特許第6872075号(P6872075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872075
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム板
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/581 20060101AFI20210510BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20210510BHJP
   C30B 1/10 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C04B35/581
   C30B29/38 C
   C30B1/10
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-509201(P2020-509201)
(86)(22)【出願日】2019年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2019013227
(87)【国際公開番号】WO2019189378
(87)【国際公開日】20191003
【審査請求日】2020年4月7日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/012542
(32)【優先日】2018年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 義政
(72)【発明者】
【氏名】小林 博治
(72)【発明者】
【氏名】柴田 宏之
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−133354(JP,A)
【文献】 特開平11−54603(JP,A)
【文献】 特開2012−31027(JP,A)
【文献】 特開2006−290729(JP,A)
【文献】 特開平8−157265(JP,A)
【文献】 特開2011−20900(JP,A)
【文献】 特表2016−520992(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/008545(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B35/581−35/582
C30B29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム板であり、
表層を厚み方向からX線回折測定したときの(002)面の回折強度と(100)面の回折強度の合計に対する(002)面の回折強度の割合をc面配向度c1とし、
表層以外の部位を厚み方向からX線回折測定したときの(002)面の回折強度と(100)面の回折強度の合計に対する(002)面の回折強度の割合をc面配向度c2とし、
表層の(102)面のX線ロッキングカーブプロファイルにおける半値幅をw1とし、
表層以外の部位の(102)面のX線ロッキングカーブプロファイルにおける半値幅をw2としたときに、
以下の関係式(1)から(4)を満足している窒化アルミニウム板。
c1>97.5%・・・・・・(1)
c2>97.0%・・・・・・(2)
w1<2.5°・・・・・・・(3)
w1/w2<0.995・・・(4)
【請求項2】
表層の窒素含有量と表層以外の部位の窒素含有の差が、重量比で、0.15%未満である、請求項1に記載の窒化アルミニウム板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、窒化アルミニウム板に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
半導体の成長基板として、窒化アルミニウム板が知られている。窒化アルミニウム板は、格子定数が近いことより、III族窒化物半導体の成長基板として用いられる。特開2011−20900号公報(以下、特許文献1と称する)は、表層のみ単結晶であり、表層以外の部分が多結晶の窒化アルミニウム板(窒化アルミニウム積層板)を開示している。特許文献1は、半導体の成長基板としては単結晶の窒化アルミニウムが有用であると認識しているものの、自立する(ハンドリング可能な厚みを有する)単結晶の窒化アルミニウム板を安定して製造することが困難であるため、単結晶と多結晶の積層板を作製している。具体的には、基板(窒化アルミニウムを成長させるための基板)と窒化アルミニウムの格子定数の相違によって窒化アルミニウムに反り等が発生することを抑制するため、基板上に単結晶の窒化アルミニウム層を薄く形成し、単結晶層の表面に多結晶の窒化アルミニウム層を形成している。
【0003】
