(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両構造としては、車体の骨格部材として、左右一対のサイドメンバを備えた車両構造がある(たとえば、特許文献1を参照)。一対のサイドメンバは、車幅方向に間隔を隔てて車両の下部に配置され、かつ車両の前部から後部にわたって延びており、屈曲部が適宜設けられている。
【0003】
このような車両構造においては、
図4に示すような構成がよく採用されている。
すなわち、同図の車両構造Aeにおいて、一対のサイドメンバ3e(網点模様部分)の前部寄り領域には、前輪19aを懸架するフロントサスペンションのサスペンションメンバ4が取付けられる。一対のサイドメンバ3eのうち、サスペンションメンバ4の取付け箇所周辺部は、車両後方側ほど車幅方向相互間隔が狭くなる内入り傾斜部33とされ、かつこの内入り傾斜部33の後端部には、車両後方側ほど車幅方向相互間隔が大きくなる拡幅傾斜部35eが設けられている。サイドメンバ3eの拡幅傾斜部35eは、サスペンションメンバ4の取付け箇所周辺部よりも車両後方側において、一対のサイドメンバ3eを車両1の車幅方向外側寄りに配置させる部分となるため、車体剛性を効果的に高めたり、あるいはサイドメンバ3eの後部に後輪19bを懸架するリヤサスペンション構成部材の組み付けに適したものにできるといった利点が得られる。
【0004】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように、未だ改善すべき余地があった。
【0005】
すなわち、従来においては、一対のサイドメンバ3eの内入り傾斜部33の後端部に、拡幅傾斜部35eが直接繋がった状態で設けられている。また、拡幅傾斜部35eは、車両の前突が発生した場合のサイドメンバ3eの後部側への荷重伝達性が良好となるように、車両前後方向に対して適当な角度α2で傾斜するように、内入り傾斜部33の後端部から車両の斜め後方に向けて直線状に延びた形態に設けられている。
ところが、このような構成によれば、内入り傾斜部33と拡幅傾斜部35eとの境界部分である屈曲部B1’は、屈曲度合いが大きく、サイドメンバ3eの形状が急変した箇所となっており、また大きな曲げモーメントが発生し易くなっている。このため、車両の前突が発生し、衝突荷重Fがサイドメンバ3eに入力した際には、サイドメンバ3eが屈曲部B1’の箇所で折れ変形を生じ易くなる。このような折れ変形を生じたのでは、サイドメンバ3eの荷重伝達性が損なわれるばかりか、サイドメンバ3eを衝突エネルギの吸収に適した変形を生じるようにコントロールすることは難しくなり、車両の前突時において、優れた衝撃吸収性能を得ることが困難となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、簡易な構成により、車両の前突時の衝撃吸収性能を優れたものとすることが可能な車両構造を提供することを
、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0009】
本発明により提供される車両構造は、車幅方向に間隔を隔てて車両の下部に位置し、かつ前記車両の前部から後部にわたって延びた左右一対のサイドメンバ
と、これら一対のサイドメンバにフロントサスペンションのサスペンションメンバの前部寄り領域および後部寄り領域をそれぞれ取付けるための前側取付け部および後側取付け部と、を備えており、
前記一対のサイドメンバは、
前記サスペンションメンバ
の取付け箇所周辺部が、車両後方側ほど車幅方向相互間隔が狭くなる内入り傾斜部とされ、かつこの内入り傾斜部よりも車両後方側には、車両後方側ほど車幅方向相互間隔が広くなる拡幅傾斜部が設けられた構成とされ、前記内入り傾斜部よりも車両後方側には、車幅方向に延びる少なくとも1つのクロスメンバが設けられている、車両構造であって、前記一対のサイドメンバは、底面視において、前記内入り傾斜部の後端部から少なくとも1つの前記クロスメンバに至る領域、または前記クロスメンバよりも車両後方側に至る領域が、車両前後方向に略直線状に延びる略非傾斜の直状部とされており、この直状部の後端部に、前記拡幅傾斜部が繋がって
おり、前記サスペンションメンバの前記後側取付け部は、前記サスペンションメンバの前記後部寄り領域を前記直状部の前部に取付ける部位であり、かつ底面視において前記直状部の前部と重なった位置にあることを特徴としている。
【0010】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
