特許第6871769号(P6871769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871769
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】椎弓スペーサおよび椎弓スペーサキット
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/44 20060101AFI20210426BHJP
   A61B 17/70 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   A61F2/44
   A61B17/70
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-51124(P2017-51124)
(22)【出願日】2017年3月16日
(65)【公開番号】特開2018-153301(P2018-153301A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】304050912
【氏名又は名称】オリンパステルモバイオマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】福原 知彦
(72)【発明者】
【氏名】西山 康二
(72)【発明者】
【氏名】黒田 宏一
(72)【発明者】
【氏名】浦田 光也
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 克好
(72)【発明者】
【氏名】関 龍之介
【審査官】 白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0296259(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0185239(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0142699(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0238094(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0262740(US,A1)
【文献】 特開2003−284732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/44
A61B 17/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断された椎弓の切断端部間に配置され各前記切断端部にスクリュによって取り付けられる柱状の本体部を備え、
該本体部が、該本体部の長手方向に間隔を空けた位置において前記本体部の内部に形成され、前記スクリュの頭部をそれぞれ収容可能である2つの収容穴を備え、
各該収容穴に、前記本体部の外部から前記収容穴内へ前記頭部が挿入される開口部が開口し、
該開口部は、前記スクリュの軸部の直径よりも大きく前記頭部の直径よりも小さい口径を有するとともに、該口径を前記頭部の直径よりも大きな寸法まで拡大可能である椎弓スペーサ。
【請求項2】
前記本体部は、該本体部の側面に開口し該本体部の長手方向に全長にわたって形成されるとともに前記2つの収容穴を前記長手方向に交差する方向に分割するように該2つの収容穴を通る溝を有し、該溝を前記長手方向に交差する方向に拡大可能である請求項1に記載の椎弓スペーサ。
【請求項3】
前記本体部は、前記溝によって相互に分離され相互に開閉可能に連結された一対の把持片を備える請求項2に記載の椎弓スペーサ。
【請求項4】
前記一対の把持片を相互に閉じた位置に保持する保持手段を備える請求項3に記載の椎弓スペーサ。
【請求項5】
前記保持手段が、前記一対の把持片を相互に閉じる方向に付勢する付勢部材を備える請求項4に記載の椎弓スペーサ。
【請求項6】
前記本体部は、一端が前記開口部を介して前記収容穴に開口するとともに他端が前記本体部の外面に開口し、前記収容穴内に前記頭部が収容された前記スクリュの軸部が通る略柱状の導入穴を有し、
