【実施例】
【0017】
方法および材料
腫瘍試料(Tumor Specimens)
人体組職を用いる全ての実験は、ソウル大学校の臨床試験審査委員会の承認を受けた(SNUIRB No.E1308/001−035)。遺伝子発現の分析のために、84個の外科的切除された冷凍HCC腫瘍組織サンプルおよび非腫瘍肝組織サンプルを分析した。2005年から2009年の間(133個のパラフィン包埋サンプル)および2011年から2013年の間(28個の冷凍組織サンプル)には韓国カトリック大学のソウル聖母病院において、2010年から2013年の間には高麗大学校クロ病院(KU Guro Gene Bank 2013−020)(56個の冷凍組織サンプル)において、各ケースを前向き(prospectively)で且つ持続的に同定した。本発明に用いられたほぼ大半の組織サンプルは、本発明者の従前研究にも用いられた。ソウル聖母病院の133個のパラフィン包埋組織のうち93個のサンプルおよび28個の冷凍組織サンプルのうち19個のサンプルおよびクロ病院の56個の冷凍組織サンプルのうち53個のサンプルが用いられた(Ko E、et al.、Seo HW、Jung ES、Kim BH、Jung G.The TERT promoter SNP rs2853669 decreases E2F1 transcription factor binding and increases mortality and recurrence risks in liver cancer.Oncotarget.2015;Ko E、et al.、Telomerase reverse transcriptase promoter methylation is related to a risk of recurrence in hepatocellular carcinoma.Hepatology.2015)。HCC GI、GII、およびGIIIの各々において、p110δ mRNAレベルの定量化のために用いられた98個のサンプルのうち14個の冷凍組織は、本発明者の他の研究(Lim SO、et al.、Hepatology.2011;53:1352−62.)にも用いられた。腫瘍分化の組織学的グレード(histological grade)は、最高等級を示す腫瘍部位に基づくEdmondson Steiner等級システムにより定義された。
【0018】
細胞培養
HCC細胞株(Huh7およびHep3B)は、韓国細胞株銀行(KCLB、Seoul、Korea)から得た。THLE−3細胞株(SV40大型T抗原と共に感染させて生産した不死化(immortalized)ヒト肝上皮細胞株)は、ATCC(American Type Culture Collection)から求めた。KCLBおよびATCCは、short tandem repeat analysisとしてDNAフィンガープリンティングを用いて細胞株の認証(authentication)を行った。全ての細胞株は、マイコプラズマ汚染を調査した。10%牛胎児血清(GenDepot、Barker、TX、USA)で補充されたDMEM(Welgene、Gyeongsan−si、Korea)においてhumidified 5% CO
2インキュベータ、37℃でHCC細胞株を培養した。ATCCマニュアルに推薦されたとおり、10%牛胎児血清で補充されたBEGM(Lonza)においてhumidified 5% CO
2インキュベータ、37℃でTHLE−3を培養した。
【0019】
PI3K、AKT、およびGSK3βに対するROS誘導剤、ROSスカベンジャー、および阻害剤の処理
培地は毎日交替し、前記細胞は300μmol/L 過酸化水素(H
2O
2)(SigmaAldrich;H1009)において4日間培養した。幾つかの実験において、前記細胞は、H
2O
2を添加する前に、5mmol/L N−アセチルシステイン(NAC)(SigmaAldrich;A7250)、25μmol/L イデラリシブ(idelalisib)(LC Laboratoties、Woburn、MA、USA;I−7447)、25μmol/L ペリフォシン(perifosine)(LC Laboratoties、Woburn、MA、USA;P−6522)または30μmol/L GSK3β阻害剤(GSK3β inhibitor XI)(Santa Cruz;sc−204770)(31)で1時間予め処理した。陰性対照群として滅菌蒸留水(pH 7.0)を用いた(mock treatment)。
【0020】
Flow FISH
