【文献】
飴山惠ほか,SUS304L調和組織材料の特異な変形挙動,日本金属学会講演概要集,2016年 9月 7日,Vol.159,P.J33
【文献】
飴山惠ほか,純Alバルク材の加工熱処理による調和組織制御,日本金属学会講演概要集,2016年 3月 9日,Vol.158,P.J22
【文献】
加藤翔太ほか,調和組織を有する純銅の組織と機械的特性,日本金属学会講演概要集,2013年 9月 3日,Vol.153,P.J26
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(1)の塑性加工は、塑性加工後の前記粗大粒組織領域の少なくとも1軸方向の長さ寸法が、塑性加工前の上記長さ寸法に対して20〜90%減少するように加工する請求項1に記載の金属材料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
ここでは、まず、本発明の実施形態に係る強度の向上が図られた金属材料について説明し、その後、このような金属材料を製造する方法について説明する。
【0016】
[金属材料の構成]
図1は、本発明の実施形態に係る金属材料の金属組織の一例を模式的に示した図である。なお、
図1では、金属材料の結晶粒界を誇張して示している。
この金属材料は、実質的に単一の金属又は合金を原材料として形成されている。
上記金属材料に用いられる原材料としては焼結冶金可能なものであれば特に限定されず、例えば、純チタン、チタン合金、純アルミニウム、純銅、純ニッケル、純鉄、ステンレス鋼、マグネシウム合金、コバルトクロム合金、マンガン鋼等が挙げられる。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の金属材料Mfの金属組織は、微細結晶粒1aによって構成されている微細粒組織領域1と、微細結晶粒1aの平均結晶粒径よりも大きい平均結晶粒径の粗大結晶粒2aによって構成されている複数の粗大粒組織領域2とを含んでいる。
【0018】
金属材料10の金属組織は、微細粒組織領域1をマトリックスとして、複数の粗大粒組織領域2が微細粒組織領域1内に分散点在している。この複数の粗大粒組織領域2は、3次元的に微細粒組織領域1内に点在している。よって、微細粒組織領域1は、3次元的な網目状組織で構成されている。
つまり、本実施形態の金属材料は、網目状組織とされた微細粒組織領域1(シェル)と、微細粒組織領域1の網目内部に配置された粗大粒組織領域2(コア)とからなる金属組織によって構成されている。
本発明においては、このような構成の金属組織を調和組織とも称する。
【0019】
粗大粒組織領域2(コア)は、塑性変形された組織によって構成されている。
微細粒組織領域1(シェル)は、再結晶粒で構成されている。ここで、上記再結晶粒は、再結晶前の結晶粒に比べて微細化されている。
また、粗大粒組織領域2(コア)を構成する結晶粒も再結晶粒である。
このような構成の金属材料Mfは、後述する本発明の実施形態に係る金属材料の製造方法によって得ることができる金属材料であり、高強度化に寄与する微細粒組織領域1が網目状組織とされているので、変形の自由度を確保しつつ金属材料全体としての強度を高めることができる。さらに、微細粒組織領域1の網目内部に、金属材料の延性確保に寄与する粗大粒組織領域2が配置されている。そのため、微細粒組織領域1の構成によって強度に優れた金属材料としつつ、粗大粒組織領域2の存在によって金属材料の延性を確保することができる。この結果、強度を向上させつつも延性が確保された金属材料を得ることができる。
【0020】
金属材料Mfにおいて、微細粒組織領域1の割合は、断面面積率で20%以上、70%以下であることが好ましい。微細粒組織領域1の割合が断面面積率で20%未満である場合、金属材料Mfの強度を十分に高めることができないおそれがある。さらに、微細粒組織領域1の割合は、断面面積率で40%以上であることがより好ましく、この場合、強度を十分に高めることができる。
また、微細粒組織領域1の割合が断面面積率で70%より大きいと、強度を高めることはできるが必要な延性を確保することができないおそれがある。
