【文献】
荒木 忠治,温州ミカンの果汁加工適性、特に化学的成分と果汁品質との関係(II),日本食品工業学会誌,日本,1992年 6月,第39巻 第6号,555〜563
【文献】
梅田圭司 川嶋浩二,柑橘のカロチノイドに関する研究,日本食品工業学会誌,日本,1971年 8月,第18巻 第8号,pp. 359 - 365
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は飲んだときにフレッシュ感をより感じられるようにすることができる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はスイートオレンジ類、ミカン類、タンゴール類およびタンゼロ類からなる群から1種または2種以上選択される柑橘類の果汁を含有する果汁含有飲料において、飲んだときにフレッシュ感(柑橘類の果実について、その果皮(外皮)を剥きながら生の果肉を食べるときに得られる感覚)をより感じられるようにし、飲料の嗜好性を高めることを企図した。そして鋭意研究の結果、本発明者は、リモニン、カロテノイド、酪酸エチルについて所定の関係を満足することで上記飲料においてフレッシュ感を高めることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] スイートオレンジ類、ミカン類、タンゴール類およびタンゼロ類からなる群から1種または2種以上選択される柑橘類の果汁を含有する果汁含有飲料であって、
リモニン(ppm)/カロテノイド(ppm)の比率(x)が0.38〜0.59であり、
酪酸エチル濃度(y)が4.8ppm以下であり、
−66.7x+26.5≦y≦−8.3x+8.8との関係を満足する果汁含有飲料。
[2] −66.7x+28.5≦y≦−20x+14.1との関係を満足する[1]に記載の果汁含有飲料。
[3] スイートオレンジ類および/またはミカン類の果汁を含有し、その果汁率が10〜40%である[1]または[2]に記載の果汁含有飲料。
[4] リモニン(ppm)/カロテノイド(ppm)の比率(x)が0.38〜0.59であり、
酪酸エチル濃度(y)が4.8ppm以下であり、
−66.7x+26.5≦y≦−8.3x+8.8との関係を満足するようにスイートオレンジ類、ミカン類、タンゴール類およびタンゼロ類からなる群から1種または2種以上選択される柑橘類の果汁と酪酸エチルとを混合することを含む、果汁含有飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、飲んだときによりフレッシュ感を感じられるようにすることができる新規な技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の1つの実施形態について、詳細に説明する。
本実施形態は果汁含有飲料に関し、スイートオレンジ類、ミカン類、タンゴール類およびタンゼロ類からなる群から1種または2種以上選択される柑橘類の果汁を含有する。本実施形態の果汁含有飲料においてはリモニン(ppm)/カロテノイド(ppm)の比率(x)が0.38〜0.59であり、酪酸エチル濃度(y)が4.8ppm以下であり、−66.7x+26.5≦y≦−8.3x+8.8との関係(以下、単に関係Aともいう)を満足する。
【0010】
本明細書において果汁含有飲料とは、果汁を原料として配合した飲料を意味する。また、柑橘類の果汁とは、柑橘類を破砕して搾汁したり、あるいは裏ごししたりするなどして得られる液体成分をいう。本明細書の柑橘類の果汁には、当該液体成分を濃縮したものや、これらの希釈還元物も含まれる概念である。さらに、本実施形態に係る柑橘類の果汁は、パルプ分を含むもの、または、ろ過や遠心分離等の処理によりパルプ分を除去したもののいずれであってもよい。
【0011】
本明細書において柑橘類とは、ミカン科ミカン亜科に属する植物の果実を意味する。上述のとおり、本実施形態の果汁含有飲料は、スイートオレンジ類、ミカン類、タンゴール類およびタンゼロ類からなる群から1種または2種以上選択される柑橘類の果汁を含有する。
スイートオレンジ類としては、バレンシア、ネーブル、ブラッドオレンジなどが例示できる。
ミカン類としては、温州ミカン、クレメンティン、ポンカンなどが例示できる。
タンゴール類としては、タンカン、テンプル、マーコット、清見、イヨカン、不知火などが例示できる。
