(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871873
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】C6およびC5糖からの2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸および2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸ならびにそれらのエステル類の製造
(51)【国際特許分類】
C07C 51/31 20060101AFI20210510BHJP
C07C 59/42 20060101ALI20210510BHJP
C07C 67/39 20060101ALI20210510BHJP
C07C 69/732 20060101ALI20210510BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
C07C51/31
C07C59/42
C07C67/39
C07C69/732 Z
!C07B61/00 300
【請求項の数】26
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-565300(P2017-565300)
(86)(22)【出願日】2016年6月20日
(65)【公表番号】特表2018-521990(P2018-521990A)
(43)【公表日】2018年8月9日
(86)【国際出願番号】EP2016064186
(87)【国際公開番号】WO2016203045
(87)【国際公開日】20161222
【審査請求日】2019年6月18日
(31)【優先権主張番号】15172679.1
(32)【優先日】2015年6月18日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】PA201500756
(32)【優先日】2015年11月27日
(33)【優先権主張国】DK
(31)【優先権主張番号】PA201600089
(32)【優先日】2016年2月12日
(33)【優先権主張国】DK
(31)【優先権主張番号】PA201600240
(32)【優先日】2016年4月25日
(33)【優先権主張国】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】590000282
【氏名又は名称】ハルドール・トプサー・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ターニング・エスペン
(72)【発明者】
【氏名】サダバ・スビリ・イランツ
(72)【発明者】
【氏名】マイア・スィバスチャン
【審査官】
山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/024875(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0045576(US,A1)
【文献】
Svensk Papperstidning,1974年,Vol.77, No.16,p.593-602
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/00−69/96
C07B 61/00
CAplus(STN)
CASREACT(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式
R’−HC=CH−CHOH−COOR (I)
[式中、
Rは、−HおよびC1−C8−アルキルからなる群から選択され;そして
R’は、ヒドロキシメチルまたは1,2−ジヒドロキシエチルである]
のアルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸またはそれらのエステルの製造のための方法であって、以下のステップ:
a.1つまたは複数のC6および/またはC5糖類単位を含む糖類組成物をルイス酸材料と接触させること;および
b.2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸および/または2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸あるいはそれらのエステルを回収すること、
を含み、
ルイス酸材料の環境において存在するアルカリ金属イオンの濃度が、触媒組成物の0.5重量%未満の量に保持される、前記方法。
【請求項2】
2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸または2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸のエステルが、2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸メチルエステルおよび2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸メチルエステルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
糖類組成物が、スクロース、キシロース、マンノース、タガトース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、アラビノース、イヌリン、アミロペクチン、ソルボースおよびシュガー・シロップからなる群から選択される1つまたは複数のC6および/またはC5糖類単位を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
糖類組成物が、少なくとも10重量%の糖類単位を含む、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
糖類組成物が、極性溶媒を含む、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
糖類組成物が、メタノール、エタノール、DMSOおよび水からなる群から選択される1種または複数種の溶媒を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
糖類組成物に存在するいずれのアルカリ金属イオンも、0.3mM未満の濃度で存在する、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
糖類組成物におけるアルカリ金属イオンの濃度が0.3mM未満である、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