【0021】
微細結晶粒1aの平均結晶粒径は、5μm以下であることが好ましい。微細結晶粒1aの平均結晶粒径が5μmより大きくなると、微細粒組織領域1が必要な強度を得ることができないおそれがある。
一方、粗大結晶粒2aの平均結晶粒径は、微細結晶粒1aの平均結晶粒径より大きく、5〜100μmであることが好ましい。
【0022】
本明細書において「平均結晶粒径」とは、金属材料の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)による断面組織又は結晶粒界マップの画像データを画像解析ソフトを用いて処理し、対象となる結晶粒の面積を求め、求められた面積と同じ面積となる円の直径を粒径とし、所定サンプル数の粒径を求めて平均化した値をいう。
【0023】
また、「断面面積率」とは、金属材料の断面中に占める対象組織領域の割合のことであり、例えば、微細粒組織領域1の断面面積率とは、金属材料の任意の断面について観察を行ったときの1視野において、微細粒組織領域1の面積を測定し、観察視野の面積に対する割合(%)を算出することによって得ることができる。
【0024】
なお、上記「平均結晶粒径」及び「断面面積率」は、解析ソフト(オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製、商品名:EBSD分析ソフトウェア AZtecHKL)を用いて求めた。
【0025】
このような金属材料Mfは、後述する本発明の実施形態に係る金属材料の製造方法によって製造することができる。
【0026】
〔金属材料の製造方法〕
次に、本発明の実施形態に係る金属材料の製造方法について説明する。
本実施形態に係る金属材料の製造方法は、
(1)実質的に単一の金属又は合金からなり、金属組織が、微細結晶粒によって構成されている微細粒組織領域と、上記微細結晶粒の平均結晶粒径よりも大きい平均結晶粒径の粗大結晶粒によって構成されている複数の粗大粒組織領域とを含み、上記微細粒組織領域が、上記複数の粗大粒組織領域が当該微細粒組織領域内に分散点在することによって網目状組織とされている金属材料を出発金属材料とし、
当該出発金属材料に塑性加工を施して、上記微細粒組織領域にひずみを偏在させる工程と、
(2)上記工程(1)で塑性変形された金属材料を加熱し、少なくとも上記微細結晶粒を再結晶させる工程と、を経る。
図2は、本発明の実施形態に係る金属材料の製造方法の一例を示す工程図である。
【0027】
上記製造方法では、まず、
(a)上述した所定の金属組織(調和組織)を有する出発金属材料を用意する。
上記出発金属材料は、例えば、下記方法で製造することができる。
図3は、
図2に示した金属材料の製造方法で使用する出発金属材料の調製方法を示す図である。
図4は、
図3に示した出発金属材料の調製方法の各工程において変化する粉末粒子の結晶粒の状態を模式的に示す図である。
【0028】
図3に示すように、まず、単一の金属又は合金からなる粉末粒子13と、ボール14とをそれぞれ所定量に調整し、ボールミル装置15の容器15aに投入する。そして、粉末粒子13に対して、強加工処理としてのメカニカルミリング処理(Mechanical Milling:以下、MM処理ともいう)を行い、中間粒子16(
図4(b)参照)を得る(MM処理工程)。
MM処理とは、金属製ボール等と共に被処理粉末を投入した容器を連続的に回転させることにより当該被処理粉末に対して繰り返し衝撃を加えることで強加工を行うことができる処理である。
MM処理によれば、被処理粉末の表面全体に対して均一に強加工を行うことができる。
【0029】
MM処理前の粉末粒子13は、
図4(a)に示すように、比較的粗大な結晶粒17で構成されている。上記MM処理工程では、粉末粒子13に対してMM処理による強加工を行う。これによって、
図4(b)に示すように、粉末粒子13の表面に微細な結晶粒である表面部微細結晶粒18aからなる表面部微細粒組織領域18を形成することができる。
このMM処理によって形成される表面部微細粒組織領域18は、粉末粒子13の表面全体に対して均一に形成される。
