特許第6871547号(P6871547)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6871547ピエリシン1AのADPリボシル化ドメイン遺伝子及びセリシン繭
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871547
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】ピエリシン1AのADPリボシル化ドメイン遺伝子及びセリシン繭
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20210426BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20210426BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20210426BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20210426BHJP
   A01K 67/033 20060101ALI20210426BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20210426BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20210426BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C12N15/54ZNA
   C12N9/10
   C12N15/63 Z
   C12N5/10
   A01K67/033 501
   A01K67/027
   A01H5/00 A
   C07K14/435
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-136614(P2016-136614)
(22)【出願日】2016年7月11日
(65)【公開番号】特開2018-7569(P2018-7569A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年6月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年3月16日に発行された平成28年度蚕糸・昆虫機能利用学術講演会 日本蚕糸学会第86回大会講演要旨集の42頁208にて大槻亮輔らが公開
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小谷 英治
(72)【発明者】
【氏名】大槻 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】森 肇
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−518366(JP,A)
【文献】 特開2001−025390(JP,A)
【文献】 藤森胡友 他,"由来の異なる2種の裸蛹系統の絹糸腺および繭層について",蚕糸研究,1980年,No. 115,pp. 63-70
【文献】 Sumitani, M. et al.,"Establishment of a Specific Cell Death Induction System in Bombyx Mori by a Transgene With the Conserved Apoptotic Regulator, Mouse Bcl-2-associated X Protein (Mouse Bax)",Insect Mol. Biol.,2015年,Vol. 24,pp. 671-680
【文献】 Watanabe, M. et al.,"Molecular cloning of an apoptosis-inducing protein, pierisin, from cabbage butterfly: Possible involvement of ADP-ribosylation in its activity",Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A.,1999年,Vol. 96,pp. 10608-10613
【文献】 Orth, Joachim H. C. et al.,"Cell-free synthesis and characterization of a novel cytotoxic pierisin-like protein from the cabbage butterfly Pieris rapae",Toxicon,2011年,vol. 57,pp. 199-207
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 1/00−9/99
A01K 67/02−67/027
A01K 67/033
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)又は(c)のDNAを含む遺伝子:
