(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
乳幼児等には臍ヘルニアが多く見られるが、これは、臍の緒が取れた後に腹部に形成される臍窩の底部で、臍帯と乳児の腹腔内とのつなぎ目の部分である臍輪に開存孔が形成されている場合に、その臍輪の開存孔から腹腔内の腸管が突出することにより起こる。
従来この臍ヘルニアの治療には、その臍輪の開存孔から突出したヘルニア部を指にて腹直筋の内側に押し込んだ後、綿球等を臍窩に押し込んでテープで固定する治療が行われていた。
【0003】
しかし、上記綿球等の押し込みが弱いと、乳幼児等がいきんだりして一時的に腹腔内圧等の腹内の圧力が高くなった際に、臍窩に詰めた綿球が押し出されて、ずれてしまうことがあり、確実な治療を行うことができないことがある。そこで、綿球などをあてがうだけでなく、ずれないように強く押し込んだ状態にした後、テープで手早く固定する必要があるが、当然乳幼児が嫌がり身体を動かすため、上手く押し込めず、十分な圧力をかけることができないなどの不都合が起こっていた。
【0004】
また、シリコーンゴム等で形成した球形の突起部を、平板と組み合わせた治療器具も提案されている(特許文献1)。こうした治療器具では、球形の突起部を臍窩内に挿入し、平板を臍窩の周りの皮膚表面上に載せるように位置させて絆創膏で固定するものであって、突起部を確実に臍窩内に保持しておくことができるが、このものもいきんだりした場合には、その突起部が臍輪の開存孔に集中的に作用し、臍窩の皮膚を傷めるおそれがあった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の臍ヘルニア治療材1は、臍輪の開存孔5を塞ぐ先端突起7と、先端突起7の基部8よりも大きく形成された後方突起9を備えている。
図1に示すものは、先端突起7の先端部11が弧面状にされたドーム形状にされていて、この先端突起7の基部8から側方に張出す厚みのある後方突起9が形成されている。この後方突起9は、その上面が球面状になっている接触面17に続いて丸味19のある側部21があり、臍窩13の上部及び腹部15周辺の皮膚表面と接触するようになっており、接触面17に対向する背面23を有している。
【0011】
この臍ヘルニア治療材1は、適度の弾性と、臍輪の開存孔5を塞いでおくだけのある程度の硬さを有する緩衝弾性体で形成するとよい。緩衝弾性体は、乳幼児の繊細な皮膚に刺激を与えないような低皮膚刺激性のものであると好ましい。
【0012】
緩衝弾性体としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム等の合成ゴム、その他のゴム状弾性体、ウレタン樹脂発泡体、ポリエチレン樹脂発泡体、シリコーンゴム等の発泡体その他のスポンジ弾性体、圧縮綿、不織布、不織布の積層品などの繊維弾性体などを用いることができる。また、これらの弾性体には、適当な特性を得るために皮膚刺激性の低い各種の添加剤などを使用することができる。
【0013】
通常、この臍ヘルニア治療材1は、上記材料によって一体に形成されることが多いが、先端突起7と後方突起9とで異なる材料を使用することによって一体的に形成することもできる。
【0014】
臍ヘルニア治療材1を形成する緩衝弾性体の硬さは、この治療材によって直径12mm、高さ10mmの円柱状としたものを、高さで5mm圧縮したときの荷重を圧縮応力として示したときに、
8.5N/12mmφ×5mm以上、38.0N/12mmφ×5mm以下である。圧縮応力がこれより小さいものは、ヘルニア部を押し込んだ際や腹腔内圧等の腹腔内の圧力が高くなった際に、綿球のように押し出されてずれることがあり、また、圧縮応力がこれより大きいものは、硬すぎて皮膚を傷める可能性がある。
【0015】
臍ヘルニア治療材1は、乳幼児の体の大きさ、臍窩13の形、腹内の圧力、臍輪の開存孔5の大きさ等に応じて、大きさの異なったものを使用することがあるので、通常大きさの異なるものを複数個用意しておき、その乳幼児にあった大きさのものを使用するようにするとよい。
【0016】
