(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コバルトサレン錯体またはその誘導体と、アミン構造を有するアニオンと炭素数2〜20のアルキル鎖を有する脂肪族4級ホスホニウムまたはアンモニウムのカチオンとからなるイオン液体とを含み、前記コバルトサレン錯体またはその誘導体のコバルトイオンに前記イオン液体のアニオンが配位されてなり、
前記イオン液体が、N−メチルグリシンのアニオンとトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムのカチオンからなるイオン液体である酸素吸収能を有する液体。
【背景技術】
【0002】
混合ガスの分離技術・プロセスは、排ガス浄化、脱臭処理、成分抽出、省エネ化などに利用できることから、産業用途のみならず民生分野においても有用である。これらの目的利用においてガスの吸収材は重要な要素であり、様々な吸収材の開発が行われている。
ガス種の中でも酸素は、我々の生活の中で最も身近なガスの1つであり、呼吸、燃焼、触媒的作用、分子合成などに代表されるあらゆる化学反応に関与するといっても過言ではない。しかしながら、酸素を自由に取り扱うことは容易でない。すなわち、酸素分子の選択的な吸収や濃縮・貯蔵には、酸素分子を可逆的に捕捉する制御・反応機構が必要であり、その効率的な機構が限られている上、酸素と共に空気中の主成分を占める窒素とは分子サイズがほぼ同じで、サイズによるふるい分けができない。そのため、酸素を選択的に捉えることのできる制御機構と優れた吸収剤(吸収性材料)が求められている。
【0003】
酸素を吸収する物質として、脱酸素剤の用途では、各種の無機系材料および有機系材料(分子材料)が提案されている。そして、様々な仕様の脱酸素剤が実用化されており、食品の鮮度維持、医薬品や化粧品の劣化防止などに利用されている。しかしながら、これらの材料は固体であり、使用時にはパッケージングや樹脂に混ぜ込んでのフィルム加工が必要である。さらに、これらの製品の酸素吸収は不可逆反応であり、繰り返しや継続的な利用用途では使用できない。
【0004】
可逆的、反復的に酸素を吸脱着可能な材料としては、金属錯体系材料がある。その機構の代表的な例は、ヘモグロビン中のヘムタンパク質による酸素運搬反応であり、これはポルフィリン−鉄イオン錯体への酸素の吸脱着によるものである。
日本特開2005−097290号公報(特許文献1)には、生体内で酸素を吸脱着可能なポルフィリン構造を有する金属錯体とアルブミンとの複合体の製造方法が提案されている。この複合体は、生体模倣モデルとしての酸素の吸脱着性能が確認されているが、煩雑な合成プロセス、機能分子構造の安定性などを考慮すると実用的とは言い難い。
【0005】
他方、酸素との高い親和性を示す物質の1つとして、コバルトサレン錯体がある。サレン化合物およびその金属錯体は、上記のポルフィリン構造を有する金属錯体と比べて実用的であり、既に分子合成の触媒として広く用いられている。
サレン(「N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン」または「N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジリデン)エチレンジアミン」)は、金属イオンの4座配位子として平面的な構造をとり、さらにその平面に対して上下方向に別の配位子が金属イオンに配位することができる。例えば、このサレンがコバルトイオンに配位し、コバルトイオンの上下方向の一方にピリジン、イミダゾールなどの塩基性分子が配位しているとき、もう一方に酸素分子が可逆的に配位することができ、酸素吸収性を示す材料(酸素吸収材)として機能する。
日本特開平9−151192号公報(特許文献2)および日本特開平9−151193号公報(特許文献3)には、複数の置換基を有するコバルトサレン錯体に、さらに別の配位子を有機溶媒に溶解してなる酸素分離用液体が提案されている。
【0006】
このように、サレン錯体は、酸素吸収材として、その構造や機能性が広く研究されているものの、その十分な応用にはつながっていない。これは、上記のサレン錯体を酸素吸収材として利用する際に、錯体を高濃度で有機溶媒に溶解させて調製しなければ、錯体の酸素吸収能力を十分に発揮させることができないためである。また、溶媒成分の揮発による抽出酸素ガスへの混入の可能性もある。これらは、サレン錯体が未だ実用的な応用に展開できていない理由と考えられる。
【0007】
近年、常温で安定な液体状態で存在する錯体として、蒸気圧がほぼゼロであるカチオンとアニオンのイオン成分のみで構成される液体物質、一般にイオン液体と呼ばれる物質の利用が研究されている。錯体が液体状あるいは別の液体に対して相溶性の高いものであることは、吸収材への利用において重要である。
Yuki Kohno 外5名、「Reversible and Selective O
2 Binding Using a New Thermorespo
