特許第6871868号(P6871868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6871868免疫調節剤を含有する抗腫瘍剤及び抗腫瘍効果増強剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871868
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】免疫調節剤を含有する抗腫瘍剤及び抗腫瘍効果増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7072 20060101AFI20210510BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20210510BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20210510BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210510BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 45/06 20060101ALN20210510BHJP
   A61K 31/4412 20060101ALN20210510BHJP
   A61K 31/53 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
   A61K31/7072
   A61K31/513ZMD
   A61P35/00
   A61K39/395 UZNA
   A61P43/00 111
   A61P37/04
   A61P43/00 121
   !A61K45/06
   !A61K31/4412
   !A61K31/53
【請求項の数】12
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2017-560432(P2017-560432)
(86)(22)【出願日】2017年1月6日
(86)【国際出願番号】JP2017000266
(87)【国際公開番号】WO2017119484
(87)【国際公開日】20170713
【審査請求日】2019年4月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-2463(P2016-2463)
(32)【優先日】2016年1月8日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-119117(P2016-119117)
(32)【優先日】2016年6月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207827
【氏名又は名称】大鵬薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 則彦
【審査官】 六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−533619(JP,A)
【文献】 特表2012−511329(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/080327(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/065541(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/009856(WO,A1)
【文献】 PLOS one,2013年,Vol.8, Issue 4,e61895, p.1-8
【文献】 Cancer Research,2014年,Volume 74, Issue 19 Supplement,Abstract 2987
【文献】 Lung Cancer Management,2014年,Vol.3, No.2,p.175-190
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33−33/44
A61K 39/00−39/44
A61K 45/00−45/08
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA機能障害剤と免疫調節剤を併用投与する抗腫瘍剤であって、DNA機能障害剤が、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤であり、免疫調節剤が、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、抗PD−L2抗体又はこれらの組み合わせであることを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項2】
抗PD−1抗体がニボルマブ又はペムブロリズマブであり、抗PD−L1抗体がアテゾリズマブ、デュルバルマブ又はアベルマブである請求項記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
トリフルリジンの投与日における1日投与量が、単独で投与する場合における推奨用量の50〜115%である請求項1又は2記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
トリフルリジンの投与日における1日投与量が35〜80mg/m2/dayである請求項1又は2記載の抗腫瘍剤。
【請求項5】
対象となる癌が、消化器癌、肺癌又は乳癌である請求項1〜のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
【請求項6】
対象となる癌が、大腸癌である請求項1〜のいずれか1項記載の抗腫瘍剤。
【請求項7】
免疫調節剤の抗腫瘍効果を増強するための、DNA機能障害剤からなる抗腫瘍効果増強剤であって、DNA機能障害剤が、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤であり、免疫調節剤が、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、抗PD−L2抗体又はこれらの組み合わせであることを特徴とする抗腫瘍効果増強剤。
【請求項8】
DNA機能障害剤の抗腫瘍効果を増強するための、免疫調節剤からなる抗腫瘍効果増強剤であって、DNA機能障害剤が、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤であり、免疫調節剤が、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、抗PD−L2抗体又はこれらの組み合わせであることを特徴とする抗腫瘍効果増強剤。
【請求項9】
免疫調節剤を投与された癌患者を治療するための、DNA機能障害剤からなる抗腫瘍剤であって、DNA機能障害剤が、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤であり、免疫調節剤が、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、抗PD−L2抗体又はこれらの組み合わせであることを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項10】
DNA機能障害剤を投与された癌患者を治療するための、免疫調節剤からなる抗腫瘍剤であって、DNA機能障害剤が、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤であり、免疫調節剤が、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、抗PD−L2抗体又はこれらの組み合わせであることを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項11】
免疫調節剤と併用することを特徴とする、DNA機能障害剤からなる抗腫瘍剤であって、DNA機能障害剤が、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤であり、免疫調節剤が、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、抗PD−L2抗体又はこれらの組み合わせであることを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項12】
DNA機能障害剤と併用することを特徴とする、免疫調節剤からなる抗腫瘍剤であって、DNA機能障害剤が、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤であり、免疫調節剤が、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、抗PD−L2抗体又はこれらの組み合わせであることを特徴とする抗腫瘍剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA機能障害剤と免疫調節剤を含有する抗腫瘍剤、抗腫瘍効果増強剤及びキット製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞のDNA複製機構に着目した新たな癌治療薬として、トリフルリジン(別名:α,α,α−トリフルオロチミジン。以下、「FTD」とも称す)と、チピラシル塩酸塩(化学名:5−クロロ−6−[(2−イミノピロリジン−1−イル)メチル]ピリミジン−2,4(1H,3H)−ジオン塩酸塩。以下、「TPI」とも称す)を含有する薬剤が知られている。FTDは、チミジレート生成阻害作用によるDNA合成阻害とDNAへの取り込みによるDNA機能障害により抗腫瘍効果を発揮する。他方、TPIは、チミジンホスホリラーゼ阻害作用を有し、チミジンホスホリラーゼによるFTDの生体内での分解を抑制することにより、FTDの抗腫瘍効果を増強させる(特許文献1)。現在、FTDとTPIをモル比1:0.5で含有する抗腫瘍剤(以下、「FTD・TPI配合剤」とも称す)は、固形癌の治療剤として開発中であり、日本及び米国では進行・再発の結腸直腸癌の治療剤として承認されている(非特許文献1及び2)。
【0003】
また、近年、DNA複製機構に着目した癌治療の新たな作用機序としてデオキシウリジントリホスファターゼ(以下、「dUTPase」とも称す)が注目されている(特許文献2)。dUTPaseは、デオキシウリジントリホスフェート(dUTP)のみを特異的に認識し、デオキシウリジンモノホスフェート(dUMP)とピロリン酸に分解する酵素のひとつであり、5−フルオロウラシル(以下、「5−FU」とも称す)などのフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬から代謝されるフルオロデオキシウリジントリホスフェート(FdUTP)も特異的に認識して分解する。フッ化ピリミジン系代謝拮抗薬とdUTPase阻害薬を同時に細胞に作用させると、細胞内のdUTP量及びFdUTP量が増加し、それに伴いFdUTPのDNAへの取り込みが飛躍的に増え、DNAに機能障害が生じることが知られている(特許文献3)。
なお、従来、臨床で広く用いられている5−FU及びその誘導体は、体内でリン酸化されてフルオロデオキシウリジンモノホスフェート(FdUMP)になり、チミジル酸合成を抑制し、DNA合成を阻害する。また、5−FU及びその誘導体は、細胞内でフルオロウリジントリホスフェート(FUTP)に代謝され、RNAへ取り込まれてRNA機能障害を引き起こす。体内で生じたFdUMPは、FdUTPとしてDNAに取り込まれることが知られているが、その量は極めて少なく、DNA機能障害を引き起こさない(非特許文献3)。つまり、5−FU及びその誘導体は、DNA合成阻害やRNA機能障害を介して抗腫瘍効果を発揮する薬剤であり、それ自体はDNA機能障害を介して抗腫瘍効果を発揮する薬剤ではなく、上記のFTD・TPI配合剤や、dUTPase阻害薬とフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬を含有する薬剤とは異なるものである。
【0004】
一方、現在、新しい癌治療法の一つとして、癌免疫療法の開発が進められている。
適応的免疫反応の活性化は、抗原ペプチド−MHC complexとT細胞受容体(TCR)の結合により始まる。この結合はさらに共刺激分子であるB7 familyとそのレセプターであるCD28 family間の結合によるcostimulation或いはcoinhibitionによって規定される。すなわち、T細胞が抗原特異的に活性化するためには、2つの特徴的なシグナル伝達イベントを必要とし、B7 familyからの共刺激を受けずに抗原刺激のみを受けたT細胞は不応答状態(anergy)となり、免疫寛容が誘導される。
癌細胞はこのしくみを利用し、抗原特異的なT細胞の活性化を抑制することで、免疫監視機構から逃避し、増殖し続ける。そのため、Costimulationの強化やCoinhibitionのブロックにより癌患者の生体内における抗腫瘍免疫応答を誘導させ、腫瘍の免疫逃避を制御することは癌治療に有効であると考えられ、Costimulatory分子(刺激性の共刺激分子)或いはCoinhibitory分子(抑制性の共刺激分子)を標的とした癌免疫療法が種々提案されている(非特許文献4)。例えば、PD−1とそのリガンド(PD−L1及びPD−L2)の結合を阻害することによりT細胞を活性化する免疫調節剤としてニボルマブ(ヒトPD−1に対するヒト型IgG4モノクローナル抗体)が悪性黒色腫等の治療に用いられている(特許文献4、非特許文献5)。
【0005】
さらに、癌免疫療法は、他の癌治療法との併用療法も検討され、例えば、PD−1系結合アンタゴニストと5−FUを含む併用療法が報告されている(特許文献5)。
しかしながら、上記のとおり、5−FUなどのフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬は、DNA機能障害を介して抗腫瘍効果を発揮する薬剤ではない。よって、これまでに、DNA機能障害剤と抗PD−1抗体等のような免疫調節剤との併用療法は行なわれていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第96/30346号
【特許文献2】国際公開第2009/147843号
【特許文献3】国際公開第2011/065541号
【特許文献4】国際公開第2004/004771号
【特許文献5】国際公開第2013/181452号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Invest New Drugs.2008;26(5):445−54.
