特許第6871942号(P6871942)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6871942安定性を向上させたエポプロステノールナトリウムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871942
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】安定性を向上させたエポプロステノールナトリウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5585 20060101AFI20210510BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20210510BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20210510BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   A61K31/5585
   A61K9/19
   A61K47/02
   A61P9/12
   A61P11/00
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-549828(P2018-549828)
(86)(22)【出願日】2017年3月21日
(65)【公表番号】特表2019-510765(P2019-510765A)
(43)【公表日】2019年4月18日
(86)【国際出願番号】EP2017056690
(87)【国際公開番号】WO2017162668
(87)【国際公開日】20170928
【審査請求日】2020年3月9日
(31)【優先権主張番号】P1600211
(32)【優先日】2016年3月23日
(33)【優先権主張国】HU
(73)【特許権者】
【識別番号】594129552
【氏名又は名称】キノイン・ジヨージセル・エーシユ・ベジエーセテイ・テルメーケク・ジヤーラ・ゼー・エル・テー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】イレーン・ホルトバージ
(72)【発明者】
【氏名】イシュトバーン・ラースローフィ
(72)【発明者】
【氏名】ジュジャンナ・カルドス
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ・モルナール
(72)【発明者】
【氏名】ラースロー・タカーチ
(72)【発明者】
【氏名】ローベルトネー・トールマーシィ
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−525344(JP,A)
【文献】 Tetrahedron Letters,1977年,(30),pp.2627-2628
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3年間、深冷凍庫(−20±5℃)で貯蔵できる安定なエポプロステノールナトリウム医薬組成物であって、エポプロステノールナトリウム塩、および、エポプロステノールナトリウム塩の量に関して3〜7.5質量%の水酸化ナトリウムからなることを特徴とする、医薬組成物
【請求項2】
ポプロステノールナトリウム塩、および、エポプロステノールナトリウム塩の量に関して4質量%の水酸化ナトリウムからなることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
ポプロステノールナトリウム塩、および、エポプロステノールナトリウム塩の量に関して5質量%の水酸化ナトリウムからなることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物
【請求項4】
ポプロステノールナトリウム塩、および、エポプロステノールナトリウム塩の量に関して6質量%の水酸化ナトリウムからなることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物
【請求項5】
少なくとも3年間、深冷凍庫(−20±5℃)に保存することができる安定なエポプロステノールナトリウム医薬組成物の製造方法であって、エポプロステノールナトリウム塩の水溶液を、媒体を確実にpH>11とする量の水酸化ナトリウムの存在下で凍結乾燥し、その凍結乾燥物が、エポプロステノールナトリウム塩の量に関連して、3〜7.5質量%の過剰水酸化ナトリウムを含有することを特徴とする上記製造方法。
