(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871802
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】不均一系パラジウム触媒存在下でアルデヒドを一酸化炭素源として用いるハロゲン化合物のカルボニル化反応によりカルボニル化合物を得る方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/36 20060101AFI20210426BHJP
C07C 69/614 20060101ALI20210426BHJP
C07C 69/76 20060101ALI20210426BHJP
C07C 69/82 20060101ALI20210426BHJP
C07C 69/92 20060101ALI20210426BHJP
C07C 201/12 20060101ALI20210426BHJP
C07C 205/57 20060101ALI20210426BHJP
C07D 209/48 20060101ALI20210426BHJP
C07D 213/79 20060101ALI20210426BHJP
C07D 213/80 20060101ALI20210426BHJP
C07D 213/807 20060101ALI20210426BHJP
C07D 307/88 20060101ALI20210426BHJP
C07D 311/76 20060101ALI20210426BHJP
C07D 333/38 20060101ALI20210426BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20210426BHJP
B01J 31/28 20060101ALI20210426BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20210426BHJP
【FI】
C07C67/36CSP
C07C69/614
C07C69/76 A
C07C69/76 Z
C07C69/82 A
C07C69/92
C07C201/12
C07C205/57
C07D209/48
C07D213/79
C07D213/80
C07D213/807
C07D307/88
C07D311/76
C07D333/38
B01J31/22 Z
B01J31/28 Z
!C07B61/00 300
【請求項の数】17
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-96474(P2017-96474)
(22)【出願日】2017年5月15日
(65)【公開番号】特開2018-24631(P2018-24631A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2020年5月1日
(31)【優先権主張番号】特願2016-148788(P2016-148788)
(32)【優先日】2016年7月28日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年4月11日CHEMISTRY A European Journal(ウェブサイト)に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門口 泰也
(72)【発明者】
【氏名】服部 倫弘
(72)【発明者】
【氏名】上田 舜
(72)【発明者】
【氏名】澤間 善成
(72)【発明者】
【氏名】佐治木 弘尚
【審査官】
阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−76969(JP,A)
【文献】
特開平11−80035(JP,A)
【文献】
特開平11−7160(JP,A)
【文献】
特開平2−243647(JP,A)
【文献】
特開昭61−209206(JP,A)
【文献】
韓国登録特許第10−1579691(KR,B1)
【文献】
特開平4−193849(JP,A)
【文献】
特開昭52−20847(JP,A)
【文献】
特開平7−242509(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/079759(WO,A1)
【文献】
特開平2−157245(JP,A)
【文献】
特開昭58−211490(JP,A)
【文献】
米国特許第6143707(US,A)
【文献】
特表2007−511506(JP,A)
【文献】
特開2016−37476(JP,A)
【文献】
特開2001−139570(JP,A)
【文献】
特表2004−522721(JP,A)
【文献】
Journal of Organometallic Chemistry,2007年,Vol. 692,pp. 625-634
【文献】
Organic & Biomolecular Chemistry,2007年,Vol. 5, No. 1,pp. 65-68
【文献】