該導入穴が、前記一端から前記他端に向かって漸次増大する内径を有する請求項1から請求項のいずれかに記載の椎弓スペーサ。
【請求項7】
前記本体部が、前記切断端部間に配置されるときに脊柱管側に向けられる腹側面を有し、
前記導入穴の中心軸と前記腹側面とが成す角度が、−4°以上96°以下である請求項に記載の椎弓スペーサ。
【請求項8】
前記収容穴が、略球状である請求項1から請求項のいずれかに記載の椎弓スペーサ。
【請求項9】
切断された椎弓の切断端部間に配置され一方の前記切断端部にスクリュによって取り付けられる柱状の本体部を備え、
該本体部が、該本体部の内部に形成され前記スクリュの頭部を収容可能である単一の収容穴と、該収容穴と前記本体部の長手方向に間隔を空けた位置に設けられ他方の前記切断端部に突き当てられる突当部とを備え、
前記収容穴に、前記本体部の外部から前記収容穴内へ前記頭部が挿入される開口部が開口し、
該開口部は、前記スクリュの軸部の直径よりも大きく前記頭部の直径よりも小さい口径を有するとともに、該口径を前記頭部の直径よりも大きな寸法まで拡大可能である椎弓スペーサ。
【請求項10】
請求項1から請求項のいずれかに記載の椎弓スペーサと、
前記椎弓の切断端部に挿入される軸部および該軸部の一端に設けられ該軸部よりも大径の頭部を有する2本のスクリュとを備える椎弓スペーサキット。
【請求項11】
前記スクリュの前記頭部が、略球状である請求項10に記載の椎弓スペーサキット。
【請求項12】
前記スクリュが、前記軸部と前記頭部との間に設けられ、前記軸部よりも径方向外方に突出するフランジ部を備える請求項10または請求項11に記載の椎弓スペーサキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椎弓スペーサおよび椎弓スペーサキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、頚椎脊椎症性脊髄症や、後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症、椎間板ヘルニアの治療法として、椎弓形成術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。椎弓形成術は、椎弓を切断し、切断面間に椎弓スペーサを挿入することで、脊柱管の直径を拡大する方法である。切断面間に挿入された椎弓スペーサを椎弓に取り付ける取付手段として、糸またはスクリュが一般に用いられている。また、特許文献1では、糸およびスクリュに代わる取付手段として、椎弓の切断面と接する椎弓スペーサの側面に突起を設け、椎弓の切断面に形成された穴に突起を挿入することで、椎弓スペーサを椎弓に取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−284732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のいずれの取付手段を用いた場合にも、椎弓スペーサを椎弓に簡単に取り付けることができないという不都合がある。
すなわち、糸で椎弓スペーサを取り付ける場合には、体内の椎弓に小さな穴をあけ、椎弓スペーサおよび椎弓の小さな穴内に糸を通すという細かな作業が必要である。特に、糸は体液によって膨潤し易く、膨潤した糸を小さな穴に通す作業は難しい。
【0005】
スクリュで椎弓スペーサを取り付ける場合には、椎弓スペーサのスクリュ穴に沿ってスクリュを椎弓に挿入する必要がある。つまり、スクリュを挿入する位置および方向がスクリュ穴によって制限され、操作者がスクリュを挿入し易い位置および方向を選択することができない。また、椎弓スペーサの一端部でスクリュを締めたときに椎弓スペーサの他端部が椎弓の表面から浮いてしまうおそれがある。
