(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のイオン液体、第2のイオン液体またはそれらのイオン液体が、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム、トリブチル−n−オクチルホスホニウムおよびトリエチルペンチルホスホニウムのいずれか1つのカチオンを含む請求項1〜5のいずれか1つに記載の酸素分離膜。
【背景技術】
【0002】
ガス分離技術・プロセスは、排ガス浄化、脱臭処理、成分抽出、省エネ化などに利用できることから、産業分野の用途のみならず民生分野においても有用である。
ガス種の中でも酸素は、我々の生活において最も身近なガスの1つであり、呼吸、燃焼、触媒的作用、分子合成などに代表されるあらゆる化学反応に関与するといっても過言ではない。酸素を効率的に吸収したり、濃縮したり、貯蔵したりといった操作を手軽なシステムで制御することができれば、生活から産業に至るまで幅広い分野にわたって役立つことが期待できるが、一方で酸素を手軽に制御して取り扱うことは容易ではない。
現在、高圧酸素ガスを生産する設備や酸素濃縮装置のシステムでは、深冷分離法、吸着分離法といった方法で高濃度酸素を生成している。しかしながら、これらの方法は温度や圧力のコントロールが必要であるため、高エネルギープロセスであったり、システムサイズが大きかったりと、結果的に専門的な用途での利用に限られている。
【0003】
このような課題に対して、膜分離法は、温度や圧力の制御が不要になるため、低エネルギーでコンパクトなシステムを実現可能で、利便性の高い酸素供給方法に適した手法であると言える。
効率的な膜分離を実現する上で重要になるのが、特定の気体分子を選択的に透過させることができるガス分離膜である。ガス分離膜は、分子サイズや反応性の違いを利用することで、特定の気体分子を他の気体分子よりも透過し易くする性能があり、有機ガス、酸化物ガス、二酸化炭素、水蒸気など種々のターゲット分子を含む混合気体を目的に応じて成分分離することができる。最も汎用されているものは高分子系材料で、その多孔膜の細孔径や親撥液性、酸塩基性などの特性を活かして有用な分離膜として利用されている。しかしながら、酸素分離において、特に空気中の酸素と窒素を分ける場合は、分子の大きさがほぼ同じであるため細孔形状で分離することは非常に難しく、高分子膜では高い選択性を得られない。
【0004】
そこで、膜による高効率な酸素分離を実現するためには、酸素と選択的な反応性を有する金属錯体の応用が有効であることが知られている。酸素吸脱着反応の代表的な例は、生体内において機能するヘムタンパク質ヘモグロビンによる酸素運搬反応であり、これはポルフィリン−鉄イオン錯体への酸素の吸脱着によるものである。日本特開2007−209543号公報(特許文献1)では、ポリエチレングリコール修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体が生体模倣モデルとして可逆的な酸素の吸脱着を示すことが確認され、酸素吸着膜への適用が提案されている。この酸素吸着膜は水やエタノールの溶液から製膜されるが、逆に水や有機溶媒に溶出してしまうおそれがあり、透過膜としての安定性に問題があり、更には生体由来の原材料であること、合成プロセスの煩雑さ、機能分子構造の安定性などを考慮すると、機能構造を再現して実用的に応用することは困難である。
【0005】
また、日本特開2014−114366号公報(特許文献2)では、高分子骨格に金属ポルフィリン錯体を付加させた高分子化合物とそれを用いた酸素透過膜が提案されている。ここでのポルフィリン錯体含有の高分子化合物は、高分子構造に対して錯体構造の比率が高いので、従来の高分子と錯体の混合膜よりも高い酸素透過性が得られ、空気中の酸素分圧程度でも高い酸素選択透過性を示すことが確認されている。しかしながら、このような大きな錯体構造を膜骨格に固定化することで、膜内での酸素拡散性を抑制することになるため、他のガス種の分離膜に比べるとその透過性は低い。
【0006】
他に酸素と反応性のある金属錯体構造で有用なものに、金属サレン錯体がある。サレン(「N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン」または「N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジリデン)エチレンジアミン」)は、金属イオンの4座配位子として平面的な構造をとり、その金属イオンの軸方向に別の配位子と酸素分子が配位することができ、酸素吸収の機能を果たす。
日本特開平6−340683号公報(特許文献3)や日本特開平9−151192号公報(特許文献4)のように、様々なサレン錯体の誘導体が提案されている。一般にサレン錯体は固体状であり、酸素分離への応用を考えたとき製膜などの加工が必要である。そのため、錯体が有する酸素吸脱着性能に加えて、錯体分子の溶解性向上、構造の安定性向上について検討されている。
【0007】
また、Lloyd M. Robeson「The upper bound revisited」、Journal of Membrane Science、2008年、第320巻、p.390−400(非特許文献1)には、公知の酸素分離膜の透過係数と酸素と窒素の透過選択性の関係がまとめられている。しかしながら、公知の酸素分離膜の性能は充分ではなく、更なる性能向上が望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