(a)配列番号3の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号3の塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、核酸のグアニン残基のADPリボシル化活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)(a)又は(b)のDNAの相補鎖
【請求項2】
以下の(p)、(q)又は(r)のポリペプチドをコードする遺伝子:
(p)配列番号4のアミノ酸配列を含むポリペプチド
(q)配列番号4のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、付加又は欠失されたアミノ酸配列からなり、核酸のグアニン残基のADPリボシル化活性を有するポリペプチド
(r)配列番号4のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、核酸のグアニン残基のADPリボシル化活性を有するポリペプチド
【請求項3】
請求項1又は2に記載の遺伝子を含むベクター。
【請求項4】
前記遺伝子が誘導性プロモーター、又は細胞タイプ若しくは組織特異的プロモーターの制御下にある、請求項3に記載のベクター。
【請求項5】
請求項3又は4のベクターにより形質転換された複数の組織を有する多細胞生物の細胞。
【請求項6】
請求項5に記載の細胞を含む標的組織が機能不全化された複数の組織を有する非ヒト多細胞生物。
【請求項7】
前記多細胞生物がカイコガであり、標的組織が後部絹糸腺である、請求項6に記載の多細胞生物。
【請求項8】
請求項7に記載のカイコガを生育し、セリシン繭を分離する工程を含む、セリシン繭の製造方法。
【請求項9】
前記セリシン繭が、フィブロインを含まないセリシン繭である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
以下の(p)、(q)又は(r)のポリペプチド:
(p)配列番号4のアミノ酸配列を含むポリペプチド
(q)配列番号4のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、付加又は欠失されたアミノ酸配列からなり、核酸のグアニン残基のADPリボシル化活性を有するポリペプチド
(r)配列番号4のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、核酸のグアニン残基のADPリボシル化活性を有するポリペプチド
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピエリシン1AのADPリボシル化ドメイン遺伝子及びセリシン繭に関する。
【0002】
また、本発明は、ピエリシン1AのADPリボシル化ドメイン遺伝子を含む、ベクター、形質転換細胞、多細胞生物、セリシン繭及びその製造方法、ピエリシン1AのADPリボシル化ドメインポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0003】
ピエリシンはモンシロチョウから見出され、培養癌細胞に対して強い毒性を持つことが明らかとなっている。
【0004】
特許文献1は、ピエリシンがアポトーシス誘導活性を有し、抗腫瘍剤として有用であることを開示する。
【0005】
特許文献2には、ピエリシン-1は当初、モンシロチョウの被蛹からの細胞障害性物質として同定されたこと、CTおよびPTのようなADP-リボシルトランスフェラーゼとそのN-末端領域において配列類似性を有し、C-末端領域においてリシンスーパーファミリーのレクチンドメインと配列類似性を有すること、他のADP-リボシルトランスフェラーゼとは異なり、ピエリシン-1は、DNAにおけるグアニン残基のN2アミノ基を標的としてN2-(ADP-リボス-1-イル)-2'-デオキシグアノシンを生成すること、C-末端ドメインは、グロボトリアオシルセラミド(Gb3)およびグロボテトラオシルセラミド(Gb4)のようなグリコスフィンゴリピッド受容体に対する結合能を有し、哺乳類細胞表面でのその作用によってピエリシン-1を細胞に組み入れることに関与していることなどが記載されている。
【0006】
繭糸は、フィブロイン約75質量%とセリシン約25質量%を含む。フィブロインは分子量が約35 万ダルトン前後のフィブロインH鎖と分子量が3 万弱のフィブロインL鎖及び分子量2.5 万のP25 の 3 種類のタンパク質から構成され、これらは、後部絹糸腺で産生され、セリシンは中部絹糸腺で産生されている。
【0007】
絹糸は繭糸を高温アルカリ液で精練し、セリシンを除いて製造することができる。
【0008】
精練で除かれるセリシンは保湿作用、抗酸化作用などの有用な生理活性を有し、生体適合性があるので細胞増殖の基材として使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-25390
