【実施例1】
【0021】
<分析>
まず、特許文献1の容量検出装置200の感度限界に影響を与えている原因について分析する。
図9に容量検出装置200の第1容量センサ121aと第2容量センサ121bの静電容量に差がない(同じ)場合のタイミングチャートを示す。静電容量が同じなので、第1積分信号、第2積分信号は1周期ごとに0(ゼロ)になるが、周期の途中では0以外の値となっている。つまり、第1積分部230aと第2積分部230bが有するオペアンプ134が0以外の出力になるので、オペアンプ134内のトランジスタのPN接合に電流が流れ、第1積分信号と第2積分信号にショットノイズが含まれることになる。差動増幅部240は、第1積分信号と第2積分信号との差に対応した積分信号を生成するので、積分信号内の信号成分は0になるが、ノイズ成分であるショットノイズが残ってしまう。このように、第1容量センサ121aと第2容量センサ121bの静電容量が同じときの積分信号の信号成分は0だが、第1積分部230aと第2積分部230bで生じたショットノイズが残るため、SN比が非常に悪くなり、感度限界に影響を与えていたと考えられる。
【0022】
<構成>
図1に本発明の容量検出装置の機能構成例を、
図2に本発明の容量検出装置の第1微分部、第2微分部、差動増幅部、積分部の具体的な構成例を示す。
図3は静電容量に差がある場合の各部での信号の様子を示すタイミングチャート、
図4は静電容量に差がない場合の各部での信号の様子を示すタイミングチャートである。なお、ここでは第1容量センサ121aと第2容量センサ121bの静電容量が逆に変化する例を示すが、必ずしも逆に変化する必要は無い。物理量の変化によって第1容量センサ121aと第2容量センサ121bの静電容量の差が変化すればよい。容量検出装置500は、物理量の変化によって静電容量の差が変化する第1容量センサと第2容量センサの静電容量の差を検出する。容量検出装置500は、発振部110、第1微分部120a、第2微分部120b、差動増幅部540、積分部530、サンプルホールド部150、制御部280、フィルタ部190を備える。なお、発振部110、第1微分部120a、第2微分部120b、サンプルホールド部150、制御部280、フィルタ部190は、特許文献1の容量検出装置200と同じでよいが、本発明の構成の一部なので再度説明する。発振部110は、発振信号を生成する。例えば、矩形波を生成すればよいが、発振信号を矩形波に限定する必要は無い。
【0023】
第1微分部120aは、第1容量センサ121aを用いて発振信号を微分した第1微分信号を生成する。例えば、第1容量センサ121aと固定抵抗122aを用いて微分回路を形成すればよい。
図2の第1微分部120aの場合、発振信号が矩形波であり電圧がVボルト変化した場合ならば、Q
a点での電圧は、
【0024】
【数3】
【0025】
のようになる。ただし、Vは発振信号の電圧、C
aは第1容量センサ121aの静電容量、Rは固定抵抗122aの抵抗、tは発振信号の電圧が変化してからの時間である。
【0026】
第2微分部120bは、第2容量センサ121bを用いて発振信号を微分した第2微分信号を生成する。例えば、第2容量センサ121bと固定抵抗122bを用いて微分回路を形成すればよい。
図2の第2微分部120bの場合、発振信号が矩形波であり電圧がVボルト変化した場合ならば、Q
b点での電圧は、
【0027】
【数4】
【0028】
のようになる。ただし、Vは発振信号の電圧、C
bは第2容量センサ121bの静電容量、Rは固定抵抗122bの抵抗、tは発振信号の電圧が変化してからの時間である。固定抵抗122aと122bの抵抗を同じにしているので、静電容量が大きいほど幅の広い信号が出力される。例えば、電圧がVe
−1まで減衰する時間は、t=RC
aまたはt=RC
bである。
図3の例では、第1容量センサの静電容量C
aの方が第2容量センサの静電容量C
bよりも大きい場合を示している。したがって、第1微分信号の方が第2微分信号よりも幅が広い。
【0029】
差動増幅部540は、第1微分信号の絶対値と第2微分信号の絶対値との差に対応した差動増幅信号を生成する。差動増幅部540は、例えば、ダイオード541、542、641、642、抵抗543、544、643、644、オペアンプ545を用いて
図2のように構成すればよい。
図2の差動増幅部540の場合、ダイオード541、542、641、642は整流回路の役目を果たしている。具体的には、第1微分信号と第2微分信号が正のときは、S
a点が第2微分信号の電圧、S
b点が第1微分信号の電圧となり、オペアンプ545からの出力は、(第1微分信号−第2微分信号)に対応した信号となる。一方、第1微分信号と第2微分信号が負のときは、S
a点が第1微分信号の電圧、S
b点が第2微分信号の電圧となり、オペアンプ545からの出力は、(−第1微分信号+第2微分信号)に対応した電圧となる。つまり、差動増幅部540は、(|第1微分信号|−|第2微分信号|)に対応した差動増幅信号を生成する。
【0030】
積分部530は、差動増幅信号を積分した積分信号を生成する。また、積分部530は、積分信号を積分制御信号にしたがってリセットする。積分部530は、例えば、抵抗133、オペアンプ134、コンデンサ135、アナログスイッチ136を用いて
図2のように構成すればよい。積分部530が電圧を積分するときは、アナログスイッチ136はOFFの状態であり、コンデンサ135に電荷をためることによって、オペアンプ134の出力側に差動増幅信号の積分値が出力される。
