特許第6871703号(P6871703)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871703
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】編地
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20210426BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   D04B1/00 B
   D04B1/16
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-184365(P2016-184365)
(22)【出願日】2016年9月21日
(65)【公開番号】特開2018-48420(P2018-48420A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】八木 優子
(72)【発明者】
【氏名】副島 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】岸田 恭雄
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−131000(JP,A)
【文献】 特許第6679230(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 1/00
D04B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維マルチフィラメント糸からなる、少なくとも肌面に向ける面に撥水剤を含有しない両面編地であって、前記両面編地の裏面層は0.1mm〜1.0mmの凹凸を有し、前記両面編地は表面層から裏面層に通ずる0.08mm〜0.40mmの通気孔を有し、前記両面編地は目付けが200g/m以下であり、かつ以下の構成を満足することを特徴とする編地。
1)編地に300mL/mの水分を付与したときの引き上げ抵抗力が8cN以下である。
2)JIS L1907に記載の滴下法により測定した初期の吸水性が1秒以下であり、かつJIS L0217 103法に基づく洗濯を1回実施した後の前記滴下法に基づく吸水性が3秒以下であり、前記洗濯を5回繰り返した後の前記滴下法に基づく吸水性が5秒以下である。
3)JIS L0217 103法に基づく洗濯を5回繰り返した編地について、残留水分率が10%以下になる時間が55分以下である。
【請求項2】
合成繊維マルチフィラメント糸がポリエステルマルチフィラメント糸であることを特徴とする請求項1に記載の編地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性に優れると共に大量の汗を吸収したときでも肌に貼りつき難く、スポーツウエアなどに特に好適な編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
汗を介して衣服が肌に密着すると、ベタツキ感を感じるだけでなく、衣服と身体との動きが追随し難くなり、快適性や機能性の点で支障を来すことがある。そこで、従前より、発汗時における衣服の貼りつき感を抑える工夫が、幾つか提案されている。
【0003】
特許文献1には、撥水加工を施した繊維と水を吸収する繊維とからなる糸条が主として編物の裏面を構成し、水を吸収する繊維からなる糸条が主として該編物の表面を構成してなる編地が記載されている。
【0004】
特許文献2には、2層以上からなる編地で、糸クリンプを有する撥水性のある合成繊維マルチフィラメントが編地裏層の総ループ数の20〜80%を構成している編地が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−331747号公報