nsive Cobalt(II)-Based Ionic Liquid」、Industrial & Engineering Chemistry Research、2015年、第54巻、p.12214−12216(非特許文献1)には、コバルトイオンにヒスチジンとイミダゾールとを配位させた錯体を用いたイオン液体を合成し、その液膜を酸素、窒素それぞれの雰囲気下に置いたときに、酸素の方が窒素よりも吸収性が高いという結果が得られたことが記載されている。しかしながら、この錯体を用いたイオン性液体は、液体であるものの粘度が非常に高く、含浸膜の作成には一度、有機溶媒で希釈した後、乾燥処理をする必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
酸素吸収材として吸収性能が高くかつ後工程でその性能を引き出すために利用し易い状態の錯体を合成し、それぞれの良好な特性をさらに改善していくためには、分子の機能設計の自由度が求められる。非特許文献1では、酸素吸収選択性と錯体分子の液体化が、各構成要素の集積により実現されている。具体的には、機能性(吸収性)に影響する部位と液体化に影響する部位とを同じ要素によって構成しているが、個々の特性を切り分けて改善していくという機能設計は極めて難しい。すなわち、錯体を構成する要素の分子構造やその組み合わせの検討には、多様性があるだけに影響しあう複数の特性の制御が難しく、合理的かつ戦略的な合成プロセスが求められる。
そこで、本発明は、酸素を選択的にかつ可逆的に吸収する材料として安定な液体状態のコバルト錯体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、酸素吸収性能を有する錯体構造を液体状態にできる分子構造とその合理的な合成手法を検討した結果、サレン分子およびその誘導体とコバルトの錯体構造を基本機能部位とし、このコバルトイオンにアミン構造を有するイオン液体を配位させる構造をとることで、酸素吸収性とコバルト錯体の液体化の両立を実現できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
かくして、本発明によれば、コバルトサレン錯体またはその誘導体と、アミン構造を有するアニオンと炭素数2〜20のアルキル鎖を有する脂肪族4級ホスホニウムまたはアンモニウムのカチオンとからなるイオン液体とを含み、前記コバルトサレン錯体またはその誘導体のコバルトイオンに前記イオン液体のアニオンが配位されてなる酸素吸収能を有する液体が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、上記の酸素吸収能を有する液体が、第2のイオン液体に溶解されてなる酸素吸収能を有する錯体溶液が提供される。
【0014】
さらに、本発明によれば、上記の酸素吸収能を有する液体の製造方法であり、
前記コバルトサレン錯体またはその誘導体と、アミン構造を有するアニオンと炭素数2〜20のアルキル鎖を有する脂肪族4級ホスホニウムまたはアンモニウムのカチオンとからなるイオン液体とを、酸素を含む雰囲気下で混合し、前記イオン液体中に前記コバルトサレン錯体またはその誘導体を溶解させることで、前記コバルトサレン錯体またはその誘導体と前記イオン液体との配位構造体を得る酸素吸収能を有する液体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、酸素を選択的にかつ可逆的に吸収する材料として安定な液体状態のコバルト錯体を提供することができる。すなわち、本発明によれば、コバルトサレン錯体またはその誘導体とアミン構造を有するイオン液体からなる、効率的に酸素を吸収し得る液体状の錯体を提供することができる。
【0016】
また、本発明の酸素吸収能を有する液体は、次のいずれか1つの要件:
イオン液体が、第2級アミンのアニオンを含むこと、
イオン液体が、N−メチルグリシンのアニオンを含むこと、
イオン液体が、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムのカチオンを含むこと、および
コバルトサレン錯体が、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)であること
を満たす場合に、上記の効果がさらに発揮される。
【0017】
さらに、本発明の酸素吸収能を有する錯体溶液は、次のいずれか1つの要件:
第2のイオン液体が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのアニオンを含むこと、
第2のイオン液体が、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであること、および
酸素吸収能を有する液体が、第2のイオン液体中に1〜80質量%の濃度で含まれること
を満たす場合に、上記の効果がさらに発揮される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態について詳しく説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。