ルイス酸材料に含まれるアルカリ金属イオンが0.5重量%未満である、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
ルイス酸材料が、BEA、MFI、FAU、MOR、FER、MWW、MCM−41およびSBA−15、またはそれらの混合物からなる群から選択される骨格構造を有し、および/または、前記ルイス酸材料が、Sn、Ti、Pb、Zr、GeおよびHf、またはそれらの混合物からなる群のうちの1つまたは複数から選択される活性金属を含む、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
ルイス酸材料が、Sn−BEA、Sn−MFI、Sn−FAU、Sn−MOR、Sn−MWW、Sn−MCM−41およびSn−SBA−15、またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
ルイス酸材料がSn−BEAである、請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
ルイス酸材料がSn−MCM−41である、請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
ルイス酸材料が、スズ塩である、請求項1〜13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
ルイス酸材料が、塩化スズ(SnCl4およびSnCl2)、フッ化スズ(SnF4およびSnF2)、臭化スズ(SnBr4およびSnBr2)、ヨウ化スズ(SnI4およびSnI2)、アセチルアセトン酸スズ(SnC10H14O4)、ピロリン酸スズ(Sn2P2O7)、酢酸スズ(Sn(CH3CO2)4およびSn(CH3CO2)2)、シュウ酸スズ(Sn(C2O4)2およびSnC2O4)、スズトリフレート((CF3SO3)2Snおよび(CF3SO3)4Sn)からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
30〜190℃の温度で糖類組成物をルイス酸材料と接触させる、請求項1〜15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
温度が80〜170℃である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも10秒の期間、糖類組成物をルイス酸材料と接触させる、請求項1〜17のいずれか1つに記載の方法。
【請求項19】
連続的な条件下で実施される、請求項1〜18のいずれか1つに記載の方法。
【請求項20】
重量空間速度が0.005〜10h−1の間である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
アルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸またはそれらのエステルが、アシル化、シリル化、アルキル化、加水分解、水素化、アミド化から選択される誘導体化に付される、請求項1〜20のいずれか1つに記載の方法。
【請求項22】
ステップb)が、アルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸またはそれらのエステルあるいはそれらの誘導体の精製を含む、請求項1〜21のいずれか1つに記載の方法。
【請求項23】
精製が減圧下で溶媒を蒸発させることを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
精製が、アルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸またはそれらのエステルまたは誘導体をカラムクロマトグラフィーにより精製することを含む、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
精製が、アルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸またはそれらのエステルまたは誘導体を蒸留により精製することを含む、請求項22または23に記載の方法。
【請求項26】
精製が、アルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸またはそれらのエステルまたは誘導体を結晶化により精製することを含む、請求項22または23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルイス酸触媒の存在下における、C6およびC5糖からの2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸および2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸ならびにそれらのエステル類の製造および回収に関する。
【背景技術】
【0002】
炭水化物は、バイオマスの最も大きな部分に相当し、市販化学製品製造用の供給材料としてのそれらの効率的な使用のために様々なストラテジーが確立されている。バイオマスは、そのような目的のための供給材料としての石油の補完および最終的には置き換えとしてのその潜在能力のために、特に興味深い。バイオマスから得ることができる炭水化物はC6およびC5糖を含み、それらは高度に官能性の短鎖炭素化合物の潜在的な源であるため特に工業的に興味深い。これは、商業的に入手できない高度に官能性の短鎖炭素化合物、例えば2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸および2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸ならびにそれらのエステル類のために特に重要である。これらの化合物を命名する一般的な方法は、アルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸およびそれらのエステル類である。そのような化合物の一般分子構造は
R’−HC=CH−CHOH−COOR (I)
である。
【0003】
ここで、R’およびRは、−H、−アルキルまたはヒドロキシアルキル基を表す。
【0004】
現在、2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸および2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸は、セルロース:Svensk Papperstidning(1974)16,p593−602(非特許文献1)およびJ.Appl.Polymer Sci.(1978)22,pp615−623(非特許文献2);およびマンナン:Acta Chem Scan.(1980)40,pp9−14(非特許文献3)のアルカリ分解により製造されている。しかしながら、これらの反応の生成物組成物は多くの化合物を含み、従って、得られる生成物は低収量である(生成物1gあたり5mg)。さらに、提案されている方法は、プロセス中に産生される反応生成物の多様性のために、工業的に実施することができない。
