特許第6871947号(P6871947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6871947亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871947
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 9/00 20060101AFI20210510BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20210510BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20210510BHJP
   A61L 15/18 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C01G9/00 Z
   A61K33/30
   A61P17/02
   A61K9/70 401
   A61L15/18
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-555084(P2018-555084)
(86)(22)【出願日】2017年12月8日
(86)【国際出願番号】JP2017044220
(87)【国際公開番号】WO2018105738
(87)【国際公開日】20180614
【審査請求日】2019年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-239802(P2016-239802)
(32)【優先日】2016年12月9日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】中田 圭美
(72)【発明者】
【氏名】越前谷 木綿子
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 修
【審査官】 小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0326006(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1569643(CN,A)
【文献】 EFSA Journal,2012年,Vol.10, No.5,Document No.2672
【文献】 013 NANOCON, 2013, Czech Republic [Online],URL,URL=konsys-t.tanger.cz/files/proceedings/14/reports/2061.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 9/00
A61K 33/00
A61K 9/00
A61K 47/00
A61L 15/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物の攪拌法による溶出試験後において、表面積あたりのZn2+イオン溶出量が24.2〜100μg/m、pHが7.0〜8.3未満である、医薬品の原体として用いることが可能な亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛;
ここで、溶出試験とは、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のBET比表面積が10〜150m/g、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物と生理食塩水の質量比が1:50、37℃ における回転子を用いて500rpmでの攪拌時間が3時間である。
【請求項2】
前記シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のXRD回折ピークにおいて、ZnCl(OH)・nHOの構造が支配的であり、その時a軸が6.3〜6.345、c軸が23.4〜23.7である、医薬品の原体として用いることが可能な請求項1に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
【請求項3】
前記シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物が、下記式(1)で表され、かつZnとClのモル比がZn/Cl=2.0〜4.0である医薬品の原体として用いることが可能な請求項1または2に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
Zn4〜6Cl1〜3(OH)7〜8・nHO (1)
nは、0〜6である。
【請求項4】
前記医薬品が皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤であり、前記治療剤を生理食塩水に溶いて用いる場合、前記治療剤と生理食塩水との比が0.1g/L〜100g/L、前記治療剤が前記(1)式で表され、かつn=0(無水)とした時、前記治療剤全量に対する亜鉛濃度が、金属亜鉛として45質量%〜75質量%であり、かつ前記治療剤の生理食塩水溶液における亜鉛濃度が0.045g/L〜75g/Lである医薬品の原体として用いることが可能な請求項3に記載の、亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
【請求項5】
前記医薬品が、表皮をへて真皮に至る皮膚創傷または皮膚荒れ、または表皮、真皮を経て腹膜に至るじょく創に対する皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤である、医薬品の原体として用いることが可能な請求項1ないし4のいずれか1項に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
【請求項6】
前記治療剤が、粉末、ローション、溶液、クリーム、軟膏、スプレー、またはゲルの形態をしており、皮膚創傷または皮膚荒れ部に塗布または噴霧することで利用される医薬品の原体として用いることが可能な請求項4または5に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
【請求項7】
前記医薬品が、前記治療剤と皮膚創傷または皮膚荒れを閉鎖環境に保持する創傷被覆材を備える医療機器である、請求項4ないし6のいずれか1項に記載の医薬品の原体として用いることが可能な亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
【請求項8】
前記創傷被覆材が、ポリウレタンフイルム・ドレッシング材、ハイドロコロイド・ドレッシング材、ポリウレタンフォーム・ドレッシング材、アルギン酸塩被覆材、ハイドロジェル・ドレッシング材、ハイドロポリマー、セルロースフイルム、キチン創傷被覆材およびシルクフイルムからなる群から選択される少なくとも一つである、医薬品の原体として用いることが可能な請求項7項に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
【請求項9】
前記皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤が、創傷被覆材に塗布、含有または付着されて存在する、医薬品の原体として用いることが可能な請求項4ないし8のいずれか1項に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
【請求項10】
前記治療剤と創傷被覆材とが、創傷被覆材の製造時に前記治療剤を担持させる、またはシート状に加工された創傷被覆材表面の貼付側に、治療剤を吹き付け、浸漬、または塗布によって治療剤を固着させて医療機器として用いられる、医薬品の原体として用いることが可能な請求項7ないし9のいずれか1項に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
