(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871834
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
B62K 25/20 20060101AFI20210426BHJP
【FI】
B62K25/20
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-182815(P2017-182815)
(22)【出願日】2017年9月22日
(65)【公開番号】特開2019-55760(P2019-55760A)
(43)【公開日】2019年4月11日
【審査請求日】2020年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小切間 仁人
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 大輔
【審査官】
渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−142739(JP,A)
【文献】
米国特許第5163740(US,A)
【文献】
中国特許出願公開第1498782(CN,A)
【文献】
実開昭62−23787(JP,U)
【文献】
韓国公開特許第10−2010−0065827(KR,A)
【文献】
特開昭61−143274(JP,A)
【文献】
米国特許第4880280(US,A)
【文献】
米国特許第6669306(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 25/20
B62K 27/00
B62M 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪の車軸と、
前記車軸に外嵌される外嵌部材と、
前記外嵌部材の抜け止めのために前記車軸に締結される雌ネジ部を有する締結部材と、
前記駆動輪の車幅方向両側のうち片側のみを通過し、前記車軸の中央部を支持するスイングアームと、を備え、
前記車軸は、前記外嵌部材が外嵌される外筒部材と、前記外筒部材に挿入され且つ前記外筒部材よりも軸線方向に長い内軸部材とを有し、
前記内軸部材は、前記外筒部材に内嵌される軸部と、前記軸部のうち前記外筒部材から前記軸線方向一方に突出した一端部の外周面に形成され、前記締結部材が締結される雄ネジ部と、前記軸部のうち前記外筒部材から前記軸線方向他方に突出した他端部から径方向外方に突出し、前記締結部材の締結による前記内軸部材の軸力を保持する保持部と、を有し、
前記締結部材と前記保持部とは、前記外嵌部材を前記軸線方向に押圧する、鞍乗型車両。
【請求項2】
駆動輪の車軸と、
前記車軸に外嵌される外嵌部材と、
前記外嵌部材の抜け止めのために前記車軸に締結される雌ネジ部を有する締結部材と、を備え、
前記車軸は、前記外嵌部材が外嵌される外筒部材と、前記外筒部材に挿入され且つ前記外筒部材よりも軸線方向に長い内軸部材とを有し、
前記内軸部材は、前記外筒部材に内嵌される軸部と、前記軸部のうち前記外筒部材から前記軸線方向一方に突出した一端部の外周面に形成され、前記締結部材が締結される雄ネジ部と、前記軸部のうち前記外筒部材から前記軸線方向他方に突出した他端部から径方向外方に突出し、前記締結部材の締結による前記内軸部材の軸力を保持する保持部と、を有し、
前記内軸部材は、筒形状である、鞍乗型車両。
【請求項3】
駆動輪の車軸と、
前記車軸に外嵌される外嵌部材と、
前記外嵌部材の抜け止めのために前記車軸に締結される雌ネジ部を有する締結部材と、
一対のカラーと、を備え、
前記車軸は、前記外嵌部材が外嵌される外筒部材と、前記外筒部材に挿入され且つ前記外筒部材よりも軸線方向に長い内軸部材とを有し、
前記内軸部材は、前記外筒部材に内嵌される軸部と、前記軸部のうち前記外筒部材から前記軸線方向一方に突出した一端部の外周面に形成され、前記締結部材が締結される雄ネジ部と、前記軸部のうち前記外筒部材から前記軸線方向他方に突出した他端部から径方向外方に突出し、前記締結部材の締結による前記内軸部材の軸力を保持する保持部と、を有し、
前記一対のカラーは、前記外嵌部材と前記内軸部材との間に配置され、