Petroleum Chemistry,2008年,Vol. 48, No. 6,pp. 471-478
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/36
B01J 31/22
B01J 31/28
C07C 69/614
C07C 69/76
C07C 69/82
C07C 69/92
C07C 201/12
C07C 205/57
C07D 209/48
C07D 213/79
C07D 213/80
C07D 213/807
C07D 307/88
C07D 311/76
C07D 333/38
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒および一酸化炭素存在下、ハロゲン化合物をカルボニル化反応させてカルボニル化合物を製造する方法であって、
上記触媒が不均一系パラジウム触媒であり、
上記一酸化炭素が、アルデヒドと不均一系パラジウム触媒の存在下で発生したものであるカルボニル化合物の製造方法。
【請求項2】
上記カルボニル化反応に用いる触媒と、アルデヒドから一酸化炭素を発生させる反応に用いる触媒とが、同じ不均一系パラジウム触媒である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記カルボニル化合物がエステル化合物である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
触媒および一酸化炭素と共に、アルコールを存在させる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アルデヒドがテレフタルアルデヒドである請求項1〜4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記不均一系パラジウム触媒が活性炭にパラジウムを担持させたものである請求項1〜5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
前記ハロゲン化合物がハロゲン置換芳香族化合物である請求項1〜6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
前記ハロゲンがヨウ素である請求項1〜7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
前記アルデヒドをハロゲン化合物に対して1〜10当量用いる請求項1〜8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
前記エステル化合物が環状エステル化合物である請求項3〜9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
前記アルデヒドから一酸化炭素を発生させる第一段階と、前記一酸化炭素を用いてハロゲン化合物のカルボニル化を行う第二段階の二段階で行う請求項1〜10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
第一段階を不活性ガス存在下で行う請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記不活性ガスが窒素ガスである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第二段階でハロゲン化合物と溶媒を添加する請求項11〜13の何れかに記載の方法。
【請求項15】
溶媒がN−メチルピロリドンである請求項11〜14の何れかに記載の方法。
【請求項16】
ハロゲン化合物と溶媒と共に、配位子を添加する請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記配位子がトリフェニルフォスフィンである請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化合物をカルボニル化反応させてカルボニル化合物を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウム触媒によるカルボニル化反応は、有機ハロゲン化合物と一酸化炭素を組み合わせた三成分カップリング反応が広く用いられている。このような反応として、系内に求核剤を共存させて対応するカルボニル誘導体の合成反応が報告されている(非特許文献1)。しかし、一酸化炭素は1000ppm程度で中毒症状を引き起こすほど毒性が高く、取扱いに注意が必要で、工業的には適当な設備の準備が必要となり、コストもかかるため、生産量が多くないと採算が合わない場合があった。従って、一酸化炭素源としての有機化合物から一酸化炭素を反応系内で発生させて直接カルボニル化反応に利用する方法論の開発は安全性の観点から強く望まれている。
【0003】