特許文献1では、窒化アルミニウム板に含まれる窒素(N)の割合を変化させ、単結晶層と多結晶層を構成している。なお、特許文献1は、単結晶層を、半導体を成長させる成長面として利用している。単結晶層上に半導体を成長させるため、高品質の半導体が形成(成長)されることが見込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体装置のなかには、製造過程で窒化アルミニウム板を除去せず、最終製品(半導体装置)に窒化アルミニウム板を残存させることがある。上記したように、特許文献1の窒化アルミニウム板は、単結晶層と多結晶層に含まれる窒素の割合を変化させている。具体的には、特許文献1では、単結晶層の窒素含有量を34.15〜34.70質量%とし、多結晶層の窒素含有量を32.50〜34.00質量%としている。この場合、窒化アルミニウム板を構成する単結晶層と多結晶層の特性の相違が、半導体装置の機能に影響を及ぼすことがある。そのため、窒化アルミニウム層の表面に良質な半導体を形成しても、半導体装置の機能が向上しない、あるいは、低下することがある。本明細書は、半導体の成長基板として有用な窒化アルミニウム板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示する窒化アルミニウム板は、表層を厚み方向からX線回折測定したときの(002)面の回折強度と(100)面の回折強度の合計に対する(002)面の回折強度の割合をc面配向度c1とし、表層以外の部位を厚み方向からX線回折測定したときの(002)面の回折強度と(100)面の回折強度の合計に対する(002)面の回折強度の割合をc面配向度c2とし、表層の(102)面のX線ロッキングカーブプロファイルにおける半値幅をw1とし、表層以外の部位の(102)面のX線ロッキングカーブプロファイルにおける半値幅をw2としたときに、以下の関係式(1)から(4)を満足していてよい。
c1>97.5%・・・・・・(1)
c2>97.0%・・・・・・(2)
w1<2.5°・・・・・・・(3)
w1/w2<0.995・・・(4)
【0006】
上記窒化アルミニウム板は、少なくとも表層と表層以外の部位(以下、下層と称する)の2層を備えている。上記窒化アルミニウム板では、表層の(102)面のX線ロッキングカーブプロファイルにおける半値幅w1は2.5°未満である。一方、表層以外の部位の(102)面のX線ロッキングカーブプロファイルにおける半値幅w2は、表層の半値幅w1に対して99.5%未満である。なお、「(102)面のX線ロッキングカーブプロファイルにおける半値幅」は、特定の結晶Aを基準としたときに、他の結晶Bが結晶Aに対してc軸周りに回転(ツイスト)している角度を示す。各結晶のc軸周りの向き(角度)が揃っている程、半値幅は小さくなる。以下の説明では、「半値幅」のことを「ツイスト角」と称することがある。
【0007】
また、本明細書でいう「表層」とは、窒化アルミニウム板を厚み方向に10分割したときの一端の層に含まれる部分であり、一端側の表面に露出する部分である。例えば、厚み方向に10分割された一端の層をさらに厚み方向に10分割したときに、一端側の表面に露出する層と他の層との間にc面配向度又はツイスト角の差異が確認されたときは、厚み方向に100分割したときの一端の層が「表層」となる。窒化アルミニウム板の厚みに占める表層の割合は、窒化アルミニウム板の厚みによっても変化する。
【0008】
上記窒化アルミニウム板は、表層及び下層のc軸の向きが揃っており(c面配向度97.0%超)、表層のc軸の配向度は特に高い(c面配向度97.5%超)。表層及び下層(すなわち、厚み方向全体)のc面配向度を97%以上とすることにより、透明度の高い窒化アルミニウム板が得られる。例えば、LED等の発光素子の発光部(発光素子の基板)として、窒化アルミニウム板を利用することができる。また、上記窒化アルミニウム板は、表層のツイスト角が小さく(ツイスト角2.5°未満)、表層を構成する各結晶間の隙間が小さい。表層のc面配向度を97.5%超とし、ツイスト角を2.5°未満とすることにより、窒化アルミニウム板の表面に良質な(欠陥の少ない)半導体を成長させることができる。
【0009】
さらに、上記窒化アルミニウム板は、下層のツイスト角w2が表層のツイスト角w1より大きい(上記式(4))。下層において各結晶間に隙間が確保され、半導体装置の製造過程、あるいは、半導体装置の使用中に、半導体(半導体素子部分)から窒化アルミニウム板に加わる応力を緩和することができる。なお、下層のツイスト角w2を表層のツイスト角w1と同レベルにしても、窒化アルミニウム板の表面に良質な半導体を成長させることができる。しかしながら、この場合、窒化アルミニウム板の強度(破壊靭性)が低下し、例えば成長させた半導体と窒化アルミニウム板の熱膨張係数の相違により、窒化アルミニウム板に力が加わり、窒化アルミニウム板の劣化が促進することが起こり得る。上記窒化アルミニウム板は、下層のツイスト角w2を表層のツイスト角w1より大きくすることにより、窒化アルミニウム板の強度を増大させ、耐久性を向上させている。
【0010】
上記窒化アルミニウム板では、表層の窒素含有量と表層以外の窒素含有量の差が、重量比で、0.15%未満であってよい。これにより、表層と下層の化学組成がほぼ等しく、結晶形態もほぼ等しくすることができる。表層と下層の格子定数差に起因する両者間のひずみ等が抑制され、窒化アルミニウム板から半導体素子部分にひずみ等の力が加わる等、窒化アルミニウム板が半導体素子部分に影響を及ぼすことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】窒化アルミニウム板の特徴を説明するための図を示す。
