システムの警報が発生するなど、操業が不安定になり生産性が低下する。特許文献3では、最適な結晶種としてカスピダイン(Cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−25254号公報
【特許文献2】特開2016−002591号公報
【特許文献3】特開2018−144055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示されるスラグは、依然として溶鋼中への巻き込みが完全に解消されておらず、要件1、2の両立が不十分である。また、カスピダインが析出しにくいため、要件3も不十分である。さらに、特許文献2、3に開示されたスラグは、表面張力を十分高めることができないため、溶鋼中への巻き込みが解消されず、要件1、2の両立が不十分である。
【0008】
本発明の態様は上記実状を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、高品質な鋳片の連続鋳造の安定操業に資するべく、スラグに求められる3要件が高度に調和されたモールドパウダーを提供することである。
【0009】
なお、本明細書に示すモールドパウダーの化学組成は加熱される前のものであり、FとC以外の成分については酸化物換算での質量%で表し、Fについては単体換算での質量%で表し、Cについては炭素原料として添加されるものの質量%と、炭酸塩等として添加されるものの炭素単体換算での質量%とを合計した全炭素量(トータルカーボン)で表す。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一の態様は、SiOとCaOを主成分として含み、CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)が0.9以上1.6以下であり、F及びAlの含有量がそれぞれ5.0〜14.0質量%、6.0〜14.0質量%であり、FのAlに対する質量比(F/Al)が0.8以上であり、MgOの含有量が2.0〜14.0質量%であり、NaOとLiOの含有量の合計が0.0〜2.0質量%であり、1300℃における粘度及び表面張力がそれぞれ0.20Pa・s以上及び360mN/m以上であり、析出する主結晶種がカスピダイン(Cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)であることを特徴とするモールドパウダーに関する。
【0011】
モールドパウダーが上記要件を全て満たすことにより、スラグに求められる3要件を高度に調和させることができる。モールドパウダーは、スラグ巻き込みによる鋳片欠陥を減少させるとともに、モールド内温度の乱れによるブレークアウト予知警報の発生を抑制することができるため、高品質な鋳片の連続鋳造の安定操業に資する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0013】
本実施形態のモールドパウダーは、SiOとCaOを主成分として含み、CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)が0.9以上1.6以下であり、F及びAlの含有量がそれぞれ5.0〜14.0質量%、6.0〜14.0質量%であり、FのAlに対する質量比(F/Al)が0.8以上であり、MgOの含有量が2.0〜14.0質量%であり、NaOとLiOの含有量の合計が0.0〜2.0質量%であり、1300℃における粘度及び表面張力がそれぞれ0.20Pa・s以上及び360mN/m以上であり、析出する主結晶種がカスピダイン(Cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)である。
【0014】
[質量比(CaO/SiO)]
モールドパウダーはSiOとCaOを主成分として含有する。CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)は0.9以上1.6以下であり、好ましくは1.0以上1.5以下であり、より好ましくは1.0以上1.4以下である。質量比(CaO/SiO)が0.9未満の場合、スラグの表面張力を高く保つことができないため、要件1、2が両立せず、鋳片の品質が悪化しやすい。一方、質量比(CaO/SiO)が1.6を超える場合、スラグの粘度が大きく低下するため、要件1、2が両立せず、鋳片の品質が悪化しやすい。さらに、凝固温度が大きく上昇し、凝固しやすくなるため、ブレークアウトの発生リスクが高まる。
【0015】
[F]
Fの含有量は5.0〜14.0質量%であり、好ましくは6.0〜13.0質量%であり、より好ましくは7.0〜12.0質量%である。Fの含有量が5.0質量%未満の場合、結晶としてカスピダインが析出しにくくなり、ゲーレナイト(Gehlenite;CaAlSiO)、アケルマナイト(Akermanite;CaMgSi)、ダイカルシウムシリケート(Dicalcium silicate;2CaO・SiO)等が析出し、要件3を満たさなくなる。一方、Fの含有量が14.0質量%を超える場合、スラグの粘度と表面張力が大きく低下するため、要件1、2が両立しなくなる他、浸漬ノズルの溶損が増大する。