【特許文献2】特開2008-43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、セリシンをより簡便に製造する技術を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、動物の標的組織を機能不全化できる新規な遺伝子、タンパク質、ベクター、形質転換細胞、標的組織が機能不全化された複数の組織を有する多細胞生物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ピエリシン1Aはピエリシン1と同様にN末端にはADP-リボシル化反応を触媒するドメインがあり、C末端には細胞膜表面にある受容体と結合するドメインを有する。ピエリシン1AのADP-リボシル化ドメインは、ピエリシン1と比較して毒性が弱く、大腸菌でプラスミドが容易に作製でき、かつ、動物の受精卵に導入することで、ピエリシン1Aを含む動物を得ることができる。ピエリシン1AのN末端ドメインを組織選択的に発現させることで、その組織を機能不全化することができる。
【0013】
本発明は、ピエリシン1AのADPリボシル化ドメイン遺伝子、ピエリシン1AのADPリボシル化ドメイン遺伝子を含む、ベクター、形質転換動物細胞、動物、セリシン繭及びその製造方法、ピエリシン1AのADPリボシル化ドメインタンパク質を提供するものである。
項1. 以下の(a)、(b)又は(c)のDNAを含む遺伝子:
(a)配列番号3の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号3の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、核酸のグアニン残基のADPリボシル化活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)(a)又は(b)のDNAの相補鎖
項2. 以下の(p)、(q)又は(r)のポリペプチドをコードする遺伝子:
(p)配列番号4のアミノ酸配列を含むポリペプチド
(q)配列番号4のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、付加又は欠失されたアミノ酸配列からなり、核酸のグアニン残基のADPリボシル化活性を有するポリペプチド
(r)配列番号4のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有し、核酸のグアニン残基のADPリボシル化活性を有するポリペプチド
項3. 項1又は2に記載の遺伝子を含むベクター。
項4. 前記遺伝子が誘導性プロモーター、又は細胞タイプ若しくは組織特異的プロモーターの制御下にある、項3に記載のベクター。
項5. 項3又は4のベクターにより形質転換された複数の組織を有する多細胞生物の細胞。
項6. 項5に記載の細胞を含む標的組織が機能不全化された複数の組織を有する多細胞生物。
項7. 前記多細胞生物がカイコガであり、標的組織が後部絹糸腺である、項6に記載の多細胞生物。
項8. 項7に記載のカイコガを生育し、セリシン繭を分離する工程を含む、セリシン繭の製造方法。
項9. フィブロインを含まないセリシン繭。
項10. 以下の(p)、(q)又は(r)のポリペプチド:
(p)配列番号4のアミノ酸配列を含むポリペプチド
(q)配列番号4のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、付加又は欠失されたアミノ酸配列からなり、核酸のグアニン残基のADPリボシル化活性を有するポリペプチド
(r)配列番号4のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有し、核酸のグアニン残基のADPリボシル化活性を有するポリペプチド
【発明の効果】
【0014】
本発明では、ピエリシン1AのN末端側にある、DNAのグアニン残基をADPリボシル化する活性を有するドメイン(以下、「ADPリボシル化ドメイン」ということがある)を特定の組織で発現させることができるプロモーターの制御下に受精卵に導入することで、生物の特定の組織のみを標的にした機能の不全化を可能にする。例えばカイコガの受精卵に、後部絹糸腺で特異的に発現するプロモーターの制御下にADPリボシル化ドメインを発現させると、後部絹糸腺細胞のアポトーシスを誘導することで後部絹糸腺の機能を不全化することができる。中部絹糸腺はセリシンを産生し、後部絹糸腺はフィブロインを産生するので、後部絹糸腺を機能不全にすることで、フィブロインフリーの純粋なセリシンからなる繭糸を得ることができる。
【0015】
このように、標的とする組織の細胞内でピエリシン1AのN末端のADPリボシル化ドメインを働かせることで、その組織だけを機能不全化することができることができる。
【0016】
本発明の用途を以下に示す。
1.標的とする組織においてピエリシン1AのADPリボシル化ドメインを発現することで、その組織だけを機能不全化する。
.実施例として、カイコ後部絹糸腺でピエリシン1AのADPリボシル化ドメインを発現させた所、後部絹糸腺が機能しなくなり、フィブロインの産生が行われなくなった。このため、このカイコは中部絹糸腺からのセリシンでできた糸を吐くようになった。