タンゼロ類としては、オーランド、ミネオラ、セミノール、スイートスプリング、サザンエローなどが例示できる。
このうち、スイートオレンジ類および/またはミカン類の果汁が含有される飲料において本発明に係る構成としたことによるフレッシュ感向上の効果がより得られるため、スイートオレンジ類および/またはミカン類の果汁を含有する飲料において上記関係Aを満足するように飲料が構成されることが好ましい。
【0012】
本実施形態に係る柑橘類果汁の調製に用いることのできる柑橘類について、その品種、産地、熟度、大きさなどは特に限定されず、適宜設定することができる。
また、柑橘類果汁として市販のジュースや濃縮ジュース、ペーストなどを用い、本実施形態の果汁含有飲料を調製するようにしてもよい。具体的には、JAS規格(果実飲料の日本農林規格)で指定されたジュースや濃縮ジュースを挙げることができ、例えばこれらのうち1種または2種以上を本実施形態の柑橘類の果汁含有飲料調製のために用いることができる。
搾汁方法についても特に限定されず、例えばインライン搾汁機、チョッパーパルパー搾汁機、またはブラウン搾汁機等を用いて得られた果汁を挙げることができる。インライン搾汁機は果実を2つのカップで挟み込み、外皮を細断しながら果底に穴を開け、外皮を剥がして果実を圧搾する。チョッパーパルパー搾汁機を用いる場合には、果実を湯で軟化させた後に外果皮を剥皮した内果を細断・磨砕し、通篩して果汁を得る。ブラウン搾汁機においては、果実を半切りにし、次いで回転するリーマーで果肉をえぐり出して果汁を得る。
さらに、コミュニテッドジュースも本実施形態の果汁含有飲料製造のために使用することができる。コミュニテッドジュースとは、果皮(外皮)の一部または全部が除去されることなく付いたままの状態で果肉が粉砕されたり、あるいは微細化された果皮(外皮)が果肉から得られた果汁に添加されたりする工程を経て製造された果汁をいう。
【0013】
本実施形態の果汁含有飲料における果汁率は特に限定されず、当業者が適宜設定できるが、スイートオレンジ類および/またはミカン類の果汁を含有し、果汁率が10〜40%(より好ましくは10〜25%)である飲料において本発明に係る構成としたことによるフレッシュ感向上の効果がより得られるため、該果汁含有飲料において上記関係Aを満足するように飲料が構成されることが好ましい。
ここで、果汁率とは、柑橘類を搾汁して得られ、濃縮等の処理を行っていない柑橘類の搾汁(ストレート果汁)のBrix値または酸度を100%としたときの、相対濃度である。また、本明細書においてBrix値は、JAS規格に基づき、試料の温度(液温度)20℃における糖用屈折計の示度をいう。Brix値の測定は、公知の方法、装置を用いて行うことができる。また、酸度は、100g中に含まれる有機酸量をクエン酸に換算した場合のグラム数(無水クエン酸g/100g)で表すことができる。酸度もまた、JAS規格の酸度測定法で定められた方法、具体的には0.1mol/L水酸化ナトリウム標準液をアルカリ溶液として使用した中和滴定法(定量式)により測定できる。
果汁率をBrix値または酸度のいずれに基づいて算出するかはJAS規格に基づき柑橘類の種類ごとに定められている。スイートオレンジ類、ミカン類、タンゴール類およびタンゼロ類についてはBrix値に基づいて算出する。果汁の果汁率をJAS規格のBrix値に基づいて換算する場合、果汁に加えられた糖類、はちみつ等のBrix値は除いて算出される。
例えば、スイートオレンジ類についてはBrix値(Bx11°)に基づいて算出することができ、Brix値がBx55°の冷凍濃縮オレンジジュース(Frozen Concentrate Orange Juice, FCOJ)を飲料中4.0重量%配合した場合、20%の果汁率の飲料を得ることができる。
【0014】
本実施形態の果汁含有飲料においては、リモニン、カロテノイド、酪酸エチルについて、以下の1)〜3)として表される関係(以下、単に関係Aともいう)を満足する。
1)リモニン(ppm)/カロテノイド(ppm)の比率(x):0.38〜0.59
2)酪酸エチル濃度(y):4.8ppm以下
3)−66.7x+26.5≦y≦−8.3x+8.8(好ましくは−66.7x+28.5≦y≦−20x+14.1)
