特許第6871675号(P6871675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871675
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】歯車加工装置及び歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 5/16 20060101AFI20210426BHJP
   B23F 23/12 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   B23F5/16
   B23F23/12
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-205565(P2015-205565)
(22)【出願日】2015年10月19日
(65)【公開番号】特開2016-93881(P2016-93881A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2018年9月12日
【審判番号】不服2020-9743(P2020-9743/J1)
【審判請求日】2020年7月10日
(31)【優先権主張番号】特願2014-226843(P2014-226843)
(32)【優先日】2014年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】張 琳
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚
(72)【発明者】
【氏名】竹下 吉次
(72)【発明者】
【氏名】中野 浩之
【合議体】
【審判長】 見目 省二
【審判官】 田々井 正吾
【審判官】 大山 健
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3181136(JP,U)
【文献】 特開2013−129000(JP,A)
【文献】 特開2002−292562(JP,A)
【文献】 特開平10−094920(JP,A)
【文献】 特開2011−025365(JP,A)
【文献】 特開2014−155990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00- 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工物の回転軸線に対し傾斜した回転軸線を有する加工用工具を用い、前記加工用工具を前記加工物と同期回転させながら前記加工物の回転軸線方向に相対的に送り操作して歯車を切削加工する歯車加工装置であって、
前記加工用工具の工具刃の工具軸線方向の端面は、すくい面であり、前記工具刃の外周面は、前逃げ面であり、
前記工具刃において前記端面のみの研磨を行うことにより、前記工具刃の前記端面の研磨前における前記工具刃の端面形状と研磨後における前記工具刃の端面形状は、異なる形状であり、且つ、前記工具刃の前記端面の研磨前後における前記工具刃のねじれ角は同一であり、
前記歯車加工装置は、
前記加工用工具の工具刃の研磨前における前記加工物に対する前記加工用工具の相対的な位置又は姿勢である工具状態、及び、前記加工用工具の工具刃の研磨後における前記加工用工具の工具状態を記憶する工具状態記憶部と、
前記加工用工具と前記加工物との歯数比に応じて同一方向に同期回転させて、前記加工物の回転軸線及び前記加工用工具の回転軸線の軸間距離を徐々に縮めて加工を行い、前記加工用工具の工具刃の研磨前は、前記工具状態記憶部に記憶された前記研磨前における前記加工用工具の工具状態で前記加工物の加工を行い、前記加工用工具の工具刃の研磨後は、前記工具状態記憶部に記憶された前記研磨後における前記加工用工具の工具状態で前記加工物の加工を行う加工制御部と、
を備え、
前記工具状態記憶部は、前記工具状態として、前記加工物の回転軸線に対する前記加工用工具の傾斜を表す交差角、及び、前記加工用工具の工具端面と工具軸線との交点が前記加工物の回転軸線からずれているオフセット量を記憶し、
前記研磨前における前記工具状態としての前記交差角と前記研磨後における前記工具状態としての前記交差角とは、異なる角度であり、且つ、前記研磨前における前記工具状態としての前記オフセット量と前記研磨後における前記工具状態としての前記オフセット量とは、異なり、