【非特許文献2】Lancet Oncol.2012;13(10):993−1001.
【非特許文献3】Mol Pharmacol.2004;66(3):620−6.
【非特許文献4】Nat Rev Cancer.2012;12(4):252−64.
【非特許文献5】N Engl J Med.2012;366(26):2443−54.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、顕著に優れた抗腫瘍効果を示し、副作用の少ない新規な癌治療方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者は、DNA機能障害剤であるFTDを含有する薬剤、又はdUTPase阻害薬及びフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬を含有する薬剤と、免疫調節剤である抗PD−1抗体又は抗PD−L1抗体とを併用して抗腫瘍効果を検討したところ、単独で薬剤を使用するよりも、重篤な副作用を発症させることなく、さらに抗腫瘍効果が顕著に増強することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明〔1〕〜〔81〕を提供するものである。
〔1〕DNA機能障害剤と免疫調節剤を併用投与することを特徴とする抗腫瘍剤。
〔2〕DNA機能障害剤が、トリフルリジンを含有する薬剤、又はデオキシウリジントリホスファターゼ阻害薬及びフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬を含有する薬剤である〔1〕記載の抗腫瘍剤。
〔3〕DNA機能障害剤が、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤である〔1〕又は〔2〕記載の抗腫瘍剤。
〔4〕DNA機能障害剤が、(R)−N−(1−(3−(シクロペンチルオキシ)フェニル)エチル)−3−((2,4−ジオキソ−3,4−ジヒドロピリミジン−1(2H)−イル)メトキシ)プロパン−1−スルホンアミド又はその薬学的に許容される塩、及びフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬を含有する薬剤である〔1〕又は〔2〕記載の抗腫瘍剤。
〔5〕フッ化ピリミジン系代謝拮抗薬が、テガフール、ギメラシル及びオテラシルカリウムをモル比1:0.4:1で含有する配合剤、又はカペシタビンである〔4〕記載の抗腫瘍剤。
〔6〕免疫調節剤が、PD−1経路アンタゴニスト、ICOS経路アゴニスト、CTLA−4経路アンタゴニスト、CD28経路アゴニスト又はこれらの組み合わせである〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
〔7〕PD−1経路アンタゴニストが、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、抗PD−L2抗体又はこれらの組み合わせである〔6〕記載の抗腫瘍剤。
〔8〕抗PD−1抗体がニボルマブ又はペムブロリズマブであり、抗PD−L1抗体がアテゾリズマブ、デュルバルマブ又はアベルマブである〔7〕記載の抗腫瘍剤。
〔9〕CTLA−4経路アンタゴニストが、抗CTLA−4抗体である〔6〕記載の抗腫瘍剤。
〔10〕抗CTLA−4抗体がイピリムマブ又はトレメリムマブである〔9〕記載の抗腫瘍剤。
〔11〕トリフルリジンの投与日における1日投与量が、単独で投与する場合における推奨用量の50〜115%である〔1〕〜〔3〕及び〔6〕〜〔10〕のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
〔12〕トリフルリジンの投与日における1日投与量が35〜80mg/m2/dayである〔1〕〜〔3〕及び〔6〕〜〔10〕のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
〔13〕対象となる癌が、消化器癌、肺癌又は乳癌である〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
〔14〕対象となる癌が、大腸癌である〔1〕〜〔13〕のいずれか記載の抗腫瘍剤。
〔15〕免疫調節剤の抗腫瘍効果を増強するための、DNA機能障害剤からなる抗腫瘍効果増強剤。
〔16〕DNA機能障害剤の抗腫瘍効果を増強するための、免疫調節剤からなる抗腫瘍効果増強剤。
〔17〕免疫調節剤を投与された癌患者を治療するための、DNA機能障害剤からなる抗腫瘍剤。
〔18〕DNA機能障害剤を投与された癌患者を治療するための、免疫調節剤からなる抗腫瘍剤。
〔19〕免疫調節剤と併用することを特徴とする、DNA機能障害剤からなる抗腫瘍剤。
〔20〕DNA機能障害剤と併用することを特徴とする、免疫調節剤からなる抗腫瘍剤。
〔21〕DNA機能障害剤を含む抗腫瘍剤と使用説明書を含むキット製剤であって、当該使用説明書には、癌患者に対して、DNA機能障害剤と免疫調節剤が併用投与されることが記載されていることを特徴とするキット製剤。
〔22〕抗腫瘍剤を製造するための、DNA機能障害剤と免疫調節剤の使用。
〔23〕DNA機能障害剤が、トリフルリジンを含有する薬剤、又はデオキシウリジントリホスファターゼ阻害薬及びフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬を含有する薬剤である〔22〕記載の使用。
〔24〕DNA機能障害剤が、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤である〔22〕又は〔23〕記載の使用。
〔25〕DNA機能障害剤が、(R)−N−(1−(3−(シクロペンチルオキシ)フェニル)エチル)−3−((2,4−ジオキソ−3,4−ジヒドロピリミジン−1(2H)−イル)メトキシ)プロパン−1−スルホンアミド又はその薬学的に許容される塩、及びフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬を含有する薬剤である〔22〕又は〔23〕記載の使用。
〔26〕フッ化ピリミジン系代謝拮抗薬が、テガフール、ギメラシル及びオテラシルカリウムをモル比1:0.4:1で含有する配合剤、又はカペシタビンである〔25〕記載の使用。
〔27〕免疫調節剤が、PD−1経路アンタゴニスト、ICOS経路アゴニスト、CTLA−4経路アンタゴニスト、CD28経路アゴニスト又はこれらの組み合わせである〔22〕〜〔26〕のいずれかに記載の使用。
〔28〕PD−1経路アンタゴニストが、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、抗PD−L2抗体又はこれらの組み合わせである〔27〕記載の使用。
〔29〕抗PD−1抗体がニボルマブ又はペムブロリズマブであり、抗PD−L1抗体がアテゾリズマブ、デュルバルマブ又はアベルマブである〔28〕記載の使用。
〔30〕CTLA−4経路アンタゴニストが、抗CTLA−4抗体である〔27〕記載の使用。
〔31〕抗CTLA−4抗体がイピリムマブ又はトレメリムマブである〔30〕記載の使用。
〔32〕トリフルリジンの投与日における1日投与量が、単独で投与する場合における推奨用量の50〜115%である〔22〕〜〔24〕及び〔27〕〜〔31〕のいずれかに記載の使用。
〔33〕トリフルリジンの投与日における1日投与量が35〜80mg/m2/dayである〔22〕〜〔24〕及び〔27〕〜〔31〕のいずれかに記載の使用。
〔34〕対象となる癌が、消化器癌、肺癌又は乳癌である〔22〕〜〔33〕のいずれかに記載の使用。
〔35〕対象となる癌が、大腸癌である請求項〔22〕〜〔34〕のいずれかに記載の使用。