【特許文献2】特開2013−49929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載されている編地は、編地裏面(肌側)の一部を撥水性繊維とすることにより、編地裏面で吸収した汗を速やかに編地表面に拡散させ、肌側に残留する汗を少なくすることにより、べたつき感を抑制するものである。本発明者らの検討によると、上記のような編地は、通常量の発汗等による肌離れ性には効果が見られるものの、大量の発汗時(例えば、300mL/m2)においては、効果が不十分であった。
【0007】
そこで、本発明者らは、布帛そのものに所望の肌離れ性を付与する試みを検討した。具体的には、メッシュ組織の孔を大きくすることで、換気機能を向上させた編地を検討したところ、300mL/m2ものの大量発汗時には、孔が汗で塞がれ易くなることがわかり、メッシュ組織の孔を単に大きくしたというだけでは、所望の肌離れ性は得られないことが分かった。
【0008】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべくさらに鋭意検討したところ、編地裏面の一部を撥水処理する従来手法とは全く異なる、編地裏面(肌面)に撥水剤を有しない特定の両面編地とすることにより、吸水性に優れるとともに大量の汗を吸収したときでも、肌離れに優れる編地となることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(2)を要旨とするものである。
(1)合成繊維マルチフィラメント糸からなる、少なくとも肌面に向ける面に撥水剤を含有しない両面編地であって、前記両面編地の裏面層は0.1mm〜1.0mmの凹凸を有し、前記両面編地は表面層から裏面層に通ずる0.08mm〜0.40mmの通気孔を有し、前記両面編地は目付けが200g/m以下であり、かつ以下の構成を満足することを特徴とする編地。
1)編地に300mL/mの水分を付与したときの引き上げ抵抗力が8cN以下である。
2)JIS L1907に記載の滴下法により測定した初期の吸水性が1秒以下であり、かつJIS L0217 103法に基づく洗濯を1回実施した後の前記滴下法に基づく吸水性が3秒以下であり、前記洗濯を5回繰り返した後の前記滴下法に基づく吸水性が5秒以下である。
3)JIS L0217 103法に基づく洗濯を5回繰り返した編地について、残留水分率が10%以下になる時間が55分以下である。
(2)合成繊維マルチフィラメント糸がポリエステルマルチフィラメント糸であることを特徴とする(1)記載の編地。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る編地は、吸水性に優れると共に大量の汗を吸収したときでも肌に貼りつき難く、スポーツウエアなどに特に好適な編地である。十分な吸水性を有していながら速乾性にも優れた編地であって、布帛の表層と裏層とを貫通する通気孔を有し、裏面に特定の凹凸構造を有することで肌と点接触状態を作り出し、運動に追随したふいご作用をもって肌離れ性を具現できる編地を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一例に係る肌離れ性の測定方法の模式図である。
図2】実施例1の編組織図である。
図3】比較例1の編組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の編地は、合成繊維マルチフィラメントからなる両面編地であり、少なくとも肌面に向ける面に撥水剤を含有しない両面編地である。該両面編地にすることで、表面と肌面の組織、糸構成を最適なものにすることができるとともに、大量に発汗した場合でも、汗を吸収する能力が高いため、発汗時の肌離れを良好にすることが可能となる。
【0014】
本発明の合成繊維マルチフィラメントは、合成繊維から構成されるマルチフィラメントであれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ポリマー;ポリ4フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー;PLA(ポリ乳酸)やPBS(ポリブチレンサクシネート)等のバイオマス由来モノマーを化学的に重合してなるバイオマスポリマー;これらのポリマーを構成するモノマーの2種以上からなる共重合体等からなる合成繊維マルチフィラメントが挙げられる。
