(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記計測装置は、前記左右中心判定部により、前記ユーザの左右方向の重心位置が前記椅子の左右方向の所定の中心領域にあることが判定された場合に、合格判定を報知する報知手段を更に備えることを特徴とする請求項5に記載の歩行動作計測システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば片麻痺患者といった姿勢障害や運動障害を有するユーザの動作を慣性計測センサにより計測する場合、ユーザが自身で身体を直立させることが困難な場合があり、このようなユーザに歩行補助装置や慣性計測センサに基づく姿勢検出装置を装着できたとしても、キャリブレーションが困難となる虞があった。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑み、姿勢障害や運動障害を有し、自身で身体を直立させることが困難なユーザであっても、キャリブレーションを精度良く行える方法を提供することを課題とする。また、本発明は、このキャリブレーション方法に好適なキャリブレーション用椅子を提供することを課題とする。更に、本発明は、キャリブレーションを精度良く行える歩行動作計測システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために、本発明のある実施形態は、センサのキャリブレーション方法であって、ユーザ(U)の動作を計測するために前記ユーザの上体部、大腿部及び下腿部に、3軸の加速度及び角速度を検出する複数の慣性計測センサ(2)を取り付けるステップ(ST1)と、前記上体部と前記下腿部とが互いに平行をなし且つ前記大腿部が前記上体部及び前記下腿部に対して直交する姿勢である基準姿勢をもって前記ユーザを座らせるステップ(ST2)と、前記基準姿勢をもって前記ユーザが座った状態で取得した複数の前記慣性計測センサの出力に基づいて複数の前記慣性計測センサのキャリブレーションを行うステップ(ST3)と、を備えることを特徴とする。
【0010】
脳性麻痺児などの患者は座位で安定した姿勢をとりやすい傾向がある。そのため、この構成によれば、動作計測対象のユーザが自身で身体を直立させることが困難な患者であっても、複数の慣性計測センサを取り付けて座らせた状態で複数の慣性計測センサのキャリブレーションを行うことで、精度良くキャリブレーションを行うことができる。これにより、計測精度の向上を図ることができる。
【0011】
また、上記構成において、複数の前記慣性計測センサ(2)が取り付けられた前記ユーザ(U)の動作を光学式モーションキャプチャで計測するステップ(ST7)と、前記光学式モーションキャプチャで検出した前記ユーザの動作に基づいて、複数の前記慣性計測センサの出力の線形モデルの傾きを補正するステップ(ST8、ST9)とを更に備えるとよい。
【0012】
この構成によれば、後処理として光学式モーションキャプチャで検出したユーザの動作に基づいて、複数の慣性計測センサの出力の線形モデルの傾きを補正することで、慣性計測センサの性能のばらつきによる誤差を小さくし、動作の計測精度を向上させることができる。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明のある実施形態は、上記構成のキャリブレーション方法に用いるための椅子(2)であって、前記ユーザ(U)の前記大腿部が座面(21a)に沿うように、足接地面(26a)から前記座面までの高さが調整可能に構成された着座部(21)と、前記ユーザの前記下腿部の膝裏が前記座面の前縁に接し且つ前記ユーザの背部が背凭れ面(22a)に沿うように、前記着座部に対して前後方向に移動可能に構成された背凭れ(22)と、前記座面の前縁の下方に踵を位置させるべく前記ユーザの前記下腿部をガイドする下腿ガイド部材(25)と、を有することを特徴とする。
【0014】
安定した座位でキャリブレーションを行うためには、膝関節と股関節、足関節の角度を保持しやすい専用の椅子を用意するとよい。この構成によれば、足接地面から前記座面までの高さが調整可能であるため、大腿部を水平にすることが容易である。また、下腿ガイド部材と座面の前縁とにより下腿部を鉛直にすることが容易である。更に、背凭れ面が前後方向に移動可能であるため、下腿部の鉛直及び大腿部の水平を保ったまま上半身を鉛直にすることが容易である。これらにより、安定した姿勢を保持できないユーザの動作を計測する場合であっても、複数の慣性計測センサのキャリブレーションを精度良く行うことができる。また、ユーザの身体的負担も緩和できる。