前記外筒部材の前記軸線方向の両端縁は、前記外嵌部材の前記軸線方向外側の両端縁よりも前記軸線方向内側に位置し、
前記一対のカラーの各々は、前記外筒部材の前記軸線方向の外側において前記外嵌部材の内周面と前記内軸部材の外周面との間に介設される筒部を有する、鞍乗型車両。
【請求項4】
前記一対のカラーの各々は、前記外嵌部材の内周面よりも径方向外方に突出するフランジ部を更に有し、
前記保持部及び前記締結部材は、前記フランジ部を前記軸線方向外側から押圧する、請求項3に記載の鞍乗型車両。
【請求項5】
前記保持部及び前記締結部材が前記カラーのフランジ部を押圧した状態において、前記カラーの前記筒部と前記外筒部材との間には前記軸線方向に隙間が形成され、
前記保持部及び前記締結部材の外径は、前記カラーの前記筒部の外径よりも大きい、請求項4に記載の鞍乗型車両。
【請求項6】
駆動輪の車軸と、
前記車軸に外嵌される外嵌部材と、
前記外嵌部材の抜け止めのために前記車軸に締結される雌ネジ部を有する締結部材と、
前記駆動輪の車幅方向両側のうち片側のみを通過し、前記車軸の中央部を支持するスイングアームと、を備え、
前記車軸は、前記外嵌部材が外嵌される外筒部材と、前記外筒部材に挿入され且つ前記外筒部材よりも軸線方向に長い内軸部材とを有し、
前記内軸部材は、前記外筒部材に内嵌される軸部と、前記軸部のうち前記外筒部材から前記軸線方向一方に突出した一端部の外周面に形成され、前記締結部材が締結される雄ネジ部と、前記軸部のうち前記外筒部材から前記軸線方向他方に突出した他端部から径方向外方に突出し、前記締結部材の締結による前記内軸部材の軸力を保持する保持部と、を有し、
前記締結部材と前記保持部とは、前記外嵌部材を前記軸線方向に押圧する、自動二輪車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動輪の車軸に締結部材が締結されてなる鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車のスイングアームには、後輪の片側のみを通過して車軸の中央部を支持する片持ちタイプがある(例えば、特許文献1)。特許文献1の構成では、スイングアームの後端部が軸受を介して車軸を支持し、原動機からの回転動力が車軸に支持されたダンパ装置を介して車軸に伝達され、後輪のホイールハブが車軸に共回転するように支持されている。そして、ホイールハブは、前記軸受を軸線方向に位置決めする車軸の突起部と車軸に締結されるナットとの間で挟持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平5−45476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の構成では、車輪の加減速に伴ってナットが緩まないように、複雑な形状のナットやワイヤ等の部品が設けられ、部品コストが高くなっている。
【0005】
そこで本発明は、片持ち式のスイングアームが支持する駆動輪の車軸に締結される締結部材の緩みを低コストで防止できる構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る鞍乗型車両は、駆動輪の車軸と、前記車軸に外嵌される外嵌部材と、前記外嵌部材の抜け止めのために前記車軸に締結される雌ネジ部を有する締結部材と、を備え、前記車軸は、前記外嵌部材が外嵌される外筒部材と、前記外筒部材に挿入され且つ前記外筒部材よりも軸線方向に長い内軸部材とを有し、前記内軸部材は、前記外筒部材に内嵌される軸部と、前記軸部のうち前記外筒部材から前記軸線方向一方に突出した一端部の外周面に形成され、前記締結部材が締結される雄ネジ部と、前記軸部のうち前記外筒部材から前記軸線方向他方に突出した他端部から径方向外方に突出し、前記締結部材の締結による前記内軸部材の軸力を保持する保持部と、を有する。
【0007】
