(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
真空チャンバ(10)内で基板(200)を金属イオンならびにアルゴンイオン、クリプトンイオン、ネオンイオン、キセノンイオンおよびヘリウムイオンの群から選択される希ガスイオンにさらすことと、前記基板(200)上に負の電気ポテンシャル(P1、P2)を印加することとによって表面コーティングのための前記基板(200)を前処理するための方法であって、前記基板(200)が少なくとも2つのステップ(1000、2000)で前処理され、前記ステップが前記真空チャンバ(10)内で連続して実行され、前記第1のステップ(1000)は、
− 前記真空チャンバ(10)内にアルゴンイオン、クリプトンイオン、ネオンイオン、キセノンイオンおよびヘリウムイオンの群から選択される希ガスイオンを主として含むプラズマを供給することと、
− 前記基板(200)上に第1の負の電気ポテンシャル(P1)を印加することと
を含み、前記第2のステップ(2000)は、
− 前記真空チャンバ(10)内に金属イオンを主として含むプラズマを供給することと、
− 前記基板(200)上に第2の負の電気ポテンシャル(P2)を印加することであり、前記第1の電気ポテンシャル(P1)が前記第2の電気ポテンシャル(P2)よりも低い、第2の負の電気ポテンシャル(P2)を印加することと
を含み、
前記第1の負のポテンシャル(P1)の大きさが100〜450Vである、
表面コーティングのための基板(200)を前処理するための方法。
前記第2の電気ポテンシャル(P2)の大きさが、金属イオンが前記基板(200)の前記表面へと導入されるように選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
物理蒸着(PVD)は、例えば被加工物の耐摩耗性を上げるために被加工物の上へコーティングを適用するための方法である。多くの場合、被加工物の表面をPVD装置内でエッチングして、コーティングの良好な付着を確実にする。エッチングは、PVD装置内にアルゴンイオンのプラズマを生成し、基板から有機汚染物および自然酸化膜、または他の不純物を除去するために、基板に電気ポテンシャルを印加して基板に向けてアルゴンイオンを加速することによって実行することができる。また、被加工物の表面内に金属イオンを導入すること、いわゆる注入によって、コーティングの付着を改善することができる。金属イオンの注入は、金属ターゲットの存在下でアルゴンエッチングを実行することによって典型的には実現され、その結果、アルゴンイオンと金属イオンとの両者がプラズマ中に生成される。
【0003】
EP126003B1は、HIPIMSモードで動作しているPVD装置においてアルゴン雰囲気中でクロムイオンによって基板を前処理する方法を記述している。基板が同時にエッチングされかつ金属イオン注入を受けるように、PVD装置を動作させる。
【0004】
DE102008021912は、基板の磁性スパッタリング用の機械を記述している。この機械は、HIPIMSモードで動作して、基板の表面をエッチングしかつ基板の表面内に金属イオンを導入して後に堆積するコーティングの付着を向上させるためにアルゴン雰囲気中で金属イオンを生成する。この機械は、2つのHIPIMS電源を備え、これら2つの電源は、基板の前処理の間中、雰囲気中のイオン密度に対して基板の電気ポテンシャルを最適化するために同期される。
【0005】
知られている前処理法の欠点は、これら前処理法が基板のエッジの選択エッチングを生じさせる場合があることである。すなわち、高濃度のアルゴンイオンおよび金属イオンが、基板のエッジに引き寄せられ、エッジの摩耗および過剰な加熱を引き起こすことになる。選択エッチングが特に、切削工具の前処理において問題であるのは、選択エッチングがエッジの当初の幾何学的形状の多くを失わせることがあり、したがって工具の性能を低下させることがあるためである。
【0006】
知られている前処理法でのさらなる欠点は、同時のエッチングおよびイオン注入が結果的に長い前処理時間をもたらし、その結果として基板の過剰な加熱をもたらすことである。基板の過剰な加熱は、基板の重要な材料特性の劣化を結果としてもたらし、例えば硬質金属において脆性を引き起こす場合がある。
【0007】
したがって、上に述べた問題のうちの1つまたは複数を解決するまたは少なくとも緩和する表面を前処理するための改善された方法を実現することが、本開示の目的である。さらに、基板の特性を維持した状態で基板にエッチングおよびイオン注入を施す基板の前処理のための方法を実現することが、本開示の目的である。本開示のさらなる目的は、選択エッチングを低減させ、かつ基板の過剰な加熱を回避するような基板の前処理のための方法を実現することである。また、本開示のさらなる目的は、表面を前処理するための効果的な方法を実現することである。
【発明の概要】
【0008】