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明のある実施形態は、歩行動作計測システム(1)であって、ユーザ(U)の動作を計測するために前記ユーザの上体部、大腿部及び下腿部に取り付けられ、3軸の加速度及び角速度を検出する複数の慣性計測センサ(2)と、前記ユーザの腰部に装着される腰フレーム(11)及び前記ユーザの脚部に装着される脚フレーム(12)を有し、前記ユーザの歩行動作を補助する補助力を発生する歩行補助装置(10)と、前記歩行補助装置が前記ユーザの歩行動作を補助している時に、複数の前記慣性計測センサの出力に基づいて前記ユーザの前記上体部、前記大腿部及び前記下腿部の動作を計測する計測装置(4)と、を備え、前記上体部と前記下腿部とが互いに平行をなし且つ前記大腿部が前記上体部及び前記下腿部に対して直交する姿勢である基準姿勢を前記ユーザがとった状態で、前記計測装置が複数の前記慣性計測センサの出力に基づいて複数の前記慣性計測センサのキャリブレーションを行うように構成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、歩行補助装置がユーザの歩行動作を補助している時にユーザの前記上体部、前記大腿部及び前記下腿部の動作を計測する場合に、ユーザが自身で身体を直立させることが困難な患者であっても、複数の慣性計測センサを取り付けて座らせた状態で複数の慣性計測センサのキャリブレーションを行うことで、精度良くキャリブレーションを行うことができる。これにより、歩行補助装置によって補助されているユーザの歩行動作の計測精度の向上を図ることができる。
【0017】
また、上記構成において、前記計測装置(4)は、光学式モーションキャプチャにより予め計測した前記ユーザ(U)の動作に対する複数の前記慣性計測センサ(2)の出力の線形モデルの傾き(β)に基づいて、複数の前記慣性計測センサの出力を補正するとよい。
【0018】
この構成によれば、後処理として光学式モーションキャプチャで検出したユーザの動作に基づいて、複数の慣性計測センサの出力の線形モデルの傾きを補正することで、慣性計測センサの性能のばらつきによる誤差を小さくし、動作の計測精度を向上させることができる。
【0019】
また、上記構成において、前記歩行補助装置(10)は発生する補助力を制御する制御装置(14)を備え、前記制御装置が前記ユーザ(U)の背側に配置され、前記上体部に取り付けられる前記慣性計測センサ(2)が前記ユーザの腹側に配置されるとよい。
【0020】
この構成によれば、上体部に取り付けられる慣性計測センサが歩行補助装置の制御装置の影響を受けてその出力中のノイズが大きくなることを抑制できる。
【0021】
また、上記構成において、足接地面(26a)から座面(21a)までの高さが調整可能な着座部(21)、前記着座部に対して前後方向に移動可能な背凭れ(22)及び、前記座面の前縁の下方に踵を位置させるべく前記下腿部をガイドする下腿ガイド部材(25)を有する椅子(2)と、前記計測装置(4)に対し、複数の前記慣性計測センサ(2)のキャリブレーションを開始させる操作を受け付ける入力部(5)と、を更に備えるとよい。
【0022】
この構成によれば、座面の足接地面からの高さの調整及び、背凭れの前後方向位置の調整により、ユーザの大腿部が着座部に沿うと共に、ユーザの下腿部の膝裏が座面の前縁に接し且つユーザの背部が背凭れに沿うように、ユーザが椅子に座った状態で、複数の慣性計測センサのキャリブレーションを計測装置に開始させる指示を、入力部の操作により行うことができる。これにより、簡単な構成で複数の慣性計測センサのキャリブレーションを精度良く行うことができる。
【0023】
また、上記構成において、前記椅子の前記背凭れ(22)は、前記歩行補助装置(10)の前記腰フレーム(11)を受容可能な装置受容孔(37)と、前記装置受容孔の周囲に形成された椅子側目印(38)とを備え、前記歩行補助装置の前記腰フレームには、前記椅子側目印に対して左右方向について対応する位置に装置側目印(39)が形成されているとよい。
【0024】
この構成によれば、大腿部が着座部に沿うと共に下腿部の膝裏が座面の前縁に接し且つ背部が背凭れに沿うように、ユーザが椅子に座った時に、歩行補助装置の腰フレームが邪魔になることがない。また、このような姿勢をもってユーザを椅子に座らせた状態で、椅子の後方から装置受容孔を介して歩行補助装置をユーザに装着することも可能である。この装着により、歩行補助装置を装着する際のユーザの負担が軽くなる。また、ユーザが椅子の中心に座っていれば、装置側目印が椅子側目印に整合するように歩行補助装置をユーザに装着することによって歩行補助装置がユーザの適切な位置に装着されるため、装着作業が容易である。
【0025】
