特許第6871914号(P6871914)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871914
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/90 20060101AFI20210510BHJP
   B29B 7/48 20060101ALI20210510BHJP
   B29B 7/72 20060101ALI20210510BHJP
   B29B 7/84 20060101ALI20210510BHJP
   B29C 48/76 20190101ALI20210510BHJP
   B29C 48/41 20190101ALI20210510BHJP
【FI】
   B29B7/90
   B29B7/48
   B29B7/72
   B29B7/84
   B29C48/76
   B29C48/41
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-508143(P2018-508143)
(86)(22)【出願日】2017年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2017012871
(87)【国際公開番号】WO2017170675
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2020年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-70640(P2016-70640)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591229440
【氏名又は名称】住化カラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】眞田 隆
(72)【発明者】
【氏名】嶌野 光吉
(72)【発明者】
【氏名】亀尾 幸司
【審査官】 今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−071281(JP,A)
【文献】 特開平10−180841(JP,A)
【文献】 特開2004−027125(JP,A)
【文献】 特開2009−280710(JP,A)
【文献】 特開平04−185647(JP,A)
【文献】 特開2002−187125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00 − 7/94
B29C 48/01 − 48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転移温度200℃未満の熱可塑性樹脂と粉体とを二軸混練押出機を用いて溶融混練する樹脂組成物の製造方法であって、
前記粉体は、見掛け密度0.1〜1.5g/mlの無機フィラーおよび見掛け密度0.1〜1.0g/mlかつ転移温度200℃以上の熱可塑性樹脂粉体からなる群より選ばれる一種以上の粉体であり、
前記二軸混練押出機は、上流から順に、供給口、第一混練ゾーン、重量式フィーダーが接続されたスクリュー式サイドフィーダー、第二混練ゾーン、及びベント口を備え、
前記転移温度200℃未満の熱可塑性樹脂は前記供給口から前記二軸混練押出機に供給され、
前記粉体は前記重量式フィーダーから前記スクリュー式サイドフィーダーを経て前記二軸混練押出機に供給され、
前記スクリュー式サイドフィーダーの搬送能力は、前記重量式フィーダーから前記スクリュー式サイドフィーダーに供給される前記粉体の単位時間あたりの実効体積の2倍以上であり、
前記第一混練ゾーンの樹脂圧力が1MPa未満であり、前記第二混練ゾーンの樹脂圧力が5MPa未満である条件で溶融混練し、