【0030】
また、MM処理は、粉末粒子13の中心部に存在する結晶粒17に影響を与えることなく、表面近傍の結晶粒17のみを微細化する。よって、MM処理によって得られる中間粒子16は、表面に表面部微細粒組織領域18を有し、かつ中心部に表面部微細結晶粒18aよりも粗大な結晶粒である粗大結晶粒12aによって構成される粗大粒組織領域12を有している。
【0031】
粉末粒子13は、回転電極法や、アトマイズ法等によって製造された粉末である。
粉末粒子13の平均粒子径は、原材料の種類や製法等によって異なるが、100~400μmが好ましい。MM処理によって表面部微細粒組織領域18を形成したときに、粗大粒組織領域12の面積と表面部微細粒組織領域18の面積との比率が良好になるからである。
粉末粒子13の平均結晶粒径は、得られた出発金属材料に良好な延性を付与することができる観点から、10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましい。
【0032】
図3に戻って、ボール14は、粉末粒子13の表面に対して強加工を施すことができ、かつボール14に由来する不純物の混入を抑制することができる材料からなるボールであればよい。ボール14の材料としては特に限定されず、例えば、粉末粒子13と同じ材料や、超硬合金、軸受鋼、クロム鋼、セラミックス等が挙げられる。
また、ボール14の平均粒子径は、例えば、3〜10mm程度である。
【0033】
容器15aは、当該容器15aに由来する不純物の混入を抑制することができる材料からなるものであることが望ましい。このような材料としては、上述のボール14の材料と同様の材料が挙げられる。
容器15aに投入される粉末粒子13とボール14との質量比率は、原材料の種類や、ボール14の種類、大きさによって適宜決定すれば良く、例えば、粉末粒子/ボール=1/10〜1/2程度である。
【0034】
上記MM処理は、ボールミル装置15の容器15aに、粉末粒子13及びボール14を投入し、その後、容器15aを密封した上でボールミル装置15を回転させて行う。
上記MM処理は、遊星型のボールミル装置15等を用いて行えばよい。その他の市販されているメカニカルアロイング装置等を用いて行ってもよい。
上記MM処理の処理時間や処理温度、処理雰囲気等は、粉末粒子13に強加工を施すことができる条件であればよい。
【0035】
上記MM処理の処理時間は特に限定されず、例えば、10時間以上に設定される。
上記MM処理の処理温度は特に限定されず、例えば、室温(例えば、20〜30度)であってもよく、室温より高い温度であってもよい。
また、上記MM処理は、不活性ガス(例えば、アルゴンガス等)雰囲気で行うことが好ましい。
【0036】
次に、得られた中間粒子16を焼結する(焼結工程)。
この焼結工程は、例えば、放電プラズマ焼結装置等、従来公知の焼結装置を用いて行えばよい。
ここで、加熱温度(保持温度)や加圧力(保持圧力)、昇温速度や昇圧速度等は特に限定されず、中間粒子16の原材料や寸法等を考慮して適宜選択すればよい。
ここでは、
図4(c)に示すように、中間粒子16(
図4(b)参照)を焼結することで、各中間粒子16表面の表面部微細粒組織領域18同士を互いに結合させて出発金属材料Msを形成する。
このとき、出発金属材料Msの金属組織は、各中間粒子16の表面部微細粒組織領域18が互いに結合することで、網目状組織とされた微細粒組織領域11が形成されている。
また、各中間粒子16に含まれている粗大粒組織領域12は、表面部微細粒組織領域18が網目状組織の微細粒組織領域11となることで、微細粒組織領域11の網目内部に配置され、微細粒組織領域11内に分散点在する。
【0037】
このような工程を経ることによって、網目状組織とされた微細粒組織領域11と、複数の粗大粒組織領域12とを含み、複数の粗大粒組織領域12が微細粒組織領域11の網目内部に配置された調和組織を有する出発金属材料Msを得ることができる。
【0038】