.化粧品などに使用されているセリシンは生糸からセリシンのみを抽出、精製して使用している。しかし、その抽出操作によってセリシンが変性することが問題であった。しかし、このピエリシン1AのADPリボシル化ドメインを後部絹糸腺で発現することで、フィブロインを全く含まないセリシンのみの糸を得ることができ、そのセリシンは水などで容易に抽出できるようになった。このため、この後部絹糸腺を機能不全化した遺伝子組換えカイコは、化粧品等の材料としてのセリシンの供給材料に最適であると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ピエリシン1Aとピエリシン1のアミノ酸配列のホモロジーデータ
図2】ピエリシン1Aとピエリシン1のアミノ酸配列のホモロジーデータ
図3】カイコガ形質転換のためのドナープラスミドpBacMCS[FibHPro-H1/P1A(269)/FLAG, 3xP3-egfp
図4】カイコガ絹糸腺の比較
図5】Western Blot法によるH1/P1A(N)の発現確認
図6】蛹および繭の重量比較
図7】P1A発現系統の繭の成分の検証
図8】電気泳動の結果
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において、「セリシン繭」は、フィブロインフリーのセリシンで構成される繭を意味する。
【0019】
ピエリシン1Aの塩基配列を配列番号1に示し、アミノ酸配列を配列番号2に示す。また、ピエリシン1AのADPリボシル化ドメインの塩基配列を配列番号3に示し、ADPリボシル化ドメインのアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0020】
本発明のピエリシン1Aとピエリシン1のアミノ酸配列のホモロジーデータを図1図2に示す。
【0021】
本発明のピエリシン1A遺伝子は、モンシロチョウの遺伝子ライブラリーから、公知のピエリシン1遺伝子をプローブとしてハイブリダイズすることにより、得ることができる。
【0022】
本明細書において、「複数の組織を有する多細胞生物」としては、動物、植物が挙げられる。
【0023】
動物としては、昆虫、脊椎動物が挙げられる。脊椎動物としては、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ブタ、サル、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌなどの非ヒト哺乳動物が挙げられる。昆虫としては、カイコガなどが挙げられる。
【0024】
植物としては、種子植物が挙げられ、例えば、スギ、ヒノキ、ブタクサ、シラカバ、ヨモギ、ハンノキ、カモガヤなどが挙げられる。
【0025】
本発明の遺伝子により機能が不全化される組織としては、後部絹糸腺、中部絹糸腺、膵島細胞、神経細胞、おしべなどが挙げられる。例えばカイコガでは後部絹糸腺を機能不全化することでフィブロインを欠損したセリシンからなる繭糸の産生が可能になり、中部絹糸腺を機能不全化することで、フィブロインからなる繭糸を産生することができる。膵島細胞の機能不全化は糖尿病モデル動物の作製に有効であり、特定の神経細胞を機能不全化することで、認知症、統合失調症、うつ病、パーキンソン病などの中枢神経系疾患の動物モデルの作製に有効である。また、おしべを機能不全化した植物は、花粉症に有効である。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、カイコガの後部絹糸腺を本発明の遺伝子の発現により機能不全化させると、セリシンからなる繭糸が得られ、セリシンを容易に分離、精製できるので好ましい。本発明の遺伝子を後部絹糸腺で選択的に発現させて後部絹糸腺のみ機能不全化するためには、例えばフィブロイン合成に関与するフィブロインH鎖、フィブロインL鎖、P25のようなフィブロイン関連遺伝子のプロモーターの制御下にADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子を導入し、後部絹糸腺でADPリボシル化ドメインを発現させればよい。また、フィブロインからなる繭糸を得る場合には、中部絹糸腺で選択的に発現されるセリシン遺伝子のプロモーターの制御下にADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子を導入して、中部絹糸腺を機能不全化させればよい。セリシン、フィブロインの遺伝子は、繭糸を産生する時点で発現されるので、それまでのカイコガの成長に影響せず、繭糸を産生するような成熟した段階になって後部絹糸腺或いは中部絹糸腺が機能不全化しても、繭糸の組成が変化するのみであり、生殖能力には影響しないので、子孫を残すことができる。
【0027】
また、植物に関しては、花粉の産生に関与する遺伝子のプロモーター、おしべで特異的に発現する遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。本発明の遺伝子がおしべで特異的に発現される染色体に安定的に保持されたホモ型の種子植物は、自身では花粉は産生されないが、他の同種植物の花粉により受粉できるので、花粉を産生しない植物の子孫を残すことができる。
