(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記更新部は、前記更新量演算部により算出された前記相関行列更新量の成分を、前記推定部が前記第2相関行列を推定する前に推定した前記非探査範囲に含まれる音源の音響信号に対応する相関行列に加算することにより、前記第2相関行列を推定する、
請求項2に記載の音源探査装置。
前記スペクトル演算部は、前記除去部により算出された前記第3相関行列と、前記探査範囲により示される方向範囲から求められる前記方向ベクトルとから、前記第1空間スペクトルを演算する、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の音源探査装置。
さらに、前記スペクトル演算部が演算した前記第2空間スペクトルから、前記探査対象音源の方向の探査を妨害する音源である妨害音源が存する方向を、前記非探査範囲の候補として検出する検出部を備える、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の音源探査装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様に係る音源探査装置は、査対象音源の方向を探査する音源探査装置であって、互いに離間して配置された2以上のマイクロホンユニットから構成されるマイクロホンアレイにより集音された音響信号である観測信号の相関行列である第1相関行列を算出する算出部と、前記音源探査装置に前記探査対象音源を探査させない方向範囲を示す非探査範囲を指定する指定部と、前記指定部により指定された前記非探査範囲に含まれる音源の音響信号に対応する相関行列である第2相関行列を推定する推定部と、前記算出部により算出された前記第1相関行列から、前記推定部により推定された前記第2相関行列の成分を除去することにより、前記音源探査装置に探査させる方向範囲を示す探査範囲に含まれる前記探査対象音源に対応する相関行列である第3相関行列を算出する除去部と、前記除去部により算出された前記第3相関行列から、探査結果として第1空間スペクトルを演算するスペクトル演算部とを備え、前記推定部は、前記指定部により指定された前記非探査範囲の方向範囲から求められる方向ベクトルと前記スペクトル演算部が前記第1空間スペクトルを演算する1つ前に演算した探査結果である第2空間スペクトルとから前記第2相関行列を推定する。
【0011】
ここで、例えば、前記推定部は、前記指定部により指定された非探査範囲により示される方向範囲と、前記スペクトル演算部により演算された前記第2空間スペクトルとから、前記非探査範囲内における前記第2空間スペクトルの最小強度方向および最大強度方向を示す角度情報を抽出する抽出部と、前記抽出部で抽出された前記角度情報と、前記非探査範囲により示される方向範囲から求められる前記方向ベクトルとから、前記最小強度方向および前記最大強度方向における前記第2空間スペクトルに対応する相関行列を、相関行列更新量として算出する更新量演算部と、前記更新量演算部により算出された前記相関行列更新量を用いて、前記推定部が前記第2相関行列を推定する前に推定していた前記非探査範囲に含まれる音源の音響信号に対応する相関行列を更新することで、前記第2相関行列を推定する更新部とを備えるとしてもよい。
【0012】
また、例えば、前記更新部は、前記更新量演算部により算出された前記相関行列更新量の成分を、前記推定部が前記第2相関行列を推定する前に推定した前記非探査範囲に含まれる音源の音響信号に対応する相関行列に加算することにより、前記第2相関行列を推定するとしてもよい。
【0013】
また、例えば、前記スペクトル演算部は、前記除去部により算出された前記第3相関行列と、前記探査範囲により示される方向範囲から求められる前記方向ベクトルとから、前記第1空間スペクトルを演算するとしてもよい。
【0014】
また、本発明の一態様に係る音源探査装置は、探査対象音源の方向を探査する音源探査装置であって、互いに離間して配置された2以上のマイクロホンユニットから構成されるマイクロホンアレイにより集音された音響信号である観測信号の相関行列である第1相関行列を算出する算出部と、前記音源探査装置に前記探査対象音源を探査させない方向範囲を示す非探査範囲を指定する指定部と、前記指定部により指定された前記非探査範囲に含まれる音源の音響信号に対応する空間スペクトル強度が閾値よりも高く、かつ、前記音源探査装置に探査させる方向範囲を示す探査範囲に含まれる前記探査対象音源の音響信号がないときの前記第1相関行列を用いて、前記非探査範囲に含まれる音源の音響信号に対応する相関行列である第2相関行列を推定する推定部と、前記算出部により算出された前記第1相関行列から、前記推定部により推定された前記第2相関行列の成分を除去することにより、前記音源探査装置に探査させる方向範囲を示す探査範囲に含まれる前記探査対象音源に対応する相関行列である第3相関行列を算出する除去部と、前記除去部により算出された前記第3相関行列から、探査結果として第1空間スペクトルを演算するスペクトル演算部を備える。
【0015】
また、例えば、さらに、前記スペクトル演算部が演算した前記第2空間スペクトルから、前記探査対象音源の方向の探査を妨害する音源である妨害音源が存する方向を、前記非探査範囲の候補として検出する検出部を備えるとしてもよい。
【0016】
また、例えば、さらに、前記指定部に対して、ユーザが非探査範囲を追加または削除することができる入力部を備えるとしてもよい。
【0017】
また、例えば、前記音源探査装置は、前記2以上のマイクロホンユニットそれぞれにおいて集音された音響信号を周波数領域の信号に変換した周波数スペクトル信号を出力する周波数分析部を備え、前記算出部は、前記周波数分析部が出力した周波数スペクトル信号から、前記第1相関行列を算出するとしてもよい。