本開示の第1の態様によれば、上記の目的のうちの少なくとも1つが、真空チャンバ10内で基板を金属イオンならびにアルゴンイオン、クリプトンイオン、ネオンイオン、キセノンイオンおよびヘリウムイオンの群から選択される希ガスイオンにさらすことと、上記基板200上に負の電気ポテンシャル(P1、P2)を印加することとによって、表面コーティングのための基板200を前処理するための方法であって、基板200が少なくとも2つのステップで前処理され、上記ステップが、真空チャンバ内でその場で連続して実行されることを特徴とし、第1のステップが、
− 真空チャンバ10内にアルゴンイオン、クリプトンイオン、ネオンイオン、キセノンイオンおよびヘリウムイオンの群から選択される希ガスイオンを主として含むプラズマを供給することと、
− 基板200上に第1の負の電気ポテンシャル(P1)を印加することと
を含み、第2のステップ2000が、
− 真空チャンバ10内に金属イオンを主として含むプラズマを供給することと、
− 基板上に第2の負の電気ポテンシャル(P2)を印加することであり、第1の電気ポテンシャル(P1)が第2の電気ポテンシャル(P2)よりも低い、第2の負の電気ポテンシャル(P2)を印加することと
を含み、
第1の負のポテンシャル(P1)の大きさが100〜1500Vである、
表面コーティングのための基板200を前処理するための方法によって達成される。
【0009】
本開示による方法は、基板の表面近くの領域に注入した金属で洗浄しエッチングした表面を提供し、これによって続いて堆積したコーティングの付着の改善を得ている。本開示の方法によれば、基板の表面は、先ず、アルゴンイオン、クリプトンイオン、ネオンイオン、キセノンイオンおよびヘリウムイオンの群から選択される希ガスイオンを主として含むプラズマを用い、かつ基板に印加される比較的低い電気ポテンシャルを用いるエッチングステップを受ける。プラズマの組成および低い電気ポテンシャルは、主に希ガスイオンが低い運動エネルギーで基板に向けて加速されるという結果をもたらす。これによって、比較的穏やかなエッチング効果が実現され、自然酸化膜および不純物が、基板の選択エッチングに起因する基板の実質的な摩耗なしに除去される。表面へと金属イオンを導入するその後のステップは、表面に印加される比較的高い電気ポテンシャルで実行される。しかしながら、注入ステップがエッチングステップとは別々であるので、基板の加熱が最小にされ、その負の効果が回避されるように短く維持することができる。
【0010】
発明の方法は、PVD装置内でその場で実行されてもよく、上記が方法を効果的にし、そして低コストで実行することを可能にする。
【0011】
好ましくは、本開示による方法は、アルゴン、クリプトン、ネオン、キセノンおよびヘリウムの群から選択される希ガスまたは複数の希ガスの混合物を含む雰囲気と、HIPIMSモードで動作可能なマグネトロン20と、金属ターゲット21とを含む真空チャンバ10内で実行され、第1のステップは、
− アルゴンイオン、クリプトンイオン、ネオンイオン、キセノンイオンおよびヘリウムイオンの群から選択される希ガスイオンがプラズマ中に主として存在するようにマグネトロン20を動作させること
を含み、第2のステップは、
− 金属イオンがプラズマ中に主として存在するようにマグネトロン20を動作させること
を含む。
【0012】
大電力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)が、真空チャンバ内でアルゴン、クリプトン、ネオン、キセノンおよびヘリウムの群から選択される希ガスの雰囲気をイオン化させるため、およびやはり金属イオンを生成するために好ましくは使用される。HIPIMS、すなわち非常に高エネルギーの短い放電を生成することの特徴は、本開示による方法の異なるステップの間中、プラズマ中のイオンのタイプおよび量を正確に制御することを可能にする。
【0013】
特に、基板の表面へと金属イオンを注入する第2のステップの間中、HIPIMSモードでマグネトロンを動作させることが好ましい。上記は、HIPIMSによって生成される高エネルギーの短い放電が非常に短い時間間隔で基板の表面に注入されるに足る金属イオンを生成することを可能にするので有利である。上記は、基板の表面を加熱することを最小にすることまたは回避することさえ許容する。
【0014】
代替形態によれば、本開示の方法は、アルゴン、クリプトン、ネオン、キセノンおよびヘリウムの群から選択される希ガスまたは複数の希ガスの混合物を含む雰囲気と、HIPIMSモードで動作可能なマグネトロン20と、金属ターゲット21と、グローフィラメント14とを含む真空チャンバ10内で実行され、第1のステップは、
− アルゴンイオン、クリプトンイオン、ネオンイオン、キセノンイオンおよびヘリウムイオンの群から選択される希ガスイオンを主として含むプラズマを得るように、所定の時間にわたりグローフィラメント14を動作させることを含み、第2のステップ2000は、
− プラズマが金属イオンを主として含むようにするためにマグネトロン20を動作させることを含む。
【0015】
グローフィラメントを使用することによってアルゴン、クリプトン、ネオン、キセノンおよびヘリウムの群から選択される希ガスの雰囲気をイオン化させることは、アルゴン、クリプトン、ネオン、キセノンおよびヘリウムの群から選択される非常に大量の希ガスイオンを有するプラズマを供給する。グローフィラメントが真空チャンバ内の希ガスをイオン化させる電子を放出するので、上記はその通りである。しかしながら、電子が、ターゲットから金属を蒸発させるに足るエネルギーを持たず、アルゴン、クリプトン、ネオン、キセノンおよびヘリウムの群から選択される希ガスイオンは、ターゲットから金属イオンをスパッタリングで飛ばすに足る質量エネルギーを持たない。これゆえ、エッチングステップの間のプラズマ中の金属イオンの量は意味を持たない。
