(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
工作機械は、一般的に、鋳物から形成されるベッドを備えており、このベッド上に、加工対象物であるワークを保持する構造体(例えば、旋盤の場合には主軸台であり、マシニングセンタの場合にはテーブル)、及び工具を保持する構造体(例えば、旋盤の場合には刃物台であり、マシニングセンタの場合には工具主軸)が配設されるとともに、このワーク保持構造体と工具保持構造体とを相対的に移動させる送り装置がベッド上に配設された構成を有する。そして、これらワーク及び工具が相対的に移動することによって当該ワークが加工される。
【0003】
ところで、上述したように、ベッドは鋳物、即ち金属から形成されているため、外部の温度の影響を受けて熱変形し易いという特性を有している。このため、この熱変形に起因して、ベッド上に配設されたワークと工具との相対的な位置関係が変位し、この変位によって加工精度が悪化するという問題を生じる。
【0004】
そこで、従来、ベッドの熱変形を防止するために、下記特許文献1及び2に開示されるような技術が提案されている。特許文献1に開示される工作機械は、具体的には旋盤であり、ベッドをその長手方向に貫通するように略水平に設けられたベッド穴を上下に備えるとともに、主軸台には主軸台穴が形成され、この主軸台穴を介して上下に並設されたベッド穴が連通した状態となっている。また、ベッドの側部にはミスト気流を捕集して上側のベッド穴に導く捕集ダクトが設けられている。
【0005】
斯くして、この特許文献1の工作機械によれば、加工に伴って発生したミスト気流が捕集ダクトから上側のベッド穴に導かれ、この上側のベッド穴を通過する過程で、気化熱によってベッドの高温部を冷却する。ついで、ミスト気流は主軸台穴に入り、主軸台の高温部を冷却するとともに、冷却で得た熱量で主軸台の低温部を加温する。次に、ミスト気流は主軸台穴から下側のベッド穴に進入して、この下側のベッド穴を通過する過程で、余熱によりベッドの低温部を加温した後、ベッド穴から外部に吐出される。これにより、ベッド及び主軸台における各部の温度差が縮小されて、熱変形が抑制される結果、安定した加工精度が得られる、とのことである。
【0006】
また、特許文献2に開示される工作機械も、具体的には旋盤であり、当該工作機械は、そのベッドが長手方向に貫通する通風路を備え、この通風路の一方の開口部の近くには送風ファンが設けられ、更に、通風路内の空気の流れを螺旋状の乱流にする手段を備えている。
【0007】
この特許文献2に開示される工作機械によれば、送風ファンによりベッドの通風路内に強制的に室温空気を取り入れ、当該通風路内に設けた乱流生成手段によって空気流を螺旋状の乱流とすることで、その流れの距離が長くなり、通風路の内壁に当たる風量が多くなる。これにより、熱交換効率が高められるとともに、通風路の内壁が均等に室温空気にさらされ、ベッド各部の温度差が少なくなる、とのことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、本発明者等は、工作機械を構成するベッドの温度について、鋭意、解析、研究等を行った結果、ベッドは、その外面によって雰囲気温度が影響する影響度合いが異なり、各外面によってその温度が異なるとの知見を得た。例えば、旋盤について見ると、ベッドの上面は、切屑除けのスプラッシュカバーなどのカバー類によって覆われており、カバーとベッドの上面との間に閉じ込められた空気は、外気との交換が殆どなされないため、ベッド上面は外気、即ち雰囲気の温度の影響を受け難い状態となっている。一方、ベッドの背面(後面)はスプラッシュガードによって囲まれてはいるが、この領域は加工領域外であるため、当該スプラッシュガードはその上方が開口している場合が殆どであり、このためベッドの背面は雰囲気温度の影響を受け易い状態になっている。
【0010】
このように、ベッドの各外面は、工作機械を構成する他の構造物との関係上、それぞれ雰囲気温度の影響度合いが異なっており、このため、各外面の温度は異なった状態となっている。したがって、ベッドの熱変形を抑制するには、このベッドの各外面の温度が均一な状態となるように、これを調整する必要がある。
【0011】
ところが、上述した特許文献1に開示される工作機械では、ベッドの内部にミスト気流を導入し、また、特許文献2に開示される工作機械においても同様に、ベッドの内部に室温空気を導入するようにしているので、ベッド内部の温度は略均一になるかもしれないが、ベッドの各外面については、依然としてその温度は不均一な状態となっている。即ち、上述したように、ベッドの各外面はそれぞれ雰囲気温度の影響度合いが異なっているため、例えベッド内部の温度を均一にできたとしても、それはベッド内部と各外面との間に異なる温度勾配を生じさせるだけであって、ベッドの各外面の温度は均一にはならないのである。