図1に示すものでは、先端突起7のドーム状をした先端部11から基部8までの長さが約15mm、基部8の直径が約20mmであり、後方突起9の厚さが約10mmで、直径が約35mm程度に形成されている。中程度の大きさのものとしては、先端突起7の先端部11から基部8までの長さが約15mm、基部8の直径が約14mmであり、後方突起9の厚さが約10mmで、直径が約30mm程度に形成される。小さいものとしては、先端突起7の先端部11から基部8までの長さが約10mm、基部8の直径が約10mmであり、後方突起9の厚さが約10mmで、直径が約25mm程度に形成される。
【0017】
この臍ヘルニア治療材1を使用する場合、先ず、乳幼児等の臍窩13及び臍窩13の周縁の腹部15表面を清潔にした後、筋膜3に存する臍輪の開存孔5から突出している腸管を指等により開存孔5内に納め、つまり腹腔内に押し込めた状態にする。
【0018】
次に、臍ヘルニア治療材1を、先端突起7から臍窩13内に挿入すると、先端突起7の先端部11が、臍輪の開存孔5を塞いで、臍輪の開存孔5から腸管が突出することを防止することができるようになる。このとき、後方突起9も臍窩13内に嵌入されるようになり、臍窩13の上部表面と臍窩13の周辺の皮膚が後方突起9の表面と接触している状態を維持している。こうして臍窩13内に挿入した臍ヘルニア治療材1の背面23側から粘着テープ25を貼り付ければ臍窩13に固定することができる。
【0019】
臍窩13内に挿入されている先端突起7は、腹直筋4内に腸管を納めた状態で、開存孔5を閉塞した状態を維持することができる。さらに、乳幼児がいきんだりして腹圧が高くなったとき、後方突起9は、腹圧の作用を受け止めてこれを緩衝するようになり、先端突起7が開存孔5内に入り込んでこれを押し拡げるようなこともなく、開存孔5を安定的に閉塞して腸管の封入状態を好適に維持することができるので、確実に臍ヘルニアの治療を行うことができる。
【0020】
上記した
図1に示すものは後方突起9の背面23を弧面状に形成しているもので、乳幼児の腹部15の皮膚の丸みに沿うようにして粘着テープ25を背面23に貼付することができ、先端突起7に対する押圧作用を安定化して圧迫固定性を良好にすることができる。
【0021】
図3に示すものは、先端突起7の基部から後方突起9の上面に至る部分をなだらかな丸み29を描く弧面状に形成したものであり、圧迫作用と緩衝作用が一層融合されて便利に使用できることがある。
【0022】
図4には先端突起7の先端部11が平面状になっているものが示されている。このものは、上記開存孔5が大きい場合にも、先端突起7の先端部11が腸管を腹直筋4内に安定的に収納しておくことができる。
【0023】
図5及び
図6に示すものは、後方突起9を多段31に形成したものであって、緩衝作用を段階的にかつ分散的に行うことができることから、便利に使用できることがある。
【0024】
上述した先端突起7については、そのドーム状の表面が平滑なものについて述べてきたが、その表面には、適宜、縦溝、横溝、らせん状溝のようなものを形成することもできる。
【0025】
この臍ヘルニア治療材1は、上記したものでは、先端突起7を略円錐ドームとし、後方突起9を円盤状としているが、先端突起7の形状を略楕円錐ドーム状とし、後方突起9を略楕円盤状とすることができるし、これらを組合せることもできる。
図7に示すものは、先端突起7の略楕円錐ドーム状の長軸と、後方突起9の略楕円盤状の長軸が直交するように形成している。こうした両突起の長軸は、適当な角度で交叉するようにしたり、両長軸を同方向に合せるようにすることもできる。このような先端突起7と後方突起9を選択すれば、乳幼児の臍の形状に応じて、より圧迫感を与えることなく使用できることがある。また、後方突起9で縦横の長さが異なるものでは、横長になるように位置させて使用すれば、乳幼児が前屈みの姿勢をしたり、つかまり立ちを始めた場合などにも、乳幼児の体動を妨げないことがあり、有効なことがある。
【0026】
