特許第6871704号(P6871704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871704
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/64 20060101AFI20210426BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20210426BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   F16C33/64
   B60B35/02 L
   F16C19/18
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-188864(P2016-188864)
(22)【出願日】2016年9月27日
(65)【公開番号】特開2018-53974(P2018-53974A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 峻介
(72)【発明者】
【氏名】玉置 峻
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−016381(JP,A)
【文献】 特開2009−150490(JP,A)
【文献】 特開2010−221923(JP,A)
【文献】 特開2016−041943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に車体取り付けフランジを一体に有し、内周に複列の環状の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の環状の内側転走面が形成された内方部材と、
この内方部材と前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された二列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置において、
前記外方部材の車体取り付けフランジは、その軸方向におけるインナー側端とアウター側端との間の中央が、前記二列の転動体の間の中央よりもアウター側に位置するように形成されるとともに、前記外方部材のアウター側の外側転面の最頂部である位置と同じになるように形成される車輪用軸受装置。
【請求項2】
車体取り付けフランジは、少なくとも一部が径方向視で前記外方部材のアウター側の外側転走面と重複するように形成される請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記車輪取り付けフランジは、ハブボルトにより車輪に取り付けられ、
前記車体取り付けフランジの外周には、路面側に前記ハブボルトをインナー側から抜き取れるように切り欠いた切欠き部が形成される請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記車体取り付けフランジの複数のボルト孔の位置が路面側と反路面側で同一でない請求項3に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記外方部材は、軸方向において前記複列の外側転走面の間に対応する外周面に凹状の肉抜き部が形成される請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。詳しくは軸受の寿命及び剛性を向上させた車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置は、車輪に接続されるハブ輪が転動体を介して外方部材に回転自在に支持されている。車輪用軸受装置は、車両のナックルに外方部材の取り付けフランジを介して固定されている。つまり、車輪用軸受装置は、外方部材が車両のナックルに固定された状態で車輪が接続されているハブ輪を回転自在に支持している。車輪用軸受装置には、所望の軸受剛性を有し、燃費向上の観点から回転トルクが小さい複列アンギュラ玉軸受が多用されている。車輪用軸受装置は、転動体に所定の接触角を付与して外方部材とハブ輪とに接触させることでアンギュラ玉軸受を構成している。車輪用軸受装置の外方部材には、ハブ輪の車輪取り付けフランジ側(アウター側)の開口部近傍と外方部材の取り付けフランジ側(インナー側)の開口部近傍とに転動体列の転走面が形成されている。外方部材は、ハブ輪を支持している転動体を介して車輪からの荷重を転走面で支持している。
【0003】
このような車輪用軸受装置において、車両が静止または前後進している場合、車両からの荷重が複列のアンギュラ玉軸受の略中央に作用する。一方、車両が旋回した場合、旋回方向の反対側(右旋回の場合は車両の左側)の車輪に加わるラジアル荷重やアキシアル荷重が増大する。したがって、車輪用軸受装置は、アウター側の転動体列の剛性を高めることで軸受剛性を増大させて転動疲労寿命の低下を防いでいるものがある。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0004】