この関係が好適な理由としては、リモニン/カロテノイド比については、果汁率に応じてその含有量が変わるカロテノイドと、コミュニテッド果汁などに多く含まれるリモニンの比を一定範囲とすることで果皮の香味を有しつつ苦すぎない香味バランスをとることができる。酪酸エチルについてはオレンジまたはミカン類を連想させるトップノート(飲料を飲んだ際に初めに感じる香り)を有するが、一方で濃度が高すぎるとバナナ等の別種の果実類の香気を呈するため、一定の範囲に収めることが望ましい。発明者は、上記リモニン/カロテノイド比と酪酸エチル濃度とのバランスを検討することで適度な果皮の苦み感とオレンジまたはミカン類を連想させるトップノートとのバランスを取り、飲んだときにフレッシュ感(柑橘類の果実について、その果皮(外皮)を剥きながら生の果肉を食べるときに得られる感覚)をより感じられるようにし、飲料の嗜好性を高めることに成功した。
【0015】
リモニンは以下の構造式で表され、柑橘類の果実等に含まれる化合物である。リモニンの濃度は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた測定結果から得ることができる。該測定は、後述の実施例に記載の手順によって行うことができる。
【0017】
酪酸エチルはC
3H
7COOC
2H
5で表される化合物である。酪酸エチルの濃度は質量分析ガスクロマトグラフィー(GC/MS)を用いた測定結果から得ることができる。該測定は、後述の実施例に記載の手順によって行うことができる。
【0018】
カロテノイドとは、β−カロテン等のカロチン類やルテイン等のキサントフィル類などの、黄色ないし赤色の色素(カロテノイド色素)であり多数の共役二重結合を含む脂肪族または脂環式のポリエン類の総称である。カロテノイドの濃度は比色法に基づいて得ることができる。該手順もまた、後述の実施例に記載のものとすることができる。
【0019】
果汁含有飲料について関係Aを満足させるための方法は特に限定されないが、例えば飲料の製造において使用する果汁の種類や酪酸エチルの添加量、さらに複数種の果汁を使用する場合にはその混合比などを調整することによって行うことができる。
【0020】
本実施形態の果汁含有飲料においては、本発明の効果が奏される限り、上記3成分や果汁以外の他の成分を含むようにしてもよく、特に限定されない。具体的には、パルプ成分などの固形分、食塩、糖類、香料、ビタミン、着色料、酸化防止剤、甘味料、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定化剤、他の野菜や果物の果汁などの、飲料に通常配合される成分を含有することができる。
【0021】
本実施形態の果汁含有飲料は例えば常法にしたがって製造することができ、得られる飲料において上記関係Aを満たしている限り、各成分の配合量・割合や製造条件などについては特に限定されない。
例えば、冷凍濃縮オレンジジュース(FCOJ)や冷凍濃縮コミュニテッドジュースを原料として用い、これらを水で希釈して混合する。その際、製造後に上記関係Aを満足するように量や割合等を調整して混合する。
次いで当該混合液に飲料製造後に関係Aを満足する量、割合で酪酸エチルを添加したり、その他必要に応じて加えられる成分を添加するなどして果汁含有飲料を調製する。
【0022】
製造された本実施形態の果汁含有飲料は、特に限定されないが、例えば容器に封入された容器詰飲料とすることができる。
容器への封入方法などは特に限定されず、例えば常法に従って行うことができる。
容器も公知のものを適宜選択して用いることができ、素材や形状など特に限定されない。容器の具体例としては、例えば、紙容器、透明又は半透明のビン、PETボトル等の透明又は半透明のプラスチック容器、スチール缶やアルミニウム缶等の金属缶などが挙げられる。
【0023】
以上、本実施形態によれば、上記関係Aを満たしていることにより、スイートオレンジ類、ミカン類、タンゴール類およびタンゼロ類からなる群から1種または2種以上選択される柑橘類の果汁を含有する果汁含有飲料において飲んだときに感じられるフレッシュ感をより高めることができる。よって、嗜好性についてより優れた果汁含有飲料を提供できることが期待できる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[試験例1]
表1に示す成分(単位:g/L)を水に混合し、その後、水で1Lに定容した。これを加熱殺菌(93℃、30秒)した後、500mLずつをペットボトルに充填して実施例および比較例の容器詰飲料とした。
【0025】
