(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871702
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】両面編地
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20210426BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
D04B1/00 B
D04B1/16
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-184364(P2016-184364)
(22)【出願日】2016年9月21日
(65)【公開番号】特開2018-48419(P2018-48419A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岸田 恭雄
(72)【発明者】
【氏名】八木 優子
【審査官】
川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−037684(JP,A)
【文献】
特開2011−063896(JP,A)
【文献】
実開平01−149486(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3168239(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 1/00
D04B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維マルチフィラメントからなる両面編地であって、前記両面編地の裏面層は0.6mm以上1.0mm以下の凹凸を有し、前記両面編地は表面層から裏面層に通ずる0.02mm2以上0.4mm2以下の通気孔を有し、250%湿潤時の引上げ抵抗力が10cN以下、かつ250%湿潤時の通気抵抗が0.5kPa・s/m以下であることを特徴とする発汗時の肌離れ性に優れた両面編地。
【請求項2】
異形断面糸で表面層が形成されてなることを特徴とする請求項1記載の発汗時の肌離れ性に優れた両面編地。
【請求項3】
実質的に捲縮を有さない糸条で裏面層の一部が形成されてなることを特徴とする請求項1または2記載の発汗時の肌離れ性に優れた両面編地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動などの大量発汗時においても、肌離れ性に優れた両面編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、運動時の肌離れを考慮した編地は、種々提案されている。
【0003】
特許文献1には、2層以上からなる編物で、糸クリンプを有する撥水性のある合成繊維マルチフィラメントが編物の裏層の総ループ数の20〜80%を構成している編物が記載されており、発汗時に肌との接触における冷感が高く、編地が吸収した液相の汗を速やかに拡散・乾燥させるとともに、肌離れ性が良く、ベトつきが少ない快適な衣料用編物が提案されている。
【0004】
特許文献2には、裏層表面が撥水性のある疎水性合成繊維からなる凸部と撥水性のない疎水性合成繊維からなる部分を含み、表層表面が撥水性のない疎水性合成繊維からなる部分を含む編地で、裏層表面の隣り合う凸部間の距離、および頂点高さを特定範囲とし、裏層の撥水性のある疎水性合成繊維のループもしくは撥水性のない疎水性合成繊維のループ、または表層の前記撥水性のない疎水性合成繊維のループの少なくともいずれかが編地のコース方向に連続した導水構造を持つ編地が記載されており、大量の発汗時においても編地が吸収した大量の液相の汗を速やかに編地外に排出する性能を持つとともに、肌離れ性が良く、ベトつきが少ない快適な衣料用編地が提案されている。
【0005】
特許文献3には、撥水性繊維から構成される編物で、該編物のコース方向及びウエ−ル方向のうち、少なくともいずれか一方向のストレッチ率が15%以上であり、且つその表面が該撥水性繊維の切断毛羽で覆われている撥水性編物が記載されており、編物の通気度を10〜340cc/cm2 ・secに規定することにより、湿潤した際の運動拘束性が低く、撥水性が良好で、スポーツウエアや作業着などのアウトドア分野の衣料に適した編物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−49929号公報
【特許文献2】特開2011−226026号公報
【特許文献3】特開平9−195172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に開示された手法は、通常レベルの発汗状態では、編地に水分を保持させず、速く乾燥させるという考えのもと、撥水性の素材を使用することで、べとつきが少なくなるという一定の効果は認められる。しかしながら、いずれも撥水性の素材を使用しているため、乾燥時や少量の発汗時には良好な通気性を有するものの、本発明者らの検討では、一般的に通気性が高いといわれている所謂メッシュ生地でも、大量発汗時には、通気性が著しく低下することが分かった。この理由は後述するが、大量発汗時には、通気性の低下により、編地の肌離れ性が著しく低下し、不快感が生じるという問題があった。
【0008】
本発明は、マラソンやサッカーなどの激しい運動における大量発汗時(例えば、300mL/m
2など)の肌離れ性に優れた編地を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、特定の両面編地において、裏面層に特定の凹凸を有し、かつ表面層から裏面層に通ずる特定の通気孔を有することで、大量発汗時でも肌離れ性に優れた編地となることを見出し、さらに検討を進めて本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(3)を要旨とするものである。
(1)合成繊維マルチフィラメントからなる両面編地であって、前記両面編地の裏面層は0.