例えば、従来の第3世代構造の車輪用軸受装置の構造(図7参照)は、外方部材(外輪)のアウター側端部側において、外方部材がアウター側端部からインナー側に離間するに従って徐々に径方向の肉厚がアップしている形状となっている。そのため、外方部材のアウター側端部は径方向の肉厚が外方部材の他部と比較して薄くなっている。さらに、図7に示す車輪用軸受装置は、外方部材のアウター側端部の外周面に機械加工を施すことにより、アウター側シール部への泥水浸入を抑制するための排水溝や、外方部材の外側転走面を研削する際の研削部(シュー受け部)を設けており、外方部材のアウター側端部の径方向の肉厚が外方部材の他の部分の径方向の肉厚より薄くなっている。このように外方部材のアウター側端部の径方向の肉厚は薄くなる傾向にある。
【0005】
特許文献1に記載の車輪用軸受装置は、複列の転動体列のうちアウター側の転動体列のピッチ円直径をインナー側の転動体列のピッチ円直径よりも大きくすることでアウター側の転動体列の転動体の数が増加し、転動体列の剛性が高められている。しかし、車輪用軸受装置は、アウター側の転動体列のピッチ円直径の増大に伴って外方部材のアウター側端部が薄肉になっている。このため、車輪用軸受装置は、外方部材のアウター側の転走面に加わるラジアル荷重やアキシアル荷重が車両の旋回により増大した場合(いわゆる、旋回荷重を受けた場合)、旋回荷重の負荷によりナックルに固定されている取り付けフランジから離間しているアウター側の開口部が略楕円形状に口開き変形し、転走面真円度が劣化してアウター側の転動体寿命が低下する。一方、外方部材のインナー側の転走面はナックルに固定されている取り付けフランジの近傍にあるため、アウター側の転走面よりも肉厚部分に形成されおり、剛性が確保できることから、旋回荷重の負荷時の変形は少ない。このように、外方部材のアウター側端部が薄肉になることで剛性が低下し、旋回荷重の負荷により転走面真円度が劣化するため自動車運転時の操安性が悪化するする懸念があった。
【0006】
このような懸念事項の対策として、図8に示すように外方部材のアウター側外周に肉盛りを行う方法が考えられるが、肉盛りして肉厚を厚くした分の重量が増加し、自動車の燃費悪化等の課題が発生してしまう。また、肉盛する替わりに別体のリング部材を装着する方法も対策として考えられるが、部品点数が増えるため、管理等の面で悪影響が出ると考えられる。このような懸念事項を外方部材のアウター側外周に肉盛するだけで対策することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−155837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、アウター側の転走面の剛性を高めることで転動疲労寿命の低下を抑えることができる車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、外周に車体取り付けフランジを一体に有し、内周に複列の環状の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の環状の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された二列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置において、前記外方部材の車体取り付けフランジは、その軸方向におけるインナー側端とアウター側端との間の中央が、前記二列の転動体の間の中央よりもアウター側に位置するように形成されるものである。
【0010】
本発明は、前記車体取り付けフランジが少なくとも一部が径方向視で前記外方部材のアウター側の外側転走面と重複するように形成されるものである。
【0011】
本発明は、前記車輪取り付けフランジがハブボルトにより車輪に取り付けられ、前記車体取り付けフランジの外周には、路面側に前記ハブボルトをインナー側から抜き取れるように切り欠いた切欠き部が形成されるものである。
【0012】
本発明は、前記車体取り付けフランジの複数のボルト孔の位置が路面側と反路面側で同一でないものである。
【0013】
本発明は、前記外方部材が軸方向において前記複列の外側転走面の間に対応する外周面に凹状の肉抜き部が形成されるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
車輪用軸受装置によれば、外方部材のアウター側の外側転走面の近傍に車体取り付けフランジが形成されるため、外側転走面の近傍の肉厚が増大し、外側転走面の剛性が向上するため、アウター側の転走面真円度が劣化してアウター側の転動体寿命が低下することを防ぐことができる。
