(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871928
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】積層車両グレージング
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20210510BHJP
C03C 17/245 20060101ALI20210510BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20210510BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20210510BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20210510BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20210510BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20210510BHJP
B60S 1/02 20060101ALI20210510BHJP
B61D 25/00 20060101ALI20210510BHJP
H05B 3/84 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
C03C27/12 L
C03C27/12 N
C03C17/245 Z
B32B7/025
B32B15/08 E
B32B17/06
B32B27/28 102
B60J1/00 H
B60S1/02 200
B61D25/00 A
H05B3/84
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-534040(P2018-534040)
(86)(22)【出願日】2016年12月21日
(65)【公表番号】特表2019-509956(P2019-509956A)
(43)【公表日】2019年4月11日
(86)【国際出願番号】GB2016054029
(87)【国際公開番号】WO2017115074
(87)【国際公開日】20170706
【審査請求日】2019年11月25日
(31)【優先権主張番号】15425115.1
(32)【優先日】2015年12月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591229107
【氏名又は名称】ピルキントン グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】ジョヴァンニ ガグリアルディ
(72)【発明者】
【氏名】マーク アンドリュー チェンバレン
(72)【発明者】
【氏名】レイ フランシス メロー
(72)【発明者】
【氏名】マルコ ロンチ
【審査官】
永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開平2−080353(JP,A)
【文献】
特開2002−284548(JP,A)
【文献】
特表2015−526375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C27/12
C03C15/00−23/00
B60J1/00−1/20
B32B17/00−17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層車両グレージングであって、
導電性コーティングでコーティングされた第1のガラスプライと、
第2のガラスプライと、
ポリビニルブチラールを含む中間層プライと、
導電性箔を含む第1のバスバーと、を含み、
前記導電性コーティングが、熱分解で堆積した透明導電性酸化物層を含み、前記熱分解で堆積した透明導電性酸化物層は、化学蒸着され、フッ素ドープ酸化スズを含み、且つ、前記導電性コーティングの最外層であり、
前記透明導電性酸化物層の平均表面粗さSaが8nm以上であり、
前記第1のバスバーが、前記導電性コーティング及び前記中間層プライの両方と直接接触していることを特徴とする、積層車両グレージング。
【請求項2】
前記熱分解で堆積した透明導電性酸化物が、ドープ酸化スズ、ドープ酸化亜鉛、スズ酸塩、またはこれらの酸化物のうちの2種以上の混合物を含む、請求項1に記載の積層車両グレージング。
【請求項3】
前記熱分解で堆積した透明導電性酸化物層の厚さが、50nm〜500nmの範囲である、請求項1または請求項2に記載の積層車両グレージング。
【請求項4】
