特許第6871587号(P6871587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6871587シアル酸誘導体、その製造方法及びそれを利用したシアリダーゼ阻害剤、抗菌剤、抗ウイルス剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871587
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】シアル酸誘導体、その製造方法及びそれを利用したシアリダーゼ阻害剤、抗菌剤、抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
   C07H 5/10 20060101AFI20210426BHJP
   C07H 13/06 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 31/7008 20060101ALN20210426BHJP
   A61P 31/04 20060101ALN20210426BHJP
   A61P 31/12 20060101ALN20210426BHJP
【FI】
   C07H5/10
   C07H13/06
   !A61K31/7008
   !A61P31/04
   !A61P31/12
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-162979(P2016-162979)
(22)【出願日】2016年8月23日
(65)【公開番号】特開2018-30801(P2018-30801A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清田 洋正
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ジョン ヴァヴリカ ジュニア
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−532895(JP,A)
【文献】 J. Mol. Biol.,1995年,Vol.245,pp.623-634
【文献】 Current Pharmaceutical Design,2014年,Vol.20,pp.3478-3487
【文献】 Carbohydrate Research,2009年,Vol.344,pp.269-277
【文献】 J. Org. Chem.,2006年,Vol.71,pp.1380-1389
【文献】 Carbohydrate Research,1996年,Vol.282,pp.181-187
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 5/10
C07H 13/06
A61K 31/7008
A61P 31/04
A61P 31/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】
[式(I)中、(A)はR1(B)はSO32を表す。ここでR1は水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子又はOAcであり、R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数〜20のアリール基又は対陽イオンを表。また(C)及び(D)はR1を表し、(E)はヒドロキシ基、アミノ基又はNHC(=NH)NH2を表し、(F)は水素原子、C(=O)CH3又はC(=O)CF3を表し、R6、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20のアルキル基又はC(=O)CH3を表す。]で表わされることを特徴とするシアル酸誘導体。
【請求項2】
一般式(II):
【化2】
[式(II)中、(A)はR(B)はSO32を表す。ここでR1は水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子又はOAcであり、R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数〜20のアリール基又は対陽イオンを表す。また(F)は水素原子、C(=O)CH3又はC(=O)CF3を表し、R6、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20のアルキル基又はC(=O)CH3を表す。]で表わされることを特徴とするシアル酸誘導体。
【請求項3】
前記(B)がスルホ基であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシアル酸誘導体。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のシアル酸誘導体を有効成分とすることを特徴とするシアリダーゼ阻害剤。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載のシアル酸誘導体を有効成分とすることを特徴とする抗菌剤。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載のシアル酸誘導体を有効成分とすることを特徴とする抗ウイルス剤。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のシアル酸誘導体の製造方法であって
下記式(3a)1R
【化3】
及び/又は下記式(4a)1R
【化4】
で表わされる化合物をそれぞれ酸化剤を用いて酸化し、
下記式(5a)1R
【化5】
及び/又は下記式(6a)1R
【化6】
で表わされる化合物を得る工程、を含むことを特徴とするシアル酸誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なシアル酸誘導体に関する。詳しくは、優れたシアリダーゼ阻害作用を有するシアル酸誘導体及びそれを用いたシアリダーゼ阻害剤、抗菌剤、抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗インフルエンザ薬として、タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタ、シンメトリルなどが日本で上市されている。インフルエンザウイルスは、宿主細胞に感染した後、細胞内で増殖して細胞外へ放出されるが、この放出過程でシアル酸グリコシドを切断する酵素シアリダーゼを必要とする。シンメトリルを除く4種は、このシアリダーゼを阻害する薬剤である
【0003】
シアリダーゼ(又はノイラミニダーゼ、NA、EC3.2.1.18)は、立体保持型のグリコシダーゼであり、α−ケトシド型の結合を加水分解してシアル酸を遊離する。一般にシアリダーゼに認識される基質は、ガラクトースとのα2−3又はα2−6ケトシド結合を有するシアル酸(Neu5Ac及びNANA)及びN−グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc及びNGNA)を含んでいる。
【0004】
そして、上記シアリダーゼは種々の病原菌Trypanosoma cruzi、Clostridium perfringens、Streptococcus neumoniae、Vibrio cholera、パラインフルエンザウイルスやインフルエンザウイルスに存在する。動物組織や粘液など生体環境中には多くのシアル酸含有糖鎖が存在しており、これは常に上記のような病原菌やウイルスを吸着している。病原菌やウイルスに存在するシアリダーゼが、上述したように、これらシアル酸含有グリコシドを分解・切断することにより、病原菌は生体内を移動することができる。従って、シアリダーゼの阻害剤は強力な抗菌物質となる可能性があり(例えば、特許文献1)、上記各種抗インフルエンザ薬として上市されている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
第一世代のシアリダーゼ阻害剤は、シアル酸及びその2,3−脱水素誘導体である2−デオキシ−2,3−ジデヒドロシアル酸(Neu5Ac2en及びDANA)をもとに設計された。現在上市されているシアリダーゼ阻害剤は、全てアノマー位にカルボキシ基を含んでおり、シアリダーゼの活性中心の3つのアルギニン残基と強力に静電的な相互作用をしている(例えば、非特許文献1)。関連性の少ない生物種間では、シアリダーゼをコードする塩基配列の相同性は小さいが、既知の全てのシアリダーゼで3つのアルギニン残基を含むクラスターは高度に保存されている。例えば、A型インフルエンザのシアリダーゼはグリコシド加水分解酵素ファミリー34に属するが、この3つのアルギニン残基は、Arg118、Arg292、Arg371である。一方Clostridium perfringens NanIシアリダーゼは同じくファミリー33に属するが、アルギニン残基はArg266、Arg555、Arg615である。
【0006】
シアリダーゼの阻害機構は、本来の基質(シアル酸)と類似構造を持つ薬剤が、シアリダーゼの活性中心に非共有結合的にはまり込む拮抗阻害である。このため、ウイルスが酵素の構造を変化させて薬剤との親和性を弱めるなどの耐性を獲得しやすく、実際タミフル耐性ウイルスの出現が問題となっている。また、異常行動などの副作用も社会問題となっている。
【0007】
天然基質のシアル酸と類似の構造をもったシアル酸誘導体は耐性酵素が発現しにくいことにより、天然基質のシアル酸に類似のシアル酸誘導体におけるカルボキシ基又はその塩を、酵素活性中心との親和性を強める目的でホスホノ基及びその塩に置換した誘導体の開発が行われた。ホスホノ基に置換した誘導体はシアリダーゼに共通の上記3つのアルギニン残基とより強く静電的相互作用を示すことによりシアリダーゼ阻害活性が改善されることが報告されている(例えば、非特許文献2)。しかしながら、ホスホノ基で置換された誘導体のシアリダーゼ阻害活性は改善はされたものの十分強いものではなかった。
【0008】
これに対して、ホスホノ基に比べて上記アルギニン残基との静電的相互作用がより強く、またこれによりシアリダーゼ阻害活性がより大きくなることが期待されているスルホ基に置換したシアル酸誘導体の合成が試みられてきた。例えば、Colmanらはアノマー位スルホ基について言及している(特許文献2)。また、スルホ基を有するシアリダーゼ阻害剤は、相当するカルボキシ基やホスホノ基を有する化合物に較べて最強の結合能を持つことが、計算化学手法により予測されている(例えば、非特許文献3)が、まだ実現に至っていないのが現状である。アノマー位にスルホ基が置換したシアル酸誘導体の合成が極めて困難なことは明らかであり、実際、2位(アノマー位の隣接位)にアミノ基或いはアセタミド基を有する糖誘導体からチアゾールを経てスルホ基を導入した例(例えば、非特許文献4)はあるが、2位のデオキシ糖誘導体でアノマー位にスルホ基が置換した化合物の報告例はない。これまで合成が困難であったことは、前駆体であるアセトキシ化合物とアセチルチオ化合物の分離操作においてクロマトグラフィーの移動度に差がなかったこと、中間体がやはり分離困難な4つの混合物となってしまうこと、アセチルチオ基の酸化には厳密な条件が必要なこと、生成物であるアノマー位にスルホ基が置換した誘導体が極めて水溶性であること、が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5327839号公報
【特許文献2】国際公開第1992/006691号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】von Itzstein M(Editor). Influenzavirus sialidase−a drug discovery target.Springer Basel AG(2012).