【0016】
車輪用軸受装置によれば、車体取り付けフランジは少なくとも一部が径方向視で外方部材のアウター側の外側転走面と重複するように形成されるため、外側転走面の近傍の肉厚が増大し、外側転走面の剛性が向上するため、アウター側の転走面真円度が劣化してアウター側の転動体寿命が低下することを防ぐことができる。
【0017】
車輪用軸受装置によれば、車体取り付けフランジに切欠き部が形成されることで、ハブボルトが車体取り付けフランジに干渉して抜くことができない構造の場合に、切欠き部を介してハブボルトを抜き取ることができる。
【0018】
車輪用軸受装置によれば、車体取り付けフランジの複数のボルト孔の位置が路面側と反路面側で位置が異なるように構成したことで、外方部材の上下方向を誤って車体に組付けることを防止できる。
【0019】
車輪用軸受装置によれば、外方部材の外周面に凹状の肉抜き部が形成されることで、軸受の軽量化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】車輪用軸受装置の第一実施形態における全体構成を示す断面図。
図2図1における外方部材の形状を示す拡大部分断面図。
図3図2に示す車輪用軸受装置において外方部材の車体取り付けフランジの軸方向における最適位置を示す拡大部分断面図。
図4】車輪用軸受装置の第二実施形態における外方部材の形状を示す断面図。
図5】車輪用軸受装置の第一実施形態における外方部材の形状を示す図であり、外方部材をインナー側から見た正面図。
図6】車輪用軸受装置の第三実施形態における外方部材の形状を示す図であり、外方部材をインナー側から見た正面図。
図7】従来の車輪用軸受装置の全体構成を示す断面図。
図8図7に示す従来の車輪車輪用軸受装置の外方部材に肉盛りを行った場合を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図1を用いて、本発明の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。
【0022】
図1に示すように、第一実施形態の車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材2、ハブ輪3、内輪4、転動列である二列のインナー側ボール列5a、アウター側ボール列5b、インナー側シール部材6、アウター側シール部材8を具備する。なお、本実施形態において、「インナー側」とは、軸受装置を車両に取り付けた際における車輪用軸受装置1の車体側を表す。また、「アウター側」とは、車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
【0023】
外方部材2は、内方部材(ハブ輪3と内輪4)を支持するものである。外方部材2は、略円筒状に形成されたS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。外方部材2のインナー側端部には、インナー側シール部材6が嵌合可能なインナー側開口部2aが形成されている。外方部材2のアウター側端部には、アウター側シール部材8が嵌合可能なアウター側開口部2bが形成されている。外方部材2の内周面には、インナー側開口部2aの近傍にインナー側ボール列5aが転走する環状のインナー側の外側転走面2cが形成されている。同様に、外方部材2の内周面には、アウター側開口部2bの近傍にアウター側ボール列5bが転走する環状のアウター側(後述の車輪取り付けフランジ3b側)の外側転走面2dが形成されている。インナー側の外側転走面2cとアウター側の外側転走面2dとは、周方向に互いに平行になるように形成されている。インナー側の外側転走面2cとアウター側の外側転走面2dとは、それぞれのピッチ円直径が等しくなるように形成されている。なお、インナー側の外側転走面2cとアウター側の外側転走面2dとのピッチ円直径が異なるように構成してもよい。インナー側の外側転走面2cとアウター側の外側転走面2dとには、高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲とする硬化層が形成されている。外方部材2のインナー側の外周面には、図示しない懸架装置のナックルに取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体に形成されている。車体取り付けフランジ2eには、周方向複数箇所にナックル取付用のボルト孔2kが設けられ、インナー側より車体取付用ボルトであるナックルボルト(図示せず)を前記ボルト孔2kに螺合することにより、車体取り付けフランジ2eがナックルに取付けられる。車体取り付けフランジ2eは、軸方向において対向するインナー側端面2f及びアウター側端面2gを有している。車体取り付けフランジ2eの取り付け面であるインナー側端面2fおよびアウター側端面2gは、切削加工等の機械加工が施されている。