なお、飲料(試料溶液)中のリモニンの濃度はHPLCにより測定した。
まず、採取した試料溶液(6.0g)に水とメタノールそれぞれ40mlを添加した。得られた溶液を超音波処理に5分間供した後、100mlに定容した。得られた溶液について遠心分離処理を行った後、HPLC測定に供した。
測定条件は以下のとおりである。測定結果から得られる試料溶液中のリモニン含有量に基づき、リモネンの濃度を算出した。
カラム:Inertsil ODS−3, φ4.6mm×150mm,粒径5μm
移動相:水、アセトニトリルおよびリン酸の混液
測定波長:210nm
流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
【0026】
また、飲料(試料溶液)中の酪酸エチルの濃度(mg/L)はGC/MS測定装置を用いて、以下の方法により測定した。
バイアル瓶(容量20ml)に試料溶液を10ml入れ、3.5gのNaClを加え、80℃で20分の撹拌後、ヘッドスペース部の気相を3ml採取して、GC/MS測定に供した。
得られた値より試料溶液の容量あたりの質量を算出し、濃度とした。
GC/MS測定条件は以下のとおりである。
装置:GC:Agilent Technologies社製 7890B
MS:Agilent Technologies社製 5977A MSD
HS:HEWLETT PACKARD社製 HP7694 Headspace Sampler
カラム:DB−WAX 0.25mm×30m×0.25μm
定量イオン:m/z=88
温度条件:40℃(5分)〜5℃/分→240℃(0分)→240℃(5分)
キャリアガス流量:He 1ml/分
注入法:スプリット 50:1
Inj温度:240℃
MSDトランスファライン:240℃
イオン源温度:230℃
【0027】
飲料(試料溶液)中のカロテノイドの濃度は比色法に基づき算出した。
試料(5g)に対し15%塩化ナトリウム溶液(20ml)とシクロヘキサン(20ml)を混合した後、振蕩し、静置して分離させた。水層についてシクロヘキサンを添加し、振蕩・静置した後、分離した溶媒層を当初に得られた溶媒層に合わせた。該操作を4回繰り返した。
溶媒層について、無水硫酸ナトリウムを用いての乾燥を行った後、100mlに定容し、吸光度(450nm)を測定した。吸光度の該測定結果に基づき濃度(ppm)を算出した。
【0028】
得られた飲料について、6名のパネルによりフレッシュ感について以下に示す評点を用いて5段階評価を行った。また、苦味の強さ、おいしさについても同様に5段階評価を行った。サンプルは20℃でパネルに提供した。各評価結果についてそれぞれ平均値を算出し、表1および
図1に示した。
フレッシュ感について +2点:ある、+1点:ややある、0:どちらともいえない、−1点:あまりない、−2点:ない
苦みについて +2点:強い、+1点:やや強い、0:ちょうどよい、−1点:やや弱い、−2点:弱い
おいしさについて +2点:おいしい、+1点:ややおいしい、0:どちらともいえない、−1点:あまりおいしくない、−2点:おいしくない
【0029】
なお、フレッシュ感に影響を与える要素としては上記関係Aを満足するか否かのほかにL−アスコルビン酸や香料の飲料における含有量、飲料の酸度が考えられるが、これらは同一として試験を行った。
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示す結果から、上記関係Aを満足することで評価が○または△となり、フレッシュ感が高まることが理解できる。また、−66.7x+28.5≦y≦−20x+
14.1との関係も満足することでフレッシュ感についていずれも評価が○となることが理解できる。なお、○または△のものについては実施例に相当する。
【0032】
[試験例2]
果汁率を変化させた以外は試験例1と同様の方法で容器詰め飲料を製造し、試験例1と同様の官能評価を実施した。表2に示した各容器詰め飲料について、表1に示した各成分の含有量やBrix等の飲料の性質に関する値は、果汁率に関するもの以外については、同一果汁率の飲料間で一定となるようにした。
結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
表2から理解できるように、10〜40%の果汁率とした場合にも上記関係Aを満足することでフレッシュ感が高まることが理解できる。