図2】表層を構成する結晶の特徴を説明するための図を示す。
図3】窒化アルミニウム結晶のX線回折ピークを示す。
図4】表層を構成する結晶の状態を示す。
図5】下層を構成する結晶の状態を示す。
図6】実施例の窒化アルミニウム板の作製に用いる材料を示す。
図7】実施例の窒化アルミニウム板の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本明細書で開示される技術の実施形態を説明する。
【0013】
本明細書では、半導体、特に、III族窒化物半導体の成長基板として好適に利用される窒化アルミニウム板を開示する。窒化アルミニウム板は、熱伝導率が高く、半導体装置の基板として好適に用いられる。本明細書で開示する窒化アルミニウム板は、平板状であれば、外形は特に限定されず、例えば、矩形、円形であってよい。また、円形の窒化アルミニウム板の場合、ノッチ、オリエンテーションフラット等が形成されていてもよい。また、窒化アルミニウム板の厚みは、特に限定されないが、0.1mm以上であってよく、0.2mm以上であってよく、0.25mm以上であってよく、0.5mm以上であってよく、0.75mm以上であってよく、1.0mm以上であってもよい。厚みが薄すぎると、移動中に破損が生じたり、窒化アルミニウム板に反り等が生じて半導体装置の特性に影響を及ぼすことがある。また、窒化アルミニウム板の厚みは、10mm以下であってよく、5mm以下であってよく、3mm以下であってよく、1mm以下であってよい。厚みが厚すぎると、熱膨張係数の相違によって半導体素子部に大きな力が加わったり、半導体装置の微細化の妨げとなることがある。
【0014】
窒化アルミニウム板は、c面配向度又は(102)面のX線ロッキングカーブプロファイルにおける半値幅(ツイスト角)の相違により、少なくとも表層と下層を備えていてよい。下層の上に(下層の表面に)表層が設けられていてよい。表層は、窒化アルミニウム板の表面(半導体を成長させる成長面)を含んでいてよい。特に限定されないが、表層の厚みは10nm〜500μmであってよい。窒化アルミニウム板の厚みに占める表層の厚みは、窒化アルミニウム板の厚みによって変化するが、窒化アルミニウム板の厚みの10分の1より薄くてよい。下層は、半導体を成長させない側の表面(窒化アルミニウム板の裏面)を含んでいてよい。すなわち、窒化アルミニウム板の厚み方向において、下層は、表層以外の部位であってよい。
【0015】
表層のc面配向度c1は、97.5%より大きくてよく、98%より大きくてよく、99%より大きくてもよい。また、下層のc面配向度c1は、97.0%より大きくてよく、97.5%より大きくてよく、98%より大きくてよく、99%より大きくてもよい。表層と下層のc面配向度が同じであってもよく、下層のc面配向度c2が表層のc面配向度c1より大きくてもよい。各結晶(窒化アルミニウム結晶)のc軸のチルト角(傾斜角)が小さい程、高品質の半導体が得られる。また、各結晶のc軸のチルト角が小さい程、窒化アルミニウム板の透明度の高くなり、窒化アルミニウム板の透光性が向上する。そのため、窒化アルミニウム板は、表層のc面配向度c1が「式1:c1>97.5%」を満足し、下層のc面配向度c2が「式2:c1>97.0%」を満足していてよい。なお、表層のc面配向度c1が97.5%以下の場合、高品質の半導体が得られにくく、例えば半導体層内に欠陥が生じることがある。
【0016】
表層のツイスト角w1は2.5°未満であってよく、2.0°未満であってよく、1.5°未満であってよく、1.0°未満であってよい。表層のツイスト角w1が小さい程(各結晶のc軸周りの向きが揃っている程)、各結晶間の隙間が小さくなり、高品質の半導体を成長させることができる。そのため、窒化アルミニウム板は、表層のツイスト角w1が「式3:w1<2.5°」を満足していてよい。
【0017】
表層のツイスト角w1は、下層のツイスト角w2より小さくてよい。換言すると、下層のツイスト角w2は、表層のツイスト角w1より大きくてよい。表層のツイスト角w1は、下層のツイスト角w2に対して99.5%未満であってよい。すなわち、ツイスト角w1,w2は、「式4:w1/w2<0.995」を満足していてよい。下層のツイスト角w2が大きくなる程、各結晶間に隙間が確保され、窒化アルミニウム板の破壊靭性が向上し、窒化アルミニウム板を割れにくくすることができる。なお、下層のツイスト角w2は、上記式4を満足する範囲内で、目的に応じて調整してよい。
【0018】
なお、表層のツイスト角w1を大きくしても、窒化アルミニウム板の破壊靭性を向上させることができる。しかしながら、上記したように、表層は、高品質の半導体を成長させるために、ツイスト角w1が小さく維持される(2.5°未満)。本明細書で開示する窒化アルミニウム板は、表層のツイスト角w1は小さく維持し、下層のツイスト角w2は表層よりも大きくすることにより、高品質の半導体を成長させることができるとともに、窒化アルミニウム板自体の破壊靭性を高くすることができる。すなわち、窒化アルミニウム板は、上記式3および式4の双方を満足してよい。また、より確実に透明度が高い高品質の半導体を成長させるため、窒化アルミニウム板は、上記式1から4の全てを満足してよい。
【0019】
