特許第6871720号(P6871720)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6871720-炭酸ガス吸収装置 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871720
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】炭酸ガス吸収装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/62 20060101AFI20210426BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20210426BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20210426BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20210426BHJP
   B01D 53/18 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   B01D53/62ZAB
   B01D53/78
   B01D53/96
   B01D53/14 220
   B01D53/18 130
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-221927(P2016-221927)
(22)【出願日】2016年11月14日
(65)【公開番号】特開2018-79409(P2018-79409A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱パワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098017
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 宏嗣
(72)【発明者】
【氏名】横山 公一
(72)【発明者】
【氏名】権藤 宏
(72)【発明者】
【氏名】宮野 亮
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−147171(JP,A)
【文献】 特開平11−137960(JP,A)
【文献】 特開2001−252524(JP,A)
【文献】 特開2012−035214(JP,A)
【文献】 特開平06−154554(JP,A)
【文献】 特開平10−202054(JP,A)
【文献】 特開2011−000529(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0245737(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14−53/18
B01D 53/34−53/85
B01D 53/92
B01D 53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガスを含む燃焼排ガスを水及び炭酸ガス吸収材を含む吸収液に接触させて炭酸ガスを吸収液に吸収させる吸収塔と、前記吸収塔から供給される炭酸ガスを吸収した吸収液を加熱して炭酸ガスを分離して排出する再生塔と、前記吸収塔から排出される排ガスを循環洗浄水で洗浄する排ガス水洗部と、前記再生塔から排出される炭酸ガスを循環洗浄水で洗浄する炭酸ガス水洗部と、前記吸収塔で炭酸ガスを吸収した吸収液を前記再生塔に供給する供給配管と、前記再生塔で炭酸ガスが分離された吸収液を前記吸収塔に戻す戻し配管と、前記供給配管を流れる吸収液を前記戻し配管を流れる吸収液で加熱する熱交換器と、前記再生塔内の吸収液を抜き出して系外の水蒸気で間接加熱して生成される吸収液蒸気を、吸収液の加熱源として前記再生塔に戻すリボイラと、前記吸収塔の吸収液中の炭酸ガス吸収材の濃度を制御する制御装置を備えてなる炭酸ガス吸収装置において、
前記制御装置は、前記吸収塔から前記再生塔へ供給する吸収液の流量をその時の運転条件に応じた吸収液の設定循環流量に制御し、前記再生塔から前記吸収塔に戻す吸収液の流量は前記吸収塔の液溜の液溜量が一定になるように制御するとともに、
前記吸収塔の液溜の吸収液量A1と、前記再生塔の液溜の吸収液量A2と、前記リボイラに滞留する吸収液量A3と、前記熱交換器を含む前記供給配管及び前記戻し配管の配管内の吸収液量A4と、前記吸収塔と前記再生塔にそれぞれ充填された充填材の充填層に保持される吸収液量A5との合計とからなる全吸収液量Aを求め、
前記全吸収液量Aを前記吸収塔に初期時に充填した初期充填吸収液量A0に一致させるように、A<A0の場合は、排ガス及び炭酸ガスの少なくとも一方の水洗部の循環洗浄水を吸収塔に補充してA=A0となるように制御し、A>A0の場合は、排ガス水洗部の循環洗浄水の水温を吸収塔に注入される排ガスの入口温度T1よりも高く制御してA=A0となるように制御することを特徴とする炭酸ガス吸収装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記吸収塔の液溜の吸収液量A1は、前記吸収塔の吸収液が流下する液溜の予め求めた断面積と、当該液溜に設けられた吸収液の液面センサの液高の計測値とから求め、
前記再生塔の液溜の吸収液量A2は、前記再生塔の吸収液が流下する液溜の予め求めた断面積と、当該液溜に設けられた吸収液の液面センサの液高の計測値とから求め、
