(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御弁はピエゾ素子駆動型制御弁であり、前記遮断弁は流体駆動弁であり、前記閉命令は前記制御弁と前記遮断弁とに対して同時に出される、請求項2に記載の圧力式流量制御装置。
前記圧力降下データは、予め設定されたサンプリング周波数で前記上流圧力検出器からの出力をサンプリングすることによって得られ、複数の前記圧力降下データから得られる圧力降下の近似関数に含まれる係数と、前記基準圧力降下データとして予め記憶された基準係数との比較に基づいて流量制御を診断する、請求項1から3のいずれかに記載の圧力式流量制御装置。
【背景技術】
【0002】
従来、
図1に示すように、制御されるべき流体Gが通過する流路1と、流路1に介在されたオリフィスプレート等の絞り部2と、絞り部2の上流圧力P
1を検出する上流圧力検出器3と、絞り部2の下流圧力P
2を検出する下流圧力検出器4と、絞り部2の上流の温度Tを検出する温度検出器5と、上流圧力検出器3の上流の流路1に設けられた制御弁6と、制御弁6を制御するコントローラ7とを備える圧力式流量制御装置8が知られている(特許文献1等)。圧力式流量制御装置8の下流には、遮断弁9、プロセスチャンバ10、真空ポンプ11が接続されている。
【0003】
この種の圧力式流量制御装置は、上流圧力検出器3により検出した上流圧力(P
1)と、下流圧力検出器4により検出した下流圧力(P
2)と、絞り部2を通過する流量Qとの間に、所定の関係が成立することを利用して、検出した上流圧力(P
1)又は、上流圧力(P
1)及び下流圧力(P
2)に基づいて、コントローラ7が制御弁6を制御することにより流量を所定流量となるように制御する。例えば、臨界膨張条件下、即ちP
1≧約2×P
2を満たす条件下では流量Q=K
1P
1(K
1一定)の関係が成立する。定数Kは、絞り部2の孔径が同一であれば一定である。また、非臨界膨張条件下では流量Q=KP
2m(P
1−P
2)
n(Kは流体の種類と流体温度に依存する比例係数、指数m、nは実際の流量から導出された値)の関係が成立し、これらの流量計算式を用いて演算により流量を求めることができる。
【0004】
しかしながら、長期間の使用等によって圧力式流量制御装置8の絞り部2に腐食や目詰まり等が生じると流量が変化するので、流量を高精度に制御できなくなる。
【0005】
そのため、従来、絞り部2の孔径の変化による流量変化の有無を診断する流量自己診断が提案されている(特許文献2、3等)。
【0006】
この流量自己診断は、制御弁6を閉じることによって制御弁6と絞り部2との間の圧力が徐々に降下する圧力降下特性を利用する。絞り部2の孔径が変化すると前記圧力降下特性も変化することから、初期の圧力降下特性と診断時の圧力降下特性とを比べれば、絞り部2の孔径の変化、ひいては流量変化の有無を診断することができる。
【0007】
より具体的には、上記の流量自己診断は、設定流量Q
Sを高設定流量Q
SHに保持する第1ステップと、この高設定流量Q
SHを低設定流量Q
SLに切換えて保持し、上流圧力P
1を測定して圧力降下データP(t)を得る第2ステップと、同条件で絞り部2に目詰まりがない初期に測定された基準圧力降下データY(t)と圧力降下データP(t)とを対比する第3ステップと、低設定流量Q
SLに切換えてから所定時間後の圧力降下データP(t)が基準圧力降下データY(t)より所定度以上乖離したときに目詰まりを報知する第4ステップとを含む。
【0008】
通常、基準圧力降下データY(t)は、下流を真空引きした状態で、100%流量(フルスケール流量)で一定時間、窒素ガスを流し、流量が安定したところで、制御弁6を閉じて、圧力降下特性を計測して得られる。そのため、流量自己診断時においても、一般には、基準圧力降下データの取得時と同じ条件、即ち、高設定流量Q
SHを100%流量(フルスケール流量)とし、低設定流量Q
SLは0%流量(制御弁6を完全閉鎖)として、圧力降下データP(t)が計測される。
【0009】
また、圧力降下特性は、絞り部2の孔径と、制御弁6から絞り部2迄の流路1の内容積とによって変わるため、絞り部2の孔径、及び前記内容積に応じて、圧力降下データP(t)を得るためのサンプリング数と計測時間とが、予めコントローラ7のメモリMに記憶されている。サンプリング数は所望の自己診断精度を得られる程度の数に設定され、例えば50回とされる。計測時間は、臨界膨張条件(P
1≧約2×P
2)を満たす時間での計測を確保するため、100%流量で計測し始めてから非臨界膨張条件になる時間の十分に前迄の時間とされる。臨界膨張条件から非臨界膨張条件に変化する時間は、予め試験を行うことにより求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
流量自己診断に用いる圧力降下データP(t)として、臨界膨張条件を満たしているときの圧力降下データを用いることが知られている(例えば、特許文献4)。しかし、従来の圧力式流量制御装置においては、流量自己診断に関して上流圧力のみを見ているため、実際に臨界膨張条件を満たしているか否かの判断はできない。そのため、臨界膨張条件から上流圧力が徐々に減衰して非臨界膨張条件となる十分に前に、流量自己診断のための圧力降下データの計測を終えるように計測時間を設定していた。その結果、圧力降下データP(t)を計測できる時間に制限が課せられ、計測時間範囲を広く取ることが困難な場合があった。
【0012】
また、特に圧力式流量制御装置を複数並列接続されたガス供給装置において、臨界膨張条件下での計測を確保するために、流量自己診断は、プロセス終了後、全ての圧力式流量制御装置のガス供給を停止してメンテナンスモードにしてから流量自己診断を行わなければならず、メンテナンスモードによる時間のロスが生じていた。
【0013】
特許文献5には、プロセス途中の短期間、あるいは、プロセス終了時における圧力降下特性を測定することによって流量自己診断を行う方法が記載されている(特許文献5の
図6、
図7など)。しかし、特許文献5に記載の方法では、自己診断に際してプロセスチャンバ側の閉止弁を開いたまま維持する必要がある。このため、診断工程が終了するまでの間、上流側の制御弁を閉じた後にも、閉止弁を介してプロセスチャンバに残ガスが供給され続けるという問題があった。また、上記のように複数の圧力式流量制御装置が接続されている場合、プロセスチャンバ側の閉止弁を開けた状態では、他ラインのガスがチャンバに供給されていることによって下流圧力が高くなり、その結果、臨界膨張条件を満たしていない状態で自己診断を行ってしまうおそれがあった。
【0014】
さらに、上記のように、プロセス終了時からの圧力降下特性を測定して自己診断を行う場合、プロセス終了時の上流圧力(初期圧力)が様々の値を取り得ることによって、自己診断の精度が低下し得ることが本発明者によってわかった。