前記コーティングされたガラスプライが、5Ω/スクエア〜30Ω/スクエアの範囲のシート抵抗を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層車両グレージング。
【請求項5】
中間層プライが、0.3mm〜1.5mmの範囲の積層前の厚さを有するポリビニルブチラールを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層車両グレージング。
【請求項6】
前記ガラスプライのうちの1つ以上の上または前記中間層プライの上に形成された周辺不透明帯を更に含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層車両グレージング。
【請求項7】
前記周辺不透明帯が、前記中間層プライ内に着色フレームとして形成されている、請求項6に記載の積層車両グレージング。
【請求項8】
前記グレージングの相対的に長い辺の前記グレージングの相対的に短い辺に対する長さの比が、1.5〜5の範囲である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層車両グレージング。
【請求項9】
前記導電性コーティングと電気的に接触している第2のバスバーを更に含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層車両グレージング。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の積層車両グレージングを含む車両ウィンドシールド。
【請求項11】
前記ウィンドシールドの面積が、0.9m2を超える、請求項10に記載の車両ウィンドシールド。
【請求項12】
25V〜250Vの電源を有し、請求項1〜9のいずれか1項に記載の積層車両グレージングを含む、列車。
【請求項13】
積層車両グレージングを製造するための方法であって、前記方法が、
a)導電性コーティングでコーティングされた第1のガラスプライを提供することと、
b)ポリビニルブチラールを含む中間層プライを提供することと、
c)第2のガラスプライを提供することと、
d)導電性箔を含む第1のバスバーを提供することと、
e)前記グレージングを積層することと、を含み、
前記導電性コーティングが、熱分解で堆積した透明導電性酸化物層を含み、前記熱分解で堆積した透明導電性酸化物層は、化学蒸着され、フッ素ドープ酸化スズを含み、且つ、前記導電性コーティングの最外層であり、
前記透明導電性酸化物層の平均表面粗さSaが8nm以上であり、前記第1のバスバーが、積層後に、前記導電性コーティング及び前記中間層プライの両方と直接接触するように配置されていることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層車両グレージング及び積層車両グレージングを製造するための方法に関する。
【0002】
結合ポリマーを使用して一緒に結合されたグレージング材料、特にガラスの2枚以上のシートを含む積層車両グレージングは、車両グレージング、特にウィンドシールドまたはリアグレージングとして有用である。
【0003】
積層車両グレージングを電気的に加熱する手段を提供することによってそのような積層車両グレージングに除霧及び/または除氷機能を提供することが有用である。導電性領域を有する積層車両グレージングを提供するために、加熱されるグレージングの部分にわたって、導電性インクの薄いトラックまたは薄いワイヤまたは積層体のプライのうちの少なくとも1つの表面上の導電性コーティングを用いて、プライのうちの1つが提供され得る。
【0004】
US−A−2013/082043は、任意の好適な導電性材料から形成され得る複数のセグメントを有する加熱可能な部材を有する航空機グレージングを開示している。
【0005】
US−A−6,034,353は、積層体内部に導電性加熱要素を有する航空機コックピット用積層車両グレージングを開示しており、電気ワイヤのネットワークを含む導電性加熱要素を例示している。
【0006】
残念ながら、ワイヤは、グレージングにおいて光学的歪みをもたらし、積層体内のポリマー中間層の特性に影響を及ぼし得る。
【0007】
積層体加熱用途に使用するための導電性コーティングは、通常、2つの誘電体層またはインジウムスズ酸化物(ITO)の層の間に埋め込まれた少なくとも1つの銀層を含む。そのようなITOまたは銀コーティングは、真空コーティングプロセス、例えば、スパッタリングによってプライのうちの少なくとも1つの表面上に堆積され得る。
【0008】
US−B−9,100,996は、電気的に加熱可能なコーティングを有する透明な窓枠を開示している。US−A−4,278,875は、ガラスの溶融シートの間に挟まれた数オングストロームの厚さの導電性酸化物のスパッタコーティングを含む航空機のウィンドシールドに使用するための電気的に加熱可能な窓ガラスを開示している。