【0016】
本開示による方法の第1のステップにおいてグローフィラメントを使用することは、このように本質的にアルゴン、クリプトン、ネオン、キセノンおよびヘリウムの群から選択される希ガスイオンだけがエッチングの間中に基板の表面に衝突するという結果をもたらす。上記は、基板に印加する低い電気ポテンシャルと組み合わせて、順に基板の鋭い形体の最小の選択エッチングで基板の表面の非常に穏やかなエッチングを与える。
【0017】
本開示は、やはり、上に開示した前処理ステップおよびその後のコーティングステップを含むコーティングした基板を製造するための方法にも関する。
【0018】
アルゴンイオン、クリプトンイオン、ネオンイオン、キセノンイオンおよびヘリウムイオンの群から選択される希ガスイオンは、好ましくはアルゴンイオンもしくはクリプトンイオンまたはアルゴンイオンとクリプトンイオンとの混合物である。最も好ましくは、希ガスイオンは、アルゴンイオンである。
【0019】
アルゴン、クリプトン、ネオン、キセノンおよびヘリウムの群から選択される希ガスまたは複数の希ガスの混合物は、好ましくはアルゴンもしくはクリプトンまたはアルゴンとクリプトンとの混合物である。最も好ましくは、希ガスは、アルゴンである。
【0020】
好ましくは、金属イオンは、元素の周期律表の4族、5族または6族から選択される金属イオンまたは複数の金属イオンの混合物である。好ましくは、金属イオンは、クロムイオンもしくはチタンイオンまたはクロムイオンとチタンイオンとの混合物である。
【0021】
好ましくは、金属ターゲットは、元素の周期律表の4族、5族または6族から選択されるいずれかの金属または複数の金属の組合せを含む、またはこれらから構成される。好ましくは、金属ターゲットは、クロムもしくはチタンまたはクロムとチタンとの混合物を含む、またはこれらから構成される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
プラズマ中の「アルゴンイオン、クリプトンイオン、ネオンイオン、キセノンイオン、およびヘリウムイオンの群から選択される希ガスイオンを主として」とは、プラズマ中のイオンのうちの50〜100%または75〜100%または90〜100%または95〜100%または98〜100%または99〜100%が、アルゴンイオン、クリプトンイオン、ネオンイオン、キセノンイオン、およびヘリウムイオンの群から選択される希ガスイオンにより構成されることを意味する。プラズマ中の「金属イオンを主として」とは、プラズマ中のイオンのうちの50〜100%または90〜100%または75〜100%または95〜100%または98〜100%または99〜100%が、金属イオンにより構成されることを意味する。
【0024】
「アルゴン、クリプトン、ネオン、キセノン、およびヘリウムの群から選択される希ガスまたは複数の希ガスの混合物を含む雰囲気」という表現は、雰囲気がアルゴンもしくはクリプトンもしくはネオンもしくはキセノンもしくはヘリウムのうちの1つを含むことができるまたはこれらのガスのうちのこれら2つ以上の任意の混合物により構成されてもよいことを本明細書では意味する。
【0025】
「複数の希ガスの混合物」とは、アルゴン、クリプトン、ネオン、キセノン、およびヘリウムの群から選択される2つ以上のガスの混合物を本明細書では意味する。ガスは任意に選択されてもよい。好ましくは、複数の希ガスの混合物はアルゴンおよびクリプトンにより構成される。
【0026】
大電力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)は、大電力パルスマグネトロンスパッタリング(HPPMS)としてもやはり知られ、マグネトロンスパッタリング堆積に基づく薄膜の物理蒸着のための方法である。HIPIMSは、<10%の低デューティーサイクル(オン/オフ時間比)で数十マイクロ秒の短いパルス(インパルス)でkW・cm
−2のオーダーの大電力密度を利用している。HIPIMSの際立った特徴は、スパッタリングした金属の高いイオン化の程度および分子状ガス解離の高い割合である。
【0027】
「電気ポテンシャルの大きさ」という表現が使用されるときには、「大きさ」とは電気ポテンシャルの絶対値を意味する。
【0028】
本開示による方法を、以降に、より十分にここで説明する。本開示による方法を、しかしながら多くの異なる形態で具体化することができ、本明細書において述べる実施形態に限定するようには解釈すべきではない。むしろ、この実施形態は、本開示が完全であり完結するように例として与えられ、そして当業者に本開示の範囲を十分に伝えることになる。同じ参照番号は、明細書全体を通して同じ要素を参照している。
【0029】
