特許第6871679号(P6871679)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871679
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】遺伝子発現用カセット及びその産生物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/85 20060101AFI20210426BHJP
   C12N 15/67 20060101ALI20210426BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20210426BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C12N15/85 ZZNA
   C12N15/67 Z
   C12P21/02 C
   C12P21/08
【請求項の数】6
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-59297(P2016-59297)
(22)【出願日】2016年3月23日
(65)【公開番号】特開2017-169486(P2017-169486A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100152319
【弁理士】
【氏名又は名称】曽我 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】阪口 政清
(72)【発明者】
【氏名】西堀 正洋
(72)【発明者】
【氏名】村田 等
(72)【発明者】
【氏名】山本 健一
(72)【発明者】
【氏名】木下 理恵
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/118619(WO,A2)
【文献】 国際公開第2011/062298(WO,A1)
【文献】 特表2004−524805(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/081628(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/118360(WO,A1)
【文献】 特開2012−005394(JP,A)
【文献】 特開2017−070224(JP,A)
【文献】 Araki, Y. et al.,"Efficient recombinant production in mammalian cells using a novel IR/MAR gene amplification method",PLoS One,2012年,Vol. 7; e41787,pp. 1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12P 1/00−41/00
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)が、プロモーター(P)とエンハンサー(P')で挟まれる構造を有する遺伝子発現用カセットの作製方法において、目的遺伝子が、HRG、PD-1、EMMPRIN、NPTNβ、EMB、RAGE、MCAM、ALCAM、ErbB2及び抗体のいずれかから選択されるタンパク質の部分又は全体をコードする遺伝子を含み、プロモーター(P)の上流及びエンハンサー(P')の下流にトランスポゾン配列(T)を配置する工程を含み、さらにプロモーター(P)の上流及び/又はエンハンサー(P')の下流に、核マトリックス結合配列(M)及び複製開始配列(S)を配置する工程を含むことを特徴とし、
前記(P)がCMVプロモーターであり、(P')がhTERTエンハンサー、CMVエンハンサー及びSV40エンハンサーから選択されるいずれか1種又は複数種を含み、
前記(P)、(M)及び(S)で特定される各塩基配列が、5'→3'の順で配置されており、
前記(P)、(X)、(P')、(T)、(M)及び(S)より選択されるいずれかが、以下の1)〜3)のいずれかに示す順序で連結して遺伝子発現用カセットに配置する工程を含む、遺伝子発現用カセットの作製方法
1)(T)、(P)、(X)、(P')、(M)、(S)、(T)
2)(T)、(M)、(S)、(P)、(X)、(P')、(T)
3)(T)、(M)、(S)、(P)、(X)、(P')、(M)、(S)、(T)
【請求項2】
複製開始配列(S)が、ROIS及び/又はARSである請求項に記載の遺伝子発現用カセットの作製方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の作製方法で作製された遺伝子発現用カセットを導入する工程を含む、遺伝子発現用プラスミドの作製方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の作製方法で作製された遺伝子発現用カセットを導入する工程を含む、遺伝子発現用ベクターの作製方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の作製方法で作製された遺伝子発現用カセットを用いて目的遺伝子を発現させる方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の作製方法で作製された遺伝子発現用カセットを用いることを特徴とするHRG、PD-1、EMMPRIN、NPTNβ、EMB、RAGE、MCAM、ALCAM、ErbB2及び抗体のいずれかから選択されるタンパク質の産生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えタンパク質を大量かつ安定的に産生しうる遺伝子発現用カセットに関し、さらには当該遺伝子発現用カセットを用いた遺伝子の発現方法及びその産生物に関する。具体的には、プロモーター、エンハンサー等を含む遺伝子発現用カセットに関し、さらには当該プロモーター、エンハンサー等を用いて遺伝子の発現を上昇させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子発現効率を上昇させるために、CMVプロモーターやCAGプロモーターなど様々な遺伝子発現プロモーターが開発されている(特許文献1〜3)。本発明者らが開発したプロモーター、エンハンサーなどの組み合わせを最適化し、大半の哺乳細胞で遺伝子の発現を上昇させるシステムもその1つである(特許文献4、非特許文献1、2を参照)。
【0003】
より高い効率で遺伝子を発現させることができるシステムの開発を試み、様々な遺伝子のプロモーターやエンハンサーの組み合わせによるプロモーター活性の比較、検討を行うことにより、プロモーターの下流に発現させようとする遺伝子(以下、「目的遺伝子」ともいう。)及びポリA付加配列を含むDNA構築物の下流にエンハンサー又は第2のプロモーターが連結した、遺伝子の発現用カセットを用いることで、遺伝子を高効率で発現させ得ることが本発明者らにより見いだされ、報告されている(特許文献4、非特許文献1、2を参照)。しかしこのベクターは、細胞の一過性発現に有効なベクターであり、現在、医薬品生産の現場で求められる目的タンパク質を安定かつ高産生する哺乳動物細胞を作製するためには、さらにベクターを改良する必要があった。
【0004】
一般的に、遺伝子組換えの手法による目的タンパク質を安定かつ高産生させる細胞を取得するためには、宿主細胞内の染色体に目的遺伝子を組み込み、遺伝子増幅を利用し、目的遺伝子が多コピー組み込まれた細胞を構築する。その方法として最も頻繁に用いられているのが、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)欠損株CHO-DG44細胞を用いた方法である。具体的には、目的遺伝子及びDHFR遺伝子を含むベクターを細胞に導入し、目的遺伝子が多コピー組み込まれた細胞を取得する(非特許文献3、4を参照)。しかしながら、係るDHFR欠損細胞を用いた方法は、DHFR阻害剤であるmethotrexate(MTX)の濃度を段階的に増加させながら培養する必要があり、高濃度のMTX耐性のクローンを選択することによりクローンの取得に時間がかかり、他の細胞への汎用性が低いなどの問題点がある。
【0005】
上述したごとく、遺伝子発現効率を上昇させるための技術は、様々なプロモーターの開発などにより、改良が進められている。しかし哺乳動物細胞におけるタンパク質の産生系は、大腸菌や酵母など他の宿主と比較して十分なタンパク質を得ることが難しい。バイオテクノロジーの分野では、これらの従来技術を用いても、細胞の種類や遺伝子の種類によって、遺伝子発現がほとんど起こらない、又は発現タンパク質量が極めて少ないといった問題が日常的に発生している。また、この問題は、遺伝子発現を診断や治療に用いる医療の発展において、大きな障壁となっている。
【0006】
例えば、HRG(Histidine-rich glycoprotein)は、1972年にHeimburger et al (1972)によって同定された分子量約80 kDaの血漿タンパク質である。合計507個のアミノ酸より構成され、そのうちヒスチジンが66存在する高ヒスチジン含有タンパク質であり、主として肝臓で合成され、約100〜150μg/mLという非常に高いと考えられる濃度でヒト血漿中に存在する。しかしながら、HRGの臨床的意義を検討するために、遺伝子組換え技術によって充分量のHRGを産生する方法が望まれていた。
【0007】
また、PD-1(Programmed cell death 1)、EMMPRIN(extracellular matrix metalloproteinase inducer)、NPTNβ(neuroplastinβ)、EMB(embigin)、RAGE(receptor for advanced glycation end products)、MCAM(melanoma cell adhesion molecule)、ALCAM(activated leukocyte cell adhesion molecule)、ErbB2(Receptor tyrosine-protein kinase erbB-2)などのタンパク質は、免疫細胞を抑制したり腫瘍細胞に発現したりすることが知られており、これらのタンパク質は医療分野の研究開発や、医薬、医薬品、診断薬若しくは試薬に用い得るタンパク質の候補として重要と考えられる。これらのタンパク質について、遺伝子組換え技術によって充分量の各タンパク質を産生する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2814433号公報
【特許文献2】米国特許第5168062号公報
【特許文献3】米国特許第5385839号公報
【特許文献4】国際公開第2011/062298号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Sakaguchi M. et al., Mol Biotechnol. 56(7), 621-30 (2014)
【非特許文献2】Watanabe M. et al., Oncol Rep. 31(3), 1089-95 (2014)