本発明の酸素吸収能を有する液体(以下「酸素吸収液体」ともいう)は、コバルトサレン錯体またはその誘導体(以下、誘導体を含めて「コバルトサレン錯体」ともいう)と、アミン構造を有するアニオンと炭素数2〜20のアルキル鎖を有する脂肪族4級ホスホニウムまたはアンモニウムのカチオンとからなるイオン液体とを含み、前記コバルトサレン錯体のコバルトイオンに前記イオン液体のアニオンが配位されてなることを特徴とする。
本発明において「コバルトサレン錯体の誘導体」とは、サレン骨格に置換基が導入されたコバルトサレン錯体を意味する。
【0020】
本発明の酸素吸収液体は、コバルトサレン錯体とそれに配位するイオン液体から構成される。
そして、このコバルト錯体のコバルトイオンの軸方向には、塩基性の窒素原子を有するアニオンが配位し、このアニオンは対になるカチオンとイオン液体を構成する。もう一方の軸方向に配位する酸素分子の結合性は、アニオン上の窒素の塩基性が強いほど有利になるので、本発明で用いるアニオンは第2級アミン構造を有することが好ましい。
【0021】
(コバルトサレン錯体)
本発明において用いることのできるコバルトサレン錯体は、サレンまたは置換基を有するサレン誘導体がコバルト(II)イオンに対して4座の配位子として配位した構造を有する公知の金属錯体であり、例えば、一般式(1):
【化1】
【0022】
(式中、R
1a、R
1b、R
2およびR
3は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基もしくはハロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基(シアノ基)、ビニル基、または炭素数6〜12のアリール基もしくはヘテロアリール基であり、R
1aおよびR
1bはそれらに結合する原子または原子団を介して互いに結合して環構造を形成してもよい)
で表される。
コバルトサレンまたはその誘導体の分子には、様々な金属が配位することが可能であるが、酸素分子の吸着性においてコバルト(II)イオンが最も好ましい。
【0023】
一般式(1)における置換基R
1a、R
1b、R
2およびR
3について説明する。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシルなどの直鎖または分岐鎖のアルキル基が挙げられる。
炭素数1〜6のハロアルキル基としては、上記のアルキル基の任意の水素原子が上記のハロゲン原子に置換されたアルキル基が挙げられ、具体的には、フルオロメチル、クロロメチル、ブロモメチル、トリフルオロメチルなどが挙げられる。
炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキ
ソキシなどの直鎖または分岐鎖のアルコキシ基が挙げられる。
【0024】
炭素数1〜6のアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイルなどの脂肪族アシル基が挙げられる。
炭素数6〜12のアリール基およびヘテロアリール基としては、フェニル、トリル、キシリル、フルオロフェニル、クロロフェニル、ブロモフェニル、ナフチルなどが挙げられる。
R
1aおよびR
1bは、同一または異なって、それらに結合する原子または原子団を介して互いに結合して環構造を形成してもよく、置換基R
3の置換位は任意である。
【0025】
コバルトサレン錯体は、例えば、エタノールなどの溶媒中、相当するサリチルアルデヒドとエチレンジアミンとの脱水縮合反応によりサレンまたはサレン誘導体を合成し、得られたサレンまたはサレン誘導体を配位子として塩基性条件下でコバルトイオンと反応させることにより製造することができる。また、サレンまたはサレン誘導体の合成時にコバルトの酢酸塩を同時に加えることによりコバルトサレン錯体を得ることもできる。
【0026】
合成原料であるサリチルアルデヒドおよびエチレンジアミンにそれぞれ置換基を有する化合物を用いることにより、サレン誘導体として多様な構造が得られる。
サリチルアルデヒドの置換体としては、ジヒドロキシベンズアルデヒド、クロロサリチルアルデヒド、ブロモサリチルアルデヒド、フルオロサリチルアルデヒド、アミノサリチルアルデヒド、メチルサリチルアルデヒド、tert−ブチルサリチルアルデヒド、メトキシサリチルアルデヒド、エトキシサリチルアルデヒドなどが挙げられる。
また、エチレンジアミンの置換体としては、1,2−ジメチルエチレンジアミン、1,1,2,2−テトラメチルエチレンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,2−ジフェニルエチレンジアミンなどが挙げられる。
【0027】