前記加工用工具の工具刃の研磨前と研磨後で前記加工物の加工を行う、歯車加工装置。
【請求項2】
前記工具状態記憶部は、前記工具状態をシミュレーションによって演算した結果に基づいて得られる前記工具状態を記憶する、請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記工具刃の前記前逃げ面は、前記工具軸線と平行な直線に対し所定角度傾斜した前逃げ角を有し、
前記工具刃が前記前逃げ角を有することにより、研磨前後における前記工具刃の端面形状は、異なる形状となる、請求項1または2に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
前記加工用工具の工具刃は、インボリュート歯形を有する、請求項3に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
加工物の回転軸線に対し傾斜した回転軸線を有する加工用工具を用い、前記加工用工具を前記加工物と同期回転させながら前記加工物の回転軸線方向に相対的に送り操作して歯車を切削加工する歯車加工方法であって、
前記加工用工具の工具刃の工具軸線方向の端面は、すくい面であり、前記工具刃の外周面は、前逃げ面であり、
前記工具刃において前記端面のみの研磨を行うことにより、前記工具刃の前記端面の研磨前における前記工具刃の端面形状と研磨後における前記工具刃の端面形状は、異なる形状であり、且つ、前記工具刃の前記端面の研磨前後における前記工具刃のねじれ角は同一であり、
前記歯車加工方法は、
前記加工用工具と前記加工物との歯数比に応じて同一方向に同期回転させて、前記加工物の回転軸線及び前記加工用工具の回転軸線の軸間距離を徐々に縮めて加工を行い、
前記加工用工具の工具刃の研磨前は、工具状態記憶部に記憶された前記研磨前における前記加工物に対する前記加工用工具の相対的な位置又は姿勢である工具状態で前記加工物の加工を行い、
前記加工用工具の工具刃の研磨後は、前記工具状態記憶部に記憶された前記研磨後における前記加工用工具の工具状態で前記加工物の加工を行い、
前記加工用工具の工具刃の研磨前と研磨後で前記加工物の切削加工を行い、
前記工具状態は、前記加工物の回転軸線に対する前記加工用工具の傾斜を表す交差角、及び、前記加工用工具の工具端面と工具軸線との交点が前記加工物の回転軸線からずれているオフセット量であり、
前記研磨前における前記工具状態としての前記交差角と前記研磨後における前記工具状態としての前記交差角とは、異なる角度であり、且つ、前記研磨前における前記工具状態としての前記オフセット量と前記研磨後における前記工具状態としての前記オフセット量とは、異なる、歯車加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工用工具及び加工物を同期回転させて切削加工により歯車を加工する歯車加工装置及び歯車加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工により内歯及び外歯を加工する有効な装置としては、例えば、特許文献1に記載の加工装置がある。この加工装置は、回転軸線回りに回転可能な加工物と、加工物の回転軸線に対して所定の角度で傾斜した回転軸線回り、すなわち交差角を有する回転軸線回りに回転可能な加工用工具、例えば複数枚の工具刃を有するカッタとを高速で同期回転させ、加工用工具を加工物の回転軸線方向に送って切削加工することにより歯を創成する加工装置である。そして、特許文献2には、内歯車加工において、加工用工具の位置や回転を決定して交差角を設定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−159126号公報