【請求項6】
エポプロステノールナトリウム塩の水溶液を、媒体を確実にpH>11とする量の水酸化ナトリウムの存在下で凍結乾燥し、その凍結乾燥物が、エポプロステノールナトリウム塩の量に関連して、4〜6質量%の過剰な水酸化ナトリウムを含有することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ヨウ素による環化及びヨウ化水素消去による安定なエポプロステノールナトリウム医薬組成物の製造方法であって、
a)出発材料として、保護されていないPGF2αを適用し、
b)ヨウ素源として、ヨウ化ナトリウム−ヨウ素酸ナトリウム混合物を適用し、
c)環化とヨウ化水素の除去を、同一の溶媒中で実施し、
d)エポプロステノールナトリウム塩の水性溶液を、媒体を確実にpH>11とする量の水酸化ナトリウムの存在下で凍結乾燥させ、その凍結乾燥物が、エポプロステノールナトリウム塩の量に関連して、3〜7.5質量%の過剰な水酸化ナトリウムを含有することを特徴とする上記製造方法。
【請求項8】
PGF2α:ヨウ化ナトリウム:ヨウ素酸ナトリウム=3:2:1の比である反応混合物を適用することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項9】
溶媒としてテトラヒドロフランを適用することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は深冷凍庫(−20±5℃)中で少なくとも3年間貯蔵できる、安定なエポプロステノールナトリウム、及びその製造方法である。
【0002】
式Iのエポプロステノールナトリウムは、合成により製造した、式IVの天然プロスタサイクリンのナトリウム塩である。名称のプロスタサイクリンNa、及びエポプロステノールNaは、等しいものである。
【0003】
エポプロステノールNaの主な治療分野は、肺高血圧症(PAH)の治療である(非特許文献1)。
【化1】
【背景技術】
【0004】
1976年に単離して以来(非特許文献2)、プロスタサイクリンはアラキドン酸の代謝産物であり、強力な血管拡張性と血小板凝集阻害効果を有することが知られている。
【0005】
又、その分子は、中性又は酸性の水溶液中で化学的に非常に不安定であり、生物学的に不活性な、式Vの6−オキソ−PGF1αに変換することが、非常に早く明らかにされた(スキーム1)。
【化2】
【0006】
その分解が非常に速い(生理的pHにおける水溶液中での半減期は3〜4分である)理由は、エノール−エーテル構造であることに加えて、鎖端カルボキシル基がそのプロトン化形態及びイオン化形態の両方への分解を促進するからである(非特許文献3)。最初に、そして構造を証明するための合成は、Corey及び彼のグループによりTHP−PGFから出発して実施した(非特許文献4)。プロセスをスキーム2に示す。
【化3】
【0007】
この方法において、式VIのTHP−PGF2αをN−ブロモスクシンイミドと反応させ、式VII及びVIIIのブロモエーテルジアステレオマーを得た。THP−基(テトラヒドロピラニル基)を消去した後、式IX及びXのジアステレオマーをクロマトグラフィーにより分離した。立体障害の少ない(エキソ)位置にブロモ置換基を含む式IXの異性体は、tert−ブタノール中カリウムtert−ブチラートで処理すると臭化水素の消去条件下で、1.5時間以内に式IVのエノールエーテルに変換した。エノール−エーテルを高速エーテル抽出により、穏やかな酸性水溶液から分離し、次いでジアゾメタンで式XIのメチルエステルに変換した。
【0008】
立体障害(エンド)位置にブロモ置換基を含む式Xの異性体は、上記の条件下では、わずかな程度しか反応しなかった。
【0009】
酸性媒体中の式XIのメチルエステルは式XIIの6−オキソ−PGFメチルエステルに変換されるが、然し、この変換はプロスタサイクリンの加水分解よりも遅い(スキーム3)。
【化4】
【0010】
最初の合成の後は、他の多くの調製物が、ほぼ同時に追従した。合成における重要な段階は、PGF2α又はその誘導体のハロ環化、続いて塩基の効果によるハロゲン化水素の消去である。遊離酸が化学的不安定性であるため、生成物は常に単離し、その塩の形態で保存した。
【0011】
Toemoeskoeziと彼の共同研究者は
