【実施例】
【0031】
以下、複数の窒化アルミニウム板を作製し、特性評価を行った結果を示す。なお、以下に示す実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであり、本明細書の開示を限定するものではない。
【0032】
まず、窒化アルミニウム板の原料である板状の窒化アルミニウム粒子の製造方法を説明する。板状の窒化アルミニウム粒子は、板状の酸化アルミニウムを窒素流通下の加熱炉内で熱処理して製造した。具体的には、板状の酸化アルミニウム(キンセイマテック(株))100g,カーボンブラック(三菱化学(株))50g,アルミナ玉石(φ2mm)1000g,IPA(イソプロピルアルコール:トクヤマ(株)製、トクソーIPA)350mLを、30rpmで240分間粉砕及び混合し、混合物を得た。なお、板状の酸化アルミニウムは、平均粒径(面方向長さ)5μm,7μmのものを用いた。平均粒径が5μmの酸化アルミニウムは、平均厚さ(厚み方向長さ)0.07μm,アスペクト比70であった。平均粒径が7μmの酸化アルミニウムは、平均厚さ(厚み方向長さ)0.1μm,アスペクト比70であった。
【0033】
得られた混合物からアルミナ玉石を除去し、その混合物をロータリーエバポレータを用いて乾燥させた。その後、残存した混合物(板状アルミナ,炭素混合物)を乳鉢で軽く解砕した(比較的弱い力で、凝集した粒子を分離させた)。次に、混合物をカーボン製の坩堝に100g充填し、加熱炉内に配置し、窒素ガス3L/min流通下で昇温速度200℃/hrで1600℃まで昇温し、1600℃で20時間保持した。加熱終了後、自然冷却し、坩堝から試料を取り出し、マッフル炉を用いて酸化雰囲気下で650℃で10hr熱処理(後熱処理)し、板状の窒化アルミニウム粒子を得た。なお、後熱処理は、試料中に残存している炭素を除去するために行った。
【0034】
次に、得られた板状の窒化アルミニウム粒子について、窒化アルミニウム板の原料として使用する粒子の選別を行った。上記熱処理後の窒化アルミニウム粒子には、単一粒子と凝集粒子が含まれている。そのため、熱処理後の窒化アルミニウム粒子に対して解砕処理及び分級処理を施し、単一粒子を選別した。具体的には、熱処理後の窒化アルミニウム粒子100g,アルミナ玉石(φ15mm)300g,IPA(トクヤマ(株)製、トクソーIPA)60mLを、30rpmで240分間解砕した。その後、アルミナ玉石を除去し、ロータリーエバポレータを用いて乾燥させた。次に、乾燥後の窒化アルミニウム粒子を、精密空気分吸機(日清エンジニアリング(株)製、TC−15NSC)を用いて分級した。なお、分級点は、上記した板状の酸化アルミニウムの平均粒径と同サイズを設定した。分級後微粒を、窒化アルミニウム板の原料とした。
【0035】
次に、窒化アルミニウム板の製造の際に用いる焼結助剤の合成方法を説明する。焼結助剤としてCaとAlの複合酸化物(Ca−Al−O系助剤)を作製した。具体的には、炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)製、Shilver−W)56g,γ―アルミナ(大明化学工業(株)製、TM−300D)19g、アルミナ玉石(φ15mm)1000g,IPA(トクヤマ(株)製、トクソーIPA)125mLを、110rpmで120分間粉砕・混合し、混合物を得た。得られた混合物からアルミナ玉石を除去し、その混合物をロータリーエバポレータを用いて乾燥し、混合粉末を得た。その後、混合粉末をアルミナ製の坩堝に70g充填し、加熱炉内に配置し、大気中で昇温速度200℃/hrで1250℃まで昇温し、1250℃で3時間保持した。加熱終了後、自然冷却し、坩堝から生成物(焼結助剤)を取り出した。なお、得られた焼結助剤におけるCaとAlのモル比は、「Ca:Al=3:1」であった。
【0036】