【非特許文献2】Journal of the American ChemicalSociety(2011)133,17959−17965.
【非特許文献3】Current Pharmaceutical Design(2016)22, 3478−3487.
【非特許文献4】The Journal of Organic Chemistry(2006)71,1380−1389.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、耐性が出にくく阻害活性の強いシアル酸誘導体及びこれを有効成分とするシアリダーゼ阻害剤、抗菌剤、抗ウイルス剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意研究を行った結果、シアリダーゼ酵素との共有結合性と親和性を強くする目的で、シアル酸のカルボキシ基をスルホ基などに置換した誘導体を作製することにより上記問題を解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、アノマー位にスルホ基が置換したシアル酸誘導体の最初の合成を、アノマー位にアセチルチオ基を有する4つの中間体混合物の酸化反応により得る方法を見出したものである。
【0013】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)一般式(I):
【化1】
[式(I)中、(A)及び(B)はそれぞれ独立してR1、SO32又はSO22を表す。ここでR1は水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子又はOAcであり、R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアリール基又は対陽イオンを表し、(A)がSO32又はSO22である場合は、(B)はR1であり、(B)がSO32又はSO22である場合は、(A)はR1である。また(C)及び(D)はR1を表し、(E)はヒドロキシ基、アミノ基又はNHC(=NH)NH2を表し、(F)は水素原子、C(=O)CH3又はC(=O)CF3を表し、R6、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20のアルキル基又はC(=O)CH3を表す。]で表わされることを特徴とするシアル酸誘導体。
(2)一般式(II):
【化2】
[式(II)中、(A)及び(B)はそれぞれ独立してR1、SO32又はSO22を表す。ここでR1は水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子又はOAcであり、R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアリール基又は対陽イオンを表し、(A)がSO32又はSO22である場合は、(B)はR1であり、(B)がSO32又はSO22である場合は、(A)はR1である。また(F)は水素原子、C(=O)CH3又はC(=O)CF3を表し、R6、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20のアルキル基又はC(=O)CH3を表す。]で表わされることを特徴とするシアル酸誘導体。
(3)前記(A)がスルホ基であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のシアル酸誘導体。
(4)前記(B)がスルホ基であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のシアル酸誘導体。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のシアル酸誘導体を有効成分とすることを特徴とするシアリダーゼ阻害剤。
(6)(1)〜(4)のいずれか1項に記載のシアル酸誘導体を有効成分とすることを特徴とする抗菌剤。
(7)(1)〜(5)のいずれか1項に記載のシアル酸誘導体を有効成分とすることを特徴とする抗ウイルス剤。
(8)(1)又は(2)に記載のシアル酸誘導体の製造方法において、下記式(3a)1R、(3b)1S:
【化3】
及び/又は下記式(4a)1R、(4b)1S:
【化4】
で表わされる化合物をそれぞれ酸化剤を用いて酸化し、
下記式(5a)1R、(5b)1S:
【化5】
及び/又は下記式(6a)1R、(6b)1S:
【化6】
で表わされる化合物を得る工程、を含むことを特徴とするシアル酸誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来のカルボキシ基やホスホノ基より強い酸性度と電気吸引性を示すスルホ基を有しており、酵素活性中心との結合がより強力であるため、シアリダーゼ阻害活性が強くなる。また天然基質のシアル酸と極めて類似の構造を有しているため、耐性酵素が発現しにくいという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るシアル酸誘導体の製造方法の一例を示す。
図2】本発明に係るシアル酸誘導体の阻害活性の一例を示す。
図3】本発明に係るシアル酸誘導体の阻害活性の一例を示す。
図4】本発明に係るシアル酸誘導体の阻害活性の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明に係るシアル酸誘導体は、前述のように、上記一般式(I)及び/又は一般式(II)で表わされるものである。
【0017】
上記一般式(I)及び(II)中、(A)及び(B)はそれぞれ独立して選択されるものであって、R1、SO32又はSO22を表す。R1は水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子又はOAcを示しており、R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアリール基又は対陽イオンを示している。炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基など、直鎖又は分岐したアルキル基が挙げられる。炭素数1〜20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられる。「対陽イオン」とは、次に示す物質の陽イオンを意味し、その陽イオンとしては、例えば、リチウムなどのアルカリ金属、ベリリウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛などの卑金属、銅などの貴金属、鉄などの遷移金属、セリウムなどのランタノイド、アンモニア、メチルアミンなどの第1級アミン、ジメチルアミンなどの第2級アミン、トリメチルアミンなどの第3級アミン、ピリジンなどの芳香族アミン、テトラメチルアンモニウムなどの第4級アンモニウム塩、酢酸アミジンなどのアミジン類、グアニジンなどのグアニジン類、リジンなどのアミノ酸類、エタノールアミンなどのアルコールアミン類、グルコサミンなどのアミノ糖類、コリンやカフェインなどの生体アルカロイドなどの陽イオンが挙げられる。SO32は、好ましくはSO3Hである。またSO22は、好ましくはSOOHである。
【0018】
上記一般式(I)及び(II)中、(A)がSO32又はSO22である場合は、(B)はR1であり、(B)がSO32又はSO22である場合は、(A)はR1である。
【0019】
また、上記一般式(I)中、(C)及び(D)はR1を表し、(E)はヒドロキシ基、アミノ基又はNHC(=NH)NH2を表し、(F)は水素原子、C(=O)CH3又はC(=O)CF3を表し、R6、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20のアルキル基又はC(=O)CH3を表す。