【非特許文献3】Chasin LA. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 77(7), 4216-20 (1980)
【非特許文献4】Kaufman RJ. et al., Mol Cell Biol. 3(4), 699-711 (1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、目的タンパク質を安定かつ高産生するための遺伝子発現用カセットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)が、プロモーター(P)とエンハンサー(P')で挟まれる構造を有する遺伝子発現用カセットに、さらにプロモーター(P)の上流とエンハンサー(P')の下流に、各々トランスポゾン配列(T)を含む遺伝子発現用カセットを用いることで目的タンパク質を安定かつ高産生できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)が、プロモーター(P)とエンハンサー(P')で挟まれる構造を有する遺伝子発現用カセットにおいて、さらにプロモーター(P)の上流及びエンハンサー(P')の下流にトランスポゾン配列(T)を含むことを特徴とする、遺伝子発現用カセット。
2.さらに、プロモーター(P)の上流及び/又はエンハンサー(P')の下流に、複製開始配列(S)が配置されていることを特徴とする、前項1に記載の遺伝子発現用カセット。
3.プロモーター(P)、目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)、エンハンサー(P')及びトランスポゾン配列(T)が含まれ、更に選択的に複製開始配列(S)を含む遺伝子発現用カセットが、以下の1)〜4)のいずれかに示す順序で含まれる、前項1又は2に記載の遺伝子発現用カセット:
1)(T)、(P)、(X)、(P')、(T);
2)(T)、(S)、(P)、(X)、(P')、(T);
3)(T)、(P)、(X)、(P')、(S)、(T);
4)(T)、(S)、(P)、(X)、(P')、(S)、(T)。
4.複製開始配列(S)の上流に核マトリックス結合配列(M)が配置されていることを特徴とする前項2又は3に記載の遺伝子発現用カセット。
5.トランスポゾン配列(T)、プロモーター(P)、目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)、エンハンサー(P')、核マトリックス結合配列(M)、複製開始配列(S)及びトランスポゾン配列(T)を含む、遺伝子発現用カセット。
6.配列(S)が、ROIS及び/又はARSである前項2〜5のいずれかに記載の遺伝子発現用カセット。
7.プロモーター(P)が、CMVプロモーター、CMV-iプロモーター、SV40プロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター及びCAGプロモーターからなる群から選択されるプロモーターである、前項1〜6のいずれかに記載の遺伝子発現用カセット。
8.目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)の下流に連結したエンハンサー(P')が、hTERTエンハンサー、CMVエンハンサー及びSV40エンハンサーから選択されるいずれか1種又は複数種を含む、前項1〜7のいずれかに記載の遺伝子発現用カセット。
9.目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)において、目的遺伝子が、HRG、PD-1、EMMPRIN、NPTNβ、EMB、RAGE、MCAM、ALCAM、ErbB2及び抗体のいずれかから選択されるタンパク質の部分又は全体をコードする遺伝子を含む、前項1〜8のいずれかに記載の遺伝子発現用カセット。
10.前項1〜9のいずれかに記載の遺伝子発現用カセットを含む、遺伝子発現用プラスミド。
11.前項1〜9のいずれかに記載の遺伝子発現用カセットを含む、遺伝子発現用ベクター。
12.前項1〜9のいずれかに記載の発現用カセットを用いて目的遺伝子を発現させる方法。
13.前項1〜9のいずれかに記載の遺伝子発現用カセットを用いて産生されたタンパク質。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、一過性発現に適した遺伝子発現用カセット(例えば、特許文献4に示すpCMViR-TSCベクター)をトランスポゾン配列(T)で挟むことにより、染色体に高効率に高コピー数の遺伝子発現用カセットを挿入することを可能にする。さらに複製開始配列(S)、核マトリックス結合配列(M) を遺伝子発現用カセットの上流又は下流、もしくは上流と下流に連結させることにより、遺伝子発現用カセットのコピー数を高効率に増幅させることが可能となる。具体的には、プロモーター(P)の上流にトランスポゾン配列(T)、プロモーター(P)の下流に目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)の下流にエンハンサー(P')、さらにその下流に「核マトリックス結合配列(M)、複製開始配列(S)、トランスポゾン配列(T)を連結させることにより、目的タンパク質を安定かつ高産生する細胞が得られる。本発明の新規な遺伝子発現用ベクターは、薬剤選択後の安定発現細胞株にも関わらず、従来の遺伝子発現用ベクターと比較して数倍から数十倍の高産生を達成したpCMViR-TSCベクターの一過性発現量を更に凌駕する発現量を達成した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A):一過性発現において、最も高効率にタンパク質を産生可能な発現ベクターpCMViR-TSCのコンストラクトの構造を示す図である。IDT社のプロモーターのないクローニング用プラスミドベクター(pIDT-SMART)に、一過性発現用の遺伝子発現用カセットを挿入した遺伝子発現用プラスミドベクターを示す図である。(B):(A)のpIDT-SMARTをバックボーンに構築した本発明の遺伝子発現用プラスミドベクターの一例を示す図である。(実施例1)
図2】実施例にて具体的に構築したNo.1〜10の各種遺伝子発現用カセットの構成を示す概念図である。(実施例1、2)
図3】プロモーター(P)の上流の5'側TP(5'TP)の塩基配列(配列番号1)及び5'側TP領域の全配列(配列番号2)を示す図である。(実施例1)
図4】エンハンサー(P')の下流の3'側TP(3'TP)の塩基配列(配列番号3)及び、3'側TP領域の全配列(配列番号4)を示す図である。(実施例1)
図5-1】No.4遺伝子発現ベクターの全塩基配列の一部(配列番号8の一部)を示す図である。(実施例2)
図5-2】No.4遺伝子発現ベクターの全塩基配列の一部(配列番号8の一部、図5−1の続き)を示す図である。(実施例2)
図5-3】No.4遺伝子発現ベクターの全塩基配列の一部(配列番号8の一部、図5−2の続き)を示す図である。(実施例2)
図6-1】No.1遺伝子発現ベクターの全塩基配列の一部(配列番号9の一部)を示す図である。(実施例2)
図6-2】No.1遺伝子発現ベクターの全塩基配列の一部(配列番号9の一部、図6−1の続き)を示す図である。(実施例2)
図7】No.1〜10の各遺伝子発現ベクター及びコントロールを導入したCHO細胞について、各細胞のGFP蛍光強度を測定した結果を示す図である。(実施例2)
図8】No.1〜10の各遺伝子発現ベクター及びコントロールを導入したHEK293T細胞について、各細胞のGFP蛍光強度を測定した結果を示す図である。(実施例2)
図9】No.1〜10の各遺伝子発現ベクターを導入したCHO細胞について、各細胞のGFP蛍光強度を、タンパク質定量値により補正した結果を示す図である。(実施例2)
図10】No.1〜10の各遺伝子発現ベクターを導入したHEK293T細胞について、各細胞のGFP蛍光強度を、タンパク質定量値により補正した結果を示す図である。(実施例2)
図11】HRGを作製するためのHRG搭載コンストラクト(No.4-HRG)の構造を示す図である。(実施例3)
図12】No.4-HRG遺伝子発現用カセットを含むベクターを用いて作製したHRGについて、好中球の培養系にHRGを加えたときに好中球の形態に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(実験例3−1)
図13】No.4-HRG遺伝子発現用カセットを含むベクターを用いて作製したHRGについて、CLP敗血症モデルマウスの生存率に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(実験例3−2)
図14】No.4-HRG遺伝子発現用カセットを含むベクターを用いて作製したHRGについて、活性酸素分子種の産生抑制活性に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(実験例3−3)
図15】ヒトIgG2 Fc領域のアミノ酸配列を示す図である。(実施例4)
図16】PD-1の細胞外ドメインの全塩基配列を示す図である。(実施例4)
図17】EMMPRINの細胞外ドメインの全塩基配列を示す図である。(実施例5)
図18】NPTNβの細胞外ドメインの全塩基配列を示す図である。(実施例6)
図19】EMBの細胞外ドメインの全塩基配列を示す図である。(実施例7)
図20】RAGEの細胞外ドメインの全塩基配列を示す図である。(実施例8)
図21】MCAMの細胞外ドメインの全塩基配列を示す図である。(実施例9)
図22】ALCAMの細胞外ドメインの全塩基配列を示す図である。(実施例10)
図23】ErbB2の細胞外ドメインの全塩基配列を示す図である。(実施例11)
図24】HRGの全塩基配列を示す図である。(実施例12)
図25】実施例4〜12で得られた各Fc融合タンパク質のSDS-PAGE結果を示す図である。(実験例)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において「遺伝子発現用カセット」とは、目的タンパク質を遺伝子組換え操作によって発現可能とするためのDNAのセットをいい、より具体的には、目的タンパク質をコードする遺伝子(目的遺伝子)を含み、さらに当該遺伝子を発現可能とするための各種DNA配列を含むDNAのセットをいう。本明細書において「目的タンパク質」とは、発現及び/又は産生させようとするタンパク質を意味する。
【0016】
本明細書において「遺伝子発現用カセット」には、少なくとも「プロモーター(P)」、「目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)」及び「エンハンサー(P’)」の機能を有する各DNAを含み、さらに「トランスポゾン配列(T)」を含むことを特徴とする。さらに、「複製開始配列(S)」や「核マトリックス結合配列(M)」を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の「遺伝子発現用カセット」は、目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)が、少なくともプロモーター(P)とエンハンサー(P')で挟まれる構造を有し、さらにプロモーター(P」の上流、及びエンハンサー(P')の下流にトランスポゾン配列(T)を含むことを特徴とする。さらに、プロモーター(P)の上流、及び/又はエンハンサー(P')の下流に、核マトリックス結合配列(M)と複製開始配列(S)が配置されていてもよい。
