【実施例1】
【0019】
本発明に係る食品加工物は、おかわかめの葉を、沸騰した炭酸水素ナトリウム水溶液に浸漬しブランチング処理することにより、クロロフィル由来の緑色色素を維持したものであることを特徴とする。また、食品加工物に、食品改良剤を添加してもよい。該食品改良剤はソルビトールを用いて、該ソルビトール含有量が2〜5重量パーセントにすると、シート状の食品加工物を得ることができる。ソルビトールはグルコースを還元し、アルデヒド基をヒドロキシ基に変換して得られる糖アルコールの一種であるが、食品改良剤としても使用される。水分を保持しやすく、冷凍しても変質しなくなるほか、成形後の製品の食感を保持する効果がある。なお、食品改良剤はソルビトールに限定されず、例えば、寒天、ゼラチン、ペクチン、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、カラギーナン、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロース等のうち、単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせた増粘安定剤を使用してもよい。また、粉末状の食品加工物としてもよい。
【0020】
実施例1として、本発明に係るおかわかめの緑色を維持する加工方法の検討を行った。当該検討において、下記試験を行った。以下、試験の結果を説明する。測定は下記条件の下、地方独立行政法人 大阪府立環境農林水産総合研究所(大阪府羽曳野市尺度442)において実施された。ここで、試験に使用されたおかわかめは、グリーン大阪農業協同組合フレッシュクラブ本店(大阪府東大阪市荒本北1丁目5番50号)から提供されたものである。なお、実施例1に係る試験は、試験1〜4として異なる課題をもって行われた。また、
図1に示すとおり、実施例1に係るおかわかめの加工方法は、おかわかめの葉を細かく刻む裁断工程(S11)と、裁断されたおかわかめの葉を、沸騰した炭酸水素ナトリウム水溶液に浸漬しブランチング処理するブランチング工程(S12)と、炭酸水素ナトリウムを冷水で洗い流す洗浄工程(S13)と、おかわかめの葉を乾燥する乾燥工程(S14)を備える。
試験場所:地方独立行政法人 大阪府立環境農林水産総合研究所(大阪府羽曳野市尺度442)食品機能実験室
試験装置:定温恒温乾燥機(NDO-520W)(東京理化器械株式会社)
測定装置:ハンディ型分光色差計(NF777) (日本電色工業株式会社)
【0021】
試験1について説明する。試験1は、茹でる時間が、緑色の変化に対して相関関係があるかどうかについて検討した。
試験区:ゆで時間 0秒、10秒、20秒、30秒、40秒、60秒
結果として、ゆで時間10秒、20秒の葉は、黒い部分が浮き出た。ゆで時間40秒、60秒では、黒い部分はほぼなくなった。
なお、20時間乾燥後の葉を観察すると、黒い部分が残った葉は、黒、または灰色に変色していた。
【0022】
試験2について説明する。試験1の検討において、ゆで時間が短い場合(10秒又は20秒)、葉に黒い部分が残ったものの、黒い部分が抜けた葉は、乾燥しても緑がきれいであることが判明した。そこで、試験2では、葉から黒い部分を抜きとる試験を行う。なお、当該黒い部分は、おかわかめ特有の褐変成分ではないかと見当をつけ、きざんで茹でることにより、葉の組織中に含まれる褐変成分を葉から抜き取りやすくすることにした。なお、おかわかめの葉の組織中にある褐変成分を取り除かなければ、葉の色はきれいな緑色にはならず、乾燥後には灰色または黒色となる。この褐変成分が活性酵素であるならば、クロロフィルの緑色の保持を妨げているとも考えられる。活性酵素を失活させるために適温まで加熱し、前述した黒い部分がどうなるのかを見極めることとした。
試験区:葉をきざむ。
ゆで時間 30秒、60秒→乾燥時間4時間〜6時間
スチーム90℃60秒→乾燥時間4時間〜6時間
結果として、ゆでることにより、葉の緑色部分が多く黒色の部分が少なくなる。スチームでは、水蒸気と熱をかけてもきれいな緑色にはならなかったことから、ゆでることにより水分中に溶出する成分があり、それが葉の色を黒く(灰色)にしているものと考えられる。
【0023】
試験3について説明する。試験3は、ゆでることによって、おかわかめの葉の内部組織中にある褐変成分を取り、またクロロフィルを保つ処理をすることにより、緑色が保持できる方法を探るものである。
試験区:
1.葉をきざみ、1%食酢水溶液で茹でる(ゆで時間60秒)。
2.葉をきざみ、1%食塩水で茹でる(ゆで時間60秒)。
3.葉をきざみ、1%炭酸水素ナトリウム(重曹)水溶液で茹でる(ゆで時間60秒)。
結果:上記試験区において、炭酸水素ナトリウム(重曹)水溶液で茹でると、濃い緑色を保持でき、粉砕工程を経た粉末にしても、緑色はそのまま保持できた。黒くならずきれいな緑色の葉を保持できたのは、おかわかめの葉を炭酸水素ナトリウムで茹でることにより、葉の表面が溶け、葉の内部組織中に存在する褐変成分が、湯の中に溶けだしたことが最も大きな理由であると考えられる。加えて、クロロフィルは炭酸水素ナトリウム(重曹)を加えてゆでるとフィトールが脱けでて緑色のクロロフィリンとなることにより、粉砕工程を経た後も緑色が保持できたものと思われる。なお、酢(酸性水溶液)でゆでると、葉の緑色は黄褐色になった。これは、酢(酸)を加えてゆでるとマグネシウムイオンが酸の水素イオンと置換し、マグネシウムイオンが脱けでて黄褐色のフィオフィチンとなるからであろう。