【0020】
以上のように、一般式(I)及び(II)で表わされる本発明のシアル酸誘導体は、アノマー位にスルホ基が存在する構造を有する。このような構造を有することで、カルボキシル基やホスホノ基が存在する構造に比べて、酸解離定数pKaが小さいので良く解離するため酵素活性中心の3つのアルギニン残基とより強く静電相互作用し阻害活性が強まる。
【0021】
また、上記構造は、天然基質シアル酸との構造類似性が極めて高く、耐性酵素が出現しにくいことが期待できる。
【0022】
本発明に係る上記一般式(I)及び(II)で表わされる化合物としては、例えば、以下に示す化合物(9)〜(12)が挙げられる。ただし、本発明に係るシアル酸誘導体はこれらに限定されるものではない。
【0023】
【化7】
【0024】
【化8】
【0025】
【化9】
【0026】
【化10】
【0027】
(合成方法)
本発明における式(I)及び(II)に含まれる化合物は、以下に示す製造方法で合成することができる。図1に本発明に係るシアル酸誘導体の製造方法の一例を示す。
【0028】
[化合物(2a)及び(2b)の合成]
化合物(2a)(アセチル−4−アセタミド−3,6,7,8−テトラ−O−アセチル−2,4−ジデオキシ−β−D−グリセロ−D−ガラクト−オクトピラノシド)及び化合物(2b)(化合物2aのα−体)は公知の方法(例えば、非特許文献2)に従ってシアル酸から合成することができる。
【0029】
[化合物(3a)及び(3b)の合成]
本発明では、ヒドロキシ基が酢酸エステルとして保護された公知の化合物(2a)と(2b)を出発原料に用いるのが好ましいが、酢酸エステルの他に、ギ酸、クロロ酢酸、プロピオン酸、安息香酸などのエステルを保護基に用いることもできる。その他、トリエチルシリル基などのトリアルキルシリルエーテル系の保護基、ベンジル基やメトキシメチル基などのアルキルエーテル系の保護基、tert−ブトキシカルボニル基などカーバマート系の保護基を用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
化合物(2a)と(2b)のアノマー位アセトキシ基の置換反応により、チオ酢酸を用いて、チオ酢酸エステル化合物(3a)及び(3b)と相当する2,3−位脱酢酸化合物(4a)と(4b)を合成することができる。C−1位が脱炭酸しアノマー位にイオウ官能基が置換したシアル酸誘導体の合成は新規である。この反応に用いられる酸触媒としては、トリフルオロメタンスルホン酸トリアルキルシリル、特にトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルが好ましいが、三フッ化ホウ素、トリクロロアルミニウム、ジクロロ亜鉛などの非プロトン性ルイス酸や、トルエンスルホン酸、硫酸、塩化水素などを用いてもよい。これらの使用量に特に制限はないが、通常化合物(2a)及び(2b)に対して0.1〜20モル倍の範囲が好ましく、0.5〜10モル倍の範囲がより好ましい。
【0031】
溶媒としてはジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどの塩素系溶媒や、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサンなどの炭化水素系溶媒が望ましいが、ジエチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル類、アセトンなどのケトン類、ジメチルスルホキシドやN,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒も用いてもよい。その使用量に特に制限はないが、通常化合物(2a)及び(2b)に対して1〜200重量倍の範囲が好ましく、5〜20重量倍の範囲がより好ましい。反応温度は−40〜40℃の範囲が好ましく、−20〜30℃の範囲がより好ましい。反応時間は、反応条件によっても異なるが、通常72時間以内の範囲が好ましい。
【0032】
化合物(3a)及び(3b)並びに化合物(4a)及び(4b)を含む混合物は、酸化剤を用いた酸化反応により、それぞれチオアセチル基がスルホ基へと変換された化合物(5a)及び(5b)並びに化合物(6a)及び(6b)の分離可能な混合物を合成することができる。グルコース誘導体のC−6位のヒドロキシ基をチオアセチル基に置換しスルホ基へ酸化剤を用いて酸化する反応は公知である(例えば、Tetrahedron Letters(2004)45:839−842)が、アノマー位でこれを行う本反応は新規である。
【0033】
この酸化反応の酸化剤には、オキソン(登録商標)が最も好ましいが、他の様々な酸化剤を用いることができる。例えば、ジメチルジオキシラン(DMDO)、3−メチル−3−トリフルオロメチルジオキシラン、3−クロロ過安息香酸(MCPBA)、過酸化水素(H22)、N−ブロモアセトアミド、N−ブロモコハク酸イミド(NBS)、N−クロロコハク酸イミド(NCS)、N−ヨードコハク酸イミド(NIS)、Dess−Martin試薬、IBX試薬、過ハロゲン酸及びその塩、ハロゲン酸及びその塩、亜ハロゲン酸及びその塩、次亜ハロゲン酸塩などハロゲンを有する酸化剤、ジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましい。これら以外に、三酸化クロム、過マンガン酸カリウムなどの遷移金属酸化剤や酸素分子を用いてもよい。上記酸化性物質の使用量に特に制限はないが、通常化合物(3a)及び(3b)並びに化合物(4a)及び(4b)に対して5〜50モル倍の範囲が好ましく、5〜20モル倍の範囲がより好ましい。
【0034】
上記酸化反応はカルボン酸を含む緩衝液中で行うことが好ましい。緩衝液としては、酢酸−酢酸アンモニウムが好ましく、ギ酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなどを含む緩衝液やリン酸緩衝液、ユニバーサル緩衝液などを用いてもよい。また、水やメタノールなどプロトン性極性溶媒、塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル類、アセトンなどのケトン類、ジメチルスルホキシドやN,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒との混合系を用いることもできるが、これらに限定されるものではない。その使用量に特に制限はないが、通常化合物(3a)及び(3b)並びに化合物(4a)及び(4b)に対して1〜200重量倍の範囲が好ましく、5〜20重量倍の範囲がより好ましい。反応温度は−20〜50℃の範囲が好ましく、10〜30℃の範囲がより好ましい。反応時間は、反応条件によっても異なるが、通常96時間以内の範囲が好ましい。
【0035】
上記酸化反応の後処理は、過剰な塩類を濾別し、濾液を減圧濃縮する。酢酸エチル及びエタノール混合溶媒などを溶出液に用いるシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより化合物(5a)及び(5b)並びに化合物(6a)及び(6b)の混合物を分離できる。
【0036】
化合物(2a)及び(2b)から化合物(5a)及び(5b)並びに化合物(6a)及び(6b)に至る一連の反応では、スルホ基の導入に代替の合成法を用いることができる。H2S、アルキルメルカプタン、アルキルチオ酢酸をチオ酢酸代替のチオール求核剤としてアノマー位への付加及び置換反応に利用することができるが、これらに限定されるものではない。アルキルメルカプタンの炭素数はC1−C20が好ましく、C1−C3及びC12が最も好ましい。アルキルチオ酢酸はC1−C20が好ましく、C1−C3及びC12が最も好ましい。シアル酸グリコシド誘導体からのアノマー位スルホ基結合誘導体の合成経路も用いることもできる。アノマー位チオエステル及びチオエーテル類は、酸化される前におそらく相当するチオールに加水分解されている。