図7のものは、先端突起7が、先端部11から基部8までの長さを15mm、基部8の長軸を20mmで、短軸を15mm程度の略楕円錐ドーム状に形成され、後方突起9が、厚さを10mm、長軸を43mmで、短軸を32mm程度の略楕円盤状に形成されている。これより小さいものとしては、先端突起7が、長さを15mm、基部8の長軸を14mmで、短軸を10.5mm程度に形成され、後方突起9が、厚さを10mm、長軸を35mmで、短軸を26mm程度に形成されている。さらに小さいものとしては、先端突起7が、長さを10mm、基部8の長軸を10mmで、短軸を7.5mm程度に形成され、後方突起9が、厚さを10mm、長軸を29mmで、短軸を22mm程度に形成するとよい。
【0027】
図8に示すものは、後方突起9の側部21に、複数の弧状の切欠部33を設けたものであり、後方突起としての腹圧に対する緩衝作用を果たすことができると共に、幼児などが誤って口の中に入れて誤嚥したような場合にも、上記切欠部33の存在によって気道が塞がれるようなことがなく確保されるので、安全性が高くなる。
【0028】
図9のものは、後方突起9の背面23から接触面17に通じるような複数の貫通孔35を設けたものであり、上記と同様にして使用することができる。また、
図10に示すものでは、後方突起9から先端突起7へと貫通する孔35を設けるようにしている。これらの場合、切欠部33や孔35を設けることによって治療材1全体の硬さや強度が低下しないように、緩衝弾性体の弾性、硬さなどを適度に調整するようにするとよい。
【0029】
また、先端突起7の形状は、上記の他、頂部や側面に曲面を有する形状であれば、隅丸の略多角錐形状や、隅丸の楕円錐台状等にすることができ、後方突起9は、先端突起7の基部8より側方に張出すような弧状の面を有する形状であれば、隅丸の略多角盤状等に形成することもできる。
【0030】
この臍ヘルニア治療材1は、粘着テープ、消毒液、滅菌した脱脂綿等と共に同封して臍ヘルニア治療用キットにすることができ、このようにすれば母親が使用したり、看護師等の医療従事者が使用したりする場合に一層便利である。
【0031】
[試験]
本発明における臍ヘルニア治療材の適当な硬さ等の使用適性を知る為に、以下の試料を用意して試験を行った。
【0032】
試料1: 弾性発泡体である株式会社イノアックコーポレーションの製品「AZOTE」(品番LD−15)を、直径12mm、高さ10mmの円柱状にしたもの。
試料2: 弾性発泡体として、株式会社イノアックコーポレーションの製品「AZOTE」(品番LD−33)を用い、他は上記試料1と同様にしたもの。
試料3: 弾性発泡体として、和気産業株式会社の製品「NRスポンジゴム」(品番NRS−07)を用い、他は上記試料1と同様にしたもの。
試料4: 弾性発泡体として、株式会社イノアックコーポレーションの製品「AZOTE」(品番LD−45)を用い、他は上記試料1と同様にしたもの。
試料5: 弾性発泡体の代わりに、ゴム弾性体として株式会社扶桑ゴム産業の製品「シリコーンゴム硬さ10」を用い、他は上記試料1と同様にしたもの。
【0033】
試料6: 弾性発泡体として、和気産業株式会社製の製品「低反発ウレタンフォームPUF」(品番PUF−04)を用い、他は上記試料1と同様にしたもの。
試料7: 弾性発泡体の代わりに、ゴム弾性体として、和気産業株式会社の製品「クッションラバーA」(品番A15)を用い、他は上記試料1と同様にしたもの。
試料8: 市販の直径14mmの球形とされた綿球であるイワツキ株式会社の製品「ハイ綿球♯14」。
試料9: 市販の直径10mmの球形とされた綿球であるイワツキ株式会社の製品「ハイ綿球♯10」。
試料10:上記試料2に記載した弾性発泡体を使用し、先端突起7の先端部11から基部8までの長さを15mm、基部8の直径を14mmとし、後方突起9の厚さが10mmで、直径を30mmとした臍ヘルニア治療材。
【0034】
上記した試料1〜9を使用して、以下の試験を行った。
[圧縮応力の試験]
温度23±1℃、相対湿度50±5%の環境下において、引張圧縮試験機(株式会社エー・アンド・デイ製テンシロン)の支持板(圧縮受圧板)の上に、上記試料1〜7は円柱状の一方の円形面が支持板に接触するように配置し、各試料の他方の円形面に接触するように、加圧板(圧縮盤)を圧縮速度30mm/分で移動させて、各試料を5mm圧縮した直後の荷重を測定した。また、試料8,9の綿球は、この綿球を支持版の上に配置し、加圧版を同様に移動させて測定した。