特許文献1に開示されている椎弓スペーサを使用する場合には、突起を挿入するための細径の穴を正確に椎弓にあけるという難しい作業を必要とする。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、椎弓形成術において簡便に椎弓に取り付けることができる椎弓スペーサおよびこれを備える椎弓スペーサキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の第1の態様は、切断された椎弓の切断端部間に配置され各前記切断端部にスクリュによって取り付けられる柱状の本体部を備え、該本体部が、該本体部の長手方向に間隔を空けた位置において前記本体部の内部に形成され、前記スクリュの頭部をそれぞれ収容可能である2つの収容穴を備え、各該収容穴に、前記本体部の外部から前記収容穴内へ前記頭部が挿入される開口部が開口し、該開口部は、前記スクリュの軸部の直径よりも大きく前記頭部の直径よりも小さい口径を有するとともに、該口径を前記頭部の直径よりも大きな寸法まで拡大可能である椎弓スペーサである。
【0008】
上記第1の態様によれば、本体部の2つの収容穴の開口部をそれぞれ拡大させて頭部を開口部を介して収容穴内に挿入し、その後に開口部の口径を頭部の直径よりも小さなサイズに縮小することで、2本のスクリュの頭部が軸方向に抜けないように本体部によって保持される。したがって、椎弓形成術において、椎弓の両側の切断端部にスクリュをそれぞれ挿入し、切断端部から突出する2つの頭部が収容穴内にそれぞれ保持されるように本体部を2つの頭部に上記の手順で取り付けることで、本体部を切断端部間に配置して該切断端部にスクリュを介して取り付けることができる。また、本体部の収容穴内に収容された2本のスクリュの頭部間には2つの収容穴の間隔に相当する距離が保たれるので、脊柱管の直径を拡大した状態に維持し続けることができる。
【0009】
このように、本体部は、椎弓へのスクリュの挿入後に該スクリュの頭部に取り付けられる。したがって、椎弓へのスクリュの挿入を他の部材によって制限されることなく簡単に行うことができる。また、本体部の収容穴内に頭部を嵌め込むだけの簡単な操作で、本体部を切断端部間に配置して椎弓に取り付けることができる。
【0010】
上記第1の態様においては、前記本体部は、該本体部の側面に開口し該本体部の長手方向に全長にわたって形成されるとともに前記2つの収容穴を前記長手方向に交差する方向に分割するように該2つの収容穴を通る溝を有し、該溝を前記長手方向に交差する方向に拡大可能であってもよい。
このようにすることで、溝の拡大によって該溝と収容穴とを接続する開口部の口径を拡大させることができる。
【0011】
上記第1の態様においては、前記本体部は、前記溝によって相互に分離され相互に開閉可能に連結された一対の把持片を備えていてもよい。
一対の把持片を開くことで開口部が大きく拡大されるので、収容穴への頭部の挿入を容易に行うことができる。収容穴に頭部を挿入した後は、一対の把持片を閉じて該一対の把持片間に頭部を挟むことで、収容穴内に頭部を保持することができる。
【0012】
上記第1の態様においては、前記一対の把持片を相互に閉じた位置に保持する保持手段を備えていてもよい。
前記保持手段は、前記一対の把持片を相互に閉じる方向に付勢する付勢部材を備えていてもよい。
このようにすることで、一対の把持片は、開方向の外力が作用していない状態では閉じた位置に保持されるので、一対の把持片を閉じるための操作が不要となる。
【0013】
上記第1の態様の参考例において、前記保持手段は、前記一対の把持片の閉動作に伴って塑性変形する変形部を備えていてもよい。
このようにすることで、閉じられた一対の把持片は変形部の塑性によって閉じた位置に保持される。すなわち、一対の把持片の閉鎖および閉じた位置への保持を単一の操作で行うことができる。
【0014】
上記第1の態様においては、前記本体部は、一端が前記開口部を介して前記収容穴に開口するとともに他端が前記本体部の外面に開口し、前記収容穴内に前記頭部が収容された前記スクリュの軸部が通る略柱状の導入穴を有し、該導入穴が、前記一端から前記他端に向かって漸次増大する内径を有していてもよい。
このようにすることで、導入穴を通る軸部の方向および角度のばらつきが許容される。これにより、椎弓へのスクリュの挿入時に要求されるスクリュの方向および角度の精度を緩和することができる。
【0015】
上記第1の態様においては、前記本体部が、前記切断端部間に配置されるときに脊柱管側に向けられる腹側面を有し、前記導入穴の中心軸と前記腹側面とが成す角度が、−4°以上96°以下であってもよい。
このようにすることで、導入穴の角度を、椎弓の切断端部に挿入されるスクリュの軸部の角度に好適な角度にすることができる。