なお、c面配向度は、円板状の窒化アルミニウム板の表層または下層が上面となるように窒化アルミニウム板を試料ホルダーにセットし、窒化アルミニウム板にX線を照射してc面配向度を測定した。c面配向度を測定は、XRD装置(Bruker−AXS製D8-ADVANCE)を用い、2θ=20〜70°の範囲でXRDプロファイルを測定した。具体的には、CuKα線を用いて電圧50kV、電流300mAの条件で測定した。c面配向度(%)は、(002)面の回折強度(I 002)と(100)面の回折強度(I 100)を用いて、「I 002/(I 002+I 100)×100」により算出した。また、c面のツイスト角の指標として、円板状の窒化アルミニウム板の表層に対して、(102)面のロッキングカーブ測定(XRC)を行った。ロッキングカーブ測定は、XRD装置はBruker−AXS製D8-DISCOVERを用い、電圧40kV、電流40mA、コリメータ径0.5mm、アンチスキャッタリングスリット3mm、ωステップ幅0.01°、および計数時間1秒の測定条件で行った。なお、本測定ではGe(022)非対称反射モノクロメーターでCuKα線を平行単色光化(半値幅28秒)して測定した。こうして得られたXRCプロファイルに基づいて半値幅を求めた。
【0020】
本明細書で開示する窒化アルミニウム板は、表層および下層を構成する各結晶のc面の配向度,ツイスト角を調整することにより、上記した利点を得ている。本明細書で開示する窒化アルミニウム板では、表層および下層の双方が、複数の微結晶によって形成された多結晶体である。表層および下層は、実質的に同じ原料(窒化アルミニウム結晶粒を含む粉体)を用いて作製された多結晶体であってよい。すなわち、表層と下層は、少なくともツイスト角が異なるだけで、各結晶の結晶構造自体は等しくてよい。換言すると、表層および下層の化学組成は、ほぼ等しくてよい。具体的な指標として、表層の窒素含有量と表層以外の窒素含有量の差が、重量比で、0.15%未満であってよい。表層および下層の化学組成をほぼ等しくすることにより、表層および下層の特性(物理的・化学的特性)もほぼ等しくすることができる。例えば、格子定数の相違によって表層と下層の間にひずみが生じることを抑制することができる。そのため、窒化アルミニウム板が、半導体素子部分に影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0021】
上記したように、本願で開示する窒化アルミニウム板の下層は、窒化アルミニウム粉末を焼成して作製することができる。具体的には、窒化アルミニウム板の下層は、板状であるとともにアスペクト比が3以上の窒化アルミニウム粉体を用いて平板状の成形体を作製し、その後、成形体を常圧焼結法、ホットプレス法、熱間静水圧プレス法(HIP)、放電プラズマ焼結法(SPS)等を用いて焼結することによって作製することができる。なお、窒化アルミニウム板の下層を作製する際に、板状の窒化アルミニウム粉体の焼結を促進させる焼結助剤を用いてもよい。また、焼結させた後の窒化アルミニウム板の下層をさらに焼成し、窒化アルミニウム板に残存している焼結助剤を除去してもよい。
【0022】
窒化アルミニウム板の表層も、板状であるとともにアスペクト比が3以上の窒化アルミニウム粉体を用いて作製することができる。表層については、まず、アスペクト比が3以上の板状の窒化アルミニウム粉体を、磁場配向下における成形,テープ成形等を用いて平板状の成形体を作製する。その後、成形体を常圧焼結法、ホットプレス法、熱間静水圧プレス法(HIP)、放電プラズマ焼結法(SPS)等を用いて焼結することによって窒化アルミニウム板(表層)を作製することができる。なお、窒化アルミニウム板の表層を作製する際に、板状の窒化アルミニウム粉体の焼結を促進させる焼結助剤を用いてもよい。また、焼結させた後の窒化アルミニウム板の表層をさらに焼成し、窒化アルミニウム板に残存している焼結助剤を除去してもよい。なお、窒化アルミニウム板の表層として、昇華法により作製された市販の窒化アルミニウム単結晶を使用してもよい。
【0023】
窒化アルミニウム板は、表層と下層を接合して作製してよい。具体的には、まず、上記した作製方法を用いて、平板状の焼成体(焼成した表層及び下層)を用意する(工程1)。次に、表層及び下層用の焼成体のそれぞれの接合面に、真空中でAr中性原子ビームを照射する(工程2)。その後、表層用焼成体のビーム照射面(接合面)と下層用焼成体のビーム照射面(接合面)を接触させ、加圧して両焼成体を接合する(工程3)。なお、上記したように、工程(2)では、「Ar中性原子ビーム」を使用する。例えば、Arイオンビームを使用すると、真空チャンバーの材料(例えばFe、Cr等)が接合面に混入したり、アモルファス層が3層構造にならなかったりするおそれがあることから、好ましくない。また、工程(3)において、加圧する際の圧力は、窒化アルミニウム板のサイズ(表層用焼成体及び下層用焼成体のサイズ)等を考慮し、適宜設定すればよい。表層用焼成体と下層用焼成体の接合後、表層及び下層を所定厚さまで研磨加工することにより、所定厚さの窒化アルミニウム板を作製することができる。
【0024】