図2の回路の場合にはオペアンプ134の出力電圧はオペアンプ545の出力電圧と正負が反対になるので、
図3のように正の差動増幅信号が入力されるときは負の積分信号が出力される。
【0031】
サンプルホールド部150は、積分信号の値をサンプルホールド制御信号に従って保持する。なお、保持のタイミングは、積分を開始したときから1周期の整数倍のタイミングとすればよい。フィルタ部190は、スイッチングノイズなどを除去する。なお、
図1ではフィルタ部190も具備しているが、フィルタ部190は必要に応じて具備すればよい。
【0032】
制御部280は、サンプルホールド制御信号と積分制御信号を生成する。サンプルホールド制御信号は、発振信号の複数周期ごとに積分信号の値を保持するようにサンプルホールド部150を制御する信号である。積分制御信号は、積分信号の値を保持した後に積分信号をリセットするように積分部530を制御する信号である。
図3,4の例では発振信号の4周期分を積分しており、サンプルホールド制御信号によって4周期分を積分したところで、サンプルホールド部150が積分信号の値を保持している。そして、積分制御信号が積分部530のアナログスイッチ136をON状態にし、コンデンサ135の電荷を放電することで、積分信号がリセットされる。なお、この例では4周期分ごとに積分信号の値を保持するサンプルホールド制御信号を生成したが、他の複数周期でもよい。複数周期分を積分することにより積分信号の値が大きくなるので、積分信号に対するアナログスイッチ136で生じるチャージインジェクションの変動の割合を小さくできる。したがって、容量検出装置500は、特許文献1の容量検出装置200と同じようにアナログスイッチ136で生じるチャージインジェクションの変動によるノイズを低減できる。
【0033】
さらに、容量検出装置500は、第1微分信号の絶対値と第2微分信号の絶対値との差に対応した差動増幅信号を積分するので、静電容量に差がほとんどないときの差動増幅信号と積分信号を常にほとんど0にできる。つまり、静電容量に差がほとんどないときは、差動増幅部540と積分部530が有するオペアンプ545、134の出力を常にほとんど0にできるので、オペアンプ内に使用されているトランジスタのPN接合に流れる電流をほとんど0にできる。よって、PN接合に流れる電流の1/2乗に比例して生じるショットノイズを低減できる。よって、容量検出装置500は特許文献1の容量検出装置よりも精度を向上でき、特に、静電容量の差がほとんどないときの検出精度(感度限界)を向上できる。
【0034】
[変形例]
実施例1では、物理量の変化によって静電容量の差が変化する場合を説明した。しかし、
図2の第1微分部120a、第2微分部120bの抵抗の差を変化させても、同じように物理量の変化を検出できる。そこで、本変形例では、物理量の変化によって抵抗の差が変化する第1抵抗センサと第2抵抗センサの抵抗の差を検出する抵抗検出装置について説明する。なお、本変形例では第1抵抗センサと第2抵抗センサの抵抗は逆に変化する例を示す。本変形例の抵抗検出装置の機能構成を
図1に、抵抗に差がある場合のタイミングチャートを
図3に、抵抗に差がない場合のタイミングチャートを
図4に示す。また、第1微分部、第2微分部、積分部の具体的な構成例を
図5に示す。抵抗検出装置600も、発振部110、第1微分部120a、第2微分部120b、差動増幅部540、積分部530、サンプルホールド部150、制御部280、フィルタ部190を備える。実施例1の容量検出装置500との違いは、第1微分部320aと第2微分部320bだけであり、その他の構成は容量検出装置500と同じである。
【0035】
第1微分部320aが、第1抵抗センサ322aを用いて発振信号を微分した第1微分信号を生成する。例えば、第1抵抗センサ322aと静電容量が固定されたコンデンサ321aを用いて微分回路を形成すればよい。
図5の第1微分部320aの場合、発振信号が矩形波であり電圧がVボルト変化した場合ならば、Q
a点での電圧は、
【0036】
【数5】
【0037】
のようになる。ただし、Vは発振信号の電圧、Cはコンデンサ321aの静電容量、R
aは第1抵抗センサ322aの抵抗、tは発振信号の電圧が変化してからの時間である。
【0038】
第2微分部320bが、第2抵抗センサ322bを用いて発振信号を微分した第2微分信号を生成する。例えば、第2抵抗センサ322bと静電容量が固定されたコンデンサ321bを用いて微分回路を形成すればよい。
図5の第2微分部320bの場合、発振信号が矩形波であり電圧がVボルト変化した場合ならば、Q
b点での電圧は、
【0039】
【数6】
【0040】
のようになる。ただし、Vは発振信号の電圧、Cはコンデンサ321bの静電容量、R
bは第2抵抗センサ322bの抵抗、tは発振信号の電圧が変化してからの時間である。コンデンサ321aと321bの静電容量を同じにしているので、抵抗が大きいほど幅の広い信号が出力される。例えば、電圧がVe
−1まで減衰する時間は、t=R
aCまたはt=R
bCである。
図3の例では、第1抵抗センサの抵抗R
aの方が第2抵抗センサの抵抗R
bよりも大きい場合に相当する。したがって、第1微分信号の方が第2微分信号よりも幅が広い。
【0041】
このように本変形例の抵抗検出装置と実施例1の容量検出装置の相違点は、発振信号を微分する微分回路の時定数を変化させるのが、抵抗か静電容量かという点だけである。したがって、実施例1と同じように抵抗検出装置600も特許文献1の抵抗検出装置よりも精度を向上でき、特に、抵抗の差がほとんどないときの検出精度(感度限界)を向上できる。