【請求項11】
前記医薬品が、前記医薬品の原体として用いることが可能な亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛を含有する皮膚の創傷または皮膚荒れ治療剤、および皮膚創傷または皮膚荒れを閉鎖環境に保持する創傷被覆材の組み合わせセットである、医薬品の原体として用いることが可能な請求項1ないし6のいずれか1項に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の塩化水酸化亜鉛を製造する方法であって、
塩化物イオンを含む水溶液の存在下で、酸またはアルカリによりpHをほぼ一定に保ち、亜鉛水溶液から亜鉛イオンを連続供給して、シモンコーライトを成分とする塩化水酸化亜鉛を沈殿させ、
前記pHが6.0以上7.5未満であり、
前記亜鉛イオンの供与物質が、塩化亜鉛、および硝酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記塩化物イオンの供与物質が塩化アンモニウム、および塩化ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一つである、塩化水酸化亜鉛の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品の原体として用いることが可能な亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の段落[0013]には、亜鉛補給剤は、「ボツリヌス毒素の治療的投与の前、投与と併用して、比較的多量の高吸収型の亜鉛の投与は、以前には応答が乏しかった人において毒素に対する応答性を有効にし、また同様に他の人においてもボツリヌス毒素の機能的効力も明らかに高めることを見出した」、ことが記載されている。このような「亜鉛補給剤」の例示として特許文献1の段落[0045]には、経口投与用の無機亜鉛または有機亜鉛またはそれらの組み合わせが記載され、塩化亜鉛(ZnCl)、塩基性塩化亜鉛(ZnCl(OH))、酸化亜鉛(ZnO)、硫酸亜鉛(ZnSO)が記載されている。
【0003】
しかし、シモンコーライト等の塩基性塩化亜鉛を医薬品の原体に用いることは検討されていない。
【0004】
亜鉛は、皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤として用いる際には、創傷部位にZn2+イオンを供給する物質であると考えられている。Zn2+イオンを適切に創傷部位に供給でき、かつその物質を医薬品の原体としての観点から、安定性に優れた塩化水酸化亜鉛として供給でき、しかも簡易な製造方法で供給できる技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012−531421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、医薬品の原体として有用であり、医薬品として用いれば亜鉛イオンの徐放性に優れ、かつ医薬品原体として安定性に優れた塩基性塩化亜鉛およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
後に詳述する医薬品の、原体としての特徴は、以下に記載する医薬品に用いることができる塩化水酸化亜鉛を含む無機化合物の組成物である。一般に亜鉛を含む無機化合物の組成物は板状であり、その隠ぺい性を利用して化粧品(皮膚への塗布剤)に用いることが知られている。しかし、医薬品の原体として用いることができるためには板状であると細胞障害性の虞があるので、好ましくは鋭角の部分を持たない異型状、楕円体状、略球状で、粒径50〜0.1μm、より好ましくは粒径10〜1μmである。医薬品の用途によってさらに好ましくは、医薬品からの亜鉛イオン徐放性が適切に制御できるように粒径、表面積、粒度分布等の調整がされてもよい。
本明細書では、医薬品として、皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤、治療剤と被覆材とを有する医療機器、および治療剤と被覆材とを組み合わせたセット、を記載する。本発明はこれらの医薬品の原体として用いることが可能な亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛およびその製造方法を記載する。
【0008】
(医薬品の原体として用いることが可能な亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛)
(1)塩化亜鉛、水酸化亜鉛および酸化亜鉛からなる群から選択される少なくとも一つを含む、医薬品の原体として用いることが可能な亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
(2)前記塩化亜鉛が、塩化亜鉛、塩化水酸化亜鉛、および塩化水酸化亜鉛水和物からなる群から選択される少なくとも一つを含有する、医薬品の原体として用いることが可能な(1)に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
(3)シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物の攪拌法による溶出試験後において、表面積あたりのZn2+イオン溶出量が0.25〜100μg/m、pHが7.0〜8.3未満である、医薬品の原体として用いることが可能な亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛;
ここで、溶出試験とは、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のBET比表面積が10〜150m/g、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物と生理食塩水の質量比が1:50、37℃ における回転子を用いて500rpmでの攪拌時間が3時間である。
(4)前記シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のXRD回折ピークにおいて、ZnCl(OH)・nHOの構造が支配的であり、その時a軸が6.3〜6.345、c軸が23.4〜23.7である、医薬品の原体として用いることが可能な請求項3に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
(5)前記シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物が、下記式(1)で表され、かつZnとClのモル比がZn/Cl=2.0〜4.0である医薬品の原体として用いることが可能な(3)または(4)に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
Zn4〜6Cl1〜3(OH)7〜8・nHO (1)
nは、0〜6である。
【0009】
(6)前記医薬品が皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤であり、前記治療剤を生理食塩水に溶いて用いる場合、前記治療剤と生理食塩水との比が0.1g/L〜100g/L、前記治療剤が前記(1)式で表され、かつn=0(無水)とした時、前記治療剤全量に対する亜鉛濃度が、金属亜鉛として45質量%〜75質量%であり、かつ前記治療剤の生理食塩水溶液における亜鉛濃度が0.045g/L〜75g/Lである医薬品の原体として用いることが可能な(5)に記載の、亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
(7)前記医薬品が、表皮をへて真皮に至る皮膚創傷または皮膚荒れ、または表皮、真皮を経て腹膜に至るじょく創に対する、皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤である、医薬品の原体として用いることが可能な(1)ないし(6)のいずれか1に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