なお、板状の窒化アルミニウム粉体のサイズは、窒化アルミニウム板と比較してかなり小さい。例えば、窒化アルミニウム粉体の面方向長さ(c面のサイズ)Lは、0.6〜20μmであってよい。面方向長さLが小さすぎると、粉体同士が凝集し、粉体内の各結晶のc面配向度を高くすることが困難となる。また、面方向長さLが大きすぎると、窒化アルミニウム板を製造する際、焼結が起こり難くなり、窒化アルミニウム板の密度(理論密度に対する相対密度)が低くなることがある。また、窒化アルミニウム粉体の厚み方向長さDは、0.05〜2μmであってよい。厚み方向長さDが小さすぎると、窒化アルミニウム板を製造する際、窒化アルミニウム粉体の形状が崩れやすくなり、窒化アルミニウム板を構成する各結晶間に隙間が生じやすくなり、窒化アルミニウム板の(特に表層の)ツイスト角を小さくすることが困難となる。さらに、窒化アルミニウム板のc面配向度を高くすることも困難となる。また、厚み方向長さDが大きすぎると、例えばドクターブレード等を用いて焼成前の成形体の厚みを調整するときに、ドクターブレードから窒化アルミニウム粉体に加わる剪断応力を粉体側面(厚み方向に平行な面)で受ける割合が増え、窒化アルミニウム粉体の配列が乱れることが起こり得る。その結果、窒化アルミニウム板のツイスト角を小さくしたり、c面配向度を高くすることが困難となる。
【0025】
以下、図1〜5を参照し、本明細書で開示する窒化アルミニウム板の特徴を説明する。図1は、窒化アルミニウム板10の断面を模式的に示している。なお、図中の矢印12,14は、c軸の向きを示している。窒化アルミニウム板10は、c軸の配向度(c面配向度)が高い表層10aと、表層10aよりもc軸の配向度が低い下層10bを備えている。但し、表層10a及び下層10bにおいて、c面配向度は上記式1及び2を満足している。すなわち、表層10a及び下層10bともに、c面配向度は97%より大きい(表層10aは97.5%より大きい)。また、表層10aのツイスト角は、下層10bのツイスト角より小さく、2.5°未満である。半導体(図示省略)は、表層10aの表面に成長させる。
【0026】
窒化アルミニウム板10は、上記した板状の窒化アルミニウム粉体を用いて作製されている。表層10a及び下層10bは、実質的に同じ原料(板状の窒化アルミニウム粉体)から作製されており、化学的な組成はほぼ等しい。例えば、表層10a及び下層10bの窒素元素の含有に着目すると、両者はほぼ等しく、具体的には、両者の差は0.15%wt未満である。そのため、表層10a及び下層10bの特性もほぼ等しい。なお、図1中の表層10a及び下層10bを区画している破線は、板状の窒化アルミニウム粉体が焼結により粒成長して表層10a及び下層10bを構成していることを示しており、必ずしも結晶粒界を意味するものではない。
【0027】
窒化アルミニウム板10を作製するための各シート(表層シート,下層シート)用の原料は、スラリー状であり、板状の窒化アルミニウム粒子と炭酸カルシウム,イットリア、Ca−Al−O系当の焼成助剤を混合した混合原料を作成し、その混合原料にバインダ、可塑剤、分散剤等を添加して生成することができる。なお、必要に応じて、スラリー状の原料内に、粒状(球状)の窒化アルミニウム粒子を加える。なお、板状の窒化アルミニウム粒子として、高アスペクト比(アスペクト比3以上)のものを用いる。
【0028】
図2は、表層10aを構成している窒化アルミニウム結晶16,18を模式的に示している。図2には、窒化アルミニウム結晶16,18のc面が現れている。窒化アルミニウム結晶の結晶構造は六方晶系であり、c軸に直交する面にm面が現れる。図2には、窒化アルミニウム結晶16のm面16mと、窒化アルミニウム結晶18のm面18mを示している。窒化アルミニウム板10では、表層10aを構成している各窒化アルミニウム結晶のc軸周りの向きが揃っており、ツイスト角は2.5°未満である。窒化アルミニウム結晶16,18のm面16m,18mに着目すると、実質的に、m面16mとm面18mが平行である。上記したように、ツイスト角は、表層10aの窒化アルミニウム結晶の(102)面のX線ロッキングカーブプロファイルによって示される。
【0029】
図3は、窒化アルミニウム結晶の(102)面のピーク(最強ピーク)を例示している。表層10a又は下層10bにおける各窒化アルミニウム結晶のc軸周りの向きが揃っているか否かは、各層をXRD装置で測定し、(102)面のX線ロッキングカーブプロファイルにおける半値幅から判断することができる。窒化アルミニウム板10の場合、表層10aの(102)面の半値幅b10(ツイスト角w1に相当)は、2.5°未満である。また、下層10bの(102)面の半値幅b10(ツイスト角w2に相当)は、表層10aのツイスト角より大きく、上記式4を満足している。すなわち、表層10aは各窒化アルミニウム結晶のc軸周りの向きがよく揃っており、下層10bは、表層10aと比較すると、各窒化アルミニウム結晶のc軸周りの向きが揃っていない。窒化アルミニウム板10では、表層10aが高品質の半導体を成長させる役割を担い、下層10bが半導体素子部分から窒化アルミニウム板10に加わる力を緩和する役割を担う。
【0030】