これらの組み合わせにより得られるコバルトサレン誘導体としては、コバルトサレン、すなわちN,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)の他、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−ジメチルエチレンジアミノコバルト(II)、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,1,2,2−テトラメチルエチレンジアミノコバルト(II)、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルト(II)、N,N’−ビス(3−メチルサリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)、N,N’−ビス(5−メチルサリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)、N,N’−ビス(3−エトキシサリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)、N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルト(II)、N,N’−ビス(3−エトキ
シサリチリデン)−1,1,2,2−テトラメチルエチレンジアミノコバルト(II)などが挙げられる。これらの中でも、酸素吸収性の点で、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)が特に好ましい。
また、日本特開平6−340683号公報ならびにPier Giorgio Cozzi、「Metal-Salen Schiff base complexes in catalysis: practical aspects」、Chemical Society Reviews、2004年、第33巻、p.410−421およびEric C. Niederhoffer 外2名、「Thermodynamics of Oxygen Binding in Natural and Synthetic Dioxygen Complexes」、Chemical Revlews、1984年、第84巻、p.137-203に記載かそれらの引用先のコバルトサレン錯体を用いることができる。
【0028】
(イオン液体)
イオン液体は、上記のようにアニオンとして第2級アミン構造を有するものが好ましく、イオン液体のアニオンとして汎用されかつ第2級アミン構造を有する、アミノ酸のアミノ基にアルキル鎖を有するN−アルキルアミノ酸が特に好ましい。アルキル鎖は炭素数1〜8のいずれでも用いることができるが、炭素数が増える程、配位するときの立体障害の影響が大きいことから、炭素数は少ない方が好ましく、メチルおよびエチルが好ましく、メチルが特に好ましい。アミノ酸の種類の選択においても配位するときの立体的な影響を加味すると、最も分子量が小さいグリシンが好ましい。よって、アニオン性配位子としては、N−メチルグリシン(アミノ酢酸)が特に好ましい。
アニオンの対となるカチオンとしては、一般的なイオン液体を構成するホスホニウムやアンモニウムが挙げられ、炭素数2〜20のアルキル鎖を有する脂肪族4級ホスホニウムまたはアンモニウムが特に好ましい。
【0029】
イオン液体は、上記のアニオンとなる化合物とカチオンとなるホスホニウム塩やアンモニウム塩とのアニオン交換反応により得ることができる。
ホスホニウム塩やアンモニウム塩としては、テトラメチルホスホニウムブロミド、テトラエチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラヘキシルホスホニウムブロミド、トリエチルヘキシルホスホニウムブロミド、トリエチルオクチルホスホニウムブロミド、トリエチル(2−メトキシエチル)ホスホニウムブロミド、トリブチルオクチルホスホニウムブロミド、トリブチルドデシルホスホニウムブロミド、トリブチル(2−メトキシエチル)ホスホニウムブロミド、トリヘキシルドデシルホスホニウムブロミド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムブロミド、そしてこれらのブロミドに対応するクロリドなどが挙げられる。
【0030】
これらのホスホニウム塩やアンモニウム塩とコバルト錯体の軸配位に結合するアニオンとの組み合わせの全てが、必ずしも常温で液体になるとは限らない。したがって。これらの中でも、各アニオンとの組み合わせを形成したときに、融点が低く、イオン液体となり易い、トリエチルオクチルホスホニウムブロミド、トリブチルオクチルホスホニウムブロミド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムブロミドが好ましく、多くのアニオンと組み合わせでイオン液体を形成する、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムブロミドが特に好ましい。
【0031】
(酸素吸収液体の製造方法)
本発明の酸素吸収液体は、上記のコバルトサレン錯体と、アミン構造を有するアニオンと炭素数2〜20のアルキル鎖を有する脂肪族4級ホスホニウムまたはアンモニウムのカチオンとからなるイオン液体とを、酸素を含む雰囲気下で混合し、イオン液体中に前記コバルトサレン錯体を溶解させることで、コバルトサレン錯体とイオン液体との配位構造体を得ることにより製造することができる。