【0024】
内方部材を構成するハブ輪3は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持するものである。ハブ輪3は、略円筒状に形成されたS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪3のインナー側端部には、外周面に縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。ハブ輪3のアウター側(車輪取り付けフランジ3b側)の外周面には、周方向に環状の内側転走面3cと環状のシール摺動面3dとが形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、円周等配位置にハブボルト3eが設けられている。
【0025】
ハブ輪3のインナー側端部の小径段部3aは、内方部材を構成する内輪4が圧入されている。内輪4は、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲で硬化処理されている。内輪4の外周面には、周方向に環状の内側転走面4aが形成されている。ハブ輪3の内側転走面3cと内輪4の内側転走面4aとは、それぞれのピッチ円直径が等しくなるように形成されている。なお、ハブ輪3の内側転走面3cと内輪4の内側転走面4aとのピッチ円直径が異なるように構成してもよい。内輪4は、圧入により所定の予圧が付与された状態でハブ輪3のインナー側端部に一体的に固定されている。つまり、ハブ輪3の一側には、内輪4によって内側転走面4aが構成されている。ハブ輪3は、インナー側の小径段部3aからアウター側の内側転走面3cまでを高周波焼入れにより表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。これにより、ハブ輪3は、車輪取り付けフランジ3bに付加される回転曲げ荷重に対して充分な機械的強度を有し、ハブ輪3の耐久性が向上する。ハブ輪3は、インナー側端部の内輪4に形成されている内側転走面4aが外方部材2のインナー側の外側転走面2cに対向し、アウター側に形成されている内側転走面3cが外方部材2のアウター側の外側転走面2dに対向するように配置されている。
【0026】
転動列であるインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、ハブ輪3を回転自在に支持するものである。インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、転動体である複数のボールが保持器によって環状に保持されている。インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲で硬化処理されている。インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、それぞれのピッチ円直径が等しくなるように構成されている。なお、インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとのピッチ円直径が異なるように構成してもよい。インナー側ボール列5aは、内輪4に形成されている内側転走面4aと、それに対向している外方部材2のインナー側の外側転走面2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列5bは、ハブ輪3に形成されている内側転走面3cと、それに対向している外方部材2のアウター側の外側転走面2dとの間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、外方部材2に対してハブ輪3と内輪4とを回転自在に支持している。車輪用軸受装置1は、外方部材2とハブ輪3と内輪4とインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとから複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、本実施形態において、車輪用軸受装置1には、複列アンギュラ玉軸受が構成されているがこれに限定されるものではなく、複列円錐ころ軸受等で構成されていてもよい。
【0027】