【0012】
斯くして、本発明者等は、以上のような背景から、ベッドの熱変形を抑制するためには、ベッドの各外面の温度を直接的に調整する必要があるとの知見を得たのである。
【0013】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、ベッド外面の温度を調整することによって、ベッドの熱変形を抑制することが可能な工作機械の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、複数の外面を有するベッドと、該ベッドの少なくとも一の前記外面に配設される一以上の構造体とを備えた工作機械であって、
当該工作機械の稼働中に、中断すること無く連続して、前記複数の外面の内、少なくとも、雰囲気の温度に対する追随性が最も悪い外面に沿って前記雰囲気を送気し、該外面に沿った前記雰囲気の気流を生じさせる送風装置を設けた工作機械に係る。
【0015】
このように構成された工作機械によれば、前記送風装置により、雰囲気の温度に対する追随性が最も悪い外面に沿って雰囲気が送気され、これにより該外面に沿った雰囲気の気流が生じる。そして、このように追随性が最も悪い外面に沿って雰囲気を送気することで、当該外面と雰囲気との間で熱交換が促進され、これにより、この外面の温度が雰囲気温度に追随するように温度調整され、雰囲気温度に対する追随性が良い外面の温度と同じ温度になるように調整される。斯くして、この工作機械によれば、雰囲気温度に対する追随性が最も悪いベッド外面の温度を、雰囲気温度に対する追随性が良い外面の温度と同じ温度になるように調整することができるので、ベッドの熱変形を抑制することができ、この結果、安定した加工精度を得ることができる。
【0016】
尚、当然のことながら、送風装置は、最も追随性が悪い外面以外の他の外面に対しても、これに沿って雰囲気を送気するように構成されていても良い。例えば、ベッドの全ての外面に沿ってそれぞれ雰囲気を送気して、各外面に沿って雰囲気の気流を生じさせるようにすれば、ベッドの全外面を略均一な温度に調整することができ、ベッドの熱変形をより効果的に抑制することができる。
【0017】
また、本発明は、上記工作機械において、
前記送風装置を制御する制御装置と、
前記雰囲気温度に対する追随性が最も良い外面の温度を検出する第1温度検出器と、
前記雰囲気温度に対する追随性が最も悪い外面の温度を検出する第2温度検出器とを更に備えて成り、
前記制御装置は、前記第1温度検出器によって検出される第1温度と、第2温度検出器によって検出される第2温度との温度差が小さくなるように、前記送風装置による送気量又は送気速度を制御するように構成された工作機械に係る。
【0018】
この工作機械によれば、前記第1温度検出器によって検出される、追随性が最も良い外面の第1温度と、前記第2温度検出器によって検出される、追随性が最も悪い外面の第2温度との温度差が小さくなるように、前記制御装置によって、前記送風装置の送気量又は送気速度が制御される。
【0019】
例えば、前記第1温度と第2温度との差が大きい場合には、前記送風装置の送気量(送気速度)を増加させて、追随性が最も悪い外面と雰囲気との間の熱交換を高めることにより、当該外面の温度が短時間で追随性が最も良い外面の第1温度に近づくように調整する。逆に、第1温度と第2温度との差が小さい場合には、送風装置の送気量に拘わらず、当該外面と雰囲気との間の熱交換は略一定の定常状態となっているため、熱交換に支障がない程度に、前記送風装置の送気量を下げて、無駄なエネルギーの消費を防止する。
【0020】
斯くして、この工作機械によれば、追随性の最も悪い外面の温度(第2温度)、及び追随性の最も良い外面の温度(第1温度)をそれぞれ実測し、これらの温度が近づくように温度調整しているので、ベッドの熱変形をより効果的に抑制することができ、この結果、より安定した加工精度を得ることができる。
【0021】