【0018】
本発明は、一過性発現に適した遺伝子発現用カセット(例えば、特許文献4に示すpCMViR-TSCベクター)をトランスポゾン配列(T)で挟むことにより、染色体に高効率に高コピー数の遺伝子発現用カセットを挿入することを可能にする。さらに複製開始配列(S)、核マトリックス結合配列(M)を遺伝子発現用カセットの上流又は下流、或いは上流と下流に連結させることにより、遺伝子発現用カセットのコピー数を高効率に増幅させることが可能となる。具体的には、プロモーター(P)の上流にトランスポゾン配列(T)、プロモーター(P)の下流に目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)、その下流にエンハンサー(P')、さらにその下流に核マトリックス結合配列(M)、複製開始配列(S)、トランスポゾン配列(T)を連結させることにより、目的タンパク質を安定かつ高産生する細胞が得られる。
【0019】
本発明の「遺伝子発現用カセット」は、プロモーターを(P)、目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物を(X)、エンハンサーを(P')及びトランスポゾン配列を(T)、複製開始配列を(S)としたときに、少なくとも以下の1)〜4)のいずれかに示す順序で構成される。ここにおいて、トランスポゾン配列(T)には、トランスポゾンを特定する配列を2回以上連結したものが含まれていてもよい。
1)(T)、(P)、(X)、(P')、(T);
2)(T)、(S)、(P)、(X)、(P')、(T);
3)(T)、(P)、(X)、(P')、(S)、(T);
4)(T)、(S)、(P)、(X)、(P')、(S)、(T)。
【0020】
本明細書において、「目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)」のうち、目的遺伝子は、目的タンパク質をコードする遺伝子(DNA)を含み、ホスト細胞と由来が異なる遺伝子であってもよいし、由来が同じ遺伝子であってもよい。また、発現遺伝子の検出や疾患の診断のためにレポーター遺伝子が含まれていてもよい。ポリA付加配列(ポリアデニル化配列、polyA)は自体公知の配列を適用することができ、その由来は限定されず、成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列、例えばウシ成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列やヒト成長ホルモン遺伝子由来ポリA付加配列、SV40ウイルス由来ポリA付加配列、ヒトやウサギのβグロビン遺伝子由来のポリA付加配列等が挙げられる。ポリA付加配列を遺伝子発現用カセットに含ませることにより、転写効率が増大する。
【0021】
本明細書において、目的遺伝子の種類は限定されず、遺伝子組換え技術により産生させようとする目的タンパク質をコードするDNAや、特定の疾患の治療に用いるために生体内で発現させようとする目的タンパク質をコードするDNAを用いることができる。本明細書に示す目的タンパク質として、医療分野の研究開発のためや、医薬、医薬品、診断薬若しくは試薬に用い得るタンパク質が挙げられる。係るタンパク質は自体公知のタンパク質又は今後見出されるタンパク質であってもよい。タンパク質は、全体であってもよいし、部分であってもよい。さらに、複合体からなるタンパク質であってもよい。タンパク質の例として、例えばHRG(ヒスチジンリッチ糖タンパク質)、PD-1(Programmed cell death 1)、EMMPRIN(extracellular matrix metalloproteinase inducer)、NPTNβ(neuroplastinβ)、EMB(embigin)、RAGE(receptor for advanced glycation end products)、MCAM(melanoma cell adhesion molecule)、ALCAM(activated leukocyte cell adhesion molecule)、ErbB2(Receptor tyrosine-protein kinase erbB-2)や抗体が挙げられる。さらに後述するように、目的タンパク質は、タンパク質と抗体のFc領域とを融合させたFc融合タンパク質(Fc fusion protein)等であってもよい。
【0022】
例えばHRGをコードする全長cDNA、又はHRGの活性を有する部分をコードするcDNA、例えば、成熟HRGのアミノ酸配列(配列番号10)をコードする全長cDNA、又は部分をコードするcDNAを、発現ベクターにクローニングし、HRGを調製することができる。例えば、GenBank Accession No.NM000412で特定されるヌクレオチドの全体又は部分から、遺伝子組換え技術を用いて調製することもできる。本発明の有効成分としてのHRGは、成熟HRGの全体であっても良いし、成熟HRGのうちHRG活性を有する部分タンパク質又はペプチドであっても良い。さらに、糖鎖を含むものであってもよいし糖鎖がなくても良い。HRGは好中球活性化調節剤として機能し、好中球活性化に起因する疾患の治療薬の有効成分として、利用することができる。HRGは好中球活性化に起因する疾患及び/又は好中球活性化を伴う炎症性疾患の治療方法にも有効である。
【0023】
HRGと同様に、例えば成熟型PD-1細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号14)、成熟型EMMPRIN細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号16)、成熟型NPTNβ細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号18)、成熟型EMB細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号20)、成熟型RAGE細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号22)、成熟型MCAM細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号24)、成熟型ALCAM細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号26)、成熟型ErbB2細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号28)等をコードする全長cDNA、又は部分をコードするcDNAに基づいて、発現ベクターにクローニングし、各タンパク質を調製することができる。タンパク質にFcを融合させる場合の目的遺伝子の調製方法は、自体公知の方法、または今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。
【0024】
PD-1は、免疫細胞側に存在し、免疫細胞の抑制に働く一回膜貫通型タンパク質で、Zou W, Wolchok JD, Chen L. PD-L1 (B7-H1) and PD-1 pathway blockade for cancer therapy: Mechanisms, response biomarkers, and combinations. Sci Transl Med. 2016 Mar 2;8(328):328rv4. doi: 10.1126/scitranslmed.aad7118.に開示されている。EMMPRIN, NPTN, EMB, RAGE, MCAM, ALCAM等はがん細胞に存在し、イムノグロブリンスーパーファミリーに属する接着分子(一回膜貫通型タンパク質)として知られている。EMMPRINは、Kanekura T, Chen X. CD147/basigin promotes progression of malignant melanoma and other cancers. J Dermatol Sci. 2010 Mar;57(3):149-54. doi: 10.1016/j.jdermsci.2009.12.008.に開示され、NPTNβは、Owczarek S, Berezin V. Neuroplastin: cell adhesion molecule and signaling receptor. Int J Biochem Cell Biol. 2012 Jan;44(1):1-5. doi: 10.1016/j.biocel.2011.10.006.に開示され、EMBは、Chao F, Zhang J, Zhang Y, Liu H, Yang C, Wang J, Guo Y, Wen X, Zhang K, Huang B, Liu D, Li Y. Embigin, regulated by HOXC8, plays a suppressive role in breast tumorigenesis. Oncotarget. 2015 Sep 15;6(27):23496-509.に開示され、RAGEは、Sims GP, Rowe DC, Rietdijk ST, Herbst R, Coyle AJ. HMGB1 and RAGE in inflammation and cancer. Annu Rev Immunol. 2010;28:367-88. doi: 10.1146/annurev.immunol.021908.132603.に開示され、MCAMは、Wang Z, Yan X. CD146, a multi-functional molecule beyond adhesion. Cancer Lett. 2013 Apr 28;330(2):150-62. doi: 10.1016/j.canlet.2012.11.049.に開示され、ALCAMは、Ofori-Acquah SF, King JA. Activated leukocyte cell adhesion molecule: a new paradox in cancer. Transl Res. 2008 Mar;151(3):122-8. doi: 10.1016/j.trsl.2007.09.006.に開示される。がん細胞に存在するErbB2は、がん遺伝子として知られており、この過剰発現は発がん、そしてその後のがん進展に大きく関わるといわれている。ErbB2は、Appert-Collin A, Hubert P, Cremel G, Bennasroune A. Role of ErbB Receptors in Cancer Cell Migration and Invasion. Front Pharmacol. 2015 Nov 24;6:283. doi: 10.3389/fphar.2015.00283.に開示される。
【0025】
