【実施例】
【0032】
<土壌巻込み率の評価>
使用する汚染土壌として、以下の条件の土壌を用いた。
【0033】
【表1】
第1工程として、上記表1の汚染土壌の試料を風乾または蒸留水を添加し、水分含有量を15.1%に調整した。汚染土壌に添加する紙粉としては以下を用いた。
【0034】
【表2】
【0035】
汚染土壌に添加する鉄粉(K-3M、JFEスチール製)の粒度分布を下記に示す。
【表3】
【0036】
粒度分布は、JIS Z 2510 金属粉―乾式ふるい分けによる粒度試験方法およびJIS Z 2510において引用されるJIS Z 8801−1 試験用ふるい −第1部:金属製網ふるいに記載の方法により測定した。表2中において、+2.8mmは、2.8mmよりも粒径が大きい(粗い)ことを示し、2.8mm以上で5.6mm未満の粒度を示す。−0.15mmは、0.15mmよりも粒径が小さい(細かい)ことを示す。鉄粉(K-3M、JFEスチール製)のD
50(50%粒子径)は、1.2mmである。
【0037】
水分含有量15.1%に調整された汚染土壌を実施例A1〜A4、比較例A1のそれぞれに対応するように、100gずつに小分けした。第2工程として、100gずつに小分けされた土壌に、鉄粉(K-3M、JFEスチール製)10gを添加し、卓上ミキサー(KPL9000S、愛工舎製作所製)で10分間混合した。10分間静置した後、表4に示す量の紙粉(日本紙通商製)を添加して、薬さじで5分間程度混合した。その後、第3工程として、土壌をプラスチックバットに薄く広げ、土壌表面上に表面磁力1000Gの磁石棒(KGM−HM13−S18476、カネテック製)を走査して磁着物と非磁着物に磁性分離した。得られた磁着物は汚染物質含有量分析(底質調査法)を実施し、非磁着物は汚染物質含有量分析と汚染物質溶出量分析(環境告示18号)とを実施した。結果を表4〜表6に示す。
【0038】
【表4】
ここで土壌巻込み率(%)は、以下の式1により算出した。
【0039】
土壌巻込み率(%)=(磁着物質量−投入鉄粉質量)/(投入土壌質量+投入紙粉質量)×100 … 式1
また、汚染物質回収率(%)は以下の式2より算出した。
【0040】
汚染物質回収率(%)=(磁着物の汚染物質含有量×磁着物質量)/{(磁着物の汚染物質含有量×磁着物質量)+(非磁着物の汚染物質含有量×非磁着物質量)}×100 … 式2
【0041】
【表5】
【0042】
【表6】
【0043】
表4〜表6に示す結果から、ふっ素を除き、第2工程において投入する紙粉の質量によっては、汚染物質回収率、汚染物質含有量、および汚染物質溶出量に有意な差がみられないことが理解される。ふっ素に関しては、第2工程において投入する紙粉の質量を大きくするにつれて、汚染物質回収率が向上するとともに汚染物質溶出量が低下する。
【0044】
実施例A1〜A4および比較例A1の砒素の汚染物質溶出量(mg/L)は、すべて土壌汚染対策法に規定される溶出量基準値以下である。実施例A1のふっ素の汚染物質溶出量(mg/L)は、土壌汚染対策法に規定される溶出量基準値以下である。実施例A1〜A4および比較例A1の鉛の汚染物質溶出量(mg/L)は、すべて土壌汚染対策法に規定される溶出量基準値以下である。
【0045】
図6に、実施例A1〜A4の土壌巻込み率(%)と比較例A1の土壌巻込み率(%)とを比較したグラフを示す。
【0046】
図6より、第2工程において汚染土壌に紙粉を添加した実施例A1〜A4は、第2工程において汚染土壌に紙粉を添加しない比較例A1に比して、土壌巻込み率(%)が著しく低減されたことが理解される。
<他の紙粉を用いた場合の土壌巻込み率の評価>
【0047】
使用する汚染土壌として、以下の条件の土壌を用いた。
【0048】
【表7】
【0049】
第1工程として、上記表7の汚染土壌の試料を風乾または蒸留水を添加し、水分含有量を12.6〜15.2%に調整した。紙粉として、以下を用いた。
【0050】
【表8】
【0051】
上記表7の汚染土壌100gに対する、実施例B1〜B8の紙粉添加量を以下の表9のようにした。
【0052】
【表9】
【0053】