図4は表層10aの状態を模式的に示しており、図5は下層10bの状態を模式的に示している。図4に示すように、各窒化アルミニウム結晶のc軸周りの向きが揃っていると、窒化アルミニウム結晶上に成長させた半導体の結晶方位も揃い、良質な(欠陥の少ない)半導体とすることができる。一方、図5に示すように、各窒化アルミニウム結晶のc軸周りの向きが揃っていないと、例えば、窒化アルミニウム結晶16に対して窒化アルミニウム結晶18が回転(ツイスト)していると、結晶16,18間に隙間20が形成される。隙間20は、半導体装置の製造過程、あるいは、半導体装置の使用中に、半導体(半導体素子部分)から窒化アルミニウム板10に加わる応力を緩和する。
【実施例】
【0031】
以下、複数の窒化アルミニウム板を作製し、特性評価を行った結果を示す。なお、以下に示す実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであり、本明細書の開示を限定するものではない。
【0032】
まず、窒化アルミニウム板の原料である板状の窒化アルミニウム粒子の製造方法を説明する。板状の窒化アルミニウム粒子は、板状の酸化アルミニウムを窒素流通下の加熱炉内で熱処理して製造した。具体的には、板状の酸化アルミニウム(キンセイマテック(株))100g,カーボンブラック(三菱化学(株))50g,アルミナ玉石(φ2mm)1000g,IPA(イソプロピルアルコール:トクヤマ(株)製、トクソーIPA)350mLを、30rpmで240分間粉砕及び混合し、混合物を得た。なお、板状の酸化アルミニウムは、平均粒径(面方向長さ)5μm,7μmのものを用いた。平均粒径が5μmの酸化アルミニウムは、平均厚さ(厚み方向長さ)0.07μm,アスペクト比70であった。平均粒径が7μmの酸化アルミニウムは、平均厚さ(厚み方向長さ)0.1μm,アスペクト比70であった。
【0033】
得られた混合物からアルミナ玉石を除去し、その混合物をロータリーエバポレータを用いて乾燥させた。その後、残存した混合物(板状アルミナ,炭素混合物)を乳鉢で軽く解砕した(比較的弱い力で、凝集した粒子を分離させた)。次に、混合物をカーボン製の坩堝に100g充填し、加熱炉内に配置し、窒素ガス3L/min流通下で昇温速度200℃/hrで1600℃まで昇温し、1600℃で20時間保持した。加熱終了後、自然冷却し、坩堝から試料を取り出し、マッフル炉を用いて酸化雰囲気下で650℃で10hr熱処理(後熱処理)し、板状の窒化アルミニウム粒子を得た。なお、後熱処理は、試料中に残存している炭素を除去するために行った。
【0034】
次に、得られた板状の窒化アルミニウム粒子について、窒化アルミニウム板の原料として使用する粒子の選別を行った。上記熱処理後の窒化アルミニウム粒子には、単一粒子と凝集粒子が含まれている。そのため、熱処理後の窒化アルミニウム粒子に対して解砕処理及び分級処理を施し、単一粒子を選別した。具体的には、熱処理後の窒化アルミニウム粒子100g,アルミナ玉石(φ15mm)300g,IPA(トクヤマ(株)製、トクソーIPA)60mLを、30rpmで240分間解砕した。その後、アルミナ玉石を除去し、ロータリーエバポレータを用いて乾燥させた。次に、乾燥後の窒化アルミニウム粒子を、精密空気分吸機(日清エンジニアリング(株)製、TC−15NSC)を用いて分級した。なお、分級点は、上記した板状の酸化アルミニウムの平均粒径と同サイズを設定した。分級後微粒を、窒化アルミニウム板の原料とした。
【0035】
次に、窒化アルミニウム板の製造の際に用いる焼結助剤の合成方法を説明する。焼結助剤としてCaとAlの複合酸化物(Ca−Al−O系助剤)を作製した。具体的には、炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)製、Shilver−W)56g,γ―アルミナ(大明化学工業(株)製、TM−300D)19g、アルミナ玉石(φ15mm)1000g,IPA(トクヤマ(株)製、トクソーIPA)125mLを、110rpmで120分間粉砕・混合し、混合物を得た。得られた混合物からアルミナ玉石を除去し、その混合物をロータリーエバポレータを用いて乾燥し、混合粉末を得た。その後、混合粉末をアルミナ製の坩堝に70g充填し、加熱炉内に配置し、大気中で昇温速度200℃/hrで1250℃まで昇温し、1250℃で3時間保持した。加熱終了後、自然冷却し、坩堝から生成物(焼結助剤)を取り出した。なお、得られた焼結助剤におけるCaとAlのモル比は、「Ca:Al=3:1」であった。
【0036】
次に、テープ成形体を作製するための原料の調合について説明する。上記板状の窒化アルミニウム粒子と、上記焼結助剤と、市販の窒化アルミニウム粒子(トクヤマ(株)製、Fグレード、平均粒径1.2μm)の割合(質量割合)を調整し、3種類の原料(テープ原料1〜)を作製した。テープ原料1〜4の詳細は図6に示す。具体的には、各テープ原料20g(合計重量)に対し、アルミナ玉石(φ15mm)300g,IPA(トクヤマ(株)製、トクソーIPA)60mLを、30rpmで240分間粉砕・混合した。その後、アルミナ玉石を除去し、ロータリーエバポレータを用いて乾燥させ、テープ原料1〜3を作製した。
【0037】