例えば上述するタンパク質と抗体のFc領域とを融合させたFc融合タンパク質を作製する場合には、タンパク質のC'末端側をコードする部位にFcをコードするcDNAを結合させるのが好適である。
【0026】
抗体は、重鎖(H鎖)及び軽鎖(L鎖)と呼ばれるポリペプチドより構成される。また、H鎖はN末端側より可変領域(VH)、定常領域(CH)、L鎖はN末端側より可変領域(VL)、定常領域(CL)により、それぞれ構成される。CHはさらに、N末端側よりCH1、ヒンジ、CH2、CH3の各ドメインより構成される。また、CH2とCH3を併せてFc領域という。本発明の方法によって作製される抗体は、インタクト型抗体又は低分子抗体である抗体フラグメントであってもよい。抗体のクラスとしては、例えばイムノグロブリンG(IgG)、イムノグロブリンA(IgA)、イムノグロブリンE(IgE)、及びイムノグロブリンM(IgM)が挙げられる。本発明の方法によって産生されうる抗体は、IgGであることが好ましい。IgGのサブクラスとしては、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4が挙げられる。本発明の方法によって産生されうる抗体のサブクラスは、用途目的に応じて適宜決定することができ、いずれのサブクラスの抗体であってもよい。抗体フラグメントとしては、Fv、Fab、(Fab')2、Fab'、Fcフラグメント、ダイアボディーからなる群より選択されるその機能的抗体フラグメントが挙げられる。例えば、抗体のFc領域と必要なタンパク質を融合させたFc融合タンパク質(Fc fusion protein)であってもよい。
【0027】
トランスポゾン(Transposon:TP)とは、細胞内においてゲノム上の位置を転移(transposition)することのできる塩基配列である。動く遺伝子、転置因子(Transposable element)とも呼ばれる。DNA断片が直接転移するDNA型と、転写と逆転写の過程を経るRNA型がある。トランスポゾンは、例えばバクテリアや酵母などの微生物でも発見され、これら転置因子は一定の塩基配列をもったDNAで、バクテリアや酵母などの正常の染色体の構成成分として1細胞あたり複数個存在している。この因子は染色体に組込まれて存在するので挿入配列(insertion sequence:IS)とも呼ばれる。トランスポゾンは遺伝子導入のベクターや変異原として有用であり、遺伝学や分子生物学において様々な生物で応用されている。本明細書においても、トランスポゾンは遺伝子発現用カセットに組み込まれる。本明細書において、「トランスポゾン配列(T)」とは、上記トランスポゾンを特定する配列をいう。繰り返しになるが、トランスポゾン配列(T)には、トランスポゾンを特定する配列を2回以上連結したものが含まれていてもよい。
【0028】
DNAの複製反応は染色体上の決まった部位、複製開始点から始まり両方向に進行していく。真核生物の長大な染色体DNAを細胞周期の決まった時期に正確に複製するためには非常に多くの複製開始点が必要であり、それらの活性は時間的、空間的に制御されていると考えられている。さらにDNA複製を含めた染色体上で起こる様々な反応は互いに密接に関連し、染色体の恒常性が保持されている。複製開始が行われる領域には、複製開始配列があり、例えば複製開始配列(replication origin initiation sequence:ROIS)や自立複製配列(autonomously replicating sequence:ARS)が挙げられる。
【0029】
核マトリックスとは、核内のクロマチンの保持だけでなく、遺伝子の転写や複製、DNA損傷修復、アポトーシスに代表される様々な核内イベントが機能するための重要な場を構成すると考えられる。複製開始配列と核マトリックス結合領域を含むプラスミドは、細胞内で効率よく遺伝子を増幅すると考えられる。本明細書において、「核マトリックス結合配列(M)」とは、上記核マトリックスに結合する配列として特定される配列をいう。本発明の遺伝子発現用カセットにおいて、複製開始配列(S)とともに核マトリックス結合配列(M)を含むのがより好適である。この場合、複製開始配列(S)よりも上流域において核マトリックス結合配列(M)が配置されているのが好適である。
【0030】
プロモーターとはDNAを鋳型に転写を開始するDNA上の特定の塩基配列であり、目的遺伝子の上流に配置される。本明細書の「プロモーター(P)」において使用可能なプロモーターは特許文献4に示す「第1のプロモーター」を参照し、「エンハンサー(P’)」は特許文献4に示す「エンハンサー」や「第2のプロモーター」の記載を参照することができる。具体的には、以下に説明する。
【0031】
本明細書において、「プロモーター(P)」の配列は特に限定されず、自体公知のプロモーターを適用することができる。あらゆる細胞や組織で目的遺伝子の発現を促進させ得る非特異的プロモーターも組織若しくは器官特異的プロモーター、腫瘍特異的プロモーター、発生若しくは分化特異的プロモーター等の特異的あるいは選択的プロモーターも用いることができる。特に本発明において適用可能なプロモーターとして、感染プラスミドのコピー数を上げるプロモーターや増殖性細胞特異的プロモーターが好適である。具体的には、SV40プロモーター、CMVプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター、EF1-alphaプロモーター、ユビキチンプロモーターなどが挙げられる。 さらに具体的には、例えば、CMV-iプロモーター(hCMV+イントロンプロモーター)等が用いられる。βアクチンプロモーターの由来動物種は限定されず、哺乳類βアクチンプロモーター、例えば、ヒトβアクチンプロモーターやニワトリアクチンプロモーターが用いられる。また、上記のCMV-iプロモーター等の人工的なハイブリッドプロモーターも用いることもできる。CMV-iプロモーターは米国特許第5168062号明細書や米国特許第5385839号明細書の記載に基づいて合成することができる。また、用途に応じて、 癌・腫瘍特異的プロモーターとしてはhTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素)、PSA(前立腺特異的抗原)、c-myc、GLUTプロモーターなどが、遺伝子発現を抑制することを目的としたショートヘアピン型RNA(shRNA)を発現させるプロモーターとしてはU6、H1プロモーターなどが、ES細胞・癌幹細胞特異的プロモーターとしてはOCT3/4、NANOGプロモーターなどが、神経幹細胞特異的プロモーターとしてはNestinプロモーターなどが、細胞ストレス感知プロモーターとしてはHSP70、HSP90、p53プロモーターなどが、肝細胞特異的プロモーターとしてはアルブミンプロモーターなどが、放射線感受性プロモーターとしてはTNF-alphaプロモーターなどが連結されていてもよい。
【0032】
本明細書において、「エンハンサー(P’)」とは、転写により生成するメッセンジャーRNA(mRNA)の量を結果的に増加させるものであればよく、特に限定されない。エンハンサーはプロモーターの作用を促進する効果を持つ塩基配列であり、一般的には100bp前後からなるものが多い。エンハンサーは配列の向きにかかわらず転写を促進することができる。本発明で用いられるエンハンサー(P’)に含まれるエンハンサーは1種類でもよいが、2つ以上の同一のエンハンサーを複数用いたり、又は異なる複数のエンハンサーを組み合わせて用いてもよい。具体的には、その順番は限定されない。例えば、CMVエンハンサー、SV40エンハンサー、hTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー等を用いることができる。一例として、hTERTエンハンサー、SV40エンハンサー及びCMVエンハンサーをこの順で連結したものが挙げられる。エンハンサー(P’)は本明細書の目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)の下流に配置され、遺伝子発現がより強力に発現可能となる。例えば、プロモーターと同様の機能を有し、プロモーターと同様の配列であってもよい。プロモーター(P)とエンハンサー(P’)は同じであっても異なっていてもよい。例えば、プロモーター(P)として特異的プロモーターを用いて、エンハンサー(P’)として、非特異的なプロモーターを用いることができる。具体的には、CMV-iプロモーターとCMVエンハンサーの組合せにより、ほぼ全ての細胞(宿主細胞)において、あらゆる遺伝子を挿入した場合に、如何なるトランスフェクション試薬を用いた場合においても、目的遺伝子の強力なタンパク質発現が可能となる。
【0033】
本発明において、エンハンサー(P’)に含まれるエンハンサーの他、エンハンサー配列をプロモーター(P)の上流に配置することもできる。プロモーター(P)の上流に1個以上のエンハンサー配列を挿入することにより、特定の細胞(例えば、特許文献4の実施例に示すHEK293細胞株やMCF7細胞株)において、特定の遺伝子、例えば、REIC/Dkk-3遺伝子やCD133遺伝子において、発現がさらに増強される。また、CMVエンハンサーをプロモーター(P)の上流に、例えば4個挿入することにより、特定の細胞(例えば、HepG2細胞株やHeLa細胞株)によっては、さらに発現の増強が期待される。
【0034】
本発明の「遺伝子発現用カセット」は、遺伝子発現ベクターに組込み利用することができる。本発明には、本発明の遺伝子発現用カセットを含むベクターも包含される。
【0035】
本発明の遺伝子発現用カセットにおいて、目的遺伝子を挿入する部位は、マルチクローニング部位として存在してもよい。この場合、目的遺伝子をマルチクローニング部位(挿入部位)に制限酵素が認識する配列を利用して挿入することができる。このように目的遺伝子DNA自体が含まれておらず、該DNAを挿入する部分がマルチクローニング部位として含まれる遺伝子発現用カセットも本発明に包含される。
【0036】
さらに、特許文献4に示すように、RU5'が目的タンパク質をコードするDNAの直ぐ上流に連結されていてもよい。直ぐ上流とは、他の特定の機能を有するエレメントを介さず直接連結していることをいうが、リンカーとして短い配列が間に含まれていてもよい。さらに、遺伝子発現用カセットの最上流にSV40-oriが連結されていてもよい。SV40-oriはSV40遺伝子の結合領域であり、後にSV40遺伝子を挿入することにより、遺伝子発現が上昇する。上記の各エレメントは、機能的に連結している必要がある。ここで、機能的に連結しているとは、それぞれのエレメントがその機能を発揮して、目的遺伝子の発現が増強されるように連結していることをいう。
【0037】
本発明の遺伝子発現用カセットを挿入するベクターとしては、プラスミド、アデノウイルス(Ad)ベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクター等のウイルスベクターや生分解性ポリマーなどの非ウイルスベクターが挙げられる。上記遺伝子発現用カセットを導入したベクターを、感染、エレクトロポレーション等の公知の方法により細胞に導入することができる。遺伝子の導入方法は自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができ、例えば公知のトランスフェクション試薬を用いて導入してもよい。