【0005】
C6および/またはC5糖を含む糖組成物は、Sn−BEAの存在下での乳酸メチルの製造における基質で有り得ることが知られている。EP 2 184 270 B1(特許文献1)およびScience(2010)328,pp602−605(非特許文献4)は、それぞれ、スクロース、グルコースおよびフルクトースからの、メタノールにおける160℃での、64%、43%および44%の乳酸メチルの収率を報告している。しかしながら、この反応に関しては多数の副生成物が観察され、報告されている主要な副生成物はメチルビニルグリコレート(3−11%)である。
【0006】
顕著な量の高度に極性の生成物を含む、サッカリン酸に類似する少量の化合物が、開示された反応の間に製造され得ることが示唆されている。これらの高度に極性の生成物は、C6サッカリン酸のメチルエステル類であるとみなされた。そのようなC6サッカリン酸は、Carbohydrate Res.(1996)280,pp47−57(非特許文献5)に記載されている。しかしながら、この文献は、高度に極性の生成物の構成成分である化合物の同定、収率パーセントでの量および数に関しては触れていない。
【0007】
Green Chem.(2012)14,pp702−706(非特許文献6)は、Science(2010)328,pp602-605と類似の反応条件であって、反応の温度を変えた反応条件を開示している。同定された生成物と未転化糖の合わせた収率は少なくとも51%である。
【0008】
ChemSusChem(2015)8,pp613−617(非特許文献7)は、アルカリイオンを反応プロセスに添加した場合に不均一ケイ酸スズ(stannosilicate)触媒の存在下において糖から得られた酢酸メチル収率の増加(20〜25%から66〜71%へ)を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】EP 2 184 270 B1
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Svensk Papperstidning(1974)16,p593−602
【非特許文献2】J.Appl.Polymer Sci.(1978)22,pp615−623
【非特許文献3】Acta Chem Scan.(1980)40,pp9−14
【非特許文献4】Science(2010)328,pp602−605
【非特許文献5】Carbohydrate Res.(1996)280,pp47−57
【非特許文献6】Green Chem.(2012)14,pp702−706
【非特許文献7】ChemSusChem(2015)8,pp613−617
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、高度に官能化されたC6およびC5化合物の製造のためのルイス酸に基づいた触媒的プロセスを提供することが望ましい。さらに、工業的に適用可能な、直接的な選択的プロセスを通して、高度に官能性のC6およびC5化合物を高収率で提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、特定の反応条件、例えば糖組成物における糖の濃度、触媒の量、溶媒および媒体のアルカリ度の選択において、選択的にかつ高い収率で、C6およびC5糖からなる群から選択される1つまたは複数の糖を含む糖組成物から、アルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸、例えば2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸および2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸ならびにそれらのエステル類を得ることができることが発見された。
【0013】
本発明によると、式
R’−HC=CH−CHOH−COOR (I)
[式中、
Rは、−HおよびC
1−C
8−アルキルからなる群から選択され;そして
R’は、ヒドロキシメチルまたは1,2−ジヒドロキシエチルである]
のアルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸またはそれらのエステル類の製造のための方法であって、以下のステップ:
a.1つまたは複数のC6および/またはC5糖類単位を含む糖類組成物をルイス酸材料と接触させること;および
b.2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸および/または2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸あるいはそれらのエステル類を回収すること、
を含む方法が提供される。
【0014】
この方法の利点は、2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸または2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸およびそれらのエステル類が15%を超える収率で回収できることである。好ましくは、エステル類の収率は、20%、25%、30%より高い。
【0015】
本発明の1つの実施態様において、上記のC
1−C
8−アルキルは、メチル−、エチル−、プロピル−、イソ−プロピル−、ブチル−、イソブチル−、ペンチル−、ヘキシル−、ヘプチル−、オクチル−からなる群から選択される。
【0016】
そのようなアルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸またはそれらのエステル類は高度に官能化されており、プラットフォーム分子(またはベースケミカル/中間体)として、それらは化学産業のために、例えばポリエステル類の製造のために有利な特性を示す。それらは、例えば乳酸またはε−カプロラクトンのような他のモノマーと重合または共重合させてもよい。
【0017】
式(I)の化合物は、多くの用途を思い描くことができる構造的に興味深い分子である。上記化合物の構造は、6−ヒドロキシカプロン酸の構造に似ており、従って、式Iの化合物は類似の用途に利用することができる。しかしながら、6−ヒドロキシカプロン酸とは異なり、式(I)の化合物は、他の官能基、例えば二重結合および2級アルコールを与え、これらは官能化されたポリエステルモノマーとして式(I)の化合物を使用する可能性をもたらす。
