(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871571
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】ISプロセスを用いた水素製造システム及びヨウ素回収方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/02 20060101AFI20210426BHJP
C01B 7/14 20060101ALI20210426BHJP
C01B 3/56 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
C01B3/02 D
C01B7/14 A
C01B3/56 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-83524(P2017-83524)
(22)【出願日】2017年4月20日
(65)【公開番号】特開2018-177614(P2018-177614A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2016年(平成28年)11月6日−10日に米国ネバダ州ラスベガスで開催されたANS(米国原子力学会)ウィンターミーティング及びエキスポで公開
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】712003270
【氏名又は名称】大日機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】特許業務法人 日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 弘喜
(72)【発明者】
【氏名】今 肇
(72)【発明者】
【氏名】笠原 清司
(72)【発明者】
【氏名】久保 真治
(72)【発明者】
【氏名】直井 登貴夫
【審査官】
佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−096686(JP,A)
【文献】
特開2007−031225(JP,A)
【文献】
特開2006−232561(JP,A)
【文献】
特開2005−306624(JP,A)
【文献】
特開2008−208006(JP,A)
【文献】
特開2005−289736(JP,A)
【文献】
特開2006−206334(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0195749(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00 − 6/34
C01B 7/00 − 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブンゼン反応後に得られるヨウ化水素(HI)を気化させた後、再生熱交換器を通してヨウ化水素(HI)分解器に送り込み、水素(H2)やヨウ素(I2)などから成る混合ガスに熱分解した後、再度前記再生熱交換器を介してHI-I2回収分離器に送り、最終的に水素を分離回収するISプロセスを用いた水素製造システムにおいて、
前記再生熱交換器の前段に予備加熱器を設け、前記再生熱交換器内部で前記混合ガスがヨウ素析出温度より低温にならないよう、これと熱交換する低温側プロセス流体の温度を能動的に制御するようにしたことを特徴とする水素製造システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水素製造システムにおいて、前記HI-I2回収分離器の最上部に水注入手段を設け、ヨウ素を含む前記混合ガスに水を注入することによりヨウ素を溶解する溶媒を生成させ、これにヨウ素を溶解させることで冷却過程でも常時流体とするようにしたことを特徴とする水素製造システム。
【請求項3】
請求項2に記載の水素製造システムにおいて、前記HI-I2回収分離器を、塔下部付近から塔上部付近までラシヒリングが充填された充填塔で構成し、前記充填塔の塔上部から水を流下させつつ,高温に維持したままの前記混合ガスを上昇させ、前記水と前記混合ガスを直接接触させ、前記充填塔の塔上部では水がヨウ素濃度の薄い混合ガス中に含まれる未分解HIガスを吸収することにより溶媒となるヨウ化水素酸を生成し,塔下部にて溶媒とヨウ素濃度の濃い前記混合ガスを接触させてヨウ素を溶解させることを特徴とする水素製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、高温ガス炉から得られる高熱を利用し、IS(ヨウ素硫黄)プロセスを用いて水を熱分解し、水素を製造するシステムに係り、特に水素製造システムを構成する機器や配管内でのヨウ素の析出を防止した水素製造システム及びそのシステムに適用可能なヨウ素回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ISプロセスは、
図1に示されるような高温ガス炉を熱源とする水素製造システムにおいて、効率的な水素製造方法として期待されている。熱化学法であるISプロセスは、ブンゼン反応(硫酸とヨウ化水素の生成反応)、硫酸の熱分解反応、ヨウ化水素の熱分解反応の3化学反応工程により構成され、二酸化炭素を発生することなく、高温ガス炉で発生する高温ガスを利用して、原料である水を分解して水素を製造する。
【0003】
ここで、ブンゼン反応の化学反応式は、
図2に模式的に示すように、具体的には以下のように表される。