【0016】
[Al
Alの含有量は6.0〜14.0質量%であり、好ましくは6.0〜13.0質量%であり、より好ましくは7.0〜12.0質量%である。Alの含有量が6.0質量%未満の場合、粘度、表面張力を高くすることができないため、要件1、2が両立しなくなる。Al含有量が14.0質量%を超える場合、カスピダインよりもゲーレナイトが析出しやすくなり、要件3を満たさなくなる。
【0017】
[質量比(F/Al)]
質量比(F/Al)は、0.8以上であり、より好ましくは0.9以上であり、より好ましくは1.0以上である。質量比(F/Al)が0.8未満の場合、ゲーレナイトが著しく析出しやすくなり、要件3を満たさなくなる。質量比(F/Al)が0.8以上の場合、カスピダインが析出しやすいため、要件3を満たし、連続鋳造の操業を安定化させることができる。
【0018】
[MgO]
MgOの含有量は2.0〜14.0質量%であり、好ましくは3.0〜13.0質量%、より好ましくは4.0〜12.0質量%、特に好ましくは4.0〜7.0質量%である。MgOは融点を下げる点でアルカリ金属酸化物と共通し、表面張力を高める点でアルカリ金属酸化物と異なる。本実施形態の組成はモールドパウダーの融点を下げるアルカリ金属酸化物の含有量が少ないため、高い表面張力を保つ融点調整剤として好適である。MgOの含有量が2.0質量%未満の場合、融点が高くなり、要件1、2を満たさなくなる。MgOの含有量が14.0質量%を超える場合、カスピダインの析出が低下し、アケルマナイト等のMgOを含む結晶が析出しやすくなるため、要件3を満たさなくなる。
【0019】
[NaO+LiO]
NaOとLiOの含有量の合計は0.0〜2.0質量%であり、好ましくは0.0〜1.5質量%以下であり、より好ましくは0.0〜1.0質量%である。NaOとLiOの含有量の合計が2.0質量%を超える場合、表面張力が低下し、要件2を満たさなくなる。
【0020】
[粘度]
1300℃におけるスラグの粘度は0.20Pa・s以上であり、好ましくは0.30Pa・s以上である。1300℃におけるスラグの粘度が0.20Pa・s未満の場合、要件2を満たさず、スラグの巻き込みが増大する。スラグ巻き込みを抑制するにはモールドパウダーの粘度は高い方が望ましいため、本実施形態の組成範囲であれば、上限は特に規定するものではないが、0.75Pa・sが上限である。
【0021】
[表面張力]
1300℃におけるスラグの表面張力は360mN/m以上である。1300℃におけるスラグの表面張力が360mN/m未満の場合、要件2を満たさず、スラグの巻き込みによって鋳片品質が低下する。
【0022】
[主結晶種]
スラグフィルムに析出する主結晶種はカスピダインである。カスピダイン以外の結晶が主結晶種であると熱流束の制御が困難となり、要件3を満たさなくなる。したがって、ブレークアウト予知警報の発生が多くなり、連続鋳造の操業が不安定になる。
【0023】
[モールドパウダーの原料]
本実施形態のモールドパウダーの原料はCaO−SiO基材原料、シリカ原料、フラックス原料、炭素原料、及び/又はその他の原料で構成される。CaO−SiO基材原料としては、例えば、合成珪酸カルシウム、ウォラストナイト、リンスラグ、高炉スラグ、ダイカルシウムシリケート、炭酸カルシウム、石灰石、生石灰、ポルトランドセメント等のセメント類等が挙げられる。シリカ原料としては、例えば、パーライト、フライアッシュ、珪砂、長石、珪石、珪藻土、ガラス粉、シリカフューム、シリカフラワー等が挙げられる。フラックス原料は、軟化点、粘度及び/又は結晶化温度を調整する役割を有し、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、氷晶石、蛍石(フッ化カルシウム)、フッ化マグネシウム等の弗化物、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、ホウ酸、ホウ砂、コレマナイト等が挙げられる。炭素原料は、溶融速度を調整する役割を有し、例えば、コークス、グラファイト、カーボンブラック等が挙げられる。その他の原料としては、マグネシア、アルミナ等が挙げられる。モールドパウダーの原料には不可避成分として微量のFe、TiO、MnO、KO、Cr、P、S等が含まれてもよい。モールドパウダーの形態は特に限定されず、例えば、粉末、押し出し成形顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒等が挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0025】
[実験方法]
モールドパウダーを用いて鋼の連続鋳造を行った。表1に、用いたモールドパウダーの組成を示す。実施例1〜16は本発明の実施例であり、比較例1〜11は本発明の比較例である。
【表1】
【0026】
実施例1〜16は、SiOとCaOを主成分として含み、CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)が0.9以上1.6以下であり、F及びAlの含有量がそれぞれ5.0〜14.0質量%、6.0〜14.0質量%であり、FのAlに対する質量比(F/Al)が0.8以上であり、MgOの含有量が2.0〜14.0質量%であり、NaOとLiOの含有量の合計が0.0〜2.0質量%である。