【0018】
2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸または2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸のエステル類は、好ましくは、メチルエステル類である。2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸メチルエステルおよび2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸メチルエステルは、‘THM’および‘DPM’としても知られているかもしれない。
【0019】
特段の言及がない場合、2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸または2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸およびそれらのエステル類の収率は、糖出発材料を基準としてモル基準で計算される。
【0020】
糖類組成物は、「糖組成物」または「基質」と呼ぶこともできる。本件との関連において、糖類組成物は、溶媒に溶解した糖類または糖を示すためのものである。同様に、本件との関連において、用語「糖類」、「糖」および「基質」は互換的に使用される。糖類組成物は好ましくは、スクロース、キシロース、アラビノース、マンノース、タガトース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、イヌリン、アミロペクチン(デンプン)およびシュガー・シロップからなる群から選択される1つまたは複数のC6および/またはC5糖類単位を含む。種々の糖類組成物の使用の例は、表6に見出すことができる。
【0021】
本発明の1つの実施態様において、糖組成物(糖類組成物)におけるC6および/またはC5化合物(糖類単位)の濃度は、10g/Lより高く、好ましくは50g/Lより高い。本件との関連において、「C6および/またはC5化合物の濃度」は、糖類組成物における糖類モノマーの全濃度または組み合わせた濃度を表すためのものである。
【0022】
ルイス酸材料は、基質の反応性を増加させるための電子対受容体として作用する。本件との関連において、ルイス酸材料は、糖類単位(糖)の例えば2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸および2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸ならびにそれらのエステル類への転化を触媒する。ルイス酸材料には、スズ塩、例えば塩化スズ(SnCl4およびSnCl2)、フッ化スズ(SnF4およびSnF2)、臭化スズ(SnBr4およびSnBr2)、ヨウ化スズ(SnI4およびSnI2)、アセチルアセトン酸スズ(SnC10H14O4)、ピロリン酸スズ(Sn2P2O7)、酢酸スズ(Sn(CH3CO2)4およびSn(CH3CO2)2)、シュウ酸スズ(Sn(C2O4)2およびSnC2O4)、スズトリフレート((CF3SO3)2SnおよびCF(3SO3)4Sn))ならびに多孔性構造を示す材料、例えば固体のルイス酸が含まれる。本件との関連において、ルイス酸材料は、「触媒」と表すこともできる。
【0023】
固体のルイス酸材料は、結晶質でもまたは非結晶質でもよい。非結晶質の固体ルイス酸材料には、規則性メソポーラス非晶質材料、例えばSn−MCM−41およびSn−SBA−15、または他のメソポーラス非晶質形態が含まれる。結晶質マイクロポーラス材料には、ゼオライト材料及びゼオタイプ材料が含まれる。2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸および2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸ならびにそれらのエステル類の高い選択性および/または収率を維持するために、ルイス酸材料を時々、例えば当該材料を400℃超の温度でか焼することにより、再生することが有利であり得る。
【0024】
ゼオライト材料は、マイクロポーラス結晶構造の結晶質のアルミノケイ酸塩である。
【0025】
ゼオタイプ材料は、ゼオライト材料のアルミニウム原子が、部分的にまたは完全に金属(金属原子)、例えばジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)およびスズ(Sn)によって置き換えられている材料である。
【0026】
本発明は、ルイス酸材料骨格構造がBEA、MFI、FAU、MOR、FER、MWW、MCM−41およびSBA−15、またはそれらの混合物からなる群から選択される方法に関する。
【0027】
本発明は、ルイス酸材料がSn、Ti、Pb、Zr、GeおよびHf、またはそれらの混合物からなる群のうちの1つまたは複数から選択される活性金属を含む方法に関する。
【0028】
本発明は、ルイス酸材料がSn−BEA、Sn−MFI、Sn−FAU、Sn−MOR、Sn−MWW、Sn−MCM−41およびSn−SBA−15、SnCl4、SnCl2、またはそれらの混合物からなる群から選択される方法に関する。好ましくは、上記材料は、Sn−BEAまたはSn−MCM−41またはSnCl
4である。
【0029】
本発明のさらなる実施態様において、Sn−BEAは、フッ化水素を用いる直接合成プロセスにより、または表2および表7にまとめられるような後処理プロセスにより、製造される。直接合成プロセスの例はEP1010667B1に記載されている。Sn−BEAにおけるアルカリ成分の存在を避けるために、Sn−BEAはフッ化物直接合成プロセスにより、または後処理プロセスにより製造される。そのようなアルカリ成分は、例えば:WO2015/024875A1に示されるようなカリウムイオンである。好ましくは、反応溶液に存在するいずれのアルカリ材料も、0.13mM未満の濃度で、または触媒組成物の0.5重量%未満の量で、存在する。
【0030】
Sn−BEAの製造のための後処理プロセスの例は、WO2015/024875A1(触媒A)に示されている。フッ化水素の経路(直接合成プロセスとしても知られる)はEP1010667B1に記載されている。
【0031】
本発明の方法は、連続フロープロセスまたはバッチプロセスとして実施してもよい。本件との関連において、連続フロープロセスは、長期間にわたって行われ、反応物が溶媒中において反応チャンバーを通して供給される反応またはプロセスとして理解されるべきである。連続フロープロセスの利点は、それが大規模生産に適していることである。
【0032】