酸素分離膜としての高い選択透過性を実現するには、酸素分子と選択的に反応する金属錯体を膜内に高密度に集積し、なおかつ反応点を介した酸素分子の拡散性を高めることで透過性を良くすることが必要となる。しかしながら、固体状の金属錯体では、有機溶媒に一旦溶解させて製膜する過程が必要となるため、錯体の溶解性には限界があることを考えると高密度化が難しい。また、膜構造自体に錯体分子を組み込んだ場合、酸素との反応点を束縛することになり、膜中の酸素移動がし難くなり透過性が低下する原因となる。すなわち錯体分子が有する性能を膜として応用したときに十分に発揮させることできていないため、未だ実用的な応用に展開できていないと考えられる。
【0011】
そこで、本発明は、多孔性物質の細孔内部に酸素と選択的に反応する金属錯体が安定に存在し、なおかつ酸素キャリアとして機能的に作用する状態を実現することで、高い酸素選択透過性を示す酸素分離膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題の解決のため膜構造について検討を行った結果、サレン錯体の軸配位子として不揮発性のイオン液体を配位させることでサレン錯体そのものを液体化する分子構造を考案し、それを錯体の働きを安定化させる補助配位子と共に多孔膜に含ませる含浸膜を作成することで、酸素キャリアとしての機能を有するサレン錯体を高密度に集積することができ、優れた酸素透過性を示す膜となることを見出し、本発明に至った。
【0013】
かくして、本発明によれば、
多孔性物質と、それに内包される液体状の錯体とから構成される酸素分離膜であって、
前記錯体が、金属サレン錯体またはその誘導体と、第1のイオン液体とを含み、
前記第1のイオン液体が、アミン構造を有するアニオンと、炭素数2〜20のアルキル鎖、アルキレンオキサイド鎖またはアルキルエーテル鎖を有する、イミダゾリウム、脂肪族4級ホスホニウムまたはアンモニウムのカチオンとからなり、
前記第1のイオン液体は、前記金属サレン錯体またはその誘導体の中心金属イオンの軸配位子に前記第1のイオン液体のアニオンが配位している酸素分離膜が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、多孔性物質の細孔内部に酸素と選択的に反応する金属錯体が安定に存在し、なおかつ酸素キャリアとして機能的に作用する状態を実現することで、高い酸素選択透過性を示す酸素分離膜を提供することができる。
【0015】
また、本発明の酸素分離膜は、次の好ましい形態を有する。
(1)第1のイオン液体が、第2級アミンのアニオンを含む。
(2)第1のイオン液体が、N−メチルグリシンのアニオンを含む。
(3)錯体が、第1のイオン液体と相溶性を有する第2のイオン液体をさらに含み、第1のイオン液体は、金属サレン錯体またはその誘導体の中心金属イオンの軸配位子の片方に第1のイオン液体のアニオンが配位している。
【0016】
(4)第2のイオン液体が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを含む。
(5)第1のイオン液体、第2のイオン液体またはそれらのイオン液体が、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム、トリブチル−n−オクチルホスホニウムおよびトリエチルペンチルホスホニウムのいずれか1つのカチオンを含む。
(6)金属サレン錯体が、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)である。
(7)多孔性物質が、親水性の四フッ化エチレン樹脂またはポリフッ化ビニリデン樹脂から構成される。
(8)多孔性物質が、0.1〜0.5μmの細孔径を有する膜形状である。
(9)酸素分離膜が、空気中の酸素分圧において、酸素透過係数が10Barrer(1Barrer=1×10
-10cm
3(STP)・cm/(cm
2・s・cmHg))以上であり、かつ窒素に対する酸素の透過分離係数の比が2以上である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態について詳しく説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。
本発明の酸素分離膜は、
多孔性物質と、それに内包される液体状の錯体とから構成される酸素分離膜であって、
前記錯体が、金属サレン錯体またはその誘導体と、第1のイオン液体とを含み、
前記第1のイオン液体が、アミン構造を有するアニオンと、炭素数2〜20のアルキル鎖、アルキレンオキサイド鎖またはアルキルエーテル鎖を有する、イミダゾリウム、脂肪族4級ホスホニウムまたはアンモニウムのカチオンとからなり、
前記第1のイオン液体は、前記金属サレン錯体またはその誘導体の中心金属イオンの軸配位子に前記第1のイオン液体のアニオンが配位していることを特徴とする。
本発明において「金属サレン錯体の誘導体」とは、サレン骨格の炭素部位の水素の代わりに別の置換基が導入された金属サレン錯体を意味する。
【0019】
本発明の酸素分離膜は、主に、膜強度を担保する骨格を形成する多孔性物質と、その多孔性物質の中で選択的なガス透過性能をもたらす液体状の錯体と、その錯体を安定に取り巻くイオン液体によって構成される。そして、金属サレン錯体が平面配位した状態の中心金属イオンの軸方向の片方には、塩基性の窒素原子を有するアニオンが配位し、このアニオンは対になるカチオンとイオン液体を構成する。軸方向のもう一方に配位する酸素分子の結合性は、アニオン上の窒素の塩基性が強いほど有利になるので、本発明で用いるアニオンは第2級アミン構造を有することが好ましい。