気体を前記ベント口から除去する樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第二混練ゾーンの樹脂圧力が3MPa未満である請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記二軸混練押出機が、前記ベント口のさらに下流に、第三混練ゾーンと前記第三混練ゾーンより下流の減圧ベント口とを有する請求項1または2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記第三混練ゾーンの樹脂圧力が1MPa以上5MPa未満である請求項3に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記スクリュー式サイドフィーダーの搬送能力が、前記重量式フィーダーから前記スクリュー式サイドフィーダーに供給される粉体の単位時間あたりの実効体積の2.4倍以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記粉体と、前記粉体100重量部に対し25重量部以上の樹脂ペレットとが前記重量式フィーダーから前記スクリュー式サイドフィーダーを経て前記二軸混練押出機に供給される請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記粉体が、タルク、カオリナイト、およびクレーからなる群より選ばれる一種以上の粉体であり、前記転移温度200℃未満の熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂である請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂と粉体とを二軸混練機を用いて溶融混練する樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機フィラー等の粉体強化材が充填された樹脂組成物は、耐衝撃性等の要求物性のバランスに優れる成形体を与え、自動車部品に代表される工業部材として幅広く使用されている。また、ポリフェニレンエーテルやポリフェニレンスルフィドのように、重合後の樹脂がパウダー状で嵩高いものも、その優れた特性から、混練機でコンパウンドされて、種々の用途で利用されている。
【0003】
前記熱可塑性樹脂が粉体や、多量の粉体強化材を含む粉体原料を、押出機を用いて溶融混練して樹脂組成物を製造する際には、かかる粉体原料は、ペレット状原料に比べて見掛け密度が低い為、押出機への噛み込み性が劣る。そのため、達成される押出量が少なく、生産性が低い場合が多い。
【0004】
粉体原料を溶融混練する方法の生産性改良技術については、次のようなものが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、高濃度にフィラー成分を含有する樹脂組成物の生産性向上を目的として、フライト幅の広い一条スクリューと特定のひねり角を有するニーディングディスクを組み合わせた構成のスクリューがバレル内に収容された二軸押出機を用いる樹脂組成物の製造方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、粉体原料を用いる樹脂組成物の製造における生産性向上を目的として、一条スクリューと特定のニーディングディスクを組み合わせた構成のスクリューを備えた二軸押出機を用いる樹脂組成物の製造方法が記載されている。
【0007】
特許文献3には、微粉体原料、或いは微粉体を多量に含む合成樹脂材料の押出成形時の押出量の増大を目的として、材料供給口が接続されたバレルより下流のバレルに前記材料に包含される空気を排出する開口部を設けた二軸押出機を用い、材料供給口と開口部との間で強い圧縮を与えるような昇圧域を設けずに合成樹脂を溶融混練する押出成形方法が記載されている。
【0008】
特許文献4には、ポリプロピレン系樹脂と無機フィラーとを二軸混練押出機の上流から供給し溶融混練してポリプロピレン系樹脂と無機フィラーを含有する樹脂組成物を製造する方法であって、生産性向上を目的として、可塑化領域の樹脂圧力を1MPa以下とする方法が記載されている。
【0009】
特許文献5には、パウダー状ポリフェニレンエーテルとそれ以外の熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の製造方法において、パウダー状ポリフェニレンエーテルの搬送能力の向上を目的として、溶融した熱可塑性樹脂の搬送領域に、パウダー状ポリフェニレンエーテルを、二軸押出機のサイドから強制サイドフィーダーを用いて供給する方法が記載されている。また、パウダー状ポリフェニレンエーテルの搬送能力の低下を防止するために、強制サイドフィーダーを接続した部位の押出機バレルの上蓋の上流側にガス抜き用の開口孔を設け、当該開口孔から、ガス抜きを行うことが好ましいと記載されている。
【0010】