一酸化炭素源として有機化合物を使用する反応として、ペンタフルオロベンズアルデヒドの脱ホルミル化反応で生成する一酸化炭素によるカルボニル化反応が報告されている(非特許文献2)。また、N-ホルミルサッカリンやギ酸フェニルを一酸化炭素源とした反応も報告されており(非特許文献3および4)、ギ酸トリクロロフェニルは固体の一酸化炭素源として試薬会社より市販されている。また、アミド化合物を一酸化炭素源として用いてマイクロウェーブを利用した反応も報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−522721号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. Beller et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 4114
【非特許文献2】T. Morimoto et al. J. Organomet. Chem. 2007, 692, 625
【非特許文献3】K. Manabe et al. Org. Lett. 2013, 15, 5370
【非特許文献4】K. Manabe et al. Chem. Commun. 2015, 51, 1854
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来技術ではすべて均一系の触媒を使用しており、触媒の回収や再利用ができず、コストがかかる問題があった。また、均一系触媒は不均一系触媒に比べて不安定で、保存状態を工夫しなければいけないという問題があった。
【0007】
また、従来技術で用いられている一酸化炭素源は、高価であったり取り扱いが難しいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来のカルボニル化反応における、触媒や一酸化炭素源の問題を解決すべく鋭意研究した結果、触媒として不均一系パラジウム触媒を用いることで、安定で取り扱いやすいアルデヒドから効率良く一酸化炭素を発生することを見出し、それに引き続きいて温和な不均一系でカルボニル化反応を行えることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、触媒および一酸化炭素存在下、ハロゲン化合物をカルボニル化反応させてカルボニル化合物を得る方法であって、
触媒として不均一系パラジウム触媒を用い、アルデヒドから発生させた一酸化炭素を用いることを特徴とするカルボニル化合物を得る方法である。
【0010】
また、本発明は、式(A)、式(B)、式(C)または式(D)
【化1】
(ただし、式(A)中、R
1は水素、メトキシ基、アセチル基、ニトロ基、または炭素数1〜5のカルボン酸エステルであり、R
2は炭素数1〜5のアルキル基である)
【化2】
(ただし、式(B)中、Nuは酸素または窒素原子であり、[]nは炭素数1または2のアルキル基かカルボニル基である)
【化3】
【化4】
(ただし、式(D)中、Rはナフタレンまたはピリジンまたはチオールである)
から選ばれるエステル化合物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法を用いれば、人体に有害な一酸化炭素を外部から供給することなしに、一酸化炭素源として安価で取り扱いやすいアルデヒドと回収可能な不均一系触媒を用いてカルボニル化反応を実施できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のエステルを得る方法(以下、「本発明方法」という)は、触媒および一酸化炭素存在下、ハロゲン化合物をカルボニル化反応させてカルボニル化合物を得る方法であって、触媒として不均一系パラジウム触媒を用い、アルデヒドから発生させた一酸化炭素を用いる方法である。以下、本発明方法の構成について説明する。
【0014】
(不均一系パラジウム触媒)
本発明方法で用いる不均一系パラジウム触媒は、一酸化炭素源からの一酸化炭素発生反応やカルボニル化反応が進行するものであれば特に限定されないが、例えば、活性炭、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン等のカーボン、アルミナ、シリカ等の担体にパラジウムを担持させたものが挙げられる。このパラジウムを担持した不均一系触媒は本発明方法を行っている間、系内に存在していればよいが、例えば、一酸化炭素源としてのアルデヒドに対して、1〜50mol%、好ましくは5〜20mol%である。なお、このような不均一系触媒は、反応後の触媒の分離、分離した触媒の再使用が容易である。
【0015】
上記した不均一系パラジウム触媒の中でもカーボンにパラジウムを担持させたものが好ましく、特に活性炭にパラジウムを担持させたものが好ましい。なお、活性炭は比表面積値が大きく、担持するパラジウムの分散性を向上することができ、安価で高活性の不均一系触媒を得ることができる。
【0016】
また、上記した活性炭にパラジウムを担持させた不均一系パラジウム触媒の中でも下記(a)および(b)の性質を有するものが好ましい。
(a)パラジウムを活性炭に対しパラジウム金属換算で1〜20wt%、好ましくは5〜15wt%含有する。