水分含有量12.6〜15.2%に調整した汚染土壌を実施例B1〜B8にそれぞれ対応するように、100gずつに小分けした。第2工程として、100gずつに小分けされた土壌に、鉄粉(K-3M、JFEスチール製)10gを添加し、卓上ミキサー(KPL9000S、愛工舎製作所製)で10分間混合した。10分間静置した後、表9に示す量の紙粉を添加して、薬さじで5分間程度混合した。その後、第3工程として、土壌をプラスチックバットに薄く広げ、土壌表面上に表面磁力1000Gの磁石棒(KGM−HM13−S18476、カネテック製)を走査して磁着物と非磁着物に磁性分離した。得られた磁着物は汚染物質含有量分析(底質調査法)を実施し、非磁着物は汚染物質含有量分析と汚染物質溶出量分析(環境告示18号)とを実施した。結果を表10〜表15に示す。
【0054】
【表10】
【0055】
【表11】
【0056】
【表12】
【0057】
【表13】
【0058】
【表14】
【0059】
【表15】
【0060】
表10〜表15に示す結果から、実施例B1〜B4のふっ素を除き、第2工程において投入する紙粉の種類および紙粉の質量によっては、汚染物質回収率、汚染物質含有量、および汚染物質溶出量に有意な差がみられないことが理解される。実施例B1〜B4のふっ素に関しては、第2工程において投入する紙粉の質量を大きくするにつれて、汚染物質回収率が向上するとともに汚染物質溶出量が低下する。
【0061】
図7に実施例B1〜B4の土壌巻込み率(%)を示したグラフを示す。
図7および
図6に示す比較例A1の土壌巻込み率(%)の結果から、紙粉として絵具屋三吉製の紙粉(細目)を用いた場合でも、比較例A1よりも低い土壌巻込み率が維持されることが理解される。
【0062】
図8に実施例B5〜B8の土壌巻込み率(%)を示したグラフを示す。
図8および
図6に示す比較例A1の土壌巻込み率(%)の結果から、紙粉としてジャペット製の紙粉(製品2)を用いた場合でも、比較例A1よりも低い土壌巻込み率が維持されることが理解される。
<鉄粉300Rを用いた実施例の土壌巻込み率の評価>
【0063】
使用する汚染土壌として、以下の条件の土壌を用いた。
【表16】
第1工程として、上記表16の汚染土壌の試料を風乾または蒸留水を添加し、水分含有量を15.1%に調整した。汚染土壌に添加する紙粉としては以下を用いた。
【0064】
【表17】
汚染土壌に添加する鉄粉(300R、JFEスチール製)の粒度分布を下記に示す。
【0065】
【表18】
【0066】
上記表18の粒度分布は、JIS Z 2510 金属粉―乾式ふるい分けによる粒度試験方法およびJIS Z 2510において引用されるJIS Z 8801−1 試験用ふるい −第1部:金属製網ふるいに記載の方法により測定した。表2中において、+150μmは、150μmよりも粒径が大きい(粗い)ことを示し、150μm以上で180μm未満の粒度を示す。−45μmは、45μmよりも粒径が小さい(細かい)ことを示す。鉄粉(300R、JFEスチール製)のD
50(50%粒子径)は、67μmである。
【0067】
水分含有量12.9〜13.4%に調整された汚染土壌を実施例C1〜C7、比較例C1のそれぞれに対応するように、100gずつに小分けした。第2工程として、100gずつに小分けされた土壌に、鉄粉(300R、JFEスチール製) を表19に示す量を添加し、卓上ミキサー(KPL9000S、愛工舎製作所製)で10分間混合した。10分間静置した後、表19に示す量の紙粉(日本紙通商製)を添加して、薬さじで5分間程度混合した。その後、第3工程として、土壌をプラスチックバットに薄く広げ、土壌表面上に表面磁力1000Gの磁石棒(KGM−HM13−S18476、カネテック製)を走査して磁着物と非磁着物に磁性分離した。得られた磁着物は汚染物質含有量分析(底質調査法)を実施し、非磁着物は汚染物質含有量分析と汚染物質溶出量分析(環境告示18号)とを実施した。結果を表19〜表21に示す。
【0068】
【表19】
【0069】
【表20】
【0070】
【表21】
【0071】