【0015】
そこで、本発明は、流量自己診断のための有効な圧力降下データの取得時間をできるだけ長く確保するとともに、メンテナンスモードにしなくても、プロセスの終了などに伴い、ガスの供給が終了した時点で流量自己診断が可能な、流量自己診断機能を備える圧力式流量制御装置及びその流量自己診断方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の実施形態による圧力式流量制御装置は、絞り部と、前記絞り部の上流側に設けられた制御弁と、前記絞り部と前記制御弁との間の流路の圧力を検出する上流圧力検出器と、前記絞り部の下流側流路の圧力を検出する下流圧力検出器と、前記制御弁と前記絞り部との間の流路における圧力降下データと基準圧力降下データとを用いて流量制御を診断する流量自己診断機能を有するコントローラとを備え、前記下流圧力検出器の下流側に遮断弁が設けられており、前記流量自己診断機能を実行するとき、前記制御弁と前記遮断弁とには閉命令が出されており、前記コントローラは、前記制御弁を閉じ、前記制御弁を閉じてからの前記上流圧力検出器および前記下流圧力検出器の出力を用いて所定の臨界膨張条件を満足しているか否かを判定し、前記所定の臨界膨張条件を満足する期間に取得された前記圧力降下データを用いて流量制御を診断する。
【0017】
ある実施形態において、前記閉命令が出されたとき、前記制御弁が閉じてから所定時間経過後に前記遮断弁が閉じ、前記所定臨界膨張条件を満足する期間に取得された前記圧力降下データには、前記遮断弁に前記閉命令が出されてから前記遮断弁が閉じられる前に取得された圧力降下データと、前記遮断弁が閉じられ下流圧力が上昇した後に取得された圧力降下データとが含まれる。
【0018】
ある実施形態において、前記制御弁はピエゾ素子駆動型制御弁であり、前記遮断弁は流体駆動弁であり、前記閉命令は前記制御弁と前記遮断弁とに対して同時に出される。
【0019】
ある実施形態において、前記圧力降下データは、予め設定されたサンプリング周波数で前記上流圧力検出器からの出力をサンプリングすることによって得られ、複数の前記圧力降下データから得られる所定関数の係数と、前記基準圧力降下データとして予め記憶された基準係数との比較に基づいて流量制御を診断する。
【0020】
ある実施形態において、前記圧力降下データは、予め設定されたサンプリング周波数で前記上流圧力検出器からの出力をサンプリングすることによって得られ、前記所定の臨界膨張条件を満足する期間に得られたサンプルの数に基づいて、前記基準圧力降下データとの比較形態を決定する。
【0021】
ある実施形態において、前記圧力降下データは、予め設定されたサンプリング周波数で前記上流圧力検出器からの出力をサンプリングすることによって得られ、前記所定の臨界膨張条件を満足する期間に得られたサンプルの数に基づいて、前記予め設定されたサンプリング周波数を更新する。
【0022】
ある実施形態において、前記絞り部と前記制御弁との間の温度を検出する温度検出器をさらに備え、前記コントローラは、前記上流圧力検出器、前記下流圧力検出器、および、前記温度検出器からの出力に基づいて、前記絞り部を通過する流量が設定流量となるように前記制御弁を制御する。
【0023】
ある実施形態において、前記所定の臨界膨張条件は、前記絞り部を流れるガスの種類および前記温度検出器から出力される温度のうちの少なくともいずれかに基づいて決定される。
【0024】
ある実施形態において、前記コントローラは、前記制御弁を閉じるときの流量または上流圧力に基づいて、前記圧力降下データを補正してから前記基準圧力降下データと比較する。
【0025】
本発明の実施形態による流量自己診断方法は、絞り部と、前記絞り部の上流側に設けられた制御弁と、前記絞り部と前記制御弁との間の流路の圧力を検出する上流圧力検出器と、前記絞り部の下流側流路の圧力を検出する下流圧力検出器と、前記制御弁と前記絞り部との間の流路における圧力降下データと予め記憶された基準圧力降下データとを用いて流量制御を診断する流量自己診断機能を有するコントローラとを備える圧力式流量制御装置において行われる流量自己診断方法であって、前記下流圧力検出器の下流側には遮断弁が設けられており、ガスの流量を設定流量で制御して流している時に前記制御弁と前記遮断弁とに閉命令を出すステップと、前記閉命令が出された後、前記上流圧力検出器及び前記下流圧力検出器の出力に基づいて、臨界膨張条件を満たしているか否かを判定するステップと、臨界膨張条件を満たしている場合は、臨界膨張条件を満たしている期間の圧力降下データを記憶するステップと、前記臨界膨張条件を満たしている期間の圧力降下データを前記基準圧力降下データと比較することによって、流量制御の自己診断を行うステップとを包含する。
【0026】
ある実施形態において、前記閉命令が出されたとき、前記制御弁が閉じてから所定時間経過後に前記遮断弁が閉じられ、前記閉命令が出されてから前記遮断弁が閉じられる前に取得された少なくとも1つの圧力降下データと、前記遮断弁が閉じられた後に取得された少なくとも1つの圧力降下データとを、前記臨界膨張条件を満たしている期間の圧力降下データとして用いる。
【0027】
ある実施形態において、前記閉命令を出すステップは、前記圧力式流量制御装置に接続された半導体製造装置のプロセス終了時のガス供給停止時に実行される。
【0028】
ある実施形態において、前記流量制御の自己診断を行うステップは、前記圧力降下データから求められる所定関数の係数と、前記基準圧力降下データとして予め記憶された基準係数とを比較するステップを含む。
【0029】
ある実施形態において、前記絞り部を流れるガスの種類および温度のうちの少なくともいずれかに基づいて、前記臨界膨張条件を決定するステップをさらに包含する。
【0030】
本発明の実施形態による圧力式流量制御装置は、絞り部と、前記絞り部の上流側に設けられた制御弁と、前記絞り部と前記制御弁との間の流路の圧力を検出する上流圧力検出器と、前記制御弁と前記絞り部との間の流路における圧力降下データと基準圧力降下データとを用いて流量制御を診断する流量自己診断機能を有するコントローラとを備え、前記流量自己診断機能を実行するとき、前記コントローラは、前記制御弁を閉じてから前記上流圧力検出器を用いて上流圧力の降下を測定することによって前記圧力降下データを取得し、前記基準圧力降下データとして、前記制御弁閉止時の上流圧力である初期上流圧力または前記初期上流圧力により決定される前記制御弁閉止時の流量である初期流量に基づく基準圧力降下データが用いられる。
【0031】
ある実施形態において、前記基準圧力降下データは、ln(P(t)/P