【特許文献2】特許第4468632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の加工用工具の工具刃は、工具端面において加工される歯車と噛み合う歯の形状と同一形状に形成される。そして、加工用工具の工具刃の刃先が摩耗した場合は、摩耗した刃先を研磨して再利用する。しかし、当該研磨量が、所定量以上に及ぶと、加工用工具の工具刃の刃先形状が崩れ、加工精度が低下する問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、工具刃を工具端面に形成した加工用工具を用いて切削加工により歯車を加工する際の加工精度を長期に亘って維持できる歯車加工装置及び歯車加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の歯車加工装置は、加工物の回転軸線に対し傾斜した回転軸線を有する加工用工具を用い、前記加工用工具を前記加工物と同期回転させながら前記加工物の回転軸線方向に相対的に送り操作して歯車を切削加工する歯車加工装置である。
前記加工用工具の工具刃の工具軸線方向の端面は、すくい面であり、前記工具刃の外周面は、前逃げ面であり、前記工具刃において前記端面のみの研磨を行うことにより、前記工具刃の前記端面の研磨前における前記工具刃の端面形状と研磨後における前記工具刃の端面形状は、異なる形状であり、且つ、前記工具刃の前記端面の研磨前後における前記工具刃のねじれ角は同一である。
前記歯車加工装置は、前記加工用工具の工具刃の研磨前における前記加工物に対する前記加工用工具の相対的な位置又は姿勢である工具状態、及び、前記加工用工具の工具刃の研磨後における前記加工用工具の工具状態を記憶する工具状態記憶部と、前記加工用工具と前記加工物との歯数比に応じて同一方向に同期回転させて、前記加工物の回転軸線及び前記加工用工具の回転軸線の軸間距離を徐々に縮めて加工を行い、前記加工用工具の工具刃の研磨前は、前記工具状態記憶部に記憶された前記研磨前における前記加工用工具の工具状態で前記加工物の加工を行い、前記加工用工具の工具刃の研磨後は、前記工具状態記憶部に記憶された前記研磨後における前記加工用工具の工具状態で前記加工物の加工を行う加工制御部とを備える。
前記工具状態記憶部は、前記工具状態として、前記加工物の回転軸線に対する前記加工用工具の傾斜を表す交差角、及び、前記加工用工具の工具端面と工具軸線との交点が前記加工物の回転軸線からずれているオフセット量を記憶する。前記研磨前における前記工具状態としての前記交差角と前記研磨後における前記工具状態としての前記交差角とは、異なる角度であり、且つ、前記研磨前における前記工具状態としての前記オフセット量と前記研磨後における前記工具状態としての前記オフセット量とは、異なる。前記加工用工具の工具刃の研磨前と研磨後で前記加工物の加工を行う。
【0007】
これにより、研磨前後のそれぞれにおける最適な加工用工具の工具状態を求めることができ、研磨回数が増加しても加工精度を維持できる。よって、加工用工具の長寿命化を図ることができ、高精度且つ低コストな歯車を得ることができる。
【0008】
本発明の歯車加工方法は、加工物の回転軸線に対し傾斜した回転軸線を有する加工用工具を用い、前記加工用工具を前記加工物と同期回転させながら前記加工物の回転軸線方向に相対的に送り操作して歯車を切削加工する歯車加工方法である。
前記加工用工具の工具刃の工具軸線方向の端面は、すくい面であり、前記工具刃の外周面は、前逃げ面であり、前記工具刃において前記端面のみの研磨を行うことにより、前記工具刃の前記端面の研磨前における前記工具刃の端面形状と研磨後における前記工具刃の端面形状は、異なる形状であり、且つ、前記工具刃の前記端面の研磨前後における前記工具刃のねじれ角は同一である。
前記歯車加工方法は、前記加工用工具と前記加工物との歯数比に応じて同一方向に同期回転させて、前記加工物の回転軸線及び前記加工用工具の回転軸線の軸間距離を徐々に縮めて加工を行い、前記加工用工具の工具刃の研磨前は、工具状態記憶部に記憶された前記研磨前における前記加工物に対する前記加工用工具の相対的な位置又は姿勢である工具状態で前記加工物の加工を行い、前記加工用工具の工具刃の研磨後は、前記工具状態記憶部に記憶された前記研磨後における前記加工用工具の工具状態で前記加工物の加工を行い、
前記加工用工具の工具刃の研磨前と研磨後で前記加工物の切削加工を行う。
前記工具状態は、前記加工物の回転軸線に対する前記加工用工具の傾斜を表す交差角、及び、前記加工用工具の工具端面と工具軸線との交点が前記加工物の回転軸線からずれているオフセット量である。前記研磨前における前記工具状態としての前記交差角と前記研磨後における前記工具状態としての前記交差角とは、異なる角度であり、且つ、前記研磨前における前記工具状態としての前記オフセット量と前記研磨後における前記工具状態としての前記オフセット量とは、異なる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本発明の実施の形態に係る歯車加工装置の全体構成を示す斜視図である。
