【実施例】
【0014】
(1)心臓の脈圧波形データの時間領域と周波数領域の分析
不整脈の波形と周期の変化をシミュレーションできる装置(BP-PUMP:BIO-TEK Instruments製)と本発明者が製作した圧力式脈圧波測定器を用いて( 表1)の4種類の脈圧波形データについて時間領域と周波数領域で分析を行った。
【0015】
【表1】
【0016】
脈圧波形データの分析には0.00512秒間隔でサンプリングした4096点数が使用された(サンプリング周波数は195.31Hz)。特に、波形分析の際には、測定機器や測定環境の違い、または利用者の個人差の影響をなくすために、前処理としてすべての測定データは平均値0、標準偏差1になるように標準化を行った。その後、4種類の脈圧波形データを用いて時間領域と周波数領域で信号処理を行い、各状態における分析結果を比較、検討した。
【0017】
図1(a)、(b)に測定した各状態別の脈圧波形データを時間領域と周波数領域で分析した結果を示す。心房性期外収縮、心房細動及び心室性期外収縮状態の場合、時間領域と周波数領域の両者において標準状態(健常者)と異なる振幅特性が認められた。また、心臓疾患状態と標準状態における脈圧波形
データ分析の結果を見ると、時間領域の分析と比べて、周波数領域分析の方が、脈圧波形変化特性の違いがより明確になっている。これは、脈圧波形
データの周波数分析の方が、より高精度に心房細動などの心臓疾患の状態が検出できることを示唆する。
【0018】
ここでは、前述の各状態における脈圧波
形データの周波数分析により得られた周波数スペクトルの振幅
波形データの統計解析を行い、心房細動などの心臓の異常を素早く高精度に検出できる特徴量を導く。特に、本解析では、各状態における周波数スペクトルの振幅波形
データの
分布のかたちの違いに着目し、
分布のかたちが平均値に対して如何にばらついているか、平均値を中心に如何に歪んでいるか、さらに、
分布のかたちが如何に尖っているかを示す無次元統計量である波形率、歪み度及び尖り度を用いて特徴量の検討を行った。
【0019】
図2に各状態に対して求めた周波数スペクトルの振幅
波形データの統計量を比較した結果を示す。この図で示された三つの統計量の値は
、No−0の標準状態(正常)における結果値を基準
値となる1として
、No−1からNo−3の結果値を標準化したものである。この図から、No−2の心室性期外収縮症状の場合が、すべての統計量において正常の標準状態との差が一番大きかった。また、統計量の中では、尖り度が標準の正常状態の値と一番差が大きかった。以上の結果から、脈圧波
形データの周波数スペクトルの振幅波形データの
分布の統計量である波形率、歪み度及び尖り度を監視することで、心房細動や心室性期外収縮などの
場合に発生する脈圧波形の異常が検出できるといえる。
【0020】
ここでは、臨床現場において、健常者1人と心房細動などの心臓疾患者10人を含めて11人の被験者から測定した脈圧波形データに対して、本発明で提案した
脈圧波形の異常
を検出する検出手法を適用し、その有効性を評価する。脈圧測定は試作した圧力式脈圧波測定器を使用して行った。特に、被験者中の心臓疾患者に対しては、同一な条件で3回測定を行った。また、これら測定データは、健常者はNo.0、疾患者はNo.1−1、No.1−2、No.1−3からNo.10−1、No.10−2、No.10−3のように番号を付けて区別ができるようにした。測定した脈圧
波形データの評価方法は、以下の流れで行われた。
【0021】
(2)臨床現場の被験者の脈圧波形に対する本発明の
脈圧波形の異常
を検出する検出方法の有効性評価
本発明の実施例で得られた脈圧
波形データは、
図3に示すように最初の加圧過程とその後、最大圧力に到達してから減圧する過程の2段階の波形データになっているが、波形データの評価に用いる有意なデータとしては、最大脈圧からの減圧過程区間のデータであり、本発明の実施例では最大脈圧からの減圧過程区間で、0.00512秒間隔でサンプリングした7168点の連続データ(約37秒間)を用いて脈圧波形データの分析と評価を行った。
図3に測定した脈圧波形データの一例を示す。
【0022】
次に、前処理として、時間に伴う下降傾向を示している脈圧波形データの非定常性を取り除くために、用いた7168点の測定値に対して1次階差をとった。
図4に1次階差を施した脈圧の時系列波形データを示す。
【0023】
さらに、この前処理を施した