テープ原料1〜3を用いて3種のテープ成形体を作製した。具体的には、上記各テープ原料100質量部に対し、バインダとしてポリビニルブチラール(積水化学工業製、品番BM−2)7.8質量部と、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)フタレート(黒金化成製)3.9質量部と、分散剤としてトリオレイン酸ソルビタン(花王製、レオドールSP−O30)2質量部と、分散媒として2−エチルヘキサノールを加えて混合し、原料スラリーを作製した。なお、分散媒の添加量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。調整した原料スラリーを用いて、窒化アルミニウム粒子の板面(c面)がテープ成形体の表面に沿って並ぶように、ドクターブレード法によって原料スラリーをPETフィルム上に成形した。なお、スラリー厚みは、乾燥後の厚さが50μmとなるように調整した。以上の工程により、3種のテープ成形体(テープ成形体1〜3)を作製した。
【0038】
テープ成形体1〜3を用いて作製した3種類の窒化アルミニウム焼結体と、市販の窒化アルミニウム単結晶(厚み350μm)を用いて、6種の窒化アルミニウム板(試料1〜6)を作製した。窒化アルミニウム焼結体の作製方法を説明する。まず、各テープ成形体を直径20mmの円形に切断し、各テープ成形体を積層し、5種の積層成形体を作製した。具体的には、テープ成形体1を4枚積層した積層成形体S1、テープ成形体2を4枚積層した積層成形体S2、テープ成形体3を4枚積層した積層成形体S3、テープ成形体1を10枚積層した積層成形体R1、テープ成形体2を10枚積層した積層成形体R2を作製した。各積層成形体を厚さ10mmのアルミニウム板上に載置した後、パッケージに入れてパッケージ内部を真空にし、真空パッケージとした。各真空パッケージを85℃の温水中で100kgf/cm2の圧力で静水圧プレスを行い、円板状の積層成形体を得た。
【0039】
次に、作製した各積層成形体の1次焼成を行った。具体的には、まず、各積層成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間脱脂を行った。脱脂後の各積層成形体を黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中、焼成温度(最高到達温度)1850℃で5時間、面圧200kgf/cm2の条件下で焼成し、各積層成形体を1次焼成した。なお、ホットプレスの際の加圧方向は、各積層成形体の積層方向(テープ成形体の表面に略直交する方向)とした。また、加圧は、室温に降温するまで維持した。
【0040】
次に、1次焼成後の各積層成形体の2次焼成を行った。まず、1次焼成後の各積層成形体の表面を研削し、S1、S2、S3から作製した1次焼成体はφ20mm、厚さ0.08mmに調整し、R1、R2から作製した1次焼成体はφ20mm、厚さ0.23mmに調整した。各積層成形体を窒化アルミニウム製のサヤに充填し、加熱炉内を窒素雰囲気とし、焼成温度(最高到達温度)1900℃で75時間焼成し、各積層成形体を2次焼成した。
【0041】
次に、2次焼成後の各積層成形体と市販の窒化アルミニウム単結晶の表裏面を粗研磨した後、さらに、それらをφ68mmの金属製定盤に固定し、粒径が9μm及び3μmのダイヤモンド砥粒を含むスラリーを滴下した銅製ラッピング盤により研磨し、さらに、コロイダルシリカを含むスラリーを滴下したバフ盤で300分間研磨した。その後、研磨後の各積層成形体及び窒化アルミニウム単結晶を、アセトン、エタノール、イオン交換水の順でそれぞれ3分間洗浄した。研磨後の各積層成形体及び窒化アルミニウム単結晶は、S1、S2、S3は厚さ60μmであり、R1、R2は厚さ210μmであり、両面とも鏡面になっていた。
【0042】
両面を研磨した2次焼成体及び市販の窒化アルミニウム単結晶から、窒化アルミニウム板を作製するための基板として2枚選択し、それぞれの基板の接合面を洗浄して表面の汚れを取った後、真空チャンバーに導入した。その後、10−6Pa台の真空中で、それぞれの基板の接合面に高速Ar中性原子ビーム(加速電圧1kV、Ar流量60sccm)を70sec間照射した。照射後、10分間そのまま放置して各基板を26〜28℃に冷却した。次いで、2次焼成体及び市販の窒化アルミニウム単結晶のビーム照射面同士を接触させた後、4.90kNで2分間加圧して両基板を接合した。接合後、表層を厚みが50μm、下層を厚みが200μmになるまで研磨加工し、その後260℃でアニールを行い、窒化アルミニウム板を得た。各窒化アルミニウム板(試料1〜6)において使用した材料(テープ成形体,窒化アルミニウム単結晶)の組み合わせを図7に示す。
【0043】
なお、図7中の使用テープ1〜3は、図6のテープ原料1〜3から得られたテープ成形体に相当する。すなわち、試料1の下層は積層成形体R1、試料2の下層は積層成形体R2、試料4の上層は積層成形体S3、試料4の下層は積層成形体R1、試料5の上層は積層成形体S1、試料5の下層は積層成形体R1、試料6の上層は積層成形体S2、試料6の下層は積層成形体R2を用いて作製された2次焼成体である。なお、試料3は、実際には積層体を作製せず、同一の窒化アルミニウム単結晶を表層または下層として評価した。試料3については、1次焼成及び2次焼成も行っていない。なお、何れも試料も表層及び下層の厚みは、積層するテープ成形体の枚数、あるいは、焼成後(2次焼成後)、あるいは接合後の研磨により、任意に調整することができる。
【0044】
得られた試料(試料1〜6)について、配向度,ツイスト角を測定し、さらに、試料の透明性,成膜性,加工性について評価を行った。評価結果を図7に示す。以下、測定・評価方法について説明する。