前記構成によれば、外嵌部材(例えば、スイングアームの端部に内嵌された偏心器、車輪のホイールハブ、及び、走行駆動源からの動力を車輪に伝える動力伝達装置)が内軸部材の保持部と締結部材(例えば、ナット)とで挟まれて締め付けられる際、保持部と締結部材との間の締付け距離は、外筒部材よりも軸線方向に長くなる。よって、保持部と締結部材との間の締付力による内軸部材の軸線方向の弾性伸縮の余地が十分に確保され、締結部材の締結時の内軸部材に発生した軸力が十分な弾性伸縮によって維持され易く、簡易に締結部材の緩み防止を図ることができる。このように、車軸を、動力伝達機能を有する外筒部材と締結機能を有する内軸部材とに分離することで、複雑な緩み防止機構を設けなくても片持ち式のスイングアームが支持する車軸に締結される締結部材の緩みを低コストで防止できる。
【0008】
前記内軸部材は、筒形状である構成としてもよい。
【0009】
前記構成によれば、内軸部材が中実である場合に比べ、内軸部材が軸線方向に弾性伸縮し易くなるため、締結部材の締結時の内軸部材の軸力が発生し易く、好適に締結部材の緩みを防止できる。
【0010】
前記内軸部材の肉厚は、前記外筒部材の肉厚よりも薄い構成としてもよい。
【0011】
前記構成によれば、外筒部材の回転に対する強度を十分に保ちつつ、締結部材の締結時の内軸部材の軸力が発生し易くなり、車軸の強度と締結部材の緩み防止とを好適に両立できる。
【0012】
前記外嵌部材と前記内軸部材との間に配置される一対のカラーを更に備え、前記外筒部材の前記軸線方向の両端縁は、前記外嵌部材の前記軸線方向外側の両端縁よりも前記軸線方向内側に位置し、前記一対のカラーの各々は、前記外筒部材の前記軸線方向の外側において前記外嵌部材の内周面と前記内軸部材の外周面との間に介設される筒部を有する構成としてもよい。
【0013】
前記構成によれば、カラーの筒部が外嵌部材の内周面と内軸部材の外周面とに挟まれることで、内軸部材を外筒部材に密嵌させなくても、内軸部材の軸心を外筒部材の軸心に一致させることができる。そのため、内軸部材の外径を外筒部材の内径よりも小径化することが可能になり、外筒部材に対する内軸部材の組付け作業を容易にできると共に、内軸部材の軸線方向伸縮のバネ定数も容易に調整できる。
【0014】
前記一対のカラーの各々は、前記外嵌部材の内周面よりも径方向外方に突出するフランジ部を更に有し、前記保持部及び前記締結部材は、前記フランジ部を前記軸線方向外側から押圧する構成としてもよい。
【0015】
前記構成によれば、カラーが保持部及び締結部材に対するワッシャの役目を兼ねることができる。
【0016】
前記保持部及び前記締結部材が前記カラーのフランジ部を押圧した状態において、前記カラーの前記筒部と前記外筒部材との間には前記軸線方向に隙間が形成され、前記保持部及び前記締結部材の外径は、前記カラーの前記筒部の外径よりも大きい構成としてもよい。
【0017】
前記構成によれば、保持部及び締結部材がカラーの筒部よりも大径であるため、保持部及び締結部材からの軸線方向の押圧力がフランジ部を介して外嵌部材により受け止められる。そのため、カラーの筒部と外筒部材との間に軸線方向に公差用の隙間を設けても、筒部が当該隙間を埋める向きに移動するようにカラーが変形することを防止できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、片持ち式のスイングアームが支持する駆動輪の車軸に締結される締結部材の緩みを低コストで防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る自動二輪車の後部の左側面図である。
【
図2】
図1に示す自動二輪車のスイングアームの平面図である。
【
図3】
図1に示す自動二輪車の後輪の車軸に沿って切断した要部断面図である。
【
図4】(A)は
図3の車軸の一端部の拡大図、(B)は
図3の車軸の他端部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0021】
図1は実施形態に係る自動二輪車1の要部の左側面図である。
図1に示すように、鞍乗型車両の一例である自動二輪車1では、その車体フレーム2に、略前後方向に延びるスイングアーム3の前端部がピボット軸4により回動自在に支持され、スイングアーム3の後端部に後輪5(駆動輪)が回転自在に支持されている。車体フレーム2には、図示しない原動機(例えば、エンジン又はモータ)及びそれに接続された変速機が搭載され、その変速機の出力軸6から出力される回転動力が無端状の動力伝達ループ7(例えば、ドライブチェーン又はドライブベルト)を介して後輪5に伝達される。後輪5の車軸8には、動力伝達ループ7が巻き掛けられる従動部31b(例えば、スプロケット)を有し且つ動力伝達ループ7からの回転動力を衝撃吸収しながら車軸8に伝達するダンパ装置9(動力伝達装置)が接続されている。