6mm以上1.0mm以下の凹凸を有し、前記両面編地は表面層から裏面層に通ずる0.02mm
2以上
0.4mm2以下の通気孔を有し、250%湿潤時の引上げ抵抗力が10cN以下、かつ250%湿潤時の通気抵抗が0.5kPa・s/m以下であることを特徴とする発汗時の肌離れ性に優れた両面編地。
(2)異形断面糸で表面層が形成されてなることを特徴とする(1)記載の発汗時の肌離れ性に優れた両面編地。
(3)実質的に捲縮を有さない糸条で裏面層の一部が形成されてなることを特徴とする(1)または(2)記載の発汗時の肌離れ性に優れた両面編地。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、運動などにおける大量発汗時でも、肌離れ等に優れた編地を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は合成繊維マルチフィラメントからなる両面編地である。両面編地とすることで、表面と裏面(肌面)の組織、糸構成を最適なものにすることができるとともに、大量に発汗した場合でも、汗を吸収する能力が高いため、発汗時の肌離れを良好にすることが可能となる。
【0014】
本発明に使用する繊維は、繊維内部に水分を保持させない観点から、合成繊維マルチフィラメントで構成されていることが必要であり、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ポリマー;ポリ4フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー;PLA(ポリ乳酸)やPBS(ポリブチレンサクシネート)等のバイオマス由来モノマーを化学的に重合してなるバイオマスポリマー;これらのポリマーを構成するモノマーの2種以上からなる共重合体等が挙げられる。なお、本発明では、合成繊維マルチフィラメントのみで構成されていることが好ましいが、効果を阻害しない範囲内で、合成繊維スパン糸や綿、麻などの天然繊維を使用してもよい。
【0015】
本発明の両面編地は、保水率が200%以上であることが好ましく、200%以上400%以下であることがより好ましく、250%以上400%以下であることがよりいっそう好ましく、300%以上400%以下であることが特に好ましく、350%以上400%以下が最適に好ましい。保水率を200%以上とすることで、大量に発汗した際にも、汗の処理能力が高く編地の空隙が塞がれにくいため、通気性が阻害されにくく、肌離れ性を良好にすることができる。該保水率は、両面編地の各面の組織、糸構成等を最適なものにすることにより調整することができる。
【0016】
本発明の両面編地は、裏面層に0.1mm以上1.0mm以下の凹凸を有することが必要であり、0.3mm以上1.0mm以下が好ましく、0.5mm以上1.0mm以下がより好ましく、0.6mm以上0.9mm以下が特に好ましい。裏面層に0.1mm以上1.0mm以下の凹凸を付与する方法としては特に制限されないが、編地の肌面を点接触や経畝など、汗を処理しやすい組織にする方法や、肌面に嵩高な糸を部分的に使用して凹凸を付与する方法などが挙げられる。
【0017】
本発明の両面編地は、表面層から裏面層に通ずる0.02mm
2以上の通気孔を有することが必要であり、0.08mm
2〜0.40mm
2が好ましく、0.15mm
2〜0.40mm
2がより好ましく、0.20mm
2〜0.40mm
2が特に好ましい。表面層から裏面層に通ずる0.02mm
2以上の通気孔を付与する方法は特に制限されないが、メッシュなどの組織で形成する方法や、水、アルカリに可溶な糸で組織の一部を形成し、後工程で溶解させる方法などが挙げられる。なお、表面層から裏面層に通ずる通気孔の大きさは、後述する方法で測定する。
【0018】