第1に、車両の前突時において、優れた衝撃吸収性能、および耐衝撃性能が得られることとなり、乗員保護性能を高めることが可能である。
より具体的には、まず、一対のサイドメンバの内入り傾斜部の後端部には、車両前後方向に略直線状に延びる直状部が繋がっており、従来技術とは異なり、拡幅傾斜部が直接繋がった構成とはされていない。このため、内入り傾斜部の後端部と直状部との境界部分である屈曲部の屈曲角は小さくすることができ、大きな曲げモーメントも発生し難くなる。このため、車両の前突が発生し、各サイドメンバにその車両前方側から衝突荷重が入力した場合に、各サイドメンバが前記屈曲部の箇所において容易に折れ変形を生じないようにすることが可能である。したがって、サイドメンバが衝突エネルギの吸収に適した変形を生じるようにコントロールすることが容易・適正化される。
また、各サイドメンバの直状部は、内入り傾斜部の後端部からその車両後方側のクロスメンバに至るまで、またはそれよりも車両後方側の位置まで延びている。このため、各サイドメンバの荷重伝達性をよくし、衝突エネルギの吸収性能を高めることができることに加え、各サイドメンバに入力した衝突荷重を、クロスメンバに伝達させ、このクロスメンバに受けさせることもできる。その結果、車両の前突時における耐衝撃性をよくすることも可能となる。
各サイドメンバの直状部の後端部と拡幅傾斜部との境界部分は、屈曲部となるが、この屈曲部は、底面視において、クロスメンバとオーバラップした配置、またはクロスメンバよりも車両後方側に位置することとなるため、この屈曲部の位置においてサイドメンバが容易に折れ変形を生じるといったことも適切に回避される。
第2に、前記したような効果を得るための手段として、本発明においては、サイドメンバの形状に工夫が凝らされており、また前記クロスメンバとしては、既存の部位を利用することが可能である。本発明によれば、特殊な部材を別途用いたり、あるいは特定箇所の大型化や、構造の複雑化などを図る必要はない。したがって、生産性がよく、製造コストを低減し得るとともに、車両重量の増加などの不具合も適切に回避することが可能である。
【0011】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
なお、
図1〜
図3においては、理解を容易にするため、
図4に示した従来技術と同一または類似の要素には、同一の符号を適宜付している。
【0014】
図1および
図2に示す車両構造Aは、車両1の下部に配設された左右一対のサイドメンバ3(
図2(a)では、網点模様を付している)、前輪19aを懸架するフロントサスペンションのサスペンションメンバ4(サブフレームとも称される)、ならびに第1および第2のクロスメンバ6a,6bを具備している。図中、符号19bは、後輪を示す。
【0015】
一対のサイドメンバ3は、車幅方向に間隔を隔てた配置とされ、かつ車両1の前部から後部にわたって一連に延びている。
図3(a)に示すように、各サイドメンバ3は、たとえば断面ハット状などの部材を用いて構成されており、車両1のフロア部11(ダッシュパネル部11aも含む)が設けられている箇所においては、このフロア部11の下面部に溶接されている。
【0016】
図2(a)に示すように、一対のサイドメンバ3は、内入り傾斜部33、直状部34、および拡幅傾斜部35を有している。
【0017】
内入り傾斜部33は、一対のサイドメンバ3のうち、サスペンションメンバ4の取付け箇所周辺部が、車両後方側ほど車幅方向相互間隔が狭くなるように、底面視おいて傾斜した部分である。サイドメンバ3に対するサスペンションメンバ4の具体的な取付け構造については後述する。
なお、車両1の前部には、エンジンや変速機などから構成されたパワープラント2が内部に配されているエンジンルーム10が設けられており、一対のサイドメンバ3のうち、内入り傾斜部33よりも車両前方側部分は、エンジンルーム10の両側に位置して車両前後方向に延びている。
【0018】
直状部34は、一対のサイドメンバ3のうち、内入り傾斜部33の後端部に繋がって設けられ、かつ底面視において、車両前後方向に略直線状に延びた略非傾斜の部分である。この直状部34は、内入り傾斜部33の後端部から第1および第2のクロスメンバ6a,6bの相互間の位置まで延びた形態に設けられている。
【0019】
第1のクロスメンバ6aは、フロア部11に設けられたフロアトンネル部12と、車両1の車幅方向外端下部に設けられたロッカ15との相互間に橋渡し接続されており、