次に、テープ成形体を作製するための原料の調合について説明する。上記板状の窒化アルミニウム粒子と、上記焼結助剤と、市販の窒化アルミニウム粒子(トクヤマ(株)製、Fグレード、平均粒径1.2μm)の割合(質量割合)を調整し、3種類の原料(テープ原料1〜
3)を作製した。テープ原料1〜4の詳細は
図6に示す。具体的には、各テープ原料20g(合計重量)に対し、アルミナ玉石(φ15mm)300g,IPA(トクヤマ(株)製、トクソーIPA)60mLを、30rpmで240分間粉砕・混合した。その後、アルミナ玉石を除去し、ロータリーエバポレータを用いて乾燥させ、テープ原料1〜3を作製した。
【0037】
テープ原料1〜3を用いて3種のテープ成形体を作製した。具体的には、上記各テープ原料100質量部に対し、バインダとしてポリビニルブチラール(積水化学工業製、品番BM−2)7.8質量部と、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)フタレート(黒金化成製)3.9質量部と、分散剤としてトリオレイン酸ソルビタン(花王製、レオドールSP−O30)2質量部と、分散媒として2−エチルヘキサノールを加えて混合し、原料スラリーを作製した。なお、分散媒の添加量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。調整した原料スラリーを用いて、窒化アルミニウム粒子の板面(c面)がテープ成形体の表面に沿って並ぶように、ドクターブレード法によって原料スラリーをPETフィルム上に成形した。なお、スラリー厚みは、乾燥後の厚さが50μmとなるように調整した。以上の工程により、3種のテープ成形体(テープ成形体1〜3)を作製した。
【0038】
テープ成形体1〜3を用いて作製した3種類の窒化アルミニウム焼結体と、市販の窒化アルミニウム単結晶(厚み350μm)を用いて、6種の窒化アルミニウム板(試料1〜6)を作製した。窒化アルミニウム焼結体の作製方法を説明する。まず、各テープ成形体を直径20mmの円形に切断し、各テープ成形体を積層し、5種の積層成形体を作製した。具体的には、テープ成形体1を4枚積層した積層成形体S1、テープ成形体2を4枚積層した積層成形体S2、テープ成形体3を4枚積層した積層成形体S3、テープ成形体1を10枚積層した積層成形体R1、テープ成形体2を10枚積層した積層成形体R2を作製した。各積層成形体を厚さ10mmのアルミニウム板上に載置した後、パッケージに入れてパッケージ内部を真空にし、真空パッケージとした。各真空パッケージを85℃の温水中で100kgf/cm
2の圧力で静水圧プレスを行い、円板状の積層成形体を得た。
【0039】
次に、作製した各積層成形体の1次焼成を行った。具体的には、まず、各積層成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間脱脂を行った。脱脂後の各積層成形体を黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中、焼成温度(最高到達温度)1850℃で5時間、面圧200kgf/cm
2の条件下で焼成し、各積層成形体を1次焼成した。なお、ホットプレスの際の加圧方向は、各積層成形体の積層方向(テープ成形体の表面に略直交する方向)とした。また、加圧は、室温に降温するまで維持した。
【0040】
次に、1次焼成後の各積層成形体の2次焼成を行った。まず、1次焼成後の各積層成形体の表面を研削し、S1、S2、S3から作製した1次焼成体はφ20mm、厚さ0.08mmに調整し、R1、R2から作製した1次焼成体はφ20mm、厚さ0.23mmに調整した。各積層成形体を窒化アルミニウム製のサヤに充填し、加熱炉内を窒素雰囲気とし、焼成温度(最高到達温度)1900℃で75時間焼成し、各積層成形体を2次焼成した。
【0041】