【0037】
化合物(5a)及び(5b)並びに化合物(6a)及び(6b)の保護基である酢酸エステルの脱保護には、水酸化ナトリウム水溶液及びメタノールの混合溶媒を用いるのが最も好ましいが、塩基性、中性付近、酸性条件における加水分解や加アルコール分解で行うこともできる。塩基性条件の塩基には、リチウムなどのアルカリ金属、ベリリウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛などの卑金属、銅などの貴金属、鉄などの遷移金属、セリウムなどのランタノイド、テトラメチルアンモニウムなどの第4級アンモニウム塩を対イオンとする水酸化物、アルコキシド、炭酸塩など、アンモニア、メチルアミンなどの第1級アミン、ジメチルアミンなどの第2級アミン、トリメチルアミンなどの第3級アミン、ピリジンなどの芳香族アミン、酢酸アミジンなどのアミジン類、グアニジンなどのグアニジン類、リジンなどのアミノ酸類、エタノールアミンなどのアルコールアミン類、グルコサミンなどのアミノ糖類、コリンやカフェインなどの生体アルカロイド類など、シアン化ナトリウムのようなアルカリ金属やアルカリ土類帰属シアン化物などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。これらの塩基性物質の使用量に特に制限はないが、通常化合物(5a)及び(5b)並びに化合物(6a)及び(6b)に対して5〜50モル倍の範囲が好ましく、5〜20モル倍の範囲がより好ましい。
【0038】
微酸性〜中性〜微塩基性の条件では、微生物や動植物由来の加水分解能を有する酵素触媒を用いることができる。酵素としては、Pseudomonas属に属する微生物が生産する酵素、Burkholderia cepacia属に属する微生物が生産する酵素、Mucormiehei属に属する微生物が生産する酵素及び豚膵臓に由来する酵素などがあり、例えば、Pseudomonas属に属する微生物が生産する酵素であるリパーゼP(長瀬産業製)、リパーゼP(天野製薬製)、リパーゼPS(天野製薬製)、豚膵臓に由来する酵素であるパンクレアチンが挙げられる。酵素の使用量は、化合物(5a)及び(5b)並びに化合物(6a)及び(6b)に対して通常0.01〜200重量%の範囲が好ましく、0.1〜100重量%の範囲がより好ましい。
【0039】
酸性条件の酸には、トリフルオロメタンスルホン酸トリアルキルシリル、三フッ化ホウ素、トリクロロアルミニウム、ジクロロ亜鉛などの非プロトン性ルイス酸や、トルエンスルホン酸、硫酸、塩酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの酸性物質の使用量に特に制限はないが、通常化合物(5a)及び(5b)並びに化合物(6a)及び(6b)に対して0.2〜20モル倍の範囲が好ましく、0.5〜10モル倍の範囲がより好ましい。
【0040】
溶媒には水やメタノールなどプロトン性極性溶媒を用いるが、塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル類、アセトンなどのケトン類、ジメチルスルホキシドやN,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒との混合系を用いることもできるが、これらに限定されるものではない。酵素触媒反応においては、上記溶媒を用いることができるが、緩衝液との混合溶媒を用いることもできる。その使用量に特に制限はないが、通常化合物(5a)及び(5b)並びに化合物(6a)及び(6b)に対して1〜200重量倍の範囲が好ましい。反応温度は−20〜100℃の範囲が好ましく、0〜30℃の範囲がより好ましい。反応時間は、反応条件によっても異なるが、通常96時間以内の範囲が好ましい。
【0041】
本発明におけるアノマー位にスルホ基が結合したシアル酸誘導体は、スルホン酸塩として合成することもできる。例えば、チオ酢酸エステル前駆体化合物(3a)及び(3b)並びに化合物(4a)及び(4b)を、酢酸−酢酸カリウム緩衝液中で酸化剤を用いて酸化すれば化合物(5a)及び(5b)並びに化合物(6a)及び(6b)を対応するスルホン酸のカリウム塩として得ることができる。酢酸カリウムの代わりに酢酸アンモニウムを用いればスルホン酸のアンモニウム塩を合成することができる。酢酸カリウムの代わりに酢酸アンモニウムを用いることにより、アセチルチオ基を過硫酸カリウム等の酸化剤を用いてスルホ基に酸化する工程において、塩類の沈殿による精製処理の困難さを避けることができる。化合物(3a)及び(3b)並びに化合物(4a)及び(4b)或いはこれらに限定されないスルホン酸前駆体の酸化反応では、上述した様々な対陽イオンを用いて、好ましいスルホン酸塩を合成することができる。好ましい陽イオン存在下にクロマトグラフィーを行えば、好ましいスルホン酸を好ましい金属及び非金属塩として得ることができる。
【0042】
本発明におけるアノマー位にスルホ基が結合したシアル酸誘導体は、生物学的利用能向上のため、プロドラッグとして用いることもできる。これはアノマー位スルホ基及び/又は存在するヒドロキシ基の官能基化を含む。例えば化合物(7a)及び(7b)のスルホン酸メチルエステル化はトリメチルシリルジアゾメタンを用いるとよく進行する。オルトギ酸アルキルエステルやハロゲン化アルキルもスルホン酸エステルの合成に用いることができる。本発明のアノマー位にスルホ基が結合したシアル酸誘導体は、フェノール類やペンタフルオロフェノール(PVP)や2,2,2−トリフルオロエチルエステルとして合成することもできる。
【0043】
本発明に係るシアル酸誘導体は、下記に示す化合物で、1,2−脱水素化誘導体である化合物(13)、(14)又は(15)も含まれる。これら誘導体は、それぞれ化合物(3a)及び(3b)、化合物(5a)及び(5b)又は化合物(7a)及び(7b)のアノマー位のラジカル的臭素化によるアノマー位臭化物とその塩基性脱離反応によって合成できる。化合物(13)、(14)又は(15)は、DDQやIBXなどの酸化剤による化合物(3a)及び(3b)、化合物(5a)及び(5b)又は化合物(7a)及び(7b)の脱水素反応によっても合成することができる。
【化11】
【0044】
本発明に係るアノマー位にスルホ基が結合したシアル酸誘導体のうち、(A)、(B)、(C)又は(D)のひとつ或いは複数がハロゲン化された化合物、例えば下記に示す化合物(16)、(17)又は(18)は、求電子的ハロゲン化、ラジカル的ハロゲン化や求核的ハロゲン化などを用いて合成することができる。これには下記の試薬を用いることができるが下記に限定されるものではない。すなわち、二フッ化キセノン、臭素、フッ素、塩素、ヨウ素、臭化水素、フッ化水素、塩化水素、ヨウ化水素、臭化鉄、臭化チタン、塩化チタン、N−ブロモコハク酸イミド、N−ブロモアセトアミド、N−クロロコハク酸イミド(NCS)、N−ヨードコハク酸イミド(NIS)、1−クロロメチル−4−フルオロ−1,4−ジアゾニアビシクロ[2.2.2]オクタン=ビステトラフルオロボラート(Selectfluorョ)N−フルオロベンゼンスルホンイミド(NFSI)、N−フルオロ−2,6−ジクロロピリジニウム=テトラフルオロボラート、(ジエチルアミノ)ジフルオロスルホニウム=テトラフルオロボラート(XtalFluor−E)、ジエチルアミノサルファー=トリフルオリド(DAST)。