【0038】
さらに、市販のベクターを改変し、本発明の発現用カセットが含まれるようにしてもよい。例えば、pShuttleベクター等の市販のベクターの遺伝子発現用カセットの下流領域にエンハンサーを組込んで用いることができる。
【0039】
本発明は、さらに、上記の目的遺伝子発現用カセットを含むウイルスベクターも含まれる。ウイルスベクターのうち例えばAdベクターやAAVベクターは、癌等の疾患の特異的診断又は治療を可能とするが、本発明の遺伝子発現用カセットは、安定的持続的に遺伝子を発現させることができるので、遺伝子発現の用途に応じて用いるのが望ましい。該ウイルスベクターは、ベクターとして使用可能なウイルスゲノム上に、上記の目的遺伝子発現用カセットを挿入して作製することができる。
【0040】
本発明の遺伝子発現用カセットを挿入したベクターを細胞に導入し、該細胞をトランスフェクトすることにより、該細胞で目的遺伝子を発現させ、目的タンパク質を産生することができる。本発明の遺伝子発現用カセットを導入し目的タンパク質を産生させるためには、真核細胞又は原核細胞系を使用することができる。真核細胞としては、例えば樹立された哺乳類細胞系、昆虫細胞系、真糸状菌細胞及び酵母細胞などの細胞等が挙げられ、原核細胞としては、例えば大腸菌、枯草菌、ブレビバチルス属細菌等の細菌細胞が挙げられる。好ましくは、HEK293細胞、CHO細胞、Hela細胞、COS細胞、BHK細胞、Vero細胞等の哺乳類細胞が用いられる。形質転換された前記の宿主細胞をin vitro又はin vivoで培養して目的とするタンパク質を産生させることができる。宿主細胞の培養は公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDM等の公知の培養用培地を使用することができる。産生されたタンパク質は、分泌タンパク質の場合は培養液中から、非分泌タンパク質の場合は細胞抽出物中から公知の方法で精製することができる。目的タンパク質を産生させる場合、細胞に別々の目的遺伝子を含む複数のベクターを同時にトランスフェクトさせて産生してもよい。このようにすることにより、一度に複数のタンパク質を産生することができる。
【実施例】
【0041】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)遺伝子発現用カセット
本実施例では、各種コンストラクトの遺伝子発現用カセットを構築した。具体的には、IDT社のプロモーターのないクローニング用プラスミドベクター(pIDT-SMART)に特許文献4に示す一過性発現において最も高効率にタンパク質を産生可能な遺伝子発現用カセットを挿入することにより、pCMViR-TSC発現ベクターを作製した(図1)。pCMViRとは、CMV-iプロモーターの下流にRU5'配列が挿入されていることを示す。
【0043】
本発明の遺伝子発現用カセットは、目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)の上流及び下流にトランスポゾン配列(T)、複製開始配列(S)、核マトリックス結合配列(M)を図2に示すNo.1〜No.10の各組み合わせで構築した。
【0044】
本実施例において、目的遺伝子は、GFP(Green fluorescent protein)、Puror(Puromycin耐性)及び2A (2A self-processing peptide - 短い自己プロセッシング性ペプチド)を含み、「GFP-2A-Puror」で示した。また、ポリA付加配列は「BGH polyA」、プロモーター(P)は「CMViRプロモーター」、エンハンサー(P')は、「hTERTエンハンサー、SV40エンハンサー及びCMVエンハンサーを連結したもの」を用いた。図2において、トランスポゾン配列(T)は「TP」、複製開始配列(S)は「ROIS」又は「ARS」、核マトリックス結合配列(M)は「MIS」で示した。トランスポゾン配列(T)には、例えばNo.2, 5, 9で示すように、「TP」で特定される配列が複数含まれていてもよい。
【0045】
上記において、プロモーター(P)の上流の5'側TP(5'TP)の塩基配列を配列番号1に示し、5'側TP領域の全配列を配列番号2に示した(図3参照)。そして、エンハンサー(P')の下流の3'側TP(3'TP)の塩基配列を配列番号3に示し、3'側TP領域の全配列を配列番号4に示した(図4参照)。また、複製開始配列(S)のうち、ROISの塩基配列を配列番号5に、ARSの塩基配列を配列番号6に示した。さらに、MISの塩基配列を配列番号7に示した。
【0046】
5'TP(配列番号1)
CTCGTTCATTCACGTTTTTGAACCCGTGGAGGACGGGCAGACTCGCGGTGCAAATGTGTTTTACAGCGTGATGGAGCAGATGAAGATGCTCGACACGCTGCAGAACACGCAGCTAGATTAACCCTAGAAAGATAATCATATTGTGACGTACGTTAAAGATAATCATGTGTAAAATTGACGCATGTGTTTTATCGGTCTGTATATCGAGGTTTATTTATTAATTTGAATAGATATTAAGTTTTATTATATTTACACTTACATACTAATAATAAATTCAACAAACAATTTATTTATGTTTATTTATTTATTAAAAAAAACAAAAACTCAAAATTTCTTCTATAAAGTAACAAAACTTTTATGAGGGACAGCCCCCCCCCAAAGCCCCCAGGGATGTAATTACGTCCCTCCCCCGCTAGGGGGCAGCAGCGAGCCGCCCGGGGCTCCGCTCCGGTCCGGCGCTCCCCCCGCATCCCCGAGCCGGCAGCGTGCGGGGACAGCCCGGGCACGGGGAAGGTGGCACGGGATCGCTTTCCTCTGAACGCTTCTCGCTGCTCTTTGAGCCTGCAGACACCTGGGGGGATACGGGGAAAAGGCCTCCACGGCC
【0047】
3'TP(配列番号3)
TTCCTGTCCTCACAGGAACGAAGTCCCTAAAGAAACAGTGGCAGCCAGGTTTAGCCCCGGAATTGACTGGATTCCTTTTTTAGGGCCCATTGGTATGGCTTTTTCCCCGTATCCCCCCAGGTGTCTGCAGGCTCAAAGAGCAGCGAGAAGCGTTCAGAGGAAAGCGATCCCGTGCCACCTTCCCCGTGCCCGGGCTGTCCCCGCACGCTGCCGGCTCGGGGATGCGGGGGGAGCGCCGGACCGGAGCGGAGCCCCGGGCGGCTCGCTGCTGCCCCCTAGCGGGGGAGGGACGTAATTACATCCCTGGGGGCTTTGGGGGGGGGCTGTCCCTGATATCTATAACAAGAAAATATATATATAATAAGTTATCACGTAAGTAGAACATGAAATAACAATATAATTATCGTATGAGTTAAATCTTAAAAGTCACGTAAAAGATAATCATGCGTCATTTTGACTCACGCGGTCGTTATAGTTCAAAATCAGTGACACTTACCGCATTGACAAGCACGCCTCACGGGAGCTCCAAGCGGCGACTGAGATGTCCTAAATGCACAGCGACGGATTCGCGCTATTTAGAAAGAGAGAGCAATATTTCAAGAATGCATGCGTCAATTTTACGCAGACTATCTTTCTAGGGTTAATCTAGCTGCATCAGGATCATATCGTCGGGTCTTTTTTCCGGCTCAGTCATCGCCCAAGCTGGCGCTATCTGGGCATCGGGGAGGAAGAAGCCCGTGCCTTTTCCCGCGAGGTTGAAGCGGCATGGAAAGAGTTTGCCGAGGATGACTGCTGCTGCATTGACGTTGAGCGAAAACGCACGTTTACCATGATGATTCGGGAAGGTGTGGCCATGCACGCCTTTAACGGTGAACTGTTCGTTCAGGCCACCTGGGATACCAGTTCGTCGCGGCTTTTCCGGACACAGTTCCGGATGGTCAGCCCGAAGCGCATCAGCAACCCGAACAATACCGGCGACAGCCGGAACTGCCGTGCCGGTGTGCAGATTAATGACAGCGGTGCGGCGCTGGGATATTACGTCAGCGAGGACGGGTATCCTGGCTGGATGCCGCAGAAATGGACATGGATA
【0048】
ROIS(配列番号5)
AATCTGAGCCAAGTAGAAGACCTTTTCCCCTCCTACCCCTACTTTCTAAGTCACAGAGGCTTTTTGTTCCCCCAGACACTCTTGCAGATTAGTCCAGGCAGAAACAGTTAGATGTCCCCAGTTAACCTCCTATTTGACACCACTGATTACCCCATTGATAGTCACACTTTGGGTTGTAAGTGACTTTTTATTTATTTGTATTTTTGACTGCATTAAGAGGTCTCTAGTTTTTTACCTCTTGTTTCCCAAAACCTAATAAGTAACTAATGCACAGAGCACATTGATTTGTATTTATTCTATTTTTAGACATAATTTATTAGCATGCATGAGCAAATTAAGAAAAACAACAACAAATGAATGCATATATATGTATATGTATGTGTGTACATATACACATATATATATATATTTTTTTTCTTTTCTTACCAGAAGGTTTTAATCCAAATAAGGAGAAGATATGCTTAGAACTGAGGTAGAGTTTTCATCCATTCTGTCCTGTAAGTATTTTGCATATTCTGGAGACGCAGGAAGAGATCCATCTACATATCCCAAAGCTGAATTATGGTAGACAAAGCTCTTCCACTTTTAGTGCATCAATTTCTTATTTGTGTAATAAGAAAATTGGGAAAACGATCTTCAATATGCTTACCAAGCTGTGATTCCAAATATTACGTAAATACACTTGCAAAGGAGGATGTTTTTAGTAGCAATTTGTACTGATGGTATGGGGCCAAGAGATATATCTTAGAGGGAGGGCTGAGGGTTTGAAGTCCAACTCCTAAGCCAGTGCCAGAAGAGCCAAGGACAGGTACGGCTGTCATCACTTAGACCTCACCCTGTGGAGCCACACCCTAGGGTTGGCCAATCTACTCCCAGGAGCAGGGAGGGCAGGAGCCAGGGCTGGGCATAAAAGTCAGGGCAGAGCCATCTATTGCTTACATTTGCTTCTGACACAACTGTGTTCACTAGCAACCTCAAACAGACACCATGGTGCACCTGACTCCTGAGGAGAAGTCTGCCGTTACTGCCCTGTGGGGCAAGGTGAACGTG
【0049】
ARS(配列番号6)