また、上記構成において、前記着座部(21)は、前記座面(21a)の面圧を検出する面圧センサ(27)を備え、前記計測装置(4)は、前記基準姿勢をもって前記ユーザ(U)が前記椅子(2)に座った状態で取得した前記面圧センサの出力に基づいて、前記ユーザの左右方向の重心位置が前記椅子の左右方向の所定の中心領域にあるか否かを判定する左右中心判定部(45)を備えるとよい。
【0026】
この構成によれば、計測装置が左右中心判定部によってユーザが椅子の中心に座っているか否かを判定した上で、複数の慣性計測センサのキャリブレーションを開始させることができる。
【0027】
また、上記構成において、前記計測装置(4)は、前記左右中心判定部により、前記ユーザ(U)の左右方向の重心位置が前記椅子(2)の左右方向の所定の中心領域にあることが判定された場合に、合格判定を報知する報知手段(7)を更に備えるとよい。
【0028】
この構成によれば、歩行補助装置をユーザに取り付ける人は、ユーザが椅子の中心に座ったことを容易に認識でき、適正な着座状態のユーザに対して歩行補助装置を装着することができる。
【発明の効果】
【0029】
このように本発明によれば、姿勢障害や運動障害を有し、自身で身体を直立させることが困難なユーザであっても、キャリブレーションを精度良く行える方法、このキャリブレーション方法に好適なキャリブレーション用椅子、キャリブレーションを精度良く行える歩行動作計測システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0032】
図1は、実施形態に係る歩行動作計測システム1を示す全体図である。
図1に示されるように、歩行動作計測システム1は、ユーザUの歩行動作を検出するものであり、ユーザUの身体の各部に設けられた複数の慣性計測センサ2と、無線通信機3を介してこれらの慣性計測センサ2の出力を取得する計測装置4とを備えている。歩行動作計測システム1は、ユーザUの歩行動作の計測を行う人やその補助者(以下、オペレータという)によって使用される。
【0033】
慣性計測センサ2は、3軸の加速度、3軸の角速度及び3軸の地磁気を検出する9軸のIMU(Inertial Measurement Unit)であり、検出したこれらのデータを無線送信部から出力として送信する。なお、慣性計測センサ2は3軸の加速度及び3軸の角速度を検出する6軸のIMUであってもよい。図示例では、合計で10個の慣性計測センサ2が、ユーザUの上体のうち胸部の前面中央、左右の肩部の背面、腰部の前面、左右の大腿部の前面、左右の下腿部の前面、左右の脚の上面に取り付けられている。
【0034】
計測装置4は、CPU、RAM、ROM等を含む電子回路ユニットを備えたコンピュータであり、入力操作を受け付ける入力操作盤5(キーボード)と、各種データを表示可能に構成されたディスプレイ6と、報知音を発生可能に構成されたスピーカ7(
図7)とを備えている。計測装置4は、慣性計測センサ2からの出力を、無線通信機3を介して取得し、取得した慣性計測センサ2の出力に基づいて、ユーザUの身体の各部の動作を数値データとして算出し、算出したデータを保存及び解析できるように構成されている。算出、保存及び解析できるように構成されているとは、計測装置4を構成する演算処理装置(CPU)が、記憶装置(メモリ)から必要なデータ及びアプリケーションソフトウェアを読み取り、当該ソフトウェアに従って当該所定の演算処理を実行するようにプログラムされていることを意味する。
【0035】
また計測装置4は、ユーザUが何も装着せずに歩行動作を行った時のデータと、ユーザUが歩行補助装置10を装着して歩行動作を行った時のデータとを比較できるように構成されている。そのため、慣性計測センサ2は、上体の1箇所、左右の大腿部の2箇所、及び左右の下腿部又は足の2箇所の少なくとも5箇所に取り付けられる必要がある。言い換えれば、上記10箇所の全てに慣性計測センサ2が取り付けられる必要はない。
【0036】
慣性計測センサ2は、ユーザUの身体に取り付けられる際に様々な姿勢(向きに)で取り付けられる。そのため、計測装置4は、慣性計測センサ2がユーザUに取り付けられた後にキャリブレーションを行う必要がある。慣性計測センサ2のキャリブレーションを行うにあたっては、例えば直立姿勢等、ユーザUが歩行を行っていない基準となる姿勢をとっている時に行う必要がある。
【0037】
片麻痺患者といった姿勢障害や運動障害を有するユーザUの動作を慣性計測センサ2により計測する場合、ユーザUが自身で身体を直立させることが困難な場合がある。また、健常者の動作を慣性計測センサ2により計測する場合であっても、ユーザUが揺れのない不動の姿勢をキャリブレーションに必要な時間にわたって維持することが困難な場合等もある。