【0018】
なお、これらのうちの一部の具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータで読み取り可能なCD−ROM等の記録媒体を用いて実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたは記録媒体の任意な組み合わせを用いて実現されてもよい。
【0019】
以下、本発明の一態様に係る音源探査装置について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また全ての実施の形態において、各々の内容を組み合わせることもできる。
【0020】
(実施の形態1)
[音源探査装置100の構成]
図1は、本実施の形態における音源探査装置100の構成の一例を示す図である。
【0021】
音源探査装置100は、探査対象の音源(以下、探査対象音源とも記載)の方向を探査する。本実施の形態では、音源探査装置100は、
図1に示すように、マイクロホンアレイ10と、周波数分析部20と、算出部30と、指定部40と、推定部50と、除去部60と、記憶部70と、記憶部75と、スペクトル演算部80と、出力部90とを備える。以下、各構成要素について説明する。
【0022】
[マイクロホンアレイ10]
マイクロホンアレイ10は、互いに離間して配置された2以上のマイクロホンユニットから構成され、全ての方向から到来する音波を集音すなわち観測して電気信号に変換した音響信号を出力する。本実施の形態では、マイクロホンアレイ10は、最小個数である2つのマイクロホンユニットで構成されているとして、以下説明する。マイクロホンユニット101およびマイクロホンユニット102は、例えば音圧に対する感度が高い無指向性のマイクロホン素子であり、離間してすなわち異なる位置に配される。ここで、マイクロホンユニット101は、集音した音波を電気信号に変換した時間領域信号である音響信号m1(n)を出力し、マイクロホンユニット102は、集音した音波を電気信号に変換した時間領域の信号である音響信号m2(n)を出力する。
【0023】
なお、マイクロホンユニット101および102は、例えば音センサでもよく、半導体製造技術を用いて製造されるコンデンサ型のマイクロホンチップでもよい。マイクロホンチップは、音圧によって変位する振動板を有して音信号を電気信号に変換する機能を有する。
【0024】
[周波数分析部20]
周波数分析部20は、2以上のマイクロホンユニットそれぞれにおいて集音された音響信号を周波数領域の信号に変換した周波数スペクトル信号を出力する。より具体的には、周波数分析部20は、マイクロホンアレイ10から入力された音響信号を周波数分析を行い、周波数領域の信号である周波数スペクトル信号を出力する。なお、周波数分析には、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)や離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform:DFT)などの時間信号を周波数成分毎の振幅情報と位相情報に変換するものを用いればよい。
【0025】
本実施の形態では、周波数分析部20は、高速フーリエ変換を行うFFT201およびFFT202で構成されている。FFT201は、マイクロホンユニット101から出力された音響信号m1(n)を入力として、高速フーリエ変換を用いて時間領域から周波数領域への変換を行って周波数スペクトル信号Sm1(ω)を出力する。FFT202は、マイクロホンユニット102から出力された音響信号m2(n)を入力として、高速フーリエ変換を用いて時間領域から周波数領域への変換を行って周波数スペクトル信号Sm2(ω)を出力する。
【0026】
[算出部30]
算出部30は、マイクロホンアレイ10により集音された音響信号である観測信号の相関行列である第1相関行列を算出する。例えば、算出部30は、マイクロホンアレイ10により集音された2以上の音響信号間の相関行列の時間平均を第1相関行列として算出する。
【0027】
本実施の形態では、算出部30は、周波数分析部20が出力した周波数スペクトルから、第1相関行列(Rx(ω))を算出する。より具体的には、算出部30は、下記の(式1)および(式2)を用いて、FFT201からの周波数スペクトル信号Sm1(ω)およびFFT202からの周波数スペクトル信号Sm2(ω)を入力として、相関行列Rx(ω)を第1相関行列として算出する。
【0028】
ここで、相関行列Rx(ω)の各要素は、各マイクロホンユニットに到来する実環境に存在する複数の音波に対する位相差情報が蓄えられたものである。例えば、X
11は、マイクロホンユニット101およびマイクロホンユニット101に到来する音波に対する位相差情報を示し、X
21は、マイクロホンユニット102およびマイクロホンユニット101に到来する音波に対する位相差情報を示す。また、ε{・}は、時間的平均であることを示す。
【0031】
なお、各マイクロホンユニット(本実施の形態ではマイクロホンユニット101およびマイクロホンユニット102)の音圧感度特性がほぼ等しく均一である場合には、相関行列Rx(ω)の各要素は、(式3)で示されるように、(式2)における分母の正規化項を省略してもよい。
【0033】
[指定部40]
指定部40は、音源探査装置100に探査対象音源を探査させない方向範囲θdを示す非探査範囲を指定する。ここでθdは、角度の範囲を示す。
【0034】
本実施の形態では、指定部40は、例えば