【0009】
WO−A−03/011688は、積層体内の少なくとも2つの窓ガラスと、積層体の両側の窓ガラス上に2つの導電性コーティングと、電気接続装備と、シート間のエレクトロクロミック媒体と、を有する霧防止エレクトロクロミック航空機窓アセンブリを開示している。
【0010】
導電性コーティングまたはワイヤは、一般に、導電性コーティングまたはワイヤと電気的に接触し、かつ導電性コーティングまたはワイヤを電源に接続する働きをするバスバーを有する。
【0011】
バスバーがスパッタコーティングを損傷させ得るという点で、特に車両積層体の積層中に問題が生じ得る。これは、回路の電力供給中に形成する高温及び/または低温スポットをもたらし得る。そのような損傷は、廃棄部品をもたらし得るか、または使用中に部品の早期の故障を引き起こし得、バスバーを配列する困難性のため、0.9m
2以上のオーダーの比較的大きなグレージングにとって問題であり得る。
【0012】
提案されている解決策は、ガラス上にスクリーン印刷され、次いで焼かれてコーティングと直接接触する銀印刷されたバスバーの使用である(ガラスフリット中に銀粒子を通常含むシルバーインクを使用する)。
【0013】
EP−A−0869057は、バスバー上にスパッタリングされたITOを有する銀インクのバスバーであり得る電気的接続装備を有する、好ましくはITOの透明な導電性コーティングを有する吸音航空機窓を開示している。WO−A−2006/091531は、バスバー上にコーティングされた透明導電性コーティングを有するバスバーを含む電気的接続を有する同様の構成を開示している。
【0014】
しかしながら、印刷されたバスバーの使用は、より多い費用及びより複雑な製造プロセスならびにより多くの数の不合格部品をもたらし得る。
【0015】
そのような問題に対処することが本発明の目的である。
【0016】
したがって、本発明は、第1の態様において、
導電性コーティングでコーティングされた第1のガラスプライと、
第2のガラスプライと、
ポリビニルブチラールを含む中間層プライと、
導電性箔を含む第1のバスバーと、を含み、
導電性コーティングが、熱分解で堆積した透明導電性酸化物層を含み、第1のバスバーが、導電性コーティング及び中間層プライの両方と直接接触していることを特徴とする、積層車両グレージングを提供する。
【0017】
好ましくは、オンラインコーティングによってガラスプライ上に堆積され得る熱分解で堆積したコーティングは、特にスパッタコーティング(例えば、銀またはITOを含む金属酸化物のもの)を含む真空コーティングと比較して、プロセス及び生成物の堅牢性の点で非常に有利である。
【0018】
また、驚くべきことに、熱分解で堆積したコーティングは、先行技術のスパッタコーティングよりもバスバーとの良好な電気的接触を有することが本発明者らによって発見された。増大した堅牢性のために、熱分解コーティングは、車両、例えば列車用の比較的大きなグレージングに特に好適であり、バスバーの配列に起因する損傷の後、使用中に電圧が印加されたときのコーティングの破壊という先行技術のコーティング、例えばスパッタコーティングの問題を対処する(それらがより導電性であっても)。それ故、本発明によるグレージングは、使用中の部品の故障を低減するので、非常に有利である。
【0019】
通常、積層車両グレージングは、導電性コーティングと電気的に接触する第2のバスバーを更に含む。
【0020】
第1の、及び任意に第2のバスバーは、好ましくは金属箔を含む。金属箔は、好ましくは銅、より好ましくはスズめっきされた銅を含む。
【0021】
PVBを含む中間層プライは、PVBがコーティングされたまたはコーティングされていないガラスプライの両方に積層後に良好な接着性を示すので有利である。
【0022】
熱分解で堆積した透明導電性酸化物は、酸化スズ、ドープ酸化スズ、ドープ酸化亜鉛、またはこれらの酸化物のうちの2種以上の混合物を含み得る。他の可能なTCOには、非ドープ酸化亜鉛、アルカリ金属(カリウム、ナトリウム、またはリチウム)スズ酸塩、スズ酸亜鉛、スズ酸カドミウム、または2種以上の酸化物の混合物が含まれる。好ましい透明導電性酸化物は、ドープ酸化スズ、好ましくはフッ素ドープ酸化スズを含む。
【0023】
有用な熱分解で堆積したコーティングには、特に化学蒸着(CVD)コーティングが含まれる。好ましくは、コーティングはCVD金属酸化物、例えば、酸化スズのものである。ドープ酸化スズ(例えば、フッ素ドープ酸化スズ)及びドープ酸化亜鉛(例えば、アルミニウムドープ酸化亜鉛)を含むいくつかの金属酸化物は、透明導電性酸化物(TCO)コーティングを形成し得る。約1,500〜1,000Ω/スクエア未満のシート抵抗値を有するコーティングは、一般に、導電性コーティングであると考えられる。ガラス基板上の純粋な化学量論的酸化スズのコーティングは、一般に極めて高いシート抵抗を有する。いくつかの状況では、酸化スズコーティングは、酸化スズ中の酸素欠乏に少なくとも部分的に起因して、約350〜400Ω/スクエアのシート抵抗を有し、それを導電性とし得る。酸化スズの導電性を増大させるために、フッ素及び他の元素がドーパントとして使用され得る。