幾つかの変形をして、既に記載したとおり(Rufer N、et al.、Nat Biotechnol.1998;16:743−7)にFlow FISHを行った。0.1% w/vの牛血清アルブミン(BSA)を含有する冷たいPBS(phosphate−buffered salin)溶液で前記細胞を2回洗浄した。その次に、前記細胞をハイブリダイゼーションバッファ(70%脱イオン化ホルムアミド(Amresco、Solon、OH、USA)、20mmol/L TrisHCl[pH 6.8]、1% BSA、および1nmol/L FAM−labeled テロメアPNA(telomere peptide nucleic acid)プローブ(TelGFAM:TTAGGGTTAGGGTTAGGG)(Panagene、Daejeon、Korea)または1nmol/L FAM−labeled セントロメアPNAプローブ(CentFAM:AAACTAGACAGAAGCATT)(Panagene)に再サスペンションした。ハイブリダイゼーションバッファの体積は、10
5細胞当たり100μlに調整した。次に、各サンプルを85℃の水槽で10分間培養した。テロメアプローブを室温、雌牛で3時間ハイブリダイゼーションした後、各サンプルを各々の洗浄溶液(洗浄溶液I:70%脱イオン化ホルムアミド、10mM risHCl[pH 6.8]、0.1% BSA、および0.1% ツイン20;洗浄溶液II:0.1% BSAおよび0.1%ツイン20 in PBS)で洗浄し、溶液(0.1% BSA、10μg/mL RNase A、および0.06μg/mLの7−AAD in PBS)内で37℃で1時間培養した。各個別の培養において総15,00020,000核を分析した。G1G0細胞周期段階で全ての核のテロメア蛍光強度は、CELLQUEST softwareを用いたBD FACS Calibur flow cytometer(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ、USA)を用いて測定した。
【0021】
ImmunoFISH
確立されたImmunoFISHプロトコル(Plentz RR、et al.、Hepatology.2007;45:968−76)を若干変形させて用いた。パラフィン包埋セクションをキシレンで脱パラフィンさせ、エタノール gradientを用いて再水和させた。抗原復旧(retrieval)は、100mmol/L ナトリウムシトレート(pH 6.0)内でマイクロウェーブにおいて10分間沸かして行った。プロテイナーゼK(15μg/mL in PBS[pH 7.4])で37℃で20分間浸透させた後、8−オキソ−dG−特異性抗体(1:100、Abcam、Cambridge、MA、USA;ab62623)をPBS 0.1% Triton X−100内1% BSAdp希釈して室温で一晩中培養した。スライドを洗浄した後、Alexa 647 2次抗体で1時間処理した。4%ホルムアルデヒドを用いてサンプルを固定させた後にエアードライをした。前記サンプルを90℃で6分間変性させた後、雌牛で2時間ハイブリダイゼーションした。ハイブリダイゼーション溶液には、70%ホルムアルデヒドin 2×SSC、5% MgCl
2、0.25%ブロッキング試薬(Roche、Basel、Switzerland)、15.4nmol/L of Cy3−ラベルのテロメアPNAプローブ(TelCCy3:CCCTAACCCTAACCCTAA)(Panagene、Daejeon、Korea)、および18.4nmol/LのFAM−ラベルのセントロメアPNAプローブ(CentFAM:AAACTAGACAGAAGCATT)(Panagene)が含まれている。スライドを洗浄した後、DAPIを含有するPBSでリンスし、その後、DAPI封入剤(mounting medium)(Vector Laboratories、Burlingame、CA、USA)で封入した。本発明者は、同時にテロメア染色および8−オキソ−dG染色に対する内部対照群としてセントロメアを染色した。分子ROSマーカーである酸化的DNA付加(adduct) 8−オキソ−2’−デオキシグアノシン(8−オキソ−dG)のレベルは、HCCを含む様々な腫瘍タイプにおいて増加すると報告されている。テロメア蛍光レベルおよび8−オキソ−dG蛍光レベルは、各々、テロメア蛍光強度に対するセントロメア蛍光光度の比、および8−オキソ−dG蛍光強度に対するセントロメア蛍光強度の比をいう。テロメア蛍光強度、セントロメア蛍光強度、および8−オキソ−dG蛍光強度の定量には同一の露出時間が用いられた。腫瘍組織のテロメア蛍光レベルおよび8−オキソ−dG蛍光レベルは、5ランダムフィールドに相応する非腫瘍組織の蛍光レベルを分けて計算した。イメージ分析は、Image−Pro plus 6.0 software(Media Cybernetics、Inc.、Rockville、MD、USA)を用いて行った。