図1B図1Aの歯車加工装置の概略構成及び制御装置を示す図である。
図2図1Bの制御装置の処理を説明するためのフローチャートである。
図3A】加工用工具の概略構成を工具端面側から回転軸線方向に見た図である。
図3B図3Aの加工用工具の概略構成を径方向に見た一部断面図である。
図3C図3Bの加工用工具の工具刃の拡大図である。
図3D図3Cの工具刃のA−A線矢視図及びB−B線矢視断面図である。
図4A】加工用工具の回転軸線の方向の工具位置を変更するときの加工用工具と加工物との位置関係を示す図である。
図4B】軸線方向位置を変更したときの加工状態を示す第一の図である。
図4C】軸線方向位置を変更したときの加工状態を示す第二の図である。
図4D】軸線方向位置を変更したときの加工状態を示す第三の図である。
図5A】加工物の回転軸線に対する加工用工具の回転軸線の傾斜を表す交差角を変更するときの加工用工具と加工物との位置関係を示す図である。
図5B】交差角を変更したときの加工状態を示す第一の図である。
図5C】交差角を変更したときの加工状態を示す第二の図である。
図5D】交差角を変更したときの加工状態を示す第三の図である。
図6A】加工用工具の回転軸線方向位置及び交差角を変更するときの加工用工具と加工物との位置関係を示す図である。
図6B】軸線方向位置及び交差角を変更したときの加工状態を示す第一の図である。
図6C】軸線方向位置及び交差角を変更したときの加工状態を示す第二の図である。
図7A】従来の加工用工具の研磨毎の加工状態を示す図である。
図7B】本実施形態の加工用工具の研磨毎の加工状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(歯車加工装置の機械構成)
本実施形態では、歯車加工装置1の一例として、5軸マシニングセンタを例に挙げ、図1A及び図1Bを参照して説明する。つまり、当該歯車加工装置1は、駆動軸として、相互に直交する3つの直進軸(X,Y,Z軸)及び2つの回転軸(A軸、C軸)を有する装置である。
【0011】
図1A及び図1Bに示すように、歯車加工装置1は、ベッド10と、コラム20と、サドル30と、回転主軸40と、テーブル50と、チルトテーブル60と、ターンテーブル70と、加工物保持具80と、制御装置100等とから構成される。なお、図示省略するが、ベッド10と並んで既知の自動工具交換装置が設けられる。
【0012】
ベッド10は、ほぼ矩形状からなり、床上に配置される。ただし、ベッド10の形状は矩形状に限定されるものではない。このベッド10の上面には、コラム20が摺動可能な一対のX軸ガイドレール11a,11bが、X軸線方向(水平方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成される。さらに、ベッド10には、一対のX軸ガイドレール11a,11bの間に、コラム20をX軸線方向に駆動するための、図略のX軸ボールねじが配置され、このX軸ボールねじを回転駆動するX軸モータ11cが配置される。
【0013】
コラム20の底面には、一対のX軸ガイド溝21a,21bがX軸線方向に延びるように、且つ、相互に平行に形成される。コラム20がベッド10に対してX軸線方向に移動可能となるように、一対のX軸ガイド溝21a,21bが一対のX軸ガイドレール11a,11b上にボールガイド22a,22bを介して嵌め込まれ、コラム20の底面がベッド10の上面に密接される。
【0014】
さらに、コラム20のX軸に平行な側面(摺動面)20aには、サドル30が摺動可能な一対のY軸ガイドレール23a,23bがY軸線方向(鉛直方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成される。さらに、コラム20には、一対のY軸ガイドレール23a,23bの間に、サドル30をY軸線方向に駆動するための、図略のY軸ボールねじが配置され、このY軸ボールねじを回転駆動するY軸モータ23cが配置される。
【0015】