TAGCTTGTATTTTTTGTAATTTAAAATAATGATGTATTAAAAACATTTGTATTCTCTATATATATTTTAAATTTAGTTTAATTTCATAAACATTTCTCAAGAGTATATTTTGTGCAGGGCATATTGCTAGTCATTATGGGATCTATATAGTTATGTTAAATTTAAAGTATGGTCTTACGGGGGAAGATGATAGAAAATGTACATTTATAAACTTCCTGCAATGTATGAGTTATTATGTTATAAACTTTTACATATTTTGACCCATTTAATCCCCATTTTGTAGATGAGTAGACTGAGGCTCATGAAATGATAAAGATTTTCCCATGGTATCAGGAATAAGAGTTGTCAAAGTAAAATTAAAACCAGGACTTTTGGCTCCCTAAAGCTATTCTAATGCTATTATTTCAAGCATAAAGGCTAGTTTTTATGTAAGTTATAAAAGAGATACACATTTAC
【0050】
MIS(配列番号7)
TACCACACAGTCTAAGCTGAACCTGGTTGGTTAACTTGAAAAATGCAGAGATGTAGTTACATCAGCAGTGGGAAGACAAGAAGATCAGTTTCAGTGGGAGAAGTCATTGCATTGGGAGGGGTAATTAACAGAGTGGTAGCATATGTGGAATGTGGGCTCTATAGATAAGGACTGGCAGGAATGTTGTGTACCAGGGCTGGGGGGATATAGAGGGTAAGGAAGTCTGGCCTTGAAATCAGGGAACAAAGGACAACAAAACTTAAACGAGCTAAACCTTTGAAGAAGAATTTCTTACTGTAGTCAGCGATCATTATTGTAAACCTATGACAGTTCTTTCAAAATATTTTTCAGACTTGTCAACCGCTGTA
【0051】
(実施例2)遺伝子発現用カセットの評価
実施例1で構築したNo.1〜10の各種遺伝子発現用カセット(図2)を含む発現ベクター(No.1〜10の各遺伝子発現ベクター)を作製した。図2に示すpCMViR-TSCを含むベクターをコントロールとした。No.1〜10の内、CHO細胞において最も有効な高効率発現プラスミドベクターであるNo.4遺伝子発現ベクターの全塩基配列を図5(配列番号8)に示した。また、HEK293T細胞において最も有効な高効率発現プラスミドベクターであるNo.1遺伝子発現ベクターの全塩基配列を図6(配列番号9)に示した。図2に示す各遺伝子発現用カセットは、目的遺伝子であるGFP-2A-PuroをコードするcDNAの配列をEcoRI制限酵素サイトとXbaI制限酵素サイトを用いて正方向に挿入した。
【0052】
No.1〜10の各遺伝子発現ベクター及びコントロールを細胞に各々導入し、以下の手順に従い、GFP蛍光タンパク質の発現量を蛍光強度で評価した。
10% FCS含有GIBCO(R) Dulbecco's Modified Eagle Medium / Nutrient Mixture F-12 (DMEM/F-12) で培養を行ったCHO細胞((Chinese Hamster Ovary cells)及びHEK293T細胞(Human embryonic kidney cells)を6ウェルプレートで70%〜80%までコンフルエントに培養した。FuGENE(商標)-HD(遺伝子導入試薬)を用いて、No.1〜10の各遺伝子発現ベクター及びコントロールを、トランスポゼース発現ベクターとDNA量 1 : 1でコトランスフェクトした。トランスポゼース発現ベクターは、一過性発現用のベクターであるpCMViR-TSC ベクターにトランスポゼース遺伝子を搭載しており、このベクターをNo.1〜10の本発明のトランスポゾン配列 (TP) 搭載各遺伝子発現ベクターとコトランスフェクトすることにより、トランスポゾン配列の末端で遺伝子発現用カセットが切り出され、宿主ゲノム中のTTAA部位に効率よく目的遺伝子が挿入される。このような方法でトランスフェクトした細胞を24時間インキュベート後、細胞のGFP蛍光強度を蛍光プレートリーダー (FLUOROSKAN ASCENT FL, Thermo scientific) を用いて測定した。ベクターを導入していない細胞を(-)とした。
【0053】
さらに同様にNo.1〜10の各遺伝子発現ベクター及びコントロールを導入したCHO細胞及びHEK293T細胞を、48時間培養後から、Puromycin(抗生物質)10μg/mLを添加して、3日に1回培地交換を行いながら3週間薬剤選択培養を行った。培養3週間経過後の各細胞の蛍光強度を蛍光プレートリーダーにより測定し、コントロール及びトランスフェクト後、24時間培養した細胞の蛍光強度と比較した。CHO細胞での蛍光強度を図7に示し、HEK293T細胞での蛍光強度を図8に示した。CHO細胞では、培養24時間目のGFP蛍光強度はコントロール及びNo.1〜10の各遺伝子発現ベクターのいずれも、(-)と殆ど差を認めなかったが、3週間経過後ではNo.1〜10の各遺伝子発現ベクターを各々導入した細胞では、コントロールに比べて、明らかに高いGFP蛍光強度を示した。特に、No.4の遺伝子発現ベクターで高い値を示した(図7)。一方HEK293T細胞では、培養24時間目のGFP発現量はコントロールは高い値を示し、一過性の発現を認めたが、No.1〜10の各遺伝子発現ベクターのいずれも、(-)よりやや高い値を示したのみであった。3週間経過後ではNo.1〜10の各遺伝子発現ベクターを各々導入した細胞では、コントロールに比べて、高いGFP蛍光強度を示す傾向が認められ、特にNo.1の遺伝子発現ベクターで高い値を示した(図8)。
【0054】
次に、3週間薬剤選択培養を行った各細胞を蛍光強度測定後回収し、タンパク質定量を行った値を基に細胞の蛍光強度を補正し、その補正値に基づいてNo.1〜10の各遺伝子発現ベクターの比較・検討を行った。その結果、CHO細胞では、特にNo.4の遺伝子発現ベクターで高い値を示し(図9)、HEK293T細胞では、特にNo.1の遺伝子発現ベクターで高い値を示した(図10)。
【0055】
上記の結果、CHO細胞では、目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)の上流及び下流にMIS配列とともにROIS配列又はARS配列を含み、さらに上流及び下流にトランスポゾン配列(T)を含む、本発明の遺伝子発現用カセットによれば、長期間、目的のタンパク質を安定的に産生可能であることが確認された。またHEK293T細胞では、目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)の上流及び下流にトランスポゾン配列(T)を含む、本発明の遺伝子発現用カセットによれば、長期間、目的のタンパク質を安定的に産生可能であることが確認された。
【0056】
(実施例3)ヒト・ヒスチジンリッチ糖タンパク質(HRG)の産生
本実施例では、遺伝子組換えヒトHRGは、以下のように作製した。実施例1に示すCHO細胞において最も有効な高効率遺伝子発現用カセットであるNo.4遺伝子発現用カセットを用い、目的遺伝子として、配列番号10に示すヒトHRGのコーディング領域をコードするDNA(GenBank Accession No. BC069574 (NCBI))で特定される塩基配列からなるDNA)を用い、No.4-HRG発現ベクターを作製した(図11参照) 。具体的には、10% FCS含有GIBCO(R) Dulbecco's Modified Eagle Medium / Nutrient Mixture F-12 (DMEM/F-12) で培養を行ったCHO細胞((Chinese Hamster Ovary cells)にFuGENE(商標)-HD(遺伝子導入試薬)を用いて、上記No.4-HRG発現ベクター、トランスポゼース発現ベクター、薬剤耐性遺伝子発現ベクターとして実施例1に示すNo.4遺伝子発現ベクターをDNA量 5 : 4:1でコトランスフェクトした。 遺伝子導入し、48時間培養後から、Puromycin(抗生物質)10μg/mLを添加して、3日に1回培地交換を行いながら3週間薬剤選択培養を行った。
【0057】
成熟HRGのアミノ酸配列(配列番号10)
VSPTDCSAVEPEAEKALDLINKRRRDGYLFQLLRIADAHLDRVENTTVYYLVLDVQESDCSVLSRKYWNDCEPPDSRRPSEIVIGQCKVIATRHSHESQDLRVIDFNCTTSSVSSALANTKDSPVLIDFFEDTERYRKQANKALEKYKEENDDFASFRVDRIERVARVRGGEGTGYFVDFSVRNCPRHHFPRHPNVFGFCRADLFYDVEALDLESPKNLVINCEVFDPQEHENINGVPPHLGHPFHWGGHERSSTTKPPFKPHGSRDHHHPHKPHEHGPPPPPDERDHSHGPPLPQGPPPLLPMSCSSCQHATFGTNGAQRHSHNNNSSDLHPHKHHSHEQHPHGHHPHAHHPHEHDTHRQHPHGHHPHGHHPHGHHPHGHHPHGHHPHCHDFQDYGPCDPPPHNQGHCCHGHGPPPGHLRRRGPGKGPRPFHCRQIGSVYRLPPLRKGEVLPLPEANFPSFPLPHHKHPLKPDNQPFPQSVSESCPGKFKSGFPQVSMFFTHTFPK
【0058】
組換えヒトHRGを含む培養上清を回収した。1×PBS(-) 30mLで予め洗浄したQIAGEN(R) Ni-NTAアガロースゲル(Sepharose CL-6B支持体にNi-NTAを結合したゲル)を前記培養上清に加え、4℃で回転インキュベーションを2時間行ない、組換えヒトHRGをQIAGEN(R) Ni-NTAアガロースゲルに結合させた。QIAGEN(R) Ni-NTAアガロースゲルを精製用カラムに移した後、洗浄液1(30mM Imidazoleを含むPBS(pH7.4)、洗浄液2(1M NaCl +10mM PB (pH7.4))、洗浄液3(1×PBS (pH7.4))で順次カラムを洗浄した。組換えヒトHRG は、500mM Imidazoleを含むPBS (pH7.4)で、4℃で溶出を行なった。精製品は、ウエスタンブロットとSDS-PAGE 後のタンパク染色でHRGを確認した。
【0059】
上記本発明の遺伝子組換え手法により作製したHRG(以下、「遺伝子組換えHRG」)と国際公開WO2013/183494号公報の実施例1で作製したヒト血漿由来のHRG(以下、「血漿由来HRG」)について、各々好中球の正球化活性、CLP敗血症モデルマウスの生存率及び活性酸素分子種の産生抑制活性に及ぼす効果を確認した。
【0060】
(実験例3−1)好中球の形態
国際公開WO2013/183494号公報の図5に示すフローチャートに従いHRG:2μM、最終濃度1μM)50μlを好中球浮遊液(5×105 cell/mL)50μlに加えた系での好中球の形態をCalceinで細胞を蛍光標識して、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、遺伝子組換えHRG及び血漿由来HRGのいずれも同じ効力で正球状形態を誘導することが観察された(図12)。
【0061】
(実験例3−2)CLP敗血症モデルマウスに及ぼすHRGの効果
本実験例では、盲腸結紮腹膜炎(cecal ligation and puncture: CLP)敗血症モデルで