0)=−αtで規定される直線の傾きαであり、ここで、P(t)は時間に対する圧力の関数、P
0は初期圧力、tは時間である。
【0032】
ある実施形態において、前記コントローラが、ln(P(t)/P
0)=−αtで規定される直線の傾きαを初期圧力P
0の関数として有する。
【0033】
ある実施形態において、前記絞り部の下流側流路の圧力を検出する下流圧力検出器をさらに備え、前記上流圧力検出器および前記下流圧力検出器を用いて所定の臨界膨張条件を満足しているか否かを判定し、前記所定の臨界膨張条件を満足する期間に取得された前記圧力降下データを用いて流量制御を診断する。
【0034】
ある実施形態において、前記所定の臨界膨張条件を満足しているか否かを、前記圧力降下データを取得し終えたときに判定する。
【0035】
本発明の実施形態による流量自己診断方法は、絞り部と、前記絞り部の上流側に設けられた制御弁と、前記絞り部と前記制御弁との間の流路の圧力を検出する上流圧力検出器と、前記制御弁と前記絞り部との間の流路における圧力降下データと基準圧力降下データとを用いて流量制御を診断する流量自己診断機能を有するコントローラとを備える圧力式流量制御装置において行われる流量自己診断方法であって、前記制御弁を閉じてから前記上流圧力検出器を用いて上流圧力の降下を測定することによって前記圧力降下データを取得するステップと、前記圧力降下データと基準圧力降下データとを比較することによって流量制御を診断するステップとを包含し、前記圧力降下データおよび前記基準圧力降下データとして、ln(P(t)/P
0)=−αt (ここでP(t)は時間に対する圧力の関数、P
0は初期圧力、tは時間)で規定される直線の傾きαが用いられる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の実施形態によれば、臨界膨張条件を満たしているか否かをモニターして流量自己診断を行うことができるようになり、流量自己診断のための圧力降下データ取得時間を最大限確保することができるとともに、メンテナンスモードにしなくてもガス供給停止時の圧力から圧力降下特性を利用して流量自己診断が可能となる。
【0037】
また、本発明の他の実施形態によれば、半導体製造プロセスやステップの終了時などにおいて、上流圧力が任意の大きさであっても、圧力降下データを用いて流量自己診断を適切に行うことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明に係る圧力式流量制御装置の一実施形態について、以下に
図1〜
図15を参照して説明する。なお、従来技術を含め同一又は類似の構成部分については同符号を付している。
【0040】
圧力式流量制御装置8は、例えば
図1に示すような構成を有し、流路1に介在された絞り部2と、絞り部2の上流の流路1に介在された制御弁6と、絞り部2と制御弁6との間で絞り部2の上流圧力P
1を検出する上流圧力検出器3と、絞り部2の下流圧力P
2を検出する下流圧力検出器4と、絞り部2と制御弁6との間の温度を検出する温度検出器5と、コントローラ7とを備えている。ただし、コントローラ7は、従来の圧力式流量制御装置とは異なり、半導体製造装置のプロセス終了時(プロセスチャンバへのガス供給停止時)に自己診断機能を実行することができるように構成されている。
【0041】
圧力式流量制御装置8の制御弁6の上流側はガス供給源に接続されており、下流圧力検出器4の下流側は遮断弁9を介して半導体製造装置のプロセスチャンバ10に接続されている。プロセスチャンバ10には真空ポンプ11が接続されており、ガス供給時にはプロセスチャンバ10の内部が真空ポンプ11によって真空引きされる。
【0042】
なお、
図1に示す態様では、遮断弁9が圧力式流量制御装置8の外側に配置されているが、遮断弁9は流量制御装置8に内蔵されていてもよい。遮断弁9の開閉動作は、本実施形態ではコントローラ7に接続された外部制御装置(図示せず)によって制御されるが、他の態様においてコントローラ7によって制御されてもよい。
【0043】
圧力式流量制御装置8の流路1は、例えば金属製ブロックに設けられた孔によって形成されていてもよい。上流圧力検出器3および下流圧力検出器4は、例えばシリコン単結晶のセンサチップとダイヤフラムとを内蔵するものであってよい。制御弁6は、例えば金属製ダイヤフラムバルブをピエゾ素子(ピエゾアクチュエータ)を用いて開閉するピエゾ素子駆動型制御弁であってよい。
【0044】
圧力式流量制御装置8において、コントローラ7は、上流圧力検出器3、下流圧力検出器4、及び温度検出器5からの検出出力に基づいて絞り部2を通過する流量が設定流量となるように制御弁6を制御する。コントローラ7は、CPU、メモリM、A/Dコンバータ等を内蔵している(
図1参照)。コントローラ7は、後述する動作を実行するように構成されたコンピュータプログラムを含んでいてよく、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせによって実現され得る。
【0045】
半導体製造製造プロセスにおいて、プロセスチャンバ10にガスを供給するとき、コントローラ7は、上流圧力検出器3(および下流圧力検出器4や温度検出器5)の出力を用いて演算により流量を求めるとともに、絞り部2を通過する流量が設定流量になるように制御弁6を制御する。演算により求められた流量は、外部制御装置の表示部に流量出力値として表示してもよい。
【0046】
設定流量に従ってガスが流れている状態では、
図2(a)に示すように、制御弁6が設定流量に適合する開度で開かれ、かつ、遮断弁9が開状態に設定される。このとき、上流圧力P
1と下流圧力P
2とは互いに異なる一定の状態に維持され、具体的には、上流圧力P
1は設定流量に対応する制御圧力に維持され、下流圧力P
2はチャンバ内圧力(例えば200torr以下の真空圧や400torr程度の減圧、あるいは大気圧など)に維持される。
【0047】
その後、半導体製造のプロセスが終了したときには、本実施形態では、制御弁6と遮断弁9とが閉じられ、プロセスチャンバ10へのガスの供給が停止される。
図2(b)は、制御弁6および遮断弁9を開状態から閉状態に変化させたときの様子を示す。制御弁6を閉じる動作は、制御弁6に閉命令を出すことによって行われ、具体的には、圧力式流量制御装置8に入力する設定流量を「0」にすることなどによって実行することができる。また、遮断弁9は例えば外部制御装置からの閉命令を受け取ることによって閉状態に設定される。このようにして制御弁6と遮断弁9とが閉じられた後、上流圧力P
1と下流圧力P
2とは同じ平衡圧力P’に収束する。
【0048】