時系列波形データを平均値0、標準偏差1になるように標準化を行った。これは、前述のシミュレータのデータ処理の場合と同様に、利用者の個人差の影響をなくすためである。
【0024】
最後に、標準化処理を行った
1次階差を施した脈圧
の時系列波形データに対して周波数分析を行った。
図5に求めた周波数スペクトルの一例を示す。ここでは、疾患の有無による周波数スペクトルの振幅波形
データの形状変化が見られる周波数0.05Hzまでの周波数スペクトルの振幅
波形データを用いて(359データ点で、周波数0のデータは除く)統計解析を行い、本発明で提案した
振幅波形データの分布のかたちの違いに着目し、分布のかたちから求めた特徴量の歪み度及び尖り度が
、心房細動などの心臓疾患の状態を高精度に検出できる指標として有効であるかを検証した。このような0.05Hz以下の低周波数帯の振幅波形
データの変動は、血圧や心拍などの生理学的な挙動と密接な関連があることが報告されている。
【0025】
(3)臨床現場の被験者の脈圧波形に対して
周波数スペクトルの振幅波形データの分布の歪み度、尖り度を適用した結果
ここでは、臨床試験現場で測定した健常者1人と心房細動などの心臓疾患者10人を含めて11人の被験者の脈圧波形データに対して、本発明で提案した
脈圧波形の異常の特徴量として歪み度及び尖り度を適用した実施例の結果を述べる。
図6と
図7は、健常者の歪み度及び尖り度を基準値
となる1にしたとき、10人の被験者に対して得られた特徴量の歪み度及び尖り度をそれぞれ示したものである。この図から、健常者と比べて、何らかの心臓疾患を持っているすべての被験者の場合、歪み度及び尖り度の値が小さい値を示した。また、この二つの特徴量の比較では、尖り度の方が、健常者の値と比べてより差が顕著に表れており、例えば、健常者の値が1の場合、心臓疾患者の10人すべてにおいて0.3以下で大きな差を示した。したがって、
脈圧波形の異常の検出精度から見ると、異常
の検出指標(特徴量)として尖り度を用いた方がより検出精度が高いといえる。
【0026】
以上のように、臨床試験で測定した脈圧波
形データを対象として本発明で提案した異常検出手法の適用性を評価した結果、脈圧波
形データの1次階差データを
標準化し、高速フーリエ変換などの信号処理と統計解析により導いた
周波数スペクトルの振幅波形データの分布の歪み度及び尖り度の特徴量を利用することにより、心筋梗塞や脳卒中の主な原因となる心房細動などの
場合に発生する脈圧波形の異常状態を精度よく検出できることを確認した。
【0027】
(4)本発明の
脈圧波形の異常状態検出装置の説明
(4−1)血圧測定のブロック図
図8は、本発明に係る、脈圧波形を用いた心房細動などの
場合に発生する脈圧波形の異常状態を検出する
検出装置のブロック図である。
【0028】
(4−2)
脈圧波形の異常状態検出装置の構成
図8を参照して、
脈圧波形の異常状態検出装置1の構成を説明する。
脈圧波形の異常状態検出装置1は、血圧測定部3と、光電脈波測定部14と、データ処理部22とから構成されている。血圧測定部3は
圧力式脈圧波測定器で、血圧測定を制御する血圧測定用マイコン4と、電磁弁5と、医療用の圧電ポンプ6と、圧力センサ7と、被
験者の腕に巻き付けて使用する腕帯(カフともいう)8と、そして、腕帯8と、電磁弁5と、圧電ポンプ6と、圧力センサ7とをエア配管9により連通させ、血圧測定用操作スイッチ10の操作により、血圧測定用マイコン4に内蔵のソフトウエアの指示に従い、圧電ポンプ6の作動により加圧する時に電磁弁5を閉じ、腕帯8が所定の圧力になったら、圧電ポンプ6の作動を停止して、血圧を測定するときに電磁弁5を徐々に開ける。血圧測定中の圧力や血圧測定結果の圧力を、液晶により血圧表示器11に表示し、補助記憶装置のメモリ12に血圧測定結果の圧力を記憶する。
【0029】
(4−3)光電脈波測定部14
光電脈波測定部14は、光電脈波計である指ホルダ15と、光電脈波計である指ホルダ15からのノイズを除去するノイズフィルタ16と、光電脈波計である指ホルダ15の微弱な光電脈波の信号を大きくするゲインアンプ(信号増幅器)17とを含む構成となっている。
【0030】
(4−4)圧力センサ7とゲインアンプ17
血圧測定部3の圧力センサ7と、光電脈波測定部14のゲインアンプ(信号増幅器)17
は、後述するデータ処理部22のデータ処理用マイコン23に各データ信号を送る構成となっている。
【0031】
(4−5)データ処理部22
データ処理部22を説明する。このデータ処理部22は、データ処理用マイコン23と、モニターを操作するモニター操作用スイッチ24と、液晶による異常状態表示