【化12】
【0045】
なお、上記で用いた「SO3」は置換基としてはスルホ基、スルホン酸塩あるいはエステル、「SO3H」は、スルホン酸を示す。「SO2」は置換基としてはスルフィノ基、スルフィン酸塩あるいはエステル、「SO2H」はスルフィン酸を示す。また、記載した全ての化合物の可能な立体異性体は、本発明に含まれる。
【0046】
本発明に係るシアル酸誘導体は、原核微生物、真核寄生生物やシアリダーゼやヘマグルチニン−シアリダーゼを有するウイルス類の感染症の治療に用いることができる。上記治療対象としては下記のものを含むがそれらに限定されるものではない。すなわち、原核微生物として、Clostridium perfringens、Streptococcus pneumoniae及びVibrio choleraが挙げられ、前記真核生物としては、Trypanosoma cruziが挙げられる。また、ニューカッスル症、おたふくかぜ、パラインフルエンザ、インフルエンザなどの病気を引き起こすウイルスが挙げられ、シアリダーゼファミリーのG33、G34、GH83、GH58のいずれかを含む生物が挙げられる。
【0047】
また、本発明に係るシアル酸誘導体は、感染する微生物が野生株及び薬剤耐性株いずれであっても用いることができる。これは下記を含むがそれらに限定されるものではない。すなわち、インフルエンザシアリダーゼ変異株Glu105Lys、Glu116Ala、Glu116Asp、Glu116Gly、Glu116Val、Glu119Val、Glu119Gly、Gln136Lys、Arg150Lys、Asp151Ala、Arg152Lys、Asp197Asn、Asp199Gly、Ile223Arg,Ile223Val、Ser247Asn、His273Tyr、His275Tyr、Arg292Lys、Asn294Ser及びArg371Lys(インフルエンザN1株のアミノ酸番号を用いた)。
【0048】
本発明に係るシアル酸誘導体は、全ての動植物を含むどのような生物の感染に対しても用いることができる。
【0049】
また、本発明に係るシアル酸誘導体は、感染箇所への選択的な運搬を助ける様々な助剤と用いることができる。例えば、ポリエチレングリコール、リポソーム、ミセル、球状フラーレン、DNA微細構造物などであるがこれに限定しない。
【0050】
また、本発明に係るシアル酸誘導体をヒトや動物に取り込ませる場合、経口、鼻内噴霧、静脈注射など、ドラッグデリバリーに関するあらゆる方法を用いることができる。また、電気たばこのような器具を用いて肺から吸入することもできる。
【0051】
また、本発明に係るシアル酸誘導体は、毒性や副作用を防ぐために誘導化することができる。また、ヒト由来の分子による妨害を防ぐために誘導化することができる。
【0052】
上記に記載した本発明に係る化合物については、どのような組合せであっても感染症の治療に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例をあげて、本発明のシアル酸誘導体をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
本発明のシアル酸誘導体の製造方法は、図1に示すように、下記に示す工程を含むことを特徴とする。
すなわち、下記式(3a)1R、(3b)1S:
【化13】
及び/又は下記式(4a)1R、(4b)1S:
【化14】
で表わされる化合物をそれぞれ酸化剤を用いて酸化し、
下記式(5a)1R、(5b)1S:
【化15】
及び/又は下記式(6a)1R、(6b)1S:
【化16】
で表わされる化合物を得る工程、を含むことを特徴とする上記式(I)及び/又は上記式(II)で表わされるシアル酸誘導体の製造方法である。
【0055】
[化合物(2a)及び(2b)の合成]
化合物(2a)(アセチル=4−アセタミド−3,6,7,8−テトラ−O−アセチル−2,4−ジデオキシ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−オクトピラノシド)及び化合物(2b)(化合物(2a)のβ−体)は公知の方法(例えば、非特許文献2)に従ってシアル酸から合成することができる。
【0056】
具体的には、まずシアル酸をピリジンと無水酢酸の混合物(モル比で1:1)に溶解させる。次に、室温で6〜24時間混合した後、すばやく加熱し、1〜4時間還流する。得られた溶液を減圧下で蒸発させ、残渣をクロロホルム中で再懸濁させる。
【0057】
次に、再懸濁した有機層をNaHCO3、1M HCl、及びブラインの水溶液で洗浄し、得られた有機層をMgSO3で乾燥して、減圧下でセライトろ過し濃縮する。そして、濃縮された未精製の生成物をEtOAc:ヘキサンの傾きをもったシリカ・フラッシュ・クロマトグラフィを用いて分離することにより化合物(2a)及び(2b)を約1:5のモル比で含む混合物を得ることができる。
【0058】
[化合物(3a)及び(3b)並びに化合物(4a)及び(4b)の合成]
化合物(2a)及び(2b)を約1:5のモル比で含む混合物(254mg,0.534mmol)を窒素雰囲気下で、蒸留した1,2−ジクロロエタン(6mL)に溶解し、約−10℃で氷冷した。次に、氷冷した混合溶液にチオ酢酸(0.227mL,3.22mmol)及びトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルエステル(0.581mL,3.21mmol)を加えてそのまま徐々に20℃に加温しながら反応が終了するまで20時間攪拌した。
【0059】
次に、得られた反応液に氷及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてクロロホルムで抽出した。そこで有機層を分離し、水及び飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、得られた固体をセライトで濾過して濾液を減圧濃縮した。そして、残渣をシリカゲル(15g)を用いたカラムクロマトグラフィーで精製(溶出液は酢酸エチル)し、油状物質として化合物(3a)、(3b)及び化合物(4a)、(4b)(144mg、約58%収率)をモル比で約16:30:1:34の混合物として得た。
【0060】
合成した化合物(3a)及び(3b)の混合物の分析値を下記に示す。
(3b)(1S−アノマー:アキシアル位SAc基アノマー,CJV055401(=実験で得た物質につけた番号、以下同様)).Rf=0.4(EtOAc);1H−NMR(600MHz,CDCl3):1.91(1s,3H,NHAc),1.98−2.12(4s,12H,4OAc),2.15−2.19(ddd,1H,J2ax,1=1.6,J2ax,2eq=13.6,J2ax,3=5.1,H−2ax),2.30−2.36(m,1H,H−2eq),2.34(1s,3H,SAc),3.90−3.92(dd,1H,J5,4=10.4,J5,6=1.9,H−5),4.01−4.05(m,2H,H−4とH−8)4.26−4.29(dd,1H,J8',7=2.9,J8',8=12.6,H−8’),4.98−5.03(ddd,1H,J3,2eq=4.7,J=10.3,J=11.7,H−3),5.11−5.14(ddd,1H,J7,6=7.2,J7,8=6.3,J7,8'=2.9,H−7),5.30−5.32(dd,1H,J6,5=1.9,J6,7=7.2,H−6),5.40−5.42(d,1H,J=10,NH),6.13−6.14(d,1H,J1,2ax=4.7,H−1);+ESIHRMS計算値C2029NNaO11S:514.1359,実測値:m/z514.1393[M+Na]+(150710−CJV031302).