【0022】
テロメアサザンブロット
テロメア長は、非放射性の化学蛍光TeloTAGGGテロメア長アッセイ(Roche;Cat.No.12 209 136 001)をマニュアルに従って用いて決定した。GeneJET Genomic DNA Purification Kit(Thermo Scientific;#K0721)を用いてHCC細胞からゲノムDNAを分離した後、4μgのゲノムDNAを20ユニットのHinf 1(Enzynomics)およびRsa 1(Enzynomics)で37℃で16時間ダイジェストした。前記ダイジェストされたDNAを0.8%アガロースゲル電気泳動により分離した後、キャピラリートランスファーを用いて陽電荷ナイロン膜に移した。ブロットされたDNAは、42℃で16時間テロメア反復に特異的なジゴキシゲニン(DIG)−ラベルされたプローブでハイブリダイゼーションした後、アルカリ性ホスファターゼに接合されたDIG−特異的抗体と共に室温で30分間培養した。
【0023】
定量的リアルタイム−PCRを介した相対的テロメア長の測定
細胞から抽出したゲノムDNAを用いて定量的PCR分析を通じて相対的テロメア反復コピーナンバー(T)およびシングルコピーナンバー(S)を決定し、連続してT/S比率を変形させた従来の方法(Cawthon RM.Telomere length measurement by a novel monochrome multiplex quantitative PCR method.Nucleic Acids Res.2009;37:e21)のとおりに計算した。
【0024】
免疫蛍光分析法
p110δ発現レベルを可視化するために、p110δ−特異的(1:500、Abcam;ab32401)抗体を用いた。スライドを洗浄してDAPI(Vector Laboratories)を含有する培地を用いて封入した。共焦点顕微鏡(LSM 700;Carl Zeiss、Oberkochen、Germany)を用いてイメージを得た。イメージ分析は、Image−Pro plus 6.0 software(Media Cybernetics、Inc.)を用いて行った。
【0025】
TRAP(Telomerase Repeat Amplification Protocol)分析
テロメラーゼ活性を定量的に決定するために、TRAPEZE RT Telomerase Detection Kit(Millipore、Darmstadt、Germany;S7710)を用いてTRAPを行った。マニュアルに従って総タンパク質抽出物(100ng)を各反応に用いた。
【0026】
定量的リアルタイム−PCRで遺伝子発現レベルの決定
NucleoSpin TriPrep Kit(Macherey−Nagel、Duren、Germany;740966.250)を用いて総RNAを分離し、TOPscript
TM RT Drymix(dT18)(Enzynomics、Daejeon、Korea;RT200)を用いてmock−または指示された試薬が処理された細胞の総RNAからcDNAを合成した。TOPreal
TM qPCR 2×PreMIX(SYBR Green with high ROX)(Enzynomics、Daejeon、Korea;RT501M)およびABI Prism 7300 thermal cycler(Applied Biosystems、Foster City、CA、USA)を用いてPCRを行った。β−アクチンで遺伝子発現をノーマライズした:TERT(順方向プライマー:GCCTTCAAGAGCCACGTC;逆方向プライマー:CCACGAACTGTCGCATGT)(26)およびβ−Actin(順方向プライマー:GCAAAGACCTGTACGCCAACA;逆方向プライマー:TGCATCCTGTCGGCAATG)。プライマー特異性をチェックするために解離段階を追加した。
【0027】
免疫ブロット分析
総2×10