しかしながら、上記のいずれの製造方法も、生産性の改善効果は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−29814号公報
【特許文献2】特開平10−24483号公報
【特許文献3】特開昭58−29644号公報
【特許文献4】特開2002−187125号公報
【特許文献5】特開2011−255652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
かかる状況のもと、本発明の目的は、熱可塑性樹脂と粉体とを溶融混練する樹脂組成物の製造方法において、耐衝撃性に優れる成形体を与える樹脂組成物を安定的に高い生産性で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、鋭意検討して、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、転移温度200℃未満の熱可塑性樹脂と粉体とを二軸混練押出機を用いて溶融混練する樹脂組成物の製造方法であって、
前記粉体は、見掛け密度0.1〜1.5g/mlの無機フィラーおよび見掛け密度0.1〜1.0g/mlかつ転移温度200℃以上の熱可塑性樹脂粉体からなる群より選ばれる一種以上の粉体であり、
前記二軸混練押出機は、上流から順に、供給口、第一混練ゾーン、重量式フィーダーが接続されたスクリュー式サイドフィーダー、第二混練ゾーン、及びベント口を備え、
前記転移温度200℃未満の熱可塑性樹脂は前記供給口から前記二軸混練押出機に供給され、
前記粉体は前記重量式フィーダーから前記スクリュー式サイドフィーダーを経て前記二軸混練押出機に供給され、
前記スクリュー式サイドフィーダーの搬送能力は、前記重量式フィーダーから前記スクリュー式サイドフィーダーに供給される前記粉体の単位時間あたりの実効体積の2倍以上であり、
前記第一混練ゾーンの樹脂圧力が1MPa未満であり、前記第二混練ゾーンの樹脂圧力が5MPa未満である条件で溶融混練し、
気体を前記ベント口から除去する樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安定的に高い生産性で、熱可塑性樹脂と粉体とを溶融混練して耐衝撃性に優れる成形体を与える樹脂組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、熱可塑性樹脂の転移温度とは、結晶性熱可塑性樹脂の場合は該樹脂の融解ピーク温度であり、非晶性熱可塑性樹脂の場合は該樹脂のガラス転移温度であり、いずれも示差走査熱量測定により求められる。より具体的には、前記融解ピーク温度とは、JIS K7122に従って示差走査熱量測定によって測定され、−50℃以上200℃以下の範囲に観測される結晶の融解ピークに対応する温度を意味する。前記ガラス転移温度とは、JIS K7121に従って示差走査熱量測定により測定されるガラス転移温度を意味する。
転移温度200℃未満の熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリオレフィン系樹脂(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等)、環状オレフィン系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸等)、脂肪族ポリカーボネート、ポリオキシメチレン(ポリアセタール等)、スチレン系樹脂(ポリスチレン、SEBS、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いても複数の樹脂を組み合わせてもよい。形状はペレットでもパウダー(粉体)でもよい。さらに、衝撃強度の改良や、柔軟性を付与するために、オレフィン系やスチレン系、アクリル系、ウレタン系、エンプラ系のエラストマーを加えてもよい。オレフィン系エラストマーとして、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体が挙げられる。該熱可塑性樹脂の転移温度は、好ましくは190℃以下であり、また、好ましくは0℃以上であり、好ましくは30℃以上である。二軸混練押出機に供給する際の該熱可塑性樹脂の状態は特に限定されず、例えば、ペレット状、顆粒状、パウダー(粉末)状などを採用することができる。
【0017】