・ブロモ及びヨード環化反応は、保護されていないPGF2α及びそのメチルエステルからも実現可能であり、
・ハロエーテルジアステレオマーは、両方共、塩基の効果によりシス−ビニルエーテル誘導体(プロスタサイクリン)に変換され、
・ヨウ素誘導体の場合、ハロゲン化水素の脱離がより速く、ヨウ化水素は、炭酸カリウムの効果の場合でさえ、ヨード誘導体から消去する、
ということを最初に証明した(非特許文献5)。
【0012】
ハロ環化反応において、
・ヨウ素源として、溶媒としての酢酸−水混合物中のKIO+KI、又はピリジン中のI、又はアセトニトリル中のIC1を適用し、
・臭素源としてジクロロメタン中のN−ブロモスクシンイミド又はジクロロメタン及びアセトニトリル中のジブロモジメチルヒダントイン、又はジクロロメタン中のN−ブロモカンファーイミドを適用した。
【0013】
ハロゲン化水素の消去は、適切なアルコール中で、カリウムエチラート又はカリウムtert−ブチレート塩基を用いて行った。ヨード置換基の場合には、炭酸カリウムの効果でさえ消去が起こった。
【0014】
最初に、凍結乾燥プロスタサイクリンナトリウム塩を調製したのは、ジョンソンとその共同研究者(非特許文献6)であり、式XIのメチルエステルを、メタノール:水=1:1の混合物中で、当量の水酸化ナトリウムで加水分解し、続いて得られたエポプロステノールナトリウム塩を含む反応混合物を凍結乾燥した。その凍結乾燥物は、白色粉末であり、−30℃で少なくとも2ヶ月間安定を保った。
【0015】
メチルエステルは、PGF2αメチルエステルから炭酸ナトリウムの存在下、水中又はジクロロメタン溶媒中でヨウ素源としてKI−I試薬を適用して調製した。
【0016】
ヨウ化水素消去の反応条件:
・痕跡量の過塩素酸の存在下でのテトラヒドロフラン中の炭酸銀と、
・ベンゼン中の1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン(DBN)塩基と、
・ジメチルホルムアミド中、18−クラウンエーテルの存在下で、超酸化カリウム(KO)と。
【0017】
Whittaker(非特許文献7)は、PGF2αメチルエステルから式XIVのヨードエーテルジアステレオマーを調製した。ヨウ素源として、水性KI−I試薬をPGF2αメチルエステルのエーテル溶液に滴加し、エーテルを炭酸水素ナトリウム水溶液で予め飽和させた。ヨウ素をエーテル又はジクロロメタンに溶解させた方が良い結果が得られた。
【0018】
ヨードエーテルジアステレオマーをメタノール中、10当量のナトリウムメチラートで処理した。ヨウ化水素を消去した後、エステル基を1N水酸化ナトリウム溶液で加水分解した。濃縮した水性反応混合物から、エポプロステノールナトリウム塩が微細な針状に結晶化した。
【0019】
塩を濾別し、1N水酸化ナトリウムで洗浄し、大気中で乾燥したところ、結晶表面の約3.5%が炭酸ナトリウムで覆われ、これがエノール−エーテル構造生成物を保護した。ナトリウム塩を密封管に貯蔵した。この工程をスキーム4において、表示した。
【化5】
【0020】
Nicolau及び彼の共同研究者(非特許文献8)は、炭酸カリウムの存在下、式XIIIのPGF2αメチルエステルをジクロロメタン中のヨウ素と反応させた。式XIVのジアステレオマーからのヨウ化水素の消去は、1,5−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−5−エン(DBU)塩基又は、より好ましくはメタノール中、ナトリウムメチラートの存在下、110℃でトルエン中で行った。
【0021】
式XIVのヨードエーテルジアステレオマーを水5%を含有するメタノール中、ナトリウムメチラートで処理すると、ヨウ化水素の消去のほかにエステル基の加水分解も起こり(スキーム5)、得られたエポプロステノールナトリウム塩はその溶液中で安定に残存した。生物学的研究用には、プロスタサイクリンNa貯蔵溶液は更に希釈した後に使用した。
【化6】
【0022】
Johnsonと彼の共同研究者は、1978年の出版物(非特許文献9)に、プロスタサイクリンNa及びその異性体の不純物の調製について記載している。合成に関する最も詳細な記述(非特許文献10)は1982年に発表された。それは、プロスタサイクリンNaの合成に関する。
【0023】