なお、金属サレン錯体の金属イオンにイオン液体のアニオンが配位されてなることは、実施例に記載のように、可視・紫外分光法や呈色状態の観察などにより確認することができる。
【0020】
(金属サレン錯体)
本発明において用いることのできる金属サレン錯体は、サレンまたは置換基を有するサレン誘導体が金属イオンに対して4座の配位子として配位した構造を有する公知の金属錯体であり、例えば、一般式(化1):
【化1】
【0021】
(式中、Mは金属イオンであり、R
1a、R
1b、R
2およびR
3は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基もしくはハロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数2〜6のアシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基(シアノ基)、ビニル基、または炭素数6〜12のアリール基もしくはヘテロアリール基であり、R
1aおよびR
1bはそれらに結合する原子または原子団を介して互いに結合して環構造を形成してもよい)
で表される。
金属サレンまたはその誘導体の分子には、コバルト、鉄、マンガン、ニッケル、銅など様々な金属イオンが配位することが可能であるが、酸素分子の吸着性においてコバルト(II)イオンが最も好ましい。
【0022】
一般式(1)における置換基R
1a、R
1b、R
2およびR
3について説明する。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシルなどの直鎖または分岐鎖のアルキル基が挙げられる。
炭素数1〜6のハロアルキル基としては、上記のアルキル基の任意の水素原子が上記のハロゲン原子に置換されたアルキル基が挙げられ、具体的には、フルオロメチル、クロロメチル、ブロモメチル、トリフルオロメチルなどが挙げられる。
炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキトキシなどの直鎖または分岐鎖のアルコキシ基が挙げられる。
【0023】
炭素数2〜6のアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイルなどの脂肪族アシル基が挙げられる。
炭素数6〜12のアリール基およびヘテロアリール基としては、フェニル、トリル、キシリル、フルオロフェニル、クロロフェニル、ブロモフェニル、ナフチルなどが挙げられる。
R
1aおよびR
1bは、同一または異なって、それらに結合する原子または原子団を介して互いに結合して環構造を形成してもよく、置換基R
3の置換位は任意である。
【0024】
金属サレン錯体は、例えば、エタノールなどの溶媒中、相当するサリチルアルデヒドとエチレンジアミンとの脱水縮合反応によりサレンまたはサレン誘導体を合成し、得られたサレンまたはサレン誘導体を配位子として塩基性条件下で金属イオンと反応させることにより製造することができる。また、サレンまたはサレン誘導体の合成時に金属の酢酸塩を同時に加えることにより金属サレン錯体を得ることもできる。
【0025】
合成原料であるサリチルアルデヒドおよびエチレンジアミンにそれぞれ置換基を有する化合物を用いることにより、サレン誘導体として多様な構造が得られる。
サリチルアルデヒドの置換体としては、ジヒドロキシベンズアルデヒド、クロロサリチルアルデヒド、ブロモサリチルアルデヒド、フルオロサリチルアルデヒド、アミノサリチルアルデヒド、メチルサリチルアルデヒド、tert−ブチルサリチルアルデヒド、メトキシサリチルアルデヒド、エトキシサリチルアルデヒドなどが挙げられる。
また、エチレンジアミンの置換体としては、1,2−ジメチルエチレンジアミン、1,1,2,2−テトラメチルエチレンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,2−ジフェニルエチレンジアミンなどが挙げられる。
【0026】
これらの組み合わせにより得られる金属サレン誘導体としては、例えば酸素分子の吸着性において最も適した金属であるコバルトを用いた場合、コバルトサレン、すなわちN,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)の他、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−ジメチルエチレンジアミノコバルト(II)、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,1,2,2−テトラメチルエチレンジアミノコバルト(II)、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−シクロヘキサンエチレンジアミノコバルト(II)、N,N’−ビス(3−メチルサリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)、N,N’−ビス(5−メチルサリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)、N,N’−ビス(3−エトキシサリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)、N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルト(II)、N,N’−ビス(3−エトキシシサリチリデン)−1,1,2,2−テトラメチルエチレンジアミノコバルト(II)などが挙げられる。これらの中でも、酸素吸収性の点で、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)が特に好ましい。