5細胞を2×SDSサンプルバッファ(100mmol/L TrisHCl[pH 6.8]、4% SDS、0.2%ブロモフェノールブルー、20%グリセロール、および200mmol/L β−メルカプトエタノール)で5分間沸かしてSDS−PAGEおよびウェスタンブロットをした。TERTを探知するために、細胞を2×SDSサンプルバッファにおいて55℃で15分間培養した。TERT−特異的(1:300、Rockland Immunochemicals、Gilbertsville、PA、USA;600−401−252)、AKT−特異的(1:1000、Cell Signaling Technology;#9272)、phospho−AKT−特異的(1:2000、Cell Signaling Technology;#4060)、GAPDH−特異的(1:2000、Santa Cruz Biotechnology;sc−47724)、またはβ−アクチン−特異的(1:2000、Sigma−Aldrich、St.Louis、MO、USA;A5441)抗体を5%スキムミルクまたは牛血清アルブミンにおいてTBS−ツイン20と共に希釈して一晩中4℃で培養した後に洗浄し、HRP−接合二次抗体(1:1000、Abcam;ab131368またはab131366)において培養した。FUSION−SOLO imager(VilberLourmat、Marne La Vallee、France)を用いて化学蛍光イメージを得た。
【0028】
細胞生存力の測定
従来に記載されたとおり(10) Cell Titer 96 MTS(Promega)を用いて細胞生存力を測定した。ウェル当たりに500−1000細胞をシードして各グラフに記載されたような薬物濃度で96時間処理した。各分析法は少なくとも3回繰り返し行った。データをプロットして、GraphPad softwareを用いてIC
50数値を遂行した。Flexstation 3 multimode plate reader(Molecular Devices)を用いて490nmにおいてホルマザン生産の光学密度を測定した。
【0029】
クロマチン免疫沈降
従来に記載されたとおり(Lim SO、et al.Gastroenterology.2008;135:2128−40、40 e1−8.;Hoffmeyer K、et al.Science.2012;336:1549−54)、幾つかの変形させたChIP(クロマチン免疫沈降)実験を行った。PI3K阻害剤、AKT阻害剤、またはGSK3β阻害剤の存在または不存在下で300μmol/L H
2O
2処理するかまたは処理せずにHuh7細胞を4日間培養した。室温で20分間徐々に揺しながら、前記細胞を1%パラホルムアルデヒドを用いて固定した。その後、前記細胞を氷で冷たくしたPBSで2回リンスし;400μLのミクロコッカルヌクレアーゼバッファ(50mmol/L TrisHCl[pH8.0]、5mmol/L CaCl、100μg/mL BSA、10mmol/L KCl、およびプロテアーゼ阻害剤カクテル[Roche、Basel、Switzerland;4693159001])に再サスペンションし;2−mm−直径のジルコニウムビーズ(Watson)でディスラプト(disrupt)して;ミクロコッカルヌクレアーゼダイジェスチョンになるようにした(New England Biolabs、Beverly、MA、USA;M0247S)。Chromatin(150μg)を収集して希釈バッファ0.1% NP−40、2mmol/L EDTA、150mmol/L NaCl、20mmol/L TrisHCl[pH 8.0]、プロテアーゼ阻害剤カクテル[Roche]、およびフォスファターゼ阻害剤カクテル[Calbiochem])で希釈した後、2μg切断された鮭精子DNA、10μLの免疫前(preimmune)血清(Santa Cruz Biotechnology;sc−2027)、およびDynabeads Protein G(Life Technologies;1004D)で2時間4℃でプレクリアー(pre−clearing)した。免疫沈降後、20μl Dynabeads Protein Gを添加し、2時間培養を持続した。前記Dynabeadsを各々TSE 1(0.1% SDS、1% Triton X−100、2mmol/L EDTA、20mmol/L TrisHCl、および150mmol/L NaCl)、TSE II(0.1% SDS、1% Triton X−100、2mmol/L EDTA、20mmol/L TrisHCl、および500mmol/L NaCl)、およびバッファIII(0.25mol/L LiCl、1% NP−40、1% deoxycholate、1mmol/L EDTA、および10mmol/L TrisHCl)で10分間連続して洗浄した。前記ビーズは、その後TEバッファで3回洗浄し、1% SDSおよび0.1mol/L NaHCO