【0015】
本発明の編地は、合成繊維マルチフィラメントのみで構成されていることが好ましいが、効果を阻害しない範囲内で、合成繊維スパン糸や綿、麻などの天然繊維を含んでも良い。
【0016】
本発明の編地の表層を構成する合成繊維マルチフィラメントの断面形状は特に限定されないが、肌離れ性向上の観点から、異形断面形状であることが好ましい。異形断面形状としては、三角断面形状、星形断面形状、W型断面形状、櫛形断面形状、不定形などが挙げられる。異形断面形状とすることにより、毛細管現象により肌面から吸収した汗を表層にすばやく吸い上げるため、肌離れ性がより向上する。
【0017】
本発明の編地は、より良好な肌離れ性の観点から、実質的に捲縮を有さないマルチフィラメントで裏層の一部が構成されてなることが好ましい。実質的に捲縮を有さないマルチフィラメントで裏層の一部を形成することにより、捲縮を有するマルチフィラメントで構成されるのに比べ、単フィラメント間で捲縮の隙間に水分を保持しにくく、表層に水分を移行させやすい。なお、実質的に捲縮を有さないとは、捲縮を全く有していないか、捲縮をほとんど有していないことをいい、JIS L−1013−8.11伸縮性A法に従って測定したときの伸縮伸長率が10%以下であることをいう。
【0018】
本発明の編地は、少なくとも肌面に向ける面に撥水剤を含有しない両面編地である。従来技術は、肌面に向ける面に撥水性繊維を一部に用いることにより、水分が撥水性繊維表面から逃げて編地の編目間に追いやられ肌面に向ける面の水分が少なくなるため肌離れ性が向上するものである。しかし、該メカニズムでは、例えばメッシュ組織のような通気性が良好な編地であっても、大量の発汗時(例えば、300mL/m2相当の発汗)には、追いやられた大量の水により、編目間が水の膜で覆われるため肌離れ性の向上につながらないことを本発明者は見出した。そして、逆に、少なくとも肌面に向ける面に撥水剤を含有しない編地とし編構成を最適化することにより、肌面から汗を素早く吸収し、後述する編地特性とすることで表層に拡散することで肌離れ性を向上させることを見出した。
【0019】
本発明の編地は、300mL/m2の水分を付与したときの引き上げ抵抗力が8cN以下であり、7cN以下が好ましく、6cN以下がより好ましく、5cN以下がよりいっそう好ましい。
【0020】
本発明の編地は、裏層に凹凸を有し、且つ表層から裏層に通ずる通気孔を有する組織であることが好ましい。
【0021】
裏面層の凹凸の大きさは、0.1mm〜1.0mmであることが好ましく、0.1〜0.6mmであることがより好ましく、0.15〜0.4mmがよりいっそう好ましい。裏面層の凹凸の大きさを、0.1mm〜1.0mmとすることにより、編地と肌面との点接触の効果が適度なものとなり、また、裏面層のざらつきが大きくなることによる着用時の不快感を抑えることができる。
【0022】
裏層に凹凸を付与する方法は特に限定されないが、例えば裏層を点接触や経畝など、汗を処理しやすい組織にする方法、水、アルカリに可溶な糸で組織の一部を形成し、後工程で溶解させる方法、編地の裏層に総繊度の異なる太い糸条及び/又は嵩高な糸を部分的に使用する方法、収縮率の異なる糸条を使用し、加工工程中に糸条に収縮差を付与する方法等が挙げられる。
【0023】
本発明の編地は、表層から裏層に通ずる通気孔の大きさは、0.06mm2以上であることが好ましく、0.08mm2〜0.40mm2がより好ましく、0.15mm2〜0.40mm2がよりいっそう好ましく、0.20mm2〜0.40mm2が特に好ましい。
【0024】
表層から裏層に通ずる0.06mm2以上の通気孔を付与する方法も特に制限されないが、メッシュなどの組織で形成する方法や、水、アルカリに可溶な糸で組織の一部を形成し、後工程で溶解させる方法などが挙げられる。この表層と裏層に通ずる通気孔を形成する編地のループに実質的に捲縮を有さない糸条を配置することにより、染色加工工程を経ても通気孔がつぶれにくく、通気性を保つことができる。ただし、通気孔を形成する編地のループに捲縮を有する糸条を使用した場合であっても特定の大きさのループの目を形成させ、通気孔を設けることにより、ふいご作用による良好な肌離れ性を得ることができるため、構わない。なお、表層から裏層に通ずる通気孔の大きさは、後述する方法で測定する。