前記リボイラに滞留する吸収液量A3は、前記リボイラの吸収液の液溜の予め求めた断面積と、該液溜に設けられた吸収液の液面センサの液高の計測値とにより求め、
前記熱交換器を含む供給配管と前記戻し配管の配管内の吸収液量は、予め定めた設定値A4*を用い、
前記充填層に保持される吸収液量A5は、予め定めた推定値A5*を用いることを特徴とする請求項1に記載の炭酸ガス吸収装置。
【請求項3】
前記充填層に保持される吸収液量の推定値A5*は、前記初期充填吸収液量A0と前記全吸収液量Aが等しいと仮定し、前記吸収液量A1、A2、A3,A4*の合計値と前記初期充填吸収液量A0との差を用いることを特徴とする請求項2に記載の炭酸ガス吸収装置。
【請求項4】
前記充填層に保持される吸収液量の推定値A5*は、試運転時に、予め運転条件の変動範囲を設定し、該変動範囲における異なる運転条件について、吸収液の循環流量と、排ガス流量と、吸収液の粘度とをパラメータとして、推定値A5*をそれぞれ求めて、前記異なる運転条件に対応して推定値A5*を収集して前記運転条件に対応させてデータベースに格納しておき、
前記制御装置は、運転時における運転条件に対応する推定値A5*を前記データベースから求めることを特徴とする請求項2に記載の炭酸ガス吸収装置。
【請求項5】
前記充填層に保持される吸収液量A5は、前記初期充填吸収液量A0と前記全吸収液量Aが等しい試運転時に、排ガス流量及び吸収液循環量に対応付けて、前記吸収液量A1、A2、A3,A4の合計値と前記全吸収液量Aの差を測定して推定値A5*を算出し、該推定値A5*を前記排ガス流量及び吸収液循環量に対応付けてデータベースに格納しておき、
前記制御装置は、運転時における前記排ガス流量及び吸収液循環量に対応する前記推定値A5*を前記データベースから求めることを特徴とする請求項2に記載の炭酸ガス吸収装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記リボイラは、液溜の水平面の断面積Srebが液高hの関数B(h)であり、液高B(h)の計測値に基づいて、次式を用いて前記リボイラに滞留する吸収液量A3を算出することを特徴とする請求項1に記載の炭酸ガス吸収装置。
【数3】
【請求項7】
前記吸収塔の吸収液が流下する液溜の容積が、前記再生塔の吸収液が流下する液溜の容積と前記リボイラの吸収液の液溜の容積との合計容積よりも小さく形成されてなり、
前記制御装置は、前記再生塔に充填された充填材の充填層における差圧の測定値が設定値を超えたとき、前記吸収塔から前記再生塔へ供給する吸収液循環流量を設定値に制御し、かつ前記リボイラに供給する前記水蒸気量を設定値に制限することを特徴とする請求項1に記載の炭酸ガス吸収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラなどの燃焼装置の排ガス中から炭酸ガスを吸収して回収する炭酸ガス吸収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所等においては、石炭などの化石燃料の燃焼に伴って二酸化炭素(以下、炭酸ガス又はCO2という。)が発生し、大気中のCO2濃度を上昇させ、それに伴う気温の上昇により、各種の環境問題が生じると言われている。そこで、火力発電所等の排ガスからCO2を回収する方法として、排ガス中のCO2をアミン水溶液などのCO2吸収材を含む吸収液に吸収して回収する種々の吸収装置が提案されている。ところで、一般に、排ガス中には酸性ガス(SOx、NOx、HCl等)が含まれているから、そのままCO2吸収装置に導入すると、例えば吸収液中のアミンが酸性ガスと反応して熱安定性塩となり不活性化する。これを回避するために、CO2吸収装置よりも上流側で排ガス中の酸性ガスを除去するようにしている。
【0003】
また、CO2吸収装置は、排ガス中のCO2をアミン水溶液に吸収して除去し、CO2が除去された排ガスを大気中に放出していることから、アミン蒸気が排ガスに同伴して大気に飛散されることがある。そのため、環境面から大気へのアミン飛散量を低減することが求められる。これに対応して、従来、アミン水溶液でCO2を回収した排ガスを水洗することにより、放出される排ガス中のアミン濃度を低減している(例えば、特許文献1〜3など)。しかし、これらの文献によれば、排ガスの水洗に用いる洗浄水を水洗部に循環して排ガスを洗浄していることから、アミン飛散量を低減するためには、循環する洗浄水のアミン濃度を一定値以下に制御する必要がある。
【0004】
一方、CO2吸収装置の吸収液の液量及びアミン濃度を一定に制御する方法が、例えば、特許文献4、5に提案されている。例えば、特に特許文献4によれば、アミンの分析装置を用いることなく、装置内の液量を一定に制御することによりアミン濃度を一定に制御するようにしている。同様に、特許文献6には、吸収塔に導入される排ガス中の水分量若しくは排ガス流量の変動、または吸収液の循環量の変動などにより、吸収液を構成するアミンと水との比率(以下、吸収液の水分比率という。)が変動し、炭酸ガスの吸収性能が低下して回収率が低下するのを防止する技術が提案されている。これによれば、吸収塔内の液溜の吸収液の液面レベルを液面センサで計測し、吸収液の水分比率を調整するための水を含む調整液が貯留された調整液タンクから、吸収塔内の液溜の吸収液の液面レベルの計測値に基づいて吸収塔または再生塔に調整液を供給するようにしている。また、特許文献7にも、同様に、吸収液の液面を測定可能な部位に液面センサを設けて、この液面が一定になるように貯水槽から吸収塔に供給される水の流量を調節して、吸収液量を一定に保ち、且つ、吸収液の濃度を一定に保つことが提案されている。