尚、この工作機械においても、送風装置は、最も追随性が悪い外面以外の他の外面に対しても、これに沿って雰囲気を送気するように構成されていても良く、ベッドの全ての外面に沿ってそれぞれ雰囲気を送気するようにしても良い。この場合、全ての外面の温度をそれぞれ温度検出器によって検出し、追随性が最も良い外面の温度(第1温度)とその他の各外面の温度との温度差がそれぞれ小さくなるように、当該他の外面についての送気量又は送気速度を、前記制御装置によって制御するようにすると良い。このようにすれば、ベッドの全外面をより正確に均一な温度に調整することができ、ベッドの熱変形を更に効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明に係る工作機械によれば、雰囲気温度に対する追随性が最も悪い外面に沿って雰囲気を送気するようにしているので、当該外面と雰囲気との間で熱交換が促進されて、当該外面の温度が、雰囲気温度に対する追随性が良い外面の温度と同じ温度になるように調整され、これにより、ベッドの熱変形が抑制されるとともに、安定した加工精度が得られる。
【0023】
また、第1温度検出器によって追随性の最も良い外面の温度(第1温度)を検出するとともに、第2温度検出器によって追随性が最も悪い外面の温度(第2温度)を検出し、第1温度と第2温度との温度差が小さくなるように、送風装置の送気量又は送気速度を制御するようにすれば、追随性の最も悪い外面の温度が、追随性の最も良い外面の温度に、より近づいた温度に調整され、これにより、ベッドの熱変形がより効果的に抑制されるとともに、より安定した加工精度が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る工作機械を、スプラッシュガードを一部省略して示した斜視図である。また、
図2は、本例の工作機械を、そのカバー類を全て省略して示した斜視図である。また、
図3は、本例の温度調整装置の概略構成を示したブロック図である。
【0026】
図1〜
図3に示すように、本例の工作機械1は旋盤であって、スプラッシュガードを形成する前部カバー2及び後部カバー4、ベッド10、ベッド10上に配設された第1主軸台11、第2主軸台12及び往復台15、並びに温度調整装置30などから構成される。
【0027】
前記第1主軸台11及び第2主軸台12は、その軸線が同軸となり、且つ相互に対向するように、ベッドの前側(オペレータが操作する側)に配設されており、第1主軸台11が左側に、第2主軸台12が右側に配設されている。また、第2主軸台12は、第1主軸台11及び第2主軸台12の軸線に沿ったZ軸方向に移動可能となっており、適宜送り装置(図示せず)により、第1主軸台11に対して進退するようになっている。また、第1主軸台11にはワーク把持用のチャック(図示せず)が装着され、第2主軸台12にも同様にワーク把持用のチャック13が装着されている。
【0028】
前記第1主軸台11及び第2主軸台12の後方には、前記往復台15が配設されており、この往復台15は、サーボモータ16を含むZ軸送り装置によって、前記Z軸方向に移動するようになっている。この往復台15にはサドル20が設けられており、このサドル20はサーボモータ17を含むX軸送り装置によって、前記Z軸と直交するX軸方向に移動するようになっている。また、サドル20にはタレット22を有する刃物台21が設けられており、刃物台21は、サーボモータ23を含むY’軸送り装置によって、前記Z軸と直交し、且つ前記X軸と交差するY’軸方向に移動するようになっている。
【0029】
尚、サーボモータ16,17,23、及び第2主軸台12を移動させる前記送り装置(図示せず)等は、図示しない数値制御装置によって制御されるようになっており、前記X軸送り装置、Y’軸送り装置及びZ軸送り装置の動作によって、タレット22が、第1主軸台11及び第2主軸台12に対して、相互に直交するX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動する。斯くして、このような動作によって、第1主軸台11に保持されたワーク(図示せず)及び第2主軸台12に保持されたワーク(図示せず)が、タレット22に保持された工具によって加工される。
【0030】
そして、ベッド10、及びこのベッド10上に配設された第1主軸台11、第2主軸台12、往復台15、サドル20、刃物台21及びタレット22等は前部カバー2及び後部カバー4から構成されるスプラッシュガードによってカバーされている。また、工作機械1の加工領域は、カバー4を含む適宜カバー類、及び前部カバー2を構成するドア3によって囲繞されている。尚、後部カバー4の上部は開口している。
【0031】
前記温度調整装置30は、
図3に示すように、送風機31、第1温度センサ32、第2温度センサ33及び制御装置35から構成される。送風機31は、ファン及びファンを回転させるモータを有し、
図1及び