3を用いて抽出した。ホルムアルデヒド交差結合を逆にするために、前記溶出液を一晩中65℃に加熱した。NucleoSpin DNA clean−up kitを用いてDNA断片を精製した。TERTプロモーター部位に特異的なプライマーを用いてqPCR(ABI 7300;Applied Biosystems、Foster City、CA、USA)でPCR増幅生成物を定量した。TERTイントロンでPCR増幅をノーマライズした。プライマー配列は下記のとおりである:ChIPに対するβ−カテニン相互作用部位(順方向プライマー:TCCCGGGTCCCCGGCCCA;逆方向プライマー:CCTCGCGGTAGTGGCTGCGC)およびChIPに対するTERTイントロン(順方向プライマー:TGAGGGCTGAGAAGGAGTGT;逆方向プライマー:CACGATAGACGACGACCTCA)。既に記録されたβ−カテニン相互作用部位の各面には、20−22bpが添加された。用いられた抗体は下記のとおりである:ウサギポリクローナル抗−β−カテニン(1:200、Abcam、Cambridge、MA、USA;ab6302)、マウスモノクローナル抗−RNAポリメラーゼII(1:50、Covance、Princeton、NJ、USA;MMS−126R)、およびウサギポリクローナル抗−SETD1A(1:100、Novus Biologicals、Littleton、CO、USA;NBP1−81513)。
【0030】
インビボ腫瘍形成(Tumorigenicity)の分析
ソウル大学校動物実験倫理委員会の承認を受けたプロトコルに従って動物実験を行った(Approval number:SNU−130225−6)。マウスを通常の条件(セミ−特定病原菌の不在状態)に置いておき、任意に食べ物と水を提供した。全ての異種移植(xenografting)の研究に5週齢のKSN/Slcヌードマウスを用いた。18gから20gの間の重さのマウスを実験に用いた。異種移植分析法のために、mock処理をした1×10
5Huh7、300μmol/L H
2O
2を単独で処理した1×10
5Huh7、または25μmol/L イデラリシブおよび300μmol/L H
2O
2の両方を処理した1×10
5Huh7を洗浄してCa
2+or Mg
2+のないPBSにおいてハーベストし、連続して0.2mL体積で背中の皮下組織に注入した。腫瘍の二つの垂直直径(最も大きい直径D1、および最も小さい直径D2)のキャリパー(caliper)測定を通じて腫瘍生成物を毎週モニターした。腫瘍の体積はπ×D1×D2
2/6のものとして計算された。
【0031】
統計分析
テロメア長の測定および生存率の統計的有意性は、各々、フィッシャーの正確検定およびログ・ランク検定を用いて評価した。mockおよびROSまたはPI3K−AKT阻害剤の処理の間のテロメア活性およびメッセンジャーRNA発現レベル比較におけるP数値は、両検定を用いて計算した。頻度分布の正常性(normality)は、Shapiro−Willk検定を用いてテストした。統計的分析は、R ソフトウェア(www.r−project.org)またはPrism GraphPad Software version 4.0(GraphPad Software Inc、San Diego、CA、USA)を用いて行った。全ての実験は、独立に少なくとも3回繰り返し行った。有意性の数値は* P<0.05、** P<0.01、および*** P<0.001に合わせた。
【0032】
実施例1. PI3K−Akt阻害剤であるイデラリシブがHCC細胞増殖、TERT発現、およびテロメア長の維持阻害を糾明
選択的p110δキナーゼ阻害剤であるイデラリシブは、PI3K−AKTシグナル伝達をブロックする活性により、慢性リンパ球性白血病患者の治療に用いられてきた(Yang Q、et al.Clin Cancer Res.2015;21:1537−42;Fruman DA、et al.Nat Rev Drug Discov.2014;13:140−56)。p110δが互いに異なるレベルで潜伏している肝細胞におけるイデラリシブの活性を測定するために、本発明者は、3個の肝細胞株を用いて増殖分析を行った。前記肝細胞株には、初期HCC患者から由来し、高レベルのp110δを示すHCC細胞株であるHuh7細胞およびHep3B細胞が含まれ(
図1AおよびB)、正常な成人の肝上皮細胞に現れる正常一次細胞から由来し、低レベルのp110δを示す不死化内皮細胞であるTHLE−3細胞株が含まれた(
図1C)。
イデラリシブが濃度−依存的方式で二つのHCC細胞株の細胞増殖を阻害するのかについて調査し、その結果、前記細胞株の細胞増殖を阻害した(