【0004】
SO
2 + I
2+ 2H
2O → 2HI + H
2SO
4
【0005】
ブンゼン反応工程においては、二酸化硫黄(SO
2)ガスをヨウ素(I
2)と水(2 H
2O)の混合物中に導入することで、共に強酸性を示す、軽液相(硫酸)及び重液相(ポリヨウ化水素酸(HI、I
2、H
2Oの混合物))に液-液の二相分離する生成溶液が得られる。
【0006】
軽液相のH
2SO
4及び重液相の2HIは、それぞれ別々の系統によって、次の反応をもたらされ、それぞれ酸素及び水素を生成する。
【0007】
H
2SO
4 → H
2O + SO
2 + 0.5O
2
2HI → H
2 + I
2
【0008】
ISプロセスは、水以外のヨウ素、二酸化硫黄の反応物質がプロセス内で繰り返し使用する閉サイクルであるため、環境に優しく、非常に効率的に水素を生成できるプロセスとして注目されている。
【0009】
そのような水素製造システムの一例を、
図3を参照して説明する。まず、図の中央に示されたブンゼン反応器に水(2H
2O)とヨウ素(I
2)ガスが供給され、そこに二酸化硫黄(SO
2)ガスが導入され、ブンゼン反応を起こさせる。その結果得られるH
2SO
4と2HIは、二相分離器に送られ、ここでヨウ化水素(HI)を主成分とする重液と硫酸(H
2SO
4)を主成分とする軽液に分離させられ、それぞれ別の系統に送られる。
【0010】
ヨウ化水素(HI)は精製・濃縮された後、ヨウ化水素(HI)蒸留塔で気体として分離される。その後、再生熱交換器を通してヨウ化水素(HI)分解器に送られ、水素(H
2)、ヨウ素(I
2)などから成る混合ガスに熱分解させられる。これらの混合ガスは、再度再生熱交換器を通された後、HI-I
2回収分離器に送られ、最終的に水素分離塔を介して水素(H
2)として取り出される。
【0011】
一方、硫酸(H
2SO
4)は、精製された後、硫酸分解反応工程の硫酸濃縮塔にて濃縮され、硫酸分解器に送られる。硫酸分解器において、硫酸蒸発によって気相化され、三酸化硫黄(SO
3)などを含む混合気体とされ、触媒にて二酸化硫黄(SO
2)等に分解させられた後、SO
2ガス分離器を介して前述のブンゼン反応器に送られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−289733号公報
【特許文献2】特開2006−16238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の従来技術では、大きく分けて以下のような課題がある。
(1)ヨウ素を含む高温の混合ガスは、まず、HI分解器の後段にある再生熱交換器で冷却されるが、熱交換器内部を流通する混合ガスの温度は能動的に制御することができず、再生熱交換器の内部でヨウ素が析出しやすい。
(2-1)水素を発生させるHI分解反応工程(
図3の紙面左端)では、水素以外にヨウ素やヨウ化水素を含む混合ガスが生成され、目的物の水素を分離する過程で行われる冷却時に、ヨウ素がHI-I
2回収分離器内に析出し易い。
(2-2)ヨウ素を含む混合ガスを冷却して水素ガスを分離する際,ヨウ素が析出し,配管を閉塞させる可能性がある。
【0014】
従って、本発明の目的は、ISプロセスを用いて水素を製造するシステムのHI分解反応工程において、処理中に各機器や配管内でヨウ素が析出することを防止できる水素製造システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため本発明に係る水素製造システムにおいては、大きく分けて次のような解決手段を講じている。
【0016】
(1)予備加熱器による再生熱交換器内での混合ガスの低温化防止
再生熱交換器内部で混合ガスがヨウ素析出温度(120℃)より低温にならないよう、これと熱交換する低温側プロセス流体の温度を能動的に制御するようにした。再生熱交換器を流れるプロセス流体は水素製造量によって流量が変化し、再生熱交換器の交換熱量が変動するため、低温側プロセス流体を昇温する予備加熱器を導入し、いかなる条件でもヨウ素を析出させないように、熱交換する混合ガスを固体ヨウ素が析出しない温度以上に間接的に制御するようにした。
【0017】
(2)高温混合ガスと水とを直接接触させて溶液化
ヨウ素を含む混合ガスに水を注入することによりヨウ素を溶解する溶媒(ヨウ化水素酸)を生成させ、これにヨウ素を溶解させることで冷却過程でも常時流体とする。ヨウ素は水には溶解しにくいため、充填塔を用いて、塔上部から少量の水を流下させつつ,高温に維持したままの混合ガスを上昇させて、直接接触させる。充填塔の上部では水がヨウ素濃度の薄くなった混合ガスと接触し、混合ガス中に含まれる未分解HIガスを吸収することにより溶媒となるヨウ化水素酸を生成し,塔下部にてヨウ素濃度の濃い混合ガスと溶媒が接触しヨウ素を溶解させる。
【0018】
具体的には、本発明の一つの観点に係る水素製造システムでは、再生熱交換器内でのヨウ素の析出を防止するため、次のような手段を設けている。すなわち、ブンゼン反応後に得られるヨウ化水素(HI)を気化させた後、再生熱交換器を通してヨウ化水素(HI)分解器に送り込み、水素(H
2)やヨウ素(I
2)などから成る混合ガスに熱分解した後、再度前記再生熱交換器を介してHI-I
2回収分離器に送り、最終的に水素を分離回収するISプロセスを用いた水素製造システムにおいて、前記再生熱交換器の前段に予備加熱器を設け、前記再生熱交換器内部で前記混合ガスがヨウ素析出温度より低温にならないよう、これと熱交換する低温側プロセス流体の温度を能動的に制御するようにしている。
【0019】