インナー側シール部材6は、外方部材2と内輪4との隙間を塞ぐものである。インナー側シール部材6は、略円筒状のシール板と略円筒状のスリンガとを具備する。インナー側シール部材6は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)等から構成されているシール板に、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなる複数のインナー側シールリップが加硫接着されている。スリンガは、シール板と同等の鋼板から構成されている。スリンガの外側(インナー側)には、磁気エンコーダ7が接着されている。インナー側シール部材6は、シール板が外方部材2のインナー側開口部2aに嵌合され、スリンガが内輪4に嵌合され、パックシールを構成している。インナー側シール部材6は、シール板のインナー側シールリップが油膜を介してスリンガと接触することでスリンガに対して摺動可能に構成されている。これにより、インナー側シール部材6は、外方部材2の内部からの潤滑グリースの漏れ、および外部からの雨水や粉塵等の侵入を防止する。
【0028】
アウター側シール部材8は、外方部材2とハブ輪3との隙間を塞ぐものである。アウター側シール部材8はニトリルゴム等の合成ゴムからなる複数の他側シールリップが加硫接着によって略円筒状に形成された芯金に一体に接合されている。アウター側シール部材8は、外方部材2のアウター側開口部2bに円筒部分が嵌合され、ハブ輪3のシール摺動面3dに複数の他側シールリップが接触している。アウター側シール部材8は、アウター側シールリップが油膜を介してハブ輪3のシール摺動面3dと接触することでハブ輪3に対して摺動可能に構成されている。これにより、アウター側シール部材8は、外方部材2の内部からの潤滑グリースの漏れ、および外部からの雨水や粉塵等の侵入を防止する。
【0029】
このように構成される車輪用軸受装置1は、外方部材2とハブ輪3と内輪4とインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとから複列アンギュラ玉軸受が構成され、ハブ輪3がインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bを介して外方部材2に回転自在に支持されている。また、車輪用軸受装置1は、外方部材2のインナー側開口部2aと内輪4との隙間をインナー側シール部材6で塞がれ、外方部材2のアウター側開口部2bとハブ輪3との隙間をアウター側シール部材8で塞がれている。これにより、車輪用軸受装置1は、内部からの潤滑グリースの漏れ、および外部からの雨水や粉塵等の侵入を防止しつつ、外方部材2に支持されているハブ輪3が回転可能に構成されている。
【0030】
次に、図2を用いて、外方部材2の形状について詳細に説明する。ここで、本実施形態における外方部材2のアウター側端から環状に形成されているアウター側(車輪取り付けフランジ3b側)の外側転走面2dの最大外径Dの位置P1までの軸方向の幅を最大外径幅Waとする。すなわち、アウター側の外側転走面2dの位置P1は、アウター側の外側転走面2dにおいて最も外方部材2の外周面側に凹んでいる最頂部となっている。また、外方部材2の車体取り付けフランジ2eの軸方向の所定幅(インナー側端面2f及びアウター側端面2gとの間隔)をw0とする。また、外方部材2のアウター側端から車体取り付けフランジ2eのアウター側端面2gまでの軸方向の幅をw1とする。また、外方部材2のアウター側端から車輪取り付けフランジ3bのインナー側端面2fまでの軸方向の幅をw2とする。また、車輪用軸受装置1では、アウター側ボール列5bに所定の接触角を付与して外方部材2とハブ輪3とに接触させることでアンギュラ玉軸受を構成している。このうち、アウター側ボール列5bと外方部材2とが接触する接触点が図2に示す位置P2である。また、インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bの間の中央を通る径方向に平行な線を中心線Cとする。また、車体取り付けフランジ2eの軸方向におけるインター側端とアウター側端との間の中央を通る径方向に平行な線を車体取り付けフランジ2eの中央線FCとする。すなわち、中央線FCは、車体取り付けフランジ2eの軸方向の幅の中央を通る径方向に平行な線である。
【0031】
図2に示すように、略円筒状に形成されている外方部材2の外周面には、アウター側の外側転走面2dの近傍に、図示しない懸架装置のナックルに取り付けるための車体取り付けフランジ2eが形成されている。車体取り付けフランジ2eは、その軸方向におけるインナー側端とアウター側端との間の中央がインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bの間の中央よりもアウター側に位置するように形成される。すなわち、車体取り付けフランジ2eは、車体取り付けフランジ2eの中央線FCが中心線Cよりも軸方向アウター側の範囲に入るように形成されている。加えて、車体取り付けフランジ2eは、少なくとも一部が径方向視で外方部材2のアウター側の外側転走面2dと重複するように形成されている。
【0032】