また、日本特開平6−340683号公報ならびにPier Giorgio Cozzi、「Metal-Salen Schiff base complexes in catalysis: practical aspects」、Chemical Society Reviews、2004年、第33巻、p.410−421およびEric C. Niederhoffer 外2名、「Thermodynamics of Oxygen Binding in Natural and Synthetic Dioxygen Complexes」、Chemical Revlews、1984年、第84巻、p.137-203に記載かそれらの引用先のコバルトサレン錯体を用いることができる。
【0027】
(イオン液体)
本発明の酸素分離膜にはイオン液体が含まれる。1つは、必須成分である第1のイオン液体であり、金属サレン錯体の酸素親和性を高めるのに寄与する中心金属イオンに軸配位するイオン液体である。もう1つは、任意成分であり、第1のイオン液体と相溶性(相溶解性)を有する第2のイオン液体であり、中心金属イオンの軸方向への酸素分子の配位、配位サイト間の移動、膜内の拡散を助け、さらに金属サレン錯体の膜内での構造を安定化に寄与するイオン液体である。
【0028】
(第1のイオン液体)
第1のイオン液体は上記のようにアニオンとして第2級アミン構造を有するものが好ましく、イオン液体のアニオンとして汎用されかつ第2級アミン構造を有する、アミノ酸のアミノ基にアルキル鎖を有するN−アルキルアミノ酸が特に好ましい。アルキル鎖は炭素数1〜8のいずれでも用いることができるが、炭素数が増える程、配位するときの立体障害の影響が大きくなることから、炭素数は少ない方が好ましく、メチルおよびエチルが好ましく、メチルが特に好ましい。アミノ酸の種類の選択においても配位するときの立体的な影響を加味すると、最も分子量が小さいグリシンが好ましい。よって、アニオン性配位子としては、N−メチルグリシン(アミノ酢酸)が特に好ましい。
【0029】
(第2のイオン液体)
第2のイオン液体は、膜の酸素透過性を高める上で重要な役割を果たす。第2のイオン液体も第1のイオン液体と同様に金属サレン錯体の金属イオンへの適度な配位力を有する。金属イオン近傍に酸素分子が存在するときは、軸配位の片方には第1のイオン液体のアニオンが、もう片方には酸素分子が配位する。酸素分子が外れて金属イオン近傍に酸素分子が存在しないときは、軸配位の片方には第1のイオン液体のアニオンが、もう片方には第2のイオン液体のアニオンが配位していると考えられる。もし、第2のイオン液体のアニオンが存在しない場合は、軸配位の両方に第1のイオン液体のアニオンが配位することになり、このとき金属サレン錯体は固体として析出してしまう。再度、酸素の付与により元に戻るが、安定な液体状態を保つ上で第2のイオン液体の存在は重要である。
【0030】
錯体は、第1のイオン液体と相溶性を有する第2のイオン液体をさらに含み、第1のイオン液体は、金属サレン錯体またはその誘導体の中心金属イオンの軸配位子の片方に第1のイオン液体のアニオンが配位しているのが好ましい。
すなわち、本発明の酸素分離膜は、多孔性物質と、金属サレン錯体またはその誘導体と、アミン構造を有するアニオンと炭素数2〜20のアルキル鎖、アルキレンオキサイド鎖またはアルキルエーテル鎖を有するイミダゾリウム、脂肪族4級ホスホニウムまたはアンモニウムのカチオンとからなる第1のイオン液体と、第1のイオン液体と相溶性を有する第2のイオン液体とを含み構成される酸素分離膜であって、金属サレン錯体またはその誘導体の中心金属イオンの軸配位子の片方に第1のイオン液体のアニオンが配位してなる液体状の錯体が前記多孔性物質に内包されているのが好ましい。
【0031】
また、金属サレン錯体と第1のイオン液体の錯体は分子サイズが大きいので粘稠な液体であることが多い。そのため、この錯体の流動性を高めるために、第1のイオン液体との相溶性に優れ、かつ低粘度のイオン液体を混合することで、膜内を透過する酸素の拡散性を高めることができる。また通常の有機溶媒の添加と比べて、イオン液体は揮発性がないので膜内でも物質安定性がよい。
したがって、本発明の酸素分離膜に加える第2のイオン液体としては、適度な錯体への配位力と低粘度な物性を兼ね備えたものがよい。これらを踏まえ、第2のイオン液体のアニオンとして、一般的なイオン液体を構成するアニオンの中でも、配位性のアミノ基を有し、イオン液体として低粘度となり易い、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンが好ましい。
【0032】
第1のイオン液体と第2のイオン液体のアニオンの対となるカチオンは、同一でもよいし異なっていてもよい。第1のイオン液体のカチオンとして用いることができるものとして一般的なイオン液体を構成するホスホニウムやアンモニウムあるいはイミダゾリウムが挙げられ、その中で炭素数2〜20のアルキル鎖、アルキレンオキサイド鎖またはアルキルエーテル鎖を有するイミダゾリウム、脂肪族4級ホスホニウムまたはアンモニウムが好ましい。