【0016】
上記第1の態様においては、前記収容穴が、略球状であってもよい。
このようにすることで、任意の形状の頭部を収容穴内に収容することができる。また、略球状の収容穴と該収容穴内に収容された頭部は、任意の方向に相対的に回転可能であるので、スクリュの軸部に対する本体部の向きおよび角度を収容穴内に収容された頭部を中心に変更することができる。
【0017】
本発明の第2の態様は、切断された椎弓の切断端部間に配置され一方の前記切断端部にスクリュによって取り付けられる柱状の本体部を備え、該本体部が、該本体部の内部に形成され前記スクリュの頭部を収容可能である単一の収容穴と、該収容穴と前記本体部の長手方向に間隔を空けた位置に設けられ他方の前記切断端部に突き当てられる突当部とを備え、前記収容穴に、前記本体部の外部から前記収容穴内へ前記頭部が挿入される開口部が開口し、該開口部は、前記スクリュの軸部の直径よりも大きく前記頭部の直径よりも小さい口径を有するとともに、該口径を前記頭部の直径よりも大きな寸法まで拡大可能である椎弓スペーサである。
【0018】
上記第2の態様によれば、椎弓形成術において、椎弓の一方の切断端部に挿入されたスクリュの頭部が収容穴内に保持されるように本体部を頭部に取り付け、突当部を他方の切断端部に突き当てることで、本体部を切断端部間に配置して一方の切断端部にスクリュを介して取り付けることができる。また、スクリュが挿入された一方の切断端部と突当部が突き当てられた他方の切断端部との間には収容穴と突当部との間隔に相当する距離が保たれるので、脊柱管の直径を拡大した状態に維持し続けることができる。
【0019】
このように、本体部は、椎弓へのスクリュの挿入後に該スクリュの頭部に取り付けられる。したがって、椎弓へのスクリュの挿入を他の部材によって制限されることなく簡単に行うことができる。また、本体部の収容穴内に頭部を嵌め込み、突当部を他方の切断端部に突き当てるだけの簡単な操作で本体部を切断端部間に配置して椎弓に取り付けることができる。
【0020】
本発明の第3の態様は、上記第1の態様に係る椎弓スペーサと、前記椎弓の切断端部に挿入される軸部および該軸部の一端に設けられ該軸部よりも大径の頭部を有する2本のスクリュとを備える椎弓スペーサキットである。
【0021】
上記第3の態様においては、前記スクリュの前記頭部が、略球状であってもよい。
このようにすることで、収容穴と該収容穴内に収容された略球状の頭部は、任意の方向に相対的に回転可能であるので、スクリュの軸部に対する本体部の向きおよび角度を収容穴内に収容された頭部を中心に変更することができる。
【0022】
上記第3の態様においては、前記スクリュが、前記軸部と前記頭部との間に設けられ、前記軸部よりも径方向外方に突出するフランジ部を備えていてもよい。
このようにすることで、フランジ部が椎弓に突き当たるまでスクリュを椎弓内に挿入することで、スクリュの椎弓内への挿入量を一定に制御することができる。また、フランジ部から椎弓に作用する軸力によって、椎弓に対するスクリュの固定力を高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、椎弓形成術において椎弓スペーサを椎弓に簡便に取り付けることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る椎弓スペーサキットの使用方法を説明する図であり、(a)切断位置の両側おいて椎弓にスクリュを挿入した状態および(b)スクリュに椎弓スペーサを取り付けた状態を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る椎弓スペーサの外観を示す斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係るスクリュの側面図である。
図4図2の椎弓スペーサの側面図である。
図5図2の椎弓スペーサの第1の把持片の内面を示す図である。
図6図2の椎弓スペーサの(a)閉状態および(b)開状態を示す、長手方向に見た正面図である。
図7図3のスクリュの変形例を示す側面図である。
図8】(a),(b)スクリュの頭部の変形例を示す側面図である。
図9図2の椎弓スペーサの変形例を示す長手方向に見た正面図である。