【0025】
本発明者らは、前述の裏面層の凹凸や表層から裏層に通ずる通気孔を設けるなどすることにより、後述するこの現象を改善するため、汗処理機能に着目し、従来、種々検討されているような肌面に凹凸をつけるだけでなく、表層から裏層に通ずる特定の通気孔を付与することで、はりつき現象を大幅に低減できることを見出した。すなわち、単に肌面の汗処理機能だけを向上させても、水分が生地で膜状になった状態では肌離れ性が向上しにくいが、空気を取り入れることで飛躍的に肌離れ性を向上させることができる。
【0026】
本発明の編地の目付けは、200g/m2以下が好ましく、60〜180g/m2がより好ましく、80〜160g/m2がよりいっそう好ましい。目付を200g/m2以下とすることにより、大量の汗を吸収した際に編地自体が重くなったり、運動する上で支障が生じ足りすることが無く、スポーツウエアなどにより好適な編地とすることができる。
【0027】
本発明の編地は、吸水加工が施されていることが好ましい。従来の編地は、撥水加工を施すことにより繊維自体が水分を保持しないようにして性能を向上しようとするものであるが、この方法では、繊維自体が水分を保持せず、単フィラメント間や組織間、すなわちマルチフィラメントの間隙に水分を追いやることで、例えばいわゆるメッシュ編地においては、乾燥時には通気性を有するものの、特に大量に発汗した際には、編目間が水の膜で覆われ、通気性が阻害されてしまい、結果として肌離れ性が悪化してしまう。したがって、本発明では少なくとも肌面に向ける面に撥水剤を含有しない布帛であることが必要であり、布帛の全面に吸水加工が施されていることが好ましい。
【0028】
吸水加工の方法としては任意の方法で良く、例えば染色浴中吸水加工や仕上工程でのパディング加工が挙げられるが、吸水性の耐久性を付与するために染色浴中吸水加工が好ましい。また、染色浴中吸水加工後の布帛に仕上工程でパディングによる吸水加工を行っても構わない。十分な吸水加工を行うことで大量に発汗した場合でも、汗を吸収する能力が高いため、発汗時の肌離れを良好にできる。さらに、耐久性のある吸水加工を行うことで、繰り返し洗濯を行った後でも良好な肌離れ性を保つことができ、実使用の場面で繰り返し着用しても快適な着用感を得ることができる。
【0029】
<肌離れ性評価>
本発明の編地の肌離れ性の評価方法を詳述する。
本発明の編地は発汗時の肌離れ性が良好であることが求められる。肌離れ性は肌離れ性測定における引き上げ荷重として算出され、この引き上げ荷重を引き上げ抵抗力として評価する。肌離れ性測定は、発汗時を模倣して、測定する編地に水分が付与された状態で測定を行う。本発明者は本発明にかかる肌離れ性測定において種々の布帛を測定したところ、引き上げ抵抗力が低くなればなるほど、大量に発汗した際の肌離れ性が良好になることが判明した。引き上げ抵抗力は編地に付与する水分量によって異なるが、編地1m2当たり300mlの水分を付与した場合は引き上げ抵抗力が8cN以下であると肌離れ性が優れており、飽和水分量以上の水分を付与したときの引き上げ抵抗力が80cN以下であると肌離れ性が良好であることが確認できた。ここで言う飽和水分量以上の水分とは、編地が大量に汗を吸収し、編地から雫は落ちないけれども、べったりと濡れた状態のときの水分量のことであり、測定する編地のよって水分量が異なるが、たとえば目付140g/m2程度の編地であれば、およそ400〜600ml/m2程度の水分量となる。飽和水分量以上の水分を編地に付与する方法については後述する。
【0030】
編地1m2当たり300mlの水分を付与した場合の引き上げ抵抗力が8cNより大きい、又は/及び飽和水分量以上の水分を付与した場合の引き上げ抵抗力が80cNより大きいと、実着用の場面で編地が肌に貼り付き、肌離れ性が悪く、不快感が生じるということが本発明者の検討により明らかとなった。
【0031】