〔36〕免疫調節剤の抗腫瘍効果を増強する抗腫瘍効果増強剤を製造するための、DNA機能障害剤の使用。
〔37〕DNA機能障害剤の抗腫瘍効果を増強する抗腫瘍効果増強剤を製造するための、免疫調節剤の使用。
〔38〕免疫調節剤を投与された癌患者を治療する抗腫瘍剤を製造するための、DNA機能障害剤の使用。
〔39〕DNA機能障害剤を投与された癌患者を治療する抗腫瘍剤を製造するための、免疫調節剤の使用。
〔40〕免疫調節剤と併用する抗腫瘍剤を製造するための、DNA機能障害剤の使用。
〔41〕DNA機能障害剤と併用する抗腫瘍剤を製造するための、免疫調節剤の使用。
〔42〕腫瘍の治療に使用するための、DNA機能障害剤と免疫調節剤の組み合わせ。
〔43〕DNA機能障害剤が、トリフルリジンを含有する薬剤、又はデオキシウリジントリホスファターゼ阻害薬及びフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬を含有する薬剤である〔42〕記載の組み合わせ。
〔44〕DNA機能障害剤が、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤である〔42〕又は〔43〕記載の組み合わせ。
〔45〕DNA機能障害剤が、(R)−N−(1−(3−(シクロペンチルオキシ)フェニル)エチル)−3−((2,4−ジオキソ−3,4−ジヒドロピリミジン−1(2H)−イル)メトキシ)プロパン−1−スルホンアミド又はその薬学的に許容される塩、及びフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬を含有する薬剤である〔42〕又は〔43〕記載の組み合わせ。
〔46〕フッ化ピリミジン系代謝拮抗薬が、テガフール、ギメラシル及びオテラシルカリウムをモル比1:0.4:1で含有する配合剤、又はカペシタビンである〔45〕記載の組み合わせ。
〔47〕免疫調節剤が、PD−1経路アンタゴニスト、ICOS経路アゴニスト、CTLA−4経路アンタゴニスト、CD28経路アゴニスト又はこれらの組み合わせである〔42〕〜〔46〕のいずれかに記載の組み合わせ。
〔48〕PD−1経路アンタゴニストが、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、抗PD−L2抗体又はこれらの組み合わせである〔47〕記載の組み合わせ。
〔49〕抗PD−1抗体がニボルマブ又はペムブロリズマブであり、抗PD−L1抗体がアテゾリズマブ、デュルバルマブ又はアベルマブである〔48〕記載の組み合わせ。
〔50〕CTLA−4経路アンタゴニストが、抗CTLA−4抗体である〔47〕記載の組み合わせ。
〔51〕抗CTLA−4抗体がイピリムマブ又はトレメリムマブである〔50〕記載の組み合わせ。
〔52〕トリフルリジンの投与日における1日投与量が、単独で投与する場合における推奨用量の50〜115%である〔42〕〜〔44〕及び〔47〕〜〔51〕のいずれかに記載の組み合わせ。
〔53〕トリフルリジンの投与日における1日投与量が35〜80mg/m2/dayである〔42〕〜〔44〕及び〔47〕〜〔51〕のいずれかに記載の組み合わせ。
〔54〕対象となる癌が、消化器癌、肺癌又は乳癌である〔42〕〜〔53〕のいずれかに記載の組み合わせ。
〔55〕対象となる癌が、大腸癌である〔42〕〜〔54〕のいずれかに記載の組み合わせ。
〔56〕免疫調節剤の抗腫瘍効果の増強に使用するための、DNA機能障害剤。
〔57〕DNA機能障害剤の抗腫瘍効果の増強に使用するための、免疫調節剤。
〔58〕免疫調節剤を投与された癌患者の治療に使用するための、DNA機能障害剤。
〔59〕DNA機能障害剤を投与された癌患者の治療に使用するための、免疫調節剤。
〔60〕免疫調節剤と併用して腫瘍の治療に使用するための、DNA機能障害剤。
〔61〕DNA機能障害剤と併用して腫瘍の治療に使用するための、免疫調節剤。
〔62〕腫瘍の治療方法であって、それを必要とする対象に、DNA機能障害剤と免疫調節剤の有効量を投与することを含む、方法。
〔63〕DNA機能障害剤が、トリフルリジンを含有する薬剤、又はデオキシウリジントリホスファターゼ阻害薬及びフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬を含有する薬剤である〔62〕記載の方法。
〔64〕DNA機能障害剤が、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤である〔62〕又は〔63〕記載の方法。
〔65〕DNA機能障害剤が、(R)−N−(1−(3−(シクロペンチルオキシ)フェニル)エチル)−3−((2,4−ジオキソ−3,4−ジヒドロピリミジン−1(2H)−イル)メトキシ)プロパン−1−スルホンアミド又はその薬学的に許容される塩、及びフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬を含有する薬剤であ〔62〕又は〔63〕記載の方法。
〔66〕フッ化ピリミジン系代謝拮抗薬が、テガフール、ギメラシル及びオテラシルカリウムをモル比1:0.4:1で含有する配合剤、又はカペシタビンである〔65〕記載の方法。
〔67〕免疫調節剤が、PD−1経路アンタゴニスト、ICOS経路アゴニスト、CTLA−4経路アンタゴニスト、CD28経路アゴニスト又はこれらの組み合わせである〔62〕〜〔66〕のいずれかに記載の方法。
〔68〕PD−1経路アンタゴニストが、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、抗PD−L2抗体又はこれらの組み合わせである〔67〕記載の方法。
〔69〕抗PD−1抗体がニボルマブ又はペムブロリズマブであり、抗PD−L1抗体がアテゾリズマブ、デュルバルマブ又はアベルマブである〔68〕記載の方法。
〔70〕CTLA−4経路アンタゴニストが、抗CTLA−4抗体である〔67〕記載の方法。
〔71〕抗CTLA−4抗体がイピリムマブ又はトレメリムマブである〔70〕記載の方法。
〔72〕トリフルリジンの投与日における1日投与量が、単独で投与する場合における推奨用量の50〜115%である〔62〕〜〔64〕及び〔67〕〜〔71〕のいずれかに記載の方法。
〔73〕トリフルリジンの投与日における1日投与量が35〜80mg/m2/dayである〔62〕〜〔64〕及び〔67〕〜〔71〕のいずれかに記載の方法。
〔74〕対象となる癌が、消化器癌、肺癌又は乳癌である〔62〕〜〔73〕のいずれかに記載の方法。
〔75〕対象となる癌が、大腸癌である〔62〕〜〔74〕のいずれかに記載の方法。
〔76〕免疫調節剤の抗腫瘍効果の増強方法であって、それを必要とする対象に、DNA機能障害剤の有効量を投与することを含む、方法。
〔77〕DNA機能障害剤の抗腫瘍効果の増強方法であって、それを必要とする対象に、免疫調節剤の有効量を投与することを含む、方法。
〔78〕免疫調節剤を投与された癌患者の治療方法であって、それを必要とする対象に、DNA機能障害剤の有効量を投与することを含む、方法。
〔79〕DNA機能障害剤を投与された癌患者の治療方法であって、それを必要とする対象に、免疫調節剤の有効量を投与することを含む、方法。
〔80〕免疫調節剤と併用して腫瘍を治療する方法であって、それを必要とする対象に、DNA機能障害剤の有効量を投与することを含む、方法。
〔81〕DNA機能障害剤と併用して腫瘍を治療する方法であって、それを必要とする対象に、免疫調節剤の有効量を投与することを含む、方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗腫瘍剤によれば、副作用の発症を抑えつつ、高い抗腫瘍効果(特に、腫瘍縮小効果、腫瘍増殖遅延効果(延命効果))を奏する癌治療を行うことが可能である。ひいては、癌患者の長期間の生存をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】マウス大腸がん(CMT−93)に対するAnti−mouse PD−1抗体単独投与群の抗腫瘍効果