次に、2次焼成後の各積層成形体と市販の窒化アルミニウム単結晶の表裏面を粗研磨した後、さらに、それらをφ68mmの金属製定盤に固定し、粒径が9μm及び3μmのダイヤモンド砥粒を含むスラリーを滴下した銅製ラッピング盤により研磨し、さらに、コロイダルシリカを含むスラリーを滴下したバフ盤で300分間研磨した。その後、研磨後の各積層成形体及び窒化アルミニウム単結晶を、アセトン、エタノール、イオン交換水の順でそれぞれ3分間洗浄した。研磨後の各積層成形体及び窒化アルミニウム単結晶は、S1、S2、S3は厚さ60μmであり、R1、R2は厚さ210μmであり、両面とも鏡面になっていた。
【0042】
両面を研磨した2次焼成体及び市販の窒化アルミニウム単結晶から、窒化アルミニウム板を作製するための基板として2枚選択し、それぞれの基板の接合面を洗浄して表面の汚れを取った後、真空チャンバーに導入した。その後、10
−6Pa台の真空中で、それぞれの基板の接合面に高速Ar中性原子ビーム(加速電圧1kV、Ar流量60sccm)を70sec間照射した。照射後、10分間そのまま放置して各基板を26〜28℃に冷却した。次いで、2次焼成体及び市販の窒化アルミニウム単結晶のビーム照射面同士を接触させた後、4.90kNで2分間加圧して両基板を接合した。接合後、表層を厚みが50μm、下層を厚みが200μmになるまで研磨加工し、その後260℃でアニールを行い、窒化アルミニウム板を得た。各窒化アルミニウム板(試料1〜6)において使用した材料(テープ成形体,窒化アルミニウム単結晶)の組み合わせを
図7に示す。
【0043】
なお、
図7中の使用テープ1〜3は、
図6のテープ原料1〜3から得られたテープ成形体に相当する。すなわち、試料1の下層は積層成形体R1、試料2の下層は積層成形体R2、試料4の上層は積層成形体S3、試料4の下層は積層成形体R1、試料5の上層は積層成形体S1、試料5の下層は積層成形体R1、試料6の上層は積層成形体S2、試料6の下層は積層成形体R2を用いて作製された2次焼成体である。なお、試料3は、実際には積層体を作製せず、同一の窒化アルミニウム単結晶を表層または下層として評価した。試料3については、1次焼成及び2次焼成も行っていない。なお、何れも試料も表層及び下層の厚みは、積層するテープ成形体の枚数、あるいは、焼成後(2次焼成後)、あるいは接合後の研磨により、任意に調整することができる。
【0044】
得られた試料(試料1〜6)について、配向度,ツイスト角を測定し、さらに、試料の透明性,成膜性,加工性について評価を行った。評価結果を
図7に示す。以下、測定・評価方法について説明する。
【0045】
配向度(c面配向度)は、各試料の表層及び下層の測定面(研磨面)の各々に対してX線を照射し、測定した。具体的には、XRD装置(Bruker−AXS製D8-ADVANCE)を用い、CuKα線を用いて電圧50kV,電流300mAの条件下、2θ=20〜70°の範囲でXRDプロファイルを測定した。なお、配向度(f)は、ロットゲーリング法によって算出した。具体的には、以下の式(3),(4)で得られた結果P,P
0を、式(2)に代入することにより算出した。なお、式中、Pは得られた試料(窒化アルミニウム板)のXRD測定から得られた値であり、P
0は標準窒化アルミニウム(JCPDSカードNo.076−0566)から算出した値である。なお、(hkl)として、(100),(002),(101),(102),(110),(103)を使用した。
f={(P−P
0)/(1−P
0)}×100・・・(2)
P
0=ΣI
0(002)/ΣI
0(hkl)・・・(3)
P=ΣI(002)/ΣI(hkl)・・・(4)
【0046】
ツイスト角(X線ロッキングカーブプロファイルにおける半値幅)は、各試料の表層及び下層の(102)面に対してX線を照射し、測定した。具体的には、XRD装置(Bruker−AXS製D8-DISCOVER)を用い、CuKα線を用いて電圧40kV、電流40mA、コリメータ径0.5mm、アンチスキャッタリングスリット3mm、ωステップ幅0.01°の条件下、計数時間1秒でXRDプロファイルを測定した。得られたXRCプロファイルに基づいて半値幅を算出し、ツイスト角とした。