図3(b)に示すように、たとえば断面ハット状の部材を用いて構成されている。第1のクロスメンバ6aの下部は、フロア部11の上面部に溶接されている。第2のクロスメンバ6bは、第1のクロスメンバ6aよりも車両後方側に離間した配置に設けられているが、その構成は、第1のクロスメンバ6aと同様である。直状部33と第1のクロスメンバ6aとが重なった箇所では、これら両者がフロア部11を挟んで相互に溶接(スポット溶接など)されている。図中、符号51は、フロアトンネル部12の基端部を補強するための補強部材を示す。
【0020】
拡幅傾斜部35は、一対のサイドメンバ3のうち、直状部34の後端部に繋がって設けられ、かつ車両後方側ほど車幅方向相互間隔が広くなるように、底面視において傾斜した部分である。底面視において、拡幅傾斜部35と第2のクロスメンバ6bとは交差し、かつこれらの一部分どうしは重なっている。この重なり部分においては、拡幅傾斜部35と第2のクロスメンバ6bとが、フロア部11を挟んで相互に溶接(スポット溶接など)されている。好ましくは、直状部34および拡幅傾斜部35のうち、第1および第2のクロスメンバ6a,6bと溶接される箇所は、部分的に幅広状とされている。
直状部34の前端部と内入り傾斜部33の後端部との境界部分は、屈曲部B1となっており、直状部34の後端部と拡幅傾斜部35の前端部との境界部分は、屈曲部B2となっている。
【0021】
サスペンションメンバ4は、前輪19aを支持するロアアーム7の基端部を回転可能に支持する部材である。サイドメンバ3の内入り傾斜部33の周辺部は、
図1に示すように、車両側面視において後下がり状に傾斜した上下傾斜部30として形成されており、その下方にサスペンションメンバ4が配されている。サスペンションメンバ4およびサイドメンバ3には、サスペンションメンバ4の車幅方向両端部の前部および後部をサイドメンバ3に取付けるための前側取付け部9Aおよび後側取付け部9B,9B’が設けられている。
【0022】
前側取付け部9Aは、サスペンションメンバ4の前部寄り領域の上面部に起立して設けられた前側ブラケット部41の上部が、支持部材39を介してフロントサイドメンバ3に固定された部位である。フロントサイドメンバ3内には、支持部材39の取付け強度を高めるためのリインフォース39aが適宜設けられている。
後側取付け部9Bは、上下傾斜部30の下面側に溶接された台座部38に、サスペンションメンバ4の後部が、ボルト90を用いて締結された部位である。後側取付け部9B’は、サスペンションメンバ4の後部に固定されたステー42が、上下傾斜部30の台座部38よりも下側の部分にボルト91を用いて締結された部位である。
【0023】
ロアアーム7は、その先端部に前輪19aが支持され、前輪19aとサスペンションメンバ4との相対的な上下動を可能とするように、その基端部は、サスペンションメンバ4に対して回転可能に連結されている。より具体的には、ロアアーム7の基端部は、前部および後部に分岐しており、かつ前側回転支持部8Aおよび後側回転支持部8Bを介してサスペンションメンバ4に取付けられている。前側回転支持部8Aは、中心軸が略水平方向に延びる姿勢のゴムブッシュ81を用いて構成されており、後側回転支持部8Bは、中心軸が上下高さ方向に延びる起立姿勢のゴムブッシュ82を用いて構成されている。ゴムブッシュ82、ステー42、サスペンションメンバ4、および台座部38は、ボルト90を用いて共締めされている。
【0024】
図2(b)によく表れているように、ロアアーム7の後側回転支持部8Bの中心P2は、前側回転支持部8Aの中心P1よりも車幅方向内方側に適当な寸法L1だけオフセットされている。このような構成によれば、そうでない構成と比較して、操安性をよくすることが可能である。また、前記した中心P2は、サイドメンバ3の直下に位置している。このため、構成の簡素化を図りつつ、後側回転支持部8Bおよびその周辺部の建付け剛性を高め、操安性をより向上させることが可能である。
前記した構成に対応し、後側取付け部9B,9B’は、前側取付け部9Aよりも車幅方向内方側に適当な寸法L2だけオフセットされている。内入り傾斜部33は、サスペンションメンバ4の前側取付け部9Aよりも後側取付け部9B,9B’を車幅方向内方側に配置させ、かつロアアーム7の後側回転支持部8Bの中心P2を、前側回転支持部8Aの中心P1よりも車幅方向内方側に適当な寸法L1だけオフセットするのに適する。
【0025】
図2に示すように、サイドメンバ3の後側取付け部9B,9B’付近とロッカ15の前端部とは、トルクボックス14を介して相互に連結されている。このことにより、車体の捩じり剛性が高められる他、後側取付け部9B,9B’付近の剛性を効果的に高め、サスペンションメンバ4の支持状態を安定させることが可能である。