【0005】
また、特許文献6,7には、アミン飛散量を低減するために、水洗部の循環洗浄水の少なくとも一部抜き出して、アミンを含まない洗浄水を補充することにより、洗浄水のアミン濃度を一定値以下に制御している。また、抜き出したアミンを含む洗浄水を再利用する場合、CO2吸収装置の吸収液中のアミン濃度が一定になるように、吸収液の水分比率を管理するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許5185970
【特許文献2】特表2013-517126
【特許文献3】特許5703106
【特許文献4】特許3364103
【特許文献5】特許3217742
【特許文献6】特開2016―93788
【特許文献7】特開平10−202054
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4〜7に記載された発明によれば、得失の違いはあるが、吸収液中のアミン等のCO2吸収材の濃度を設定値に制御することができる。また、吸収材の大気中への飛散量を抑えることができる。しかし、吸収液中の吸収材濃度を一定値に制御する制御方法を容易化することには改善の余地ある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、吸収液中の吸収材濃度を一定値に制御する制御を容易化することができる制御装置を備えた炭酸ガス吸収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、炭酸ガスを含む燃焼排ガスを水及び炭酸ガス吸収材を含む吸収液に接触させて炭酸ガスを吸収液に吸収させる吸収塔と、前記吸収塔から供給される炭酸ガスを吸収した吸収液を加熱して炭酸ガスを分離して排出する再生塔と、前記吸収塔から排出される排ガスを循環洗浄水で洗浄する排ガス水洗部と、前記再生塔から排出される炭酸ガスを循環洗浄水で洗浄する炭酸ガス水洗部と、前記吸収塔で炭酸ガスを吸収した吸収液を前記再生塔に供給する供給配管と、前記再生塔で炭酸ガスが分離された吸収液を前記吸収塔に戻す戻し配管と、前記供給配管を流れる吸収液を前記戻し配管を流れる吸収液で加熱する熱交換器と、前記再生塔内の吸収液を抜き出して系外の水蒸気で間接加熱して生成される吸収液蒸気を、吸収液の加熱源として前記再生塔に戻すリボイラと、前記吸収塔の吸収液中の炭酸ガス吸収材の濃度を制御する制御装置を備えてなる炭酸ガス吸収装置において、前記制御装置は、前記吸収塔から前記再生塔へ供給する吸収液の流量を運転条件により定められる吸収液の設定循環流量に制御し、前記再生塔から前記吸収塔に戻す吸収液の流量は前記吸収塔の液溜の液溜量が一定になるように制御するとともに、前記吸収塔の液溜の吸収液量A1と、前記再生塔の液溜の吸収液量A2と、前記リボイラに滞留する吸収液量A3と、前記熱交換器を含む前記供給配管及び前記戻し配管の配管内の吸収液量A4と、前記吸収塔と前記再生塔にそれぞれ充填された充填材の充填層に保持される吸収液量A5との合計とからなる全吸収液量Aを求め、前記全吸収液量Aを前記吸収塔に初期時に充填した初期充填吸収液量A0に一致させるように、前記排ガス水洗部と前記炭酸ガス水洗部の少なくとも一方の循環洗浄水の一部を前記吸収塔の吸収液に加え、又は前記排ガス水洗部の循環洗浄水の水温を前記吸収塔に流入される前記排ガス温度以上に制御することを特徴とする。
【0010】
本発明において、炭酸ガスを吸収する吸収液中の吸収材濃度の制御を容易化する原理は、運転中の炭酸ガス吸収装置内の全吸収液量Aを、装置を構成する複数の機器に存在する吸収液量を計測ないし高い確度で推定して求め、求めた全吸収液量Aと初期充填吸収液量A0を比較し、A=A0となるように炭酸ガス吸収装置内の吸収液量を増減制御して、吸収液中の吸収材濃度を一定に制御することにある。つまり、運転中の炭酸ガス吸収装置内の全吸収液量Aを、簡単な計測と確度の高い推定により高精度で求め、初期充填吸収液量A0に対する全吸収液量Aの増減を判断する。そして、A<A0の場合は、排ガス及び炭酸ガスの少なくとも一方の水洗部の循環洗浄水を吸収塔に補充して、吸収液の吸収材濃度を薄めてA=A0となるように制御する。また、A>A0の場合は、吸収塔の排ガス中の水分を蒸発させるため、排ガス水洗部の循環洗浄水の水温T2を、吸収塔に注入される排ガスの入口温度T1よりも高く制御して、吸収反応の発熱で吸収液の水分の蒸発を促し、吸収液の吸収材濃度を濃くしてA=A0となるように制御する。このように、本発明は、運転中の炭酸ガス吸収装置内の全吸収液量Aを、簡単な計測と確度の高い推定により高精度で求めて初期充填吸収液量A0と比較し、その差をなくすように、装置内の吸収液に水分を補充し、あるいは吸収液の水分を蒸発させて吸収液中の吸収材濃度を制御していることから、吸収材濃度を一定に容易に制御することができる。
【0011】
前記制御装置は、前記吸収塔の液溜の吸収液量A1は、前記吸収塔の吸収液が流下する液溜の予め求めた断面積と、当該液溜に設けられた吸収液の液面センサの液高の計測値とから求める。前記再生塔の液溜の吸収液量A2は、前記再生塔の吸収液が流下する液溜の予め求めた断面積と、当該液溜に設けられた吸収液の液面センサの液高の計測値とから求める。前記リボイラに滞留する吸収液量A3は、前記リボイラの吸収液の液溜の予め求めた断面積と、該液溜に設けられた吸収液の液面センサの液高の計測値とにより求める。前記熱交換器を含む前記供給配管及び前記戻し配管の配管内の吸収液量は、予め定めた設定値A4を用いる。前記充填層に保持される吸収液量A5は、予め定めた推定値A5*を用いる。