なお、パラジウム量が少なすぎると反応性が低下することがあり、多すぎても使用量にみあった活性が得られないことがある。また、パラジウム量が多すぎると触媒上のパラジウム同士が凝集してしまうことがあり、その場合パラジウム粒子全体の表面積が低下して活性も低下してしまうことがある。
【0017】
(b)活性炭の比表面積値(BET値)が500〜2,000m
2/g、好ましくは800〜1,500m
2/gである。
なお、活性炭の比表面積値が小さすぎるとパラジウムの分散性が低下してしまい反応性が低下してしまうことがある。また、理由は定かではないが、比表面積値が大きすぎても、本発明方法では反応性が低下することがある。
【0018】
上記した性質を有する活性炭にパラジウムを担持させた不均一系触媒としては、公知の方法に従って調製しても良いし、例えば、[P9−Type](パラジウム含量;10wt%、比表面積値;1,000m
2/g)、[K−タイプ触媒](パラジウム含量;10wt%、比表面積値;1,100m
2/g)、[UL−Type](パラジウム含量;10wt%、比表面積値1,150m
2/g)、[P60−Type](パラジウム含量;10wt%、比表面積値1,550m
2/g)(いずれもエヌ・イー ケムキャット(株)製)等の市販品を利用することもできる。
また、これら触媒は、反応の前に水素等の還元雰囲気下で活性化しても良い。
【0019】
(アルデヒド)
本発明方法では、カルボニル化の一酸化炭素源としてアルデヒドが用いられる。アルデヒドは、不均一系パラジウム触媒存在下で一酸化炭素を発生するものであれば特に限定されないが、アルデヒド基(ホルミル基)を有する芳香族化合物が好ましく、ベンゼン環にアルデヒド基を含む置換基が結合したものがより好ましい。アルデヒドの中でも、特に桂皮アルデヒド、ベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドが好ましく、テレフタルアルデヒドがより好ましい。本発明方法におけるアルデヒドの使用量は特に限定されないが、例えば、ハロゲン化合物に対して1〜10当量、好ましくは1〜3当量である。
【0020】
(ハロゲン化合物)
本発明方法によりカルボニル化されるハロゲン化合物は、カルボニル化され、カルボニル化合物を生じるものであれば特に限定されないが、ハロゲン置換芳香族化合物、ハロゲン置換複素環化合物等が好ましく、ハロゲン置換芳香族化合物がより好ましい。ハロゲンの種類は特に限定されないが、臭素、ヨウ素が好ましく、ヨウ素がより好ましい。なお、これらのハロゲン化合物の中でも最終的に得られるカルボニル化合物がエステル化合物となるものが好ましく、環状エステル(ラクトン)となるようなものがより好ましい。最終的に得られるカルボニル化合物が環状化合物(ラクトンやラクタム)となる場合、ハロゲン化合物がヒドロキシ基、アミノ基等の求核置換基を有することが好ましい。
【0021】
(反応)
本発明方法は、上記不均一系パラジウム触媒、アルデヒド、更に必要により塩基、求核剤、溶媒、配位子の存在下で反応させ、アルデヒドから発生させた一酸化炭素でハロゲン化合物をカルボニル化反応させ、カルボニル化合物にする。
【0022】
(反応温度)
本発明方法の反応温度は、アルデヒドから一酸化炭素が発生し、カルボニル化反応が進行するのであれば特に限定されないが、80〜150℃が好ましく、特に100〜130℃が好ましい。
【0023】
(反応時間)
本発明方法の反応時間は、特に限定されないが、例えば、0.5〜48時間、好ましくは2〜24時間である。また、反応の際には撹拌をすることが好ましい。
【0024】
(塩基)
本発明方法で用いることのできる塩基は、アルデヒドから一酸化炭素を発生できるものであれば特に限定されないが、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、フッ化セシウムが好ましく、特に炭酸ナトリウムが好ましい。塩基の使用量は一酸化炭素を発生させるアルデヒドに対して1〜10当量以上が好ましく、更に1〜3当量が好ましい。
【0025】
(溶媒)
本発明方法で用いることのできる溶媒は特に限定されないが、アルコールや非プロトン性溶媒が好ましい。非プロトン性溶媒としてはトルエン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)などが挙げられ、DMSO、DMA、トルエン、NMPが好ましく、特にNMPが好ましい。また、本発明方法で用いることのできるアルコールは特に限定されず、不飽和結合があってもよいが飽和脂肪族のアルコールであることが好ましい。また、炭素数1〜10の1〜3級アルコールでも良く、炭素数1〜5の1級または2級アルコールがより好ましく、特にイソプロパノールが好ましい。なお、これら溶媒の使用量は、適宜設定すればよい。
【0026】
(求核剤)
本発明方法で用いることのできる求核剤は、ヒドロキシ基、アミノ基等の求核置換基を持つ化合物であれば特に限定されないが、アルコールやアミンが好ましい。なお、ハロゲン化合物が求核置換基を有する場合には、別途求核剤を用いてなくてもよい。また、溶媒としてアルコールを用いる場合には、アルコールが求核剤を兼ねてもよい。アミンは脂肪族や芳香族で置換された1級アミンまたは2級アミンでもよい。また、アミンはアミドとなっていてもよく、特にベンズアミド誘導体が好ましい。