【0022】
図2は、
図1に示す自動二輪車1のスイングアーム3の平面図である。
図2に示すように、スイングアーム3は、後輪5の片側(例えば、左側)のみを通過し、その後端部3cが車軸8の中央部を支持する片持ち式のスイングアームである。スイングアーム3の前端部3aは、後輸5の前方に位置し、略U字状に二股に分岐してピボット軸4に角変位可能に支持されている。スイングアーム3の中間部3bは、後輪5のタイヤ5aの車幅方向一方側(例えば、左側)に配置されている。即ち、スイングアーム3は、後輪5の車幅方向他方側(例えば、右側)を通過しない。スイングアーム3の後端部3cは、後輪5のホイール5bに近接し、車軸8の中央部を支持する。即ち、スイングアーム3は、中間部3bが前端部3a及び後端部3cよりも車幅方向外側に突出するように湾曲している。
【0023】
図3は、
図1に示す自動二輪車1の後輪5の車軸8に沿って切断した要部断面図である。
図3に示すように、スイングアーム3の後端部3cは、偏心器10を介して車軸8の中央部を回動自在に支持している。車軸8には、動力伝達ループ7からの動力を車軸8に伝えるダンパ装置9がスプライン接続されている。車軸8には、後輪5のホイールハブ11が車軸8にスプライン接続されている。即ち、車軸8には、ダンパ装置9、偏心器10及びホイールハブ11が外嵌部材として外嵌されている。偏心器10が車軸8の中央部に配置され、偏心器10の軸線X方向の両側にそれぞれダンパ装置9及びホイールハブ11が配置されている。
【0024】
車軸8は、外筒部材21と、外筒部材21に挿入された筒形状の内軸部材22とを備える二重管構造をなしている。内軸部材22は、外筒部材21に対して相対回転可能に挿入されている。外筒部材21の中央部には、径方向外方に突出した突出部21a,21bが形成されている。突出部21aの軸線X方向外側の側面には、軸受12が当接して位置決めされている。突出部21bの外周面には、軸受13が外嵌されている。偏心器10は、これら軸受12,13を介して外筒部材21を支持している。
【0025】
偏心器10は、その内周面から径方向内方に突出する突出部10a,10bを有する。突出部10aの軸線X方向外側の側面に軸受12の外輪が当接し、軸受12の軸線X方向内側ヘの移動が阻止される。同様に、突出部10bの軸線X方向外側に軸受13の外輪が当接し、軸受13の軸線X方向内側ヘの移動が阻止される。
【0026】
ホイールハブ11は、外筒部材21に軸線X方向外側からスプライン接続されている。ホイールハブ11の軸線X方向の内側の先端は、軸受12の内輪に当接し、軸受12を突出部10aに向けて押圧する。なお、軸受12の外輪の軸線X方向外側の側面には、偏心器10に係合されたサークリップ14が当接する。ホイールハブ11には、ホイール5bが固定具15により固定されている。即ち、外筒部材21は、後輪5と一体に回転する。ホイールハブ11には、ブレーキディスク16が固定されている。
【0027】
外筒部材21の左側部分には、動力伝達ループ7(
図1参照)の回転動力を衝撃吸収しながら外筒部材21に伝達するダンパ装置9が装着されている。ダンパ装置9は、動力伝達ループ7からの回転動力が伝達される第1カップリング部材31と、第1カップリング部材31を外筒部材21に相対回転可能に支持させる軸受33と、第1カップリング部材31に弾性結合されて且つ外筒部材21と共回転するよう外筒部材21に結合された第2カップリング部材32と、第1カップリング部材31から第2カップリング部材32に伝達される衝撃を吸収するために第1カップリング部材31と第2カップリング部材32との間に介設された緩衝部材34とを備える。緩衝部材34は、弾性部材であり、例えばゴムからなる。
【0028】