【0038】
そこで、本実施形態では、キャリブレーションの間にユーザUが安定して基準となる姿勢をとり続けるようにするために専用のキャリブレーション用椅子(以下、単に椅子20という)が用意される。
【0039】
まず、
図2を参照して歩行補助装置10について説明する。
図2は、
図1に示す歩行補助装置10の斜視図である。
図2に示されるように、歩行補助装置10は、ユーザUの胴体に装着される腰フレーム11と、ユーザUの股関節部を中心にして変位し得るように腰フレーム11に連結され、ユーザUの各脚体に装着される脚フレームである左右の大腿フレーム12と、左右の大腿フレーム12を腰フレーム11に対して変位させる左右の駆動源13と、左右の駆動源13の動作を制御するように構成されている制御装置14(
図3参照)と、左右の大腿フレーム12の腰フレーム11に対する角度を検出する左右の角度センサ15と、左右の駆動源13及び制御装置14に電力を供給するバッテリ(図示せず)と、を備えている。
【0040】
腰フレーム11は硬質樹脂や金属等の剛性素材と繊維等の柔軟素材とが組み合わせられて構成され、腰フレーム11に連結されたベルト16によってユーザUの腰部に装着される。ベルト16には、ユーザUの腰部の前面に配置される慣性計測センサ2が取り付けられている。腰フレーム11の前面(腰部の背面に対向する位置)には、柔軟素材により形成された腰部サポータ17が取り付けられている。
【0041】
大腿フレーム12は、使用者(ユーザU)の大腿部に装着される左右の脚部サポータ18と、脚部サポータ18を支持する左右のアーム部19とを備えている。脚部サポータ18は剛性素材と柔軟素材とが組み合わせられて構成されている。脚部サポータ18には、ユーザUの左右の大腿部の前面に配置される慣性計測センサ2が取り付けられている。アーム部19は硬質樹脂又は金属により形成され、大腿部に沿って下方に伸びており、駆動源13の出力軸と脚部サポータ18とを連結する。つまり、大腿フレーム12は、駆動源13を介して腰フレーム11に連結されている。
【0042】
駆動源13はモータにより構成され、減速機構及びコンプライアンス機構のうち一方又は両方を適宜備えている。駆動源13は、制御装置14により所定の補助力(アシストトルク)を発揮するように制御された電力をバッテリから供給されることによりアーム部19に動力を加える。アーム部19に加えられた動力は、脚部サポータ18を介してユーザUの脚体に伝達される。
【0043】
角度センサ15はユーザUの腰部の横に配置されるアブソリュート型のセンサにより構成され、左右の大腿フレーム12の腰フレーム11に対する角度(絶対角度)を検出することで、対応する脚体の上体部に対する角度信号を出力する。角度センサ15から出力された角度信号は、制御装置14に入力される。
【0044】
バッテリは、例えば、腰フレーム11の内部に収容されるように腰フレーム11に固定されており、制御装置14及び駆動源13に対して電力を供給する。なお、制御装置14及びバッテリのそれぞれは大腿フレーム12に取り付けられ又は収納されていてもよく、歩行補助装置10とは別個に設けられてもよい。
【0045】
制御装置14は、腰フレーム11に収納されたCPU、RAM、ROM等を含む電子回路ユニットにより構成され、駆動源13の動作、ひいてはユーザUに作用させる補助力の演算・制御処理を実行するように構成されている。制御装置14が演算・制御処理を実行するように構成されているとは、制御装置14を構成する演算処理装置(CPU)が、記憶装置(メモリ)から必要なデータ及びアプリケーションソフトウェアを読み取り、当該ソフトウェアに従って当該所定の演算処理を実行するようにプログラムされていることを意味する。
【0046】
このように構成された歩行補助装置10は、腰フレーム11及び大腿フレーム12を介して、バッテリを電源とする駆動源13の動力を歩行補助力としてユーザUに作用させることにより、当該ユーザUの歩行運動を補助する。
【0047】
図3は、
図1に示す椅子20の斜視図であり、
図4は、椅子20のユーザU着座状態を示す側面図である。
図3及び
図4に示されるように、椅子20は、慣性計測センサ2がノイズを生じさせないように木製とされており、床面に平行な、即ち水平な座面21aを形成する着座部21と、着座部21に前後方向にスライド可能に設けられ、座面21aに対して直交する背凭れ面22aを形成する背凭れ22と、着座部21の両側方に配置された左右の手すり23とを備えている。
【0048】