発明を実施するための形態では、「希ガス」について言及している。「希ガス」とは、アルゴン、クリプトン、ネオン、キセノンおよびヘリウムの群から選択される少なくとも1つのガスを本明細書では意味している。好ましくは、「希ガス」は、アルゴンもしくはクリプトン、またはアルゴンとクリプトンとの混合物である。「希ガス」は、クリプトンであってもよい。最も好ましくは、「希ガス」は、アルゴンである。
【0030】
発明を実施するための形態では、「希ガスイオン」について言及している。「希ガスイオン」とは、アルゴンイオン、クリプトンイオン、ネオンイオン、キセノンイオンおよびヘリウムイオンの群から選択されるイオンを本明細書では意味している。好ましくは、「希ガスイオン」は、アルゴンイオンもしくはクリプトンイオン、またはアルゴンイオンとクリプトンイオンとの混合物である。最も好ましくは、「希ガスイオン」は、アルゴンイオンである。
【0031】
発明を実施するための形態では、「金属ターゲット」について言及している。金属ターゲットは、元素の周期律表の4族、5族または6族から選択されるいずれかの金属または複数の金属の組合せ、例えばクロム、チタンまたはクロムとチタンとの混合物を含むことができる、またはこれらにより構成されてもよい。説明した実施形態において、「金属イオン」を含むプラズマを参照するときには、これらの「金属イオン」が金属ターゲットに由来することが認識される。「金属イオン」は、元素の周期律表の4族、5族または6族から選択される金属イオンまたは複数の金属イオンの混合物、例えば、クロム、チタンまたはクロムとチタンとの混合物であってもよい。
【0032】
図1は、本開示による表面コーティングのための基板を前処理するための方法を実行するために使用することができるPVD装置100の模式図を示している。PVD装置100を、本開示にしたがって前処理された基板をコーティングするためにやはり使用することができる。
【0033】
PVD装置100は、真空チャンバへと希ガスを導入するための注入口11を有する真空チャンバ10を備える。希ガスは、真空チャンバ10内の雰囲気を構成する。排出口12は、例えば、排出口にポンプ(図示せず)を接続することによって、真空チャンバ10内を真空引きするために設けられる。OESセンサなどのセンサ13を、真空チャンバ10内に配置することができ、真空チャンバ内の雰囲気の組成を測定することができる。
【0034】
真空チャンバ10は、金属ターゲット21とともに少なくとも1つのマグネトロン20をさらに含む。マグネトロン20を、電源装置22に接続し、HIPIMSモードで動作するように配置する。マグネトロン20および金属ターゲット21は、その後のコーティングに対する付着を向上させるために基板の表面へと金属イオンを導入するために設けられる。金属ターゲット21は、これゆえ基板上へのその後のコーティングの付着を向上させるために適した金属を含む。
【0035】
真空チャンバ10はまた、各々が電源装置32に接続された1つまたはいくつかのさらなるマグネトロン30、および1つまたはいくつかのさらなる金属ターゲット31を含むことができる。例えば、TiAl合金ターゲットとともにさらなるマグネトロンを、前処理した基板上に続いてコーティングを付けるために設けることができる。さらなるマグネトロンは、HIPIMSモードでまたはDCスパッタリングもしくはACスパッタリングなどの他のスパッタリングモードまたはRFモードで動作可能であってもよい。マグネトロンが動作している一定の期間中に、必要であれば金属ターゲットを覆うために、シャッタ23、33を真空チャンバ10内に設けることができる。
【0036】
本開示にしたがった方法の第1のステップにおいて、基板をエッチングするための希ガスイオンを含むプラズマを生成するために、グローフィラメント14を設けることができる。グローフィラメント14を電源装置(図示せず)に接続し、電流がグローフィラメントを通過すると、グローフィラメントは、電子を放出し、電子が真空チャンバ内の希ガスを電子衝突イオン化によって希ガスイオンのプラズマへとイオン化させる。専用のアノード(図示せず)を真空チャンバ10内に配置することができ、プラズマの位置を制御することができる。
【0037】
真空チャンバ10は、前処理されそして任意選択でコーティングされる少なくとも1つの基板200をさらに含む。典型的には、基板200は、セラミック、サーメット、タングステンカーバイド、高速度鋼またはこれらの組合せから製造される。基板を、被加工物の機械加工用のエッジ部分を含む工具とすることができる。例えば、基板は、切削工具である。
【0038】
基板200を、真空チャンバ10の内外に移動可能な基板テーブル40上に支持することができる。基板テーブル40は、基板200を支持するための1つまたはいくつかのピン42が配置されている1つまたはいくつかのサテライト41を備えることができる。ピン42、サテライト41および基板テーブル40は、すべて回転可能であり、結果として、ソースターゲットに向けて露出した表面に沿って前処理プロセスをより均一にさせる基板の3回回転をもたらす。
【0039】
基板に制御可能な大きさの負の電気ポテンシャルを印加するために、さらなる電源43を配置する。電源43を、したがって基板200、ピン42、サテライト41またはテーブル40のうちのいずれか1つに接続することができる。
【0040】