【0047】
図7には、各試料について、表層のc面配向度c1,下層のc面配向度c2,表層のツイスト角w1,下層のツイスト角w2が下記式(1)〜(4)を満足している試料に「〇」を付し、満足していない試料に「×」を付している。
式1:c1>97.5%
式2:c2>97.0%
式3:w1<2.5°
式4:w1/w2<0.995
【0048】
透明性(透光率)は、各試料を縦10mm,横10mmに切り出し、分光光度計(Perkin Elmer製、Lambda900)を用いて波長450nmにおける直線透過率を測定して評価した。
図7には、直線透過率40%以上の試料に「〇」を付し、40%未満の試料に「×」を付している。
【0049】
成膜性は、研磨後の各試料の表面に有機金属
気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)を用いて窒化アルミニウムガリウム(Al
0.5Ga
0.5N)を成膜し、Al
0.5Ga
0.5N表面の欠陥数を計測して評価した。具体的には、リアクタ内に基板(各試料)を配置し、リアクタ内の圧力を13kPaとし、基板(各試料)温度を1000℃にした状態で、基板に原料を供給し、Al
0.5Ga
0.5Nをおよそ230nm成膜した。なお、原料としてアンモニアガス、トリメチルアルミニウム、トリメチルガリウムを用い、キャリアガスとして水素と窒素を用いた。その後、成膜面(Al
0.5Ga
0.5N層の表面)を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JSM−6390)にて倍率3000倍で観察し(20視野以上)、クラック,ピンホール等の欠陥の数をカウントし、欠陥数が100個/mm
2以下であるか否かを評価した。
図7には、欠陥数が100個/mm
2以下の試料に「〇」、欠陥数が100個/mm
2超の試料に「×」を付している。
【0050】
加工性は、各試料をダイシングし、ダイシング後の裏面チッピングの幅を測定し、評価した。具体的には、まず、平坦面を有するアルミナ焼結板を用意し、各試料の下層側をアルミナ焼結板の表面(平坦面)にワックスで固定した。その後、各試料を、♯400のレジンダイヤモンドブレードを用いて、ブレードの回転速度30000rpm、ブレードの送り速度3mm/sで各試料の表層側から切断した。切断後、各試料をアルミナ焼結板から取り外し、各試料の下層側を光学顕微鏡で観察し、裏面チッピング幅(下層面に入っている切断面からのチッピングの幅)を測定し、チッピング幅が10μm以下であるか否かを評価した。
図7には、裏面チッピング幅が10μm以下の試料に「〇」、裏面チッピング幅が10μm超の試料に「×」を付している。
【0051】
図7に示すように、表層及び下層のc面配向度が高い(式1及び式2を満足)試料は、透明性が高いことが確認された(試料1,3,4,5)。また、表層のc面配向度が高く(式1を満足)、表層のツイスト角が小さい(式3を満足)試料は、成膜性が良好であることが確認された(試料1,2,3)。成膜性が良好な試料(試料1,2,3)のうち、下層のツイスト角が表層のツイスト角より大きい(式4を満足)試料は、加工性が良好であることが確認された(試料1,2)。すなわち、式1,3及び4を満足することにより、良質な(欠陥の少ない)半導体を成長させることができるとともに、高強度(破壊靭性が高い)の窒化アルミニウム板が得られることが確認された。また、式1〜4の全てを満足することにより、透明度が高く、良質な半導体を成長させることができるとともに、高強度(の窒化アルミニウム板が得られることが確認された。
【0052】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。