【0024】
熱分解透明導電性酸化物コーティングは、好ましくは化学蒸着透明導電性酸化物コーティング、より好ましくは大気圧化学蒸着(CVD)透明導電性酸化物コーティングである。熱分解透明導電性酸化物コーティングが、オンラインで堆積したCVD透明導電性酸化物コーティング(すなわち、フロートガラスリボンが400℃を超える温度にあるときにフロートガラス生成プロセス中に堆積される)であることが好ましい。
【0025】
熱分解透明導電性酸化物コーティングは、好ましくは、ガラスの表面上に堆積されるようなものであり(コーティングされたガラスは、好ましくは、熱分解で堆積した透明導電性酸化物層を含む導電性コーティングでコーティングされた第1のガラスプライを形成する)、その場合、ガラスの温度は、450℃〜725℃の範囲内、好ましくは550℃〜700℃の範囲内、より好ましくは575℃〜675℃の範囲内、最も好ましくは590℃〜660℃の範囲内であった。
【0026】
通常、導電性コーティングは、熱分解で堆積した透明導電性酸化物層に加えて、1つ以上の更なる層を含む。1つ以上の更なる層は、シリカ、酸化スズ(ドープ済または非ドープ)の層を含み得る。更なる層(複数可)は、導電性コーティングの光学的特性を調節するために使用されて、1つ以上のアルカリブロック層を提供し得るか、またはコーティングの他の層の成長及び堆積を改善し得る。導電性コーティングの最も好ましい実施形態は、ガラス基板上に、ガラス/SnO
2/SiO
2/FドープSnO
2の順で層を含む。
【0027】
熱分解で堆積した透明導電性酸化物層は、導電性コーティングの最外層(すなわち、積層車両グレージングにおける中間層と直接接触している層)であることが好ましい。これは、それがそれにより第1のバスバーとの電気的接触を改善させるので有利である。それ故、本発明の好ましい実施形態では、熱分解で堆積した透明導電性酸化物層は導電性コーティングの最外層であり、第1のバスバーが熱分解で堆積した透明導電性酸化物層と直接接触している。
【0028】
通常、透明導電性酸化物の層は、1Ω/スクエア〜70Ω/スクエア、好ましくは1Ω/スクエア〜60Ω/スクエア、より好ましくは1Ω/スクエア〜50Ω/スクエア、最も好ましくは1Ω/スクエア〜40Ω/スクエアの範囲のシート抵抗を有するようなものである。
【0029】
好ましくは、透明導電性酸化物の層のシート抵抗は、5Ω/スクエア〜70Ω/スクエア、好ましくは5Ω/スクエア〜50Ω/スクエア、より好ましくは5Ω/スクエア〜30Ω/スクエア、最も好ましくは5Ω/スクエア〜25Ω/スクエアの範囲のシート抵抗を有するようなものである。TCOコーティング(特にフッ素ドープ酸化スズコーティング)のシート抵抗は、コーティングの厚さを変化させることによって(一般に厚いコーティングほど低いシート抵抗を有する)、ドーパントの特質もしくは量を変化させることによって、または堆積中のガラス基板の温度を変えることによって変更され得る。
【0030】
透明導電性酸化物の層のシート抵抗の好ましい範囲のために、本発明による積層車両グレージングは、25V〜250V、好ましくは30V〜250V、最も好ましくは40V〜110Vの電源を有する車両に設置されるように適合されることが好ましい。
【0031】
一般に、透明導電性酸化物コーティングは、8〜20nmの範囲の平均表面粗さSa(ISO25178に従って決定され、Saは、5μm×5μmのスキャンサイズを使用してAFMによって決定される表面の算術平均高さとして本明細書で定義される)を有する。
【0032】
第1のバスバー(及び/または第2のバスバー)は、一般に任意の好適な方法によって、導電性箔、好ましくは金属箔から形成される(好ましくは予備形成される)。導電性箔は、(適切な場合には脱スプール後に)単に長さに切断され得るリボンまたはストリップ(通常はスプール上に保存されている)の形態であり得る。いくつかの場合では、例えば、導電箔についてより複雑な形状が要求される場合、第1のバスバー(及び/または第2のバスバー)は、導電箔のシートまたはリボン/ストリップのスタンピング及び/または切断によって形成され得る。
【0033】
バスバー(複数可)が導電箔、好ましくは金属箔から形成される場合、接着剤層を備えていることが有利である。
【0034】