車体取り付けフランジ2eは、アウター側端面2gが前記位置P1を通る径方向の基準線CL(アウター側端部と基準線CLとの軸方向の幅はWa)と軸方向において同位置もしくは基準線CLを超えてアウター側の外側転走面2dに近接するように形成されている(Wa≧w1)。また、車体取り付けフランジ2eの軸方向の幅w0(w0=w2−w1)は、その幅w0の範囲内に基準線CLが重なるように設定されている。つまり、車体取り付けフランジ2eを上記の条件でアウター側の外側転走面2dの近傍に設けるともに、アウター側の外側転走面2dの径方向の肉厚をアップさせている。このように、外方部材2のアウター側の外側転走面2dの肉厚をアップすることで、外方部材2のアウター側の外側転走面2dの剛性が向上するため、転走面真円度が劣化して外方部材2のアウター側の転動体寿命が低下することを防ぐことができる。ひいては、車輪用軸受装置1の軸受寿命を延ばすことができる。さらに、車体取り付けフランジ2eの径方向の基端部2iは、外方部材2のアウター側の外側転走面2dの底部を覆うように形成されている。これにより、外方部材2のうち車体取り付けフランジ2e側のアウター側開口部2b近傍であって外側転走面2dが力を受け止める部分の肉厚が増大される。これにより、外方部材2の外側転走面2dの変形を低減させ転動疲労寿命の低下を防ぐことができる。
【0033】
このように構成される車輪用軸受装置1の外方部材2のうちインナー側端からインナー側の外側転走面2cを含む範囲については車体取り付けフランジ2eを外方部材2の軸方向中心よりもアウター側に設けたことで径方向の肉厚が薄くなるが、、車体取り付けフランジ2eを介して図示しない車両側のナックルに固定されているので一定以上の軸受剛性が確保されている。これにより、外方部材2のインナー側の外側転走面2cの真円度劣化・剛性の低下は少なく、軸受全体として剛性が上昇するため、操安性の向上にも繋がる。一方、車輪用軸受装置1の外方部材2のうちアウター側端から幅w2の範囲については、外方部材2の外周面に外方部材2の軸方向中心よりもアウター側に車体取り付けフランジ2eが形成されたことによって一定以上の軸受剛性が確保されている。従って、車輪用軸受装置1は、ラジアル荷重やアキシアル荷重が増加しても外方部材2のアウター側端から幅w2の範囲の変形が抑制される。
【0034】
また、車体取り付けフランジ2eの外方部材2における軸方向の位置は、アウター側の外側転走面2dの真上となる位置(車体取り付けフランジ2eの軸方向の幅の中央を通る中央線FCが、基準線CLと一致する位置)にすることが好ましい(図3参照)。すなわち、車体取り付けフランジ2eは、その軸方向におけるインナー側端とアウター側端との間の中央が径方向視で外方部材2のアウター側の外側転走面2dの最頂部(位置P1)と重複するように形成されることが好ましい。すなわち、図3においては、車体取り付けフランジ2eは、車体取り付けフランジ2eの中央線FCの軸方向の位置が外方部材2のアウター側の外側転走面2dの最頂部(位置P1)と同じになるように形成されることが好ましい。このようにすることで、軸受剛性を確保する上で、アウター側の外側転走面2dに対する車体取り付けフランジ2eの外方部材2における軸方向の最適な位置となる。これにより、軸受剛性が最大となり、外方部材2の外側転走面2dの真円度劣化を最も抑制することができる。
なお、例えば、アウター側の外側転走面2dの最頂部である位置P1よりも位置P2(接触点)に旋回荷重の負荷のかかるような場合は、車体取り付けフランジ2eを、その軸方向におけるインナー側端とアウター側端との間の中央(中央線FC)が径方向視でアウター側ボール列5bと外方部材2との接触点である位置P2と重複するように形成されることが好ましい。これにより、軸受剛性が最大となり、外方部材2の外側転走面2dの真円度劣化を最も抑制することができる。
【0035】
また、車輪用軸受装置の第二実施形態として、図4に示す車輪用軸受装置1Aのように外方部材2の外周面に凹状の肉抜き部2jを形成してもよい。肉抜き部2jは、軸方向においてインナー側の外側転走面2cとアウター側の外側転走面2dとの間に対応する外周面に凹状(断面視円弧状)で全周にわたって肉抜きして形成される。このような位置での肉抜きは、転走面真円度の劣化に大きく関係せず、軸受の軽量化を図ることができる。
【0036】