(8)前記治療剤が、粉末、ローション、溶液、クリーム、軟膏、スプレー、またはゲル(ジェルと称する場合もある)の形態をしており、皮膚創傷または皮膚荒れ部に塗布または噴霧することで利用される医薬品の原体として用いることが可能な(6)または(7)に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
(9)前記医薬品が、前記治療剤と皮膚創傷または皮膚荒れを閉鎖環境に保持する創傷被覆材を備える医療機器である、(6)ないし(8)のいずれか1に記載の医薬品の原体として用いることが可能な亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
(10)前記創傷被覆材が、ポリウレタンフイルム・ドレッシング材、ハイドロコロイド・ドレッシング材、ポリウレタンフォーム・ドレッシング材、アルギン酸塩被覆材、ハイドロジェル・ドレッシング材、ハイドロポリマー、セルロースフイルム、キチン創傷被覆材およびシルクフイルムからなる群から選択される少なくとも一つである、医薬品の原体として用いることが可能な(9)に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
(11)前記皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤が、創傷被覆材に塗布、含有または付着されて存在する、医薬品の原体として用いることが可能な(6)ないし(10)のいずれか1に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
(12)前記治療剤と創傷被覆材とが、創傷被覆材の製造時に前記治療剤を担持させる、またはシート状に加工された創傷被覆材表面の貼付側に、治療剤を吹き付け、浸漬、または塗布によって固着されて医療機器として用いられる、医薬品の原体として用いることが可能な(9)ないし(11)のいずれか1に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
(13)前記医薬品が、前記医薬品の原体として用いることが可能な亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛を含有する皮膚の創傷または皮膚荒れ治療剤、および皮膚創傷または皮膚荒れを閉鎖環境に保持する創傷被覆材の組み合わせセットである、医薬品の原体として用いることが可能な(1)ないし(8)のいずれか1に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛。
【0010】
(医薬品の原体として用いることが可能な亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛の製造方法)
以下の製造方法では最終的に医薬品の原体として用いることができるように、好ましくは鋭角の部分を持たない異型状、楕円状、略球状で、粒径50〜0.1μm、より好ましくは粒径10〜1μmに調整する解砕工程、または、ボールミル等による粒径調整(造粒を含む)工程を有する。
(14)塩化物イオンを含む水溶液の存在下で、酸またはアルカリによりpHをほぼ一定に保ち、亜鉛水溶液から亜鉛イオンを連続供給して、シモンコーライトを成分とする塩化水酸化亜鉛を沈殿させる請求項1ないし13のいずれか1項に記載の塩化水酸化亜鉛(主としてシモンコーライト)の製造方法。本明細書で「pHをほぼ一定に保つ」とは限定されないが好ましくは所定のpH±1、より好ましくはpH±0.3の範囲に保つことである。「主としてシモンコーライト」の意味はシモンコーライトが最も多い成分として含まれる塩化水酸化亜鉛を意味する。塩化水酸化亜鉛は、本明細書で塩基性水酸化亜鉛ともいう。
(15)前記pHが6.0以上7.5未満であり、温度40℃未満である(14)に記載の塩化水酸化亜鉛の製造方法。
(16)前記亜鉛イオンの供与物質が、塩化亜鉛、および硝酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも一つである(14)または(15)に記載の塩化水酸化亜鉛の製造方法。
(17)前記塩化物イオンの供与物質が塩化アンモニウム、および塩化ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一つである(14)ないし(16)のいずれか1項に記載の塩化水酸化亜鉛の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、医薬品の原体として有用であり、かつ安定性に優れた塩化水酸化亜鉛である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の製剤例の製造方法によって得られたシモンコーライトのXRD(X−線回折法)のチャートである。pHは合成時のpHである。
図2】医薬品例1の創傷部の1週間後の治癒部位(サンプル)およびコントロールの観察結果を示す写真である。
図3】医薬品例1の2週間後の治癒部位(サンプル)およびコントロールの観察結果を示す写真である。
図4】表2の結果を示すグラフである。
図5】医薬品例1を用いた創傷作成位置の1週間治療後の組織学的評価を示す顕微鏡写真である。
図6】医薬品例1の創傷作成位置2、創傷作成位置3の2週間治療後の組織学的評価を示す顕微鏡写真である。創傷作成位置以外の、位置1、位置4、位置5を合わせて示す。
図7】シモンコーライトの合成時のpHと、溶出試験後のpHの関係を示すグラフである。
図8】シモンコーライトの合成時のpHと、溶出試験後のZn2+イオン溶出量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.本発明の塩化水酸化亜鉛の概要
(1)本発明の塩化水酸化亜鉛は、下記の医薬品としての皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤の原体として用いることが可能な亜鉛イオン徐放性に優れる塩化亜鉛、水酸化亜鉛および酸化亜鉛からなる群から選択される少なくとも一つを含む塩化水酸化亜鉛である。
塩化水酸化亜鉛は、亜鉛の塩化物塩であり、好ましくは化学式Zn4〜6Cl1〜3(OH)7〜8・nHO・・・式(1)で示され、nは、1〜6である。
工業分野では一般的に代表的な化学式シモンコーライトZn(OH)Cl Simonkolleiteとして知られ、この物質は、ち密な腐食生成物であって、腐食抑制効果に優れることが知られ、シモンコーライトの生成を促進してめっき層の耐食性を向上させることが知られている。
【0014】
本発明の塩化水酸化亜鉛は、塩化亜鉛、水酸化亜鉛および酸化亜鉛からなる群から選択される少なくとも一つを含み、塩化亜鉛は、塩化亜鉛、塩化水酸化亜鉛、および塩化水酸化亜鉛水和物からなる群から選択される少なくとも一つを含有する。
本発明の塩化水酸化亜鉛は、天然の、または市販の塩化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛を用いてもよいし、合成してもよいし、これらの混合物であってもよい。酸化亜鉛は日本薬局方に医薬品として記載されている。
本発明の塩化水酸化亜鉛は、亜鉛塩水溶液からアルカリ沈殿法によって生成される沈殿物を得てこれを用いてもよい。好ましくは以下に述べる沈殿物生成反応において、Zn2+イオン、Clイオン、およびOHイオンの反応が、pHが好ましくはpH6.0~7.5未満に制御された反応場で得られた沈殿物を本発明の塩化水酸化亜鉛として用いる。より好ましくは、下記式(1)で表される塩化水酸化亜鉛水和物のシモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛、である。
Zn4〜6Cl1〜3(OH)7〜8・nHO (1)