通常、第1(及び第2)のバスバーは、20μm〜150μmの範囲の厚さを有し、通常、3mm〜15mmの範囲の幅を有する。バスバー部分は、ホットスポットが発生する機会を低減するのに十分な導電性を有することを確実にするために、薄すぎず、狭すぎないことが好ましい。
【0035】
多くの積層車両グレージングでは、グレージングは、第1のガラスプライ上及び/または第2のガラスプライ上に不透明帯または中間層プライ内に配置された不透明帯を更に含み得る。これは有利であるが、その理由は、積層車両グレージングが設置され、使用されているときに、バスバー及び任意のコネクタを隠し、UVを遮蔽することに加えて、グレージングを車両ボディに結合させる接着剤の劣化を防止するように不透明帯が適合され得るからである。
【0036】
不透明帯は、第1及び/または第2のガラスプライ上に設けられる場合、暗色の、通常黒色の帯をプライの周辺部分に印刷(例えば、スクリーン印刷)することによって形成され得る。不透明帯は、中間層プライ内に配置される場合、澄んだ透明な中間層の一部を取り囲む中間層の暗色の着色フレーム(例えば、暗色の着色PVB、好ましくは黒色の着色PVB)の形態で提供され得る。
【0037】
積層車両グレージングはまた、好ましくは(設置された後及び使用中に)グレージングの上部部分に配置された影帯を含み得る。影帯は、グレージングの上部部分にあるように(存在する場合、不透明帯の下に)配置される中間層材料の着色部分を提供することによって形成され得る。影帯は、積層車両グレージングが設置されるべき車両の使用者に日光の影を提供することが意図される。
【0038】
中間層は、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上のPVBのシートを(積層前に)含み得る。
【0039】
積層車両グレージングは、例えば、ポリカーボネート(靱性用)、またはポリエチレンテレフタレート(PET)の1つ以上の更なるプライを含み得る。そのような更なるプライは、好ましくは、積層体の内部に、中間層、好ましくはPVBの層間に挟まれている。
【0040】
本発明による積層車両グレージングの特に有利な用途は、0.9m
2以上、1.3m
2以上、1.5m
2以上、好ましくは1.7m
2以上、より好ましくは2m
2以上、最も好ましくは2.5m
2以上のオーダーの面積を有する大きな車両グレージングである。そのような車両グレージング(比較的重い)は、大きな陸上車両、例えば列車(例えば、ウィンドシールド)において特に有用である。
【0041】
積層車両グレージングは、4つの辺、通常は対向する相対的に長い辺の第1の対及び対向する相対的に短い辺の第2の対を有し得る。少なくとも第1の対または第2の対は一般に平行であり得る。第1の対または第2の対のみが一般に平行である場合、車両グレージングは一般に台形であり得る。第1の対または第2の対の両方が一般に平行である場合、車両グレージングは一般に長方形であり得る。
【0042】
相対的に長い辺またはその各々の長さは、好ましくは1.3m〜3.5mの範囲、より好ましくは2.1m〜3.1mの範囲、最も好ましくは2.4m〜3.0mの範囲である。
【0043】
相対的に短い辺またはその各々の長さは、好ましくは0.5m〜1.5mの範囲、好ましくは0.7m〜1.3mの範囲、最も好ましくは0.8m〜1.2mの範囲である。
【0044】
好ましくは、第1及び第2のバスバーは、第1のバスバーと第2のバスバーとの間に距離を置いて、積層車両グレージングの異なる辺の周辺部分に配置される。第1のバスバー及び第2のバスバーの長さならびに第1のバスバーと第2のバスバーとの間の距離によって形成される領域は、グレージングの加熱可能な領域を形成する。
【0045】
アスペクト比、すなわち、グレージングの相対的に長い辺の長さのグレージングの相対的に短い辺の長さに対する比が、1.5〜5の範囲、好ましくは2〜3.5の範囲、より好ましくは2.4〜3.0の範囲、最も好ましくは2.5〜2.9の範囲であることが好ましい。
【0046】
好ましくは、第1のバスバー及び第2のバスバーは、グレージングの相対的に長い辺に沿って延在する。これは有利であるが、その理由は、第1及び第2のバスバー間の距離がそれにより比較的短く、熱分解で堆積した導電性酸化物コーティングのシート抵抗が比較的高い場合でも、良好な除霧または除氷特性を可能にするためである。
【0047】
本発明による積層車両グレージングは一般に平坦であり得るかまたは湾曲され得る。
【0048】
本発明による積層車両グレージングの加熱可能領域は、好ましくは比較的広く、一般に積層車両グレージングの領域の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、更により好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%である。
【0049】