図5は、車輪用軸受装置1の外方部材2(車体取り付けフランジ2e)をアウター側から見た正面図を示す。なお、図1は、図5におけるA−A矢視断面図を示す。車体取り付けフランジ2eには、図5のように、周方向複数箇所(図2では4箇所)にナックル取付用のボルト孔2kが設けられている。車体取付用ボルトであるナックルボルト(図示せず)が前記ボルト孔2kに螺合することにより、車体取り付けフランジ2eがナックル(図示せず)に取付けられる。車体取り付けフランジ2eは、外形形状が正面視略六角形状であり、外周の一辺を円弧状に切り欠いた切欠き部2mを有している。切欠き部2mは、車体取り付けフランジ2eの路面側に形成され、車輪取付用のハブボルト3eをインナー側から抜き取れるように構成されている。切欠き部2mは、ハブボルト3eが車体取り付けフランジ2eに干渉して抜くことができない構造の場合に使用される。つまり、切欠き部2mに軸方向に沿ってハブボルト3eの頭部をインナー側へと通過させることで、ハブボルト3eが車輪取り付けフランジ3bから取り外される。例えば、切欠き部を反路面側に設けた場合、車体取り付けフランジ2eの切欠き部とナックルによって溝ができてしまい、その溝に水が溜まってしまうことが考えられる。そこで、車体取り付けフランジ2eの車体取り付けフランジ2eに設ける切欠き部2mの位置は、反路面側に設けない構造とすることが好ましい。なお、図5に示す車体取り付けフランジ2eでは、路面側(下側)に切欠き部2mを設けた構成であるが、これ以外に、車体取り付けフランジ2eの側部に設ける構成であってもよい。
【0037】
図6は、車輪用軸受装置の第三実施形態における外方部材の形状を示す図であり、外方部材をインナー側から見た正面図を示す。図6に示す車体取り付けフランジ2e1は、周方向複数箇所(図2では4箇所)に設けられたナックル取付用のボルト孔2kの位置のみを変更したものであり、複数のボルト孔2kの位置を路面側と反路面側で変更して形成している。すなわち、図6に示すナックル取付用のボルト孔は、反路面側に設けられた左右一対のボルト孔2k1・2k1と、路面側(図6では下側)に設けられ、一対のボルト孔2k1・2k1の水平方向の幅間隔より広い間隔で形成されるボルト孔2k2・2k2と、から構成される。車体取り付けフランジ2eは、車体取り付けフランジ2eの切欠き部2mが必ず路面側に配置されるように構成されている。このように構成することで、外方部材2の上下を誤って車体に組付けることを防止できる。
【0038】
以上のように、車輪用軸受装置1によれば、車体取り付けフランジ2eがその軸方向におけるインナー側端とアウター側端との間の中央がインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bの間の中央よりもアウター側に位置するように形成される。すなわち、外方部材2のアウター側の外側転走面2dの近傍に車体取り付けフランジ2eが形成されるため、外側転走面2dの近傍の肉厚が増大し、外側転走面2dの剛性が向上するため、アウター側の転走面真円度が劣化してアウター側の転動体寿命が低下することを防ぐことができる。また、軸受全体として剛性が上昇するため、操安性の向上にも繋がる。
【0039】
また、車輪用軸受装置1によれば、車体取り付けフランジ2eは少なくとも一部が径方向視で外方部材2のアウター側の外側転走面2dと重複するように形成されるため、外側転走面2dの近傍の肉厚が増大し、外側転走面2dの剛性が向上するため、アウター側の転走面真円度が劣化してアウター側の転動体寿命が低下することを防ぐことができる。
【0040】
また、車輪用軸受装置1によれば、車体取り付けフランジ2eはその軸方向におけるインナー側端とアウター側端との間の中央が外方部材のアウター側の外側転走面の最頂部である位置P1と同じになるように形成されることで、前記最頂部である位置P1においてアウター側の外側転走面の径方向の肉厚が最大限確保され、アウター側の外側転走面の真円度劣化を最も抑制することが可能となる。
【0041】
また、車輪用軸受装置1によれば、車体取り付けフランジ2eに切欠き部2mが形成されることで、ハブボルト3eが車体取り付けフランジ2eに干渉して抜くことができない構造の場合に、切欠き部2mを介してハブボルト3eを抜き取ることができる。
【0042】
また、車輪用軸受装置によれば、車体取り付けフランジ2e1の複数のボルト孔の位置が路面側と反路面側で位置が異なるように構成したことで、外方部材2の上下方向を誤って車体に組付けることを防止できる。
【0043】
また、車輪用軸受装置1Aによれば、外方部材2の外周面に凹状の肉抜き部2jが形成されることで、軸受の軽量化が図れる。
【0044】
以上、各実施形態に係る車輪用軸受装置は、ハブ輪3の外周にインナー側ボール列5aの内側転走面3cが直接形成されている第3世代構造の車輪用軸受装置として説明したがこれに限定されるものではなく、ハブ輪3に一対の内輪4が圧入固定された第2世代構造であっても良い。また、上述の実施形態は、本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 車輪用軸受装置
2 外方部材
2d 外側転走面
2e 車体取り付けフランジ
2g アウター側端面
3 ハブ輪
3b 車輪取り付けフランジ
4 内輪
5a 一側ボール列
5b 他側ボール列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8