本発明のさらなる実施態様において、上記方法は、重量空間速度(weight hourly space velocity)が0.005〜10h−1、例えば0.01〜5h−1または0.05〜1h−1の間である、連続的方法である。
【0033】
本発明のさらなる実施態様において、触媒と基質との比は、15%、20%、25%、30%、35%より高い、またはさらに50%と同じ高さの2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸または2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸およびそれらのエステルの収率を得るために、表4に示されるように、各糖類濃度に関して最適化される。例えば、触媒と基質との質量比(R
m)は、好ましくは、R
m>0.1、例えば0.2、より好ましくは0.1<R
m<0.8の範囲内、例えば上記糖類がキシロースの場合に0.25<R
m<0.75である。
【0034】
本発明のさらなる態様において、上記方法は、表1に示されるように、110℃〜200℃、110℃〜190℃、110〜180℃の温度、好ましくは、140〜170℃の温度で実施される。
【0035】
本発明の別の態様において、上記溶媒は、極性溶媒である。極性溶媒は、15を超える比誘電率を有する組成物、例えばDMSO、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、メタノール、エタノール、水またはそれらの混合物を表すためのものである。極性または僅かに極性の溶媒を用いる利点は、2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸または2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸およびそれらのエステル類の収率が20%を超え得ることである。好ましくは、エステル類の収率は、最初の糖類のモルを基準として、25%、30%、35%、40%、45%より高く、またはさらに50%と同じ高さである。
【0036】
本発明の1つの実施態様において、上記溶媒はDMSOを含む。驚くべきことに、2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸(THA)および/または2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸(DPA)の収率は、表8に示すように、20%超、例えば25、30、35、40または45%超である。好ましくは、上記溶媒はDMSOおよび水を含み、水の濃度は、2〜50重量%、例えば5〜30%の範囲内である。好ましくは、上記溶媒は、DMSOおよび水の混合物である。
【0037】
本発明において、反応溶液においてまたはルイス酸材料の環境において存在するアルカリ金属イオンの濃度は、0.13mM未満の濃度または触媒組成物の0.5重量%未満の量に保持される。
【0038】
イオンの濃度を低く保持することの利点は、表5に示されるように、15%を超える2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸または2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸およびそれらのエステル類の収率を得ることができることである。好ましくは、上記エステル類の収率は、20%、25%、30%、35%、40%、45%より高く、またはさらには50%と同じ高さである。存在するアルカリ金属イオンの濃度が0.13mM未満である場合、乳酸メチルの収率は、30%未満、より好ましくは20%または15%未満に維持され、その結果、糖類の式Iの所望の生成物への転化率の増加が得られる。
【0039】
本明細書で使用される場合に、アルカリ金属イオンは、元素自体またはアルカリ金属の塩のいずれかに由来する金属イオンとして理解されるべきである。より詳細には、アルカリ金属の塩は、少なくとも1つの金属イオンと少なくとも1つのアニオンを含む。金属イオンの例は、カリウム、ナトリウム、リチウム、ルビジウムおよびセシウムである。アルカリ金属の塩の例は、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、乳酸塩、塩化物、臭化物および水酸化物である。塩の例としては、K
2CO
3、KNO
3、KCl、酢酸カリウム(CH
3CO
2K)、乳酸カリウム(CH
3CH(OH)CO
2K)、Na
2CO
3、Li
2CO
3、Rb
2CO
3が挙げられる。
【0040】
本発明に従うとまた、反応媒体における式Iの化合物、例えば2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸もしくは2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸および/またはそれらのエステル類の濃度は10g/Lより高く、15%、20%、25%、30%、35%を超えるか、またはさらには50%と同じ高さである収率を伴う。表3に示すように、本発明に従うとまた、反応組成物における糖類の濃度は5重量%より高い。
なお、本願は特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.式
R’−HC=CH−CHOH−COOR (I)
[式中、
Rは、−HおよびC1−C8−アルキルからなる群から選択され;そして
R’は、ヒドロキシメチルまたは1,2−ジヒドロキシエチルである]
のアルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸またはそれらのエステルの製造のための方法であって、以下のステップ:
a.1つまたは複数のC6および/またはC5糖類単位を含む糖類組成物をルイス酸材料と接触させること;および
b.2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸および/または2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸あるいはそれらのエステルを回収すること、
を含む方法。
2.2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸または2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸のエステルが、2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸メチルエステルおよび2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸メチルエステルである、上記1に記載の方法。