【0061】
合成した化合物(4a)及び(4b)の混合物の分析値を下記に示す。
(4b)(1S−アノマー:アキシアル位SAc基アノマー,CJV055401,CJV030702).Rf=0.4(EtOAc);1H−NMR(600MHz,CDCl3):1.99,2.02,2.10,2.13(4s,12H,(4a)c),2.36(1s,3H,SAc)3.84−3.86(dd,1H,J5,4=10,J5,6=1.8,H−5),4.10−4.13(m,1H,H−8),4.29−4.32(dd,1H,J8',8=12.6,J8',7=2.6,H−8’),4.48−4.51(t,1H,J4,3とJ4,5=9.7,H−4),5.19−5.22(ddd,1H,J7,6=7.8,J7,8=5.6,J7,8'=2.6H−7),5.31−5.33(dd,1H,J6,5=1.8,J6,7=7.8,H−6),5.52−5.54(d,1H,JNH,4=9.4Hz,NH)5.80(s,2H,H−2,H−3)6.27(s,1H,H−1);+ESIHRMS計算値C1825NNaO9S:454.1148,実測値:m/z454.1177[M+Na]+(150710−CJV031302).
【0062】
合成した化合物(3a)及び(3b)並びに化合物(4a)及び(4b)の混合物の分析値を下記に示す。
(3a)及び(3b)並びに(4a)及び(4b)の混合物.主成分の13C−NMRピーク(150MHz,CDCl3,CJV055401):20.67,20.70,20.91,21.06,23.16と23.34(CH3COO,CH3CONHとCH3COS),31.19,36.13,43.55,50.10,62.05,62.07,67.3467.37,69.26,69.60,69.86,72.45,78.66と79.01(C−1〜C−8),125.62と131.15((4a)と(4b)のC−2とC−3),169.41,169.56,169.79,170.00,170.48,170.50と170.97(CH3COOとCH3CONH),191.40と192.82(CH3COS);
【0063】
合成した化合物(3a)及び(3b)並びに化合物(4a)及び(4b)の混合物の分析値を下記に示す。
(3a)及び(3b)並びに(4a)及び(4b)の混合物.副成分の13C−NMRピーク(150MHz,CDCl3,CJV055401):20.45,20.71,20.73,20.76,20.85,23.11,23.18と23.29(CH3COO,CH3CONHとCH3COS),30.55,30.58,30.75,33.01,35.47,43.17,48.24,49.13,61.37,67.28,67.73,68.26,70.06,70.14,70.24,71.89と76.17(C−1〜C−8),91.18,126.89と130.62((4a)と(4b)のC−2とC−3),167.82,168.97,169.35,169.41,169.56,169.72,169.86,170.12,170.15,170.24,170.54と170.86(CH3COOとCH3CONH),192.14と192.75(CH3COS).
CJV055401は約15%の1,7−ラクトン環化体(5−アセタミド−2,4,8,9−テトラ−O−アセチル−β−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノソン−7−オリド)を含む:13C−NMR(150MHz,CDCl3,CJV045301):20.47,20.74,20.76,20.79,20.95と23.19(CH3COO,CH3CONHとCH3COS),30.91,33.05,48.23,61.39,67.67,70.31,71.94と76.18(C−2〜C−8),91.18,91.35,164.42,167.86,169.01,169.33,169.78,170.59(CH3COOとCH3CONH).
【0064】
[化合物(5)及び(5b)並びに化合物(6b)の合成]
前記で得られた化合物(3a)及び(3b)並びに化合物(4a)及び(4b)のモル比で約16:30:1:34の混合物(854mg、約1.8mmol)の酢酸(12mL)溶液に、酢酸アンモニウム(約1g、約13mmol、約7.8当量)とオキソン(登録商標)(3.67g、11.9mmol、7.17当量)を加えて20℃で約19時間攪拌した。次に、得られた反応液にメタノール(約10mL)を加えて、不溶物をセライトを用いて濾過し、濾液を減圧濃縮した。そして、残渣をシリカゲル(12.6g)を用いたカラムクロマトグラフィーで精製(溶出液は酢酸エチルとエタノールの割合を順次変化させた)し、油状物質として化合物(5a)及び(5b)並びに化合物(6b)(525mg)をモル比で約2:5.6:1の混合物として得た。
【0065】
合成した化合物(5a)の分析値を下記に示す。
(5a)(1R−アノマー:エクアトリアルスルホナート).Rf=0.39(EtOAc:EtOH=2:1);1H−NMR(400MHz,CD3OD,CJV043403):1.8−2.0(m,1H,H−2ax)1.85(s,1H,NAc),1.97−2.08(4s,12H,4OAc),2.46−2.51(ddd,1H,J2eq,1=2.1,J2eq,2ax=12.6,J2eq,3=5.1,H−2eq),3.79−3.83(dd,1H,J5,4=10.4,J5,6=2.3,H−5),3.93−4.00(q,1H,J4,3=10.4,J4,5=10.4,H−4),4.19−4.25(dd,1H,J8,7=12.3,J8,8'=6.3,H−8)4.24−4.28(dd,1H,J1,2ax=11.8,J1,2eq=2.1,H−1),4.51−4.55(dd,1H,J8',7=2.8,J8',8=12.4,H−8’),4.96−5.03(ddd,1H,J3,2ax=11.3,J3,2eq=5.1,J3,4=10.2,H−3),5.28−5.32(td,1H,J7,6=6.2,J7,8=6.2,J7,8'=2.7,H−7),5.38−5.41(m,1H,H−6);−ESIHRMS計算値C1826NO13-:496.1130,実測値:m/z496.1142[M−H]-(160212−CJV051301).