第2のイオン液体のカチオンは第1のイオン液体のカチオンと同様のもの以外にも、一般的なイオン液体のカチオンとして用いられているピリジニウム、ピロリジニウム、スルフォニウムなどから広く選択でき、相溶性の点で問題がなければ、適用可能である。
【0033】
イオン液体は、上記のアニオンとなる化合物とカチオンとなるイミダゾリウム塩、ホスホニウム塩やアンモニウム塩とのアニオン交換反応により得ることができる。
イミダゾリウム塩としては、1,3−ジメチルイミダゾリウムブロミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムブロミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムブロミド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロミド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロミド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロミド、1−ブチル−3−エチルイミダゾリウムブロミド、1,3−ジブチルイミダゾリウムブロミド、1−ブチル−3−ヘキシルイミダゾリウムブロミド、1−ブチル−3−オクチルイミダゾリウムブロミド、1−メトキシエチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−メトキシブチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、そしてこれらのブロミドに対応するクロリドなどが挙げられる。
【0034】
ホスホニウム塩やアンモニウム塩としては、テトラメチルホスホニウムブロミド、テトラエチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラヘキシルホスホニウムブロミド、トリエチルヘキシルホスホニウムブロミド、トリエチルオクチルホスホニウムブロミド、トリエチル(2−メトキシエチル)ホスホニウムブロミド、トリブチルオクチルホスホニウムブロミド、トリブチルドデシルホスホニウムブロミド、トリブチル(2−メトキシエチル)ホスホニウムブロミド、トリヘキシルドデシルホスホニウムブロミド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムブロミド、そしてこれらのブロミドに対応するクロリドなどが挙げられる。
【0035】
これらのイミダゾリウム塩、ホスホニウム塩やアンモニウム塩と金属サレン錯体の軸配位に結合するアニオンとの組み合わせの全てが、必ずしも常温で液体になるとは限らない。したがって、これらの中でも、各アニオンとの組み合わせを形成したときに、融点が低く、イオン液体となり易い、トリエチルオクチルホスホニウムブロミド、トリブチルオクチルホスホニウムブロミド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムブロミド、トリエチルペンチルホスホニウムブロミドが好ましく、多くのアニオンと組み合わせでイオン液体を形成する、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムブロミド、トリブチル−n−オクチルホスホニウムブロミド、トリエチルペンチルホスホニウムブロミドが特に好ましい。
【0036】
(多孔性物質)
本発明において用いることのできる多孔性物質としては、イオン液体を含む液体状の錯体を細孔内に安定に保持し、ガス透過膜としての自立可能な強度を有するものであれば特に限定されない。錯体との親和性に優れ細孔内に閉じ込め易い材質としては、親水性のものが好ましく、なおかつ強度や耐薬品性などを考慮すれば、親水性の四フッ化エチレン樹脂またはポリフッ化ビニリデン樹脂のいずれかが好ましい。
【0037】
また、細孔径に関しては、大き過ぎると閉じ込める力が不十分になり、小さすぎるとガスが透過し難くなるので十分な透過流量を得ようとすると高い圧力が必要になる。そのため、本発明の酸素分離膜に用いる多孔性物質は、0.1〜0.5μmの細孔径(平均孔径)を有する膜形状が好ましい。
具体的な細孔径(μm)は、0.10、0.20、0.22、0.30、0.40、0.45、0.50である。
多孔性物質の膜厚に関しては、目的用途に必要となる強度を備えた上で、できるだけ薄い方が透過性に優れることから好ましい。高い透過性を得るには膜厚の上限は200μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。
具体的な膜厚の上限(μm)は、200、180、160、150、140、130、120、110、100、90、80、70、60、50、40、30、25、20、15、10、5である。
本発明において用いることのできる多孔性物質としては、例えば、実施例において用いているような、市販のメンブレンフィルターが挙げられる。
【0038】
(酸素分離膜の製造方法)
本発明の酸素分離膜は、多孔性物質に上記のコバルトサレン錯体などの金属サレン錯体、上記の第1のイオン液体、任意に上記の第2のイオン液体からなる液体状の錯体を内包された含浸膜であり、その製造工程は金属サレン錯体と、第1のイオン液体、任意に第2のイオン液体を含む混合液体を調製する工程と、その混合液体を多孔性物質に内包させる製造工程に分けられる。
混合液体を調製する工程の一実施形態としては、金属サレン錯体に第1のイオン液体を、酸素を含む雰囲気下で混合し、第1のイオン液体中に金属サレン錯体を溶解させる。次いで、任意に第2のイオン液体を加えて更に撹拌することで、混合液体を調製する方法が挙げられる。