着座部21は、幅方向寸法に比べて前後方向寸法が長い直方体形状をしており、座面21aを形成する座板24と、座面21aの前縁から座面21aに対して直角に垂下する前板25と、前板25の下部前方に配置された高さ調整機構としての足置き26とを備えている。座面21aには、周縁部を除く略全域にわたって面圧センサ27が設けられている。前板25は、着座部21の略全幅にわたって且つ着座部21の略全高にわたって設けられており、座面21aの前縁の下方に踵を位置させるべくユーザUの下腿部をガイドする下腿ガイド部材をなす。
【0049】
座板24の上面(座面21a)の前部及び前板25の前面には、座面21aの幅方向の中央にて前後方向及び鉛直方向に延びる前側目印28が付されている。そのため、椅子20に座ったユーザUは、自分が座面21aの左右方向の中央に座っているか否かを確認することができる。また、オペレータは、椅子20に座ったユーザUが座面21aの左右方向の中央に座っているか否かを椅子20の前方から確認することができる。
【0050】
足置き26は、互いに平行に配置された底板29及び天板30と、底板29と天板30とを連結するXリンク31とを備えており、Xリンク31によって底板29に対する天板30の高さを変更できるように構成されている。このように天板30の上面がなす足接地面26aの高さが変更可能とされたことにより、着座部21の足接地面26aから座面21aまでの高さが調整可能となっている。着座部21の側面には、
図4に示されるように座面21aから足接地面26aまでの寸法を計測するために座面21aを0とする座面高目盛り32が付されている。
【0051】
前板25は、膝裏が座面21aの前縁に接するように着座部21に着座したユーザUの下腿部を着座部21の前面に沿わせるのに利用される。着座部21の足接地面26aから座面21aまでの高さを調整することにより、上記のように着座したユーザUの大腿部を座面21aに沿わせることが可能になる。このようにユーザUを椅子20に座らせることにより、ユーザUの下腿部を大腿部に対して直交させ、膝関節角度を90°にすることができる。
【0052】
背凭れ22は、座面21aにおける前後方向の位置を調整することにより、下腿部の膝裏が座面21aの前縁に接するように着座したユーザUの臀部及び背部を背凭れ面22aに沿わせることができる。ユーザUをこのように椅子20に座らせることにより、ユーザUの上体を大腿部に対して直交させ、股関節角度を90°にすることができる。
【0053】
背凭れ22は、幅方向の両端に立設された左右のポスト33と、左右のポスト33を連結して背凭れ面22aを形成する背当て部34とを備えている。着座部21の側面には、
図4に示されるように座面21aの前縁から背凭れ面22aまでの寸法を計測するために座面21aの前縁を0とする座面長目盛り35が付されている。また、背凭れ22の側面には、座面21aからの高さ(例えば、腰フレーム11の配置高さや、慣性計測センサ2の配置高さ等)を計測するために座面21aを0とする背凭れ高目盛り36が付されている。
【0054】
図5は、
図4に示す状態にて椅子20の要部を後方から見た斜視図であり、
図6は、
図4に示す状態にて椅子20の要部を示す背面図である。
図5及び
図6に示されるように、
背当て部34は、ポスト33の上部に架け渡されており、歩行補助装置10を装着したユーザUが座面21aに着座した時にユーザUの腰部から後方へ突出する腰フレーム11を受容可能な装置受容孔37をポスト33間の下部に形成している。装置受容孔37は、歩行補助装置10の幅(左右の駆動源13の幅)よりも大きな幅及び、左右の大腿フレーム12を含まない歩行補助装置10の高さよりも大きな高さを有する大きさに形成されている。そのため、椅子20に着座したユーザUに対してオペレータが歩行補助装置10を装着することもできる。また、ユーザUが上記のように椅子20に座った状態において、座面21aは背凭れ22から更に後方へ延びており、このスペースを歩行補助装置10の仮置きスペースとして利用できる。これにより、歩行補助装置10のユーザUへの装着が容易に行える。
【0055】
着座部21の上面(座面21a)の後部及び後面並びに、背凭れ22の背面には、座面21aの幅方向の中央にて前後方向及び鉛直方向に延びる背側目印38が付されている。そのため、オペレータは、椅子20に座ったユーザUが座面21aの左右方向の中央に座っているか否かを椅子20の後方から確認することができる。
【0056】
歩行補助装置10の腰フレーム11の後面には、幅方向の中央にて鉛直方向に延びる装置側目印39が付されている。そのため、オペレータは、歩行補助装置10を装着したユーザUが座面21aの左右方向の中央に座っているか否か、或いは、座面21aの左右方向の中央に座っているユーザUに対して後方から装着する歩行補助装置10がユーザUの身体の中心に配置されたか否かを椅子20の後方から確認することができる。
