特許第6871622号(P6871622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6871622-モードスクランブラ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871622
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】モードスクランブラ
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/46 20060101AFI20210426BHJP
【FI】
   G02B6/46
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-529885(P2017-529885)
(86)(22)【出願日】2016年7月15日
(86)【国際出願番号】JP2016071031
(87)【国際公開番号】WO2017014195
(87)【国際公開日】20170126
【審査請求日】2019年7月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-143172(P2015-143172)
(32)【優先日】2015年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成27年度経済産業省「大口径マルチモード光ファイバ・コネクタ及びその通信性能に関する国際標準化・普及基盤構築にともなう実証デバイス試作ならびに評価システム立ち上げ」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】アダマンド並木精密宝石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100126413
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 太亮
(72)【発明者】
【氏名】百武 康弘
(72)【発明者】
【氏名】別府 芳忠
(72)【発明者】
【氏名】堀口 幸二
(72)【発明者】
【氏名】飯久保 忠久
【審査官】 奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−131548(JP,A)
【文献】 特開平02−042407(JP,A)
【文献】 特開平03−144337(JP,A)
【文献】 特開2012−247235(JP,A)
【文献】 特開昭53−129664(JP,A)
【文献】 特開2007−187774(JP,A)
【文献】 特開2015−175958(JP,A)
【文献】 実開昭56−060908(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0222305(US,A1)
【文献】 米国特許第4877305(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0191928(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/00− 6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔を開けてラジアル方向に配列された複数のボビンを一纏めにしてファイバを前記ボビン間に輪状に巻回し、前記ボビンの配列された方向を軸として互いに対向する反対方向に前記ボビンを回転させ、前記ボビンの回転により、前記ファイバが互いに絡み合いながらねじれているねじり部が前記ファイバに形成されていることを特徴とするモードスクランブラ。
【請求項2】
前記ボビン同士の回転時に、前記ボビン間に設けた芯柱へ前記ファイバを巻き付けて、ねじり径を拡大した状態で前記ファイバをねじり、前記芯柱への巻き付けにより、前記ファイバにねじり部が形成されている請求項1記載のモードスクランブラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搭載されたファイバの入射光側と出射光側とで任意にモード分布を変更できるモードスクランブラに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光ファイバ及び光関連測定器の挿入損失検査等に於いて、光源からの出射光を安定化するモードスクランブラが用いられている。これらモードスクランブラのうち、基本的なものとしては、GI(グレーテッドインデックス)ファイバを使用した実開昭61−013803号公報(以下特許文献1として記載)に記載の構造があり、ファイバ芯線を加圧することでマイクロベンドを発生させ、高次モード分布を減衰させることを可能にしている。また、特開2005−099274号公報(以下特許文献2として記載)では、多モード光ファイバを回路状に布線した光ファイバ配線板を用いることで、小型、低価格なモードスクランブラを提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭61−013803号公報