nは、0〜6である。
本発明の塩化水酸化亜鉛は、医薬品例で説明する攪拌法による溶出試験後において、Zn2+イオン溶出量が0.25〜100μg/m、pHが7.0〜8.3未満であるのが好ましく、Zn2+イオン溶出量が10〜100μg/m、pHが7.0〜8.3未満であるのがより好ましい。
(攪拌法による溶出試験)
本明細書で測定する、Zn2+イオン溶出量は、後に説明する実施例の製剤例2と同様の工程で製造時のpHを変化させて製造した各サンプルの表面積を予めBET法で測定しておく(BET比表面積計:カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン製 高精度・多検体ガス吸着量測定装置)。各サンプルを、生理食塩水中で攪拌した後のZn2+イオン濃度をICP発光分析装置(島津製作所製 ICPE−9000)により測定してZn2+イオン溶出量を得て、予め測定して得られている表面積で割った値である。各サンプルと生理食塩水の質量比は、1:50とし、37℃において回転子を用いて500rpmでの3時間攪拌時間の後に生理食塩水中に溶出したZn2+イオン量を測定する。
(2)医薬品の原体は、そのまま医薬品として用いてもよいし、適切な担体に担持して
用いてもよい。
(2−1)医薬品は、皮膚創傷または皮膚荒れ治療用医療機器として、塩化水酸化亜鉛および皮膚創傷または皮膚荒れを閉鎖環境に保持する創傷被覆材と共に用いることができる。塩化水酸化亜鉛は、前記皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤を閉鎖環境に保持する創傷被覆材に、塗布、含浸または付着させて用いることが好ましい。
(2−2)別の態様として医薬品は、医薬品の原体として用いることが可能な塩化水酸化亜鉛を含有する皮膚の創傷または皮膚荒れ治療剤、および前記創傷被覆材の組み合わせとして皮膚の創傷または皮膚荒れ治療用医療セットとして用いてもよい。
【0015】
2.本発明の塩化水酸化亜鉛の製造方法
アルカリ沈殿法に用いる塩素源として好ましくは、NaClおよびNHCl(塩化アンモニウム)の少なくとも一つの水溶液とし、より好ましくはNHCl水溶液とする。pHが好ましくはpH6.0〜7.5未満を維持するように、鉱化材としてNaOHを滴下することで、酸性である塩化亜鉛などの亜鉛塩水溶液を滴下し沈殿物とし、10〜30時間攪拌後、沈殿物を得る。沈殿物は吸引濾過または遠心分離による固液分離を行った後、純水もしくは蒸留水にて洗浄し、真空乾燥することでシモンコーライトを含有する乾燥粉が得られる。得られるシモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物の粒度は限定されず治療薬などの医薬品の原体として用いる際には、公知の方法で適切な粒径とすることができる。塩素源にはNaClなど、好ましくは、NHCl水溶液が挙げられ、亜鉛源は硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛等が挙げられ、好ましくは塩化亜鉛、硝酸亜鉛の中から選択され、鉱化材としてNH、またはNaOHの水溶液の使用が挙げられる。塩素源と亜鉛源水溶液における塩素と亜鉛の濃度比(モル比)は2:5の付近で反応させるのが好ましく、亜鉛源水溶液の濃度は0.1〜1Mの範囲であるのが好ましい。反応温度は好ましくは40℃以下、より好ましくは25℃で行う。得られるシモンコーライトを主成分とする塩化水酸化亜鉛水和物は、上記の亜鉛塩水溶液とアルカリ水溶液の沈殿物生成反応によって得られる反応物、および未反応物としての原料、副生物及び原料から混入する不純物の混合物である。
【0016】
図1に本発明における製剤例の製造方法によってpH条件を変えて製造されたシモンコーライトのXRDチャートを示す。XRD装置はBruker Corporation製のD8 ADVANCEを用いた。
図1の合成時pH6.0〜7.0のチャートに示すように、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のXRD回折ピークにおいて、シモンコーライトであるZnCl(OH)・nHOの構造が支配的であり、その時a軸が6.3〜6.345、c軸が23.4〜23.7であるのが好ましい。XRD回折ピークにおける結晶がこの範囲であると皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤としての効果が高い。pH7.5以上ではunknown(不明)のピークが支配的となる。シモンコーライトが主成分として得られる製造条件は用いる塩素源、亜鉛源の種類や濃度によって変化するがpH条件を変えて製造すれば最適条件を見出すことができる。ここで、主成分とは混合物中で最も多い成分をいい、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは95質量%以上をいう。
【0017】
これまで、実験動物に作成した創傷部位にZnSO、ZnClおよびZnOなどの亜鉛化合物を適用し、創傷治癒効果を評価する研究が数多く行われてきた。これらの化合物は、創傷部位にZn2+イオンを供給する物質である。しかし、Zn2+イオンによる創傷治癒効果には、Zn2+イオンの至適濃度が存在することが報告されている。500μmol/L以下であれば繊維芽細胞に対する毒性を示さないが、高レベル(15mmol/L以上)の亜鉛イオンの存在は、皮膚の炎症性細胞浸潤を増加させ、再上皮化を著しく遅延させることが知られている。
また、生理食塩水を主成分とする体液のpHは約7.4〜7.5であり、本発明品のシモンコーライトを主成分とする塩化水酸化亜鉛を生理食塩水に溶解させるとZn2+イオンの生成・溶出にみあったpHの変動が予想される。また、Zn2+イオンおよび/またはClイオンを供給するpH環境、水分子のOHイオンを介して基質タンパクを分解するマトリックスメタプロテアーゼ(MMPs)酵素を効率よく活性化するためのOHイオン供給、の2点を見極めることで、さらなる治療の促進と痂皮などの治療を妨げる組織が形成されず、傷跡が残ることを抑制できるので患者のQOL(Quality of Life)の向上が期待できる。
【0018】
創傷治癒過程では、細胞の活発な増殖と移動が起こることが知られている。組織内あるいは組織間を細胞が遊走する際には、既存の細胞外マトリックスを局所的に破壊する必要がある。また、創傷部位に組織を再構築するために、新しい細胞外マトリックスの形成も同時に行なわれる。これらの過程では、種々のタンパク質分解酵素が関与する。
マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)と組織阻害性メタロプロテアーゼ(TIMPs)の活性バランスは、創傷治癒、組織修復、血管新生、浸潤、腫瘍形成および転移などの正常事象・病理学事象の両方に関与している。
MMPsは細胞外のコラーゲンを分解する酵素であり、結合組織と結合組織中に存在する細胞により合成される。MMPsは中心に亜鉛イオンを有しており、活性部位にはZn2+イオンの結合部位が存在する。表皮の再生は、表皮細胞が創縁や皮膚付属器(毛根、汗腺等)から遊走してくることで達成される。従って、亜鉛化合物からのZn2+イオンとMMPsが結合することで細胞外マトリックスの破壊が起こり、表皮細胞の遊走が促進される。
TIMPsは、繊維芽細胞、内皮細胞等により産生され、MMPsに対し阻害作用を持つ酵素である。MMPsとTIMPsは、1:1の複合体を形成することでMMPsのコラーゲン分解を抑制する。この機構により、MMPsによるI、IIおよびIII型コラーゲンのへリックス部位の特異的な切断を抑制することで創傷部位での繊維化を促進し、再生組織のコラーゲン量を増加させることができる。
以上より、本発明の塩化水酸化亜鉛は、創傷部位に亜鉛イオンおよび・または塩素イオンを適切に供給することで細胞遊走を促進し、コラーゲン蓄積を増大し創傷治癒を促進することができると考えられる。また亜鉛イオンおよび・または塩素イオンを供給するpH環境を見極めることで、さらなる治療の促進と痂皮などの治癒を妨げる組織が形成されず、傷跡が残ることを抑制できるので患者のQOL(Quality of life)の向上が期待できる。