【0012】
つまり、吸収塔及び再生塔は、上部から吸収液を散布し、下部から上昇する排ガス又はCO2ガスと気液接触させて、排ガス中のCO2を吸収液に吸収させ又は吸収液に吸収されたCO2を分離して、再生塔の上部から回収するように構成されている。したがって、吸収塔及び再生塔には、それぞれ下部に吸収液の液溜が備えられている。それらの液溜は、予め形状が決まっているから液溜の断面積は予め定まる。したがって、それらの液溜に流下した吸収液の液高(液面高さ)を液面センサで計測すれば、それらの液溜に溜まっている吸収液量A1,A2をリアルタイムで容易に求めることができる。
【0013】
また、リボイラは、通常、吸収液が充満される吸収液室内に、加熱用の蒸気配管を配置し、吸収液室の上部に吸収液の蒸気室が連通して設けられる。リボイラの吸収液室の断面積は、周知の幾何学的な計算式により、吸収液室(液溜)の液高に対応付けて予め求めることができる。なお、吸収液室内に設置される加熱用の蒸気配管の体積は除去しなければならない。したがって、リボイラの吸収液室(液溜)内の液高(液面高さ)を液面センサで計測すれば、その液溜に溜まっている吸収液量A3をリアルタイムで容易に求めることができる。
【0014】
一方、熱交換器を含む供給配管及び戻し配管の配管内には、常に吸収液が充満されているから、予めそれらの熱交換器及び配管の内容積を計算で容易に求めることができる。ここで、配管には、ポンプ及びバルブなどの付属機器、吸収液の散布ノズルが含まれる。したがって、配管内の吸収液量A4は、予め計算で求めた設定値A4の一定値になる。
【0015】
さらに、通常、吸収塔及び再生塔には、気液接触を促進するために、塔内に充填材の充填層が設けられている。充填層を流下する吸収液は、表面積が大きい充填材の表面に保持されることになる。また、充填層中の吸収液の流下速度は、吸収液の粘性及び排ガス又はCO2ガスの流速などに依存する。つまり、炭酸ガス吸収装置の動作ないし運転条件である排ガス流量、排ガス温度、吸収液量等に関係する。炭酸ガス吸収装置の動作条件が一定の場合は定数とみすこともできる。そこで、充填層に保持される吸収液量A5は、基本的に推定値A5*として扱うことが望ましい。例えば、炭酸ガス吸収装置の動作条件が、一定の場合は定数とみすことができる。この場合、初期充填吸収液量A0と前記全吸収液量Aが等しいと仮定し、前記吸収液量A1、A2、A3,A4の合計値と初期充填吸収液量A0との差を求め、その差分が充填層に保持される吸収液量A5であるとして、推定値A5*を定める。ただし、これに限られるものではなく、推定値A5*は、吸収材濃度の制御精度をさらに向上させるために、後述する種々の推定法により設定する値を用いてもよい。
【0016】
また、本発明に係る炭酸ガス吸収装置は、前記吸収塔の吸収液が流下する液溜の容積が、前記再生塔の吸収液が流下する液溜の容積と前記リボイラの吸収液の液溜の容積との合計容積よりも小さく形成されてなる場合に適用する場合、前記制御装置は、前記再生塔に充填された充填材の充填層における差圧の測定値が設定値を超えたとき、前記吸収塔から前記再生塔へ供給する吸収液循環流量を設定値に制御し、かつ前記リボイラに供給する前記水蒸気量を設定値に制限することが望ましい。
【0017】
つまり、再生塔の液溜内及びリボイラの液溜内の容量が吸収塔の液溜内の容量よりも大きい装置の場合、再生塔の充填層の差圧が高くなると、言い換えれば、充填層のCO2の入側(下端)と出側(上端)の差圧が高くなると、吸収液が流下しにくくなる場合がある。これにより再生塔下部の液溜から吸収塔への吸収液が循環し難い状態になる。しかし、吸収塔から所定の循環量の吸収液が再生塔に供給されれば、再生塔の液溜に溜まった吸収液を吸収塔にほぼ定量で供給できる。そこで、吸収塔から再生塔へ供給する吸収液流量を、その時の運転条件に対応した設定循環流量に維持することが望ましい。さらに、上記の状態では再生塔内の吸収液の循環が正常に行われないので、差圧が設定値以上のときには、リボイラに供給する加熱蒸気量を抑制するのが望ましい。これにより、吸収液からのCO2の分離が抑えられて回収量が減少するため、再生塔の充填層の差圧が低減され、充填層に保持されていた吸収液が再生塔の液溜又はリボイラに供給され、正常な運転状態に回復できる。その結果、吸収液濃度の変動も防止できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、吸収液中の吸収材濃度を一定値に制御する制御を容易化することができる制御装置を備えた炭酸ガス吸収装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態の炭酸ガス吸収装置の系統を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態に適用する制御装置のブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に、本発明の一実施形態の炭酸ガス吸収装置を系統図で示す。図示のように、本実施形態の炭酸ガス吸収装置は、