図1AおよびB)。Huh7およびHep3BのIC
50は30μmol/Lより小さく(
図1AおよびB)、THLE−3細胞のIC
50は200μmol/Lより大きかった(
図1C)。細胞増殖の阻害と共に、さらに、本発明者は、二つのHCC細胞株におけるAKTリン酸化阻害を探索した(
図1DおよびE)。AKTリン酸化の基底レベル(basal level)は、THLE−3において低く、25μmol/L濃度においてイデラリシブによって減少しなかったが(
図1F)、これはAKTシグナル伝達がこれらの細胞において不活性化されることをいう。
また、イデラリシブがHCC細胞においてTERT発現およびテロメア長を減少させるのかについて調査した。イデラリシブは、二つのHCC細胞株においてTERT発現を減少させたが(
図1DおよびE)、THLE−3細胞ではそうではなかった(
図1F)。TERT発現が減少する結果と一致するように、イデラリシブによってHCC細胞のテロメア長が減少した(
図1G−K)。THLE−3細胞においてTERT発現の基底レベルは低く、イデラリシブによってTHLE−3細胞におけるTERT発現またはテロメア長の両方とも減少することはなかった(
図1F、LおよびM)。このような結果はPI3K−AKTシグナル伝達が活性化されるとTERT発現が調節され、HCC細胞ではイデラリシブによって阻害されるが、THLE−3細胞ではそうではなかった。これは、PI3K−AKTシグナル伝達が活性化された細胞は、PI3K阻害剤の存在時にTERT発現およびテロメア長が減少するようにする適宜なターゲットになることを意味する。
【0033】
実施例2. イデラリシブがROSにより誘導されたTERT上向き調節およびHCC細胞のテロメア伸長阻害の糾明
従来、ROSは癌細胞においてPI3K−AKTシグナル伝達経路を過活性化させることが確認されたが(Brazil DP、et al.Cell.2002;111:293−303;Li VS、et al.Cell.2012;149:1245−56)、ROSがPI3Kアイソタイプを増加させるのか、そのためにPI3K−AKT活性化をもたらすのかについては知られていなかった。PI3Kアイソタイプ p110δ発現がTHLE−3細胞よりはHCC細胞においてより高く(
図1および
図2A)、p110δ選択的阻害剤であるイデラリシブがHCC細胞においてのみpAKTおよびTERT発現、およびテロメア維持を阻害するため、本発明者は、ROSがHCC細胞においてp110δ発現を増加させるのかについて実験した。クラスI PI3Kアイソタイプ(p110α、p110β、p110δ、およびp110γ)のうち、ROS誘導剤である過酸化水素(H
2O
2)処理後のHCC細胞においてp110δ発現のみが増加した(
図2B)。これは、ROSがp110δ発現の上向き調節を通じてPI3K−AKTシグナル伝達を特に過活性化させることをいう。
次に、ROSがAKT活性化を通じてTERT発現およびテロメア長を増加させるのかについて調査するために、本発明者は、様々な濃度(0−300μmol/L)のH
2O
2を処理した時、ROSレベルが増加する細胞におけるTERTメッセンジャーRNA(mRNA)およびタンパク質のレベルおよびテロメア長を比較した。H
2O
2に露出していない対照群のHCC細胞と比較した時、TERT発現およびテロメア長は、300μmol/L H
2O
2を処理したHCC細胞において増加した(テロメア長は25%−30%増加し、TERT発現は40%−45%増加した;
図2CおよびD)。ROSスカベンジャーであるN−アセチルシステイン(NAC)およびH
2O
2で細胞を同時に処理すれば、HCC細胞においてH
2O
2−誘導によるTERT発現とテロメア長の増加現象が無くなった(
図2CおよびD)。THLE−3細胞では、150μmol/L H
2O
2に露出されると、大半の細胞(85%)が生存することができなかった。前記濃度において、テロメア長は減少した(
図2E)。しかし、TERT発現レベルは変わらず、H
2O
2処理後のAKTリン酸化レベルの変化がないことと一致した(
図2E)。このような結果は、HCC細胞においてAKTリン酸化およびTERT発現を上向き調節することによってROSがテロメアを長くできることをいう。
ROS−誘導PI3K−AKTシグナル伝達の過活性化に対するイデラリシブの効果を研究するために、本発明者は、イデラリシブに露出されたH
2O
2−処理されたHCC細胞におけるTERT発現、テロメア長およびテロメラーゼ活性を測定した。TERT発現レベルおよびテロメア長は、H