図2に示す角度範囲θ1、θ2を非探査範囲として指定し、探査対象音源の探査を妨害する妨害音の音源(以下、妨害音源と称する)が存在する方向範囲を非探査範囲として探査範囲から除外する。
【0035】
ここで、
図2は、実施の形態1における探査範囲および非探査範囲の説明図である。
図2には、探査対象音源Sと、探査対象音源Sよりも高い音圧レベルの騒音の音源である妨害音源N1および妨害音源N2とが一例として示されている。また、
図2には、マイクロホンアレイ10(すなわちマイクロホンユニット101、102)、探査対象音源S、探査対象音源Sよりも高い音圧レベルの騒音の音源である妨害音源N1および妨害音源N2、並びに、探査範囲および非探査範囲の位置関係が示されている。
【0036】
図2に示すように、マイクロホンユニット101とマイクロホンユニット102とが異なる位置に配列されている。
図2において、2つのマイクロホンユニット(すなわちマイクロホンユニット101、102)を結ぶ線をθ=0°とすると、探査対象音源Sは、マイクロホンユニット101に対して、θ=θsの方向に存在する。また、妨害音源N1は、マイクロホンアレイ10に対して、θ=0°〜θ1の方向範囲に存在し、妨害音源N2は、マイクロホンアレイ10に対して、θ=(180−θ2)〜180°の方向範囲に存在する。
【0037】
[除去部60]
除去部60は、算出部30により算出された第1相関行列(Rx(ω))から、推定部50により推定された第2相関行列(Rn(ω))の成分を除去する。これにより、除去部60は、音源探査装置100に探査させる方向範囲を示す探査範囲に含まれる探査対象音源に対応する相関行列である第3相関行列(Rs(ω))を算出する。つまり、除去部60は、観測信号の第1相関行列であるRx(ω)から非探査範囲に対応する第2相関行列であるRn(ω)の成分を除去して探査範囲音源に対する第3相関行列であるRs(ω)を算出する。
【0038】
本実施の形態では、除去部60は、算出部30で算出された観測信号に対する第1相関行列Rx(ω)と、推定部50で推定された非探査範囲の音源すなわち妨害音源に対する第2相関行列Rn(ω)とが入力される。除去部60は、これらから、下記の(式4)を用いて、探査範囲の探査対象音源に対する第3相関行列Rs(ω)を算出する。
【0040】
なお、(式4)において、γは、減算重みを示し、本実施の形態では第2相関行列Rn(ω)に誤差がないため1としている。しかし、第2相関行列Rn(ω)に誤差がある場合には、0.8など、適宜調整すればよい。
【0041】
[記憶部70]
記憶部70は、メモリ等で構成され、探査範囲の方向を示す方向ベクトルd(θ,ω)を記憶する。
【0042】
本実施の形態では、記憶部70には、例えば600個の0≦θ≦180の範囲における方向ベクトルが予め記憶されている。この方向ベクトルd(θ、ω)は、
図2に示す関係から(式5)を用いて理論的に算出され、2つのマイクロホンユニット間(すなわちマイクロホンユニット101およびマイクロホンユニット102間)の音源方向θに対する位相差関係すなわち位相差情報である。(式5)において、Lはマイクロホンユニット間の距離、cは音速である。なお、(式5)は、2素子のマイクロホンユニットについての方向ベクトルを定義しているが、3素子以上の場合もマイクロホンユニットの配列に従った位置関係から方向ベクトルを定義することができる。
【0044】
[スペクトル演算部80]
スペクトル演算部80は、除去部60により算出された第3相関行列(Rs(ω))から、音源探査装置100の音源探査の結果すなわち探査結果として第1空間スペクトル(P(θ))を演算する。
【0045】
本実施の形態では、スペクトル演算部80は、除去部60により算出された第3相関行列(Rs(ω))と、探査範囲により示される方向範囲から求められる方向ベクトル(d(θ、ω))とから、第1空間スペクトル(P(θ))を演算する。つまり、スペクトル演算部80は、記憶されている方向ベクトル(d(θ、ω))と除去部60により算出された第3相関行列(Rs(ω))とから方向別の強度を示す第1空間スペクトル(P(θ))を演算する。
【0046】
具体的には、スペクトル演算部80は、除去部60から出力された探査範囲に対する第3相関行列Rs(ω)と記憶部70に記憶されている方向ベクトルd(θ、ω)とを入力として、下記の(式6)を用いて、第1空間スペクトルP(θ)を演算すなわち算出する。
【0048】
なお、方向ベクトルd(θ、ω)は、上述した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0049】
[出力部90]
図3は、実施の形態1におけるスペクトル演算部80の出力例を示す空間スペクトル図である。
図3において、横軸は角度、縦軸は強度を示す。
【0050】
出力部90は、例えば、出力端子であり、ディスプレイなどの外部機器に、スペクトル演算部80で演算された空間スペクトルを探査結果として出力する。
【0051】
本実施の形態では、出力部90は、音源探査装置100に接続された外部のディスプレイなどの表示装置に、探査結果として、例えば
図3の実線に示されるように最も高い強度を示す角度θsが探査対象音源Sの方向を示す空間スペクトル(P(θ))を出力する。
【0052】
出力部90が
図3に示されるような探査結果を出力できるのは、除去部60において探査範囲の探査対象音源のみに対する第3相関行列を導出することができるからである。より具体的には、指定部40が
図2で説明したように非探査範囲を指定することにより、探査対象音源Sの方向の探査を探査範囲θ1〜θ2に絞り込む。そして、除去部60において全方向の音源に対する成分が含まれる観測信号の第1相関行列から非探査範囲の妨害音源N1、N2に対する第2相関行列の成分を減算して妨害音成分を除去することで、探査範囲の探査対象音源に対する第3相関行列を導出することができるからである。