図2に示すように、前記サーボモータ16の近傍に配設され、ベッド10の上面10aに沿って雰囲気を送気して、この上面10aに沿った空気流を生じさせるものである。このような空気流によって、ベッド10の上面10aと雰囲気との間で熱交換が促進される。尚、
図1では、送風機31の形状をより詳しく図示しているが、
図2では、簡略化のため、送風機31の外形線のみを図示している。
【0032】
また、前記第1温度センサ32は、ベッド10の背面10bに配設されて、当該背面10bの温度を測定するセンサであり、第2温度センサ33は、ベッド10の上面10aに配設されて、当該上面10aの温度を測定するセンサである。
【0033】
そして、前記制御装置35は、前記第1温度センサ32によって検出され、出力される前記背面10bの温度(第1温度)に係る信号を当該第1温度センサ32から受信するとともに、前記第2温度センサ33によって検出され、出力される上面10aの温度(第2温度)に係る信号を当該第2温度センサから受信して、第1温度と第2温度との差が小さくなるように、前記送風機31のファンの回転速度を制御して、その送気量(送気速度)を制御する。
【0034】
具体的には、前記第1温度と第2温度との差が大きい場合には、前記送風機31のファンの回転速度を上げることにより、その送気量を増加させて、上面10aと雰囲気との間の熱交換を高めることにより、短時間で上面10aの温度が背面10bの第1温度に近づくように調整する。逆に、第1温度と第2温度との差が小さい場合には、送風機31の送気量に拘わらず、上面10aと雰囲気との間の熱交換は略一定の定常状態となっているため、熱交換に支障がない程度に、前記送風機31のファンの回転速度を下げて、無駄なエネルギーの消費を防止する。
【0035】
尚、本例において、ベッド10の背面10bは、これを厳密にカバーする必要が無いことから、上述したように、後部カバー4の上部は開口しており、このため、後部カバー4内の空気は外部の雰囲気と容易に入れ替わることができるようになっている。したがって、ベッド10の背面10bは外部雰囲気の温度の影響を受け易く、このため、外部の雰囲気温度に対する追随性が良いものとなっている。
【0036】
一方、前記ベッド10の上面10aは、スプラッシュカバーなどによって覆われているため、自然状態では、スプラッシュカバー内の空気は外部雰囲気と入れ替わることが殆ど無く、したがって、当該上面10aは外部雰囲気の温度の影響を受け難い状態にあり、このため、外部雰囲気の温度に対して追随性が悪いものなっている。
【0037】
斯くして、本例では、ベッド10を構成する外面の内、背面10bが雰囲気温度に対して最も追随性が良い状態にあり、上面10aが雰囲気温度に対して最も追随性が悪い状態となっている。
【0038】
以上の構成を備えた本例の工作機械1では、前記数値制御装置(図示せず)による制御の下、前記X軸送り装置、Y’軸送り装置及びZ軸送り装置の各動作によって、前記タレット22が第1主軸台11及び第2主軸台12に対してX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に適宜移動し、このような動作によって、前記第1主軸台11に保持されたワーク(図示せず)や第2主軸台12に保持されたワーク(図示せず)が、タレット22に保持された工具によって加工される。
【0039】
そして、この工作機械1では、前記温度調整装置30により、ベッド10の上面10aの温度が、背面10bの温度に近づくように調整される。即ち、温度調整装置30の制御装置35は、第1温度センサ32から出力される前記背面10bの温度である第1温度に係る信号を受信するとともに、第2温度センサ33から出力される前記上面10aの温度である第2温度に係る信号を受信して、第1温度と第2温度との差が小さくなるように、送風機31のファンの回転速度を制御して、その送気量(送気速度)を制御する。
【0040】
送風機31は、外部の雰囲気を取り入れ、ベッド10の上面10aに沿って送気して、この上面10aに沿った外部雰囲気の空気流を生じさせるものであり、このような空気流によって、当該上面10aと雰囲気との間で熱交換が促進され、これにより、上面10aの温度が雰囲気温度に追随するように温度調整される。
【0041】
そして、前記第1温度と第2温度との差が大きい場合には、前記制御装置35による制御の下、前記送風機31のファンの回転速度を上げることにより、その送気量を増加させて、上面10aと雰囲気との間の熱交換を高めることにより、上面10aの温度が短時間で背面10bの温度に近づくように調整される。
【0042】