3.糖類組成物が、スクロース、キシロース、マンノース、タガトース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、アラビノース、イヌリン、アミロペクチンおよびシュガー・シロップからなる群から選択される1つまたは複数のC6および/またはC5糖類単位を含む、上記1または2に記載の方法。
4.糖類組成物が、少なくとも10重量%の糖類単位を含む、上記1〜3のいずれか1つに記載の方法。
5.糖類組成物が、極性溶媒を含む、上記1〜4のいずれか1つに記載の方法。
6.糖類組成物が、メタノール、エタノール、DMSOおよび水からなる群から選択される1種または複数種の溶媒を含む、上記5に記載の方法。
7.糖類組成物に存在するいずれのアルカリ金属イオンも、0.3mM未満の濃度で存在する、上記1〜6のいずれか1つに記載の方法。
8.糖類組成物におけるアルカリ金属イオンの濃度が0.3mM未満である、上記1〜6のいずれか1つに記載の方法。
9.ルイス酸材料に含まれるアルカリ金属イオンが0.5重量%未満である、上記1〜8のいずれか1つに記載の方法。
10.ルイス酸材料がSn−BEAである、上記1〜9のいずれか1つに記載の方法。
11.ルイス酸材料がSn−MCM−41である、上記1〜10のいずれか1つに記載の方法。
12.ルイス酸材料が、スズ塩、例えば塩化スズ(SnCl4およびSnCl2)、フッ化スズ(SnF4およびSnF2)、臭化スズ(SnBr4およびSnBr2)、ヨウ化スズ(SnI4およびSnI2)、アセチルアセトン酸スズ(SnC10H14O4)、ピロリン酸スズ(Sn2P2O7)、酢酸スズ(Sn(CH3CO2)4およびSn(CH3CO2)2)、シュウ酸スズ(Sn(C2O4)2およびSnC2O4)、スズトリフレート((CF3SO3)2Snおよび(CF3SO3)4Sn))である、上記1〜11のいずれか1つに記載の方法。
13.30〜190℃の温度で糖類組成物をルイス酸材料と接触させる、上記1〜12のいずれか1つに記載の方法。
14.温度が80〜170℃である、上記13に記載の方法。
15.少なくとも10秒の期間、糖類組成物をルイス酸材料と接触させる、上記1〜14のいずれか1つに記載の方法。
16.連続的な条件下で実施される、上記1〜15のいずれか1つに記載の方法。
17.重量空間速度が0.005〜10h−1の間である、上記16に記載の方法。
18.アルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸またはそれらのエステルが、アシル化、シリル化、アルキル化、加水分解、水素化、アミド化から選択される誘導体化に付される、上記1〜17のいずれか1つに記載の方法。
19.ステップb)が、アルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸またはそれらのエステルあるいはそれらの誘導体の精製を含む、上記1〜18のいずれか1つに記載の方法。
20.精製が減圧下で溶媒を蒸発させることを含む、上記19に記載の方法。
21.精製が、アルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸またはそれらのエステルまたは誘導体をカラムクロマトグラフィーにより精製することを含む、上記19または20に記載の方法。
22.精製が、アルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸またはそれらのエステルまたは誘導体を蒸留により精製することを含む、上記19または20に記載の方法。
23.精製が、アルファ−ヒドロキシ−ベータ−エン−酸またはそれらのエステルまたは誘導体を結晶化により精製することを含む、上記19または20に記載の方法。
【実施例】
【0041】
例:
Sn−BEAの製造:
A.直接合成法を介したSn−BEAの製造方法(HFルート)。
【0042】
Sn−ベータゼオライトを、Valencia et al.[US6306364 B1]に記載される経路を改変することにより合成した。典型的な合成手順において、30.6gのオルトケイ酸テトラエチル(TEOS,Aldrich,98%)を、33.1gのテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH,Sigma−Aldrich,水中35%)に、慎重に撹拌し、二相溶液を形成させながら、添加した。約60分間撹拌後、1つの相を得、2.0mLの脱塩水に溶解した塩化スズ(IV)五水和物(SnCl4・5H
2O,Aldrich,98%)を滴下して添加した。撹拌を数時間維持することにより、TEOSの加水分解から形成したエタノールを蒸発させた。最終的に、1.6gの脱塩水における3.1gのフッ化水素酸(HF,Fluka,47−51%)を当該ゲルに添加することにより、以下のモル組成を有する固体を得た;1.0Si:0.005Sn:0.02Cl
−:0.55TEA
+:0.55F
−:7.5H
2O。全てのサンプルを引き続き均質化し、ステンレス鋼性オートクレーブ中に置いたテフロン容器に移し、引き続き140℃で14日間置いた。固体をろ過により回収し、脱塩水で洗浄し、引き続き、空気中において80℃で一晩乾燥した。当該材料内に含まれる有機テンプレートを、静的空気中でサンプルを2℃/分で550℃まで加熱することにより除去し、この温度を6時間維持した。
【0043】
B.後処理法を介してSn−BEAを製造するプロセス
Sn/ベータ(Si/Sn=125)を、ChemSusChem 2015,8,613−617に記載の手順に従って製造した。市販のゼオライトベータ、すなわち(Zeolyst,Si/Al 12.5,NH4
+型)を550℃で6時間か焼してH
+型を得、ゼオライトベータ粉末1gあたり10gの濃硝酸(HNO
3,Sigma−Aldrich,≧65%)で80℃において12時間処理する。得られた固体をろ過し、十分な水で洗浄し、2℃/分の勾配を用いて550℃で6時間か焼し、脱アルミニウム化ベータを得る。125のSi/Al比で、この固体を初期湿潤法(incipient wetness methodology)により含浸させる。この目的のために、塩化スズ(II)(0.128g,Sigma−Aldrich,98%)を5.75mLの水に溶解し、脱アルミニウム化された5gのベータに添加する。含浸プロセスの後、サンプルを110℃で2時間乾燥し、再度550℃で6時間か焼する。
【0044】
C.Sn−MCM−41を製造するプロセス
規則性メソポーラススズケイ酸塩であるSn−MCM−41を、Green Chemistry,2011,13,1175−1181に記載の経路に従って製造した。典型的な合成において、26.4gのケイ酸テトラエチルアンモニウム(TMAS,Aldrich,水中15−20重量%,≧99.99%)を、38.0gの水に溶解した13.0gの臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTABr,Sigma,≧99.0%)の溶液にゆっくりと添加し、混合物を約1時間撹拌した。この時点で、2.1gの水におけるSnCl