図1のPVD装置100は、真空チャンバにアクセスするためのドアまたは基板の前処理またはコーティングを制御するための制御システムなどのいくつかのさらなる構成を含むことができることは、明らかである。
【0041】
下記に、本開示にしたがった方法を、
図1に示したPVD装置および
図2に示した主な方法ステップを参照して説明する。
【0042】
先ず、1つまたはいくつかの基板200を、PVD装置100の真空チャンバ10中へとローディングする。基板を、基板テーブル40上に好ましくは載置する。その後、真空チャンバ10を封止し、真空チャンバの排出口12を介して真空引きすることによって、真空チャンバ内の圧力を低下させる。
【0043】
その後で、ヒータシステム(図示せず)をオンにして、典型的には300〜650℃のプロセス温度まで基板200、ピン42、サテライト41およびテーブル40を加熱する。プロセス温度を、基板テーブルに接続した、またはチャンバの内側に設置した熱電対(図示せず)によって測定することができる。
【0044】
真空チャンバ内の圧力がある圧力レベル、典型的には10
−4mbar以下であり、プロセス温度に達すると、基板のエッチングの第1の前処理ステップ1000を行うことができる。
【0045】
第1の前処理ステップ1000を、下記のように実行する。
【0046】
先ず、希ガスを、注入口11を通して真空チャンバ10へと導入し、真空チャンバ内に典型的には2μbarのプロセス圧力を実現する。その後で、希ガスイオンおよび金属イオンを含むプラズマを得るために、第1のマグネトロン20をHIPIMSモードで動作させる。第1のマグネトロン20を、したがって、プラズマが希ガスイオンを主として含むように選択されるピーク電力密度PD1の状態で、HIPIMSモードで動作させる。
【0047】
ピーク電力密度は、HIPIMSの間中、プラズマ中の希ガスイオンと金属イオンとの間の比率を制御するための重要なパラメータである。電力を真空チャンバ内で、マグネトロンから希ガス雰囲気へと注入するので、希ガス雰囲気は、イオン化され加熱され、これがイオン化した希ガスの膨張、そしてしたがってより低い密度(いわゆる「ガス希薄化」または「スパッタウィンド」)をもたらす。イオン化したガスを希薄化すると直ぐに、基板への希ガスイオンの流れがなくなり、金属ターゲットからの金属蒸気によって置き換えられる。希ガスおよび金属蒸気の両者のイオン化の程度は、ピーク電力密度の増加とともに増加し、それで希ガスイオンを主として含むプラズマを得るために、ピーク電力密度を、低くすべきである。相応して、金属イオンを主として含むプラズマを得るために、ピーク電力密度を、高くすべきである。
【0048】
好ましくは、希ガスイオンの量は、プラズマ中では可能な限り高くすべきである。例えば、アルゴンイオンは、プラズマ中の希ガスイオンの全量のうちの50〜100%または75〜100%または90〜100%または95〜100%または98〜100%または99〜100%を構成することができる。プラズマ中の希ガスイオンおよび金属イオンの量を、例えば、真空チャンバに質量分析計を接続し、プラズマ中のイオン電荷/質量比を測定することによって決定することができる。
【0049】
エッチングステップの間中の真空チャンバ内の希ガスイオンを主とする雰囲気を確実にするために、ピーク電力密度PD1は、0.1〜0.5kW/cm
2、または0.1〜0.3kW/cm
2または0.15〜0.25kW/cm
2にすべきである。
【0050】
HIPIMSの間中のパルス長は、長いパルス長が希ガスの希薄化を助長するので、雰囲気中の希ガスイオンおよび金属イオンの量を制御するためにやはり重要である。長いパルス長は、やはり、PVD装置のケーブルの誘導率のために、結果として、プラズマの密度を増加させる高いピーク電流およびスパッタリングした金属のより高いイオン化の程度をもたらす。
【0051】
これゆえ、第1のパルス長L1が2〜5000μsまたは10〜500μsまたは5〜20μsであることが好ましい。
【0052】
マグネトロンの動作の間中に、基板に向けて希ガスイオンを加速するために、負の電気ポテンシャルP1を基板200へ基板電源43によって印加する。
【0053】
希ガスがイオン化されると、真空チャンバ内の雰囲気は、希ガスイオンから主として構成されることになり、そしてイオンのないプラズマシース、すなわちゾーンが、基板の表面とプラズマとの間に形成されることになる。
【0054】
プラズマは、わずかに正の電気ポテンシャルを有し、それゆえ基板に印加される負のポテンシャルは、プラズマシースにわたって、すなわち正のプラズマと負の基板との間に、電圧降下を結果としてもたらすことになる。電圧降下は、プラズマ中の正の希ガスイオンおよび存在するのであれば金属イオンがプラズマシースに達し、基板に向けて加速されるという結果をもたらすことになる。正のイオンは、基板表面に当たり、基板表面をエッチングすることになる。
【0055】