本発明の第2の態様では、第1の態様による積層車両グレージングを含む、2m
2を超える領域を有する車両用(好ましくは列車用)ウィンドシールドが提供される。
【0050】
第3の態様では、本発明は、25∨〜250∨の電源を有し、かつ第1の態様による積層車両グレージングを含む列車を提供する。
【0051】
積層車両グレージングは、高温及び、通常は、高圧(例えばオートクレーブ内)を使用する積層プロセスによって作製され得る。
【0052】
第4の態様では、積層車両グレージングを製造するための方法であって、その方法が、
a)導電性コーティングでコーティングされた第1のガラスプライを提供することと、
b)ポリビニルブチラールを含む中間層プライを提供することと、
c)第2のガラスプライを提供することと、
d)導電性箔を含む第1のバスバーを提供することと、
e)グレージングを積層することと、を含み、
導電性コーティングが、熱分解で堆積した透明導電性酸化物層を含み、第1のバスバーが、積層後に、導電性コーティング及び中間層プライの両方と直接接触するように配置されていることを特徴とする、方法が提供される。
【0053】
これより、添付の図面を参照して本発明を例示の目的でのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】本発明による第1の積層車両グレージングの概略平面図である。
【
図2】
図1の積層車両グレージングの概略断面図である。
【
図3】本発明による第2の積層車両グレージングの概略平面図である。
【
図4】
図3の積層車両グレージングの概略断面図である。
【0055】
図1は、本発明の実施形態に従う、実施例1において一般的に(ハーフスケールで)記載された列車のウィンドシールド2の平面図を示している。列車のウィンドシールド(フルサイズ)は、およそ、幅が2.7m、高さが1mのサイズであり、積層車両グレージング4を含む。当然ながら、他の種類の積層車両グレージングが構築され得、本発明の範囲内に入り得る。
【0056】
列車のウィンドシールド2は、コーティング切断ライン3の間におよそ0.5mの高さで、列車のウィンドシールド2の幅にわたって電気的に加熱可能な部分6を含む。電気的接続は、ウィンドシールドの底部端部分に沿って、かつ内方へ短い間隔で配置された第1のバスバー8、及び上部端部分に沿って、かつ内方へ短い間隔で配置された第2のバスバー9によって作製される。上部及び底部は、列車に設置されて使用されているときの列車のウィンドシールドの方向を指し、
図1に示される通りである。第1のバスバー8及び第2のバスバー9は、設置時に列車の電気系統に接続するための接続部分8a及び9aをそれぞれ有する。電気系統は、通常、25V〜250V、より通常的には50Vまたは100V(A.C.またはD.C.)で稼働する。グレージング4の周辺部分の周りのフレーム11には、以下に記載されるように、中間層材料の黒色フレームから形成された不透明帯がある。
【0057】
図2は、列車のウィンドシールド2の概略断面図を示す。第1のバスバー8及び第2のバスバー9は、約4mmの厚さの第1のガラスプライ10の積層内側表面に熱分解で堆積した約15Ω/スクエアの公称シート抵抗のフッ素ドープ酸化スズの透明導電性酸化物層16と電気的に接続する。第1のガラスプライ10は、2つの中間層プライ:ポリビニルブチラール(PVB、約0.76mm厚)の第1の中間層プライ12及びポリビニルブチラール(PVB、約0.38mm厚)の第2の中間層プライ13によって約4mm厚の第2のガラスプライ14に積層される。第2の中間層プライ13は、不透明帯を形成するその周辺の周りに接着された黒色の着色PVBのフレーム11を有する。
【0058】
図3は、本発明の第2の実施形態による列車のウィンドシールド102の平面図を示している。列車のウィンドシールドは、およそ、幅が2.7m、高さが1mのサイズであり、積層車両グレージング104を含む。当然ながら、他の種類の積層車両グレージングが構築され得、本発明の範囲内に入り得る。
【0059】
列車のウィンドシールド102は、第1のバスバー108及び第2のバスバー109によって電気的接続がなされる、列車のウィンドシールド102の全幅及びおよそ0.5mの高さにわたる電気的に加熱可能な部分106を有する。
【0060】
図4は、第1のバスバー108の領域における列車のウィンドシールド102の概略断面図を示している。第1のバスバー108及び第2のバスバー109は、約4mmの厚さの第1のガラスプライ110の積層内側表面に熱分解で堆積した公称で約15Ω/スクエアのシート抵抗のフッ素ドープ酸化スズの透明導電性酸化物層116と電気的に接続する。第1のガラスプライ110は、積層車両グレージングを構成するポリビニルブチラール(PVB)の中間層プライ112によって約4mm厚の第2のガラスプライ114に積層される。中間層プライ112は0.3〜1.2mm厚であり得る。