この測定は、各試料について3個ずつ行い、その平均値を臍ヘルニア治療材の圧縮応力(N/12mmφ×5mm)とした。
[測定結果]
それらの測定結果は、表1に記載した。
【0035】
[圧迫力および皮膚刺激の試験]
成人男性5名の腹部皮膚に、試料1〜7では円柱状の端面の円形面が皮膚に接触するように置き、試料8,9では綿球を皮膚に接触するように置き、これを救急絆創膏(ニチバン株式会社製、ケアリーヴ(登録商標)のMサイズ)で固定した。それから24時間後に、各試料を除去して、「圧迫力」及び「皮膚刺激」を、次の基準で評価した。その結果を表1に示す。
【0036】
「圧迫力」についての評価は以下の基準により行った。
可(○) :試料を除去した後の皮膚に、1分以上圧迫痕が残る。
不可(×):試料を除去した後の皮膚の圧迫痕は、1分未満に消失する。
【0037】
「皮膚刺激」についての評価は以下の基準により行った。
可(○) :試料を除去した後の皮膚に、発赤や浮腫などの皮膚刺激所見が見られない。
不可(×):試料を除去した後の皮膚に、発赤や浮腫などの皮膚刺激所見が見られる。
【0038】
[試験結果]
上記「圧迫力」及び「皮膚刺激」についての結果を表1に記載した。
【0039】
[治療材試験]
上記した試料10と試料8を使用して、治療材としての適性試験を行った。
生後3か月以内の臍ヘルニア患者を被験者として、先ず、被験者の臍窩及び臍窩周縁の腹部表面を清潔にした後、臍輪の開存孔から突出したヘルニア部を指にて腹直筋の内側に押し込め、ヘルニア部を開存孔内に収めた状態にした。次に、試料10を、先端突起から臍窩内に挿入し、後方突起の背面の上から粘着テープによって腹部に貼り付けて、試料10の治療材を臍窩に固定した。
試料8の試料についても、上記試料10と同様に臍輪の開存孔から突出したヘルニア部を指にて腹直筋の内側に押し込め、ヘルニア部を開存孔内に収めた状態にし、その上から粘着テープによって腹部に貼り付けて、試料8の治療材を臍窩に固定した。
固定してから5日後、被験者の臍窩から試料10及び試料8の治療材を除去して、この治療材が接触している臍窩や臍窩の周辺皮膚に皮膚刺激などの症状が生じているか等について観察し、評価した。
【0040】
[治療材試験の結果]
試料10の試験片では、後方突起も臍窩内に嵌入されるようになり、臍窩の上部表面と臍窩の周辺皮膚が後方突起の表面と接触している状態に粘着テープで5日間しっかりと固定されていた。これによって、臍輪の開存孔が閉塞した状態を維持することができた。そして、5日後、試験片を除去したところ、これと接触している臍窩や臍窩の周辺皮膚に皮膚刺激などによる変化した症状は見られなかった。
一方、試料8の試験片では、粘着テープでしっかりと固定することができず、臍輪の開存孔が閉塞した状態を3日後には維持することができなかった。5日後、試験片を除去したところ、これと接触している臍窩や臍窩の周辺皮膚に皮膚刺激などによる変化した少しの症状が見られた。
【0041】
【表1】
※圧縮応力:(N/12mmφ×5mm)
【0042】
[考察]
試料1〜5のものは、圧縮応力が8.5〜38.0N/12mmφ×5mmの範囲内にあり、適当な圧縮応力を示しているが、試料6,8,9では0.3〜5.0N/12mmφ×5mmと低いし、試料7では300N/12mmφ×5mmと高すぎて好ましくない。
また、試料1〜5のものは、圧迫力及び皮膚刺激において、いずれも可(○)であって優良な結果を示している。一方、試料6,8,9では、皮膚刺激において可(○)の結果が得られているが、圧迫力の試験において不可(×)であって好ましくない。また、試料7では、圧迫力の試験において可(○)の結果が得られているが、皮膚刺激の試験において不可(×)であって好ましくないことが判る。
上記試料1〜9によるモデル試験によって得られた結果は、本発明の臍ヘルニア治療材においても同様に得ることができるものであり、本発明の臍ヘルニア治療材は、臍窩に固定した際に、皮膚に過度の圧迫力を加えたり、刺激を与えることなく、効果的な押圧作用が得られることが判る。
更に、治療材試験によって、試料10では良好な治療効果が得られたのに対して、試料8では充分な治療効果が得られていないことが示されている。