さらに、本発明の別な観点での水素製造システムでは、下流に設けられたHI-I
2回収分離器でのヨウ素の析出を防止するため、次の手段を設けている。すなわち、前記の新規な水素製造装置において、さらにHI-I
2回収分離器の最上部に水注入手段を設け、ヨウ素を含む前記混合ガスに水を注入することによりヨウ素を溶解する溶媒を生成させ、これにヨウ素を溶解させることで冷却過程でも常時流体とするようにしている。
【0020】
さらに具体的には、上述の水素製造システムでは、前記HI-I
2回収分離器を、塔下部付近から塔上部付近までラシヒリングが充填された充填塔で構成し、前記充填塔の塔上部から水を流下させつつ,高温に維持したままの前記混合ガスを上昇させ、前記水と前記混合ガスを直接接触させ、前記充填塔の塔上部では水がヨウ素濃度の薄くなった混合ガス中に含まれる未分解HIガスを吸収することにより溶媒となるヨウ化水素酸を生成し,塔下部にて溶媒とヨウ素濃度の濃い前記混合ガスを接触させてヨウ素を溶解させている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ISプロセスを用いた水素製造システムにおいて、通常ヨウ素の析出が起こり易い機器に、析出を能動的に防止する手段を備えているので、各種機器の性能を長期にわたって保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】高温ガス炉を利用した水素製造システムの全体構成図。
【
図3】ISプロセスを用いた本発明の水素製造システムの概略説明図。
【
図4】本発明の一実施例に係る水素製造システムの部分詳細説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、
図3及び
図4を参照して、本発明について詳細に説明する。
図4において、HI蒸留塔で分離・気化されたヨウ化水素ガスは、予備加熱器10に送られ、その後再生熱交換器20に送られる。再生熱交換器20で熱交換されたヨウ化水素ガスは、HI分解器30に送られ、ここでH
2,I
2,HIから成る混合ガスとされ、再度再生熱交換器20に送られる。
【0024】
従来構成では、HI蒸留塔からのヨウ化水素ガスを予備加熱器10によって十分昇温させていないため、前記混合ガスが再度再生熱交換器20を通る際に、
図4に示されているようにヨウ素が熱交換壁に析出してしまう恐れがあった。
図4ではこの状態をわかり易く示すために、あえて従来技術において析出したヨウ素も図示している。しかし、本発明では予備加熱器10においてヨウ化水素ガスをヨウ素析出温度(120℃)よりも十分高い温度に加熱して、ヨウ化水素ガスの再生熱交換器20への入口温度を十分高め、HI分解器30からの前記混合ガスが再生熱交換器20を再度通過する際にヨウ素析出温度以下に降下しないようにしているので、本発明では、ここに図示したようなヨウ素の析出は起こらない。
【0025】
なお、特に図示されていないが、HI-I
2回収分離器40に与えられる混合ガスの温度がヨウ素析出温度以下に降下しないように、再生熱交換器20の出口部に温度検出器を設け、その検出温度に応じて予備加熱器10の加熱温度をフィードバック制御することがより望ましい。
【0026】
再生熱交換器20を再通過した前記混合ガスは加熱された後、HI-I
2回収分離器40に送られる。
図4に示されているように、本発明では、HI-I
2回収分離器40は
図4に示されるように塔下部付近から塔上部付近までラシヒリングが充填された充填塔で構成されている。充填塔の塔上部には外部から充填塔の上部に水を引き込むための水注入管(図示せず)が設けられている。
【0027】
充填塔40の塔上部から水を少しずつ流下させつつ、高温に維持したままの前記混合ガスを上昇させ、前記水と前記混合ガスを直接接触させる。ラシヒリング41は、ガラス製の短い筒であって、気液の接触効率を上げるため、隙間なく充填されている。前記充填塔の塔上部では水がヨウ素濃度の薄い混合ガス中に含まれる未分解HIガスを吸収することにより溶媒となるヨウ化水素酸を生成し、塔下部にて溶媒とヨウ素濃度の濃い前記混合ガスを接触させてヨウ素を溶解させている。
【0028】
本発明では、HI-I
2回収分離器40を充填塔として、充填塔40の塔上部から水を供給し、ヨウ素溶解用の溶媒(ヨウ化水素酸)を作成し、溶媒によってヨウ素を吸収させているので、溶液中からヨウ素が析出することがない。
【0029】
以上の実施例では、ヨウ素の析出沈着を防止した水素製造システムの構成について説明したが、上述のHI-I
2回収分離器40は、一つの汎用性のあるヨウ素回収器として捉えることもできる。すなわち、上述のヨウ素回収器は、「塔下部付近から塔上部付近までラシヒリングが充填された充填塔から構成され、前記充填塔の塔上部から水を流下させつつ,前記充填塔の塔下部からヨウ化水素ガスを供給し、前記充填塔内を上昇させ、前記水と前記ヨウ化水素ガスを直接接触させ、前記充填塔の塔上部では水がヨウ化水素ガスを吸収することにより溶媒となるヨウ化水素酸を生成し,塔下部にて前記溶媒とヨウ化水素ガスを接触させてヨウ素を溶解させる構成を持つ単独の機器」としても捉えることができる。
【0030】
また、以上の実施例では、HI-I
2回収分離器40として充填塔を例に説明したが、本発明のヨウ素回収方法の原理は、充填塔に限らず、他の気液接触器であっても同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
10…予備加熱器
20…再生熱交換器
30…HI分解器
40…HI-I
2回収分離器(充填塔)