【0061】
積層車両グレージング4または104は、一般に以下に記載されるように作製され得る。以下の材料のプライが以下の順で互いの上に載せられる:Fドープ酸化スズの熱分解で堆積した透明導電性酸化物層を含む導電性コーティングでコーティングされた第1のガラスプライ、PVBの第1の中間層プライ(0.76mm厚)、PVBの第2の中間層プライ(0.38mm厚)、及び第2のガラスプライ。第1及び第2のバスバーは、第1の中間層プライ上に提供され、導電性コーティングと直接電気的に接触して配置される。バスバーは、厚さが約100μmで幅が約10mmのものであり、接着剤の層を有するスズめっきされた銅箔ストリップのスプールから得て、自己接着性ストリップを作製した。接着剤は約50μmの厚さを有していた。バスバーを自己接着性ストリップを使用して中間層プライに接着させた。第2の中間層プライは、積層後に不透明帯を形成するためにそれに接着された黒色PVBの周辺フレームを有していた。バスバーは、不透明帯よって隠されるように配置された。
【0062】
積層車両グレージングは、積み上げられた積層体の周りで真空バッグを使用する第1の工程を含む方法によって積層され得、その場合、おおよそ室温で真空をかけて中間層プライ(複数可)をガス抜きする。第2の工程では、依然として真空下で、中間層プライが第1及び第2のガラスプライと結合するのに十分に軟化するように、第1及び第2のガラスプライを80℃〜110℃の範囲の温度に加熱する。第3の工程では、第1及び第2のガラスプライを、6バール〜14バールの圧力範囲及び120℃〜150℃の温度範囲でオートクレーブ内で一緒に積層する。
【0063】
これより、フッ素ドープ酸化スズの導電性層でコーティングされたガラスプライからなる積層車両グレージングのサンプルを、PVB中間層を使用して第2のガラスプライに積層した実施例によって本発明を更に説明する。積層前に金属箔バスバーを導電層と直接接触させて(積層体内に)配置した。
【実施例】
【0064】
電気的特性
実施例のシート抵抗は、4点プローブ(Guardian Model SRM232)を有する表面抵抗率計を使用して決定した。測定は各サンプルについて同じ厚さで取得し、3回の測定の平均を取得した。
原子間力顕微鏡
【0065】
平均表面粗さSa及びSqを含むサンプルの粗さを決定するためにAFM(Bruker、Nanoscope Dimension Icon)を使用した(ISO 25178−2:2012、“Geometric Product Specifications(GPS)−Surface texture:Areal−Part 2:Terms,definitions and surface texture parameters”、2012年公開、Saはその中で表面の算術平均高さとして定義されている)。
【0066】
研磨の前後に、異なる公称抵抗のフッ素ドープ酸化スズ(外側層として)でコーティングされたフロートガラスの熱分解でコーティングされたガラス基板の粗さは、表1に示す通りである(スキャンサイズ5μm×5μm)。これらのサンプルのいずれも本発明での使用に好適であり、8nmを超える粗さSaは、コーティングされた表面とバスバーとの間の電気的接続の向上を提供するのに有利であろう。
【表1】
【0067】
基板
実施例では、コーティングされたガラスプライは、(外側層として)フッ素ドープ酸化スズでコーティングされたフロートガラスのものであった。
【0068】
コーティングされたガラスプライは、15Ω/スクエアのシート抵抗を有するコーティングされたガラスプライを生成するためのドープ酸化スズ層を有する、形成ガラス/非ドープSnO
2/SiO
2/FドープSnO
2のものであった。ドープ酸化スズコーティングの厚さを変化させることによって、シート抵抗も変化され得る。
【0069】
フッ素ドープ二酸化スズ層は、オンラインCVDコーティングを使用して堆積させた。これは、600〜650℃のガラス基板の温度でのフロートガラス生成プロセス中に行われる。ジメチルスズジクロライド(DMT)の形態のスズ含有前駆体を177℃に加熱し、ヘリウムの形態のキャリアガスの流れをDMTに通す。その後、ガス状酸素をDMT/ヘリウムガス流に添加する。同時に、無水フッ化水素(HF)の形態のフッ素含有前駆体を204℃に加熱する。追加の水を添加して、ガス状のHFと水との混合物を生成させる。2つのガス流を混合し、約395リットル/分の速度で高温のガラス表面に送達する。DMT対酸素対HFの比は、3.6:61.3:1である。得られたフッ素ドープ酸化スズ層の厚さはおよそ320nmであり、それは、12〜13Ω/スクエアとして測定された、約15Ω/スクエアの公称シート抵抗を有する。
【0070】
実施例1.