紙粉を添加している実施例C1〜C7すべては、紙粉を添加していない比較例C1と比して、土壌巻込み率が低い。また、実施例C1〜C7のすべては、鉄粉としてK−3Mを用いた実施例A1〜A4、実施例B1〜B8よりも土壌巻込み率が高い。
【0072】
砒素の溶出量は、実施例C1〜C7、比較例C1のいずれもすべて土壌汚染対策法に規定される溶出量基準値以下である。ふっ素の溶出量は実施例C1〜C5で土壌汚染対策法に規定される溶出量基準値以下となった。ふっ素の溶出量は鉄粉および紙粉の添加量を増加させるに従い減少した。鉛の溶出量は、実施例C1〜C7、比較例C1のいずれもすべて土壌汚染対策法に規定される溶出量基準値以下である。
<混合前含水量を大きくした場合の土壌巻込み率の評価>
【0073】
使用する汚染土壌として、以下の条件の土壌を用いた。
【0074】
【表22】
【0075】
第1工程として、上記表22の汚染土壌の試料を風乾または蒸留水を添加し、水分含有量を29.4%に調整した。紙粉種類および添加量は以下のようにした。
【0076】
【表23】
【0077】
水分含有量29.4%に調整した汚染土壌を実施例B1〜B8にそれぞれ対応するように、100gずつに小分けした。第2工程として、100gずつに小分けされた土壌に、鉄粉(K-3M、JFEスチール製)10gを添加し、卓上ミキサー(KPL9000S、愛工舎製作所製)で10分間混合した。10分間静置した後、表23に示す量の紙粉を添加して、薬さじで5分間程度混合した。その後、第3工程として、土壌をプラスチックバットに薄く広げ、土壌表面上に表面磁力1000Gの磁石棒(KGM−HM13−S18476、カネテック製)を走査して磁着物と非磁着物に磁性分離した。得られた磁着物は汚染物質含有量分析(底質調査法)を実施し、非磁着物は汚染物質含有量分析と汚染物質溶出量分析(環境告示18号)とを実施した。結果を表24〜表26に示す。
【0078】
【表24】
【0079】
【表25】
【0080】
【表26】
【0081】
表24〜表26に示す結果から、汚染土壌中の水分含有量29.4%とすると、実施例A1〜A4に比して、汚染物質回収率が向上することが理解される。
【0082】
図9に比較例D1、D2の土壌巻込み率(%)を示したグラフを示す。
図9の比較例D1、D2の土壌巻込み率(%)および
図6に示す実施例A1〜A4の土壌巻込み率(%)の結果から、汚染土壌中の水分含有量29.4%とすると、土壌巻込み率が著しく悪化することが理解される。
<紙粉添加後の土壌の流動性の評価>
【0083】
土壌に水および紙粉を添加して、土壌の流動性がどのように変化するかを評価した。使用する土壌として、実施例A1〜A4、比較例A1、比較例B1〜B8、実施例C1〜C46、実施例D1〜D8、比較例E1、E2で用いた土壌と同じ礫混じり粘性土質砂で、汚染物質を含まないものを用いた。
【0084】
紙粉は、実施例A1〜A4で用いた紙粉(製品1、日本紙通商製)と同じ紙粉を用いた。
【0085】
本評価は、JIS Z 2502 金属粉−流動度測定法を応用して実施した。参考比較例1〜23は、上記の土壌に下記表に示す含水量(%)になるように水を添加して均一になるように混合した。各例の土壌は、加水前の重量で200g用意した。含水量は、加熱乾燥式水分計(株式会社エー・アンド・ディ製、型式番号ML 50)で測定した。
【0086】
図10に示すように、漏斗を用意し、この漏斗の下側の小さい開口部(オリフィス)を指で押さえ、上側の大きい開口部に参考比較例1〜23の加水した土壌を投入した。指を離してオリフィスを開放し、開放からすべての土壌が小さい開口部を通過するまでの時間をストップウォッチで計測した。
【0087】
JIS Z 2502に準拠し、オリフィスを開けても粉が流れ出さない場合には,流れ出すよう漏斗を軽く数回(例えば、2〜5回)たたいて振動を加えた。その場合には、振動有すなわち〇の表記とした。結果を表27および
図11のグラフに示す。直線は、参考比較例1〜23の値から得られた回帰直線を示す。
【表27】
【0088】
参考比較例23では、土壌の流れが止まったため、この評価での流動性なし、すなわち評価×とした。表27に示す結果から、含水量が10質量%を超えると、流動性が著しく低下し、含水量が14.4質量%のときに流動性がなくなった。