図10図2の椎弓スペーサの他の変形例を示す長手方向に見た正面図である。
図11図2の椎弓スペーサの他の変形例を示す斜視図である。
図12図2の椎弓スペーサの他の変形例を示す斜視図である。
図13図2の椎弓スペーサの他の変形例を示す斜視図である。
図14図2の椎弓スペーサの他の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の一実施形態に係る椎弓スペーサ1およびこれを備える椎弓スペーサキットについて図面を参照して説明する。
本実施形態に係る椎弓スペーサキットは、図1(a),(b)に示されるように、椎弓Aの切断端部B1,B2間に椎弓スペーサ1が配置されるように椎弓スペーサ1を切断端部B1,B2にスクリュ2を介して取り付ける椎弓形成術に使用されるものである。
【0026】
本実施形態に係る椎弓スペーサキットは、図2に示される椎弓スペーサ1と、図3に示される2本のスクリュ2とを備えている。
スクリュ2は、外周面に雄ねじが形成された直棒状の軸部2aと、該軸部2aの一端に設けられ軸部2aよりも大径の略球状の頭部2bとを有している。スクリュ2の材料は、十分な強度および生体適合性を有するものであれば任意に選択することができる。例えば、スクリュ2の主材料は、SUS316L(JIS規格記号)のようなステンレス鋼、純チタンまたはチタン合金などの金属材料であってもよく、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)のような高分子材料であってもよい。
【0027】
椎弓スペーサ1は、図2に示されるように、四角柱状の本体部3を備えている。図2には、長手方向の両側の端面が長手方向に対して互いに逆方向に傾斜し、台形状の側面を有する本体部3が示されているが、本体部3の形状はこれに限定されるものではない。例えば、本体部3は、互いに平行な端面を有する直方体状であってもよく、円柱状であってもよい。
【0028】
本体部3の材料は、スクリュ2の材料と同様に、十分な強度と生体適合性を有するものであれば任意に選択することができる。例えば、本体部3の主材料は、SUS316L(JIS規格記号)のようなステンレス鋼、純チタンまたはチタン合金などの金属材料であってもよく、PEEKのような高分子材料であってもよい。
【0029】
本体部3の内部には、図4に示されるように、頭部2bの直径よりもわずかに大きな直径を有し頭部2bを収容可能な2つの略球状の収容穴4と、各収容穴4に対して設けられ収容穴4内に頭部2bが収容されたスクリュ2の軸部2aが通る導入穴5とが形成されている。
2つの収容穴4は、本体部3の長手方向に間隔をあけて設けられている。
【0030】
導入穴5は、一端が収容穴4に開口し、他端が本体部3の端面または/および椎弓形成術において脊柱管側(腹側)に配置される側面(腹側面)3aに開口する略円柱状の穴であり、導入穴5を介して収容穴4の内部と本体部3の外部とが連通している。収容穴4に接続されている導入穴5の一端の開口部5aは、軸部2aの直径よりも大きく頭部2bの直径よりも小さい口径を有している。
【0031】
導入穴5は、45°程度の中心角を有し一端から他端に向かって内径が漸次増大する略円錐台状である。略球状の収容穴4内において頭部2bは任意の方向に回転可能ある。したがって、収容穴4内に配置された頭部2bを中心に軸部2aを導入穴5内で径方向に揺動させて、軸部2aの向きおよび角度を導入穴5内で変更することができる。すなわち、導入穴5は、該導入穴5を通る軸部2aの向きおよび角度のばらつきを一定の範囲内で許容することができるようになっている。
【0032】
導入穴5の中心軸が本体部3の腹側面3aに対して成す角度θ(図4参照。)は、椎弓形成術において椎弓の切断端部B1,B2に挿入されるスクリュ2の角度を考慮して、−4°以上96°以下であることが好ましい。すなわち、導入穴5は、収容穴4から本体部3の端面に向かって本体部3の長手方向に略平行に延びていてもよく、収容穴4から腹側面3aに向かって該腹側面3aに略垂直に延びていてもよく、本体部3の長手方向に対して腹側面3a側に傾斜していてもよい。図4に示される2つの導入穴5は、本体部3の長手方向に略対称となるように略等しい角度θで形成されている。
【0033】