出発物質は式XIIIのPGF2αメチルエステルであり、これをジクロロメタンに溶解し、その溶液に炭酸水素ナトリウム飽和溶液を添加し、得られた懸濁液に、0℃で激しく撹拌しながら、ジクロロメタン中のヨウ素溶液を添加した。反応終了時に、相を分離し、水相をジクロロメタンで抽出し、合一した有機相を、先ず亜硫酸ナトリウム溶液で、次に塩飽和溶液で洗浄し、次いで硫酸ナトリウム上で乾燥し、濾過し、真空蒸発させた。生成物は、式XIVのヨード−エーテルジアステレオマーの10:1比混合物である。
【0024】
水を含まないジエチルエーテルにヨード−エーテルジアステレオマーを溶解し、DBN又はDBU塩基を用いてヨウ化水素の消去を実行した。反応終了時に、エーテルを真空中で留去し、生成物をエーテル:ヘキサン:トリエチルアミン=1:1:0.02混合物で抽出し、次いでクロマトグラフィーで精製した。蒸発した主要画分であるプロスタサイクリンメチルエステルは、次の工程に直接運ぶことも、又はエーテル:ヘキサン:0.01%トリエチルアミン溶媒混合物から結晶化することも出来る。収率:60%、mp:56−58℃。
【0025】
得られたプロスタサイクリンメチルエステルを二酸化炭素を含まないメタノールに溶解し、等モル量の1N水酸化ナトリウム溶液を添加し、その混合物を不活性雰囲気下、40℃で3時間反応させた。加水分解の終了時に、メタノールを加え、反応混合物を濃縮した。残渣を水に溶解し、アセトニトリルで結晶化させた。ふわふわしたプロスタサイクリンNa結晶が得られ、これを真空乾燥機中に保持した。収率:82%。
【0026】
特許文献1に記載の方法に従って、式XIIIのPGF2αメチルエステルをジエチルエーテルに溶解し、この溶液に先ず、炭酸水素ナトリウム水溶液を添加し、次にヨウ化カリウム-ヨウ素水溶液を滴加した。その混合物を室温で一晩撹拌し、次いでエーテルを加え、混合物をチオ硫酸ナトリウム水溶液で、次に水で洗浄し、乾燥し、蒸発させた。残留物(式XIVのヨード−エーテルジアステレオマー)をメタノール中のナトリウムメチラートと、不活性雰囲気下で反応させ、次いでメタノールを真空中で消去した。残渣(式XIのプロスタサイクリンメチルエステル、無定形固体物質)をベンゼンで洗浄し、1N水酸化ナトリウムで処理すると、無色針状のプロスタサイクリンNaに変換した。
【0027】
その著者らは、ヨードエーテルジアステレオマーの蒸発を省略することによって方法を簡略化し、代わりに1N水酸化ナトリウム水溶液をメタノール溶液中のナトリウムメチラート溶液に添加した。 加水分解の終了時に、メタノールを除去すると、次に、残った水溶液からプロスタサイクリンナトリウムが結晶化し微細な針状を形成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】英国特許明細書GB 1583961号
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】European Heart J.2004,25,2243−2278
【非特許文献2】Nature、1976,263,663〜665
【非特許文献3】JCS Chem.Comm.1979、129−130
【非特許文献4】J.A.Chem.Soc.、1977,99,2006−2008
【非特許文献5】Tetrahedron Letters、1977、30、2627−2628
【非特許文献6】J.Am、Chem、Soc、1977、99、4182−4184
【非特許文献7】Tetrahedron Letters、1977,32,2805−2808
【非特許文献8】J.C.S.Commun.Comm.1977,630−631
【非特許文献9】J.Am.Chem.Soc、1978、100、7690−7705
【非特許文献10】Methods in Enzymology、1982,86,459−446
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
引用文献から、化学面に関しては、PGFαから出発するエポプロステノールNa(プロスタサイクリンNa)の調製が解決済であることは判明している。
然しながら、エポプロステノールが化学的不安定であるために、医薬物質及び医薬品をどのように保持するかという問題は依然として残されていた。
【0031】
上記記載の方法は、
・凍結乾燥したナトリウム塩を−30℃で2ヶ月間保存し、又は、
・結晶化により単離し、次に結晶表面を炭酸ナトリウムで被覆し、安定化し、その後、密閉管に保管し、空気から保護し、又は、
・ナトリウム塩から貯蔵溶液を調製し、これを溶液の形態で貯蔵するか、又は、結晶性塩を真空乾燥器に貯蔵するという方法である。