図2】マウス大腸がん(CMT−93)に対するAnti−mouse PD−1抗体単独投与群の体重変化
図3】マウス大腸がん(CMT−93)に対するFTD・TPI配合剤とAnti−mouse PD−1抗体の併用効果
図4】マウス大腸がん(CMT−93)に対するFTD・TPI配合剤とAnti−mouse PD−1抗体を併用した併用投与群の体重変化
図5】マウス大腸がん(CMT−93)に対するFTD・TPI配合剤とAnti−mouse PD−1抗体の併用効果;Control
図6】マウス大腸がん(CMT−93)に対するFTD・TPI配合剤とAnti−mouse PD−1抗体の併用効果;Anti−mousePD−1 antibody 0.1 mg/body/day
図7】マウス大腸がん(CMT−93)に対するFTD・TPI配合剤とAnti−mouse PD−1抗体の併用効果;FTD・TPI 75 mg/kg/day
図8】マウス大腸がん(CMT−93)に対するFTD・TPI配合剤とAnti−mouse PD−1抗体の併用効果;FTD・TPI 100 mg/kg/day
図9】マウス大腸がん(CMT−93)に対するFTD・TPI配合剤とAnti−mouse PD−1抗体の併用効果;FTD・TPI 150 mg/kg/day
図10】マウス大腸がん(CMT−93)に対するFTD・TPI配合剤とAnti−mouse PD−1抗体の併用効果;Anti−mousePD−1 antibody 0.1 mg/body/day+FTD・TPI 75 mg/kg/day
図11】マウス大腸がん(CMT−93)に対するFTD・TPI配合剤とAnti−mouse PD−1抗体の併用効果;Anti−mousePD−1 antibody 0.1 mg/body/day+FTD・TPI 100 mg/kg/day
図12】マウス大腸がん(CMT−93)に対するFTD・TPI配合剤とAnti−mouse PD−1抗体の併用効果;Anti−mousePD−1 antibody 0.1 mg/body/day+FTD・TPI 150 mg/kg/day
図13】マウス大腸がん(CMT−93)に対するFTD・TPI配合剤とAnti−mouse PD−1抗体を併用した併用投与群の体重変化
図14】マウス大腸がん(CMT−93)に対するFTD・TPI配合剤とAnti−mouse PD−L1抗体の併用効果
図15】マウス大腸がん(CMT−93)に対するFTD・TPI配合剤とAnti−mouse PD−L1抗体を併用した併用投与群の体重変化
図16】マウス大腸がん(CMT−93)に対するS−1+化合物1とAnti−mouse PD−1抗体の併用効果
図17】マウス大腸がん(CMT−93)に対するS−1+化合物1とAnti−mouse PD−1抗体を併用した併用投与群の体重変化
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、DNA機能障害剤(特にFTD・TPI配合剤)と、免疫調節剤(特に抗PD−1抗体)を併用投与することを特徴とする抗腫瘍剤、抗腫瘍効果増強剤、キット製剤及びこれらの剤の使用、腫瘍治療方法、並びに、抗腫瘍効果増強方法に関する。
【0014】
本発明におけるDNA機能障害剤とは、腫瘍細胞のDNAへの誤った核酸塩基の取り込みを増加させることにより、DNAの機能障害を引き起こし、抗腫瘍効果を発揮する薬剤を指す。
具体的なDNA機能障害剤としては、FTDを含有する薬剤、及びdUTPase阻害薬とフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬を含有する薬剤が挙げられる。
本発明におけるFTDを含有する薬剤としては、FTD及びTPIを含有する配合剤が挙げられ、FTD及びTPIをモル比1:0.5で含有する配合剤が好ましい。FTD及びTPIはそれぞれ公知の化合物であり、例えば、国際公開第96/30346号パンフレットに記載の方法に従って合成することができる。また、FTD及びTPIをモル比1:0.5で含有する配合剤も公知である(非特許文献1及び2)。また、FTD・TPI配合剤は、日本及び米国において進行・再発の結腸直腸癌の治療剤として承認されており、その用法用量はFTDとして70mg/m2/dayを、1日2回、5日間連続経口投与したのち2日間休薬する。これを2回繰り返したのち14日間休薬する。これを1コースとして投与を繰り返す、と定義されている。
【0015】
本発明の「dUTPase阻害薬及びフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬を含有する薬剤」における「dUTPase阻害薬」としては、dUTPaseの阻害活性を有する化合物であれば特に制限されない。好ましくは下記式(1)で表される(R)−N−(1−(3−(シクロペンチルオキシ)フェニル)エチル)−3−((2,4−ジオキソ−3,4−ジヒドロピリミジン−1(2H)−イル)メトキシ)プロパン−1−スルホンアミド(以下、「化合物1」とも称す)又はその薬学的に許容される塩が挙げられる。化合物1には、光学異性体も含まれ、水和物も含まれる。
【0016】
【化1】
【0017】
化合物1は、優れたdUTPase阻害活性を有する公知化合物であり、例えば、国際公開第2009/147843号パンフレットに記載の方法に従って合成することができる。また、化合物1は、5−FUなどのフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬の抗腫瘍効果を増強することが知られている(国際公開第2011/065541号パンフレット)。
【0018】
本発明の「dUTPase阻害薬及びフッ化ピリミジン系代謝拮抗薬を含有する薬剤」における「フッ化ピリミジン系代謝拮抗薬」としては、フッ化ピリミジン構造を有し、細胞内で5−FUとして抗腫瘍効果を発揮するものであれば特に制限はなく、5−FU、その誘導体及びそのプロドラッグが含まれる。具体的には、5−FU、テガフール、テガフール、ギメラシル及びオテラシルカリウムをモル比1:0.4:1で含有する配合剤(以下、「テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤」、「S−1」とも称す。)、テガフール及びウラシルをモル比1:4で含有する配合剤(以下、「テガフール・ウラシル配合剤」、「UFT」とも称す。)、カペシタビン、ドキシフルリジン、5−フルオロ−2’−デオキシウリジン(FdUrd)、カルモフールなどが挙げられ、5−FU、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、テガフール・ウラシル配合剤及びカペシタビンが好ましく、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤及びカペシタビンがより好ましく、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤が特に好ましい。
【0019】
本発明における免疫調節剤は、癌患者の生体内における抗腫瘍免疫応答を誘導させ、腫瘍の免疫逃避を制御する作用を有するものである。