負の電気ポテンシャルP1の大きさを慎重に制御することは、重要である。プラズマシースをはさんで十分に大きな電圧降下を実現するために、負の電気ポテンシャルP1の大きさを十分に高くすることが必要である。上記は、基板の表面をエッチングするに足る基板に向けた運動エネルギーで正のイオンを加速するために重要である。しかしながら、大きな大きさの負の電気ポテンシャルでは、プラズマシースをはさむ電圧降下が、大きくなり過ぎる。上記は、正に帯電した希ガスイオンおよび(存在するのであれば)金属イオンを基板の鋭い形体、例えばエッジに引き付けさせ、エッジの過剰なエッチングという結果をもたらすことになる。このように、負の電気ポテンシャルの大きさは、基板上の鋭い形体の選択エッチングを回避する、または減少させるために十分に低いが、表面の十分なエッチングを実現するために十二分に大きい必要がある。
【0056】
負の電気ポテンシャルP1の好適な大きさを、実際的な試験によって、例えば、第1の負の電気ポテンシャルを使用して真空チャンバ内の基板を処理し、そして例えば、プロフィロメータを使用することによりまたは走査型電子顕微鏡(SEM)を使用することにより基板の表面のエッチングの程度を解析することによって決定することができる。一連の試験を実行し、そして各試験の間でより高い大きさまたはより低い大きさに向けて負の電気ポテンシャルを変化させることによって、電気ポテンシャルP1の好適な大きさを決定することが可能である。
【0057】
基板の材料を除去せずにまたは最小の除去量で、自然酸化膜および不純物を基板から除去すると、基板の表面の十分なエッチングが実現される。十分なエッチングの後では、基板の表面は、酸化膜または不純物のない裸の金属表面である。
【0058】
1つの実施形態では、負の電気ポテンシャルP1の大きさを、100〜1000Vまたは100〜500Vまたは150〜450Vまたは200〜400Vとすることができる。
【0059】
HIPIMSモードで動作可能なマグネトロンを第1のステップで使用するというケースでは、好ましくは負の電気ポテンシャルP1の大きさを、250〜1500Vまたは300〜1500Vまたは300〜1000Vまたは300〜500Vまたは350〜500Vとすることができる。
【0060】
グローフィラメントを第1のステップで使用するというケースでは、好ましくは負の電気ポテンシャルP1の大きさを、100〜1500Vまたは100〜1000Vまたは100〜500Vまたは150〜450Vとすることができる。
【0061】
エッチングステップの(時間での)全体の長さは、基板材料および基板上の汚染の程度とタイプなどの外部要因に依存する。エッチングステップの全体の長さを、それゆえ、問題のエッチングステップについて広く行われている条件の観点から決定しなければならない。上記を、例えば、全体のエッチング時間を変化させることをともなうが上に説明したような実際的な試験によって行うことができる。典型的には、エッチングステップの全体の長さは、2〜120分である。
【0062】
例えば、エッチングステップの全体の長さは、10〜110分または20〜100分または30〜90分である。
【0063】
エッチングステップが完了した後で、基板の表面へと金属イオンを導入する第2の前処理ステップ2000を実行する。
【0064】
マグネトロン20をしたがって、金属イオンがプラズマ中に主として存在するように動作させる。これによって、マグネトロン20を、エッチングステップの第1のピーク電力密度PD1よりも高い第2のピーク電力密度PD2で動作させる。上に説明したように、より高い第2のピーク電力密度PD2は、イオン化した希ガスイオンの雰囲気の希薄化を引き起こし、結果的に金属イオンのリッチなプラズマをもたらす。
【0065】
好ましくは、金属イオンの量は、可能な限り高くすべきであり、例えば、プラズマ中のイオンの全量のうちの50〜100%または75〜100%または90〜100%または95〜100%または98〜100%または99〜100%にすべきである。
【0066】
典型的には、雰囲気の希薄化およびしたがって金属イオンリッチプラズマの作成は、ほぼ0.5kW/cm
2のピーク電力密度しきい値レベルで生じる。これゆえ、ピーク電力密度PD2は、第2の前処理ステップでは0.5kW/cm
2をこれゆえ超えるはずである。好ましくは、ピーク電力密度PD2は、0.5〜4kW/cm
2または0.6〜4kW/cm
2または1〜4kW/cm
2または1.5〜3.5kW/cm
2である。
【0067】
第2の前処理ステップの間中、第1のパルス長L1を、より長い第2のパルス長L2に変えることができる。より長いパルス長が金属リッチプラズマ中での動作についてのより長い時間を許容し、したがって基板上の金属の正味の注入を増加させるので、第2の前処理ステップではより長いパルス長を有することが好ましい。
【0068】
しかしながら、長過ぎるパルス長では、放電がグローからアークへと遷移することがあり、このことは、溶融した液滴および堆積した金属のミクロ構造内の欠陥に関係する。
【0069】
第2のパルス長L2は、30〜10000μsまたは20〜1000μsまたは20〜100μsまたは50〜75μsであることがこれゆえ好ましい。
【0070】
第2の前処理ステップの間中、負の電気ポテンシャルP2を、基板電源43によって基板に印加する。
【0071】
電気ポテンシャルP2の大きさは、先行するエッチングステップの電気ポテンシャルP1の大きさよりも大きい。
【0072】