コラム20の摺動面20aに対向するサドル30の側面30aには、一対のY軸ガイド溝31a,31bがY軸線方向に延びるように、且つ、相互に平行に形成される。サドル30がコラム20に対してY軸線方向に移動可能となるように、一対のY軸ガイド溝31a,31bが一対のY軸ガイドレール23a,23bに嵌め込まれ、サドル30の側面30aがコラム20の摺動面20aに密接される。
【0016】
回転主軸40は、サドル30内に収容された主軸モータ41により回転可能に設けられ、加工用工具42を支持する。加工用工具42は、工具ホルダ43に保持されて回転主軸40の先端に固定され、回転主軸40の回転に伴って回転する。また、加工用工具42は、コラム20及びサドル30の移動に伴ってベッド10に対してX軸線方向及びY軸線方向に移動する。なお、加工用工具42の詳細は後述する。
【0017】
さらに、ベッド10の上面には、テーブル50が摺動可能な一対のZ軸ガイドレール12a,12bがX軸線方向と直交するZ軸線方向(水平方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成される。さらに、ベッド10には、一対のZ軸ガイドレール12a,12bの間に、テーブル50をZ軸線方向に駆動するための、図略のZ軸ボールねじが配置され、このZ軸ボールねじを回転駆動するZ軸モータ12cが配置される。
【0018】
テーブル50は、ベッド10に対してZ軸線方向に移動可能なように、一対のZ軸ガイドレール12a,12b上に設けられる。テーブル50の上面には、チルトテーブル60を支持するチルトテーブル支持部63が設けられる。そして、チルトテーブル支持部63には、チルトテーブル60が水平方向のA軸回りで回転(揺動)可能に設けられる。チルトテーブル60は、テーブル50内に収容されたA軸モータ61により回転(揺動)される。
【0019】
チルトテーブル60には、ターンテーブル70がA軸に直角なC軸回りで回転可能に設けられる。ターンテーブル70には、加工物Wを保持する加工物保持具80が装着される。ターンテーブル70は、加工物W及び加工物保持具80とともにC軸モータ62により回転される。
【0020】
制御装置100は、工具状態演算部101と、工具状態記憶部103と、加工制御部102等とを備える。ここで、工具状態演算部101及び加工制御部102は、それぞれ個別のハードウエアにより構成することもできるし、ソフトウエアによりそれぞれ実現する構成とすることもできる。
【0021】
工具状態演算部101は、詳細は後述するが、摩耗した加工用工具42の工具刃42a(図3A等参照)の研磨状態に基づいて、加工物Wに対する加工用工具42の相対的な位置又は姿勢である工具状態を演算する。すなわち、工具状態演算部101は、工具刃42aの研磨前の工具状態、研磨の都度に研磨後の工具状態をそれぞれ演算する。
工具状態記憶部103は、工具状態演算部101により演算された工具状態を記憶する。すなわち、工具状態記憶部103は、工具状態演算部101により演算された、研磨前の加工用工具42の工具状態、及び、研磨の都度に研磨後の加工用工具42の工具状態をそれぞれ記憶する。
【0022】
加工制御部102は、主軸モータ41を制御して、加工用工具42を回転させ、X軸モータ11c、Z軸モータ12c、Y軸モータ23c、A軸モータ61及びC軸モータ62を制御して、加工物Wと加工用工具42とをX軸線方向、Z軸線方向、Y軸線方向、A軸回り及びC軸回りに相対移動することにより、加工物Wの切削加工を行う。すなわち、加工制御部102は、円筒状の加工物Wの外周面にはすば歯車を加工する場合、工具状態記憶部103に記憶された加工用工具42の工具状態を保ったまま、加工用工具42と加工物Wとを歯数比に応じて同一方向に同期回転させる。そして、加工用工具42を加工物Wの回転軸線C(図4A等に示すLw)方向に送りつつ、当該回転軸線C方向の送りにつれてはすば歯車のねじれ角に応じて回転させつつ、加工物Wの回転軸線Lw及び加工用工具42の工具端面42Aの回転軸線L(図4A等参照、以下、工具軸線Lという)の軸間距離を徐々に縮めて加工物Wの加工をそれぞれ行う。この加工物Wの切削加工は、加工用工具42の工具刃42aの研磨前は、工具状態記憶部103に記憶された研磨前における加工物Wに対する加工用工具42の工具状態で行い、加工用工具42の工具刃42aの研磨後は、工具状態記憶部103に記憶された研磨後における加工用工具42の工具状態で行う。なお、円筒状の加工物Wの内周面にはすば歯車を加工する場合も同様である。