【0039】
混合液体における金属サレン錯体、第1のイオン液体および第2のイオン液体の割合は、金属サレン錯体と第1のイオン液体とを1:1で配位させたときに最大量の酸素と配位させることができるため、等モルで混合するのがよく、第2のイオン液体は金属サレン錯体のモル数よりは多く、なおかつ含浸膜を作製するにあたり多孔性物質に浸み込ませる上で好適な粘度に調整するのに十分な量の検討により決定すればよく、例えば、モル比で1:1:3である。
【0040】
混合液体を多孔性物質に内包させる製造工程の一実施形態としては、上記混合液体をシャーレなどのガラス容器に薄く広げて、多孔性物質の膜全体が浸漬するようにガラス容器内に置く。浸漬させた状態で、1時間程度減圧状態にすることで、膜の内部に含まれ気泡を除去し、混合液体が膜内部まで行きわたらせることができる。その後、膜を混合液体から取り出し、表面に付着した混合液体をふき取ることで、含浸膜を作製する方法が挙げられる。
なお、多孔質物質に混合溶液が含浸されてなることは、目視では含浸後に多孔性物質の色が変化することで確認でき、また含浸前後で多孔性物質の膜のガス透過量をチェックすることで、細孔内に十分に混合溶液が浸みこんでいるかを確認することができる。
【0041】
(酸素分離膜の物性)
本発明の酸素分離膜は、空気中の酸素分圧において、酸素透過係数が10Barrer(1Barrer=1×10
-10cm
3(STP)・cm/(cm
2・s・cmHg))以上であり、かつ窒素に対する酸素の透過分離係数の比が2以上であるのが好ましい。
酸素透過係数が10Barrer未満では、膜中の酸素移動がし難くなり、本発明の効果が十分に発揮されないことがある。また、窒素に対する酸素の透過分離係数の比が2未満では、酸素の分離効率が低下して、本発明の効果が十分に発揮されないことがある。
具体的な酸素透過係数(Barrer)は、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、120、140、160、180、200、300、400、500、600、700、800、900、1000である。
具体的な窒素に対する酸素の透過分離係数の比は、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、11.0、12.0、13.0、14.0、15.0、16.0,17.0、18.0、19.0、20.0である。
なお、これらの物性は、例えば、実施例に記載のような、スイープ法によるガス透過量を測定するガス透過試験装置を用いて測定することができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
[イオン液体の調製]
エタノール100mlにトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムブロミド(シグマアルドリッチ社製、純度>95%)5.64g(10mmol)とアニオン交換樹脂(シグマアルドリッチ社製、Amberlite(登録商標) IBN78 hydroxide form)20gを加えて撹拌することにより、ヒドロキシドに置換反応を行った。その後、その反応液を吸引ろ過により分別し、N−メチルグリシン(東京化成工業社製、純度>98%)0.98g(11mmol)を20mlの純水に溶解させた水溶液を加えて反応させて、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムカチオンとN−メチルグリシンのアニオンからなるイオン液体4.88gを得た。
【0044】
[混合液体の調製]
次に、得られたイオン液体1.30g(有効成分2.3mmol)を第1のイオン液体として、これにN,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)(東京化成工業社製、純度>95%)2.35g(7.2mmol)とをエタノール50ml中に加えて、室温で3時間、撹拌混合したのち、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、コバルトサレン錯体構造を有する目的の液体1.82g得た。
ここで、可視・紫外分光法や呈色状態の観察などにより、コバルトサレン錯体のコバルトイオンにイオン液体のアニオンが配位されてなることを確認した。
得られた液体0.91g(有効成分1.0mmol)に対して、第2のイオン液体としてトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド2.26g(3.0mmol)を加えて撹拌混合することで、コバルトサレン錯体、第1のイオン液体、第2のイオン液体の混合モル比が1:1:3となる目的の混合液体を得た。
なお、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドは、既報(Dr.Tom Vander Hoogerstraete ら3名、「Selective Single-Step Separation of a Mixture of three Metal Ions by a Triphasic Ionic-Liquid-Water-Ionic-Liquid Solvent Extraction System」、Chemistry-A European Journal、2015年、第21巻、p.11757-11766)を参照に合成した。
【0045】
[含浸膜の調製]