【0053】
[記憶部75]
記憶部75は、メモリ等で構成され、非探査範囲の方向を示す方向ベクトルd(θ、ω)を記憶する。
【0054】
本実施の形態では、記憶部75には、例えば300個の、0°≦θ≦θ1、θ2≦θ≦180°の範囲における方向ベクトルが予め記憶されている。この方向ベクトルd(θ、ω)は、上記と同様に、
図2に示す関係から(式5)を用いて理論的に算出され、2つのマイクロホンユニット間(すなわちマイクロホンユニット101およびマイクロホンユニット102間)の方向θに対する位相差関係すなわち位相差情報である。
【0055】
なお、
図1において、記憶部70と記憶部75とは、別の構成として示されているが、一つの記憶部で構成されているとしてもよい。この場合には、推定部50およびスペクトル演算部80が適宜必要な方向ベクトルを取得して推定および演算すればよい。
【0056】
[推定部50]
図4は、実施の形態1における推定部50の詳細構成の一例を示す図である。
【0057】
推定部50は、非探査範囲のみに存在する音源(すなわち妨害音源)に対する第2相関行列Rn(ω)を逐次推定する。より具体的には、推定部50は、指定部40により指定された非探査範囲に含まれる音源(すなわち妨害音源)の音響信号に対応する相関行列である第2相関行列(Rn(ω))を推定する。推定部50は、指定部40により指定された非探査範囲の方向範囲から求められる方向ベクトルとスペクトル演算部80が第1空間スペクトル(P(θ))を演算する1つ前に演算した探査結果として第2空間スペクトル(P(θ))とから第2相関行列(Rn(ω))を推定する。
【0058】
本実施の形態では、推定部50は、
図4に示すように、抽出部501と、更新量演算部502と、更新部503とを備え、妨害音源に対する第2相関行列Rn(ω)を逐次に推定する。
【0059】
<抽出部501>
抽出部501は、指定部40により指定された非探査範囲により示される方向範囲と、スペクトル演算部80により演算された第2空間スペクトル(P(θ))とから、非探査範囲内における第2空間スペクトル(P(θ))の最小強度方向および最大強度方向を示す角度情報を抽出する。
【0060】
換言すると、抽出部501は、指定部40により指定された例えば0°≦θd≦θ1またはθ2≦θd≦180°などの非探査範囲の方向を示す角度範囲θdと、スペクトル演算部80で演算された探査結果である第2空間スペクトルP(θ)とが入力される。そして、抽出部501は、これらを用いて、非探査範囲内における第2空間スペクトルP(θ)の最大強度の方向すなわち音源方向θmaxと最小強度の方向すなわち音源方向θminとを抽出する。
【0061】
ここで、非探査範囲の第2空間スペクトルの最大強度の音源方向θmaxと最小強度の音源方向θminの一例について、
図5を用いて説明する。
図5は、実施の形態1におけるスペクトル演算部80で演算され出力された第2空間スペクトルの一例を示す図である。
【0062】
図5に示される第2空間スペクトルの例では、θ2〜180°の非探査範囲において、強度の山(図でN4に示される山)と谷(図でN3に示される山)とが現れている。第1相関行列(Rx(ω))は現在の観測信号を用いて算出部30で算出されたものであるが、第2相関行列Rn(ω)の成分が、過去の空間スペクトルである第2空間スペクトルを用いて推定部50で推定されたものであるからである。つまり、現在の観測信号と第2空間スペクトルを演算したときの観測信号すなわち1つ前に演算された観測信号とに含まれる妨害音源とが一致しない場合には、探査対象音源S以外に妨害音の影響が現れることを意味する。
図5に示される第2空間スペクトルでは、強度の山(図でN4に示される山)がある方向に現在新たに妨害音源が現れ、第2相関行列Rn(ω)の成分では除去できていない。一方、強度の谷(図でN3に示される山)がある方向では、過去に存在した妨害音源が現在存在せず、第2相関行列Rn(ω)の成分では除去しすぎすなわちキャンセルしすぎているのがわかる。
【0063】
換言すると、非探査範囲における最大強度の音源方向θmaxは、妨害音として最も高い音圧レベルを示す妨害音源の方向であり、キャンセル量(すなわち第2相関行列Rn(ω)の成分)を高めるべき方向を示す。一方、非探査範囲における最小強度の音源方向θminは、妨害音としてキャンセル量が過剰であり、キャンセル量(すなわち第2相関行列Rn(ω)の成分)を低めるべき方向を示す。
【0064】
このようにして、抽出部501は、指定部40により指定された非探査範囲を示す角度範囲θd内で第2空間スペクトルP(θ)が示す最大強度の音源方向θmaxと、非探査範囲を示す角度範囲θd内で第2空間スペクトルP(θ)が示す最小強度の音源方向θminとを抽出して出力する。
【0065】
<更新量演算部502>
更新量演算部502は、抽出部501で抽出された角度情報θdと、非探査範囲により示される方向範囲から求められる方向ベクトル(d(θ、ω))とから、最小強度方向および最大強度方向における第2空間スペクトルに対応する相関行列を、相関行列更新量(△Rn(ω))として算出する。
【0066】