【0023】
(加工用工具)
上述の歯車加工装置1では、加工用工具42と加工物Wとを高速で同期回転させ、加工用工具42を加工物Wの回転軸線方向に送って切削加工することにより歯を創成する。図3Aに示すように、加工用工具42を工具端面42A側から工具軸線L方向に見たときの工具刃42aの形状は、加工される歯車と噛み合う歯の形状、本例ではインボリュート曲線形状と同一形状に形成される。そして、図3Bに示すように、加工用工具42の工具刃42aには、工具端面42A側に工具軸線Lと直角な平面に対し角度α傾斜したすくい角が設けられ、工具周面42B側に工具軸線Lと平行な直線に対し角度β傾斜した前逃げ角が設けられる。さらに、図3Cに示すように、工具刃42aの側面側に工具軸線Lと平行な直線に対し角度γ傾斜した側逃げ角が設けられる。つまり、工具刃42aの歯幅は、加工用工具42の基端側ほど小さい。
【0024】
すなわち、図3Dに示すように、加工用工具42の工具刃42aを工具端面42A側から工具軸線L方向に見た図示実線で示す工具端面形状(図3CのA−A線矢視形状)は、加工用工具42の工具刃42aを例えば工具端面42Aから工具軸線L方向にhの位置での工具軸線L方向に直角な方向の図示一点鎖線で示す断面形状(図3CのB−B線矢視形状)と比較すると、インボリュート曲線形状及び歯丈Hは一定となるように形成され、刃先幅Wea,Web及び刃底幅Wba,Wbbは変化するように形成される。
【0025】
このような加工用工具42の設計は、以下の手順で行われる。先ず、加工される歯車の歯の捩れ角と、加工する加工用工具42の工具刃42aの捩れ角との差で表される交差角、すなわち加工物Wの回転軸線Lwに対する加工用工具42の工具軸線Lの傾斜を表す交差角(以下、加工用工具42の交差角という)を決定する。そして、工具刃42aの刃数及び加工用工具42の直径を決定する。最後に、工具刃42aの前逃げ角β及び側逃げ角γを決定する。
【0026】
このような加工用工具42の工具刃42aの刃先が摩耗した場合は、摩耗した刃先42aを研磨して再利用する。しかし、加工用工具42は前逃げ角βを有することにより、研磨前における加工用工具42の工具刃42aの端面形状は、研磨後における加工用工具42の工具刃42aの端面形状と異なる形状となる。すなわち、加工用工具42の工具刃42aは、図3Dに示すように、加工用工具42の工具刃42aの研磨量が所定量hに達すると、加工用工具42の工具刃42aの刃先幅Webが研磨前の刃先幅Weaと比べて大きくなるため、加工物Wの加工精度が低下する。
【0027】
そこで、制御装置100は、加工用工具42の工具刃42aの研磨状態に応じた加工用工具42の工具状態で加工物Wの加工を行う。具体的な工具状態の変更方法としては、加工用工具42の回転軸線Lの方向の工具位置(以下、加工用工具42の軸線方向位置という)の変更、加工用工具42の工具軸線L回りの方向の工具位置(以下、加工用工具42の軸線回り方向位置という)の変更、加工用工具42の交差角の変更、もしくはこれらの組み合わせがある。これにより、加工物Wは、高精度に加工される。
【0028】
加工用工具42の軸線方向位置の変更として、例えば、図4Aに示すように、加工用工具42の工具端面42Aと工具軸線Lとの交点Pが、加工物Wの回転軸線Lw上に位置する場合(オフセット量0)、加工用工具42の工具軸線L方向に距離+dだけオフセットした場合(オフセット量+d)、及び加工用工具42の工具軸線L方向に距離−dだけオフセットした場合(オフセット量−d)で加工物Wを加工した。その結果、加工物Wの加工状態は、図4B図4C図4Dに示すようになった。なお、図中、太い実線Eは、設計上の歯車の歯gのインボリュート曲線を直線に変換して表したもので、ドット部分Dは、加工物Wの切削除去部分を表す。
【0029】