本発明において、前記転移温度200℃未満の熱可塑性樹脂と共に溶融混練される粉体は、見掛け密度0.1〜1.5g/mlの無機フィラーであり得、かかる無機フィラーとしては具体的には、タルク、カオリナイト、クレー、パイロフィライト、セリサイト、ベントナイト、シリカ、などの天然珪酸または天然珪酸塩、炭酸カルウシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの水酸化物、亜鉛華、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、ムライトなどの酸化物、含水珪酸、無水珪酸などの合成珪酸または合成珪酸塩などの粒子状充填材、マイカなどのフレーク状充填材、塩基性硫酸マグネシウムウイスカー、チタン酸カルシウムウイスカー、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、ウォラストナイト、セピオライト、ゼオライト、アタパルジャイト、ゾノトライト、ロックウール、グラスウールなどの繊維状充填材、カーボンブラック、メソポーラスカーボン、活性炭などの無定形カーボン充填剤等が挙げられる。無機フィラーの見掛け密度は、0.1〜1.0g/mlが好ましく、0.1〜0.8g/mlがより好ましい。見掛け密度0.1〜1.5g/mlの無機フィラーのうち、(見掛け密度)/(真密度)が0.3以下の無機フィラーは、本発明の製造方法による生産性の改善効果がより顕著に見られるという点で好ましい。本願において粉体の見掛け密度とは、JIS K7365:1999の方法により測定される見掛け密度のことである。また、真密度とは、一定容積の容器に粉体を充填したときの、容器の体積から隙間部分を除いた体積から算出した密度であり、本願において粉体の真密度は、JIS Z8807:2012の方法により測定される密度を指す。
【0018】
本発明において、前記転移温度200℃未満の熱可塑性樹脂と共に溶融混練される粉体は、見掛け密度0.1〜1.0g/mlかつ転移温度200℃以上の熱可塑性樹脂粉体であり得る。熱可塑性樹脂粉体としては、具体的には、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリアミド系樹脂(ナイロン6、ナイロン66等)、芳香族ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等)、芳香族ポリカーボネート、液晶性ポリマー等があげられる。この中で本発明の効果が高いのは、融点やガラス転移温度が高く、比較的高温まで溶融流動状態にならず、粉体流動性を保持するポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶性ポリマー等が挙げられる。該熱可塑性樹脂粉体を構成する熱可塑性樹脂の転移温度は、200℃以上であり、好ましくは210℃以上であり、また、好ましくは450℃以下であり、より好ましくは400℃以下である。
前記転移温度200℃未満の熱可塑性樹脂と前記粉体の合計の重量を100重量%としたとき、該粉体の量の好ましい範囲は5〜80重量%であり、より好ましくは10〜70重量%であり、更に好ましくは15〜60重量%である。
【0019】
本発明の二軸混練押出機は、上流から順に、供給口、第一混練ゾーン、重量式フィーダーが接続されたスクリュー式サイドフィーダー、第二混練ゾーン、及びベント口を備えるものである。上記供給口は、二軸混練押出機の最上流部に位置する。上記供給口には重量式フィーダーが接続されていることが好ましい。
【0020】
転移温度200℃未満の熱可塑性樹脂は、上記供給口から二軸混練押出機に供給され、第一混練ゾーンにおいて、樹脂圧力が1MPa未満となる条件で混練される。上記供給口に重量式フィーダーが接続されている場合は、転移温度200℃未満の熱可塑性樹脂は重量式フィーダーから上記供給口を経て二軸混練押出機に供給される。
第一混練ゾーン(可塑化領域)の樹脂圧力は、好ましくは0.8MPa以下であり、より好ましくは0.5MPa以下である。また、第一混練ゾーンの樹脂圧力は、通常は0.02MPa以上であり、好ましくは0.1MPa以上である。