【0066】
合成した化合物(5b)の分析値を下記に示す。
(5b)(1S−アノマー:アキシアルスルホナート).Rf=0.4(EtOAc:EtOH=2:1);1H−NMR(600MHz,CD3OD,CJV060501):1.84(s,3H,NAc)1.9−2.1(m,1H,H2ax),1.97,2.00,2.07と2.08(4s,12H,4OAc),2.66−2.70(ddd,1H,J2eq,1=1,J2eq,2ax=13.9,J2eq,3=5.4H−2eq),3.94−3.97(t,1H,J4,3=10.3,J4,5=10.3,H−4),4.11−4.14(dd,1H,J8,7=5.3,J8,8'=12.6,H−8),4.41−4.43(dd,1H,J8',7=2.9,J8',8=12.3,H−8’),4.65−4.67(dd,1H,J1,2ax=6.7,H−1),4.76−4.78(dd,1H,J5,4=10.4,J5,6=2.2,H−5),5.20−5.22(ddd,1H,J7,6=7.8,J7,8=5.1,J7,8'=2.6,H−7),5.39−5.40(dd,1H,J6,5=2.2,J6,7=7.8,H−6),5.55−5.60(td,1H,J3,2ax=10.5,J3,2eq=5.4,J3,4=10.5,H−3);13C−NMR(150MHz,CDCl3):20.69,20.83,20.87,21.29と22.63(CH3COOとCH3CONH),31.45(C−2),50.70(C−4),63.06,69.07,70.97,71.01と72.95(C−3とC−5〜C−8),85.83(C−1),171.64,171.98,172.18と172.58(CH3COOとCH3CONH);−ESIHRMS計算値C1826NO13-:496.1130,実測値:m/z496.1142[M−H]-(160212−CJV051301).
【0067】
合成した化合物(6b)の分析値を下記に示す。
(6b)(1S_アノマー:アキシアルスルホナート).Rf=0.39(EtOAc:EtOH=2:1);1H−NMR(600MHz,CD3OD,CJV060503):4.90−4.93(m,1H,H−1),5.81−5.84(dt,1H,J3,1=1.9,J3,2=10.1,J3,4=1.9,H−3),6.09−6.12(dt,1H,J2,1=2.9,J2,3=10.1,J2,4=2.9,H−2);−ESIHRMS計算値C1622NO11-:436.0919,実測値:m/z436.0928[M−H]-(160212−CJV051301).
【0068】
[化合物(7a)及び(7b)並びに化合物(8a)及び(8b)の合成]
前記で得られた化合物(5a)及び(5b)並びに化合物(6b)をモル比で約4:5:1の混合物(10mg)とし20℃で0.1M水酸化ナトリウムのメタノール溶液に懸濁し、12時間攪拌した。次に、反応液のpHを酢酸を用いて中性にし、得られた溶液を陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR120 H)でろ過し、溶媒を減圧濃縮した。そして、残渣を高速液体クロマトグラフィー(カラム:Inertsil ODS−3セミ分取カラム10X250mm、ジーエルサイエンス社製;検出波長210nm、移動相:15%メタノール水溶液+約40mM酢酸アンモニウム、1mL/min)で精製し、化合物(7a)及び(7b)並びに化合物(8b)を得た。
【0069】
合成した化合物(7a)の分析値を下記に示す。
(7a)(1R−アノマー、エクアトリアルスルホン酸,CJV054801).Rf=0.13(アセトン:1−ブタノール:H2O=7:2.7:0.3);1H−NMR(600MHz,CD3OD):1.76−1.82(q,1H,J2ax,1=12,J2ax,2eq=12,J2ax,3=12,H−2ax),2.00(s,3H,NAc),2.43−2.46(ddd,1H,J2eq,1=2.2Hz,J2eq,2ax=12.7,J2eq,3=4.8,H−2eq),3.46−3.47(d,1H,J=8.8,J=0.9Hz,H−6),3.62−3.65(m,2H,H−5,H−8),3.74−3.89(m,4H,H−3,H−4,H−7,H−8’),4.26−4.29(dd,1H,J1,2ax=11.7,J1,2eq=2.1HZ,H−1);−ESIHRMS計算値C1018NO9-:328.0708,実測値:m/z318.0724[M−H]-(160303−CJV052802).
【0070】
合成した化合物(7b)の分析値を下記に示す。
(7b)(1S−アノマー、アキシアルスルホン酸,CJV055203,CJV060401).Rf=0.16(アセトン:1−ブタノール:H2O=7:2.7:0.3);[α]D24.8=−0.33(c=1cm、H2O);1H−NMR(600MHz,CD3OD):1.89−1.95(ddd,1H,J2ax,1=7,J2ax,2eq=14,J2ax,3=10.9,H−2ax),2.01(s,3H,NAc),2.61−2.64(ddd,1H,J2eq,1=0.7,J2eq,2ax=14,J2eq,3=5.5,H−2eq),3.43−3.45(dd,1H,J6,5=1.2,J6,7=9.1,H−6),3.57−3.60(m,1H,H−8),3.74−3.77(t,1H,J4,3=10.1,J4,5=10.1,H−4),3.79−3.84(m,2H,H−7,H−8’),4.24−4.26(dd,1H,J5,4=10.6,J5,6=1.5Hz,H−5),4.38−4.43(td,1H,J3,2ax=10.3,J3,2eq=5.4,J3,4=10.3,H−3),4.70−4.71(d,1H,J1,2ax=6.7,H−1);13C−NMR(600MHz,CDCl3):22.58(CH3CONH),34.31(C−2),54.29(C−4),64.62,67.15,70.21,72.42と74.32(C−3とC−5〜C−8),86.66(C−1),175.35(CH3CONH);−ESIHRMS計算値C1018NO9-:328.0708,実測値:m/z328.0725[M−H]-(160303−CJV052802).
【0071】
合成した化合物(8b)の分析値を下記に示す。
(8b)(1S−アノマー、アキシアルスルホン酸,CJV060702).Rf=0.34(アセトン:1−ブタノール:H2O=7:2.7:0.3);1H−NMR(600MHz,CD3OD):1.9(s,3H,NAc),3.49−3.50(dd,1H,J6,5=1.5,J6,7=9.1,H−6),3.60−3.63(dd,1H,J8,7=6.2,J8,8'=11.4,H−8),3.82−3.85(dd,1H,J8',7=2.9,J8',8=11.4,H−8’),3.90−3.93(ddd,1H,J7,6=9.1,J7,8=6.2,J7,8'=2.9,H−7),4.34−4.36(dd,1H,J5,4=9.5,J5,6=1.6,H−5),4.67−4.69(dddd,1H,J4,1=2.3,J4,2=2.3,J4,3=2.3,J4,5=9.5,H−4),4.95−4.97(ddd,1H,J1,2=2.6,J1,3=2.6,J1,3=2.6,H−1),5.92−5.94(dt,1H,J3,1=2.1,J3,2=10.3,J3,4=2.1,H−3),6.12−6.14(dt,1H,J2,1=2.8,J2,3=10.3,J2,4=2.8,H−2).