カプランマイヤー法による生存率を調べた。マウスの腹腔内より盲腸を取り出して、盲腸根部を縫合糸により結紮し、18ゲージ注射針を用いて盲腸壁層に穿刺してCLP敗血症モデルを作製した。単開腹(sham)マウスをコントロールとした。術後5分、24時間及び48時間目に、遺伝子組換えHRG(HRG:400μg/マウス)を尾静脈内投与した(n=10)。HSA及びPBSをコントロールとした(n=10)。その結果、カプランマイヤー法で解析した結果、遺伝子組換えHRG投与グループは有意に高い累積生存率が確認された(図13)。
【0062】
(実験例3−3)活性酸素分子種の産生抑制活性
単離したヒト好中球を、イソルミノール(最終濃度 50mM)とHorse radish peroxidase type IV(最終濃度 4 U/mL)を添加してインキュベートし、細胞外放出活性酸素分子種レベルを反応開始15分後に化学発光で測定した。HRG非存在下のレベルを100%とし、0.01〜1.0μM濃度のHRG存在下での値を%表示で算出した(図14)。その結果、遺伝子組換えHRGはヒト血漿から精製したHRGと略等しい活性酸素分子種の産生抑制活性を示した。
【0063】
(実施例4)遺伝子組換えPD-1の産生
本実施例では、遺伝子組換え操作によるPD-1細胞外ドメインの産生について説明する。本実施例では、プロモーターの上流にTP配列、プロモーターの下流に発現させようとする遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物の下流にエンハンサー、さらにその下流にMIS配列、ROIS配列、TP配列を連結させた遺伝子発現ベクターを用いて、目的タンパク質を安定かつ高生産するCHO細胞を作製し、その細胞を用いて医薬品候補となるタンパク質を高効率に生産した。使用したコンストラクトの構造を図1(B)に示した。図2のNo.4のコンストラクトを用い、発現させようとする遺伝子をinserted geneとして挿入した。医薬品候補となるタンパク質は、すべて抗体の一部であるヒトIgGの Fc領域と融合させることにより、一般的に体内での安定性が低く薬効が得にくいと考えられているタンパク質製剤の安定性を向上させ、さらにヒトIgG2のFc領域を用いることで、補体活性が低く、副作用となる炎症反応が緩和される医薬品となると考えられる。ヒトIgG2 Fc領域の全塩基配列は図15に示し、リンカー及び制限酵素認識部位を含む塩基配列を、配列表の配列番号11に示した。ヒトIgG2 Fc領域のアミノ酸配列は配列表の配列番号12に示した。
【0064】
ヒトIgG2 Fc領域のアミノ酸配列(配列番号12)
ERKCCVECPPCPAPPVAGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTFRVVSVLTVVHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPAPIEKTISKTKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDISVEWESNGQPENNYKTTPPMLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG
【0065】
遺伝子組換えPD-1の細胞外ドメインは、以下のように作製した。実施例1に示すCHO細胞において最も有効な高効率遺伝子発現用カセットであるNo.4遺伝子発現用カセットを用い、目的遺伝子として、図16に示すPD-1細胞外ドメインのコーディング領域をコードするDNA(GenBank Accession No. BC074740 (NCBI))で特定される塩基配列からなるDNA)に示す塩基配列へ図15に示すヒトIgG2のFc領域をコードする配列を融合し、ポリヌクレオチド(exPD-1-Fc)を作製した。図11に示すHRG搭載コンストラクトのHRGをPD-1-Fcに置き換えたNo.4-exPD-1-Fc発現ベクターを作製した。実施例3と同手法によりexPD-1-Fcをトランスフェクトした。
【0066】
対数増殖期にあるFc融合タンパク質高産生CHO細胞を5×105細胞/mLの濃度に調製し、ハイパーフラスコ(Corning社)へ500mL幡種し、37℃、5 %CO2存在下でCD-CHO Medium(Life Technologies社)を用いて10日間培養し、培養上清を回収した。培養上清は、20mM sodium phosphate(pH7.0)で予め洗浄したProtein G Sepharose 4 Fast Flow (GEヘルスケア社)を充填したカラムへ添加し、Fc融合タンパク質を結合させた。非特異的に結合したタンパク質は、20mM sodium phosphate(pH7.0)を用いて洗浄した。Fc融合タンパク質は、0.1M Glycine-HCl(pH 2.7)で溶出を行い、溶出液は、1M Tris-HCl(pH 9.0)により中和された。本実施例で作製したFc融合タンパク質をexPD-1-Fcという。成熟型PD-1細胞外ドメインのアミノ酸配列は配列表の配列番号14に示した。
【0067】
成熟型PD-1細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号14)
GWFLDSPDRPWNPPTFSPALLVVTEGDNATFTCSFSNTSESFVLNWYRMSPSNQTDKLAAFPEDRSQPGQDCRFRVTQLPNGRDFHMSVVRARRNDSGTYLCGAISLAPKAQIKESLRAELRVTERRAEVPTAHPSPSPRPAGQFQTLV
【0068】
(実施例5)遺伝子組換えEMMPRINの産生
本実施例では、遺伝子組換え操作によるEMMPRIN細胞外ドメインの産生について説明する。目的遺伝子として、図17に示すEMMPRIN細胞外ドメインのコーディング領域をコードするDNA(GenBank Accession No. ENSG00000172270 (Ensembl))で特定される塩基配列からなるDNA)の塩基配列へ図15に示すヒトIgG2のFc領域をコードする配列を融合し、ポリヌクレオチド(exEMMPRIN-Fc)を作製し、用いた他は、実施例4と同手法により遺伝子組換え操作を行い、EMMPRIN細胞外ドメイン+ヒトIgG2のFc融合タンパク質を作製した。本実施例で作製したFc融合タンパク質をexEmmprin-Fcという。EMMPRIN細胞外ドメインのアミノ酸配列は配列表の配列番号16に示した。
【0069】
成熟型EMMPRIN細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号16)
ASGAAGTVFTTVEDLGSKILLTCSLNDSATEVTGHRWLKGGVVLKEDALPGQKTEFKVDSDDQWGEYSCVFLPEPMGTANIQLHGPPRVKAVKSSEHINEGETAMLVCKSESVPPVTDWAWYKITDSEDKALMNGSESRFFVSSSQGRSELHIENLNMEADPGQYRCNGTSSKGSDQAIITLRVRSHL
【0070】
(実施例6)遺伝子組換えNPTNβの産生
本実施例では、遺伝子組換え操作によるNPTNβ細胞外ドメインの産生について説明する。
【0071】
本実施例では、目的遺伝子として、図18に示すNPTNβ細胞外ドメインのコーディング領域をコードするDNA(GenBank Accession No. ENSG00000156642 (Ensembl))で特定される塩基配列からなるDNA)の塩基配列へ図15に示すヒトIgG2のFc領域をコードする配列を融合し、ポリヌクレオチド(exNPTNβ-Fc)を作製し、用いた他は、実施例4と同手法により遺伝子組換え操作を行い、NPTNβ細胞外ドメイン+ヒトIgG2のFc融合タンパク質を作製した。本実施例で作製したFc融合タンパク質をexENPTNβ-Fcという。NPTNβ細胞外ドメインのアミノ酸配列は配列表の配列番号18に示した。
【0072】
成熟型NPTNβ細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号18)
QNAGFVKSPMSETKLTGDAFELYCDVVGSPTPEIQWWYAEVNRAESFRQLWDGARKRRVTVNTAYGSNGVSVLRITRLTLEDSGTYECRASNDPKRNDLRQNPSITWIRAQATISVLQKPRIVTSEEVIIRDSPVLPVTLQCNLTSSSHTLTYSYWTKNGVELSATRKNASNMEYRINKPRAEDSGEYHCVYHFVSAPKANATIEVKAAPDITGHKRSENKNEGQDATMYCKSVGYPHPDWIWRKKENGMPMDIVNTSGRFFIINKENYTELNIVNLQITEDPGEYECNATNAIGSASVVTVLRVRSHL
【0073】
(実施例7)遺伝子組換えEMBの産生
本実施例では、遺伝子組換え操作によるEMB細胞外ドメインの産生について説明する。目的遺伝子として、図19に示すEMB細胞外ドメインのコーディング領域をコードするDNA(GenBank Accession No. BC059398 (NCBI))で特定される塩基配列からなるDNA)の塩基配列へ図15に示すヒトIgG2のFc領域をコードする配列を融合し、ポリヌクレオチド(exEMBβ-Fc)を作製し、用いた他は、実施例4と同手法により遺伝子組換え操作を行い、EMB細胞外ドメイン+ヒトIgG2のFc融合タンパク質を作製した。本実施例で作製したFc融合タンパク質をexEMB-Fcという。EMB細胞外ドメインのアミノ酸配列は配列表の配列番号20に示した。
【0074】
成熟型EMB細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号20)
DGSAPDSPFTSPPLREEIMANNFSLESHNISLTEHSSMPVEKNITLERPSNVNLTCQFTTSGDLNAVNVTWKKDGEQLENNYLVSATGSTLYTQYRFTIINSKQMGSYSCFFREEKEQRGTFNFKVPELHGKNKPLISYVGDSTVLTCKCQNCFPLNWTWYSSNGSVKVPVGVQMNKYVINGTYANETKLKITQLLEEDGESYWCRALFQLGESEEHIELVVLSYLVP
【0075】
(実施例8)遺伝子組換えRAGEの産生
本実施例では、遺伝子組換え操作によるRAGE細胞外ドメインの産生について説明する。目的遺伝子として、図20に示すRAGE細胞外ドメインのコーディング領域をコードするDNA(GenBank Accession No. ENSG00000204305 (Ensembl))で特定される塩基配列からなるDNA)の塩基配列へ図15に示すヒトIgG2のFc領域をコードする配列を融合し、ポリヌクレオチド(exRAGE-Fc)を作製し、用いた他は、実施例4と同手法により遺伝子組換え操作を行い、RAGE細胞外ドメイン+ヒトIgG2のFc融合タンパク質を作製した。本実施例で作製したFc融合タンパク質をexRAGE-Fcという。RAGE細胞外ドメインのアミノ酸配列は配列表の配列番号22に示した。
【0076】
成熟型RAGE細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号22)