換言すると、更新量演算部502は、抽出部501からの非探査範囲の第2空間スペクトルの最大強度の音源方向θmaxと最小強度の音源方向θminと非探査範囲の方向を示す方向ベクトルd(θ、ω)とを取得するもしくは方向ベクトルd(θ、ω)が入力される。そして、更新量演算部502は、これらから、当該第2空間スペクトルの最大強度の音源方向θmaxと最小強度の音源方向θminに対する相関行列の理論値を算出し、相関行列更新量ΔRn(ω)として更新部503に出力する。より具体的には、更新量演算部502は、下記の(式7)を用いて、相関行列更新量ΔRn(ω)を算出する。すなわち、更新量演算部502は、抽出部501で抽出された非探査範囲における最大強度の音源方向θmax、最小強度の音源方向θminおよび方向ベクトルd(θ、ω)とを取得する。そして、更新量演算部502は、これらを用いて、θmax方向の強度を高め(すなわちキャンセル量を高め)、θmin方向の強度を低く(すなわちキャンセル量を低く)するように、相関行列更新量ΔRn(ω)を算出する。
【0068】
なお、(式7)において、α、βは、θmax方向、θmin方向それぞれに対する更新量を調整するパラメータであり、d
Hはdの複素共役転置である。
【0069】
<更新部503>
更新部503は、更新量演算部502により算出された相関行列更新量(△Rn(ω))を用いて、推定部50が第2相関行列(Rn(ω))を推定する前に推定していた非探査範囲に含まれる音源の音響信号に対応する相関行列を更新することで、第2相関行列(Rn(ω))を推定する。更新部503は、更新量演算部502により算出された相関行列更新量(△Rn(ω))の成分を、推定部50が第2相関行列(Rn(ω))を推定する前に推定した非探査範囲に含まれる音源(すなわち妨害音源)の音響信号に対応する相関行列に加算することにより、第2相関行列(Rn(ω))を推定する。
【0070】
換言すると、更新部503は、更新量演算部502で演算された相関行列更新量ΔRn(ω)を入力として、第2相関行列Rn(ω)を更新して出力する。具体的には、更新部503は、下記の(式8)に示されるよう、第2相関行列Rn(ω)を、更新量演算部502で演算された相関行列更新量ΔRn(ω)を使って更新する。
【0072】
このようにして、推定部50において、非探査範囲における最大強度の音源方向θmaxと最小強度の音源方向θminとに基づいて、第2相関行列Rn(ω)を求めている理由は、次の通りである。すなわち、出力部90で出力される空間スペクトル(ヒートマップとも称される)上に現れる妨害音の影響は、非探査範囲における強度のピークの方向にその根源すなわち妨害音源が存在するからである。
【0073】
したがって、推定部50では、非探査範囲の空間スペクトルP(θ)から最大強度の音源方向θmaxと、最小強度の音源方向θminとを抽出することで、上記の(式7)および(式8)を用いた逐次推定により第2相関行列Rn(ω)を推定することができる。
【0074】
ここで、ピーク方向の方向ベクトルd(θ、ω)は、振幅1でマイクロホンユニット間の位相差を表すので、上記の(式2)との関係から、方向ベクトルd(θ、ω)に対応する相関行列は、d
H(θ、ω)d(θ、ω)で計算できる。
【0075】
このようにして、推定部50は、非探査範囲の空間スペクトルの最大強度と最小強度に対応する方向ベクトルすなわち位相情報の理論値を基に第2相関行列Rn(ω)を推定するため、探査範囲に探査対象音源が存在するときでも常に第2相関行列Rn(ω)の推定が可能である。
【0076】
[効果等]
以上のように、本実施の形態によれば、非探査範囲に、探査対象音源よりも高い音圧レベルの妨害音源が存在する場合でも、妨害音源の影響を抑制し、探査範囲の探査対象音源の方向を探査することができる。つまり、本実施の形態によれば、探査対象範囲にある探査対象の音源の方向をより確実に探査することができる音源探査装置100を実現することができる。
【0077】
ここで、
図6〜
図11を用いて、本実施の形態における音源探査装置100の効果について説明する。
【0078】
<比較例>
図6は、比較例における音源探査装置900の構成の一例を示す図である。なお、
図1と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
図6に示すように、比較例における音源探査装置900には、実施の形態1における音源探査装置100と比較して、指定部40、推定部50および除去部60の構成がなく、スペクトル演算部980の構成が異なる。スペクトル演算部980では、算出部30で算出された、マイクロホンアレイ10で集音された2以上の音響信号間(すなわち観測信号)の相関行列(すなわち第1相関行列)と方向ベクトルとを演算することにより、空間スペクトル(P
9(θ))を演算する。出力部990は、この空間スペクトル(P
9(θ))を外部の装置に出力する。
【0079】
図7は、比較例における探査対象音源Sとマイクロホンアレイ10との位置関係の一例を示す図である。なお、
図2と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
図8は、
図7に示す位置関係における比較例のスペクトル演算部980の出力例を示す空間スペクトル図である。
図8において、横軸は角度、縦軸は強度を示す。
【0080】
図7に示す例では、探査対象音源Sは、マイクロホンユニット101に対して、θ=θsの方向に存在し、妨害音源が存在しない。この場合、比較例のスペクトル演算部980が演算する探査結果である空間スペクトル(P
9(θ))は、
図8に示すようになる。すなわち、探査結果である
図8に示す空間スペクトル(P
9(θ))において最も高い強度を示す角度がθsとなる。したがって、
図7に示す例では、比較例における音源探査装置900は探査対象音源の方向がθ=θsであることが推定できる。
【0081】
しかしながら、比較例における音源探査装置900では、探査対象音源Sよりも高い音圧レベルの騒音である妨害音が存在する場合、この妨害音の影響で探査対象の音源を検知すなわち探査できなくなる。以下、この場合について説明する。