図4Bに示すように、オフセット量0では、加工された歯車の歯は、設計上のインボリュート曲線に近い形状で加工される。一方、図4Cに示すように、オフセット量+dでは、加工された歯車の歯は、設計上のインボリュート曲線に対し、図示右方向(点線矢印方向)、すなわち時計回りのピッチ円方向にずれた形状で加工され、図4Dに示すように、オフセット量−dでは、加工された歯車の歯は、設計上のインボリュート曲線に対し、図示左方向(点線矢印方向)、すなわち反時計回りのピッチ円方向にずれた形状で加工される。よって、歯車の歯の形状は、加工用工具42の工具軸線L方向位置を変更することにより、ピッチ円方向にずらすことができる。
【0030】
また、加工用工具42の交差角の変更として、例えば、図5Aに示すように、角度θa、θb、θcで加工物Wを加工した。なお、各角度の大小関係は、θa>θb>θcである。その結果、加工物Wの加工状態は、図5B図5C図5Dに示すようになった。
【0031】
図5Bに示すように、交差角θaでは、加工された歯車の歯は、設計上のインボリュート曲線に近い形状で加工される。一方、図5Cに示すように、交差角θbでは、加工された歯車の歯は、設計上のインボリュート曲線に対し、歯先の幅がピッチ円方向(実線矢印方向)に狭まり、歯元の幅がピッチ円方向(実線矢印方向)に拡がった形状で加工され、図5Dに示すように、交差角θcでは、加工された歯車の歯は、設計上のインボリュート曲線に対し、歯先の幅がピッチ円方向(実線矢印方向)にさらに狭まり、歯元の幅がピッチ円方向(実線矢印方向)にさらに拡がった形状で加工される。よって、歯車の歯の形状は、加工用工具42の交差角を変更することにより、歯先のピッチ円方向の幅及び歯元のピッチ円方向の幅を変更できる。
【0032】
また、加工用工具42の軸線方向位置、及び加工用工具42の交差角の変更として、例えば、図6Aに示すように、加工用工具42の工具端面42Aと工具軸線Lとの交点Pが、加工物Wの回転軸線Lw上に位置し(オフセット量0)、且つ交差角θaの場合、及び加工用工具42の工具軸線L方向に距離+dだけオフセットし(オフセット量+d)、且つ交差角θbの場合で加工物Wを加工した。その結果、加工物Wの加工状態は、図6B図6Cに示すようになった。
【0033】
図6Bに示すように、オフセット量0且つ交差角θaでは、加工された歯車の歯は、設計上のインボリュート曲線に近い形状で加工される。一方、図6Cに示すように、オフセット量+d且つ交差角θbでは、加工された歯車の歯は、設計上のインボリュート曲線に対し、図示右方向(点線矢印方向)、すなわち時計回りのピッチ円方向にずれ、且つ歯先の幅がピッチ円方向(実線矢印方向)に狭まり、歯元の幅がピッチ円方向(実線矢印方向)に拡がった形状で加工される。よって、歯車の歯の形状は、加工用工具42の軸線方向位置、及び加工用工具42の交差角を変更することにより、ピッチ円方向にずらし、歯先の周方向の幅及び歯元のピッチ円方向の幅を変更できる。
【0034】
(制御装置の工具状態演算部による処理)
次に、工具刃42aを研磨したとき、最適な加工用工具42の工具状態として交差角を求めるときの制御装置100のシミュレーション処理について、図2を参照して説明する。このシミュレーションは、公知の歯車の創成理論に基づいて、工具刃42aの軌跡を演算している。すなわち、このシミュレーションは、加工物Wの回転軸線Lwに対し傾斜した工具軸線Lを有する加工用工具42を用い、加工用工具42を加工物Wと同期回転させながら加工物Wの回転軸線Lw方向に相対的に送り操作して歯車の歯を加工する動作に相当する。
【0035】
制御装置100の工具状態演算部101は、研磨後であるか否かを判断する(図2のステップS1)。研磨後でなければ、工具状態演算部101は、予め設計して記憶している研磨前の加工用工具42の形状を読み出す(図2のステップS2)。一方、研磨後であれば、工具状態演算部101は、研磨後の加工用工具42の形状を研磨設定量に合わせて算出する(図2のステップS3)。
【0036】
そして、工具状態演算部101は、研磨状態に応じて、加工用工具42の交差角を含む工具状態を読み出す(図2のステップS4)。ここで読み出される工具状態は、研磨前においては、予め記憶している交差角を含む工具状態とし、研磨後においては、例えば、当該研磨直前に選択されていた交差角を含む工具状態とする。そして、工具状態演算部101は、シミュレーション回数nとして1回目であることを記憶し(図2のステップS5)、読み出された加工用工具42の工具状態を加工用工具42の初期の工具状態として設定する(図2のステップS6)。
【0037】