コバルトサレン錯体とイオン液体の有効成分との割合は、ほぼ当モルであればよいが、コバルトサレン錯体の有効成分が過剰であってもよい。
コバルトサレン錯体とイオン液体との配位構造体は、公知の方法、例えば、可視・紫外分光法、
59Co−NMR分光法、あるいは呈色の変化など総合的な分析により、確認することができる。
【0032】
(酸素吸収液体)
本発明の酸素吸収液体は、酸素と選択的に結合し、錯体当量に対して、最大で1当量の酸素と吸着することが可能である。更に、酸素との吸着と脱着の反応が繰り返し安定的に進行する条件においては、1/2当量の酸素が可逆的に吸着・脱着することが可能である。実用的には、液体への酸素拡散性を高めるために第2のイオン液体を混合し、粘性を低下させて利用するのが好ましい。
すなわち、本発明の酸素吸収液体は、第2のイオン液体に溶解されてなる酸素吸収能を有する錯体溶液として用いるのが好ましい。
【0033】
第2のイオン液体は、本発明の酸素吸収液体と類似の性質を有しかつ低粘度のものが好ましい。最適な粘度は酸素吸収材として利用形態に依存するが、利用し易い粘度範囲内において、酸素吸収量を高めるためになるべく高濃度の溶液を調製できるものが好ましい。
【0034】
第2のイオン液体は、一般的なイオン液体が適用できる。
そのカチオンとしては、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ホスホニウム、アンモニウムなどが知られているが、本発明では、相溶解性の観点から、ホスホニウムおよびアンモニウムが特に好ましい。
一方、アニオンとしては、テトラフルオロボレート、ヘキサフ
ルオロホスホネート、トリフルオロアセテート、トリフルオロメタンスルホネート、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどがよく知られているが、本発明で、最も低粘度となり易いことから、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが特に好ましい。
したがって、第2のイオン液体としては、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが特に好ましい。
【0035】
本発明の酸素吸収能を有する
液体は、酸素吸収液体が第2イオン液体中に1〜80質量%の濃度で含まれるのが好ましい。
酸素吸収液体の濃度が1質量%未満では、十分な酸素吸収能が得られないことがある。一方、酸素吸収液体の濃度が80質量%を超えると、酸素吸収能を有する錯体溶液の粘度が高くなり、取り扱いが困難になることがある。
具体的な酸素吸収液体の濃度(質量%)は、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80である。
比較的利用し易い、好ましい酸素吸収液体の濃度は20〜50質量%であり、より好ましくは30〜50質量%である。
【実施例】
【0036】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
[イオン液体の調製]
エタノール100mlにトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムブロミド(シグマアルドリッチ社製、純度>95%)5.64g(10mmol)とアニオン交換樹脂(シグマアルドリッチ社製、Amberlite(登録商標) IBN78 hydroxide form)20gを加えて撹拌することにより、ヒドロキシドに置換反応を行った。その後、その反応液を吸引ろ過により分別し、N−メチルグリシン(東京化成工業社製、純度>98%)0.98g(11mmol)を20mlの純水に溶解させた水溶液を加えて反応させて、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムカチオンとN−メチルグリシンアニオンからなるイオン液体4.88gを得た。
【0038】
[酸素吸収能を有する液体の調製]
次に、得られたイオン液体1.30g(有効成分2.3mmol)とN,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)(東京化成工業社製、純度>95%)2.35g(7.2mmol)とをエタノール50ml中に加えて、室温で3時間、撹拌混合したのち、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、コバルトサレン錯体構造を有する目的の液体1.82g得た。
ここで、可視・紫外分光法や呈色状態の観察などにより、コバルトサレン錯体のコバルトイオンにイオン液体のアニオンが配位されてなることを確認した。
得られた液体は安定に存在し、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド溶液中で、温度100℃の条件下で10時間保持した状態でも、ほぼ重量変化は見られなかった。また、200℃付近まで昇温しても重量変化は見られず、典型的なイオン液体と同様、有機分子組成の分子としては高い耐熱性を有する液体であることを確認した。
【0039】
[錯体溶液の調製]