本実施形態の圧力式流量制御装置8は、制御弁6および遮断弁9が閉状態へと移行してガス供給を停止するこの過程で自己診断を行うように構成されている。圧力式流量制御装置8では、自己診断時を行うときに遮断弁9が閉じられるので、プロセス終了後にプロセスチャンバ10に余剰なガス(制御弁6と絞り部2との間に残存していたガスなど)が供給され続けることは防止される。また、遮断弁9が閉じられていることによって、他のラインからのガス供給によって下流圧力が影響されることが防止され、さらに、圧力式流量制御装置8へのガスの逆流も防止される。このため、本実施形態にかかる自己診断は、任意のガス供給ラインにおいて、通常のプロセス終了時に、既存の半導体製造プロセスに影響を及ぼすことなく実行することができる。
【0049】
図3は、制御弁6および遮断弁9を閉じたときの、上流圧力P
1および下流圧力P
2の変化を示すグラフである。
図3に示すように、制御弁6および遮断弁9が、時刻t1に閉命令を受け、その後も閉状態に維持されているとき、上流圧力P
1はガス流通状態の初期圧力P
1iから降下し、下流圧力P
2はガス流通状態の初期圧力P
2iから上昇する。すなわち、絞り部2の上流側と下流側とで、差圧が解消するように圧力変動が生じる。そして、絞り部2両側の弁6、9の閉状態が維持されているので、上流圧力P
1と下流圧力P
2とは、時間の経過とともに実質的に同じ平衡圧力値P’へと収束する。
【0050】
上記の上流圧力P
1および下流圧力P
2の圧力変動過程において、時刻t2(以下、臨界時刻と呼ぶことがある)に、臨界膨張条件が満足されなくなる。この臨界時刻t2は、種々の理由で変化する。例えば、ガスの種類によって臨界膨張条件自体が変化することにより臨界時刻t2が異なるものとなる。例えば、アルゴンガスの場合は、臨界時刻t2は、圧力比P
1/P
2=2.05に達する時点であるのに対して、窒素ガスの場合には圧力比P
1/P
2=1.89に達する時点である。また、臨界時刻t2は、初期上流圧力P
1iによっても異なるものとなる。以下、本明細書において、制御弁6および遮断弁9に閉命令が出されて上流圧力P1が降下し始める時刻t1から臨界時刻t2に達するまでの期間Δtを臨界膨張期間Δtと呼ぶことがある。
【0051】
また、本願発明者が得た知見によると、遮断弁9としてエアオペレートバルブ(AOV)を用いる場合に、AOVの設計によって上記の臨界時刻t2および臨界膨張期間Δtが大幅に変動することがわかった。ここで、エアオペレートバルブは、空気などの流体を用いて開閉動作を行うことができる種々の態様の流体駆動弁を広く意味するものとする。
【0052】
図4は、AOVで構成された遮断弁9を示す模式図である。遮断弁9は、弁体および圧空作動部を含む弁機構9aと、弁機構9aに接続された圧空ラインチューブ9bとを備えている。図示する態様において、圧空ラインチューブ9bは、電磁弁SV、レギュレータRGを介して空気源としてのコンプレッサCに接続されており、コンプレッサCから弁機構9aへと圧縮空気を送り込むことによって弁を閉じることができる。
【0053】
図5(a)〜(c)は、
図4に示した圧空ラインチューブ9bの長さが異なるそれぞれの場合において、制御弁6および遮断弁9に対して同時に閉命令が出されたときの実際の圧力変動の様子を示すグラフである。
図5(a)は圧空ラインチューブ9bが標準的な長さの場合、
図5(b)は短い場合、
図5(c)は長い場合をそれぞれ示す。
【0054】
図5(a)に示すように、チューブ9bの長さが標準的な場合であっても、圧空系の応答性の低さに起因して、AOVは瞬時に閉弁することはできない。このため、制御弁6と遮断弁9とに時刻t1に閉命令が同時に出されたとしても、実際には、制御弁6(典型的にはピエゾ素子駆動型のダイアフラム弁)が閉じられた後、ディレイ時間tdだけ遅れて遮断弁9が閉じ、その時点から下流圧力P
2の上昇が始まる。
【0055】
また、ディレイ時間tdは、
図5(b)に示すようにチューブ9bの長さが比較的短い場合にはより短くなり、
図5(c)に示すように比較的長い場合にはより長くなる。さらに、ディレイ時間tdが短いときには平衡圧力P’が大きくなり、ディレイ時間tdが長いときには平衡圧力P’が小さくなる。これに伴い、臨界膨張条件を満たす期間Δtも、チューブ9bの長さによって様々に変化する。
【0056】
なお、本発明者の実験によって、AOVを動作させる空気圧の大きさによっても、ディレイ時間tdが変動することが確認された。より具体的には、AOV動作圧がより小さいときにはディレイ時間tdは短くなり、AOV動作圧がより大きいときにはディレイ時間tdが長くなる。
【0057】
このように、遮断弁9としてAOVを用いる場合、機器の設計に応じてディレイ時間tdが異なるものとなり、これに対応して、特に下流圧力P
2の変動曲線が全く異なるものとなる。その結果、上記の臨界時刻t2および臨界膨張期間Δtも、AOVの設計によって様々に変化し得る。
【0058】
さらに、上記のように制御弁6と遮断弁9との両方を閉じる態様において、弁を閉じる前の初期上流圧力(すなわち設定流量)が大きいときは臨界膨張期間Δtが比較的長くなるのに対し、初期上流圧力が小さくなるほど臨界膨張期間Δtが短くなることが本願発明者の実験により確認された。このことは、従来100%の流量からの圧力降下特性を用いる場合には容易に確保できた自己診断期間が、半導体製造プロセス後における設定流量が小さい場合(例えば、40%流量の場合)には確保できなくなるおそれがあることを意味している。40%流量の場合、100%流量の場合に比べて、臨界膨張期間Δtは例えば半分程度になることもある。また、臨界膨張期間Δtは、圧力式流量制御装置8の容量によっても変化することが本願発明者によって確認されている。
【0059】
以上に説明した理由から、本発明の実施形態では、上流圧力P
1と下流圧力P
2とを参照して、実際に臨界膨張条件下であるかどうかを確認しながら自己診断を行うようにしており、これによって、流体供給制御系の設計や半導体製造プロセスの内容にかかわらず、診断に有効な最大限の上流圧力降下データ取得期間を確保することが可能になる。この自己診断は、半導体製造における任意のプロセス終了時のガス供給停止時に、容易に、かつ、従来の半導体製造プロセスを邪魔することなく迅速に実行することができる。また、流量自己診断のための圧力降下データ取得時間を最大限確保することが可能になるので、診断の精度を向上させることができる。
【0060】
図13(a)は、比較例における自己診断工程を示し、
図13(b)は、本発明の実施形態に係る自己診断工程を示す。なお、
図13(a)および(b)のそれぞれにおいて、上段に制御弁の開閉命令(流量制御命令)を示し、中段に遮断弁の開閉命令を示し、下段に上流圧力の変化を示している。それぞれのグラフの横軸は時間tであり、いずれもx%流量設定での半導体プロセス終了後に自己診断プロセスを行っている。
【0061】