【0057】
以上のようにして、ユーザUを椅子20に座らせることにより、上体部と下腿部とが互いに平行をなし且つ大腿部が上体部及び下腿部に対して直交する基準とすべき姿勢(以下、基準姿勢という)をもってユーザUを座らせることができ、ユーザUの姿勢が座位で安定する。計測装置4は、この状態で慣性計測センサ2のキャリブレーションを行う。以下、計測装置4について説明する。
【0058】
図7は、
図1に示す計測装置4のブロック図である。
図7に示されるように、計測装置4は、入力操作盤5からの指令信号に応じて慣性計測センサ2のキャリブレーションを行うキャリブレーション部41を備えている。また、計測装置4は、光学式モーションキャプチャ42からのデータ信号及び慣性計測センサ2から無線通信機3を介して受信したセンサ信号に基づいて、慣性計測センサ2の出力の線形モデルの傾きの補正係数である傾き係数βを算出する傾き係数算出部43を備えている。また、計測装置4は、慣性計測センサ2から無線通信機3を介して受信したセンサ信号と傾き係数βとに基づいて、ユーザUの動作を計測する動作計測部44を備えている。また、計測装置4は、面圧センサ27の出力に基づいてユーザUが座面21aの左右方向の中心に座っているか否かを判定する左右中心判定部45を備えている。
【0059】
左右中心判定部45は、面圧センサ27の出力に基づいて、左側の面圧と右側の面圧との差が所定値以内である場合に、ユーザUが座面21aの中心に座っているものとして合格判定を行う。左右中心判定部45は、合格判定を行うと、スピーカ7に合格判定を報知する報知音を発生させる。
【0060】
スピーカ7からの合格判定の報知音が発生され、オペレータが入力操作盤5にてキャリブレーションの開始操作を行うと、指令信号を受けたキャリブレーション部41は慣性計測センサ2のキャリブレーションを開始する。キャリブレーション部41は、ユーザUの身体の各部に取り付けられた慣性計測センサ2の出力値(具体的には、3軸回りの加速度及び3軸回りの角速度)を、ユーザUが基準姿勢をとっている時の値であるものとして0に設定する(
図9に示される差分αが0になるようにリセットする)。
【0061】
図8は、(A)比較例、(B)本発明における膝角度のタイムチャートである。
図8(A)の比較例は、姿勢障害或いは運動障害を有するユーザUが立位をとっている場合の膝角度を示しており、
図8(B)は、姿勢障害或いは運動障害を有するユーザUが本発明に係る椅子20に座って基準姿勢(座位)をとっている場合の膝角度を示している。
図8(A)に示されるように、ユーザUが立位をとっている場合、膝角度は大きく変化しており、膝角度の揺らぎR1は1.5°程度であった。一方、
図8(B)に示されるように、ユーザUが座位の基準姿勢をとっている場合、膝角度は安定しており、膝角度の揺らぎR2は0.1°程度であった。
【0062】
このことから、本発明に係るキャリブレーション方法は、慣性計測センサ2のキャリブレーションを精度良く行えることがわかる。
【0063】
各慣性計測センサ2は、3軸回りの加速度や角速度に比例する検出値を出力する。但し、慣性計測センサ2は、個体によって性能のばらつきがあるため、同じ加速度や角速度を検出する場合であっても個体によって異なる値を出力する。
図9は、
図1に示す慣性計測センサ2の1つと光学式モーションキャプチャ42とにおける、動作の検出角度の相関図である。なお、慣性計測センサ2の検出角度は角加速度の積分値である。慣性計測センサ2が線形モデルの検出値を出力するため、慣性計測センサ2の誤差は、
図9に示されるように、検出値の値が大きいほど大きくなる。
【0064】
そこで、傾き係数算出部43は、光学式モーションキャプチャ42が検出した角度や角速度を正しい値として、各慣性計測センサ2について、図中の矢印で示すように検出値をこの値に補正するのに必要な傾き係数βを算出する。具体的には、傾き係数算出部43は、ユーザUが行った動作について、慣性計測センサ2からの出力を、光学式モーションキャプチャ42が検出したユーザUの動作に基づいて求められる値に対して除算することで傾き係数βを算出する。傾き係数算出部43は、算出した傾き係数βを慣性計測センサ2に関連付けてROM等の図示しない保存装置に保存する。
【0065】
なお、光学式モーションキャプチャ42は、計測装置4が内蔵しているものでもよく、他の装置のものでもよい。
【0066】
動作計測部44は、慣性計測センサ2からのセンサ信号から得られる値に傾き係数βを乗算することで補正し、ユーザUの動作を計測する。更に、動作計測部44は、補正されたユーザUの動作を示す値(加速度や角速度)を積分することで速度や角度を算出し、2階積分することで位置を算出する。また、動作計測部44は、補正されたユーザUの動作を示す値(角速度)を微分することで角加速度を検出することもできる。動作計測部44は、計測したユーザUの動作を示すこれらの値の少なくとも1つをディスプレイ6に表示させる。