本発明に係る二軸混練押出機のスクリューは、生産性を高くするという観点から、2条の混練セグメントを有するスクリューが好ましい。第一混練ゾーンの樹脂圧力を1MPa未満にする方法としては、二軸混練押出機のスクリューの第一混練ゾーンに、スクリューの回転によって上流方向に樹脂を押し戻すようなセグメントや樹脂を堰き止める効果のあるセグメントを配置しない方法や、シリンダとセグメントのクリアランスを広くする方法が挙げられる。スクリューの回転によって上流方向に樹脂を押し戻すようなセグメントとしては、逆フライト、ねじれ角が送り方向に対して90°を超える一般的に逆ニーディングディスクと称されるディスク(以下、「逆ディスク」と称する)が挙げられる。樹脂を堰き止める効果のあるセグメントとしては、シールリングが挙げられる。スクリューの第一混練ゾーンに、ねじれ角が送り方向に対して90°未満であるいわゆる順ニーディングディスク(以下、「順ディスク」と称する)のみを配置することが好ましい。スクリューの第一混練ゾーン内には、さらに必要に応じてねじれ角が90°のいわゆる直交ディスクを配置することができる。直交ディスクを配置する位置は、前述の順ディスクの下流側が好ましい。二軸混練押出機の各混練ゾーンの圧力は、シリンダの各混練ゾーンに圧力センサーを設置し、各混練ゾーンの圧力センサーによって測定することができる。
【0021】
粉体は、重量式フィーダーからスクリュー式サイドフィーダーに所定量供給され、更にスクリュー式サイドフィーダーから二軸混練押出機に供給される。この時のスクリュー式サイドフィーダーの搬送能力は、重量式フィーダーからスクリュー式サイドフィーダーに供給される粉体の単位時間あたりの実効体積の2倍以上である。スクリュー式サイドフィーダーの搬送能力とは、スクリュー式サイドフィーダーから二軸混練押出機に供給する粉体の単位時間あたりの体積であり、これは、スクリュー式サイドフィーダーのスクリューが1回転する間に前方に送る空間体積とスクリュー回転数との積、またはスクリュー式サイドフィーダーのスクリューの1リード長あたりのシリンダーバレルの体積とスクリュー式サイドフィーダーの1リード長あたりのスクリューの体積の差と、スクリュー式サイドフィーダーのスクリュー回転数との積として求めることができる。粉体の実効体積は、実際に当該サイドフィーダーに供給されるところの体積で評価しなければならない。粉体はスクリュー式サイドフィーダーの上部に接続された重量式フィーダーで計量されて自然落下によってスクリュー式サイドフィーダーに供給される。重量式フィーダーからスクリュー式サイドフィーダーに供給される粉体の単位時間あたりの実効体積は、重量式フィーダーからスクリュー式サイドフィーダーに供給される粉体の単位時間あたりの重量を粉体の見掛け密度で除して得られた値として求められる。本願において実効体積の算出に用いる粉体の見掛け密度とは、実際に重量式フィーダーからスクリュー式サイドフィーダーに粉体が供給される時と同じ高さから、粉体をメスシリンダー等の計量容器に落下させて、計量容器内の粉体の重量を、計量容器で測定した粉体の体積で除することにより、求められる値である。スクリュー式サイドフィーダーの搬送能力は、装置の仕様によるが、好ましくは重量式フィーダーからスクリュー式サイドフィーダーに供給される粉体の単位時間あたりの実効体積の2倍以上であり、より好ましくは2.4倍以上であり、また、好ましくは8倍未満であり、より好ましくは10倍未満である。
また、粉体をスクリュー式サイドフィーダーで二軸混練押出機に供給する際に、該粉体とは異なる樹脂ペレット等を粉体と一緒に供給してもよい。この場合、スクリュー式サイドフィーダーの搬送能力が、重量式フィーダーからスクリュー式サイドフィーダーに供給される粉体の実効体積と樹脂ペレットの体積の合計量を十分上回っている限り、スクリュー式サイドフィーダーの搬送能力を設定する際に樹脂ペレットの体積を考慮する必要がない。粉体をより安定的に二軸混練押出機に供給するという観点から、粉体と、粉体100重量部に対し25重量部以上の樹脂ペレットとが重量式フィーダーからスクリュー式サイドフィーダーを経て二軸混練押出機に供給されることが好ましい。重量式フィーダーからスクリュー式サイドフィーダーを経て二軸混練押出機に供給される樹脂ペレットは、粉体100重量部に対し200重量部以下であることが好ましい。重量式フィーダーからスクリュー式サイドフィーダーを経て二軸混練押出機に供給される樹脂ペレットとしては、(見掛け密度)/(真密度)が0.9以上である熱可塑性樹脂ペレットが挙げられ、転移温度に制限はない。
【0022】