本体部3には、2つの収容穴4および2つの導入穴5を通り本体部3を長手方向に交差する方向に2つの把持片31,32に分割する溝6が形成されている。溝6は、本体部3の長手方向に略平行であり、一方の端面から他方の端面まで本体部3の長手方向に全長にわたって形成されるとともに、腹側面3aから該腹側面3aと対向する背側面3bまで全幅にわたって形成されている。各収容穴4および各導入穴5は、溝6によって略2等分されている。したがって、一対の把持片31,32の互いに対向する内面31a,32aには、図5に示されるように、互いに対向する位置に、収容穴4を形成する半球状の凹部4bと、導入穴5を形成する略半円錐台状の凹部5bとが形成されている。
【0034】
本体部3の背側面3bにはバネ部(保持手段、付勢部材)7が設けられ、一対の把持片31,32は、図6(a),(b)に示されるように、背側面3bにおいてバネ部7によって相互に連結されている。第1の把持片31および第2の把持片32がバネ部7を中心に相互に揺動することで、把持片31,32の腹側面3a側が開閉可能となっている。
【0035】
バネ部7は、例えば、弾性を有する材料からなる薄肉の部材であり、一対の把持片31,32に閉じる方向の付勢力を与えるように構成されている。これにより、一対の把持片31,32がクリップ式に開閉するようになっている。すなわち、一対の把持片31,32に開方向の外力が作用しない通常状態では、図6(a)に示されるように、バネ部7の付勢力によって一対の把持片31,32は閉じた位置に保持される。また、一対の把持片31,32は、バネ部7の付勢力に抗しながら該バネ部7を中心に相互に揺動することで、図6(b)に示されるように、相互に開くようになっている。ここで、一対の把持片31,32を開くことで、溝6の溝幅(内面31a,32a間の間隔)を一対の把持片31,32の対向方向に拡大し、開口部5aの口径を頭部2bの直径よりも大きな寸法まで拡大することができるようになっている。
【0036】
一対の把持片31,32を開く操作は、術者が把持片31,32を直接把持して行われてもよいが、器具を使用して行われてもよい。例えば、器具を取り付けるための取付穴8(図2参照。)が、少なくとも一方の把持片31,32の側面に設けられていてもよい。術者は、取付穴8内に取り付けられた器具を操作することで、一対の把持片31,32を容易に開くことができる。
【0037】
開口部5aよりも背側面3b側において、一対の把持片31,32が閉じた状態での内面31a,32a間の溝6の溝幅は、頭部2bが溝6を介して抜けることがないように、頭部2bの直径よりも小さくなっている。また、溝6の溝幅が開口部5aから腹側面3aに向かって漸次大きくなるように、開口部5aと腹側面3aとの間において溝6はV字状に形成されている。このように、溝6の内面を開口部5aから腹側面3aに向かって漸次広がる斜面にすることで、頭部2bを腹側面3a側から収容穴4に向かって案内し易くなるとともに、一対の把持片31,32の開き角が小さくても溝6内へ頭部2bを容易に挿入することができる。
【0038】
次に、本実施形態に係る椎弓スペーサキットの作用について、棘突起を縦割りする棘突起縦割法による椎弓形成術を例に挙げて説明する。なお、棘突起縦割法ではなく、左右一方の椎弓を切断する片開き式の椎弓形成術に椎弓スペーサキットを使用してもよい。
椎弓形成術において、棘突起の端部を切除した後に、図1(a)に示されるように、棘突起を縦割りする。次に、椎弓Aの切断端部B1,B2にそれぞれ切断面側からスクリュ2を挿入する。
【0039】
次に、一対の把持片31,32を開き、拡大された溝6および開口部5aを介して頭部2bが収容穴4内に挿入されるように、一対の把持片31,32を2本のスクリュ2に頭部2b側から被せる。次に、一対の把持片31,32に加えていた開方向の力を解放して一対の把持片31,32を閉じる。一対の把持片31,32は、バネ部7の付勢力によって閉じた状態に保持される。これにより、図1(b)に示されるように、椎弓Aの切断端部B1,B2の間に2本のスクリュ2を介して椎弓スペーサ1が取り付けられる。椎弓スペーサ1の2つの収容穴4内に収容された2つの頭部2bは、椎弓スペーサ1によって互いに一定の距離を置いた位置に保持される。したがって、椎弓スペーサ1によって脊柱管の直径を拡大した状態に維持することができる。