負の電気ポテンシャルP2の大きさは、プラズマシースをはさむ十分に大きな電圧降下を実現するように十二分に大きくなければならない。上記は、基板の表面へと金属イオンを導入する、すなわち注入するに足る高い運動エネルギーで金属イオンを加速させるために重要である。負の電気ポテンシャルP2の大きさについての上限は、製造機器の物理的な限界によってしばしば設定される。また、大きな大きさの電気ポテンシャルでは、金属イオンの注入深さが、大きくなり過ぎることがあり、結果的に付着特性の低下になる。
【0073】
負の電気ポテンシャルP2の好適な大きさを、実際的な試験によって、例えば、第1の負の電気ポテンシャルを使用して真空チャンバ内の基板を処理することによって決定することができ、そして、例えば後方散乱検出器モードで動作する走査型電子顕微鏡(SEM)を使用することによってまたは電子回折分光計(EDS)によって基板の表面のクロムの存在を決定できる。一連の試験を実施し、そして各試験の間で負の電気ポテンシャルの大きさを変化させることによって、電気ポテンシャルP2の好適な大きさを決定することが可能である。
【0074】
第2の電気ポテンシャルP2の大きさを、300〜3000Vまたは350〜2500Vまたは400〜2000Vまたは450〜1500Vまたは500〜1200Vとすることができる。
【0075】
好ましくは、第1の電気ポテンシャル(P1)の大きさおよび第2の電気ポテンシャル(P2)の大きさを、P2/P1の比が1.25〜5または1.25〜3または1.5〜2であるように選択する。
【0076】
例えば、第1の電気ポテンシャルP1の大きさは、300〜500Vであってもよく、そして第2の電気ポテンシャルP2は、550〜1500Vであってもよい。あるいは、第1の電気ポテンシャルP1の大きさは、350〜450Vであってもよく、そして第2の電気ポテンシャルP2は、600〜1000Vであってもよい。
【0077】
第2の前処理ステップの(時間での)全体の長さを制御することもやはり重要である。基板の表面へと十分な金属を導入してその後のコーティングの付着の改善を実現するために足る長い期間にわたって、第2の前処理ステップを継続すべきである。しかしながら、第2の前処理ステップを可能な限り短く維持して、基板の特性を劣化させることがある基板の必要以上な加熱を避けることもやはり重要である。
【0078】
第2の前処理ステップの(時間での)最適な長さは、基板の材料のタイプならびにマグネトロンの効果および電流密度などの電気的パラメータなどのいくつかの要因に依存し、例えば、全体の処理時間を変化させることをともなうが上に説明したような一連の実際的な試験によって決定することができる。典型的には、第2の前処理ステップの全体の長さは、2〜120分である。
【0079】
あるいは、第2の前処理ステップの全体の長さは、2〜100分または5〜80分または5〜50分または10〜20分である。
【0080】
前処理法の代替の実施形態では、基板のエッチングの第1のステップ1000におけるプラズマは、真空チャンバ10内に存在するグローフィラメント14を通り電流を流すことによって得られる。典型的には、グローフィラメントを、20〜50Aのフィラメント電流で1〜60分間、好ましくは20〜40分間動作させる。
【0081】
2つの前処理ステップ1000、2000の完了の後で、真空チャンバへの希ガスフローおよび第1のマグネトロン20への電力を、オフにする。この段階で、コーティング、例えば耐摩耗コーティングが前処理した基板の表面上に付けられる任意選択のコーティングステップ3000を、前処理した基板に受けさせることができる。しかしながら、真空チャンバから前処理した基板を取り出すこともやはり可能である。
【0082】
その後のコーティングステップを、任意の好適な堆積法によって実行することができる。例えば、コーティングステップが、例えばスパッタ堆積、HIPIMS、アーク堆積、電子ビーム蒸着ステップ、または上記技術の任意の組合せのうちの1つまたは複数から構成されることがある。コーティングを、1つの単一コーティングステップでまたはいくつかのコーティングステップで実行することができる。
【0083】
前処理プロセスおよびその後のコーティングプロセスを、
図1に示したようなバッチプロセスで好ましくは実行する。しかしながら、前処理ステップ1000、2000およびその後のコーティングステップ3000を、インラインコーティングプロセスでやはり行うことができ、インラインコーティングプロセスでは、前処理ステップ1000、2000が1つのチャンバ内で行われ、続いてコーティングされるべき基板を、真空を破らずにまたは空気雰囲気に工具を曝さずに、コーティングステップ3000のための他のチャンバへと移動させる。
【0084】
実施例
本開示にしたがって基板を前処理するための方法のエッチングステップを下記に、具体的な実験で説明する。
【0085】
実験では、試料は、PVD装置内でエッチングを受け、そして3つの異なる負の電気ポテンシャルをエッチングの間中試料に印加した。実験の結果は、試料に印加する電気ポテンシャルの大きさを制御することによって、試料の表面の選択エッチングの最小化を実現することが可能であることを示している。