【0082】
図9は、比較例におけるマイクロホンアレイ10と探査対象音源Sおよび妨害音源N1、N2との位置関係を示す図である。
図10は、
図9に示す位置関係における比較例のスペクトル演算部980の出力例を示す空間スペクトル図である。
図11は、
図9に示す位置関係における比較例のスペクトル演算部980の別の出力例を示す空間スペクトル図である。なお、
図2、
図3、
図7および
図8と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
【0083】
図9に示す例では、探査対象音源Sに加えて、妨害音源N1および妨害音源N2が存在している。この場合、比較例のスペクトル演算部980が演算する探査結果である空間スペクトル(P
9(θ))は、
図10に示すようになる。すなわち、探査結果である
図10に示す空間スペクトル(P
9(θ))において、妨害音源N1の強度は、妨害音源N1が存在する方向のみでなく妨害音源N1の方向から(角度が)離れるに従って減衰するように現れる。妨害音源N2の強度も妨害音源N1と同様の振る舞いで現れる。そのため、
図10に示すように、妨害音源N1と妨害音源N2との音圧レベルが探査対象音源Sの音圧レベルよりも高い場合、探査対象音源Sは、2つ妨害音源(妨害音源N1と妨害音源N2)の強度のピークに埋もれる状態となる。そのため、比較例における音源探査装置900を用いても探査対象音源Sの存在(強度のピーク)を検知できないので、探査対象音源Sの方向を探査できないという課題を有する。
【0084】
また、比較例における音源探査装置900において、
図11に示すように妨害音源N1、N2が存在する方向範囲を非探査範囲として探査範囲から除外してもこの課題は解決できない。つまり、妨害音源N1、N2が存在する方向範囲を探査範囲から除外するだけでは、
図11に示す実線グラフのように、妨害音源N1および妨害音源N2の影響を受け探査対象音源Sの強度のピークは不明確のままである。そのため、比較例における音源探査装置900は、探査対象音源Sの存在(すなわち強度のピーク)を検知できず、探査対象音源Sの方向を探査できないという課題を有する。
【0085】
<実施の形態1の効果>
本実施の形態における音源探査装置100では、
図2で説明したように非探査範囲を指定することにより、探査対象音源Sの方向の探査を最終的な探査結果が必要な範囲(図で探査範囲θ1〜θ2)に絞り込む。そして、本実施の形態における音源探査装置100は、さらに、観測信号の相関行列(すなわち第1相関行列)から非探査範囲の音源(すなわち妨害音源)に対する相関行列(すなわち第2相関行列)の成分を減算して妨害音成分を除去する。上述したように、マイクロホンアレイ10で集音される観測信号から得られる相関行列(すなわち第1相関行列)は、マイクロホンアレイ10からみて全方向の音源に対する成分が含まれる相関行列となるからである。
【0086】
このようにして、本実施の形態における音源探査装置100は、全ての方向から到来する音波の観測信号から計算される第1相関行列から、非探査範囲の第2相関行列の成分を除去することで、探査範囲のみの音源すなわち探査対象音源に対する第3相関行列を導出することができる。その結果、音源探査装置100は、探査結果として、
図3で示した空間スペクトル(P(θ))を出力することができ、
図3において最も高い強度を示す角度がθsとなっていることから、探査対象音源Sの方向がθ=θsであると推定できる。
【0087】
なお、非探査範囲に存在する妨害音の影響を除去するためには、非探査範囲に存在する妨害音源のみに対する相関行列(すなわち第2相関行列)を推定することが重要である。推定した非探査範囲の第2相関行列に探査対象音源Sの成分が漏れ込むと正しい推定結果が得られなくなるからである。実環境では、探査範囲に存在する探査範囲音源Sと同時に非探査範囲に存在する音源すなわち妨害音源が混在する。そのため、比較例における音源探査装置900では、非探査範囲の音源すなわち妨害音源のみに対する相関行列(すなわち第2相関行列)を推定することは難しい。
【0088】
一方、本実施の形態おける音源探査装置100では、探査範囲と非探査範囲とに存在する音源の違いは方向であることに着目して、確実に非探査範囲のみに存在する音源すなわち妨害音源に対する第2相関行列を求める。換言すると、音源探査装置100は、非検探査範囲の方向ベクトル(すなわち位相情報の理論値)と探査結果(すなわち強度の観測値)とから第2相関行列を算出する。音源探査装置100は、上述したように位相情報を理論値から算出するため、振幅情報(すなわち強度)に誤差があっても、少なくとも方向の探査において探査範囲に悪影響を与えない第2相関行列であって非探査範囲に存在する音源の第2相関行列を推定することができる。
【0089】
以上のように、本実施の形態における音源探査装置100は、非探査範囲に、探査対象音源よりも高い音圧レベルの妨害音源が存在する場合でも、妨害音源の影響を抑制し、探査範囲の探査対象音源の方向を探査することができる。それにより、騒音環境下での音源探査性能すなわち耐騒音性能を改善することができる。非探査範囲に対応する相関行列(すなわち第2相関行列)を、非探査範囲の方向ベクトルすなわち理論値及び非探査範囲の探査結果すなわち空間スペクトルから推定することで、高精度な第2相関行列の推定が可能となり、探査範囲の音源方向推定における耐騒音性能が向上するからである。
【0090】
なお、上記のような妨害音源が存在しない通常環境であれば、本実施の形態における音源探査装置100は、探査範囲の低い音圧レベルの音源を探査することができるようになる。
【0091】
(変形例1)