このようなものとしては、Costimulatory分子(刺激性の共刺激分子)の機能を促進する物質、或いはCoinhibitory分子(抑制性の共刺激分子)の機能を抑制する物質が挙げられる。現在、B7 familyとCD28 familyは数多く同定され、本発明では特に限定されることなくこれらをターゲットにした物質を用いることができる。例えば、PD−1経路アンタゴニスト、ICOS経路アゴニスト、CTLA−4経路アンタゴニスト、CD28経路アゴニスト、BTLA経路アンタゴニスト等が挙げられる。
本発明において、好ましくはPD−1経路アンタゴニスト、ICOS経路アゴニスト、CTLA−4経路アンタゴニスト、CD28経路アゴニスト又はこれらの組み合わせであり、より好ましくはPD−1経路アンタゴニスト又はCTLA−4経路アンタゴニストであり、副作用抑制の観点から、さらにより好ましくはPD−1経路アンタゴニストである。
【0020】
PD−1経路アンタゴニストは、T細胞上に発現するPD−1や、そのリガンドであるPD−L1又はPD−L2による免疫抑制シグナルを阻害するものであり、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、抗PD−L2抗体、PD−1細胞外ドメイン、PD−L1細胞外ドメイン、PD−L2細胞外ドメイン、PD−1−Ig(PD−1細胞外ドメインとIgのFC領域との融合タンパク質)、PD−L1−Ig、PD−L2−Igが好ましく、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、抗PD−L2抗体がより好ましく、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体がより好ましい。なかでも、好ましくは抗PD−1抗体である。
また、CTLA−4経路アンタゴニストは、T細胞上に発現するCTLA−4や、そのリガンドであるB7−1(CD80)やB7−2(CD86)による免疫抑制シグナルを阻害するものであり、抗CTLA−4抗体、CTLA−4細胞外ドメイン、CTLA−4−Ig、抗B7−1/CD80抗体、抗B7−2/CD86抗体が好ましく、抗CTLA−4抗体、CTLA−4−Igがより好ましい。なかでも、好ましくは抗CTLA−4抗体である。
【0021】
これらの抗体は、ヒト由来抗体、マウス由来抗体、ラット由来抗体、ウサギ由来抗体、ヤギ由来抗体、ラマ由来抗体、ニワトリ由来抗体のいずれの抗体でもよく、さらにそれらのポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、完全型若しくは短縮型(例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab又はFv断片)抗体、キメラ化抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト型抗体のいずれのものでもよい。
好ましくは、ヒト化抗体又は完全ヒト型抗体であり、モノクローナル抗体である。
【0022】
本発明における抗PD−1抗体としては、具体的には、ニボルマブ又はペムブロリズマブが挙げられ、ニボルマブが好ましい。
本発明における抗PD−L1抗体としては、具体的には、アテゾリズマブ、デュルバルマブ又はアベルマブが挙げられ、アテゾリズマブが好ましい。
本発明における抗CTLA−4抗体としては、具体的には、イピリムマブ又はトレメリムマブが挙げられ、イピリムマブが好ましい。
本発明におけるCTLA−4−Igとしては、具体的には、アバタセプトが挙げられる。
これらの抗体は、通常公知の抗体作製方法により製造でき、たとえば、前記特許文献2の方法によって製造することができる。
また、抗PD−1抗体は、ニボルマブ又はペムブロリズマブとして、抗PD−L1抗体は、アテゾリズマブ、デュルバルマブ又はアベルマブとして、抗CTLA−4抗体は、イピリムマブ又はトレメリムマブとして、CTLA−4−Igは、アバタセプトとして既に販売され、また販売予定であり、これを用いることもできる。
【0023】
本発明において、DNA機能障害剤の投与日における1日あたりの投与量としては、FTD・TPI配合剤(FTDとTPIとのモル比が1:0.5)の場合、FTD・TPI配合剤による免疫調節剤の抗腫瘍効果の増強作用の観点から、FTD・TPI配合剤を単独で投与する場合における推奨用量の50〜115%が好ましく、50〜100%がより好ましく、67〜100%がより好ましく、100%が特に好ましい。具体的には、ヒトにおけるFTD・TPI配合剤を単独で投与する場合の推奨用量は、上述のとおり日本において承認を受けた投与量であるFTDとして70mg/m2/dayであることから、本発明におけるFTD・TPI配合剤の投与日における1日あたりの投与量は、FTDとして35〜80mg/m2/dayが好ましく、35〜70mg/m2/dayがより好ましく、50〜70mg/m2/dayがより好ましく、70mg/m2/dayが特に好ましい。
【0024】
また、DNA機能障害剤が化合物1又はその薬学的に許容される塩、及びテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤を含有する薬剤である場合、化合物1の投与日における1日あたりの投与量は、12〜1200mg/m2/dayが好ましく、120〜600mg/m2/dayがより好ましく、240〜480mg/m2/dayが特に好ましい。また、化合物1の投与日における1日あたりの投与量を患者個体あたりで規定する場合、20〜2000mg/body/dayが好ましく、200〜1000mg/body/dayがより好ましく、400〜800mg/body/dayが特に好ましい。
また、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤の投与日における1日あたりの投与量は、テガフール量として10〜200mg/m2/dayが好ましく、20〜80mg/m2/dayがより好ましく、40〜72mg/m2/dayが特に好ましい。
また、DNA機能障害剤が化合物1又はその薬学的に許容される塩、及びカペシタビンを含有する薬剤である場合、化合物1の投与日における1日あたりの投与量は、12〜3000mg/m2/dayが好ましく、240〜1200mg/m2/dayがより好ましく、480〜720mg/m2/dayが特に好ましい。また、化合物1の投与日における1日あたりの投与量を患者個体あたりで規定する場合、20〜5000mg/body/dayが好ましく、400〜2000mg/body/dayがより好ましく、800〜1200mg/body/dayが特に好ましい。
また、カペシタビンの投与日における1日あたりの投与量は、200〜3000mg/m2/dayが好ましく、480〜1400mg/m2/dayがより好ましく、600〜900mg/m2/dayが特に好ましい。
【0025】
なお、ここで患者に対する投与量は、患者の身長及び体重から算出された体表面積(BSA)により決定することができる。体表面積の計算方法としては、患者の人種、性別、健康状態、症状等により適宜慣用の方法が用いられるが、例えば、下記1〜6のような計算式が挙げられ、好ましくは下記1または2(a)である。
1.The Mosteller formula(N Engl J Med 1987 Oct 22;317(17):1098(letter)参照)
BSA(m2)=([身長(cm)×体重(kg)]/3600)1/2
2.The DuBois and DuBois formula(Arch Int Med 1916 17:863−71;J Clin Anesth.1992;4(1):4−10参照)
(a)BSA(m2)=0.20247×身長(m)0.725×体重(kg)0.425
(b)BSA(m2)=0.007184×身長(cm)0.725×体重(kg)0.425