【0019】
本発明の無機組成物を用いる医薬品である皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤は、限定されないが、皮膚創傷または皮膚荒れを治療できる。ここで、皮膚創傷または皮膚荒れは、表皮をへて真皮に至る治療表皮および真皮の(皮膚全層の)欠損である皮膚創傷または皮膚荒れである、または表皮、真皮を経て腹膜に至るじょく創、皮膚創傷または皮膚荒れを含む。
【0020】
3.その他の用途
(1)創傷被覆材と共に用いる医薬品
本発明の医薬品の原体として用いることが可能な亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛は、医薬品として表皮をへて真皮に至る皮膚創傷、皮膚荒れの治癒または表皮、真皮を経て腹膜に至るじょく創に有効である。表皮をへて真皮に至る皮膚全層欠損の皮膚創傷または皮膚荒れの治癒に有効である。
本発明を用いる医薬品は、皮膚創傷または皮膚荒れに適用され、さらに創傷被覆材と共に用いれば、前記皮膚創傷または皮膚荒れを閉鎖環境に保持する皮膚創傷または皮膚荒れ治療用医療機器とすることができる。ここで、「皮膚創傷または皮膚荒れに適用され」とは、皮膚創傷または皮膚荒れに直接塗布されてもよく、皮膚創傷または皮膚荒れの周辺の皮膚に適用されても良い。創傷被覆材は前記皮膚創傷または皮膚荒れを閉鎖環境に保持する医療機器である。
皮膚創傷または皮膚荒れの治癒には、乾燥環境下で治癒させる場合と、湿潤環境下で治癒させる場合とがある。乾燥環境下で治癒させる場合は創傷被覆材として何も用いない場合もあるが、通常は傷口、皮膚荒れ部の保護のために通気性の良い創傷被覆材で覆う。ガーゼ、包帯、通気性のあるフイルム状創傷被覆材がある。
皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤は、創傷被覆材で閉鎖環境とし、さらに適切な湿潤環境に保持できるので治療に有効である。本発明の塩化水酸化亜鉛は無機材料であり、有機系の材料である創傷被覆材と組み合わせて、有機系・無機系の材料のハイブリッド化することで大きな相乗効果が得られる。
本発明の原体を医薬品として使用する際に、例えば、ローション、溶液、クリーム、軟膏、スプレーとして、生理食塩水などを溶媒に用いて液剤とする場合がある。また創傷内に浸出液があり創傷が潤っている場合は、例えば粉末等の粉体、または軟膏の剤形で使用することができる。必要な場合はその中間の増粘状態やゲル剤(ジェルと称する場合もある)とすることもできる。本発明の塩化水酸化亜鉛を用いる皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤は、創傷被覆材で閉鎖環境とし、さらに個々の創傷に適切な湿潤状態に維持できるよう剤形を液剤や、粉体に調整することができるので湿潤環境での治療に有効である。液剤や、粉体のいずれの剤形でも、医薬品としての治療剤を創傷被覆材と共に用いれば、痂皮などの治癒を妨げる組織が形成されず、傷跡が残ることを抑制できるので患者のQOL(Quality of life)が高い。
【0021】
<治療剤と創傷被覆材とを備える医療機器>
他の態様として、本発明の治療剤が創傷被覆材の製造時に治療剤を被覆材中に担持させて医療機器としてもよい。に塗布、含有または付着され、本発明の治療剤が塗布、含有または付着された創傷被覆材が前記皮膚創傷または皮膚荒れを閉鎖環境に保持する医療機器であってもよい。創傷被覆材の合成時に治療剤を含有させ析出させる。
またはシート状に加工された創傷被覆材表面の貼付側に、治療剤を吹き付け、浸漬、または塗布によって治療剤を固着させて医療機器として用いられてもよい。
<創傷被覆材>
創傷治癒材の例示は、ポリウレタンフイルム・ドレッシング材、ハイドロコロイド・ドレッシング材、ポリウレタンフォーム・ドレッシング材、アルギン酸塩被覆材、ハイドロジェル・ドレッシング材、ハイドロポリマー、キチン創傷被覆材、シルクフイルム等が例示できるが、これらに限定されない。
本発明の医薬品と共に用いる創傷被覆材の詳細については、本願出願人が国際出願したPCT/JP2016/067404号の段落[0029]〜[0037]に記載されている内容を本発明の塩化水酸化亜鉛と共に用いる際の説明とすることができる。
【0022】
例えば、上記国際出願には記載のない例として、キチン創傷被覆材を以下に記載する。
甲殻類の殻からカルシウムやアレルゲンのもととなる蛋白質を取り除き精製して得られるアミノ多糖類をシートにしたものである。生体への親和性が高く,鎮痛・止血効果が期待できる。吸水性に優れ,湿潤環境の保持が可能であるが,二次ドレッシング材が必要である。キチンを綿状に加工したものは,厚みがあり、滲出液が多い場合は毎日交換し,少なくなったら交換までの時間を延長する。スポンジ状に加工したキチンをガーゼにコートしたものも有用である。
【0023】
本発明の治療剤は、これらの創傷被覆材とセットとして医薬品とすることもできる。この時の医薬品としての利用形態(治療技術は)は以下の通りである。
本発明の原体は、医薬品として皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤とすることができ、必要な場合は製薬学上許容される担体を含んでもよい。担体は、有機粉体、無機粉体、有機溶媒、無機溶媒、具体的にはコーンスターチ、穀物粉、タルク、水、生理食塩水、アルコール、多価アルコール、またはこれらの混合物、が例示できる。この医薬品の形態としては、増粘剤等を加えてゲル状、ペースト状に加工して取り扱い性を向上させても良い。
【0024】
<治療剤に用いられる担体>
担体として、例えば、α −オレフィンオリゴマー、パラフィンワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素、パーシック油、オリーブ油、牛脂、ミンク油等の動植物油、オクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸セチル等の合成エステル、ホオバ油、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、モクロウ、ミツロウ等の天然動植物ワックス、ステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、トリオレイン酸デカグリセリル、モノラウリン酸ショ糖エステル、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン油及びその誘導体が挙げられる。
【0025】
パーフルオロポリエーテル等のフッ素系樹脂、エタノール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等のアルコール類、カラギーナン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、コラーゲン、エラスチン、シルク、セルロース、ラクトフェリン等のタンパクおよびその加水分解物、無水ケイ酸、ナイロンパウダー、ポリアクリル酸アルキル、アルミナ、酸化鉄等の粉体を用いてもよい。
【0026】
その他、紫外線吸収剤、ビタミン類、尿素、海水乾燥物、抗炎症剤、アミノ酸類およびその誘導体、レシチン、着色剤、香料、防腐剤等、油分としては卵黄油、マカデミアナッツ油、綿実油、アボカド油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、トウモロコシ油、ピーナッツ油、牛脂、カルナバロウを用いることができる。
【0027】