図13(a)に示す比較例では、x%流量設定での半導体プロセス終了後、制御弁および遮断弁を閉じてガスの供給を停止し、その後に別途設けられたメンテナンスモードにおいて自己診断を行う。メンテナンスモードでは、遮断弁9を開いて真空に引いた状態で、制御弁6を100%に開いてガスを流し、その後、制御弁6のみを閉じることによって上流圧力の降下を生じさせる。このときの圧力降下データに基づいて臨界膨張期間Δt内での自己診断を行う。
【0062】
一方、
図13(b)に示す実施例では、x%流量設定での半導体プロセス終了後、制御弁および遮断弁を閉じてガスの供給を停止させながら、x%流量設定(任意の初期流量)からの上流圧力降下データを用いて自己診断を行う。したがって、比較例の場合に比べて、自己診断の手順を大幅に短縮することができ、任意の半導体プロセス終了後に容易に実行することができる。
【0063】
なお、従来の診断方法は遮断弁9を開いたまま行っていたので、下流圧力P
2の変動をほとんど考慮する必要がなかった。このため、例えば上流圧力P
1から臨界膨張条件を満足する範囲を推定して、この範囲内で予め自己診断期間を設定しておくことが比較的容易であった。また、下流圧力P
2が真空圧に維持される場合、臨界膨張期間Δtが長くなるので、初期設定により十分な自己診断期間を得ることもさほど困難なことではなかった。
【0064】
しかしながら、上記のように遮断弁9を閉じる動作を行って下流圧力P
2が様々に変動し得るときには、実際に臨界膨張条件を満たしているか否かを判定しながら自己診断を行うことによって、診断結果の正確さを向上させ得る。
【0065】
また、遮断弁9として、AOVに代えて例えば電磁弁を用いる場合、ディレイ時間tdはほとんどなくなり下流圧力P
2の立ち上がりが早くなる。このような場合にも、臨界膨張期間Δtが従来より短くなるので、実際に臨界膨張条件を満たしているか否かを判定しながら自己診断を行うことが有効である。
【0066】
以下、具体的な自己診断のフローの例を説明する。
【0067】
本実施形態の圧力式流量制御装置8が備えるコントローラ7は、制御弁6を閉じた後、測定された上流圧力P
1および下流圧力P
2から臨界膨張条件下であるか否かを確認するとともに、制御弁6と絞り部2との間の上流圧力P
1の圧力降下データP(t)と、予め記憶された基準圧力降下データY(t)とを比較して流量を診断する流量自己診断機能を有する。
【0068】
基準圧力降下データY(t)は、例えば、100%設定流量から0%設定流量に切り換えた場合の圧力降下データである。基準圧力降下データY(t)は、一般に、工場出荷前に予め計測され、コントローラ7のメモリMに記憶される。
【0069】
基準圧力降下データY(t)は、任意の流量に対応できるように、例えば設定流量80%、60%、40%のそれぞれについて用意され、複数がメモリMに格納されていてもよい。ただしこれに限られず、測定された圧力降下データP(t)を設定流量に基づいて補正してから、メモリMから読み出した100%設定流量の基準圧力降下データY(t)と比較するようにしてもよい。また、基準圧力降下データY(t)は、ここでは工場出荷前に予め計測された正常時の圧力降下データであるが、異常状態時の測定データ、前回測定データ、または、測定によらない設定データなどであってもよい。
【0070】
図6に、基準圧力降下データY(t)の一例を示す。圧力降下特性は、一般に指数関数的に減衰する。
図1において上流圧力検出器3からの検出圧力のサンプリング数は20であり、サンプリングポイントが白○で示されている。
【0071】
基準圧力降下データY(t)は、下記式(1)及び下記式(2)の関係を用いて、下記式(3)により対数表示される。
【0072】
【数1】
式(1)において、P
0は制御弁6の閉鎖時の上流圧力、P
tは時間(t)経過後の上流圧力、Sは絞り部2の開口断面積、C
tは時間(t)におけるガス比熱比、R
tは時間(t)におけるガス定数、T
tは時間(t)における上流温度、Vは制御弁6と絞り部2との間の流路の内容積、t
nは計測開始からの経過時間である。
【0073】
【数2】
式(2)において、kはガスの比熱比である。
【0074】
【数3】
式(3)は、上流圧力P
tの圧力降下した度合いを対数で表現した関数である。式(3)において、C
0、R
0、T
0は、それぞれ、制御弁6閉鎖時のガス比熱比、ガス定数、上流温度であり、C
t、R
t、T
tは計測開始から時間(t)経過時のガス比熱比、ガス定数、上流温度である。
図7は、Z(t)を示す対数グラフである。
【0075】
流量自己診断は、
図8のフローチャートを参照して、設定流量、例えば60%設定流量でガスが流されている状態でコントローラ7がガス供給の停止命令を受け取り、コントローラ7が制御弁6に閉命令(流量0%命令)を出すとともに、外部制御装置が遮断弁9に閉命令を出すことによって開始される(ステップS1)。コントローラ7が制御弁6に出す閉命令は、例えば流量をゼロに設定する命令であってよい。この工程において、本実施形態では上記のディレイ時間tdが生じるので、上流圧力P
1の降下が始まってから所定期間経過後に下流圧力P
2の上昇が始まる。
【0076】
制御弁6および遮断弁9への閉命令が出された後、上流圧力検出器3及び下流圧力検出器4が検出した上流圧力P
1及び下流圧力P
2をモニターして、臨界膨張条件を満たしているか否かを判定する(ステップS2)。具体的には、圧力比(P
1/P
2)をモニターし、圧力比(P
1/P
2)≧2.05(アルゴンガスの場合)を満たすか否かを判定する。
【0077】
臨界膨張条件を満たす圧力比は、ガス種によって異なる。例えば、アルゴンガスの場合は2.05であるが、水素では1.90、窒素では1.89というように、ガス種それぞれに決まった値がある。また、臨界膨張条件は、上流ガス温度によっても変化する。このため、コントローラ7は、ガスの種類および上流ガス温度のうちの少なくともいずれかに基づいて、自己診断時における臨界膨張条件(ステップS2および後述のステップS4における条件式)を決定するように構成されていてもよい。
【0078】
臨界膨張条件を満たしていれば、圧力降下データP(t)のサンプリングを行う(ステップS3)。このとき、メモリMに記憶されている所定のサンプリング周波数fで、上流圧力検出器3、下流圧力検出器4及び温度検出器5の出力から上流圧力P
1、下流圧力P
2および温度TをA/Dコンバータを介してサンプリングする。
【0079】
周波数fでサンプリングを行うことによって上流圧力P
1の圧力降下データP(t)が得られ、得られた圧力降下データP(t)は、各サンプリング点での上流圧力P
1と下流圧力P