本発明者らの検討では、例えば、メッシュ生地のような通気性が良好といわれている編地であっても、運動時などで大量に発汗した場合、編地上に大量の水分が存在することにより、編地の通気孔が水分で塞がれ、さらには水分が編地で膜状となることで、肌と生地がはりつく現象が生じ、不快感が生じることが分かった。本発明者らは、この現象を改善するため、汗処理機能に着目し、従来、種々検討されているような肌面に凹凸をつけるだけでなく、表面層から裏面層に通ずる特定の通気孔を付与することで、はりつき現象を大幅に低減できることを見出した。すなわち、単に肌面の汗処理機能だけを向上させても、大量発汗時には水分が生地で膜状となり肌離れ性が向上しにくいため、空気を取り入れることで飛躍的に肌離れ性を向上させるものである。
【0019】
さらに、本発明の両面編地は、250%湿潤時の引上げ抵抗力が10cN以下であることが必要であり、9cN以下が好ましく、8cN以下がより好ましい。250%湿潤時の引上げ抵抗力が10cN以下であることにより、実際の着用時の大量発汗を想定した水分量において、肌離れ性が良好であり、はりつきによる不快感が解消され得る。
【0020】
該250%湿潤時の引上げ抵抗力は、20cm角のアクリル板に10cm角の編地を載せ、250質量%湿潤に相当する水分を付与したのち、編地ごとアクリル板を90°に立て、30秒後に編地の中心部を引張試験機で引上げたときの荷重とする。なお、250%湿潤とは、生地質量の250質量%分の水分量を生地の中心部分に付与し1分間放置した後の生地の状態を示し、たとえば目付が140g/m2の編地であれば、10cm角の正方形の場合、生地重量が1.4gであるため、3.5gの水分を生地の中心部分に付与し1分間放置すれば良い。
【0021】
加えて、本発明の両面編地は、250%湿潤時の通気抵抗が0.5kPa・s/m以下であることが必要であり、0.3kPa・s/m以下が好ましく、0.2kPa・s/m以下がより好ましく、0.1kPa・s/m以下が特に好ましい。250%湿潤時の通気抵抗が0.5kPa・s/m以下であることにより、大量発汗時でも通気性が妨げられることなく、生地上で水分が膜状とならないため、肌離れ性が良好となる。
【0022】
該通気抵抗は、カトーテック株式会社製KES通気性試験機を使用し、一定流量4cm
3/cm
2・sのときの通気抵抗を測定する。なお、本発明では、編地の通気度を測定する際に一般的に使用されているフラジール法による通気量ではなく、KES通気性試験機を使用する。フラジール法では、一定の圧力差を付与したときの通気量で測定するため、乾燥時や少量の湿潤時には良好な測定が可能であるが、大量発汗時に通気性が悪い編地で、編地の隙間が水分で埋められていても、測定時には差圧により水分が飛ばされることにより、数値の上では通気性に優れるデータが得られてしまうためである。これに対し、KES通気性試験機は、一定流量を与えたときの通気抵抗であるため、大量発汗時には、実際の着用時に近いデータが得られるためである。
【0023】
本発明の両面編地においては、前述の編地組織等を満足することにより、従来の肌面の水分の処理能力のみを重要視した編地ではなく、水分の処理能力と通気性等との相乗効果を考慮したものであるため、実際の着用との相関が十分なものとなる。
【0024】
本発明の両面編地は、吸水加工が施されていることが好ましい。従来の編地は撥水加工を施すことにより繊維自体が水分を保持しないようにして肌離れ性能を向上しようとするものであるが、この方法では、繊維自体が水分を保持せず、単フィラメント間や組織間、すなわちマルチフィラメントの間隙に水分を追いやることで、例えばいわゆるメッシュ編地においては、乾燥時には通気性を有するものの、特に大量に発汗した際には、編目間が水の膜で覆われ、通気性が阻害されてしまうため、結果として肌離れ性が悪化してしまう。
【0025】
また、本発明の両面編地は、異形断面糸で表面層が形成されてなることも好ましい。該異型断面糸による毛細管現象により、肌面からの汗を表面層にすばやく吸い上げるため、肌離れ性がより良化する。該異形断面糸としては、三角、星形、W型、櫛形、不定形などが挙げられる。
【0026】