またその他としてミツロウ、流動パラフィン、ラノリン、スクワラン、ステアリン酸、ラウリン酸エステル類、ミリスチン酸エステル類、イソステアリルアルコール、精製水、電気分解した水、エチルアルコール等が挙げられる。つまり、一般に化粧品、医薬部外品に共通して配合されるものは本発明の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤の担体に用いることが出来る。担体は用いなくても良い。
【0028】
例えば、その他の本発明の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤に加えても良い成分として、実際に化粧品、医薬部外品に添加されるものに応じて取捨選択される。厳密に区別できるものではないが、保湿剤としては、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ピロリドンカルボン酸およびその塩、コラーゲン、1,3−ブチレングリコール、ヒアルロン酸およびその塩、コンドロイチン硫酸およびその塩、キサンタンガム等が挙げられる。
【0029】
酸化防止剤としては、アスコルビン酸、α − トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、パラヒドロキシアニソール等が挙げられる。界面活性剤としては、ステアリル硫酸ナトリウム、セチル硫酸ジエタノールアミン、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、大豆リゾリン脂質液、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。
【0030】
防腐剤としては、フェノキシエタノール、エチルパラベン、ブチルパラベン、酸化亜鉛をはじめとする無機顔料等が挙げられる。
消炎剤としては、グリチルリチン酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒノキチオール、酸化亜鉛、アラントイン等が挙げられる。
美白剤としては、胎盤抽出物、グルタチオン、ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、アルブチン等が挙げられる。
【0031】
血行促進剤としては、γ − オリザノール、デキストラン硫酸ナトリウム等が挙げられる。
抗脂漏剤としては、硫黄、チアントール等が挙げられる。
増粘剤としては、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。
pH調整剤としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、水酸化ナトリウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
【0032】
(2)創傷被覆材と共に用いる医薬品としての効果
本発明の塩化水酸化亜鉛の医薬品としての塩化亜鉛は、酸化亜鉛に比べて乾燥作用や抗菌性を有さず医薬品の原体として有用である。また他の材料への添加物として有用である。具体的には医薬組成物への添加物、化粧品への添加物として用いて、被添加物に対して、別異の、相乗的な、または増強された効果を発揮させることができる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0034】
(製剤例1)
反応容器に0.08M塩化アンモニウム水溶液を500mL調製し、これとは別に滴下反応溶液として0.1M塩化亜鉛水溶液を1000mL用意した。pH調整液として30質量%水酸化ナトリウム水溶液を準備した。
ポンプを接続したpHコントローラを用いて、上記の塩化アンモニウム溶液のpHを6.5に維持しながら攪拌を行った状態で、塩化亜鉛水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。塩化亜鉛水溶液を全て滴下した後、16時間攪拌、養生した。
その後、反応液を遠心分離によって固液分離し、得られた固体は水洗、遠心分離を3回繰り返した。このように洗浄した沈殿物を真空乾燥して式(1)に示す組成範囲を有するシモンコーライト乾燥粉を得た。
【0035】
(製剤例2)
合成時のpHを5.5〜10とし、製剤例1と同様の工程で製造例1(pH6.5)を含む製造時のpHを変化させた各サンプルを製造した。pH5.5では、pHが低すぎたことによって、沈殿物が得られなかった。
【0036】
(溶出試験)
製剤例2で得られた各乾燥粉0.6gに対し生理食塩水30gを用いて攪拌法による溶出試験を行い、Zn2+イオン溶出量とpHの測定を行った。溶出試験の方法は、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のBET比表面積を10〜150m/gに調整し、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物と生理食塩水の質量比が1:50、回転子を用いて500rpmでの攪拌時間を3時間とし、溶出試験後のpHとZn2+イオン溶出量を測定した。結果を図7図8および表1に示す。
図8に示すように、pH7.5前後は、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物の合成において特異点と考えられ、pH7.5未満ではシモンコーライトの収率、結晶性の向上が観察できる。一方pH7.5以上では異相がまじってきて、pH8.5以上では亜鉛水酸化物が支配的に合成されると考えられる。
【0037】
【表1】
【0038】
(医薬品例1)
約500gのSDラットに2%セデラック(キシラジン)を0.2mL/500gで筋肉注射により投与して鎮静させ,セボフルレン吸入麻酔薬を2%で全身麻酔を行った。ラット腹側部にキシロカイン(リドカイン+2%アドレナリン)を投与して局部麻酔した後,表皮〜皮下組織に至る直径10mmの全層欠損創を作成し,0.01gの上記製剤例1の粉末を、作成した全層欠損創に塗布し,さらに医療用創傷被覆材であるデュオアクティブで被覆した。
【0039】
(組織染色、ヘマトキシリン−エオシン(H-E)染色)
組織染色の方法は、創傷部位トリミング(切除)→ ホルマリンで固定 → 脱脂処理(キシレンに24時間浸漬する。) → 脱水処理する。
脱水処理は、70%エタノールに、12時間浸漬してエタノールを揮発除去し、80%エタノール、90%エタノール、および95.5%エタノールで、各30分ずつ脱水し、キシレンで2回洗浄する。
その後試料をパラフィンに包埋処理し → 切片を作成し → H-E染色を行った。
細胞核をヘマトキシリンで青紫色に染色し、細胞質、膠原線維、筋線維をエオジンで赤色に染色した。 → 染色後の試料をプレパラートに封入し、顕微鏡観察した結果を図5、6に示す。
【0040】
創傷被覆材で被覆後、1週間後の治癒部位の観察結果(図2):製剤例1で得られた治療剤を塗布し創傷被覆材で被覆後、1週間後のサンプルでは,創傷部位に白色の組織が認められるが,治療剤を用いず医療用創傷被覆材であるデュオアクティブで被覆したのみのコントロールでは腹膜が明瞭に確認され、傷が治癒していない。
創傷被覆材で被覆後、2週後の治癒部位の観察結果(図3):製剤例1で得られた治療剤を塗布し創傷被覆材で被覆後、2週間後のサンプルでは、明らかに創傷部位の縮小が観察され,腹膜は認められない。これに対して,治療剤を用いないコントロールでは創傷部位の僅かな縮小が認められるが,腹膜が認められる未治癒部位も観察された。
【0041】
(再上皮化率の測定方法)
創傷作製時および治療後の皮膚を拡大して撮影して創傷作製時の初期創傷部位を測定して実線で、1週間後および2週間後の写真に記入し、初期創傷部位W0の面積を測定し、治療後の未治癒部位(Wt)の面積をImage J[ウエブで公開されているオープンソース;Wayne Rasband(NIH)]で測定して、測定した面積を下記式を用いて再上皮化率を%で算出する。図2および図3に示す治療後の再上皮化率をコントロールと共に表2および図4に示した。
再上皮化率(%)=(W0−Wt)/W0 × 100%
【0042】
【表2】
【0043】
表2、図4に示す結果から、本発明の医薬品例(サンプル)の2週間後の再上皮化率は比較例(コントロール)の約1.9倍であった。