【0026】
次に、前記した車両構造Aの作用について説明する。
【0027】
まず、一対のサイドメンバ3の内入り傾斜部33の後端部には、直状部34が繋がっており、これらの境界部分である屈曲部B1の屈曲角α1は、
図4に示した屈曲角α2よりも小さく、かつ屈曲部B1は車両前方からの圧縮荷重を受けた際に回転モーメントを生じ難くなる。このため、車両1の前突が発生し、各サイドメンバ3にその車両前方側から衝突荷重Fが入力した際に、各サイドメンバ3が屈曲部B1の位置において容易に折れ変形を生じないようにすることが可能である。
【0028】
本実施形態の車両構造Aにおいては、ロアアーム7の後側回転支持部8Bの中心P2を、前側回転支持部8Aの中心P1よりも車幅方向内方側にオフセットさせているため、そうでない場合と比較すると、内入り傾斜部33の傾斜角を大きくする必要がある。したがって、本来的には、屈曲部B1の位置において折れ変形をより生じ易くなる。ところが、本実施形態によれば、内入り傾斜部33の後端部に直状部34を連設したことにより、前記した折れ変形を生じ難くすることができる。したがって、サイドメンバ3が衝突エネルギの吸収に適した変形を生じるようにコントロールすることが容易となる。
【0029】
一対のサイドメンバ3の直状部34は、内入り傾斜部33の後端部から第1のクロスメンバ6aの位置を越え、第1および第2のクロスメンバ6a,6bの相互間の位置まで延びている。このため、このような直状部34が設けられていない場合と比較すると、一対のサイドメンバ3の荷重伝達性をよくすることが可能である。また、各サイドメンバ3に入力した衝突荷重を、少なくとも第1のクロスメンバ6aに効率よく伝達し、この第1のクロスメンバ6aによって受けさせることも可能となる。その結果、車両1の前突時における耐衝撃性をよくすることもできる。
このようなことから、車両1の前突時においては、優れた衝撃吸収性能、および耐衝撃性能が得られることとなり、乗員保護性能を高めることが可能である。
【0030】
直状部34の後端部と拡幅傾斜部35との境界部分の屈曲部B2は、第1のクロスメンバ6aよりも車両後方側に位置している。このため、サイドメンバ3に衝突荷重Fが入力した場合に、屈曲部B2に大きな荷重は作用しないこととなり、サイドメンバ3が屈曲部B2の位置で容易に折れ変形を生じるようなこともない。とくに、本実施形態においては、拡幅傾斜部35の途中部分が第2のクロスメンバ6bと交差して溶接されており、拡幅傾斜部35の変形が抑制されているため、屈曲部B2の位置で折れ変形を生じることはより確実に防止される効果が得られる。
【0031】
本実施形態の車両構造Aにおいては、前記したように車両1の前突時の衝撃吸収性能や耐衝撃性能を優れたものにするための手段として、サイドメンバ3の形状を従来とは異なるものとしており、特殊な部材を別途追加して用いる必要はない。また、特定箇所の大型化や、構造の複雑化などを図る必要もない。したがって、車両1の生産性がよく、製造コストを低減することができ、また車両重量の増加も適切に回避することができる。
【0032】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0033】
上述の実施形態においては、サイドメンバ3の直状部34が、内入り傾斜部33の後端
部から第1および第2のクロスメンバ6a,6bの相互間の位置まで延びているが、本発明はこれに限定されない。本発明において、直状部34は、内入り傾斜部33の後端部から第1のクロスメンバ6aに至る範囲のみに設けられていてもよく、また第1および第2のクロスメンバ6a,6bの双方よりもさらに車両後方側に延びた状態で設けられてもよい。直状部よりも車両後方側に位置して設けられるクロスメンバは、上述した実施形態の第1および第2のクロスメンバ6a,6bに限らず、たとえば第1のクロスメンバ6aに相当するクロスメンバのみが設けられた構成、あるいはそれらとは別の第3のクロスメンバがさらに設けられた構成などとすることもできる。クロスメンバは、フロアトンネル部の位置で中断された形態のものに限らず、たとえば左右一対のロッカの相互間に一連に延びた状態で橋渡し状に設けられた構成とすることもできる。
【0034】
車両の操安性を良好にする観点からすると、フロントサスペンションのロアアーム7の後側回転支持部8Bの中心P2を、前側回転支持部8Aの中心P1よりも車幅方向内方側にオフセットすることが好ましいものの、これとは異なる構成とすることも可能である。
本発明の車両構造は、エンジン自動車に限らず、ハイブリッド車や電気自動車にも適用することができることは勿論である。