本発明に係る肌離れ性の評価方法は、重心に引き上げ具が取り付けられ、水が付与された状態で平板に載置された編地を該引き上げ具で編地を垂直方向に引き上げて、引き上げ荷重を測定する方法である。従来、肌離れに関する各種提案がなされているが、いずれも肌面の水分の処理能力のみを重要視しており、通気性との相乗効果を考慮していないため、たとえ機器による性能評価では良好な数値が得られていても、実際の着用との相関が不十分となり、実際の着用状況では、肌離れ性が悪くなってしまう。「ふいご作用」が有効に奏せられるためには、吸水した編地が肌に対して垂直方向に動きやすいか否かであり、本発明者はこの点に着目し、吸水した編地が垂直方向に動くときの果汁を測定することにより肌離れ性を測定した。
【0032】
測定に使用する編地の形状は任意であるが、一般的には正方形又は円形であるのが好ましい。本発明に係る測定方法において、引き上げ荷重は吸水した編地の重量と、編地と平板と間に存在する水による表面張力に依存するから、その重心が決定しやすく、重心から端縁までの長さがほぼ同じである正方形又は円形が好ましい。
【0033】
測定に使用する編地の重心には引き上げ具が取り付けられる。引き上げ具としては、編地の重心に固定し得るものであれば任意に採用し得る。具体的には、伸縮性部材及び/又は非伸縮性部材を用いる。ここで、伸縮性部材とは比較的低い荷重である引き上げ荷重が負荷されたときに伸び、この引き上げ荷重を取り去ると縮む部材である。一般的に輪ゴム等のゴムが用いられる。非伸縮性部材とは、比較的低い荷重である引き上げ荷重が負荷されても実質的に伸びない部材のことである。一般的にはミシン糸等の紡績糸、マルチフィラメント糸又はモノフィラメント糸が用いられる。伸縮性部材又は非伸縮性部材を重心に取り付けるには、一般的には縫い針を用いて、編地の重心の表面に通して取り付ければよい。この際、縫い針が裏層に至らないようにして、重心の表層のみに伸縮性部材又は非伸縮性部材を取り付けるのが好ましい。なぜなら、吸水した編地の重心の裏面は平板と当接する面であるから、この裏面に伸縮性部材又は非伸縮性部材が露出していると、この露出の影響で引き上げ荷重の測定に悪影響を与える恐れがあるからである。伸縮性部材と非伸縮性部材とは、両者を長手方向に繋いで引き上げ具とすることができる。例えば、糸の一方端に輪ゴムを繋いでもよく、糸の輪と輪ゴムとを繋いでもよい。そして、糸を測定する編地の重心に取り付けて引き上げ具としてもよい。
【0034】
肌離れ性を測定する際、測定する編地には水分が付与される。水の付与量は任意であるが、一般的に1m2当たり300ml程度の付与量であるのが好ましい。1m2当たりの水分付与量が300mlよりも極端に少ないと実着用の場面で布帛が肌に貼りつく不快感が生じる状態を再現できておらず、300mlよりも極端に多いと測定する編地が水分を吸収することができないため、300ml程度であることが好ましい。また、布帛が大量の汗を吸収し、肌から汗がつたい落ちるような実着用の場面を模倣して、測定する編地に水を過剰に付与してもよい。ここで過剰とは編地が完全に保水できず雫が落ちる量のことを意味する。過剰の水が付与された編地は平板と共に垂直にして雫を切る。雫を切るには、垂直にして一定時間(たとえば60〜120秒)保持していれば十分である。これによって、編地が大量に汗を吸収したときの状態(雫は落ちないけれども、べったりと濡れた状態)を模した状態となる。雫を切った後、編地及び平板を水平にする。水の付与は、測定する編地を載置した後であってもよいし、平板に載置する前であってもよい。平板としても任意のものを用いうるが、一般的に、表面が平滑なアクリル板、金属板、石板又はシリコーン樹脂製板(模擬皮膚板)を用いることができる。平板の厚さ及び重量は、水を付与された湿潤状態の編地を引き上げたときに一緒に引き上げられない程度のものを採用する。なお、編地を平板に載置する際に、編地の裏面(肌に接する面)が平板に当接するように載置することはいうまでもない。
【0035】