【0027】
(配位子)
本発明方法で用いることのできる配位子は特に限定されないが、2,2'-ビピリジル、2,2'-ビキノリン、キサントホス、1,1'-ビスジフェニルホスフィノフェロセン(dppf)、トリフェニルフォスフィン(PPh
3)が好ましく、PPh
3が特に好ましい。使用する配位子の量は特に限定されないが、パラジウムに配位すると考えられる数の等量にすることが好ましい。パラジウムに対して1〜8当量が好ましく、3〜5当量が更に好ましい。
【0028】
(雰囲気)
本発明方法における雰囲気は、アルデヒドから十分に一酸化炭素が発生するのであれば特に限定されないが、一酸化炭素が酸化しないような不活性ガスであることが好ましい。不活性ガスとしてはアルゴンやヘリウムなどの希ガスや窒素ガスが好ましいが、コストが安いことから特に窒素が好ましい。
【0029】
なお、本発明方法によりカルボニル化合物が得られるが、詳細には、酸素原子や窒素原子を含む求核置換基を持つハロゲン化合物が分子内で反応してラクトン等の環状エステル化合物やラクタム等の環状アミド化合物が得られる場合、ハロゲン化合物とアルコールが反応したエステル化合物が得られる場合等がある。ハロゲン化合物とアルコールが反応したエステル化合物を得る場合には、アルコールが求核剤として反応に関与するため、溶媒として上記アルコールを用いることが好ましい。
【0030】
(二段階反応)
本発明方法は、カルボニル化反応が進行するのであれば一段階で行っても良いが、アルデヒドから一酸化炭素を発生させる第一段階と、前記一酸化炭素を用いてハロゲン化合物のカルボニル化反応を行う第二段階の二段階に分けた反応で行うと収率が良い場合がある。以下に二段階で反応を行う場合の方法を記載する。
【0031】
(第一段階)
第一段階では、溶媒中に一酸化炭素源としてのアルデヒドと不均一系パラジウム触媒と塩基を加えて、アルデヒドから一酸化炭素を発生させる。
【0032】
(溶媒)
第一段階で使用する溶媒は一酸化炭素源であるアルデヒドが溶解すれば、特に限定されないが、アルコールや非プロトン性溶媒が好ましい。非プロトン性溶媒としてはトルエン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)などが挙げられ、DMSO、DMA、DMFが好ましい。また、上記溶媒としてはアルコールを用いることもできる。アルコールは特に限定されないが、不飽和結合があってもよいが飽和脂肪族のアルコールであることが好ましい。また、炭素数1〜10の1〜3級アルコールでも良く、炭素数1〜5の1級または2級アルコールがより好ましく、特にイソプロパノールが好ましい。なお、これらの溶媒の使用量は、適宜設定すればよい。また、これらの溶媒は混合して用いてもよい。また、本発明方法により上記したハロゲン化合物とアルコールが反応したエステル化合物を得る場合には、アルコールが求核剤として反応に関与するため、第一段階の溶媒として上記アルコールを用いることが好ましい。
【0033】
(求核剤)
第一段階で用いることのできる求核剤は、ヒドロキシ基、アミノ基等の求核置換基を持つ化合物であれば特に限定されないが、アルコールやアミンが好ましい。なお、ハロゲン化合物が求核置換基を有する場合には、別途求核剤を用いてなくてもよい。また、溶媒としてアルコールを用いる場合には、アルコールが求核剤を兼ねてもよい。
【0034】
(雰囲気)
第一段階ではアルデヒドから十分に一酸化炭素が発生すれば特に限定されないが、一酸化炭素が酸化しないような不活性ガス存在下で行うことが好ましい。不活性ガスとしてはアルゴンやヘリウムなどの希ガスや窒素ガスが好ましいが、コストが安いことから特に窒素が好ましい。
【0035】
(反応温度)
第一段階の反応温度は、アルデヒドから一酸化炭素が発生し、溶媒や基質が沸騰しない程度の温度であれば特に限定されないが、70〜200℃が好ましく、特に90〜150℃が好ましい。
【0036】
(反応時間)
第一段階の反応時間は、特に限定されないが、例えば、0.5〜48時間、好ましくは2〜24時間である。また、反応の際には撹拌をすることが好ましい。
【0037】
(塩基)
第一段階では塩基を加える方が好ましく、塩基はアルデヒドから一酸化炭素を発生できるものであれば特に限定されないが、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、フッ化セシウムが好ましく、特に炭酸ナトリウムが好ましい。塩基の使用量は一酸化炭素を発生させるアルデヒドに対して1〜10当量以上が好ましく、更に1〜3当量が好ましい。
【0038】
(第二段階)
第一段階で発生した一酸化炭素と反応させてカルボニル化する。ハロゲン化合物は溶媒に溶解させることが好ましい。この溶媒には、更に配位子や求核剤を添加してもよい。
【0039】
(溶媒)