2とに基づいて、臨界膨張条件を満たしているものであるか否かが判定される(ステップS4)。そして、臨界膨張条件を満足しているとき(ステップS4のNO)は、ステップ3に戻り、継続してサンプリングを行う。
【0080】
臨界膨張条件を満たさなくなったとき(ステップS4のYES)は、それまでに得られた臨界膨張条件下の圧力降下データP(t)と基準圧力降下データY(t)とを比較し、両データの差分が所定範囲にあるか否かを判定する(S5)。圧力降下データP(t)を基準圧力降下データY(t)と比較する際は、同じ圧力範囲で比較する。同じ圧力範囲で比較しないと、正確な比較データが得られないからである。P(t)、Y(t)はZ(t)の形式に置き換えられて比較され得る。
【0081】
ステップS5における圧力降下データP(t)と基準圧力降下データY(t)との比較は、種々の態様で行うことができる。例えば、上記Z(t)として示したように、初期圧力で割った基準圧力降下データYの対数を取ったデータY’(t)=lnPr(t)/Pr0 (Pr(t)およびPr0は、メモリMに予め格納された基準データ)と、サンプリングにより得られた圧力降下データP(t)を初期圧力で割って対数を取ったデータP’(t)=lnP(t)/P0との差Δε(t)をサンプリング点ごとに求め、これらの差を累積加算した結果ΣΔε(t)が所定の基準値(閾値)を超えたときに、異常状態であると判定してもよい。
【0082】
上記の比較工程において、臨界膨張条件を満たす期間に得られた圧力降下データP(t)のサンプル数が、上述した臨界膨張期間Δtの違いによって異なるものとなる場合がある。例えば、初期設定でサンプル50個の差分累積(Δε(t1)+Δε(t2)+・・・・+Δε(t50))を用いて閾値との比較により異常の判定をしていた場合において、臨界膨張条件を満たす実際のサンプルが40個しか得られないこともある。このとき、本実施形態では、サンプル数nに応じて閾値自体を変化させ、40個のサンプルから求めた差分累積(Δε(t1)+Δε(t2)+・・・・+Δε(t40))と、対応する閾値とを比較して異常発生を判定する。比較のために用いる閾値は、サンプル数nを用いて表される計算式によって規定されていてもよい。閾値をサンプル数nの関数として規定しておくことによって、臨界膨張条件を満たす実際のサンプル数nがいかなるように変動したとしても、適切に比較を行い得る。これにより、臨界膨張条件を満たす期間に得られたサンプルの全てを用いて、高精度に異常判定を行うことが可能になる。
【0083】
また、サンプル数nにより比較形態(ここでは閾値)を変化させる態様において、臨界膨張期間内に得られた最終サンプルの圧力値Znを用いて閾値を決定するようにしてもよい。最終サンプルの圧力値Znとは、上記例でサンプル50個が得られた場合にはP(t50)であり、サンプル40個が得られた場合にはP(t40)を意味する。上記の閾値は、例えば、(n+1)×(A・lnZn+B)の一般式で表されるものであってもよい(ここでA、Bは予め決められた定数)。さらに、閾値に対する比較により異常発生を判定するとともに、上記のズレ量ΣΔε(t)から、絞り部の断面積変化率xを求めることも可能である。
【0084】
また、上記工程において、臨界膨張期間内に取得可能なサンプル数nが所定数(例えば50)に満たないことが判明したときには、所定数のサンプルが得られるようにサンプリング周波数fを更新するようにしてもよい。これによって、その流体供給系における適切なサンプリング周波数を決定することができ、十分なサンプル数を確保して高精度に流量制御の診断を行うことが可能になる。
【0085】
さらに、圧力降下データと基準圧力降下データとの比較は、複数の圧力降下データから求められた所定関係式の係数と、基準圧力降下データから求められ予め設定された所定関係式の係数とを比較することによって行うこともできる。例えば、上記のZ(t)=P’(t)=lnP(t)/P0から求められる近似直線の傾きが所定範囲内(基準傾き範囲内)にあるか否かによって、異常を判定することができる。
【0086】
上記式(1)に示したように、圧力降下データを初期圧力で除算して対数を取った値ln(P(t)/P0)は、ln(P(t)/P0)=SC(RT)
1/2/V・tと表すことができる。なお、Sは開口断面積、Cはガスの定数を示す項、Rはガス定数、Tは上流ガス温度、Vは制御弁−絞り部間の流路容積である。ここで、C、R、T、Vを時間によらない定数であると仮定すると、ln(P(t)/P0)=−αt(αは定数)と表すことができるので、ln(P(t)/P0)は、時間tに対する一次関数として規定することができる。
【0087】
このため、測定により得られたln(P(t)/P0)に基づいて決定される近似直線(例えば、臨界膨張条件を満たすと判断されたサンプルデータの全てまたは一部を用い、最小二乗法によって求められる近似直線)の傾きαを、基準圧力降下データとして予めメモリMに格納しておいた基準傾きα
0と比較し、その結果に基づいて異常の判定を行うことが可能である。もちろん、基準傾き許容範囲内(α
0L〜α
0H)に、測定された圧力降下データから導出された傾きαが含まれるか否かによって異常の発生を判断してもよい。
【0088】
なお、上記の傾きαは、式(1)からわかるように、絞り部開口断面積Sに対応する係数であるので、傾きαによって絞り部開口断面積Sの異常を判定することは妥当である。また、傾きαを温度Tに基づいて補正することによって、絞り部開口断面積Sの変化をより正確に推定することも可能である。
【0089】
ここで、上記の傾きαと、自己診断開始時の設定流量(半導体プロセス終了時の流量)との関係を説明する。
図14(a)および(b)は、種々の初期の設定流量に対する圧力降下特性を示すグラフであり、(a)は、横軸:時間t、縦軸:上流圧力P
1としたときの圧力降下特性を示し、(b)は、横軸:時間t、縦軸:ln(P/P
0)としたときの圧力降下特性を示す。
図14(a)および(b)において、白丸は100%流量のときのデータ、白三角は60%流量のときのデータ、白逆三角は20%流量のときのデータ、×は10%流量のときのデータを示している。
【0090】
図14(a)に示すように、上流圧力P
1の圧力降下特性は、設定流量の大きさに応じて多様なものとなる。このため、設定流量ごとに基準データを予め用意しておくか、あるいは、後述するように設定流量に基づいて圧力降下データまたは基準データを補正してから比較を行うことが半ば必須である。
【0091】
ところが、
図14(b)からわかるように、時間tに対するln(P/P
0)を示す直線グラフの傾きα
xは、設定流量x%の大きさによって多少は異なるものの、おおよそのところ同じような傾きを示す。このため、設定流量ごとの基準傾き(α
100、α
60、α
20、α
10など)を設けることなく、すべての設定流量に共通の基準傾きα
0や傾き範囲α
0L〜α