3.The Haycock formula(The Journal of Pediatrics 1978 93:1:62−66参照)
BSA(m2)=0.024265×身長(cm)0.3964×体重(kg)0.5378
4.The Gehan and George formula(Cancer Chemother Rep 1970 54:225−35参照)
BSA(m2)=0.0235×身長(cm)0.42246×体重(kg)0.51456
5.The Boyd formula(Minneapolis:university of Minnesota Press,1935参照)
BSA(m2)=0.0003207×身長(cm)0.3×体重(grams)(0.7285-(0.0188 x LOG(grams))
6.The Fujimoto formula(Nihon Eiseigaku Zasshi、1968 23(5):443−450参照)
BSA(m2)=0.008883×身長(cm)0.663×体重(kg)0.444
例えば、身長175cm、体重70kgの癌患者の体表面積を上記1の計算式を用いて計算した場合、体表面積は([175(cm)×70(kg)]/3600)1/2=1.84(m2)と算出される。当該患者において投与量を60mg/m2/dayとする場合は、1.84×60=111mgとなり、1日合計投与量は約110mgと設定される。
【0026】
本発明において、免疫調節剤の投与日における1日あたりの投与量としては、DNA機能障害剤による免疫調節剤の抗腫瘍効果の増強作用の観点から、免疫調節剤を単独で投与する場合における推奨用量の50〜100%が好ましく、100%がより好ましい。
具体的には、ニボルマブを単独で投与する場合の推奨用量は、日本において承認を受けた投与量である1回2mg/kg(体重)であることから、本発明におけるニボルマブの投与日における1日あたりの投与量は、1回1〜2mg/kg(体重)が好ましく、より好ましくは1回2mg/kg(体重)である。
アテゾリズマブを単独で投与する場合の推奨用量は、米国において承認を受けた投与量である1回1200mgであることから、本発明におけるアテゾリズマブの投与日における1日あたりの投与量は、1回600〜1200mgが好ましく、より好ましくは1回1200mgである。
なお、本発明において「推奨用量」とは、臨床試験などにより決定された、重篤な副作用を発症せずに安全に使用できる範囲で、最大の治療効果をもたらす投与量であり、具体的には、日本独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA;Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)、米国食品医薬品局(FDA;Food and Drug Administration)、欧州医薬品庁(EMA;European Medicines Agency)等の公的機関や団体により承認・推奨・勧告され、添付文書・インタビューフォーム・治療ガイドライン等に記載された投与量があげられ、PMDA、FDA又はEMAのいずれかの公的機関により承認された投与量が好ましい。
【0027】
本発明の抗腫瘍剤の投与スケジュールは、癌種や病期等に応じて適宜選択しうる。
FTD・TPI配合剤の場合は、5日間連日投与と2日間休薬を2回繰り返した後、2週間休薬する投与スケジュール、又は5日間連日投与と9日間休薬を2回繰り返す投与スケジュールが好ましい。
化合物1又はその薬学的に許容される塩、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤及びカペシタビンの場合は、1〜4週間投与と1〜2週間休薬を繰り返す投与スケジュールが好ましく、2〜3週間投与と1週間休薬を繰り返す投与スケジュールがより好ましく、2週間投与と1週間休薬を繰り返す投与スケジュールが特に好ましい。
ニボルマブ又はアテゾリズマブの場合は、3週間間隔で投与する投与スケジュールが好ましい。
【0028】
本発明の抗腫瘍剤の1日の投与回数は、癌種や病期等に応じて適宜選択しうる。
FTD・TPI配合剤の場合は1日2回、化合物1又はその薬学的に許容される塩、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤及びカペシタビンの場合は1日2回、ニボルマブ又はアテゾリズマブの場合は1日1回が好ましい。
本発明のDNA機能障害剤及び免疫調節剤の投与順序は、癌種や病期等に応じて適宜選択しうるが、どちらを先に投与しても、同時に投与しても構わない。
【0029】
本発明の抗腫瘍剤の対象となる癌としては、具体的には、頭頚部癌、消化器癌(食道癌、胃癌、十二指腸癌、肝臓癌、胆道癌(胆嚢・胆管癌など)、膵臓癌、小腸癌、大腸癌(結腸直腸癌、結腸癌、直腸癌など)など)、肺癌(非小細胞肺癌、小細胞肺癌)、乳癌、卵巣癌、子宮癌(子宮頚癌、子宮体癌など)、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、皮膚癌等が挙げられる。なお、ここで癌には、原発巣のみならず、他の臓器(肝臓など)に転移した癌をも含む。このうち、抗腫瘍効果と副作用の観点から、頭頸部癌、消化器癌、肺癌、乳癌、腎癌、皮膚癌が好ましく、消化器癌、肺癌又は乳癌がより好ましく、大腸癌、胃癌又は肺癌がより好ましく、大腸癌が特に好ましい。また、本発明の抗腫瘍剤は、腫瘍を外科的に摘出した後に再発防止のために行われる術後補助化学療法に用いるものであっても、腫瘍を外科的に摘出するために事前行われる術前補助化学療法であってもよい。
【0030】
各有効成分で投与方法や投与スケジュールが異なり、DNA機能障害剤と免疫調節剤の全ての有効成分を一つの剤形にまとめて製剤化することはできない場合、本発明の抗腫瘍剤は各有効成分を複数の剤形に分けて製剤化することが好ましい。即ち、FTD・TPI配合剤、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤の場合は配合剤として、化合物1又はその薬学的に許容される塩、カペシタビン、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体又は抗CTLA−4抗体は単剤として製剤化することが好ましい。
【0031】
また、本発明の投与量によって各有効成分が投与される限り、各製剤を併用投与に適した1個のパッケージにまとめて製造販売してもよく、また各製剤を別個のパッケージに分けて製造販売してもよい。
【0032】
本発明の抗腫瘍剤の投与形態としては特に制限は無く、治療目的に応じて適宜選択でき、具体的には経口剤(錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤など)、注射剤、坐剤、貼付剤、軟膏剤等が例示できる。FTD・TPI配合剤、化合物1又はその薬学的に許容される塩、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、カペシタビンの場合は経口剤が好ましい。抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体又は抗CTLA−4抗体の場合は、上記の投与形態が挙げられ、注射剤が好ましい。
【0033】
本発明における抗腫瘍剤は、DNA機能障害剤についても免疫調節剤についてもその投与形態に応じて、薬学的に許容される担体を用いて、通常公知の方法により調製することができる。斯かる担体としては、通常の薬剤に汎用される各種のもの、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を例示できる。
【0034】