【0045】
配向度(c面配向度)は、各試料の表層及び下層の測定面(研磨面)の各々に対してX線を照射し、測定した。具体的には、XRD装置(Bruker−AXS製D8-ADVANCE)を用い、CuKα線を用いて電圧50kV,電流300mAの条件下、2θ=20〜70°の範囲でXRDプロファイルを測定した。なお、配向度(f)は、ロットゲーリング法によって算出した。具体的には、以下の式(3),(4)で得られた結果P,P0を、式(2)に代入することにより算出した。なお、式中、Pは得られた試料(窒化アルミニウム板)のXRD測定から得られた値であり、P0は標準窒化アルミニウム(JCPDSカードNo.076−0566)から算出した値である。なお、(hkl)として、(100),(002),(101),(102),(110),(103)を使用した。
f={(P−P0)/(1−P0)}×100・・・(2)
0=ΣI0(002)/ΣI0(hkl)・・・(3)
P=ΣI(002)/ΣI(hkl)・・・(4)
【0046】
ツイスト角(X線ロッキングカーブプロファイルにおける半値幅)は、各試料の表層及び下層の(102)面に対してX線を照射し、測定した。具体的には、XRD装置(Bruker−AXS製D8-DISCOVER)を用い、CuKα線を用いて電圧40kV、電流40mA、コリメータ径0.5mm、アンチスキャッタリングスリット3mm、ωステップ幅0.01°の条件下、計数時間1秒でXRDプロファイルを測定した。得られたXRCプロファイルに基づいて半値幅を算出し、ツイスト角とした。
【0047】
図7には、各試料について、表層のc面配向度c1,下層のc面配向度c2,表層のツイスト角w1,下層のツイスト角w2が下記式(1)〜(4)を満足している試料に「〇」を付し、満足していない試料に「×」を付している。
式1:c1>97.5%
式2:c2>97.0%
式3:w1<2.5°
式4:w1/w2<0.995
【0048】
透明性(透光率)は、各試料を縦10mm,横10mmに切り出し、分光光度計(Perkin Elmer製、Lambda900)を用いて波長450nmにおける直線透過率を測定して評価した。図7には、直線透過率40%以上の試料に「〇」を付し、40%未満の試料に「×」を付している。
【0049】
成膜性は、研磨後の各試料の表面に有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)を用いて窒化アルミニウムガリウム(Al0.5Ga0.5N)を成膜し、Al0.5Ga0.5N表面の欠陥数を計測して評価した。具体的には、リアクタ内に基板(各試料)を配置し、リアクタ内の圧力を13kPaとし、基板(各試料)温度を1000℃にした状態で、基板に原料を供給し、Al0.5Ga0.5Nをおよそ230nm成膜した。なお、原料としてアンモニアガス、トリメチルアルミニウム、トリメチルガリウムを用い、キャリアガスとして水素と窒素を用いた。その後、成膜面(Al0.5Ga0.5N層の表面)を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JSM−6390)にて倍率3000倍で観察し(20視野以上)、クラック,ピンホール等の欠陥の数をカウントし、欠陥数が100個/mm以下であるか否かを評価した。図7には、欠陥数が100個/mm以下の試料に「〇」、欠陥数が100個/mm超の試料に「×」を付している。
【0050】
加工性は、各試料をダイシングし、ダイシング後の裏面チッピングの幅を測定し、評価した。具体的には、まず、平坦面を有するアルミナ焼結板を用意し、各試料の下層側をアルミナ焼結板の表面(平坦面)にワックスで固定した。その後、各試料を、♯400のレジンダイヤモンドブレードを用いて、ブレードの回転速度30000rpm、ブレードの送り速度3mm/sで各試料の表層側から切断した。切断後、各試料をアルミナ焼結板から取り外し、各試料の下層側を光学顕微鏡で観察し、裏面チッピング幅(下層面に入っている切断面からのチッピングの幅)を測定し、チッピング幅が10μm以下であるか否かを評価した。図7には、裏面チッピング幅が10μm以下の試料に「〇」、裏面チッピング幅が10μm超の試料に「×」を付している。
【0051】
図7に示すように、表層及び下層のc面配向度が高い(式1及び式2を満足)試料は、透明性が高いことが確認された(試料1,3,4,5)。また、表層のc面配向度が高く(式1を満足)、表層のツイスト角が小さい(式3を満足)試料は、成膜性が良好であることが確認された(試料1,2,3)。成膜性が良好な試料(試料1,2,3)のうち、下層のツイスト角が表層のツイスト角より大きい(式4を満足)試料は、加工性が良好であることが確認された(試料1,2)。すなわち、式1,3及び4を満足することにより、良質な(欠陥の少ない)半導体を成長させることができるとともに、高強度(破壊靭性が高い)の窒化アルミニウム板が得られることが確認された。また、式1〜4の全てを満足することにより、透明度が高く、良質な半導体を成長させることができるとともに、高強度(の窒化アルミニウム板が得られることが確認された。
【0052】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7