【0067】
次に、このようにして行うキャリブレーションの手順について説明する。
図10は、キャリブレーションの手順を示すフロー図である。キャリブレーションにあっては、まず、オペレータは、ユーザUの上体部、大腿部及び下腿部に慣性計測センサ2を取り付ける(ステップST1)。次に、オペレータは、ユーザUを基準姿勢で椅子20に座らせる(ステップST2)。なお、ステップST1とステップST2とは逆であってもよい。ユーザUが椅子20に基準姿勢で座り、中心判定部による合格判定の報知音が鳴った後、オペレータは操作盤を操作して、計測装置4に慣性計測センサ2のキャリブレーションを開始させる(ステップST3)。キャリブレーションには所定に時間がかかる。キャリブレーションの完了後、計測装置4が各慣性計測センサ2の傾き係数βを既に保持しているか否かを判定する(ステップST4)。判定は計測装置4が行ってもよく、オペレータが操作盤を操作してディスプレイ6で確認しながら行ってもよい。全ての慣性計測センサ2について傾き係数βを保持している場合には(ステップST4;Yes)、ステップST9の処理に進む。
【0068】
少なくとも1つの慣性計測センサ2について傾き係数βを保持していない場合(ステップST4;No)、オペレータはユーザUに歩行動作やキャリブレーション用の動作を行わせる(ステップST5)。オペレータは、計測装置4でこの動作を検出するように計測装置4を操作すると共に(ステップST6)、光学式モーションキャプチャ42でこの動作を検出するように光学式モーションキャプチャ42を操作する(ステップST7)。その後、光学式モーションキャプチャ42が検出したユーザUの動作と計測装置4が検出したユーザUの動作との値に基づいて傾き係数βを算出する処理を計測装置4に行わせる(ステップST8)。傾き係数βは、慣性計測センサ2に関連付けて計測装置4の保存装置に保存される。その後、オペレータはユーザUに歩行動作等の動作を行わせることにより、計測装置4に傾き補正を行いながら動作を検出させること(ステップST9)が可能になる。
【0069】
オペレータは、ステップST9にて、歩行補助装置10による歩行補助がない状態でユーザUに歩行させ、また、歩行補助装置10による歩行補助がある状態でユーザUに歩行させ、両動作を計測装置4に検出させることにより、歩行補助による動作の変化を確認することができる。
【0070】
このように、本実施形態に係るキャリブレーション方法は、ユーザUの上体部、大腿部及び下腿部に複数の慣性計測センサ2を取り付け(ステップST1)、基準姿勢をもってユーザUを座らせ(ステップST2)、慣性計測センサ2の出力に基づいて慣性計測センサ2のキャリブレーションを行う(ステップST3)。そのため、ユーザUが自身で身体を直立させることが困難な脳性麻痺児などの患者であっても、姿勢が安定する座位で精度良くキャリブレーションを行うことができる。これより動作の計測制度が向上する。
【0071】
また、本実施形態に係るキャリブレーション方法は、後処理として慣性計測センサ2が取り付けられたユーザUの動作を光学式モーションキャプチャ42で計測し(ステップST7)、光学式モーションキャプチャ42で検出したユーザUの動作に基づいて、慣性計測センサ2の出力の線形モデルの傾きを補正する(ステップST8、ステップST9)。これにより、慣性計測センサ2の性能のばらつきによる誤差が小さくなり、動作の計測精度が向上する。
【0072】
本実施形態に係る椅子20は、
図3及び
図4に示されるように、足接地面26aから座面21aまでの高さが調整可能に構成された着座部21と、着座部21に対して前後方向に移動可能に構成された背凭れ22と、座面21aの前縁の下方に踵を位置させるべくユーザUの下腿部をガイドする下腿ガイド部材としての前板25とを有する。これにより、ユーザUの大腿部を座面21aに沿って水平にすること及び下腿部を前板25に沿って鉛直にすることが容易であり、ユーザUの下腿部の膝裏が座面21aの前縁に接した状態でユーザUの背部を背凭れ面22aに沿わせ、下腿部の鉛直及び大腿部の水平を保ったまま上半身を鉛直にすることが容易である。従って、安定した姿勢を保持できないユーザUの動作を計測する場合であっても、慣性計測センサ2のキャリブレーションを精度良く行うことができる。また、ユーザUの身体的負担も緩和される。
【0073】
本実施形態に係る歩行動作計測システム1は、