図1に示すように、本実施形態の炭酸ガス吸収装置には、図示していない石炭燃焼ボイラから排出される燃焼排ガス(以下、単に排ガスという)7は、送風機8により吸収塔1の下部に供給され、吸収塔1において水及びCO2吸収材を含む吸収液と排ガスとを気液接触させて排ガス中のCO2を吸収液に吸収させ、CO2が除去された排ガスは吸収塔1の塔頂から大気中に排出される。一方、CO2を吸収した吸収液(リッチ吸収液)は再生塔2に供給され、加熱により吸収液中のCO2を分離し、分離されたCO2は再生塔2の塔頂から回収される。再生塔2の吸収液の加熱源は、リボイラ3で生成される吸収液蒸気が再生塔2の底部に供給される。つまり、リボイラ3は、再生塔2の底部の吸収液を抜き出し、系外の水蒸気で間接加熱して吸収液蒸気を生成して再生塔2の底部に戻すようになっている。
【0021】
本実施形態では、CO2の吸収液として、アミン、環式アミン及びジアミンからなるアミンの中の少なくとも一種類以上を含むアミン系のCO2吸収材を水に溶かしてなる吸収液を用いている。したがって、排ガス7には、酸性ガス(SOx、NOx、HCl等)が含まれており、そのまま吸収塔1に導入すると、CO2吸収材のアミンが酸性ガスと反応して熱安定性塩となり不活性化する。そこで、従来と同様、吸収塔1よりも上流側で排ガス中の酸性ガスを除去するようにしている。また、本実施形態の吸収塔1には、脱硝処理等された後、最終的に、アルカリ性のスラリ又は水溶液を脱硫剤とする湿式脱硫装置で処理された排ガス7が導入されている。
【0022】
吸収塔1には、複数の充填層12,13が設けられ、上部の充填層13の上端に吸収液(リーン吸収液)を散布する散布ノズル14が設けられている。充填層12、13は吸収塔1の下部から上昇する排ガス7と吸収液との気液接触を促進するため、表面積の大きい充填材を用いて形成される。散布ノズル14から散布された吸収液は充填材の表面を伝って流下し、再生塔2の底部の液溜11に溜められる。同様に、再生塔2は、複数の充填層22,23が設けられ、上部の充填層23の上端に吸収液(リッチ吸収液)を散布する散布ノズル24が設けられている。充填層22、23は再生塔2の下部から上昇する吸収液蒸気と吸収液と、散布ノズル24から散布された吸収液との気液接触を促進するものであり、表面積の大きい充填材を用いて形成される。散布ノズル14から散布された吸収液は充填材の表面を伝って流下し、再生塔2の底部の液溜21に溜められる。
【0023】
再生塔2の液溜21の上部には、充填層22を流下してくる吸収液の一部を溜め、残りは液溜21に流下させる液溜部25が形成されている。液溜部25の吸収液は、リボイラ3に抜き出され、リボイラ3において系外から供給される水蒸気(STEAM)により加熱されて吸収液蒸気32が生成される。すなわち、リボイラ3は、吸収液が充満される吸収液室(液溜)内に、加熱用の蒸気配管を配置し、吸収液室の上部に吸収液の蒸気室が連通して設けられている。吸収液室で生成され蒸気室に至る吸収液蒸気32は、液溜部25の下方の再生塔2内に供給される。再生塔2内に供給された吸収液蒸気32は、液溜部25の位置に形成された開口を通って再生塔2内の充填層22、23を上昇する。そして、吸収液蒸気32は、散布ノズル24から散布されて充填層22,23を流下する吸収液(リッチ吸収液)を加熱し、吸収液中のCO2を分離させて吸収液をリーン吸収液に再生する。分離されたCO2は、充填層22,23内を上昇して、再生塔2の塔頂から回収される。
【0024】
一方、吸収塔1の上部には、CO2が除去された排ガスを循環洗浄水で洗浄する排ガス水洗部5が一体に設けられている。なお、水洗部5は、吸収塔1の頂部の排ガスを導入して水洗する構成であれば、別体に設けてもよい。排ガス水洗部5は、吸収塔1の充填層と同様に、充填材の充填層15と、充填層15の上方に位置された洗浄水の散布ノズル16を備えている。また、充填層15の下には、散布ノズル16から散布された洗浄水を受けて貯留する洗浄水溜17が設けられている。洗浄水溜17は、排ガスが流通する開口を備えて形成されている。洗浄水溜17に溜まった洗浄水は洗浄水ポンプ18により吸引され、冷却器19によって所定の水温に冷却されて散布ノズル16に循環して供給される。これにより、吸収塔1でCO2が除去された排ガス中に含まれるアミン系のCO2吸収材成分が除去されて、大気中に放出される。また、洗浄水溜17に溜まった洗浄水は、流量制御弁20を介して吸収塔1の液溜11に供給できるようになっている。
【0025】
また、再生塔2の上部にも、吸収液から分離されたCO2ガスを循環洗浄水で洗浄するCO2水洗部6が一体に設けられている。なお、CO2水洗部6は、再生塔2の頂部のCO2ガスを導入して水洗する構成であれば、別体に設けてもよい。CO2水洗部6は、充填材の充填層26と、充填層26の上方に位置された洗浄水の散布ノズル27を備え、散布ノズル27には洗浄水ポンプ30から洗浄水が供給されるようになっている。一方、再生塔2の頂部から排出されるCO2ガスは、水蒸気を多く含んでいることから、冷却器28により冷却され、凝縮水タンク29において凝縮水が分離されたCO2ガスが回収される。凝縮水タンク29の凝縮水は洗浄水ポンプ30により吸引されて、散布ノズル27に循環されるようになっている。また、凝縮水タンク29の凝縮水は、流量制御弁31を介して吸収塔1の液溜11に供給できるようになっている。
【0026】
ここで、本実施形態の吸収塔1と再生塔2との関連構成について説明する。吸収塔1の底部の液溜11に溜まった吸収液(リッチ吸収液)は、熱交換器41と流量制御弁46が介装された吸収液の供給配管45を介して、再生塔2の散布ノズル24に供給される。また、再生塔2の底部の液溜21に溜まったリーン吸収液は、熱交換器41、ポンプ42、冷却器43及び流量制御弁47が介装された戻り配管44を介して、吸収塔1の散布ノズル14に供給される。