なお、ここまで説明した出発金属材料Msを製造する方法としては、例えば、特開2015−48500号公報に開示された方法等を採用することもできる。
【0039】
(b)次に、工程(a)で用意した出発金属材料Msに塑性加工を施す。
上記塑性加工としては特に限定されず、例えば、圧延加工、鍛造加工、押出し加工、引抜き加工、転造加工、プレス加工、せん断加工、曲げ加工、深絞り加工、へら絞り等が挙げられる。
このような塑性加工を行うことにより、出発金属材料Msにおける微細粒組織領域11にひずみを偏在させることができる。これは、出発金属材料Msの金属組織が上述した調和組織を有しているからであり、このことは本願発明者の検証によって明らかとなっている。
【0040】
即ち、本願発明者は、調和組織を有する出発金属材料に塑性加工として5%の引張変形を施し、変形後におけるひずみの発生部分を確認した。
図5(a)は、変形前の出発金属材料の写真であり、(b)は変形後の上記出発金属材料の写真であり、変形によりひずみが生じた部分が黒くなっている。
図5(a)、(b)に示したように、調和組織を有する上記出発金属材料を変形させた場合、変形初期には微細粒組織領域に応力が集中し、この部分にひずみが偏在している。
【0041】
一方、均一な金属粒子を焼結して作製した金属材料に塑性加工として5%の引張変形を施し、変形後におけるひずみの発生部分を確認したところ、
図6に示したように、各結晶粒の境界(結晶粒界)近傍が黒なっており、ひずみが広く、不均一に試料全体に分布していることが分かる。なお。
図6(a)は、変形前の均一粒子の焼結体からなる金属材料の写真であり、(b)は変形後の上記金属材料の写真であり、変形によりひずみが生じた部分が黒くなっている。
【0042】
このように、調和組織を有する上記出発金属材料に塑性加工を施した場合には、微細粒組織領域にひずみを偏在させることができる。上記出発金属材料がこのような挙動を示すことは、本願発明者によって見出された新たな知見である。
上記塑性加工は冷間加工であることが好ましい。微細粒組織領域にひずみを偏在させるのにより適しているからである。
ここで、上記微細粒組織領域にひずみが偏在していることは、上記微細粒組織領域が上記調和組織内において選択的に強加工されたことを意味する。
【0043】
本工程で、塑性加工を施す場合、その変形量は、塑性加工後の上記粗大粒組織領域の少なくとも1軸方向の長さ寸法が、塑性加工前の上記長さ寸法に対して20〜90%減少するような変形量であることが好ましい。上記変形量は50〜90%減少するような変形量であることがより好ましい。後の加熱工程を経て金属材料を製造した場合に、ある程度の延性(例えば、30%以上の公称ひずみ)を確保しつつ、強度が充分に向上することになるからである。
ここで、各粗大粒組織領域の変形量の平均値は上記範囲内にあればよく、上記変形量の平均値は、無作為に抽出した所定サンプル数(例えば、5箇所)の変形量の平均値を算出すればよい。
【0044】
本発明において、上記粗大粒組織領域の1軸方向とは、3次元形状の粗大粒組織領域で選択される任意の一方向をいう。
そのため、塑性加工が圧延加工である場合には、例えば、出発金属材料が圧縮される方向を上記1軸方向とすることができる。
また、後述する
図7,8の例では、例えば、図中、上下方向を上記1軸方向とすることができる。
【0045】
上記変形量となるような塑性加工として、例えば、圧延率90%の圧延加工を行う場合には、塑性加工後の上記粗大粒組織領域の少なくとも1軸方向の長さ寸法は、塑性加工前の上記長さ寸法に対して90%減少することとなる。
また、例えば、圧延率20%の圧延加工を行う場合には、塑性加工後の上記粗大粒組織領域の少なくとも1軸方向の長さ寸法は、塑性加工前の上記長さ寸法に対して20%減少することとなる。
【0046】
(c)塑性変形された金属材料を加熱し、少なくとも上記微細結晶粒を再結晶させる。
本工程では、塑性変形された金属材料を加熱することによって、上記微細粒組織領域が粗大粒組織領域に対して先行して再結晶される。これは、再結晶が、強加工された部分ほど、より低温・より短時間で開始されるからである。既に説明した通り、本発明の実施形態では、微細粒組織領域が粗大粒組織領域よりも強加工されているため、上記微細粒組織領域が上記粗大粒組織領域に比べて優先的に再結晶される。