【0089】
同様に、上記土壌に水および紙粉を添加して、参考例の土壌の流動性を評価した。参考例1〜11は、上記の土壌に下記表に示す含水量14.4質量(%)になるように水を添加して薬さじで均一になるように混合した。各例の土壌は、加水前の重量で200g用意した。含水量は、加熱乾燥式水分計(株式会社エー・アンド・ディ製、型式番号ML 50)で測定した。さらに紙粉を下記表28に示す質量%で添加して、薬さじで均一になるように混合した。紙粉添加後の含水量は表28のようになった。
【0090】
図10に示す漏斗の下側の小さい開口部(オリフィス)を指で押さえ、上側の大きい開口部にこの参考例1〜11の土壌を投入した。指を離してオリフィスを開放し、開放からすべての土壌が小さい開口部を通過するまでの時間をストップウォッチで計測した。
【0091】
JIS Z 2502に準拠し、オリフィスを開けても粉が流れ出さない場合には,流れ出すよう漏斗を軽く数回(例えば、2〜5回)たたいて振動を加えた。その場合には、振動有すなわち〇の表記とした。結果を表28および
図11のグラフに示す。
【表28】
【0092】
参考例1〜11では、参考比較例に比して流動性が向上した。紙粉添加前の含水量が14.4質量%である参考例1〜11の流動性は、含水量8〜10質量%の参考比較例9〜20と同等であった。このため、含水させた土壌に紙粉を添加すると、含水量にかかわらず、流動性が向上して土壌が低粘度かつサラサラな状態になることが理解される。
<紙粉の不溶化効果に関する評価>
【0093】
使用する模擬汚染土壌として、以下の条件の土壌を用いた。
【0094】
【表29】
【0095】
使用する土質改質剤又は紙粉として、以下を用いた。土質改質剤としては、泥ん固シリーズ EP-ライト、泥ん固シリーズ No.7、ジプサンダーC、ジプサンダーB、ワトルを用いた。紙粉としては、実施例A1〜A4で用いた紙粉(製品1)を用いた。
【0096】
泥ん固シリーズ EP−ライトおよび泥ん固シリーズ No.7は、無機系固化材(Si−Ca−Al系固化材)である。ジプサンダーCは、焼石膏を主成分とした石膏系中性固化材である。ジプサンダーBは、ジプサンダーCに高分子凝集剤を配合したものであり、焼石膏を主成分とした石膏系中性固化材である。ワトルは、ペーパースラッジ焼却灰(PS灰)に特殊薬剤を混合し水和処理した吸水性泥土改質材である。
【0097】
【表30】
【0098】
第1工程として、上記表27の模擬汚染土壌(宇部珪砂新特5号A)の試料を風乾または蒸留水を添加し、水分含有量を表27のように調整した。
【0099】
水分含有量を調整した実汚染土壌および模擬汚染土壌を各土質改質剤および紙粉(製品1)にそれぞれ対応するように、100gずつに小分けした。第2工程として、100gずつに小分けされた土壌に、鉄粉(K-3M、JFEスチール製)10gを添加し、卓上ミキサー(KPL9000S、愛工舎製作所製)で10分間混合した。10分間静置した後、表22の土質改質剤のいずれか1種を10g又は紙粉(製品1)10gを添加して、薬さじで5分間程度混合した。得られた非磁着物について汚染物質溶出量分析(環境告示18号)を実施した。模擬汚染土壌を用いた場合の汚染物質の溶出量の結果を表29に示す。
【0100】
【表31】
【0101】
図12に模擬汚染土壌の砒素の溶出量を示したグラフを示す。0.01mg/Lの破線の位置が土壌汚染対策法に規定される溶出量基準値を示す。表29および
図12に示す結果から、土質改質剤又は紙粉を添加していない原土(模擬汚染土壌)からの砒素の溶出量に対して、紙粉(製品1)を添加した模擬汚染土壌からの溶出量にほとんど減少は見られなかった。これに対して、EP−ライト、No.7、ジプサンダーC、ジプサンダーB、ワトルといった土壌改質剤(中性固化材)を添加した模擬汚染土壌からの溶出量は、紙粉(製品1)を添加した模擬汚染土壌からの溶出量よりも著しく小さい溶出量(1/10以下)となっている。このため、紙粉(製品1)は、その水溶性の性質から、土質改質剤に比して汚染物質を模擬汚染土壌中に不溶化する性質がないことが理解される。