得られた混合溶液をシャーレに取り、ここに膜厚35μm、直径47mm、細孔径0.10μmの親水性PTFEフィルター(ADVANTEC製、品名:H010A047A)を浸漬させた。その状態で約1時間、減圧脱気処理を行い、混合溶液を膜の細孔内に十分浸透させた。浸漬させた膜を取り出し、表面に付着した混合液体をふき取ることで、含浸膜(酸素分離膜)を得た。
【0046】
[酸素透過性膜評価]
図1に示すスイープ法によるガス透過量を測定するガス透過試験装置を用いて、酸素分離膜の膜性能を評価した。この方法では、ガス透過試験セルの片方にターゲットガスを導入し、もう一方に不活性ガスを等圧で導入することで、膜を透過したターゲットガスを検知器によって透過量を測定するものである。
具体的にはまずガス透過試験セル2に酸素分離膜1に取り付けた。このガス透過試験セル2を恒温槽3の中で、ガス透過試験セル2の上流側に評価ガス導入ライン8、評価ガス排気ライン9を、下流側に不活性ガス導入ライン10、透過ガスライン11を繋げて、恒温槽3内を評価温度30℃になるよう調節した。
【0047】
温度が定温になったのち、下記の実験条件に従って、評価用ガス4、不活性ガス5をレギュレーター6を介して、マスフローコントローラー(MFC)7で調整し導入した。透過したガスは透過ガスライン11を通りマイクロガスクロマトグラフィー装置(μGC、Varian社(現:Agilent社)製、型式:490−GC)12で検知し、成分の分析、定量を行った。得られた結果を
図2および
図5に示す。
また、酸素分圧が20kPaおよび1kPaのときの、酸素透過係数、窒素透過係数および窒素に対する酸素の透過分離係数の比(酸素・窒素選択性)をそれぞれ表1および2に示す。
なお、酸素分圧20kPaは、酸素:窒素の流量比1:4であり、空気組成と同等であり、この条件での評価結果は、空気に対する酸素分離の膜性能に相当する。
【0048】
(実験条件)
温度 :303K
圧力 供給 :100kPa
スウィープ :100kPa
ガス流量 全量 :100ml/min
供給 O
2 :1〜20ml/min
N
2 :(バランス)ml/min
スウィープ He:40ml/min
O
2分圧
:1〜20kPa
【0049】
(実施例2)
実施例1と同様にして、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムカチオンとN−メチルグリシンアニオンからなるイオン液体を得た。
次に、得られたイオン液体1.75g(有効成分3.1mmol)とN,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)(東京化成工業社製、純度>95%)0.48g(1.5mmol)とをエタノール50ml中に加えて、室温3時間、撹拌混合したのち、窒素バブリングによる脱酸素処理を1時間行ったのち、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、コバルトサレン錯体構造を有する目的の液体1.77g得た。
含浸膜の調製および酸素透過性膜評価は実施例1と同様の条件、手順で行った。
膜評価で得られた結果を
図2および
図5ならびに表1および表2に示す。
【0050】
(実施例3)
[イオン液体の調製]
エタノール100mlにトリブチル−nーオクチルホスホニウムブロミド(東京化成工業社製、純度>98%)3.96g(10mmol)とアニオン交換樹脂(シグマアルドリッチ社製、Amberlite(登録商標) IBN78 hydroxide form)20gを加えて撹拌することにより、ヒドロキシドに置換反応を行った。その後、その反応液を吸引ろ過により分別し、N−メチルグリシン(東京化成工業社製、純度>98%)0.98g(11mmol)を20mlの純水に溶解させた水溶液を加えて反応させて、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、トリブチル−nーオクチルホスホニウムカチオンとN−メチルグリシンのアニオンからなるイオン液体3.40gを得た。
【0051】
[混合液体の調製]
次に、得られたイオン液体1.52g(有効成分3.8mmol)を第1のイオン液体として、これにN,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)(東京化成工業社製、純度>95%)3.63g(11.2mmol)とをエタノール50ml中に加えて、室温で3時間、撹拌混合したのち、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、コバルトサレン錯体構造を有する目的の液体2.22g得た。
得られた液体1.10g(有効成分1.5mmol)に対して、第2のイオン液体としてトリブチル−nーオクチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド2.71g(4.5mmol)を加えて撹拌混合することで、コバルトサレン錯体、第1のイオン液体、第2のイオン液体の混合モル比が1:1:3となる目的の混合液体を得た。
なお、トリブチル−nーオクチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドは実施例1のトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドと同様の方法で合成した。
含浸膜の調製および酸素透過性膜評価は実施例1と同様の条件、手順で行った。
膜評価で得られた結果を
図3および