外筒部材21の突出部21bの軸線X方向外側の側面には、円筒状のスリーブ30が当接し、スリーブ30の軸線X方向外側の側面には、軸受33が当接して位置決めされている。外筒部材21には、軸受33を介して第1カップリング部材31が外嵌されている。第1カップリング部材31は、軸受33に外嵌される環状壁部31aと、環状壁部31aの外周面から径方向外方に突出して動力伝達ループ7が係合する従動部31b(例えば、スプロケット)と、環状壁部31aの外側面に周方向に間隔をあけて形成された複数の凹部31cとを備える。
【0029】
第2カップリング部材32は、外筒部材21に軸線X方向外側からスプライン接続される環状壁部32aと、環状壁部32aから第1カップリング部材31に向けて突出して複数の凹部31cにそれぞれ嵌合される複数の凸部32bとを備える。凹部31cには、ゴム等からなる緩衝部材34が収容され、第1カップリング部材31の凹部31cと第2カップリング部材32の凸部32bとが緩衝部材34を動力伝達方向(周方向)に挟んでいる。
【0030】
軸受33の外輪には第1カップリング部材31に係合されたサークリップ35が軸線X方向内側から当接している。即ち、軸受33の内輪が、スリーブ30を介して外筒部材21の突出部21bにより車幅方向内側から位置決めされ、軸受33の外輪が、サークリップ35を介して第1カップリング部材31により車幅方向内側から位置決めされる。第2カップリング部材32の環状壁部32aの内周側の部分は、軸受33に軸線X方向外側から当接し、軸受33を外筒部材21の突出部20bに向けて押している。
【0031】
車軸8では、内軸部材22が外筒部材21よりも軸線X方向に長い。内軸部材22は、外筒部材21に内嵌された円筒状の軸部22aと、軸部22aの一端部(
図3の右端部)の外周面に形成された雄ネジ部22bと、軸部22aの他端部(
図3の左端部)から径方向外方にフランジ状に突出した保持部22cと、保持部22cから軸線X方向外方に突出した突出部22dとを一体に有する。突出部22dの断面外形は、工具を外嵌係止するために非円形(例えば、六角形状等の多角形状)となっている。内軸部材22の内周面は、軸線X方向の全体にわたって円筒状の滑面としてもよい。内軸部材22は、外筒部材21よりも薄肉であるが、同一肉厚又は厚肉にしてもよい。内軸部材22の雄ネジ部22bには、ホイールハブ11が車軸8から脱落するのを防ぐために、雌ネジ部25aを有する締結部材25(例えば、ナット)が締結され、締結部材25と保持部22cとの間でダンパ装置9及びホイールハブ5bが軸線X方向に締め付けられる。
【0032】
外筒部材21の軸線X方向の長さは、車軸8に外嵌される外嵌部材の軸線X方向の一端から他端までの距離、具体的には、ホイールハブ11の軸線X方向外端(
図3では右端)からダンパ装置9の軸線X方向外端(
図3では左端)までの距離よりも短い。即ち、外筒部材21の軸線X方向の一端縁は、ホイールハブ11の軸線X方向外側の端縁よりも軸線X方向内側に位置しており、外筒部材21の軸線X方向の他端縁は、ダンパ装置9の軸線X方向外側の端縁よりも軸線X方向内側に位置している。
【0033】
外筒部材21の軸線X方向一方側(
図3の右側)において、ホイールハブ11と内軸部材22との間にカラー23が介装されており、外筒部材21の軸線X方向他方側(
図3の左側)において、ダンパ装置9(第2カップリング部材32)と内軸部材22との間にカラー24が介装されている。なお、一対のカラー23,24は、互いに同一部品とすることが可能である。
【0034】
図4(A)は、
図3の車軸8の一端部の拡大図であり、
図4(B)は、
図3の車軸8の他端部の拡大図である。
図4(A)(B)に示すように、カラー23は、外筒部材21の軸線X方向の外側においてホイールハブ11の内周面と内軸部材22の外周面との間に介設される筒部23aと、筒部23aの軸線X方向外端部から径方向外方に突出するフランジ部23bとを有する。カラー24も、同様に、外筒部材21の軸線X方向の外側においてダンパ装置9(第2カップリング部材32)の内周面と内軸部材22の外周面との間に介設される筒部24aと、筒部24aの軸線X方向外端部から径方向外方に突出するフランジ部24bとを有する。
【0035】