QNITARIGEPLVLKCKGAPKKPPQRLEWKLNTGRTEAWKVLSPQGGGPWDSVARVLPNGSLFLPAVGIQDEGIFRCQAMNRNGKETKSNYRVRVYQIPGKPEIVDSASELTAGVPNKVGTCVSEGSYPAGTLSWHLDGKPLVPNEKGVSVKEQTRRHPETGLFTLQSELMVTPARGGDPRPTFSCSFSPGLPRHRALRTAPIQPRVWEPVPLEEVQLVVEPEGGAVAPGGTVTLTCEVPAQPSPQIHWMKDGVPLPLPPSPVLILPEIGPQDQGTYSCVATHSSHGPQESRAVSISIIEPGEEGPTAGSVGGSGLGTLA
【0077】
(実施例9)遺伝子組換えMCAMの産生
本実施例では、遺伝子組換え操作によるMCAM細胞外ドメインの産生について説明する。目的遺伝子として、図21に示すMCAM細胞外ドメインのコーディング領域をコードするDNA(GenBank Accession No. BC056418 (NCBI))で特定される塩基配列からなるDNA)の塩基配列へ図15に示すヒトIgG2のFc領域をコードする配列を融合し、ポリヌクレオチド(exMCAM-Fc)を作製し、用いた他は、実施例4と同手法により遺伝子組換え操作を行い、MCAM細胞外ドメイン+ヒトIgG2のFc融合タンパク質を作製した。本実施例で作製したFc融合タンパク質をexMCAM-Fcという。MCAM細胞外ドメインのアミノ酸配列は配列表の配列番号24に示した。
【0078】
成熟型MCAM細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号24)
VPGEAEQPAPELVEVEVGSTALLKCGLSQSQGNLSHVDWFSVHKEKRTLIFRVRQGQGQSEPGEYEQRLSLQDRGATLALTQVTPQDERIFLCQGKRPRSQEYRIQLRVYKAPEEPNIQVNPLGIPVNSKEPEEVATCVGRNGYPIPQVIWYKNGRPLKEEKNRVHIQSSQTVESSGLYTLQSILKAQLVKEDKDAQFYCELNYRLPSGNHMKESREVTVPVFYPTEKVWLEVEPVGMLKEGDRVEIRCLADGNPPPHFSISKQNPSTREAEEETTNDNGVLVLEPARKEHSGRYECQGLDLDTMISLLSEPQELLVNYVSDVRVSPAAPERQEGSSLTLTCEAESSQDLEFQWLREETGQVLERGPVLQLHDLKREAGGGYRCVASVPSIPGLNRTQLVNVAIFGPPWMAFKERKVWVKENMVLNLSCEASGHPRPTISWNVNGTASEQDQDPQRVLSTLNVLVTPELLETGVECTASNDLGKNTSILFLELVNLTTLTPDSNTTTGLSTSTASPHTRANSTSTERKLPEPESRG
【0079】
(実施例10)遺伝子組換えALCAMの産生
本実施例では、遺伝子組換え操作によるALCAM細胞外ドメインの産生について説明する。目的遺伝子として、図22に示すALCAM細胞外ドメインのコーディング領域をコードするDNA(GenBank Accession No. BC137097 (NCBI))で特定される塩基配列からなるDNA)の塩基配列へ図15に示すヒトIgG2のFc領域をコードする配列を融合し、ポリヌクレオチド(exALCAM-Fc)を作製し、用いた他は、実施例4と同手法により遺伝子組換え操作を行い、ALCAM細胞外ドメイン+ヒトIgG2のFc融合タンパク質を作製した。本実施例で作製したFc融合タンパク質をexALCAM-Fcという。ALCAM細胞外ドメインのアミノ酸配列は配列表の配列番号26に示した。
【0080】
成熟型ALCAM細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号26)
WYTVNSAYGDTIIIPCRLDVPQNLMFGKWKYEKPDGSPVFIAFRSSTKKSVQYDDVPEYKDRLNLSENYTLSISNARISDEKRFVCMLVTEDNVFEAPTIVKVFKQPSKPEIVSKALFLETEQLKKLGDCISEDSYPDGNITWYRNGKVLHPLEGAVVIIFKKEMDPVTQLYTMTSTLEYKTTKADIQMPFTCSVTYYGPSGQKTIHSEQAVFDIYYPTEQVTIQVLPPKNAIKEGDNITLKCLGNGNPPPEEFLFYLPGQPEGIRSSNTYTLTDVRRNATGDYKCSLIDKKSMIASTAITVHYLDLSLNPSGEVTRQIGDALPVSCTISASRNATVVWMKDNIRLRSSPSFSSLHYQDAGNYVCETALQEVEGLKKRESLTLIVEGKPQIKMTKKTDPSGLSKTIICHVEGFPKPAIQWTITGSGSVINQTEESPYINGRYYSKIIISPEENVTLTCTAENQLERTVNSLNVSAISIPEHDEADEISDENREKVNDQAK
【0081】
(実施例11)遺伝子組換えErbB2の産生
本実施例では、遺伝子組換え操作によるErbB2細胞外ドメインの産生について説明する。目的遺伝子として、図23に示すErbB2細胞外ドメインのコーディング領域をコードするDNA(GenBank Accession No. ENSG00000141736 (Ensembl))で特定される塩基配列からなるDNA)の塩基配列へ図15に示すヒトIgG2のFc領域をコードする配列を融合し、ポリヌクレオチド(exErbB2-Fc)を作製し、用いた他は、実施例4と同手法により遺伝子組換え操作を行い、ErbB2細胞外ドメイン+ヒトIgG2のFc融合タンパク質を作製した。本実施例で作製したFc融合タンパク質をexErbB2-Fcという。ErbB2細胞外ドメインのアミノ酸配列は配列表の配列番号28に示した。
【0082】
成熟型ErbB2細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号28)
TQVCTGTDMKLRLPASPETHLDMLRHLYQGCQVVQGNLELTYLPTNASLSFLQDIQEVQGYVLIAHNQVRQVPLQRLRIVRGTQLFEDNYALAVLDNGDPLNNTTPVTGASPGGLRELQLRSLTEILKGGVLIQRNPQLCYQDTILWKDIFHKNNQLALTLIDTNRSRACHPCSPMCKGSRCWGESSEDCQSLTRTVCAGGCARCKGPLPTDCCHEQCAAGCTGPKHSDCLACLHFNHSGICELHCPALVTYNTDTFESMPNPEGRYTFGASCVTACPYNYLSTDVGSCTLVCPLHNQEVTAEDGTQRCEKCSKPCARVCYGLGMEHLREVRAVTSANIQEFAGCKKIFGSLAFLPESFDGDPASNTAPLQPEQLQVFETLEEITGYLYISAWPDSLPDLSVFQNLQVIRGRILHNGAYSLTLQGLGISWLGLRSLRELGSGLALIHHNTHLCFVHTVPWDQLFRNPHQALLHTANRPEDECVGEGLACHQLCARGHCWGPGPTQCVNCSQFLRGQECVEECRVLQGLPREYVNARHCLPCHPECQPQNGSVTCFGPEADQCVACAHYKDPPFCVARCPSGVKPDLSYMPIWKFPDEEGACQPCPINCTHSCVDLDDKGCPAEQRASPLT
【0083】
(実施例12)遺伝子組換えHRGの産生
本実施例では、目的遺伝子として、図24に示すHRGのコーディング領域をコードするDNA(GenBank Accession No. BC069574 (NCBI))で特定される塩基配列からなるDNA)の塩基配列へ図15に示すヒトIgG2のFc領域をコードする配列を融合し、ポリヌクレオチド(HRG-Fc)を作製し、用いた他は、実施例4と同手法により遺伝子組換え操作を行い、HRG+ヒトIgG2のFc融合タンパク質を作製した。本実施例で作製したFc融合タンパク質をHRG-Fcという。HRGのアミノ酸配列は実施例3と同様に配列表の配列番号10に示した。
【0084】
(実験例)タンパク質発現量
実施例4〜12の方法で作製した各精製Fc融合タンパク質をSDS-PAGEを用いて分離し、CBB染色によってFc融合タンパク質の純度を確認した(図25)。さらにこの精製Fc融合タンパク質のタンパク質量をBradford法により定量し、500mL培養時の精製タンパク質量を算出し、表1に示した。
【0085】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上詳述したように、目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)が、プロモーター(P)とエンハンサー(P')で挟まれる構造を有する遺伝子発現用カセットにおいて、さらにプロモーター(P)の上流及びエンハンサー(P')の下流にトランスポゾン配列(T)を含むことを特徴とする、遺伝子発現用カセットによれば、従来遺伝子組換えによる作製が困難であったタンパク質も大量に産生させることができる。さらに、上記において、トランスポゾン配列(T)とともに、複製開始配列(S)の上流に核マトリックス結合配列(M)を組み合わせて適宜配置することで、より効果的に目的タンパク質を安定的かつ大量に産生することができる。
【0087】
本発明は、一過性発現に適した遺伝子発現用カセット(例えば、特許文献4に示すpCMViR-TSCベクター)をトランスポゾン配列(T)で挟むことにより、染色体に高効率に高コピー数の遺伝子発現用カセットを挿入することを可能にする。さらに複製開始配列(S)、核マトリックス結合配列(M)を遺伝子発現用カセットの上流又は下流、もしくは上流と下流に連結させることにより、遺伝子発現用カセットのコピー数を高効率に増幅させることが可能となる。具体的には、プロモーター(P)の上流にトランスポゾン配列(T)、プロモーター(P)の下流に目的遺伝子及びポリA付加配列を含むDNA構築物(X)の下流にエンハンサー(P')、さらにその下流に核マトリックス結合配列(M)、複製開始配列(S)、トランスポゾン配列(T)を連結させることにより、目的タンパク質を安定かつ高産生する細胞が得られる。本発明の遺伝子発現用ベクターによれば、薬剤選択後の安定発現細胞株にも関わらず、従来の発現ベクターと比較して数倍から数十倍の高発現を達成したpCMViR-TSCベクターの一過性発現量を更に凌駕する発現量を達成した。
【0088】
例えば、細胞の種類、遺伝子の種類、トランスフェクション試薬の種類を問わず、遺伝子発現させようとする目的タンパク質を超高発現により、安定かつ大量に産生することができる。バイオテクノロジーの分野での試薬としての適用のみならず、治療用のタンパク質医薬としての適用や臨床での遺伝子を用いた治療・検査・診断のために幅広い応用が可能である。
【0089】
医療分野の研究開発のためや、医薬、医薬品、診断薬若しくは試薬に用い得るタンパク質として、具体的にはHRG、PD-1、EMMPRIN、NPTNβ、EMB、RAGE、MCAM、ALCAM、ErbB2や抗体が挙げられる。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]