逆に、第1温度と第2温度との差が小さい場合には、送風機31の送気量に拘わらず、上面10aと雰囲気との間の熱交換は略一定の定常状態となっているため、熱交換に支障がない程度に、前記送風機31のファンの回転速度を下げることで、無駄なエネルギーの消費が防止される。
【0043】
斯くして、本例の工作機械1によれば、自然状態では雰囲気温度に対して最も追随性の悪いベッド10の上面10aの温度(第2温度)と、自然状態で雰囲気温度に対して最も追随性の良い背面10bの温度(第1温度)とを、同じ温度に近づけることができる。これにより、上面10a及び背面10bを含むベッド10の外面全体の温度を平準化することができ、この結果、当該ベッド10の熱変形を抑制することができる。そして、このようにしてベッド10の熱変形を抑制することで、加工精度を安定したものにすることができる。
【0044】
一例として、上記構成の工作機械1において、前記温度調整装置30による温度調整を行わない場合の、雰囲気温度、ベッド10の背面10bの温度、ベッド10の上面10aの温度、及びタレット22と第1主軸台11との間の変位について、それぞれの経時変化を
図4に示す。同
図4に示すように、ベッド10の背面10bの温度は、上面10aに比べて、雰囲気温度に対する追随性が良いものとなっている。言い換えれば、上面10aの温度は、背面10bに比べて、雰囲気温度に対する追随性が悪いものとなっている。このため、ベッド10が大きく熱変形し、この結果、タレット22と第1主軸台11との間の変位が大きく変化している。尚、変位は、タレット22に装着した変位計と、前記第1主軸台11のチャック(図示せず)に装着した円筒状のマスターツールとの間の変位であり、当該変位計によって前記マスターツールとの間の変位を測定した。また、その値は絶対値ではなく、その傾向を示す相対的な値とした。
【0045】
また、前記温度調整装置30により前記ベッド10の上面10aの温度調整を行った場合と、上面10aの温度調整を行わなかった場合の、タレット22と第1主軸台11との間の変位の経時変化を
図5に示す。この
図5に示すように、上面10aの温度調整を行った場合には、温度調整を行わなかった場合に比べて、変位の変化が小さくなっており、上面10aの温度調整を行うことで、安定した加工精度が得られることが分かる。尚、
図5における変位も同様に、タレット22に装着した変位計と、前記第1主軸台11のチャック(図示せず)に装着した円筒状のマスターツールとの間の変位であり、その値は絶対値ではなく、その傾向を示す相対的な値である。
【0046】
このように、本例の工作機械1によれば、雰囲気温度に対して最も追随性の悪いベッド10の上面10aの温度(第2温度)と、雰囲気温度に対して最も追随性の良い背面10bの温度(第1温度)とを同じ温度に近づけることができ、この結果、当該ベッド10の熱変形を抑制することができ、加工精度を安定したものにすることができる。
【0047】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明が採り得る具体的な態様は、何らこれに限定されるものではない。
【0048】
例えば、上例では、上面10aに沿って送気する送風機31を1台としたが、これに限られるものではなく、複数の送風機31を用いて、上面10aに沿って雰囲気を送気するようにしても良い。また、この場合に、各送風機31の送気方向は、必ずしも同じ方向である必要はなく、それぞれが異なる方向(例えば、Z軸方向以外の方向)となっていても良い。
【0049】
また、上例の工作機械1では、送風機31により、外部雰囲気の温度に対して最も追随性の悪いベッド10の上面10aに沿って送気するようにしたが、これに限られるものではなく、これ以外の他の外面、例えば、前面や両側面の他、背面10bに沿って送気するようにしても良い。この場合、各面に沿って送気するための送風機31をそれぞれ設けると良い。また、各面に温度センサをそれぞれ設け、前記背面10aに設けた前記第1温度センサによって検出される温度と、各温度センサによって検出される温度との差がそれぞれ小さくなるように、各送風機31の送気量(送気速度)を前記制御装置35によって制御するようにすると良い。このようにすれば、ベッド10の全外面をより正確に均一な温度に調整することができ、ベッド10の熱変形を更に効果的に抑制することができる。
【0050】
また、上例では、工作機械1を旋盤としたがこれに限られるものではなく、当然に、他の工作機械、例えば、マシニングセンタとしても良い。
【0051】
また、上例では、制御装置35を、前記数値制御装置(図示せず)とは別体のものとしたが、これに限られるものではなく、この制御装置35を前記数値制御装置(図示せず)に組み込んだ構成としても良い。