【0027】
次に、本実施形態の特徴である吸収材濃度に係る制御装置100について、図2に示したブロック構成図を参照して説明する。図において制御装置100は、排ガスの流量センサF1及び吸収液の循環流量センサF2から、例えば無線通信によりリアルタイムで、それらの計測値を入力するようになっている。また、吸収塔1の液溜11の液高の液面センサL1、再生塔2の液溜21の液面センサL2、及びリボイラ3の液溜の液面センサL3から、例えば無線通信によりリアルタイムで、それらの計測値を入力するようになっている。また、再生塔2の充填層22と充填層22の差圧を検出する差圧センサDPから、例えば無線通信によりリアルタイムで、それらの計測値を入力するようになっている。
【0028】
一方、制御装置100に設けられたデータベース101には、吸収塔1の液溜11の予め求めた断面積S1と、再生塔2の液溜21の予め求めた断面積S2と、リボイラ3の吸収液の液高L3に対応する断面積S3との関数(数1)が格納されている。また、熱交換器41、流量制御弁46を含む供給配管45を流れる配管内の吸収液量は、供給配管45内を吸収液が満たすように設定された循環流量以上においては定数となるので設定値A4*としてデータベース101に格納されている。また、充填層12,13,22,23に保持された吸収液量A5の推定値A5*が格納されている。さらに、データベース101には、吸収液の循環流量の設定値F2*を算出するための運転条件が格納されている。
【0029】
以下に、制御装置100における制御を説明する。
(基本制御)
制御装置100は、基本制御として、吸収塔1から再生塔2へのリッチ吸収液の循環流量F2を、その時の運転条件に応じた吸収液の設定値F2*をデータベース101等に設定する。そして、流量制御弁46により循環流量F2を設定値F2*に制御するとともに、再生塔2から吸収塔1への吸収液の戻しは、吸収塔1の液溜11の吸収液量が一定になるように、流量制御弁47を制御するようにしている。
【0030】
(吸収液濃度の制御)
制御装置100は、入力される液面センサL1の液高の計測値L1と、データベース101の液溜11の断面積S1とから、それらの積である液溜11の吸収液量A1を算出する。同様に、入力される液面センサL2の液高の計測値L2と、再生塔2の液溜21の断面積S2とから、液溜21の吸収液量A2を算出する。また、リボイラの吸収液の液溜の断面積S3を数1の式に基づいて求め、求めた断面積S3と、その液溜に設けられた液面センサL3の液高の計測値L3とから、リボイラの吸収液量A3を算出する。これらの算出式は、制御装置100に組み込まれている。なお、数1に示すように、リボイラ3の吸収液量A3は、液溜の水平面の断面積S3は液高h(=L3)の関数B(h)である。
【0031】
【数1】
【0032】
また、熱交換器41等を含む供給配管45及び戻り配管44の配管内の吸収液量A4には、予め定めてデータベース101に格納されている設定値A4*を用い、充填層12,13,22,23に保持される吸収液量A5は、次のように推定することができる。
【0033】
ここで、充填層12、13、22、23に保持される吸収液量A5の推定法1〜3について説明する。
(推定法1)
本実施形態のCO2吸収装置の運転条件である排ガス流量F1、及びCO2吸収装置の運転条件である吸収液の循環流量F2が一定の場合は、充填層に保持される吸収液量A5は定数とみなせる場合が多い。そこで、運転初期に充填した初期充填吸収液量A0がAと等値と仮定し、制御装置100により実測値に基づいて算出した吸収液量A1,A2,A3と、吸収液量A4の設定値A4*との合計値を求め、次式(1)のように、その合計値と初期充填吸収液量A0との差を、吸収液量A5の推定値A5*と見做すことができる。
推定値A5*=A0−(A1+A2+A3+A4*) (1)
【0034】
(推定法2)
試運転時に、予め運転条件の変動範囲を設定し、その変動範囲における異なる運転条件について、排ガス流量F1と、吸収液の循環流量F2と、吸収液の粘度をパラメータとして、推定法1と同様に吸収液量(A1+A2+A3)を異なる運転条件に対応して測定する。そして、異なる運転条件に対応させて吸収液量(A1+A2+A3)の実測データを収集してデータベース101に格納する。制御装置100は、制御時における運転条件の測定値を取り込み、運転条件に対応する吸収液量(A1+A2+A3)の実測データを検索する。そして、上記の式(1)に従って、吸収液量A5の推定値A5*を求める。これにより推定法1に基づいて求める推定値A5*よりも正確に推定することができる。
【0035】
ここで、吸収液の粘度は、運転中の計測が難しいため、予備試験等で吸収液の4つのパラメータ(温度、密度、CO2濃度、アミン濃度)と粘度との関係を関係データ化(例えば、関数化、データベース化)し、運転中の吸収液の温度、密度、CO2濃度,アミン濃度の計測値と粘度関係データより推算した値を用いる。また、吸収液中のCO2濃度は、吸収塔1に戻されるリーン吸収液の場合は再生塔2のリボイラ3内の液温度から液中CO2濃度を推算してもよいし、再生塔2に供給されるリッチ吸収液の場合は吸収塔1の入口と出口ガス中のCO2濃度測定値から推算してもよい。
【0036】
(推定法3)