再上皮化率:2週間後の比較例と本発明医薬品例との再上皮化率の異なった分散を持つ2群のデータのt-検定を行った。4つの創傷から3つを抽出して行ったところエラーバーが比較的大きいため有意差は認められなかったが,4つの創傷から計算すると本発明医薬品例の有意差が認められた。なお、再上皮化率の算出において,コントロールの白色の組織は未治癒領域として評価した。
4つの創傷からの計算を,表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
図5図6は、1週間および2週間経過後の組織学的観察結果を示す皮膚断面の顕微鏡写真である。図5,6の上図は全体図で、倍率36倍であり、図5,6の下図は上図に示す位置の拡大図であり倍率360倍である。
図5は上図に示す創傷作成位置の1週間後の治癒の状態を示し、その拡大図を下図に示す。図6の上図は創傷作成位置2,3を示し、下図は、上図に示す創傷作成位置の創傷作成位置2、創傷作成位置3の2週間後の組織学的評価を示す顕微鏡写真である。創傷作成位置以外の、位置1、位置4、位置5の組織学的評価を示す顕微鏡写真を合わせて示し、創傷の治癒状態の進行状況を正常皮膚の状態と比較した。
[1週後の組織観察(図5)]:本発明の治療剤を塗布した場合,コラーゲン,繊維芽細胞やマクロファージが認められたことから増殖期であると考えられる。また,白色組織は肉芽組織と考えられるので,再上皮化率の計算で白色組織が治癒した組織と判断すると,本発明の治療剤は極めて高い皮膚再生能力を示していると判断できた。
[2週後の組織観察(図6)]:炎症性細胞の浸潤がなく、肉芽組織(毛細血管とコラーゲン繊維の形成)が 観察されたため増殖期の段階であると判断できた。
これらの結果から,シモンコーライトを含む本発明の治療剤は、有効な創傷治療材料であることが明らかとなった。炎症を引き起こすことなく、皮膚の再生または毛根の再生が行えると考えられる。したがって本発明の原体を用いる治療剤は、表皮をへて真皮に達しない皮膚創傷または皮膚荒れの治療効果がある、表皮をへて真皮に至る皮膚創傷または皮膚荒れに治療効果がある、または、表皮をへて真皮に至る皮膚全層欠損の皮膚創傷または皮膚荒れに治療効果がある。このことから、本発明の原体を用いる治療剤は実施例で示す皮膚創傷のみならず重篤な肌荒れに起因する同様な傷に対しても治癒効果がある。
【0046】
(医薬品例2)
実施例1と同様に全層欠損創を作成し,製剤例2の各粉末を、作製した全層欠損創にそれぞれ塗布し,さらに医療用創傷被覆材であるデュオアクティブで被覆する。再上皮化率が80〜90%の間であり、製造条件でpHが6.0〜7.5未満の範囲内で得られた本発明の治療剤が治癒効果に優れている。
【0047】
下記表4に、溶出試験後のpHと2週間後の創傷治癒効果(再上皮化率、コラーゲンの再生、毛球の再生、肉芽の形成)を評価した結果を示す。
【0048】
【表4】
【0049】
表4の評価方法は、再上皮化率はコントロールを1とする上記測定方法による評価である。コラーゲンは、太いコラーゲン繊維が一方向に延びている様子を観察した。毛球について、毛球が確認できるかの観察結果である。肉芽形成は、毛細血管、繊維芽細胞で構成される組織が観察されるか否かの評価である。
コラーゲン:コラーゲンについては、健全な皮膚細胞と比較して、コラーゲン繊維の太さと配向性を評価した。
コラーゲン太さ:×:かなり細い
△:細い
○:やや劣る
◎:健全な皮膚細胞と同程度
コラーゲン配向性:×:乱雑
△:かなり劣る
○:やや劣る
◎:健全な皮膚細胞と同程度
毛球:×:毛球の形成はない。
○△:毛球の形成はわずか。
○:毛球が形成されている。
◎:毛球の形成が顕著に認められる。
肉芽形成:×:肉芽が認められない。
○△:肉芽の形成がわずか。
○:肉芽が認められる。
◎:肉芽が顕著に認められる。
【0050】
表4には比較として、コントロールの結果も合わせて示した。本発明の医薬品であるシモンコーライトは、再上皮化の度合いでコントールを上回るだけでなく、再生された組織においては、特にコラーゲンの外観においては、健全な皮膚組織と同等に回復しており、効果は大きいことが分かる。
このように、本発明品は有機系の市販の創傷被覆材に対し、本発明の原体である無機系の材料を用いて、有機系・無機系の材料のハイブリッド化することで大きな相乗効果が得られ、創傷治癒能が大幅に向上するものと考えられる。
(利用形態)
これまでに述べてきた医薬品例は、その利用形態が散剤であって、創傷部に本発明の塩基性亜鉛塩粉体を散布し、医療用創傷被覆材で被覆するといった治療技術となる。発明者らは本発明の塩基性亜鉛塩粉体の利用形態(治療技術)について鋭意検討をおこなった。以下に軟膏として用いる場合、および被覆材とともに用いる場合について、利用形態(治療技術)と治癒効果について記す。
【0051】
(軟膏製剤例1)
白色ワセリン4.9gを容量50mlのビーカーにとり60℃に加熱し流動パラフィン0.1gを加え混合したところに、製剤例1で得られた乾燥粉5gを加えて充分に攪拌を行い、10gの軟膏(有効成分量50質量%)を作製した。作製した全層欠損創に上記軟膏を塗布し2週間後の創傷の外観、および創傷部の組織観察を行った。結果を表5に示す。
(比較例1、軟膏の基材のみコントロール)
上記軟膏製剤例と同様に作製した全層欠損創に、比較例として有効成分を含まない白色ワセリンとパラフィンとの軟膏の基材のみを塗布し、基材のみコントロールとして2週間後の創傷の外観、および創傷部の組織観察を行った。結果を表5に示す。
(被覆材使用例2および3)
製剤例1で得られた粉末を用い、被覆材使用例2では、ハイドロゲル5gに対して製剤例1の乾燥粉5gを練り込んだ(有効成分50質量%)被覆材使用例2、および被覆材使用例3では、ハイドロゲル表面(創傷と接する側)にショットブラスト法によって、製剤例1の粉末を40質量%となるように固着させた(ハイドロゲル6gに対して乾燥粉4g)被覆材使用例3を作製した。ここで、ハイドロゲルは市販の医療用創傷被覆材デュオアクティブで使用しているものを用いた。上記軟膏製剤例と同様に作製した全層欠損創に、被覆材使用例2、被覆材使用例3を適用し、2週間後の創傷の外観、および創傷部の組織観察を行った。結果を表5に示す。
(比較例2、被覆材のみコントロール)
作製した全層欠損創に、コントロール(比較例)としてデュオアクティブで被覆しただけのものを作製し、2週間後の創傷の外観、および創傷部の組織観察を行った。結果を表5に示す。
軟膏製剤例1、被覆材使用例2,3を併せて、2週間後の創傷治癒効果(コラーゲン太さ、コラーゲンの配向性、毛球の再生、肉芽の形成)を評価した結果を示す。評価基準は表4と同じである。
本発明の医薬品、または医療機器として利用できるシモンコーライトは、軟膏製剤例1、被覆材使用例2,3において、再生された組織においては、特にコラーゲンの外観においては、健全な皮膚組織と同等に回復しており、効果は大きく、医薬品例1および医薬品例2で示した散剤利用と同等であり、また治療現場における簡便性の観点からも有効性は大きいといえる。
【0052】
【表5】
【0053】
(試験結果の評価)
上記の各種試験結果から、以下のような整理ができる。創傷治癒においてpHが8以上の値で炎症反応を生じるため,創傷治癒剤はpHが中性〜8の範囲が適している。合成時のpHに対する溶出試験後のpHを見ると(図7および図8)、至適pHを越す合成時のpHは7.5のみであり,創傷治癒過程で重要な役割を果たすZn2+イオン溶出も少ない。この結果は,合成時のpHが7.5の場合,MMPsの活性部位にZn2+イオンが結合しないため,細胞外マトリックスの破壊が生じないことによって創傷治癒過程での細胞遊走が促進されず,創傷の治癒が促進しないことを示している。合成時のpHが7.5前後の領域以外のときには,至適pH範囲内であること,Zn2+イオン溶出も多いことから,創傷治癒は少なからず促進する。表4に示すように,ラットの創傷治癒評価は,上記の考察を満足させるものである。特に,亜鉛イオンの溶出が高い合成時pH7のときには,至適pH内であり,創傷治癒が顕著であることが実験的に明らかとなっている。なお合成時のpHが7.5前後の領域において、溶出挙動が特異的な挙動を示す理由としては、シモンコーライト単相としての回収率が単純に向上するpH7まで、およびpHが8以上でシモンコーライト以外のZn(OH)のような水酸化物相が支配的になっていく過程との間の過渡期であることが原因と推定しているが、現時点では詳細は明らかとなっていない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛は、医薬品として用いれば亜鉛イオンを適切な条件で適切に徐放することができるので医薬品の原体として有用である。本発明の医薬品の原体としての塩化水酸化亜鉛は、安定性に優れ、その製造方法も簡易であり工業的に有用である。