内軸部材22の軸部22aの外周面は、外筒部材21の内周面よりも少しだけ小径であり、組立時において外筒部材21に対する内軸部材22の挿入作業が容易になっている。そのため、このままでは内軸部材22の軸心が外筒部材21の軸心に対してずれうるが、外筒部材21と軸心が一致したカラー23,24の筒部23a,24aに内軸部材22の軸部22aが密嵌されるため、内軸部材22を外筒部材21に密嵌させなくても、内軸部材22の軸心が外筒部材21の軸心に一致する。
【0036】
締結部材25は、その内周面に雌ネジ部25aが形成されている。一例として、締結部材25は、ナット部25aと、ナット部25bの内周端部から軸線X方向外方に突出した筒部25cとを有する。筒部25cと内軸部材22とは緩み止めピン(図示せず)により径方向に貫通されてもよい。締結部材25が内軸部材22の雄ネジ部22bに締結されると、保持部22cが締結部材23とは反対側から内軸部材22の軸力を保持し、締結部材25及び保持部22cがカラー23,24のフランジ部23b,24bを軸線X方向外側から押圧する。即ち、カラー23,24は、締結部材25及び保持部22cに対するワッシャの役目を兼ねる。
【0037】
締結部材25及び保持部22cがカラー23,24のフランジ部23b,24bを押圧した状態において、カラー23,24の筒部23a,24aは、公差のために外筒部材21に対して軸線X方向に隙間Sをあけている。そして、締結部材25及び保持部22cの外径D1は、カラー23,24の筒部23a,24aの外径D2よりも大きい。これにより、締結部材25からの軸線X方向の押圧力がフランジ部23bを介してホイールハブ11により受け止められると共に、保持部22cからの軸線X方向の反力がフランジ部24bを介してダンパ装置9(第2カップリング部材32)により受け止められる。そのため、カラー23,24の筒部23a,24aと外筒部材21との間に軸線X方向に公差用の隙間Sを設けても、筒部23a,24aが隙間Sを埋める向きに移動するようにカラー23,24が変形することが防止される。
【0038】
以上に説明した構成によれば、車軸8に外嵌される外嵌部材(偏心器10、ホイールハブ11及びダンパ装置9)が内軸部材22の保持部22cと締結部材25との間で挟まれて締め付けられる際、保持部22cと締結部材25との間の締付け距離L(
図3参照)は、外筒部材21よりも軸線X方向に長くなる。よって、保持部22cと締結部材25との間の締付力による内軸部材22の軸線X方向の弾性伸縮の余地が十分に確保され、締結部材25の締結時の内軸部材22に発生した軸力が十分な弾性伸縮によって維持され易く、締結部材25の緩み防止を図ることができる。このように、車軸8を、動力伝達機能を有する外筒部材21と締結機能を有する内軸部材22とに分離することで、片持ち式のスイングアーム3が支持する車軸8に締結される締結部材25の緩みを低コストで防止できる。
【0039】
また、内軸部材22は筒形状であるので、内軸部材22が中実である場合に比べ、内軸部材22が軸線X方向に弾性伸縮し易く、締結部材25の締結時の内軸部材22の軸力が発生し易く、好適に締結部材25の緩みを防止できる。また、内軸部材22の肉厚は外筒部材21の肉厚よりも薄いので、外筒部材21の回転に対する強度を十分に保ちつつ、締結部材25の締結時の内軸部材22の軸力が発生し易くなり、車軸8の強度と締結部材25の緩み防止とを好適に両立できる。
【0040】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、その構成を変更、追加、又は削除することができる。例えば、前記実施形態では、ホイールハブ11が外筒部材21と別体であるが一体であってもよい。内軸部材22は、筒形状でなく中実のロッド状でもよい。外筒部材21及び内軸部材22は、互いの材質を異ならせてもよい。例えば、内軸部材22は外筒部材21よりも軸線X方向のヤング率が高い材料としてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 自動二輪車(鞍乗型車両)
2 車体フレーム
3 スイングアーム
5 後輪
8 車軸
9 ダンパ装置(外嵌部材)
10 偏心器(外嵌部材)
11 ホイールハブ(外嵌部材)
21 外筒部材
22 内軸部材
22a 軸部
22b 雄ネジ部
22c 保持部
23,24 カラー
23a,24a 筒部
23b,24b フランジ部
25 締結部材
25a 雌ネジ部