本発明はまた、癌患者に対する免疫調節剤の抗腫瘍効果を増強するためのDNA機能障害剤を含む抗腫瘍効果増強剤に関する。当該抗腫瘍効果増強剤は、上記抗腫瘍剤の製剤形態を有する。
本発明はまた、癌患者に対するDNA機能障害剤の抗腫瘍効果を増強するための免疫調節剤を含む抗腫瘍効果増強剤に関する。当該抗腫瘍効果増強剤は、上記抗腫瘍剤の製剤形態を有する。
【0035】
本発明はまた、免疫調節剤を投与された癌患者を治療するためのDNA機能障害剤を含む抗腫瘍剤に関する。当該抗腫瘍剤は、上記の製剤形態を有する。
本発明はまた、DNA機能障害剤を投与された癌患者を治療するための免疫調節剤を含む抗腫瘍剤に関する。当該抗腫瘍剤は、上記の製剤形態を有する。
「治療」には、腫瘍を外科的に摘出した後に再発防止のために行われる術後補助化学療法、腫瘍を外科的に摘出するために事前行われる術前補助化学療法が包含される。
本発明はまた、癌患者に対する免疫調節剤と併用することを特徴とする、DNA機能障害剤を含む抗腫瘍剤に関する。当該抗腫瘍剤は、上記の製剤形態を有する。
本発明はまた、癌患者に対するDNA機能障害剤と併用することを特徴とする、免疫調節剤を含む抗腫瘍剤に関する。当該抗腫瘍剤は、上記の製剤形態を有する。
【0036】
本発明はまた、DNA機能障害剤を含む抗腫瘍剤と、癌患者に対してDNA機能障害剤と免疫調節剤が併用投与されることを記載した使用説明書を含むキット製剤に関する。ここで「使用説明書」とは、上記投与量が記載されたものであればよく、法的拘束力の有無を問わないが、上記投与量が推奨されているものが好ましい。具体的には、添付文書、パンフレット等が例示される。また、使用説明書を含むキット製剤とは、キット製剤のパッケージに使用説明書が印刷・添付されているものであっても、キット製剤のパッケージに抗腫瘍剤とともに使用説明書が同封されているものであってもよい。
【実施例】
【0037】
次に実施例及び参考例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0038】
参考例1
ヒト大腸癌株(KM20C)の培養細胞(1×107cells/マウス)を5〜6週齢のBALB/cA Jcl−nuマウスの腹腔内に移植した。各群の平均体重が均等になるようにマウスを割り付け、群分け(n=10)を実施した日をDay0とした。
FTD・TPI配合剤(FTDとTPIとのモル比1:0.5の混合物、以下同じ)は、FTDとして、75、100、150、300及び450mg/kg/dayとなるよう調製した。薬剤の投与はDay3から開始し、FTD・TPI配合剤は5日間連日経口投与・2日間休薬を6週間行った。
抗腫瘍効果の指標として、各群のマウスの生存数を確認し、各群の生存期間、延命率を比較した。延命率(ILS;Increased Life Span)は以下のように計算した。
【0039】
【数1】
【0040】
結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に記載のように、FTD・TPI配合剤は、FTD量で75〜450mg/kg/dayの全ての群で生存期間の延長効果が認められ、そのうち150mg/kg/dayの群で最も生存期間が長かったことから、マウスにおけるFTD・TPI配合剤の推奨投与量(RD;ecommended Dose)は、FTDとして150mg/kg/dayである。つまり、FTD・TPI配合剤は、少なくともRDの50%〜300%の投与量において生存期間の延長効果を発揮することが示された。
一方、ヒトにおけるFTD・TPI配合剤の単独で投与する場合のRDは、FTDとして70mg/m2/dayであることが知られている。よって、FTD・TPI配合剤のFTDとしての投与量は、マウスにおける150mg/kg/dayと、ヒトにおける70mg/m2/dayが相当する。
【0043】
参考例2
マウス大腸がん株(CMT−93)を生後5〜6週齢のC57BL/6マウスの右側胸部に移植した。腫瘍移植後に腫瘍の長径(mm)及び短径(mm)を測定し、腫瘍体積(TV;tumor volume)を算出後、各群の平均TVが均等になるように各群にマウスを割り付け、群分け(n=6)を実施した日をDay0とした。
Anti−mouse PD−1抗体(clone RMP1−14、BioXCell社、以下同じ)は、マウスにおいて抗腫瘍効果が報告されている用量である0.1mg/body/dayとなるように調製した(Clin Cancer Res. 2013 Oct 15;19(20):5626−35.)。Anti−mousePD−1抗体はDay1、Day5及びDay9に腹腔内投与した。
抗腫瘍効果の指標として、各群でDay0、4、8、11、15、18、22、25、28におけるTVを算出し、下記式によりDay0に対する相対腫瘍体積(RTV;relative tumor volume)を求め、無処置群(control)のRTVと比較した。
【0044】
【数2】
【0045】
上記RTVを各測定日についてプロットし、無処置群及びAnti−mousePD−1抗体単独投与群のRTVの経日的推移を比較した結果を図1に示す。
【0046】
また、Day28におけるRTV値に基づく腫瘍増殖抑制割合(TGI;Tumor growth inhibition rate)は、下記式により算出した。
【0047】
【数3】
【0048】
単剤での効果の評価判定は、単独投与群の平均RTV値が無処置群(control)群の平均RTV値より統計学的に有意(Closed testing procedure;Intersection−Union Test p<0.01)に小さい場合に増強効果ありとして判定した。
結果を表2に示した。
【0049】
【表2】
【0050】
一方、薬剤投与による全身毒性を表す指標として、体重変化率(BWC;Body Weight Change)を使用した。BWCは、以下の式に従って算出し、平均BWC値を図2及び表3に示した。
【0051】
【数4】
【0052】
【表3】
【0053】
図1図2、表2及び表3のとおり、Anti−mousePD−1抗体が0.1mg/body/dayのときに、統計上有意な抗腫瘍効果を示した。また、Anti−mousePD−1抗体単独投与群において、−20%超える重篤な体重減少は見られず、許容できる副作用であった。
【0054】
実施例1 FTD・TPI配合剤とAnti−mousePD−1抗体の併用
マウス大腸がん株(CMT−93)を生後5〜6週齢のC57BL/6マウスの右側胸部に移植した。腫瘍移植後に腫瘍の長径(mm)及び短径(mm)を測定し、腫瘍体積(TV)を算出後、各群の平均TVが均等になるように各群にマウスを割り付け、群分け(n=6)を実施した日をDay0とした。
FTD・TPI配合剤は、FTDの投与量として150mg/kg/dayとなるように調製した。Anti−mouse PD−1抗体は0.1mg/body/dayとなるように調製した。FTD・TPI配合剤はDay1−14に連日経口投与し、Anti−mousePD−1抗体はDay1、Day5及びDay9に腹腔内投与した。
抗腫瘍効果の指標として、各群でDay0、4、7、11、15、18、22、26、28におけるTVを算出し、上記式によりDay0に対する相対腫瘍体積(RTV)を求め、無処置群(control)のRTVと比較した。
上記RTVを各測定日についてプロットし、無処置群、FTD・TPI配合剤投与群、Anti−mousePD−1抗体単独投与群及びFTD・TPI配合剤とAnti−mousePD−1抗体の併用投与群の経日的推移を比較した結果を図3に示す。
また、Day28におけるRTV値に基づく腫瘍増殖抑制割合(TGI)を算出した。
【0055】