そして、微細粒組織領域に優先的な再結晶が生じることにより、微細粒組織領域を構成する結晶粒がより一層微細化され、当該微細粒組織領域が網目状組織で構成されているため、さらなる強度の向上が図られる。
また、網目状組織で構成された微細粒組織領域に、粗大粒組織領域が島状に分散点在しているため、延性が維持されている。
本工程では、上記微細結晶粒の再結晶が優先的に進行しつつ、上記粗大結晶粒の再結晶も併せて進行することが好ましい。粗大粒組織領域における結晶粒の微細化も図られ、全体としての強度の向上につながるからである。
なお、場合によっては、実質的に微細粒組織領域のみで結晶粒の再結晶が進行してもよい。
【0047】
本工程における加熱温度は出発金属材料の組成等にもよるため、一概には定めることができないが、出発金属材料の融点の40〜90%の温度であることが好ましい。
加熱温度が上記融点の40%未満では、再結晶が全く又は充分に進行しない場合がある。一方、上記加熱温度の上限は、出発金属材料の融点未満であればよいが、当該出発金属材料を溶融させるおそれなく、確実に再結晶させる観点から90%以下が好ましい。
上記加熱温度は、出発金属材料の融点の50〜80%の温度であることがより好ましい。
【0048】
本工程における加熱時間は、60秒間〜2時間であることが好ましい。
上記加熱時間が60秒間未満では、再結晶が充分に進行しない場合がある。一方、上記加熱時間は、2時間もあれば充分に再結晶を進行させることができる。
上記加熱時間は、60秒間〜1時間であることがより好ましい。
【0049】
このような工程を経ることで、本発明の実施形態に係る金属材料を製造することができる。
本実施形態に係る金属材料の製造方法によって製造された金属材料は、出発金属材料における微細粒組織領域及び粗大粒組織領域のいずれもが再結晶によってより微細な結晶粒になり、特に微細粒組織領域の結晶粒は絶対値寸法の微細な結晶粒となっているため、三次元網目状に構成された微細粒組織領域の強度が向上している。そのうえで、粗大粒組織領域が分散点在する微細粒組織領域の網目状組織が維持されているので、上記金属材料は延性も確保されている。
つまり、本発明に実施形態に係る金属材料の製造方法によれば、所定の金属組織(調和組織)を有する金属材料を出発材料とし、この出発金属材料に塑性加工と加熱処理とをこの順序で施すことにより、延性が確保されるともに、強度の向上が図られた金属材料を製造することができる。
【0050】
本発明の実施形態に係る金属材料の製造方法において、出発金属材料の金属種は上述した通り焼結冶金可能なものであれば特に限定されない。このような出発金属材料を用いることにより、既に説明した工程を経て、微細粒組織領域の再結晶が促進され、微細粒組織領域を構成する結晶粒がより一層微細化された金属材料を製造することができる。
加えて、本発明の実施形態に係る金属材料の製造方法では、出発金属材料として、ステンレス鋼やコバルトクロム合金のような、塑性加工を施すことにより、無拡散変態(マルテンサイト変態)を生じる材料を用いることが、下記の点でより好ましい。
【0051】
上記出発金属材料として、塑性加工を施すことによりマルテンサイト変態を生じる材料を使用する場合には、マルテンサイト変態だけでも結晶粒の微細化が進行する。そのため、この場合には、出発金属材料に塑性加工を施した際に、微細粒組織領域に応力が集中し、この部分でマルテンサイト変態が集中的に生じ、その結果、微細粒組織領域における結晶粒の微細化が進行する。その後、本発明の実施形態では、塑性変形された金属材料を加熱するため、この加熱によって、マルテンサイト変態した部分が塑性加工前の結晶構造に戻る逆変態が進行し、この逆変態の際にも微細粒組織領域を構成する結晶粒の更なる微細化が進行する。