水平にした湿潤編地に取り付けられている引き上げ具の他端を、引張試験機の上把持部で把持して、上把持部を垂直方向に引き上げる。そうすると、湿潤編地も垂直方向に引き上げられ、最終的には平板から離れる。平板から離れる際に最大の引き上げ荷重がかかるので、この荷重を読み取り、これを引き上げ抵抗力とする。引き上げ具として、伸縮性部材と非伸縮性部材とが長手方向に繋がれているものを採用した場合、伸縮性部材を引張試験機の上把持部に把持するのが好ましい。引き上げ具中に伸縮性部材が存在していると、編地が情報に跳ね上がり、引き上げ荷重が一気に降下するので、最大引き上げ荷重が判別しやすくなる。引張試験機で引き上げ具を引き上げる際の速度(引き上げ速度)は任意であるが、一般に50〜500mm/分であるのが好ましく、200〜500mm/分であるのがより好ましい。引き上げ速度が50〜500mm/分の範囲外にあると、最大の引き上げ荷重の値が変動しやすくなり、誤差が大きくなる傾向が生じる。また、用いる引張試験機としては従来公知のものを任意に採用しうる。たとえば、株式会社島津製作所製の「オートグラフ(型番:AGS−5kNX)」や株式会社ティ・エスエンジニアリング製の「TENSILON(品番:UCT−500)」等を用いることができる。なお、引張試験機を用いずに、簡易的にバネ秤を用いて測定してもよい。すなわち、バネ秤のフックに引き上げ具を繋ぎ、人手でバネ秤を垂直方向に引き上げ、編地が平板から離れるときのバネ秤の荷重を読み取って、引き上げ荷重を測定してもよい。
【0036】
図1は、本発明の一例に係る測定方法を使用した場合の模式図を示したものである。1は平板であり、2は湿潤状態の編地、3は非伸縮性部材、4は伸縮性部材及び5は引張試験機の上把持部である。そして、上把持部5を垂直方向に引き上げて、引き上げ荷重fを測定する。
【0037】
<吸水性評価>
本発明の編地は、JIS L1907に記載の滴下法により測定した初期の吸水性が1秒以下であり、かつJIS L0217 103法に基づく洗濯を1回実施した後の前記滴下法に基づく吸水性が3秒以下であり、前記洗濯を5回繰り返した後の前記滴下法に基づく吸水性が5秒以下である。より好ましくは、初期、洗濯1回後、洗濯5回後いずれも1秒以下である。初期の吸水性が1秒より遅い又は/及び洗濯1回後の吸水性が3秒より遅い又は/及び洗濯5回後の吸水性が5秒より遅いと、吸水速度が多く、実着用の場面での汗処理が十分できない場合がある。なお、吸水性の測定は標準状態(20℃、65%RH)下でJIS L 1907記載の滴下法に基づき、洗濯はJIS L 0217 103法に基づいて行う。
【0038】
<速乾性評価>
本発明の編地は、JIS L0217 103法に基づく洗濯を5回繰り返した編地について、残留水分率が10%以下になる時間が55分以下である。残留水分率が10%以下になる時間が55分を超えると、実着用時に編地が乾きにくく、また編地が湿潤状態を保ちやすいことから不快感を生じやすい。残留水分率は、20cm角の編地の中央に0.6mlの水分を滴下し、完全に吸水した状態で吊干しし、乾燥させ、乾燥中の編地重量の経時変化を測定し、編地に残留する水分率が10%以下になるまでの時間を計測することによって得られる。
【0039】
以下、実施例及び比較例を挙げて更に詳細に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0040】
実施例、比較例における各測定方法及び評価方法は以下の通りである。
【0041】
(1)裏面層の凹凸の大きさ
編地の断面を5箇所撮影し、凹部の大きさ及び凸部の大きさを測定し、凹部の大きさと凸部の大きさの差を凹凸の大きさとする。各写真とも5箇所の凹凸を測定したときの平均値で算出する。
【0042】
(2)通気孔の大きさ
編地の下に黒色または白色のシートを敷き、上面からマイクロスコープで撮影したときに確認できる隙間の大きさを画像処理で測定し、20箇所の平均値で算出する。なお、編地が濃色の場合は、白色のシート、編地が淡色の場合は、黒色のシートが隙間を測定しやすく、色目によって測定しやすい方を適宜選定すればよい。
【0043】
(3)肌離れ性
1.引き上げ抵抗力測定