【特許文献2】特開2005−099274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した効果を有している一方、特許文献1及び2記載のモードスクランブラでは高次モード分布をファイバ外に漏れさせる構造を用いており、SI(ステップインデックス)型マルチモードファイバでの使用に際して、長距離伝搬した場合と同等の定常モード分布を再現できないという課題を有している。より具体的には、ファイバにかかる応力によってモード分布の分散は生じるが、長距離伝搬させた時と同等の定常モード分布は再現されない。また、ファイバ外への漏れ光による損失も大きい。加えて、特許文献2に記載の様な同一方向に巻き続ける形状では、巻いた直径及び入射光のモード分布に依存してモード分布が変化してしまい、安定した定常モード分布の出力が難しい。
【0005】
上記課題に対して本願記載の発明では、マルチモードファイバに於いて、減衰を抑えた状態での定常モード分布の出力を、短い距離で安定して行うことが可能な、また、任意にモード分布を変更できるモードスクランブラの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的のために、本発明に於ける第1の態様記載の発明は、間隔を開けてラジアル方向配列された複数のボビンを一纏めにしてファイバを前記ボビン間に輪状に巻回し、
前記ボビンの配列された方向を軸として互いに対向する反対方向に前記ボビンを回転させ、前記ボビンの回転により、前記ファイバが互いに絡み合いながらねじれているねじり部が前記ファイバに形成されていることを特徴としている。より具体的には、ラジアル方向で輪状に並列配置された複数のボビンを1本のファイバを用いて束ねるように巻回した後、当該ボビンを相互に回転させることで、ファイバにねじりを加えたことをその技術的特徴としている。
【0007】
また、本発明に於ける第2の態様記載の発明は、前記ボビン同士の回転時に、前記ボビン間に設けた芯柱へ前記ファイバを巻き付けて、ねじり径を拡大した状態で前記ファイバをねじり、前記芯柱への巻き付けにより、前記ファイバにねじり部が形成されていることをその特徴としている。







【発明の効果】
【0008】
上述した技術的特徴によって本願記載の発明は、使用するSI型マルチモードファイバの減衰を抑えつつ、定常モード分布を得ることを可能にしている。これは、前記ファイバのねじられた部分でモード分布の分散が発生することによる。即ち、本願記載のモードスクランブラではファイバの曲げ半径が縮小されない構造となっている。この為、ファイバ内での光の伝達に際して光が外に漏れず、ファイバ外への漏れ光による損失を抑えた状態で当該伝達を行うことができる。また、前記ねじられた部分に於けるモード分布の分散について、本願記載の発明では1本のファイバを巻回させた複数のボビンを相互に回転させることで生じさせている。この為、ボビンの回転回数を変化させることで、SIファイバ毎の特性に対応した定常モード分布を出力することが可能となる。ここで、当該回転回数は、例えば1.3回転等の小数点以下を含んだ回転数も対象としている。更に、本願記載のモードスクランブラはその動作及び構成に於いて、ボビンに巻回し、ねじるだけの簡素化された基本構造となっている。この為、本願記載のモードスクランブラを用いることにより、SI型マルチモードファイバの使用に際して、低コストにて望んだモード分布を得ることができる。尚、上記回転回数と同じ技術的見地から、巻回の回数を変化させることによっても、前記回転回数を変化させた際と同様の効果を得ることが可能となっている。
【0009】
加えて、ファイバ外への漏れ光による損失の抑制により、本願記載の発明では、入射光の開口数を本願記載の発明で使用するSI型マルチモードファイバの開口数よりも小さくすることで、当該ファイバを長距離伝搬させた際の定常モード分布と同等のモード分布を再現することができる。また、ファイバ外への漏れ光による損失の抑制によって、ファイバへの入射光がファイバの開口数より小さい場合でも、短い距離で定常モード分布を出力することができる。また、前記巻回の回数と回転回数による調整機構を用いることで、当該定常モード分布だけではなく、高次モード分布を含む全モード分布での出力とすることが可能となっている。
【0010】
上記本願の基本的な構造による効果に加えて、本願第2の態様記載の発明を用いることで、前記モードスクランブラの汎用性を向上させることができる。即ち、屋外用ファイバに代表されるファイバ外被が硬く最大直径が細いファイバについても、同第2の態様記載の芯柱を用いることでねじり径を拡大した状態でファイバをねじり、上記効果を付与することが可能となる。
【0011】
以上述べたように、本願記載の発明を用いることで、短い距離で定常モード分布が得られ、全モード分布への切換が容易なモードスクランブラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の最良の実施形態に於いて用いるモードスクランブラの全体斜視図
図2図1に示したモードスクランブラの説明用側面図
図3図1に示したモードスクランブラの他の実施形態に於ける側面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図1図2及び図3を用いて、本発明に於けるモードスクランブラの実施形態を示す。尚、図中に示す符号について、同じ部品として機能するものには共通の符号を付与している。
【0014】
図1に本実施形態に於いて用いるモードスクランブラの全体斜視図を、図2に当該モードスクランブラの説明用側面図を、そして図3に当該モードスクランブラの他の実施形態に於ける側面図を、それぞれ示す。尚、ボビン及びファイバの支持構造については、図中での記載を省略している。
【0015】