図12は、変形例1における音源探査装置100Aの構成の一例を示す図である。なお、
図1と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
【0092】
図12に示す音源探査装置100Aは、実施の形態1における音源探査装置100に対して、設定部40Aを備える点で構成が異なる。
【0093】
設定部40Aは、指定部40、入力部41および検出部42を備える。なお、入力部41および検出部42は、必須の構成ではない。設定部40Aは、入力部41および検出部42のうちの少なくとも一方と指定部40とを備えればよい。
【0094】
入力部41は、指定部40に対して、ユーザが非探査範囲を追加または削除することができる。具体的には、入力部41は、指定部40に対するユーザインターフェース部であり、音源探査装置100Aの動作開始前または動作中に非探査範囲を指定可能または変更可能である。入力部41は、検出部42と併設される場合には、検出部42が出力した非探査範囲の候補を指定または当該候補に変更してもよい。
【0095】
検出部42は、スペクトル演算部80が演算した第2空間スペクトルから、探査対象音源の方向の探査を妨害する音源である妨害音源が存する方向を、非探査範囲の候補として検出する。
【0096】
ここで、検出部42は、検出部42が入力部41と併設されない場合には、指定部40が指定する非探査範囲を、当該非探査範囲の候補に更新してもよい。具体的には、検出部42は、空間スペクトルP(θ)の情報から妨害音が存することを検出し続けた場合に非探査範囲すなわち妨害音源が存する方向を検出し、指定部40にその検出した方向すなわち非探査範囲を指定させてもよい。
【0097】
なお、非探査範囲の候補の検出方法としては、一定時間音源探査を行った結果である一定時間出力された空間スペクトルにおいて常に音圧レベルが高くなっている領域を非探査範囲の候補と検出する方法でもよい。また、別の非探査範囲候補の検出方法としては、マイクロホンアレイ10からの音響信号に対して、音識別を用いて音の種類を判定することで検出する方法でもよい。具体的には音源方向を探査した音源の音の種類が探査対象音源の音の種別と異なると判断され、かつ、その音源が一定方向にあると判定した場合、その一定方向を非探査方向として検出する方法でもよい。
【0098】
(変形例2)
図13は、変形例2における探査範囲および非探査範囲の説明図である。なお、
図2と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
【0099】
実施の形態1および変形例1では、指定部40により非探査範囲が0°〜θ1、θ2〜180°の2つの範囲で指定されるとして説明したがそれに限らない。指定部40が指定する非探査範囲は、
図13に示されるような3つの範囲を指定してもよく、3以上の範囲を指定してもよい。
【0100】
(変形例3)
図14は、変形例3における音源探査装置100Bの構成の一例を示す図である。なお、
図1と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
【0101】
図14に示す音源探査装置100Bは、実施の形態1における音源探査装置100に対して、記憶部70を備えていない点と、スペクトル演算部80Bの構成とが異なる。
【0102】
スペクトル演算部80Bは、実施の形態1のスペクトル演算部80と異なり、方向ベクトルを用いないで、第1空間スペクトルを演算する。スペクトル演算部80Bは、例えば第3相関行列(Rs(ω))の固有値展開を行うことにより、第1空間スペクトルを演算することができる。
【0103】
(実施の形態2)
実施の形態1では、記憶部75に予め記憶されている非探査範囲の方向ベクトルとスペクトル演算部80が演算した第2空間スペクトルとを用いて、第2相関行列Rn(ω)を推定する場合について説明したがこれに限らない。非探査範囲の方向ベクトルを用いずに第2相関行列Rn(ω)を推定することができるので、実施の形態2として以下説明する。
【0104】
[音源探査装置200の構成]
図15は、実施の形態2における音源探査装置200の構成の一例を示す図である。なお、
図1と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
【0105】
図15に示す音源探査装置200は、実施の形態1における音源探査装置100に対して、記憶部75を備えていない点と、推定部51の構成とが異なる。
【0106】
[推定部51]
推定部51は、非探査範囲のみの音源すなわち妨害音源に対する第2相関行列Rn(ω)を推定する。より具体的には、推定部51は、指定部40により指定された非探査範囲に含まれる音源(すなわち妨害音源)の音響信号に対応する空間スペクトル強度が閾値よりも高く、かつ、音源探査装置200に探査させる方向範囲を示す探査範囲に含まれる探査対象音源の音響信号がないときの第1相関行列(Rx(ω))を用いて、非探査範囲に含まれる音源の音響信号に対応する相関行列である第2相関行列(Rn(ω))を推定する。
【0107】
本実施の形態では、推定部51は、指定部40により指定された非探査範囲である角度範囲θdと、スペクトル演算部80により演算された第2空間スペクトルP(θ)と、算出部30で算出された第1相関行列Rx(ω)とを入力として、第2相関行列Rn(ω)を出力する。
【0108】