器25と、処理したデータを記憶する補助記憶装置であるメモリ26と、処理したデータを転送収納するSDカード27と、データ処理用マイコン23のソフトウエアを書き込んであるmicro−USB記憶装置28とを含む構成であり、更に、前
述したように、血圧測定部3の圧力センサ7と、光電脈波測定部14のゲインアンプ(信号増幅器)17は、データ処理用マイコン23に接続して、各データ信号をデータ処理用マイコン23に送る構成となっている。
【0032】
本発明は、上述のように、通常の血圧測定に利用する脈圧波
形を収集して、これら各症状における脈圧波
形データにより、各症状における脈圧波
形データの周波数分析により得られた周波数スペクトルの振幅
波形データの統計解析を行い、心房細動などの
場合に発生する脈圧波形の異常状態を簡便に検出できる特徴量を導く方法である。
【0033】
そして、通常の血圧測定に利用する脈圧波のデータを用いて、心臓の何らかの異常により変化する脈圧波形
データの
周波数スペクトルの振幅波形データの分布のかたちの違いに着目し、波形が平均値を中心に如何にばらついているか、波形が平均値を中心に如何に歪んでいるか、さらに、波形が如何に尖っているかを示す無次元統計量である波形率,歪み度及び尖り度を用いて特徴量の検討を行い、これらを監視することで、心房細動や心室性期外収縮などの
場合に発生する脈圧波形の異常が検出できる。
【0034】
(4−6)心臓疾患の
場合に発生する脈圧波形の異常の有無
を検出する工程とアルゴリズム
心臓疾患の
場合に発生する脈圧波形の異常の有無を
検出する工程とアルゴリズムを以下に述べる。
・
ステップ1:加圧中(加圧時に脈圧を測定する場合)または、減圧中(減圧時に脈圧を測定する場合)で、0.00512秒間隔(サンプリング周波数:195.31Hz)で30秒〜1分間の脈圧
波形を測定する。本発明では、減圧時の脈圧
波形を対象とする。
【0035】
・
ステップ2:測定したデータ中、最大圧力から減圧する区間で7168点の連続データを採集し、前処理として、この7168点データに対して1次階差(差分)をとる。これは、時間に伴う下降傾向を表す脈圧波形データの非正常性を取り除くためである。1次階差データは以下のように求める。元の脈圧時系列データを{y
t:t=1、2、・・・・・、n}とすると、その1次階差時系列{x
t:t=1、2、・・・・・、n−1}は、次のように表される。
【0036】
(数1)
x
t=y
t+1−y
t (1)
【0037】
・
ステップ3:前述の1次階差データx
tを以下のように平均値0、標準偏差1になるように標準化を行う。
【0038】
(数2)
X
t=(x
t−μ)/σ (2)
ここで、Xtは標準化した1次階差データ、μは1次階差データ
の平均値、σは1次階差データの標準偏差である。
【0039】
・
ステップ4:標準化した7168点の
1次階差データXtに対して、Cooley-Tukeyの高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)アルゴリズムを採用し周波数分析を行う。
【0040】
・
ステップ5:次に、求めた周波数スペクトルの振幅波形データの中、周波数0.05Hzまでのスペクトル振幅
波形データを取り出して統計解析を行う。用いたデータは359点データで周波数0のデータを除いた359点データである。異常検出に使用する特徴量の
歪み度及び尖り度を算出する。
【0041】
・
ステップ6:次に、正常状態を基準値
である1にした場合、算出した
歪み度及び尖り度の両者の値が1より小さいと、心房細動や心室性外期収縮などの
場合に発生する脈圧波形の異常の有すると判断する。
【0042】
以上のことから、本発明は、通常の血圧測定に利用する脈圧波
形を収集して、これ等の
脈圧波形データにより、各症状における脈圧波
形データの周波数分析により得られた周波数スペクトルの振幅
波形データの統計解析を行い(図
5参照)、心房細動などの
場合に発生する脈圧波形の異常状態を簡便に検出できる特徴量を導
き、その特徴量に従って脈圧波形の異常を検出する検出方法である。
【0043】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明の範囲は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更を加え得ることは勿論である。