本発明に適用される二軸混練押出機において、粉体をサイドフィーダーで供給した位置の下流側に第二混練ゾーンが設けられているが、前記粉体が前記二軸混練押出機に供給された位置と前記第二混練ゾーンとの間に搬送ゾーンが設けられることがある。第二混練ゾーンの樹脂圧力は5MPa未満に設定し、粉体供給に伴い二軸混練押出機に混入する気体や原料に含まれる揮発成分が二軸混練押出機の下流側に抜ける割合を増やして、該気体や揮発成分が上流側に逆流する量を減らす。第二混練ゾーン内の下流側に、スクリューの回転によって上流方向に樹脂を押し戻すようなセグメントや、樹脂を堰き止める効果のあるセグメントを適切に配置することによって5MPa未満の樹脂圧力を設定することができる。スクリュー式サイドフィーダーから供給された粉体を十分に分散させる観点からは、第二混練ゾーンの樹脂圧力は0.02MPa以上が好ましく、より好ましくは0.1MPa以上である。第二混練ゾーンの下流側に設置された逆ディスク等のセグメント最外周端面である撹拌縁からシリンダー内壁までの空隙距離(チップクリアランス)は、通常フライトトップとシリンダー内壁までの空隙距離と同等であるのが一般的だが、本願発明においては、第二混練ゾーンの樹脂圧力を上記のように制御するために第二混練ゾーンに用いられるニーディングディスクの空隙距離は通常の2倍から3倍のものを用いることが好ましい。通常の空隙距離は二軸混練押出機のメーカーおよびシリンダー径や生産される製品の特性等で変化するが、一般的に0.2〜1.5mm程度である。ニーディングディスク1枚1枚の軸方向の厚さ(ディスク幅)は、通常1/5D(Dはスクリュー直径とする)程度である場合が多いが、本発明に係る第二混練ゾーンでは2/5D以上とすることが好ましい。
【0023】
本発明に適用される二軸混練押出機には、第二混練ゾーンより下流に、ベント口が設けられており、上記気体や揮発成分を系外に除去する。このベント(すなわち、系外への除去)は、通常の大気解放であっても、減圧吸引したベントであってもよい。二軸混練押出機には、前記ベント口の下流に、更に第三混練ゾーンが設けられていてもよい。第三混練ゾーンにおける樹脂圧力は、1〜5MPa程度が好ましい。
第三混練ゾーンの樹脂圧力を1〜5MPa程度に設定する方法としては、第三混練ゾーン内の下流側に逆ディスクやシールリングを配置する方法や、シリンダとセグメントのクリアランスを狭くする方法が挙げられる。
【0024】
二軸混練押出機には、第三混練ゾーンより下流に更に減圧ベント口が設けられていてもよい。第三混練ゾーンの下流に減圧ベント口を設けることにより、上記気体や揮発成分を更に効率よく系外に除去することができる。
【0025】
次に、本発明に係る二軸混練押出機のスクリュー構成について説明する。第一混練ゾーンのスクリュー構成は、順ディスクのみ、または、必要に応じて直交ディスクまたは逆ディスクを併用することができる。順ディスクのみとすれば、混練ゾーンの充満度を低くし、第一混練ゾーンの樹脂圧力を1MPa未満とすることにより、熱可塑性樹脂を完全に可塑化させることなく、半溶融状態で下流に搬送することができる。また、第一混練ゾーンの樹脂圧力は0.01MPa以上が好ましい。短い区間で所望の圧力まで昇圧できるという観点から、第一混練ゾーンではディスクの厚みは薄いほうが好ましい。また空隙距離(チップクリアランス)は通常より広いものが好ましい。第二混練ゾーンは、一部の揮発分については第二混練ゾーンより下流のベント口に逃がしながら、粉体を前述の半溶融状態の樹脂の中に、徐々に練り込んでいくことを目的としており、順ディスク主体で、幅の広いディスクが好ましい。また、空隙距離(チップクリアランス)も通常よりも広いものが好ましい。第三混練ゾーンについては、既に第二混練ゾーンまでに樹脂の溶融や粉体の溶融樹脂中の分散がある程度は達成されているので、通常の分散混合に必要なスクリュー構成で樹脂圧力を1〜5MPa程度に設定することができる。ここで述べた混練ゾーン以外の部分のスクリュー、すなわち、フィードゾーンや混練部と混練部の間の搬送ゾーン、先端の昇圧ゾーン等においてはフルフライトスクリューを用いることが好ましい。通常は2条のフルフライトスクリューが用いられるが、搬送体積を増やしたいときには、1条のフルフライトスクリューを用いる場合もある。
【0026】
このようにして樹脂組成物を製造する際、目的に応じて他の任意成分が配合されてもかまわない。このような任意成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、熱安定化剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、導電剤、分散剤、印刷性付与剤、有機充填剤、難燃剤、難燃助剤、発泡剤、加工助剤、中和剤、重金属不活性化剤、造核剤、防曇剤、抗菌剤、防かび剤等を挙げることができる。