0Hをメモリに格納しておき、これを用いて任意の設定流量について流量自己診断を行うことが可能である。ただし、
図14(b)からわかるように、設定流量によって多少の傾きの差は生じるので、設定流量ごとに別個に設定した傾きα
xや設定流量の関数として規定された補正基準傾きα
xと測定傾きαとを比較することによって、流量自己診断を行ってもよいことは言うまでもない。
【0092】
さらに、上記の直線傾きαに代えて、
図14(a)に示す上流圧力P(t)を初期圧力P
0で除算した値(P(t)/P
0)が示す曲線を例えば指数関数的減衰と見なしてカーブフィッティングなどにより比例定数を求め、これを予め記憶された基準データ(比例定数)と比較して診断を行うことも可能である。
【0093】
以上のようにして比較を行った後、圧力降下データP(t)と基準圧力降下データY(t)との差分(上記実施例では、差分累積ΣΔε、あるいは、傾きα
xと基準傾きα
0との差)が所定範囲内であれば、絞り部2に異常なしと判定し、アラーム12をオフにする(S6)。なお、上記の基準傾きα
0などの定数も、基準圧力降下データから直接的に求められた圧力降下特性を表す値であるので、本明細書では、これらを用いた流量診断も圧力降下データP(t)と基準圧力降下データY(t)との比較のもとに行う流量診断であるものとする。
【0094】
一方、圧力降下データP(t)と基準圧力降下データY(t)との差分が所定範囲外(または閾値以上)であれば、絞り部2に異常ありと判定し、アラーム12をオンにして異常を報知する(S7)。
【0095】
上記のようにして得られた圧力降下データP(t)を
図9に示す。
図9は、絞り部2に目詰まりが生じている例を示している。
図9から分かるように、圧力降下データP(t)は、流量自己診断開始時の設定流量が60%であったため、流量自己診断開始時の上流圧力検出器3の検出圧力も基準圧力降下データY(t)の開始時より低い圧力値からサンプリングが開始されている。そして、臨界膨張条件から非臨界膨張条件に代わる直前まで、臨界膨張条件を満たす圧力降下データP(t)をサンプリングしている。このようにして、臨界膨張条件を満たす圧力降下データP(t)をフルにサンプリングすることができ、それにより、従来の流量自己診断に比較して、圧力降下データP(t)をサンプリングできる時間を長くすることができる。従来では、例えば、
図9の圧力Paでサンプリングを止めていた。
【0096】
特に、上記のように圧力降下データとしてln(p(t)/p
0)によって規定される直線の傾きαを用いて流量自己診断を行う場合、測定した圧力降下データの圧力範囲と、基準圧力降下データの圧力範囲とが必ずしも一致していなくても診断を行い得る。このため、任意の設定流量において、臨界膨張条件内であることが確実とされたサンプリングデータの全てや一部を用いて、最大限の診断時間を確保することが容易である。
【0097】
なお、上記のように累積加算のズレ量ΣΔε(t)を閾値と比較する態様では、
図9に示すように診断時設定流量が60%流量の場合、100%流量のときの基準圧力降下データと同じ時間軸で診断を行うことは困難である。そこで、基準圧力降下データにおける60%流量対応圧力(たとえばY(t20))以降のデータと比較する(つまりY(t20)とP(t0)とを比較する)ようにすればよい。また、診断精度を向上させるために、測定データの初期(例えばP(t0)〜P(t5))は除外し、Y(t25)とP(t5)との比較から診断を開始してもよい。このことは、ln(p(t)/p
0)と、対応する基準圧力降下データとの比較により診断を行う場合にも同様である。
【0098】
半導体製造装置では、例えば
図10に示すように、しばしば、複数個の圧力式流量制御装置8
1〜8
5が並列に接続され、其々の圧力式流量制御装置8
1〜8
5から別々の種類のガスが所定流量でプロセスチャンバ10に供給される。プロセスチャンバ10は真空ポンプ11により真空引きされる。半導体製造プロセスでは、例えば、其々の圧力式流量制御装置8
1〜8
5から同時に異なる種類のガスをプロセスチャンバ10に供給する場合がある。そのようなプロセスにおいて、例えば一つの圧力式流量制御装置8
1のガス供給を停止し、その他の圧力式流量制御装置8
2〜8
5のガス供給を継続することがある。その他の圧力式流量制御装置8
2〜8
5のガス供給を継続している間、ガス供給を止めた前記一つの圧力式流量製装置8
1の下流圧力は真空より高い圧力となる。このような場合であっても、臨界膨張条件をモニターすることにより、圧力式流量制御装置8
1のみガス供給を停止する際の圧力降下データP(t)をサンプリングして流量自己診断を行うことができる。流量自己診断を行うために全ての圧力式流量制御装置8
1〜8
5のガス供給を停止するメンテナンスモードとしなくても良い。
【0099】
次に、自己診断機能の他の実施形態について、
図11のフローチャートを適宜参照しつつ説明する。ここでは
図10に示すように圧力式流量制御装置が並列接続されている例に基づいて説明する。
【0100】
図10の例において、流量自己診断開始前は、圧力式流量制御装置8
1〜8
5が、其々、60%設定流量でガスを供給している。圧力式流量制御装置8
2〜8
5は設定流量でガスの供給を制御している状態で、圧力式流量制御装置8
1にガス停止指令が入力される。
【0101】
図11に示すように、圧力式流量制御装置8
1にガス停止指令が入力されることにより流量自己診断が開始される(ステップS10)。ガス停止指令が入力されると制御弁6は閉じられる。
【0102】
流量自己診断開始時の上流圧力検出器3及び下流圧力検出器4からの上流圧力P
1及び下流圧力P
2がメモリMに記憶される(ステップS11)。
【0103】
流量自己診断が開始されると、上流圧力検出器3及び下流圧力検出器4が検出した上流圧力P
1、下流圧力P
2をモニターして臨界膨張条件を満たしているか否かを判定する(S12)。具体的には、圧力比(P
1/P
2)をモニターし、圧力比(P
1/P
2)≧2.05(アルゴンガスの場合)を満たすか否かを判定する。
【0104】
臨界膨張条件を満たしていない場合は、メモリMに記憶した上流圧力P1及び下流圧力P2をクリアしてスタートに戻る(ステップS13)。
【0105】
臨界膨張条件を満たしている場合は、メモリMに記憶した記憶した初期の上流圧力P
1及び下流圧力P
2を基準圧力降下データY(t)に適用する(ステップS14)。
【0106】
基準圧力降下データY(t)に基づいて制御弁6を閉じてから臨界膨張条件を満たさなくなる前までの臨界膨張時間Tmを演算する(ステップS15)。
【0107】
臨界膨張時間Tmに基づいて上流圧力検出器3のサンプリング周波数fm(1秒間にサンプリングする数)を演算する(ステップS16)。具体的には、臨界膨張時間を所定のサンプリング数で割り算することにより、サンプリング周波数が演算される。