さらに、本発明では、実質的に捲縮を有さない糸条で裏面層の一部が形成されてなることが好ましい。このような糸条は、単フィラメント間で捲縮の隙間に水分を保持しにくく、表面に水分を移行させやすいため、肌離れがさらに良くなり、快適性が向上する。なお、実質的に捲縮を有さないとは、捲縮を全く有していないか、捲縮をほとんど有していないことをいい、JIS L−1013−8.11伸縮性A法に従って測定したときの伸縮伸長率が10%以下であることをいう。
【0027】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0028】
実施例、比較例における各測定方法及び評価方法は以下の通りである。
【0029】
(1)裏面層の凹凸の大きさ
編地の断面を5箇所撮影し、各写真とも5箇所の凹凸を測定したときの平均値で算出する。
【0030】
(2)通気孔の大きさ
編地の下に黒色または白色のシートを敷き、上面からマイクロスコープで撮影したときに確認できる隙間の大きさを画像処理で測定し、20箇所の平均値で算出する。なお、編地が濃色の場合は、白色のシート、編地が淡色の場合は、黒色のシートが隙間を測定しやすく、色目によって測定しやすい方を適宜選定すればよい。
【0031】
(3)肌離れ性
対象の編地でJASPO規格のMサイズのTシャツを作製し、日常でMサイズを着用している10名のパネラーに、ランニングマシーンで30分のランニングをしてもらい、肌離れ性について、良好であったものを〇、普通であったものを△、悪かったものを×として評価した。なお、総合判定は、○と評価した人数が10名の場合は◎、8〜9名の場合は〇、5〜7名の場合は△、4名以下の場合は×とした。
【0032】
(4)保水率
編地を20cm角の正方形に裁断し、20℃±1の水に10分間に浸漬した後、水中から取り出し、10分間吊干しを行う。浸漬前の生地の重量をW1、浸漬後吊干しを行った生地の重量をW2とし、下記計算式で保水率を算出する。
保水率(%)=100×(W2−W1)/W1
【0033】
<実施例1>
表面層を主として84デシテックス36フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用い、福原精機社製の丸編機LPJ33“×28Gで、タックすることにより、コース、ウェールとも1cm間に1個の通気孔を作製し、一方、裏面は針抜き組織にし、畝の部分に84デシテックス36フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いて、常法により、染色、浴中吸水加工を行い、本発明の編地を得た。なお、通気孔の大きさは、仕上げ加工により調整した。
【0034】
<実施例2>
表面に使用する糸として、ユニチカ株式会社社製73デシテックス44フィラメントの不定形断面糸(商品名:ルミエース)を仮撚加工した不定形断面仮撚加工糸を使用する以外は、実施例1と同様に、編立、染色、浴中吸水加工を行い、本発明の編地を得た。
【0035】
<比較例1>
タック組織を作らない以外は、実施例1と同様に、編立、染色、浴中吸水加工を行い、比較用の編地を得た。
【0036】
<比較例2>
84デシテックス36フィラメントのポリエステル仮撚糸として、フッ素系撥水剤に浸漬後、乾燥した撥水加工糸を使用する以外は、実施例と同様に、編立、染色、浴中吸水加工を行い、比較用の編地を得た。
【0037】
実施例1、2、および比較例1、2の性能評価結果を表1に示す。
【0039】
実施例1の編地は、本発明の構成を有することにより、引上げ抵抗力、通気抵抗とも良好で、肌離れ性にも優れていた。また、実施例2の編地は、表面に不定形断面仮撚加工糸を使用することにより、実施例1よりも、引上げ抵抗、通気抵抗が低く、肌離れ性がさらに優れていた。一方、比較例1の編地は、通気孔が小さく、引上げ抵抗、通気抵抗とも悪く、肌離れ性も悪いものであった。比較例2の編地は、撥水糸を使用したことにより、大量の水分で通気孔が塞がれたため、特に通気抵抗が悪くなり、肌離れ性の悪いものであった。