4・5H
2Oおよび塩酸(HCl,Sigma−Aldrich,min.37%)を上記溶液に滴加し、1.5時間撹拌した。この溶液に12.2gのTEOSを添加し、3時間撹拌することにより、1.0Si:0.005Sn:0.44CTABr:0.27TMA:0.08Cl
−:46H
2Oのゲル組成物がもたらされた。その後、上記サンプルを、ステンレス鋼製オートクレーブ中に置いたテフロンで裏打ちされた容器に移し、予熱されたオーブンに140℃で15時間置いた。固体をろ過により回収し、十分な水で洗浄し、引き続き80℃で一晩乾燥した。当該材料をか焼により仕上げ、ここではサンプルを静的空気中において2℃/分で550℃に加熱し、この温度を6時間維持した。
【0045】
例1:
a.典型的な反応において、0.150gのアルカリ不含Sn−ベータゼオライト(Si/Sn=150)、0.45gの糖および15.0gの無水メタノール(15.0g,Sigma−Aldrich,>99.8%)を、ステンレス鋼製の圧力容器に添加する(40cc,Swagelok)。上記反応器を閉め、予熱した湯浴中に160℃で700rpmで撹拌しながら置き、20時間反応させる。反応後、容器を冷水中に浸すことにより容器を急速に冷却する。糖誘導体をGC−MS(Agilent 6890。Agilent 5973質量選択検出器を備えたPhenomenex Zebron ZB−5カラムを用いて)により同定した。
【0046】
b.あるいは、4.0gの無水メタノール(Sigma−Aldrich,>99.8%)、0.36gの糖(Sigma−Aldrich,>99%)および所望の量のアルカリ不含Sn−ベータを、5mLのガラス製マイクロウェーブバイアル(Biotage)に添加した。Biotage Initiator+マイクロウェーブ合成装置において、反応容器を600rpmで撹拌しながら2時間160℃に加熱した。冷却後、サンプルをろ過し、その後分析した。関連の反応において、メタノール溶媒の適切な割合をメタノールにおけるK2CO3の1mM標準溶液(Sigma−Aldrich,≧99.0%)で置き換えることによってアルカリ塩を添加することにより、必要な濃度を得た。
【0047】
無水塩化スズ(IV)(Sigma Aldrich,St.Louis,MO,USA)をd6−DMSO(Sigma Aldrich)に溶解して10%(w/v)の最終濃度とした。グルコース、フルクトース、リボース、アラビノース、イヌリン、キシランおよびアミロペクチン(デンプン)を含む炭水化物(全てSigma Aldrich,Megazymes(Bray,Ireland)Carbosynth(Compton,UK)から)を、1.5mlのEppendorfセーフロックチューブにおいて、0.3〜1Mの糖類モノマー(30〜100mg/500μl最終体積)に対応する濃度でd6−DMSOに溶解した。水(D2O)を、0、5、10、15または20%の最終体積比(v/v)まで添加した。無水塩化スズ(IV)を、ストック溶液から、典型的には最終炭水化物:触媒モル比10:1まで添加した。10体積%の触媒および規定の水分とともにd6−DMSOにおいて炭水化物を含有する反応混合物を、Eppendorfサーモミキサーにおいて99℃で600rpmで振とうしながら20時間インキュベートした。反応後、サンプルを5mmNMRサンプルチューブに移し、直ちに30oCで1Hおよび13C NMR分光法により解析した。サンプルは、フミン形成により意図しない色を一部有していたが、最良のTHA収率を有しながら実験を通して透明のままであった(わずかに着色はしていたが)。基質溶液の13C NMRシグナル積分を生成物混合物のシグナル積分(両者ともd6−DMSOシグナルに対して正規化)と比較すること、およびラクテートおよびラクテートオリゴマーメチル基、3−デオキシ化合物メチレン基およびTHAオレフィンならびにHMFフラン水素シグナルを含む1H NMRスペクトルのヒドロキシ領域と重複しないシグナルを積分することにより、収率を概算した。C6糖からの%モルCとして収率を演繹する場合、ラクテートのモル分率を2で除した。反応混合物を1.5mlのEppendorfセーフロックチューブからNMRチューブに直接移し、引き続きNMRチューブを分光計中で所望の温度に加熱することにより、in situ実験を行った。反応の進行後、一連の1Hまたは13C NMRスペクトルを含む疑似2Dスペクトルを続けた。シグナル同定のために、同種−および異種核帰属スペクトル(homo− and heteronuclear assignment spectra)を、グルコース−およびキシロース誘導反応混合物に関して記録した。全てのスペクトルは、TCI Z−gradient CryoProbeおよび18.7 T magnet(Oxford Magnet Technology,Oxford,U.K.)を備えたBruker(Faellanden,Switzerland)Avance II 800MHz分光計で、または室温smartプローブを備えたBruker Avance III 600 MHz分光計で記録した。NMRスペクトルを記録し、処理し、解析した。 Bruker Topspin 2.1またはBruker Topspin 3.0を用いた。
【0048】
例2〜3:プロセスの温度をそれぞれ、170℃に上昇させ、および14℃に低下させて、例1bに従った。使用した触媒は、方法Aに従ったSn−Beta(Si/Sn=150)である。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示されるように、温度の増加は収率の増加をもたらす。
【0051】
例4〜6:出発物質をグルコースの代わりに160℃でキシロースとして例1aに従い、異なる触媒を使用した。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示されるように、触媒の製造のための方法Aは所与の条件下で増加した収率をもたらす。
【0054】
例7〜10:出発物質を160℃でキシロースとし、反応組成物における異なるキシロース初期濃度(重量%)を用いて、例1bに従った。
【0055】
【表3】
【0056】
表3において観察されるように、約7重量%のキシロース濃度でDPMの閾値収率が達成されるまで、より高いキシロース濃度はDPMの収率の増加をもたらし、約8〜9重量%に小さいピークを有すると考えられる。糖の実験は典型的には5g/L未満の濃度で実施されるので、この事実は驚くべきものである。30g/Lと同じ高さの濃度が、より低い濃度と匹敵する収率でDPMをもたらすことが認められるのは、特に興味深いことである。高濃度の糖類を使用して高収率の生成物を得ることは特異なことである。