【0108】
演算されたサンプリング周波数で圧力降下データP(t)のサンプリングを開始する(ステップS17)。
【0109】
上流圧力検出器3及び下流圧力検出器4が検出した上流圧力P
1、下流圧力P
2をモニターして臨界膨張条件を満たしているか否かを判定する(ステップS18)。
【0110】
臨界膨張条件を満たさなくなったときに、臨界膨張条件を満たしていた間の圧力降下データP(t)を基準圧力降下データY(t)と比較し、両データの差分が所定範囲にあるか否かを判定する(ステップS19)。圧力降下データP(t)を基準圧力降下データY(t)と比較する際は、同じ圧力範囲で比較する。P(t)、Y(t)はZ(t)の形式に置き換えられて比較され得る。
【0111】
圧力降下データP(t)と基準圧力降下データY(t)との差分が所定範囲内(または閾値以上)であれば、絞り部2に異常なしと判定し、アラーム12をオフにする(ステップS20)。
【0112】
一方、圧力降下データP(t)と基準圧力降下データY(t)との差分が所定範囲外であれば、絞り部2に異常ありと判定し、アラーム12をオンにして異常を報知する(ステップS21)。
【0113】
上記のように、サンプリング周波数fmを、流量自己診断開始時の上流圧力と下流圧力とに応じて自動的に変更することにより、短いサンプリング時間しか計測できない場合であっても、圧力降下データP(t)に必要なデータ数を確保することができ、適切な流量自己診断が可能となる。
図12は、サンプリング周波数fmを変更した場合の圧力降下データP(t)を、基準圧力降下特性y(t)とともに示すグラフである。
【0114】
本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。たとえば、上記実施形態では、圧力降下データを上記式(3)にあてはめたが、指数関数(Y(t)=P
0・e
-kt)で近似してもよい。また、例えば、臨界膨張時間とサンプリング周波数との関係を、臨界膨張時間に対するサンプリング周波数の関数として予めメモリに記憶しておくこともできる。
【0115】
また、上流圧力検出器と下流圧力検出器との検出精度を高く維持するために、例えば、上流圧力と下流圧力との収束圧力Pが異なる現象が観察されたときには、この誤差に基づいて、上流圧力検出器と下流圧力検出器との校正を行ってもよい。
【0116】
(他の実施形態)
以下、プロセス終了後に行う自己診断についての他の実施形態を説明する。
【0117】
以下に説明する形態においても、基準圧力降下データY(t)と、測定した圧力降下データP(t)とを用いて自己診断を行うが、
図14(b)に示したようにln(P(t)/P
0)=−αtで表される直線の傾きαを基準傾きα
0と比較することによって自己診断を行う。ただし、本実施形態では、上述したように、初期上流圧力(または初期流量)に対応づけられた基準圧力降下データ(基準傾きα
0)を用いて自己診断を行うようにしている。
【0118】
ここで、初期上流圧力または初期流量は、自己診断を行うに際して、制御弁6を閉じたときの上流圧力または流量を意味し、圧力降下データP(t)の取得を開始し始めたときの上流圧力または流量である。つまり、
図13(b)に示した、プロセス終了時または自己診断開始時の流量であるx%設定流量に対応する。
【0119】
図15は、初期上流圧力(ここでは初期流量として示している)に対応付けて設定された基準傾きを示すグラフである。グラフからわかるように、本実施形態において、基準傾きは、初期流量に基づいて種々の値を取り、一定ではない。これは、
図14(b)に示した通り、初期流量(プロセス終了時の設定流量)によってln(P(t)/P
0)の傾きが異なることがわかったためである。このため、対応する基準傾きを用いた方が、プロセス終了時のような初期流量が様々な大きさであり得る場合には、より精度の高い自己診断を行い得る。
【0120】
また、
図15を参照してわかるように、初期流量と基準傾きとの関係は、複数の離散的な定点D1〜D6(初期流量と基準傾きとの組み合わせ)のデータを、コントローラ7のメモリに補正テーブルとして格納しておくとともに、初期流量が定点D1〜D6の間のときには、補正テーブルを参照して計算により基準傾きを求めてもよい。具体的には、
図15に示すように、例えば初期流量が2つの定点D3、D4の間の流量x%にあるとき、この2つの定点D3、D4を結ぶ直線の式を参照して、初期流量x%から基準傾きα
xを計算により求めることができる。
【0121】
このように、コントローラ7が、基準傾きを、初期流量x%または初期圧力P
0の関数として有していることによって、任意の初期流量x%または初期圧力P
0に対して適切な基準傾きを用いることが可能になり、自己診断の精度をより向上させることができる。
【0122】
また、上記の基準傾きおよび自己診断時の測定傾きは、圧力降下データの一部分(例えば、100%流量から70%流量に低下するまでの期間)だけを用いて得ることもできる。このように、初期段階のデータを選択的に用いてln(P(t)/P
0)の傾きを求めるようにすれば、サンプル数を少なくすることができるので、データサンプリングの高速化を実現することができる。これにより、半導体製造の1プロセスを構成する複数のステップ間などの短い時間においても自己診断が可能となり、異常の検出をより頻繁に行うことが可能である。
【0123】
また、本実施形態では、上流圧力降下の比較的初期の段階のデータで自己診断を行い得るので、臨界膨張条件を満足している状態(上流圧力が比較的高い状態)のデータを用いることが容易である。このため、本実施形態においては、臨界膨張条件を満たしているか否かを、圧力降下の測定時に、常時判断しないようにしてもよく、流量制御装置は下流側の圧力センサを必ずしも備えていなくてもよい。
【0124】
ただし、本実施形態においても、下流側の圧力センサを設けるとともに、圧力降下データの取得最終時に、上流圧力と下流圧力とを参照して臨界膨張条件を満たしているかどうかを判断することが好ましい。そして、データ取得最終時に臨界膨張条件を満たしていないと判断されたときには、警告を表示するなどして、ユーザにそのことを知らせるようにすることもできる。
【0125】
また、前述の実施形態では、自己診断時を行うときに、絞り部2の下流側の遮断弁9を閉じるようにしていたが、本実施形態ではこれに限られず、遮断弁9が開いた状態であってもよい。遮断弁9が閉じていても開いていても良好な自己診断を実現し得る。ただし、プロセス終了時における不要なガスがプロセスチャンバに流れることを防止するという観点からは、本実施形態においても、自己診断時に遮断弁9を閉じることが好適である。