4.大葉を、1%炭酸水素ナトリウム(重曹)水溶液で茹でる(ゆで時間60秒)。
5.大葉を、1%炭酸水素ナトリウム(重曹)水溶液で茹でる(ゆで時間120秒)。
4と5については、大葉を使用した試験を行った。4については、1%炭酸水素ナトリウム(重曹)で大葉を60秒ゆでると、緑色になるもの一部くすみが残るもの、全く緑色が残らないものができる。しかし、葉の組織中にある褐変成分が抜け緑色だけが残るものが大部分であった。5については、ほぼ全数の大葉で褐変成分が抜け、鮮やかな緑色のみの葉になった。また、粉末でも、4と5において、色の差ははっきりと検出された。下記表1は、色差計を使用して、ブランチング処理後の葉の緑色の変化を示している。表中に示すとおり、L*は明るさ、a*は緑〜赤のレベル(a*値はマイナスの値(絶対値)が大きくなるほど緑色が強くなり、プラスの値が大きくなるほど赤色を呈するものと評価される)、b*は青〜黄のレベルを示している(b*値はプラスの値が大きくなるほど黄色が強くなり、マイナスの値(絶対値)が大きくなると青色を呈するものと評価される)。
この色差計による測定において、1%炭酸水素ナトリウム水溶液で120秒ゆでると、a*値が最も低い値となり、緑色が保持できることがわかった。また、本発明における緑色は緑色が濃く残り、黄色の変色が小さいことが理想とする緑色であることから−a*/b*の値で表現することが最適である。−a*/b*の値が大きいものほどより深い緑色である。葉の厚さが厚い物は褐変成分が抜けにくく、またより深い緑色になった。褐変成分を確実に抜き取るには、ゆで時間を長くする、きざんでからゆでるなどが効果的であった。
【表1】
【0024】
試験4について説明する。試験4は、炭酸水素ナトリウム水溶液の濃度とゆで時間を変えることにより、おかわかめの葉の緑色の保持を比較し、その相関を探るものである。この試験は、沸騰した炭酸水素ナトリウム水溶液1リットルに対し、おかわかめ葉を略50gゆでた結果である。ゆでた後のおかわかめ葉を乾燥し粉砕したおかわかめ粉末を色差計で測定した。その結果、表2の数値を得た。
図5は、表2に基づくグラフであって、炭酸水素ナトリウム水溶液の濃度と処理時間とがおかわかめの葉の緑色(−a*/b*値)に与える影響を示すグラフである。すなわち、
図5は、色差計を使用して、ブランチング処理後のおかわかめの葉の緑色の変化を示している。なお、試験4において、色差計として、日本電色工業株式会社のハンディ型分光色差計(NF777)を用いて、L*、a*、b*の各値の測定を行い、これらの測定値から−a*/b*値、−L*b*/a*値(黄化度)を計算した。おかわかめの葉の緑色は緑色が濃く残り、黄色の変色が小さいことが理想とする緑色であることから−a*/b*の値で表現することが最適である。
【表2】
図5を参照しながら、詳細に試験結果を説明する。試験に使用する炭酸水素ナトリウム水溶液は、濃度を0%、0.5%、1%、2%、3%と5種類準備し、これら5種類の炭酸水素ナトリウム水溶液それぞれについて茹で時間を変えながら、おかわかめの葉の緑色の変化を色差計で計測した。ついては、ブランチング処理時間を30秒、60秒、120秒、300秒とした。表2より、炭酸水素ナトリウム濃度1%、処理時間1800秒ゆでた時は、−a*/b*値は0.4以上を保持できるものの、処理時間を延長しても−a*/b*値は向上せず、むしろ、葉が煮詰まってしまい葉崩れを起こした。以上の結果から、
図5に示すとおり、炭酸水素ナトリウム水溶液濃度が1%以上であり、ブランチング処理時間が60秒以上であることが緑色を保持する条件であることが判明した。また、好ましくは、炭酸水素ナトリウム水溶液の濃度は略1%であり、処理時間は略120秒であった。
【実施例4】
【0028】
実施例4を図面を参照して詳細に説明する。実施例4においては、おかわかめのシート状の食品加工物を試作した。
図4は、本発明に係る食品加工物でシート状形成体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0029】
当初は、茹でた葉をミキサーで粉砕後シート状にして乾燥したり、あるいは、茹でた葉を包丁で細かく刻みシート状にしたりして乾燥したが、単に乾燥しただけでは、シートになっても非常に割れやすいことがわかった。そこで、おかわかめのシート状食品加工物に柔軟性をもたせる検討を行った。
試験区:
・3%トレハロース添加
・3%ソルビトール添加
結果として、3%トレハロース添加は、割れやすく柔軟性を持たせる効果はなかったが、3%ソルビトール添加では、柔軟性を備えた。しかし、2%ソルビトール添加では、柔軟性が不足した。以上のことから、3%以上のソルビトール添加で、シートとして利用できる可能性があると思われる。
【0030】
実施例4に係る食品加工物の製造方法は、おかわかめの葉を細かく刻む裁断工程(S41)と、裁断されたおかわかめの葉を、沸騰した炭酸水素ナトリウム水溶液に浸漬しブランチング処理するブランチング工程(S42)と、炭酸水素ナトリウムを冷水で洗い流す洗浄工程(S43)と、洗浄されたおかわかめの葉と食品改良剤とを混合する食品改良剤混合工程(S44)と、所定の厚みに圧延する圧延工程(S45)と、この圧延されたおかわかめシートを乾燥する乾燥工程(S46)と、を備える。
【0031】
以上、本発明のおかわかめを材料とする食品加工物とその製造方法の構成例における好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。