【0057】
例11〜16:出発物質を160℃でキシロースとして例1bに従い、種々の触媒対基質比をもたらす種々の量の触媒を使用した。
【0058】
【表4】
【0059】
表4に示すように、触媒/基質の比が0.5である場合、DPMの最も高い収率が得られた。従って、DPMの収率は、触媒/基質の比を調節することにより最適化することができる。MLの収率がDPMの増加と同時に減少することが認められるのは、特に興味深いことである。このような異なる量の触媒を使用した時の触媒の選択性の変化は、非常に驚くべきことであり、これまでには報告されていない。DPMの高い収率を得るためには、触媒/基質の比は0.25超であるべきである。
【0060】
例17−24:出発物質を160℃でキシロースとし、メタノールにおける種々のアルカリ金属イオン(K
2CO
3)濃度を用いて、例1bに従った。
【0061】
【表5】
【0062】
表5からわかるように、アルカリ金属イオンの濃度は、DPMの収率に影響を及ぼす。ここでK
2CO
3の場合に関して例示されるように、0.1mM未満のアルカリ金属イオンの濃度は、20%超のDPM収率をもたらした。ML収率は30%未満に維持されなければならない。従って、DPMが、反応混合物中に見出される主生成物である。
【0063】
例25−30:出発物質を160℃で他の糖(グルコースの代わりに)とし、例1aに従った。使用した触媒は、方法Bに従ったSn−Beta(Si/Sn=125)である。
【0064】
【表6】
【0065】
表6からわかるように、全ての試験したC6単糖類および二糖類がTHMを生成する。
【0066】
例31〜33:160℃で実施例1に従い、異なる触媒を使用した。ここで、上記触媒は例BおよびCに従って製造した。
【0067】
【表7】
【0068】
表7からわかるように、触媒の製造に関する方法Cが好ましい。
【0069】
例34〜38:90℃で実施例1cに従い、異なる量の水をDMSOに添加した。
【0070】
【表8】
【0071】
表8からわかるように、溶媒混合物における5〜15重量%の水の存在が好ましい。
【0072】
例39〜44:90℃で実施例1cに従った。DMSOにおける異なる糖からの2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸。
【0073】
【表9】
【0074】
例45:2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸メチルエステル(THM)および2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸メチルエステル(DPM)の生成、精製および同定
2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸メチルエステル(THM)の生成および精製
後処理したSn−Beta(3g)、グルコース(12g,Sigma−Aldrich,>99.0%)およびメタノール(200g,Sigma−Aldrich,>99.8%)を、1Lオートクレーブ反応器(Autoclave Engineers)のテフロンの裏打ちに添加した。反応器を密閉し、450rpmで撹拌しながら16時間160℃に加熱した。反応混合物をその後冷却し、ろ過し、粗製反応混合物が得られた。粗製反応混合物を減圧下で40℃において濃縮した。2.1gの濃縮物をメタノールに溶解し、Celite上で蒸発させ、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル 15 40メッシュ、CH
2Cl
2 −> 20:1 CH
2Cl
2:MeOH)により精製して、0.30gの純粋なTHMを得た。
【0075】
2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸メチルエステル(DPM)の生成および精製
後処理したSn−Beta(7.5g)、キシロース(30g,Sigma−Aldrich,>99%)、脱塩水(3g)およびメタノール(300g,Sigma−Aldrich,>99.8%)を、1Lオートクレーブ反応器(Autoclave Engineers)のテフロンの裏打ちに添加した。反応器を密閉し、450rpmで撹拌しながら16時間160℃に加熱した。反応混合物をその後冷却し、ろ過し、15〜20%DPMを含む粗製反応混合物が得られた。粗製反応混合物を減圧下で濃縮した。濃縮物をメタノールに溶解し、Celite上で蒸発させ、乾燥真空カラムクロマトグラフィー(dry column vacuum chromatography)(シリカゲル60(15〜40μm)、ヘプタン−>酢酸エチル)によって精製することにより、>94%純度(GC−MS)のDPMがもたらされた。
【0076】
分析および同定
NMR実験を、Bruker Ascend 400分光計で記録し、1H −NMRを400 MHzで記録し、13C−NMRを100MHzで記録した。化学シフトを残留溶媒のシグナルに関してppmでとり、化学シフトはTMSの低磁場側に示される。HRMSをLC−TOF(ES)上で記録した。
【0077】
2,5,6−トリヒドロキシ−3−ヘキセン酸メチルエステル(THM)
1H−NMR(400 MHz,CD
3OD):δ(ppm)5.93(dd,J=15.3,4.3 Hz,1H),5.88(dd,J=15.3,4.1 Hz,1H),4.69(d,J=4.1 Hz,1H),4.14(ddd,J=6.7,4.7,4.1 Hz,1H),3.73(s,3H),3.51(dd,J=10.9,4.7 Hz,1H)3.45(dd,J=10.9,6,7 Hz,1H)。
13C−NMR(100 MHz,CD3OD):δ(ppm)174.6,133.8,129.4,73.4,72.2,67.0,52.6。HRMS(ESI+)m/z calculated for C
7H
12O
5
[M + Na]+:199.0577;found:199.0572。
【0078】
2,5−ジヒドロキシ−3−ペンテン酸メチルエステル(DPM)
1H NMR(400 MHz,CD
3OD)δ 5.89(dtd,J=15.5,5.0,1.4 Hz,1H),5.72(ddt,J=15.5,5.7,1.7 Hz,1H),4.76(s,4H),4.58(ddt,J=5.7,1.4,1.4 Hz,1H),3.99(ddd,J=5.0,1.6,1.4 Hz,2H),3.63 (s,3H),3.21(p,J=3.3,1.6 Hz,1H)。
13C NMR (101 MHz,CD
3OD)δ 173.2,132.2,126.8,70.9,61.3,51.2