得られた液体の酸素吸収性能を評価するために、得られた液体を、Dr.Tom Vander Hoogerstraeteら他3名、「Selective Single-Step Separation of a Mixture of three Metal Ions by a Triphasic Ionic-Liquid-Water-Ionic-Liquid Solvent Extraction System」、Chemistry-A European Journal、2015年、第21巻、p.11757-11766を参照して合成したトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに溶解させて、約30質量%の錯体溶液6.3gを得た。
【0040】
[酸素吸収性能の評価]
図1に模式的に構成を示した吸収試験装置を用いて、得られた液体の酸素吸収量を測定した。
吸収試験装置内を窒素置換し、シリンジを用いて、サンプル溶液5.25gを装置内に導入した。その後、さらに窒素置換を行い、1時間以上脱気を行うことで、系内を乾燥させた。その後、温度30℃の条件下で0〜20kPaの所定の圧力で酸素ガスを導入し、吸収による圧力変化を圧力センサーによって測定し、この結果から酸素吸収量を見積もった。
図1中の右側の矢印の先に図示しない真空ポンプを接続している。
得られた結果を
図2に示す。
図2に示すように、イオン液体が配位したコバルトサレン錯体1molに対して、ほぼ0.5molの酸素を吸着することが確認できる。
さらに、この吸着操作の後、減圧により酸素が脱着することを確認し、この反応が可逆的であることを確認した。
【0041】
(実施例2)
実施例2では、実施例1の酸素吸収能を有する液体を第2のイオン液体に溶解させた際の濃度30質量%を50質量%に代えること以外は実施例1と同様にして、錯体溶液の吸収性能を評価した。
実施例1と同様にして、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムカチオンとN−メチルグリシンアニオンからなるイオン液体と、コバルトサレン錯体構造を有する液体1.95gを得た。
得られた液体を、実施例1と同様にして合成したトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに溶解させて、約50質量%の錯体溶液1.5gを得た。
【0042】
得られた錯体溶液の酸素吸収量を、
図1の装置と実施例1の手順により測定した。
得られた結果を
図3に示す。
図3に示すように、イオン液体が配位したコバルトサレン錯体1molに対して、ほぼ0.5molの酸素の吸着することが確認できる。
【0043】
(実施例3)
実施例3では、実施例1および2のように酸素吸収能を有する液体を溶解させる第2のイオン液体を用いず、酸素吸収能を有する液体そのものの吸収性能を評価した。
但し、溶液化しない場合には、飽和吸収に到達するまでに時間を要し、脱着反応も含めた反応時間まで考慮すると、酸素分離等への応用には条件が厳しくなるので、実用的観点では好ましくない。
実施例1と同様にして、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムカチオンとN−メチルグリシンアニオンからなるイオン液体を得た。
次に、得られたイオン液体1.18gとN,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)(東京化成工業社製、純度>95%)0.33gとをエタノール50ml中に加えて、室温3時間、撹拌混合したのち、窒素バブリングによる脱酸素処理を1時間行ったのち、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、コバルトサレン錯体構造を有する目的の液体1.25g得た。
ここで、可視・紫外分光法や呈色状態の観察などにより、コバルトサレン錯体のコバルトイオンにイオン液体のアニオンが配位されてなること、また熱分析により200℃以上の高い耐熱性を有する液体であることを確認した。
【0044】
得られた錯体溶液の酸素吸収量を、
図1の装置と実施例1の手順により測定した。
得られた結果を
図4に示す。
図4に示すように、イオン液体が配位したコバルトサレン錯体1molに対して、ほぼ1molの酸素の吸着することが確認できる。
これは、第2のイオン液体を含まない場合には、コバルトサレン錯体のコバルトイオンに対してトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムカチオンとN−メチルグリシンアニオンからなるイオン液体のN−メチルグリシンアニオンが2つ配位した構造をとり、酸素の存在下では酸素分子が1つのアニオンと入れ替わりコバルトイオンに配位するために、錯体1つに対して1つの酸素が結合した構造をとることによるものと考えられる。また、実施例1および2の場合には、2つのコバルトサレン錯体に酸素分子が配位することで安定化するが、この場合には、酸素分子は1つのコバルトサレン錯体にしか配位しないものと考えられる。