【0032】
エポプロステノールNaの安定性を向上させるためには、原薬と完成品は重要な対象である、何故なら無菌の薬学的組成物は、室温で12時間原薬含量を維持することが期待されるか、又はそれに達しない場合、4℃で12時間安定でなければならないからである。
【0033】
エポプロステノールNa原薬「静注用に製剤された注射滅菌ナトリウム塩」を含有する医薬品FLOLAN(登録商標)(GlaxoSmithKline、1995)は、その安定性を確実にするため、pHを約10.5の値に設定している。
【0034】
FLOLAN(登録商標)は白色又は略白色の粉末である。各アンプルは、エポプロステノール0.5mg又は1.5mgに当量のナトリウム塩、グリシン3.76mg、塩化ナトリウム2.93mg、マンニトール50mg、更にpH調整のために水酸化ナトリウムを含有する。
【0035】
静脈内に適用するためには、FLOLAN(登録商標)は、特定の溶解混合物(グリシン94mg、塩化ナトリウム73.3mg、注射調製に適した水及び水酸化ナトリウムからなる無色緩衝液50ml)に溶解させなければならない。
【0036】
FLOLAN(登録商標)溶液のpHは10.2〜10.8である。調製したFLOLAN(登録商標)溶液を直ぐに使用しない場合は、2〜8℃で最大2日間、光から保護しながら保存してもよく、かつ、再度凍結してはいけない。
より低いpH値では、FLOLAN(登録商標)溶液の安定性は著しく低下する。
【0037】
国際特許出願WO2007/092343号に記載された方法の新規性は、pH>11という高pH値で少なくとも1種のアルカリ化剤の存在下で、エポプロステノール溶液の安定性がFLOLAN(登録商標)のそれと比較して顕著に増加することである。
その明細書には、エポプロステノール又はエポプロステノール塩、1種のアルカリ化剤及び賦形剤を含有するバルク溶液の調製が記載され、その溶液のpHはpH>11、好ましくは12.5−13.5、好ましくは13に設定されている。このようにして得られた溶液をその後凍結乾燥し、凍結乾燥工程のパラメーターも明細書に提示されている。
静脈内適用の前に、凍結乾燥物を溶解し、得られる(希釈した)溶液のpHも又、>11である。
【0038】
この高pHの溶液は、FLOLAN(登録商標)溶液と同等の治療目的に使用することができる。pHがより高いために、室温におけるその溶液は、14〜48時間、その活性成分含量の90%を保持する。
【0039】
この増強した安定性により、溶解のための特定の溶媒を必要とせず、商業的に入手出来る如何なる静脈内適用の溶液でも使用出来る。
【0040】
この溶液は微生物に対してより耐性がある。
【0041】
前記特許の明細書によれば、
・エポプロステノール又はエポプロステノール塩とアルカリ化剤との量比は、1:25〜1:200でも良い。
媒体を確実にアルカリ性にするアルカリ化剤は、塩基性水酸基を含まず、アルギニン、リジン、メグルミン、N−メチル−グルコサミン、pKa>9.0アミノ酸、三リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、EDTA四ナトリウム塩でも良い。
・賦形剤の量は1〜10%である。
賦形剤は、ヒドロキシエチルデンプン、ソルビット、ラクトース、デキストラン、マルトース、マンノース、リボース、スクロース、マンナイト、トレハロース、シクロデキストリン、グリシン及びポリビニルピロリドンでも良い。
・エポプロステノール塩は、好ましくはナトリウム塩である。
・その溶液のpHは無機又は有機塩基で設定する。
無機塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム又は水酸化アンモニウムである。
有機塩基は、芳香族アミン又は芳香族アルコールである。
・溶液を滅菌バイアル中で凍結乾燥する。
【0042】
最も好ましく処方した組成物は、エポプロステノール(又は等量の塩)0.5mg、アルギニン50mg及びマンナイト50mgを含有し、次いで溶液のpHを13に設定し、凍結乾燥したものである。
【0043】
凍結乾燥物を溶媒50mlに溶解すると、得られた溶液のpHは>11(実施例によると、11.58−11.6)となる。
【0044】
こうして調製したエポプロステノール溶液は、同様のpH(pH=13)に設定した後の、FLOLAN(登録商標)溶液よりも安定である。
【0045】