推定法2において、再生塔2は、通常、吸収液の温度が100℃近傍若しくはそれ以上の高温であるため、充填層22,23に保持される吸収液量における粘度の影響は無視できる。そこで、CO2吸収装置内の全吸収液量Aが初期充填吸収液量A0と等しいとみなせる試運転時において、再生塔2や吸収塔1の充填層12,13,22,23以外の各部の吸収液量A1、A2,A3の計測値に基づいて、前記式(1)に従って、初期充填吸収液量A0との差を充填層内の吸収液量A5を推定する。そして、排ガス流量F1及び液循環流量F2と再生塔2及び吸収塔1の充填層内の吸収液量A5との関係データを実測データに基づいて作成して、関係データ(例えば、関数)をデータベース101に格納しておく。これにより、制御装置100は、制御時の運転条件に対応した吸収液量A5の推定値A5*をその関係データ(例えば、関数)に基づいて求めることができる。その結果、制御時の運転条件に対応した全吸収液量A中における充填層内の吸収液量A5をより精度よく推定することができる。
【0037】
制御装置100は、求めたA1,A2,A3と設定値A4*と推定値A5*の合計である全吸収液量Aを求める。この全吸収液量Aとデータベース101に格納されている初期充填吸収液量A0とを比較する。そして、A=A0の場合は、吸収液の吸収材濃度が設定値どおりであると判断し、その制御周期における制御を終了する。
【0038】
A<A0の場合は、吸収液中の水分量が少ないと判断し、排ガス及び炭酸ガスの少なくとも一方の水洗部5,6の循環洗浄水を吸収塔1に補充し、吸収液の吸収材濃度を薄めてA=A0となるように制御する。なお、洗浄水中には排ガスから回収した吸収材が含まれる。しかし、元々、吸収液から蒸発・飛散した吸収材であるから、全吸収液量Aを一定に制御している限り、吸収材濃度が初期値より高くなることはないから、問題とはならない。
【0039】
逆に、A>A0の場合は、吸収液中の水分量が多いと判断し、吸収塔1の排ガス中の水分を蒸発させて吸収材濃度を濃くするように制御する。そのために、排ガス水洗部5の循環洗浄水の水温T2を、吸収塔1に注入される排ガスの入口温度T1よりも高く制御して、吸収反応の発熱により吸収液の水分の蒸発を促し、吸収液の吸収材濃度を濃くしてA=A0となるように制御する。
【0040】
(再生塔充填層の差圧監視制御)
制御装置100は、再生塔2の充填層22,23の差圧Dpを監視する。つまり、差圧Dpが高くなると、吸収液が充填層22,23を流下しにくくなるため、吸収液が循環し難い状態になる。例えば、連続運転中に再生塔2において、吸収液循環量F2が増加すると、充填層22,23内の吸収液の流下量が増えるとともに、分離されたCO2ガスの上昇量が増える。これにより、充填層22,23内の吸収液の流れ及びCO2ガスの流れが阻害されて吸収液が循環し難くなる。しかし、再生塔2の液溜21の容積、及びリボイラ3内の吸収液が滞留する容積が、吸収塔1の液溜11の容積よりも大きい装置であり、吸収塔1から設定循環量F2*の吸収液が再生塔2に供給されていれば、再生塔2及びリボイラ3に溜まっていり吸収液を、吸収塔1にほぼ定量で供給できる。本実施形態では、吸収塔1の液溜11と再生塔2の液溜21は等しい容積に形成されているから、リボイラ3内の吸収液が滞留する容積を考慮すると、上述の条件を満たしている。
【0041】
しかし、差圧Dpが高くなりすぎると、再生塔2内の吸収液の循環が正常に行われなくなる。そこで、吸収塔1から再生塔2への液循環流量F2に設定値F2*を設け、流量制御弁46により循環流量F2を設定値F2*に制御する。そして、再生塔内の差圧Dpが設定値Dp*以上になった場合、リボイラ3に供給する加熱蒸気量を図示していない蒸気量制御弁により制限するのが望ましい。これにより、再生塔2系における吸収液からのCO2回収量が減少し、再生塔2内の差圧Dpが低減される。その結果、充填層22,23に保持されていた吸収液が再生塔2の液溜21又はリボイラ3に流下し、正常な運転状態に回復できるので、吸収液濃度の変動も防止できる。
【0042】
また、吸収塔1と再生塔2のそれぞれの水洗部5,6の洗浄水を吸収塔1の液溜11に補充する場合において、再生塔2内の充填層22,23の差圧Dpが設定値を超えた場合には、吸収塔1の液溜11の吸収液の液高L1が一定になるように加え、リボイラ3に供給する系外の蒸気量を設定された制限値にするのがよい。また、吸収塔1における充填層12,13の吸収液の保持量として、吸収液の粘度及び循環流量と排ガス流量をパラメータとした計算値及び/又は予め測定した値を用いるとよい。
【0043】
これにより、本実施形態によれば、吸収液中の吸収材濃度を一定値に制御する手段を容易化することができる。また、吸収材濃度を分析装置で確認することなく、CO2吸収装置内の吸収材濃度を一定に制御できる。特に、本実施形態では、吸収液中の吸収材濃度を安定化できるとともに、水洗部の洗浄水に水を直接添加できるため、水洗部の運転状態を一定の範囲内で任意に調整できる。さらに、再生塔2内の充填層の差圧上昇により非定常状態になっても、加熱用の系外の蒸気量を制御することにより、連続的に安定状態まで戻すことが可能である。これらのことから、本実施形態によれば、従来よりも、連続運転時の安定性が高くなったことに加え、より吸収装置外へのアミンなどの吸収材の飛散量を低減することが可能になり、運転コストや環境負荷を低減できる。
【0044】
また、上記の実施形態では、リボイラ3に溜められる吸収液量を算出する例を示したが、リボイラ以外の装置でも、リボイラ3と同様に、それぞれの装置の断面積は液高さがわかれば図面から算出可能である。したがって、各装置の液高さを測定すれば、CO2吸収装置内の全吸収液量Aを算出することが可能である。