第二段階で用いられる溶媒は特に限定されないが、アルコールや非プロトン性溶媒が好ましい。アルコールは特に限定されないが、不飽和結合があってもよいが飽和脂肪族のアルコールであることが好ましい。また、炭素数1〜10の1〜3級アルコールでも良く、炭素数1〜5の1級または2級アルコールがより好ましく、特にイソプロパノールが好ましい。また、非プロトン性溶媒としてはトルエン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)などが挙げられ、DMSO、DMA、トルエン、NMPが好ましく、特にNMPが好ましい。なお、これらの溶媒の使用量は、適宜設定すればよい。また、これらの溶媒は混合して用いてもよい。
【0040】
(求核剤)
第二段階で用いることのできる求核剤は、ヒドロキシ基、アミノ基等の求核置換基を持つ化合物であれば特に限定されないが、アルコールやアミンが好ましい。なお、ハロゲン化合物が求核置換基を有する場合には、別途求核剤を用いてなくてもよい。また、溶媒としてアルコールを用いる場合には、アルコールが求核剤を兼ねてもよい。
【0041】
(配位子)
第二段階で用いられる配位子は特に限定されないが、2,2'-ビピリジル、2,2'-ビキノリン、キサントホス、1,1'-ビスジフェニルホスフィノフェロセン(dppf)、トリフェニルフォスフィン(PPh
3)が好ましく、PPh
3が特に好ましい。使用する配位子の量は特に限定されないが、パラジウムに配位すると考えられる数の等量にすることが好ましい。パラジウムに対して1〜8当量が好ましく、3〜5当量が更に好ましい。
【0042】
(反応温度)
第二段階の反応温度は、発生した一酸化炭素でハロゲン化合物のカルボニル化が進行し、溶媒や基質が沸騰しない程度の温度であれば特に限定されないが、70〜150℃が好ましく、特に80〜120℃が好ましい。
【0043】
(反応時間)
第一段階の反応時間は、特に限定されないが、例えば、0.5〜48時間、好ましくは2〜24時間である。また、反応の際には撹拌をすることが好ましい。
【0044】
(反応容器)
第一段階と第二段階の反応は、別々の容器で行うことも同じ容器内で行うことも可能であるが、同じ容器内で行うことが好ましい。
更に、反応時間を短縮したい場合には、第一段階で発生する一酸化炭素を、別の第二段階の反応で利用できるような容器で行えばよい。このような容器としては、例えば、複数の容器を連結して、ある容器で発生した一酸化炭素が他の容器にも行き来できるようなもの等が挙げられる。こうすると他の容器に入れておいた基質もカルボニル化できる。
【0045】
以上説明した本発明方法により、カルボニル化合物が得られる。カルボニル化合物が得られたかどうかはNMR等公知の方法で確認することができる
【0046】
また、本発明方法を終了した後は、ろ過、遠心分離等で不均一系パラジウム触媒を回収し、再利用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
実 施 例 1
一酸化炭素源としてのアルデヒドの種類:
以下の反応式において、アルデヒド(Aldehyde)として、表1に記載のものを用い、エステル化合物の収率を調べた。収率もあわせて表1に記載した。
【0049】
【化5】
【0050】
具体的な反応は次のようにして行った。まず、試験管を準備し、これにアルデヒド(0.25mmol)、10%Pd/C([K−タイプ触媒](パラジウム含量;10wt%、比表面積値;1,100m
2/g)(エヌ・イー ケムキャット(株)製))、Na
2CO
3、iPrOHを入れ、N
2置換し、110℃、600rpmで24時間撹拌した。2−ヨードベンジルアルコール、PPh
3のNMP溶液を、1mLシリンジとニードル[24G 1・1/4(0.55×30mm)]を用いて添加し、更に100℃で24時間撹拌した。合計48時間後、桐山ロート(1μm)を用いて反応液をろ過した。ロート上の回収触媒は酢酸エチル(5mL)、蒸留水(5mL)、メタノール(5mL)、蒸留水(5mL)およびメタノール(5mL)で順次洗浄し、デシケータで減圧下2日間乾燥させた。ろ過した有機層は15mLの蒸留水で4回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させたのちエバポレーターで減圧下濃縮した。得られた残渣にCDCl
3(ca.0.6mL)および内部標準として1,4−ジオキサンを添加し、
1H NMRから収率を算出した。回収した触媒の重量は、135mg(使用量:26.6mgx4=106mg、>99%)であった。以降の実施例でも同じように反応を行った。
【0051】
【表1】
【0052】
以上の結果より、一酸化炭素源としてのアルデヒドは、桂皮アルデヒド、ベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドのどれでもよいが、収率の点からテレフタルアルデヒドがよいことが分かった。なお、アルデヒドから一酸化炭素が発生していることはガスクロマトグラフィーで確認した。
【0053】
また、反応後の溶液を桐山ロートでろ過して、酢酸エチル、蒸留水、メタノール、蒸留水とメタノールで洗浄し、Pd/Cを回収した。
【0054】
実 施 例 2
第一段階の雰囲気の種類:
以下の反応式において、基質添加前の雰囲気(Air)として、表2に記載のものを用い、エステル化合物の収率を調べた。収率もあわせて表2に記載した。テレフタルアルデヒドの使用量は0.25mmoLである。
【0055】
【化6】
【0056】
【表2】
【0057】
以上の結果より、雰囲気は、アルゴン、窒素、ヘリウムのどれでもよいが、コストや収率の点から窒素がよいことが分かった。
【0058】
実 施 例 3
第二段階での基質添加のための溶媒の種類:
以下の反応式において、基質添加時の溶媒(Solvent)として、表3に記載のものを用い、エステル化合物の収率を調べた。収率もあわせて表3に記載した。テレフタルアルデヒドの使用量は0.25mmoLである。
【0059】
【化7】
【0060】
【表3】
【0061】
以上の結果より、溶媒は、DMSO、DMA、トルエン、NMPのどれでもよいが、収率の点からNMPがよいことが分かった。
【0062】
実 施 例 4
触媒の再利用:
以下の反応式において、触媒を再利用した際の収率を調べた。収率と触媒の回収率を表4に記載した。
【0063】
【化8】
【0064】
【表4】
【0065】
以上の結果より、回収した触媒は再利用できることが分かった。
【0066】
実 施 例 5
第二段階で添加する配位子の種類:
以下の反応式において、基質添加時の配位子(Ligand)として、表5に記載のものを用い、エステル化合物の収率を調べた。収率もあわせて表5に記載した。テレフタルアルデヒドの使用量は0.25mmoLである。
【0067】
【化9】
【0068】
【表5】
【0069】
以上の結果より、配位子は、2,2'-ビピリジル、2,2'-ビキノリン、トリフェニルフォスフィン、キサントホス、1,1'-ビスジフェニルホスフィノフェロセンのどれでもよいが、収率の点からトリフェニルフォスフィンがよいことが分かった。
【0070】
実 施 例 6
分子内環化反応・基質多様性:
以下の反応式において、基質(Substrate)として、表6に記載のものを用い、環状化合物の収率を調べた。収率もあわせて表6に記載した。テレフタルアルデヒドの使用量は0.25mmoLである。
【0071】
【化10】
【0072】
【表6】
【0073】
以上の結果より、種々の基質からカルボニル化合物が得られることが分かった。特にハロゲン化合物のハロゲンがヨウ素のものの方が収率が高くなることが分かった。
【0074】
実 施 例 7
エステル合成・アルコール多様性:
以下の反応式において、アルコール(ROH)として、表7に記載のものを用い、エステル化合物の収率を調べた。収率もあわせて表7に記載した。テレフタルアルデヒドの使用量は0.25mmoLである。
【0075】
【化11】
【0076】
【表7】
*ROHを10%Pd/C、Na
2CO
3、H
2雰囲気下、室温で1時間撹拌後にテレフタルアルデヒドを加えて反応
【0077】
以上の結果より、アルコールは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールのどれでもよいが、収率の点からイソプロパノールがよいことが分かった。
【0078】
実 施 例 8
基質多様性:
以下の反応式において、基質として、表8に記載のものを用い、エステル化合物の収率を調べた。収率もあわせて表8に記載した。テレフタルアルデヒドの使用量は0.25mmoLである。
【0079】
【化12】
【0080】
【表8】
【0081】
以上の結果より、基質の置換基は、特に限定されず、基質がハロゲン置換芳香族化合物であればどれでもよいことが分かった。
【0082】
実 施 例 9
複素環化合物:
以下の反応式において、基質(R-I)として、表9に記載のものを用い、エステル化合物の収率を調べた。収率もあわせて表9に記載した。テレフタルアルデヒドの使用量は0.25mmoLである。
【0083】
【化13】
【0084】
【表9】
【0085】
以上の結果より、基質は、ハロゲン置換複素環化合物であればどれでもよいことが分かった。
【0086】
実 施 例 10
複数の容器で反応を同時に行う系:
以下の反応式において、
図1で示される反応容器を用い、各収率を調べて表10に記載した。管2(Tube2)の基質に対する管1(Tube1)の基質の量は1.5当量である。管1と管2は連結されていて、管1で発生した一酸化炭素は連結部分で行き来し、管2においても一酸化炭素が利用できる。
【0087】
【化14】
【0088】
【表10】
【0089】
図1のような反応容器を用いることにより、2つの化合物を同時に製造することができ、全体の反応時間を短縮できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、不均一系のパラジウム触媒と一酸化炭素源としてアルデヒドを使用することにより、安全かつ低コストでカルボニル化を行うことができる。
そのため、本発明は、研究開発時の少量サンプル製造やコンビナトリアルケミストリーの化学ライブラリーに利用できる。
【符号の説明】
【0091】
1 … 反応容器
2 … 管1
3 … 管2
4 … 連結部分
以 上