我々の本発明によれば、エポプロステノールナトリウムは、保護されていないPGF2α(式III)から出発する2段階反応であり、最短経路で調製される(スキーム6)。
【化7】
【0046】
本発明の方法の利点は、以前の方法と比較して、ハロゲン化溶媒や他の環境的に有害な溶媒を含まないことである。
【0047】
両方の反応段階はテトラヒドロフラン中で行われるので、第1段階の後に反応混合物を濃縮することで十分であり、長々と時間を浪費し、敏感な式IIのヨード誘導体に害を及ぼし得る完全な蒸発は不要である。
【0048】
ヨード環化のためのヨウ素源は、酸性媒体中で起こるヨウ化ナトリウム−ヨウ素酸ナトリウムの反応である。
【0049】
反応の間、生成物と並行して形成するヨウ化ナトリウムは、連続的にヨウ素酸ナトリウムと反応し、得られたヨウ素はヨード環化に使用される。
【0050】
もし、反応混合物として、PGF2α:NaI:NaIO=3:2:1を選択すると、ヨウ素の利用率は、略100%であり、これは我々の方法が環境を汚染しないことを意味する。
【0051】
ヨウ化水素の消去はナトリウムメチラート試薬を用いて行う。反応終了時に、テトラヒドロフランを真空中で留去し、残渣に水酸化ナトリウム溶液を添加し、エポプロステノールNa塩を結晶化させる。析出したナトリウム塩を水に溶解し、凍結乾燥する。
【0052】
本発明者らは、塩形成に使用した水酸化ナトリウム量が酸感受性エポプロステノールNaの安定性に及ぼす影響を研究した。
【0053】
この目的のために、エポプロステノールNa塩中に存在し得る過剰のアルカリを強酸性カチオン交換DOWEX樹脂を用いて除去し、過剰のアルカリを含まない塩の水溶液に、種々な量の水酸化ナトリウムを添加し、得られた溶液を凍結乾燥した。
【0054】
1%凍結乾燥水溶液からpHを測定し、密閉ガラス容器中、室温で安定性の加速試験を開始した。
【0055】
安定性試料の活性成分含有量の変化を、0、24、48及び144時間後にHPLCで追跡した。
【0056】
測定した活性成分含有量から、エポプロステノールNaの分解率を計算した(表1)。
【表1】
【0057】
驚くべきことに、我々は、添加した過剰の水酸化ナトリウムの効果について、エポプロステノールNaの安定性が5.5質量%までは顕著に増加し、次いでそれが、わずかに減少し始めることを見出した。
この増強した安定性に到達するために、アミノ酸又は他の緩衝効果賦形剤が存在する必要はなかった。
【0058】
これら予想外の実験結果に基づき、我々は新技術を改良し、漏斗湿潤結晶性エポプロステノールナトリウム塩を水中に溶解し、この水性溶液に、凍結乾燥した後の生成物が4質量%過剰の水酸化ナトリウムを含むような量で2M NaOH溶液を添加した。
【発明の効果】
【0059】
この新しい方法で調製したエポプロステノールNaの安定性は卓越しており、深冷凍庫(−20±5℃)で少なくとも3年間貯蔵することが出来る。生成物の分解を特徴付ける6−オキソ−PGF1α不純物の量は、貯蔵時間中に如何なる変化も示さなかった(表2)。
【表2】
【0060】
この新しい方法により、調製したエポプロステノールNaは、冷蔵庫(5±3℃)で少なくとも6ヶ月間貯蔵することが出来る(表3)。
【表3】
【0061】
本発明者らの新しい方法によれば、PGFをテトラヒドロフランに溶解させる。ヨード環化のためのヨウ素源は、酸性媒体中で進行するヨウ化ナトリウム−ヨウ素酸ナトリウム反応である。環化反応の終了時に飽和塩化ナトリウム溶液を反応混合物に加え、生成物をテトラヒドロフラン−ヘキサン混合物で抽出する。過剰のヨウ素をメタ重亜硫酸ナトリウム溶液で除去する。生成物溶液を洗浄し、乾燥させ、所定の重量まで濃縮し、さらに精製することなく次のヨウ化水素消去工程に移す。
【0062】
ヨウ化水素の消去は、ナトリウムメチラート塩基を用いてテトラヒドロフラン溶液中で実施する。反応終了時に、2M水酸化ナトリウム溶液を反応混合物に添加し、テトラヒドロフランを蒸留により消去し、エポプロステノールNa生成物を結晶化させる。その結晶を濾別し洗浄し、生成物に、凍結乾燥後のナトリウム塩が4質量%過剰の水酸化ナトリウムを含むような量で2M NaOH溶液を、加える。次いで、溶液を凍結乾燥する。
凍結乾燥物は白色又はほぼ白色の粉末で、深冷凍庫(−20±5℃)で少なくとも3年間、冷蔵庫(5±3℃)で少なくとも6ヶ月間貯蔵することが出来る。
【0063】