編地を直径11cm円形に裁断し、その重心の表面のみに(すなわち、吸水性布帛の重心の裏面には至らないように)縫い針を用いて、糸[ポリエステルミシン糸(株式会社クラレ製、クラレエステル「クラフテル20/4000m(商品名)」]を通した。その後、縫い針から糸を外し、糸の両端を結んで全長約10cmの輪を作った。さらに、この糸の輪にゼムクリップを用いて輪ゴム(共和社製、「オーバンドNo.16(商品名)」)を直列に繋いだ。測定する編地の裏面(肌面となる面)が、厚さ5mmで20cm角のアクリル板に当接するようにして、測定する編地をアクリル板上に載置した。そして、この編地に3mlの水を編地中央部に付与した後、そのままの状態で1分間放置した。その後、輪ゴムを引張試験機[株式会社ティ・エスエンジニアリング製「TENSILON(品番:UCT−500)」]の上把持部で把持して、垂直方向に引き上げ速度500m/分で引き上げて、引き上げ荷重を読み取った。この測定を5回行い、5回の引き上げ荷重の平均値を引き上げ抵抗力(cN)とした。
【0044】
2.肌離れ性体感
編地を10cm角の正方形に裁断し、その重心の表面のみに(すなわち、吸水性布帛の重心の裏面には至らないように)縫い針を用いて、糸[ポリエステルミシン糸(株式会社クラレ製、クラレエステル「クラフテル20/4000m(商品名)」]を通した。その後、縫い針から糸を外し、糸の両端を結んで全長約10cmの輪を作った。この編地を前腕部の内側に載せ、3mlの水を編地中央部に付与した後、そのままの状態で1分間放置した。その後編地中央部の糸を持ち、垂直方向に引き上げた。引き上げる際の貼り付き感について、貼り付き感が全くないものを○、少し貼り付き感があるものを△、強い貼り付き感がある(吸い付く感じがする)ものを×として評価した。
【0045】
<実施例1>
福原精機製丸編機(LPJ型、釜径33インチ、針密度28G)を用いて図2記載の組織図に基づきダブル丸編ものを編成した。すなわち、図2中、給糸口F1、F5にポリエステル仮撚糸(78dtex48f)を導入して丸編物裏面を編成し、F2、F3、F6にポリエステル仮撚糸(73dtex44f)を、F4に丸断面ポリエステルマルチフィラメント糸(84dtex36f)を各々導入して丸編物表面を編成した。各糸の交編率は78dtex48fの糸が39.8質量%、73dtex44fの糸が45.1質量%、84dtex36fの糸が15.1質量%であった。
【0046】
編成後、液流染色機を使用して、上記丸編物を、日華化学社製精練剤「サンモールFL(商品名)」を含む浴で、80℃で30分間精練した。その後、染色機から上記の浴を取り除いた後、ダイスター社製分散染料「Dianix Blue UN−SE(商品名)」を1.0%o.m.f、酢酸を0.2cc/L、日華化学社製分散均染剤「ニッカサンソルトSN−130(商品名)」を0.5g/L及び高松油脂社製吸水加工剤「SR1801(商品名)」を3.0%o.m.f含む浴を注入し、135℃で20分間の条件で丸編物を染色した。染色後、ピンテンターを使用して丸編物を仕上げセットした。
吸水性布帛1の1インチ当たりの密度は表面が64コース、46ウェールであり、裏面が42コース、24ウェールであった。また、目付けは134g/m2であった。
【0047】
<比較例1>
福原精機性丸編機(LPJ型、釜径33インチ、針密度28ゲージ)を用いて図3記載の組織図に基づきダブル丸編地を編成した。すなわち、図3中、給糸口F1、F3、F5、F7にポリエステル仮撚加工糸(84dtex72f)を導入して丸編地裏面を編成し、それ以外の給糸口には、ポリエステル仮撚加工糸(84dtex36f)を導入して丸編地表面を編成した。各糸条の交編率は84dtex72fの糸が51.5質量%、84dtex36fの糸が48.5質量%であった。
【0048】
以降は実施例1の場合と同様に後加工し、1インチ当たりの密度が53コース、39ウェールのダブル丸編地に仕上げた。
【0049】
実施例及び比較例の性能評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1の編地は、本発明の構成を有することにより、引上げ抵抗力が良好で、肌離れ性は体感でも優れていた。また、吸水性、速乾性も優れていた。一方、比較例の編地は、吸水性、速乾性は優れているものの、通気孔が小さく、引上げ抵抗力が高く、肌離れ性は体感でも悪いものであった。
図1
図2
図3