併用投与群の平均RTV値が、個々の単独投与群の平均RTV値より統計学的に有意(Closed testing procedure;Intersection−Union Test p<0.01)に小さい場合に増強効果ありとして判定した。
結果を表4に示した。
【0056】
【表4】
【0057】
一方、薬剤投与による全身毒性を表す指標として、体重変化率(BWC)を算出し、平均BWC値を表5に、その経日変化を図4に示した。
【0058】
【表5】
【0059】
図3図4、表4及び表5のとおり、FTD・TPI配合剤とAnti−mousePD−1抗体の併用により、統計上有意な顕著に増強された抗腫瘍効果を確認した。
また、両薬剤の併用効果が相加的と仮定した場合に予測される併用時のTGIは93.4%であるのに対し、実際には98.2%とより優れた抗腫瘍効果が確認されたことから、FTD・TPI配合剤とAnti−mousePD−1抗体の併用効果は相乗的であることが示された。
また、FTD・TPI配合剤とAnti−mousePD−1抗体併用投与群において、−20%超える重篤な体重減少は見られず、許容できる副作用であった。
【0060】
実施例2 FTD・TPI配合剤とAnti−mousePD−1抗体の併用
実施例1に準じて、マウス大腸がん株(CMT−93)を移植したマウスに対して、FTD・TPI配合剤を75、100、150mg/kg/day(FTDとして)、Anti−mouse PD−1抗体を0.1mg/body/day投与し、抗腫瘍効果と体重減少を測定した。結果を図5〜13、表6及び表7に示す。
【0061】
【表6】
【0062】
【表7】
【0063】
図5〜13、表6及び表7のとおり、全てのFTD・TPI配合剤とAnti−mousePD−1抗体の併用群において統計上有意な顕著に増強された抗腫瘍効果を確認した。
また、両薬剤の併用効果が相加的と仮定した場合に予測される併用投与時のTGIは、FTDとして75、100、150mg/kg/dayの群でそれぞれ87.8%、90.1%、92.6%であるのに対し、実際には91.8%、95.7%、98.4%とより優れた抗腫瘍効果が確認されたことから、FTD・TPI配合剤とAnti−mousePD−1抗体の併用効果は相乗的であることが示された。
また、全ての併用投与群において、−20%超える重篤な体重減少は見られず、許容できる副作用であった。
また、FTD量を半量にしても、PD−1抗体の抗腫瘍効果を有意に増強できたことは、予想外の結果であった。
また、FTDが150mg/kg/dayの併用群においては、5匹中4匹で腫瘍の消失が確認できた。これは併用時の抗腫瘍効果が非常に高いことを裏付けるものである。
【0064】
実施例3 FTD・TPI配合剤とAnti−mousePD−L1抗体の併用
実施例1に準じて、マウス大腸がん株(CMT−93)を移植したマウスに対して、FTD・TPI配合剤を150mg/kg/day(FTDとして)、Anti−mouse PD−L1抗体(clone 10F.9G2、BioXCell社、以下同じ)を0.1、0.2mg/body/day投与し、抗腫瘍効果と体重減少を測定した。結果を図14〜15、表8及び表9に示す。
【0065】
【表8】
【0066】
【表9】
【0067】
図14〜15、表8及び表9のとおり、全てのFTD・TPI配合剤とAnti−mousePD−L1抗体の併用群において統計上有意な顕著に増強された抗腫瘍効果を確認した。
また、両薬剤の併用効果が相加的と仮定した場合に予測される併用投与時のTGIは、Anti−mousePD−L1抗体が0.1、0.2mg/body/dayの群でそれぞれ74.7%、79.8%であるのに対し、実際には93.0%、93.5%とより優れた抗腫瘍効果が確認されたことから、FTD・TPI配合剤とAnti−mousePD−L1抗体の併用効果は相乗的であることが示された。
また、全ての併用投与群において、−20%超える重篤な体重減少は見られず、許容できる副作用であった。
【0068】
実施例4 S−1+化合物1とAnti−mousePD−1抗体の併用
マウス大腸がん株(CMT−93)を生後5〜6週齢のC57BL/6NJclマウスの右側胸部に移植した。腫瘍移植後に腫瘍の長径(mm)及び短径(mm)を測定し、腫瘍体積(TV)を算出後、各群の平均TVが均等になるように各群にマウスを割り付け、群分け(n=8)を実施した日をDay0とした。
0.5%ヒドロキシプロピルメチルセルロース水溶液にテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(「S−1」、テガフール:ギメラシル:オテラシル=1:0.4:1(モル比)、以下同じ)および化合物1((R)−N−(1−(3−(シクロペンチルオキシ)フェニル)エチル)−3−((2,4−ジオキソ−3,4−ジヒドロピリミジン−1(2H)−イル)メトキシ)プロパン−1−スルホンアミド)を懸濁した。S−1投与量は6.9mg/kg/day(テガフール量)に設定し(Anticancer Res.32:2807−2812(2012))、化合物1は、マウスにおいて投与可能な最高用量と推測される2400mg/kg/dayとした。Anti−mouse PD−1抗体は0.1mg/body/dayとなるように調製した。
群分けの翌日より1日1回28日間、被検動物に対しS−1及びS−1と化合物1の混合投与液を連日経口投与し、Anti−mousePD−1抗体はDay1、8、15,及び22に腹腔内投与した。また、control群は0.5%ヒドロキシプロピルメチルセルロース水溶液を1日1回28日間連日経口投与した。
抗腫瘍効果の指標として、各群でTVを算出し、下記式によりDay0に対する相対腫瘍体積(RTV;relative tumor volume)を求め、薬剤投与群と無処置群(control)のRTVの平均値から、以下記式よりTreated/control(T/C、%)を算出して抗腫瘍効果を評価した。
【0069】
【数5】
【0070】
上記RTVを各測定日についてプロットし、各投与群の経日的推移を比較した結果を図16及び表10に示した。
【0071】
【表10】
【0072】
薬剤投与による全身毒性を表す指標として、体重変化率(BWC;Body Weight Change)を使用した。BWCは、以下の式に従って算出し、平均BWC値を図17及び表11に示した。
【0073】
【数6】
【0074】
【表11】
【0075】
図17、表11のとおり、すべての薬剤投与群でcontrol群と比較して統計上有意な抗腫瘍効果が認められ、−20%超える重篤な体重減少は見られず、許容できる副作用であった。
S−1+Anti−mousePD−1抗体投与群とAnti−mousePD−1抗体投与群で同じT/C(%)であったことから、明らかな増強効果は確認できなかった。
一方、S−1+化合物1+Anti−mousePD−1抗体投与群とS−1+化合物1投与群及びAnti−mousePD−1抗体投与群の比較では、3剤併用投与群はいずれの群に対しても統計上有意な併用効果が認められた。
以上から、フッ化ピリミジン系代謝拮抗薬であるS−1は単体では抗PD−1抗体の抗腫瘍効果を大きくは増強しないものの、S−1にdUTPase阻害薬である化合物1を併用することにより抗PD−1抗体の抗腫瘍効果を大きく増強することが明らかになった。つまり、本試験結果はDNA機能障害剤が抗PD−1抗体の抗腫瘍効果を増強できることを示すものである。
【0076】
なお、本発明は上述した各実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
図1
図2
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