図1及び
図2に図示されている一般に1.4m×0.55mのサイズの列車のウィンドシールドを調製した。
【0071】
PVBシート(0.76mm厚、Saflex)ならびに澄んだ黒色のPVBシート(0.38mm厚)を寸法安定化のために20〜22℃で24時間保存した。積層体全体を覆うための0.76mm厚のシート及び黒色のフレームを有する澄んだ0.38mmのシートのサイズにPVBシートを切断した。自己接着性のスズめっきされた銅箔ストリップバスバー(スプールから切断8mm×0.05mm、0.04Ω/m)を0.76mmのPVBシートに接着させた。薄緑色ガラス(3.84mm厚)を切断し、手動で粉砕し、洗浄し、すすいだ。上述のように洗浄された熱分解コーティングされたガラス(測定されたシート抵抗12〜13Ω/スクエア)を処理して導電性コーティングをライン3(
図1参照)に沿って除去した。緑色のガラス上にPVB二重物を載せた。バスバー及び上部に置かれたコーティングされたガラスにコネクタを適用し、コーティング除去ラインがバスバーに対して良好に配置されていることを確認した。ガラスの不一致を避けるために、PVBの過剰量をトリミングし、いくつかの接着テープ片をガラスの端に置いた。積み上げたサンドイッチ体をオーブン内の真空バッグに入れた。25分間加熱せずに真空を適用し、次いでオーブン温度を140℃に上昇させ、30分間維持した。室温に冷却した後、ガラスは既に十分に透明に見え、次いで標準的なオートクレーブサイクルにかけた。積層後、バスバー間の全回路抵抗は4.7Ω〜4.9Ωで測定された。
【0072】
PSA B258510規格による除霜試験を行った。サンプルを−18℃±2℃で4時間コンディショニングし、次いで1cm
2のガラス表面当たり0.045cm
3の水を2工程で適用した。その後、電位を印加し(50V dc)、グレージングを1分間隔で観察した。測定された電流は10.8〜11.0Aで比較的一定であった。視認性は15分後に回復した。
【0073】
別の試験では、電圧を印加することによってサンプルを室温(21℃)から加熱し、温度を30分後に測定した。このより短い試験の目標は、ホットスポット及び最高作動温度を探すことである。最高作動温度は52.5℃〜57.8℃でかなり一定になった。
【0074】
実施例2、3ならびに比較例A及びB.
実施例2及び3ならびに比較例A及びBでは、試験サンプルは一辺がおよそ30cmであった。
【0075】
比較例A及びBでは、コーティングされた表面は、銀層の両側に、及び銀層の間に、AlN、ZnSnxOy、ZAO、SiAlxNy、及びZnOの誘電体層(各層は数nmのオーダーの厚さのものである)を有するオフラインの(スパッタリングされた)三重の銀層を含んでいた。銀層の総厚さは約25nmである。
【0076】
実施例2及び3ならびに比較例では、サンプルを、積層体の上部及び底部に配置されるスズめっきされた銅ストリップ箔バスバー(スプールから切断)を用いて積層した。バスバーは、感圧接着剤を使用して0.76mm厚のPVBに取り付けられ、バスバーのコーティングに対する接続は物理的接触のみによって達成された。サンプルを標準的な予備ニップ及びオートクレーブ条件を介して積層した。サンプルを表2に要約する。
【表2】
【0077】
積み上げ後及びオートクレーブ後のサンプルの回路抵抗を測定した。実施例及び比較例の回路抵抗を表3に示す。
【表3】
【0078】
サンプルは、600W/m
2(およそ30cm平方のサンプルでは50.4W)で電力を供給することによって試験し、サンプルの回路抵抗(表3参照)を考慮して、計算された電位及び予測された電流を決定した。計算された電位を印加し、実際の電流を測定した。結果を表4に示す。熱分解で堆積したコーティングを用いた実施例2及び3の電流引き込みは、予測された電流に近いものであった。対照的に、比較例Aでは、試験中に電流が3.0Aに増加し、底部バスバーに沿ってホットスポットが観察された。比較例Bでは、試験中に電流が0.2Aに増加した。光る「スパーク」が上部のバスバーに沿って観察された。これらの結果は、スパッタコーティングが試験中に破壊した一方で、熱分解コーティングは一般に影響を受けず、良好に機能したことを示している。
【表4】
【0079】
銀インクのプリントバスバーと比較して金属箔バスバーを使用することの利点は、銀インクを焼くプロセスがグレージングに光学的歪みを引き起こし得ることである。
WO−A−2006/091531では、バスバーがガラス基板上にあり、導電性コーティングがバスバーの上部に適用されていた。バスバーがフロートガラスリボン上に存在しなかったため、導電性コーティングの最外層としての熱分解で堆積した透明導電性酸化物層をオンラインで適用することができなかった。
【表5】