これらの添加剤は、熱可塑性樹脂と一緒に二軸混練押出機の第一搬送ゾーン内の供給口から二軸混練押出機内に供給してもよいし、第二搬送ゾーンや第三搬送ゾーンに供給口を設け、そこから二軸混練押出機内に供給してもよい。前記第一搬送ゾーンは最上流の供給口と第一混練ゾーンとの間に位置し、前記第二搬送ゾーンは第一混練ゾーンと第二混練ゾーンとの間に位置し、前記第三搬送ゾーンは第二混練ゾーンと第三混練ゾーンとの間に位置する。第三混練ゾーンの下流に更に第四搬送ゾーンが設けられていてもよい。
【0027】
本発明により、見掛け密度が小さい粉体と熱可塑性樹脂とを二軸混練押出機を用いて溶融混練する樹脂組成物の製造において、原料が順調に二軸混練押出機内に供給されない等の製造上のトラブルなく、高効率で生産を可能とするだけでなく、粉体およびエラストマーの分散や、耐衝撃性等の樹脂組成物の物性においても、従来必要とされるレベルを満足できる方法が提供できる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0029】
実施例中の各項目の測定値は、下記の方法で測定した。
【0030】
(1)アイゾット衝撃強度(単位:kJ/m2
JIS K7110に規定された方法に従い、株式会社東洋精機製作所製Izod衝撃試験機を用いて下記方法により作製された試験片のアイゾッド衝撃強度を測定した。測定は23℃の温度で実施した。
(試験片の作製方法)
樹脂組成物のペレットを住友重機械社製Sycap110/50型射出成形機を用いて、成形温度200℃、金型冷却温度30℃、射出時間15秒、冷却時間30秒で、縦64×横12.7×厚み6.4(mm)の角棒の成形体を射出成形した。上記成形体の厚み方向にV型ノッチ加工し、試験片を得た。
【0031】
原料として、ポリプロピレン(転移温度160℃)のペレット、オレフィン系エラストマーペレットであるエチレン−ブテン共重合体ペレット(転移温度38℃)のとエチレン−オクテン共重合体のペレット(転移温度35℃)の、粉体としてタルク(見掛け密度0.6g/ml)を用いた。また、実効体積の算出に用いるタルクの見掛け密度は、重量式フィーダーからスクリュー式サイドフィーダーに投入される状態を模擬的に再現すべく、2.3mの高さから落下させて、メスシリンダーに受けて単位体積当たりの重量を測定することで求められ、0.51g/mlであった。
【0032】
(実施例1)
二軸混練押出機として、シリンダー径47mmの同方向かみ合いタイプの二軸混練押出機を用いた。該二軸混練押出機は、シリンダーと、上記シリンダー内に収容される二本のスクリュー軸を有し、シリンダーは、上流から、第一搬送ゾーン、第一混練ゾーン、第二搬送ゾーン、第二混練ゾーン、第三搬送ゾーン、第三混練ゾーン、及び第四搬送ゾーンに分けられる。シリンダーには、第一搬送ゾーン内の最上流部に供給口を設け、第三搬送ゾーン内の最上流部にオープンベントを設け、第四搬送ゾーン内の最上流部に真空ベントを設けた。シリンダーの第二搬送ゾーンには二軸のスクリュー式サイドフィーダーを接続し、スクリュー式サイドフィーダーには重量式フィーダーを接続した。
第一混練ゾーンに対応する部分のスクリューには、第一混練ゾーンの樹脂圧力が1MPa未満になるように、順(順送り方向)ディスクのみを配置した。上記順ディスクの厚みは0.2D(Dはスクリュー径)であった。第二混練ゾーンに対応する部分のスクリューには、第二混練ゾーンの樹脂圧力が5MPa未満になるように、上流から順ディスクを長く配置し、最後に逆ディスクを配置した。上記順ディスクおよび逆ディスクの厚みはそれぞれ0.5Dであった。これらのディスクの空隙距離は、フライトの空隙距離の2倍であった。第二混練ゾーンの逆ディスクの下流に、オープンベントを設けた。
第三混練ゾーンに対応する部分のスクリューには、第三混練ゾーンの樹脂圧力が1〜5MPaになるように、順ディスク、直交ディスク、逆ディスクを配置し、いずれのディスクの厚みも0.1Dのものを用いた。