そのため、本発明の実施形態に係る金属材料の製造方法では、出発金属材料として塑性加工によりマルテンサイト変態を生じる材料を用いることが好ましく、このような材料を用いた場合には、既に説明した再結晶による結晶粒の微細化と、ここで説明した塑性加工によるマルテンサイト変態及び加熱によるその逆変態を経た結晶粒の微細化とがともに進行することになる。そのため、塑性加工を施すことによりマルテンサイト変態を生じる出発金属材料を使用することにより、強度の向上を図るのに適した微細粒組織領域における結晶粒の微細化をより促進することができる。
なお、塑性加工を施すことによりマルテンサイト変態を生じる材料を用いる場合、塑性加工を施した際にマルテンサイト変態する金属材料の割合は特に限定されないが、出発金属材料中に含まれる微細粒組織領域の割合と同程度であることが好ましい。また、塑性加工を施すことによるマルテンサイト変態は、塑性変形の量が少ない場合(例えば、圧延率で10〜20%)も進行する。
【0052】
また、本発明の実施形態に係る金属材料の製造方法では、金属材料を塑性加工する工程と、塑性変形された金属材料を加熱する工程とを1セットとし、このセットを複数回繰り返して行ってもよい。これにより、得られた金属材料の強度が更に向上する場合もある。
【実施例】
【0053】
次に、実施例などに基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
〔出発材料A〜Dの作製〕
(1)出発材料A
PREP(Plasma Rotating Electrode Process、プラズマ回転電極法)で作製した平均粉末粒子径122μmのSUS304L粉末とSUS304ボールとを粉末:ボール=1:2(重量比)の割合でSUS304容器内にAr雰囲気下で封入し、遊星型ボールミル装置を用いて、回転数200rpm、ミリング時間180ksの条件でメカニカルミリング処理を施し、メカニカルミリング処理された粉末(以下、MM粉末)を作製した。
次に、MM粉末を放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering:SP)法により、圧力50MPa、温度950℃、保持時間3.6ksの条件で焼結し、調和組織からなる出発材料Aを作製した。
(2)出発材料B
PREPで作製した平均粉末粒子径122μmのSUS304L粉末をそのまま(メカニカルミリング加工を施すことなく)、出発材料Aの作製と同様の条件で焼結し、均一組織からなる出発材料Bを作製した。
【0055】
(3)出発材料C
平均粉末粒子径150μmの純銅粉末と純銅ボールとを粉末:ボール=1:2(重量比)の割合でSUS304容器内にAr雰囲気下で封入し、遊星型ボールミル装置を用いて、回転数150rpm、ミリング時間54ksの条件でメカニカルミリング加工を施し、MM処理された粉末を作製した。
次に、MM粉末を放電プラズマ焼結法により、圧力100MPa、温度600℃、保持時間3.6ks(1hr)の条件で焼結し、調和組織からなる出発材料Cを作製した。
(4)出発材料D
平均粉末粒子径150μmの純銅粉末をそのまま(メカニカルミリング加工を施すことなく)、出発材料Cの作製と同様の条件で焼結し、均一組織からなる出発材料Dを作製した。
【0056】
(実施例1)
出発材料Aに圧延率50%の圧延加工を施し、その後、処理温度800℃、保持時間30分間の条件で熱処理を施して、金属材料の試験片を作製した。
作製した試験片の組織観察をSEM/EBSD(Scanning Electron Microscope/Electron Back Scatter Diffraction)により行った。結果を
図7に示した。
また、作製した試験片に対する引張試験を、初期ひずみ速度5.6×10
−4/sの条件で行った。結果を
図9に示した。
【0057】
図7に示したように、実施例1の試験片では、金属組織が、微細粒組織領域と粗大粒組織領域とを含み、微細粒組織領域が複数の粗大粒組織領域が当該微細粒組織領域内に分散点在した網目状組織である調和組織となっていた。また、粗大粒組織領域は塑性変形した組織であった。更に、微細粒組織領域及び粗大粒組織領域を構成する結晶粒は、いずれも再結晶により微細化された結晶粒であった。