【0028】
本発明の遺伝子発現を制御するプロモーターは、テトラサイクリンプロモーターなどの誘導性プロモーター、後部絹糸腺に対するフィブロイン関連遺伝子プロモーター、中部絹糸腺に対するセリシンプロモーター、花粉の産生を阻害するプロモーター(例えばスギ花粉ではCry j1、Cry j2、イネでは葯特異的プロモーターRA8、花粉特異的プロモーターCatA、雄ずい特異的プロモーターT72, T23, T42, T155, E1、花器特異的プロモーターRPC213など)、動物では膵臓に対するインスリンプロモーター、エラスチンプロモーター、アミラーゼプロモーター、pdr-1 pdx-1グルコキナーゼプロモーター、肝臓に対するアルブミンプロモーター、αフェトプロテインプロモーター、アポリポプロテインCプロモーター、α1アンチトリプシンプロモーター、ビテロゲニンプロモーター、トランスサイレチンプロモーター、骨格筋に対するミオシンH鎖プロモーター、筋クレアチンキナーゼプロモーター、ジストロフィンプロモーター、カルパインプロモーター、アルファ-アクチンプロモーター、速筋型トロポニン1プロモーター、皮膚に対してケラチンプロモーター、肺に対してヒトサイトケラチン18プロモーター、CFTR(嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子)プロモーター、肺サーファクタントタンパク質A、Bプロモーター、脂肪組織に対してリポタンパク質リパーゼプロモーター、アジプシンプロモーター、神経特異的プロモーターとしては、シナプシンIプロモーター、ニューロン特異的エノラーゼプロモーター、ニューロフィラメント−Lプロモーター、ニューロペプチドYプロモーター、チロシン水酸化酵素遺伝子プロモーター、ドーパミン−b−ヒドロキシラーゼ遺伝子プロモーター、L7プルキンエ細胞タンパク質プロモーター、D1Aドーパミン受容体遺伝子プロモーター、ヒトヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼプロモーター、SCG10プロモーター、Tα1α−チューブリンプロモーター、アルドラーゼCプロモーター、ベータ−チューブリン遺伝子プロモーター、GnRH遺伝子エンハンサーおよびプロモーター、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65遺伝子プロモーター、ベータ−ガラクトシドアルファ1,2−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子プロモーター、神経ニコチン性アセチルコリン受容体ベータ3遺伝子プロモーター、GABA(A)受容体デルタサブユニット遺伝子プロモーター、ニューロン−特異的FE65遺伝子プロモーター、N型カルシウムチャネルアルファ1Bサブユニット遺伝子プロモーターなどの細胞タイプ又は組織特異的プロモーターなどが挙げられる。
【0029】
本発明の遺伝子を含むベクターには、遺伝子とプロモーター配列の他に、必要に応じて遺伝子を導入するためのマルチクローニングサイト、エンハンサー配列、ポリアデニレーション配列、選択マーカー遺伝子配列、複製起点などを有していてもよい。
【0030】
本発明の遺伝子を含むベクターを多細胞生物細胞に導入する方法は、細胞導入後の用途に対して適当な公知の方法を選択して実施することができる。具体的な方法として、多細胞生物細胞が動物の培養細胞の場合にはリポフェクション法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法などが挙げられ、受精卵の場合には、顕微注入法などが挙げられる。また、多細胞生物細胞が植物細胞の場合には、アグロバクテリウム法などが挙げられる。
【0031】
本発明の多細胞生物は、標的組織が機能不全化されている。標的組織は1つであっても2つ以上であってもよい。機能不全化は、発生直後であってもよく、成体あるいはその前段階で機能不全化が起こってもよい。例えば、後部絹糸腺で特異的に発現するフィブロインHプロモーターの制御下に本発明の遺伝子をカイコガの受精卵に注入した場合、カイコガの子孫は後部絹糸腺を持った状態で生まれてくるが、その後、繭を産生する時期になって、後部絹糸腺の細胞はアポトーシスになり機能不全化する。生存或いは発生に影響のない組織であれば、機能不全化する時期は問わない。
【0032】
本発明の多細胞生物は、本発明の遺伝子をホモ或いはヘテロで保有してもよく、好ましくはホモで保有する。本明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドは形成されない条件をいう。この条件の具体例としては、例えば「0.2xSSC、0.1%SDS、65℃」程度が挙げられる。
【0033】
本明細書において、「85%以上の同一性」とは、ピエリシン1AのN末端のADPリボシル化ドメインのアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換及び/又は付加された状態で、85%以上の同一性を有することを意味する。同一性の範囲は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上である。このような配列番号4のアミノ酸配列と一定以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドは、例えば、遺伝子工学的手法を用いて作製することができる。