図1及び図2から解るように、本実施形態に係るモードスクランブラ1は、ラジアル方向で平行に配列された2本のボビン3a,3bを備えており、これらボビン3a,3bに対してファイバ2を巻回することができるように構成されている。図1に示すように、ボビン3a,3bには、例えば1本のファイバ2が巻回される。そして、ボビン3a,3bは、ファイバ2が巻回された状態で、軸Rを回転軸として、該ボビン3a,3bを同軸で互いに対向する反対方向、例えばボビン3aをR1方向に、ボビン3bをR2方向に回転させることができるようになっている。また、このようにボビン3a,3bを互いに対向する反対方向に回転させると、これらボビン3a,3bに巻回されているファイバ2にねじれが生じ、複数本のファイバが互いに絡み合いながらねじれるねじり部5がファイバ2に形成される。
【0016】
ねじり部5は、ボビン3a,3bの間において、複数本のファイバ2が絡み合いながら捩れるように形成されている。このねじり部5は、ファイバ2が配置される長手方向に対して所定の角度を持つ方向に向けて、ファイバ2が他のファイバ2との間でらせん状に巻きつくように形成されている。ねじり部5では、ファイバ2が上記したようにねじれて形成されるため、このねじり部5においてファイバ2中を伝送される高次モード分布を減衰させ、安定した定常モード分布の出力の光が得られるようになっている。
【0017】
尚、本実施形態で用いるファイバ2は、コア径が数十μmを超える開口数0.2以上のSI型のマルチモードファイバとなっており、長さ10m以下に切断された後、当該モードスクランブラ1に組み込まれている。また、図1中の直線の矢印はファイバ内に於ける光の伝送経路を示している。本実施形態では、SI型のマルチモードファイバを使用した例を用いて説明しているが、使用するファイバはこれ以外のもの、GI型ファイバなどを用いてもよく、上記した例に限定されるものではない。
【0018】
また、この様な構造を用いたことで、モードスクランブラ1は、ボビン3a,3bの回転回数によって出力するモード分布を変化させることが可能となっている。即ち、図1から解るように、本実施形態に係るモードスクランブラ1では、入射した光が初めてねじり部5に入射する方向である行きcと、行きcとは反対方向からねじり部5に向かって光が入射する方向であり、少なくとも一度はねじり部5を通った光が再度ねじり部5に入射する帰りdの両伝搬方向に於いて、互いに逆方向のねじり応力がファイバ2に作用する。これにより、本実施形態のモードスクランブラ1はファイバ2の曲げ半径を縮小することなく、ねじられた部分であるねじり部5に於けるモード分布の分散を発生させることができる。加えて、ファイバ内における光の伝達に関して光が外に漏れない為、ファイバ外への漏れ光による損失を抑えた状態で当該伝達を行うことが可能となっている。
【0019】
また、図2から解るように、本実施形態のモードスクランブラ1では、1本のファイバ2をボビン3a,3bに巻回し、このファイバ2を巻回させた2本のボビン3a,3bを互いに対向する反対方向に相互に回転させた状態にすることで、ファイバ内に於けるモード分布の分散を生じさせている。この為、ボビン3a,3bの回転回数を変化させることによってファイバ2の特性に対応した定常モード分布を出力することができる。加えて、本実施形態のモードスクランブラ1はその動作及び構成に於いて、ボビン3a,3bにファイバ2を巻回し、ファイバ2にねじりを生じさせてねじり部5を形成するだけの簡素化された構造にて当該モード出力、即ち定常モード分布の出力を可能にしている。この為、モードスクランブラ1全体について、実用性を向上させつつ、安価な構成とすることができる。
【0020】
尚、ねじり部5においてファイバ2をねじる回数としての上記ねじり回数と同じ技術的見地から、図3(a)に示す様に、2本のボビン3a,3bに対してファイバ2を巻回させる回数としての巻回回数を変化させる構成としても、前記回転回数を変化させた際と同様に、前記したファイバ外への漏れ光による損失の抑制を含めた種々の効果を得ることが可能となっている。また、当該構成ではボビン3a,3bの回転角度によってファイバ2に作用する応力が増加する為、より少ないねじり角度で前記定常モード分布を出力することができる。加えて、屋外用ファイバに代表される、ファイバ外被が硬く最大直径が細いファイバについては、図3(b)に示す様な芯柱4を用いたねじり構造とすることによって、前記図1及び図2に記載の構造と同様の効果を高い汎用性と共に付与することが可能となる。
【0021】
これらの効果に加えて、ファイバ外への漏れ光による損失の抑制により、本願記載の発明では、例えば、コア径が数十μmを超える開口数0.2以上のマルチモードファイバに於いて、入射光が被測定ファイバの開口数より小さい場合でも、入射光の開口数をファイバ2の開口数よりも小さくすることで、ファイバ2を長距離伝搬させた際の定常モード分布と同等のモード分布を再現することができる。また、巻回回数と回転回数による調整機構を用いることで、当該定常モード分布だけではなく、高次モード分布を含む全モード分布での出力とすることが可能となる。
【0022】
以上述べたように、本発明に係るモードスクランブラ1を用いることで、短い距離で定常モード分布が得られ、全モード分布への切換が容易なモードスクランブラ1を提供することができる。なお、上記では、本発明に係るモードスクランブラの一つの例を挙げたに過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜構成を変更してもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 モードスクランブラ
2 ファイバ
3a,3b ボビン
4 芯柱
5 ねじり部
c,d ファイバ内に於ける光伝搬方向
R 軸
図1
図2
図3