【0027】
一方、比較例1〜2は質量比(F/Al)が0.8以上を満たさない。また、比較例2、11はFの含有量がそれぞれ5.0〜14.0質量%を満たさない。また、比較例3、9〜10はAlの含有量が6.0〜14.0質量を満たさない。また、比較例4、10はMgOの含有量が2.0〜14.0質量%を満たさない。また、比較例5〜6はNaOとLiOの含有量の合計が0.0〜2.0質量%を満たさない。また、比較例7〜8は質量比(CaO/SiO)が0.9以上1.6以下を満たさない。
【0028】
表2に、連続鋳造の鋳造条件、即ち、モールドサイズ、鋼種、鋳造速度を示す。表2の鋼種の「極低炭素」、「低炭素」、「高炭素」はカーボン濃度がそれぞれ0.01質量%以下、0.01〜0.08質量%、0.20質量%以上の炭素綱である。
【表2】
【0029】
実施例と比較例の鋳造条件はほぼ同様とした。
【0030】
[評価方法]
モールドパウダー(スラグ)及び連続鋳造によって得られた鋳片について、以下の項目の評価を行った。
【0031】
<粘度>
モールドパウダー(スラグ)の粘度を、球引き上げ法により測定した。即ち、1300℃のスラグ中に直径10mmの白金球を吊り下げ、0.85cm/sの速さで白金球を引き上げたときの荷重から粘度を求めた。
【0032】
<表面張力>
モールドパウダー(スラグ)の表面張力を、リング法により測定した。即ち、1300℃のスラグ中に直径10mmの白金リングを浸漬し、0.85cm/sの速さで白金リングを引き上げ、白金リングがスラグ液面から離れて液滴が切断する瞬間に示す最大荷重から表面張力を求めた。
【0033】
<主結晶種>
主結晶種は、1300℃で溶融状態のスラグ100gを鉄製容器に流し込んで急冷し、得られた凝固スラグのX線回折パターンにより同定した。
【0034】
<鋳片品質>
鋳片の品質は、スラグ巻き込みによる鋳片欠陥の発生率が0.5%以下を「優:★★★」、0.5%を超え1%未満を「良:★★」、1%を超え3%未満を「可:★」、3%以上を「不可:×」とした。
【0035】
<操業安定性>
連続鋳造の操業安定性は、100チャージ(1チャージ300t)を鋳造してブレークアウト予知警報の発生数が0回で、モールド内温度の乱れもなければ「優:★★★」、ブレークアウト予知警報の発生数が0回だがモールド内温度の乱れが多少あれば「良:★★」、ブレークアウト予知警報の発生数が1回であれば「可:★」、ブレークアウト予知警報の発生数が2回以上であれば「不可:×」とした。
【0036】
<総合評価>
総合評価は、鋳片品質、操業安定性の両者が「優:★★★」であれば「優:◎」、いずれかに「良:★★」もしくは「可:★」があり、「不可:×」がなければ「可:○」、いずれかに「不可:×」があれば「不可:×」とした。
【0037】
[評価結果]
評価結果を表3に示す。
【表3】
【0038】
実施例1〜16はいずれも1300℃における粘度及び表面張力がそれぞれ0.20Pa・s以上及び360mN/m以上であり、析出する主結晶種がカスピダインであった。また、鋳片品質及び操業安定性は「優:★★★」〜「可:★」であり、総合評価は「優:◎」又は「可:○」であった。これは、3要件が高度に調和されたためと考えられる。
【0039】
一方、比較例1〜11は操業安定性か鋳片品質のいずれかが「不可:×」であり、総合評価は「不可:×」であった。比較例1〜4は操業時にブレークアウト予知警報が多発し、操業安定性が「不可:×」であった。これは、主結晶種がカスピダインではないため、凝固シェルからモールドへの熱流束が適切でなく、要件3を満たさなかったと考えられる。比較例1〜3は質量比(CaO/SiO)が0.9以上1.6以下を下回り、主結晶種がゲーレナイトであった。また、比較例4はAlの含有量が6.0〜14.0質量を上回り、主結晶種がアケルマナイトであった。
【0040】
比較例5〜11は鋳片品質が「不可:×」であった。これは、1300℃における表面張力が360mN/m以上を満たさないため、スラグの界面張力を適切に保つことができず、要件2を満たさなかったと考えられる。比較例5、6はNaOとLiOの含有量の合計が0.0〜2.0質量%を上回り、表面張力が360mN/m以上を満たさなかった。比較例7は(CaO/SiO)が0.9以上1.6以下を上回り、粘度及び表面張力がそれぞれ0.20Pa・s以上及び360mN/m以上を満たさなかった。比較例8は(CaO/SiO)が0.9以上1.6以下を下回り、表面張力が360mN/m以上を満たさなかった。比較例9、10はAlの含有量が6.0〜14.0質量を下回り、表面張力が360mN/m以上を満たさなかった。比較例11はFの含有量が5.0〜14.0質量%を上回り、表面張力が360mN/m以上を満たさなかった。
【0041】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。また、本実施形態の製造装置等の構成及び動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。