【0072】
(測定装置及び試薬)
NMRデータは、Agilent社製核磁気共鳴装置400MR(1H:400MHz)とNMRSystem600(1H:600MHz、13C:150MHz)で測定した。化学シフト値(δ)はppmで示し、クロロホルム(7.26ppm)及びメタノール(3.31ppm)の残存ピークを1H−NMRの基準値、クロロホルム(77.0ppm)及びメタノール(49.0ppm)の残存ピークを13C−NMRの基準値とした。NMRスピン結合定数(J)はヘルツ(Hz)で示した。
【0073】
高分解能質量分析(HRMS)は、Agilent社製6520Accurate−MassQ−TOFで測定した。比旋光度は、日本分光社製P−2200で測定し、補正していない。高速液体クロマトグラフィーには、日立製作所製L−7100ポンプ及びL−7400紫外吸収検出器を用いた。
【0074】
試薬としては、1,2−ジクロロエタン、メタノール、酢酸、エタノールは、和光純薬社製を用いた。トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、チオ酢酸は、東京化成工業社製を用いた。オキソン(登録商標)は、アルドリッチ社製を用いた。セライトはナカライ社製を用いた。重クロロホルム及び重メタノールはケンブリッジアイソトープラボラトリー社を用いた。Rf値を算出した分析用薄層シリカゲルクロマトグラフィーにはメルク社製シリカゲル60F254、0.25mm厚、蛍光剤入りを用いた。シリカゲルクロマトグラフィーにはメルク社製シリカゲル60(70−230メッシュ)を用いた。炭酸水素ナトリウム、酢酸アンモニウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウムは、和光純薬社製を用いた。アンバーライトIR120HはChemCruz社製を用いた。
【0075】
(電気誘因性効果)
下記の表1に、本発明に係る化合物(5b)及び(7b)とホスホン酸とカルボン酸誘導体の13C−NMR化学シフトの比較を示した。表1に示すように、本発明に係るアノマー位にスルホ基が結合したシアル酸誘導体のNMR解析から、アノマー位スルホ基は、カルボキシ基及びホスホノ基よりも遥かに強力な電気誘引性(誘起)効果を示すことがわかる。すなわち、本発明に係るアノマー位にスルホ基が結合したシアル酸誘導体は、シアリダーゼを非共有結合的(静電気的、疎水性相互作用的)相互作用と同時に或いは共有結合的(可逆的及び非可逆的)相互作用を通じて阻害する。
【0076】
なお、表1中、下記に示す多アセチル化アキシアル型ホスホン酸エチルエステル(axPO3Et2)の値は文献値(JACS(2011)133:17959−17965)を参照した。また、下記に示す脱保護化アキシアル型ホスホン酸(axPO3H)の値は文献値(Helvetica Chimica Acta(1990)73:1359−1372)を参照した。また下記に示す多アセチル化アキシアル型カルボン酸メチルエステル(axCO2Me)及び脱保護化アキシアル型カルボン酸(axCO2H)の値は文献値(Tetrahedron Letters(1988)29:3643−3646)を参照した。
【0077】
【表1】
【0078】
【化17】
【0079】
(シアリダーゼ阻害評価)
本発明に係るシアル酸誘導体のシアリダーゼ(NA)活性の阻害について、IC50及びKi値をもって評価を行った。IC50は50%阻害濃度を示し、濃度の単位はμMである。IC50既に報告されている方法(例えば、Nature Communications(2013)4:1491)に基づいて蛍光を検出する方法で測定した。
【0080】
まず、シアリダーゼ阻害剤とシアリダーゼを、室温で約20分間、前培養した。次に、その培養液に、基質である4−メチルウンベリフェリル=α−D−シアロシドを加え、インフルエンザウイルスA/RI/5+/1957(H2N2)株のシアリダーゼ及びStreptococcus 6646K株のシアリダーゼ(Amsbio社)に対しては終濃度120μM、Clostridium perfringens NanJ(Sigma社)のシアリダーゼに対しては終濃度60μMになるように添加した。そして、上記それぞれの添加溶液を用いて、遊離する4−メチルウンベリフェリロンの蛍光(Ex.355nm,Em.460nm)を室温でThermoScientific社Varioskan(登録商標)フラッシュミクロプレートリーダーで測定し、IC50を求めた。
【0081】
また、Ki値はチェン=プルソフ式(Ki=IC50/(1+[S]/Km))を用いて評価した。Kiは阻害物質の結合親和性を示し、[S]は基質の濃度、Kmは酵素活性が最大値の半分となるときの基質の濃度である。インフルエンザウイルスA/RI/5+/1957(H2N2)株のシアリダーゼのKmは文献値(Nature Communications(2013)4:1491)から46.5μMとした。
【0082】
下記の表2に、インフルエンザウイルスA/RI/5+/1957(H2N2)株のシアリダーゼ(N2)、Clostridium perfringensのシアリダーゼ(CpNA)及びStreptococcus 6646K株のシアリダーゼ(S6NA)の阻害について、アノマー位にスルホ基が結合したシアル酸誘導体(7a)、(7b)及び(8b)のIC50値及びKi値を、本評価例と同様の方法により得た(S6NAを除く)比較例(eqPO3H)とともに示した。表中、括弧内は統計的な信頼区間示す。
【0083】
表2に示すように、本発明に係るスルホ基を有するシアル酸誘導体は、ホスホノ基を有するものに比べてIC50が小さく、シアリダーゼ阻害活性が強いことを示した。
【0084】
【表2】
【0085】
図2に、アノマー位にスルホ基が結合したシアル酸誘導体のシアリダーゼ阻害活性を示す。これらは、インフルエンザウイルスA/RI/5+/1957(H2N2)株の4−メチルウンベリフェリル=α−D−シアロシド酸加水分解反応に対する、アノマー位にスルホ基が結合したシアル酸誘導体(7a)、(7b)、(8b)及びeqPO3Hの阻害活性である。
【0086】
図3に、アノマー位にスルホ基が結合したシアル酸誘導体のシアリダーゼ阻害活性を示す。これらは、Clostridium perfringensのシアリダーゼの4−メチルウンベリフェリル=α−D−シアロシド酸加水分解反応に対する、アノマー位にスルホ基が結合したシアル酸誘導体(7a)及びeqPO3Hの阻害活性である。
【0087】
図4に、アノマー位にスルホ基が結合したシアル酸誘導体のシアリダーゼ阻害活性を示す。これらは、Streptococcus 6646K株のシアリダーゼの4−メチルウンベリフェリル=α−D−シアロシド酸加水分解反応に対する、アノマー位にスルホ基が結合したシアル酸誘導体(7a)の阻害活性である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係るシアル酸誘導体は、インフルエンザウイルスのシアリダーゼ酵素に対する阻害効果を示すため、インフルエンザの予防及び治療するための医薬品として利用できるものである。また、本発明に係るシアル酸誘導体は、細菌のシアリダーゼ酵素に対する阻害効果を示すため、抗菌剤としても利用できる。
図1
図2
図3
図4