【0055】
<具体的な実施の態様>
本発明は、具体的な実施の態様として、以下を有する。
[請求項1]
塩化亜鉛、水酸化亜鉛および酸化亜鉛からなる群から選択される少なくとも一つを含む、亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛医薬品の原体。
[請求項2]
前記塩化亜鉛が、塩化亜鉛、塩化水酸化亜鉛、および塩化水酸化亜鉛水和物からなる群から選択される少なくとも一つを含有する、請求項1に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛医薬品の原体。
[請求項3]
シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物の攪拌法による溶出試験後において、表面積あたりのZn2+イオン溶出量が0.25〜100μg/m、pHが7.0〜8.3未満である、亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛医薬品の原体;
ここで、溶出試験とは、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のBET比表面積が10〜150m/g、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物と生理食塩水の質量比が1:50、37℃ における回転子を用いて500rpmでの攪拌時間が3時間である。
[請求項4]
前記シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のXRD回折ピークにおいて、ZnCl(OH)・nHOの構造が支配的であり、その時a軸が6.3〜6.345、c軸が23.4〜23.7である、請求項3に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛医薬品の原体。
[請求項5]
前記シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物が、下記式(1)で表され、かつZnとClのモル比がZn/Cl=2.0〜4.0である請求項3または4に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛医薬品の原体。
Zn4〜6Cl1〜3(OH)7〜8・nHO (1)
nは、0〜6である。
[請求項6]
前記医薬品が皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤であり、前記治療剤を生理食塩水に溶いて用いる場合、前記治療剤と生理食塩水との比が0.1g/L〜100g/L、前記治療剤が前記(1)式で表され、かつn=0(無水)とした時、前記治療剤全量に対する亜鉛濃度が、金属亜鉛として45質量%〜75質量%であり、かつ前記治療剤の生理食塩水溶液における亜鉛濃度が0.045g/L〜75g/Lである請求項5に記載の、亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛医薬品の原体。
[請求項7]
前記医薬品が、表皮をへて真皮に至る皮膚創傷または皮膚荒れ、または表皮、真皮を経て腹膜に至るじょく創に対する皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛医薬品の原体。
[請求項8]
前記治療剤が、粉末、ローション、溶液、クリーム、軟膏、スプレー、またはゲルの形態をしており、皮膚創傷または皮膚荒れ部に塗布または噴霧することで利用される請求項6または7に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛医薬品の原体。
【0056】
[請求項9]
前記医薬品が、前記治療剤と皮膚創傷または皮膚荒れを閉鎖環境に保持する創傷被覆材を備える医療機器である、請求項6ないし8のいずれか1項に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛医薬品の原体。
[請求項10]
前記創傷被覆材が、ポリウレタンフイルム・ドレッシング材、ハイドロコロイド・ドレッシング材、ポリウレタンフォーム・ドレッシング材、アルギン酸塩被覆材、ハイドロジェル・ドレッシング材、ハイドロポリマー、セルロースフイルム、キチン創傷被覆材およびシルクフイルムからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項9項に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛医薬品の原体。
[請求項11]
前記皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤が、創傷被覆材に塗布、含有または付着されて存在する、請求項6ないし10のいずれか1項に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛医薬品の原体。
[請求項12]
前記治療剤と創傷被覆材とが、創傷被覆材の製造時に前記治療剤を担持させる、またはシート状に加工された創傷被覆材表面の貼付側に、治療剤を吹き付け、浸漬、または塗布によって治療剤を固着させて医療機器として用いられる、請求項9ないし11のいずれか1項に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛医薬品の原体。
[請求項13]
前記医薬品が、亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛を含有する皮膚の創傷または皮膚荒れ治療剤、および皮膚創傷または皮膚荒れを閉鎖環境に保持する創傷被覆材の組み合わせセットである、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の亜鉛イオン徐放性に優れる塩化水酸化亜鉛医薬品の原体。
[請求項14]
塩化物イオンを含む水溶液の存在下で、酸またはアルカリによりpHをほぼ一定に保ち、亜鉛水溶液から亜鉛イオンを連続供給して、シモンコーライトを成分とする塩化水酸化亜鉛を沈殿させる請求項1ないし13のいずれか1項に記載の塩化水酸化亜鉛医薬品原体の製造方法。
[請求項15]
前記pHが6.0以上7.5未満であり、温度40℃未満である請求項14に記載の塩化水酸化亜鉛医薬品原体の製造方法。
[請求項16]
前記亜鉛イオンの供与物質が、塩化亜鉛、および硝酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも一つである請求項14または15に記載の塩化水酸化亜鉛医薬品原体の製造方法。
[請求項17]
前記塩化物イオンの供与物質が塩化アンモニウム、および塩化ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一つである請求項14ないし16のいずれか1項に記載の塩化水酸化亜鉛医薬品原体の製造方法。
図1
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図8