ここで、第2相関行列Rn(ω)は、実施の形態1と同様に、非探査範囲に存在する騒音の影響を除去することに用いられる。そのため、推定部51は、非探査範囲である角度範囲θdで示される方向のみからの到来音波に対する相関行列を第2相関行列Rn(ω)として推定する必要がある。つまり、第2相関行列Rn(ω)には、探査範囲からの音波の成分が含まれないことが望ましい。したがって、推定部51は、第2空間スペクトルにおける非探査範囲の強度が十分高く、非探査範囲の音波成分のレベル(すなわち音圧レベル)が探査範囲の音波成分のレベル(すなわち音圧レベル)よりも十分高いことを検出すればよい。そして、推定部51は、非探査範囲の音波成分のレベル(すなわち音圧レベル)が探査範囲の音波成分のレベル(すなわち音圧レベル)よりも十分高いときの第1相関行列Rx(ω)を時間的に平均することで第2相関行列Rn(ω)を推定すればよい。
【0109】
第2空間スペクトル非探査範囲の強度が十分高いか否かの判定は、閾値判定によって行うことができる。例えば、ある時刻の空間スペクトルP(θ)に対して、全方(0≦θ≦180)の総和をΣ
θP(θ)、非探査範囲の和をΣ
θdP(θd)、判定閾値をThとして、以下の(式9)で判定すればよい。
【0110】
Th×Σ
θP(θ)<Σ
θdP(θd) (式9)
【0111】
探査範囲と非探査範囲とにおける空間スペクトルP(θ)の和が等しい場合は、Th=0.5の閾値レベルに相当する。そのため、探査範囲より非探査範囲の方が空間スペクトルの強度が大きくなっている状態を判定するため、Thが取り得る範囲は、概ね0.5≦Th≦1となる。非探査範囲の空間スペクトルの強度が十分大きい状態を判定するためには、0.9以上の値となるThを用いるとよい。なお、Thは探査対象音源の音圧レベルや、周囲騒音環境によって調整する必要がある。
【0112】
そして、推定部51は、上記の閾値判定を満たしたときの第1相関行列Rx(ω)を以下の(式10)を用いて時間平均など行うことで第2相関行列Rn(ω)を推定する。
【0113】
Rn(ω)
(t)=C
A・Rn(ω)
(t−1)+C
B・Rx(ω)
(t) (式10)
【0114】
ここで、C
A、C
Bは平滑化の係数で、C
A+C
B=1の条件で設定する。添え字(t)は現時刻を示し、添え字(t−1)は更新前の値を示す。
【0115】
[効果等]
以上のように、本実施の形態によれば、非探査範囲に、探査対象音源よりも高い音圧レベルの妨害音源が存在する場合でも、妨害音源の影響を抑制し、探査範囲の探査対象音源の方向を探査することができる。つまり、本実施の形態によれば、探査対象範囲にある探査対象の音源の方向をより確実に探査することができる音源探査装置200を実現することができる。
【0116】
本実施の形態では、除去部60で算出された探査範囲における探査対象音源に対する過去の第3相関行列Rs(ω)すなわち推定値に対する第2空間スペクトルP(θ)を用いて判定をする構成である。そのため、推定部51は、非探査範囲成分を除去した後の残留強度が高い場合に第2相関行列Rn(ω)を更新することになる。
【0117】
なお、推定部51は、別の例として、算出部30で算出された第1相関行列Rx(ω)を用いて、当該第1相関行列Rx(ω)に対する空間スペクトルP(θ)を算出して、上記の判定に用いてもよい。
【0118】
以上、本発明の一つまたは複数の態様に係る音源探査装置等について、実施の形態および変形例に基づいて説明したが、本発明は、これら実施の形態等に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。例えば、以下のような場合も本発明に含まれる。
【0119】
(1)たとえば、上記の音源探査装置は、さらに、カメラなど画像撮影手段とその撮影画像を処理する新行処理部とを備えていてもよい。この場合、上記の音源探査装置は、マイクロホンアレイの中央にカメラが配置されていてもよいし、マイクロホンアレイとは別の位置にカメラを備えるとしてもよい。
【0120】
より具体的には、カメラで得られた撮影画像を信号処理部に入力し、信号処理部により処理されることで特定された探査対象音源の位置を示す音源画像を、入力された撮影画像に重畳させた画像を、音源探査装置に接続されている表示部に処理結果として表示させてもよい。
【0121】
(2)上記の音源探査装置は、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、ハードディスクユニット、ディスプレイユニット、キーボード、マウスなどから構成されるコンピュータシステムでもよい。前記RAMまたはハードディスクユニットには、コンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、各構成要素は、その機能を達成する。ここでコンピュータプログラムは、所定の機能を達成するために、コンピュータに対する指令を示す命令コードが複数個組み合わされて構成されたものである。
【0122】
(3)上記の音源探査装置を構成する構成要素の一部または全部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。前記RAMには、コンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
【0123】
(4)上記の音源探査装置を構成する構成要素の一部または全部は、各装置に脱着可能なICカードまたは単体のモジュールから構成されているとしてもよい。前記ICカードまたは前記モジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどから構成されるコンピュータシステムである。前記ICカードまたは前記モジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、前記ICカードまたは前記モジュールは、その機能を達成する。このICカードまたはこのモジュールは、耐タンパ性を有するとしてもよい。