【0034】
1又は複数のアミノ酸としては、1〜20個、好ましくは1〜15個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1、2,3,4、5,6,7,8又は9個である。
【0035】
本発明の遺伝子は、ADPリボシル化活性を有するポリペプチドをコードするものであり、例えば、配列番号3に記載のピエリシン1AのADPリボシル化ドメインをコードする塩基配列であってもよく、配列番号1に記載のピエリシン1Aの全長をコードする塩基配列であってもよい。さらに、ADPリボシル化活性を有するポリペプチドをコードするものであれば、その配列は、置換、付加、欠失、挿入などにより改変されていてもよい。
【0036】
1若しくは複数の塩基の置換、付加、欠失、挿入などの遺伝子の改変は、PCRによる変異導入法、部位特異的突然変異導入法、自動核酸合成法などの公知の方法に基づき行うことができる。
【0037】
この遺伝子は、宿主となる動物細胞において機能することができるプロモーターの制御下に置くことができる。このようなプロモーターは、宿主細胞で発現可能であれば特に限定されないが、配列番号3の遺伝子の発現産物の細胞毒性により動物の子孫が残せない事態を避けるために、発生後の適当な時期に特定の組織又は細胞タイプで働く特異的プロモーター、誘導性プロモーター、或いはその臓器もしくは組織が障害を受けても子孫を残すことができる臓器/組織特異的に発現する遺伝子のプロモーターが好ましい。本発明の遺伝子又はタンパク質は、全身で発現させると致命的となるので、動物における発現が致命的とならない臓器組織若しくは細胞で発現させることになる。
【0038】
本発明の遺伝子をカイコガの後部絹糸腺で発現させると、後部絹糸腺が機能しなくなるため、繭糸は中部絹糸腺で産生されるセリシンから構成され、後部絹糸腺で産生されるフィブロインは繭糸には含まれない。この繭糸は、セリシンの製造原料として非常に優れている。
【0039】
本発明のDNA断片は、ピエリシン1AのN末端側のドメインの5’上流側にプロモーターを有することが好ましい。プロモーターとしては、通常のものが制限なく使用することができ、例えば時期特異的プロモーター、臓器/組織特異的プロモーターなどが挙げられる。また、DNA断片の構造遺伝子の下流側に3’非翻訳領域及びポリA配列、ターミネーター配列を有していてもよい。
【0040】
遺伝子は、精製を容易にするためにHisタグ、GSTタグなどを連結してもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例1:ピエリシンカイコ作出方法
1.ベクターの構築
遺伝子配列のベクターへのクローニングに用いたプライマーおよびオリゴヌクレオチドは表1にまとめた。
【0042】
モンシロチョウ(Pieris rapae)由来ピエリシン1A(P1A)のcDNA全長配列の開始コドンを除く翻訳可能領域をプライマーp1A N-terminalおよびp1A C-terminalを用いてPCR法により増幅し、この断片をpENTR/D-TOPOベクターにクローニングした(pENTR/D-P1A)。GATEWAYTMPCR cloning system (Invitrogen)を用いて、pENTR/D-P1AからpDEST-N-H1ベクター(Ijiri et al., 2009, Biomaterials 30, 4297-4308)に目的配列を移入させた(pDEST-N-H1-P1A)。プラスミドpDEST-N-H1-P1Aのクローニングサイトには、サイポウイルスポリヘドリンへの固定化シグナルであるH1(ポリヘドリンの1-30アミノ酸;Ijiri et al., 2009, Biomaterials)とP1AのORFがin frameで連結されている。
【0043】
プライマーH1 5’: BamHIとP1A(809) 3’: Xho Iを用いて、pDEST-N-H1-P1Aを鋳型にPCR法を行い、H1とP1AのN末端側のADP-ribosylating activity domain(2-269アミノ酸配列)の融合配列を増幅した。この断片を制限酵素BamHIとXhoIで消化して得られたものを、BamHIとXhoIで消化したpIZ/V5-Hisにサブクローニングした。得られたプラスミドのXho I -Xba Iサイトに、オリゴヌクレオチドFLAG1: Xho I -Xba IおよびFLAG2: Xba I- Xho Iをアニーリング後に制限酵素Xho I とXba I処理して得られた断片を挿入した(pIZ-H1/P1A(269)/FLAG、図3(1))。pIZ-H1/P1A(269)/FLAG内では、H1とP1A(2-269)および抗体検出用のFLAGタグがin frameで連結されている。カイコ(w1-pnd)のゲノムを鋳型に、プライマーFibHpro(-860): Kpn IとFibHpro(+10): BamHIを用いてPCR法を行い、フィブロインH鎖プロモーター配列(-860 - +10)を増幅させた。制限酵素処理で得られたDNA断片を、pIZ-H1/P1A(269)/FLAGのKpnI-BamHIサイトに挿入した(pIZ-FibHPro-H1/P1A(269)/FLAG)。