2O
2を単独で処理したHCC細胞よりイデラリシブ処理後のH
2O
2−処理されたHCC細胞において顕著に低かった(テロメア長は40−45%減少し、TERT発現は65−70%減少;
図2FおよびG)。このような結果は、イデラリシブがROS−誘導PI3K−AKTシグナル伝達の過活性化を阻害することをいう。TERT発現およびテロメア長の結果(
図2F−H)と類似するように、イデラリシブは、二つのHCC細胞株においてテロメラーゼ活性を減少させたが(
図2IおよびJ)、THLE−3細胞ではそうではない(
図2K)。本発明者は、TERT発現、テロメラーゼ活性およびテロメア長においてROS媒介で増加するのがイデラリシブによってほぼ全部阻害されたことを明らかにした(
図2F−K)。
【0034】
実施例3. インビボでPI3K阻害剤であるイデラリシブがHCC腫瘍成長の促進に対するROS作用阻害の糾明
本発明者は、TERT転写の間、TERTプロモーターにおいてクロマチン接近性が増加することがβ−カテニンと関わっているのかについて調査した。このために、本発明者は、内因性β−カテニンおよびクロマチン再構築によってTERT転写を促進すると報告されたヒストン・メチルトランスフェラーゼSetD1Aに対する抗体を用いてクロマチン免疫沈降を行った。クロマチン免疫沈降分析法においてPI3KまたはAKT阻害剤を共に処理すれば、H
2O
2が存在してもHCC細胞においてTERTプロモーターに結合するβ−カテニンおよびSetD1Aが減少した反面(
図3AおよびB)、GSK3β阻害剤を共に処理すれば、H
2O
2処理と関係なくβ−カテニンおよびSetD1A結合が増加した(
図3C)。このような結果は、ROSがPI3K−Aktシグナル伝達カスケードの過活性化を通じてβ−カテニンの核発現を増加させることによって、TERTプロモーターへのSetD1Aの募集を促進させることをいう。
次に、イデラリシブがインビボで腫瘍成長を阻害できるのかについて調査した。先ず、H
2O
2処理後、PI3K−AKTシグナル伝達過活性化されたHCC細胞が注入されたヌードマウスにおいて腫瘍の外観に対する遅延時間(latency time)を調査した。H
2O
2処理された1×10
5HCC細胞と共に注入されたヌードマウスにおいて腫瘍発病(tumor development)までかかった遅延時間は28日であった(
図3DおよびE)。H
2O
2処理していない1×10
5HCC細胞を注入したヌードマウスにおいて腫瘍が現れるのにかかった平均時間は70日であった(
図3E)。それに対し、H
2O
2およびイデラリシブの両方を処理したHCC細胞と共に注入してから70日が過ぎても腫瘍は形成されなかった(
図3D)。このような結果は、ROSが腫瘍成長を促進し、腫瘍成長の促進に対するROS作用は、インビボでPI3K阻害剤であるイデラリシブによって阻害されることをいう。
【0035】
実施例4. HCC組織においてp110δ発現レベルが高くなればTERT発現レベルが高くなる現象およびその低調な肝癌患者生存率との関連性の糾明
本願では、p110δのmRNAレベルは初期HCC組織から進行性HCC組織(2期以上)まで増加し(
図4A)、TERT mRNA発現と陽性的に関わっていることを糾明した(
図4B)。これは、同一な一次シグナルがp110δおよびTERT発現が増加する原因となることをいう。p110δのmRNAレベルが高いことが無再発生存率が低いことと関わっているが(
図4C)、これは、p110δのmRNAレベルが高く発現されることが高レベルのTERT mRNA、高レベルのROS、または長いテロメア長のようなHCC予後マーカーであることができることをいう。これは、本願の薬学組成物がp110δキナーゼを阻害することでp110δのmRNAが高レベルに発現されるのを遮断することによってHCC腫瘍増殖を阻害できることを示し、特に進行性肝細胞癌の治療に効果的に使用できることを示す。また、ROS−PI3K−AKT−TERTシグナル伝達過活性化を特異的に遮断することによって肝癌を治療するのに有用であることが分かる(
図4D)。
【0036】
以上、本願の例示的な実施例について詳細に説明したが、本願の権利範囲はこれらに限定されず、下記の請求範囲で定義している本願の基本概念を用いた当業者の種々の変形および改良形態も本願の権利範囲に属するものである。
本発明で用いられた全ての技術用語は、特に定義しない限り、本発明の関連分野で通常の当業者が一般的に理解するものと同様の意味として用いられる。本明細書に参考文献として記載される全ての刊行物の内容は本発明に導入される。