図5ならびに表1および表2に示す。
【0052】
(実施例4)
実施例3と同様にして、トリブチル−nーオクチルホスホニウムカチオンとN−メチルグリシンアニオンからなるイオン液体を得た。
次に、得られたイオン液体1.60g(有効成分4.0mmol)とN,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)(東京化成工業社製、純度>95%)0.66g(2.0mmol)とをエタノール50ml中に加えて、室温3時間、撹拌混合したのち、窒素バブリングによる脱酸素処理を1時間行ったのち、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、コバルトサレン錯体構造を有する目的の液体1.85g得た。
含浸膜の調製および酸素透過性膜評価は実施例1と同様の条件、手順で行った。
膜評価で得られた結果を
図3および
図5ならびに表1および表2に示す。
【0053】
(実施例5)
[ホスホニウムカチオン塩の合成]
三ツ口フラスコに1.0Mトリエチルホスフィン溶液(シグマアルドリッチ社製)100gを加えて加熱して還流状態にした。還流下において、1−ペンチルブロミド(東京化成工業社製、純度98%)15.58gを滴下して加えたのち、80℃でおよそ6時間撹拌し、反応を行った。反応終了後、白色の固体が生成していることが観察された。
得られた反応液を室温にて放冷した後、ヘキサン(和光純薬工業社製、純度96%)約300mlに対して撹拌しながら滴下し、その後1時間程撹拌することによって固体を十分に析出させた。この懸濁液を一晩静置し、固体を沈降させた後、固体生成物をナスフラスコに移し、エバポレーターで40℃約3時間減圧することによってヘキサンを完全に除去し、トリエチルペンチルホスホニウムブロミド16.72gの白色固体を得た。
【0054】
[イオン液体の調製]
エタノール100mlに合成したトリエチルペンチルホスホニウムブロミド2.70g(10mmol)とアニオン交換樹脂(シグマアルドリッチ社製、Amberlite(登録商標) IBN78 hydroxide form)20gを加えて撹拌することにより、ヒドロキシドに置換反応を行った。その後、その反応液を吸引ろ過により分別し、N−メチルグリシン(東京化成工業社製、純度>98%)0.98g(11mmol)を20mlの純水に溶解させた水溶液を加えて反応させて、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、トリエチルペンチルホスホニウムカチオンとN−メチルグリシンのアニオンからなるイオン液体2.27gを得た。
【0055】
[混合液体の調製]
次に、得られたイオン液体1.40g(有効成分5.0mmol)を第1のイオン液体として、これにN,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)(東京化成工業社製、純度>95%)4.88g(15mmol)とをエタノール50ml中に加えて、室温で3時間、撹拌混合したのち、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、コバルトサレン錯体構造を有する目的の液体2.44g得た。
得られた液体1.22g(有効成分2.0mmol)に対して、第2のイオン液体としてトリエチルペンチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド2.81g(6.0mmol)を加えて撹拌混合することで、コバルトサレン錯体、第1のイオン液体、第2のイオン液体の混合モル比が1:1:3となる目的の混合液体を得た。
なお、トリエチルペンチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドは実施例1のトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドと同様の方法で合成した。
含浸膜の調製および酸素透過性膜評価は実施例1と同様の条件、手順で行った。
膜評価で得られた結果を
図4および
図5ならびに表1および表2に示す。
【0056】
(実施例6)
実施例5と同様にして、トリエチルペンチルホスホニウムカチオンとN−メチルグリシンアニオンからなるイオン液体を得た。
次に、得られたイオン液体1.38g(有効成分5.0mmol)とN,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)(東京化成工業社製、純度>95%)0.81g(2.5mmol)とをエタノール50ml中に加えて、室温3時間、撹拌混合したのち、窒素バブリングによる脱酸素処理を1時間行ったのち、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、コバルトサレン錯体構造を有する目的の液体1.76g得た。
含浸膜の調製および酸素透過性膜評価は実施例1と同様の条件、手順で行った。
膜評価で得られた結果を
図4および
図5ならびに表1および表2に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
これらの評価値を、既報の酸素分離膜の透過係数と酸素と窒素の透過選択性の関係をまとめた論文(前出の非特許文献1、第392頁の
図1参照)にある高分子系材料と比較すると、本発明の酸素分離膜は、空気組成に対しては既存の膜材料と同等の性能を示し、酸素分圧が低い条件では既存の膜材料を上回る透過係数と選択透過性を有することが確認できる。