【0044】
プライマーFibHpro(-860): Nhe IとOPIE2-3’UTR: Nhe Iを用いて、pIZ-FibHPro-H1/P1A(269)/FLAGを鋳型としてPCR法を行い、得られる増幅断片を制限酵素NheIで処理した後、pBacMCS[UAS, 3xP3-egfp] (Sakudoh et al.,,2007, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 104, 8941-8946.)のBlnIサイトに挿入した(pBacMCS[FibHPro-H1/P1A(269)/FLAG, 3xP3-egfp];図3(2))。pBacMCS[FibHPro-H1/P1A(269)/FLAG, 3xP3-egfp]を、キアゲンのプラスミドミディプレップキットを用いて精製し、これをカイコ形質転換のためのドナープラスミドとした。
【0045】
2.カイコガ卵へのマイクロインジェクションと形質転換カイコの選抜
Tamuraらの方法で、産卵後3-8時間のw1-pndの卵の胚発生域に、200ng/μlのドナープラスミドおよびピギーバック発現用ヘルパープラスミドを含むリン酸緩衝液(pH7.0)を、フェムトジェット(エッペンドルフ社製)を用いてマイクロインジェクションした(G0世代;Tamura et al., 2007 JIBS)。G0世代どうしの交配によって得られるG1世代の発生卵を気管形成期に蛍光顕微鏡を用いて観察し、神経でEGFPを発現している個体を選抜した。
【0046】
3.染色体における転移配列の検出
選抜したEGFP陽性個体を交配し、得られる子孫の中で特に強いEGFP蛍光の形質を持ち、セリシン繭を作る系統を選抜した(G2世代)。このG2セリシン繭産生系統の絹糸腺からゲノムDNAを抽出し、制限酵素Sau3AIにより一晩処理して得られるDNA断片をリガーゼを用いて自己環状化させた。これを鋳型に、piggyBack right ITR 1: 5’とpiggyBack right ITR 2: 3’の組み合わせ、またはpiggyBack left ITR 1: 5’とpiggyBack left ITR 2: 3’の組み合わせでPCR法を行い、得られた断片の配列を決定することにより、それぞれ転移配列の5’ ITRおよび3’ ITR周辺のカイコ染色体由来配列を決定した(表2)。この結果、第16番染色体に確かに転移配列が挿入されていることを確認した。この系統について、マーカーのEGFP蛍光の強さからホモ系統を選抜して、以後同系交配を繰り返した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
本発明で得られたホモ系統のカイコガ(P1A発現系統)と遺伝子改変前の野生型のカイコガ(w1-pnd系統)について、絹糸腺を比較したところ、P1A発現系統の後部絹糸腺における形態異常が観察された(図4)。
【0050】
本発明で得られたホモ系統のカイコガ(P1A発現系統)について、Western Blot法によるH1/P1A(N)の発現確認を行った。結果を図5に示す。
【0051】
さらに、本発明で得られたホモ系統のカイコガ(P1A発現系統)と遺伝子改変前の野生型のカイコガ(w1-pnd系統)について、蛹および繭の比較を行った(図6)。本発明のカイコガ(P1A発現系統)は、フィブロインを産生しないために蛹が肥大化し、繭重量は約75質量%の重量を占めるフィブロイン分が少なくなり、野生型の約25質量%の繭重量になることが確認された。
【0052】
さらに、本発明で得られたホモ系統のカイコガ(P1A発現系統)の繭の成分の検証を行った(図7)。
【0053】
P1A発現系統にはフィブロインL鎖が含まれないことが確認され、フィブロインを含まないことが確認された。
【0054】
図7において、P1A発現系統の不溶画分(不純物)1%の繭タンパク質成分を確認するために、電気泳動を行った。
【0055】
遺伝子改変前の野生型カイコガ(w1-pnd)の通常繭と、ピエリシン1A遺伝子のホモ系統のカイコガ(P1A発現系統)のセリシン繭を、6M LiBr溶液に室温で溶解させた。これら溶解物に最終濃度が8Mになるように尿素を加え、5-20%グラジエントゲル電気泳動で分析した(図8)。また、ホモ系統のカイコガ(P1A発現系統)のセリシン繭を6 M LiBr中で溶解後、不溶となった産物(1%)も同様に8M尿素により可溶化した後、電気泳動を行った。この結果、セリシン繭およびセリシン繭6M LiBr不溶物には、通常繭中に検出されているフィブロインH鎖(レーン 1;約350K)のタンパク質バンドは検出されなかったことから(図8)、セリシン繭中にはフィブロインは含まれないことがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]