上記と全く一致するが、本発明の主題は、深冷凍庫(−20±5℃)内で、少なくとも3年間、貯蔵出来る安定なエポプロステノールナトリウムであり、エポプロステノールナトリウム及び無機塩基又は塩基性の加水分解性無機塩が、エポプロステノールナトリウムに関して、3−7.5質量%の量であり、凍結乾燥形態で貯蔵することを特徴とする。
【0064】
更に、本発明の主題は、少なくとも3年間深冷凍庫(−20±5℃)で貯蔵出来る安定なエポプロステノールナトリウムの製造方法であり、エポプロステノールナトリウム塩の水性溶液が、媒体を確実にpH>11とする無機塩基又は塩基性加水分解性無機塩の存在下で凍結乾燥することを特徴としている。
【0065】
媒体を確実にpH>11とする無機塩基又は塩基性加水分解性無機塩としては、ナトリウムカチオン含有塩基又は塩を適用する。
【0066】
ナトリウムカチオンを含有する無機塩基は、水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウム、好ましくは水酸化ナトリウムでも良く、塩基性加水分解無機塩はリン酸三ナトリウムでも良い。
【0067】
本発明によれば、エポプロステノールナトリウム凍結乾燥物は、ナトリウム塩に関して、無機塩基又は塩基性加水分解性無機塩を3〜7.5質量%の量で含有する。
【0068】
この方法は、エポプロステノールナトリウム塩の水溶液が、凍結乾燥物の3〜7.5質量%、好ましくは4〜6質量%過剰の水酸化ナトリウムを含むような量の水酸化ナトリウム溶液の存在下で凍結乾燥されることを含む。本発明者らは、好ましいNaOHの過剰量4〜5〜6%は貯蔵の実施において同等に良好であることを見出した。
【0069】
本発明の別の主題は、ヨード環化及びヨウ化水素消去による安定なエポプロステノールナトリウムの製造方法であって、
a)出発材料として、保護されていないPGF2αを使用し、
b)ヨウ素源として、ヨウ化ナトリウム−ヨウ素酸ナトリウム混合物を適用し、
c)環化とヨウ化水素の消去とを同一溶媒中で実施し、
d)エポプロステノールナトリウム塩の水性溶液を、媒体を確実にpH>11とする無機塩基又は塩基性加水分解性無機塩の存在下で凍結乾燥する方法である。
【0070】
本発明の好ましい実施形態によれば、PGF2α:ヨウ化ナトリウム:ヨウ素酸ナトリウム=3:2:1の比の反応混合物を適用する。
【0071】
溶媒としてテトラヒドロフランを用いる。
【0072】
本発明の詳細を実施例において更に実証するが本発明を実施例に限定する訳ではない。
【実施例】
【0073】
5ζ-ヨード-9-デオキシ-6ζ、9α-エポキシプロスタグランジンF(5-I-PGI1
【化8】
硫酸水素ナトリウム1M溶液を、水3リットル、濃硫酸87.7ml及び硫酸ナトリウム247gから調製した。この溶液に水1.2lを添加し、次に攪拌しながら、水1.2l中ヨウ素酸ナトリウム95.1g溶液、テトラヒドロフラン1.5リットル中プロスタグランジンF2アルファ473.4g溶液、そして最後に水0.44l中ヨウ化ナトリウム148.1g溶液を添加した。反応終了時に塩化ナトリウム飽和溶液とテトラヒドロフラン:ヘキサン=1:1混合物とを反応混合物に注入する。相を分離し、水相をテトラヒドロフラン:ヘキサン=1:1の混合物で抽出する。合一した有機相を5%メタ重亜硫酸ナトリウム溶液で洗浄し、次いで希釈した、及び、飽和した塩溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濃縮して約1kgにした。
5−I−PGI中間体は、さらに精製することなく次の反応段階に移した。
【0074】
(5Z、9α、11α、13E、15S)-6,9-エポキシ-11,15-ジヒドロキシプロスタ-5,13-ジエン-1-酸ナトリウム塩(PGI2-Na)
【化9】
前工程で得た5−I−PGI中間体(約1kgに濃縮)に、水を含まないテトラヒドロフラン12.4L及びナトリウムメチラート721gを添加し、混合物を室温で撹拌した。反応終了時に、水酸化ナトリウム2M溶液を反応混合物に添加し、テトラヒドロフランを真空中で留去した。大量の結晶が析出するまで混合物を室温で撹拌し、次いで0℃に冷却して結晶析出を完了させる。結晶を濾別し、2Mの、次いで1Mの水酸化ナトリウム溶液で洗浄した。次いで、この結晶を、生成物が4質量%過剰の水酸化ナトリウムを含むような量の2M水酸化ナトリウム溶液に溶解した。溶液を凍結乾燥した。
収量:PGF2aについて計算して250g(50%)、生成物は白色粉末であった。