ポリプロピレンペレット40重量部とオレフィン系エラストマーペレット20重量部と添加剤とを二軸混練押出機の第一搬送ゾーン内の最上流部の供給口から二軸混練押出機内に供給した。タルク20重量部とポリプロピレンペレット20重量部とを重量式フィーダーに供給し、重量式フィーダーから二軸のスクリュー式サイドフィーダーに供給し、二軸のスクリュー式サイドフィーダーから二軸混練押出機内に供給した。二軸混練押出機内に供給されるポリプロピレンペレットとオレフィン系エラストマーペレットとタルクの合計のフィード量は800kg/時間であった。重量式フィーダーから二軸のスクリュー式サイドフィーダーに供給されるタルクの実効体積を314L/時間とし、スクリュー式サイドフィーダーの搬送能力を801L/時間とした。スクリュー式サイドフィーダーの搬送能力は、重量式フィーダーからスクリュー式サイドフィーダーに供給されるタルクの単位時間あたりの体積の約2.5倍であった。上記原料を二軸混練押出機のスクリュー回転数1350rpmで溶融混練し、上記真空ベントから減圧吸引を行うことにより、原料が順調に二軸混練押出機内に供給され安定的にポリプロピレン、オレフィン系エラストマー、添加剤およびタルクを含有する樹脂組成物ペレットを生産することができた。このとき、第一混練ゾーンの樹脂圧力は0.1MPa、第二混練ゾーンの樹脂圧力は0.4MPa、第三混練ゾーンの樹脂圧力は3.6MPaであった。
得られた樹脂組成物ペレットからなる射出成形体は、アイゾット衝撃強度が58kJ/m2であった。
【0033】
(比較例1)
実施例1と同じ二軸混練押出機を用い、比較例1の第一混練ゾーンに対応する部分のスクリューには、第一混練ゾーンの樹脂圧力が1MPa以上になるように、順ディスク、直交ディスク、逆ディスクを配置した。さらに、二軸混練押出機内に供給されるポリプロピレンペレットとオレフィン系エラストマーペレットとタルクの合計のフィード量を900kg/時間とする以外は、実施例1と同様に行った。原料が順調に二軸混練押出機内に供給され安定的に樹脂組成物ペレットを生産することができた。このとき、第一混練ゾーンの樹脂圧力は5.5MPa、第二混練ゾーンの樹脂圧力は0.4MPa、第三混練ゾーンの樹脂圧力は2.4MPaであった。得られた樹脂組成物ペレットを用いた射出成形品体は、アイゾット衝撃強度が49kJ/m2であった。
【0034】
(比較例2)
実施例1と同じ二軸混練押出機を用い、二軸混練押出機のシリンダーには、実施例1の第二混練ゾーンよりも少し下流側に、比較例2の第一混練ゾーンを設け、実施例1の第三混練ゾーンと同じ位置に、比較例2の第二混練ゾーンを設け、比較例2の第一混練ゾーンと第二混練ゾーンの間にはオープンベントを設け、比較例2の第二混練ゾーンより下流に真空ベントを設けた。比較例1の第一混練ゾーンより上流のゾーンは、比較例1の第一搬送ゾーンとした。
比較例2の第一混練ゾーンに対応する部分のスクリューには、第一混練ゾーンの樹脂圧力が0.2〜3MPaになるように、上流から順ディスクを長く配置し、最後に逆ディスクを配置した。比較例2の第二混練ゾーンに対応する部分のスクリューには、第二混練ゾーンの樹脂圧力が1〜4MPaになるように、順ディスク、直交ディスク、逆ディスクを用い配置した。
ポリプロピレンペレット60重量部とオレフィン系エラストマーペレット20重量部と添加剤とタルク20重量部とを一括して二軸混練押出機の第一搬送ゾーン内の最上流部の供給口から二軸混練押出機内に供給し、原料が順調に二軸混練押出機内に供給され安定的にポリプロピレン、オレフィン系エラストマー、添加剤およびタルクを含有する樹脂組成物ペレットを生産可能な条件に調整すると、ポリプロピレンペレットとオレフィン系エラストマーペレットとタルクの合計のフィード量は450kg/時間、二軸混練押出機のスクリュー回転数は1320rpmの条件であった。このとき、第一混練ゾーンの樹脂圧力は1.8MPa、第二混練ゾーンの樹脂圧力は1.6MPaであった。得られた樹脂組成物ペレットを用いた射出成形体は、アイゾット衝撃強度が56kJ/m2であった。
二軸混練押出機のスクリュー回転数を1000rpmまで下げると、原料が順調に二軸混練押出機内に供給されず、生産が継続できなかった。
【0035】
二軸混練押出機を用いて溶融混練して樹脂組成物を製造する場合、樹脂組成物に過度のエネルギーを負荷しない適当なスクリュー回転数で安定的に溶融混練できる方が好ましく、できるだけ多くの原料を供給して小さい回転数で安定的に溶融混練できる方が生産性が高い。比較例2では、実施例1よりも原料の合計のフィード量を少なくしないと、樹脂組成物を製造できないため、生産性が低く、生産安定性も悪い。