【0045】
(A>A0の場合の補足説明)
ここで、A>A0の場合の水分量の低減制御について、詳細に説明する。前述したように、吸収塔1に流入される排ガス7は湿式脱硫装置により処理されているため、排ガス7の相対湿度は100%とみなせる。したがって、排ガス温度がT1℃の場合、排ガス中の水蒸気濃度はT1を変数とする飽和水蒸気圧(e(T))の推算式(例えばTetensの式:国立天文台編:理科年表)である数2を用いて算出できる。
【0046】
【数2】
【0047】
同様に、水洗部5の出口の排ガス中の水蒸気も飽和状態と考えられるため、ガス温度から同様に算出可能である。さらに、再生塔2出口のCO2ガスに同伴して放出する水蒸気圧も吸収塔1と同様、飽和水蒸気圧と推定できるので、ガス温度の測定値と数2により算出できる。なお、各部位のガス圧力による容積の補正を行い、例えば、0℃、101.325kPaを標準状態として蒸気量を調整するのが望ましい。
【0048】
さらに、本実施形態の水洗部5,6の充填層15,26を複数段設けた場合について、各段の洗浄水温度とガス温度を発明者等が調べた。その結果、ガス側最上流段であるガス入口側の洗浄水温度を一定値に制御したところ、装置が断熱されている場合、全2段でも全3段の場合もガス側下流段であるガス出口側の洗浄水温度及びガス温度は一定となることがわかった。このことから、全吸収液量Aが初期充填吸収液量A0より大きくなった場合(A>A0)、吸収材は一般に蒸気圧が水蒸気より極めて低いため、吸収材は一定で吸収液中の水分量が増大したとみなすことが可能である。そこで、水洗部5の充填層15の排ガス入口側に流下してくる洗浄水の水温Twを、冷却器19の冷却媒体の流量等を制御して、吸収塔1に流入する排ガス温度T1以上に制御することにより、吸収塔1内の吸収液の水分比率を吸収材濃度が高くなる方向に制御できる。また、厳密には再生塔2から排出される回収CO2ガスに同伴して飽和水蒸気圧分の水蒸気放出があるので、再生塔2の水洗部6の洗浄水の温度を高くして水分の蒸発を増やすことにより。吸収液中の水分の蒸発量を増やし、あるいは、冷却器28の冷却量を抑えて、つまりCO2ガスの冷却を抑えて水洗部6の洗浄水の蒸発量を増やすことにより、A>A0の場合の吸収液中の水分量を低減制御できる。
【0049】
ここで、本発明の実施例と従来技術とを試験した結果を説明する。本発明のCO2吸収装置の前段で、石炭燃焼排ガス(CO2濃度=12容量%、wet)7を湿式脱硫装置により処理し、排ガスガス中のSO2濃度を1ppmvまで脱硫した排ガス7を試験に用いた。液面センサL1,L2,L3は発信機を有し、液面高さのデータを連続的かつ自動的に制御装置100に入力するようにした。また、吸収塔1に流入される排ガス温度T1及び再生塔2で回収されるCO2ガス温度を40℃、吸収塔2から排出される排ガス温度を45℃に設定した。処理前の排ガス流量(標準状態、ウェット、以下同様)F1と飽和水蒸気濃度の積からの計算値と水洗部5への洗浄水量(一定値)の和を、この装置の供給水分流量とした。
【0050】
一方、CO2回収後の排ガス流量と飽和水蒸気濃度の積と回収したCO2ガスの流量と飽和水蒸気濃度の積との和からの計算値を、CO2吸収装置からの放出水分流量とした。また、CO2吸収装置への供給水分流量とCO2吸収装置との差は、水洗部5の水温を調整することにより、上述したようにA=A0に制御した。なお、再生塔2から放出されるCO2ガスを40℃に冷却した際、凝縮水タンク29に凝縮水が貯まるが、ここにも液面センサL4を設置して、液高さが一定になるように流量制御弁31を調節して凝縮水を吸収塔1の液溜11に戻した。また、再生塔2内の充填層23の最上部と充填層22の最下部の差圧Dpが10kPaを超えた場合、リボイラ3に系外から供給される水蒸気の流量を流量制御弁FCV5で半減させるように設定した。そして、排ガス流量F1を14400(m3N/hr、wet)、アミンを吸収材とする吸収液の循環流量F2を27m/hrとした場合、充填時のMEA(モノエタノールアミン、CAS No.141−43−5)の濃度が300kg-アミン/tの吸収液を、24hr連続で試験した。その結果、2時間おきにアミン濃度を確認したところ、濃度変化は±1.5kg-アミン/tであった。この結果は、アミン濃度の偏差を初期濃度の1%以内に抑制できた。これは、従来技術に比べて、アミン濃度の偏差は同等であったが、本発明は、水洗部5,6から吸収塔1の液溜11に供給する洗浄水の調整を水洗部5,6の冷却器19,28の温度調整により行っているので、制御の収斂速度が速いためと推測される。
【0051】
以上、本発明を一実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の主旨の範囲で変形又は変更された形態で実施することが可能であることは、当業者にあっては明白なことである。そのような変形又は変更された形態が本願の特許請求の範囲に属することは言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
1 吸収塔
2 再生塔
3 リボイラ
5 排ガス水洗部
6 CO2水洗部
11 液溜
12、13 充填層
14 散布ノズル
17 洗浄水溜
19,28 冷却器
21 液溜
22,23 充填層
24 散布ノズル
41 熱交換器
42 ポンプ
43 冷却器
44 (吸収液)戻り配管
45 (吸収液)供給配管
図1
図2