そして、微細粒組織領域の平均結晶粒径を算出したところ1.2μmであり、粗大粒組織領域の平均結晶粒径を算出したところ25.4μmであった。下記比較例1の結果との対比から、実施例1では、微細粒組織領域の結晶粒及び粗大粒組織領域の結晶粒のそれぞれが微細化された結晶粒であることが明らかとなった。
【0058】
(比較例1)
出発材料Aを本比較例における金属材料の試験片とした。
この試験片の組織観察を実施例1と同様、SEM/EBSDにより行った。結果を
図8に示した。
また、実施例1と同様にして試験片に対する引張試験を行った。結果を
図9に示した。
図8に示した通り、出発材料Aの金属組織は、調和組織となっていた。そして、微細粒組織領域の平均結晶粒径を算出したところ2.5μmであり、粗大粒組織領域の平均結晶粒径を算出したところ33.5μmであった。
【0059】
(比較例2)
出発材料Bを本比較例における金属材料の試験片とした。
この試験片に対する引張試験を実施例1と同様にして行った。結果を
図9に示した。
【0060】
(評価)
実施例1、比較例1、2のそれぞれの金属材料について、0.2%耐力(MPa)、最大引張強度(MPa)、均一伸び(%)及び全伸び(%)をそれぞれ測定した。結果を表1に示した。
各特性の測定は、JIS Z2241に準拠して行った。
なお、0.2%耐力は、応力−ひずみ線図における弾性域終了後のひずみ0.2%相当での応力として測定した。また、その測定方向は、圧延方向とした。
【0061】
【表1】
【0062】
また、実施例1で試験片を作製する際の各工程(圧延加工前、圧延加工後・加熱前、及び、加熱後)における微細粒組織領域のX線回析データを取得した。結果を
図10に示した。
図10に示したように、SUS304Lからなる出発金属材料を用いて、本発明の実施形態に係る手法で金属材料を製造した場合には、圧延加工によってマルテンサイト変態が生じてその際に結晶粒が微細化し、更に加熱処理によって逆変態が生じてその際も結晶粒が微細化することが明らかとなった。
【0063】
(実施例2)
圧延加工後の熱処理条件を、処理温度950℃、保持時間60分間に変更した以外は、実施例1と同様にして金属材料の試験片を作製した。
作製した試験片の組織観察をSEM/EBSDにより行った。結果を
図11(a)に示した。
図11(a)に示したように、実施例2の試験片における金属組織は、調和組織となっていた。
また、実施例2の試験片において、粗大粒組織領域は塑性変形した組織であった。更に、微細粒組織領域及び粗大粒組織領域を構成する結晶粒は、いずれも再結晶により微細化された結晶粒であった。
【0064】
(実施例3)
圧延加工後の熱処理条件を、処理温度1100℃、保持時間60分間に変更した以外は、実施例1と同様にして金属材料の試験片を作製した。
作製した試験片の組織観察をSEM/EBSDにより行った。結果を
図11(b)に示した。
図11(b)に示したように、実施例3の試験片における金属組織は、調和組織となっていた。
また、実施例3の試験片において、粗大粒組織領域は塑性変形した組織であった。更に、微細粒組織領域及び粗大粒組織領域を構成する結晶粒は、いずれも再結晶により微細化された結晶粒であった。
【0065】
(実施例4)
出発材料Cに圧延率50%の圧延加工を施し、その後、処理温度400℃、保持時間30分間の条件で熱処理を施して、金属材料の試験片を作製した。
作製した試験片に対する引張試験を、初期ひずみ速度5.6×10
−4/sの条件で行った。結果を
図12に示した。
【0066】
(比較例3)
出発材料Cを本比較例における金属材料の試験片とした。
実施例4と同様にして試験片に対する引張試験を行った。結果を
図12に示した。
【0067】
(比較例4)
出発材料Dを本比較例における金属材料の試験片とした。
実施例4と同様にして試験片に対する引張試験を行った。結果を
図12に示した。
【0068】
(評価)
実施例4、比較例3、4のそれぞれの金属材料について、0.2%耐力(MPa)、最大引張強度(MPa)、均一伸び(%)及び全伸び(%)をそれぞれ測定した。結果を表2に示した。
【0069】
【表2】