そして、工具状態演算部101は、研磨前又は研磨後の加工用工具42の形状に基づいて、加工物Wを加工するときの工具軌跡を算出し(図2のステップS7)、加工後の歯車の歯の形状を算出する(図2のステップS8)。そして、工具状態演算部101は、算出した加工後の歯車の歯の形状と、設計上の歯車の歯の形状とを比較し、形状誤差を算出して記憶し(図2のステップS9)、シミュレーション回数nに1を加算する(図2のステップS10)。
【0038】
そして、工具状態演算部101は、シミュレーション回数nが予め設定した回数nnに達したか否かを判断し(図2のステップS11)、シミュレーション回数nが設定回数nnに達していないときは、加工用工具42の交差角を変更し(図2のステップS12)、ステップS7に戻って上述の処理を繰り返す。一方、工具状態演算部101は、シミュレーション回数nが設定回数nnに達したときは、記憶した形状誤差のうち最小の誤差となる交差角を選択する(図2のステップS13)。以上の処理により、工具刃42aを研磨前又は研磨後のそれぞれの最適な加工用工具42の交差角を含む工具状態を求めることができる。そして、工具状態演算部101は、加工用工具42の工具状態を工具状態記憶部103に記憶する。
【0039】
なお、ステップS12においては、加工用工具42の交差角を変更する代わりに、加工用工具42の軸線方向位置を変更し、もしくは加工用工具42の軸線回り方向位置を変更し、又は、交差角、軸線方向位置、軸線回り方向位置の任意の組み合わせを変更するようにしてもよい。また、上述の処理では、複数回のシミュレーションを行って最小の誤差となる交差角を選択するようにしたが、予め許容形状誤差を設定しておき、ステップS9において算出した形状誤差が許容形状誤差以下となったときの交差角を選択してもよい。
【0040】
(シミュレーション処理による効果)
上述のシミュレーション処理は、工具刃42aを研磨する度に行う。これにより、研磨毎の最適な加工用工具42の工具状態を求めることができ、研磨回数が増加しても加工精度を維持できる。例えば、図7A図7Bは、図5と同様に、図中の太い実線Eは、設計上の歯車の歯gのインボリュート曲線を直線に変換して表したもので、ドット部分Dは、加工物Wの切削除去部分を表す。図7Aに示すように、従来は、研磨回数が4回までは、加工後の歯車の歯gの形状は、設計上の歯車の歯の形状に対し形状誤差は許容範囲内であるため、加工用工具42の使用は可能である。そして、研磨回数が5回以上になると、加工後の歯車gの歯の形状は、設計上の歯車の歯の形状に対し形状誤差が許容範囲を超えるので、加工用工具42の使用は不可となる。しかし、図7Bに示すように、本実施形態では、研磨回数が6回になっても、加工後の歯車gの歯の形状は、設計上の歯車の歯の形状に対し形状誤差は許容範囲内であるため、加工用工具42の使用は可能であり、加工用工具42の長寿命化を図ることができる。よって、高精度且つ低コストな歯車を得ることができる。
【0041】
また、工具状態演算部101は、工具状態として、加工用工具42の回転軸線L方向位置、加工用工具42の回転軸線L回り方向位置、及び加工用工具42の交差角の少なくとも一つ、又はこれらの組み合わせを演算するので、高精度な歯車を得ることができる。また、工具状態演算部101は、工具状態をシミュレーションによって演算するので、実加工は不要であり、低コストな歯車を得ることができる。
【0042】
(その他)
上述した実施形態では、加工用工具42として、捩れ角の無い工具を例に説明したが、捩れ角を有する工具であっても同様に適用可能である。また、5軸マシニングセンタである歯車加工装置1は、加工物WをA軸旋回可能とするものとした。これに対して、5軸マシニングセンタは、縦形マシニングセンタとして、加工用工具42をA軸旋回可能とする構成としてもよい。また、本発明をマシニングセンタに適用する場合を説明したが、歯車加工の専用機に対しても同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1:歯車加工装置、 42:加工用工具、 42a:工具刃、 100:制御装置、 101:工具状態演算部、 102:加工制御部、 103:工具状態記憶部、 W:加工物
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B