【0040】
このように、本実施形態によれば、2本のスクリュ2を椎弓Aの切断端部B1,B2に挿入し、その後に2本のスクリュ2の頭部2bを挟むように該2つの頭部2bに椎弓スペーサ1を取り付ける。このように、クリップのようにワンタッチ操作で椎弓スペーサ1をスクリュ2を介して切断端部B1,B2に簡単に取り付けることができるという利点がある。
【0041】
また、切断端部B1,B2へスクリュ2を挿入する位置、方向および角度は、他の部材によって制限されることがなく、術者は、スクリュ2を挿入する位置、方向および角度を一定の範囲内で自由に選択することができる。また、収容穴4が略球状に形成され、導入穴5が収容穴4側の一端から他端に向かって漸次幅広に形成されていることで、軸部2aの向きおよび角度のばらつきは一定の範囲内で許容される。したがって、切断端部B1,B2へのスクリュ2の挿入時に要求される向きおよび角度の精度が緩和される。これにより、スクリュ2の挿入操作をさらに容易にすることができる。
【0042】
本実施形態においては、スクリュ2が、図7に示されるように、軸部2aと頭部2bとの間に、軸部2aよりも径方向外方に突出する環状のフランジ部2cを有していてもよい。フランジ部2cの厚さは、0.3mm〜1mm程度であることが好ましい。
フランジ部2cが椎弓Aの表面に突き当たる位置までスクリュ2の軸部2aを椎弓A内に挿入することで、軸部2aの椎弓A内への挿入量を一定に制御することができる。また、フランジ部2cから椎弓Aへ軸部2aの長手方向の軸力が与えられることで、スクリュ2の緩みを防止して椎弓Aに対するスクリュ2の固定力を安定させることができる。
【0043】
本実施形態においては、スクリュ2の頭部2bが略球状であることとしたが、これに代えて、他の形状であってもよい。例えば、頭部2bは、図8(a)に示されるように多面体状であってもよく、図8(b)に示されるように、錐台状であってもよい。
【0044】
また、本実施形態においては、収容穴4が略球状であることとしたが、収容穴4の形状は、収容穴4内に収容された頭部2bと軸方向および該軸方向に交差する方向に係合する形状であれば、他の形状であってもよい。
例えば、図9に示されるように、収容穴41は、内面31a,32aに略垂直に延びる円柱状であり、把持片31,32を貫通していてもよい。あるいは、収容穴4の内面形状は、多面体形状であってもよく、頭部2bの形状に対して相補的な形状であってもよい。
【0045】
本実施形態においては、バネ部7の付勢力によって一対の把持片31,32を閉じた位置に保持することとしたが、一対の把持片31,32を閉じた位置に保持するための保持手段は、これに限定されるものではない。
保持手段の第1の変形例として、図10に示されるように、一対の把持片31,32を相互に連結し、一対の把持片31,32の閉動作に伴って塑性変形する変形部71を採用し、塑性変形した変形部71の塑性によって一対の把持片31,32が閉じた位置に保持されるように構成されていてもよい。変形部71は、例えば、図10に示されるように、本体部3の背側面3bに沿って形成された薄肉の領域からなる。
【0046】
保持手段の第2の変形例として、図11に示されるように、閉じた一対の把持片31,32を留めるネジ72を採用してもよい。一対の把持片31,32には、閉じた状態で互いに連通しネジ72が締結されるネジ穴73が形成される。
このように、保持手段としてネジ72を使用する場合、一対の把持片31,32を開閉可能に連結する連結機構は、一対の把持片31,32を閉じる位置に保持する保持力を発生する必要はない。すなわち、一対の把持片31,32は、開閉自在に連結されていてもよい。例えば、図11に示されるように、一対の把持片31,32は、背側面3bに設けられた蝶番9によって相互に揺動自在に連結されていてもよい。
【0047】
本実施形態においては、本体部3が2つの収容穴4を有することとしたが、収容穴4は少なくとも1つ設けられていればよい。図12は、本体部3の一端部に収容穴4が1つのみ設けられている例を示している。この場合、本体部3の他端部には、一方の切断端部B1またはB2に突き当てられる突当部3cが形成される。
【0048】