【0086】
例で使用した試料は、タングステンカーバイド粉末およびCoバインダ(WC−Co)タイプSNMA120408から作られた正方形の切削インサートであった。試料は、12.7mmの切削エッジ長、4.7625mmの厚さ、0.7938mmのコーナー半径および100μmの切削エッジ半径を有していた。試料は、試料の上側および下側正方形面の中心を貫通して通る直径5.156mmの固定用穴を有していた。
【0087】
各試料の上面を、エッチングおよびその後の解析のためにRa<0.002μmの粗さを有する鏡面仕上げになるまで機械的なグラインディングおよびポリッシングによって準備した。試料を、その後、アルカリおよび脱イオン水溶剤を含有する超音波槽内で洗浄した。
【0088】
その後、試料を、TiO
2粉末−アルコールペーストを使用してマスキングし、乾燥させて純粋なTiO
2の線を残した。マスクは、ほぼ1mm幅であり、試料の辺に沿った中間の位置のところに切削エッジに垂直に設けられた。上記は、切削エッジからちょうど3000μmを超える距離の全体にわたるエッチング速度を測定する可能性を与えた。
【0089】
試料を、3つのグループへと分割した、そして試料の各グループは、その後PVD装置内でエッチングを受けた。正方形の面をPVD装置内のカソードに向かって向けた状態で、試料を3回回転で載置した。アルゴンをプロセスガスとして使用した。試料を400℃まで加熱した。PVDシステムの一方のカソードを、1Acm
−2のピーク電力密度でHIPIMSモードで動作させた。エッチングの間中、一定の負の電気ポテンシャル(U
BIAS)を試料に印加した。
【0090】
− 200Vの一定の負のポテンシャル(U
BIAS)を、エッチングの間中試料の第1のグループに印加した。
− 400Vの一定の負のポテンシャル(U
BIAS)を、エッチングの間中試料の第2のグループに印加した。
− 1000Vの一定の負のポテンシャル(U
BIAS)を、エッチングの間中試料の第3のグループに印加した。
【0091】
エッチングの後で、マスキング粉末および蓄積した材料を試料から拭き取った。マスキングした領域とマスキングしなかった領域との間の段差の高さを、<1nmの高さ精度および<50nmの試料位置精度で触針式プロフィロメータ(Dektak150)を使用して測定した。測定の間中、試料の切削エッジを、走査方向に平行に向け、そして測定を、垂直面に関してエッジから50〜200μm毎の距離で行った。50μm以下の測定が切削エッジの湾曲にかかるので、50μm以下の測定を試みなかった。段差高さは、当初の表面に対して除去した材料の厚さを表し、エッチング深さと表示された。比除去速度は、単位時間当たりかつ単位電力当たりの材料の除去量を表し、段差高さをプラズマ前処理の期間でおよびカソードの平均電力で割り算することによって計算される。
【0092】
エッチング深さを
図4に示し、比除去速度を
図3に示している。
【0093】
U
BIAS=−400Vおよび−1000Vの基板バイアスで正味のエッチングがあったこと、および−200Vのバイアスで正味の堆積があったことを、実験は示した。スパッタイールドは、基板バイアスに依存してほぼ直線的である。−200Vのケースでは、金属蒸気の堆積が、イオンによる材料のスパッタ除去量よりも速い速度で生じた。U
BIAS=−400Vおよび−1000Vでは、切削エッジの近くで選択エッチングがあり、距離とともに少なくなり、ほぼ1000μmよりも大きいと一定の速度に達した。エッジおよび離れたところでのエッチング速度の比率は、U
BIAS=−400VよりもU
BIAS=−1000Vで50%大きかった。このように、U
BIAS=−400Vで選択エッチングが生じにくいことを示している。
【0094】
特定の実施形態を詳細に開示してきているとはいえ、上記は、単に図説の目的で行われてきており、限定するものではない。特に、様々な置換形態、代替形態および修正形態を、添付の特許請求の範囲の範囲内で行うことができることが予期される。
【0095】
例えば、アーク蒸着源を、好ましくは閉じたシャッタと組み合わせて、マグネトロン源20またはグローフィラメント14の代わりに使用することができ、本開示の前処理法の第1のステップにおいて希ガスイオンを主として含むプラズマを生成することができる。また、例えば、HIPIMSモードでは動作していないさらなるマグネトロン源を、好ましくは閉じたシャッタと組み合わせて使用することができ、本開示の前処理法の第1のステップにおいて希ガスイオンを主として含むプラズマを生成することができる。エッチングの間中にターゲット材料の堆積を防ぐために、閉じたシャッタを好ましくは使用する。
【0096】
具体的な用語を本明細書において用いることができるとはいえ、これらの用語を単に一般的で説明的な感覚で使用し、限定する目的ではない。さらにその上、本明細書において使用したように、「備える/備える(comprise/comprises)」または「含む/含む(include/includes)」という用語は、他の要素の存在を排除しない。最後に、特許請求の範囲における参照符号は、単に明確化する例として与えられ、多少なりとも特許請求の範囲の範囲を限定するようには解釈されるべきでない。