図1に示されるように、ユーザUの上体部、大腿部及び下腿部に取り付けられた複数の慣性計測センサ2と、歩行補助装置10がユーザUの歩行動作を補助している時に、これらの慣性計測センサ2の出力に基づいてユーザUの上体部、大腿部及び下腿部の動作を計測する計測装置4とを備える。計測装置4は、ユーザUが基準姿勢とった状態で、慣性計測センサ2の出力に基づいて慣性計測センサ2のキャリブレーションを行うように構成されている。従って、精度良く慣性計測センサ2のキャリブレーションを行うことができ、歩行補助装置10によって補助されているユーザUの歩行動作の計測精度が向上する。
【0074】
図7及び
図10に示されるように、計測装置4が、光学式モーションキャプチャ42により予め計測したユーザUの動作に対する慣性計測センサ2の出力の線形モデルの傾きに基づいて、慣性計測センサ2の出力を補正するため、慣性計測センサ2の性能のばらつきによる誤差が小さくなり、動作の計測精度が向上する。
【0075】
図1及び
図3に示されるように、歩行補助装置10の制御装置14がユーザUの背側に配置され、上体部に取り付けられる慣性計測センサ2がユーザUの腹側に配置されるため、上体部に取り付けられる慣性計測センサ2が歩行補助装置10の制御装置14の影響を受けてその出力中のノイズが大きくなることが抑制される。
【0076】
本実施形態に係る歩行動作計測システム1は、
図3及び
図4に示されるように、足接地面26aから座面21aまでの高さが調整可能な着座部21、着座部21に対して前後方向に移動可能な背凭れ22及び、座面21aの前縁の下方に踵を位置させるべくユーザUの下腿部をガイドする下腿ガイド部材としての前板25を有する椅子20を備える。また、歩行動作計測システム1は、
図1及び
図7に示されるように、計測装置4に対し、慣性計測センサ2のキャリブレーションを開始させる操作を受け付ける入力部としての入力操作盤5を備える。そのため、オペレータは、座面21aの足接地面26aからの高さの調整及び、背凭れ22の前後方向位置の調整を行って、ユーザUの大腿部が着座部21に沿うと共に、ユーザUの下腿部の膝裏が座面21aの前縁に接し且つユーザUの背部が背凭れ22に沿うようにユーザUを椅子20に座らせることができる。また、その状態で、オペレータは、慣性計測センサ2のキャリブレーションを計測装置4に開始させる指示を、入力操作盤5の操作により行うことができる。これにより、簡単な構成で慣性計測センサ2のキャリブレーションを精度良く行うことができる。
【0077】
椅子20の背凭れ22は、
図5及び
図6に示されるように、歩行補助装置10の腰フレーム11を受容可能な装置受容孔37と、装置受容孔37の周囲に形成された椅子側目印をなす背側目印38とを備え、歩行補助装置10の腰フレーム11には、背側目印38に対して左右方向について対応する位置に装置側目印39が形成されている。そのため、ユーザUが基準姿勢をもって椅子20に座った時に、歩行補助装置10の腰フレーム11が邪魔になることがなく、椅子20の後方から装置受容孔37を介して歩行補助装置10をユーザUに装着することも可能である。この装着により、歩行補助装置10を装着する際のユーザUの負担が軽くなる。また、ユーザUが椅子20の中心に座っていれば、装置側目印39が椅子20の背側目印38に整合するように歩行補助装置10をユーザUに装着することによって歩行補助装置10がユーザUの適切な位置に装着されるため、装着作業が容易である。
【0078】
着座部21は、
図2に示されるように座面21aの面圧を検出する面圧センサ27を備え、計測装置4は、
図4に示される基準姿勢をもってユーザUが椅子20に座った状態で取得した面圧センサ27の出力に基づいて、ユーザUの左右方向の重心位置が椅子20の左右方向の所定の中心領域にあるか否かを判定する左右中心判定部45(
図7)を備える。そのため、計測装置4が左右中心判定部45によってユーザUが椅子20の中心に座っているか否かを判定した上で、慣性計測センサ2のキャリブレーションを開始させることができる。
【0079】
計測装置4は、左右中心判定部45により、ユーザUの左右方向の重心位置が椅子20の左右方向の所定の中心領域にあることが判定された場合に、合格判定を報知する報知手段としてのスピーカ7を更に備える。そのため、歩行補助装置10をユーザUに取り付けるオペレータは、ユーザUが椅子20の中心に座ったことを容易に認識でき、適正な着座状態のユーザUに対して歩行補助装置10を装着することができる。
【0080】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、角度、手順など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。