図12の椎弓スペーサの使用方法について説明すると、椎弓Aを切断した後、一方の切断端部B1にスクリュ2が挿入され、該スクリュ2の頭部2bを収容穴4内に収容することで本体部3の一端部が切断端部B1に接続される。次に、本体部3の他端部の突当部3cを他方の切断端部B2に突き当て、もう1本のスクリュ2によって、本体部3の他端部を切断端部B2に固定する。したがって、本体部3の他端部には、もう1本のスクリュ2が締結されるスクリュホール3dが設けられる。
【0049】
この場合に、本体部3の一端部がスクリュ2を介して切断端部B1に接続された状態において、収容穴4内の頭部2bを中心に本体部3を動かして本体部3の向きおよび角度を変更することができるので、他方の切断端部B2に対する突当部3cの位置合わせを容易に行うことができる。
【0050】
本実施形態においては、本体部3が、溝6によって相互に分離されるとともに相互に開閉可能に連結された一対の把持片31,32からなることとしたが、これに代えて、図13に示されるように、本体部3が単一の部材から構成されていてもよい。
図13の本体部3において、溝6は、収容穴41を横断し、背側面3bとの間に間隔をあけた位置で終端している。本体部3は、溝6の終端と背側面3bとの間の部分をヒンジとしてその弾性により腹側面3a側が開くことで、溝6および開口部5aを拡大可能となっている。本体部3の開動作がより容易になるように、背側面3b側の収容穴41の内面には、長手方向に沿って延びるスリット11が形成されていてもよい。
【0051】
図13の椎弓スペーサによれば、頭部2bを腹側面3a側から収容穴41に向かって溝6内にスライドさせることで、頭部2bを収容穴41内に圧入することができる。すなわち、術者が一対の把持片31,32を開閉させる操作が不要であるので、より簡単な操作で椎弓スペーサを椎弓Aに挿入されたスクリュ2の頭部2bに取り付けることができる。
【0052】
あるいは、スクリュ2の頭部2bに、該頭部2bを径方向に弾性的に収縮させる機構が設けられていてもよい。例えば、頭部2bの頭頂面に溝が形成されて、頭部2bの外周面に作用する径方向内方の外力によって頭部2bが径方向に収縮し、外力が解放されたときに頭部2bの外径が回復するように構成されていてもよい。
このようなスクリュ2によれば、頭部2bを収縮させた状態で開口部5aに通過させ、開口部5aを通過した後は収容穴4内で頭部2bが自己拡大することで、頭部2bが収容穴4から抜けることがないように該収容穴4内に収容される。
【0053】
本実施形態においては、本体部3が、単一のユニットとして構成されていることとしたが、これに代えて、図14に示されるように、それぞれ1つずつ収容穴41を有する2つのユニット3A,3Bから構成されていてもよい。
【0054】
2つのユニット3A,3Bには、該2つのユニット3A,3Bを結合するための結合機構が設けられる。結合機構は、2つのユニット3A,3Bを一度結合した後は分離が困難である構造であることが好ましい。例えば、結合機構は、一方のユニット3Aに設けられた凹部12aと、他方のユニット3Bに設けられ凹部12a内に弾性変形を利用して嵌め込まれる凸部12bとからなるスナップフィットであってもよい。2つのユニット3A,3Bは、椎弓Aの切断端部B1,B2に挿入された2つのスクリュ2の頭部2bに別々に取り付けられ、その後に結合機構12a,12bによって結合される。
【0055】
本実施形態においては、椎弓スペーサ1がスクリュ2と共に椎弓スペーサキットとして提供されることとしたが、これに代えて、椎弓スペーサ1のみが単体で提供されてもよい。
この場合、椎弓スペーサ1の収容穴4の寸法および形状に適した頭部を有する任意のスクリュを、椎弓スペーサ1と組み合わせて使用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 椎弓スペーサ
2 スクリュ
2a 軸部
2b 頭部
2c フランジ部
3 本体部
31,32 把持片
3a 腹側面
3b 背側面
3c 突当部
3d スクリュホール
4,41 収容穴
5 導入穴
5a 開口部
6 溝
7 バネ部(付勢部材、保持手段)
71 変形部(保持手段)
72 ネジ(保持手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14